説明

インク組成物、インクセット、及び画像形成方法

【課題】樹脂粒子やワックス粒子などの高分子成分を含有する組成において、吐出休止後の再吐出時における不吐出及びインク滴の吐出方向曲がりが防止され、メンテナンス性に優れたインク組成物を提供する。
【解決手段】自己分散型顔料及び顔料の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆顔料からなる群より選ばれる顔料と、組成物全量に対する比率が0.01質量%以上1.00質量%未満の、下記一般式(I)で表されるアミンオキシド化合物〔R11:炭素数3〜24のアルキル基、炭素数3〜24のアルケニル基、R12:炭素数1〜5のアルキレン基、R13〜R14:炭素数1〜3のアルキル基〕と、非水溶性又は難水溶性の樹脂粒子と、非水溶性又は難水溶性のワックス粒子と、水とを含有している。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、インクセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法を利用した記録方法は、インクジェットヘッドに設けられた多数のノズル孔からインクを液滴状に吐出することにより、多種多様な記録媒体に対して高品位の画像を記録できること等から広く利用されている。
【0003】
例えば、インクの含有成分の1つである着色剤には顔料が広く用いられており、顔料は水等の媒質中に分散されて用いられる。顔料を分散させて用いる場合、分散させたときの分散粒径や分散後の安定性、サイズ均一性、吐出ヘッドからの吐出性、及び画像濃度などが重要であり、これらを向上させる技術の検討が種々行なわれている。
【0004】
顔料を含む顔料インクは、インク中の溶媒成分が蒸発するに伴なって増粘し次第に固化するが、固化してしまうとその後に再溶解し難いため、インクジェットヘッドのノズル先端部等に付着した上に徐々に堆積し、結果的にノズルの孔を狭めたり目詰まりを来たして、インクの吐出方向が曲がったり、あるいは不吐出を引き起こす等の支障を招く。付着したインクが堆積しやすいと、ノズルキャップやワイプ部等による性能維持が困難になり、経時で画像形成性が悪化する。
【0005】
特に、例えば形成画像の擦過耐性や剥がれの防止のために、インク中にポリマーやワックスなどの高分子成分が含有されている組成では、上記のようにインクの固化、堆積が起こりやすい。
【0006】
上記に関連して、付着したインクに対して洗浄用の液体を用いる方法が提案されており、例えば、水に不溶あるいは難溶である樹脂溶剤と保湿剤を含むインクジェット記録用メンテナンス液が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このようなメンテナンス液を用いると、吐出不安定やノズル目詰まり等の不具合が発生し難くなるとされている。
【0007】
一方、顔料を用いたインクとして、アミンオキシド化合物を含有する水性インク組成物が開示されており(例えば、特許文献2参照)、適度な量を含めることで顔料の分散安定性を損なうことなく、耐水・耐洗濯性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−169314号公報
【特許文献2】特許第4228421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術のように、樹脂溶剤や保湿剤を含むメンテナンス液を付与又はワイピング等するだけでは、インクに樹脂粒子等やワックスなどの高分子成分を含む場合には除去性が不足し、経時でインクが堆積し、ひいては安定的に吐出できるノズル状態を保持できなくなる。
【0010】
また、樹脂やワックスが共存する組成では、特にアミンオキシド化合物の増量に伴なって分散性を損ない液粘度が増大し、ノズルの目詰まりをより起こしやすくなる傾向がある。インクの経時での堆積は、増粘に伴なって多くなる。
【0011】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、樹脂粒子やワックス粒子などの高分子成分を含有する組成において、吐出休止後の再吐出時における不吐出及びインク滴の吐出方向曲がりが防止され、メンテナンス性に優れたインク組成物及びインクセット、並びに色抜けなどの画像故障を抑え、長期に亘り安定して高精細な画像を形成する画像形成方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、顔料に自己分散機能を与えた組成中にアミンオキシド化合物が存在すると、インクの固化を防ぎ、付着したインクはワイプ等で除去され易くなり、またノズル面等に付着し難いとの知見を得、かかる知見に基づいて達成されたものである。
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
【0013】
<1> 自己分散型顔料及び顔料粒子の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆顔料からなる群より選ばれる顔料と、組成物全量に対する比率が0.01質量%以上1.00質量%未満の、下記一般式(I)で表されるアミンオキシド化合物と、非水溶性又は難水溶性の樹脂粒子と、非水溶性又は難水溶性のワックス粒子と、水と、を含有するインク組成物である。
【0014】
【化1】



