説明

インク及び該インクを用いたインクジェット記録方法

熱エネルギーを作用させてインクを吐出するインクジェット記録用インクにおいて、水性液媒体と、水分散色材と、アゾ基を有さない水難溶性染料と、を含むことを特徴とするインクジェット記録用インク及びインクインクジェット記録方法であって、高い耐久性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はインクジェット記録装置、とりわけバブルジェット方式のインクジェット記録装置に適し、吐出安定性及び高いヘッド耐久性を提供するインクジェット記録用水性インク、それを用いたインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体にインクを付着させて記録を行うものである。特に、下記特許文献1〜3において開示された方式、即ち、吐出エネルギー供給手段として電気熱変換体を用い、熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を発生させる方式のインクジェット記録方法(バブルジェット記録方法)によれば、記録ヘッドの高密度マルチオリフィス化を容易に実現することができ、高解像度及び高品位の画像を高速で記録することができる。
上記バブルジェット記録方法においては、ノズル内に設けられたヒーター部の温度が瞬間的に300℃以上の高温(360℃ともいわれている)に曝されるため、インク中に含まれる成分自体またはその熱分解物や不純物等(以下、コゲーション物質と呼ぶ)がヒーター表面に堆積することがある。かかる堆積物は、ヒーターからインクへの熱伝導を阻害する原因となるため、インクの発泡が正常に行われなくなり、その結果、印字に欠陥が生じることが起こる。このようなヒーター表面上へのインク成分に由来する物質の堆積は、コゲーションと呼ばれており、バブルジェット型吐出ヘッドの高耐久化の障害要因となっている。
上記コゲーションの現象は、特に、コゲーション物質の中でも有機化合物が原因となるため、染料を用いたインクにおいても、また顔料インクにおいても起きる現象であり、その改良のために従来から種々の検討が行われてきた。特に、水分散色材の一種である顔料を有するインクにおいては、コゲーション物質が多く発生して、気泡形成用ヒーター上に堆積したり、ヘッドの耐久性が低下する傾向があった。一方で、最近はインクジェット記録の低ランニングコスト志向が高まり、従来よりも更に高い耐久性が要求されている。
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【特許文献2】特公昭61−59912号公報
【特許文献3】特公昭61−59914号公報
【発明の開示】
そこで、本発明者等は、以下のように検討を行った。まず、バブルジェット方式において、ヒーター上に発生した堆積物を除去するために、顔料インクにおいてはエチレンオキサイド系の界面活性剤といった添加剤をインク中に加え、それによって堆積物を部分除去していた。しかし、ヒーター上への堆積や、除去作用は常に一定に発生するわけではなく、ヒーター上の堆積物の量をコントロールできない場合があった。また、キレート剤等の添加剤を加え、ヒーターの保護層を削り、ヒーター上への堆積物の堆積を起こさないようにする方法では、保護層の厚みが薄くなるために、保護層に亀裂が入って、熱エネルギーを発生することができなくなり、吐出不可能になる場合があった。
以上のようなことから、根本的にコゲのメカニズムを従来とは異なる観点から検討する必要があった。特に、水分散色材の一種である顔料を有するインクにおいては、発泡に応じて顔料の分散特性が破壊されたことによる分散破壊物がコゲーション物質として気泡形成用ヒーター上に堆積してしまうため、使用するインクの特性を長期にわたって発揮することのできない場合があった。さらに、インクジェット記録ヘッドの使用回数が進み、ヒーターを加熱するための電気パルス数の累積数が増加したとき、インク成分中の水分散色材に由来するコゲーション物質が、ヒーター面上に堆積し、インクの吐出不良の原因となっていた。
従って、本発明の目的は、従来技術では達成し得ない高い耐久性を得ることのできるインクジェット用インク、特に、バブルジェット記録に好適なインクジェット用インク、及びそれを用いた高耐久性を達成できるインクジェット記録方法を提供することにある。
本発明者等は、ヒーター上への分解物等のコゲーション物質の堆積を起こさず、またヒーターの保護層を削ることなく、ヒーターの耐久性が向上する添加剤について、従来使用していた添加剤とは異なる物質について検討を重ねた結果、ある特定の染料の構造が効果的であることを解明した。本発明者は、その特徴の1つとしてアゾ結合の有無に着目し、更には、インク中において形成される気泡の形成時、消泡時における色材の挙動等に着目した。この結果、水分散色材を含むインク中に、アゾ結合を有さない水難溶性の染料を添加し、耐久試験後のヒーターを観察したところ、ヒーター上への分解物の堆積が起こらず、ヒーターの保護層も削られず、ヒーターの耐久性を更に向上することが可能となることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、熱エネルギーを作用させてインクを吐出するインクジェット記録用インクにおいて、水性液媒体と、水分散色材と、アゾ基を有さない水難溶性の染料と、を含むことを特徴とするインクジェット記録用インクである。
また、本発明は、インクを吐出口から吐出させて記録媒体に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法において、該インクが上記構成のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法である。
【図面の簡単な説明】
図1はインクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図である。
図2はインクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図である。
