説明

インクジェット記録装置

【課題】ラインヘッドを構成する記録ヘッドの個数が多くなっても記録ヘッドとワイパーとの位置関係を保持して確実にワイピング動作を行うことができ、構成も簡単なインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】複数のワイパー35a〜35cが固定された略矩形状のキャリッジ31と、キャリッジ31を支持する支持フレーム40とを昇降機構50により昇降させるとともに支持フレーム40に対しキャリッジ31を水平移動させることにより、ラインヘッド11C〜11Kを構成する計12個の記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fを一回の動作でワイピングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙等の記録媒体にインクを吐出することによって記録を行うインクジェット記録装置に関し、特に記録ヘッドのインク吐出面を清掃するワイピング機構の駆動に関するものである。
【0002】
ファクシミリ、複写機、プリンター等の記録装置は、紙、OHP用シート等の記録媒体に画像を記録するように構成されているが、記録を行う方式により、インクジェット式、ワイヤードット式、サーマル式等に分類することができる。また、インクジェット記録方式は、記録ヘッドが記録媒体上を走査しながら記録を行うシリアル型と、装置本体に固定された記録ヘッドにより記録を行うラインヘッド型に分類することができる。
【0003】
ラインヘッド型のインクジェット記録装置は、記録媒体の搬送方向に対し直交する印字領域幅全域に亘って吐出ノズルが所定の間隔で並んでいるラインヘッド型のインクジェットヘッド(記録ヘッド)を色毎に備えている。そして、記録媒体の搬送に合わせて印字位置に対応した吐出ノズルからインクを吐出することにより、記録媒体全体の印字を可能としたものである。
【0004】
このようなラインヘッド型のインクジェット記録装置では、一般に、記録ヘッドのインク吐出面に開口が設けられたインク吐出用ノズル内のインクの乾燥やノズルの目詰まりを防止するために、ノズルからインクを吐出した後、インク吐出面に付着したインクの拭き取りを行って記録ヘッドの回復処理を行う構成になっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、記録媒体の搬送方向に沿って配列された複数の記録ヘッド(液体吐出ヘッド)と、記録ヘッドの吐出面を払拭する複数のワイパーと、複数のワイパーを保持する保持部材と、保持部材を搬送方向と直交する方向に移動させる移動機構とを備えた液体吐出装置が開示されている。そして、保持部材を移動するときに隣接する記録ヘッドの隙間に入り込む嵌入部材を設けることにより、保持部材が記録ヘッドに対し傾いた方向に移動するのを防ぎ、ワイパーと吐出面との位置関係を保ちながら各色の記録ヘッドのワイピング動作を同時に行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−143071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、記録ヘッドの印字幅(印字可能領域)を広くしようとすると、各色に対応するラインヘッドを複数の記録ヘッドで構成する必要がある。例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色に対応する各ラインヘッドをそれぞれ3個の記録ヘッドで構成する場合、記録ヘッドの個数は4色×3個=12個となり、ワイパーの数も記録ヘッドの個数に合わせて12個が必要となる。
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、各色1個の記録ヘッドに1つのワイパーを押し当てる構成のため、各ラインヘッドをそれぞれ3個の記録ヘッドで構成する場合、ワイパーを保持する保持部材も3つ必要となる。そのため、3つの保持部材に保持されたワイパーと記録ヘッドとの位置関係を調整するための部材や機構が必要となり、部品点数が多くなるとともに構成も複雑となる。また、記録ヘッドに対し保持部材を昇降させる構成の場合、複数の保持部材を個別に昇降させるため、複数の昇降機構を各記録ヘッドの境界に配置する必要がある。