【0015】
前記一般式(I)において、R11は、炭素数3〜24のアルキル基又は炭素数3〜24のアルケニル基を表す。R12は、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R13及びR14は、各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基を表す。
【0016】
<2> 前記樹脂被覆顔料は、顔料粒子が転相乳化法により水不溶性樹脂で被覆されている前記<1>に記載のインク組成物である。
<3> 前記樹脂粒子は、自己分散性樹脂の粒子である前記<1>又は前記<2>に記載のインク組成物である。
<4> 前記樹脂粒子は、有機溶媒中で合成され、アニオン性基の一部又は全部を中和して、水を連続相とする分散体として調製された前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のインク組成物である。
<5> 前記ワックス粒子は、パラフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、並びにこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種の粒子である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載のインク組成物である。
<6> 25℃におけるpHが7.5以上10.0以下である前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のインク組成物である。
<7> 更に、尿素及びその誘導体を含む前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のインク組成物である。
<8> 前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のインク組成物と、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液と、を有するインクセットである。
【0017】
<9> 液滴を吐出する複数のノズル孔を有し、前記ノズル孔の内部表面にケイ素原子を含む膜を有する吐出ヘッドから、前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のインク組成物又は前記<8>に記載のインクセットにおけるインク組成物を、インクジェット法により記録媒体に吐出するインク付与工程を有する画像形成方法である。
<10> 前記インク付与工程は、ピエゾ式インクジェット法でインクを吐出する前記<9>に記載の画像形成方法である。
<11> 更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有する前記<9>又は前記<10>に記載の画像形成方法である。
<12> 更に、前記インク付与工程及び前記処理液付与工程を経て形成された画像を加熱して前記記録媒体に定着させる加熱定着工程を有する前記<11>に記載の画像形成方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂粒子やワックス粒子などの高分子成分を含有する組成において、吐出休止後の再吐出時におけるインク付着ないしノズル詰まりに伴なう不吐出及び吐出曲がりを防ぎ、メンテナンス性に優れたインク組成物及びインクセットが提供される。
また、本発明によれば、色抜けなどの画像故障を抑え、長期に亘り安定して高精細な画像が形成される画像形成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のインク組成物及びインクセット、並びにこれらを用いた画像形成方法について詳細に説明する。
【0020】
<インク組成物及びインクセット>
本発明のインク組成物は、自己分散型顔料及び顔料の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆顔料からなる群より選ばれる顔料と、組成物全量に対する比率が0.01質量%以上1.00質量%未満の、以下に示す一般式(I)で表されるアミンオキシド化合物と、非水溶性又は難水溶性の樹脂粒子と、非水溶性又は難水溶性のワックス粒子と、水とを含ませて構成されている。また、本発明のインク組成物は、必要に応じて、尿素やその誘導体、又は界面活性剤等の添加剤などを用いて構成することができる。
【0021】
インクジェット法でインク滴を被記録面に打滴する画像形成法では、一般に、インク吐出時に吐出ヘッドの吐出孔(例えばノズルプレートに配列されたノズル孔)近傍にインクが付着して固着物が付着しやすい。特に、着色剤として顔料を含む水系のインク液に非水溶性又は難水溶性の樹脂粒子とワックス粒子とを含ませた液組成とした場合、インク液を吐出するノズル孔の近傍に、インク液中の樹脂粒子とワックス粒子の析出、堆積が要因して、樹脂粒子等を含まない場合に比べ、固着物がより多く、しかもより速く成長しやすい傾向がある。そのため、インク液の吐出と吐出休止とを繰り返しながら画像形成を継続すると、経時で固着物が成長してノズル孔を狭め、吐出されるインク滴が初期の着弾位置からズレる吐出曲がりを招き、ひいてはノズル詰まりを起こして不吐出となる現象に至ることがある。本発明においては、着色剤として含有する顔料自体に自己分散性を与えると共に、比較的少量の所定比率でアミンオキシド化合物を用いることで、ノズル孔近傍にインクの固着物が堆積し難くなると共に、インクが付着してもワイピング等による除去が容易になる。これは、吐出ヘッドのノズル孔近傍の表面(例えばノズルプレートのプレート面)や孔内部のインク流路内壁の表面(壁面)にアミンオキシド化合物が吸着し、このアミンオキシド化合物の吸着により樹脂粒子やワックス粒子のプレート面や孔内壁面への吸着サイトが減るためと推測される。
これにより、インク液の吐出と吐出休止とを繰り返しながら画像形成する際、インクの吐出曲がり及び不吐出が防止され、色抜けなどの画像故障を抑え、長期に亘り安定して高精細な画像が形成される。また、インクが固着し難く、また付着インクは固着物として成長し難いため、メンテナンス性にも優れる。
【0022】
本発明では、アミンオキシド化合物は、インク組成物の全体に対して比較的少量の所定比率で用いられ、インクの固着を抑制する機能を担うものと推定される。
【0023】
(顔料)
本発明のインク組成物は、着色剤として、自己分散型顔料及び/又は顔料の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆顔料の少なくとも一種を含有する。顔料は、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。
【0024】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジスアゾ顔料、アゾレーキ顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。有機顔料は、一種単独で又は2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。具体的には、シアン顔料の例として、C.I.ピグメント・ブルー1,2,3,15,15:1,15:2,15:3,15:34,16,17:1,22,25,56,60、C.I.バットブルー4,60,63等が挙げられ、(銅)フタロシアニン顔料が好ましく、特にC.I.ピグメント・ブルー15:3が好ましい。また、マゼンタ顔料の例として、C.I.ピグメント・レッド48,57,122,184,188,C.I.ピグメント・バイオレット19等が挙げられ、キナクリドン顔料が好ましく、特にC.I.ピグメント・レッド122、及びC.I.ピグメント・バイオレット19が好ましい。
【0025】
また、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたもの、具体的にはファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
【0026】
本発明においては、アミンオキシド化合物を含有することによるインクの固着を防いで不吐出やインク滴の吐出曲がりといった現象を解消する観点から、顔料自体に水系液中で自ら安定に分散する自己分散能を持たせる。具体的には、顔料として、自己分散型顔料、及び/又は、顔料の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆顔料が用いられる。
【0027】
〜自己分散型顔料〜
前記自己分散型顔料とは、顔料表面に−COOH、−CHO、−OH、−SOH及びこれらの塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上等の官能基(分散性付与基)を有するように処理された顔料であって、分散剤を別途配合せずとも、水系のインク組成物中で均一に分散し得るものである。なお、ここでいう「分散」とは、自己分散型顔料が分散剤なしに水中に安定に存在している状態をいい、分散している状態のもののみならず、溶解している状態のものも含むものとする。
自己分散型顔料が配合されたインク組成物では、アミンオキシド化合物が不吐出及び吐出曲がりの防止に有効に働くと共に、分散安定性が高く、またインク組成物の粘度が適度なものとなるので、顔料をより多く含有させることが可能である。よって、色濃度に優れた高精細な画像が長期に亘り安定して形成される。
【0028】
自己分散型顔料を調製するには、真空プラズマ等の物理的処理や化学的処理により、官能基又は官能基を含んだ分子を顔料の表面に配位、グラフト等の化学的結合をさせること等によって得ることができる。例えば、特開平8−3498号公報に記載の方法によって得ることができる。
また、自己分散型顔料は、市販品を利用することも可能であり、好ましい例として、オリエント化学工業(株)製のマイクロジェットシリーズ、キャボット社製のCAB−O−JETシリーズなどが挙げられる。
【0029】
自己分散型顔料としては、後述の処理液を用いる場合において凝集成分との反応によりインクの凝集性と耐擦性とを向上させる観点から、顔料の表面にカルボキシル基(−COOH)を有する自己分散型顔料が好ましい。
【0030】
自己分散型顔料は、インクの保存安定性の向上や、ノズルの目詰まり防止の観点から、その平均粒径が10〜300nmであることが好ましく、40〜150nmであることが更に好ましい。
自己分散型顔料のインク組成物中における含有量は、高い濃度が得られる点及びインク組成物の液安定性の点で、好ましくは1〜15質量%であり、吐出安定性を高める観点から、更に好ましくは2〜10質量%である。
【0031】
本発明においては、自己分散型顔料として、アニオン性ポリマーが共有結合した顔料が好ましく用いられ、インクの連続吐出性がより向上する。アニオン性ポリマーが共有結合した顔料は、アニオン性ポリマーの少なくとも1種と顔料とを有し、顔料にアニオン性ポリマーが共有結合している。アニオン性ポリマーが共有結合した顔料(以下、「アニオン性ポリマー結合型顔料」、「ポリマー改質顔料」ともいう。)は、付加的な分散剤を用いることなくインクを構成する水系媒体中に分散し得る顔料である。
【0032】
顔料は、表面上にイオン性及び/又はイオン化可能な基を導入するための酸化剤を使用して酸化される炭素生成物等の顔料であってもよい。このように調製した酸化された顔料は、表面上に、より高程度の酸素を含有する基を有する。
酸化剤は、酸素ガス、オゾン、過酸化水素等のパーオキサイド、過硫酸ナトリウム及びカリウムを含む過硫酸塩、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜ハロゲン酸塩、硝酸等の酸化性酸、過塩素酸ナトリウム、NOを含む窒素酸化物、及び過マンガン酸塩、四酸化オスミウム、酸化クロム等の遷移金属を含有する酸化剤、又はイアリー(eerie)硝酸アンモニウムを含むが、これらに限られない。酸化剤の混合物、特に酸素とオゾン等のガス状の酸化剤の混合物を使用してもよい。イオン性又はイオン化可能な基を導入するために、スルホニル化等の表面改質法を使用する改質顔料が使用されてもよい。
【0033】
顔料のうち、カーボンブラックは、炭素相及びケイ素を含有する種相を含むマルチ相集合体、又は炭素相及び金属を含有する種相を含むマルチ相集合体であってもよい。炭素相及びケイ素を含有する種相を含むマルチ相集合体も、ケイ素処理カーボンブラック集合体と考えることも可能であり、いずれにしてもケイ素を含有する種及び/又は金属を含有する種が、ちょうど炭素相のように集合体の相であると理解する限り、炭素相及び金属を含有する種相を含むマルチ相集合体は、金属処理カーボンブラック集合体と考えることができる。マルチ相集合体は、離散したカーボンブラック集合体及び離散したシリカ又は金属集合体の混合物を表さない。むしろ、カーボンブラックとして使用可能であるマルチ相集合体は、集合体の表面上又は(集合体の上に置かれているが)近傍で、及び/又は集合体内に集中する少なくとも1つのケイ素を含有する又は金属を含有する領域を含む。集合体は、従って一方の相が炭素であり、他方の相がケイ素を含有する種、金属を含有する種、又は両者である少なくとも2つの相を含む。集合体の一部であることができるケイ素を含有する種は、シランカップリング剤が結合するようにはカーボンブラック集合体に結合せず、実際には炭素相として、同じ集合体の一部である。
【0034】
金属処理カーボンブラックは、少なくとも炭素相及び金属を含有する種相を含有する集合体である。金属を含有する種は、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、スズ、アンチモン、クロミウム、ネオジム、鉛、テルル、バリウム、セシウム、鉄、及びモリブデンを含有する化合物を含む。金属を含有する種相は、集合体の少なくとも一部分中に分散されることが可能であり、そして集合体に本来備わっている一部分である。金属処理カーボンブラックは、1より多いタイプの金属を含有する種相を含んでもよく、又は金属処理カーボンブラックは、ケイ素を含有する種相及び/又はホウ素を含有する種相を含んでもよい。
【0035】
これらのマルチ相集合体製造の詳細は、米国特許出願公開第08/446141号明細書、米国特許出願公開第08/446142号明細書、米国特許出願公開第08/528895号明細書、米国特許出願公開第08/750017号明細書、国際公開第96/37547号パンフレット、国際公開第08/828785号パンフレット、国際公開第08/837493号パンフレット、国際公開第09/061871号パンフレットで説明されている。
【0036】
シリカでコートされた炭素生成物も顔料として使用可能であり、国際公開第96/37547号パンフレットに記載されている。さらに、シリカでコートされた任意の顔料が使用されてもよい。このようなコートされた顔料では、上記の金属処理カーボンブラック及びマルチ相集合体のためと同様に、被膜又はシリカ又は金属相と反応可能な官能性を有するカップリング剤が、必要な又は望ましい官能性を顔料に付与するために、使用されてもよい。
【0037】
顔料の所望の特性によって、顔料は窒素吸着によって測定されるように、広範なBET表面積を有することができる。例えば、顔料表面は、約10m/g〜約1000m/g及び約50m/g〜約500m/gを含む約10m/g〜約2000m/gであってもよい。当業者に公知であるように、より大きい表面積は、同じ粒子構造でのより小さい粒子サイズに相当する。より大きい表面積が好ましく、そして直ちに所望の用途に使用可能でない場合、より小さい粒径へ顔料を減少させるために、顔料を必要に応じて、ミリング媒体、ジェットミリング、マイクロ流体化、又は超音波処理等の従来のサイズ減少又は粉砕技術に供してよい。さらに、顔料がカーボンブラック等の第1粒子の集合体を含む微粒子材料である場合には、顔料は約40ml/100g〜約200ml/100gを含む約10ml/100g〜約1000ml/100gの構造を有してもよい。
【0038】
アニオン性ポリマー結合型顔料は、顔料に結合している少なくとも1種のポリマーに、少なくとも1種のアニオン性基又はアニオン性化可能基が結合している。ここで「アニオン性化可能基」とは、アニオン性を呈するようにイオン化し得る基を意味する。例えば、アニオン性基又はアニオン性化可能基は、酸性基若しくは酸性基の塩とし得る。酸性基は、カルボン酸基、ヒドロキシ基、スルホン酸基、硫酸基、又はホスホン酸基のような、有機酸の誘導体とし得る。アニオン性基又はアニオン性化可能基は、記録媒体表面上における、定着剤液とアニオン性ポリマー結合型顔料との凝集反応に関わる官能基をもたらすことができる。
【0039】
アニオン性ポリマー結合型顔料が含むポリマーとしては、特に限定されず、ポリスチレン、スチレン/アクリルコポリマー、スチレン/アクリルエステルコポリマー、ポリアクリルエステル、ポリメタクリルエステル、ポリエチルアクリレート、スチレン/ブタジエンコポリマー、ブタジエンコポリマー、ポリウレタン、アクリロニトリル/ブタジエンコポリマー、クロロプレンコポリマー、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、ビニリデンフッ化物、ベンゾグアナミン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン/メタクリルエステルコポリマー、スチレン/アクリルアミドコポリマー、n−イソブチルアクリレート、酢酸ビニル、アクリルアミド、ポリビニルアセタール、ロジン樹脂、塩化ビニリデン樹脂、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、酢酸ビニル/アクリルコポリマー、及び塩化ビニル樹脂を挙げることができる。当該ポリマーは、アニオン性ポリマー結合型顔料の質量の約20%〜約30%にて顔料上に担持させることができる。
【0040】
ポリマー改質顔料は、後述する改質顔料から、少なくとも1種の重合性モノマーを重合することを含む工程によって調製される。ポリマー基は、例えば、ホモポリマー、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、分枝共重合体、又は交互共重合体を含む種々の異なるタイプのポリマー基であってもよい。
【0041】
一般的に、結合した少なくとも1種のポリマー基を有する顔料を調製するために使用可能な、3つのタイプの方法がある。これらは、「上への(onto)グラフト化」、「を通った(through)グラフト化」、及び「からの(from)グラフト化」工程と呼ばれる。「からのグラフト化」工程は、結合した少なくとも1種の重合性基を有する改質顔料の存在下でのモノマーの重合を一般的に含む。結合したポリマーは、成長するポリマー鎖が顔料表面上の重合性基に到達することを立体的に妨げることができるため、結合したポリマーの存在は、さらなる結合を制限することができる。ちなみに、「からのグラフト化」工程は、典型的には顔料表面上に開始点を生成すること及び開始点から直接的にモノマーを重合させることを含む。
【0042】
前記ポリマー改質顔料は「からのグラフト化」工程によって調製されることが好ましい。当技術分野で公知の全「からのグラフト化」工程を使用してもよい。例えば、ポリマー改質顔料は、少なくとも1種の重合性モノマーが結合した少なくとも1種の移動可能な原子又は基を有する顔料「から」重合される工程によって調製されてもよい。あるいは、少なくとも1種の重合性モノマーが、結合した開始基を有する顔料「から」重合される従来のラジカル重合が使用されてもよい。好ましくは、ポリマー改質顔料は、結合した少なくとも1種の移動可能な原子又は基を有する顔料から少なくとも1種の重合性モノマーを重合させるステップを含む重合工程を使用して調製される。そうした重合工程の例は、グループ移動重合(GTP)等のイオン性重合と同様に原子移動ラジカル重合(ATRP)、安定フリーラジカル(SFR)重合、及び可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)を含む。これらの重合は、典型的には、休止状態の鎖末端に関連して、比較的低い固定濃度の増殖鎖末端を含むが、しかし必ずではない。鎖が休止状態にある場合、鎖末端は、移動可能な原子又は基を含む。休止状態の鎖末端は、移動可能な原子又は基を失うことによって装飾鎖末端に転化されてもよい。
【0043】
ATRP、SFR、及びRAFTは、ラジカル移動可能な原子又は基を含む開始剤を使用するラジカル重合性モノマーから、高分子材料を調製するために使用されるリビングラジカル重合法である。これらのそれぞれは、移動する基のタイプが異なる。例えば、ATRP重合は、典型的にはハロゲン基の移動を含む。ATRP工程に関する詳細は、例えば、ACS Symposium Series 768、及びHandbook of Radical Polymerization(K. Matyjaszewski, T. P. Davis (Editors): Wiley-Interscience, Hoboken 2002)と同様に、Journal of the American Chemical Society 1995 117, 5614にMatyjaszewskiにより記載されている。SFR重合は、一般的にニトロキシル基等の安定なフリーラジカル基の移動を含む。ニトロキシド媒介重合に関する詳細は、例えばHandbook of Radical Polymerization(K. Matyjaszewski, T. P. Davis (Editors): Wiley-Interscience, Hoboken 2002)の10章中に記載されている。例えば、Accounts of Chemical Research 2004 37 (5), 312-325(C. L. McCormick and A. B. Lowe)に多くのほかの基が示されてはいるが、Macromolecules 1998 31(16), 5559(Chiefari, et al.)中に記載されるRAFT工程は、移動するのが、例えば、チオカルボニルチオ基である点で、ニトロキシド媒介重合と異なる。比較すると、GTPは、アニオン性又はカチオン性重合性モノマーが、シリル基(例えば、トリメチルシリル基)等のイオン的に移動可能な原子又は基を含む開始剤から重合する重合技術である。GTP工程に関する詳細は、例えば、Journal of the American Chemical Society 1983 105(17), 5706-5708(Webster, et al.)中に、及びEncyclopedia of Polymer Science and Engineering 1987 7, 580-588(Webster)中に記載されている。
【0044】
〜樹脂被覆顔料〜
本発明においては、着色剤として含有される顔料の一部又は全部を、水不溶性樹脂で被覆して液中に分散させることが好ましい。この場合、顔料は必ずしも粒子表面の全体が被覆されている必要はなく、場合により粒子表面の少なくとも一部が被覆された状態であってもよい。これにより、含有されるアミンオキシド化合物が不吐出及び吐出曲がりの防止に有効に働くと共に、顔料粒子を微粒径にして存在させることができ、分散後には高い分散安定性が得られる。よって、色濃度に優れた高精細な画像が長期に亘り安定して形成される。
【0045】
前記水不溶性樹脂としては、例えば、〔1〕以下に示す一般式(1)で表される繰り返し単位(a)とイオン性基を有する繰り返し単位(b)とを含むポリマー、あるいは〔2〕塩生成基含有モノマー(c)由来の構成単位とスチレン系マクロマー(d)及び/又は疎水性モノマー(e)由来の構成単位とを含むポリマー、等が好適に挙げられ、中でも前記〔1〕ポリマーが好ましい。前記ポリマー〔2〕の詳細については、特開2009−84501号公報の段落0012〜0031に記載された詳細を参照することができる。
なお、「水不溶性」とは、25℃の水系媒体にポリマーを混合したときに、水系媒体に溶解するポリマーの量が、混合した全ポリマーに対する質量比として10質量%以下であることをいう。
【0046】
以下、〔1〕一般式(1)で表される繰り返し単位(a)とイオン性基を有する繰り返し単位(b)とを含むポリマーについて具体的に説明する。
【0047】
このポリマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位の少なくとも一種と、イオン性基を有する繰り返し単位の少なくとも一種とを含み、必要に応じて、更に、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の他の疎水性繰り返し単位や、非イオン性の官能基を持つ親水性繰り返し単位などの他の構造単位を含むことができる。
【0048】
<(a)一般式(1)で表される繰り返し単位>
【化2】

