説明

インク組成物及びこれを用いたインクジェット記録方法、記録物

【課題】吸水性の低い用紙においてカール、コックリングを抑制し、光沢ムラの改善されたインク組成物及びこれを用いた記録方法、記録物を提供すること。
【解決手段】少なくとも、ポリマー微粒子、保湿剤及びインク全量中60重量%〜10重量%の水を含み、かつ着色剤を含まないクリアインク組成物であって、保湿剤が、下記(A)及び(B)の化合物が混合されたものであって、その含有量の重量比が(A):(B)=1:1〜2であるインク組成物。(A)グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンからから選ばれる化合物。(B)ベタイン類、糖類、尿素類の化合物であって、かつ分子量が100〜200の範囲にある化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインク組成物、及びこれを用いた記録方法、記録物に関する。さらに詳しくは、光沢ムラの少ない高品質な画像を得ることのできるインク組成物であって、吸水性の低い用紙でカール、コックリングを抑制し、インク組成物の温度による粘度特性に優れたインク組成物、インクジェット記録方法及び記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、インクジェットヘッドからインクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に着弾させて印刷を行う記録方法である。近年のインクジェット記録技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット印刷の分野であった高精細な画像記録(印刷)にもインクジェット記録方法を用いられるようになってきている。
【0003】
近年、光沢を有するインクジェット専用紙において、このようなインクジェット記録方法により、耐候性に優れ且つ光沢ムラが大幅に低減された記録物を容易に提供することを目的として、顔料インク(カラーインク)組成物と、樹脂成分を含むクリアインク組成物とを吐出して記録媒体に記録する方法が行われている(特許文献1参照)。
【0004】
高吸水性のインクジェット専用紙によれば、高品質の画像を実現することができる。しかしながら、インクを吸収させるための吸収層を厚く設けないと吸収量が少なくなってしまうため、インク吸収層の塗工量が多くなる。しかも、吸収層を透明にするために微粉末シリカやアルミナなどを原料として使用するため、コストも高くなっていた。このコスト高が、ユーザーの用途を狭める障壁になっていた。
【0005】
更に安価な用紙として、印刷用コート紙(塗工紙、印刷本紙ともいう)がある。塗工紙は、原紙の両面又は片面に印刷適性の改良を目的として、塗料の一種である塗工カラーを塗布した複合シートであり、専ら印刷用紙としての用途に供されている。塗工紙は、高粘度の印刷インクを使用する記録方法に使用され、吸水性を要求されない。そのため、定着性や発色性が良好になるような最適化が行われており、インクジェット専用紙のような厚い吸収層や透明性の高い高級な微粒子も必要とされない。しかも、年間数百万トンという旺盛な需要に支えられて、量産設備も整い、高品質な塗工紙が極めて安く供給されている。
【0006】
塗工紙は、吸水性が前記のインクジェット専用紙よりも低いため、インクジェット記録方法の記録媒体としては、不適当であると考えられていた。しかしながら、塗工紙の画像品質は極めて高水準であるため、これをインクジェット記録方法の記録媒体として用いる技術も提案されている(特許文献2)。
【0007】
塗工紙は吸水性に乏しいことから、従来のインク組成物を用いて塗工紙に印刷すると、インクを吐出した後に塗工紙が波を打ったようなしわが生じる、いわゆる「コックリング」や、塗工紙そのものが反り返る、いわゆる「カール」などの現象が生じるという問題があった。
【0008】
また、クリアインクを用いたインクセットでは、クリアインクに着色剤が含まれないことにより、クリアインクとその他の各インクの粘度を合わせるために、クリアインクの保湿剤の含有量がカラーインクよりも多くなる傾向にある。その保湿剤の含有量の違いから、インクの低温度(たとえば10℃)での粘度が増加しやすく、逆に高温度(たとえば40℃)での粘度が低減しやすいという問題が発生する。結果として温度によって、同一インクジェットヘッドからインクを吐出する際に、カラーインクとクリアインクの吐出重量のばらつきを生むことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3978666号公報
【特許文献2】特開2007−277342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、光沢ムラのない高品質な画像を得ることのできるインク組成物であって、インク吸水性の乏しい用紙でカール、コックリングを抑制し、インク組成物の温度による粘度特性に優れたインク組成物及びこれを用いた記録方法、記録物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討の結果、少なくとも、ポリマー微粒子、所定の保湿剤及びインク全量中60重量%〜10重量%の水を含み、かつ着色剤を含まないクリアインク組成物を用いることによって、光沢ムラのない高品質な画像を得ることができ、吸水性の低い用紙においてカール、コックリングが抑制され、温度による粘度特性に優れたインク組成物を実現できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明は、かかる知見に基づくものであり、本発明の構成は以下の通りである。
(1)少なくともポリマー微粒子、保湿剤及びインク全量中60重量%〜10重量%の水を含み、かつ着色剤を含まないクリアインク組成物であって、前記保湿剤が、下記(A)及び(B)の化合物が混合されたものであって、その含有量の重量比が(A):(B)=1:1〜2であるインク組成物。
