説明

インクジェット記録装置

【課題】更に微小な液滴を、高い駆動周波数で、安定に吐出することができるインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】駆動信号を印加することによって、圧力発生手段を作動させてノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録装置において、一画素周期内の駆動パルスは、時系列順に圧力室の容積を膨張させる第1の膨張パルス、圧力室の容積を収縮させる収縮パルス及び、再度前記圧力室の容積を膨張させる第2の膨張パルスを含み、かつ前記収縮パルスのパルス幅が0.1AL以上0.5AL以下(ALは圧力室の音響的共振周期の1/2)であり、かつ前記第1の膨張パルスの駆動電圧をVon、前記収縮パルスの駆動電圧をVoffとしたとき、|Von|/|Voff|が1.3以上10以下であることを特徴とするインクジェット記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルからインク滴(液滴)を吐出させるインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、高品位の記録を実現するには記録ドット径を小さくする必要がある。記録ドット径を小さくする方法として、従来から、ノズル開口に連通する圧力室(インクチャネルとも言う)を膨張させてから収縮させるという、「引き打ち」方式を用いることが知られている。この方式によれば、インク滴の質量を少なくできるので、記録ドット径を小さくすることが可能である。
【0003】
また、圧力発生手段としての圧電素子を使用した記録ヘッドには、振動板を使用する方式(例えば積層ピエゾ方式、撓みモード方式)と、振動板を使用せずに圧力室の隔壁をせん断変形させるせん断モード方式とがある。
【0004】
振動板を介して圧力室の容積を変化させる積層ピエゾ方式は、圧電素子を圧力室の外に設けるため圧電素子の形状や大きさに余り制限を受けず、強力な素子を使用して強い圧力を発生させることが可能で、インク滴の吐出性や吐出制御性に優れる。しかし、構造が複雑になるので、大きなヘッドの製造は難しく、100チャネル程度が限度である。
【0005】
一方、せん断モード方式のヘッドは、圧電素子に圧力室となる溝を掘り込んだ簡単な構造なので、数百チャネル持つ大きなヘッドを製造することが可能である。しかし、特にせん断モード方式の記録ヘッドに矩形波の駆動信号を用いると、圧力室内の圧力波振動の影響により微小液滴を吐出するのは困難であった。
【0006】
特許文献1には、せん断モード方式のヘッドを用いて、圧力室が順に第1の膨張−収縮−第2の膨張といった変形をするように電圧を印加し、電圧比と収縮パルス幅(収縮パルスのパルス幅)を規定することにより、微小液滴を形成する方法が記載されている。ここで、第1の膨張パルスのパルス幅をt1、収縮パルスのパルス幅をt2、第2の膨張パルスのパルス幅をt3と表す。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている収縮パルス幅t2で駆動を行うと駆動パルスのエッジで発生する圧力波振動をうまく打ち消すことができず、圧力室内の残留振動が大きくなる。したがって、このままでは高周波駆動することは難しく、特許文献1では残留振動をキャンセルするため、最後に残留振動をキャンセルするための第2の収縮パルスを加えている例も記載されている。しかし、第2の収縮パルスを加えることにより波形全体が長くなり、駆動周波数の低下につながる。また、特許文献1には、t2+t3=ALにすると、残留振動が抑制できると記載されているが、特許文献1の実施例に記載されているようにt2+t3=ALとしても十分残留振動を消滅させることができず、結果として駆動安定性が大きく低下する。駆動の十分な安定性を得ようとすると次の駆動までに残留振動が収まるまで十分な時間を空けなければならず、結果として駆動周波数が低下する。
【0008】
また、特許文献1によれば、液滴体積を約10plまで減少することができるが、更に微小な液滴を吐出することが市場より求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4161631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の課題は、更に微小な液滴を、高い駆動周波数で、安定に吐出することができるインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に掛かる上記課題は以下の構成によって解決される。
【0012】
1.インク滴を吐出するノズルと、該ノズルに連通する圧力室と、該圧力室の容積を変化させる圧力発生手段を有する記録ヘッドと、インク滴を吐出させるための少なくとも1つの駆動パルスを一画素周期内に印加する駆動信号を生成する駆動信号生成手段とを備え、前記駆動信号を印加することによって、前記圧力発生手段を作動させて前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録装置において、一画素周期内の駆動パルスは、時系列順に前記圧力室の容積を膨張させる第1の膨張パルス、前記圧力室の容積を収縮させる収縮パルス及び、再度前記圧力室の容積を膨張させる第2の膨張パルスを含み、かつ前記収縮パルスのパルス幅が0.1AL以上0.5AL以下(ALは圧力室の音響的共振周期の1/2)であり、かつ前記第1の膨張パルスの駆動電圧をVon、前記収縮パルスの駆動電圧をVoffとしたとき、|Von|/|Voff|が1.3以上10以下であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0013】
2.前記第2の膨張パルスのパルス幅が0.2AL以上0.6AL以下であることを特徴とする前記1に記載のインクジェット記録装置。
【0014】
3.前記収縮パルスのパルス幅と前記第2の膨張パルスのパルス幅の和が0.3AL以上0.9AL以下であることを特徴とする前記1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【0015】
4.前記第1の膨張パルスのパルス幅が1ALであることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【0016】