【0049】
一般式(1)において、Rは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)を表し、Lは、−COO−、−OCO−、−CONR−、−O−、又は置換もしくは無置換のフェニレン基を表し、Rは水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。なお、Lで表される基中の*印は、主鎖に連結する結合手を表す。Lは、単結合、又は2価の連結基を表す。Arは、芳香環から誘導される1価の基を表す。
【0050】
前記一般式(1)において、Rは水素原子、メチル基、又はハロゲン原子を表し、好ましくはメチル基を表す。
【0051】
は、−COO−、−OCO−、−CONR−、−O−、又は置換もしくは無置換のフェニレン基を表す。Lがフェニレン基を表す場合、無置換が好ましい。Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を表す。
【0052】
は、単結合、又は2価の連結基を表す。前記2価の連結基としては、好ましくは炭素数1〜30の連結基であり、より好ましくは炭素数1〜25の連結基であり、更に好ましくは炭素数1〜20の連結基であり、特に好ましくは炭素数1〜15の連結基である。
中でも、最も好ましくは、炭素数1〜25(より好ましくは1〜10)のアルキレンオキシ基、イミノ基(−NH−)、スルファモイル基、及び、炭素数1〜20(より好ましくは1〜15)のアルキレン基やエチレンオキシド基[−(CHCHO)−,n=1〜6]などの、アルキレン基を含む2価の連結基等、並びにこれらの2種以上を組み合わせた基などである。
【0053】
Arは、芳香環から誘導される1価の基を表す。
Arで表される1価の基の芳香環としては、特に限定されないが、ベンゼン環、炭素数8以上の縮環型芳香環、ヘテロ環が縮環した芳香環、又は2以上のベンゼン環が縮環した芳香環が挙げられる。
【0054】
前記「炭素数8以上の縮環型芳香環」は、少なくとも2以上のベンゼン環が縮環した芳香環、少なくとも1種の芳香環と該芳香環に縮環して脂環式炭化水素で環が構成された炭素数8以上の芳香族化合物である。具体的な例としては、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アセナフテンなどが挙げられる。
【0055】
前記「ヘテロ環が縮環した芳香環」とは、ヘテロ原子を含まない芳香族化合物(好ましくはベンゼン環)と、ヘテロ原子を有する環状化合物とが縮環した化合物である。ここで、ヘテロ原子を有する環状化合物は、5員環又は6員環であることが好ましい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子が好ましい。ヘテロ原子を有する環状化合物は、複数のヘテロ原子を有していてもよい。この場合、ヘテロ原子は互いに同じでも異なっていてもよい。
芳香環が縮環したヘテロ環の具体例としては、フタルイミド、アクリドン、カルバゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0056】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を形成するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、及びビニルエステル類などのビニルモノマー類を挙げることができる。
【0057】
本発明において、主鎖をなす原子に連結基を介して芳香環を有する疎水性の構造単位では、芳香環は連結基を介して水不溶性樹脂の主鎖をなす原子と結合され、水不溶性樹脂の主鎖をなす原子に直接結合しない構造を有するので、疎水性の芳香環と親水性構造単位との間に適切な距離が維持されるため、水不溶性樹脂と顔料との間で相互作用が生じやすく、強固に吸着して分散性がさらに向上する。
【0058】
更には、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を形成するモノマーの具体例としては、下記のモノマーなどを挙げることができる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0059】
【化3】

