説明

インク管理装置、インク管理方法、及びインク塗布システム

【課題】複数の揮発性有機溶剤と有機溶質とを含むインクにおいて、複数の揮発性有機溶剤の組成比と溶質濃度とを、容易に測定することができる。
【解決手段】2種類の揮発性有機溶剤の混合溶媒に有機溶質が溶解している溶液であるインクを管理するインク管理装置100であって、インクの吸光度を測定する吸光度測定部110と、インクの屈折率を測定する屈折率測定部120と、2種類の揮発性有機溶剤と有機溶質とのうちインクに添加すべき物質を判定する判定部130とを備え、判定部130は、吸光度及び屈折率を用いて、2種類の揮発性有機溶剤の組成比と有機溶質の濃度とを算出する算出部131と、算出部131によって算出された組成比及び濃度が、それぞれに予め定められた基準値に近づくように、添加すべき物質を判定する物質判定部133とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の有機溶剤の混合溶媒に有機溶質が溶解している溶液であるインクを管理するインク管理装置に関し、特に、複数の有機溶剤の組成比、及び、有機溶質の濃度を管理するインク管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、揮発性の高い有機溶剤(以下、揮発性有機溶剤と記載する)と有機溶質とを含むインクを塗布し、塗布したインクを乾燥させてパターンを形成することで、デバイスなどの被膜を形成する技術が知られている。この技術において、所望の膜厚の被膜を形成するためには、インクに含まれる有機溶剤の組成比、及び有機溶質の濃度などを管理し、調整する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂を含む溶液である樹脂液の屈折率を測定することにより、樹脂液の濃度を調整する技術が記載されている。具体的には、樹脂液の屈折率測定を行い、初期屈折率より増加した場合は、溶媒を添加、減少した場合は溶質を添加する。このようにして、樹脂液の濃度を所望の濃度になるように調整している。
【0004】
また、特許文献2には、塗料の使用前後の屈折率を測定し、測定結果に応じて溶剤組成と溶質濃度とを決定する技術が記載されている。具体的には、塗料に使用する溶剤及び溶質の屈折率測定を行い、さらに、一定期間使用した後に固形分率と屈折率とを測定する。このようにして、使用前後の屈折率に基づいて溶剤組成及び溶質濃度を決定することで、塗料の管理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−290953号公報
【特許文献2】特開2002−294169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、以下のような課題がある。
まず、特許文献1に記載の技術には、複数の揮発性有機溶剤を含むインクに適用することができないという課題がある。確かに、特許文献1に記載の技術では、溶剤として揮発性の低い水溶剤を利用しているため、屈折率の変動を一義的に溶質濃度として決定することはできる。
【0007】
しかしながら、複数の有機溶剤を使用した場合、屈折率測定の結果には、溶剤の組成比の変動と溶質の濃度の変動との両方の影響が現れる。このため、特許文献1に記載の技術では、溶剤と溶質とのいずれを調整すればよいのかを判別することができないので、複数の揮発性有機溶剤を含むインクに適用することができない。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術には、固形分率を測定するために、加熱又は減圧により揮発性有機溶剤を除去する必要があり、工程が煩雑になるという課題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、複数の揮発性有機溶剤と有機溶質とを含むインクにおいて、複数の揮発性有機溶剤の組成比と溶質濃度とを、容易に測定することができるインク管理装置、インク管理方法、及び、インク塗布システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るインク管理装置は、2種類の揮発性有機溶剤の混合溶媒に有機溶質が溶解している溶液であるインクを管理するインク管理装置であって、前記インクの吸光度を測定する吸光度測定部と、前記インクの屈折率を測定する屈折率測定部と、前記2種類の揮発性有機溶剤と前記有機溶質とのうち前記インクに添加すべき物質を判定する判定部とを備え、前記判定部は、前記吸光度測定部によって測定された吸光度、及び、前記屈折率測定部によって測定された屈折率を用いて、前記2種類の揮発性有機溶剤の組成比と、前記有機溶質の濃度とを算出する算出部と、前記算出部によって算出された組成比及び濃度が、それぞれに予め定められた基準値に近づくように、添加すべき物質を判定する物質判定部とを有する。
【0011】
これにより、吸光度測定と屈折率測定とを行うことで、インクに含まれる揮発性有機材料の組成比と、インクに含まれる有機溶質の濃度とを容易に測定することができる。
【0012】
また、前記算出部は、前記吸光度測定部によって測定された吸光度を用いて、前記有機溶質の濃度を算出し、算出した濃度と、前記屈折率測定部によって測定された屈折率とを用いて、前記2種類の揮発性有機溶剤の組成比を算出してもよい。
【0013】
これにより、吸光度測定により有機溶質の濃度を算出することができるので、算出した結果と屈折率測定の結果とを用いて揮発性有機溶剤の組成比を算出することができる。したがって、インクに添加すべき物質を正しく決定することができる。
【0014】
また、前記インク管理装置は、さらに、前記判定部によって添加すると判定された物質を前記インクに添加する添加部を備えてもよい。
【0015】
これにより、算出した濃度と組成比とに基づいて判定した物質をインクに添加するので、インクの組成比及び濃度を容易に調整することができる。
【0016】
また、前記判定部は、さらに、前記算出部によって算出された組成比と第1基準値との差である第1差分と、前記算出部によって算出された濃度と第2基準値との差である第2差分とを算出する差分算出部と、前記第1差分と前記第2差分との少なくとも一方が小さくなるように、前記物質判定部によって添加すると判定された物質の添加量を決定する添加量決定部とを有し、前記添加部は、前記判定部によって添加すると判定された物質を、前記添加量決定部によって決定された添加量だけ前記インクに添加してもよい。
