説明

インク組成物およびその製造方法

【課題】優れた光堅牢性を有するとともに、吐出安定性や保存安定性にも優れる、C.I.アシッドブルー290を含んでなるインク組成物を提供する。
【解決手段】色材として、C.I.アシッドブルー290と、水とを少なくとも含んでなるインク組成物であって、前記C.I.アシッドブルー290の製造の際に生成する下記式(II)(式中、R〜Rは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基であって、前記アルキル基は分岐鎖を有していてもよく、また、前記アルキル基の一部はフェニル基で置換されていてもよく、Rは、メチル基、水酸基またはプロトンである。)で表される副生成物の含有量が120ppm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク組成物に関し、さらに詳細には、インクジェット記録用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像や文字等の図柄を布帛に捺染する方法としては、スクリーン捺染法、ローラ捺染法、ロータリースクリーン捺染法、または転写捺染法等が一般的に用いられてきた。しかしながら、これらの従来方法では、図柄毎にトレースや製版等を製造する煩雑な作業を必要とするため、低コスト化が難しく、特に少量多品種生産にはなおさらであった。これらの従来技術の欠点を解消するために、スキャナー等の画像入力デバイスにより画像見本を読み取り、コンピュータで画像処理を行い、得られた画像情報に基づきインクジェット方式で布帛を印捺する技術、すなわちインクジェット捺染方法が開発され、実用化されている。このインクジェット記録方式は、インク液滴をインクヘッドから記録媒体(例えば、紙や布帛)に向かって飛翔させ、その液滴を記録媒体に付着させる記録方式であり、紙に対するインクジェット記録方法は既に広範に実用化されており、布帛に対しても開発が進んでいる。
【0003】
上記のようなインクジェット捺染用インクにおいて、とりわけ、ポリアミド繊維を染色した場合に優れた光堅牢性を実現できる染料として、C.I.アシッドブルー258、280、290等が提案されている。例えば、特開平7−268783号公報(特許文献1)には、C.I.アシッドブルー290を含む染料を用いて特定の染色方法によってポリアミド繊維の捺染染色を行うことにより、さらに高い光堅牢性を実現できることが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記したC.I.アシッドブルー258、280、290は、水への溶解性が非常に低い染料であるため、これら染料を水系インクジェット記録用インクとして利用すると、目詰まり等の吐出安定性やインクの保存安定性が悪化する場合があった。また、インクジェット記録用のインクとした場合に、十分な染着濃度を得られない等の問題もあった。この問題に対し、本発明者らは、C.I.アシッドブルー258、280、290等の酸性染料を含む水系インク組成物中に、特定構造のポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加することにより、良好な水溶性、安定性、良好な印刷特性を有し、かつ良好な色、鮮鋭度、および耐光性その他の堅牢性を実現できるインク組成物を提案した(特願2009−77170号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−268783号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、今般、C.I.アシッドブルー290を製造する際に不可避的に含有されてしまう特定の副生成物が、C.I.アシッドブルー290を色材として用いたインク中に含まれる異物となり、この副生成物がインクの吐出安定性や保存安定性に悪影響を与えているとの知見を得た。そして、この副生成物のインク中の濃度を一定値以下とすることにより、C.I.アシッドブルー290を色材として含むインク組成物であっても、優れた吐出安定性や保存安定性を実現できることがわかった。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、優れた光堅牢性を有するとともに、吐出安定性や保存安定性にも優れる、C.I.アシッドブルー290を含んでなるインク組成物を提供することである。
【0008】
また、本発明の別の目的は、C.I.アシッドブルー290を色材として含有するインク組成物であって、副生成物のインク中の濃度が一定値以下であるインク組成物を製造する方法を提供することである。
【0009】
そして、本発明によるインク組成物は、 色材として、下記式(I):
【化1】

で表されるC.I.アシッドブルー290と、水と、を少なくとも含んでなるインク組成物であって、前記C.I.アシッドブルー290の製造の際に生成する下記式(II):
【化2】

