説明

インク組成物および記録方法

【課題】記録媒体に印刷されたときに着色の少ない金属光沢を発現するインク組成物および記録方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかるインク組成物は、銀粒子、白色顔料および水を含み、前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90が50nm以上1μm以下であり、前記銀粒子が前記水に分散された構造を含み、前記白色顔料の含有量は、前記銀粒子の含有量に対して、1%以上10%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、印刷物上に金属光沢を有する塗膜を形成するためには、真鍮、アルミニウム微粒子等から作成された金粉、銀粉を顔料に用いた印刷インキや金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が用いられている。
【0003】
しかしながら、金粉、銀粉を用いた印刷インキによる塗膜は、使用される金属粉の平均粒子径が10μmから30μmと大きく、つや消し調の金属光沢は得られるが、鏡面光沢を得ることは難しいものであった。また、金属箔を使用する箔押し又は熱転写では、印刷媒体に接着剤を塗布し、その上に平滑な金属箔を押し付け、記録媒体と金属箔を密着させ加熱し、金属箔と記録媒体を熱融着させるといった方法をとる。そのため、比較的良好な光沢は得られるが、製造工程が多くなり製造工程中で圧力や熱が加わるため、記録媒体に関して、熱や変形に強い記録媒体などに限られるという制限があった。
【0004】
近年、印刷におけるインクジェットの応用例が数多く見受けられ、その中の一つの応用例として、メタリック印刷がある。例えば、特許文献1には、平板状の形状を有するアルミニウム粒子を含む分散液、およびインク組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−174712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、メタリック印刷の金属光沢は、微細な金属の粉体を記録媒体に塗布して得られるため、粉体が光に及ぼす作用を完全には除去できていない。すなわち顔料が粉体であることから、粉体の光学的性質が印刷後にも残存することがあり、例えば、金属光沢に黒色や褐色といった粉体の色合いがついてしまうことがあった。一方、アルミニウム顔料と同等あるいはそれ以上の金属光沢が期待できる銀粒子の顔料においても、インクに粉体として配合されるため、同様に粉体の色合いが問題となる場合があった。
【0007】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、記録媒体に印刷されたときに着色の少ない金属光沢を発現するインク組成物および記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明にかかるインク組成物の一態様は、
銀粒子、白色顔料および水を含み、
前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90が50nm以上1μm以下であり、
前記銀粒子が前記水に分散された構造を含み、
前記白色顔料の含有量は、前記銀粒子の含有量に対して、1%以上10%以下であることを特徴とする。
【0010】
本適用例のインク組成物によれば、記録媒体に印刷されたときに、着色の少ない良好な金属光沢を有する画像を記録することができる。
【0011】
[適用例2]
適用例1において、
前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d10が2nm以上20nm以下であり、
前記銀粒子が分散コロイドとして前記水に分散された構造を有することができる。
【0012】
本適用例のインク組成物によれば、銀粒子の分散性が良好であり、記録媒体に付着されたときに、より良好な金属光沢を呈することができるとともに、保存安定性を高めることができる。
【0013】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記白色顔料の粒径加積曲線における粒径d50が100nm以上2μm以下であることができる。
【0014】
本適用例のインク組成物によれば、白色顔料の分散性が良好であり、白色顔料の含有量を低減することができるとともに、記録媒体に付着されたときの金属光沢の着色をさらに抑制することができる。
【0015】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記水の含有量が50質量%95質量%以下であることができる。
【0016】
本適用例のインク組成物によれば、銀粒子および白色顔料の分散性がより良好となり、保存安定性をさらに高めることができる。
【0017】
[適用例5]
本発明にかかる記録方法の一態様は、
銀粒子、白色顔料および水を含み、前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90が50nm以上1μm以下であり、前記銀粒子が前記水に分散された構造を含み、前記白色顔料の含有量が前記銀粒子の含有量に対して、1%以上10%以下であるインク組成物を、インクジェット記録装置を用いて吐出して、記録媒体上に付着させて画像を記録することを特徴とする。
【0018】
本適用例の記録方法によれば、記録媒体上に着色の少ない金属光沢を有する画像を記録することができる。
【0019】
[適用例6]
適用例5において、
前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d10が2nm以上20nm以下であり、
前記銀粒子が分散コロイドとして前記水に分散された構造を有することができる。
【0020】
本適用例の記録方法によれば、インク組成物の保存安定性を高めることができる。
【0021】
[適用例7]
適用例5または適用例6において、
前記白色顔料の粒径加積曲線における粒径d50が100nm以上2μm以下であることを特徴とする記録方法。
【0022】
本適用例の記録方法によれば、白色顔料の含有量を低減することができ、記録媒体上に着色の少ない金属光沢を有する画像を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例および比較例の記録物の白色度のduty依存性を示すプロット。
【図2】実施例および比較例の記録物の60°光沢度のduty依存性を示すプロット。
【図3】実施例および比較例の記録物の20°光沢度のduty依存性を示すプロット。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものである。そのため、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で実施される各種の変形例も含む。なお、以下の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0025】
1.インク組成物
本実施形態にかかるインク組成物は、銀粒子、白色顔料および水を含む。
【0026】
1.1.銀粒子
1.1.1.銀粒子の性状
本実施形態のインク組成物に含まれる銀粒子は、銀を主成分とする粒子である。銀粒子は、例えば、副成分として、他の金属、酸素、炭素等を含んでも良い。銀粒子における銀の純度としては、例えば、80%以上とすることができる。銀粒子は、銀と他の金属の合金であってもよい。また、インク組成物中の銀粒子は、コロイド(粒子コロイド)の状態で存在していてもよい。銀粒子がコロイド状態で分散している場合は、さらに分散性が良好となり、例えば、インク組成物の保存安定性の向上に寄与することができる。
【0027】
銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90は、50nm以上1μm以下である。ここで、粒径加積曲線とは、インク組成物等の液体に分散された銀粒子について、粒子の直径、および当該粒子の存在数を求めることができる測定を行った結果を、統計的に処理して得られる曲線の一種である。本明細書における粒径加積曲線は、粒子の直径を横軸にとり、粒子の質量(粒子を球と見なしたときの体積、粒子の密度、および粒子数の積)について、直径の小さい粒子から大きい粒子に向かって積算した値(積分値)を縦軸にとったものである。そして、粒径d90とは、粒径加積曲線において、縦軸を規格化(測定された粒子の総質量を1と)したときに、縦軸の値が90%(0.90)となるときの、横軸の値すなわち粒子の直径のことをいう。なお、この場合の銀粒子の直径とは、銀粒子そのものの直径であってもよいし、銀粒子がコロイド状で分散している場合には、当該粒子コロイドの直径であってもよい。
