説明

インクセット、及び画像形成方法

【課題】ブロンズ現象の発生を抑制し、中間濃度領域から高濃度領域にかけての写像性が均一で、低濃度領域から中間濃度領域にかけての光沢度が均一である記録画像を得ることができるインクセット、及び画像形成方法を提供すること。
【解決手段】顔料及び樹脂を含有し、顔料の含有量が互いに異なる、少なくとも3種の同一色相のインクの組み合わせを有するインクセットであって、各インク中の顔料の含有量/樹脂の含有量の比の値Rを、各インクにおける顔料の含有量が多くなっていく順で、第1のインクにおける比をR1、第2のインクにおける比をR2、第3のインクにおける比をR3としたときに、これらの値がR2<R1及びR3の関係を満足することを特徴とするインクセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクセットと、該インクセットを用いた画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録画像の、より一層の改善された堅牢性(耐光性、耐ガス性など)に対する要求の高まりに対応すべく、顔料を色材として含むインクジェット用インクの検討が精力的に行われるようになってきた。顔料を色材として含むインクは、顔料粒子をインク中で分散させているものである。このような顔料インクが紙などの記録媒体に付与されると、インク中の水や水溶性有機溶剤が蒸発や浸透する過程で、顔料が記録媒体表面で凝集し、記録媒体表面の平滑性が失われる。そして、これによって反射光が散乱するようになり、結果として画像の写像性が低下してしまうという問題があった。なお、「写像性」とは、記録媒体に形成した画像に像を映したときの、像の鮮鋭度を示すものであり、鏡に映した像が鮮鋭であるように、インクにより形成した画像に映した像も鮮鋭であることが好ましい。この写像性が低い場合は像がぼやけて見え、写像性が高い場合は像がくっきり見える。写像性の評価はヘイズ値により行うことができ、ヘイズ値が高いことは写像性が低いことを、また、ヘイズ値が低いことは写像性が高いことを意味する。
【0003】
また、顔料には、表面で光が反射すると本来の反射光とは異なる色相の光が反射されるという特徴を持つものもある。そして、この性質によって、顔料を色材として用いたインクの画像では、得られた画像が、用いた顔料の色とは異なる色の光沢が観察される現象、いわゆる、ブロンズ現象が発生してしまうという問題があった。
【0004】
このような問題に対し、特許文献1では、顔料含有量が異なる2種の同一色相のインクにおける顔料粒径を制御することで、記録媒体の表面上に存在する顔料のかさ高さや凝集状態を揃え、これにより光沢ムラを低減させたインクセットが開示されている。具体的には、画像の低濃度領域では大粒径の顔料を含むインクで記録を行い、高濃度領域では小粒径の顔料を含むインクで記録を行っている。また、特許文献2では、顔料粒子よりも高い屈折率を持つ二酸化チタンを、二酸化チタンと顔料の質量比が0.6以上になるように含有させ、顔料表面での光の反射を抑えることにより、ブロンズ現象を抑制したインクが開示されている。また、特許文献3では、水不溶性樹脂によって被覆されている色材と、水不溶性樹脂と構成成分が同一の樹脂エマルションを含有させ、顔料表面での光の反射を抑えることによりブロンズ現象を抑制したインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−149758号公報
【特許文献2】特開2005−179482号公報
【特許文献3】特開2006−273892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術によって得られる画像は、光沢均一性は良化するものの、耐ブロンズ性は不十分であった。また、特許文献2に記載の技術によって得られる画像は、耐ブロンズ性は良好だが、顔料の含有量が増えるのに伴い二酸化チタンの含有量も増えるため、高濃度のインクではインク中の総固形分濃度が高くなり、写像性が低下してしまうという問題があった。また、比重の高い二酸化チタンが沈降しやすく、信頼性が十分に満足できないという問題もあった。また、特許文献3に記載の技術によって得られる画像は、耐ブロンズ性は良好だが、中間濃度領域から高濃度領域までの写像性が均一でなく、さらに、低濃度領域から中間濃度領域までの光沢度が均一でないという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ブロンズ現象が抑制され、中間濃度領域から高濃度領域にかけての写像性が均一で、低濃度領域から中間濃度領域にかけての光沢度が均一である記録画像を得ることができるインクセット、及び画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料及び樹脂を含有し、顔料の含有量が互いに異なる、少なくとも3種の同一色相のインクの組み合わせを有するインクセットであって、各インク中の顔料の含有量/樹脂の含有量の比の値Rを、各インクにおける顔料の含有量が多くなっていく順で、第1のインクにおける比をR1、第2のインクにおける比をR2、第3のインクにおける比をR3としたときに、これらの値がR2<R1及びR3の関係を満足することを特徴とするインクセットを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ブロンズ現象の発生が抑制され、中間濃度領域から高濃度領域にかけての写像性が均一で、低濃度領域から中間濃度領域にかけての光沢度が均一である記録画像を得ることができるインクセット、及び画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、本発明に至った経緯について説明する。