図3は図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
図4はインクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
図5はインクカートリッジの一例を示す縦断面図である。
図6は記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明にかかるインクジェット記録用インクに、少なくとも1種のアゾ基を有さない水難溶性の染料を含有させることによって、水分散色材の分解物のヒーター上への堆積を防止でき、ヒーターの耐久性を向上させることができた。
本発明のインクジェット用記録インク及びインクジェット記録方法がヒーターの耐久性を向上できる理由は、優れた結果と、色材の特性から以下のように考えている。即ち、上記水難溶性色材は、水への溶解性が低いため、電気熱変換素子である吐出ヒーター上方に熱エネルギーにより形成される気泡の発泡及び消泡の工程中、インクと気泡との界面に存在しやすい。そして、インクと気泡との界面が極めて急速にその面積を増減するため、その結果として、瞬間的に上記水難溶性色材の多くが、変化する界面に沿って、規則性を持って多く存在し、多数の水難溶性色材分子の積層からなる膜状体をヒーター表面上に形成する。吐出性能の結果からも、この膜は極めて薄いものであり、ヒーターからインクに対する熱伝導に対して悪影響を与えることはない。この膜は、見かけ上、膜であるが、水難溶性色材が間隔を介して複数堆積しているようなものであるため、熱によって分解することが無く、インク中に気泡がなくなると、インク中の溶媒成分に溶解して、存在の確認ができなくなる。特に、インクジェット記録ヘッドの使用頻度が進み、ヒーターを加熱するための電気パルス数の累積数が増加したときでも、上記水難溶性染料が存在する系では、これらの物質の層が存在するためにコゲーション物質がヒーター面上に堆積しにくく、結果物としても堆積物は極めて少なかった。また、この物質により形成されたヒーター上の薄い膜により、ヒーターの保護層の削れも起きにくい結果となった。また、本発明に用いられる水難溶性染料はアゾ基を有さないので、ヒーターの熱エネルギーによってアゾ基の窒素結合が分解されることがなく、また、アゾ基を有さない染料は、一般的にヒーターの熱エネルギーで分解される結合が少ないため、コゲーションの原因になり得る染料の分解物が生じににくい。以上のことが相乗的に作用し、ヒーター表面に膜を形成するアゾ基を有さない水難溶性の染料を用いることで、ヒーターの耐久性を向上させることができるものと推定される。特に、本発明インクは、上記水難溶性色材が形成する膜形成をより効率よく行うために、水に対して可溶ではあるが界面に配向する特性を有し、上記水難溶性色材に対し水よりは溶解性の高い溶剤を有することが好ましい。
本発明で使用できる水分散色材としては、顔料及び分散性染料等が挙げられるが、特に顔料が好ましい。顔料の例としては、上記性能を満足する顔料ならばどのような顔料でも使用可能だが、顔料インクの黒色インクに使用される顔料としてはカーボンブラックが好適に使用される。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA−、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上、コロンビア社製)、ブラックパールズ(BlackPearls、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上、キャボット社製)、カラーブラック(ColorBlack)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(SpecialBlack)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上、デグッサ社製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学社製)等の市販品や、別途新たに調製されたものも使用することができる。
有機顔料として具体的には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、チオインジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等のその他の顔料が例示できる。
また、有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71、C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、C.I.ピグメントブラウン23、25、26等が例示できる。
本発明におけるインク100質量部中の水分散色材の固形分量は好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。0.5質量部以上のとき、十分な画像濃度が得られ、10質量部以下であると記録液の粘度が高くなりすぎず、インクをノズル先端から安定的に吐出させやすい。
本発明で使用する顔料の種類としては、顔料の表面に少なくとも1つの親水性基が直接、若しくは、他の原子団を介して結合している自己分散型顔料でも、樹脂や界面活性剤といった分散剤を使用することで、顔料を水中で分散させる分散型顔料でも構わないが、特に分散剤分散型顔料において本発明の効果を得ることができる。
これらの2つの型の顔料はそれぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明で必要に応じて使用する分散剤としては、水溶性樹脂ならどのようなものでも使用することができる。具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つ以上の単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、あるいはランダム共重合体、グラフト共重合体、またはこれらの塩等が挙げられる。あるいは、ロジン、ジェラック、デンプン等の天然樹脂も好ましく使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。これらの樹脂は、それぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
