説明

インクタンクおよびインクジェット記録装置

【課題】インク供給部に保持されるインクの顔料粒子濃度などの影響を受けず、かつ流量の異なる記録ヘッドに使用可能なインクタンクを提供する。
【解決手段】記録ヘッドH00のフィルタH01のサイズに合わせて、圧接体T06に非インク導通領域SB1およびSB2を設ける。それによって、圧接体T06に残った沈降インクの記録ヘッドH00への移動を遮断し、インク流量の異なる記録ヘッドへのインクタンクの共用化を実現させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクタンクおよびインクジェット記録装置に関し、詳しくは、インクタンクのインク供給口と記録ヘッド側のインク導入部との接続に係る構成に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタで代表されるインクジェット記録装置は、高画質の記録画像が得られ、また、低騒音であるなどの利点を有し、広く提供されている。特に、比較的小型のプリンタとして製造できることから、個人向けに開発されたものも多い。このような個人向けの小型プリンタでは、使用者本人がインクタンクや記録ヘッドと一体のインクジェットカートリッジを交換し、インクの補充を行なうように構成されている。特に、インクタンクのみを交換する構成は、記録ヘッドをともに交換する構成と較べてランニングコストを安くすることができる。
【0003】
このような交換タイプのインクタンクには、インクタンク着脱時のユーザーの安全や空気の混入などを防止する一構成として、特許文献1に記載のように、インクタンクのインク供給部に圧接体(毛管部材)を設けたものがある。この圧接体は吸収体で構成され、インクタンク内部から導出されるインクを保持するとともに、記録ヘッド側の吐出などに伴う負圧の変化に応じて保持しているインクを供給路へ流出させるものである。
【0004】
また、インクタンクに収納されるインクとしては、主に、着色材として染料を用いた染料インクが使用されて来た。これに対し、記録物の耐光性や耐候性を向上して、例えば屋外掲示プリント物等の用途において求められる性能を満足するものとして、着色材として顔料を用いた顔料インクが実用化されている。
【0005】
しかし、顔料は分散系色材であるため、顔料インクはインクタンク中において顔料粒子の沈降が生じる。例えば、インクタンクがインクジェットプリンタに装着されたまま長期間放置された場合には、そのインクタンク内でインク中の顔料粒子が徐々に沈降する。そのため、インクタンク内部において、その底部から上部に向かうにしたがって顔料粒子の濃度傾斜が発生する。その結果、インクタンク底部のインクは、顔料粒子濃度が高くなって色が過度に濃い層を形成し、一方、インクタンク上部のインクは、顔料粒子濃度が低くなって色が過度に薄い層を形成することになる。
【0006】
インクタンク内のインクがインクタンク底部から導出されて供給される場合、最初に、顔料粒子濃度の高いインクが供給され、色が過度に濃い画像が記録されることになる。つまり、インクタンクの使用初期における記録画像とその使用後期における記録画像との間に記録濃度の差が生じるおそれがある。このような現象は、色の濃淡によってカラー画像を記録するカラー記録において特に顕著となる。
【0007】
この問題を解決するため、特許文献2に開示されているように、キャリッジの往復運動の慣性力によって移動可能な撹拌体をインクタンク内部に配置したものがある。これにより、キャリッジの往復運動によって撹拌体を動作させて内部のインクを撹拌し、顔料粒子の濃度傾斜を生じないようにすることができる。
【0008】
【特許文献1】特許第3171105号公報
【特許文献2】特開2004−216761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載された撹拌構成は、インクタンク内部の沈降においてのみ有効であり、特許文献1に記載のような圧接体を備えたインクタンクの場合は、圧接体の内部に既に存在するインクの、例えば高い顔料粒子濃度を解消することはできない。この圧接体を用いる場合、圧接体内のインクの濃度均一化は、一般には吸引動作によって圧接体内の高濃度インクを除去することによって行う方法が取られている。
【0010】