顔料インクによって形成した画像の耐ブロンズ性を向上させるためには、特許文献3にもあるように、樹脂をインク中に存在させ、画像の顔料の周りに樹脂を存在させることで、顔料表面での光の反射を起こりにくくするという方法が知られている。すなわち、顔料の含有量が同じインクで比較した場合、インク中の顔料の含有量/樹脂の含有量の比(以後、PB比と表記する)の値Rが低いほどブロンズ現象の発生は抑制される。そこで、PB比の低いインクで記録を行ったところ、ブロンズ現象の発生は抑制されたが、一方で、総固形分濃度が高いために画像表面での平滑性が失われ、特に高濃度領域部での写像性が劣るものとなった。つまり、ブロンズ現象の抑制と写像性は両立しない関係にあることが分かった。そこで、本発明者らは、顔料の含有量とPB比が異なる、2種類のインクを組み合わせて記録を行うことを考えた。
【0011】
顔料の含有量が相対的に高いインク(以下、濃インクと記載することがある)は、写像性を良化させるために、樹脂の含有量が低い構成のインクとした。一方、顔料の含有量が相対的に低いインク(以下、淡インクと記載することがある)は、総固形分濃度が比較的低くいので、ブロンズ現象を抑制するために樹脂の含有量が多い構成のインクとした。これらの濃インク及び淡インクの2色セットでの記録を行ったところ、淡インクを主に使用する低濃度領域でのブロンズ現象は抑制され、濃インクを主に使用する高濃度領域での写像性は良化した。しかし、上記構成の濃インクは、樹脂の含有量が少なく、ブロンズ現象の発生を抑制し難いため、濃インクを使用する中間から高濃度領域のブロンズ現象の発生を抑制しきれなかった。また、濃インクと淡インクの他のPB比の組み合わせにおいても、広い濃度領域でブロンズ現象を抑制させることのできる組み合わせはなかった。
【0012】
そこで、本発明者らが鋭意検討を行った結果、新たに、顔料の含有量が淡インクと濃インクの間である下記のインク(以下、中インクと記載することがある)を用い、これらをセットとして画像形成することで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、新たに使用する中インクのPB比を、淡・濃インクよりも低く設計し、各インク間におけるPB比の関係を、濃インク及び淡インクよりも中インクが低くなるようにしたインクセットで記録するという方法で、課題を解決することができる。より具体的には、濃・中・淡の3種の各インクのPB比を、それぞれR1(淡インク)、R2(中インク)、R3(濃インク)としたときに、R2<R1及びR3の関係を満足するようにインクセットを構成する。そして、このインクセットで記録することにより、広い濃度領域においてブロンズ現象が抑制され、中間濃度領域から高濃度領域にかけての写像性が均一で、低濃度領域から中間濃度領域にかけての光沢度が均一である画像を得られる。その理由を以下に説明する。なお、以下、各インクにおける顔料の含有量が多くなっていく順で、淡インクを第1のインク、中インクを第2のインク、濃インクを第3のインクと記載する場合がある。
【0013】
ブロンズ現象は、PB比が最も低い中インクを、比較的低濃度領域から比較的高濃度領域までの範囲で使用することで、広い範囲で抑制される。また、この中インクは、低濃度領域まで使用できるので、淡インクの使用範囲はごく低濃度領域に限って使用すればよい。その領域では、ブロンズ現象は殆ど目立たないため、淡インクのPB比が中インクよりも高くても、ブロンズ現象は問題ない。また、濃インクの使用範囲も高濃度領域に限られるため、濃インクにより生じるブロンズ現象は実際の画像には殆ど影響がない。さらに、濃インクのPB比が中インクよりも高いことで、濃インクと中インクで記録した部分の写像性が近づき、中間から高濃度領域にかけての写像性が均一化する。また、淡インク中の樹脂が少ないことから、ごく低濃度領域において、光沢度の立ち上がりが高くなり、低濃度領域から高濃度領域における光沢度が均一化することが分かった。以上のように、本発明によって、ブロンズ現象の抑制と写像性とが両立した、これまで得ることのできなかった画像を得ることができる。
【0014】
また、濃インクにおけるPB比R3と中インクにおけるPB比R2の差が、1より大きく2未満である、すなわち、1<(R3−R2)<2の関係を満足することが好ましい。1以下であると、特に高濃度領域から中間濃度領域までの写像性が均一化しにくくなり、2以上であると、高濃度領域のブロンズ現象を抑制しにくくなる。
【0015】
また、淡インクにおけるPB比R1と中インクにおけるPB比R2の差が、1より大きく2未満である、すなわち、1<(R1−R2)<2の関係を満足することが好ましい。1以下であると、特に中間濃度領域から低濃度領域までの光沢度が均一化しにくくなり、2以上であると、低濃度領域の写像性が良化しすぎてしまい、特に低濃度領域から中間濃度領域までの写像性が均一化しにくくなる。
【0016】
