説明

インク組成物及び着色体

【課題】鮮明性が高く、キサンテン染料の弱点である耐光性を向上させたインク組成物の提供。
【解決手段】キサンテン染料又はその塩と式(1)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩の2種の化合物を含有するインク組成物。


[式中、R1はC1−C5アルキル基等を表し、Xはある特定式で表される基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類ずつのキサンテン染料及びアントラピリドン化合物を、色素として含有するインク組成物、該インク組成物を用いる記録方法、及び該インク組成物により着色された着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種カラー記録方法の中で、その代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによる記録方法、すなわちインクジェット記録方法は、インクの吐出方式が各種開発されている。これらは、いずれもインクの小滴を発生させ、これを種々の被記録材、例えば、紙、フィルム、布帛等に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材とが直接接触しない為、音の発生がなく静かである。また小型化、高速化、カラー化が容易という特長の為、近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等のインク及びインクジェット記録用インクとしては、色素として水溶性の染料を水性媒体に溶解したインクが使用されている。これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく、一般に水溶性の有機溶剤が添加されている。これらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また形成される記録画像には、耐水性、耐湿性、耐光性、及び耐ガス性等の各種堅牢度が求められている。
また水、溶剤や添加剤に対する高い溶解性も色素に求められる性質のひとつである。
【0003】
これらのうちで、耐ガス性とは、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガス等が記録紙上、又は記録紙中で色素に作用し、記録画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx、SOx等が挙げられる。しかし、これらの酸化性ガスの中でも、オゾンガスがインクジェット記録画像の変退色現象を促進させる主原因物質とされており、特に耐オゾンガス性が重要視されている。写真画質が得られるインクジェット専用紙の表面には、インクの乾燥を早め、また高画質でのにじみを少なくするためにインク受容層が設けられる。このインク受容層の材質として、多孔性白色無機物等の材料を用いているものが多い。このような記録紙上で、オゾンガス等による変退色が顕著に見られる。この酸化性ガスによる変退色現象は、インクジェット記録画像に特徴的なものであるため、耐ガス性、特に耐オゾンガス性の向上は、インクジェット記録における重要な課題の1つである。
【0004】
近年のインクジェット記録技術の発達により、記録(印刷)スピードの向上がめざましい。この理由から、オフィス環境での主用途である普通紙へのドキュメントの印刷に、電子トナーを用いたレーザープリンタと同じ様に、インクジェットプリンタを用いる動きがある。インクジェットプリンタは、記録紙の種類を選ばない;機械の価格が比較的安い;という利点があり、特にSOHO等の小〜中規模オフィス環境での普及が進んでいる。このように普通紙への記録にインクジェットプリンタを使用する際には、記録物に求められる各種の品質の中でも、色相や画像(印字)濃度がより重視される傾向がある。
【0005】
インクジェット記録用水溶性インクに用いられるマゼンタ色素の1つとして、キサンテン染料が知られている。この染料は優れた鮮明性、色相、及び画像濃度を有するが、耐光性の弱いことが知られている。このため、優れた鮮明性、色相、及び画像濃度を有し、さらに耐光性や耐オゾンガス性等の堅牢性を有する記録画像を与えるキサンテン染料、及びこれを含有するインク組成物を提供することは、市場要求の1つである。
キサンテン染料と他の構造式を有する染料とを配合することにより、記録画像の耐光性を向上させる提案としては、例えば特許文献1及び2に記載の発明が挙げられる。
特許文献1には、キサンテン染料の1つであるローダミン染料と、金属含有マゼンタ染料の混合物を含有するインクジェットインク調合物が開示されている。
また特許文献2には、キサンテン染料であるC.I.Acid Red 52及びC.I.Acid Red 289の少なくとも一方と、特定の式で表される色材と水性媒体とを含有するインクが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−238875号公報
【特許文献2】特開2004−182996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鮮明性が高く、キサンテン染料の弱点である耐光性を向上させた記録画像を与えるインク組成物、特にはインクジェット記録に用いるインク組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、キサンテン染料又はその塩と、式(1)で表されるアントラピリドン化合物又はその塩の2種の化合物を含有するインク組成物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
即ち、本発明は、
1)
少なくとも1種類のキサンテン染料、及び、少なくとも1種類の下記式(1)で表される化合物又はその塩の両者を、色素として含有するインク組成物。
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中、
1は水素原子、C1−C5アルキル基、ヒドロキシC1−C5アルキル基、シクロヘキシル基、又はシアノC1−C5アルキル基を表し、
Xは下記式(2)で表される基である。]、
【0011】
【化2】

【0012】
[式(2)中、
*は2つのアミド基との結合部位をそれぞれ表し、
2及びR3はそれぞれ独立に水素原子又はC1−C5アルキル基を表し、
2とR3は結合して、これらがそれぞれ置換する2つの炭素原子と共にC5−C10シクロアルキレン環を形成しても良い。]、
【0013】
2)
キサンテン染料が、下記式(3)で表される染料若しくはそのカチオン位置の異性体、又はそれらの塩である、前記1)に記載のインク組成物、
【0014】
【化3】