ところで、インクタンクは、装着する記録ヘッドの記録速度に合わせた量のインクを供給可能な設計になっている。この場合、例えばインクタンクの供給口のサイズは上記供給量ないしインク流量に対応したものとされる。このように、新規に高い流量の記録ヘッドが開発された場合、それに対応した流量を可能とする供給口を備えた新規のインクタンクを開発する必要がある。その結果、近年のインクや記録速度の著しい進化により、年々インクタンクの種類が増加し、新規インクタンク開発に莫大な費用を費やすととともに、多機種生産のための設備投資が必要となって来ている。
【0011】
従って、効率的にコストダウンを行い、安価な製品を提供するには、将来的な記録速度に対応したインクタンクを開発し、製品の機種増加を防ぐとともに、新規インクタンク開発にかかる費用を抑えることが望ましい。そのための一方策として、インクタンクにおけるインク供給口の開口面積を、予め大きく設計しておくことにより、流量の増大に対処できる共通化されたインクタンクを実現することができる。
【0012】
しかしながら、特許文献1のような、インク供給口に圧接体を備えたインクタンクでは、この共用化のために圧接体も同様に大きなものとされる。このインクタンクを流量の比較的小さな記録ヘッドに装着した場合、圧接体に保持されたインクの総てを吸引動作で除去できないことがある。すなわち、圧接体と接する、記録ヘッド側の供給路開口の面積が圧接体の面積より小さく、そのために吸引動作では上記供給路開口の外側に対応した部分の圧接体からインクを吸引できないことがある。そして、吸引動作で除去できずに圧接体に残った高濃度インクは、吸引動作後に圧接体内で徐々に拡散し、最終的に記録ヘッド側へ流出することがある。その結果、記録ヘッドがこの高濃度インクを吐出するに至り記録物に濃度むらを生じることがある。
【0013】
本発明の目的は、圧接体に保持されるインクの顔料粒子濃度などの影響を受けず、かつ流量の異なる記録ヘッドに使用可能なインクタンクおよびこのインクタンクを用いるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そのために本発明では、インクを収納し、該収納したインクを記録ヘッドに供給するための供給口を備えたインクタンクにおいて、前記供給口において記録ヘッド側のインク導入部と接続する圧接体であって、その内部をインクの移動が可能な複数の導通領域と、該複数の導通領域の境界をなし、その内部をインクが導通しない非導通領域とを有した圧接体を具えたことを特徴とする。
【0015】
好ましくは、前記圧接体は、前記インク導入部と接する面において、複数の導通領域と該複数の導通領域の境界をなす、導通領域より小さな面積の非導通領域が配置されたことを特徴とする。
【0016】
また、インクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置において、インクを収納し、該収納したインクを記録ヘッドに供給するための供給口を備えたインクタンクを着脱自在に装着する装着手段と、インクタンクの供給口と記録ヘッド側のインク導入部が接続した状態で、記録ヘッドを介したインク吸引を行う吸引手段と、を具え、前記インクタンクは、前記供給口において記録ヘッド側のインク導入部と接続する圧接体であって、その内部をインクの移動が可能な複数の導通領域と、その内部をインクが導通しない領域であって前記複数の導通領域の境界をなす非導通領域とを有した圧接体を備え、前記吸引手段は、前記インク導入部が当接するそれぞれの前記導通領域に含まれるインクの総てを吸引できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上の構成によれば、吸引動作によって接続する記録ヘッドを介して、1つの導通領域のインクが吸引されたとき、他の導通領域に吸引されずに残っているインクは非導通領域によって吸引が行われた導通領域への移動が阻止される。これにより、他の導通領域に残っているインクが記録ヘッド側へ流出することによって記録結果に影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0018】
また、記録ヘッドの仕様が変化して記録ヘッド側のインク導入部の圧接体に対する当接面積が大きくなり、インク導入部が当接する導通領域が複数にわたっても、それぞれのインク導入部のインクの総てを吸引できる。これにより、圧接体に含まれるインクを確実に除去し、かつ、圧接体内に残るインクの他の導通領域への拡散を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクタンクの断面図であり、図2は、第1実施形態のインクタンクの斜視図である。図1は、図2におけるA−A線に沿った断面図を示している。
【0020】
