説明

インク組成物および印刷方法

【課題】優れた光輝性を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像の形成に用いることのできるインク組成物を提供すること、また、優れた光輝性を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像が形成された印刷物を提供することができる印刷方法を提供すること。
【解決手段】本発明のインク組成物は、インクジェット方式により吐出されるものであって、銀粒子と、水と、0.05質量%以上3.0質量%以下のシリコーン系オイルと、を含むことを特徴とする。シリコーン系オイルは、ポリエーテル変性シリコーンであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物および印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の印刷に用いられるインクとしては、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックのインクを用いて、いわゆるフルカラー画像を形成することが一般に行われている。そして、形成画像の高画質化を図る目的で、インクを多色化(例えば、上記4種のインクに加えて、ライトマゼンタ、ライトシアンのインクを含む6色)が行われている。
【0003】
しかし、上記のような多色のインクを用いても、光輝性を表現できないという問題がある。
そこで、近年、金属粒子を用いたインクジェット用インク(金属インク)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1で提案されているインクでは、比較的良好な光輝性が得られるものの、印刷面を擦った際に、インクの構成材料で形成された層に傷が付いたり、剥離すること等により、画質が著しく低下するという問題点があった。このような問題は、金属インクではないカラーインク(顔料インク、染料インク)では、通常発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−297423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた光輝性を有するとともに、優れた耐擦性(摩擦に対する耐久性)を有する画像の形成に用いることのできるインク組成物を提供すること、また、優れた光輝性を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像が形成された印刷物を提供することができる印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のインク組成物は、銀粒子と、
シリコーン系オイルとを含むことを特徴とするインク組成物であって、
前記シリコーン系オイルの含有量は0.05質量%以上3質量%以下であることを特徴とする。
これにより、優れた光輝性を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像の形成に用いることのできるインク組成物を提供することができる。
【0007】
本発明のインク組成物では、前記シリコーン系オイルは、ポリエーテル変性シリコーンであることが好ましい。
これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を維持しつつ、耐擦性を特に優れたものとすることができる。
本発明のインク組成物では、前記銀粒子、前記シリコーン系オイルに加え、さらに水を含み、前記水の含有量が50質量%以上であることが好ましい。
これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を維持しつつ耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより良好に形成することができる。
【0008】
本発明のインク組成物では、前記銀粒子の平均粒径が3nm以上100nm以下であることが好ましい。
これにより、インク組成物のインクジェット方式による吐出安定性を十分に優れたものとしつつ、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を維持しつつ耐擦性をさらに優れたものとすることができる。また、印刷物とされたときの印刷媒体上での銀粒子の密度(単位面積当たりの含有量)が低い場合から高い場合まで、広い密度の範囲で、良好な画質、耐擦性を実現することができる。このため、例えば、インク組成物を用いて得られる印刷物が、銀粒子の密度が異なる領域を有する場合であっても、印刷物の画質を優れたものとすることができる。
【0009】
本発明のインク組成物では、インク組成物中における不揮発性の有機成分の含有率が20質量%以下であることが好ましい。
これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性、およびインク組成物のインクジェット方式による吐出安定性を十分に優れたものとしつつ、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を維持しつつ耐擦性をさらに優れたものとすることができる。
本発明のインクジェット印刷方法は、インクジェット方式によって本発明のインク組成物を吐出することを特徴とする。