(式中、
〜Rは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基であって、前記アルキル基は分岐鎖を有していてもよく、また、前記アルキル基の一部はフェニル基で置換されていてもよく、
は、メチル基、水酸基またはプロトンである。)
で表される副生成物の含有量が120ppm以下である。
【0010】
また、本発明の別の態様である上記インク組成物の製造方法は、
前記式(II)で表される副生成物を含むC.I.アシッドブルー290を準備し、
前記副生成物を含むC.I.アシッドブルー290を、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ヘキサン、アセトニトリル、アセトンおよびそれら2種以上含む混合物からなる群から選択される有機溶剤中に溶解させ、
前記染料が溶解した前記有機溶剤を濾過して、濾液と残渣とに分離し、
前記濾液を減圧蒸留し、有機溶剤を除去して、前記副生成物が除去されたC.I.アシッドブルー290染料を得て、
前記C.I.アシッドブルー290を色材としてインク組成物を調製する、
ことを含んでなる。
【0011】
本発明によれば、優れた光堅牢性を有するとともに、吐出安定性や保存安定性にも優れる、C.I.アシッドブルー290を含んでなるインク組成物を実現することができる。
【発明の具体的説明】
【0012】
<インク組成物>
本発明によるインク組成物は、上記式(I)で表されるC.I.アシッドブルー290を色材として含み、そのC.I.アシッドブルー290の製造時に不可避的に生成される上記式(II)で表される副生成物の含有量を120ppm以下としたものである。上記式(II)で表される副生成物のインク中の含有量が120ppmであることによって、優れた光堅牢性と、吐出安定性や保存安定性等の信頼性とを両立することができる。上記副生成物が120ppmを超えると、副生成物がインク中に溶解しない異物となり、インクジェット記録装置の記録ヘッドやノズルの目詰まりを生じさせたり、また、インクの保存安定性を悪化させたりする。本発明においては、副生成物の含有量は少ない方が好ましく、後記するようなインク組成物の製造方法を適用することにより、副生成物の含有量を120ppm以下、好ましくは80ppm以下、より好ましくは50ppm以下、最も好ましくは0ppmとすることができる。
【0013】
C.I.アシッドブルー290の製造時に不可避的に生成する副生成物のうち、インク中で異物となる副生成物としては、 アントラキノン骨格を有する下記式(III):
【化3】

(式中、R1〜R3は上記の定義と同じであり、R5は、分岐鎖を有していてもよい、炭素数1以上のアルキル基である。)
で表される化合物が挙げられる。特に、インク中で異物として記録ヘッドやノズルの目詰まりの原因となる化合物は、アントラキノン骨格を有する下記式(IV):
【化4】

(式中、R1〜R3は上記の定義と同じである。)
で表される化合物である。このような副生成物は、後記する方法によって、C.I.アシッドブルー290からほぼ完全に除去することができ、その結果、上記副生成物のインク中の含有量が120ppm以下のインク組成物を製造することができる。
【0014】
本発明によるインク組成物において、色材として用いるC.I.アシッドブルー290の添加量は、良好な水溶性、安定性、良好な印刷特性を有し、かつ良好な色、鮮鋭度、および耐光性その他の堅牢性を実現できる範囲で適宜決定されてよいが、例えば10重量%以下が好ましい。
【0015】
本発明によるインク組成物は、色材および水に加えて、下記式(V):
【化5】