インクタンクT00はインクT05を収納する容器であり、図2に示すように、容器本体T01と蓋部材T02とによって筐体が構成されている。また、インクタンクT00の重力方向に当たる底面には、記録ヘッドにインクT05を供給するためのインク供給部(供給口)T03が設けられている。
【0021】
インクタンクT00の内部は、図1に示すように、インクT05を収納するためのインク収納室T04を備えている。このインク収納室T04は、本タンクの筐体の一部と可撓性のシート部材(不図示)によって構成される。そして、内部にコイルばね(不図示)が設けられ、このばねがシート部材を押圧して収納室を広げる作用をすることによってインクを保持する負圧を発生している。また、インク収納室T04の内部には、インク収納室T04のインクT05が沈降し濃度勾配が生じたときに、濃度を均一化するための攪拌機構(不図示)が設けられている。この攪拌機構は、このインクタンクを搭載したキャリッジの移動によって動作する板状の攪拌部材を備えたものである。
【0022】
インク収納室T04の重力方向下方にあたる底面には、インク供給部T03が設けられており、これは記録ヘッドへの供給路と当接して記録ヘッドに連通する流路となる。インク供給部T03は、図1に示すように、メニスカス形成部材T07と圧接体T06を備える。メニスカス形成部材T07は、インク収納室内は負圧に保たれるが、その場合にインク収納室内に外部からの気泡を引き込まないようにインクT05によるメニスカスを形成するための部材である。つまり、インク収納室内に発生する負圧の最大値よりも強いメニスカス保持圧力を発生できるような部材が選択される。圧接体T06は、記録ヘッドに対するインク供給路と接続したときにその当接方向の位置ずれを吸収できるように、ある程度柔軟性のある材料で構成され、かつ、接続時にインクT05の流路となるような毛管力を持つ部材である。本実施形態では、例えば、ポリプロピレンの樹脂繊維の集合体(繊維体)である。また、インク供給部T03の開口部は、後述されるように、インク流量の増大に対応できるような比較的大きな開口面積を有している。
【0023】
図3(a)および(b)は、圧接体T06の形状を説明する図であり、同図(a)は長手方向の側面図であり、同図(b)は底面図である。図中の、符号SA1〜SA3は、圧接体のうちインクが移動可能な領域であるインク導通領域を表し、符号SB1およびSB2は、インクが進入不可能な領域である非インク導通領域(非導通領域)を表している。また、図3(b)の符号SFは、装着される記録ヘッドのフィルタの領域の大きさと位置を表している。すなわち、記録ヘッドに対するインク供給路のうち、圧接体と当接するフィルタ部分の領域の大きさと圧接体に対する位置を示している。
【0024】
インク導通領域SA1〜SA3は、前述したように、記録ヘッドと接続したときにインクT05が記録ヘッド側へ移動するための流路となる領域である。また、インク導通領域SA1〜SA3は、特に図3(b)に示されるように、その境界にインクが移動不可能な非インク導通領域SB1またはSB2を配置しており、これにより、互いの領域へのインクの移動が不可能に構成されている。
【0025】
非インク導通領域SB1およびSB2は、フラットな板状の圧接体T06に加工ホーンで挟み込み、圧縮したまま加熱溶融し、冷却固化することにより形成される。すなわち、圧接体を構成する材料のうちインクの移動が可能な空間が除去された領域である。圧接体の溶融手段として、本実施形態では、急速加熱、急速冷却が可能なインパルスヒータを用いる。しかし、溶融手段はこれに限られないことはもちろんであり、例えば、超音波などの摩擦熱による溶融であってもよい。
【0026】
非インク導通領域SB1、SB2は、図3(b)に示すように、記録ヘッド側供給路のフィルタSFと当接するインク導通領域SA2を適正な面積に限定している。ここでいう適正な面積とは、記録ヘッドのフィルタを介してインクを導出する領域(ここではインク導通領域SA2)が保持しているインクを、本インクタンクが装着して用いられるプリンタの吸引動作によって全て除去できる面積である。
【0027】
図4は、本実施形態のインクタンクをインク流量が比較的少ない記録ヘッドを用いるプリンタに対して装着したときの装着状態を示す図であり、接続部を側面から見た拡大断面図である。
【0028】
図4に示すように、インクタンクT00は、インク供給部T03がインク収納室T04に対して重力方向下方に位置する向きで、インク供給部T03と記録ヘッドH00上部のインク導入部H02とが連通するように接続される。インク導入部H02は、インク流路H03の端部に形成され、フィルタH01を備えている。これらインク導入部H02およびインク流路H03は、記録ヘッドに対するインク供給路を構成する。すなわち、インクタンクT00と記録ヘッドH00のインクの連通は、記録ヘッドH00のフィルタH01に対して、圧接体T06の底面が当接することによって行われる。