(A)グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンから選ばれる少なくとも1種の化合物。
(B)ベタイン類、糖類、尿素類の化合物であって、かつ分子量が100〜200の範囲にある少なくとも1種の化合物。
(2)前記ポリマー微粒子が、(a)塩生成基含有モノマーと、(b)マクロマー及び/又は(c)疎水性モノマーを含むモノマー混合物を共重合させてなる水不溶性ポリマー粒子である(1)に記載のインク組成物。
(3)前記ポリマー微粒子が、更に水不溶性有機化合物を含んでなる(1)又は(2)に記載のインク組成物。
(4)前記クリアインク組成物の20℃における粘度値が5mPa・s〜20mPa・sである(1)〜(3)のいずれかに記載のインク組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
(6)(5)に記載の記録方法によって記録が行われた記録物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のインク組成物を、その好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
本実施形態のクリアインク組成物は、安全性、取り扱い上の観点から、インクの主溶媒が水である水性インクであることが好ましく、水はイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水又は超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインクの長期保存を可能にする点で好ましい。インクの適正な物性値(粘度等)の確保、インクの安定性、信頼性の確保という観点で、インク中に60重量%〜10重量%含まれることが好ましい。
【0014】
インク組成物に含まれる水の含有量を上記の範囲に規定することにより、インクの吸水性の乏しい用紙に吸収される水分量が従来のインク組成物よりも少なくなる結果、コックリングやカールを抑制することができる。
【0015】
また、本実施形態において、「インク吸収性の乏しい用紙」とは、ブリストー法において接触開始から30msec1/2以内の水吸収量が30ml/m2以下である紙支持体の吸収層を有する記録媒体をいう。また、本実施形態においては、従来から、凸版印刷、平板印刷(例えば、オフセット印刷)、又は凹版印刷(例えば、グラビア印刷)の印刷用紙として使用されている任意の塗工紙(印刷本紙ともいう)を用いることができる。この塗工紙には、普通塗工紙、キャスト塗工紙、及びつや消し塗工紙が含まれる。また、JIS P 0001 番号6122で定義されている印刷本紙、JIS P 0001 番号6059で定義されているOKトップコート紙なども含まれる。
【0016】
水分含有量が10重量%未満の場合は、記録媒体への定着性が低下する場合がある。一方、水分含有量が60重量%を超える場合は、従来の水性インク組成物と同様、インク吸収性が乏しい用紙に対して印刷する際に、コックリングやカールが発生しやすい。
【0017】
本明細書において光沢ムラとは、顔料インクを光沢系の記録媒体に印字したときにおいて、ある単位面積あたりの顔料インクの打ち込み量が多い部分と、少ない部分での光沢度の差が大きく、目視で違和感がある状態をいう。実際的には、前記カラーインク組成物及び/又は前記クリアインク組成物で形成される印刷画像の、20°鏡面光沢度の差が大きい状態をいう。20°鏡面光沢度は光沢計によって測定される。
【0018】
また、本明細書においてインクの打ち込み量とは、(単位面積当たりに打たれるドットの数)×(1ドット当たりの重量)で規定する。
【0019】
本実施形態に用いられるクリアインク組成物は、水中に水溶性樹脂を溶解した状態で樹脂成分を含有するか、あるいは水中にポリマー微粒子の状態で樹脂成分を含有することができる。樹脂成分は透明ポリマー微粒子であることが好ましい。
【0020】
前記透明ポリマー微粒子としては、クリアインク組成物の吐出直後に透明皮膜を形成することのできるポリマー微粒子であれば特に限定させない。なお、分子中に不飽和二重結合及び/又は不飽和三重結合を有するポリマー微粒子や、反応性に富む置換基を有するポリマー微粒子は、耐光性の点で好ましくない。本実施形態で用いられる透明ポリマー微粒子としては、例えば、アクリル酸(又はメタクリル酸)あるいはその誘導体(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸、又はメタアクリル酸メチル等)の重合体若しくは共重合体であるアクリル酸系ポリマー、あるいはウレタン、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−ビニルアセテート(EVA)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等のゴム系ポリマー、でんぷん、変性でんぷん、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白などの天然高分子化合物、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等のセルロース変性ポリマー、あるいはポリビニルアルコール(PVA)、変性PVA、ポリアクリルアミド、ポリエチレン、ポリアセタール樹脂、グアーガム、ポリエステル、ポリビニルピロリドン、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらのうち、光沢ムラの観点から(a)塩生成基含有モノマーと、(b)マクロマー及び/又は(c)疎水性モノマーを含むモノマー混合物を共重合させてなる水不溶性ポリマー微粒子であることが好ましい。
【0021】
カラーインク及びクリアインクに用いられるポリマー微粒子は、(a)塩生成基含有モノマーと、(b)マクロマー及び/又は(c)疎水性モノマーを含むモノマー混合物を共重合させてなる水不溶性ポリマー微粒子である。この水不溶性ポリマーは、(a)成分由来の構成単位と、(b)成分由来の構成単位及び/又は(c)成分由来の構成単位を有する。