【0028】
銀粒子の粒径加積曲線は、例えば、動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用することによって求めることができる。動的光散乱法は、分散している銀粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測するものである。一般に分散している銀粒子は、通常ブラウン運動をしている。銀粒子の運動の速度は、粒子直径の大きな粒子ほど大きく、粒子直径の小さな粒子ほど小さい。ブラウン運動をしている銀粒子にレーザー光を照射すると、散乱光において、各銀粒子のブラウン運動に対応した揺らぎが観測される。この揺らぎを測定し、光子相関法等により自己相関関数を求め、キュムラント法およびヒストグラム法解析等を用いることで銀粒子の直径や、直径に対応した銀粒子の頻度(個数)を求めることができる。特にサブミクロンサイズの銀粒子を含む試料に対しては、動的光散乱法が適しており、動的光散乱法により比較的容易に粒径加積曲線を得ることができる。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置としては、例えば、ナノトラックUPA−EX150(日機装株式会社製)、ELSZ−2、DLS−8000(以上、大塚電子株式会社製)、LB−550(株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
【0029】
また、銀粒子の粒径加積曲線は、本実施形態の銀粒子水分散液を含有するインク組成物においても、例えば、電子顕微鏡法によって測定することができる。この方法は、電子顕微鏡写真から銀粒子の大きさを計測するもので、当該写真を、例えば画像処理して計測することにより、銀粒子の粒径加積曲線を求めることができる。具体的には、個々の銀粒子の短軸径と長軸径を計測し、その面積と等しい円の直径(円相当直径)を算術的に求め、一定の視野から50個以上の銀粒子をランダムに選択して求める方法が挙げられる。この方法によれば、例えば、インク組成物中に銀粒子以外の粒子(例えば白色顔料)が含有されている場合でも、電子顕微鏡画像上で、銀粒子を選別することができるため、銀粒子の粒径加積曲線を求めることができる。また、この測定における信頼性を高めたい場合には、計測する粒子の個数を増して求めるとよい。
【0030】
また、上記の電子顕微鏡法による測定において、電子顕微鏡像に、銀粒子の他に例えば顔料等の粒子が認められる場合には、例えば、EDX(エネルギー分散型X線分析)法を用いることにより、銀粒子と他の顔料等を区別することができる。さらに、本実施形態のインク組成物が記録媒体に付着された状態(例えば印刷物)においても、銀粒子の粒径加積曲線を、電子顕微鏡法を用い、必要に応じてEDX法を併用することにより、求めることができる。
【0031】
さらに、本実施形態の銀粒子水分散液および白色顔料を含有するインク組成物においては、銀粒子の粒径加積曲線を求める方法として、その他にも、遠心分離を利用する方法(以下、これを遠心法ということがある。)が挙げられる。遠心法の具体例としては、長さ10cmの遠心チューブにインク組成物を充填し、例えば1000rpmで5時間遠心を行った後、チューブ上部の1cmの範囲と、チューブ下部の1cmの範囲を採取する。銀の比重は、およそ10.5g/cmであり、二酸化チタンの比重はおよそ3.9g/cmであるため、この比重差によって、遠心チューブ内における遠心後の位置が異なる。そのため、例えば、チューブ下部の1cmの範囲には、銀粒子が濃化し、チューブ上部の1cmの範囲から採取した上澄みには、白色顔料が分散するような状態となる。そのため、当該遠心チューブの適宜な位置から、分散液を採取し、これを上述の動的光散乱法等により測定することにより、銀粒子水分散液および白色顔料を含有するインク組成物における銀粒子の粒径加積曲線、および白色顔料の粒径加積曲線をそれぞれ求めることができる。
【0032】
本実施形態のインク組成物に使用される銀粒子は、粒径加積曲線における粒径d10が2nm以上20nm以下となるようにしてもよい。このようにすれば、インク組成物における銀粒子の分散性をより良好とすることができ、例えば、保存安定性をさらに高めることができる。なお、粒径d10とは、粒径加積曲線において、縦軸を規格化(測定された粒子の総質量を1と)したときに、縦軸の値が10%(0.10)となるときの、横軸の値すなわち粒子の直径のことをいう。
【0033】
本実施形態のインク組成物中の銀粒子の濃度は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下、特に好ましくは5質量%以上15質量%以下である。
【0034】
1.1.2.銀粒子の製造方法
本実施形態のインク組成物に用いられる銀粒子は、製造される方法によって、限定されるものではないが、例えば、以下のように製造されることができる。以下に、銀粒子および銀コロイド粒子分散液の製造方法のいくつかについて例示する。
【0035】
1.1.2.1.第1の手法
以下に例示する銀粒子の製造方法は、少なくともビニルピロリドンのポリマーと多価アルコールとを含む第1溶液を用意する第1溶液用意工程と、銀(金属)に還元することが可能な銀前駆体が溶媒に溶解した第2溶液を用意する第2溶液用意工程と、第1溶液を所定の温度に加熱する第1溶液加熱工程と、加熱した第1溶液と第2溶液とを混合し混合液を得る混合工程と、混合液を所定の温度で一定時間保持する反応進行工程と、反応が進行した混合液から銀粒子(銀コロイド粒子)を取り出し、水系分散媒に分散する分散工程とを有している。
【0036】
(第1溶液用意工程)
まず、少なくともビニルピロリドンのポリマーと多価アルコールとを含む第1溶液を用意する。
【0037】
第1溶液に含まれるビニルピロリドンのポリマーの機能の一つとしては、本例の製造方法により製造される銀粒子の表面に吸着することにより、銀粒子の凝集を防止し、銀コロイド粒子を形成することが挙げられる。
【0038】
使用するビニルピロリドンのポリマーには、ビニルピロリドンの単独重合体(ポリビニルピロリドン)、ビニルピロリドンの共重合体が含まれてもよい。
【0039】
ビニルピロリドンの共重合体としては、例えば、ビニルピロリドンとα−オレフィンとの共重合体、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、ビニルピロリドンとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートとの共重合体、ビニルピロリドンと(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドとの共重合体、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートとの共重合体、ビニルピロリドンとスチレンとの共重合体、ビニルピロリドンと(メタ)アクリル酸との共重合体等が挙げられる。
【0040】
ビニルピロリドンのポリマーとしてポリビニルピロリドンを用いる場合、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、3000以上60000以下であることが好ましい。
【0041】
多価アルコールは、第2溶液中に含まれる銀前駆体を銀(金属)に還元する機能を有する化合物である。
【0042】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリエタノールアミン、トリヒドロキシメチルアミノメタン等が挙げられる。
【0043】
上記のようなビニルピロリドンのポリマーを上記多価アルコールに溶解させることにより、第1溶液を用意する。
【0044】
なお、ビニルピロリドンのポリマーは、余分な水分や不純物等を取り除く目的で、70℃以上120℃以下で加熱されていることが好ましい。また、この場合の加熱時間は、8時間以上であることが好ましい。
【0045】
また、第1溶液中には、多価アルコールとは別に、第2溶液中の銀前駆体を還元する還元剤が含まれていてもよい。
【0046】