【0017】
また、前記インクは、前記2種類の揮発性有機溶剤として、第1揮発性有機溶剤と第2揮発性有機溶剤とを含み、前記算出部は、前記第2揮発性有機溶剤に対する前記第1揮発性有機溶剤の割合を、前記組成比として算出し、前記判定部は、前記算出部によって算出された組成比が第1基準値より大きい場合に、前記第2揮発性有機溶剤を添加すべき物質として判定し、前記算出部によって算出された組成比が前記第1基準値より小さい場合に、前記第1揮発性有機溶剤を添加すべき物質として判定してもよい。
【0018】
また、前記判定部は、前記算出部によって算出された濃度が第2基準値より大きい場合に、前記2種類の揮発性有機溶剤を添加すべき物質として判定し、前記算出部によって算出された濃度が前記第2基準値より小さい場合に、前記有機溶質を添加すべき物質として判定してもよい。
【0019】
また、前記吸光度測定部は、さらに、前記添加部によって物質が添加された後の添加後インクの吸光度を測定し、前記屈折率測定部は、さらに、前記添加後インクの屈折率を測定してもよい。
【0020】
これにより、添加後インクの吸光度及び屈折率を測定することができるので、インクの組成比及び濃度をより精度良く調整することができる。
【0021】
また、前記吸光度測定部は、テーパー形状の管を備え、前記インクを前記管に流入させ、前記管の側面から光を照射し、入射光の強度と出射光の強度とを測定することで、前記インクの吸光度を測定してもよい。
【0022】
これにより、インク流路をテーパー状にし、入射光を照射する位置を変更することで、光路長を容易に変更することができる。したがって、インク流路を流れるインクの種類に応じて、最適な光路長を選択することが可能となり、様々な種類のインクに適用することができる。
【0023】
また、前記吸光度測定部と前記屈折率測定部とは、前記吸光度の測定と前記屈折率の測定とをインラインで行ってもよい。
【0024】
これにより、インラインでインクの調整を行うことができるので、実際に使用するインクをリアルタイムで評価及び調整することができる。
【0025】
また、本発明に係るインク塗布システムは、上記インク管理装置と、前記インク管理装置によって管理されたインクを塗布する塗布装置と、前記インク管理装置と前記塗布装置とを接続し、前記添加部によって物質が添加されたインクを、前記インク管理装置から前記塗布装置へ流入させる第1インク流路とを備え、前記塗布装置は、前記第1インク流路を通って流入したインクを塗布する。
【0026】
これにより、インク管理装置によって、吸光度測定と屈折率測定とを行うことで、インクに含まれる揮発性有機材料の組成比と、インクに含まれる有機溶質の濃度とを容易に測定することができるので、適切に管理されたインクを用いた塗布を行うことができる。したがって、より精度の高い成膜などを行うことができる。
【0027】
また、前記インク塗布システムは、さらに、前記塗布装置が塗布に用いたインクの一部を回収する回収容器と、前記回収容器と前記インク管理装置とを接続し、前記回収容器に回収されたインクを前記インク管理装置へ流入させる第2インク流路とを備え、前記インク管理装置は、前記第2インク流路を通って流入したインクを管理してもよい。
【0028】
これにより、回収したインクを再利用することができるので、コスト削減、及び環境への負荷を低減することができる。
【0029】
また、本発明は、上記の各インク管理装置を構成する処理部をステップとして含むインク管理方法として実現してもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、複数の揮発性有機溶剤と有機溶質とを含むインクにおいて、複数の揮発性有機溶剤の組成比と溶質濃度とを、容易に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施の形態1に係るインク管理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】溶質濃度と吸光度との関係の一例を示す図である。
【図3】汎用材料について吸収分光測定により得られた吸光度と溶質濃度との関係を示す図である。
【図4】溶剤組成比と屈折率との関係を溶質濃度毎に示す図である。
【図5】汎用材料について屈折率測定により得られた屈折率と溶剤組成比との関係を示す図である。
【図6】汎用材料について屈折率測定により得られた屈折率と溶質濃度との関係を示す図である。
【図7】実施の形態1に係るインク塗布システムの構成の一例を示す模式図である。
【図8】実施の形態1に係る吸光度測定の一例を示す模式図である。
【図9】実施の形態1に係る屈折率測定の一例を示す模式図である。
【図10】実施の形態1に係るインク管理装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図11】実施の形態1に係るインク管理装置の構成の別の一例を示すブロック図である。
【図12】実施の形態2に係るインク塗布システムの構成の一例を示す模式図である。
【図13】実施の形態2に係るインク塗布システムの構成の別の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、本発明に係るインク管理装置、インク管理方法、及びインク塗布システムについて、実施の形態に基づいて図面を用いて詳細に説明する。
【0033】
(実施の形態1)
本実施の形態に係るインク管理装置は、2種類の揮発性有機溶剤の混合溶媒に有機溶質が溶解している溶液であるインクを管理するインク管理装置である。本実施の形態に係るインク管理装置は、インクの吸光度を測定する吸光度測定部と、インクの屈折率を測定する屈折率測定部と、2種類の揮発性有機溶剤と有機溶質とのうちインクに添加すべき物質を判定する判定部とを備えることを特徴とする。以下では、まず、本実施の形態に係るインク管理装置の構成について図1を用いて説明する。
【0034】
図1は、本実施の形態に係るインク管理装置100の構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態において、インクは、2種類の揮発性有機溶剤と有機溶質とを含む溶液である。すなわち、インクは、2種類の揮発性有機溶剤の混合溶媒に、有機物からなる有機溶質が溶解している溶液である。例えば、有機溶質は、高分子ポリマーなどの高分子樹脂である。
【0035】