【0060】
【化4】

【0061】
【化5】

【0062】
前記(a)一般式(1)で表される繰り返し単位中のArとしては、被覆された顔料の分散安定性の観点から、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、アクリドン、又はフタルイミドから誘導される1価の基であることが好ましい。
【0063】
前記繰り返し単位は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
前記一般式(1)で表される繰り返し単位のポリマー中における含有割合は、ポリマーの全質量に対して、5〜25質量%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜18質量%の範囲である。この含有割合は、5質量%以上であると、白抜け等の画像故障の発生を顕著に抑制できる傾向となり、また、25質量%以下とするとポリマーの重合反応溶液(例えば、メチルエチルケトン)中での溶解性低下による製造適性上の問題が生じない傾向となり好ましい。
【0064】
<他の疎水性繰り返し単位>
ポリマー〔1〕は、疎水性構造単位として、前記一般式(1)で表される繰り返し単位以外の他の疎水性繰り返し単位を更に有してもよい。他の疎水性繰り返し単位としては、例えば、親水性構造単位に属しない(例えば親水性の官能基を有しない)例えば(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、及びビニルエステル類などのビニルモノマー類、主鎖をなす原子に連結基を介して芳香環を有する疎水性構造単位、等に由来の構造単位を挙げることができる。これらの構造単位は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0065】
前記(メタ)アクリレート類としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらのうち(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルが好ましい。中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートが好ましく、特にメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが好ましい。
前記(メタ)アクリルアミド類としては、例えば、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(2−メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、N−アリル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
前記スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、n−ブチルスチレン、tert−ブチルスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、酸性物質により脱保護可能な基(例えばt−Bocなど)で保護されたヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸メチル、及びα−メチルスチレン、ビニルナフタレン等などが挙げられ、中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
前記ビニルエステル類としては、例えば、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルメトキシアセテート、及び安息香酸ビニルなどのビニルエステル類が挙げられる。中でも、ビニルアセテートが好ましい。
【0066】
<(b)イオン性基を有する繰り返し単位>
イオン性基を有する繰り返し単位としては、カルボキシル基、スルホ基、ホスホネート基などのイオン性基を有するモノマーに由来する繰り返し単位が挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、及びビニルエステル類等の、イオン性官能基を有するビニルモノマー類を挙げることができる。イオン性基を有する繰り返し単位は、対応するモノマーの重合により導入できるが、重合後のポリマー鎖にイオン性基を導入したものでもよい。
【0067】
これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸に由来の繰り返し単位が好ましく、アクリル酸由来の構造単位もしくはメタクリル酸由来の構造単位のいずれか又は両方を含むことが好ましい。
【0068】
このポリマー〔1〕は、(b)イオン性基を有する繰り返し単位の割合がポリマー全質量の15質量%以下であって、イオン性基を有する繰り返し単位として少なくとも(メタ)アクリル酸由来の構造単位を含む態様が好ましい。
(b)イオン性基を有する繰り返し単位の含有量がポリマー全質量の15質量%以下であると、分散安定性に優れる。中でも、(b)イオン性基を有する繰り返し単位の割合は、分散安定性の観点から、5質量%以上15質量%以下が好ましく、7質量%以上13質量%以下がより好ましい。
【0069】
このポリマー〔1〕は、水性のインク組成物中において安定的に存在することができ、例えばインクジェットヘッド等での凝集物の付着、堆積を緩和し、付着した凝集物の除去性にも優れる。このような観点から、前記(a)一般式(1)で表される繰り返し単位以外の疎水性構造単位、及び前記「(b)イオン性基を有する繰り返し単位」以外の他の親水性構造単位をさらに有していてもよい。
【0070】
<親水性繰り返し単位>
前記他の親水性構成単位としては、非イオン性の親水性基を有するモノマーに由来の繰り返し単位が挙げられ、例えば、親水性の官能基を有する(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、及びビニルエステル類等の、親水性の官能基を有するビニルモノマー類を挙げることができる。
【0071】
「親水性の官能基」としては、水酸基、アミノ基、(窒素原子が無置換の)アミド基、及び後述のポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0072】
非イオン性の親水性基を有する親水性繰り返し単位を形成するモノマーとしては、エチレン性不飽和結合等の重合体を形成しうる官能基と非イオン性の親水性の官能基とを有していれば、特に制限はなく、公知のモノマーから選択することができる。具体的な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、アミノエチルアクリレート、アミノプロピルアクリレート、アルキレンオキシド重合体を含有する(メタ)アクリレートを好適に挙げることができる。
【0073】
非イオン性の親水性基を有する親水性繰り返し単位は、対応するモノマーの重合により形成することができるが、重合後のポリマー鎖に親水性の官能基を導入してもよい。
【0074】
非イオン性の親水性基を有する親水性繰り返し単位は、アルキレンオキシド構造を有する親水性の構造単位がより好ましい。アルキレンオキシド構造のアルキレン部位としては、親水性の観点から、炭素数1〜6のアルキレンが好ましく、炭素数2〜6のアルキレンがより好ましく、炭素数2〜4のアルキレンが特に好ましい。また、アルキレンオキシド構造の重合度としては、1〜120が好ましく、1〜60がより好ましく、1〜30が特に好ましい。
【0075】
また、非イオン性の親水性基を有する親水性繰り返し単位は、水酸基を含む親水性の繰り返し単位であることも好ましい態様である。繰り返し単位中の水酸基数としては、特に制限はなく、水不溶性樹脂の親水性、重合時の溶媒や他のモノマーとの相溶性の観点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が特に好ましい。
【0076】
ポリマー〔1〕としては、親水性繰り返し単位と疎水性繰り返し単位(前記一般式(1)で表される構造繰り返しを含む)との組成は各々の親水性、疎水性の程度にも影響するが、親水性繰り返し単位の割合が15質量%以下であることが好ましい。このとき、疎水性繰り返し単位は、水不溶性樹脂の質量全体に対して、80質量%を超える割合であるのが好ましく、85質量%以上であるのがより好ましい。
親水性繰り返し単位の含有量が15質量%以下であると、単独で水性媒体中に溶解する成分量が抑えられ、顔料の分散などの諸性能が良好になり、インクジェット記録時には良好なインク吐出性が得られる。
【0077】
親水性繰り返し単位の好ましい含有割合は、水不溶性樹脂の全質量に対して、0質量%を超え15質量%以下の範囲であり、より好ましくは2〜15質量%の範囲であり、更に好ましくは5〜15質量%の範囲であり、特に好ましくは8〜12質量%の範囲である。
【0078】
芳香環の水不溶性樹脂中に含まれる含有割合は、水不溶性樹脂の全質量に対して、60質量%以下であるのが好ましく、55質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。中でも、10〜50質量%であるのが好ましく、15〜50質量%の範囲がより好ましい。芳香族環の含有割合が前記範囲内であると、耐擦過性が向上する。
【0079】
以下、ポリマー〔1〕の具体例(モル比(質量%)、重量平均分子量Mw、酸価)を列挙する。但し、本発明においては、下記に限定されるものではない。
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
・フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
・フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
・ベンジルメタクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(60/30/10)
・(M−25/M−27)混合物/エチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(モル比:15/75/10、MW49400、酸価65.2mgKOH/g)
・(M−25/エチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(モル比:18/69/13、MW41600、酸価84.7mgKOH/g)
・(M−28/M−29)混合物/エチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(モル比:15/85/10、MW38600、酸価65.2mgKOH/g)
・(M−28)/エチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(モル比:20/73/7、MW45300、酸価45.6mgKOH/g)
【0080】
本発明における水不溶性樹脂の酸価としては、顔料分散性、保存安定性の観点から、30mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましく、30mgKOH/g以上85mgKOH/g以下であることがより好ましく、50mgKOH/g以上85mgKOH/g以下であることが特に好ましい。
なお、酸価とは、水不溶性樹脂の1gを完全に中和するのに要するKOHの質量(mg)で定義され、JIS規格(JIS K 0070、1992)記載の方法により測定されるものである。
【0081】
本発明における水不溶性樹脂の分子量としては、重量平均分子量(Mw)で3万以上が好ましく、3万〜15万がより好ましく、更に好ましくは3万〜10万であり、特に好ましくは3万〜8万である。分子量が3万以上であると、分散剤としての立体反発効果が良好になる傾向があり、立体効果により顔料へ吸着し易くなる。
また、数平均分子量(Mn)では1,000〜100,000の範囲程度のものが好ましく、3,000〜50,000の範囲程度のものが特に好ましい。数平均分子量が前記範囲内であると、顔料における被覆膜としての機能又はインク組成物の塗膜としての機能を発揮することができる。ポリマー〔1〕は、アルカリ金属や有機アミンの塩の形で使用されることが好ましい。
【0082】
また、水不溶性樹脂の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)としては、1〜6の範囲が好ましく、1〜4の範囲がより好ましい。分子量分布が前記範囲内であると、インクの分散安定性、吐出安定性を高められる。
【0083】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgel、Super Multipore HZ−H(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて溶媒THFにて検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算することにより求められる分子量である。
【0084】
水不溶性樹脂は、種々の重合方法、例えば溶液重合、沈澱重合、懸濁重合、塊状重合、乳化重合により合成することができる。重合反応は、回分式、半連続式、連続式等の公知の操作で行なうことができる。重合の開始方法は、ラジカル開始剤を用いる方法、光又は放射線を照射する方法等がある。これらの重合方法、重合の開始方法は、例えば、鶴田禎二「高分子合成方法」改定版(日刊工業新聞社刊、1971)や大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊、124〜154頁に記載されている。
前記重合方法のうち、特にラジカル開始剤を用いた溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いられる溶剤は、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の種々の有機溶剤が挙げられる。溶剤は、1種単独で又は2種以上を併用してもよい。また、水との混合溶媒として用いてもよい。重合温度は、生成するポリマーの分子量、開始剤の種類などと関連して設定する必要があり、通常は0℃〜100℃程度であるが、50〜100℃の範囲で重合を行なうことが好ましい。反応圧力は、適宜選定可能であるが、通常は1〜100kg/cmであり、特に1〜30kg/cm程度が好ましい。反応時間は、5〜30時間程度である。得られた樹脂は、再沈殿などの精製を行なってもよい。
【0085】
本発明における顔料が、顔料粒子を水不溶性樹脂で被覆した樹脂被覆粒子である場合、分散安定性の点で、顔料を転相乳化法により水不溶性樹脂で被覆してなる形態である場合が好ましい。
転相乳化法は、基本的には、自己分散能又は溶解能を有する樹脂と顔料との混合溶融物を水に分散させる自己分散(転相乳化)方法である。また、この混合溶融物には、硬化剤又は高分子化合物を含んでなるものであってもよい。ここで、混合溶融物とは、溶解せず混合した状態、溶解して混合した状態、又はこれら両者の状態のいずれの状態を含むものをいう。「転相乳化法」のより具体的な製造方法は、特開平10−140065号に記載の方法が挙げられる。
転相乳化法及び酸析法のより具体的な製造方法は、特開平9−151342号、特開平10−140065号の各公報に記載の方法が挙げられる。
【0086】
樹脂被覆顔料は、水不溶性樹脂を用いて下記の工程(1)及び工程(2)を含む方法により樹脂被覆顔料の分散物として調製する調製工程を設けることで好適に得られる。また、インク組成物は、調製工程で得られた樹脂被覆顔料の分散物を水及び有機溶媒と共に用いて水性インクとする方法により調製することができる。
・工程(1):水不溶性樹脂、有機溶媒、中和剤、顔料、及び水を含有する混合物を攪拌等により分散して分散物を得る工程
・工程(2):前記分散物から前記有機溶媒を除去する工程
【0087】
攪拌方法には特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー、ビーズミル等の分散機を用いることができる。
【0088】
なお、有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられ、その詳細については下記の樹脂粒子の項で述べる。また、中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、特定共重合体が水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。中和剤の詳細については、後述する。
【0089】
前記工程(2)では、前記工程(1)で得られた分散物から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで、顔料の粒子表面が共重合体で被覆された樹脂被覆顔料粒子の分散物を得ることができる。得られた分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、ここでの有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下である。より具体的には、例えば、(1)アニオン性基を有する共重合体又はそれを有機溶媒に溶解した溶液と塩基性化合物(中和剤)とを混合して中和する工程と、(2)得られた混合液に顔料を混合して懸濁液とした後に、分散機等で顔料を分散して顔料分散液を得る工程と、(3)有機溶剤を例えば蒸留して除くことによって、顔料をアニオン性基を有する特定共重合体で被覆し、水性媒体中に分散させて水性分散体とする工程とを含む方法である。
なお、より具体的には、特開平11−209672号公報及び特開平11−172180号の記載を参照することができる。
【0090】
本発明において、分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機、超音波ホモジナイザーなどにより行なえる。
【0091】
自己分散型顔料、及び/又は、顔料粒子の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆顔料の、インク組成物中における総量(質量基準)としては、インク組成物の全質量に対して、0.1〜15質量%の範囲が好ましく、1〜10質量%の範囲がより好ましく、1〜7質量%の範囲が特に好ましい。
【0092】
(アミンオキシド化合物)
本発明のインク組成物は、下記一般式(I)で表されるアミンオキシド化合物から選ばれる1種又は2種以上を含有する。本発明におけるアミンオキシド化合物は、1分子中に2価のCONH部位とN→O部位を有しており、かかる構造を持つアミンオキシド化合物を含有することにより、後述する樹脂粒子及びワックス粒子をともに含有するインク組成である場合に、ノズル孔近傍にインクの固着物が堆積し難くなると共に、インク付着が生じてもワイピング等による除去が容易になる。したがって、インクの吐出と吐出休止とが繰り返される使用形態でのインクの吐出曲がり及び不吐出が抑制され、インク吐出性、ひいては初期の高精細画像の形成性が安定化する。
【0093】
【化6】



【0094】
前記一般式(I)において、R11は、炭素数3〜24のアルキル基、又は炭素数3〜24のアルケニル基を表す。
炭素数3〜24のアルキル基としては、例えば、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、デシル基、ウンデシル基(−CH2(CH2)9CH3)、エイコシル基(−CH2(CH2)18CH3)などが挙げられる。中でも、炭素数3〜15のアルキル基が好ましく、特に炭素数10〜15のアルキル基が好ましい。
炭素数3〜24のアルケニル基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基などが挙げられる。中でも、炭素数3〜15のアルケニル基が好ましい。
【0095】
12は、炭素数1〜5のアルキレン基を表す。炭素数1〜5のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。中でも、炭素数1〜3のアルキレン基が好ましい。
【0096】
13及びR14は、各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基を表す。炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。このうち、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0097】
上記のうち、R11が炭素数3〜15のアルキル基であり、R12が炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13及びR14がメチル基又はエチル基である態様が好ましい。
【0098】
以下、前記一般式(I)で表されるアミンオキシド化合物の具体例を示す。ここでは、好ましい例を挙げるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0099】
【化7】