なお、本発明における「色相」とは、マゼンタ、イエロー、シアン、赤、緑、青などの色を区別するものであり、便宜上、ブラックも含むものとする。また、「同一色相」とは、例えば、ブラックであれば濃さは異なっていてもブラックに分類できるものを指すものとする。また、インクセットを構成するインクが4種類以上ある場合には、顔料の含有量が最も小さいインクを第1のインク(淡インク)、顔料の含有量が最も大きいインクを第3のインク(濃インク)とし、それ以外のインクを第2のインク(中インク)とする。
【0017】
<インク>
(顔料)
インクに用いる色材は、カーボンブラックなどの無機顔料や有機顔料が挙げられる。
【0018】
〔無機顔料〕
ブラックの顔料インクに用いる顔料としては、インクジェット記録などに従来より用いられているカーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどが使用できるが、マグネタイトやフェライトなどの磁性体微粒子やチタンブラックなども用いることができる。
【0019】
〔有機顔料〕
また、カラーの顔料インクに用いる有機顔料としては、インクジェット記録などに従来より用いられているものをいずれも使用できる。具体的には、以下に挙げるようなものを用いることができる。水不溶性アゾ顔料、水溶性アゾ顔料、建染染料からの誘導体、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、イソインドリノン系顔料、イミダゾロン系顔料、ピランスロン系顔料など。インジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料など。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなどが挙げられる。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明で用いられる顔料の含有量は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。顔料の含有量が、0.1質量%以上であれば、好ましい画像濃度が得られ、50.0質量%以下であれば、好ましい分散が得られる。さらに好ましい範囲は0.3質量%以上30.0質量%以下である。また、本発明では染料を併用してもよい。
【0021】
さらに、本発明で用いられる、濃インクの顔料の含有量と、中インクの顔料の含有量の比が、2以上であり、かつ中インクの顔料の含有量と、淡インクの顔料含有量の比が、3以上であることが好ましい。濃インクの顔料含有量と、中インクの顔料含有量の比が、2未満であると高濃度領域における画像濃度が十分に得られなくなる場合があり、中インクの顔料含有量と、淡インクの顔料含有量の比が3未満であると粒状性が目立つようになる場合がある。
【0022】
(分散剤)
また、本発明で使用する顔料インクは、上記したような顔料を下記に挙げる分散剤によって分散してなるものを用いることができる。分散剤としては、水溶性樹脂ならどのようなものでもよいが、重量平均分子量が1,000以上30,000以下の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは、3,000以上15,000以下の範囲のものを使用する。
【0023】
このような分散剤としては、具体的には、以下のものが挙げられる。例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど。アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体など。上記のものから選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性の重合性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、これらの塩などが挙げられる。又は、ロジン、シェラック、デンプンなどの天然樹脂も好ましく使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。なお、これらの顔料分散剤として用いられる水溶性樹脂は、インク全質量を基準として0.1質量%以上10.0質量%以下の範囲で含有させるのが好ましい。
【0024】
(水性媒体)
本発明のインクは、水、又は水と各種水溶性有機溶剤との混合溶媒である水性媒体を使用することができる。
【0025】
水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、いずれのものも用いることができる。例えば、炭素数1乃至4のアルキルアルコール、カルボン酸アミド、ケトン又はケトアルコール、環状エーテル、多価アルコール類、多価アルコールのアルキルエーテル類、複素環類、含硫黄化合物などを用いることができる。上記水溶性有機溶剤は、単独で用いても、又は混合物として用いてもよい。
【0026】
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、インク全質量を基準として、5.0質量%以上90.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以上50.0質量%以下である。含有量がこの範囲より少ない場合は、インクジェット用として用いた場合に吐出性などの信頼性悪化の可能性があり、含有量がこの範囲より多い場合は、粘度の上昇によるインク供給不良の可能性があるためである。