このような還元剤としては、例えば、ヒドラジンおよびその誘導体;ヒドロキシルアミンおよびその誘導体;メタノール、エタノール等の一価のアルコール;ホルムアルデヒド、ギ酸、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドおよびこれらのアンモニウム塩等のアルデヒド;次亜リン酸塩;亜硫酸塩;テトラヒドロホウ酸塩(例えば、Li、Na、Kのテトラヒドロホウ酸塩);水素化アルミニウムリチウム(LiAlH);水素化ホウ素ナトリウム(NaBH);ヒドロキノン、アルキル置換したヒドロキノン、カテコールおよびピロガロール等のポリヒドロキシベンゼン;フェニレンジアミンおよびその誘導体;アミノフェノールおよびその誘導体;アスコルビン酸、クエン酸、アスコルビン酸ケタール等のカルボン酸およびその誘導体;3−ピラゾリドンおよびその誘導体;ヒドロキシテトロン酸、ヒドロキシテトロン酸アミドおよびその誘導体;ビス・ナフトール類およびその誘導体;スルホンアミドフェノールおよびその誘導体;Li、NaおよびK等が挙げられる。これらの中でも、ギ酸アンモニウム塩、ギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アスコルビン酸、クエン酸、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、トリエチル水素化ホウ素リチウムを用いることが好ましく、ギ酸アンモニウム塩を用いることがより好ましい。
【0047】
(第2溶液用意工程)
次に、銀に還元することが可能な銀前駆体が溶媒に溶解した第2溶液を用意する。
【0048】
銀前駆体とは、上述した多価アルコールや還元剤によって還元することにより、銀(金属)を生成する化合物である。
【0049】
このような銀前駆体としては、例えば、銀の、酸化物、水酸化物(水和した酸化物を含む)、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物)、炭酸塩、リン酸塩、アジ化物、ホウ酸塩(フルオロホウ酸塩、ピラゾリルホウ酸塩等を含む)、スルホン酸塩、カルボン酸塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸エステルおよびクエン酸塩)、置換されたカルボン酸塩(トリフルオロアセテート等のハロゲン化カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩等を含む)、ヘキサクロロ白金酸塩、テトラクロロ金酸塩、タングステン酸塩等の銀の無機および有機酸塩等、銀アルコキシド、銀錯体等が挙げられる。
【0050】
溶媒としては、上述した銀前駆体が溶解するものであれば特に限定されず、例えば、上記第1溶液用意工程で説明した多価アルコール、脂肪族、脂環式、芳香族のアルコール類(本明細書において、単に「アルコール」と示した場合「一価のアルコール」のことを指す)、エーテルアルコール類、アミノアルコール類等を用いることができる。
【0051】
上記のような銀前駆体を溶媒に溶解させることにより、第2溶液を得る。
【0052】
(混合工程)
次に、第1溶液と第2溶液とを混合し、混合液を得る。
【0053】
この際、第1溶液の温度は、100℃以上140℃以下であることが好ましく、101℃以上130℃以下であることがより好ましく、115℃以上125℃以下であることがさらに好ましい。これにより、第2溶液中の銀前駆体をより効率よく還元することができるとともに、形成される銀粒子の表面にビニルピロリドンを効率よく吸着させることができる。
【0054】
(反応進行工程)
次に、第1溶液と第2溶液とを混合して得られた混合液を所定の温度で一定時間加熱し、銀前駆体の還元反応を進行させる。
【0055】
この際の加熱温度は、100℃以上140℃以下であることが好ましく、101℃以上130℃以下であることがより好ましく、115℃以上125℃以下であることがさらに好ましい。これにより、銀前駆体をより効率よく還元することができるとともに、形成される銀粒子の表面にビニルピロリドンを効率よく吸着させることができる。
【0056】
また、加熱時間(反応時間)は、加熱温度にもよるが、30分以上180分以下であることが好ましく、30分以上120分以下であることがより好ましく、60分以上120分以下であることがさらに好ましい。これにより、銀前駆体をより確実に還元することができるとともに、形成される銀粒子の表面にビニルピロリドンをより効果的に吸着させることができる。
【0057】
(分散工程)
その後、必要に応じて、形成された銀粒子(銀コロイド粒子)をろ過や遠心分離等によって分離し、分離した銀粒子を水系分散媒に所望の濃度で分散させる。このようにして、銀粒子、インク組成物、または、銀コロイド水分散液を得ることができる。
【0058】
1.1.2.2.第2の手法
以下に例示する銀粒子の製造方法は、まず、分散剤と、還元剤とを溶解した水溶液を調製する。分散剤としては、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むものとする。これらの分散剤の機能の一つとしては、銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化することが挙げられる。分散剤を配合することにより、銀コロイド粒子が安定して分散媒中に存在することができるようになるため、例えば、より分散安定性を高めることができる。
【0059】
このような分散剤としては、例えば、クエン酸、りんご酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせてたものを挙げることができる。
【0060】
また、分散剤は、COOH基とSH基とを合わせて2個以上有するメルカプト酸またはその塩を含んでいてもよい。これらの分散剤は、メルカプト基の銀微粒子の表面に吸着する能力が、水酸基と同程度または水酸基よりも強いことがあるため、コロイド粒子をさらに形成しやすく、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によってコロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きが高まる場合がある。このような分散剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせてたものを挙げることができる。
【0061】
分散剤の配合量としては、出発物質である硝酸銀のような銀塩中の銀と分散剤とのモル比が1:1以上1:100以下程度となるように配合することが好ましい。銀塩に対する分散剤のモル比が大きくなると、銀粒子の粒径が小さくなって分散性をより高めることができる。
【0062】
還元剤の機能の一つとしては、出発物質である硝酸銀(AgNO)のような銀塩中のAgイオンを還元して銀粒子を生成させることが挙げられる。
【0063】
還元剤としては、特に限定されず、例えば、ヒドラジン、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン系;水酸化ホウ素ナトリウム、水素ガス、ヨウ化水素等の水素化合物系;一酸化炭素、亜硫酸次亜リン酸等の酸化物系、Fe(II)化合物、Sn(II)化合物等の低原子価金属塩系、D−グルコースのような糖類、ホルムアルデヒド等の有機化合物系、あるいはヒドロキシ酸であるクエン酸、りんご酸や、ヒドロキシ酸塩であるクエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、りんご酸二ナトリウムやタンニン酸等が挙げられる。これらの中でも、タンニン酸や、ヒドロキシ酸は、還元剤として機能すると同時に分散剤としての効果を発揮するため、より好適に用いることができる。あるいは、銀表面で安定した結合を形成する分散剤として上記に挙げたメルカプト酸であるメルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸やメルカプト酸塩であるメルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸カリウム等は、還元剤として好適に用いることができる。
【0064】
これらの分散剤や還元剤は、いずれも単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。また、これらの分散剤や還元剤を使用する際には、光や熱を加えて還元反応を促進させるようにしてもよい。
【0065】
還元剤の配合量としては、上記出発物質である銀塩を完全に還元できる量があれば十分であるが、過剰な還元剤は不純物として銀コロイド液中に残存して成膜後の導電性を悪化させる等の原因となることがあるため、できるだけ少ない量を配合することが好ましい。具体的な配合量としては、上記銀塩と還元剤とのモル比が1:1以上1:3以下程度であることが好ましい。
【0066】