本実施の形態に係るインク管理装置100は、所定の測定を行うことで、インクに含まれる揮発性有機溶剤の組成比(溶媒組成比)、及び、有機溶質の濃度(溶質濃度)を決定し、インクの溶媒組成比と溶質濃度とを調整する。また、図1に示すように、インク管理装置100は、吸光度測定部110と、屈折率測定部120と、判定部130と、添加部140とを備える。
【0036】
吸光度測定部110は、吸収分光測定によりインクの吸光度を測定する。例えば、吸光度測定部110は、インクに光を照射し、インクに入射する前の光の強度と、インクを透過して出射された光の強度とを測定することで、インクの吸光度を測定する。
【0037】
なお、インクに入射する前の光の放射強度をI0とし、インク中を距離Lだけ移動して出射される光の強度をI1とした場合、吸光度は、log10(I1/I0)で表され、以下の式1が成立する。
【0038】
log10(I1/I0)=−εcL (式1)
【0039】
ここで、εはモル吸光係数であり、cはインクのモル濃度である。
屈折率測定部120は、インクの屈折率を測定する。例えば、屈折率測定部120は、インクに光を照射し、インクに入射する光の入射角と、インクから出射する光の屈折角とを測定することで、インクの屈折率を測定する。例えば、屈折率測定部120は、プリズムを用いて、プリズム面とインクとの界面での光の屈折を測定することで、インクの屈折率を測定する。
【0040】
判定部130は、2種類の揮発性有機溶剤と有機溶質とのうち、インクに添加すべき物質を判定する。図1に示すように、判定部130は、算出部131と、差分算出部132と、物質判定部133と、添加量決定部134とを備える。
【0041】
算出部131は、吸光度測定部110によって測定された吸光度と、屈折率測定部120によって測定された屈折率とを用いて、2種類の揮発性有機溶剤の組成比(溶媒組成比)と、有機溶質の濃度(溶質濃度)とを算出する。例えば、算出部131は、吸光度と溶質濃度との関係を示す所定の関数に従って、吸光度から溶質濃度を算出する。さらに、屈折率と溶質濃度及び溶媒組成比との関係を示す所定の関数に従って、算出した溶質濃度と測定された屈折率とを用いて溶媒組成比を算出する。具体的な処理については、後で説明する。
【0042】
差分算出部132は、算出部131によって算出された溶媒組成比と予め定められた第1基準値との差である第1差分を算出する。さらに、差分算出部132は、算出部131によって算出された溶質濃度と予め定められた第2基準値との差である第2差分を算出する。
【0043】
第1基準値及び第2基準値はそれぞれ、例えば、ユーザが所望するインクの溶媒組成比及び溶質濃度である。また、第1基準値及び第2基準値は、インクを用いて形成される有機物膜の特性などに応じて決定される。ユーザが、インク管理装置100が備える操作パネル又はタッチパネル(図示せず)などのユーザインタフェースを介して、第1基準値及び第2基準値を入力してもよい。差分算出部132は、ユーザによって入力された、又は、予め定められた第1基準値及び第2基準値を保持するメモリを有する。
【0044】
物質判定部133は、算出部131によって算出された溶媒組成比と溶質濃度とが、それぞれに予め定められた基準値に近づくように、インクに添加すべき物質を判定する。言い換えると、物質判定部133は、第1差分及び第2差分が小さくなるように、添加すべき物質を判定する。
【0045】
例えば、インクが第1揮発性有機溶媒Xと第2揮発性有機溶媒Yとを含み、所望の溶媒組成比である第1基準値がx0/y0であり、算出部131によって算出されたインクの溶媒組成比がx1/y1である場合を想定する。ここで、x0/y0及びx1/y1は、第2揮発性有機溶媒Yに対する第1揮発性有機溶媒Xの比を示す。
【0046】
このとき、第1差分d1は、例えば、式2で表される。
【0047】
1=x1/y1−x0/y0 (式2)
【0048】
第1差分d1が正であれば、第2揮発性有機溶剤Yに対する第1揮発性有機溶剤Xの割合である溶媒組成比が、第1基準値より大きいことを示す。言い換えると、第1差分d1が正であることは、所望の組成比より第1揮発性有機溶剤Xが多く含まれており、第2揮発性有機溶剤Yが少ないことを示す。したがって、物質判定部133は、第2揮発性有機溶剤Yを添加すべき物質と判定する。
【0049】
逆に、第1差分d1が負であれば、第2揮発性有機溶剤Yに対する第1揮発性有機溶剤Xの割合である溶媒組成比が、第1基準値より大きいことを示す。言い換えると、第1差分d1が負であることは、所望の組成比より第1揮発性有機溶剤が少なく含まれていることを示す。したがって、物質判定部133は、第1揮発性有機溶剤Xを添加すべき物質と判定する。
【0050】
また、インクが有機溶質Zを溶質として含み、所望の溶質濃度がz0であり、算出部131によって算出された溶質濃度がz1である場合を想定する。このとき、第2差分d2は、例えば、式3で表される。
【0051】
2=z1−z0 (式3)
【0052】
第2差分d2が正であれば、溶質濃度が第2基準値より大きいことを示し、所望の溶質濃度より有機溶質Zがインクに多く含まれていることを示す。したがって、物質判定部133は、第1揮発性有機溶剤Xと第2揮発性有機溶剤Yとを添加すべき物質と判定する。
【0053】
逆に、溶質濃度が第2基準値より小さいことを示し、第2差分d2が負であれば、所望の溶質濃度より有機溶質Zがインクに少なく含まれていることを示す。したがって、物質判定部133は、有機溶質Zを添加すべき物質と判定する。
【0054】
添加量決定部134は、第1差分と第2差分との少なくとも一方が小さくなるように、物質判定部133によって添加すると判定された物質の添加量を決定する。具体的には、第1差分及び第2差分の絶対値が大きい程、添加量が大きくなるように、添加すべきと判定された物質の添加量を決定する。より好ましくは、添加量決定部134は、第1差分と第2差分とがともに0になるように、物質の添加量を決定する。
【0055】
例えば、添加量決定部134は、第1差分d1が負であり、かつ、絶対値が大きい程、第1揮発性有機溶剤Xの添加量が大きくなるように添加量を決定する。より具体的には、現在のインクの量をV[l]、第1差分d1[mol/l](<0)とすると、添加すべき第1揮発性有機溶剤Xの添加量x[mol]は、式4で表される。
【0056】
x=V×|d1|/{d1+(x0/y0)+1} (式4)
【0057】
