説明

インクジェット記録装置

【課題】インクミストを吸収するフィルタの寿命を向上させる。
【解決手段】ファン95を回転させることにより、インクが吐出される吐出空間S1の空気を、ダクト60の導入口61aからダクト60内に導入して、排出口64aに向けて送風する。ダクト60内には、インク吸収体からなるフィルタ20が設けられている。このフィルタ20における送風方向上流部20aをヒータ91により加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対してインクを吐出して画像を形成するインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、記録媒体に向けてインクをヘッドから吐出して、記録媒体上に画像を形成する。このインクジェット記録装置において、ヘッドから吐出されるインクの一部は、記録媒体に付着せずに装置内を漂うインクミストとなる。このインクミストは、装置内の様々な機器に付着して、これら機器を汚染する。そこで、従来から、装置内に漂うインクミストを回収する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載された技術では、インクミストを、ファンによりダクトの開口を介して吸引し、ダクト内に設けられたフィルタによりインクミストを吸収して回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−220499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術では、フィルタにおけるファン送風方向上流部に付着したインクがファンの送風により乾燥し、インクの粘度が増加する。粘度が増加したインクはフィルタに吸収されにくくなるので、インクがフィルタにおけるファン送風方向上流部において堆積することによりフィルタの目詰まりが生じる場合がある。このようにフィルタにおけるファン送風方向上流部においてインク堆積による目詰まりが生じると、ファン送風ができなくなるので、フィルタにおけるファン送風方向下流部においてインクの吸収を行うことができなくなる。従って、フィルタは、フィルタ全体で吸収可能なインク量を吸収するよりも早い段階で寿命に到達し、交換が必要となる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、フィルタの寿命を向上させることができるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体に画像を形成するためのインクを吐出するインク吐出ヘッドと、導入口、及び、排出口を有するダクトと、前記インクが吐出される吐出空間の空気を、前記導入口から前記ダクト内に導入して、前記排出口に向けて送風する送風手段と、前記ダクト内に設けられた、インク吸収体からなるフィルタと、前記フィルタにおける前記送風方向上流部を加熱する加熱手段と
を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、フィルタにおける送風方向上流部に付着したインクの粘度が、加熱手段による加熱により低くなるので、フィルタがインクを吸収しやすくなる。又は、フィルタ内における送風方向上流部から送風方向下流部へのインクの移動を促進させることができる。その結果、フィルタ全体で効率良くインクを吸収することが可能となるので、フィルタの寿命を向上させることができる。
【0009】
また、本発明のインクジェット記録装置において、前記加熱手段は、前記送風手段が前記送風を行っているときに、前記加熱を行ってもよい。上記の構成によれば、送風手段による空気の送風により、フィルタ内における送風方向上流部から送風方向下流部へのインクの移動をより促進させることができるので、インクをフィルタ全体で効率良く吸収することができる。
【0010】
また、本発明のインクジェット記録装置において、前記加熱手段は、前記フィルタ全体を加熱してもよい。上記の構成によれば、フィルタ全体に付着したインクの粘度を低下させることができるので、インクをフィルタ全体でより効率良く吸収することができる。
【0011】
また、本発明のインクジェット記録装置において、前記加熱手段が、ヒータであってもよい。
【0012】
また、本発明のインクジェット記録装置においては、前記インク吐出ヘッドにより吐出された前記インクが付着した記録媒体を加熱乾燥する乾燥手段を更に備えており、前記加熱手段は、前記乾燥手段の前記加熱乾燥による排熱によって、前記加熱を行ってもよい。上記の構成によれば、乾燥手段の排熱を利用してフィルタを加熱するので、フィルタを加熱するための熱源を新たに設ける必要がない。
【0013】
また、本発明のインクジェット記録装置において、前記フィルタは、吸湿発熱素材を含んでおり、前記加熱手段は、前記吐出空間の空気を加湿する加湿手段であってもよい。上記の構成によれば、加熱手段により加湿された空気が送風手段によりフィルタに供給される。これにより、フィルタ自体が熱源となるため、フィルタに吸収されたインクの粘度を効率良く低下させることができる。
【0014】
また、本発明のインクジェット記録装置において、前記フィルタは前記ダクトに対して着脱可能に設けられており、前記加熱手段は、前記フィルタ取付け後における前記送風手段の稼働時間が所定時間に達したときに、前記加熱を行ってもよい。上記の構成によれば、フィルタの送風方向上流部に付着したインクの量が多くなってきたときに、フィルタが加熱される。これにより、フィルタの送風方向上流部に付着したインクの粘度が低下するので、インクの粘度増加によるフィルタの目詰まりを確実に抑制することができる。
【0015】
また、本発明のインクジェット記録装置において、前記加熱手段は、前記インク吐出ヘッドから前記インクが吐出されていないときに、前記加熱を行ってもよい。上記の構成によれば、インクジェット記録装置全体の最大駆動電力を下げることができるので、電源系をコンパクトにすることができる。
【0016】
また、本発明のインクジェット記録装置において、前記送風手段は、ファンと、前記ファンを回転させるモータとを有し、前記加熱手段は、前記モータの電流値を検出する電流値検出部を有し、前記加熱手段は、前記電流値が所定の範囲から外れたときに、前記加熱を行ってもよい。上記の構成によれば、フィルタの目詰まり度合いが大きくなって、フィルタの流路抵抗が大きくなることに起因してモータの電流値が所定の範囲から外れたときに、フィルタが加熱される。これにより、フィルタにおいて付着したインクの粘度が低下するので、インクの粘度増加によるフィルタの目詰まりを確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
インクミストを吸収するフィルタの寿命を向上させることができる