この製造方法の例では、分散剤と還元剤とを溶解して水溶液を調製した後、この水溶液のpHは6以上12以下に調整することが好ましい。これは、以下のような理由による。例えば、分散剤であるクエン酸三ナトリウムと還元剤である硫酸第一鉄とを混合した場合、全体の濃度にもよるがpHは大体4以上5以下程度と、上記したpH6を下回る。このとき存在する水素イオンは、下記反応式(1)で表される反応の平衡を右辺に移動させ、COOHの量が多くなる。したがって、その後、銀塩溶液を滴下して得られる銀粒子表面の電気的反発力が減少し、銀粒子(コロイド粒子)の分散性が低下してしまう。
【0067】
−COO+H ←→ −COOH…(1)
【0068】
そこで、分散剤と還元剤とを溶解して水溶液を調製した後、この水溶液にアルカリ性の化合物を添加し、水素イオン濃度を低下させることにより、このような分散性の低下を抑制することができる。
【0069】
添加するアルカリ性の化合物としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水や、上述したアルカノールアミン等を用いることができる。これらの中でも、アルカノールアミンを用いた場合、pHを容易に調整できるとともに、形成される銀コロイド粒子の分散安定性をより向上させることができる。
【0070】
なお、アルカリ性の化合物の添加量が多すぎて、pHが12を超えると、鉄イオンのような残存している還元剤のイオンの水酸化物の沈殿が起こりやすくなるため、好ましくない。
【0071】
次に、この製造方法の例では、調製した分散剤と還元剤とが溶解した水溶液に銀塩を含む水溶液を滴下する。銀塩としては、特に限定されず、例えば、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、硫酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀、クロム酸銀、硝酸銀、二クロム酸銀等を用いることができる。これらの中では、水への溶解度が大きい点で硝酸銀が特に好ましい。
【0072】
また、銀塩の量は、目的とするコロイド粒子の含有量、および、還元剤により還元される割合を考慮して定められるが、例えば、硝酸銀の場合、水溶液100質量部に対して15質量部以上70質量部以下程度とするのが好ましい。
【0073】
銀塩水溶液は、上記銀塩を純水に溶かすことにより調製し、調製した銀塩の水溶液を徐々に前述した分散剤と還元剤とが溶解した水溶液中に滴下する。この工程において、銀塩は還元剤により銀粒子に還元され、さらに、該銀粒子の表面に分散剤が吸着して銀コロイド粒子が形成される。これにより、銀コロイド粒子が水溶液中にコロイド状に分散した水溶液が得られる。
【0074】
得られた溶液中には、コロイド粒子のほかに、還元剤の残留物や分散剤が存在しており、液全体のイオン濃度は高くなっている。このような状態の液は、一般に凝析が起こり、沈殿を生じやすい。そこで、このような水溶液中の余分なイオンを取り除いてイオン濃度を低下させるために、洗浄を行うことがより望ましい。
【0075】
洗浄の方法としては、例えば、得られたコロイド粒子を含む水溶液を一定期間静置し、生じた上澄み液を取り除いた上で、純水を加えて再度攪拌し、さらに一定期間静置して生じた上澄み液を取り除く工程を幾度が繰り返す方法、上記静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外ろ過等でイオンを取り除く方法等を挙げることができる。
【0076】
あるいは、次のような方法で洗浄を行ってもよい。溶液を製造した後に溶液のpHを5以下の酸性の領域に調整し、上記反応式(1)の反応の平衡を右辺に移動させることで銀粒子表面の電気的反発力を減少させ、積極的に銀コロイド粒子を凝集させた状態で洗浄を行い、塩類や溶媒を除去することができる。メルカプト酸のような低分子量の硫黄化合物を分散剤として粒子表面に有する銀コロイド粒子であれば金属表面で安定した結合を形成するため、凝集した銀コロイド粒子は、溶液のpHを6以上のアルカリ性の領域に再調整することにより、容易に再分散し、分散安定性に優れた金属コロイド液を得ることができる。
【0077】
この製造方法の例では、上記工程の後、必要により銀コロイド粒子が分散した水溶液に水酸化アルカリ金属水溶液を添加し最終的なpHを6〜11に調整することが好ましい。これは、この製造方法の例では、還元後に洗浄を行っているため、電解質イオンであるナトリウム濃度が減少している場合があり、このような状態の溶液では、下記反応式(2)で表される反応の平衡が右辺へ移動することになる。このままでは、銀コロイドの電気的反発力が減少して銀粒子の分散性が低下するおそれがあるため、適当量の水酸化アルカリを添加することにより、反応式(2)の平衡を左辺に移動させ、銀コロイドを安定化させるのである。
【0078】
−COONa+HO ←→ −COOH+Na+OH…(2)
【0079】
このときに使用する水酸化アルカリ金属としては、例えば、最初にpHを調整する際に用いた化合物と同様の化合物を挙げることができる。pHが6未満では、反応式(2)の平衡が右辺に移動するため、コロイド粒子が不安定化し、一方、pHが11を超えると、鉄イオンのような残存しているイオンの水酸化塩の沈殿が起こりやすくなるため好ましくない。ただし、予め鉄イオン等を取り除いておけば、pHが11を超えても大きな問題はない。
【0080】
なお、ナトリウムイオン等の陽イオンは水酸化物の形で加えるのが好ましい。これは、水の自己プロトリシスを利用できるため最も効果的にナトリウムイオン等の陽イオンを水溶液中に加えることができるからである。また、pHを6〜11に調整する上記工程において、水酸化アルカリ金属水溶液の代わりに、アルカノールアミンを用いてもよい。
【0081】
1.1.2.3.第3の手法
以下に例示する銀粒子の製造方法は、フェノール化合物の酸化重合物が溶媒に溶解した酸化重合物溶液を用意する酸化重合物水溶液用意工程と、銀化合物が溶解した銀化合物溶液を用意する銀化合物溶液用意工程と、酸化重合物水溶液と銀化合物溶液とを混合し、銀化合物を還元し、銀の微粒子を得る混合・還元工程とを有している。
【0082】
(酸化重合物溶液用意工程)
本工程では、フェノール化合物の酸化重合物が溶媒に溶解した酸化重合物溶液を用意する。
【0083】
フェノール化合物の酸化重合物は、還元力があって、後述する銀化合物を還元することができる。さらに、フェノール化合物の酸化重合物の還元反応等で酸化されたものや過剰なものが、配位や吸着等に、生成した銀の微粒子の表面に存在することができ、これにより、銀コロイド粒子が分散した銀コロイド溶液を得ることができる。
【0084】
フェノール化合物の酸化重合物しては、フェノール化合物分子の一部を酸化しながら分子2個以上が結合し重合して生成した炭素縮合多環性化合物を用いることができる。
【0085】
具体的には、下記の(1)〜(4)から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。(1)水酸基の置換位置が1〜4位から選ばれる2ヶ所であり、カルボニル基の置換位置が5〜8位から選ばれる2ヶ所であるジヒドロキシ−ジベンゾフラン−ジオン、およびそれらの誘導体、例えば1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン、1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン等、(2)水酸基の置換位置が1〜3位から選ばれる2ヶ所、4位の1ヶ所、および6位、7位から選ばれる1ヶ所であるテトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オンおよびそれらの誘導体、例えば2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン(一般名プルプロガリン)等、(3)上記(1)または上記(2)の化合物をさらに酸化重合した化合物、(4)上記(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の化合物と2価および3価のフェノール化合物およびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合した化合物。ここで、誘導体とは、酸化重合物の分子内の小部分の変化によって生成する化合物をいい、例えば、酸化重合物に含まれる水素原子をアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基等で置換したものである。
【0086】