【0015】
[式(3)中、
101〜R104はそれぞれ独立に、水素原子;C1−C10アルキル基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基よりなる群から選択される基を有するC1−C10アルキル基;フェニル基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、C1−C4アルキル基、C1−C4アルコキシ基及びハロゲン原子よりなる群から選択される基を有するフェニル基を表し、
105はスルホ基、カルボキシ基、又はC1−C4アルコキシカルボニル基を表し、
106は水素原子;C1−C10アルキル基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基よりなる群から選択される基を有するC1−C10アルキル基;スルホ基;カルボキシ基;スルファモイル基;カルバモイル基;又は、ハロゲン原子;を表し、
107及びR108はそれぞれ独立に水素原子、又は、C1−C10アルキル基を表し、
109-は、ハロゲンアニオン、ヒドロキシド、酢酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、硫酸アニオン、又はトルエンスルホン酸アニオンを表す。
但し、式(3)で表される染料が分子内で塩を形成するときは、R109-は存在しない。]、
【0016】
3)
インク組成物中に含有する色素の総質量が、該インク組成物の総質量に対して、0.5〜20質量%である前記1)に記載のインク組成物、
4)
2及びR3がそれぞれ独立に水素原子、メチル基、又はR2とR3が結合して、これらがそれぞれ置換する2つの炭素原子と共に形成したシクロヘキシレン環である、前記1)乃至3)のいずれか一項に記載のインク組成物、
5)
1が水素原子又はメチル基である、前記1)乃至4)のいずれか一項に記載のインク組成物、
6)
1が水素原子又はメチル基、
2及びR3が水素原子である、前記1)乃至5)のいずれか一項に記載のインク組成物、
7)
式(3)で表される染料において、
101が、C1−C10アルキル基;又は、置換基として、スルホ基及びC1−C4アルキル基よりなる群から選択される基を有するフェニル基;であり、
102が水素原子又はC1−C10アルキル基であり、
103が、水素原子;C1−C10アルキル基;又は、置換基としてC1−C4アルキル基を有するフェニル基;であり、
104が水素原子又はC1−C10アルキル基であり、
105がスルホ基、カルボキシ基、又はC1−C4アルコキシカルボニル基、
106が水素原子又はスルホ基であり、
107及びR108がそれぞれ独立に水素原子、又は、C1−C10アルキル基であり、
109-がハロゲンアニオンである、前記2)乃至6)のいずれか一項に記載のインク組成物、
但し、式(3)で表される染料が分子内で塩を形成するときは、R109-は存在しない、
8)
キサンテン染料が、C.I.アシッドレッド289、又はC.I.アシッドレッド52である前記1)乃至7)のいずれか一項に記載のインク組成物、
9)
水溶性有機溶剤をさらに含有する前記1)乃至8)のいずれか一項に記載のインク組成物、
10)
インクジェット記録に用いる前記1)乃至9)のいずれか一項に記載のインク組成物、
11)
前記1)乃至10)のいずれか一項に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法、
12)
被記録材が情報伝達用シートである前記11)に記載のインクジェット記録方法、
13)
情報伝達用シートが普通紙又は多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである前記12)に記載のインクジェット記録方法、
14)
前記1)乃至10)のいずれか1項に記載のインク組成物により着色された着色体、
15)
前記11)に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体、
16)
前記1)乃至10)のいずれか一項に記載のインク組成物を含有する容器が装填されたインクジェットプリンタ、
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、鮮明性が高く、キサンテン染料の弱点である耐光性を向上させた記録画像を与えるインク組成物、特にはインクジェット記録に用いるインク組成物を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を詳細に説明する。尚、本明細書においては特に断りがない限り、スルホン酸基及びカルボキシ基等の酸性官能基は遊離酸の形で表す。また、本発明のインク組成物に含有する式(1)で表される化合物又はその塩は、煩雑さを避けるため、「化合物又はその塩」の両者を含めて、以下「化合物」と簡略化して記載し、両者を意味するものとする。
本発明のインク組成物は水性、且つ実質的に溶液のインク組成物であり、マゼンタインク、特にインクジェット記録に用いるマゼンタインクとして好適である。
【0019】
本発明のインク組成物に少なくとも1種類含有する、前記式(1)で表される化合物について説明する。
【0020】
式(1)中、R1におけるC1−C5アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられる。その具体例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、tert−ペンチル、といった分岐鎖のもの;等が挙げられる。好ましい具体例としては、メチル、エチルが挙げられ、メチルが特に好ましい。
【0021】
1におけるヒドロキシC1−C5アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C5アルキル基」における任意の炭素原子にヒドロキシ基が置換したものが挙げられ、同一の炭素原子に該ヒドロキシ基と窒素原子の両者が置換しないものが好ましい。具体例としては、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシブチル、4−ヒドロキシブチル等のC1−C5アルキル部分が直鎖のもの;1−ヒドロキシ−2−プロピル、1−ヒドロキシ−2−ブチル、1−ヒドロキシ−3−ブチル、2−ヒドロキシ−3−ペンチル、2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル等のC1−C5アルキル部分が分岐鎖のもの;等が挙げられる。好ましい具体例としては、2−ヒドロキシエチルが挙げられる。
【0022】
1におけるシアノC1−C5アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C5アルキル基」における任意の炭素原子にシアノ基が置換したものが挙げられる。具体例としては、2−シアノエチル、2−シアノプロピル、3−シアノプロピル、3−シアノブチル、4−シアノブチル等のC1−C5アルキル部分が直鎖のもの;1−シアノ−2−プロピル、1−シアノ−2−ブチル、1−シアノ−3−ブチル、2−シアノ−3−ペンチル、2−シアノ−1,1−ジメチルエチル等のC1−C5アルキル部分が分岐鎖のもの;等が挙げられる。好ましい具体例としては、2−シアノエチルが挙げられる。
【0023】
前記のうち、好ましいR1としては水素原子、又はC1−C5アルキル基が挙げられ、後者がより好ましい。
【0024】
式(1)中、R2及びR3におけるC1−C5アルキル基としては、前記「R1におけるC1−C5アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0025】
2とR3が結合して形成するC5−C10シクロアルキレン環としては、シクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロへプチレン、シクロオクチレン等が挙げられる。
炭素数の範囲としては通常C5−C10、好ましくはC5−C8、より好ましくはC5−C7の範囲が挙げられ、特に好ましくはC6である。
好ましい具体例としてはシクロヘキシレンが挙げられる。
【0026】
好ましいR2及びR3としては水素原子、メチル基又はR2とR3が結合したシクロヘキシレンが挙げられ、水素原子及びメチルがより好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0027】
前記式(1)で表される化合物におけるXとして、具体的に式(2)で表される基を記載したものが下記式(14)で表される化合物である。すなわち、前記式(1)で表される化合物と、下記式(14)で表される化合物は同じ化合物である。
【0028】
【化14】

【0029】
前記式(14)中、R1は式(1)におけるのと、またR2及びR3は式(2)におけるのと、それぞれ好ましいもの等を含めて同じ意味を表す。
【0030】
前記式(1)(又は式(14)、以下同様)におけるR1乃至R3について、好ましいもの同士を組み合わせた化合物はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせたものはさらに好ましい。好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0031】
前記式(1)の化合物の塩は、無機又は有機陽イオンと形成する塩である。無機陽イオンと形成する塩としては、アルカリ金属塩等、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩;又はアンモニウム塩;との塩等が好ましく挙げられる。有機陽イオンと形成する塩としては、下記式(4)で表される4級アンモニウム塩と形成する塩等が好ましく挙げられる。
【0032】
【化4】

