説明

インク吸着体の製造方法及びインク吸着体

【課題】毛羽立ちや繊維の飛散がなく、インクを素早くかつ多量に吸着することが可能であり、さらに難燃性に優れたインク吸着体の製造方法を提供すること。
【解決手段】軟質ポリウレタンフォームを、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を含有する含浸液で浸す含浸工程と、含浸液で浸した軟質ポリウレタンフォームを乾燥することにより、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を軟質ポリウレタンフォーム内に付着させる処理工程と、を含むことを特徴とするインク吸着体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛羽立ちや繊維の飛散がなく、インクを素早くかつ多量に吸着することが可能であり、さらに難燃性に優れたインク吸着体の製造方法、及びインク吸着体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンターの機種は多様化しており、中でもインクジェットプリンターは安価であり、特に家庭用を中心として広く普及している。これに伴い、インクジェットプリンターの技術開発も著しく進歩しており、最近では印刷用紙全体に印刷可能な機種が多くなっている。
【0003】
インクジェットプリンターは、インクを吐出させるためのノズルが多数設けられたヘッドを備えている。そして、ノズルからインクを吐出させながらヘッドを用紙上で移動させ、印刷用紙上にインク液滴を付着させる。近年、印刷用紙全体に印刷する要請があり、このような場合、かかるインクジェットプリンターの機構上、どうしても印刷用紙をはみ出てノズルからインクが吐出される。このため、印刷用紙をはみ出て吐出される余分なインクを吸収するインク吸着体を、印刷用紙の下面あるいは後面に配設する必要がある。
【0004】
また、インクジェットプリンターは、その機構上、しばらく使用していない場合等にノズルの吐出口にインクが固化して詰まったり、異物や気泡がノズルの吐出口に詰まったりすると、印刷不良が発生する。従って、インクジェットプリンターでは、印刷の間隔が長くなった場合や、異物や気泡が詰まった場合に、ノズルからインクを無駄吐きし、インクと共に、固化したインク、異物や気泡を強制的に吐出口外へ排出させることにより、ノズルの清掃を行う必要がある。このため、ノズルの清掃用としても、無駄吐きしたインクを貯留するためのインク吸着体が必要となる。
【0005】
従来、かかるインク吸着体用の材料として不織布、フェルト、ポリビニルアルコール(以下、PVAという)等が使用されていたが、不織布やフェルト等は毛羽立ちした繊維の飛散や、毛羽立ちした繊維を伝ってインクが印刷用紙を汚してしまう等の問題がある。また、PVAは毛羽立ち等の発生は無く、さらにインクの吸着性能は優れるものの、その材質は硬く、加工が困難である。加えて、上記の不織布、フェルト、PVAは全て、難燃性を有するものではないため、近年、特にOA機器及びその部品に要求される難燃性の基準を満たすものではない。
【0006】
一方、毛羽立ち等の問題が発生しないインク吸着体用の材料として軟質ポリウレタンフォームが挙げられる。下記特許文献1では、軟質ポリウレタンフォームに、界面活性剤を含浸処理したインク廃液吸収体が記載されている。かかる吸収体は毛羽立ちの現象がなく、また毛羽等の落ちもなくプリンターの機能に悪影響を与えないものではあるが、軟質ポリウレタンフォームは基本的に難燃性を有するものではない。
【0007】
【特許文献1】特開2005−336501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、毛羽立ちや繊維の飛散がなく、インクを素早くかつ多量に吸着することが可能であり、さらに難燃性に優れたインク吸着体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係るインク吸着体の製造方法は、軟質ポリウレタンフォームを、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を含有する含浸液で浸す含浸工程と、前記含浸液で浸した前記軟質ポリウレタンフォームを乾燥することにより、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を前記軟質ポリウレタンフォーム内に付着させる処理工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
かかるインク吸着体の製造方法では、バインダーを介して無機系難燃剤を軟質ポリウレタンフォーム内に付着させることにより、軟質ポリウレタンフォームの難燃性を高めることができる。さらに、界面活性剤を軟質ポリウレタンフォーム内に付着させることにより、インクに対する軟質ポリウレタンフォームの吸着速度を高めることができる。
【0011】
上記インク吸着体の製造方法において、さらに軟質ポリウレタンフォームの熱圧縮工程を含むことが好ましい。軟質ポリウレタンフォームを熱圧縮すると、フォーム中の空隙率が低下するため、毛細管現象によりインク吸着体のインク吸着速度をさらに高めることができる。なお、かかる熱圧縮工程を含浸工程及び処理工程前に行うと、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を含有する含浸液が軟質ポリウレタンフォーム中に含浸し難いため、含浸工程及び処理工程後に行うことが好ましい。
【0012】
また、上記インク吸着体の製造方法において、前記バインダーが、ポリクロロプレンゴムを主成分とするものであることが好ましい。バインダーとして、ポリクロロプレンゴムを主成分とするものを使用した場合、軟質ポリウレタンフォームに対してポリクロロプレンゴムが良好な接着性を有することから、無機系難燃剤の付着力がより高まり、加えてポリクロロプレンゴム自体が難燃性を有することから、軟質ポリウレタンフォームの難燃性をより高めることができる。