5.前記収縮パルスのパルス幅は前記第2の膨張パルスのパルス幅よりも短いことを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【0017】
6.前記収縮パルスのパルス幅を0.1AL以上0.5AL以下の範囲内で変化させてインク滴の体積を制御することを特徴とする前記1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【0018】
7.前記駆動信号生成手段は、インク滴を吐出させるための前記駆動パルスを一画素周期内に複数印加する駆動信号を生成するものであり、各駆動パルスにより吐出された複数のインク滴を記録媒体に着弾する前、あるいは着弾した後に合体させて一画素を形成することを特徴とする前記1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【0019】
8.前記複数の駆動パルスは、収縮パルスのパルス幅が0.1AL以上0.5AL以下の範囲内で異なった複数種類の駆動パルスを含み、各駆動パルスにより複数種類の異なった体積のインク滴を吐出させることを特徴とする前記7に記載のインクジェット記録装置。
【0020】
9.前記第2の膨張パルスの駆動電圧が前記第1の膨張パルスの駆動電圧Vonと同電圧であることを特徴とする前記1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の効果】
【0021】
従来より更に微小な液滴を、高い駆動周波数で、安定に吐出することができるインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ライン型インクジェット記録装置の構成を示す模式図。
【図2】インクジェットヘッドユニット。
【図3】インクジェットヘッドユニットにおけるインクジェットヘッドの配置図。
【図4】(a)3サイクル駆動法によるインクジェットヘッドのチップの1部断面図で示す斜視図。(b)3サイクル駆動法によるインクジェットヘッドのチャネル配列方向から見たインクチャネルの断面図。
【図5】(a)〜(c)3サイクル駆動法によるインクジェットヘッドのインク吐出時の作動を示す図。
【図6】(a)〜(c)3サイクル駆動法によるインクジェットヘッドの時分割動作の説明図。
【図7】(a)独立駆動法によるインクジェットヘッドのチップの1部断面図で示す斜視図。(b)独立駆動法によるインクジェットヘッドのチャネル配列方向から見たインクチャネルの断面図。
【図8】(a)〜(c)独立駆動法によるインクジェットヘッドのインク吐出時の作動を示す図。
【図9】特許文献1の駆動信号。
【図10】インク滴を吐出させるための1つの駆動パルスを一画素周期内に印加する本発明の駆動信号を示す図。
【図11】インク滴をそれぞれ吐出させるための複数の駆動パルスを一画素周期内に印加する本発明の駆動信号を示す図。
【図12】A、B、Cの各組の圧力室の電極に印加される駆動信号のタイミングチャート。
【図13】収縮パルス幅に対する液滴体積。
【図14】第2膨張パルス幅に対する安定射出速度上限。
【図15】駆動電圧比に対する液滴体積。
【図16】本発明の圧力波。
【図17】本発明の圧力波。
【図18】本発明の圧力波。
【図19】安定射出速度上限。
【図20】収縮パルス幅に対する液滴体積。
【図21】収縮パルス幅に対する液滴体積。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明に関する実施の形態の例を示すが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。
【0024】
図1は、ライン型のインクジェット記録装置1の構成を示す模式図である。
【0025】
ロール状に巻かれた長尺状の記録媒体10は、図示しない駆動手段により巻き出しロール10Aから矢印X方向に繰り出され搬送される。
【0026】
長尺状の記録媒体10はバックロール20に巻回され支持されながら搬送される。インクジェットヘッドユニット30よりインクが記録媒体10に向け吐出され、画像データに基づいた画像形成が行われる。インクジェットヘッドユニット30は、記録媒体幅方向に吐出幅に対応した複数のインクジェットヘッド(記録ヘッド)31を有する。
【0027】
図2は、インクジェットヘッドユニット30のインクジェットヘッド31の配置例である。また、全てのインクジェットヘッド31が、インクを一時的に貯留する中間タンク40に対して同じ高さに配置されている例である。前述のように、1つのインクジェットヘッドで吐出できる吐出幅はインクジェットヘッドの外形寸法よりも狭いことから、隙間なく吐出するために複数のインクジェットヘッドを記録媒体搬送方向に対して千鳥配置している。図2に示す例では、記録媒体幅方向に吐出幅に対応した複数のインクジェットヘッドを2列の千鳥配置としている。
【0028】
図3に、インクジェットヘッド31の外形、吐出幅及び千鳥配置の関係を示す。インクジェットヘッド31の数及び千鳥配置の列数は、インクジェットヘッド31の吐出幅等により適宜設定されるものであり、図2の例に限定されるものではない。
【0029】
図1において、インクは、インクジェットヘッド31のインクの背圧を調整する中間タンク40から複数のインクチューブ43を介してインクジェットヘッド31毎に供給される。なお、本説明において、図中のインクチューブ43は、複数のインクチューブである。
【0030】
中間タンク40へのインク供給は、インクを貯留する貯留タンク50から供給管51の途中に配設された送液ポンプPで行われる。
【0031】
画像が形成された記録媒体は、乾燥部1000で乾燥が行われ、巻き取りロール10Bに巻き取られる。
【0032】
インクジェットヘッドは静止した状態で、記録媒体を搬送方向に搬送させながら画像記録する。記録媒体の搬送中、一画素周期ごとに画像データに基づき駆動信号が選択され、インクの吐出状態が変化する。
【0033】
各インクジェットヘッド31は、ノズル面側が記録媒体10の記録面と対向するように配置されており、フレキシブルケーブル6(図4参照)を介して、駆動信号を生成するための回路が設けられる駆動信号生成手段100(図5参照)又は101(図8参照)に電気的に接続されている。
【0034】