【0029】
図4に示す場合、フィルタH01の面積が小さく、インク導通領域SA2だけに当接する。これにより、インク導通領域SA2のみが記録ヘッドH00へインクを供給可能な流路となる。すなわち、非インク導通領域SB1、SB2によって、インク導通領域SA2の両側の、フィルタH01に接していない領域SA1、SA3に保持されているインクT05が、フィルタH01を介してインク流路H03に進入することが不可能になっている。
【0030】
次に、上述した構成を有する本実施形態のインクタンクの作用について説明する。
図5(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態のインクタンクの顔料沈降時における沈降粒子によって濃度が高くなったインクの挙動を示す断面図である。また、図9(a)〜(c)は、従来の圧接体を備えたインクタンクにおける同様のインク挙動を示す断面図である。以下では、本発明の第1の実施形態のインクタンクと従来のインクタンクそれぞれのインク挙動を比較しながら、第1の実施形態に係るインクタンクの作用を説明する。
【0031】
図5(a)および図9(a)は、本実施形態のプリンタにおける撹拌動作後のインクタンク内のインク顔料粒子の沈降状態を表している。この状態においては、どちらの沈降インクも同じ状態にある。このように顔料成分の沈降が進んだインクタンクT00をキャリッジによって移動させその内部のインクT05を撹拌すると、そのインクの濃度が均一化される(これらの図において薄い部分)。しかし、圧接体T06に保持されたインクまでは撹拌の影響は及ばずその濃度が均一化されることはない(これらの図において濃い部分)。このため、図5(a)および図9(a)に示すように、顔料が沈降したインクT08は圧接体内で停滞したままである。
【0032】
図5(b)および図9(b)は、プリンタで吸引動作を行った直後のインクタンク内のインクの沈降状態を表している。本実施形態のインクタンクの場合、図5(b)に示すように吸引動作によって、フィルタH01が当接されているインク導通領域SA2の沈降インクT08は除去される。これにより、インク収納室T04の濃度が均一化されたインクT05と入れ替えられる(図5(b)において薄い部分)。また、フィルタH01が当接されないインク導通領域SA1およびSA3には、沈降インクT08が除去されずに残っている(図5(b)において濃い部分)。
【0033】
一方、従来の圧接体を備えたインクタンクは、図9(b)に示すように、吸引動作によって矢印Bの方向にインクの流れが生じた領域では、沈降インクT08は除去される。その結果、インク収納室T04の濃度を均一化されたインクT05と入れ替えられる(図9(b)において薄い部分)。しかし、それ以外の領域においては、インクT05は入れ替えられず、圧接体T06内に残った状態にある(図9(b)において濃い部分)。
【0034】
図5(c)および図9(c)は、それぞれ図5(b)および図9(b)に示す状態からインクタンクを数時間放置したときのインクタンク内のインクの沈降状態を示す図である。すなわち、吸引動作後、数時間放置した時のインクタンク内のインクの沈降状態を表している。
【0035】
図9(c)のように、従来の圧接体を備えたインクタンクでは、吸引動作後数時間放置すると、吸引動作で除去できなかった沈降インクT08が、徐々に矢印C1、C2の方向に拡散する。その結果、この顔料粒子が沈降したインクはインク流路H03を介して記録ヘッドH00へ供給され、それが吐出されて濃度むらなど記録品位に影響を与えることがある。
【0036】
これに対し、本実施形態のインクタンクT00では、図5(c)に示すように、インク導通領域SA1およびSA3に残った沈降インクT08は、非インク導通領域SB1およびSB2によって、記録ヘッドH00への流路を遮断されている。これにより、濃度が高いなどの不均一な色材濃度のインクが記録ヘッドH00に供給されることを防止できる。
【0037】
以上説明したように、色材濃度が不均一になったインクの記録品位への影響を回避するためには、フィルタH01が当接するインク導通領域SA2が、吸引動作によって保持しているインクを総て除去できる大きさであることが望ましい。そこで、図6および図7を参照して、インク導通領域SA2のサイズを定めている、非インク導通領域SB1およびSB2の最適な位置を求める実験の例を説明する。