逆に、添加量決定部134は、第1差分d1が負であり、かつ、絶対値が大きい程、第2揮発性有機溶剤Yの添加量が大きくなるように添加量を決定する。具体的には、添加すべき第2揮発性有機溶剤Yの添加量y[mol]は、式5で表される。
【0058】
y=V×d1/(x0/y0)/{d1+(x0/y0)+1} (式5)
【0059】
また、添加量決定部134は、第2差分d2が正であり、かつ、絶対値が大きい程、第1揮発性有機溶剤Xの添加量と第2揮発性有機溶剤Yの添加量とがそれぞれ大きくなるように、添加量を決定する。このとき、第1差分d1が0であれば、第1揮発性有機溶剤Xと第2揮発性有機溶剤Yとの組成比を保つように、それぞれの添加量を決定する。
【0060】
より具体的には、現在のインクの量をV[l]、第2差分d2[mol/l](>0)とすると、追加すべき第1揮発性有機溶剤Xと第2揮発性有機溶剤Yとの合計の添加量x+y[mol]は、式6で表される。
【0061】
x+y=V×d2/z0 (式6)
【0062】
逆に、第2差分d2が負であり、かつ、絶対値が大きい程、有機溶質Zの添加量が大きくなるように添加量を決定する。
【0063】
より具体的には、現在のインクの量をV[l]、第2差分d2[mol/l](<0)とすると、追加すべき有機溶質Zの添加量z[mol]は、式7で表される。
【0064】
z=V×|d2| (式7)
【0065】
以上の構成に示すように、本実施の形態に係るインク管理装置100は、インクの吸光度と屈折率とを測定することで、溶媒組成比と溶質濃度とを算出する。これにより、従来は、溶媒組成比の変化と溶質濃度の変化とを区別することができなかったのに対して、本実施の形態に係るインク管理装置100は、溶媒組成比と溶質濃度とを区別して算出することができる。したがって、インクの溶媒組成比及び溶質濃度の調整を適切に行うことができる。
【0066】
ここで、吸光度と溶質濃度との関係、並びに、屈折率と溶質濃度及び溶媒組成比との関係について説明する。本実施の形態に係るインク管理装置100において、算出部131は、以下に示す関係を利用することで、吸光度及び屈折率から溶質濃度及び溶媒組成比を算出する。
【0067】
まず、吸光度と溶質濃度との関係について説明する。
図2は、溶質濃度と吸光度との関係の一例を示す図である。図2に示すように、吸光度と溶質濃度とには正の相関がある。つまり、吸光度が大きい程、溶質濃度は大きくなり、吸光度が小さいほど、溶質濃度は小さくなる。より具体的には、吸光度は、溶質濃度を変数とする所定の一次関数によって決定される。
【0068】
したがって、算出部131は、吸光度測定部110によって測定された吸光度から、溶質濃度を決定することができる。一例として、溶質濃度がインクのモル濃度[mol/l]で表される場合は、算出部131は、吸光度log10(I1/I0)とモル吸光係数εとから、溶質濃度cを算出する。
【0069】
図3は、汎用材料について吸収分光測定により得られた吸光度と溶質濃度との関係を示す図である。以下の表1は、汎用材料についての吸光度測定の結果を示しており、これをプロットしたものが図3に示すグラフである。なお、ここで用いた汎用材料は、2種類の揮発性有機溶媒としてベンジルアルコール(BA)とブチルカルビトールアセテート(BCA)とを含み、溶質としてエポキシ樹脂を含んでいる。
【0070】
【表1】

【0071】
図3に示すように、吸光度と溶質濃度との間には、一次関数によって近似される関係がある。具体的には、吸光度をy、溶質濃度をxとすると、y=0.1614xで表される。つまり、吸光度と溶質濃度とは比例関係にある。他の有機材料を用いた場合でも、概ね似たような関係が得られる。
【0072】
本実施の形態に係るインク管理装置100は、予め溶質濃度が判別しているインクの吸光度を測定しておき、図2に相当するグラフを内部メモリなどに記憶しておく。これにより、本実施の形態に係るインク管理装置100は、実際に使用する予定のインク、及び、現在使用中のインクの吸光度を測定することで、溶質濃度を算出することができる。
【0073】
次に、屈折率と溶質濃度及び溶媒組成比との関係について説明する。
図4は、溶剤組成比と屈折率との関係を溶質濃度毎に示す図である。図4に示すように、溶剤組成比と屈折率との間には正の相関がある。なお、図4に示す溶剤組成比は、2種類の揮発性有機溶剤の一方(屈折率が大きい揮発性有機溶剤)の割合を示している。さらに、溶質濃度と屈折率との間にも正の相関がある。つまり、屈折率が大きい程、溶剤組成比は大きくなり、屈折率が小さいほど、溶剤組成比は小さくなる。
【0074】
図5は、汎用材料について屈折率測定により得られた屈折率と溶剤組成比との関係を示す図である。以下の表2は、汎用材料についての屈折率測定の結果を示しており、これをプロットしたものが図5に示すグラフである。なお、ここで用いた汎用材料は、2種類の揮発性有機溶媒としてベンジルアルコール(BA)とブチルカルビトールアセテート(BCA)とを含んでおり、溶質は含んでいない。
【0075】
【表2】

【0076】
図5に示すように、屈折率と溶剤組成比との間には、一次関数によって近似される関係がある。具体的には、屈折率をy、溶媒組成比(ここではBA/BCA×100)をxとすると、y=0.00114x+1.42609で表される。なお、表2に示す値の一次関数への一致度R2は、0.99998である。他の有機材料を用いた場合でも、概ね似たような関係が得られる。
【0077】
また、図6は、汎用材料について屈折率測定により得られた屈折率と溶質濃度との関係を示す図である。以下の表3は、汎用材料についての屈折率測定の結果を示しており、これをプロットしたものが図6に示すグラフである。なお、ここで用いた汎用材料は、2種類の揮発性有機溶剤としてベンジルアルコール(BA)とブチルカルビトールアセテート(BCA)とを含み、溶質としてエポキシ樹脂を含んでいる。なお、溶剤組成比は、50:50である。
【0078】
【表3】

【0079】
図6に示すように、屈折率と溶質濃度との間には、一次関数によって近似される関係がある。具体的には、屈折率をy、溶質濃度をxとすると、y=0.00018x+1.48295で表される。他の溶剤組成比についても同様の関係が得られる。また、他の有機材料を用いた場合でも、概ね似たような関係がある。
【0080】
以上のことから、図5と図6とを組み合わせることで、図4に示すような関係が得られる。
【0081】