【0027】
また、水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水の含有量は、インク全質量を基準として10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
【0028】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。特に、界面活性剤は、記録媒体にインクを構成する水性媒体を記録媒体に速やかに浸透させるためには適量をインクに含有させることが好ましい。インク中の界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上10.0質量%以下、さらには0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。また、分散樹脂以外の樹脂を含有させてもよい。例えばコアシェル構造を持つ樹脂などのエマルションは、鎖状の樹脂と比較して粒径が大きいため、記録媒体表面上に残りやすく、画像表面において顔料の凹凸を平らにできることから、写像性を向上させ、ブロンズ現象を抑制するのに好ましい。
【0029】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、上記で説明した本発明のインクセットを構成する各インクを用いて、記録媒体に画像を形成する方法である。本発明の画像形成方法は、インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に画像を記録する、一般的なインクジェット記録方法により実施することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、顔料分散液の調製及びインク組成の記載において、「部」及び「%」とあるのは、特に指定のない限り、「質量基準」である。また、「残量」とは、全体を100部又は100%とし、各成分を差し引いた残りをいう。
【0031】
<顔料分散液の調製>
下記表1に示す各成分(単位:%)を混合し、バッチ式縦型サンドミルで3時間分散した。表1中の顔料には、クラリアント製のC.I.ピグメントブルー15:3及びC.I.ピグメントレッド122、三菱化学製のカーボンブラックを使用した。また、分散樹脂としては、スチレン/ベンジルメタクリレート/アクリル酸の共重合比(質量比)が16/65/19である共重合体を、10%の水酸化カリウム水溶液で中和して得られたものを使用した。なお、この共重合体の重量平均分子量は12,000、酸価は150mgKOH/gであった。その後、ポアサイズ2.5μmのフィルタ(製品名:HDCII;日本ポール製)にて加圧ろ過を行った後、濃度を調整し、顔料の含有量が15.0%、樹脂の含有量が25.0%である顔料分散液1を調製した。上記と同様にして、表1に示す顔料分散液2〜11を調製した。なお、表1中の「Rの値」は、顔料分散液中における顔料の含有量/樹脂の含有量の比(PB比)を表わす。
【0032】

【0033】
<インクの調製>
(インク1〜22)
下記表2に示した各成分(単位:%)をそれぞれ混合して、十分撹拌した。その後、ポアサイズ1.2μmのフィルター(製品名:HDCII;日本ポール製)にて加圧ろ過を行い、インク1〜22を調製した。なお、アセチレノールE100は、川研ファインケミカル製の界面活性剤である。また、NIKKOL−BC20は、日光ケミカルズ製のポリオキシエチレンアルキルエーテル系の界面活性剤である。プロキセルGXL(S)は、アーチケミカルズ製の防腐剤である。また、表2中の「Rの値」は、各インク中における顔料の含有量/樹脂の含有量の比(PB比)を表わす。
【0034】

【0035】

【0036】
(インク23)
インク23は、前記した特許文献1に記載の方法を参考に製造した。反応容器内に、メチルエチルケトン20部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03部、下記に示すモノマー混合物の200部のうちその10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。一方、滴下ロートに、下記に示すモノマー混合物の残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン60部及びラジカル重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合した。十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。そして、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を撹拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、さらに65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、樹脂溶液Aを得た。
【0037】
モノマー混合物(固形分の重量%)
・メタクリル酸:16
・スチレンマクロマー:10
・ベンジルメタクリレート:44