これにより、優れた光輝性を維持し、優れた耐擦性を有する画像をインクジェット方式により一層良好に形成出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インクジェット装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】耐擦性試験後の実施例1に係る印刷物の表面の様子を示す光学顕微鏡写真である。
【図3】耐擦性試験後の比較例1に係る印刷物の表面の様子を示す光学顕微鏡写真である。
【図4】印刷物のdutyと、表面付近のSi濃度との関係を示す図である。
【図5】シリコーン系オイルの添加量と表面張力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《インク組成物》
本発明のインク組成物は、インクジェット方式により吐出されるものである。
このようなインク組成物は、その他の印刷法に用いられるインク組成物とは異なり、液滴の吐出安定性が求められる。また、インクジェット法では、インク組成物中の分散物(分散質)の分散状態が、インク組成物の吐出性に大きな影響を与える。このため、インク組成物中における分散物(分散質)の分散状態が経時的に大きく変化するものであると、液滴の吐出量が不安定化し所望の画像を形成するのが困難になる等、他の印刷法では発生し得ない問題がある。
【0012】
そして、本発明のインク組成物は、銀粒子と、シリコーン系オイルとを含む。このように、銀粒子とともに、シリコーン系オイルを所定量含むことにより、インク組成物を用いて得られる画像を、優れた光輝性を有するとともに、優れた耐擦性を有するものとすることができることを、本発明者は見出した。
また、シリコーン系オイルの含有率は、インク組成物中におけるシリコーン系オイルの含有率が0.01質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。含有率が下限値以下の場合は優れた耐擦性が発揮できず、上限値以上の場合はオイルの添加量が多すぎて光輝性が低下してしまう。
【0013】
(銀粒子)
上述したように、本発明に係るインク組成物は、銀粒子を含むものである。このように、インク組成物が、銀粒子を含むものであることにより(特に、後述するようなシリコーン系オイルとともに含むことにより)、優れた光輝性を有する画像を形成することができる。また、銀は、各種金属の中でも、白色度の高い金属であるため、他色のインクと重ね合わせることにより、金色、銅色等の様々な金属色を表現することができる。
【0014】
銀粒子の平均粒径は、3nm以上100nm以下であるのが好ましい。これにより、インク組成物のインクジェット方式による吐出安定性を十分に優れたものとしつつ、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を維持しつつ耐擦性をさらに優れたものとすることができる。また、印刷物とされたときの印刷媒体上での銀粒子の密度(単位面積当たりの含有量)が低い場合から高い場合まで、広い密度の範囲で、良好な画質、耐擦性を実現することができる。このため、例えば、インク組成物を用いて得られる印刷物が、銀粒子の密度が異なる領域を有する場合であっても、印刷物の画質を優れたものとすることができる。これに対し、銀粒子の平均半径が下限値未満の場合、十分な光輝性を有する画像を得るのが困難となる。一方、銀粒子の平均半径が上限値以上の場合、インク組成物中における銀粒子の分散安定性、およびインク組成物のインクジェット方式による吐出安定性が得られない。
なお、本明細書では、「平均粒径」とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
銀粒子は、いかなる方法で調製されたものであってもよく、例えば、銀イオンを含む溶液を用意し、この銀イオンを還元することにより、好適に形成することができる。
【0015】
(シリコーン系オイル)
インク組成物は、シリコーン系オイルを含むものである。本発明において、シリコーン系オイルとは、シリコーンポリマー、または、シロキサン結合を有する高分子化合物のことを指す。
本発明は、このようなシリコーン系オイルを所定量含むことにより、インク組成物を用いて得られる画像を、優れた光輝性を有するとともに、優れた耐擦性を有するものとすることができる点に特徴を有するものである。このような優れた効果は、シリコーン系オイルの代わりに他のオイルを用いた場合や、シリコーン系オイルの含有率が所定の範囲から外れる場合には、得られない。
【0016】
シリコーン系オイルとしては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン等を用いることができるが、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。シリコーン系オイルとして、ポリエーテル変性シリコーンを含むことにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を維持しつつ、耐擦性を特に優れたものとすることができる。
【0017】
シリコーン系オイルの25℃における粘度は、100mPa・s以上2500mPa・s以下であるのが好ましく、120mPa・s以上2000mPa・s以下であるのがより好ましい。これにより、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を十分に優れたものとしつつ、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)および耐擦性をさらに優れたものとすることができる。なお、本明細書中においては、特に断りのない限り、「粘度」とは、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度のことを示す。