そのため、昇降機構にインクが付着しやすく、動作不良を引き起こすおそれもあった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、ラインヘッドを構成する記録ヘッドの個数が多くなっても記録ヘッドとワイパーとの位置関係を保持して確実にワイピング動作を行うことができ、構成も簡単なインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、記録媒体を第1の方向に搬送する記録媒体搬送機構と、該記録媒体搬送機構により搬送される記録媒体上にインクを吐出する記録ヘッドが前記第1の方向と直交する第2の方向に複数個配置されたラインヘッドと、前記第1の方向に沿って一列以上配列された前記ラインヘッドを一体に保持するヘッドハウジングと、を有する記録部と、複数個の前記記録ヘッドに対応して配置され、各記録ヘッドのインク吐出面を拭き取る複数のワイパーと、該複数のワイパーが固定されるキャリッジと、該キャリッジを前記第2の方向に往復移動可能に支持する支持フレームと、前記キャリッジを前記支持フレームに沿って往復移動させる駆動機構と、前記支持フレームを前記キャリッジと共に前記インク吐出面に対し接近または離間する方向に昇降させる昇降機構と、を有し、複数の前記ワイパーを往復移動及び昇降させることにより、前記ワイパーによる前記インク吐出面の拭き取りを複数の前記記録ヘッドに対して行うメンテナンスユニットと、を備えたインクジェット記録装置である。
【0011】
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記キャリッジに、前記支持フレームが前記インク吐出面に接近したとき前記ヘッドハウジングに当接して前記ワイパーと前記インク吐出面との間隔を一定に保持する位置決め部材を設けたことを特徴としている。
【0012】
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記位置決め部材は、前記第2の方向に回転可能な従動回転体であることを特徴としている。
【0013】
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記昇降機構は、前記支持フレームの下端に当接しながら起立状態と水平状態とに回動するリフト部材と、該リフト部材が固定される回転可能なシャフトとで構成されており、前記リフト部材の回動端に回転可能に支持され、付勢部材によって前記シャフトから離間する方向に付勢される押し上げコロを設けたことを特徴としている。
【0014】
また本発明は、上記構成のインクジェット記録装置において、前記支持フレームの上面に、前記ワイパーにより拭き取られたインクを回収するインク回収トレイを設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の構成によれば、記録部に設けられた各ラインヘッドがそれぞれ複数個の記録ヘッドで構成されている場合に、各記録ヘッドに対応して配置された複数のワイパーによってインク吐出面の拭き取りを複数の記録ヘッドに対し一回の動作で行うことができる。従って、記録ヘッドのメンテナンス時間を短縮することができ、メンテナンス時の駆動制御も簡素化できる。また、複数のワイパーが固定されたキャリッジを往復移動及び昇降させることにより複数のワイパーを同時に移動させるので、駆動機構及び昇降機構の部品点数も削減できる。
【0016】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成のインクジェット記録装置において、キャリッジに、支持フレームがインク吐出面に接近したときヘッドハウジングに当接してワイパーとインク吐出面との間隔を一定に保持する位置決め部材を設けることにより、ワイピング動作時に複数のワイパーと各記録ヘッドのインク吐出面との接触状態を一定に、且つ確実に保持することができる。
【0017】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第2の構成のインクジェット記録装置において、位置決め部材として、第2の方向に回転可能な従動回転体を用いることにより、ワイピング動作時にキャリッジが水平移動する際のヘッドハウジングと位置決め部材との間の摩擦力を低減することができる。
【0018】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第2又は第3の構成のインクジェット記録装置において、昇降機構を、支持フレームの下端に当接しながら起立状態と水平状態とに回動するリフト部材と、リフト部材が固定される回転可能なシャフトとで構成することにより、昇降機構を簡単な構成とすることができる。また、リフト部材の回動端に回転可能に支持され、付勢部材によってシャフトから離間する方向に付勢される押し上げコロを設けることにより、昇降動作を円滑に行うことができる。また、支持フレームには押し上げコロを介して付勢部材による上方向の力が作用するため、キャリッジは位置決め部材がヘッドハウジングに押し当てられた状態を維持しながら水平移動する。従って、ワイパーと各記録ヘッドのインク吐出面との接触状態を常に一定に保持しながらワイピング動作を行うことができる。