【0013】
別の本発明に係るインク吸着体は、軟質ポリウレタンフォームを、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤で含浸処理したことを特徴とする。
【0014】
かかるインク吸着体は、インクを素早くかつ多量に吸着することが可能であり、さらに難燃性に優れたものである。
【0015】
本発明のインク吸着体は、インクジェットプリンター用インク吸着体として有用であり、特にインクジェットプリンターにおいて、印刷用紙全体に印刷する場合に印刷用紙の下面あるいは後面に配設されるインク吸着体、あるいは廃液インクの吸着体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において使用される軟質ポリウレタンフォームは、ポリオール、イソシアネート、触媒及び発泡剤を混合して発泡原液組成物とし、かかる発泡原液組成物を反応させることにより得られる。上記ポリオール、イソシアネート、触媒及び発泡剤としては、当業者に公知の軟質ポリウレタンフォーム用のものを限定無く使用することができる。なお、上記発泡原液組成物は、要求される特性に応じて、ポリオール、イソシアネート、触媒及び発泡剤以外にも、例えば充填剤、帯電防止剤や着色剤等を含有してもよい。
【0017】
軟質ポリウレタンフォームは、上記発泡原液組成物を反応して得られたフォームをそのまま使用してもよいが、軟質ポリウレタンフォームを熱圧縮した場合、インク吸着速度及び吸着量を高めることができる。ここで、軟質ポリウレタンフォームを熱圧縮する際の熱圧縮率は、フォーム密度において1〜10倍とすることが好ましく、1.5〜5倍とすることがより好ましい。軟質ポリウレタンフォームを熱圧縮する方法としては、特に限定されるものではないが、熱プレス法により行うことが好ましい。かかる熱プレス法の条件としては、例えば180℃〜210℃にて、3分間熱プレスする条件が挙げられる。
【0018】
無機系難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、亜鉛華等が挙げられる。軟質ポリウレタンフォームへの付着性を高めるために、無機系難燃剤は粉末状であることが好ましく、具体的には平均粒径が100〜1μmの粉末状であることが好ましい。かかる無機系難燃剤の中でも、特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン又は亜鉛華が、軟質ポリウレタンフォームをより効果的に難燃化する観点から好ましい。なお、無機系難燃剤は単独で使用してもよく、あるいは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。無機系難燃剤を単独で使用する場合は、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムが好ましく、2種類以上を組み合わせて使用する場合は、水酸化アルミニウムと亜鉛華、水酸化マグネシウムと亜鉛華、又は水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとの組み合わせが好ましい。
【0019】
バインダーとしては、例えば天然ゴム若しくはポリクロロプレンゴムを主成分とするゴム系、アクリル系、又はエポキシ系等の各種バインダーが使用可能であるが、軟質ポリウレタンフォームに対する無機系難燃剤の付着力、及びインク吸着体の難燃性を考慮すると、ゴム系のものが好ましい。ゴム系の中でもポリクロロプレンゴムを主成分とするものである場合、入手性及び取扱性等を考慮すると、エマルジョンタイプのものが好ましい。かかるポリクロロプレンゴム系エマルジョンとしては、市販品を使用してもよく、あるいは通常のエマルジョン重合したポリクロロプレンゴムを、エマルジョンのまま使用してもよい。天然ゴムを主成分とするものである場合、入手性及び取扱性等を考慮すると、天然ゴムラテックスタイプのものが好ましい。
【0020】
界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリビニルアルコール等の高分子量タイプ、あるいは脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等の低分子量タイプである非イオン系界面活性剤、その他、メチルセルロース、ヒドロオキシセルロース、水溶性ビニルポリマー等が挙げられる。かかる非イオン系界面活性剤として市販品の使用も好適であり、例えばノイゲンXL60(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0021】
本発明に係るインク吸着体の製造方法としては、上記無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を含有する含浸液を調整し、バッチ方式あるいは連続ライン方式にて、軟質ポリウレタンフォームをかかる含浸液で浸し、その後、例えば所定の含浸ローラーのクリアランスを通過させることで、軟質ポリウレタンフォームが所望量の含浸液を保持するように調整する。
【0022】
続いて、所望量の含浸液を保持した軟質ポリウレタンフォームを乾燥し、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を軟質ポリウレタンフォーム内に付着させることにより、インク吸着体を製造することができる。かかる乾燥条件としては、例えば80℃〜110℃に設定した熱風オーブンにて、60分間乾燥する条件が挙げられる。
【0023】
上記の方法にて得られたインク吸着体の乾燥後の密度(仕上がり密度)は、30〜100kg/mが好ましく、40〜80kg/mがより好ましい。
【0024】