【0018】
(水)
本発明のインク組成物は、上述した銀粒子、シリコーン系オイルを含むものであればよいが、さらに、水を含むもの(水系インク)であるのが好ましい。これにより、非水系(溶剤系)インク(水分含有量50%未満)に比べて、印刷ヘッドに用いられているピエゾ素子や、印刷媒体に含まれる有機バインダー等への反応性が弱く、溶かしてしまう、腐食するといった不具合が少ない。また、用いた溶剤が高沸点・低粘度であると、乾燥時間が非常にかかるという問題もあった。さらに、溶剤系インクに比べて水系インクは臭いも非常に抑えられており、半分以上が水であるので環境にも良いという利点がある。
【0019】
インク組成物中における水の含有率は、特に限定されないが、50質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、60質量%以上85質量%以下であるのがより好ましい。これにより、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を維持しつつ耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、インクジェット方式によるインク組成物の吐出安定性(着弾位置精度、吐出量の安定性等)を特に優れたものとすることができ、長期間にわたって所望の画質の画像をより良好に形成することができる。
【0020】
(その他の成分)
本発明に係るインク組成物は、上記以外の成分(その他の成分)を含むものであってもよい。
このような成分としては、例えば、アルカンジオール、グリコールエーテル等の浸透剤、グリセリン、糖類等の保湿剤、ノニオン、アニオン、カチオン性の界面活性剤、アルカノールアミン等のpH調整剤、樹脂等の有機バインダー、脂肪族炭化水素系オイル、脂肪酸エステル系オイル、脂肪酸アミド系オイル等のシリコーン系オイル以外のオイル等が挙げられる。
【0021】
インク組成物中における不揮発性の有機成分の含有率は、特に限定されないが、20質量%以下であるのが好ましい。これにより、インク組成物中における銀粒子の分散安定性、およびインク組成物のインクジェット方式による吐出安定性を十分に優れたものとしつつ、インク組成物を用いて形成される画像の光沢感(高級感)を維持しつつ耐擦性をさらに優れたものとすることができる。
【0022】
《印刷物》
本発明の印刷物は、印刷媒体上に、上述したようなインク組成物をインクジェット法により付与することにより得られたものである。これにより、優れた光輝性を有するとともに、優れた耐擦性を有する画像が形成された印刷物を提供することができる。
インク組成物が付与される印刷媒体としては、普通紙、インク受理層等を有する専用紙等の紙のほか、例えば、インク組成物が付与される表面を含む領域が、各種プラスチック、セラミックス、ガラス、金属や、これらの複合材料で構成された基材等を用いることができる。
【0023】
《印刷物の製造方法》
図1は、インクジェット装置(液滴吐出装置)の概略構成を示す斜視図である。
本実施形態の印刷物の製造方法は、図1に示すようなインクジェット装置(液滴吐出装置)を用いて、上述したようなインク組成物を印刷媒体に向けて吐出する工程(液滴吐出工程)を有する。
【0024】
以下に、液滴吐出装置としてのインクジェット式プリンター100を用いた液滴吐出について説明する。
図1に示すように、液滴吐出装置としてのインクジェット式プリンター1は、フレーム2を有している。フレーム2には、プラテン3が設けられ、プラテン3上には、紙送りモーター4の駆動により用紙Pが給送されるようになっている。また、フレーム2には、プラテン3の長手方向と平行に、棒状のガイド部材5が設けられている。
【0025】
ガイド部材5には、キャリッジ6がガイド部材5の軸線方向に往復移動可能に支持されている。キャリッジ6は、フレーム2内に設けられたタイミングベルト7を介して、キャリッジモーター8に連結されている。そして、キャリッジ6は、キャリッジモーター8の駆動により、ガイド部材5に沿って往復移動されるようになっている。
キャリッジ6には、液滴吐出ヘッド9が設けられるとともに、液滴吐出ヘッド9に液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ10が着脱可能に配置されている。インクカートリッジ10内のインクは、液滴吐出ヘッド9に備えられた図示しない圧電素子の駆動により、インクカートリッジ10から記録ヘッド9へと供給され、液滴吐出ヘッド9のノズル形成面に形成された複数のノズルから、プラテン3上に給送された印刷媒体(基材)Pに対して吐出されるようになっている。
これにより印刷物を製造することが可能となる。
【0026】
上記のような方法を用いることにより、優れた光輝性を維持し、優れた耐擦性を有する画像をインクジェット方式により一層良好に形成出来る。
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、前述した実施形態では、インク組成物として、コロイド液を用いる場合について代表的に説明したが、コロイド液でなくてもよい。