【0019】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成のインクジェット記録装置において、支持フレームの上面に、ワイパーにより拭き取られたインクを回収するインク回収トレイを設けることにより、インク回収トレイが常にキャリッジの下方に位置することとなり、ワイパーにより拭き取られたインクを確実に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置100の概略構造を模式的に示す側面図
【図2】図1に示すインクジェット記録装置100の第1搬送ユニット5及び記録部9を上方からみた平面図
【図3】記録部9を斜め上方から見た斜視図
【図4】本発明のインクジェット記録装置100のインクタンク20から記録ヘッド17までのインク流路を模式的に示す図
【図5】メンテナンスユニット19に搭載されるワイピング機構30を斜め上方から見た斜視図
【図6】ワイピング機構30を構成するキャリッジ31を斜め上方から見た斜視図
【図7】ワイピング機構30を構成する支持フレーム40を斜め上方から見た斜視図
【図8】メンテナンスユニット19のユニット筐体45からワイピング機構30を取り外した状態を示す外観斜視図
【図9】ユニット筐体45に配置される昇降機構50の斜視図であり、リフト部材50aが水平状態にある状態を示す図
【図10】ユニット筐体45に配置される昇降機構50の斜視図であり、図9の状態からリフト部材50aが起立した状態を示す図
【図11】昇降機構50を構成するリフト部材50aの斜視図
【図12】メンテナンスユニット19を記録部9の下方に配置した状態を示す側面図
【図13】図12の状態におけるメンテナンスユニット19内のキャリッジ31、ワイパー35a〜35c、支持フレーム40、昇降機構50を示す側面図
【図14】図13の状態から昇降機構50により支持フレーム40及びキャリッジ31が上昇し、ワイパー35a〜35cがインク吐出面Fに圧接された状態を示す側面図
【図15】図14の状態からキャリッジ31が拭き取り方向(矢印A方向)に移動した状態を示す側面図
【図16】図15の状態から昇降機構50により支持フレーム40及びキャリッジ31が下降し、ワイパー35a〜35cがインク吐出面Fから離間した状態を示す側面図
【図17】図16の状態からキャリッジ31が拭き取り方向と反対方向(矢印A′方向)に移動した状態を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は本発明のインクジェット記録装置100の概略構成を模式的に示す側面図であり、図2は、図1に示すインクジェット記録装置100の第1搬送ユニット5及び記録部9を上方から見た平面図、図3は、記録部9を斜め上方から見た斜視図である。なお、図3は記録部9を図1の奥側(図2の上側)から見た状態を示しており、ラインヘッド11C〜11Kの並びは図1及び図2とは逆になっている。
【0022】
図1に示すように、インクジェット記録装置100の左側部には用紙Pを収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された用紙Pを、最上位の用紙Pから順に一枚ずつ後述する第1搬送ユニット5へと搬送給紙するための給紙ローラー3と、給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4とが設けられている。
【0023】
用紙搬送方向(矢印X方向)に対し給紙ローラー3及び従動ローラー4の下流側(図1の右側)には、第1搬送ユニット5及び記録部9が配置されている。第1搬送ユニット5は、用紙搬送方向に対し下流側に配置された第1駆動ローラー6と、上流側に配置された第1従動ローラー7と、第1駆動ローラー6及び第1従動ローラー7に掛け渡された第1搬送ベルト8とを含む構成であり、第1駆動ローラー6が時計回り方向に回転駆動されることにより、第1搬送ベルト8に保持された用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0024】
ここで、用紙搬送方向の下流側に第1駆動ローラー6を配置したことにより、第1搬送ベルト8の搬送面(図1の上側面)は第1駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、第1搬送ベルト8の搬送面のテンションを高めることができ、安定した用紙Pの搬送が可能となる。なお、第1搬送ベルト8には誘電体樹脂製のシートが用いられ、主として継ぎ目を有しない(シームレス)ベルトが用いられる。
【0025】