【0033】
式(4)中、Z1乃至Z4はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基又はヒドロキシアルコキシアルキル基を表わし、Z1乃至Z4の少なくともいずれか1つは水素原子以外の基である。
【0034】
式(4)中、Z1乃至Z4における具体例としては、メチル、エチル、ブチル等のC1−C6アルキル基(好ましくはC1−C4アルキル基);ヒドロキシメチル、2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシC1−C6アルキル基(好ましくはヒドロキシC1−C4アルキル基);ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシC1−C6アルコキシC1−C6アルキル基(好ましくはヒドロキシC1−C4アルコキシC1−C4アルキル基);等が挙げられる。
【0035】
これらのうちより好ましいものとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、アンモニウム等と形成する各塩が挙げられる。これらのうち、特に好ましいものは、リチウム、アンモニウムおよびナトリウムと形成する各塩である。
【0036】
前記の塩の製造方法を記載する。
例えば、前記式(1)の化合物を含む反応液、ウェットケーキ、又は乾燥品を水に溶解し、これに塩化ナトリウムを加えて塩析し、析出固体を濾過分取することにより、式(1)の化合物のナトリウム塩をウェットケーキとして得ることができる。又、得られたウェットケーキを再び水に溶解後、塩酸等の鉱酸を加えてpHを強酸性(通常pH1以下)に調整して得られる固体を濾過分取することにより、式(1)で表される化合物の遊離酸をウェットケーキとして得ることができる。この際に、pHを適宜調整することによりナトリウム塩と遊離酸の混合物を望みの比率で得ること等も可能である。更に、水中で前記の遊離酸のウェットケーキに、例えば、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水、前記式(4)に相当する4級アンモニウム塩等を添加して造塩することにより、各々相当するカリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、4級アンモニウム塩等を得ることもできる。この際に遊離酸と、例えばナトリウム塩との混合物のウェットケーキを使用し、水酸化カリウムを添加することにより、ナトリウムとカリウムの混塩、又はナトリウム塩、カリウム塩及び遊離酸の混合物等を得ることも同様に可能である。
【0037】
本発明の前記式(1)で示される化合物の具体例を下記表1に示すが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
なお、表1中、No.11及びNo.12における「シクロヘキシレン環」は、前記式(1)において、R2とR3が結合して、これらがそれぞれ置換する2つの炭素原子と共に形成したシクロヘキシレン環を意味する。
【0038】
【表1】

【0039】
以下に前記式(1)で表される化合物の製造方法を記載する。なお下記式(7)〜(10)中に記載のR1〜R3は、前記式(1)におけるのと同じ意味を表す。
前記式(1)で示される化合物は、例えば次の方法により製造される。即ち、前記の特許文献3等に記載の公知の方法、又はその方法に準じて合成を行うことにより、下記式(7)の化合物が得られる。
【0040】
【化7】

【0041】
次いで得られた前記式(7)の化合物1モルに、水酸化ナトリウム水溶液等を加えてpH7の水溶液として中和した後、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコールやポリオール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;等の溶媒中、下記式(8)の化合物0.5モルと30〜100℃で反応させることにより下記式(9)の化合物が得られる。なお、中和後の式(7)の化合物を含む水溶液はそのまま使用するよりも、乾燥させて式(7)の化合物を含む固体とした後、次の反応に使用する方が好ましい。
【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
前記式(9)中、Zは下記式(10)で表される基である。
【0045】
【化10】

【0046】
前記式(10)中、*は2つのアミド基との結合部位をそれぞれ表す。
【0047】
次いで得られた前記式(9)の化合物1モルと、酢酸銅、硫酸銅、ハロゲン化銅(例えば塩化銅、ヨウ化銅等)等の銅化合物1モルとを、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等アルコールやポリオール類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;等の溶媒中、pH5〜9、10〜100℃で反応させることにより本発明のインク組成物に少なくとも1種類含有する前記式(1)のアントラピリドン化合物が得られる。
なお、この反応におけるpHの調整には任意の塩基が使用できるが、アルカリ金属の炭酸塩(例えば炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、アルカリ金属の水酸化物(例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)等が好ましく挙げられる。
【0048】
本発明のインク組成物に少なくとも1種類含有するキサンテン染料について記載する。
キサンテン染料とは、例えば安部田貞治他著、色染社出版「解説染料化学」等に記載されているとおり、一般に下記式(5)で表される構造を有する染料を意味する。
【0049】
【化5】

【0050】
キサンテン染料のうち、好ましいものとしては下記式(6)で表される染料が挙げられる。
【0051】
【化6】

【0052】
式(6)中、
201〜R204はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、
205はスルホ基、カルボキシ基、又は、C1−C10アルコキシカルボニル基を表し、
206は水素原子;又は置換基を表し、
207及びR208はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、
209-はカウンターアニオンを表す。
但し、式(2)で表される染料が分子内で塩を形成するときは、R209−は存在しない。
【0053】
式(6)で表される染料は、例えば下記式(11)又は式(12)で表されるように、カチオンの位置が異なる異性体を有する。本明細書において「キサンテン染料」とは、このような異性体も全て含む意味である。
【0054】
【化11】