【0100】
本発明におけるアミンオキシド化合物は、インク組成物の全質量に対して、0.01質量%以上1.00質量%未満の範囲で含有する。このように比較的少量のアミンオキシド化合物を含有することによって、顔料分散性の低下やインクの増粘を伴なわずに、インク吐出性及び画像形成性の向上が図れる。
換言すると、アミンオキシド化合物の含有比率がインク組成物の全質量の0.01質量%未満であると、添加量が足らず、樹脂粒子及びワックス粒子の析出、堆積が抑えられない。また、アミンオキシド化合物の含有比率がインク組成物の全質量の1.00質量%以上であると、添加量が多すぎ、顔料分散性を損なうと共に、インクが付着しやすく、また増粘して不吐出や画像に色抜けの発生を招来する。
上記の中では、アミンオキシド化合物の含有比率は、吐出休止後に再吐出したときのインクの吐出曲がり及び不吐出の解消(具体的には、色抜け防止及び着弾位置精度の向上)の観点から、インク組成物の全質量に対して、0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましく、長期に亘る吐出の安定性の確保の観点から、0.025質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下が更に好ましく、0.075質量%以上0.2質量%以下が特に好ましい。
【0101】
(ワックス粒子)
本発明のインク組成物は、非水溶性又は難水溶性のワックス粒子の少なくとも一種を含有する。ワックスを含有することにより、画像の耐擦過性がより向上する。一方で、ワックス粒子を後述の樹脂粒子と共に含有する場合にインクの付着、堆積が起きやすくなる傾向があるが、アミンオキシド化合物をインクに含有させることにより、吐出曲がりや不吐出を抑制することができる。
【0102】
ワックス粒子が「非水溶性又は難水溶性」であるとは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が15g以下であることをいう。インクの連続吐出性及び吐出安定性が向上する観点から、前記溶解量は好ましくは5g以下であり、更に好ましくは1g以下である。
【0103】
前記ワックスとしては、天然ワックス及び合成ワックスを挙げることができる。
天然ワックスとしては、石油系ワックス、植物系ワックス、動植物系ワックスが挙げられる。
石油系ワックスとして、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等、また、植物系ワックスとしてはカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、木ロウ等、また、動物植物系ワックスとしてはラノリン、みつろう等を挙げることができる。
合成ワックスとしては、合成炭化水素系ワックス、変性ワックス系が挙げられる。
合成炭化水素系ワックスとしては、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロブシュワックス等が挙げられ、また、変性ワックス系としてはパラフィンワックス誘導体、モンタンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体等、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
前記ワックスの中でも、カルナバワックスは、画像の耐擦過性を向上させる観点から好ましく、画像サンプルの後加工(冊子への加工等)における画像強度を向上させる点で好ましい。また、パラフィンワックス及びその誘導体は、炭素数20〜40の炭化水素を主成分とするもので、画像光沢感や、ノズル先端から水分蒸発防止、水分保持効果が優れている点で好ましい。
また、樹脂との相溶性が優れるため均質で良好な画像を形成しやすい観点では、ポリエチレンワックスが好ましい。さらに、ポリエチレンワックスは変性し易いため、その変性されたグリコール変性ポリエチレンワックスは、グリコールに起因する湿潤性を付与することができ、ノズル先端でのインク組成物の湿潤性効果がみられ、よって吐出安定性が一層効果的に出来る点でより好ましい。
【0104】
ワックスは、乳化分散剤とともに用いるのが好ましい。乳化分散剤としては従来知られている多くの乳化分散剤より選択して用いることができる。好ましい乳化分散剤は、低分子量(好ましくは重量平均分子量100〜5000)のノニオン性界面活性剤であり、特に好ましくは下記一般式(W)で表される分散剤である。ワックスを乳化分散物として用いる場合、このような低分子量のノニオン性界面活性剤がインク中に混入し顔料や樹脂粒子と共存することで分散系は不安定化しやすく、インクの析出、堆積が生じやすくなることが推測され、このような場合に本願発明の効果(インクの吐出曲がり及び不吐出の解消)がより奏される。
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算して求められる分子量である。
【0105】
(R−G−(D) ・・・一般式(W)
前記一般式(W)において、Rは炭素数10〜60の置換もしくは無置換の直鎖、分岐、環状のアルキル基、アルケニル基、もしくはアラルキル基、又は置換もしくは無置換のアリール基を表す。好ましいRの例は、C2g+1(gは12〜60の整数を表す)、エイコシル、ドコサニルである。
Gは、2〜7価の連結基を表し、好ましくは2価もしくは3価の連結基又は単結合を表し、より好ましくはアルキレン基、アリーレン基又はそれらの複合基を表し、これらは酸素、エステル基、アミド基などで中断された二価の連結基であってもよい。
Dは(B)−Eのポリオキシアルキレン基であり、Bは−CHCHO−、−CHCHCHO−、−CH(CH)CHO−、又は−CHCH(OH)CHO−を表し、nは1〜50の整数である。ここで、Eは、水素原子、炭素数1〜8の置換もしくは無置換のアルキル基,アリール基,アルキルカルボニル基又はアリールカルボニル基を表し、好ましくは、水素原子、メチル基、メチル基、プロピル基、アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基である。
a及びdはそれぞれ1〜6の整数を表し、a、dが2以上の場合、複数存在するR、D、及びEは互いに同一でも相違していてもよい。
【0106】
前記一般式(W)の詳細及び好ましい態様については、特開2006−91780号公報の段落番号[0022]〜[0026]に記載の「一般式(2)で表される分散剤」の記載を参照することができる。具体例としては、下記化合物が例示される。
【0107】
【化8】