記録部9は、ヘッドハウジング10と、ヘッドハウジング10に保持されたラインヘッド11C、11M、11Y、及び11Kを備えている。これらのラインヘッド11C〜11Kは、第1搬送ベルト8の搬送面に対して所定の間隔(例えば1mm)が形成されるような高さに支持され、図2に示すように、用紙搬送方向と直交する用紙幅方向(図2の上下方向)に沿って複数(ここでは3個)の記録ヘッド17a〜17cが千鳥状に配列されている。ラインヘッド11C〜11Kは、搬送される用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、第1搬送ベルト8上を搬送される用紙Pに対して、印字位置に対応したインク吐出ノズル18からインクを吐出できるようになっている。また、各記録ヘッド17a〜17cは、それぞれに設けられたインク吐出ノズル18の一部が搬送方向に重複するように配置されている。
【0026】
各ラインヘッド11C〜11Kを構成する記録ヘッド17a〜17cには、それぞれインクタンク20(図4参照)に貯留されている4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)のインクがラインヘッド11C〜11Kの色毎に供給される。
【0027】
各記録ヘッド17a〜17cは、外部コンピューター等から受信した画像データに応じて、第1搬送ベルト8の搬送面に吸着保持されて搬送される用紙Pに向かってインク吐出ノズル18からインクを吐出する。これにより、第1搬送ベルト8上の用紙Pにはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクが重ね合わされたカラー画像が形成される。
【0028】
また、記録ヘッド17a〜17cの乾燥や目詰まりによるインクの吐出不良を防止するために、長期間停止後の印字開始時は全ての記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から、また印字動作の合間にはインク吐出量が規定値以下の記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から、ノズル内の粘度が高くなったインクを吐出するパージを実行して、次の印字動作に備える。
【0029】
なお、記録ヘッド17a〜17cからのインクの吐出方式としては、例えば、図示しないピエゾ素子を用いてインクを押し出すピエゾ方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式など、各種方式を適用することができる。
【0030】
用紙搬送方向に対し第1搬送ユニット5の下流側(図1の右側)には第2搬送ユニット12が配置されている。第2搬送ユニット12は、用紙搬送方向に対し下流側に配置された第2駆動ローラー13と、上流側に配置された第2従動ローラー14と、第2駆動ローラー13及び第2従動ローラー14に掛け渡された第2搬送ベルト15とを含む構成であり、第2駆動ローラー13が時計回り方向に回転駆動されることにより、第2搬送ベルト15に保持された用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0031】
記録部9にてインク画像が記録された用紙Pは第2搬送ユニット12へと送られ、第2搬送ユニット12を通過する間に用紙P表面に吐出されたインクが乾燥される。また、第2搬送ユニット12の下方にはメンテナンスユニット19が配置されている。メンテナンスユニット19は、上述したパージを実行する際に記録部9の下方に移動し、記録ヘッド17のインク吐出ノズル18から吐出されたインクを拭き取り、拭き取られたインクを回収する。なお、メンテナンスユニット19の詳細な構成については後述する。
【0032】
また、用紙搬送方向に対し第2搬送ユニット12の下流側には、画像が記録された用紙Pを装置本体外へと排出する排出ローラー対16が設けられており、排出ローラー対16の下流側には、装置本体外へと排出された用紙Pが積載される排出トレイ(図示せず)が設けられている。
【0033】
続いて、印字時におけるインクタンク20から記録ヘッド17a〜17cへのインクの供給、及びパージ時における記録ヘッド17a〜17cからのインクの吐出について説明する。図4は、本発明のインクジェット記録装置100のインクタンク20から記録ヘッド17a〜17cまでのインク流路を模式的に示す図である。なお、各色のインクタンク20と記録ヘッド17a〜17cとの間に、それぞれ図4に示すインク流路が設けられているが、ここでは任意の1色におけるインク流路について説明する。
【0034】
図4に示すように、インクタンク20と記録ヘッド17a〜17cとの間には、シリンジポンプ21が配置されている。インクタンク20とシリンジポンプ21とはチューブ部材から成る第1供給路23によって接続され、シリンジポンプ21と記録ヘッド17a〜17c内のインク吐出ノズル18とはチューブ部材から成る第2供給路25によって連結されている。
【0035】
第1供給路23には流入側弁27が設けられており、第2供給路25には流出側弁29が設けられている。流入側弁27を開閉することにより第1供給路23内のインクの移動が許容または規制され、流出側弁29を開閉することにより第2供給路25内のインクの移動が許容または規制される。