図4(a)は3サイクル駆動によるせん断モード型のインクジェットヘッド31のヘッドチップ部分の一部断面で示す斜視図、(b)は3サイクル駆動によるせん断モード型のインクジェットヘッド31のチャネル配列方向からみたインクチャネル28の断面図である。
【0035】
図7(a)は独立駆動によるせん断モード型のインクジェットヘッド31のヘッドチップ部分の一部断面で示す斜視図、(b)は独立駆動によるせん断モード型のインクジェットヘッド31のチャネル配列方向からみたインクチャネル28の断面図である。
【0036】
図中、310はヘッドチップ、22はヘッドチップ310の前面に接合されたノズル形成部材である。
【0037】
図5(a)〜(c)は、3サイクル駆動によるせん断モード型のインクジェットヘッドのチャネル延伸方向からみたチャネル列の断面図である。
【0038】
図8(a)〜(c)は、独立駆動によるせん断モード型のインクジェットヘッドのチャネル延伸方向からみたチャネル列の断面図である。
【0039】
なお、本明細書においては、ヘッドチップからインクが吐出される側の面を「前面」といい、その反対側の面を「後面」という。また、ヘッドチップにおいて並設されるチャネルを挟んで図示上下に位置する外側面をそれぞれ「上面」及び「下面」という。
【0040】
ヘッドチップ310は、隔壁27で仕切られた複数のチャネル28が並設されたチャネル列を有している。ここではチャネル列は512個のチャネル28を有するが、チャネル列のチャネル数は何ら限定されない。
【0041】
各隔壁27は、ここでは図5の矢印で示すように分極方向が異なる2枚の圧電材料27a、27bによって構成されているが、圧電材料は隔壁27の少なくとも一部にあればよい。
【0042】
圧電材料27a,27bに使用される圧電材料としては、電圧を加えることにより変形を生じるものであれば特に限定されず、公知のものが用いられ、有機材料からなる基板であっても良いが、圧電性非金属材料からなる基板が好ましく、この圧電性非金属材料からなる基板として、例えば成形、焼成等の工程を経て形成されるセラミックス基板、又は塗布や積層の工程を経て形成される基板等がある。有機材料としては、有機ポリマー、有機ポリマーと無機物とのハイブリッド材料が挙げられる。
【0043】
セラミックス基板としては、PZT(PbZrO−PbTiO)、第三成分添加PZTがあり、第三成分としてはPb(Mg1/3Nb2/3)O、Pb(Mn1/3Sb2/3)O、Pb(Co1/3Nb2/3)O等があり、さらにBaTiO、ZnO、LiNbO、LiTaO等を用いて形成することができる。
【0044】
本実施形態のように、2枚の圧電材料を分極方向が反対になるように接着して使用すると、1枚の圧電材料の場合よりせん断変形量が倍になるので、同じ変形量を得るには、駆動電圧が1/2以下ですむという利点がある。
【0045】
図5ではインクチャネル28の一部である3本(28A、28B、28C)が示されており、それらは隔壁27A、27B、27C、27Dで隔てられている。
【0046】
図8ではインクチャネル28の一部である3本(28A、28B、28C)がそれぞれ空気チャネル128により隔てられている。
【0047】
ヘッドチップ310の前面及び後面には、それぞれ各インクチャネル28の前面側の開口部と後面側の開口部とが対向している。各インクチャネル28は、その後面側の開口部から前面側の開口部に亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。
【0048】
インクチャネル28の一端(以下、これをノズル端という場合がある)はノズル形成部材22に形成されたノズル23につながり、他端(以下、これをマニホールド端という場合がある)は、共通インク室77、インク供給口25を経て、インクチューブ43に接続されている。
【0049】
図4、図5、図7及び図8に示すように、各チャネル28の内面全面には、金属膜からなる電極29が密着形成されている。すなわち、各チャネル内で対向する隔壁面の電極29同士が電気的に接続されている。インクチャネル内の電極29は接続電極300及び異方性導電フィルム78とフレキシブルケーブル6を介して、駆動信号生成手段100又は101と接続している。
【0050】
次に、このようなインクジェットヘッド31の製造例を以下に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0051】
まず、厚み方向に分極処理されたPZT等からなる板状の圧電材料27bと27aとを接合部を挟んで分極方向が互いに異なる方向となるように積層してエポキシ系接着剤を用いて接合し、更に、その上側の圧電材料基板27aの表面にドライフィルムを貼着する。
【0052】
次いで、そのドライフィルムの側から、ダイシングブレード等を用いてチャネル28,128となる複数の平行な溝を研削する。各溝は圧電材料27aと27bの一方の端から他方の端に亘り、且つ、下側の圧電材料27bの中途部に至る程度の一定の深さD(図4参照)で研削することで、長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレート状に形成する。
【0053】
次いで、溝を研削した側から、Ni、Au、Cu、Al等の電極形成用金属をスパッタリング法、蒸着法、めっき法等によって適用し、削り残されたドライフィルムの上面及び各溝の内面に金属膜を形成する。
【0054】
その後、ドライフィルムをその表面に形成された金属膜と共に除去することにより、各溝の内面のみに金属膜が形成された基板を得る。
【0055】
次いで、各溝を覆うようにカバープレート24が接着剤を介して接着し、溝の長さ方向と直交する方向に沿って切断することにより、チャネル列を有する複数個のヘッドチップ310を一度に作成する。図4、図5に示した空気チャネルを有しない時分割駆動用のヘッドでは、各溝はインクチャネル28となり、図7、図8に示した空気チャネルを有する独立駆動用のヘッドでは、各溝はインクチャネル28又は空気チャネル128となる。各溝内の金属膜は電極29となり、隣接する溝の間は接合部を挟んで分極方向が互いに異なる圧電材料27aと27bから構成される隔壁27となる。カットライン間の幅は、それによって作製されるヘッドチップ310のインクチャネル28の駆動長(図4中のLで表示)を決定するものであり、この駆動長に応じて適宜決定される。
【0056】