【0108】
ワックスは、分散物の形で添加されることが好ましく、その溶媒としては水が好ましいがこれに限定されるものではない。例えば通常の有機溶媒を適宜選択し、分散時に使用することができる。有機溶媒については、特開2006−91780号公報の段落番号[0027]の記載を参照することができる。
【0109】
ワックスのインク組成物中における含有量としては、インク全質量に対して、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜4質量%がより好ましく、0.5〜3質量%であることがさらに好ましい。ワックスの含有量は、0.1質量%以上であると、画像の耐擦過性がより向上し、5質量%以下であると、インクの長期保存安定性の点で有利である。長期における吐出安定性の観点から、0.5〜3質量%であることが好ましい。
【0110】
(樹脂粒子)
本発明のインク組成物は、非水溶性又は難水溶性の樹脂粒子の少なくとも一種を含有する。水に対して不溶性又は難溶性の樹脂粒子を、顔料を被う前記樹脂とは別に含有することによって、インク組成物の記録媒体への定着性、及び形成画像の耐擦過性がより向上すると共に、樹脂粒子を前記ワックス粒子と共に含む場合にインクの付着、堆積が起きやすいが、アミンオキシド化合物の含有による吐出曲がりや不吐出の防止がより図られる。
【0111】
水不溶性樹脂が「非水溶性又は難水溶性」であるとは、樹脂を105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が15g以下であることをいう。インクの連続吐出性及び吐出安定性が向上する観点から、前記溶解量は好ましくは10g以下であり、更に好ましくは5g以下であり、特に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0112】
水不溶性の樹脂粒子としては、例えば、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、又はフッ素系の樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、又はポリビニルブチラール等のポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系樹脂、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系材料、あるいはそれらの共重合体又は混合物などの樹脂の粒子が挙げられる。これらのうち、アニオン性のアクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(アニオン性基含有アクリルモノマー)及び必要に応じて該アニオン性基含有アクリルモノマーと共重合可能な他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。前記アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、及びホスホン酸基からなる群より選ばれる1以上を有するアクリルモノマーが挙げられる。中でも、カルボキシル基を有するアクリルモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等)が好ましく、特にはアクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。
【0113】
水不溶性の樹脂粒子としては、吐出安定性及び顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点から、自己分散性樹脂粒子が好ましい。自己分散性樹脂とは、界面活性剤の不存在下、転相乳化法により分散状態としたとき、ポリマー自身の官能基(特に酸性基又はその塩)により、水性媒体中で分散状態となりうる水不溶性ポリマーをいう。
ここで分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンジョン)の両方の状態を含むものである。
自己分散性樹脂においては、インク組成物に含有されたときのインク定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる自己分散性樹脂であることが好ましい。
【0114】
自己分散性樹脂の乳化又は分散状態、すなわち自己分散性樹脂の水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。転相乳化法としては、例えば、自己分散性樹脂を溶媒(例えば、水溶性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、自己分散性樹脂が有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0115】
また、自己分散性樹脂における安定な乳化又は分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶剤を除去した後でも、乳化又は分散状態が、25℃で、少なくとも1週間安定に存在し、沈殿の発生が目視で確認できない状態であることをいう。
【0116】
また、自己分散性樹脂における乳化又は分散状態の安定性は、遠心分離による沈降の加速試験によっても確認することができる。遠心分離による、沈降の加速試験による安定性は、例えば、上記の方法により得られた樹脂粒子の水性分散物を、固形分濃度25質量%に調整した後、12000rpmで一時間遠心分離し、遠心分離後の上澄みの固形分濃度を測定することによって評価できる。
遠心分離前の固形分濃度に対する遠心分離後の固形分濃度の比が大きければ(1に近い数値であれば)、遠心分離による樹脂粒子の沈降が生じない、すなわち、樹脂粒子の水性分散物がより安定であることを意味する。本発明においては、遠心分離前後での固形分濃度の比が0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、0.95以上であることが特に好ましい。
【0117】
自己分散性樹脂は、分散状態としたときに水溶性を示す水溶性成分の含有量が10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。水溶性成分を10質量%以下とすることで、樹脂粒子の膨潤や樹脂粒子同士の融着を効果的に抑制し、より安定な分散状態を維持することができる。また、水性インク組成物の粘度上昇を抑制でき、例えば、水性インク組成物をインクジェット法に適用する場合に、吐出安定性がより良好になる。
ここで水溶性成分とは、自己分散性樹脂に含有される化合物であって、自己分散性樹脂を分散状態にした場合に水に溶解する化合物をいう。前記水溶性成分は自己分散性樹脂を製造する際に、副生又は混入する水溶性の化合物である。
【0118】
水不溶性樹脂の主鎖骨格としては、特に制限はなく、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)が挙げられる。中でも、特にビニルポリマーが好ましい。
【0119】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0120】
自己分散性樹脂の粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマー又は環状脂肪族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0121】
前記「親水性の構成単位」は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0122】
親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0123】
前記不飽和カルボン酸モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記不飽和スルホン酸モノマーの具体例としては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
前記不飽和リン酸モノマーの具体例としては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、特にはアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0124】
自己分散性樹脂の粒子は、自己分散性と処理液を用いて画像形成する際の処理液接触時における凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が25〜100mgKOH/gであるポリマーを含むことがより好ましい。更に、前記酸価は、自己分散性の観点から、30〜90mgKOH/gであることがより好ましく、35〜65mgKOH/gであることが特に好ましい。特に、酸価は、25mgKOH/g以上であると、自己分散性の安定性が良好になり、100mgKOH/g以下であると凝集性が向上する。
【0125】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば特に制限はない。前記芳香族基は芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また、前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。本発明においては水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基であることが好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0126】
芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。芳香族基含有モノマーとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0127】
前記環状脂肪族基含有モノマーは、環状脂肪族炭化水素に由来する環状脂肪族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましく、環状脂肪族基含有(メタ)アクリレートモノマー(以下、脂環式(メタ)アクリレートということがある)がより好ましい。
脂環式(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリル酸に由来する構造部位と、アルコールに由来する構造部位とを含み、アルコールに由来する構造部位に、無置換又は置換された脂環式炭化水素基(環状脂肪族基)を少なくとも1つ含む構造を有しているものである。尚、前記脂環式炭化水素基は、アルコールに由来する構造部位そのものであっても、連結基を介してアルコールに由来する構造部位に結合していてもよい。
【0128】
脂環式炭化水素基としては、環状の非芳香族炭化水素基を含むものであれば特に限定はなく、単環式炭化水素基、2環式炭化水素基、3環式以上の多環式炭化水素基が挙げられる。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基や、シクロアルケニル基、ビシクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチル基、デカヒドロナフタレニル基、ペルヒドロフルオレニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、及びビシクロ[4.3.0]ノナン等を挙げることができる。
前記脂環式炭化水素基は、更に置換基を有してもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、水酸基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、アルキル又はアリールカルボニル基、及びシアノ基等が挙げられる。また、脂環式炭化水素基は、さらに縮合環を形成していてもよい。本発明における脂環式炭化水素基としては、粘度や溶解性の観点から、脂環式炭化水素基部分の炭素数が5〜20であることが好ましい。
【0129】
脂環式(メタ)アクリレートの具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
単環式(メタ)アクリレートとしては、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル基の炭素数が3〜10のシクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
2環式(メタ)アクリレートとしては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3環式(メタ)アクリレートとしては、アダマンチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0130】
これらのうち、自己分散性樹脂粒子の分散安定性と、定着性、ブロッキング耐性の観点から、2環式(メタ)アクリレート、又は3環式以上の多環式(メタ)アクリレートを少なくとも1種であることが好ましく、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0131】
自己分散性樹脂は、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含み、その含有量が10質量%〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートの含有量が10質量%〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。
自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15質量%〜90質量%であることがより好ましく、15質量%〜80質量%であることがより好ましく、25質量%〜70質量%であることが特に好ましい。
【0132】
自己分散性樹脂は、例えば、芳香族基含有モノマー又は環状脂肪族基含有モノマー(好ましくは脂環式(メタ)アクリレート)に由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0133】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマー(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート)であることが好ましい。
【0134】
自己分散性樹脂の粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定される。GPCの詳細については、既述した通りである。
【0135】
自己分散性樹脂の粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)あるいは環状脂肪族基含有モノマー(好ましくは脂環式(メタ)アクリレート)を共重合比率として自己分散性樹脂粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマー又は脂環式(メタ)アクリレートに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましい。
【0136】
以下、樹脂粒子を形成する水不溶性樹脂の具体例を挙げる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。なお、括弧内は、共重合成分の質量比を表す。
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
・フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
・フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
・ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/59/6)
・スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
・ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
・フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
・スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
・ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
・フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
・ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
・メチルメタクリレート/メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/アクリル酸共重合体(44/15/35/6)
・スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸共重合体(62/35/3)
・メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/72/8)
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(40/52/8)
・メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/62/10/8)
・メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(20/72/8)
【0137】
樹脂粒子を形成する水不溶性樹脂は、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはアニオン性基(例えばカルボキシル基)を有し、該ポリマーのアニオン性基(例えばカルボキシル基)の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物(分散体)として調製されたものであることが好ましい。すなわち、水不溶性樹脂粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのアニオン性基(例えばカルボキシル基)の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
・工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を、攪拌する工程
・工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
【0138】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。混合物の攪拌方法に特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。また、前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性樹脂粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0139】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。アルコール系溶媒としては、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブタノール、エタノール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましい。また、油系から水系への転相時への極性変化を穏和にする目的で、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンを併用することも好ましい。該溶剤を併用することで、凝集沈降や粒子同士の融着が無く、分散安定性の高い微粒径の自己分散性樹脂粒子を得ることができる。
【0140】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。水不溶性樹脂粒子が解離性基としてアニオン性の解離基(例えばカルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散性樹脂粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0141】
自己分散性樹脂の粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径で1nm〜400nmの範囲が好ましく、1〜200nmの範囲がより好ましく、10〜100nmの範囲が更に好ましい。体積平均粒子径は、1nm以上であると製造適性が向上し、400nm以下であると保存安定性がより向上する。
また、自己分散性樹脂の粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合して使用してもよい。
自己分散性樹脂の粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0142】
水不溶性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、インク組成物の保存安定性の観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。
【0143】
樹脂粒子のインク組成物中における含有量としては、インク組成物の全量(質量基準)に対して、0.5〜10質量%が好ましく、1〜9質量%がより好ましい。樹脂粒子の含有量が0.5質量%以上であると、画像の耐擦過性が向上する。また、樹脂粒子の含有量が10質量%以下であると、インク組成物を調整したときに長期に亘る吐出安定性の点で有利である。
【0144】
(尿素又はその誘導体)
本発明のインク組成物は、尿素又はその誘導体を含有することが好ましい。尿素及びその誘導体は、顔料を含むインク組成物が付着した場合のワイピング等によるクリーニング性が向上する。特に前記樹脂粒子を含有する場合に、乾燥固化したときの拭き取り性が改善される。また、インクが高温に曝された場合、尿素の分解により液のpHが上昇する場合がある。この場合、ヘッド内部の部材がエッチングにより腐食され、インクの付着、堆積が増加し、吐出曲がりや不吐出が起こりやすくなる。本発明のインクはこのようにpHが変化をした際でも本発明の効果(吐出曲がりや不吐出の防止)が発揮される。
【0145】
尿素の誘導体の例としては、尿素の窒素上の水素をアルキル基もしくはアルカノールで置換した化合物、チオ尿素、チオ尿素の窒素上の水素をアルキル基もしくはアルカノールで置換した化合物等が挙げられ、具体的には、N,N−ジメチル尿素、チオ尿素、エチレン尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシブチル尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素等が挙げられる。
【0146】
尿素及びその誘導体のインク組成物中における含有量としては、インク組成物の全質量に対して、1.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましい。
尿素及びその誘導体の含有量が1.0質量%以上であると、インクが付着した場合により拭き取り易くなり、メンテナンス性が向上する。また、尿素及びその誘導体の含有量が20.0質量%以下であると、画像中に含まれる尿素及びその誘導体の吸湿によるベタツキ防止、ブロッキング防止の点で有利である。
【0147】
(水)
本発明のインク組成物は、水を含有することができる。水の含有量は、特に制限はないが、10〜99質量%の範囲が好ましく、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0148】
(その他成分)
本発明のインク組成物は、上記成分に加え、必要に応じて添加剤などの他の成分を含むことができる。他の成分としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物を調製後に直接添加してもよく、インク組成物の調製時に添加してもよい。具体的には、特開2007−100071号公報の段落番号[0153]〜[0162]に記載のその他の添加剤などが挙げられる。
【0149】
表面張力調整剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。表面張力調整剤の含有量は、インクジェット方式で良好に打滴するために、インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整する添加量が好ましく、20〜45mN/mに調整する添加量がより好ましく、25〜40mN/mに調整する添加量がさらに好ましい。表面張力は、例えば、プレート法を用いて25℃で測定することができる。
【0150】