分散剤として用いられる界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩等のアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレン基等のノニオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤が挙げられ、これらの界面活性剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
上記のような分散剤の中で、本発明を実施する上で特に好ましい分散剤は、ブロック共重合体である。ブロック共重合体は、疎水性のブロックと親水性のブロックとを有し、また分散安定性に貢献する均衡のとれたブロックサイズを有するブロック共重合体は、特に本発明を実施する上で有利である。官能基を疎水性ブロック(水分散色材が結合するブロック)に組み込むことができ、それによって分散安定性を改善するために分散剤と水分散色材との間の特異的相互作用は、よりいっそう強化される。その高度な分散安定性によりとりわけバブルジェット方式のインクジェットヘッドの耐久性において有利となる。また、共重合体の使用量は、該共重合体の構造、分子量、及び他の特性、さらにインク組成物の他の成分に依存する。本発明を実施する上で選択される共重合体の重量平均分子量は、30,000未満、好ましくは20,000未満、より好ましくは2,000ないし10,000の範囲内である。
ブロック共重合体に用いることができる代表的な疎水性モノマーとしては、次のモノマーがあるがこれらに限定されるものではない:メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート(BMAまたはNBMA)、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート(EHMA)、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート(LMA)、ステアリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ヒドロキシルエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、p−トリルメタクリレート、ソルビルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、フェニルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、p−トリルアクリレート及びソルビルアクリレート等である。好ましい疎水性モノマーは、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート及び2−エチルヘキシルメタクリレートである。また、これらのモノマーの重合体としては、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート及び2−エチルヘキシルメタクリレートのいずれか一つのモノマーのみから製造されたホモポリマー、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート及び2−エチルヘキシルメタクリレートのコポリマー並びにメチルメタクリレートとブチルメタクリレートとのコポリマーが好ましい。
また、ブロック共重合体に用いることができる代表的な親水性モノマーとしては、次のモノマーがあるがこれらに限定されるものではない:メタクリル酸(MAA)、アクリル酸、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、ジエチルアミノエチルメタクリレート、第3−ブチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、アクリルアミド及びジメチルアクリルアミド等が挙げられる。これらのモノマーの重合体としては、メタクリル酸、アクリル酸及びジメチルアミノエチルメタアクリレートのいずれか一つのモノマーのみから製造されたホモポリマー並びにメタクリル酸、アクリル酸及びジメチルアミノエチルメタアクリレートのコポリマーが好ましい。
酸を含有するポリマーは直接製造されるか、または重合後、除去されるブロッキング基を有するブロックされたモノマーから製造される。ブロッキング基の除去後に、アクリル酸またはメタクリル酸を生ずるブロックされたモノマーの例としては、トリメチルシリルメタクリレート(TMS−MAA)、トリメチルシリルアクリレート、1−ブトキシエチルメタクリレート、1−エトキシエチルメタクリレート、1−ブトキシエチルアクリレート、1−エトキシエチルアクリレート、2−テトラヒドロピラニルアクリレート及び2−テトラヒドロピラニルメタクリレートが挙げられる。
このブロック共重合体型の分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上の割合で使用される。また、インク100質量部中の分散剤の総量は、0.1〜25質量部の範囲であるのが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。分散剤の含有量をこの範囲とすることにより、所望のインク粘度を維持するとともに、良好な分散安定性を維持することができる。