【0036】
シリンジポンプ21は、シリンダー21aとピストン21bとを備えている。シリンダー21aは、第1供給路23及び第2供給路25と接続されており、第1供給路23を通じてインクタンク20内のインク22がシリンダー21aに流入するようになっている。また、シリンダー21aから第2供給路25を通じてインクが排出され、排出されたインクは記録ヘッド17a〜17cに供給され、インク吐出ノズル18からインク吐出面Fのノズル領域Rに吐出されるようになっている。
【0037】
ピストン21bは、駆動装置(図示せず)によって上下に移動可能となっている。ピストン21bの外周には、Oリング等のパッキン(不図示)が装着されており、シリンダー21aからのインクの漏れを防ぐと共に、ピストン21bがシリンダー21aの内周面に沿って滑らかに摺動できるようになっている。
【0038】
通常時(印字時)は、図4に示すように、流入側弁27及び流出側弁29は共に開放状態であり、ピストン21bを予め設定された位置で停止させておくことにより、シリンダー21a内には略一定量のインクが充填されている。そして、シリンダー21aと記録ヘッド17a〜17cとの間の表面張力(メニスカス)によって、インク22がシリンダー21aから記録ヘッド17a〜17cへと供給される。
【0039】
図5は、メンテナンスユニット19に搭載されるワイピング機構30の外観斜視図である。ワイピング機構30は、複数のワイパー35a〜35c(図6参照)が固定された略矩形状のキャリッジ31と、キャリッジ31を支持する支持フレーム40とで構成されている。支持フレーム40の上面の対向する端縁にはレール部41a、41bが形成されており、キャリッジ31の四隅に設けられた摺動コロ36がレール部41a、41bに当接することで、キャリッジ31は支持フレーム40に対し矢印AA′方向に摺動可能に支持される。
【0040】
図6は、ワイピング機構30を構成するキャリッジ31の外観斜視図であり、図7は、ワイピング機構30を構成する支持フレーム40の外観斜視図である。図6に示すように、キャリッジ31は、支持フレーム40のレール部41a、41bに摺動可能に係合する第1ステー32a、32bと、第1ステー32a、32bの間に橋渡し状に固定された第2ステー33a、33b、33cとで枠体状に形成されている。
【0041】
第1ステー32aには、支持フレーム40に保持された入力ギア43(図5参照)に噛み合うラック歯38が形成されている。入力ギア43が正逆方向に回転すると、キャリッジ31は支持フレーム40に沿って水平方向(図5の矢印AA′方向)に往復移動する。
【0042】
ワイパー35a〜35cは、各記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から吐出されたインクを拭き取るための部材である。ワイパー35a〜35cは、インク吐出ノズル18のノズル面が露出するノズル領域R(図4参照)の外側の拭き取り開始位置に略垂直方向から圧接され、キャリッジ31の移動によりノズル領域Rを含むインク吐出面Fを所定方向(図5の矢印A方向)に拭き取る。
【0043】
第2ステー33aには4枚のワイパー35aが略等間隔で固定されており、同様に、第2ステー33bには4枚のワイパー35bが、第2ステー33cには4枚のワイパー35cが略等間隔で固定されている。ワイパー35a、35cは、それぞれ各ラインヘッド11C〜11Kを構成する左右の記録ヘッド17a、17c(図3参照)に対応する位置に配置されている。また、ワイパー35bは、各ラインヘッド11C〜11Kを構成する中央の記録ヘッド17b(図3参照)に対応する位置に配置されており、ワイパー35a、35cに対しキャリッジ31の移動方向(図5の矢印AA′方向)と直交する方向に所定距離だけずらして固定されている。
【0044】
第2ステー33a、33cの上面の4箇所にはギャップコロ37が設けられている。ギャップコロ37は、ワイパー35a〜35cによる記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの拭き取り動作を行うためにワイピング機構30を記録部9側に上昇させたとき、記録部9のヘッドハウジング10に当接することでワイパー35a〜35cとインク吐出面Fとの接触状態を一定に保持する。
【0045】
図7に示すように、支持フレーム40の上面には、ワイパー35a〜35cによってインク吐出面Fから拭き取られた廃インクを回収するためのインク回収トレイ44が配置されている。インク回収トレイ44の略中央部には、第2ステー33a〜33cの延在方向に沿って溝部44aが形成されており、溝部44aを挟んで両側のトレイ面44b、44cは、溝部44aに向かって下り勾配となっている。溝部44a内にはインク排出孔44dが設けられており、溝部44aの底面はインク排出孔44dに向かって下り勾配となっている。