【0022】
本実施形態において、ポリマー微粒子は、後述する水不溶性有機化合物を含有しやすくし、これとの相互作用により、印字濃度、光沢性、写像性を向上させるために用いられる。
【0023】
(a)の塩生成基含有モノマーは、得られる分散体の分散安定性を高める観点から用いられる。塩生成基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基、アンモニウム基等が挙げられる。
【0024】
塩生成基含有モノマーとしては、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー等が挙げられる。その例として、特開平9−286939号公報5頁7欄24行〜8欄29行に記載されているもの等が挙げられる。
【0025】
カチオン性モノマーの代表例としては、不飽和アミン含有モノマー、不飽和アンモニウム塩含有モノマー等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−(N’,N’−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンが好ましい。
【0026】
アニオン性モノマーの代表例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0027】
不飽和カルボン酸モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとしては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとしては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0028】
上記アニオン性モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0029】
(b)のマクロマーは、特にポリマー微粒子が着色剤を含有した場合に、ポリマー微粒子の分散安定性を高める観点から用いられる。マクロマーとしては、数平均分子量500〜100,000、好ましくは1,000〜10,000の重合可能な不飽和基を有するモノマーであるマクロマーが挙げられる。なお、(b)マクロマーの数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミン含有クロロホルムを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0030】
(b)マクロマーの中では、ポリマー微粒子の分散安定性等の観点から、片末端に重合性官能基を有する、スチレン系マクロマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーが好ましい。
【0031】
スチレン系マクロマーとしては、スチレン系モノマー単独重合体、又はスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、クロロスチレン等が挙げられる。
【0032】
芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマーとしては、芳香族基含有(メタ)アクリレートの単独重合体又はそれと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数7〜22、好ましくは炭素数7〜18、更に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基、又は、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜18、更に好ましくは炭素数6〜12のアリール基を有する(メタ)アクリレートであり、ヘテロ原子を含む置換基としては、ハロゲン原子、エステル基、エーテル基、ヒドロキシ基等が挙げられる。例えばベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート等が挙げられ、特にベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0033】
また、それらのマクロマーの片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、共重合される他のモノマーとしては、アクリロニトリル等が好ましい。
【0034】
スチレン系マクロマー中におけるスチレン系モノマー、又は芳香族基含有(メタ)アクリレート系マクロマー中における芳香族基含有(メタ)アクリレートの含有量は、顔料との親和性を高める観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。
【0035】
(b)成分として商業的に入手しうるスチレン系マクロマーとしては、例えば、東亜合成株式会社の商品名、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)等が挙げられる。
【0036】
(c)疎水性モノマーは、印字濃度、光沢性、写像性の向上の観点から用いられる。疎水性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー等が挙げられる。
【0037】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数1〜22、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、(イソ)アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート、(イソ)デシル(メタ)アクリレート、(イソ)ドデシル(メタ)アクリレート、(イソ)ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