(式中、nは4〜100の整数であり、Raは炭素数8〜24の飽和アルキル基である。)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを一種以上含んでいてもよい。上記のポリオキシエチレンアルキルエーテルを添加することにより、光堅牢性および吐出安定性、保存安定性に加え、良好な水溶性、印刷特性、良好な色および鮮鋭度を有するインク組成物を実現することができる。
【0016】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの中でも、上記式(V)中のRaが炭素数8〜10の飽和アルキル基であり、かつn=4〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルと、上記式(V)中、Raが炭素数12〜24の飽和アルキル基であり、かつn=10〜60であるポリオキシエチレンアルキルエーテルとを混合したものを用いることが好ましい。
【0017】
本発明においては、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの合計含有量は、上記色材に対して、2.0倍以上であることが好ましい。
【0018】
本発明によるインク組成物には、インクジェットプリンタの記録ヘッドのノズルからの吐出安定性を向上させる観点から、保湿剤を含有させることが好ましい。保湿剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に保湿剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、またはペンタエリスリトール等のポリオール類、およびそのエーテルまたはエステル等の誘導体;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、またはε−カプロラクタム等のラクタム類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、または1,3−ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、またはマルトース等の糖類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。前記保湿剤の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは4〜40重量%である。
【0019】
また、本発明によるインク組成物には、布帛への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める観点から、浸透剤としても機能する水溶性有機溶剤を含有させることが好ましい。そのような浸透剤有機溶剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に浸透剤有機溶剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、エタノールまたはプロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル等のセロソルブ類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルまたはジエチレングリコールモノエチルエーテル等のカルビトール類;エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、またはトリエチレングリコ−ル−n−ブチルエーテル等のグリコールエーテル類等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を用いることができる。前記水溶性有機溶剤(浸透剤)の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは2〜15重量%である。
【0020】
さらに、同様の観点から、本発明によるインク組成物には、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルに加えて、浸透剤としても機能する界面活性剤をさらに加えても良い。そのような浸透剤界面活性剤としては、通常のインクジェット捺染用インク組成物に浸透剤界面活性剤として使用されている化合物を用いることができ、例えば、脂肪酸塩類;アルキル硫酸エステル塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;サーフィノール61、82、104、440、465、485(何れも商品名、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)等のアセチレングリコ−ル系界面活性剤;カチオン性界面活性剤;両イオン性界面活性剤等を挙げることができ、これらの一種または二種以上を加えることができる。さらに加えても良い前記界面活性剤(浸透剤)の含有量は、インク組成物の全重量に対して、好ましくは0.2〜2重量%である。
【0021】
本発明によるインク組成物には、前記のように、前記色材を含有させ、必要に応じて、保湿剤および浸透剤を含有させ、さらにバランスとして水を含有させる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることが好ましい。特に、これらの水を、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水は、長期間に亘ってカビやバクテリアの発生が防止されるので好ましい。
【0022】
本発明によるインク組成物には、さらに必要に応じて、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、pH調整剤(例えば、トリエタノールアミン)、または溶解助剤等のように、インクジェット捺染用のインク組成物において通常用いることができる各種添加剤の一種または二種以上を含有させることができる。
【0023】
本発明によるインク組成物は、印字品質とインクジェット捺染用インク組成物としての信頼性とのバランスの観点から、表面張力が25〜40mN/mであることが好ましく、28〜35mN/mであることがさらに好ましい。また、同様の観点から、本発明によるインク組成物の20℃における粘度は、1.5〜10mPa・sであることが好ましく、2〜8mPa・sであることがさらに好ましい。表面張力および粘度を前記範囲内とするには、前記染料の濃度を調整する方法、前記保湿剤の種類や添加量等を調整する手段等を用いることができる。
【0024】
<インク組成物の製造方法>
上記したように、本発明によるインク組成物は、本発明によるインク組成物を製造する方法は、色材としてC.I.アシッドブルー290を含み、その色材の製造時に不可避的に生成する副生成物である上記式(II)で表される化合物の含有量を120ppm以下としたものである。本発明においては、インク中の副生成物の含有量を120ppm以下とするために、以下のようにしてインク組成物を製造する。