【0046】
ワイパー35a〜35cによってインク吐出面Fから拭き取られ、トレイ面44b、44cに落下した廃インクは溝部44aに集められ、さらに溝部44a内をインク排出孔44dに向かって流れる。その後、インク排出孔44dに連結されたインク回収路(図示せず)を通って廃インク回収タンク(図示せず)に回収される。
【0047】
次に、ワイピング機構30の昇降機構50について説明する。図8は、メンテナンスユニット19のユニット筐体45からワイピング機構30を取り外した状態を示す外観斜視図であり、図9及び図10は、ユニット筐体45に配置される昇降機構50の斜視図である。ユニット筐体45の底面45aには、2個のリフト部材50aがシャフト50bの両端に固定された昇降機構50が、キャリッジ31の移動方向(図5の矢印AA′方向)に対向する側面45b、45cに沿って一対配置されている。即ち、昇降機構50は、記録部9のヘッドハウジング10の幅方向両端(図2の上下両端部)に対向する位置に配置される。なお、図8では側面45c側の昇降機構50の記載を省略している。また、ユニット筐体45の側面45b、45cに隣接する側面45dには、モーター47と、モーター47の回転駆動力をシャフト50に伝達する駆動伝達軸48とが付設されている。
【0048】
図11は、昇降機構50を構成するリフト部材50aの斜視図である。リフト部材50aの下端部はシャフト50bに固定されており、リフト部材50aの上端部には押し上げコロ53が回転自在に付設されている。押し上げコロ53は支持フレーム40の下端部に形成された係合部41c(図5参照)に係合しており、係合部41cに沿って回転移動可能となっている。従って、昇降機構50を作動させる際の支持フレーム40とリフト部材50aとの摩擦が押し上げコロ53の回転により低減されるため、円滑な昇降動作が可能となる。また、押し上げコロ53は、コイルバネ55によってシャフト50bから離間する方向(図11では上方向)に付勢されている。
【0049】
図9の状態から、右側の昇降機構50のシャフト50bを時計回り方向に、左側の昇降機構50のシャフト50bを反時計回り方向に回転すると、ユニット筐体45の内側に倒れ込んだリフト部材50aが外側方向(矢印B方向)に立ち上がり、押し上げコロ53が係合部41cの外側端部まで移動する。これにより、リフト部材50aは水平状態から起立状態(図10の状態)に切り替えられ、支持フレーム40と共にキャリッジ31を上昇させる。
【0050】
一方、図10の状態から、右側の昇降機構50のシャフト50bを反時計回り方向に、左側の昇降機構50のシャフト50bを時計回り方向に回転すると、リフト部材50aがユニット筐体45の内側方向(矢印B′方向)に倒れ込み、押し上げコロ53が係合部41cの内側端部まで移動する。これにより、リフト部材50aは起立状態から水平状態(図9の状態)に切り替えられ、支持フレーム40と共にキャリッジ31を下降させる。
【0051】
次に、本発明のインクジェット記録装置100における記録ヘッド17a〜17cの回復動作について説明する。図12は、メンテナンスユニット19を記録部9の下方に配置した状態を示す側面図、図13〜図17は、記録ヘッド17a〜17cのワイピング動作中におけるメンテナンスユニット19の動作を示す側面図である。なお、図13〜図17では、支持フレーム40は簡略化して板状に記載しており、ユニット筐体45は底面45aのみを記載している。また、図13〜図17は、記録部9及びメンテナンスユニット19を用紙搬送方向下流側(図12の左側)から見た状態を示している。
【0052】
記録ヘッド17a〜17cの回復動作を行う場合、先ず、図12に示すように、記録部9の下方に位置する第1搬送ユニット5を下降させる。そして、第2搬送ユニット12の下方に配置されたメンテナンスユニット19を水平移動させて記録部9と第1搬送ユニット5との間に配置する。この状態では、図13に示すように、昇降機構50のリフト部材50aは水平状態にあり、キャリッジ31に固定されたワイパー35a〜35cは記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fから離間している。
【0053】
そして、ワイピング動作に先立って、記録ヘッド17a〜17cにより印字が行われていない状態において、流入側弁27(図4参照)を閉じ、シリンジポンプ21(図4参照)を加圧することにより、シリンダー21a内のインク22が第2供給路25を通って記録ヘッド17a〜17cに供給される。供給されたインク22はインク吐出ノズル18から強制的に吐出(パージ)される。このパージ動作により、インク吐出ノズル18内の増粘インク、異物や気泡が排出され、記録ヘッド17a〜17cを回復することができる。
【0054】