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の第1実施形態に係るインクジェットプリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】図1のプリンタに含まれるインクジェットヘッドの流路ユニット及びアクチュエータユニット、並びにヘッドホルダを示す平面図である。
【図3】図2の一点鎖線で囲まれた領域IIIを示す拡大図である。
【図4】図1のプリンタに含まれるヘッドホルダ、加湿機構、及びダクトを示す概略図である。
【図5】図4の一点鎖線で囲まれた領域VIを示す部分断面図である。
【図6】(a)はインクの粘度と温度との関係を示すグラフであり、(b)はファンの送風方向から見た、空気排出ダクト、フィルタ、及びヒータの位置関係を説明する図である。
【図7】ヒータの変形例を説明する図であり、(a)は第1変形例に係るヒータ周辺の部分側断面図、(b)は第1変形例に係る、ファンの送風方向から見た、空気排出ダクト、フィルタ、及びヒータの位置関係を説明する図である。また、(c)は第2変形例に係るヒータ周辺の部分側断面図、(d)は第2変形例に係る、ファンの送風方向から見た、空気排出ダクト、フィルタ、及びヒータの位置関係を説明する図である。
【図8】ファンモータの電流値とダクト内の空気送風量との関係を示すグラフである。
【図9】図1に示す制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図10】図1に示す制御装置の動作フロー図である。
【図11】本発明の第2実施形態の加熱手段について説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(第1実施形態)
先ず、図1を参照し、本発明のインクジェット記録装置の第1実施形態に係るインクジェットプリンタ101の全体構成について説明する。
【0021】
プリンタ101は、直方体形状の筐体101aを有する。筐体101aの天板上部には、排紙部15が設けられている。筐体101aの内部空間は、上から順に空間A,B,Cに区分できる。空間A,Bには、給紙ユニット101bから排紙部15に至る用紙Pの搬送経路が形成されている。空間Aでは、用紙Pへの画像形成と、用紙Pの排紙部15への搬送が行われる。空間Bでは、用紙Pの搬送経路への給紙が行われる。空間Cからは、空間Aのインク吐出ヘッド1に対してインク液が供給される。
【0022】
空間Aには、インク吐出ヘッド1(以下、ヘッド1と称する)、用紙Pを搬送方向(図1中左方から右方に向かう方向)に搬送する搬送機構16、用紙Pをガイドするガイド部、インクミストの回収に用いられるダクト60及びファン(図4参照)、画像形成後の用紙Pを加熱乾燥する乾燥機構31、加湿メンテナンスに用いられる加湿機構80(図4参照)、ユーザに対して各種情報を表示するディスプレイ94(図9参照)、並びに、制御装置100等が配置されている。
【0023】
ヘッド1は、主走査方向に長尺な略直方体形状を有するライン式ヘッドであり、ヘッドホルダ35を介して筐体101aに支持されている。ヘッド1の下面は、ブラックインクの液滴を吐出する複数の吐出口108(図3参照)が開口した吐出面1aである。ここで、副走査方向とは搬送機構16の搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは副走査方向に直交する方向であって水平面に沿った方向である。
【0024】
ヘッドホルダ35は、吐出面1aと搬送ベルト8との間に記録に適した所定の間隙が形成されるように、ヘッド1を支持している。ヘッド1及びヘッドホルダ35の周辺構成については、後に詳述する。
【0025】
搬送機構16は、2つのベルトローラ6、7と、搬送ベルト8と、テンションローラ10と、プラテン18と、ニップローラ4と、剥離プレート5とを有している。搬送ベルト8は、両ローラ6、7の間に巻回されたエンドレスのベルトであり、テンションローラ10によってテンションが付加されている。プラテン18は、ヘッド1に対向配置され、搬送ベルト8の上側ループを内側から支える。ベルトローラ7は、図1中時計回りに回転する駆動ローラであって、搬送ベルト8を走行させる。ベルトローラ6は、搬送ベルト8が走行すると回転する従動ローラである。搬送ベルト8の搬送面8aには、弱粘着性のシリコン層が形成されている。ニップローラ4は、搬送されてきた用紙Pを搬送面8aに押さえ付ける。押さえ付けられた用紙Pは、シリコン層によって搬送ベルト8に保持される。剥離プレート5は、搬送ベルト8上の用紙Pを、搬送ベルト8から剥離する。
【0026】
ガイド部は、搬送方向に関して、搬送機構16を挟んで配置された上流側ガイド部及び下流側ガイド部を有している。上流側ガイド部は、ガイド13a,13bと送りローラ対14を有し、給紙ユニット101bと搬送機構16とを繋ぐ。下流側ガイド部は、ガイド29a,29b,29cと3つの送りローラ対28を有し、搬送機構16と排紙部15とを繋ぐ。
【0027】
乾燥機構31は、搬送方向に関してヘッド1よりも下流であってガイド29bの構成部材として設けられている。乾燥機構31は、乾燥用ヒータ31a及び加熱面31bを有する。加熱面31bは、ガイド29bの内面の一部である。乾燥用ヒータ31aが、制御装置100の制御の下、通電されることで、加熱面31bが画像形成後の用紙Pを所定温度以上に加熱して乾燥する。
【0028】
空間Bには、給紙ユニット101bが配置されている。給紙ユニット101bは、給紙トレイ11及び給紙ローラ12を有する。このうち、給紙トレイ11が、筐体101aに対して着脱可能である。給紙トレイ11は、上方に開口する箱であり、複数の用紙Pを収納する。給紙ローラ12は、給紙トレイ11内で最も上方にある用紙Pを送り出す。
【0029】
空間Cには、タンクユニット101cが筐体101aに対して着脱可能に配置されている。タンクユニット101cは、インクタンク17が着脱可能に装着されている。インクタンク17は、ブラックのインク液が貯留されており、ヘッド1にチューブ(不図示)及びポンプ(不図示)を介して接続されている。
【0030】
次に、制御装置100について説明する。制御装置100は、プリンタ101各部を制御してプリンタ101全体の動作を司る。制御装置100は、外部装置(プリンタ101と接続されたPC等)から受信した画像データ(記録指令)に基づいて、画像形成動作を司る。具体的には、制御装置100は、記録指令に基づいて、給紙ユニット101b、搬送機構16、各送りローラ対14,28等を制御する。給紙トレイ11から送り出された用紙Pは、上流側ガイド部により搬送機構16に送られる。搬送面8a上の用紙Pが、ヘッド1のすぐ下方を通過する際に、制御装置100によってヘッド1が制御され、用紙P上に、吐出面1aからインク滴が吐出される。これにより、用紙P上に所望のモノクロ画像が形成される。なお、インクの吐出動作は、用紙Pの先端を検知する用紙センサ(不図示)からの検知信号に基づいて行われる。そして、画像が形成された用紙Pは、剥離プレート5によって搬送ベルト8から剥離された後、下流側ガイド部によりガイドされるとともに、乾燥機構31により加熱乾燥されて、筐体101a上部の開口22から排紙部15に排出される。