【0055】
【化12】

【0056】
式(6)で表されるキサンテン染料のうち、好ましいものとして前記式(3)で表されるキサンテン染料が挙げられる。
【0057】
式(3)中、R101〜R104におけるC1−C10アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられる。炭素数の範囲としては通常C1−C10、好ましくはC1−C8、より好ましくはC1−C6、さらに好ましくはC1−C4の範囲が挙げられる。
その具体例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシルルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、tert−ペンチル、2−エチルヘキシルといった分岐鎖のもの;等が挙げられる。
具体例の中では、メチル、エチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルが好ましく挙げられ、メチル及びエチルがより好ましく、エチルが特に好ましい。
【0058】
101〜R104における、置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基よりなる群から選択される基を有するC1−C10アルキル基としては、前記「R101〜R104におけるC1−C10アルキル基」における任意の炭素原子が、これらの基を有するものが挙げられる。炭素数の範囲としては通常C1−C10、好ましくはC1−C8、より好ましくはC2−C6、さらに好ましくはC2−C4の範囲が挙げられる。該置換基の数は通常1つ又は2つ、好ましくは1つである。置換基の位置は特に制限されないが、置換基がヒドロキシ基のときは、該ヒドロキシ基と窒素原子とが同じ炭素原子に置換しないものが好ましい。
具体例としては、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル、6−ヒドロキシへキシル、3−ヒドロキシオクチル等のヒドロキシ基を有するもの;カルボキシメチル、2−カルボキシエチル、3−カルボキシプロピル、6−カルボキシヘキシル、8−カルボキシオクチル等のカルボキシ基を有するもの;2−スルホエチル、3−スルホプロピル、4−スルホブチル等のスルホ基を有するもの;等が挙げられる。
好ましい具体例としては、2−ヒドロキシエチル、2−カルボキシエチル、2−スルホエチルが挙げられる。
【0059】
101〜R104における、置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、C1−C4アルキル基、C1−C4アルコキシ基及びハロゲン原子よりなる群から選択される基を有するフェニル基としては、フェニル基の任意の炭素原子に、これらの基を置換基として有するものが挙げられる。置換基の数としては通常1つ乃至5つ、好ましくは1つ乃至4つ、より好ましくは2つ又は3つが挙げられる。
置換基としてのC1−C4アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。その具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチルといった直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルといった分岐鎖のもの;が挙げられる。
置換基としてのC1−C4アルコキシ基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。その具体例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシといった直鎖のもの;イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシといった分岐鎖のもの;が挙げられる。
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中ではフッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく挙げられる。より好ましくはフッ素原子、塩素原子が、また、さらに好ましくは塩素原子がそれぞれ挙げられる。
前記の基のフェニル基上の置換位置は特に制限されないが、式(3)中の窒素原子との結合位置を1位として、
置換基の数が3つのとき、2位、3位及び6位;又は、2位、4位及び6位;が、また、
置換基の数が2つのとき、2位及び3位;2位及び4位;2位及び5位;2位及び6位;3位及び4位;3位及び5位;が、それぞれ好ましい。
置換基の数が2つのとき、2位及び6位に置換するのがより好ましい。
具体例としては、2−ヒドロキシフェニル、3−ヒドロキシフェニル、4−ヒドロキシフェニル等のヒドロキシ基を有するもの;2−カルボキシフェニル、3−カルボキシフェニル、4−カルボキシフェニル、2,5−ジカルボキシフェニル、2,6−ジカルボキシフェニル、3,5−ジカルボキシフェニル等のカルボキシ基を有するもの;2−スルホフェニル、3−スルホフェニル、4−スルホフェニル、2,5−ジスルホフェニル、2,6−ジスルホフェニル、2,4−ジスルホフェニル等のスルホ基を有するもの;2−スルファモイルフェニル、3−スルファモイルフェニル、4−スルファモイルフェニル等のスルファモイル基を有するもの;2−メチルフェニル、3−エチルフェニル、4−メチルフェニル、2,5−ジエチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,4,6−トリメチルフェニル等のC1−C4アルキル基を有するもの;2−メトキシフェニル、3−エトキシフェニル、4−メトキシフェニル、2,5−ジエトキシフェニル等のC1−C4アルコキシ基を有するもの;2−クロロフェニル、3−クロロフェニル、4−クロロフェニル、3−ブロモフェニル、3−フルオロフェニル等のハロゲン原子を有するもの;3−メチル4−スルホフェニル、2,6−ジメチルスルホフェニル等の前記の群から選択される2種類以上の基を有するもの;等が挙げられる。
これらのうちでは、2−カルボキシフェニル、2,6−ジカルボキシフェニル、2−スルホフェニル、2−メチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジメチルスルホフェニルが好ましく挙げられ、2,6−ジメチルフェニル及び2,6−ジメチルスルホフェニルが特に好ましい。
【0060】
上記のうち好ましいR101からR104としては、それぞれ独立して、水素原子;C1−C10アルキル基;置換基として、スルホ基及びC1−C4アルキル基より成る群から選択される基を有するフェニル基;が好ましい。
【0061】
101〜R104の好ましい組み合わせとしては、R101がスルホ基及びC1−C4アルキル基より成る群から選択される基を有するフェニル基、R102が水素原子、R103が置換基としてC1−C4アルキル基を有するフェニル基、及びR104が水素原子の組み合わせ;又は、R101〜R104がC1−C10アルキル基である組み合わせ;が挙げられる。
【0062】
式(1)中、R105におけるC1−C4アルコキシカルボニル基としては、直鎖又は分岐鎖のものが挙げられ、直鎖のものが好ましい。その具体例としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、n−ブトキシカルボニルといった直鎖のもの;イソプロポキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、sec−ブトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニルといった分岐鎖のもの;が挙げられる。
【0063】
前記のうち、R105としてはスルホ基が特に好ましい。
【0064】
式(3)中、R106におけるC1−C10アルキル基としては、前記「R101〜R104におけるC1−C10アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0065】
106におけるヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基よりなる群から選択される基を有するC1−C10アルキル基としては、前記「R101からR104における、置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基よりなる群から選択される基C1−C10アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0066】
106におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中ではフッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく挙げられる。より好ましくはフッ素原子、塩素原子が、また、さらに好ましくは塩素原子がそれぞれ挙げられる。
【0067】
上記のうち、好ましいR106としては、水素原子、C1−C10アルキル基、スルホ基、カルボキシ基、及びハロゲン原子であり、特に好ましくは水素原子、又はスルホ基である。
【0068】
式(3)中、R107及びR108におけるC1−C10アルキル基としては、前記「R101〜R104におけるC1−C10アルキル基」に記載のものと、好ましいもの等を含めて同じものが挙げられる。
【0069】
前記のうち、R107及びR108としては水素原子が特に好ましい。
【0070】
式(3)中、R109-は、キサンテン染料におけるカチオンの電荷(すなわち、該式(3)中に記載の「+」電荷)に対するカウンターアニオンを意味する。キサンテン染料中にスルホ基程度の強酸性の基が存在するときは、該染料分子内で塩を形成することができるため、R109-で表されるカウンターアニオンを必要としない。この理由から、式(3)で表される染料が分子内で塩を形成するときは、R109-は存在しない。
【0071】
109-におけるハロゲンアニオンとしては、フルオリド、クロリド、ブロミド、ヨーダイド等が挙げられ、これらの中ではクロリド(Cl)が特に好ましい。
【0072】
109-における、ヒドロキシド、酢酸アニオン、テトラフルオロホウサンアニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、硫酸アニオン、及びトルエンスルホン酸アニオンは、それぞれ「OH」、「CHCOO」、「BF」、「PF」、「HSO」、及び「CHSO」を意味する。これらのうち、トルエンスルホン酸アニオンについては、ベンゼン環上のメチル基の置換位置が、スルホン酸アニオンの置換位置に対してオルト、メタ、又はパラである異性体が存在するが、これら全ての異性体を含む。
【0073】
前記のうち、R109-としてはハロゲンアニオンが好ましく挙げられる。
また、式(3)で表される染料としては、R109-が存在するものよりも存在しないもの、すなわち、分子内で塩を形成するものの方がより好ましい。
【0074】
前記式(3)におけるR101乃至R109-として記載したもののうち、好ましいもの同士を組み合わせた染料はより好ましく、より好ましいもの同士を組み合わせた染料はさらに好ましい。さらに好ましいもの同士の組み合わせ、また、好ましいものとより好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0075】
式(3)で表される染料の特に好ましいものとして、C.I.アシッドレッド289及びC.I.アシッドレッド52が挙げられる。これらの中でも鮮明性、色相及び耐オゾン性の面でいえば、前者が特に好ましい。
C.I.アシッドレッド289は、下記表101におけるNo.108及びNo.109の染料(の1ナトリウム塩)の混合物であること;また、C.I.アシッドレッド52は、同様にNo.107の染料(の1ナトリウム塩)であること;が知られている。
【0076】
キサンテン染料の具体例を下記表2に示すが、本発明で使用可能なキサンテン染料は、これらの具体例に限定されるものではない。また、便宜上、カルボキシ基やスルホ基等の酸性官能基は、遊離酸の形で記載した。
表2中、No.106乃至No.109の染料は、分子内で塩を形成しているため、R109-は存在しない。これらの染料は、一般的にR105のスルホ基が「SO」の形でアニオンとなることにより、分子内で塩を形成しているとされる。
なお、表2中で使用した略号は、以下の意味である。
Et:エチル。
DM−3S−Ph:2,6−ジメチル−3−スルホフェニル。
DM−4S−Ph:2,6−ジメチル−4−スルホフェニル。
H:水素原子。
DM−Ph:2,6−ジメチルフェニル。
Me:メチル。
【0077】
【表2】