・スチレンモノマー:10
・ポリプロピレングリコールモノメタクリレート:10
・43PAPE−600B:10
【0038】
なお、上記の化合物の詳細は、以下のとおりである。
・スチレンマクロマー:東亜合成株式会社製、商品名:AS−6(S)(50%トルエン溶液)数平均分子量:6,000、重合性官能基:メタクリロイルオキシ基
・ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキシド平均付加モル数=12、末端:ヒドロキシ基):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマーPP−800
・43PAPE−600B(フェノキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート、エチレンオキシド平均付加モル数=6、プロピレンオキシド平均付加モル数=6、末端:フェニル基):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマー43PAPE−600B
【0039】
上記で得られた樹脂溶液Aを、減圧乾燥させて得られた樹脂5.8部を、メチルエチルケトン54.8部に溶かし、その中に中和剤(5N水酸化ナトリウム水溶液)2.0部(中和度80%)及びイオン交換水152部加えて塩生成基を中和した。これに、さらに銅フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:4、東洋インキ製造製、商品名:LIONOGEN BLUE LX−4033)17.3部を加えた。その後、サンドミル(アイメックス製、商品名:6筒式サンドグラインダー、型番:TSG−6U)を用いて20℃で2時間混合、分散した。なお、分散メディアとして、ジルコニアビーズ(ビーズ平均粒径:0.05mm)を用い、20℃における分散メディア/分散液の体積比が、65/35となるように混合し、回転数2,000rpmにて分散した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics製)で150MPaの圧力で、5パス分散処理した。
【0040】
得られた分散液に、イオン交換水150部を加え、撹拌した後、減圧下で、60℃にてメチルエチルケトンを除去した。さらに、一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ製)で濾過し、粗大粒子を除去した。これにより、固形分濃度が18%の顔料含有樹脂粒子の水分散体を得た。
【0041】
得られた顔料含有樹脂粒子の水分散体29.3部に、水不溶性有機化合物〔フタル酸オクチルベンジル(ジェイ・プラス製、商品名:OBzP)〕1部を混合、撹拌して水不溶性有機化合物を樹脂粒子中に含有させた。この混合液に、グリセリン15部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル7部、サーフィノール465(日信化学工業製)1部、トリエタノールアミン1部、プロキセルXL2(アビシア製)0.3部、及びイオン交換水45.4部を混合した。なお、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを以下、TEGMBEと略記する。得られた混合液を、1.2μmのフィルターを取り付けた、容量25mLの針なしシリンジで濾過し、粗大粒子を除去することにより、顔料の含有量が4%のインク23を得た。上記フィルターには、アセチルセルロース膜(外径:2.5cm、富士フイルム製)を用いた。なお、顔料含有樹脂粒子の平均粒径は51nmであった。なお、インク23は、特許文献1の調製例4を参考に調製した。
【0042】
(インク24)
インク23において、サンドミルの回転数を1,500rpm、混合分散時間を0.5時間に変更した以外はインク23と同様に処理して、固形分濃度が18%の顔料含有樹脂粒子の水分散体を得た。得られた顔料含有樹脂粒子の水分散体5.9部に、水不溶性有機化合物〔フタル酸オクチルベンジル(ジェイ・プラス製、商品名:OBzP)〕0.2部を混合、撹拌して水不溶性有機化合物を樹脂粒子中に含有させた。この混合液に、グリセリン25部、TEGMBEを7部、サーフィノール465(日信化学工業製)1部、トリエタノールアミン1部、プロキセルXL2(アビシア製)0.3部、及びイオン交換水59.6部を混合した。得られた混合液を、1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過し、粗大粒子を除去することにより、顔料の含有量が0.8%のインク24を得た。なお、顔料含有樹脂粒子の平均粒径は80nmであった。なお、インク24は、特許文献1の調製例5を参考に調製した。
【0043】
(インク25)
顔料成分として、トリエタノールアミンで表面処理を行った二酸化チタン顔料(チタン工業製STT−65C−S、結晶形:アナターゼ、一次粒子径:0.03〜0.05μm)7.5部と、有彩色顔料としてのC.I.ピグメントブルー15:3を5部用いた。上記顔料成分と、分散剤としてのスチレン−アクリル酸共重合体のアンモニウム塩(Mw100,000、酸価100mgKOH/g、樹脂成分30%)12.5部及び水75部に十分に混合した。その後、この混合液をサンドミル(安川製作所製)中でガラスビーズ(直径2mm、混合液の0.5倍量(質量基準))とともに分散した。分散後、ガラスビーズを取り除き、顔料分散液を得た。この顔料分散液の二酸化チタン顔料と有彩色顔料の質量比(二酸化チタン顔料/有彩色顔料)は、1.50であった。