【0031】
また、制御装置100は、上記画像形成動作中に発生するインクミストの回収を行う空気送風動作、後述のフィルタ20を加熱するフィルタ加熱動作、ヘッド1のインク吐出特性の回復・維持を行う加湿メンテナンス動作等を司る。空気送風動作、フィルタ加熱動作、及び加湿メンテナンス動作については、後に詳述する。
【0032】
次に、図2及び図3を参照しつつヘッド1について詳細に説明する。図3では説明の都合上、アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき圧力室110、アパーチャ112及び吐出口108を実線で描いている。
【0033】
ヘッド1は、図2及び図3に示すように、流路ユニット9と、流路ユニット9の上面9aに固定された8つのアクチュエータユニット21とを有している。流路ユニット9の上面9aには、インクが供給される18個のインク供給口105bが開口している。流路ユニット9の内部には、インク供給口105bに連通するマニホールド流路105、及び、マニホールド流路105に含まれる複数の副マニホールド流路105a、各副マニホールド流路105aから分岐しつつ、圧力室110を介して吐出面1aに開口する吐出口108に至る複数の個別インク流路が形成されている。吐出面1aにおいては、複数の吐出口108がマトリクス状に配置されている。
【0034】
アクチュエータユニット21は、各圧力室110に対応した複数のユニモルフ型のアク
チュエータを含んでおり、圧力室110内のインクに選択的に吐出エネルギーを付与する機能を有する。なお、ヘッド1は、流路ユニット9に加え、流路ユニット9に供給されるインクを貯留するリザーバユニット、アクチュエータユニット21に駆動信号を供給するフレキシブルプリント配線基板(Flexible Printed Circuit:FPC)、FPCに実装されたドライバICを制御する回路基板等が積層した積層体である。
【0035】
流路ユニット9におけるインクの流れについて説明する。リザーバユニットからインク供給口105bに供給されたインクは、マニホールド流路105の副マニホールド流路105aに分配される。副マニホールド流路105a内のインクは、アパーチャ112を経由して各個別インク流路に流れ込み、圧力室110を介して吐出口108に至る。この状態で、アクチュエータユニット21が駆動することで、圧力室110内のインクに吐出エネルギーが付与されると、吐出口108からインク滴が吐出される。
【0036】
次に、図2、図4、及び図5を参照し、ヘッドホルダ35の周辺構造について説明する。
【0037】
ヘッドホルダ35には、図4に示すように、空気導入ダクト61、一対のジョイント81、及び、閉空間を作る環状のキャップ40が取り付けられている。
【0038】
空気導入ダクト61は、ヘッド1の側面全周に亘って配置されており、ダクト60(空気送風流路)の一端を構成する。図2に示すように、空気導入ダクト61は、平面視で長方形の枠体であって、内側に吐出面1aを収容する。空気導入ダクト61は、図5に示すように、吐出面1a側から本体部61x、及び上部61yで構成される。本体部61xには、本体部61xの下端から上端に亘って、鉛直方向に沿った中空空間61wが形成されている。この本体部61xの下端(空気導入ダクト61の下端)は、吐出面1aよりも搬送面8aから離れており、平面視で吐出面1aの全周を取り囲む導入口61aとなっている。上部61yの上面には、ヘッド1の輪郭に沿って一定間隔で複数の円筒状の接続部62が設けられている。接続部62の内側の円柱空間62wは、上部61yをも貫き、中空空間61wと連通している。接続部62は、その上端面の外周に切欠を有し、先細り形状となっている。これにより、接続部62への後述の分岐ダクト63の一端の接続が容易となる。
【0039】
一対のジョイント81は、図4に示すように、加湿機構80の循環流路の一端及び他端をそれぞれ構成するものであり、空気導入ダクト61及び吐出面1aを主走査方向に関して挟むようにそれぞれ配置されている。加湿メンテナンス動作において、一対のジョイント81のうち、一方(図4の左側)のジョイント81の下面の開口(空気流入口)81aから空気が回収され、他方(図4の右側)のジョイント81の下面の開口(空気排出口)81bから加湿空気が供給される。
【0040】
ジョイント81は、図5に示すように、略円筒状であり、底部81x、及び、底部81xから延出した先端部81yを含む。底部81xから先端部81yに亘って、鉛直方向に沿った円柱状の中空空間81zが貫通している。底部81xは、平面視で外側(吐出面1aから離隔する方向)に延出されたつば部を有している。また、底部81xの下端は、空気導入ダクト61の本体部61xの下端と同じ高さレベルにある。先端部81yは、その上端面の外周に切欠を有し、先細り形状となっている。これにより、先端部81yへの後述のチューブ86の一端の接続が容易となる。
【0041】
キャップ40は、吐出面1aに対向する吐出空間S1を、搬送面8aとで包囲する。キャップ40は、平面視で吐出面1a、空気導入ダクト61、及び一対のジョイント81を囲む環状部材であり、弾性体41及び可動体42を含む。弾性体41はゴム等の弾性材料からなり、可動体42は金属製の剛性材料からなる。
【0042】
弾性体41は、吐出面1a、空気導入ダクト61、及び一対のジョイント81を平面視で囲む環状に形成されており、図5に示すように、固定部41c、接続部41d、基部41x及び突出部41aから構成される。固定部41cは、断面視T字形状であり、上端部分がヘッドホルダ35に接着剤等で固定されている。さらに、固定部41cは、ヘッドホルダ35とジョイント81のつば部(底部81x)とに挟持されている。接続部41dは、固定部41c及び基部41xの下端同士を接続し、下方に湾曲しながら外側(平面視で、吐出面1aから離れる方向)に延びている。接続部41dの湾曲は、基部41xの固定部41cに対する相対移動を可能にする。基部41xは、上面に凹部41bが形成されており、可導体42の下端と嵌合している。下面には、下方に突出した突出部41aが形成されている。突出部41aは、断面視逆三角形状である。
【0043】
可動体42は、弾性体41と同様、吐出面1a、空気導入ダクト61、及び一対のジョイント81を平面視で囲む環状に形成されている。可動体42は、弾性体41を介してヘッドホルダ35に支持されつつ、ヘッドホルダ35に対して鉛直方向に移動可能である。具体的には、可動体42は、複数のギア43と接続されており、制御装置100による制御の下、昇降モータ44(図9参照)の駆動に伴いギア43を介して、昇降する。このとき、基部41x及び突出部41aが可動体42と共に昇降する。これにより、突出部41aのキャップ先端40aと吐出面1aとの鉛直方向の相対位置が変化する。