【0078】
前記のキサンテン染料は、公知の方法(例えば細田豊著、技報堂出版「理論製造染料化学」373〜375頁及び788〜791頁に記載の方法)又は公知の方法に準じて合成することができる。また、市販品として入手できる染料も多数存在する。
【0079】
前記のキサンテン染料は、分子内に存在するカチオンの電荷を使用した塩以外に、さらに塩を形成することもできる。
例えば、前記表1のNo.104及びNo.105に示した染料は、R105としてカルボキシ基を有するため、この基を塩とすることが可能である。
また、表1のNo.106及びNo.107に示した染料は、R106としてスルホ基を有するため、同様にこの基を塩とすることが可能である。
このような塩としては、無機又は有機の陽イオンとの塩が挙げられる。無機陽イオンの塩の具体例としてはアンモニウム(NH4+);アルカリ金属、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等の各陽イオン;等が挙げられる。また、有機の陽イオンとしては、例えば前記式(4)で表される4級アンモニウムが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0080】
前記塩のうち好ましいものは、ナトリウム、カリウム、リチウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンの塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいものは、リチウム、ナトリウム、カリウム及びアンモニウム塩である。
これらの塩は、いずれも公知の方法、それに準じた方法、或いは前記式(1)の化合物の塩の製造方法に準じて容易に望みの塩を合成することができる。
従って、本発明のインク組成物に少なくとも1種類含有するキサンテン染料も、前記分子内に存在するカチオンの電荷を使用した塩以外に形成することが可能な、式(6)又は式(3)で表されるキサンテン染料又はそれらの塩の両者を含むものである。これらについても便宜上、「染料又はその塩」の両者を含めて「染料」と簡略化して記載し、両者を含む意味を有するものとする。
【0081】
該化合物の塩は、その塩の種類により溶解性等の物理的な性質、あるいはインクとして用いた場合のインクの性能、特に堅牢性に関する性能が変化する場合もある。このため目的とするインク性能等に応じて塩の種類を選択することも好ましく行われる。
【0082】
本発明のインク組成物に含有する前記式(1)で表される化合物及びキサンテン染料は、その合成反応における最終工程の終了後、塩酸等の鉱酸の添加により固体の遊離酸として単離することができる。また、得られた遊離酸の固体を水、又は、例えば塩酸水等の酸性水で洗浄すること等により、不純物として含有する無機塩、例えば塩化ナトリウム等の金属陽イオンの塩化物;硫酸ナトリウム等の硫酸陽イオンのアルカリ金属塩;等、すなわち、本明細書でいうところの「無機不純物」を除去することができる。
これらの無機不純物は、本発明のインク組成物を調製する場合に、インク組成物の保存安定性や、該インク組成物をインクとして使用するインクジェット記録等を行う際の吐出安定性等に悪影響を与えることが多い。このため、本発明のインク組成物中に含有する色素の総質量中における無機不純物の含有量は、該色素の総質量に対して、1質量%以下にすることが好ましく、下限は0質量%、すなわち分析機器における検出限界以下でもよい。
無機不純物の少ない色素を製造する方法としては、例えば逆浸透膜による精製方法;色素化合物の乾燥物又はウェットケーキを水に溶解し、メタノール等のC1−C4アルコールの添加により晶析する方法;色素化合物の乾燥物又はウェットケーキをメタノール等のC1−C4アルコール及び水の混合溶媒中に加えて懸濁精製する方法:又は、陰及び陽イオン交換樹脂を適宜用いる公知の方法:等の各種の方法が挙げられる。
【0083】
本発明のインク組成物は、少なくとも一種類の前記式(1)で表される化合物、及び、少なくとも一種類のキサンテン染料の両者を、色素として含有するものである。
式(1)で表される化合物、及びキサンテン染料は、それぞれ単一の化合物として;いずれか一方が単一、他方が複数である混合物として;又は、それぞれが複数である混合物として;本発明のインク組成物に含有しても良い。このうち、式(1)で表される化合物については、単一の化合物として含有するのが好ましい。
【0084】
本発明のインク組成物中に含有する色素の総質量は、該インク組成物の総質量に対して、通常0.5〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは1.5〜6質量%、さらに好ましくは3〜6質量%含有するのが良い。
後記するように、マゼンタの色相を好みの色相に微調整すること等を目的として、本発明のインク組成物中に、本発明により得られる効果を阻害しない範囲で、さらに公知の色素を含有しても良い。しかし、本発明のインク組成物中に含有する色素としては、色素の全てが実質的にキサンテン染料及び前記式(1)で表される化合物の両者であるのが好ましい。
【0085】
本発明のインク組成物中に含有する、キサンテン染料の総質量と、式(1)で表される化合物の総質量との質量比は通常1/20から10/1、好ましくは1/15から5/1、より好ましくは1/10から2/1、特に好ましくは1/9から1/1である。
【0086】
本発明のインク組成物は水を媒体として調製され、必要に応じて、水溶性有機溶剤及びインク調製剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有しても良い。水溶性有機溶剤は、染料の溶解、乾燥の防止(湿潤状態の保持)、粘度の調整、浸透の促進、表面張力の調整、消泡等の効果を期待して使用され、本発明のインク組成物には含有する方が好ましい。その他のインク調製剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、表面張力調整剤、消泡剤等の公知の添加剤が挙げられる。
水溶性有機溶剤の含有量はインクの総質量に対して0〜60質量%、好ましくは10〜50質量%であり、インク調製剤は同様に0〜20質量%、好ましくは0〜15質量%用いる。前記以外の残部は水である。
【0087】
前記の水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1−C4アルカノール(アルコール);N,N−ジメチルホルムアミド又はN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン又は1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−又は1,3−プロピレングリコール、1,2−又は1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はチオジグリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ又はポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4モノアルキルエーテル;γ−ブチロラクトン;又はジメチルスルホキシド;等が挙げられる。
【0088】
前記の水溶性有機溶剤として好ましいものは、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジ又はトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン及びブチルカルビトールであり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン及びブチルカルビトールである。これらの水溶性有機溶剤は、単独又は混合して用いられる。
【0089】
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンゾチアゾール系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、及び無機塩系等の化合物が挙げられる。
有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられる。
ピリジンオキシド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられる。
イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
その他の防腐防黴剤としてソルビン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及び安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
防腐防黴剤の他の具体例としては、例えば、アーチ・ケミカルズ・ジャパン株式会社製 商品名プロクセルRTMGXL(S)及びプロクセルRTMXL−2(S)等が好ましく挙げられる。なお、本明細書において上付きの「RTM」は、登録商標を意味する。
【0090】
pH調整剤は、インクの保存安定性を向上させる目的で、インクのpHを6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等が挙げられる。
【0091】
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0092】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0093】
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物が挙げられる。また、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0094】
粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に、水溶性高分子化合物が挙げられ、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0095】
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。尿素を使用するのが好ましい。
【0096】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及びヘテロ環類等が挙げられ、金属錯体としてはニッケル錯体、及び亜鉛錯体等が挙げられる。
【0097】
表面張力調整剤としては、界面活性剤があげられ、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤等が挙げられる。
【0098】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸及びその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0099】
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0100】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、その他イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0101】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;他の具体例として、例えば、日信化学社製、商品名サーフィノールRTM104、同82、同465、オルフィンRTMSTG;等が挙げられる。
【0102】
消泡剤としては、高酸化油系、グリセリン脂肪酸エステル系、フッ素系、シリコーン系化合物が必要に応じて用いられる。
【0103】
これらのインク調製剤は、単独又は混合して用いられる。なお、本発明のインク組成物を含有するインクの表面張力は通常25〜70mN/m、より好ましくは25〜60mN/mである。同様に、インクの粘度は30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下に調整することがより好ましい。
【0104】
本発明のインク組成物を製造するにあたり、添加剤等の各成分を溶解させる順序には特に制限はない。インク組成物を調製するにあたり、用いる水はイオン交換水又は蒸留水等、不純物が少ない物が好ましい。
さらに、必要に応じメンブランフィルター等を用いて精密濾過を行ってインク組成物より夾雑物を除いてもよい。インクジェットプリンタ用のインクとして使用するときは精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1μm〜0.1μm、好ましくは、0.8μm〜0.1μmである。
【0105】
より高精細なインクジェット記録画像を提供することを目的とし、染料濃度が高濃度及び低濃度である2種類の同系色のインクをインクセットとしてインクジェット記録に用いることもある。その場合、染料濃度が高濃度のものは例えばマゼンタインク、低濃度のものはライトマゼンタインク等と呼称される。このような際には、染料濃度が異なる本発明のインク組成物を2種類調製し、それらをインクセットとして使用してもよい。またどちらか一方だけに本発明のインク組成物を使用してもよい。
また他の色、例えばブラックインクの調色用、あるいはイエロー色素やシアン色素と混合して、レッドインクやブルー(又はバイオレット)インクを調製する目的で、本発明のインク組成物を用いることもできる。
【0106】
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置に装填し、該インク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行う方法である。
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインク組成物と共に、イエロー、シアン、必要に応じて、グリーン、ブルー(又はバイオレット)、レッド、及びブラック等の各インクを併用し、フルカラーの記録画像を再現することもできる。この場合、各色のインクは、それぞれの容器に含有され、それらの容器を、インクジェットプリンタの所定の位置に装填して使用すればよい。
インクジェットプリンタには、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式;及び加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式;等を利用したものがある。本発明のインクジェット記録方法は、いかなる方式であっても使用が可能である。
【0107】
前記の被記録材としては、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられる。これらの中では情報伝達用シートが好ましい。
【0108】
前記の情報伝達用シートとしては、特に制限はなく、普通紙はもちろん、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたもの等も用いることができる。ここでインク受容層とは、例えば前記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工する方法;又は多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックス等のインク中の色素を吸収し得る無機微粒子をポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に前記基材表面に塗工する方法;等により設けられる。このようなインク受容層を設けたものは通常インクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙、又は光沢フィルム等と呼ばれる。その市販品としては、例えば、セイコーエプソン社製、商品名:写真用紙クリスピアRTM(高光沢);ブラザー工業社製、商品名:写真光沢紙BP71G;等が挙げられる。
普通紙とは、特にインク受容層を設けていない紙のことを意味し、用途によってさまざまなものが数多く市販されている。市販されている普通紙の一例を挙げると、インクジェット用としては、セイコーエプソン社製 両面上質普通紙;キヤノン社製 カラー普通紙;Hewlett Packard社製 Multipurpose Paper、All−in−one Printing Paper;等がある。この他、特に用途をインクジェット印刷に限定しないPPC用紙等も普通紙である。
【0109】
本発明の着色体とは、本発明のインク組成物で着色された物質を意味する。着色体の材質に特に制限はないが、例えば前記の被記録材等が好ましく挙げられる。着色方法としては、例えば浸染法、捺染法、スクリーン印刷等の印刷法、インクジェット記録による方法等が挙げられる。これらの中ではインクジェット記録方法が好ましく、本発明のインクジェット記録方法により着色された着色体が特に好ましい。
【0110】
本発明のインク組成物は印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、又は記録(印刷)、特にインクジェット記録における使用に適する。また本発明のインク組成物は、長期間保存後の固体析出、物性変化、色相変化等もなく、貯蔵安定性が極めて良好である。本発明のインク組成物をインクジェット記録用のインクとして使用した印刷物は被記録材(例えば紙、フィルム等)を選択することなくマゼンタ色の色相として理想的な色相であり、写真調のカラー画像を紙の上に忠実に再現させることも可能である。
さらに本発明のインク組成物は、普通紙上においても発色性、及び鮮明性が高い。また、写真調の記録画像を得るために用いるインクジェット専用紙やフィルムのような、多孔性白色無機物を表面に塗工した被記録材に記録しても各種堅牢性、すなわち耐水性、耐湿性、耐オゾンガス性等の耐ガス性、及び、特に耐光性が良好であり、写真調の記録画像の長期保存安定性にも優れている。このため、被記録材を選ばないことが特徴の一つであるインクジェット記録に好適である。また、本発明のインク組成物をインクジェット記録に使用したとき、ノズル付近におけるインク組成物の乾燥による固体の析出は非常に起こりにくく、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。
このように、本発明のインク組成物はインク用、特にインクジェット記録用インクとして極めて有用である。
【実施例】
【0111】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。実施例中の反応及び晶析等の操作については、特に断りのない限りいずれも攪拌下に行った。また、実施例に記載した化合物のうち、最大吸収波長(λmax)の測定は、いずれも水溶液中で行った。
【0112】
[実施例1]
(工程1)
水70部に特許文献3記載の方法を追試することによって得た下記式(13)の化合物のウェットケーキ97.5部(ジアゾ化値分析による純度45.9%)を加え、さらに25%水酸化ナトリウム水溶液を加えることによりpH7の水溶液を得た。得られた水溶液を80℃の熱風乾燥機で乾燥させ、式(13)の化合物を含有する固体を得た。
【0113】
【化13】