フェノール化合物の酸化重合物は、フェノール化合物を酸化剤で酸化することにより得ることができ、酸化剤の添加量、酸化反応時間等でその重合度を制御することかできる。具体的には、フェノール化合物と酸化剤を混合したり、あるいはフェノール化合物を水系溶媒、アルコール等の有機溶媒または水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒に溶解させた後、この溶液と酸化剤とを混合することで得ることができる。
【0087】
酸化剤としては、例えば、空気、酸素等の酸化性ガスや、過酸化水素、過マンガン酸、過マンガン酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム等の化合物を用いることができ、特に空気を用いるのが経済的に有利で好ましい。
【0088】
酸化剤として酸化性ガスを用いる場合、フェノール化合物が溶媒に溶解した溶液(フェノール化合物溶液)と空気等の酸化性ガスとの混合は、開放系で溶液を撹拌して行っても、溶液中に空気等の酸化性ガスをバブリングして行ってもよい。
【0089】
溶媒としては、後述する金属化合物溶液と同様に、取り扱い易さや経済性の点で水系溶媒を用いるのが好ましい。フェノール化合物が酸化されると、透明な溶液が赤褐色、茶褐色、黒褐色等に変色し、重合が進むとさらに濃色に変化するので、目視より酸化重合物の生成を確認できる。フェノール化合物溶液のpHを6以上に調整すると、重合が進み易いので好ましく、6以上13以下の範囲がより好ましく、8以上11以下の範囲がさらに好ましい。
【0090】
また、酸化重合物は、2価または3価のフェノール化合物やそれらの誘導体を前記の条件で酸化重合させたものが好ましい。2価のフェノール化合物としては、ヒドロキノン、カテコール、レソルシノール等が、3価のものとしては、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン等が、誘導体としてはピロガロールの誘導体である没食子酸等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。上述した中でも水酸基が3個のものが好ましく、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンを用いるのがより好ましい。
【0091】
具体的には、ピロガロールの酸化重合物としては、1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、プルプロガリン(2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン)等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。また、フロログルシノールの酸化重合物としては、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。また、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンの酸化重合物としては、1,3−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−6,8−ジオン、1,3,4,7−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。
【0092】
また、2価または3価のフェノール化合物の誘導体としては、例えば、没食子酸の酸化重合物である1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。
【0093】
また、前記多環性化合物をさらに酸化重合したもの、あるいは、前記多環性化合物またはその酸化重合物と2価および3価のフェノール化合物およびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合したもの、さらにはそれらの誘導体を作製して用いてもよい。
【0094】
(銀化合物溶液用意工程)
一方、銀化合物が溶解した銀化合物溶液を用意する。
【0095】
銀化合物は、還元されることにより銀(金属)となる化合物で、銀粒子を製造するための原料である。
【0096】
銀化合物は、例えば、銀の、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等を用いることができる。銀化合物を溶解する溶媒は、水、アルコール等の有機化合物または水とアルコール等の有機化合物との混合物を用いることができ、取り扱い易さや経済性の点で水を溶媒として用いることが好ましい。銀化合物の溶媒中の濃度は、銀化合物が溶解する範囲であれば特に制約はないが、工業的には5mmol/L以上とすることが好ましい。
【0097】
(混合・還元工程)
次に、上記のような酸化重合物溶液と銀化合物溶液とを撹拌下で混合し、銀化合物を還元して、銀の粒子を製造する。
【0098】
酸化重合物の使用量は、特に限定されないが、フェノール化合物の単体を基準として銀化合物のモル比で0.1以上10以下の範囲の量が好ましく、0.2以上5以下の範囲の量がより好ましい。
【0099】
還元温度は、適宜設定することができるが、5℃以上105℃以下程度の範囲で行うことが好ましく、10℃以上80℃以下程度で行うことがより好ましい。
【0100】
なお、前記の還元反応には補助的に別の還元剤、例えば、アルコール類やアミン類を添加してもよい。このようにして銀粒子が製造することができ、必要に応じて透析、固液分離、洗浄して余剰成分や不要なイオン成分を除去したり、更に必要に応じて乾燥等を行うことができる。
【0101】
このような還元反応によって製造した銀粒子は、その表面に上記フェノール化合物の酸化重合物およびその酸化重合物の酸化体の少なくとも一方が存在しており、銀コロイド粒子を構成している。その結果、例えば水に分散させることにより、容易に銀コロイド液を得ることができる。
【0102】
1.2.白色顔料
本実施形態のインク組成物に含有される白色顔料としては、二酸化チタン、二酸化ジルコニア等の第IV族元素酸化物が挙げられる。白色顔料としては、その他にも、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸バリウム、シリカ、アルミナ、カオリン、クレー、タルク、白土、水酸化アルミ、炭酸マグネシウム、白色中空樹脂エマルジョン等が挙げられ、好ましくはこれらからなる群から選択される1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0103】
インク組成物に含有される白色顔料の含有量は、銀粒子の含有量に対して1%以上10%以下である。すなわち、インク組成物全体に対する銀粒子の含有量が、例えば0.1質量%以上30質量%以下である場合には、インク組成物全体に対する白色顔料の含有量は、0.001質量%以上3質量%以下である。また、白色顔料の水溶性インク組成物における分散性の観点からは、白色顔料の含有量は0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。さらに、白色度を高めること、および、水溶性インク組成物における分散性を高めること、の少なくとも一方の観点からは、白色顔料の含有量は0.1質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0104】
本実施形態のインク組成物は、例えば用途が、インクジェット記録方式の印刷である場合、記録媒体に付着されて光沢画像を提供することができる。その際、記録媒体に付着される濃度は、例えば、dutyによって定義されうる。
【0105】
「duty」とは、下式で算出される値である。
【0106】
duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。100%dutyとは、画素に対する単色の最大インク質量を意味する。)
本実施形態のインク組成物は、低いdutyの画像において、白色度と光沢度のバランスを向上させることもできる。例えば、銀粒子に含有量に対する白色顔料の含有量は、1%以上4%以下とすることにより、低いdutyの画像における白色度と光沢度のバランスを向上させることができる。
【0107】
白色顔料は、粒径加積曲線における粒径d50の値として、100nm以上2μm以下とすることがより好ましい。白色顔料が、このような粒径d50の範囲となることにより、例えば、印刷の白色度を向上させることができる。白色顔料の粒径加積曲線の測定は、上述の銀粒子の場合と同様に、例えば、動的光散乱法、電子顕微鏡法(必要に応じてEDX法を併用)、および遠心法の少なくとも一種によって測定することができる。
【0108】
1.3.水