【0038】
図6(a)および(b)は、実験に使用した圧接体T06の底面図である。図6(a)は、インク導通領域SA2を、フィルタH01の当接領域SFと非当接領域SHの面積比が「SF:SH=1:1.3」になるように設定した圧接体を示している。また、図6(b)は、インク導通領域SA2を、フィルタH01の当接領域SFと非当接領域SHの面積比が「SF:SH=1:2」になるように設定した圧接体を示している。
【0039】
上記2種類の圧接体T06をそれぞれ、顔料の沈降が進んだインクに相当する粘度のインクが充填されたインクタンクT00に組み込む。そして、それらのインクタンクを、フィルタH01の当接面積SFの記録ヘッドH00が装着されたプリンタに装着し、それぞれ撹拌および吸引動作を行う。
【0040】
撹拌および吸引動作後に記録した記録物と、攪拌および吸引動作後それぞれのインクタンクをそのままの状態で一定時間放置した後に記録した記録物を、顔料濃度が均一なフレッシュなインクで記録させた記録物とそれぞれ比較し濃度むらの判定を行った。その判定結果を、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
以上のような実験の結果、ある面積比以下では、放置した後でも濃度むらについて記録品位の低下がないことが確認されている。本実施形態のインクタンクでは、表1に示すように、インク導通領域SA2に対するフィルタH01の当接面積SFと非当接面積SHの面積比が、SF:SH=1:1.3以下であれば、良好な記録が可能であるということが判明した。もちろん、上述したように実験結果は、インク粘度やプリンタの吸引性能などの様々な設定の違いによって異なるため、全てにおいて適応されるものではないことはもちろんである。
【0043】
図7(a)および(b)は、本実施形態のインクタンクを、想定する最大流量の記録ヘッドに接続して用いる場合の接続状態を示す図である。すなわち、本実施形態のインクタンクを、図4に示した記録ヘッドよりもインク供給量が多い記録ヘッドに接続して用いる場合を示している。図7(a)は、接続部の拡大断面図であり、図7(b)は、記録ヘッド接続時の圧接体とフィルタの当接面の領域分布を示す図である。
【0044】
図7(a)に示すように、記録ヘッドH00のフィルタH01は、圧接体T06の非インク導通領域SB1およびSB2を跨いで、インク導通領域SA1〜SA3のそれぞれに当接される。そのときの、圧接体T06の領域分布は、図7(b)に示すものなっている。
【0045】
フィルタH01の当接領域SFは、非インク導通領域SB1およびSB2によって分断されている。インク導通領域SA1の当接領域はSF1となり、インク導通領域SA2の当接領域はSF2となり、インク導通領域SA3の当接領域はSF3となる。そして、それぞれの非当接領域は、SH1〜SH3となる。この場合、前述の実験結果を適用し、インク導通領域SA1〜SA3それぞれの「当接領域SFn:非当接領域SHn=1:1.3以下」になるように、圧接体T06とフィルタH01のサイズを定めるようにする。これにより、当接する記録ヘッドが変わっても本実施形態のインクタンクの共用が可能となる。なお、フィルタH01のうち非インク導通領域SB1およびSB2に当たる部分は、無効領域となるため、その部分を踏まえてフィルタH01の設計をする必要がある。
【0046】
図8(a)および(b)は、本実施形態のインクタンクが想定する最大流量の記録ヘッド(図7)と少流量の記録ヘッド(図4)の中間の流量の記録ヘッドに対して本実施形態のインクタンクを接続する場合の接続状態を示す図である。図8(a)は、接続部の拡大断面図であり、図8(b)は、記録ヘッド接続時の圧接体フィルタ当接面の領域分布図である。
【0047】
図8(a)に示すように、記録ヘッドH00のフィルタH01は、圧接体T06の非インク導通領域SB2を跨いで、インク導通領域SA2およびSA3に当接される。そのときの、圧接体T06の領域分布は、図8(b)に示すようになっている。
【0048】
フィルタ当接領域SFは、非インク導通領域SB2によって分断されている。インク導通領域SA2の当接領域はSF2となり、インク導通領域SA3の当接領域はSF3となる。そして、各々の非当接領域は、SH2およびSH3となる。
【0049】
この場合も、前述の実験結果を適用し、インク導通領域SA2およびSA3それぞれの「当接領域SFn:非当接領域SHn=1:1.3以下」になるように、圧接体T06とフィルタH01のサイズを定めるようにする。これにより、当接する記録ヘッドが変わっても本実施形態のインクタンクの共用が可能となる。なお、フィルタH01の非インク導通領域SB2に対応する部分は、無効領域となるため、その部分を踏まえてフィルタH01の設計をする必要があることは上記と同様である。