【0114】
(工程2)
N−メチルピロリドン320部に、実施例1(工程1)で得た式(13)の化合物の全量及びエチレンジアミンテトラ酢酸2無水物7.8部を加え、75〜85℃に加熱して6時間反応させた。得られた反応液を濾過することにより不溶物を除去し、濾液に2−プロパノール400部を加えて析出した固体を濾過分取した。得られた固体を2−プロパノール120部で懸濁精製することにより、前記式(9)におけるR1がメチル、Zが式(10)で表される基であり、該式(10)中のR2及びR3が水素原子で表される化合物のウェットケーキ220部を得た。
【0115】
(工程3)
水300部に実施例1(工程2)で得た式(9)の化合物のウェットケーキ220部及び酢酸銅(II)1水和物6.6部を加えて溶液とした後、15%炭酸ナトリウム水溶液を適宜加えて反応液のpHを6.5〜7.5に保持しながら、室温で10時間反応させた。得られた反応液に、メタノール300部及び2−プロパノール300部を加えて析出した固体を濾過分取し、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキをイオン交換水300部に加えて溶液とし、ここに陰イオン交換樹脂ダイアイオンRTMSA10AOH75部及び陽イオン交換樹脂ダイアイオンRTMSK1BH26部(共に三菱化学社製)を適宜添加して、液のpHを6〜8に保持しながら、液温20〜30℃で2時間撹拌することにより脱塩を行なった。得られた液を濾過することによりイオン交換樹脂を除去した後、濾液にエタノール400部及び2−プロパノール800部を加えて15時間撹拌した。この液から析出した固体を濾過分取し、乾燥することにより、前記式(1)におけるR1がメチル、Xが式(2)で表される基であり、該式(2)中のR2及びR3が水素原子で表される本発明の化合物47.8部を得た。
λmax:513nm。
【0116】
[実施例2〜3]
(A)インクの調製
キサンテン染料としてC.I.アシッドレッド289、また、式(1)で表される化合物として実施例1で得られた化合物の両者を色素として用い、下記表3で示した各成分を配合してインク組成物を調整し、さらに0.45μmのメンブランフィルターで濾過することにより、評価用のインクジェットインクを得た。インクの調製に際し、水としてはイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHが8〜10になるように25%水酸化ナトリウム水溶液で調整し、総量100部になるように水を加えた。このpH及び加えた水の総量を、下記表3中では「aq.NaOH」と省略して記載した。
前記のようにして2種類の色素の配合比率を変えた2種類のインクを調整し、それぞれ実施例2及び実施例3とした。
また、下記表3中で使用した略号等は、以下の意味を表す。
AR289:C.I.アシッドレッド289。
NMP:N−メチル−2−ピロリドン。
IPA:イソプロパノール。
BuCt:ブチルカルビトール。
EDTA・2Na:エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム。
なお、下記表3中、「界面活性剤」としては、日信化学社製の商品名サーフィノールRTM104PG50を使用した。
【0117】
【表3】