本実施形態のインク組成物に用いられる水は、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水または超純水などである。銀粒子の分散の妨げにならない程度であれば、水中にはイオン等が存在してもよい。
【0109】
本実施形態のインク組成物における水の含有量は、銀粒子の分散が維持できる範囲で限定されないが、インク組成物の全量に対して50質量%以上95質量%以下であることがより好ましい。インク組成物における水の含有量が、この範囲内であると、銀粒子および白色顔料の分散性がより良好となり、保存安定性をさらに高めることができる。
【0110】
なお、水の含有量が50質量%以上95質量%以下であるということは、水以外の成分の含有量が5質量%以上50質量%以下であることを示している。本明細書では、水以外の成分のことを固形分と称することがあり、水の含有量が50質量%以上95質量%以下であるということは、インク組成物における固形分の濃度が5質量%以上50質量%以下であることを指している。
【0111】
1.4.その他の成分
本実施形態のインク組成物は、必要に応じて、界面活性剤、多価アルコール、pH調整剤、樹脂類、色材等を含有してもよい。
【0112】
界面活性剤としては、例えばアセチレングリコール系界面活性剤またはポリシロキサン系界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、被記録面への濡れ性を高め、インクの浸透性を向上させる効果がある。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えばオルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学株式会社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えばBYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。さらに、本実施形態のインク組成物には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のその他の界面活性剤を添加してもよい。
【0113】
多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどの炭素数が4以上8以下の1,2−アルカンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらの多価アルコールは、本実施形態のインク組成物をインクジェット記録装置に適用した場合に、インク組成物の乾燥を防止し、インクジェット記録ヘッド部分における目詰まりを防止する効果がある。
【0114】
これらのうち、特に、アルカンジオールは、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高める作用が強く好ましい。このようなアルカンジオールとしては、炭素数が6以上8以下の1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールは、記録媒体への浸透性が特に高いためより好ましい。
【0115】
pH調整剤としては、特に制限されず、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0116】
樹脂類としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、塩化ビニリデンの単独重合体もしくは共重合体、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、天然樹脂等が挙げられる。なお、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。これらの樹脂類は、銀粒子を記録媒体上に強固に定着させるために添加されることができる。
【0117】
色材としては、顔料および染料が挙げられ、通常のインクに使用することのできる色材を特に制限なく用いることができる。本実施形態のインク組成物に添加することができる色材の色としては、有彩色、無彩色であってもよいが、インク組成物が白色顔料を含有するため、有彩色であることが好ましい。インク組成物に色材を含有させる場合には、例えば、記録媒体に塗布されたときに形成される画像に、金属光沢とともに、光沢の色彩を付与することができる。
【0118】
本実施形態のインク組成物に使用可能な染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料、など通常インクジェット記録に使用される各種染料を使用することができる。
【0119】
本実施形態のインク組成物に使用可能な顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料などを使用することができる。顔料の色としては、イエロー、マゼンダ、シアンなどが挙げられる。本実施形態のインク組成物に色材を含有させる場合、色材を複数含有するものであっても良い。例えば、イエロー、マゼンタ、シアンの基本3色に加えて、それぞれの色毎に同系列の濃色や淡色を加えることができる。すなわち、マゼンタに加えて淡色のライトマゼンタ、濃色のレッド、シアンに加えて淡色のライトシアン、濃色のブルーを含有させることが例示できる。
【0120】
本実施形態のインク組成物に顔料を含有させる際には、顔料はその平均粒径が10nm以上200nm以下の範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50nm以上150nm以下程度のものである。本実施形態のインク組成物に色材を含有させる場合は、色材の添加量は、0.1質量%以上25質量%以下程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下程度の範囲である。
【0121】
また、インク組成物に顔料を含有させる場合には、当該顔料を分散させるための顔料分散剤をさらに添加してもよい。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するために慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。このような分散剤としては、通常のインクにおいて用いられている任意の分散剤を用いることができる。インク組成物に顔料分散剤を含有させる場合の含有量としては、インク組成物中の色材の含有量に対して、5質量%以上200質量%以下、好ましくは30質量%以上120質量%以下であり、分散すべき色材によって適宜選択するとよい。
【0122】
また、本実施形態のインク組成物は、水溶性ロジンなどの定着剤、安息香酸ナトリウムなどの防黴剤・防腐剤、アロハネート類などの酸化防止剤、湿潤剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、防腐剤、防かび剤などの添加剤を含有させることができる。これらの添加剤は、1種単独で用いることができ、2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0123】
1.5.インク組成物の用途および物性
本実施形態のインク組成物の用途は、特に限定されるものではなく、筆記具、スタンプ、記録計、ペンプロッター、インクジェット記録装置等に適用することができる。
【0124】
例えば用途が、インクジェット記録方式の印刷である場合、インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは2mPa・s以上10mPa・s以下であり、より好ましくは3mPa・s以上5mPa・s以下である。インク組成物の20℃における粘度が前記範囲内にあると、ノズルからインク組成物が適量吐出され、インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。
【0125】
本実施形態のインク組成物は、インクジェット記録装置によって、記録媒体に対して吐出され、塗布されることができる。そして、本実施形態のインク組成物は、上述の銀粒子を含んでいる。そのため、インクジェット記録方法によって、塗布されたときに、その塗膜に良好な金属光沢を発現させることができる。
【0126】
また、本実施形態のインク組成物は、含有される銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90が50nm以上1μm以下であるため、銀粒子の分散性が良好で保存安定性に優れている。また、本実施形態のインク組成物は、上述の白色顔料を含んでいる。そのため、インクジェット記録方法によって、塗布されたときに、その塗膜の金属光沢の着色を抑制することができる。すなわち、銀粒子が粉体であることによって生じる黒色ないし褐色の色合いを、白色顔料によって抑え、より白色度の強い(着色の少ない)金属光沢を発現させることができる。