その後、ヘッドチップ310と配線基板102とを接着剤を用いて固着した後に、例えばヘッドチップ310の前面及び配線基板102の前端面及び表面(ヘッドチップ310の固着面と反対側面)にドライフィルムを用いてパターニングを行い、その後アルミニウムを蒸着し、ドライフィルムをその表面に形成された金属膜と共に除去することで、各チャネル内の電極29に電気的に接続された各接続電極300を一挙に形成することができる。
【0057】
Al膜の形成方法としては蒸着に限らず、一般の薄膜形成方法を採用することができる。また、導電性ペーストをインクジェットで塗布する方法を用いることもできる。Al膜の形成後、溶剤でドライフィルムを溶解剥離することで、ドライフィルム上に形成されていたAl膜は除去され、ヘッドチップ310の前面及び配線基板102の前端面及び表面に接続電極300のみが残存する。
【0058】
空気チャネルを有するヘッドでは、ヘッドチップ310の後面に、空気チャネル128へのインクの流入を阻止する流路規制部材302が、各空気チャネル128の開口部を完全に閉塞するように接着される。空気チャネルを有しないヘッドでは、このような流路規制部材を設けない。
【0059】
その後、流路基板104を固着する。その後、配線基板102と流路基板104との間に亘って、該ヘッドチップ310の後面を包囲するように囲い壁部103を固着して共通インク室77を形成する。その後は、配線基板102の各接続電極300に、フレキシブルケーブル6を接合する。
【0060】
次いで、ノズル23が開設された1枚のノズル形成部材22が接着剤を介して接着される。
【0061】
また、ノズル形成部材22の材料としては、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリマー、アロマティックポリアミド樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリサルフォン樹脂等の合成樹脂のほか、ステンレス等の金属材料を用いることもできる。
【0062】
上記により電極及び共通インク室が形成された2つのヘッドを、2列のノズルがお互いに半ピッチずれた状態で位置決めし、配線基板同志が向き合うように接着剤により接着することにより、2列のノズルが千鳥状に並び、2倍の解像度を有するヘッドを作製することができる。
【0063】
次に、吐出動作について説明する。
【0064】
本実施形態において示したように、せん断モードで変形する圧電材料により構成される場合には、後述する矩形波をより効果的に利用することができ、駆動電圧を低下させ、より効率的な駆動が可能となる。
【0065】
駆動信号生成手段100、101は、少なくとも1つの駆動パルスを含む一連の駆動信号を一画素周期毎に発生する駆動信号発生回路(図示せず)と、各圧力室毎に前記駆動信号発生回路から供給された駆動信号の中から各画素の画像データに応じて駆動パルスを選択して各圧力室に供給する駆動パルス選択回路(図示せず)とからなり、各画素の画像データに応じて圧力発生手段としての隔壁27を駆動するための駆動信号を供給する。
【0066】
画像データを受信すると、制御部(図示せず)が搬送ローラのモータを制御すると共に、駆動信号発生回路に少なくともonパルスとoffパルスを含む駆動パルスを有する駆動信号を発生させる。さらに、制御部は、上記画像データに基づいて、駆動パルス選択回路に選択すべき駆動パルスの情報を出力する。そして、駆動パルス選択回路は、上記情報に基づいて、駆動パルスを選択して隔壁27を被覆している電極29に供給する。これにより、記録ヘッド31のノズル23から、一画素周期内にインク滴が吐出可能になっている。
【0067】
次に、駆動信号と吐出動作について説明する。
【0068】
各隔壁27表面に密着形成された電極29A、29B、29C(各チャネルの電極29)に駆動信号生成手段100、101から駆動信号が印加されると、以下に例示する動作によってインク滴をノズル23から吐出する。なお、図5ではノズルは省略してある。図8ではインクチャネルにのみノズルが形成されている様子が示されている。
【0069】
なお、かかる記録ヘッド31では、以上のように、隔壁27の変形によってインクチャネル28内のインクに正負の圧力が付与されるものであり、この隔壁27は圧力発生手段を構成している。
【0070】
(第1の実施の形態)
次に、本発明の実施形態に係わる駆動方法の1例である時分割駆動について説明する。
【0071】
図4、図5のような少なくとも一部が圧電材料で構成された隔壁27によって隔てられた複数のインクチャネル28を有する記録ヘッド31を駆動する場合、一つのインクチャネル28の隔壁が吐出の動作をすると、隣のインクチャネル28が影響を受けるため、通常、複数のインクチャネル28のうち、互いに1本以上のインクチャネル28を挟んで離れているインクチャネル28をまとめて1つの組となすようにして、2つ以上の組に分割し、各組毎にインク吐出動作を時分割で順次行うように駆動制御される。例えば、全インクチャネル28を2つおきに選んで3相に分けて吐出する、いわゆる3サイクル吐出法が行われる。
【0072】
かかる3サイクル吐出動作について図6を用いて更に説明する。図6に示す例では、記録ヘッドはインクチャネルがA1、B1、C1、A2、B2、C2、A3、B3、C3の9つのインクチャネル28で構成されている。
【0073】
インク吐出時には、まずA組(A1、A2、A3)のインクチャネル28の電極に電圧を掛け、その両隣のインクチャネルの電極を接地する。すなわち、A組のインクチャネル28の電極に第1の膨張パルス、収縮パルス及び第2の膨張パルスからなる駆動信号を印加する。これによりA組の圧力室に連通するノズルから微小液滴のインクが吐出される。
【0074】
一定時間経過後、続いてB組(B1、B2、B3)の各インクチャネル28、更に続いてC組(C1、C2、C3)の各インクチャネル28へと上記同様に動作する。
【0075】
図10は、本発明に係る実施の形態の駆動方法を実現するための駆動信号を示している。
【0076】
図10において、横軸は(AL)時間、縦軸は駆動電圧を表す。
【0077】
t1は第1膨張パルス幅(第1の膨張パルスのパルス幅)である
t2は収縮パルス幅(収縮パルスのパルス幅)である
t3は第2膨張パルス幅(第2の膨張パルスのパルス幅)である。
【0078】