【0044】
別途、顔料分散液以外の組成(下記参照)でビヒクルを調製し、当該ビヒクルを前記顔料分散液中に徐々に滴下しつつ、十分に撹拌した。これを10μmのメンブランフィルターでろ過し、インク25を得た。以下にその組成を示す。なお、インク25〜27は特許文献2の実施例4を参考に調製した。
・顔料分散液 60%
・グリセリン 20%
・1,2−ヘキサンジオール 5%
・トリエタノールアミン 0.9%
・オルフィンE1010(日信化学製) 0.5%
・超純水 残量
【0045】
(インク26)
組成を以下にした以外はインク25と同様にして、インク26を調製した。
・顔料分散液 30%
・グリセリン 20%
・1,2−ヘキサンジオール 5%
・トリエタノールアミン 0.9%
・オルフィンE1010(日信化学製) 0.5%
・超純水 残量
【0046】
(インク27)
組成を以下にした以外はインク25と同様にして、インク27を調製した。
・顔料分散液 10%
・グリセリン 20%
・1,2−ヘキサンジオール 5%
・トリエタノールアミン 0.9%
・オルフィンE1010(日信化学製) 0.5%
・超純水 残量
【0047】
(インク28)
有機溶媒(メチルエチルケトン)20部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03部、重合開始剤、下記に示す各モノマーを用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃撹拌下で重合した。その後、モノマー成分100部に対してメチルエチルケトン40部に、溶解した2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル0.9部を加え、80℃で1時間熟成させ、樹脂溶液Bを得た。
・メタクリル酸 20部
・スチレンモノマー 40部
・ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(PO=9) 25部
・ポリエチレングリコール・プロピレングリコールモノメタクリレート
(EO=5、PO=7) 5部
・スチレンマクロモノマー 10部
【0048】
得られた樹脂溶液Bを減圧乾燥させて得られた8部をメチルエチルケトン15部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いて樹脂を中和した。さらに、C.I.ピグメントブルー15:4を12部加え、水を加えながら分散機で混練した。
得られた混練物にイオン交換水100部を加え撹拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20%の顔料分散液を得た。
【0049】
樹脂溶液Bの合成と同様の方法で、モノマーを以下に示すものに代えて樹脂エマルションを構成する樹脂Cを合成した。
・メタクリル酸 20部
・スチレンモノマー 40部
・ポリエチレングリコールモノメタクリレート(EO=15) 15部
・ポリエチレングリコール・プロピレングリコールモノメタクリレート
(EO=5、PO=7) 15部
・スチレンマクロモノマー 10部
【0050】
得られた樹脂溶液Cを減圧乾燥させて得られた5部をメチルエチルケトン15部に溶かし、水酸化ナトリウム水溶液を用いて樹脂を中和した。この中和物にイオン交換水100部を加え撹拌した後、減圧下、60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去して固形分濃度が15%の樹脂エマルションを得た。
【0051】
以下に示す割合で各成分を混合し、室温にて2時間撹拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過して、インク28を調製した。なお、インク28〜30は特許文献3の実施例3を参考にして調製した。
・顔料分散液 25部
・樹脂エマルション 6.67部
・グリセリン 15部
・1,2−ヘキサンジオール 2部
・尿素 3部
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 2部
・2−ピロリドン 2部
・オルフィンE1010(日信化学製) 0.7部
・サーフィノール104(エアープロダクツ製) 0.7部
・トリエタノールアミン 1部
・EDTA 0.02部
・プロキセルXL2 0.3部
・イオン交換水 残量
【0052】
(インク29)
組成を以下にした以外はインク28と同様にして、インク29を調製した。
・顔料分散液 12.5部
・樹脂エマルション 3.33部
・グリセリン 15部
・1,2−ヘキサンジオール 2部
・尿素 3部
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 2部
・2−ピロリドン 2部
・オルフィンE1010(日信化学製) 0.7部
・サーフィノール104(エアープロダクツ製) 0.7部
・トリエタノールアミン 1部
・EDTA 0.02部
・プロキセルXL2 0.3部
・イオン交換水 残量
【0053】
(インク30)