【0127】
なお、インク組成物によって、記録媒体に形成された画像の光沢度は、日本工業規格(JIS)Z8741:1997「鏡面光沢度−測定方法」の方法に従って評価することができる。光沢度は、例えば、画像の形成された面に対して、例えば、20°、45°、60°、75°および85°の入射角で光を入射させ、その反射角の方向に光検出器を設置して光の強度を測定した結果に基づいて算出されることができる。このような測定が可能な装置としては、例えば、コニカミノルタ株式会社製MULTI GLOSS 268、日本電色工業株式会社製GlossMeter型番VGP5000などがある。
【0128】
また、インク組成物によって、記録媒体に形成された画像の白色度は、例えば、画像のL*値を用いて評価することができる。画像のL*値は、例えば、「938 Spectrodensitometer」(X−rite社製)等の市販の分光装置を用いて測定することができる。
【0129】
2.記録方法
本実施形態の記録方法は、インクジェット式記録ヘッドによって、上述のインク組成物を吐出させ、記録媒体に付着させることを含む。以下では、インクジェット記録装置を用いて、記録媒体上にインク組成物を吐出し、記録媒体上に付着させてドット群を形成する記録方法の一例を示す。
【0130】
2.1.インクジェット式記録ヘッド
インクジェット式記録ヘッドの方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏光電極に与えて記録する方式またはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式(静電吸引方式)、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式(ピエゾ方式)、インク液を印刷情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。本実施形態の記録方法は、上記いずれのインクジェット式記録ヘッドを用いてもよい。
【0131】
本実施形態で用いるインクジェット記録装置としては、上記のインクジェット式記録ヘッド、本体、トレイ、ヘッド駆動機構、キャリッジなどを備えたものを例示できる。インクジェット式記録ヘッドには、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの少なくとも4色のインクセットを収容するインクカートリッジを備えて、フルカラー印刷ができるように構成されてもよい。本実施形態では、これらのインクカートリッジの少なくとも1つ、あるいはさらに専用のカートリッジを設けて、上述のインク組成物を充填し設置する。また、それ以外のカートリッジには、通常のインクなどが充填されてもよい。インクジェット記録装置は、内部に専用のコントロールボード等を備えており、インクジェット式記録ヘッドのインクの吐出タイミングおよびヘッド駆動機構の走査を制御することができる。
【0132】
2.2.記録媒体
本実施形態の記録方法でインク組成物が付着される記録媒体の種類は、特に限定されない。本実施形態の記録方法に用いられる記録媒体としては、例えば、紙、多孔性フィルム、布等の吸収性記録媒体が挙げられ、またプラスチック等のインク吸収性を有さない基材を有する記録媒体であってもよい。
【0133】
記録媒体は、グロス系、マット系、ダル系のいずれであってもよい。記録媒体の具体例としては、例えば、コート紙、アート紙、キャストコート紙等の表面加工紙、および、インク受容層などが形成された塩化ビニルシートやPETフィルム等のプラスチックフィルムなどを挙げることができる。
【0134】
本実施形態の記録方法によれば、上述のインク組成物を用いているため、記録媒体上に良好な金属光沢を有するとともに、着色の少ない(白色度の良好な)画像を記録することができる。本実施形態の記録方法において、銀粒子の粒径加積曲線における粒径d10を2nm以上20nm以下として、銀粒子が分散コロイドとして分散されているようにすることもできる。このようにすれば、銀粒子の分散性がさらに良好となるとともに、画像の金属光沢度を十分に高くすることができる。また、インク組成物に含有される白色顔料の粒径加積曲線における粒径d50を100nm以上2μm以下とすれば、白色顔料の含有量を低減できるとともに、白色度と金属光沢のバランスに優れた画像を記録することができる。
【0135】
3.実施例および比較例
以下、実施例および比較例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0136】
3.1.インク組成物
3.1.1.銀粒子水分散液
実施例および比較例のインク組成物に用いる銀粒子水分散液は、上記実施形態の「1.1.2.1.第1の手法」に従って、以下のように調製した。まず、ポリビニルピロリドンをプロピレングリコールに溶解して第1溶液を得た。次に、銀前駆体である硝酸銀を、プロピレングリコールに溶解して第2溶液を得た。次に、第1溶液と第2溶液とを120℃で90分間、混合して銀前駆体を還元させ、生成した銀粒子の表面にポリビニルピロリドンを吸着させた。そして形成された銀粒子(銀コロイド粒子)を遠心分離によって分離し、分離した銀粒子を水に固形分濃度が20質量%となるように分散させた。以上のようにして、銀粒子水分散液を調製した。
【0137】
日機装株式会社製、型式ナノトラックUPA−EX−150型粒径測定機を用いて、動的光散乱法により、銀粒子の粒径d10、粒径d50および粒径d90を求めた結果、銀粒子水分散液における銀粒子の粒径d10は、10nm(2nm以上20nm以下の範囲にある。)、粒径d50は20nmであり、粒径d90は80nm(50nm以上1μm以下の範囲にある。)であった。
【0138】
3.1.2.白色顔料
各実施例および各比較例の白色顔料は、シーアイ化成株式会社から入手した、NanoTek(登録商標)Slurry(一次平均粒子径が、100nmの二酸化チタン粒子の水分散液(固形分濃度:10質量%))を用いた。なお、NanoTek(登録商標)Slurryについて動的光散乱法によって粒径d50を確認したところ、100nmの値を得た。
【0139】
3.1.3.インク組成物
各実施例および各比較例に用いたインク組成物は、上記銀粒子水分散液、および白色顔料スラリーを用いて調製した。具体的には、上記の銀粒子水分散液を用意し、表1に記載した配合となるように、白色顔料スラリー、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール、界面活性剤(BYK−348:ビックケミー・ジャパン株式会社製)、およびイオン交換水を混合し、十分に攪拌して調製した。ここで、表1中、銀粒子および二酸化チタンの含有量については、水を除く固形分の量を記載した。また、各実施例および各比較例のインク組成物における銀粒子の含有量に対する白色顔料の含有量の比率(%)についても表1に併記した。
【0140】
また、各実施例および各比較例のインク組成物中の銀粒子の粒径加積曲線を電子顕微鏡法を用いて測定した。このとき、銀粒子と白色顔料を区別するために、EDX法を併用した。電子顕微鏡法およびEDX法に用いた装置は、走査型電子顕微鏡(S−4700:株式会社日立製作所製)にEDX分析装置(EMAX−W:株式会社堀場製作所製)を搭載したものである。粒径加積曲線は、各インク組成物ごとに200個ずつランダムに銀粒子を選択してこれを画像処理して求めた。その結果は、粒径d10が約10nm、粒径d90が約80nmであって、銀粒子水分散液において動的光散乱法により求めた粒径d10および粒径d90とよく一致した。
【0141】
また、各実施例および各比較例のインク組成物中の銀粒子および白色顔料の粒径加積曲線は、遠心法によっても確認した。具体的には、長さ10cmの遠心チューブに各インク組成物をそれぞれ充填し、1000rpmで5時間遠心を行った後、チューブ上部の1cmの範囲と、チューブ下部の1cmの範囲を採取した。そして採取した分散体を、動的光散乱法により測定して、銀粒子および白色顔料の粒径加積曲線をそれぞれ求めた。その結果、銀粒子の粒径d10が約10nm、粒径d90が約80nmであって、白色顔料の粒径d50は100nmという値を得た。
【0142】
【表1】

【0143】
3.2.評価試料の作成
各実施例および各比較例の記録物は、インクジェット記録装置として、インクジェットプリンター型式PX−G930(セイコーエプソン株式会社製)を用いて作成した。各実施例および各比較例のインク組成物を、該プリンターの専用カートリッジのブラックインク室に充填し、これをプリンターに装着して印刷することによって作製した。記録媒体は写真用紙<光沢>(セイコーエプソン株式会社より入手)を用いた。
【0144】
いずれの試料においても、印刷条件として、用紙選択を写真用紙光沢に設定し、色補正なし、フォト−1440dpi、単方向印刷に設定して印刷した。画像は、dutyが20%から100%まで、20%ずつ変化させたものとし、各実施例および比較例について、各dutyにおける評価を行うことができるようにした。
【0145】
3.3.評価方法
得られた各実施例および各比較例の試料につき、光沢度および白色度を評価した。
【0146】
光沢度は、コニカミノルタ社製、MULTI GLOSS 268型光沢計を用いて、入射角20°および60°の光沢度を測定した。表1には、入射角20°および60°でduty20%、40%、60%、80%および100%での測定結果を記載した。光沢性の評価は、duty100%での入射角60°における光沢度が、500以上であればAとし、300以上500未満であればBとし、200以上300未満であればCとし、200未満であればDとして、表1に記載した。また、duty100%での入射角20°における光沢度が、700以上であればAとし、400以上700未満であればBとし、200以上400未満であればCとし、200未満であればDとして、表1に記載した。
【0147】
白色度は、「938 Spectrodensitometer」(X−rite社製)を用いて測定した。光源はD50とし、duty20%、40%、60%、80%および100%における明度(L*)を白色度の指標とした。白色度の評価基準は、duty100%でのL*が30以上であるものをA、L*が20以上30未満のものをB、L*が15以上20未満のものをC、L*が15未満のものをDとして、表1に記載した。
【0148】
また、白色度と光沢度のバランスを評価するために、各dutyにおいて、L*値の上昇率および60°光沢度の積「(L*値上昇率)×(60°光沢低下率)」の値を求めた。L*値の上昇率および60°光沢度の低下率の基準は、二酸化チタン粒子を含まない比較例1を用いた。すなわち、「(L*値上昇率)×(60°光沢低下率)」は、比較例1を基準としたときの白色度および光沢度のバランスの向上の度合いを示すことになる。
【0149】
「(L*値上昇率)×(60°光沢低下率)」の評価基準は、各dutyにおける最大値が1.3以上であるものをAとし、各dutyにおける最大値が1.1以上1.3未満であるものをBとし、各dutyにおける最大値が1以上1.1未満であるものをCとし、1.0未満であるものをDとした。
【0150】
3.4.評価結果
表1をみると、銀粒子の含有量に対する二酸化チタンの含有量が1%以上10%以下のインク組成物を用いた各実施例の試料は、白色度および光沢度ともに優れていた。一方、白色顔料を含有しない比較例1の試料は、白色度が不十分となっていた。また、銀粒子の含有量に対する二酸化チタンの含有量が35%のインク組成物を用いた比較例2の試料は、白色度は良好であったが、光沢度が不十分で、白色度および光沢度のバランスにおいても劣っていた。
【0151】
これらの結果から、銀粒子の含有量に対する二酸化チタンの含有量が1%以上10%以下のインク組成物によれば、光沢性および白色度を両立させることができることが判明した。すなわち、銀粒子の含有量に対する二酸化チタンの含有量が1%以上10%以下のインク組成物によれば、着色の少ない(白色度の良好な)金属光沢を有する画像を形成できることが判明した。
【0152】
一方、各実施例および各比較例におけるL*値のduty依存性を調べた。図1は、各実施例および各比較例の試料において、dutyに対して、L*値をプロットしたグラフである。図1をみると、実施例2および実施例3のインク組成物では、dutyが20%程度から、酸化チタンの効果の一つである白色度の向上(着色の低減)効果が顕著に発現することが判明した。また、実施例1のインク組成物では、広いdutyの範囲において、比較例1よりも白色度が向上していることが判明した。
【0153】
さらに、各実施例および各比較例における60°光沢度のduty依存性を調べた。図2は、各実施例および各比較例の試料において、dutyに対して、60°光沢度をプロットしたグラフである。図2をみると、実施例2および実施例3のインク組成物において、dutyが20%程度から、銀粒子の効果の一つである光沢度が顕著に発現していることが判明した。実施例1のインク組成物では、比較例1に近い良好な60°光沢度を有していることが判明した。
【0154】
同様に、各実施例および各比較例における20°光沢度のduty依存性を調べた。図3は、各実施例および各比較例の試料において、dutyに対して、20°光沢度をプロットしたグラフである。図3をみると、実施例2および実施例3のインク組成物において、dutyが20%程度から、銀粒子の効果の一つである光沢度が顕著に発現していることが判明した。また、実施例1のインク組成物では、比較例1に近い良好な20°光沢度を有していることが判明した。
【0155】
また、表1に示した(L*値上昇率)×(60°光沢低下率)は、比較例1を基準としており、比較例1および比較例2は、いずれも白色度および光沢度のバランスが不十分である例である。実施例1のインク組成物は、高いdutyの範囲においては、比較例1のインク組成物に比較的近い白色度および光沢度を有することがわかるが、一方、表1をみると、実施例1の試料は、duty20%、40%において、(L*値上昇率)×(60°光沢低下率)の値が特に良好であることがわかる。すなわち、銀粒子の含有量に対する二酸化チタンの含有量を1%程度とすることにより、低いdutyにおける白色度と光沢度のバランスにおいて顕著な効果を奏することが判明した。低いdutyの画像を形成する場合に実施例1のインク組成物は、実用的で優れた効果を有していることが判明した。
【0156】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子、白色顔料および水を含み、
前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90が50nm以上1μm以下であり、
前記銀粒子が前記水に分散された構造を含み、
前記白色顔料の含有量は、前記銀粒子の含有量に対して、1%以上10%以下であることを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d10が2nm以上20nm以下であり、
前記銀粒子が分散コロイドとして前記水に分散された構造を有することを特徴とするインク組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記白色顔料の粒径加積曲線における粒径d50が100nm以上2μm以下であることを特徴とするインク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記水の含有量が50質量%95質量%以下であることを特徴とするインク組成物。
【請求項5】
銀粒子、白色顔料および水を含み、前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90が50nm以上1μm以下であり、前記銀粒子が前記水に分散された構造を含み、前記白色顔料の含有量が前記銀粒子の含有量に対して、1%以上10%以下であるインク組成物を、インクジェット記録装置を用いて吐出して、記録媒体上に付着させて画像を記録することを特徴とする記録方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d10が2nm以上20nm以下であり、
前記銀粒子が分散コロイドとして前記水に分散された構造を有することを特徴とする記録方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、
前記白色顔料の粒径加積曲線における粒径d50が100nm以上2μm以下であることを特徴とする記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−241239(P2011−241239A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111821(P2010−111821)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】