【0025】
先ず、上記式(II)で表される副生成物を含むC.I.アシッドブルー290を準備する。C.I.アシッドブルー290は、上記式(I)で表される酸性染料であり、公知の方法により合成してもよく、また、市販されているものを用いてもよい。例えば、ダイスタージャパン社から市販されているものを好適に使用できる。但し、上記の公知の方法によりC.I.アシッドブルー290を合成した場合や市販のC.I.アシッドブルー290は、上記式(II)で表される副生成物が混入しているため、その副生成物が一定量以下となるように副生成物を除去する必要がある。本発明者らは、上記式(I)で表される酸性染料のみを溶解し、かつ上記式(II)で表される副生成物は溶解しないような溶剤を用いることにより、C.I.アシッドブルー290と副生成物とを分離することに成功した。すなわち、上記したような溶剤に副生成物を含むC.I.アシッドブルー290を溶解させ、その溶液を濾過して、濾液と残渣とを分離する。濾液中には、C.I.アシッドブルー290のみが溶解しており、副生成物は残渣として取り除かれる。その濾液を減圧蒸留して溶剤を除去することにより、副生成物を含まないC.I.アシッドブルー290が得られる。なお、ここでの「副生成物を含まないC.I.アシッドブルー290」とは、染料中含まれる副生成物の含有量が120ppm以下であることを意味する。
【0026】
上記したような溶剤、上記式(I)で表される酸性染料のみを溶解し、かつ上記式(II)で表される副生成物は溶解しないような溶剤として、本発明においては、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ヘキサン、アセトニトリル、アセトンおよびそれら2種以上含む混合物からなる群から選択される有機溶剤を用いる。ここで、酸性染料のみ溶解する溶剤とは、室温において、溶剤100gに対して酸性染料が5g以上溶解することを意味し、また、副生成物は溶解しないような溶剤とは、室温において、溶剤100gに対して副生成物が0.1g未満しか溶解しないことを意味する。本発明において、より好ましい溶剤としては、ヘキサン、アセトニトリル、アセトンまたはそれらの混合物であり、より好ましくは、ヘキサン、アセトンまたはそれらの混合物である。例えば、副生成物が上記式(IV)で表される化合物(式中、R=−C(CH、R=−CH、R3=−CH)である場合、溶剤として、ヘキサン/アセトン(20:80)の混合溶剤を用いることが好ましい。
【0027】
濾液と残渣とに分離する方法としては従来公知の濾過方法を適用でき、例えば、濾過フィルターとして、孔径1μm程度のフィルターを用いることができる。具体的には、フロリナートメンブレンフィルター(日本ミリポア社製)を好適に使用できる。
【0028】
上記のようにして得られたC.I.アシッドブルー290を色材とともに、上記した水等の他の成分とを、分散/混合機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等)に供給し、分散させることにより、インク組成物を調製する。本発明においては、上記した分散/混合機により得られたインク原液をメンブランフィルターやメッシュフィルター等のフィルターを用いて濾過し、粗大粒子を除去することが好ましい。
【0029】
<インク組成物を用いたインクジェット捺染方法>
本発明のインク組成物を、合成ポリアミド繊維からなる布帛(例えば、織物、網物、または不織布)に対するインクジェット捺染に用いると、良好な水溶性、安定性、良好な印刷特性を有し、かつ良好な色、鮮鋭度、および耐光性その他の堅牢性を有する記録物を得ることができる。本発明のインク組成物を用いる場合には、通常のインクジェット捺染用のインク組成物と同様に、インクジェットプリンタに装填して使用する。前記インクジェットプリンタは特に限定されないが、ドロップオンデマンド型のインクジェットプリンタが好ましい。ドロップオンデマンド型のインクジェットプリンタには、記録ヘッドに配設された圧電素子を用いて記録を行う圧電素子記録方法を採用したもの、記録ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いて記録を行う熱ジェット記録方法を採用したもの等があり、いずれの記録方法を採用することもできる。
【0030】
本発明のインク組成物を用いて前記布帛に対してインクジェット捺染方法を実施する場合には、通常のインクジェット捺染と同様に、予め、前処理剤を用いて前記布帛を前処理しておくことが好ましい。布帛の前処理は、前処理剤中に布帛を浸積するか、前処理剤を布帛に塗布または噴霧する等の手段を用いて、布帛に前処理剤を付着させた後、前記布帛を乾燥することにより行われる。
【0031】
前記の前処理剤としては、水溶性高分子化合物等の糊剤を0.01〜20重量%の量で含有させた水溶液を用いることができる。前記糊剤としては、例えば、トウモロコシ、または小麦等のデンプン物質;カルボキシメチルセルロース、またはヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系物質;アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、またはタマリンド種子等の多糖類;ゼラチン、またはカゼイン等のタンパク質;タンニン;リグニン等の天然水溶性高分子や、ポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系化合物、または無水マレイン酸系化合物等の合成水溶性高分子化合物を挙げることができる。前記前処理剤には、必要に応じて、尿素、またはチオ尿素等の保湿剤、pH調整剤、還元防止剤、浸透剤、金属イオン封鎖剤、あるいは消泡剤等の各種添加剤を含有させることもできる。
【0032】
また、本発明のインク組成物を用いて前記布帛に対してインクジェット捺染方法を実施する場合には、前記布帛に対してインク組成物を吐出させて、文字および/または画像を印刷した後に、染料固着処理を行う。染料固着処理方法としては、従来の捺染方法における染料固着処理方法と同様の方法、例えば、常圧スチーム法、高圧スチーム法、またはサーモフィックス法等を挙げることができる。染料固着処理後は、常法通り、布帛を水洗し、乾燥する。必要に応じソーピング処理(未固着の染料を熱石鹸液等で洗い落とす処理)を実施してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0034】
<色材の調製>
先ず、種々の有機溶媒に対する酸性染料および副生成物の溶解性を調べた。下記表1に示した各溶剤10g中に酸性染料であるC.I.アシッドブルー290を投入し、よく撹拌することにより酸性染料を溶剤に溶解させた。この溶液を、孔径0.2μmのオムニポアメンブレンフィルター(日本ミリポア社製)を用いてろ過し、ろ集物を乾燥した後、計量した。また、酸性染料に代えて、下記式(VI)で表される副生成物を用いて、その溶解性を調べた。
【化6】