界面活性剤の具体的な例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社)やオルフィンE1010(日信化学工業(株)製)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。更に、特開昭59−157636号公報の第(37)〜(38)頁、リサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも用いることができる。また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載のフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦過性をより良化することもできる。
また、これら表面張力調整剤は、消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等、も使用することができる。
【0151】
〜粘度〜
本発明のインク組成物の粘度は、インクの付与をインクジェット方式で行なう場合、打滴安定性と凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。インク組成物の粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度計を用いて25℃で測定することができる。
〜pH〜
本発明におけるインク組成物のpHとしては、インク安定性と凝集速度の観点から、pH7.5〜10.0であることが好ましく、pH8.0〜9.5であることがより好ましい。尚、インク組成物のpHは25℃で通常用いられるpH測定装置(例えば、東亜ディーケーケー(株)製、HM−30R)によって測定される。
またインク組成物のpHは、酸性化合物又は塩基性化合物を用いて適宜調製することができる。酸性化合物又は塩基性化合物としては通常用いられる化合物を特に制限なく用いることができる。
【0152】
本発明の画像形成方法では、前記インク組成物(及び必要に応じて他の色相のインク組成物)と、前記インク組成物と接触して凝集体を形成可能な処理液とを含むインクセットを用いて画像形成する形態が好ましい。インクセットは、インク組成物や処理液を一体的に若しくは独立に収容したインクカートリッジとして用いることができ、取り扱いが便利である等の点で好ましい。インクセットを含むインクカートリッジは、当該技術分野で公知であり、公知の方法を適宜用いてインクカートリッジにすることができる。
【0153】
<インクセット>
本発明のインクセットは、既述の本発明のインク組成物と、該インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液と、を設けて構成されたものである。本発明のインクセットは、既述のインク組成物が用いられるので、形成画像は耐擦過性に優れると共に、インク液の吐出と吐出休止とを繰り返しながら画像形成する場合に、インクの吐出曲がり及び不吐出が防止され、色抜けなどの画像故障を抑え、長期に亘り安定して高精細な画像が形成される。また、インクが固着し難く、また付着インクは固着物として成長し難いため、メンテナンス性にも優れる。
なお、インク組成物の詳細については、既述の通りである。
【0154】
本発明における処理液は、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成できる水性組成物であり、具体的には、インク組成物と混合されたときに、インク組成物中の着色粒子(顔料等)などの分散粒子を凝集させて凝集体を形成可能な凝集成分を少なくとも含み、必要に応じて、他の成分を含んで構成することができる。インク組成物と共に処理液を用いることで、インクジェット記録を高速化でき、高速記録しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0155】
処理液は、インク組成物と接触して凝集体を形成可能な凝集成分の少なくとも1種を含有する。インクジェット法で吐出された前記インク組成物に処理液が混合することにより、インク組成物中で安定的に分散している顔料等の凝集が促進される。
【0156】
処理液の例としては、インク組成物のpHを変化させることにより凝集物を生じさせることができる液体組成物が挙げられる。このとき、処理液のpH(25℃)は、インク組成物の凝集速度の観点から、0.8〜6であることが好ましく、0.9〜5であることがより好ましく、1.0〜4であることが更に好ましい。この場合、吐出工程で用いる前記インク組成物のpH(25)は、7.5〜9.5(より好ましくは8.0〜9.0)であることが好ましい。
中でも、本発明においては、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、前記インク組成物のpH(25℃)が7.5以上であって、処理液のpH(25℃)が1.0〜4.0である場合が好ましい。
前記凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0157】
処理液は、凝集成分として、酸性化合物の少なくとも1種を用いて構成することができる。酸性化合物としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボキシル基を有する化合物、あるいはその塩(例えば多価金属塩)を使用することができる。中でも、インク組成物の凝集速度の観点から、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物がより好ましく、カルボキシル基を有する化合物であることが更に好ましい。
【0158】
カルボキシル基を有する化合物としては、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩(例えば多価金属塩)等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0159】
本発明における処理液は、上記酸性化合物に加えて、水系溶媒(例えば、水)を更に含んで構成することができる。
処理液中の酸性化合物の含有量としては、凝集効果の観点から、処理液の全質量に対して、5〜95質量%であることが好ましく、10〜80質量%であることがより好ましい
【0160】
また、高速凝集性を向上させる処理液の好ましい一例として、多価金属塩あるいはポリアリルアミンを添加した処理液も挙げることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩、及びポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
【0161】
金属の塩の処理液中における含有量としては、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1.5〜7質量%であり、更に好ましくは2〜6質量%の範囲である。
【0162】
処理液の粘度としては、インク組成物の凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。なお、粘度は、VISCOMETER TV-22(TOKI SANGYO CO.LTD製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
また、処理液の表面張力としては、インク組成物の凝集速度の観点から、20〜60mN/mの範囲が好ましく、20〜45mN/mの範囲がより好ましく、25〜40mN/mの範囲がさらに好ましい。なお、表面張力は、Automatic Surface Tensiometer CBVP-Z(協和界面科学(株)製)を用いて25℃の条件下で測定されるものである。
【0163】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、液滴を吐出する複数のノズル孔を有し、前記ノズル孔の内部表面にケイ素原子を含む膜を有する吐出ヘッドから、既述の本発明のインク組成物又は既述の本発明のインクセットに含まれるインク組成物を、インクジェット法により記録媒体に吐出するインク付与工程を設けて構成されている。本発明の画像形成方法は、前記インク付与工程と共に、インク付与工程で付与されるインク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有する態様が好ましい。また、本発明の画像形成方法は、必要に応じて、インクの付与により形成されたインク画像を加熱して記録媒体に定着させる加熱定着工程などの他の工程を有していてもよい。
【0164】
既述のインク組成物が用いられるので、形成画像は耐擦過性に優れると共に、インク液の吐出と吐出休止とを繰り返しながら画像形成する場合に、インクの吐出曲がり及び不吐出が防止され、色抜けなどの画像故障を抑え、長期に亘り安定して高精細な画像が形成される。また、インクが固着し難く、また付着インクは固着物として成長し難いため、メンテナンス性にも優れる。
【0165】
−インク付与工程−
インク付与工程は、既述の本発明のインク組成物又は既述の本発明のインクセットに含まれるインク組成物を、液滴を吐出する複数のノズル孔を有しノズル孔の内部表面にケイ素原子を含む膜(例えばシリコン又はその酸化膜(例:SiO膜))を有する吐出ヘッドからインクジェット法により記録媒体に吐出して、画像を記録する。本工程で用いるインク組成物の構成及び好ましい態様などの詳細については、既述の通りである。
【0166】
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、電圧の印加により機械的歪を発生する圧電素子を利用してインクを吐出させるピエゾインクジェット方式、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等のいずれであってもよい。
なお、インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0167】
本発明におけるインクジェット法としては、ピエゾ式インクジェット法でインクを吐出する態様が好適である。本発明のインク組成物又はこれを含むインクセットとピエゾインクジェット方式とを組み合わせることで、インクの連続吐出性及び吐出安定性がより向上する。
ピエゾインクジェット方式において、圧電素子の歪形態は、撓みモード、縦モード、シアモードのいずれでもよい。圧電素子の構成及びピエゾヘッドの構造は、特に制限なく公知の技術を採用できる。
【0168】
インクジェット法により記録を行なう際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、インクジェット法としては、短尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式のほか、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式を適用することができる。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができる。また、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。
【0169】
インクジェットヘッドから吐出されるインクの液滴量としては、0.2〜10pl(ピコリットル)が好ましく、0.4〜5plがより好ましい。また、画像記録時におけるインクの最大総吐出量としては、10〜36ml/mの範囲が好ましく、15〜30ml/mの範囲が好ましい。
【0170】
−処理液付与工程−
処理液付与工程は、インク組成物と接触することで凝集体を形成可能な凝集成分を含む処理液を記録媒体上に付与する。本工程で用いる処理液の構成及び好ましい態様などの詳細については、既述の通りである。
【0171】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、バーコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、後述するインク付与工程における通りである。
【0172】
処理液付与工程は、後述するインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本発明においては、処理液付与工程の後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。すなわち、記録媒体上に、インクを付与する前に、予めインク中の色材(好ましくは顔料)を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインクを付与して画像化する態様が好ましい。これにより、画像形成を高速化でき、高速化しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0173】
処理液の付与量としては、インクを凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集成分の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集成分の付与量が0.1〜1.0g/mとなる量が好ましく、より好ましくは0.2〜0.8g/mである。凝集成分の付与量は、0.1g/m以上であると凝集反応が良好に進行し、1.0g/m以下であると光沢度が高くなり過ぎず好ましい。
【0174】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インクが付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0175】
上記加熱乾燥は、ヒーター等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒーター等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒーターを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0176】
−加熱定着工程−
本発明においては、インク付与工程後に、記録媒体上のインクを加熱定着する加熱定着工程を更に設けることが好ましい。加熱定着工程は、処理液及びインクの付与により記録された画像を加熱して記録媒体に定着させる。加熱定着処理を施すことにより、記録媒体上の画像の定着が施され、画像の耐擦過性をより向上させることができる。そのため、本発明の画像形成方法においては、加熱定着工程を設けることが好ましい。
【0177】
加熱は、画像中の樹脂粒子の最低造膜温度(MFT)以上の温度で行なうことが好ましい。MFT以上に加熱されることで、粒子が皮膜化して画像が強化される。
加熱と共に加圧する場合、加圧時における圧力は、表面平滑化の点で、0.1〜3.0MPaの範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5MPaの範囲である。
【0178】
加熱の方法は、特に制限されないが、ニクロム線ヒーター等の発熱体で加熱する方法、温風又は熱風を供給する方法、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等で加熱する方法など、非接触で乾燥させる方法を好適に挙げることができる。また、加熱加圧の方法は、特に制限はないが、例えば、熱板を記録媒体の画像形成面に押圧する方法や、一対の加熱加圧ローラ、一対の加熱加圧ベルト、あるいは記録媒体の画像記録面側に配された加熱加圧ベルトとその反対側に配された保持ローラとを備えた加熱加圧装置を用い、対をなすローラ等を通過させる方法など、接触させて加熱定着を行なう方法が好適に挙げられる。
【0179】
加熱加圧する場合、好ましいニップ時間は、1ミリ秒〜10秒であり、より好ましくは2ミリ秒〜1秒であり、更に好ましくは4ミリ秒〜100ミリ秒である。また、好ましいニップ幅は、0.1mm〜100mmであり、より好ましくは0.5mm〜50mmであり、更に好ましくは1mm〜10mmである。
【0180】
前記加熱加圧ローラとしては、金属製の金属ローラでも、あるいは金属製の芯金の周囲に弾性体からなる被覆層及び必要に応じて表面層(又は離型層ともいう)が設けられたものでもよい。後者の芯金は、例えば、鉄製、アルミニウム製、SUS製等の円筒体で構成することができ、芯金の表面は被覆層で少なくとも一部が覆われているものが好ましい。被覆層は、特に、離型性を有するシリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂で形成されるのが好ましい。また、加熱加圧ローラの一方の芯金内部には、発熱体が内蔵されていることが好ましく、ローラ間に記録媒体を通すことによって、加熱処理と加圧処理とを同時に施したり、あるいは必要に応じて、2つの加熱ローラを用いて記録媒体を挟んで加熱してもよい。発熱体としては、例えば、ハロゲンランプヒーター、セラミックヒーター、ニクロム線等が好ましい。
【0181】
加熱加圧装置に用いられる加熱加圧ベルトを構成するベルト基材としては、シームレスのニッケル電鍮が好ましく、基材の厚さは10〜100μmが好ましい。また、ベルト基材の材質としては、ニッケル以外にもアルミニウム、鉄、ポリエチレン等を用いることができる。シリコーン樹脂あるいはフッ素樹脂を設ける場合は、これら樹脂を用いて形成される層の厚みは、1〜50μmが好ましく、更に好ましくは10〜30μmである。
【0182】
また、前記圧力(ニップ圧)を実現するには、例えば、加熱加圧ローラ等のローラ両端に、ニップ間隙を考慮して所望のニップ圧が得られるように、張力を有するバネ等の弾性部材を選択して設置すればよい。
【0183】
加熱加圧ローラ、あるいは加熱加圧ベルトを用いる場合の記録媒体の搬送速度は、200〜700mm/秒が好ましく、より好ましくは300〜650mm/秒であり、更に好ましくは400〜600mm/秒である。
【0184】
−記録媒体−
本発明の画像形成方法において画像を形成する記録媒体としては、特に制限はなく、一般のオフセット印刷などに用いられるいわゆる塗工紙やインクジェット用の専用紙などを用いることができる。
【0185】
塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。塗工紙は、上市されているものを入手して使用できる。具体的には、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しらおい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。
本発明においては、塗工紙はインク吸収の遅い材料であるが、このような材料を用いた場合でも、耐擦過性に優れ、記録媒体間での画像転写(色写り)の発生が抑制された画像を、高速に記録できるといった効果をより奏し得る点で、塗工紙が好ましい。
【実施例】
【0186】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0187】
(実施例1)
<インクの調製>
−水不溶性ポリマー1の合成−
攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加え、窒素雰囲気下で72℃に加熱した。これに、メチルエチルケトン50gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、及びメチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応させた後、メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.40gを溶解した溶液を加え、80℃に昇温し、4時間加熱した。得られた反応溶液を大過剰量のヘキサンに2回再沈殿させ、析出した樹脂を乾燥させることにより、95gの水不溶性ポリマー1を得た。
得られた水不溶性ポリマーの組成をH−NMRにより確認した。また、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は42000であった。さらに、JIS規格(JIS K 0070:1992)記載の方法により、このポリマーの酸価を求めたところ、65.8mgKOH/gであった。
【0188】
−樹脂被覆顔料分散物の調製−
(樹脂被覆シアン顔料分散体Aの調製)
以下の組成中の成分を混合し、ビーズミルでφ0.1mmジルコニアビーズを用いて3〜6時間分散した。続いて、得られた分散体を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、シアン顔料濃度が15質量%の樹脂被覆シアン顔料分散体Aを調製した。
<樹脂被覆シアン顔料分散体Aの組成>
・C.I.ピグメント・ブルー15:3顔料粉末 ・・・10.0部
(大日精化社製、フタロシアニンブルーA220)
・前記水不溶性ポリマー1(水不溶性樹脂) ・・・4.0部
・メチルエチルケトン(有機溶剤) ・・・30.5部
・1mol/lNaOH水溶液(中和剤) ・・・5.6部
・イオン交換水 ・・・98.7部
【0189】
(樹脂被覆マゼンタ顔料分散体Bの調製)
前記樹脂被覆シアン顔料分散体Aの調製において、組成を以下に示す組成に代えたこと以外は、樹脂被覆シアン顔料分散体Aの調製と同様にして、マゼンタ顔料濃度が15質量%の樹脂被覆マゼンタ顔料分散体Bを調製した。
<樹脂被覆マゼンタ顔料分散体Bの組成>
・C.I.ピグメント・レッド122顔料粉末 ・・・10.0部
(Cromophtal Jet Magenta DMQ、チバ・ジャパン社製)
・前記水不溶性ポリマー1(水不溶性樹脂) ・・・3.0部
・メチルエチルケトン(有機溶剤) ・・・30.5部
・1mol/lNaOH水溶液(中和剤) ・・・4.2部
・イオン交換水 ・・・102.3部
【0190】
(樹脂被覆イエロー顔料分散体Cの調製)
前記樹脂被覆シアン顔料分散体Aの調製において、組成を以下に示す組成に代えたこと以外は、樹脂被覆シアン顔料分散体Aの調製と同様にして、イエロー顔料濃度が15質量%の樹脂被覆イエロー顔料分散体Cを調製した。
<樹脂被覆イエロー顔料分散体Cの組成>
・C.I.ピグメント・イエロー74顔料粉末 ・・・10.0部
(Hansa Brilliant Yellow 5GX03、クラリアント社製)
・前記水不溶性ポリマー1(水不溶性樹脂) ・・・4.3部
・メチルエチルケトン(有機溶剤) ・・・30.5部
・1mol/lNaOH水溶液(中和剤) ・・・6.0部
・イオン交換水 ・・・99.2部
【0191】
−自己分散性ポリマーの調製−
機械式攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2L三口フラスコに、メチルエチルケトン540.0gを仕込んで75℃まで昇温した。反応容器内の温度を75℃に保ちながら、メチルメタクリレート108g、イソボルニルメタクリレート388.8g、メタクリル酸43.2g、メチルエチルケトン108g、及び「V−601」(和光純薬工業(株)製)2.1gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」1.15g及びメチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。さらに、「V−601」0.54g及びメチルエチルケトン15.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温してさらに2時間攪拌を続け、メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸(=20/72/8[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体は、重量平均分子量(Mw)が60000であり、酸価が54.2mgKOH/gであった。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で算出した。GPCは、HLC−8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製)を、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いて行なった。酸価は、JIS規格(JIS K0070:1992)に記載の方法により求めた。
【0192】
次に、上記樹脂溶液588.2gを秤量し、イソプロパノール165g及び1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液120.8mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水718gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保って溶媒を留去した。更に、反応容器内を減圧して、イソプロパノール、メチルエチルケトン、及び蒸留水を留去し、固形分25.0質量%の自己分散性ポリマー(樹脂粒子)の水性分散物を得た。
【0193】
−インクの調製−
上記で調製した樹脂被覆顔料分散物及び自己分散性ポリマーを用い、下記表1〜表2に示す組成を有するインクを調液し、その後0.2μmのメンブレンフィルターで濾過して、インク1〜38とした。なお、表1中の各成分の含有量は、いずれもインク全量(質量基準)に対する量[質量%]であり、「※」を付した成分は固形分換算で下記表1〜表2中の値になるように添加した。
【0194】
得られた各インクは、いずれもpHを8.5になるように調製した。ここで、pHの調整は47質量%硫酸あるいは50質量%水酸化ナトリウムを用いて行なった。また、pHの測定は、東亜DKK(株)製のpHメータWM−50EGを用い、調製した各インクを原液のまま25℃±1℃にて行なった。
【0195】
【表1】