【0050】
(他の実施形態)
本実施形態の非インク導通領域SBnの形状は、大流量の記録ヘッドを接続したときに、フィルタH01の無効領域をできるだけ発生させないようにするために直線状に形成されている。しかし、その形状に限られないことはもちろんである。
【0051】
例えば、図10(a)に示すように、非インク導通領域SB1が閉じられた形状であってもよい。また、図10(b)に示すように、非インク導通領域SB1、SB2が円弧状でもよい。
【0052】
また、非インク導通領域SBnの数は、本実施形態では、上述の3種類の記録ヘッドの共用を目的としているため、2つ設けられているが、それに限られない。図10(c)に示すように、非インク導通領域SBnの数を増やすことで、より多くの記録ヘッドとの共用を可能とすることができる。
【0053】
さらに、上記で説明した実施形態は、顔料インクを収納するインクタンクに係るものであるが、本発明の形態はこれに限られない。染料を色材とするインクを収納するインクタンクの場合でも、例えば増粘したインクが記録結果に悪影響を及ぼすことがある。すなわち、図9(a)〜(c)にて説明したように、吸引によって圧接体の総ての染料インクを吸引できない場合、例えば圧接体に残った染料インクが増粘し、それがその後に記録ヘッド側に流出して記録画像における濃度むらを生じさせることもある。このように、顔料インクに限らずインク一般を収納するインクタンクにおいても本発明を適用した圧接体を用いることは好ましいことである。
【0054】
(さらに他の実施形態)
本発明のさらに他の実施形態は、上述した各実施形態のインクタンクがプリンタに装着される前のインク導通領域SA1、SA2、SA3におけるインクの状態に関するものである。特に、インクタンクの物流におけるインク導通領域SA1、SA2、SA3のインクの状態に関するものである。
【0055】
図11は、本発明の上述した実施形態のインクタンクに対するインク注入を説明する図である。
【0056】
インクの注入の具体的方法は、例えば図11に示すように、インク注入治具J01をインクタンクのインク供給部に圧接させる。インク注入治具には、弾性材料で形成されたシール部J03が設けられている。このシール部J03がインクタンクの平面部T09に当接することによってインク注入時の密閉を保つ。インク注入治具J01には、さらに圧接体のインク導通領域SA1、SA2、SA3に対向する位置に注入口J02がそれぞれ設けられる。そして、それぞれの注入口J02を介して各インク導通領域にインクが充填される。なお、本実施形態では、各インク導通領域に対応させて注入口を設けているが、注入口J02は、必ずしも、インク導通領域ごとに設ける必要はない。例えば、2つの非インク導通領域SB1およびSB2を横断して3つのインク導通領域SA1、SA2、SA3にわたる開口を有した1つの注入口であってもよい。要するに総てのインク導通領域にインクが充填可能な構成であれば良い。
【0057】
図12は、本発明の上述した実施形態のインクタンクに装着する物流キャップを説明する斜視図である。図13は、キャップをインクタンクに装着した状態を説明する下方から見た斜視図である。さらに、図14は、図13に示すB−B断面図である。
【0058】
これらの図に示すように、物流キャップC20は、インクタンクT00の物流時にインク供給部からインクが漏れ出さないように、密閉するものであり、図13に示すようにインクタンクT00のインク供給部に装着される。そして、図12に示すように、キャップの内側には、インクタンクのインク供給部の平面T09に対向する位置にシール部材C21が設けられている。そして、キャップは、シール部材C21が、平面部T09に押し付けられた状態でインクタンクに爪C23を係合して装着される。
【0059】
図14に示すように、インクタンクの物流時においては、圧接体の全てのインク導通領域SA1、SA2、SA3にインクを保持させた状態で、インク供給部にキャップC20を装着する。すなわち、図11にて説明したインク注入では、インク導通領域SA1、SA2、SA3の総てにインクが充填された状態になるようインク注入を行なう。
【0060】