【0035】
ろ集物の計量結果に基づいて、酸性染料および副生成物の溶解性を評価した。評価基準を以下の通りとした。
評価点5:0〜0.2g未満
評価点4:0.2g以上、0.4g未満
評価点3:0.4g以上、0.6g未満
評価点2:0.6g以上、0.8g未満
評価点1:0.8g以上
【0036】
評価結果は下記表1に示される通りであった。
【表1】

【0037】
上記の結果を参考にして、溶剤としてアセトンおよびヘキサンを選択し、それらの混合溶剤(ヘキサン/アセトン=20:80)を溶剤として用いた。この溶剤100ml中に市販の酸性染料であるC.I.アシッドブルー290(副生成物が含まれるもの)5gを添加しよく撹拌した後、孔径1μmのフロリナートメンブレンフィルター(日本ミリポア社製)を用いて濾液と残渣とを分離し、濾液を減圧蒸留することにより、精製したC.I.アシッドブルー290を得た。
【0038】
<インク組成物の調製>
上記で得られた精製したC.I.アシッドブルー290および精製前のC.I.アシッドブルー290の両方について、下記表2に示した組成に従って各成分を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することにより、各インクを調製した。インク組成物の調製に使用した界面活性剤1は、上記式(V)のポリオキシエチレンアルキルエーテル(Ra=鎖長8の飽和アルキル基、n=4)であり、界面活性剤2は、上記式(V)のポリオキシエチレンアルキルエーテル(Ra=鎖長10の飽和アルキル基、n=20)である。
【0039】
得られたインク組成物をガラス容器に入れて密封し、60℃、40℃、25℃、0℃の温度環境下で保管した。その後、常温(20〜25℃)にて4時間以上放置した後、インク組成物を撹拌し、孔径1μmのオムニポアメンブレンフィルター(日本ミリポア社製)を用いて濾過し、フィルター表面を顕微鏡にて観察することにより異物の有無を確認した。さらに、赤外顕微鏡(Nicolet Continuum、Thermo Scientific社製)を用いて異物の同定を行い、この異物が上記式(VI)で表される副生成物であることを確認した。各インク組成物における異物発生の有無は、下記表2に示される通りであった。
【表2】

【0040】
次に、上記の副生成物の濃度が0.001%となるように水に溶解した水溶液を調製した。上記で得られた水溶液、精製したC.I.アシッドブルー290およびその他の成分を下記表3に示した組成に従って混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することにより、各インクを調製した。なお、ここで用いた界面活性剤1および2は上記したものと同様のものである。得られた各インク組成物について、上記と同様にして異物発生の有無および異物の同定を行った。結果は下記表3に示される通りであった。
【0041】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材として、下記式(I):
【化1】

で表されるC.I.アシッドブルー290と、水と、を少なくとも含んでなるインク組成物であって、前記C.I.アシッドブルー290の製造の際に生成する下記式(II):
【化2】

(式中、
〜Rは、それぞれ独立して炭素数1以上のアルキル基であって、前記アルキル基は分岐鎖を有していてもよく、また、前記アルキル基の一部はフェニル基で置換されていてもよく、
は、メチル基、水酸基またはプロトンである。)
で表される副生成物の含有量が120ppm以下である、インク組成物。
【請求項2】
前記副生成物が、下記式(III):
【化3】

(式中、R1〜R3は上記の定義と同じであり、R5は、分岐鎖を有していてもよい、炭素数1以上のアルキル基である。)
で表される、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記副生成物が、下記式(IV):
【化4】

(式中、R1〜R3は上記の定義と同じである。)
で表される、請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
下記式(V):
【化5】

(式中、nは4〜100の整数であり、Raは炭素数8〜24の飽和アルキル基である。)
で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを一種以上、さらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
インクジェット捺染に用いられる請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク組成物を製造する方法であって、
前記式(II)で表される副生成物を含むC.I.アシッドブルー290を準備し、
前記副生成物を含むC.I.アシッドブルー290を、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ヘキサン、アセトニトリル、アセトンおよびそれら2種以上含む混合物からなる群から選択される有機溶剤中に溶解させ、
前記染料が溶解した前記有機溶剤を濾過して、濾液と残渣とに分離し、
前記濾液を減圧蒸留し、有機溶剤を除去して、前記副生成物が除去されたC.I.アシッドブルー290染料を得て、
前記C.I.アシッドブルー290を色材としてインク組成物を調製する、
ことを含んでなる、方法。
【請求項7】
前記有機溶剤が、ヘキサン、アセトニトリル、アセトンまたはそれらの混合物である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記有機溶剤が、ヘキサン、アセトンまたはそれらの混合物である、請求項6または7に記載の方法。

【公開番号】特開2011−84645(P2011−84645A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238382(P2009−238382)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】