更に、インク吐出性を改善するために、本発明のインクにノニオン系の界面活性剤を添加しても良い。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物等が好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLBは10以上が好ましく、12以上がより好ましく、15以上が更に好ましい。これら界面活性剤の使用量は、インク吐出持続性の効果を十分に得るために、インク全質量100質量部に対し0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、0.8質量部以上であるのが更に好ましい。また、界面活性剤の使用量が多すぎるとインクの粘度が高くなりすぎる場合があるため、インク全質量100質量部に対し3質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下が更に好ましい。
次に、本発明において用いられるアゾ結合を有さない水難溶性染料について説明する。この染料は、本発明で目的とされる性能を満足するものならばどのようなものでも使用可能であり、これらは1種だけをも用いても、2種以上を組み合わせて用いても良い。
また、アゾ結合を有さない水難溶性の染料のとしては直接染料及び酸性染料等が挙げられる。直接染料の好ましい具体例としては、C.I.ダイレクトブラック62、102、C.I.ダイレクトイエロー11、87、105、106、130、C.I.ダイレクトオレンジ39、及びC.I.ダイレクトブルー86、106、108、189、199等が挙げられる。
酸性染料の好ましい具体例としては、C.I.アシッドブラック2、C.I.アシッドイエロー7、73、C.I.アシッドレッド50、51、52、82、92、94、289、C.I.アシッドバイオレット15、17、C.I.アシッドブルー1、7、9、22、23、25、40、41、43、62、78、83、90、93、103、C.I.アシッドグリーン3、9、16、25、27等が挙げられる。
これらの中でも、ヒーター表面上への膜形成能が高いこと、及び記録画像の耐水性の点から直接性の染料を使用することが特に好ましく、さらに染料の構造中にスルホン基を有し、二量体構造であるものが好ましい。 その例としては、後述の実施例に挙げるC.I.ダイレクトイエロー87が好ましい。
本発明にかかるアゾ基を有さない水難溶性染料の水への溶解性は3質量%以下であることが好ましい。これは、ヒーターからの熱によってインク中の水分が減少するにつれ、水への溶解度の低い該染料が析出、ヒーター表面上への薄膜形成が生じやすくなるためと考えられる。
上記水難溶性染料を使用する際には、色味の面で、含有する水分散色材の色と近い色を使用することが好ましいが、色味に影響を与えない範囲であれば、異なる色のものを用いても良い。本発明におけるインク中のアゾ基を有さない水難溶性染料の含有量は、水分散色材の含有量の2倍以上(質量基準)とすることで、インクジェットヘッドのコゲ防止が高レベルに達成される。また、優れたインク吐出性を得るためには10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。
また、本発明において、印字物にOD値や色味や耐水性と言った所望の特性を付与するために、上記で説明した顔料、有機色材の他に、従来より公知の水溶性染料である、水溶性のアニオン性染料や、直接染料、酸性染料、反応染料等を用いることができる。
更にまた、アゾ基を有さない水難溶性の有機色材が蛍光性を有する染料であると、本発明に係るインクは蛍光インクとなる。そして、より好ましい蛍光インクとするためには、アゾ基を有さない水難溶性の蛍光染料(第1の蛍光色材)とともに第2の蛍光色材が併含され、基準励起波長の付与により蛍光発光する波長の内、測定または判定に利用される基準蛍光波長の発光をもたらす第1蛍光色材を含み、前記基準励起波長により蛍光発光する第1の蛍光色材を有し、該第1の蛍光色材の発光波長域が、少なくとも、前記インク中にある前記第2の蛍光色材の前記基準蛍光波長の発光を得るための励起波長域のうち前記基準蛍光波長に隣接するピーク領域に相当するピーク波長領域を含んでいるのが好ましい。
具体的には、第1の蛍光染料としての下記式(A)で示される化合物と第2の蛍光染料としてのアシッドレッド52の組み合わせが特に好ましい。

この化合物(A)は、構造上、2量体蛍光発光団を複数有しているため、会合防止機能を備え、化合物(A)自身の添加量を増加させることも可能である。また、蛍光発光団は比較的平面構造をとるため、化合物(A)の分子全体としても平面構造をとりやすく、その結果、分子同士が間隔を介して複数堆積しやすい。さらに、化合物(A)は、スルホン基を有する水難溶解性(98質量%純水に対しての溶解性は2質量%未満である)の直接性染料で、有機溶剤に対しては良溶解性である。また、インク中に使用する溶剤は、化合物(A)を高溶解する有機溶剤を用いることが好ましい。さらには、液溶媒として界面活性剤を含むことが好ましい。この溶媒関係によって、さらに化合物(A)を均一化する特徴とが十分に発揮される。
次に、上記で説明した本発明のインクを構成する水性液媒体について説明する。本発明で使用する水性液媒体としては、水を主成分とすることが好ましく、インク中の水の含有量はインク全質量に対して、10〜95質量%が好ましく、より好ましくは25〜93質量%、更に好ましくは40〜90質量%の範囲とするのが良い。本発明で使用する水としては、イオン交換水が好ましく用いられる。
また、本発明のインクにおいては、水性液媒体として、水を単独で用いても良いが、水に水溶性有機溶剤を併用させることによって、本発明の効果をより顕著にすることもできる。
本発明で使用できる水溶性有機溶剤としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1−5のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキシレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール類;チオジグリコール;ビスヒドロキシエチルスルホン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、ブチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、ブチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、ブチル)エーテル等の低級アルキルグリコールエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の低級ジアルキルグリコールエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。