【0044】
突出部41aは、可動体42の昇降により、キャップ先端40aが搬送ベルト8の搬送面8aに当接する当接位置(図5参照)と、キャップ先端40aが搬送面8aから離隔した離隔位置(図4参照)とを選択的に取る。図5に示すように、突出部41aが当接位置にあるとき、吐出空間S1が外部空間S2から隔離された封止状態となっている。また、図4に示すように、突出部41aが離隔位置にあるとき、吐出空間S1が外部空間S2に開放された非封止状態となっている。
【0045】
次に、ダクト60について、図4を参照しつつ説明する。ダクト60は、図4に示すように、空気導入ダクト61、複数の分岐ダクト63、及び空気排出ダクト64を含む。複数の分岐ダクト63は、空気排出ダクト64と空気導入ダクト61の各接続部62とを連通可能に接続するものであり、空気排出ダクト64から分岐して、対応する各接続部62まで延在している。空気排出ダクト64の一端である排出口64aは外部空間S2に面しており、空気送風時にこの排出口64aから外部空間S2へと空気が排出される。これにより、外部空間S2に配置された種々の機器が空冷される。また、空気排出ダクト64内には、フィルタ20、及び、ファン95が設けられている。
【0046】
ファン95は、制御装置100による制御の下、ファンモータ96の駆動に伴い回転する。ファンモータ96には当該ファンモータ96の電流値(入力電流)を検出する電流計(電流値検出部)98が設けられている(それぞれ図9参照)。なお、ファンモータ96の電流値はフィルタ20の流路抵抗の大きさにより変化する。
【0047】
フィルタ20は、多孔質体などからなるインク吸収体であり、空気排出ダクト64内に固定されたフィルタ支持部(不図示)により支持されている。また、フィルタ20は、フィルタ支持部に対して着脱可能にされている。即ち、フィルタ20は、空気排出ダクト64に対して着脱可能に設けられている。フィルタ支持部には、空気排出ダクト64に対するフィルタ20の着脱を検出する着脱センサ99(図9参照)が設けられている。制御装置100は、着脱センサ99からの信号の有無によって、フィルタ20が空気排出ダクト64に対して取り付けられているか否かを判断する。
【0048】
この構成において、空気送風動作時には、ファン95がファンモータ96により駆動されて、吐出空間S1の空気が、図4中の黒矢印に沿って流れる。即ち、吐出空間S1の空気が、導入口61aから空気導入ダクト61内に導入され、空気導入ダクト61、分岐ダクト63、空気排出ダクト64を順に通り、排出口64aを介して外部空間S2に排出される。このとき、ダクト60内に導入された空気に含まれるインクミストは、フィルタ20によって吸収されて回収される。これにより、排出口64aからはインクミストが除去された空気が排出されることになる。
【0049】
ここで、フィルタ20におけるファン95の送風方向上流部20aに付着したインクは、ファン95の送風により乾燥し、吸収したインクの粘度が増加する。このように粘度が増加したインクはフィルタ20に吸収されにくくなるので、インクがフィルタ20における送風方向上流部20aにおいて堆積することによりフィルタ20の目詰まりが生じる場合がある。そこで、本実施形態においては、温度が上昇するにつれて粘度が低くなるインクの性状(図6(a)参照)を利用して、フィルタ20の送風方向上流部20aを加熱してフィルタ20に付着したインクの粘度を下げることで、フィルタ20の目詰まりが生じることを抑制している。
【0050】
具体的には、本実施形態においては、図6(b)に示すように、ファン95の送風方向(図4において図中左から右に向かう方向)から見て空気排出ダクト64を囲む円筒状のヒータ91が、空気排出ダクト64の外壁に設けられている。このヒータ91の軸方向の上流端の位置は、図4に示すように、ファン95の送風方向に関して、フィルタ20の送風方向上流端20bと一致し、下流端の位置はフィルタ20の送風方向上流端20bと送風方向下流端20dとの間の位置にある。また、フィルタ20内には、フィルタ20の温度を測る温度センサ97が埋設されている(図4において不図示)。ヒータ91は、制御装置100による制御の下、温度センサ97からの信号に基づき、フィルタ20の温度が所定の温度以上となるように、空気排出ダクト64及びフィルタ支持部を介して、フィルタ20の送風方向上流部20aを加熱する。これにより、フィルタ20の送風方向上流部20aに付着したインクの粘度が低くなるので、フィルタ20がインクを吸収しやすくなる。そして、フィルタ20内における送風方向上流部20aから送風方向下流部20cへの毛細管現象によるインクの移動を促進させることができる。その結果、フィルタ20全体で効率良くインクを吸収することが可能となるので、フィルタ20の寿命を向上させることができる。また、インクの粘度が低くなるとフィルタ表面におけるインクの流動性も向上するので、空気の送風によりフィルタ20内に付着したインクを、送風方向上流部20aから送風方向下流部20cへ向けて移動させることができる。その結果、インクをフィルタ20全体でより効率良く吸収することができる。
【0051】
このフィルタ20を加熱するヒータの第1変形例を図7の(a),(b)に示す。第1変形例に係るヒータ92は、図7の(a),(b)に示すようにヒータ92が、ファン95の送風方向に関して、フィルタ20の送風方向上流端20bから送風方向下流端20dに亘って設けられていている。これにより、ヒータ92は、フィルタ20全体を加熱することができるので、フィルタ20全体に付着したインクの粘度を低下させることができ、その結果、インクをフィルタ20全体でより効率良く吸収することができる。
【0052】
また、ヒータの第2変形例を図7の(c),(d)に示す。第2変形例に係るヒータ93は、空気排出ダクト64内に設けられており、ファン95の送風方向と直交する方向に延びる細い棒状の複数のヒータからなるヒータ群93a,93bから構成される。ヒータ群93a,93bは、ファン95の送風方向に関して離隔してそれぞれ設けられている。また、ヒータ群93a,93bはファン95の送風方向から見て、互いに重ならないように配置されている。このように構成することにより、フィルタ20内を通る空気の流動を極力阻害せずに、効率良くフィルタ20を加熱することができる。
【0053】
以上、フィルタ20を加熱するヒータの構成について説明したが、フィルタ20の送風方向上流部20aを加熱することができるものであれば、特にこれに限定されるものではない。例えば、空気排出ダクト64内におけるフィルタ20よりも送風方向上流側の位置に、輻射熱を放射するヒータを配置し、当該ヒータによりフィルタ20を加熱してもよい。
【0054】
次に、加湿機構80について、図4を参照しつつ説明する。加湿機構80は、一対のジョイント81、水タンク85、チューブ86,87,88、加湿ポンプ89を含む。
【0055】