【表2】



【0196】
前記表1〜表2中のアミンオキシドの詳細は以下の通りである。
【化9】



【0197】
また、アミンオキシド化合物以外の前記表1〜表2中の成分の詳細は、下記の通りである。
・CAB−O−JET250:キャボット社製の自己分散型シアン顔料
・オルフィンE1010:日信化学(株)製のノニオン系界面活性剤
・カルナバワックス:セロゾール524、中京油脂(株)製
・パラフィンワックス:セロゾール428、中京油脂(株)製
・プロキセルXL2:1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(AVECIA社製)
【0198】
<処理液の調製>
以下の成分を混合して、処理液を調製した。該処理液の前記インクと同様の方法で測定したpH(25℃±1℃)は、1.04であった。
<組成>
・オルトリン酸(85%水溶液) ・・・5.0質量%
・マロン酸 ・・・12.0質量%
・ジエチレングリコール ・・・4質量%
・トリエチレングリコールモノメチルエーテル ・・・4質量%
・イオン交換水 ・・・残量
【0199】
<メンテナンス液の調製>
以下の成分を混合して、メンテナンス液を調製した。このとき、BHTをあらかじめDEGmBE(水溶性有機溶媒)に溶解した後、これに水及びNaHCOを添加して調製した。前記インクと同様の方法で測定したpH(25℃±1℃)は、調液直後の値で8.6であった。
<組成>
・DEGmBE ・・・25質量%
・BHT(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)・・・0.01質量%
・NaHCO ・・・0.04質量%
・イオン交換水 ・・・残量
【0200】
<画像形成及び評価>
インクジェット記録装置として、特開2010−155928号公報の図1に記載のインクジェット記録装置と同様の構成を有する装置を用意し、これを下記の設定条件(符号は図1中に記載の番号を示す)に設定した。なお、記録ヘッドには、特表2008−544852号公報の図3に記載の流体エグゼクターを用いた。この流体エグゼクターは、吐出孔のあるノズル面の表面(孔外部の表面)にフルオロカーボン鎖を有する非湿性層を有し、孔内部の表面にSiO層を有している。
<設定条件>
・サブタンク102内のインク温度:35℃
・フィルタ122のメッシュサイズ:5μm
・ヘッドユニット51:ノズル径18μm、1200dpi、1ユニット2cmの長さ
・圧電素子68 :チタン酸ジルコン酸鉛(ピエゾ)
・共通流路52を流れるインク量:2〜4ml/sec
【0201】
−画像形成1−
記録媒体(Nシルバーダイヤ(坪量104.7g/m)、日本製紙(株)製、塗工紙(マット))を500mm/秒で所定方向に直線的に移動可能なステージ上に固定し、これに上記で得た処理液をワイヤーバーコーターで約5g/mの塗布量となるように塗布し、塗布直後に50℃で2秒間乾燥させた。その後、前記インクジェット記録装置を固定配置し、記録媒体を副走査方向に定速移動させながら、上記で得たインク1〜38の各々を順次装填してライン方式にてインク液滴量2.4pL、解像度1200dpi×1200dpiの吐出条件で吐出し、ベタ画像を描画した。画像の描画直後、50℃で3秒間乾燥させ、更に50℃に加熱された一対の定着ローラ間を通過させ、ニップ圧0.20MPa、ニップ幅4mmにて定着処理を実施し、評価サンプルを得た。
なお、定着ローラは、内部にハロゲンランプが内装されたSUS製の円筒体の芯金の表面がシリコーン樹脂で被覆された加熱ロールと、該加熱ローラに圧接する対向ロールとで構成されたものである。
【0202】
−評価−
【0203】
(1)インク付着性
上記のインク1〜38と、上記のインクジェット記録装置に使用した記録ヘッドの流体エグゼクターの内部表面と同じ層構造を有するテストピース(表面にSiO層を有する)とを用い、以下の評価を行なった。
各インク5μLを上記のテストピースのSiO層上に滴下し、23℃、50%RHの環境下で5分間静置した後、イオン交換水で洗浄を行なった。このようにしてテストピース上に残存する付着物の有無を目視で観察し、以下の評価基準にしたがって評価した。評価結果を下記表3に示す。
<評価基準>
4:テストピース上に付着物が観察されない。
3:インク滴下部分の痕跡が一部観察された。
2:インク滴下部分に縁状の付着物が観察された。
1:インク滴下部分に付着物が観察された。
【0204】
(2)放置回復性
上記のインク1〜38の各々を用い、上記のインクジェット記録装置で記録媒体(「画彩 写真仕上げPro」、富士フイルム(株)製)上に、処理液を付与せずに画像を描画し、乾燥を行ない、定着ローラ間を通過させる定着処理は行なわずに、ノズルチェックパターン画像と、75×24000dpiの線画像とを1枚ずつ描画した(これを「初期画像サンプル」とする)。その後、記録ヘッドノズル部の環境を25℃、50%RHの環境に保ち、24時間放置した。放置後、再び上記で用いたものと同じ記録媒体上に、上記と同じノズルチェックパターン画像と線画像とを1枚ずつ描画した(これを「放置後画像サンプル」とする)。
上記より得られた放置後画像サンプルについて、光学顕微鏡によりノズルチェックパターン画像でノズルの抜けを観察し、吐出率を求めて不吐出の有無を評価した。また、初期画像サンプル及び放置後画像サンプルの各線画像について、ドットアナライザDA−6000(王子計測機器(株)製)で線の中心値を計測し、該中心線からのズレ量の標準偏差σを算出して、下記の評価基準にしたがって吐出曲がりを評価した。評価結果を下記表3に示す。
なお、吐出率(%)は、「放置後画像サンプルでの吐出全ノズル数/初期画像サンプルでの吐出全ノズル数×100」から求めた。
〜放置後の色抜けに対する評価基準〜
5:吐出率が100%である。
4:吐出率が99%以上100%未満である。
3:吐出率が98%以上99%未満である。
2:吐出率が95%以上98%未満である。
1:吐出率が95%未満である。
〜放置後の吐出曲がりに対する評価基準〜
5:σ<2μm
4:2μm≦σ<4μm
3:4μm≦σ<6μm
2:6μm≦σ<8μm
1:σ≧8μm
【0205】
(3)メンテナンス後の回復性
上記のインク1〜38の各々を用い、上記のインクジェット記録装置で記録媒体(「画彩 写真仕上げPro」、富士フイルム(株)製)上に、処理液を付与せずに、画像を描画し、乾燥を行ない、定着ローラ間を通過させる定着処理は行なわずに、ノズルチェックパターン画像と、75×24000dpiの線画像とを1枚ずつ描画した(これを「初期画像1」とする)。その後、2000枚描画に相当する吐出動作を行なった。吐出終了後、記録ヘッドのノズル部を40℃、50%RHの環境下で4時間放置した後、メンテナンス液を記録ヘッドのノズルプレート面にローラ付与し、布ワイプ(トレシー、東レ社製)で記録ヘッドのノズルプレート面をワイピングした。このようにメンテナンスした後、再び上記で用いたものと同じ記録媒体上にノズルチェックパターン画像と線画像とを1枚ずつ描画した(これを「メンテナンス後画像サンプル」とする)。
上記より得られたメンテナンス後画像サンプルについて、光学顕微鏡によりノズルチェックパターン画像でノズルの抜けを観察し、吐出率を求めて不吐出の有無を評価した。また、初期画像サンプル及び放置後画像サンプルの各線画像について、ドットアナライザDA−6000(王子計測機器(株)製)で線の中心値を計測し、該中心線からのズレ量の標準偏差σを算出して、下記の評価基準にしたがって吐出曲がりを評価した。評価結果を下記表3に示す。
なお、吐出率(%)は、「放置後画像サンプルでの吐出全ノズル数/初期画像サンプルでの吐出全ノズル数×100」から求めた。
〜メンテナンス後の色抜けに対する評価基準〜
5:吐出率が100%である。
4:吐出率が99%以上100%未満である。
3:吐出率が98%以上99%未満である。
2:吐出率が95%以上98%未満である。
1:吐出率が95%未満である。
〜メンテナンス後の吐出曲がりに対する評価基準〜
5:σ<2μm
4:2μm≦σ<4μm
3:4μm≦σ<6μm
2:6μm≦σ<8μm
1:σ≧8μm
【0206】
【表3】



【0207】
前記表3に示すように、本発明では、放置後吐出性、メンテナンス後吐出性に優れており、安定した画像形成が行なえ、形成された画像は耐擦性に優れていた。また、インク付着性の結果から、記録ヘッドにおけるインク析出に伴なう内部付着は抑制されており、長期に亘りインクの吐出及び吐出休止を繰り返して画像形成する使用態様でも、優れた吐出安定性が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散型顔料及び顔料粒子の少なくとも一部が水不溶性樹脂で被覆された樹脂被覆顔料からなる群より選ばれる顔料と、
組成物全量に対する比率が0.01質量%以上1.00質量%未満の、下記一般式(I)で表されるアミンオキシド化合物と、
非水溶性又は難水溶性の樹脂粒子と、
非水溶性又は難水溶性のワックス粒子と、
水と、
を含有するインク組成物。
【化1】



〔R11は、炭素数3〜24のアルキル基又は炭素数3〜24のアルケニル基を表し、R12は、炭素数1〜5のアルキレン基を表し、R13及びR14は、各々独立に、炭素数1〜3のアルキル基を表す。〕
【請求項2】
前記樹脂被覆顔料は、顔料粒子が転相乳化法により水不溶性樹脂で被覆されている請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記樹脂粒子は、自己分散性樹脂の粒子である請求項1又は請求項2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記樹脂粒子は、有機溶媒中で合成され、アニオン性基の一部又は全部を中和して、水を連続相とする分散体として調製された請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記ワックス粒子は、パラフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、並びにこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種の粒子である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
25℃におけるpHが7.5以上10.0以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項7】
更に、尿素及びその誘導体の少なくとも一種を含む請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物と、
前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液と、
を有するインクセット。
【請求項9】
液滴を吐出する複数のノズル孔を有し、前記ノズル孔の内部表面にケイ素原子を含む膜を有する吐出ヘッドから、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物又は請求項8に記載のインクセットにおけるインク組成物を、インクジェット法により記録媒体に吐出するインク付与工程を有する画像形成方法。
【請求項10】
前記インク付与工程は、ピエゾ式インクジェット法でインクを吐出する請求項9に記載の画像形成方法。
【請求項11】
更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有する請求項9又は請求項10に記載の画像形成方法。
【請求項12】
更に、前記インク付与工程及び前記処理液付与工程を経て形成された画像を加熱して前記記録媒体に定着させる加熱定着工程を有する請求項11に記載の画像形成方法。

【公開番号】特開2012−180425(P2012−180425A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43177(P2011−43177)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】