これらの水溶性有機溶剤のインク中の含有量は、一般的には、インクの全質量100質量部に対して合計して50質量部以下が好ましく、より好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは10〜30質量部の範囲とするのが良い。これらの溶剤の中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、2−ピロリドン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオールを用いることが好ましい。
また、本発明のインク中に、溶剤と同じような保湿剤として、尿素やエチレン尿素、トリメチロールプロパンを含有させることも好ましい。特に、エチレン尿素、トリメチロールプロパンは本発明に非常に適したものである。これらの含有量は、インク全質量100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、また、20質量部以下であることが好ましい。
また、本発明においては、インク中に、界面活性剤が含まれていることが好ましい。これは、インクをヘッド中で発砲させる際に、インクと気泡の界面に界面活性剤が存在するため、水難溶性染料が界面側に存在しやすくなり、界面活性剤が含まれない系よりも気泡の消滅時にヒーター上で膜を形成しやすくすると推定されるからである。
界面活性剤はノニオン系、アニオン系、カチオン系のいずれでもよいが、水難溶性染料がアニオン系であることから、ノニオン系及びアニオン系が好ましく、更には、ノニオン系が好ましい。ノニオン系界面活性剤は、水溶液状態で、該水溶液からそれ自身が相分離しないものであることが好ましい。更に、ノニオン系界面活性剤のインク中の含有量を、水溶液の状態でエマルジョン状態を保持できる添加量以下に選択すると、インクの安定性の低下に対する不安がなくなるので好ましい。
更に、本発明においては、界面活性剤のHLBは、水溶性の点から、6〜13の間のものを使用するのが好ましい。
以上に挙げた要件を具備するノニオン系界面活性剤の中でも、本発明のインクの構成成分とするの特に好ましいものとしては、下記の一般式(I)で示される化合物及び下記(II)〜(VII)に列挙した化合物が挙げられるが、これらに限定されるのもではない。

[上記一般式(I)において、A及びBは夫々独立に、CnH2n−1(nは1〜10の整数)を表し、X及びYは、それぞれ開環したエチレンオキサイドユニット及び/または開環したプロピレンオキサイドユニットを表す。]

また、上記一般式(I)で表されるノニオン系界面活性剤の中でも特に好ましいのは、下記の一般式(VIII)で示される化合物である。

本発明のインク中には上記成分の他、必要に応じて、インクに所望の性能を与えるための消泡剤、表面張力調整剤、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、酸化防止剤、蒸発促進剤、防錆剤、防カビ剤及びキレート化剤等の添加剤を配合してもよい。
また、本発明のインクの粘度は、25℃において0.7〜12cPの範囲内にあることが好ましい。インクの粘度が上記範囲内にあることによって、インクジェット記録において正常な吐出を行なうことができると共に被記録材への浸透が早く、定着性の面からも好ましい。
本発明に用いられるインクの表面張力は、25℃において20〜60dyne/cmの範囲に調整されることが好ましい。表面張力が20dyne/cm以上のとき、インクジェット記録において液滴を吐出した後、メニスカスを引き戻そうとする力が強いか、或は、逆にメニスカスが突出した際に、引き戻す力が比較的強い為、泡を抱き込んだり、オリフィス部が濡れるといったことが起こらず、ヨレの原因とならない。
以上のようにして構成される本発明のインクは、インクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出するバブルジェット記録方法に特に好適である。
次に、上記した本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な本発明のインクジェット記録装置の一例を以下に説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるヘッド構成の一例を、図1及び図2に示す。図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は、図1の2−2線での切断面図である。
ヘッド13は、インクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と、発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコンやTa等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1及び17−2、HfB、N、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性のよい材料で形成される基板20よりなっている。
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、被記録材25に向かって飛翔する。図3には、図1に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
図4に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