水タンク85は、下部空間に水を貯溜し、且つ、上部空間に、下部空間の水により加湿された加湿空気を貯蔵している。チューブ86の一端はヘッドホルダ35に取り付けられた一方(図4の左側)のジョイント81の先端部81yに嵌合し、他端は加湿ポンプ89に接続されている。即ち、チューブ86は、一方のジョイント81の中空空間81zと加湿ポンプ89とを連通可能に接続している。チューブ87は、加湿ポンプ89と水タンク85の下部空間とを連通可能に接続している。チューブ88の一端は水タンク85の上部空間に接続され、他端はヘッドホルダ35に取り付けられた他方(図4の右側)のジョイント81の先端部81yに嵌合している。即ち、チューブ88は、他方のジョイント81の中空空間81zと、水タンク85の上部空間とを連通可能に接続している。加湿ポンプ89は、制御装置100による制御の下、吐出空間S1から水タンク85への空気流動、及び水タンク85から吐出空間S1への空気流動を生む。なお、チューブ87には、水タンク85内の水が加湿ポンプ89に流れ込まないよう、逆止弁(図示せず)が取り付けられており、図4の白抜き破線矢印方向にのみ空気が流れるようになっている。
【0056】
この構成において、加湿メンテナンス動作が実行されると、制御装置100による制御の下、加湿ポンプ89が駆動される。これにより、吐出空間S1の空気が、空気流入口81a、チューブ86,87を介して水タンク85に供給されて加湿される。そして水タンク85により加湿された空気が、チューブ88を介して空気排出口81bから吐出空間S1へと排出されることになる。なお、水タンク85に貯留された水が少なくなった時は、補給タンク(不図示)から水が補給される。
【0057】
次に、図9を参照しつつ、制御装置100について説明する。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶するROM(Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んでいる。制御装置100を構成する各機能部は、これらハードウェアとROM内のソフトウェアとが協働して構築されている。図9に示すように、制御装置100は、搬送制御部151と、画像データ記憶部152と、ヘッド制御部153と、送風制御部154と、加熱制御部155と、乾燥制御部156と、メンテナンス制御部157とを有している。
【0058】
搬送制御部151は、用紙Pが給紙ユニット101bから排紙部15まで搬送されるように、給紙ユニット101b、各送りローラ対14,28及び搬送機構16を制御する。画像データ記憶部152は、外部装置から供給された画像形成にかかる画像データを記憶する。
【0059】
ヘッド制御部153は、画像データ記憶部152に記憶された画像データに基づいて、ヘッド1のアクチュエータユニット21を駆動して、所望の体積のインク滴を所望のタイミングで吐出口108から吐出させる。
【0060】
送風制御部154は、ファンモータ96を駆動してファン95を回転させることで、吐出空間S1の空気を導入口61aからダクト60内に導入して、排出口64aに向けて送風する空気送風動作を行う。本実施形態においては、送風制御部154、ファン95、及びファンモータ96により送風手段が構成されている。
【0061】
加熱制御部155は、ヒータ91の駆動を制御してフィルタ加熱動作を行うものであり、加熱データ記憶部160と、加熱判断部161とを有している。加熱データ記憶部160は、着脱センサ99によりフィルタ20の空気排出ダクト64内への取付けを検出した後のファン95の稼働時間(空気送風動作の動作時間)を記憶する。また、加熱データ記憶部160には、フィルタ20の流路抵抗が所定値以下となるファンモータ96の正常電流値範囲が記憶されている。
【0062】
加熱判断部161は、加熱データ記憶部160に記憶されているファン95の稼働時間、又は、ファンモータ96の正常電流値範囲及び電流計98により検出されたファンモータ96の電流値に基づいて、フィルタ20を加熱するか否かを判断する。具体的には、加熱判断部161は、ファン95の稼働時間が所定時間に達したとき、又は、ファンモータ96の電流値が正常電流値範囲から外れた状態にあるときに、フィルタ20を加熱すると判断する。ここで、ファンモータ96の電流値について、図8を参照しつつ説明する。図8は、ファン95によるダクト60内の空気送風量とファンモータ96の電流値との関係を表すグラフである。ファン95の適正駆動範囲は、インクミストの回収性能、静粛性及び安定駆動などの観点よりダクト設計時にファンモータ選択とともに設定されるものである。ファン95の適正駆動範囲に対応して、ファンモータ96の正常電流値範囲(I1〜I2)が決定される。そして、フィルタ20がインクミスト堆積により目詰まりするとダクト60内の空気送風量が減少するのでファンモータ96の電流値が増加してゆく。ファンモータの電流値がI2を超えた場合、ファンモータ96の電流値が正常電流値範囲から外れた状態と判断される。また、逆に、ファンモータ96の電流値がI1未満となった場合は、断線などの異常が発生したと判断される。なお、図8の特性についてはファンモータの特性によって変わり、ダクト内の空気送風量がファンの適正駆動範囲より少なくなる程ファンモータの電流値が減少する特性のファンモータも存在する。また、さらに、加熱判断部161は、フィルタ20を所定時間加熱してもファンモータ96の電流値が正常電流値範囲から外れた状態である場合には、フィルタ20が寿命に到達したとしてユーザに対してフィルタ20の交換を促す画像をディスプレイ94に表示する。本実施形態においては、加熱制御部155、ヒータ91、及び電流計98により加熱手段が構成されている。
【0063】
乾燥制御部156は、画像形成後の用紙Pに付着したインクが乾燥するように乾燥用ヒータ31aを制御する。
【0064】
メンテナンス制御部157は、加湿メンテナンス動作時において、昇降モータ44を駆動してキャップ先端40aを搬送面8aに当接させることで、吐出空間S1を封止状態にする。さらに、メンテナンス制御部157は、封止状態にされた吐出空間S1内の空気が加湿されるように、加湿ポンプ89の駆動を制御する。
【0065】
続いて、プリンタ101の動作について、図10を参照しつつ以下に説明する。まず、図10に示すように、プリンタ101が外部装置から記録指令を受信する(A1)。記録指令を受信すると、送風制御部154が空気送風動作を開始する(A2)。具体的には、送風制御部154は、吐出空間S1の空気が、ファン95の回転により導入口61aからダクト60内に導入されて、排出口64aに向けて送風されるように、ファンモータ96の駆動制御を開始する。これにより、吐出空間S1において導入口61aへ向かう気流が生じることになる。
【0066】