なお、本明細書において、「(イソ又はターシャリー)」及び「(イソ)」は、これらの基が存在する場合としない場合の双方を意味し、これらの基が存在しない場合には、ノルマルを示す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート又はそれらの両方を示す。
【0039】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6〜22、好ましくは炭素数6〜12の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、例えば、前記のスチレン系モノマー(a−1成分)、前記の芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2成分)が挙げられる。ヘテロ原子を含む置換基としては、前記のものが挙げられる。
【0040】
(c)成分の中では、光沢性、印字濃度向上の観点から、スチレン系モノマー(c−1成分)が好ましく、スチレン系モノマーとして、前記のものが挙げられ、特にスチレン及び2−メチルスチレンが好ましい。(c)成分中の(c−1)成分の含有量は、印字濃度及び光沢性向上の観点から、好ましくは10重量〜100重量%、より好ましくは20重量〜80重量%である。
【0041】
また、芳香族基含有(メタ)アクリレート(c−2)成分として、前記のものが挙げられ、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が好ましい。(c)成分中の(c−2)成分の含有量は、光沢性の向上の観点から、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜80重量%である。また、(c−1)成分と(c−2)成分を併用することも好ましい。
【0042】
モノマー混合物には、更に、(d)水酸基含有モノマー(以下「(d)成分」ということがある)が含有されていてもよい。(d)水酸基含有モノマーは、分散安定性を高めるという優れた効果を発現させるものである。
【0043】
(d)成分としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。以下同じ。)(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール(n=1〜15)・プロピレングリコール(n=1〜15))(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートが好ましい。
【0044】
モノマー混合物には、更に、(e)下記式(1)で表されるモノマー(以下「(e)成分」ということがある)が含有されていてもよい。
CH2=C(R7)COO(R8O)p9 (1)
(式中、R7は、水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基、R8は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の2価の炭化水素基、R9は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1〜30の1価の炭化水素基、pは、平均付加モル数を意味し、1〜60の数、好ましくは1〜30の数を示す。)
【0045】
(e)成分は、インクの印字濃度、光沢性、写像性が向上するという優れた効果を発現する。
式(1)において、ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子及び硫黄原子が挙げられる。
【0046】
7の好適例としては、メチル基、エチル基、(イソ)プロピル基等が挙げられる。
8O基の好適例としては、オキシエチレン基、オキシ(イソ)プロピレン基、オキシテトラメチレン基、オキシヘプタメチレン基、オキシヘキサメチレン基及びこれらオキシアルキレンの2種以上の組合せからなる炭素数2〜7のオキシアルキレン基が挙げられる。
9の好適例としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、芳香族環を有する炭素数7〜30のアルキル基及びヘテロ環を有する炭素数4〜30のアルキル基が挙げられる。
【0047】
(e)成分の具体例としては、メトキシポリエチレングリコール(1〜30:式(1)中のpの値を示す。以下、同じ)(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテル、(イソ)プロポキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(1〜30、その中のエチレングリコール:1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、オクトキシポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1〜30)(メタ)アクリレート2−エチルヘキシルエーテルが好ましい。
【0048】
商業的に入手しうる(d)、(e)成分の具体例としては、新中村化学工業株式会社の多官能性アクリレートモノマー(NKエステル)M−40G、同90G、同230G、日本油脂株式会社のブレンマー(登録商標)シリーズ、PE−90、同200、同350、PME−100、同200、同400、同1000、PP−500、同800、同1000、AP−150、同400、同550、同800、50PEP−300、50POEP−800B等が挙げられる。
【0049】
上記(a)〜(e)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
水不溶性ポリマー製造時における、上記(a)〜(e)成分のモノマー混合物中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は水不溶性ポリマー中における(a)〜(e)成分に由来する構成単位の含有量は、次のとおりである。