【0118】
(B)インクジェット記録
各実施例で調製したインクを用い、インクジェットプリンタ(キヤノン社製、商品名:PixusRTMiP4500)により、下記2種類の被記録材(光沢紙1及び光沢紙2)にインクジェット記録を行った。
【0119】
光沢紙1:
セイコーエプソン社製、商品名:写真用紙クリスピアRTM(高光沢)。
光沢紙2:
ブラザー工業社製、商品名:写真光沢紙BP71G。
【0120】
インクジェット記録の際、100、85、70、55、40、25%の階調が得られるように画像パターンを作り記録物を得た。得られた記録物を試験片とし、下記するキセノン耐光試験を行った。キセノン耐光試験における反射濃度の測定は、各試験片の70%階調部分について行った。また、反射濃度は測色システム(商品名SpectroEyeRTM、X−right社製)を用いて測色した。測色は、濃度基準にDIN、視野角2度、光源D65の条件で行なった。
記録画像の各種試験方法を以下に記載する。
【0121】
[(C)キセノン耐光性試験]
各試験片をホルダ−に設置して、キセノンウェザオメータXL75[スガ試験機(株)社製]を用い、温度24℃、湿度60%RH、100klux照度で168時間照射した。試験前後の各試験片の反射濃度を上記測色システムにより測色し、色素残存率を(試験後の反射濃度/試験前の反射濃度)×100(%)で計算して求めた。結果を下記表4に示す。
【0122】
[(D)鮮明性の評価試験]
各試験片の100%階調部分について反射濃度の測定を行った。
鮮明性(C*)は、色度(a*、b*)から、C*=[(a*)2+(b*)21/2として算出した。
算出したC*値の結果を下記表4に示す。なお、C*値は大きいほど鮮明性に優れる。
【0123】
【表4】

【0124】
表4の結果より明らかなように、少なくとも1種類のキサンテン染料及び少なくとも1種類の前記式(1)で表される化合物を色素として含有する各実施例のインクは、高い鮮明性と耐光性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0125】
鮮明性が高く、耐光性にも優れた本発明のインク組成物は、各種の記録用、特にインクジェット記録用インクとして極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のキサンテン染料、及び、少なくとも1種類の下記式(1)で表される化合物又はその塩の両者を、色素として含有するインク組成物。
【化1】

[式(1)中、
1は水素原子、C1−C5アルキル基、ヒドロキシC1−C5アルキル基、シクロヘキシル基、又はシアノC1−C5アルキル基を表し、
Xは下記式(2)で表される基である。]、
【化2】

[式(2)中、
*は2つのアミド基との結合部位をそれぞれ表し、
2及びR3はそれぞれ独立に水素原子又はC1−C5アルキル基を表し、
2とR3は結合して、これらがそれぞれ置換する2つの炭素原子と共にC5−C10シクロアルキレン環を形成しても良い。]。
【請求項2】
キサンテン染料が、下記式(3)で表される染料若しくはそのカチオン位置の異性体、又はそれらの塩である、請求項1に記載のインク組成物、
【化3】

[式(3)中、
101〜R104はそれぞれ独立に、水素原子;C1−C10アルキル基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基よりなる群から選択される基を有するC1−C10アルキル基;フェニル基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、スルファモイル基、C1−C4アルキル基、C1−C4アルコキシ基及びハロゲン原子よりなる群から選択される基を有するフェニル基を表し、
105はスルホ基、カルボキシ基、又はC1−C4アルコキシカルボニル基を表し、
106は水素原子;C1−C10アルキル基;置換基として、ヒドロキシ基、カルボキシ基及びスルホ基よりなる群から選択される基を有するC1−C10アルキル基;スルホ基;カルボキシ基;スルファモイル基;カルバモイル基;又は、ハロゲン原子;を表し、
107及びR108はそれぞれ独立に水素原子、又は、C1−C10アルキル基を表し、
109-は、ハロゲンアニオン、ヒドロキシド、酢酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、硫酸アニオン、又はトルエンスルホン酸アニオンを表す。
但し、式(3)で表される染料が分子内で塩を形成するときは、R109-は存在しない。]。
【請求項3】
インク組成物中に含有する色素の総質量が、該インク組成物の総質量に対して、0.5〜20質量%である請求項1に記載のインク組成物。
【請求項4】
2及びR3がそれぞれ独立に水素原子、メチル基、又はR2とR3が結合して、これらがそれぞれ置換する2つの炭素原子と共に形成したシクロヘキシレン環である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
1が水素原子又はメチル基である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
1が水素原子又はメチル基、
2及びR3が水素原子である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項7】
式(3)で表される染料において、
101が、C1−C10アルキル基;又は、置換基として、スルホ基及びC1−C4アルキル基よりなる群から選択される基を有するフェニル基;であり、
102が水素原子又はC1−C10アルキル基であり、
103が、水素原子;C1−C10アルキル基;又は、置換基としてC1−C4アルキル基を有するフェニル基;であり、
104が水素原子又はC1−C10アルキル基であり、
105がスルホ基、カルボキシ基、又はC1−C4アルコキシカルボニル基、
106が水素原子又はスルホ基であり、
107及びR108がそれぞれ独立に水素原子、又は、C1−C10アルキル基であり、
109-がハロゲンアニオンである、請求項2乃至6のいずれか一項に記載のインク組成物。
但し、式(3)で表される染料が分子内で塩を形成するときは、R109-は存在しない。
【請求項8】
キサンテン染料が、C.I.アシッドレッド289、又はC.I.アシッドレッド52である請求項1乃至7のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項9】
水溶性有機溶剤をさらに含有する請求項1乃至8のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項10】
インクジェット記録に用いる請求項1乃至9のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のインク組成物の液滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法。
【請求項12】
被記録材が情報伝達用シートである請求項11に記載のインクジェット記録方法。
【請求項13】
情報伝達用シートが普通紙又は多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシートである請求項12に記載のインクジェット記録方法。
【請求項14】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインク組成物により着色された着色体。
【請求項15】
請求項11に記載のインクジェット記録方法により着色された着色体。
【請求項16】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のインク組成物を含有する容器が装填されたインクジェットプリンタ。

【公開番号】特開2012−36257(P2012−36257A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175589(P2010−175589)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】