【0027】
また、例えば、前述した実施形態では、液滴吐出方式としてピエゾ方式を用いたが、これに限定されず、本発明では、例えば、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式など、公知の種々の技術を適用することができる。
また、前述した実施形態では、インク組成物をインクジェット方式による吐出に用いるものとして説明したが、インク組成物は、他の印刷法に適用するものであってもよい。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]インク組成物の調製
(実施例1)
まず、ポリビニルピロリドン(重量平均分子量10000)を70℃の条件下で15時間加熱して、その後室温で冷却をした。そのPVP1000gを、エチレングリコール溶液500mlに添加してPVP溶液を調整した。別の容器にエチレングリコールを500ml入れ、硝酸銀128gを加えて電磁攪拌器で十分に攪拌をして硝酸銀溶液を調整した。PVP溶液を120℃の条件下でオーバーヘッドミキサーを用いて攪拌しつつ、硝酸銀溶液を添加して約80分間加熱して反応を進行させた。そして、その後室温で冷却をさせた。得られた溶液を遠心分離機で2200rpmの条件下で10分間遠心分離を行った。その後、分離が出来た銀粒子を取り出して、余分なPVPを除去するためエタノール溶液500mlに添加した。そして、さらに遠心分離を行い、銀粒子を取り出した。さらに、取り出した銀粒子を真空乾燥機で35℃、1.3Paの条件下で乾燥させた。
【0029】
上記のようにして得られた銀粒子と、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、トリメチロールプロパンと、界面活性剤としてのサーフィノール465(日信化学工業社製)と、シリコーン系オイル(ポリエーテル変性シリコーン)としてのKL401(共栄社化学社製)と、トリエタノールアミンとを添加し、さらに濃度調整用のイオン交換水を添加することにより、インク組成物とした。
【0030】
(実施例2〜15)
インク組成物の調製に用いる成分の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインク組成物を調製した。
(比較例1〜10)
インク組成物の調製に用いる成分の種類、使用量を調整することにより、表1に示すような構成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインク組成物を調製した。
【0031】
表1には、前記各実施例および各比較例のインク組成物の構成を示す。なお、表1中、
トリエチレングリコールモノブチルエーテルをS1、トリメチロールプロパンをTMP、サーフィノール465(日信化学工業社製)をS465、トリエタノールアミンをTEA、シリコーン系オイル(ポリエーテル変性シリコーン)としてのKL401(共栄社化学社製)をKL401、シリコーン系オイル(ポリエーテル変性シリコーン)としてのKL402(共栄社化学社製)をKL402、シリコーン系オイル(ポリエーテル変性シリコーン)としてのKL404(共栄社化学社製)をKL404、シリコーン系オイル以外のオイルとしてのSE107(三井化学社製)をSE107、p−ノニルフェノキシポリグリシドールとしてのサーファクタント10G(サーチケミカルズ社製)をNPPG、で示した。また、前記各実施例についてのインク組成物の粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、3.0mPa・s以上5.0mPa・s以下の範囲内の値であった。また、前記各実施例のインク組成物の調製に用いたシリコーン系オイルの粘度(振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された25℃における粘度)は、いずれも、120mPa・s以上2000mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0032】
【表1】

【0033】
[2]印刷物の製造
前記各実施例および各比較例について、インク組成物を用いて、以下のようにして、印刷物を製造した。
まず、印刷媒体としてのインクジェット用専用紙(写真用紙):PGPP(セイコーエプソン社製)を用意した。
この印刷媒体のインク受理層が設けられた面側に、図1に示すような液滴吐出装置を用いて、duty:60%の所定のパターンでインク組成物を付与した。これにより、印刷物が得られた。なお、本明細書において、「duty」とは、下式で算出される値である。
【0034】
duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
【0035】
[3]評価
[3.1]光沢度
前記各実施例および各比較例に係る印刷物の印刷面について、光沢度計(MINOLTA MULTI GLOSS 268)を用い、煽り角度20°、duty40%での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。
【0036】
A:光沢度が950以上。
B:光沢度が900以上950未満。
C:光沢度が800以上900未満。
D:光沢度が700以上800未満。
E:光沢度が700未満。
【0037】
[3.2]耐擦性