インクタンクに物流キャップが装着されると、インク供給部の入り口は密閉空間となる。そして、その密閉空間K01に存在する空気は、物流時の温度変化などによって膨張または収縮する。一般的に、空気が膨張した場合、メニスカス形成部材T07に形成されているメニスカスを破って、空気がインク収納室T04に侵入してしまうことがある。その結果、空気の侵入によってインク収容部の負圧が下がり、キャップの開封時などに、インク垂れを発生するおそれがある。
【0061】
これに対し、本実施形態では、上述のように圧接体の全てのインク導通領域SA1、SA2、SA3にインクを充填する構成としている。これにより、インク供給部(メニスカス形成部材T07)とキャップの間に介在する空気の量を減らすことができ、物流時の温度変動などに起因したインクタンク内への空気の侵入を減少させることができる。
【0062】
その結果、インクタンクの開封時におけるインク垂れを防止することができ、信頼性の高いインクタンクを提供することが可能となる。
【0063】
なお、インク導通領域SA1、SA2、SA3に対するインクを充填する量は、上記実施形態のようにそれぞれの領域の全体にインクが行き渡る量に限られない。例えば、インク導通領域SA1、SA2、SA3の総てにインクが充填されるが、それぞれの領域では、例えば一部だけにインクが浸透して保持されるような量であってもよい。すなわち、このような充填量であっても、物流時の温度変動などに起因したインクタンク内への空気の侵入を減少させ、インク垂れ防止に関して一定の効果を奏するものであればよい。3つの領域のいずれにもインクが充填されている構成であれば良い。
【0064】
図15は、上述したインクタンクおよび記録ヘッドを用いることができるインクジェット記録装置の構成例を説明するための図である。
【0065】
本例のインクジェット記録装置は、装置本体、給送部、および排出トレイ等から構成される。装置本体は、シャーシM3019と記録動作機構等から構成されており、その記録動作機構は、矢印Aの主走査方向に往復移動可能なキャリッジM4001を含む。キャリッジM4001には、インクを収納する本実施形態のインクタンクと、そのインクタンクから供給されるインクを複数のインク吐出口から吐出可能なインクジェット記録ヘッドとが搭載される。インクタンクは、記録ヘッドと分離可能に構成され、インクタンクに収納されるインク量が少なくなったときに新しいインクタンクと交換することができるよう着脱自在に構成されている。記録ヘッドは、例えば、電気熱変換体(ヒータ)やピエゾ素子などを用いてインクを吐出することができる。電気熱変換体を用いた場合には、その発熱によってインクを発泡させ、その発泡エネルギーを利用してインク吐出口からインクを吐出させることができる。給送部から給送される記録シート(記録媒体)は、主走査方向と交差する矢印Bの副走査方向に搬送される。
【0066】
記録シートに画像を記録する際には、記録動作と搬送動作とを繰り返す。記録動作においては、記録ヘッドがキャリッジ4001およびインクタンクと共に主走査方向に移動しつつ、インク吐出口からインクを吐出する。搬送動作においては、記録シートを副走査方向に所定量搬送する。このような記録動作と搬送動作とを繰り返すことによって、記録シート上に順次画像を記録する。
【0067】
キャリッジM4001の移動経路の一方の端部には回復ユニットが設けられ、記録ヘッドに対してワイピング、予備吐出、および吸引の各動作を行う。これにより、記録ヘッドの吐出性能を良好に維持することができる。この吸引動作の吸引量は、前述したように、圧接体T06におけるインク導通領域の面積との関係で、そのインク導通領域が保持しているインクを総て除去できる量に設計されていることはもちろんである。
【0068】
以上説明したように、本実施形態のインクタンクは、インク供給部に圧接体を有するインクタンクにおいて、流量の違う記録ヘッドに対して共用化するために、圧接体を大きくすることで発生する濃度ムラ問題を、圧接体の簡易な構成で解消することができる。従って、例えば、インク流量(供給量)に関して新規な記録ヘッドが開発されるごとに、それに対応してインクタンクを開発することを省くことができ、開発費用や設備投資を抑制することができる。その結果、インクタンクのコストダウンが可能となり、安価なインクタンクを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態によるインクタンクの断面図である。
【図2】図1に示すインクタンクにおける外観斜視図である。
【図3】(a)および(b)は、図1のインクタンクに設けられる圧接体の形状を説明する図である。
【図4】図1に示すインクタンクにおける小流量記録ヘッドとの接続状態を示す要部拡大断面図である。