(1)かかる記録ヘッド31は、図5(a)に示す状態において、電極29A及び29Cをアースに接続すると共に電極29Bに、Von電圧値まで立ち上がり、その後一定時間保持する矩形波からなる第1の膨張パルス(正電圧)を印加すると、まず、第1の膨張パルスの立ち上がり(P1)によってVonの電圧を掛かり、隔壁27B、27Cを構成する圧電材料27a、27bの分極方向に直角な方向の電界が生じ、27a、27bともに隔壁の接合面にズリ変形を生じ、図5(b)に示すように隔壁27B及び隔壁27Cは互いに外側に向けて変形し、インクチャネル28Bの容積が膨張する。これによりインクチャネル28B内のインクに負の圧力が生じてインクが流れ込む(Draw)。
【0079】
なお、AL(Acoustic Length)とは、上述したように、インクチャネル(圧力室)の音響的共振周期の1/2である。このALは、電気・機械変換手段である隔壁27に矩形波のパルスを印加して吐出するインク滴の速度を測定し、矩形波の電圧値を一定にして矩形波のパルス幅を変化させたときに、インク滴の飛翔速度が最大になるパルス幅として求められる。この値は、ヘッドの構造やインクの密度等に依存して決まるものである。
【0080】
また、パルスとは、一定電圧波高値の矩形波であり、0Vを0%、波高値電圧を100%とした場合に、パルス幅とは、電圧の0Vからの電圧の立ち上がり始め又は立ち下がり始めの10%から波高値電圧からの立ち下がり始め又は立ち上がり始めの10%との間の時間として定義する。更に、ここで矩形波とは、電圧の10%と90%との間の立ち上がり時間、立ち下がり時間のいずれもがALの1/10以内、好ましくは1/20以内であるような波形を指す。
【0081】
(2)インクチャネル28B内の圧力波は、1AL時間毎に反転を繰り返すので、この最初のP1の印加から1AL時間経過後に電位を0に戻す(P2)と、隔壁27B,27Cは膨張位置から図5(a)に示す中立位置に戻り、インクチャネル28B内のインクに高い圧力が掛かる。ここで、第1膨張パルス幅t1は1ALであることが好ましい。
【0082】
引き続いて、矩形波からなる収縮パルス(負電圧Voff)を印加する。まず収縮パルスの立ち下がり(P3)によって、図5(c)に示すように、隔壁27B及び27Cは互いに逆方向に変形し、インクチャネル28Bの容積が収縮する。この収縮によりインクチャネル28B内のインクに更に高い圧力を掛け、ノズル23の開口からインク柱を突出させる。
【0083】
(3)t2時間経過した時点で、電位を0に戻し(P4)、引き続き、第2の膨張パルス(電圧Von)を掛けると(P5)、インクチャネル28Bの容積が膨張することでインクチャネル28B内のインクに高い負の圧力が掛かる。これにより、メニスカスが引き込まれ、突出されたインク柱の後端が引き戻され、インク柱の径が細くなり、インク滴が切り離される。
【0084】
P5からt3経過後に電圧が0に戻り、図5(a)の状態にすることにより、圧力波を急速に減衰させることができる。
【0085】
ヘッドは上記の一連の駆動パルスの繰り返しで駆動される。従って、圧力波の減衰が速いほど、次の画素のインクを早く吐出できるため、より高速に印刷ができる点で好ましい。
【0086】
第1膨張パルス幅はインク滴の吐出力に大きく影響し、1ALにこのパルス幅が一致したときにインク滴吐出力(吐出速度)は最大となる。また、収縮パルスは、第1の膨張パルスの立ち下がり時(P2)、つまり、1ALの経過後に印加される。このため、上述の如く第1膨張パルス幅を1ALに設定することにより、膨張パルスの立ち上がり時(P1)に発生した負の圧力波が、インクチャネルを伝播して正圧に反転すると同時に、膨張パルスの立ち下がり(P2)及び収縮パルスの立ち下がり(P3)によるインクチャネルの収縮により発生した正圧が加わり、これらが相俟って最も効率の良い吐出力が得られる。よって、インク滴の吐出速度が速くなるという利点を有する。
【0087】
また、収縮パルス幅を0.1〜0.5AL(0.1AL以上0.5AL以下)とすることにより小さな液滴を形成することができる。0.1AL未満では駆動壁が応答するための時間が十分経過していないため液滴体積を減少させることができない。また、0.5ALを超えて0.6ALになると液滴体積が急激に大きくなり、好ましくない。
【0088】
また、画像の解像度や階調などの条件に応じてインク液滴の体積を増減して適宜設定する必要がある場合がある。また、インク液滴の体積は、記録ヘッドの温度等に影響を受ける。例えば、記録ヘッドの温度が低い場合、吐出するインク液滴の体積は小さく、記録されるドットの面積は小さくなる。逆に、記録ヘッドの温度が高い場合、吐出するインク液滴の体積は大きく、記録されるドットの面積は大きくなる。すなわち、同じ画像データに基づいて同じ駆動パルスで駆動して記録を行った場合でも、記録ヘッドの温度が不安定であると、記録媒体に形成されるドットの大きさ、ひいては画像濃度が安定せず、濃度むらなどを引き起こす懸念が生じる。
【0089】
このため、収縮パルス幅を0.1AL以上0.5AL以下の範囲で変化させてインク液滴の体積を制御することが好ましい。
【0090】
記録ヘッドから吐出されるインク液滴の体積の制御は、駆動信号生成手段100,101を制御するCPUなどの制御部が、その駆動パルスの収縮パルス幅を変調することにより行うことができる。すなわち、後述する実施例に示すようにインク液滴の体積を小さくしたい場合には収縮パルス幅を狭くし、インク液滴の体積を大きくしたい場合には収縮パルス幅を広くするように設定するのである。
【0091】
これにより、例えば、記録ヘッドの温度等によらずインク液滴の体積を所定の制御範囲幅内に収めることができる。また、画像の解像度や階調などの条件に応じてインク液滴の体積を増減できる。
【0092】
第2膨張パルス幅は、液滴体積及び安定速度上限の点から、0.2〜0.6AL(0.2AL以上0.6AL以下)が好ましく、0.4〜0.6AL(0.4AL以上0.6AL以下)が更に好ましい。0.2AL未満だと液滴体積が増加し、小さな液滴を吐出するには好ましくない。また、0.6ALを超えると安定に射出できる速度の上限が大きく低下するため好ましくない。
【0093】
また、収縮パルス幅は第2膨張パルス幅よりも短いことが好ましい。
【0094】
また、収縮パルス幅と第2膨張パルス幅の和が0.3AL以上0.9AL以下であることが好ましい。
【0095】
また、第1膨張パルス幅は、上記の実施形態では1ALとしたが、0.7AL〜1.3AL(0.7AL以上1.3AL以下)の範囲内に設定すればよい。この範囲を外れると圧力波による吐出効率が下がり、駆動電圧が大きく上昇する。