次に、加熱判断部161が、フィルタ20の加熱が必要か否かを判断する(A3)。即ち、ファン95の稼働時間が所定時間に達しているとき、又はファンモータ96の電流値が正常電流値範囲から外れているときにはフィルタ20の加熱が必要であると判断し、それ以外の場合にはフィルタ20の加熱は不要であると判断する。
【0067】
加熱判断部161がフィルタ20の加熱が不要であると判断した場合(A3:NO)には、ステップA6の処理に移る。一方、フィルタ20の加熱が必要と判断した場合(A3:YES)には、加熱制御部155は、フィルタ20が加熱されるようにヒータ91を駆動して、所定時間フィルタ加熱動作を行う(A4)。これにより、フィルタ20における送風方向上流部20aに付着したインクの粘度が低くなるので、フィルタ20がインクを吸収しやすくなる。また、フィルタ20内における送風方向上流部20aから送風方向下流部20cへのインクの移動を促進させることができる。またさらに、このフィルタ加熱動作を行っているときには、空気送風動作が行われているので、フィルタ20自身の毛細管現象に加えて、空気の送風により、フィルタ20内に付着したインクを、送風方向上流部20aから送風方向下流部20cへ向けて移動させることができる。その結果、インクをフィルタ20全体でより効率良く吸収することができる。
【0068】
ステップA4の後、加熱判断部161はファンモータ96の電流値が正常電流値範囲から外れているか否かを判断する(A5)。ファンモータ96の電流値が正常電流値範囲から外れていないと判断した場合(A5:NO)には、ステップA6の処理に移る。一方、ファンモータ96の電流値が正常電流値から外れていると判断した場合(A5:YES)には、加熱制御部155は、フィルタ20が寿命に到達したとして、ユーザに対してフィルタ20の交換を促す画面をディスプレイ94に表示して(A15)、本処理を終了する。
【0069】
ステップA6では、制御装置100は画像形成動作を開始する。具体的には、搬送制御部151が、用紙Pが給紙ユニット101bから排紙部15まで搬送されるように、給紙ユニット101b、各送りローラ対14,28及び搬送機構16を制御するとともに、ヘッド制御部153が、画像データ記憶部152に記憶された画像データに基づいて、ヘッド1のアクチュエータユニット21を駆動して、所望の体積のインク滴を所望のタイミングで吐出口108から吐出させる。そして、乾燥制御部156が、インクが付着した用紙Pが加熱乾燥されるように乾燥機構31を制御する。なお、インクの吐出タイミングは、上述のように用紙センサからの検出信号に基づいて決められる。
【0070】
この画像形成動作中において、ヘッド1から吐出されたインクの一部は用紙Pに付着せずにインクミストとなるが、送風制御部154による空気送風動作が行われているので、インクミストは導入口61aを介してダクト60内に導入されて、フィルタ20により回収されることになる。これにより、インクミストがプリンタ101の機器に付着して汚染することを防ぐことができる。また、制御装置100は、画像形成動作を行う前に空気送風動作を開始しているので、画像形成動作の際には、空気送風動作により生じる導入口61aへ向かう気流は安定した状態となっている。その結果、画像形成動作時に生じるインクミストを効率良くダクト60内へと導入させることができる。
【0071】
また、画像形成動作中において、加熱判断部161は、フィルタ20の加熱が必要か否かを判断する(A7)。フィルタ20の加熱が不要であると判断した場合(A7:NO)には、ステップA9の処理に移る。一方、フィルタ20の加熱が必要と判断した場合(A7:YES)には、加熱制御部155は、フィルタ20が加熱されるようにヒータ91を駆動してフィルタ加熱動作を開始する(A8)。これにより、フィルタ20における送風方向上流部20aに付着したインクの粘度が低くなるので、フィルタ20がインクを吸収しやすくなる。また、フィルタ20内における送風方向上流部20aから送風方向下流部20cへのインクの移動を促進させることができる。このステップA8の処理が終了すると、ステップA9の処理に移る。なお、フィルタ加熱動作は、ファンモータ96の電流値が正常電流値範囲内になるまで行われる。
【0072】
ステップA9では、制御装置100は、画像形成動作が終了したか否かを判断する。画像形成動作が終了していないと判断した場合(A9:NO)には、ステップA7の処理に戻る。一方、画像形成動作が終了したと判断した場合(A9:YES)には、送風制御部154が、ファンモータ96を制御してファン95の回転を停止させ、空気送風動作を終了する(A10)。なお、ステップA10の処理では、ステップA9の処理のときにおいても、加熱制御部155によるフィルタ加熱動作が行われていた場合には、当該フィルタ加熱動作も終了する。
【0073】
次に、メンテナンス制御部157は、昇降モータ44を駆動し、キャップ40のキャップ先端40aを搬送面8aに当接させる(A11)。これにより、吐出空間S1が外部空間S2から隔離された封止状態となる。その後、メンテナンス制御部157は、吐出空間S1と水タンク85との間で空気循環が生じるように、加湿ポンプ89を駆動する(A12)。具体的には、加湿ポンプ89が駆動されることにより、吐出空間S1の空気は、空気流入口81a及びチューブ86内の空間を通って加湿ポンプ89に至り、さらにチューブ87内の空間を通って水タンク85に至る。当該空気は、水タンク85の下部空間(即ち水面下)に供給される。そして、水タンク85内の水により加湿された空気は、水タンク85の上部空間から排出され、チューブ88内の空間を通って、空気排出口81bから吐出空間S1内に供給される。このようにして吐出空間S1内に加湿空気が供給されることにより、吐出口108近傍のインクの蒸発が抑制され、吐出口108の目詰まりを防止することができる。さらに、吐出口108近傍のインクが増粘していても、加湿空気より水分が供給されることによりインクの増粘が解消(回復)する。
【0074】
ステップA12の後、制御装置100は、新たに記録指令を受信したか否かを判断する(A13)。記録指令を受信していないと判断した場合(A13:NO)には、ステップA12の処理に戻る。一方、記録指令を受信したと判断した場合(A13:YES)には、メンテナンス制御部157は、昇降モータ44を駆動し、キャップ40のキャップ先端40aを搬送面8aから離隔させる(A14)。これにより、吐出空間S1が外部空間S2に開放された非封止状態となる。この後、ステップA2の処理に戻る。以上、プリンタ101の動作について説明した。
【0075】
以上、本実施形態によると、フィルタ20における送風方向上流部20aに付着したインクの粘度が、ヒータ91による加熱により低くなるので、フィルタ20がインクを吸収しやすくなる。又は、フィルタ20内における送風方向上流部20aから送風方向下流部20cへのインクの移動を促進させることができる。その結果、フィルタ20全体で効率良くインクを吸収することが可能となるので、フィルタ20の寿命を向上させることができる。
【0076】