62は、記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63は、ブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって、吐出口面の水分や塵埃等の除去が行われる。
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する被記録材にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は、記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66は、ガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部は、モーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66は、ガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
51は、被記録材を挿入するための紙給部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により、記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ被記録材が給紙され、記録が進行するにつれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において、記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は、上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例の断面図である。ここで40は、供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は、廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としてはインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
本発明のインクジェット記録装置は、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すような、それらが一体になったものも好ましい形態である。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが、複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としては、ポリウレタンを用いることが好ましい。又、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72は、カートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
先に説明した構成を有する本発明のインクは、着色剤を適宜に選択することによって、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、グリーン、ブルー又はブラックのインクとすることができる。これらのインクは、各々単独で画像記録に用いてもよいが、2つ以上の異なる色のインクを組み合わせて、カラー画像の形成に好適に用い得るインクセットとすることもできる。又、同じ色調の、異なる着色剤を含む2つ若しくはそれ以上のインクを組み合わせたり、同じ色調の、濃度の異なる2つ若しくはそれ以上のインクを組み合わせることによって高階調の画像形成に好適に用いることのできるインクセットを提供することもできる。
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の記載で%とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
(1)水分散色材の分散液の調製
まず、ベンジルアクリレートとメタクリル酸を原料として、常法により、酸価250、数平均分子量2000のAB型ブロックポリマーを作り、更に、水酸化カリウム水溶液で中和し、イオン交換水で希釈して均質な50%ポリマー水溶液を作成した。
上記のポリマー水溶液を120g、水分散色材としてC.I.ピグメントレッド122を100g及びイオン交換水を280g混合し、そして機械的に0.5時間撹拌した。ついで、マイクロフリュイダイザーを使用し、この混合物を、液体圧力約10,000psi(約700kg/cm)下で相互作用チャンバ内に5回通すことによって処理した。
更に、上記で得た分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去し、大粒子径側のマゼンタ顔料分散液を調製した。これとは別に上記方法と同様の方法でマイクロフリュイダイザーのチャンバ内に通す回数を10回とし、より微粒子化を試みた。得られた分散液を遠心分離処理(12,000rpm、20分間)することによって、粗大粒子を含む非分散物を除去し、小粒子径側のマゼンタ顔料分散液を調製した。これら二種類の顔料分散液を混ぜることにより、実施例に使用するマゼンタ顔料分散液を調製した。最終的に得られたマゼンタ顔料の分散液は、その顔料濃度が10.0%、分散剤濃度が7.0%であった。
(2)インクの作製
上記、顔料分散液を使用し、これに実施例1乃至3並びに比較例1及び2に記載の成分を加えて所定の濃度にし、これらを十分に混合撹拌した後、ポアサイズ3μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧濾過することによりインクを調製した。
【実施例1】
マゼンタ顔料分散液 10質量部
化合物(A) 2質量部
グリセリン 10質量部
ジエチレングリコール 5質量部
アセチレノールE100(川研ファインケミカル製アセチレングリコールEO
付加物) 1質量部
BC−30TX(日本サーファクタント工業製ポリオキシエチレンセチルエー
テルEO数30) 1質量部
水 71質量部
【実施例2】
マゼンタ顔料分散液 10質量部
化合物(A) 2質量部
C.I.アシッドレッド52 0.2質量部
グリセリン 5質量部
エチレン尿素 10質量部
アセチレノールE100(川研ファインケミカル製アセチレングリコールEO
付加物) 1質量部
BC−30TX(日本サーファクタント工業製ポリオキシエチレンセチルエー
テルEO数30) 1質量部
水 70.8質量部
【実施例3】
マゼンタ顔料分散液 6質量部
化合物(A) 1質量部
グリセリン 10質量部
ジエチレングリコール 5質量部
アセチレノールE100(川研ファインケミカル製アセチレングリコールEO
付加物) 1質量部
BC−30TX(日本サーファクタント工業製ポリオキシエチレンセチルエー
テルEO数30) 1質量部
水 76質量部
(比較例1)
マゼンタ顔料分散液 10質量部
グリセリン 10質量部
ジエチレングリコール 5質量部
アセチレノールE100(川研ファインケミカル製アセチレングリコールEO
付加物) 1質量部
水 74質量部
(比較例2)
マゼンタ顔料分散液 10質量部
C.I.アシッドレッド52 0.4質量部
C.I.アシッドイエロー73 0.4質量部
2−ピロリドン 5質量部
トリエチレングリコール 8質量部
アセチレノールE100(川研ファインケミカル製アセチレングリコールEO
付加物) 1質量部
BC−30TX(日本サーファクタント工業製ポリオキシエチレンセチルエー
テルEO数30) 1質量部
水 76.2質量部
(評価)
(1)吐出安定性:記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置CANVAS及びキヤノン製プリンターBJS600用のブラックプリントヘッドを用いて、プリンターで印字するヘッド駆動条件と同じ条件で各種インクの吐出速度のばらつきを判定した。その結果を表1に示した。
○:インクの吐出速度のばらつきが2m/s未満。(印字画像に影響がない)
△:インクの吐出速度のばらつきが2m/s以上4m/s未満。(印字画像によっては印字乱れが生じる)
×:インクの吐出速度のばらつきが4m/s以上。(いずれの印字画像においても画像乱れが生じる)
(2)ヘッド耐久性:本実施例のインクをBJS600(キヤノン社製)にて、ブラックインク用の10ノズルを7×10回のパルス駆動まで連続吐出させ、定期的に不吐の発生具合と、ヒーター面の付着物の有無を評価した。その結果を下記表1に示す。
○:問題がないノズルが10本(全ノズル)で、ヒーター面に付着物はみられなかった(印字画像に全く影響がない)
△:問題がないノズルが7本〜9本である(印字画像に影響が生じる)
×:問題がないノズルが6本以下である(印字画像が判別、解読できない)
【表1】

以上の結果及び用いた化合物の物性や割合をはじめとする実施例の諸条件から、前述の本発明のメカニズムが生じていることは明らかである。また、水難溶性染料の含有量が水分散色材の含有量が2倍以上である実施例1及び2と水難溶性染料の含有量が水分散色材の含有量が約1.7倍である実施例3の結果を比較すれば、実施例1及び2の構成が耐久性の点でより好ましいことがわかる。
インクジェット分野では、一般に1×10パルスで良好な画像が得られれば極めて良好な耐久性であって、実用化されている水準であることを考慮すれば、本発明がいかに耐久性が優れているかが上記表から理解されよう。
以上説明したように、本発明によれば、従来技術では達成し得ない高い耐久性を有するインクジェット用インク、特に、バブルジェット記録に好適なインクジェット用インク及びインクジェット記録方法が提供される。また、染料が水難溶性なので、得られた画像は優れた耐水性をも有する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱エネルギーを作用させてインクを吐出するインクジェット記録用インクにおいて、水性液媒体と、水分散色材と、アゾ基を有さない水難溶性の染料と、を含むことを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項2】
前記アゾ基を有さない水難溶性染料が水分散色材に対して質量基準で2倍以上含まれていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項3】
前記アゾ基を有さない水難溶性の染料が直接性染料である請求項1または2に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項4】
前記水分散色材が顔料である請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項5】
さらに界面活性剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェット記録用インク。
【請求項6】
界面活性剤がノニオン系の界面活性剤またはアニオン系の界面活性剤である請求項5に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項7】
界面活性剤が6〜13のHLBを有する請求項5または6に記載のインクジェット記録用インク。
【請求項8】
熱エネルギーによってインクを吐出口から吐出させて記録媒体に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法において、該インクが請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット記録用インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【国際公開番号】WO2004/096932
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【発行日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571339(P2004−571339)
【国際出願番号】PCT/JP2003/008106
【国際出願日】平成15年6月26日(2003.6.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】