次いで、インク吐出面Fに吐出されたインク22を拭き取るワイピング動作を行う。具体的には、図14に示すように、昇降機構50のシャフト50bを回転させてリフト部材50aを矢印B方向に起立させることにより、支持フレーム40及びキャリッジ31を持ち上げる。これにより、図14に示すように、ワイパー35a〜35cを、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの拭き取り開始位置(インク吐出面Fの左端)に、インク吐出面Fに対し略垂直方向からそれぞれ圧接させる。このとき、リフト部材50aのコイルバネ55(図11参照)の付勢力によってキャリッジ31に設けられたギャップコロ37がヘッドハウジング10の下面に押し当てられるため、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fに対し常に一定の圧力で圧接させることができる。
【0055】
そして、入力ギア43(図5参照)を正回転させて、図15に示すように、キャリッジ31を矢印A方向に移動させることにより、ワイパー35a〜35cが記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fに吐出されたインクを拭き取っていく。このとき、支持フレーム40には昇降機構50によって上方向の力が作用しているため、キャリッジ31はギャップコロ37がヘッドハウジング10に押し当てられた状態を維持しながら矢印A方向に移動する。ワイパー35a〜35cにより拭き取られた廃インクはインク回収トレイ44(図7参照)に回収される。
【0056】
ワイパー35a〜35cが、それぞれ記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの下流側端部(図15の右端)まで移動した後、図16に示すように、昇降機構50のシャフト50bを回転させてリフト部材50aを矢印B′方向に倒れ込ませることにより、支持フレーム40及びキャリッジ31を下降させる。これにより、ワイパー35a〜35cを、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fから下方に退避させる。その後、入力ギア43を逆回転させて、図17に示すように、キャリッジ31を矢印A′方向に移動し、再びメンテナンスユニット19を図13の状態に戻す。
【0057】
つまり、本実施形態の構成では、キャリッジ31の移動方向(矢印AA′方向)に沿って3枚のワイパー35a〜35cが固定されており、キャリッジ31の往復移動、及び昇降機構50による昇降動作によって、各ラインヘッド11C〜11Kを構成する3個の記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fを一回の動作でワイピング可能となっている。
【0058】
また、図6に示したように、各ワイパー35a〜35cは、ラインヘッド11C〜11Kを構成する記録ヘッド17a〜17cのうち、用紙搬送方向下流側から見て左側の4個の記録ヘッド17a、中央の4個の記録ヘッド17b、右側の4個の記録ヘッド17cに対応して、第2ステー31a〜31cにそれぞれ4枚ずつ固定されている。そのため、上述したワイパー35a〜35cによるワイピング動作を、ラインヘッド11C〜11Kを構成する計12個の記録ヘッド17a〜17cについて一回の動作で行うことができる。これにより、記録ヘッド17a〜17cのメンテナンス時間を短縮することができ、メンテナンス時の駆動制御も簡素化できる。
【0059】
また、キャリッジ31に設けられたギャップコロ37をヘッドハウジング10に押し当てることで、ワイパー35a〜35cと記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fとの接触状態が一定に保持される。従って、ワイパー35a〜35cの接触不良によるインクの拭き取りムラや、過度に圧接されることによるワイパー35a〜35cの変形や破損等を抑制することができる。さらに、ワイパー35a〜35cの高さ方向の位置を個別に決定する必要がないため、部品点数も削減することができる。
【0060】
さらに、支持フレーム40の上面にインク回収トレイ44を配置することで、インク回収トレイ44が常にキャリッジ31の下方に位置することとなり、ワイパー35a〜35cにより拭き取られた廃インクがインク回収トレイ44に確実に回収される。その結果、廃インクが飛散してユニット筐体45内が汚染されるのを抑制することができる。
【0061】
その他、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、ラック歯38と入力ギア43で構成されるキャリッジ31の駆動機構、或いはリフト部材50aとシャフト50bで構成される昇降機構50についても、従来公知の他の駆動機構を用いることができる。
【0062】