また、本実施形態によると、加熱制御部155は、送風制御部154により空気送風動作を行っているときに、フィルタ加熱動作を行っているので、フィルタ20自身の毛細管現象に加えて、空気の送風により、フィルタ20内に付着したインクを、送風方向上流部20aから送風方向下流部20cへ向けて移動させることができる。その結果、インクをフィルタ20全体でより効率良く吸収することができる。
【0077】
また、本実施形態によると、加熱制御部155は、空気排出ダクト64に対してフィルタ20を取付けた後におけるファン95の稼働時間が所定時間に達したときに、フィルタ加熱動作を行う。これにより、フィルタ20において付着したインクの粘度が低下するので、インクの粘度増加によるフィルタ20の目詰まりを確実に抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態によると、加熱制御部155は、ファンモータ96の電流値が正常電流値範囲から外れたときに、フィルタ加熱動作を行っている。即ち、フィルタ20の目詰まり度合いが大きくなって、フィルタ20の流路抵抗が大きくなることに起因してファンモータ96の電流値が正常電流値範囲から外れたときに、フィルタ20が加熱される。これにより、フィルタ20において吸収したインクの粘度が低下するので、吸収したインクの粘度上昇によるフィルタ20の目詰まりを確実に抑制することができる。
【0079】
(第1実施形態の変形例)
上述の第1実施形態においては、ヘッド制御部153がヘッド1のアクチュエータユニット21を駆動させているとき、即ち、ヘッド1からインクが吐出されているときにおいても、加熱制御部155はフィルタ加熱動作を行う態様にされているが、ヘッド1からインクが吐出されているときにはフィルタ加熱動作を行わないようにしてもよい。即ち、ヘッド1からインクが吐出されていないときに、フィルタ加熱動作を行うようにされていてもよい。このように、ヘッド1のアクチュエータユニット21の駆動と、ヒータ91の駆動とを同じときに行わないように制御装置100が制御することにより、プリンタ101の最大駆動電力を下げることができるので、電源系をコンパクトにすることができる。
【0080】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について図11を参照しつつ説明する。第2実施形態において第1実施形態と主に異なる点は、フィルタの加熱は第1実施形態では、ヒータで行われていたが、第2実施形態では乾燥機構31の排熱により行う点である。以下においては、上述した第1実施形態と同一の箇所については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する、また、第2実施形態においては、加熱制御部155を有しておらず、制御装置100が空気送風動作、及び画像形成動作の両動作を行っているときに、フィルタ20が常に加熱される態様にされている。
【0081】
本実施形態においては、図11に示すように、プリンタ101は、乾燥機構31の乾燥用ヒータ31aをガイド29bとで囲む加温室65、チューブ66,67を備えている。チューブ66は、加温室65と、分岐ダクト63の1つとを連通可能に接続している。チューブ67は、加温室65と外部空間S2とを連通可能に接続している。また、空気排出ダクト64の排出口64aは、筐体101a外部に面している。
【0082】
この構成において、送風制御部154により空気送風動作が行われると、外部空間S2の空気が、チューブ67を介して加温室65に供給される。ここで、乾燥制御部156が画像形成後の用紙Pを加熱乾燥させるべく乾燥用ヒータ31aを駆動させていた場合、乾燥用ヒータ31aから排熱(用紙Pの加熱乾燥に供さなかった熱)が発生する。この乾燥用ヒータ31aの排熱により、加温室65に供給された空気は加熱される。そして、加温室65にて加熱された空気は、チューブ67内を通り、導入口61aから導入された吐出空間S1の空気と分岐ダクト63にて合流して、排出口64aに向けて空気排出ダクト64内を流れる。従って、加温室65にて加熱された空気は、フィルタ20を加熱しながらフィルタ20内を通ることになる。その結果として、フィルタ20に付着したインクの粘度が低くなるので、フィルタ20がインクを吸収しやすくなり、フィルタ全体で効率良くインクを吸収することが可能となる。以上のように、本実施形態によると、乾燥機構31の乾燥用ヒータ31aの排熱を利用してフィルタ20を加熱するので、フィルタ20を加熱するための熱源を新たに設ける必要がない。本実施形態においては、加温室65、及びチューブ66,67で加熱手段が構成されている。
【0083】
以上のように、第2実施形態においては、加熱制御部155を有していない構成にされているが、加熱制御部155を有していてもよい。この場合、チューブ67等に弁を設け、加熱判断部161が、フィルタ20の加熱が必要と判断した場合にのみ、当該弁を開放するよう制御して、フィルタ20に加温室65にて加熱された空気が供給されるようにされていればよい。
【0084】
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態において第1実施形態と主に異なる点は、第1実施形態ではヒータでフィルタの加熱を行っていたが、第3実施形態では、フィルタに吸湿発熱材を含ませ、フィルタに加湿空気を供給することにより加熱を行う点である。以下においては、上述した第1実施形態と同一の箇所については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0085】
本実施形態においては、フィルタ20は、水分の吸着により吸着熱を生じる吸湿発熱材を含んでいる。そして、加熱判断部161がフィルタ20を加熱する必要があると判断したとき、加熱制御部155が加湿ポンプ89を駆動する。これにより、吐出空間S1における空気排出口81b近傍の空気が加湿されることになる。この加湿された空気は、送風制御部154による空気送風動作により、導入口61aからダクト60内に導入されて、排出口64aに向けてダクト60内を送風されて、フィルタ20に吸着されることになる。その結果、フィルタ20が吸着熱により加熱されて、フィルタ20内に付着したインクの粘度が低くなるので、フィルタ20がインクを吸収しやすくなり、フィルタ20全体で効率良くインクを吸収することが可能となる。以上のように、本実施形態によると、フィルタ20自体が熱源となるため、フィルタ20に吸収されたインクの粘度を効率良く低下させることができる。なお、画像形成中の用紙Pが湿らないようにするために、画像形成動作時(特に、インク吐出ヘッド1からインクが吐出されているとき)における加湿ポンプ89の移送量は、他のときと比べて少なくすることが好ましい。本実施形態においては、加熱制御部155、加湿機構80、及び電流計98で加熱手段が構成されている。