前記各実施例よび各比較例に係る印刷物の印刷面について、以下の試験を行った際の印刷面について、深さ0.4μm以上の傷が生じていているものを「深い傷」、深さ0.4μm未満の傷しか生じていていないものを「浅い傷」として、2段階の評価を行った。なお、傷の深さの評価には、非接触表面・層断面形状計測システム_VertScan(菱化システム社製)を用いた。
【0038】
印刷試験方法としては、エプソン純正写真用紙<光沢>(セイコーエプソン社製)の摩擦用に用いる裏面と印刷物の印刷面とを重ねてクリアファイルに入れた。そしてその後に、クリアファイル内において両者が重なっていない部分を抑え、手動で印刷物が裏面に重ならなくなるまで引き出し、再び全体を重ねるように入れる往復運動を100回行った。
その印刷面の結果を光学顕微鏡(VHX―200、キーエンス社製)を用いて、レンズ(VH−Z75、キーエンス社製)で光学顕微鏡観察時倍率を100〜200倍にして観察を行った。
これらの結果を表2に示した。
【0039】
【表2】

【0040】
表2から明らかなように、シリコーン系オイルを0.05質量%〜3質量%添加した実施例の印刷物は、光沢度及び耐擦性に優れていた。それに対して、添加量が0.01質量%と少なすぎると、良好な耐擦性が得られず、添加量が4質量%と多い場合は、インクの粘度が高すぎてインクジェットプリンターでは吐出できないものとなってしまった。また、非シリコーン系オイルを添加しても(比較例8、9、10)、耐擦性及び光沢度の両立が出来ず、満足のいく印刷物ではなかった。
なお、上記の耐擦性試験を行った後の、実施例1、比較例1に係る印刷物の表面の様子を示す光学顕微鏡写真を、それぞれ、図2、図3に示す。
【0041】
[3.3]考察
シリコーン系オイルを添加することにより、光沢度を維持しつつ、耐擦性を向上させることが出来る理由は定かではないが、下記のように考察をする。
[3.3.1]印刷物の表面について
上記の理由を考察するため、実施例2をduty40%、duty70%、duty100%で打ち込んだ印刷物の表層から深さ10nm付近のSi、Ag濃度を測定した。なお、duty40%程度で印刷物はインクで埋まり、duty70%、100%となるとインクが重なった印刷物を評価していることとなる。
【0042】
その際の測定装置としては、X線光電子分析装置(ESCA―1000、島津製作所社製)を用いた。また、測定条件としては、X線源:Mg、取出し角:90°、分析径(スポットサイズ):Φ1mm、測定元素:Si2pで行った。
そして、その結果を図4に表した。この結果より、表層に重なるインクが多くなるにつれ、Si濃度は増加し、Ag濃度は減少することが分かった。つまり、シリコーン系オイルは、銀インク印刷物の表面に偏在していると推測される。つまり、表層にシリコーン系オイルが偏在していることで、印刷物の表層は平滑な面になり光沢度を落とすことなく、良好に銀粒子を保持して高い耐擦性を発揮すると考えられる。
【0043】
[3.3.2]界面活性効果
水に対してKL401オイルを0.2質量%、1.0質量%、3.0質量%を添加した際に、図5のように表面張力が低下(界面活性効果)があることが分かった。つまり、銀インク印刷物の表面にシリコーン系オイルが偏在する理由として、インクジェットプロセスにおいてインク液滴がメディアに着弾した際に、シリコーン系オイルはその界面活性効果により液滴表面に配向、その他の溶媒成分はメディアと接触しているため優先的にメディアに吸収され、最終的にオイルが印刷物最表面に残ることが考えられる。
【符号の説明】
【0044】
1…インクジェット式プリンター(プリンター) 2…フレーム 3…プラテン 4…紙送りモーター 5…ガイド部材 6…キャリッジ 7…タイミングベルト 8…キャリッジモーター 9…液滴吐出ヘッド(記録ヘッド) 10…インクカートリッジ P…印刷媒体(基材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子と、
シリコーン系オイルとを含むことを特徴とするインク組成物であって、
前記シリコーン系オイルの含有量は0.05質量%以上3質量%以下であることを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
前記シリコーン系オイルは、ポリエーテル変性シリコーンである請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記銀粒子、前記シリコーン系オイルに加え、さらに水を含み、前記水の含有量が50質量%以上である請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記銀粒子の平均粒径が3nm以上100nm以下である請求項1ないし3のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項5】
インク組成物中における不揮発性の有機成分の含有率が20質量%以下である請求項1ないし4のいずれかに記載のインク組成物。
【請求項6】
インクジェット方式によって請求項1ないし5のいずれかに記載のインク組成物を吐出することを特徴とするインクジェット印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−82284(P2012−82284A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228432(P2010−228432)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】