また、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18の個数やノズル間隔等はインクジェット記録装置100の仕様に応じて適宜設定することができる。また、記録ヘッドの数も特に限定されるものではなく、例えば各ラインヘッド11C〜11Kにつき記録ヘッド17を2個、或いは4個以上配置することもできる。
【0063】
また、本発明は、ラインヘッド11C〜11Kのうちいずれか1つのみを備えた単色印刷用のインクジェット記録装置にも適用できる。その場合、記録ヘッド17a〜17cは1つずつ設けられるため、記録ヘッド17a〜17cに対応するワイパー35a〜35cもキャリッジ31に1枚ずつ固定すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出することによって記録を行うインクジェット記録装置に利用可能である。本発明の利用により、記録媒体搬送方向と直交する方向に複数の記録ヘッドが配置されたラインヘッドを有するインクジェット記録装置において、各記録ヘッドのインク吐出面のワイピング動作を一回の動作で行うことができメンテナンス時間を短縮できる。また、各記録ヘッドのインク吐出面とそれに対応する各ワイパーとの位置関係も保持されるため、ワイピング動作を確実に行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
5 第1搬送ユニット(記録媒体搬送機構)
9 記録部
10 ヘッドハウジング
11C〜11K ラインヘッド
12 第2搬送ユニット(記録媒体搬送機構)
17a〜17c 記録ヘッド
18 インク吐出ノズル
19 メンテナンスユニット
20 インクタンク
21 シリンジポンプ
22 インク
30 ワイピング機構
31 キャリッジ
35a〜35c ワイパー
36 摺動コロ
37 ギャップコロ(位置決め部材)
38 ラック歯(駆動機構)
40 支持フレーム
43 入力ギア(駆動機構)
44 インク回収トレイ
50 昇降機構
50a リフト部材
50b シャフト
53 押し上げコロ
55 コイルバネ(付勢部材)
100 インクジェット記録装置
F インク吐出面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を第1の方向に搬送する記録媒体搬送機構と、
該記録媒体搬送機構により搬送される記録媒体上にインクを吐出する記録ヘッドが前記第1の方向と直交する第2の方向に複数個配置されたラインヘッドと、前記第1の方向に沿って一列以上配列された前記ラインヘッドを一体に保持するヘッドハウジングと、を有する記録部と、
複数個の前記記録ヘッドに対応して配置され、各記録ヘッドのインク吐出面を拭き取る複数のワイパーと、該複数のワイパーが固定されるキャリッジと、該キャリッジを前記第2の方向に往復移動可能に支持する支持フレームと、前記キャリッジを前記支持フレームに沿って往復移動させる駆動機構と、前記支持フレームを前記キャリッジと共に前記インク吐出面に対し接近または離間する方向に昇降させる昇降機構と、を有し、複数の前記ワイパーを往復移動及び昇降させることにより、前記ワイパーによる前記インク吐出面の拭き取りを複数の前記記録ヘッドに対して行うメンテナンスユニットと、
を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記キャリッジに、前記支持フレームが前記インク吐出面に接近したとき前記ヘッドハウジングに当接して前記ワイパーと前記インク吐出面との間隔を一定に保持する位置決め部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記位置決め部材は、前記第2の方向に回転可能な従動回転体であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記昇降機構は、前記支持フレームの下端に当接しながら起立状態と水平状態とに回動するリフト部材と、該リフト部材が固定される回転可能なシャフトとで構成されており、前記リフト部材の回動端に回転可能に支持され、付勢部材によって前記シャフトから離間する方向に付勢される押し上げコロを設けたことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記支持フレームの上面に、前記ワイパーにより拭き取られたインクを回収するインク回収トレイを設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−91276(P2013−91276A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235593(P2011−235593)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】