算出部131は、上述したように、吸光度測定部110によって測定された吸光度から溶質濃度を決定することができる。したがって、まず、算出部131は、溶質濃度を決定することで、例えば、図4に示す溶質濃度毎のグラフから1つのグラフを決定する。そして、算出部131は、屈折率測定部120によって測定された屈折率から溶剤組成比を決定する。
【0082】
本実施の形態に係るインク管理装置100は、予め溶質濃度が判別しているインクの屈折率を測定しておき、図4に相当するグラフを内部メモリなどに記憶しておく。これにより、本実施の形態に係るインク管理装置100は、実際に使用する予定のインク、及び、現在使用中のインクの屈折率を測定することで、溶剤組成比を算出することができる。
【0083】
続いて、本実施の形態に係るインク管理装置100が適用されるインク塗布システムについて説明する。
【0084】
図7は、本実施の形態に係るインク塗布システム10の構成の一例を示す模式図である。図7に示すように、インク塗布システム10は、インク管理装置100aと、印刷装置200と、インク受け皿230と、バルブ240と、インク流路とを備える。インク流路は、供給用流路300と、回収用流路310と、内部流路320と、再流入流路330とを含む。
【0085】
インク管理装置100aは、インクの溶媒組成比及び溶質濃度を管理及び調整する。インク管理装置100aは、図1に示すインク管理装置100と比較すると、新たに攪拌部150を備えている。また、インク管理装置100aは、インラインで、すなわち、インク流路を流れるインクに対して、吸光度の測定と屈折率の測定とを行っている。具体的には、インク管理装置100aは、内部流路320を備え、内部流路320を流れるインクの吸光度及び屈折率を測定する。
【0086】
吸光度測定部110は、例えば、図8に示すように、テーパー状のインク流路を形成し、側面方向から光を照射する。例えば、テーパー状のインク流路は、石英管で形成される。このとき、石英管は、内径が10μmである部分を含んでいる。
【0087】
テーパー状のインク流路は、図7に示す内部流路320を変形させて形成される。あるいは、内部流路320を分岐させ、分岐部分の流路をテーパー状のインク流路に形成する。分岐部分は、吸光度測定部110によって吸光度が測定された後、元の内部流路320に合流する。これにより、吸光度測定に用いたインクも利用することができる。
【0088】
一般的に使用されるインクは、溶質濃度が1.5%程度である。このインクは、吸収が強すぎるため、吸収分光測定を行う際は、インクを希釈することで行っていた。しかしながら、図7に示すインク塗布システム10のように、インラインで吸収分光測定を行う場合には、インクを希釈することはできない。
【0089】
したがって、インクを希釈する代わりに、吸光度測定部110は、光路長を短くすることで、吸収分光測定を行う。例えば、光路長を10μm程度に設定することで、インラインでの吸収分光測定を行うことが可能となる。
【0090】
なお、図8に示すようにインク流路をテーパー状にし、入射光を照射する位置を変更することで、光路長を容易に変更することができる。したがって、インク流路を流れるインクの種類に応じて、最適な光路長を選択することが可能となる。
【0091】
インク流路は、テーパー状でなくてもよく、あるいは、段階的に内径が小さくなる形状であってもよい。
【0092】
屈折率測定部120は、例えば、図9に示すように、プリズムを用いて屈折率測定を行う。プリズム面にインクを流入させ、インク側から、及び、プリズム面に沿って光を入射する。
【0093】
インク側から入射した光A0は、界面で屈折してプリズム側に出射光A1として出力される。また、プリズム面に沿って入射した光B0は、界面で屈折してプリズム側に出射光B1として出力される。
【0094】
このとき、光B0よりも入射角が大きくなる入射光は存在しないので、出射光B1よりも界面に近い角度で出射する光も存在しない。したがって、屈折率測定部120は、このときの明暗の境界線の位置を測定することで、インクの屈折率を測定することができる。
【0095】
判定部130は、吸光度測定の結果と屈折率測定の結果とを用いて、インクに添加すべき物質を判定し、添加部140が備えるバルブの開閉を制御する。すなわち、判定部130は、添加すべき物質であると判定された物質に対応するバルブを開けることで、インクに物質を添加する。
【0096】
添加部140は、図7に示すように、溶質添加部141と溶剤添加部142とを備える。溶剤添加部142は、第1溶剤添加部143と、第2溶剤添加部144とを備える。
【0097】
溶質添加部141は、溶質タンク141aとバルブ141bとを備える。
溶質タンク141aは、インクに添加するための有機溶質を溜める容器の一例である。例えば、高分子ポリマーなどが溜められている。
【0098】
バルブ141bは、溶質タンク141aと内部流路320との間に設置されている。また、バルブ141bは、判定部130によって開閉を制御される。バルブ141bが開けられているときは、溶質タンク141aに溜められた有機溶質が内部流路320に流出する。すなわち、溶質添加部141は、バルブ141bを開けることで、インクに有機溶質を添加する。
【0099】
なお、添加すべき有機溶質が複数である場合は、溶質タンク141a及びバルブ141bは、有機溶質毎に設けられる。
【0100】
第1溶剤添加部143は、溶剤タンク143aとバルブ143bとを備える。第2溶剤添加部144は、溶剤タンク144aとバルブ144bとを備える。
【0101】
溶剤タンク143a及び144aは、インクに添加するための揮発性有機溶剤を溜める容器である。なお、溶剤タンク143a及び144aには、それぞれ異なる揮発性有機溶剤が溜められている。例えば、ベンジルアルコール又はブチルカルビトールアセテートなどが溜められている。なお、キシレン、トルエン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素を始め、アルコール、エーテル、エステル、ケトンなどの、溶解性などの目的に応じた各種溶剤を使用することもできる。
【0102】
バルブ143b及び144bはそれぞれ、溶剤タンク143a及び144aのそれぞれと内部流路320との間に設置されている。また、バルブ143b及び144bは、判定部130によって開閉を制御される。バルブ143b及び144bが開けられているときは、溶剤タンク143a及び144aに溜められた揮発性有機溶剤が内部流路320に流出する。すなわち、溶剤添加部142は、バルブ143b又は144bを開けることで、インクに揮発性有機溶剤を添加する。