【0096】
図9は、特許文献1に記載の駆動信号の1つの例である。この例では、|Von|/|Voff|=1である。第1の膨張パルスから第1の収縮パルスまでの間隔t1は1ALであり、第1の収縮パルスから第2の膨張パルスまでの間隔t2は0.5ALであり、第2の膨張パルスのパルス幅t3は0.5ALである。ここで、|Von|はVonの絶対値であり、|Voff|はVoffの絶対値である。
【0097】
図10は本発明の駆動信号である。ここで、第1の膨張パルスの駆動電圧をVon、収縮パルスの駆動電圧をVoffとしたとき、|Von|/|Voff|は1.3〜10(1.3以上10以下)である。t1=1AL、t2=0.1〜0.3AL(0.1AL以上0.3AL以下)、t3=0.2〜0.6AL(0.2AL以上0.6AL以下)であり、1サイクルが図9の駆動信号より短縮されている。
【0098】
|Von|/|Voff|は、液滴体積及びサテライト長さの点より1.3〜10(1.3以上10以下)であるが、2〜10(2以上10以下)であることが好ましく、更に、3〜10(3以上10以下)であることが好ましい。
【0099】
液滴がノズルから射出されるときに、主液滴の後方にインク柱が伸びた状態で飛翔する。後方のインク柱は記録媒体に到着する前にサテライト(小さな液滴)となり、サテライト長さ(主液滴から最後方のサテライトまでの距離)が長いほどサテライト量が多くなり、画像が乱れやすくなる。
【0100】
また、第2の膨張パルスの駆動電圧は第1の膨張パルスの駆動電圧Vonと同電圧に設定している。これは、駆動パルスを発生するための駆動信号生成手段100、101における電源電圧数を少なくして回路コストを下げることができるために好ましい態様である。
【0101】
本実施形態の駆動信号におけるoff波形は、収縮パルスに対応し、on波形は第1の膨張パルスと第2の膨張パルスに対応している。また、波形としてはGND(アース電位)も選択することができるようになっている。ここで、第2の膨張パルスの駆動電圧は第1の膨張パルスの駆動電圧Vonと同電圧に設定されているため、on波形及びoff波形は、それぞれ単一の電源電圧、Von及びVoffをデジタル的にスイッチングするのみで波形を生成することができる。
【0102】
以上の実施形態例では、インク滴を吐出させるための1つの駆動パルスを一画素周期内に印加する駆動信号の例を示したが、以下に示すようなインク滴をそれぞれ吐出させるための複数の駆動パルスを一画素周期内に印加する駆動信号を用いてもよい。
【0103】
図11は、インク滴をそれぞれ吐出させるための複数の駆動パルスを一画素周期内に印加する駆動信号を示している。一画素周期内の各駆動パルスは、図10に示す駆動パルスと同様な駆動パルスを用いる。複数の駆動パルスは、各駆動パルスの間に駆動パルスを印加しない(アース電位)駆動パルス停止期間が設けられた状態で連続的に印加される。
【0104】
本実施の形態においては、N個(Nは2以上の整数)の駆動パルスにより吐出されるN個のサブドロップを記録媒体に着弾する前の飛翔中あるいは記録媒体上で合体させることによって1個のスーパードロップUDを形成して一画素のドットを形成する場合に、従来より更に微小なサブドロップを、高い駆動周波数で、安定に吐出することができる。
【0105】
図11の駆動信号では、最大N個のインク滴を吐出し、0階調からN階調までの印字ができる。
【0106】
例えば、N=3とした場合には、0ドロップ(0階調)、一画素周期内の最初の駆動パルスにより吐出されるサブドロップSDの1ドロップ(1階調)、SDと一画素周期内の2番目の駆動パルスにより吐出されるSDの2ドロップ(2階調)、SDとSDと一画素周期内の3番目(最後)の駆動パルスにより吐出されるSDの3ドロップ(3階調)のそれぞれで0階調から3階調までの印字ができる。
【0107】
なお、一つの例を示すと、第1膨張パルス幅t1を1AL、収縮パルス幅t2を0.27AL、第2膨張パルス幅t3を0.45ALとしたとき、駆動パルス停止期間t4は3.28ALである。この駆動パルス停止期間t4は、0.7ALから5.2ALの範囲とするとよい。
【0108】
次に3サイクル吐出動作について図12を用いて更に説明する。図11の駆動信号を基本として、一画素周期にN発のインク滴(サブドロップ)を吐出する例に挙げて説明する。このときのA、B、Cの各組の圧力室28の電極に印加される駆動信号のタイミングチャートを図12に示す。
【0109】
SD〜SDのN滴によるスーパードロップを形成する期間を一画素周期とする。
【0110】
インク吐出時には、まずA組(A1、A2、A3)の各圧力室28の電極に前記SD〜SDを吐出する1連の駆動パルス電圧を掛け、その両隣の圧力室の電極を接地し、A組のノズルからSD〜SDのインク滴を吐出させる。
【0111】
続いてB組(B1、B2、B3)の各圧力室28、更に続いてC組(C1、C2、C3)の各圧力室28へと上記同様に動作する。
【0112】
以上は、ベタ画像(フル駆動)の場合であるが、実際は、各画素の印字データに応じて、SD〜SDのうちの吐出するインク滴の数を変化させる。
【0113】
また、複数の駆動パルスは、0.1AL以上0.5AL以下の範囲内で複数種類の異なった収縮パルス幅の駆動パルスを含み、各駆動パルスにより複数種類の異なった体積のインク滴を吐出させ、吐出された複数のインク滴を記録媒体に着弾する前、あるいは着弾した後に合体して一画素を形成するようにしてもよい。これにより階調性を向上させることができる。
【0114】
(第2の実施形態)
次に、本発明の実施形態に係わる駆動方法の1例である独立駆動ヘッドについて説明する。
【0115】
図4、図5のような少なくとも一部が圧電材料で構成された隔壁27によって隔てられた複数のインクチャネル28を有する記録ヘッド31を駆動する場合、一つのインクチャネル28の隔壁が吐出の動作をしたときに、隣のインクチャネル28が影響を受けないようにするため、インクチャネル28と空気チャネル128を交互に設けたチャネル列を形成する。間に空気チャネルが有る為に、隣の圧力室の隔壁の動作の影響を受けない。従って、図7(a)のように、独立駆動ヘッドはインク導入口とノズルを有する圧力室がチャネル列に1つおき並んだ形になる。
【0116】
従って、かかる独立駆動ヘッドは各圧力室は隣の駆動状態とは無関係に、図10又は図11の駆動信号を同時に印加して駆動できるため、圧力室をA組、B組、C組と分割しない。その他は第1の実施形態と同様に駆動できる。
【実施例】
【0117】
実施例1
図4(a)、(b)及び図5に示すシェアモード(せん断モード)タイプの3サイクル駆動ヘッド(ノズルピッチ=180dpi、ノズル数=512、ノズル径=27μm、AL=5.3μs)を2つ用意し、各ヘッドのノズル列が、相互に1/2ピッチずらされ、千鳥状に配置するように貼り合わせた。これにより、各ヘッドのそれぞれが180dpiのヘッドであるので、ノズルのピッチを互いに1/2ずらせることで、360dpiの記録ヘッドとして使用することが可能となり、ノズル数を増やし、高密度の記録ヘッドとすることができる。
【0118】
この2列ヘッド(ノズルピッチ:360dpi、ノズル数:1024)にインクを供給し、各チャネルに下記駆動信号を印加した。チャネル列のチャネルを3群に分け、図10に示す駆動信号を基本として、以下の条件で3サイクル駆動を行った。
【0119】
インク:混合有機溶剤系(粘度=10mPa・s、表面張力=30mN/m(25℃における測定値))
(駆動信号と液滴体積)
駆動周波数=12.6kHz
膨張パルス(第1の膨張パルス、第2の膨張パルス)と収縮パルスの駆動電圧比|Von|/|Voff|=2
t1(第1膨張パルス幅)=1AL
t2(収縮パルス幅):図13のように変化(0.1AL以上0.65AL以下の範囲で変更)
t3(第2膨張パルス幅):図13のように変化(0.3ALまたは0.45ALまたは0.6AL)
駆動電圧Vonは12.5〜17.5Vであった(12.5以上17.5V以下の範囲で種々変更しつつ、吐出試験を行い液滴速度と液滴体積を測定した)。
【0120】
図13に液滴体積を示した。
【0121】
液滴体積は収縮パルス幅が0.1〜0.5AL(0.1AL以上0.5AL以下の範囲で)で小さくなっていることが分かる。
【0122】
一方、比較例として上記と同じヘッドとインクを用い、上記と同じ駆動周波数で、特許文献1の実施例1と同様の駆動信号(|Von|/|Voff|=1、t1=1AL、t2=0.5AL、t3=0.5AL)で駆動したときの液滴体積は10.9plであり、図13に破線で示した。
【0123】
|Von|/|Voff|を変化させたときの液滴体積を図15に示した。図15より、|Von|/|Voff|が1.3以上では、液滴体積が顕著に小さくなっている。
【0124】
(サテライトの長さ)
収縮パルス幅t2=0.3AL、第2膨張パルス幅t3=0.45ALの条件で、|Von|/|Voff|を変化させたときのサテライトの長さの評価結果を表1に示した。
【0125】
【表1】

【0126】
表1において、
○:主液滴とサテライトが同一位置に着弾し、ドット形状の乱れがない。画像の荒れは全く見られない。
【0127】
△:主液滴とサテライトが若干離れて着弾し、ドット形状もやや乱れている。やや画像の荒れが認められる。
【0128】
×:主液滴とサテライトが離れて着弾し、画素が乱れ、ドット形状が悪く、画像が非常に荒れている。
【0129】
表1より、サテライトは|Von|/|Voff|が1.3〜10(1.3以上10以下)であれば、ドット形状の乱れが無く、画像の乱れも見られないことが分かる。
【0130】
(駆動信号と圧力波)
|Von|/|Voff|=2において、収縮パルス幅と第2膨張パルス幅を下記のように変化させた以外は、上記と同様の条件で、駆動後の圧力波の減衰状態をシミュレーションした。結果を図16〜図18に示した。図16〜図18において、縦軸は圧力の相対値である。
【0131】
図16(本発明) 収縮パルス幅:0.2AL、第2膨張パルス幅:0.5AL
図17(本発明) 収縮パルス幅:0.2AL、第2膨張パルス幅:0.1AL
図18(本発明) 収縮パルス幅:0.2AL、第2膨張パルス幅:0.8AL
図より、第2膨張パルス幅が0.2AL以上0.6AL以下の条件を満たす図16は、満たさない図17、18よりも圧力波の減衰が速いことが分かる。
【0132】
(安定射出速度上限)
それぞれの駆動信号印加条件において、駆動電圧を上げることによりインク滴の飛翔速度を上げていき、飛翔状態を観察した。圧力室中に空気が取り込まれること等による出射不安定が起こらない飛翔速度の上限を安定射出速度上限と定めた。
【0133】
|Von|/|Voff|=2において、収縮パルス幅を0.1AL〜0.3ALと(0.1AL以上0.3AL以下の範囲で)変化させ、第2膨張パルス幅を0.2AL〜0.7AL(0.2AL以上0.7AL以下の範囲で)と変化させた以外は上記と同様に射出試験を行ったときの安定射出速度上限(液滴飛翔速度の上限)(安定に吐出できる速度の上限値)を図14に示した。図より第2膨張パルス幅が0.2AL〜0.6AL(0.2AL以上0.6AL以下の範囲で)であれば、0.7ALに比べ安定射出速度上限(安定に吐出できる速度の上限値)が高く、0.2AL〜0.5AL(0.2AL以上0.5AL以下の範囲で)であれば更に安定射出速度上限(安定に吐出できる速度の上限値)が高くなり、0.2AL〜0.4AL(0.2AL以上0.4AL以下の範囲で)では安定射出速度上限(安定に吐出できる速度の上限値)が最も高くなることが分かる。
【0134】
これに対し、駆動信号を|Von|/|Voff|=1、収縮パルス幅=0.5AL、第2膨張パルス幅=0.5AL(特許文献1の駆動信号に相当)とした他は、上記と同様に測定した安定射出速度上限(安定に吐出できる速度の上限値)は図14に示したとおり、本発明の安定射出速度上限(安定に吐出できる速度の上限値)より低く、本発明が優れていることが分かる。
【0135】
本発明の駆動方法(|Von|/|Voff|=1.3以上10以下、第1の膨張パルス:1AL、収縮パルス:0.27AL、第2の膨張パルス:0.45AL)と特許文献1の駆動信号(|Von|/|Voff|=1、第1の膨張パルス:1AL、収縮パルス:0.5AL、第2の膨張パルス:0.5AL、第2の収縮パルス:0.5AL)により出射したときの、駆動周波数と安定射出速度上限との関係を図19に示した。図より、本発明によれば、広範囲の駆動周波数において、安定射出速度上限が高いことが分かる。一般的にインクの射出速度を早くすると圧力室中に空気が取り込まれること等により、出射が不安定になる。安定射出速度上限とは、安定して射出できる速度の上限をいう。このことから本発明の駆動方法を用いることにより、高周波数の駆動が可能であり、プリント速度を向上することが可能であることが分かる。
【0136】
実施例2
ノズル径=20μm、AL=3.0μs、の他は実施例1と同様のインクジェットヘッドにより、図10に示す駆動信号を基本とした下記駆動信号を印加して、実施例1と同様のインクを射出した。
【0137】
駆動信号:
t1=1AL
t2:0.1〜0.6ALの範囲(0.1AL以上0.6AL以下の範囲)で変化
t3=0.45AL
|Von|/|Voff|=2
駆動周波数=22.2kHz。
【0138】
駆動電圧は18〜21Vであった。
【0139】
図20に収縮パルス幅と液滴体積の関係を示した。
【0140】
図より、収縮パルス幅が0.1〜0.5AL(0.1AL以上0.5AL以下の範囲)では液滴体積が小さく、それを超えると急激に液滴体積が大きくなることが分かる。
【0141】
実施例3
ノズル径=30μm、AL=4.5μs、独立駆動によるせん断モード型である他は実施例1と同様のインクジェットヘッドにより、図10に示す駆動信号を基本とした下記駆動信号を印加して、下記インクを射出した。
【0142】
駆動信号:
t1=1AL
t2:0.1〜0.8ALの範囲で変化
t3=0.45AL
|Von|/|Voff|=2
駆動周波数=20kHz。
【0143】
インク:
水と有機溶剤の混合液
粘度=5.7mPa・s
表面張力=41mN/m
駆動電圧は11〜22Vであった。
【0144】
図21に収縮パルス幅と液滴体積の関係を示した。
【0145】
図より、収縮パルス幅が0.1〜0.5AL(0.1AL以上0.5AL以下の範囲)では液滴体積が小さく、それを超えると急激に液滴体積が大きくなることが分かる。
【0146】
実施例4
ノズル径=20μm、AL=3.6μs、の他は実施例1と同様のインクジェットヘッドにより、図10に示す駆動信号を基本とした下記駆動信号を印加して、下記インクを射出した。
【0147】
駆動信号:
t1=1AL
t2=0.27AL
t3=0.45AL
|Von|/|Voff|=2
駆動周波数=22.2kHz。
【0148】
インク:
銀ナノ粒子が溶剤に分散されたインク
粘度:8.9mPa・s
表面張力:26mN/m
駆動電圧は16.4Vであった。
【0149】
特許文献1の駆動信号を印加した場合の液滴体積が2.2plだったのに対し、上記駆動信号を印加した場合は1.4plとなった。このように小さい液滴を吐出することができるので、細線の描画が必要となる配線基板に用いると特に有効である。
【符号の説明】
【0150】
1 インクジェット記録装置
10 記録媒体
10A 捲き出しロール
10B 巻き取りロール
20 バックロール
23 ノズル
24 カバープレート
27 隔壁
28 インクチャネル
29 電極
30 インクジェットヘッドユニット
31 インクジェットヘッド
128 空気チャネル
310 ヘッドチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴を吐出するノズルと、該ノズルに連通する圧力室と、該圧力室の容積を変化させる圧力発生手段を有する記録ヘッドと、インク滴を吐出させるための少なくとも1つの駆動パルスを一画素周期内に印加する駆動信号を生成する駆動信号生成手段とを備え、前記駆動信号を印加することによって、前記圧力発生手段を作動させて前記ノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録装置において、一画素周期内の駆動パルスは、時系列順に前記圧力室の容積を膨張させる第1の膨張パルス、前記圧力室の容積を収縮させる収縮パルス及び、再度前記圧力室の容積を膨張させる第2の膨張パルスを含み、かつ前記収縮パルスのパルス幅が0.1AL以上0.5AL以下(ALは圧力室の音響的共振周期の1/2)であり、かつ前記第1の膨張パルスの駆動電圧をVon、前記収縮パルスの駆動電圧をVoffとしたとき、|Von|/|Voff|が1.3以上10以下であることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第2の膨張パルスのパルス幅が0.2AL以上0.6AL以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記収縮パルスのパルス幅と前記第2の膨張パルスのパルス幅の和が0.3AL以上0.9AL以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記第1の膨張パルスのパルス幅が1ALであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記収縮パルスのパルス幅は前記第2の膨張パルスのパルス幅よりも短いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記収縮パルスのパルス幅を0.1AL以上0.5AL以下の範囲内で変化させてインク滴の体積を制御することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記駆動信号生成手段は、インク滴を吐出させるための前記駆動パルスを一画素周期内に複数印加する駆動信号を生成するものであり、
各駆動パルスにより吐出された複数のインク滴を記録媒体に着弾する前、あるいは着弾した後に合体させて一画素を形成することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記複数の駆動パルスは、収縮パルスのパルス幅が0.1AL以上0.5AL以下の範囲内で異なった複数種類の駆動パルスを含み、
各駆動パルスにより複数種類の異なった体積のインク滴を吐出させることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記第2の膨張パルスの駆動電圧が前記第1の膨張パルスの駆動電圧Vonと同電圧であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−37260(P2011−37260A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131792(P2010−131792)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】