【図5】(a)、(b)および(c)は、図1に示すインクタンクにおける顔料沈降時の作用を説明するための要部拡大断面図である。
【図6】(a)および(b)は、図1に示すインクタンクにおける圧接体の非インク導通領域の位置を定める実験に使用した圧接体フィルタ当接面の領域分布図である。
【図7】図1のインクタンクに大流量の記録ヘッドを接続した場合の接続状態を示す図であり、(a)は、接続部の拡大断面図であり、(b)は、圧接体のフィルタ当接面の領域分布図である。
【図8】図1のインクタンクに中流量の記録ヘッドを接続した場合の接続状態を示す図であり、(a)は、接続部の拡大断面図であり、(b)は、圧接体のフィルタ当接面の領域分布図である。
【図9】(a)、(b)および(c)は、従来のインクタンクにおける顔料沈降時の沈降インクの挙動を説明する要部拡大断面図である。
【図10】(a)、(b)および(c)は、圧接体の形状の他の実施形態を示す図である。
【図11】本発明の第1の実施形態のインクタンクへのインク注入を説明する図である。
【図12】本発明の第1の実施形態のインクタンクに装着するキャップを説明する斜視図である。
【図13】本発明の第1の実施形態のインクタンクにキャップを装着した状態を説明する下方から見た斜視図である。
【図14】図13に示すB−B断面図である。
【図15】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
H00 記録ヘッド
H01 フィルタ
H02 インク導入部
H03 インク流路
T00 インクタンク
T01 容器本体
T03 インク供給部
T04 インク収納室
T05 インク
T06 圧接体
T07 メニスカス形成部材
T08 沈降インク
T09 平面部
J01 インク注入治具
J02 注入口
J03 シール部
C20 物流キャップ
C21 シール部材
C23 爪
K01 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収納し、該収納したインクを記録ヘッドに供給するための供給口を備えたインクタンクにおいて、
前記供給口において記録ヘッド側のインク導入部と接続する圧接体であって、その内部をインクの移動が可能な複数の導通領域と、該複数の導通領域の境界をなし、その内部をインクが導通しない非導通領域とを有した圧接体
を具えたことを特徴とするインクタンク。
【請求項2】
前記圧接体は、前記インク導入部と接する面において、前記複数の導通領域と前記導通領域より小さな面積の前記非導通領域が配置されたことを特徴とする請求項1に記載のインクタンク。
【請求項3】
前記圧接体は、樹脂繊維によって形成された繊維体であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクタンク。
【請求項4】
前記非導通領域は、熱によって溶融されて形成されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項5】
前記インクは顔料インクであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項6】
前記複数の導通領域の総てにインクが充填されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のインクタンク。
【請求項7】
インクを吐出する記録ヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録装置において、
インクを収納し、該収納したインクを記録ヘッドに供給するための供給口を備えたインクタンクを着脱自在に装着する装着手段と、
インクタンクの供給口と記録ヘッド側のインク導入部が接続した状態で、記録ヘッドを介したインク吸引を行う吸引手段と、
を具え、
前記インクタンクは、前記供給口において記録ヘッド側のインク導入部と接続する圧接体であって、その内部をインクの移動が可能な複数の導通領域と、その内部をインクが導通しない領域であって前記複数の導通領域の境界をなす非導通領域とを有した圧接体を備え、前記吸引手段は、前記インク導入部が当接するそれぞれの前記導通領域に含まれるインクの総てを吸引できるものであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記複数の導通領域の総てにインクが充填されていることを特徴とする請求項7に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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