【0103】
なお、判定部130は、バルブ143b及び144bをそれぞれ独立に制御することができる。すなわち、判定部130は、添加すべきと判定した揮発性有機溶剤が溜められている溶剤タンクと接続されたバルブの開閉を行う。
【0104】
攪拌部150は、インクを攪拌することで、インクの溶媒組成比及び溶質濃度を均一にする。なお、攪拌部150は、溶質添加部141、第1溶剤添加部143及び第2溶剤添加部144のそれぞれに設けられていてもよい。
【0105】
印刷装置200は、インクを塗布する塗布装置の一例であり、例えば、有機EL(Electroluminescence)素子などのデバイスを製造するのに用いられる。印刷装置200とインク管理装置100aとの間には、供給用流路300が形成されている。供給用流路300は、本発明に係る第1インク流路の一例であり、バルブ240を介して内部流路320と接続されている。
【0106】
印刷装置200には、インク管理装置100aによって調整されたインクが、供給用流路300を通って流入する。図7に示すように、印刷装置200は、インクリザーブタンク210と、印刷機ヘッド220とを備える。
【0107】
インクリザーブタンク210は、供給用流路300を通って流入したインクを溜める容器である。
【0108】
印刷機ヘッド220は、インク塗布に係る機構であり、インクリザーブタンク210から供給されたインクをデバイスに塗布する。例えば、印刷機ヘッド220は、可動式であり、デバイスの所望の位置にインクを塗布することができる。
【0109】
インク受け皿230は、デバイスに塗布した際に余ったインクを回収する容器の一例である。インク受け皿230は、回収用流路310に接続されており、回収されたインクは回収用流路310を通って吸光度測定部110に流入される。なお、回収用流路310は、本発明に係る第2インク流路の一例である。
【0110】
バルブ240は、開閉によりインク流路を変更する。つまり、バルブ240は、内部流路320を、供給用流路300と再流入流路330とのいずれかに接続する。具体的には、バルブ240は、インク管理装置100から流出するインクを印刷装置200に導くか、再びインク管理装置100aに戻すかを制御する。例えば、デバイスへの塗布を行う前に、インクの調整を行う場合は、バルブ240は、インクをインク管理装置100aに戻すように、内部流路320と再流入流路330とを接続する。
【0111】
以上のように、本実施の形態に係るインク塗布システム10では、インク管理装置100aと印刷装置200との間でインクの循環流路が形成されており、インクを無駄なく利用することができる。また、インク管理装置100内部においても、内部流路320を通過するインクに対して、吸光度測定及び屈折率測定を行うので、インクの無駄が生じない。
【0112】
なお、本実施の形態に係るインク塗布システム10は、攪拌部150を有するインク管理装置100aを備えるが、図1に示すインク管理装置100を備えていてもよい。このとき、添加後のインクを攪拌する攪拌部は、インク管理装置100と印刷装置200との間に備えられていることが好ましい。
【0113】
また、インク管理装置100aでは、吸光度測定部110による吸光度の測定の後で、屈折率測定部120による屈折率測定を行っているが、いずれが先に実行されてもよい。また、インク流路を分岐させることで、吸光度測定と屈折率測定とを同時に行ってもよい。
【0114】
続いて、図7に示すインク塗布システム10におけるインク管理装置100aの動作について説明する。図10は、本実施の形態に係るインク管理装置100aの動作の一例を示すフローチャートである。
【0115】
まず、吸光度測定部110が、吸収分光測定を行うことで、インクの吸光度を測定する(S110)。次に、屈折率測定部120が、屈折率測定を行うことで、インクの屈折率を測定する(S120)。なお、吸収分光測定及び屈折率測定は、いずれが先に実行されてもよく、又は、同時に実行されてもよい。
【0116】
次に、判定部130は、添加すべき物質があるか否かを判定する。例えば、まず、判定部130は、高分子ポリマーなどの有機溶質を添加するか否かを判定する(S130)。溶質を添加すると判定された場合(S130でYes)、溶質添加部141は、バルブ141bを開けることで溶質タンク141aに溜められた有機溶質をインクに添加する(S140)。
【0117】
溶質を添加しないと判定された場合(S130でNo)、判定部130は、揮発性有機溶剤である溶媒を添加するか否かを判定する(S150)。このとき、インクは2種類の揮発性有機溶剤を含むので、有機溶剤毎に添加するか否かを判定する。
【0118】
溶媒を添加すると判定された場合(S150でYes)、溶剤添加部142は、バルブ143b又は144bを開けることで溶剤タンク143a又は144aに溜められた揮発性有機溶剤をインクに添加する(S160)。
【0119】
溶媒を添加しないと判定された場合(S150でNo)、攪拌部150は、インクを攪拌することで、インクの溶媒組成比及び溶質濃度を均一にする(S170)。
【0120】
なお、溶質及び溶媒の双方とも添加しない場合は、攪拌部150は攪拌しなくてもよい。また、攪拌部150は、溶質添加部141、第1溶剤添加部143及び第2溶剤添加部144のそれぞれに設けられており、溶質又は溶媒を添加する度に、インクを攪拌してもよい。
【0121】
また、図10に示すフローチャートでは、溶質の添加を判定した後、溶媒の添加を判定する方法について説明したが、溶媒の添加を判定した後、溶質の添加を判定してもよい。
【0122】
以上のように、本実施の形態に係るインク塗布システム10では、吸光度測定と屈折率とを行うことで、物質をインクに添加するか否かを判定する。具体的には、吸光度測定の結果から溶質濃度を算出し、算出した溶質濃度と屈折率測定の結果とから溶媒組成比を算出する。
【0123】
これにより、複数の揮発性有機溶剤を含むインクに対しても、揮発性有機溶剤及び有機溶質のいずれを添加すればよいかを正しく判定することができる。したがって、印刷装置は、適切に調整されたインクを用いて塗布を行うことができるので、所望の有機膜などを容易に形成することができる。
【0124】
なお、図11に示すインク管理装置100bのように、インクに揮発性有機溶媒及び有機溶質を添加する添加部を備えていなくてもよい。インク管理装置100bは、外部のインク添加装置を制御するための制御情報を出力する。インク添加装置は、例えば、図7に示す添加部140を備え、制御情報に基づいてインクに揮発性有機溶剤及び有機溶質を添加する。