組成を以下にした以外はインク28と同様にして、インク30を調製した。
・顔料分散液 4.17部
・樹脂エマルション 1.11部
・グリセリン 15部
・1,2−ヘキサンジオール 2部
・尿素 3部
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル 2部
・2−ピロリドン 2部
・オルフィンE1010(日信化学製) 0.7部
・サーフィノール104(エアープロダクツ製) 0.7部
・トリエタノールアミン 1部
・EDTA 0.02部
・プロキセルXL2 0.3部
・イオン交換水 残量
【0054】
<インクの評価>
上記で得られた各インクを用いて、インクジェット記録装置及び記録媒体を用いて画像を形成し、下記の評価を行った。インクジェット記録装置は、BJF−900(キヤノン製)を用い、8パス双方向で記録した。なお、インクジェット記録装置へのインクセットを構成する各インクの充填は、ブラック、フォトシアンインクの位置に濃インク、フォトマゼンタ及びシアンインクの位置に中インク、マゼンタ及びイエローインクの位置に淡インクが配置されるように行った。また、記録媒体は、キヤノン写真用紙・光沢 プロフェッショナル PR−201(キヤノン製)を用いた。
【0055】
(耐ブロンズ性)
下記表3の上段に示すように各インクを組み合わせてインクセットとした。このインクセットを用いて、上記インクジェット記録装置により、記録媒体に白からカラーへの階調パターンを有する画像を形成した。画像の形成に当たっては、濃インク、中インク、淡インクを用いた3色インクセットの組み合わせの場合は、階調を20の領域に分けた。低濃度領域(濃度の低いほうから5つの階調)は淡インク、高濃度領域(濃度の高いほうから5つの階調)は濃インク、それ以外の中間濃度領域は、中インクをそれぞれ付与するように設定を行った。また、濃インク、淡インクを用いた2色インクセットの組み合わせの場合は、階調を20の領域に分け、濃度の低いほうから10個の階調は淡インク、濃度の高いほうから10個の階調は濃インクを付与するように設定を行った。
得られた画像を白色蛍光灯下で様々な角度から観察し、以下の基準で耐ブロンズ性を評価した。本発明においては下記の評価基準でB以上が許容できる耐ブロンズ性のレベルとした。
A:白色蛍光灯の色が白く見える。
B:一部の濃度領域で白色蛍光灯の色が白以外の色に見える。
C:全ての濃度領域で白色蛍光灯の色が白以外の色に見える。
【0056】
(光沢度均一性)
上記で得られた画像について、得られたサンプルのうち、濃度の低いほうから10個の階調の画像において、以下の基準で光沢度の均一性を評価した。本発明においては下記の評価基準でB以上が許容できる光沢度均一性のレベルとした。
A:光沢度が均一であり、違いが気にならない。
B:光沢度が階調によって若干異なる。
C:光沢度が階調によって著しく異なる。
【0057】
(写像性均一性)
上記で得られた画像を常温で24時間保存した後、各階調におけるヘイズの値を、マイクロヘイズメーター(BYKガートナー製)を用いて測定し、得られたヘイズ値の最高値と最低値の差から、写像性の均一性の評価を行った。ヘイズ値が高いことは写像性が低いことを、また、ヘイズ値が低いことは写像性が高いことを意味する。この写像性の均一性の評価基準は以下の通りである。本発明においては下記の評価基準でB以上が許容できる写像性均一性のレベルとした。
A:各階調のヘイズ値の最高値と最低値の差が2未満。
B:各階調のヘイズ値の最高値と最低値の差が2以上5未満。
C:各階調のヘイズ値の最高値と最低値の差が5以上。
【0058】

【0059】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及び樹脂を含有し、顔料の含有量が互いに異なる、少なくとも3種の同一色相のインクの組み合わせを有するインクセットであって、
各インク中の顔料の含有量/樹脂の含有量の比の値Rを、各インクにおける顔料の含有量が多くなっていく順で、第1のインクにおける比をR1、第2のインクにおける比をR2、第3のインクにおける比をR3としたときに、これらの値がR2<R1及びR3の関係を満足することを特徴とするインクセット。
【請求項2】
さらに、前記第2のインクにおける比R2と前記第3のインクにおける比R3とが、1<(R3−R2)<2の関係を満足する請求項1に記載のインクセット。
【請求項3】
さらに、前記第1のインクにおける比R1と前記第2のインクにおける比R2と前記第3のインクにおける比R3とが、1<(R1−R2)<2の関係を満足する請求項1又は2に記載のインクセット。
【請求項4】
インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に画像を記録する画像形成方法であって、前記インクが、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクセットを構成する各インクであることを特徴とする画像形成方法。

【公開番号】特開2011−241333(P2011−241333A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116067(P2010−116067)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】