その後、必要に応じて無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を付着させた軟質ポリウレタンフォーム(含浸工程及び処理工程後の軟質ポリウレタンフォーム)を熱圧縮することにより、インク吸着速度をさらに高めたインク吸着体を製造することができる。
【実施例】
【0025】
本実施例及び比較例にて使用した原料は以下の通りである。
(A)軟質ポリウレタンフォーム
ソフラン#1810 (東洋ゴム工業社製、フォーム密度:18kg/m
(B)PVA フォーム密度180kg/m、厚み3mm
(C)無機系難燃剤及びバインダー(無機系難燃剤として、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン及び亜鉛華が添加されたクロロプレン系エマルジョン)
クロロプレンSFX−19A (ガンツ化成社製、固形分60%)
(D)界面活性剤
ノイゲンXL60 (第一工業製薬社製)
【0026】
(評価)
1)インク吸着体の乾燥後の密度(仕上がり密度)
100mm×100mm、厚さ3mmのインク吸着体サンプルを切り出し、かかるサンプルの重量測定を行って密度を算出した。
【0027】
2)インク吸着性(吸水性)(g/cm
容器に水を溜め、その中に50mm×50mmに切り出したインク吸着体サンプルを水面に浮かべた。浮かべてから1分間放置後、かかるサンプルを取り出し、5秒間水切り後のサンプル重量を測定し、単位体積当りの吸水性(g/cm)を算出した。
【0028】
3)インク吸着力(吸水力)(cm)
容器に水位3cmとなるように水を溜め、その中に断面形状が3mm×15mm、長さが120mmとなるように切り出したインク吸着体サンプルを、サンプルの長さ方向が水面に対して垂直となるように載置した。30分間放置後にかかるサンプルが長さ方向に吸い上げた水の高さを吸水力(cm)として測定した。
【0029】
4)滴下試験(秒)
インク吸着体サンプルに対し、5cmの高さ地点からかかるサンプルに向けて0.03ccの水を滴下し、その水滴がサンプルに吸収されるまでの所要時間(秒)を測定した。
【0030】
5)線膨張率(%)
表面寸法が略、縦100mm×横100mmとなるように切り出したインク吸着体サンプルを水中に浸し、かかるサンプルを水中で圧縮することにより、サンプルに含まれる空気を追い出した。水中で1時間放置後、かかるサンプルの表面寸法を水中にて測定し、水中に浸す前の初期縦寸法をL1mm、初期横寸法をL2mm、水中で1時間浸した後の縦寸法をL1’mm、横寸法をL2’mmとした場合に、次式により線膨張率1及び線膨張率2を算出した。
(線膨張率1)=(L1’/L1)×100
(線膨張率2)=(L2’/L2)×100
かかる縦(線膨張率1)及び横(線膨張率2)線膨張率の平均値をサンプルの線膨張率(%)とした。
【0031】
6)難燃性
UL−94に準拠して難燃性を評価した。UL−94 HF1基準に合格であれば○、不合格であれば×とした。
【0032】
(実施例、比較例)
1)実施例1
無機系難燃剤として水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン及び亜鉛華が添加されたクロロプレン系エマルジョン(固形分60%)に対して、界面活性剤を1重量%の割合で添加した含浸液を調整した。かかる含浸液に軟質ポリウレタンフォームを浸し、所望量の含浸液を保持するようにクリアランスを調整した含浸ローラーを通過させた。ここで、インク吸着体の仕上がり密度が60kg/mとなるように、かかる含浸ローラーのクリアランスを予め調整した。続いて、上記含浸液を保持した軟質ポリウレタンフォームを乾燥し(乾燥温度90℃、乾燥時間60分)、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を軟質ポリウレタンフォーム内に付着させることにより、インク吸着体(厚み7.5mm、仕上がり密度60kg/m)を製造した。
【0033】
2)実施例2
実施例1で製造したインク吸着体(厚み7.5mm、仕上がり密度60kg/m)を、60%の熱圧縮率にて熱圧縮(熱プレス)することにより、インク吸着体(仕上がり密度125kg/m)を製造した。
【0034】
3)比較例1
PVAを所定のサンプル形状に成形することによりインク吸着体を製造した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1より、比較例1において製造されたインク吸着体は難燃性を有するものではないのに対し、実施例1で製造されたインク吸着体は、難燃性に優れていることがわかる。また、実施例2で製造されたインク吸着体は、難燃性に優れていることに加えて、インク吸着速度及びインク吸着量が優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質ポリウレタンフォームを、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を含有する含浸液で浸す含浸工程と、
前記含浸液で浸した前記軟質ポリウレタンフォームを乾燥することにより、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を前記軟質ポリウレタンフォーム内に付着させる処理工程と、を含むことを特徴とするインク吸着体の製造方法。
【請求項2】
さらに軟質ポリウレタンフォームの熱圧縮工程を含む請求項1記載のインク吸着体の製造方法。
【請求項3】
前記バインダーが、ポリクロロプレンゴムを主成分とするものである請求項1又は2記載のインク吸着体の製造方法。
【請求項4】
軟質ポリウレタンフォームを、無機系難燃剤、バインダー及び界面活性剤を含浸処理したことを特徴とするインク吸着体。

【公開番号】特開2009−173753(P2009−173753A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12934(P2008−12934)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】