【0125】
制御情報は、例えば、添加すべき物質、及びその添加量を示す情報である。具体的には、物質判定部133及び添加量決定部134によって生成される情報である。
【0126】
また、本実施の形態のインク塗布システム10は、バルブ240と、インク管理装置100aにインクを戻すための再流入流路330とを備えていなくてもよい。また、インクの再利用を行わない場合は、インク受け皿230及び回収用流路310を備えていなくてもよい。
【0127】
(実施の形態2)
本実施の形態のインク管理装置は、吸光度測定及び屈折率測定の結果に基づいて揮発性有機溶剤及び有機溶質を添加したインクに対して、再度、吸光度測定及び屈折率測定を行うフィードバック機構を備えることを特徴とする。
【0128】
図12は、実施の形態に係るインク塗布システム20の構成の一例を示す模式図である。図12に示すように、インク塗布システム20は、インク管理装置400と、印刷装置200と、インク受け皿230と、供給用流路300と、回収用流路310と、調整用流路340とを備える。なお、以下では、実施の形態1と同じ構成については説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0129】
インク管理装置400は、図7に示すインク管理装置100bと比べて、判定部130の代わりに判定部430を備え、内部流路320の代わりに調整用流路340を備える点が異なっている。インク管理装置400の他の構成は、図7に示すインク管理装置100bと同じである。
【0130】
判定部430は、実施の形態1の判定部130と同様の判定を行う。すなわち、吸光度及び屈折率の測定結果に基づいて、インクの溶媒組成比と溶質濃度とを算出することで、インクに添加すべき物質とその添加量とを決定する。
【0131】
さらに、判定部430は、インク流路を切り替える機能を有する。具体的には、判定部430は、インクに添加すべき物質がないと判定した場合のみ、インク流路を供給用流路300に切り替える。逆に、判定部430は、インクに添加すべき物質があると判定した場合は、インク流路を調整用流路340に切り替える。このように、判定部430は、インクに物質の添加が必要であるか否かを、すなわち、インクが所望の溶媒組成比及び溶質濃度であるか否かを判定する。
【0132】
調整用流路340は、添加部140及び攪拌部150を通って、吸光度測定部110に接続されている。すなわち、図12に示すように、攪拌部150によって攪拌されたインクは、調整用流路340を通って吸光度測定部110に戻される。
【0133】
以上の構成により、本実施の形態に係るインク塗布システム20では、判定部430によって物質の添加が必要でないと判定されたインク、すなわち、所望の溶媒組成比及び溶質濃度のインクである場合にのみ、インクを印刷装置200に供給する。また、調整用流路340により、一度、物質を添加及び攪拌したインク(添加後インク)に対して、再度、吸光度測定及び屈折率測定を行うフィードバック機構を形成している。
【0134】
また、本実施の形態に係るインク塗布システムは、有機EL素子が備える発光層など、塗布法で形成することが可能な膜を形成する際に適用することができる。例えば、図13に示すインク塗布システム30は、赤色光を発する赤色発光層、緑色光を発する緑色発光層、及び、青色光を発する青色発光層を備えるカラー有機EL素子の形成に適用することができる。
【0135】
図13に示すように、インク塗布システム30は、赤色発光層用、緑色発光層用、及び青色発光層用のそれぞれのインク管理装置、印刷装置、及びインク受け皿を備える。つまり、インク塗布システム30は、赤色用のインク管理装置400R、印刷装置200R、及びインク受け皿230Rと、緑色用のインク管理装置400G、印刷装置200G、及びインク受け皿230Gと、青色用のインク管理装置400B、印刷装置200B、及びインク受け皿230Bとを備える。
【0136】
赤色用のインク管理装置400R、印刷装置200R、及びインク受け皿230Rを備えるインク塗布システムは、図11に示すインク塗布システム20に相当する。緑色用のインク管理装置400G、印刷装置200G、及びインク受け皿230Gを備えるインク塗布システム、並びに、青色用のインク管理装置400B、印刷装置200B、及びインク受け皿230Bを備えるインクシステムも同様である。
【0137】
以上の構成によって、湿式成膜法を用いて、赤色発光層、緑色発光層、及び青色発光層を形成することができる。なお、上記のインク塗布システム30は、有機EL素子の発光層の形成に用いられるだけではなく、樹脂層など他の有機物層に適用することができる。インク塗布システム30は、異なる種類のインクをインラインで塗布することができるので、成膜の精度を高めることができる。
【0138】
以上、本発明に係るインク管理装置、インク管理方法及びインク塗布システムについて、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を当該実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
【0139】
例えば、実施の形態1では、算出部131が、溶媒組成比を、第2揮発性有機溶剤Yに対する第1揮発性有機溶剤Xの割合として算出したが、逆であってもよい。すなわち、算出部131は、第1揮発性有機溶剤Xに対する第2揮発性有機溶剤Yの割合として溶媒組成比を算出してもよい。
【0140】
なお、図1に示すインク管理装置100のように、本発明に係るインク管理装置は、インラインでのインク調整を行わなくてもよい。例えば、図7に示す印刷装置200が備えるインクリザーブタンク210からインクを取得し、取得したインクに対して吸光度及び屈折率を測定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明は、複数の揮発性有機溶剤と有機溶質とを含むインクにおいて、複数の揮発性有機溶剤の組成比と溶質濃度とを、容易に測定することができるという効果を奏し、例えば、測定結果に基づいて調整されたインクを塗布するインク塗布システムなどに利用することができる。また、本発明は、有機EL素子の製造など、湿式成膜法を利用したデバイスの製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0142】