【0051】
(a)成分の含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは2重量%〜40重量%、より好ましくは2重量v〜30重量%、特に好ましくは3重量%〜20重量%である。
【0052】
(b)成分の含有量は、特に着色剤との相互作用を高める観点から、好ましくは1重量%〜25重量%、より好ましくは5重量%〜20重量%である。
【0053】
(c)成分の含有量は、光沢性及び写像性の観点から、好ましくは5重量%〜98重量%、より好ましくは10重量%〜60重量%である。
【0054】
水不溶性ポリマー中の(a)、(b)、(c)成分の重量比(a)/[(b)+(c)])は、光沢性及び写像性の観点から、好ましくは0.01〜1、より好ましくは0.02〜0.67、更に好ましくは0.03〜0.50である。
【0055】
(d)成分の含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは5重量%〜40重量%、より好ましくは7重量%〜20重量%である。
【0056】
(e)成分の含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは5重量%〜50重量%、より好ましくは10重量%〜40重量%である。
【0057】
モノマー混合物中における〔(a)成分+(d)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは6重量%〜60重量%、より好ましくは10重量%〜50重量%である。〔(a)成分+(e)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは6重量%〜75重量%、より好ましくは13重量%〜50重量%である。また、〔(a)成分+(b)成分+(c)成分〕の合計含有量は、得られる分散体の分散安定性の観点から、好ましくは6重量%〜60重量%、より好ましくは7重量%〜50重量%である。
【0058】
(ポリマーの製造)
本実施形態で用いられるポリマーは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、モノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
【0059】
溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1〜3の脂肪族アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましい。
【0060】
重合の際には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。重合の際には、更に、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0061】
モノマー混合物の重合条件は、使用するラジカル重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30℃〜100℃、より好ましくは50℃〜80℃であり、重合時間は、好ましくは1時間〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0062】
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去したりして精製することができる。
【0063】
上記により得られるポリマーの重量平均分子量は、着色剤の分散安定性、耐水性及び吐出性の観点から、5,000〜500,000が好ましく、10,000〜400,000が更に好ましく、10,000〜300,000が特に好ましい。
【0064】
なお、ポリマーの重量平均分子量は、溶媒として、60mmol/Lのリン酸と50mmol/Lのリチウムブロマイドを含有したジメチルホルムアミドを用いたゲルクロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
【0065】
本発明で用いられる水不溶性ポリマーは、(a)塩生成基含有モノマー由来の塩生成基を有している場合は中和剤により中和して用いる。中和剤としては、ポリマー中の塩生成基の種類に応じて、酸又は塩基を使用することができる。例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸、硫酸、乳酸、コハク酸、グリコール酸、グルコン酸、グリセリン酸等の等の酸、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン等の塩基が挙げられる。
【0066】
塩生成基の中和度は、10%〜200%であることが好ましく、更に20%〜150%、特に50%〜150%であることが好ましい。
【0067】
ここで中和度は、塩生成基がアニオン性基である場合、下記式によって求めることができる。
{[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーの酸価(KOHmg/g)×ポリマーの重量(g)/(56×1000)]}×100
塩生成基がカチオン性基である場合、中和度は下記式によって求めることができる。
[[中和剤の重量(g)/中和剤の当量]/[ポリマーのアミン価(HCLmg/g)×ポリマーの重量(g)/(36.5×1000)]]×100
【0068】
酸価やアミン価は、ポリマーの構成単位から、計算で算出することができる。又は、適当な溶剤(例えばメチルエチルケトン)にポリマーを溶解して、滴定する方法でも求めることができる。
【0069】
前記クリアインク組成物は、前記透明ポリマー微粒子をエマルジョンとして含有することもできる。また、前記クリアインク組成物は、併用する樹脂成分含有インク組成物において顔料分散樹脂として使用する分散樹脂を含有することもできる。その分散樹脂としては、顔料表面に吸着して顔料粒子を水に分散する形態をとる樹脂や、顔料表面を覆い、顔料粒子をカプセル化した状態で水に分散する形態をとる樹脂などのように顔料粒子を水に安定に分散することのできる樹脂であれば特に限定されず、分散形態、水溶性樹脂、又は非水溶性樹脂に関係なくクリアインク組成物に含有することができる。
【0070】
本実施形態におけるクリアインク組成物には、ポリマー粒粒子の柔軟性を改良し、記録物の光沢性を向上させる観点から更に水不溶性有機化合物を用いてもよい。水不溶性有機化合物がポリマー微粒子の柔軟性を改良することで、インクジェット記録装置のノズルから吐出された該ポリマー微粒子同士の融着性が高まり、該ポリマー微粒子が記録紙上に均一に拡散して、印字面が平滑になることにより、印字物の光沢性、写像性が向上すると考えられる。
【0071】
水不溶性有機化合物は、水系インクの光沢性、写像性の向上の観点から、分子量100〜2,000のものが好ましく、分子量100〜1,500のものがより好ましい。
【0072】
水100gに対する水不溶性有機化合物の溶解量(20℃)は好ましくは5g以下、より好ましくは3g以下、更に好ましくは1g以下、特に好ましくは0.5g以下である。
【0073】
水不溶性有機化合物は、ポリマー微粒子に含有させ易くするため、エステル化合物、エーテル化合物、又はスルホン酸アミド化合物であることが好ましく、具体的には、(1)脂肪族カルボン酸エステル、(2)芳香族カルボン酸エステル、(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステル、(4)リン酸エステル、(5)オキシ酸エステル、(6)グリコールエステル、(7)エポキシ系エステル、(8)スルホンアミド、(9)ポリエステル、(10)グリセリルアルキルエーテル、(11)グリセリルアルキルエステル、(12)グリコールアルキルエーテル等が挙げられる。
【0074】
これらの中では、光沢性、及び写像性向上の観点から、前記(1)〜(5)、(8)及び(10)の化合物が好ましく、(1)脂肪族カルボン酸エステル、(2)芳香族カルボン酸エステル、(3)シクロアルカン(ケン)カルボン酸エステル及び(4)リン酸エステルからなる群より選ばれる1種以上であることがより好ましく、脂肪族ジカルボン酸エステル、芳香族ジ又はトリカルボン酸エステル、シクロアルカン(ケン)ジカルボン酸エステル、及びリン酸エステルからなる群より選ばれる1種以上であることが特に好ましい。
【0075】
本実施形態において用いられる保湿剤は、カール、コックリング適性、目詰まり適性、インクの温度による粘度特性のバランスを適正に保つという観点から、
(A)グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンから選ばれる少なくとも1種の化合物。
(B)ベタイン類、糖類、尿素類の化合物であって、かつ分子量が100〜200の範囲にある少なくとも1種の化合物。
の混合物であって、その含有量の重量比が(A):(B)=1:1〜2であることが好ましい。
【0076】
(A)の群から選ばれる保湿剤は、インクの保存性、目詰まりに対して効果があるが、その物質のもつ10℃〜40℃での粘度差が大きいという特性のため、インク中の含有量が増えるに従って、温度による粘度特性に大きく影響し、インクも10℃〜40℃での粘度差が大きくなる。
【0077】
(B)の群から選ばれる保湿剤は、カール抑制効果に優れると共に、温度による粘度特性に優れる物質である。具体的には、グリシンベタイン(分子量117)、γ−ブチロベタイン(同145)、ホマリン(同137)、トリゴネリン(同137)、カルニチン(同161)、ホモセリンベタイン(同161)、バリンベタイン(同159)、リジンベタイン(同188)、オルニチンベタイン(同176)、アラニンベタイン(同117)、スタキドリン(同185)、グルタミン酸ベタイン(同189)等のアミノ酸のN−トリアルキル置換体であるベタイン類、グルコース(同180)、マンノース(同180)、フルクトース(同180)、リボース(同150)、キシロース(同150)、アラビノース(同150)、ガラクトース(同180)、ソルビトール(同182)等の糖類、アリル尿素(同100)、N,N−ジメチロール尿素(同120)、マロニル尿素(同128)、カルバミル尿素(同103)、1、1−ジエチル尿素(同116)、n−ブチル尿素(同116)、クレアチニン(同113)、ベンジル尿素(同150)の尿素類が挙げられる。分子量が100未満であると、10℃〜40℃での粘度差が大きくなる傾向が強くなる。また、分子量が200以上であると、インク中の添加量に対して、インクの粘度が増加しやすいため、分子量は100〜200の範囲であることが好ましい。これらの中では、特にグリシンベタインが好ましく、アミノコート(旭化成ケミカルズ社製)等の市販品を使用することもできる。
【0078】
これら保湿剤の添加量は、カール、コックリング抑制、目詰まり適性の観点から、(A)及び(B)合わせてインク中に10重量%〜40重量%含まれることが好ましい。
(A)の含有量に対して、(B)の添加量が少ないと、カール、コックリングの抑制効果が得られず、逆に(B)の添加量が多すぎるとインクの保存性に影響を与えるため、含有量の重量比が(A):(B)=1:1〜2であることが好ましい。
【0079】
また、本発明のクリアインク組成物にはインクジェットヘッドのノズル近傍での目詰まりの防止やインクの記録媒体への浸透性や滲みを適度に制御したり、インクの乾燥性を付与したりする目的で、水溶性有機溶剤を含有することが好ましく、特に、1,2−アルカンジオール及び/又はグリコールエーテルを含有することが好ましい。1,2−アルカンジオールの具体的な例としては、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等があげられる。また、グリコールエーテルの具体的な例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル等があげられる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上を用いることができ、インクの適正な物性値(粘度等)の確保、印刷品質、信頼性の確保という観点で、インク中に1重量%〜50重量%含まれることが好ましい。
【0080】
さらに、インクの記録媒体への濡れ性を制御し、記録媒体への浸透性やインクジェット記録方法における印字安定性を得るために表面張力調整剤を含有することが好ましい。表面張力調整剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤やポリエーテル変性シロキサン類が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の例としては、サーフィノール(登録商標)420、440、465、485、104、STG(エアープロダクツ社製品)、オルフィン(登録商標)PD−001、SPC、E1004、E1010(日信化学工業(株)製品)、アセチレノール(登録商標)E00、E40、E100、LH(川研ファインケミカル(株)製品)等が挙げられる。またポリエーテル変性シロキサン類としては、BYK−346、347、348、UV3530(ビックケミー社製品)などが挙げられる。これらは、インク組成物中に複数種用いてもよく、表面張力20mN/m〜40mN/mに調整されることが好ましく、インク中には0.1重量%〜3.0重量%含まれる。
【0081】
また、本実施形態のインク組成物は、光沢ムラをより少なくする観点からトリアルカノールアミンを含むことが好ましい。トリアルカノールアミンの具体例としては、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン等があげられる。これらのトリアルカノールアミンは1種又は2種以上を用いることができ、インク中に1重量%〜5重量%含まれることが好ましい。
【0082】
また、必要に応じて、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することも出来る。
【0083】
本実施形態のインク組成物はペン等の筆記具類、スタンプ等に好適に使用することができるが、インクジェット記録用インク組成物としてさらに好適に使用できる。本発明においてインクジェット記録方式とは、インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させる方式を意味する。具体的に以下に説明する。
【0084】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
第二の方法としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
第三の方法は圧電素子を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0085】
以上のいずれの方式も本発明のインク組成物を用いたインクジェット記録方法に使用することができる。
【0086】
本実施形態の記録物は、少なくとも上記インク組成物を用いて記録が行われたものである。この記録物は、本発明のインク組成物を用いることにより、光沢ムラの少ない高品質な画像を得ることのできるインク組成物であって、インク吸水性の乏しい用紙でカール、コックリングを抑制し、インク組成物の温度による粘度特性に優れたインク組成物及びこれを用いた記録方法、記録物を提供することができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[クリアインク組成物の調整]
(a)ポリマー微粒子溶液の合成例:
反応容器内に、メチルエチルケトン20部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03部、表1に示す各モノマーの200部の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
【0088】
一方、滴下ロートに、表1に示すモノマーの残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン60部及びラジカル重合開始剤(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))1.2部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
【0089】
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、(a)ポリマー微粒子溶液を得た。得られたポリマーの重量平均分子量を前記方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0090】
なお、表1に示す化合物の詳細は、以下のとおりである。
(b)スチレンマクロマー:
スチレンマクロマー、東亜合成株式会社製、商品名:AS−6(S)、数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクロイルオキシ基
(c)PP−800:
ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキシド平均付加モル数=13、末端:ヒドロキシ基):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマーPP−800
(d)50POEP−800B:
オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド平均付加モル数=8、プロピレンオキシド平均付加モル数=6、末端:2−エチルヘキシル基):日本油脂株式会社製、商品名:ブレンマー50POEP−800B
【0091】
【表1】

【0092】
[インクの調製]
表2に示す割合で各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターにて濾過して、インク製造例1〜10を調製した。ただし表2中に示す添加量は全て重量%濃度として表わされている。またイオン交換水の「残量」とは、インク全量が100部となるようにイオン交換水を加えることを意味する。
【0093】
【表2】

【0094】
<インク組成物の評価>
(試験1)光沢ムラ評価
インクジェットプリンターPX−B500(セイコーエプソン社製)を使用し、記録媒体として、印刷用塗工紙(印刷本紙)の1種であるOKトップコートN(王子製紙社製)を用いた。カラーインクはPX−B500の純正品を使用した。PX−B500のブラック列に表2に示す各クリアインクを充填した。カラーインク全量の打ち込み量が単位面積あたり2.0mg/cm2の時を100%とした時に、100%、80%、60%、40%、20%まで20%刻みとして3色のカラーインクを等量ずつ混色で吐出させると共に、各クリアインクの打ち込み量を80%〜0%まで20%刻みとし、各領域におけるカラーインク及び各クリアインクの合計の打ち込み量が100%均一となるようにした。このように50mm×50mmのベタ印刷をおこない、25℃で24時間自然乾燥させた。このカラーインクの打ち込み量が100%、80%(クリアインク20%)、60%(クリアインク40%)、40%(クリアインク60%)、20%(クリアインク80%)の印字物の光沢度を光沢度計(GM−268;コニカミノルタ社製)で測定した。光沢度は、20°での正反射を測定した。各々のベタの光沢度から光沢度比(最大値/最小値)を求めた。評価基準は以下のとおりである。
A:光沢度比(最大値/最小値)が1.2未満
B:光沢度比(最大値/最小値)が1.2以上1.4未満
C:光沢度比(最大値/最小値)が1.4以上
【0095】
(試験2)コックリング評価
上記と同様のインクジェットプリンターを用い、OKトップコートN(王子製紙社製)に対し、10cm×10cmの面積のベタ印字のパッチを単位面積あたり2.0mg/cm2のインク打ち込み量にして、各クリアインクで印刷した。その後、記録メディアの凹凸(コックリング)度合いをレーザー変位計LK−010(キーエンス社製)を用いて測定し、以下の評価基準で判定した。
A:1.0mm未満
B:1.0mm以上2.0mm未満
C:2.0mm以上
評価結果は下記の表3に示される通りであった。
【0096】
(試験3)カール評価
上記と同様のインクジェットプリンターを用い、OKトップコートN(王子製紙社製)に対し、余白を四方に0.5cmとったベタを単位面積あたり2.0mg/cm2のインク打ち込み量にして、各クリアインクで印刷し、印字後24℃の環境下で24時間放置した時の4角のカール量を測定し、平均量として以下の評価基準で判定した。
A:1.0cm未満
B:1.0cm以上5.0cm未満
C:5.0cm以上
評価結果は下記の表3に示される通りであった。
【0097】
(試験4)インクの保存安定性
アルミパックにインク組成物50gを入れた状態で70℃の環境下に1週間放置した。
放置後、物性(粘度、表面張力、pH、粒子径)の変化を確認した。
評価基準は以下の通りとした。
A:物性の変化がほとんどない
B:物性が変化する
【0098】
(試験5)粘度の温度特性
各クリアインクの10℃、40℃での粘度をキャノンフェンスケ逆流式粘度計VM−252C(離合社製)で測定した。その後、各インク組成物の10℃と40℃での粘度値の比(10℃の粘度値/40℃の粘度値)を求めた。以下の判断基準でインクの温度による粘度特性を評価した。
A:2.5未満
B:2.5以上〜3.0未満
C:3.0以上
【0099】
【表3】

【0100】
表3から明らかなように、本実施形態のインク組成物によれば、光沢ムラの少ない高品質な画像を得ることのできるインク組成物であって、吸水性の低い記録媒体に対し、カール、コックリングを抑制し、インク組成物の温度による粘度特性に優れた、インクジェット記録方式に用いるのに好適なインク組成物である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は前述の実施の形態に限定される物でなく、筆記具用インク、オフセット印刷用インク等の用途にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリマー微粒子、保湿剤及びインク全量中60重量%〜10重量%の水を含み、かつ着色剤を含まないクリアインク組成物であって、前記保湿剤が、下記(A)及び(B)の化合物が混合されたものであって、その含有量の重量比が(A):(B)=1:1〜2であるインク組成物。
(A)グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンから選ばれる少なくとも1種の化合物。
(B)ベタイン類、糖類、尿素類の化合物であって、かつ分子量が100〜200の範囲にある少なくとも1種の化合物。
【請求項2】
前記ポリマー微粒子が、(a)塩生成基含有モノマーと、(b)マクロマー及び/又は(c)疎水性モノマーを含むモノマー混合物を共重合させてなる水不溶性ポリマー粒子である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記ポリマー微粒子が、更に水不溶性有機化合物を含んでなる請求項1又は2に記載のインク組成物
【請求項4】
前記クリアインク組成物の20℃における粘度値が5mPa・s〜20mPa・sである請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項5に記載の記録方法によって記録が行われた記録物。

【公開番号】特開2011−57916(P2011−57916A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211383(P2009−211383)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】