【0086】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態においては、搬送機構16が、2つのベルトローラ6、7と、搬送ベルト8と、テンションローラ10と、プラテン18とを有している構成であるが、搬送ベルトを有せず、複数の拍車ローラ等により用紙Pを搬送する構成であってもよい。
【0087】
また、上述した第1実施形態においては、加湿メンテナンス動作において、加湿空気が循環するように構成されていたが、吐出空間S1を横切った後、大気に放出される構成であってもよい。
【0088】
また、上述した第2実施形態においては、フィルタの加熱を乾燥機構31の排熱により行なっているが、プリンタ101の筐体101a内に設けられた電源装置の排熱、又は、プリンタ101の筐体101a内に設けられた基板(基板に配置された電子部品を含む)から発生する排熱によりフィルタの加熱を行うように構成してもよい。
【0089】
また、上述した実施形態においては、送風制御部154が空気送風動作を行っているときに、加熱制御部155がフィルタ加熱動作を行うようにされているが、送風制御部154が空気送風動作を行っていないときに、加熱制御部155がフィルタ加熱動作を行うようにされていてもよい。例えば、加湿メンテナンス動作時を行っているときに、フィルタ加熱動作を行うようにされていてもよい。
【0090】
また、上述した実施形態においては、画像形成動作を開始する前に空気送風動作を行っている構成であるが、インクミストが発生するのは画像形成動作の開始後なので、画像形成動作を開始する前に空気送風動作を行っていない構成でもよい。
【0091】
また、上述した実施形態においては、ダクト60が平面視で長方形の枠体の空気導入ダクト61よりインクミストを含んだ空気を導入する構成であるが、単にヘッド1の搬送方向下流側にダクト60の導入口が設けられている構成でもよい。例えば、空気排出ダクト64の一端がヘッド1の搬送方向下流側に開口している構成であってもよい。用紙Pの搬送により生じる気流により吐出空間S1で発生するインクミストはヘッド1の搬送方向下流側に流されるので、ダクト60の導入口がヘッド1の搬送方向下流側に開口していることにより効果的にインクミストを吸引することができる。
【0092】
また、上述した実施形態においては、加湿機構80として、加湿ポンプ89及び水タンク85を含むものを例示したが、空気を加湿することができる限りは、その他様々な手段を用いてよい。例えば、加湿ポンプ89を省略し、水タンク85のみを用いて加湿を行ってもよい。また、ヒータ等の加熱手段をさらに用いたり、超音波式加湿手段を用いたり、空気流路内に、水を含ませたスポンジ等の多孔質部材や布を配置したりすることで、加湿を行ってもよい。
【0093】
さらに、突出部41aは、上述の実施形態のように移動可能であることに限定されない。例えば、突出部が移動不能にヘッドホルダに固定され、キャップ先端の吐出面に対する相対位置が一定であってもよい。この場合、ヘッドホルダ又は搬送ベルトの搬送面を昇降させることにより、キャップ先端を搬送面に当接させると共に、ヘッド1を昇降させる。例えば、突出部41aが当接位置にあるときには、吐出面1aと搬送面との間隔を広げるように、吐出面1aを突出部41aよりも搬送面から離す。逆に、突出部41aが離隔位置にあるときには、吐出面1aを突出部41aよりも搬送面から近づける。
【0094】
記録媒体としては、特に用紙Pに限定されず、記録可能な様々な媒体であってよい。また、ヘッド1は、複数設けられていてもよい。
【0095】
本発明は、ライン式・シリアル式のいずれにも適用可能であり、また、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機等にも適用可能である。また、液滴を吐出するため圧電方式のアクチュエータを用いているが、他の方式(例えば、抵抗加熱方式・静電方式等)であってもよい。
【符号の説明】
【0096】
1 インク吐出ヘッド
20 フィルタ
60 ダクト
61a 導入口
64a 排出口
91 ヒータ
95 ファン
S1 吐出空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に画像を形成するためのインクを吐出するインク吐出ヘッドと、
導入口、及び、排出口を有するダクトと、
前記インクが吐出される吐出空間の空気を、前記導入口から前記ダクト内に導入して、前記排出口に向けて送風する送風手段と、
前記ダクト内に設けられた、インク吸収体からなるフィルタと、
前記フィルタにおける前記送風方向上流部を加熱する加熱手段と
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、前記送風手段が前記送風を行っているときに、前記加熱を行うことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記フィルタ全体を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記加熱手段が、ヒータであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記インク吐出ヘッドにより吐出された前記インクが付着した記録媒体を加熱乾燥する乾燥手段を更に備えており
前記加熱手段は、前記乾燥手段の前記加熱乾燥による排熱によって、前記加熱を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記フィルタは、吸湿発熱素材を含んでおり、
前記加熱手段は、前記吐出空間の空気を加湿する加湿手段であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記フィルタは前記ダクトに対して着脱可能に設けられており、
前記加熱手段は、前記フィルタ取付け後における前記送風手段の稼働時間が所定時間に達したときに、前記加熱を行うことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記加熱手段は、前記インク吐出ヘッドから前記インクが吐出されていないときに、前記加熱を行うことを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記送風手段は、ファンと、前記ファンを回転させるモータとを有し、
前記加熱手段は、前記モータの電流値を検出する電流値検出部を有し、
前記加熱手段は、前記電流値が所定の範囲から外れたときに、前記加熱を行うことを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−250364(P2012−250364A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122348(P2011−122348)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】