10、20、30 インク塗布システム
100、100a、100b、400、400B、400G、400R インク管理装置
110 吸光度測定部
120 屈折率測定部
130、430 判定部
131 算出部
132 差分算出部
133 物質判定部
134 添加量決定部
140 添加部
141 溶質添加部
141a 溶質タンク
141b、143b、144b、240 バルブ
142 溶剤添加部
143 第1溶剤添加部
143a、144a 溶剤タンク
144 第2溶剤添加部
200、200B、200G、200R 印刷装置
210 インクリザーブタンク
220 印刷機ヘッド
230、230B、230G、230R インク受け皿
300 供給用流路
310 回収用流路
320 内部流路
330 再流入流路
340 調整用流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類の揮発性有機溶剤の混合溶媒に有機溶質が溶解している溶液であるインクを管理するインク管理装置であって、
前記インクの吸光度を測定する吸光度測定部と、
前記インクの屈折率を測定する屈折率測定部と、
前記2種類の揮発性有機溶剤と前記有機溶質とのうち前記インクに添加すべき物質を判定する判定部とを備え、
前記判定部は、
前記吸光度測定部によって測定された吸光度、及び、前記屈折率測定部によって測定された屈折率を用いて、前記2種類の揮発性有機溶剤の組成比と、前記有機溶質の濃度とを算出する算出部と、
前記算出部によって算出された組成比及び濃度が、それぞれに予め定められた基準値に近づくように、添加すべき物質を判定する物質判定部とを有する
インク管理装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記吸光度測定部によって測定された吸光度を用いて、前記有機溶質の濃度を算出し、算出した濃度と、前記屈折率測定部によって測定された屈折率とを用いて、前記2種類の揮発性有機溶剤の組成比を算出する
請求項1記載のインク管理装置。
【請求項3】
前記インク管理装置は、さらに、
前記判定部によって添加すると判定された物質を前記インクに添加する添加部を備える
請求項1又は2記載のインク管理装置。
【請求項4】
前記判定部は、さらに、
前記算出部によって算出された組成比と第1基準値との差である第1差分と、前記算出部によって算出された濃度と第2基準値との差である第2差分とを算出する差分算出部と、
前記第1差分と前記第2差分との少なくとも一方が小さくなるように、前記物質判定部によって添加すると判定された物質の添加量を決定する添加量決定部とを有し、
前記添加部は、
前記判定部によって添加すると判定された物質を、前記添加量決定部によって決定された添加量だけ前記インクに添加する
請求項3記載のインク管理装置。
【請求項5】
前記インクは、前記2種類の揮発性有機溶剤として、第1揮発性有機溶剤と第2揮発性有機溶剤とを含み、
前記算出部は、前記第2揮発性有機溶剤に対する前記第1揮発性有機溶剤の割合を、前記組成比として算出し、
前記判定部は、前記算出部によって算出された組成比が第1基準値より大きい場合に、前記第2揮発性有機溶剤を添加すべき物質として判定し、前記算出部によって算出された組成比が前記第1基準値より小さい場合に、前記第1揮発性有機溶剤を添加すべき物質として判定する
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインク管理装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記算出部によって算出された濃度が第2基準値より大きい場合に、前記2種類の揮発性有機溶剤を添加すべき物質として判定し、前記算出部によって算出された濃度が前記第2基準値より小さい場合に、前記有機溶質を添加すべき物質として判定する
請求項1〜5のいずれか1項に記載のインク管理装置。
【請求項7】
前記吸光度測定部は、さらに、前記添加部によって物質が添加された後の添加後インクの吸光度を測定し、
前記屈折率測定部は、さらに、前記添加後インクの屈折率を測定する
請求項3又は4記載のインク管理装置。
【請求項8】
前記吸光度測定部は、テーパー形状の管を備え、
前記インクを前記管に流入させ、前記管の側面から光を照射し、入射光の強度と出射光の強度とを測定することで、前記インクの吸光度を測定する
請求項1〜7のいずれか1項に記載のインク管理装置。
【請求項9】
前記吸光度測定部と前記屈折率測定部とは、前記吸光度の測定と前記屈折率の測定とをインラインで行う
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインク管理装置。
【請求項10】
請求項2記載のインク管理装置と、
前記インク管理装置によって管理されたインクを塗布する塗布装置と、
前記インク管理装置と前記塗布装置とを接続し、前記添加部によって物質が添加されたインクを、前記インク管理装置から前記塗布装置へ流入させる第1インク流路とを備え、
前記塗布装置は、前記第1インク流路を通って流入したインクを塗布する
インク塗布システム。
【請求項11】
前記インク塗布システムは、さらに、
前記塗布装置が塗布に用いたインクの一部を回収する回収容器と、
前記回収容器と前記インク管理装置とを接続し、前記回収容器に回収されたインクを前記インク管理装置へ流入させる第2インク流路とを備え、
前記インク管理装置は、前記第2インク流路を通って流入したインクを管理する
請求項10記載のインク塗布システム。
【請求項12】
2種類の揮発性有機溶剤の混合溶媒に有機溶質が溶解している溶液であるインクを管理するインク管理方法であって、
前記インクの吸光度を測定する吸光度測定ステップと、
前記インクの屈折率を測定する屈折率測定ステップと、
前記2種類の揮発性有機溶剤と前記有機溶質とのうち前記インクに添加すべき物質を判定する判定ステップとを含み、
前記判定ステップは、
前記吸光度測定部によって測定された吸光度、及び、前記屈折率測定部によって測定された屈折率を用いて、前記2種類の揮発性有機溶剤の組成比と、前記有機溶質の濃度とを算出する算出ステップと、
前記算出部によって算出された組成比及び濃度が、それぞれに予め定められた基準値に近づくように、添加すべき物質を判定する物質判定ステップとを含む
インク管理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate