説明

インク貯蔵容器

【課題】インク貯蔵容器におけるインク交換機能をコンパクトに実現し、インク貯蔵量を増大させる。
【解決手段】インクを貯蔵するインク貯蔵部に、内外間で空気流量を制御する空気流量制御部20を配置する。この空気流量制御部20は、インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で正負双方向の空気交換を行わせる連通多孔質の弁体22と、弁体22よりもインク側に載置されて、通気性及び撥液性を有する撥液膜体24を具備するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク貯蔵容器に関する。
【背景技術】
【0002】
インク貯蔵容器の例としては筆記具のインクタンクや、インクジェットプリンタのインク(タンク)カートリッジなどがある。これらは文字や画像を形成する筆記や印刷に消費されたインク量に対応して外気をタンク内に取込んで空気交換し、タンク内の圧力変化がインクの消費に悪影響を及ぼさないようにした機構とされており、その機構としては、外気の取込み口として単なる孔を形成したものや、必要に応じて通気する弁機構付きの通気路を形成したものを挙げることができる。
【0003】
しかし、外気の取込み口として単なる孔を設けたものでは、この孔からのインクが漏れてしまう可能性がある。また、筆記具においてもインクジェットプリンタにおいてもペン先やプリンタヘッドなどのインク吐出手段にはインクの重さによる水頭圧(液面よりある高さにおける水平な単位面積を底面とし、液面まで立つ液柱の底面に及ぼす力に等しい圧力)がかかるため、外気の取込み口として、単に孔を開けたものや気体は通すが液体は通さない膜を配置しただけのものでは、インクタンク、またはインクカートリッジの内部が大気圧と同一になるため、前述の水頭圧によってインクが吐出口から吹き出してしまう可能性があった。そこで、スポンジなどのインク吸蔵体をインク吐出口上のインク貯蔵部の少なくとも一部に配置することによってインクを保持する必要がある。
【0004】
ところが、このようにスポンジなどのインク吸蔵体によってインクを保持したのでは、インク吸蔵体を有しない空のインク貯蔵部に比べてインク保持量が少なくなり、それだけ同体積におけるインク量の減少による印字数が少なくなる。顧客は頻繁にインク貯蔵器を交換しなければならない。さらに、市販品では通常、黒インク貯蔵容器のインク量を他のカラーより多くしているが、それは単に貯蔵容器の大型化で実現している。これは、プリンタサイズの大型化をもたらしている。このように従来のインク貯蔵容器は様々な無駄を生じさせていることから、それに対して小型弁体を用いれば良いとの発想の下、多くの改善技術が提案されてきた。
【0005】
例えば、必要に応じて空気を通気する弁機構付きの通気路を、貯蔵容器の上蓋部に実質的に内蔵するように形成したインク貯蔵容器が提案されている。このインク貯蔵容器は、インク吸蔵体を容器内部に配置したものと比べてインク保持量が少なくなってしまうことを回避し、インクが吹き出てしまうこと防止できる。
【0006】
従来、上記の空気を通気する弁機構付きの通気路を有する技術として、例えば、特許文献1に記載のものがある。この特許文献1に記載のものはインクカートリッジに係り、蓋取付部に形成した凹状の弁取付部に、連通多孔質体である弁体を設け、その上から空気通孔を有する蓋をして収納するとともに、孔部の下方にスリット状の開口を有する突出部を設けている。また、蓋を超音波溶着により蓋取付部に接合固定することで、弁体を弁取付部に封入した構成のものである。
【0007】
係る構成により、複数の弁蓋を配置した通孔を形成した弁体として、基本的に弾性材料を利用して連通多孔を形成し、この連通多孔を圧縮によって見かけ上閉塞した状態のものを使用するものであり、微少な圧力変換から大きな圧力変換までの両方に適切なインク吐出制御が可能となるようにしている。
【0008】
なお、上記の特許文献2には、通気性は有するものの、インクの通過を阻止、或いは防止するように、インク液面側の面に撥液処理を施した通気膜が一方向弁の下部に設置された構成を有するインクタンクが開示されている。係る通気膜により、インクが上方へ浸入して一方向弁に付着するのを阻止するようにしている。
【特許文献1】特開2001−277777号公報
【特許文献2】特開平8−187874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載のインク貯蔵器に使用される弁体は、突出部の側壁にスリット状の開口部が形成され、これによりインクが弁体に付着することを抑制している。このため、弁体はインク液面側と常に連通状態を呈するので、突出部が存在していても、プリント中の往復運動やインク貯蔵容器の持ち運び時の姿勢によっては、インクが弁体に接触ないしは付着してしまう。インクが接触等すると通気する連通多孔がインクによって塞がれ、通気性能が低下する。このようにインクが弁体に接触してしまうのであれば微少な圧力変化から大きな圧力変化までの領域に亘って適切なインク吐出制御をすることに支障が生じてしまう。この支障によって通気の適切な制御ができない場合、例えば、インク貯蔵容器がインクジェットプリンタ用カートリッジとして使用される場合には、インク切れ、インク不足によるカスレなどの要因、また、その逆にヘッドからのインク漏れ、インクの過剰吐出などの要因となる場合がある。
【0010】
また、蓋が蓋取付部に超音波溶着されるときに、弁体が熱影響を受けて硬化し、弁体自体に熱的変形に起因する応力を受けて変形を生じやすい。その結果、弁体の極微細構造の連通多孔が内外空気の圧力差に応じて弾性変形しなければならないという本来具有すべき空気流量制御機能が低下する問題もある。また、弁体自体はインクを透過しなくても、弁体が適切に保持されないと、弁体の周囲からインクが漏れだしてしまうという問題があった。
【0011】
ところで上記特許文献1に開示されている弁体は、基本的には極めて優たものである。小型で双方向圧力制御ができ、板状弁やゴム製釣鐘状弁のように、塵埃付着による弁機能不全も起さない。しかし、唯一の欠点は液付着による実効面積のばらつきである。そこで、特許文献1でもいくつかのこれに対する対策と思われる手段を提供している。たとえば、弁自体を撥液性材料で製造するか、撥液性材料で製造しない場合では製造後に撥液処理することで、撥液性を有する弁体として製造する。これによりインクが弁体の通気する連通多孔を塞ぐことを防止する。しかし、これは以下の理由などから困難である。すなわち、弁体自体をフッ素系材料など撥液性の材料で製造するには弾力性に優れた連通多孔体や圧縮多孔体を製造することは困難である。また、撥液性材料で製造しない場合であって、製造後に撥液処理し撥液性弁として製造する場合、諸環境変化(例えば、温度変化、圧力変化、衝撃、振動、経時などの環境変化)に対して、密着度の高い処理は困難であり、剥離し難い撥液膜を付した連通多孔体や圧縮多孔体を製造することは困難となる問題もある。
【0012】
また、本出願時では未公知であるが、特許文献1の記載に従って、弁体に対して撥液処理を施し、側壁にスリット状の開口部を持つ突出部を設けた場合の本発明者らによる試験結果は、初期は、弁のごく浅い部分にわずかな液体が付着し、その後、弁の開閉が繰り返されるにつれてその液体が弁内部へ侵入し、最終的には、弁の開閉を阻害して性能のばらつきや低下をもたらすことを明らかにしている。また、弁のごく浅い部分にわずかな液体が付着した状態で、インク貯蔵容器内部の温度が上昇して内圧が高まると、この内圧によっても液体は弁の内部へ侵入してしまう。長時間の間隔を置いた間欠使用においても、弁内部への液体の侵入が進み、ついに弁の開閉を阻害する。この結果、従来、十分であると考えられていた弁に対する撥液処理や突出部等の進入抑制機構は、弁への液体侵入抑制にはなるものの、温度変化や圧力変化などの長期的な環境変化に対して、弁に対する液体侵入を完全に防止したり、弁の機能を長期的に維持することは困難であることを明らかにしている。この試験により、本発明者らは、特許文献1のような撥液処理等だけでは不充分であり、「弁への液体侵入完全防止」という新思想が必要であることも見いだしている。
【0013】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、インク貯蔵容器におけるインク貯蔵用空間の利用効率を極大化し、加えてインクなどが弁体に付着ないしは接触することを確実に阻止する一方で、弁体の組み込み過程において弁体そのものが熱的影響に晒されることなくインク貯蔵容器に組み込むことで、弁体の通気制御機能(空気流量制御機能)の傷害となることを防止し、より弁体を通じて通気の制御性を維持、向上させることができ、微少な圧力変化から大きな圧力変化までの範囲に亘って適切なインク吐出制御を確実に行えるインク貯蔵容器を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の手段によって、上記課題を解決したものである。
【0015】
上記目的を達成する本発明は、インクを貯蔵するインク貯蔵部に、前記インク貯蔵部の内外間で空気流量を制御する空気流量制御部を備えるインク貯蔵容器であって、前記空気流量制御部は、前記インク貯蔵部の正負双方向の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる連通多孔質の弁体と、前記弁体よりも前記インク側に載置されて、通気性及び撥液性を有する撥液膜体と、を具備することを特徴とするインク貯蔵容器である。
【0016】
本発明によれば、弁体の空気交換機能と、撥液膜体の撥液機能を分離・独立させているので、双方の機能を、相乗的に長期に亘って持続させることが可能となる。具体的には、撥液膜体の撥液機能によって弁体に対するインク等の付着を回避することで、弁体自体が空気交換機能を持続させることができる。一方、弁体による内圧変化に応じた空気交換機能は、内圧の急激な変化を抑制することにつながるので、撥液膜体を通過する空気による撥液膜体の変形や損傷を抑制することができ、撥液機能を持続させることができる。また、仮に弁体自体に撥液剤を塗布したりすると、弁体の空気交換機能が不安定となったり、弁体の機能が経時的に変化してしまう場合があり、同様に、撥液剤の撥液機能も弁体の弾性変形によって劣化する場合がある。そこで本発明のように、弁体と撥液膜体を独立分離させることで、それぞれの品質を高いレベルで長期間安定させることが可能となる。
【0017】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記弁体は、弾性変形可能であることを特徴とする。
【0018】
このようにすることで、弁体は、内圧変化をその弾性変形量によって検知することで、空気交換量を自発的に制御することが可能となる。
【0019】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記弁体の空気通過方向両外側には、前記弁体が弾性変形するための空隙が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この空隙により、弁体が外部からの接触を受けることなく、弾性変形することが可能となる。勿論、撥液膜体も弁体から離れて配置されることになる。インク貯蔵部の内圧が外気圧より高い場合、弁体はインク貯蔵部の外側に向かって弾性変形する。インク貯蔵部の内圧が外気圧より低い場合、弁体はインク貯蔵部の内側に向かって弾性変形する。この結果、内圧の変化を弁体が正確に検出することができ、空気交換制御を適切に行うことができる。
【0021】
仮に弁体の一部を局所的に挟持すると、弁体の自然な弾性変形が阻害され、内圧変化を正確に検出することが困難となる。本発明では、環状の押圧リング等によって弁体の周縁全域をバランス良く保持することが好ましく、弁体が、内圧変化に応じて適切に変形することが可能となる。
【0022】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記弁体は、厚みが0.5mm以上で5.0mm以下のシート材であることが好ましい。
【0023】
0.5mm以上であると、連通多孔質からなる弁体を保持する部分の剛性が高まってくるので、そこからの空気の移動(漏れ)量を低減することが可能となる。また、弁体が0.5mm以上になると、その厚みを利用して、圧力変化に応じて空気交換機能を発揮する弁体を作製が容易となり、特に、微圧での空気交換制御も可能となってくる。一方、5.0mm以下にすると、空気の流通路が過度に複雑になることが防止され、適切な通気路長となるので、空気交換の応答が素早くなる。この結果、インクの供給を素早く行うことが可能となり、印字カスレを低減できる。
【0024】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記弁体の外寸は、4mm以上で20mm以下であることが好ましい。
【0025】
4mm以上の場合、弁体の中央の空気交換部の面積が大きくできることから、周囲の保持部分からの規制の影響が小さくなり、圧力変化に応じた適切な弾性変形が可能となってくる。これにより、インク貯蔵容器内の微圧変化に対して空気交換の応答性が向上する。一方、20mm以下にすると、弁体の中央の空気交換部の面積が大きくなりすぎることを抑制できる。これにより、インク貯蔵容器内の微圧変化に対して、弁体の空気交換領域の全体がたわんでしまったり、変形してしまったりすることを防止し、弁体が微圧変化に対して適切に弾性変形して、空気交換の応答性を高めることが可能となる。又、このようにすることで、上蓋の狭い空間に弁体を設置することが可能となる。
【0026】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記撥液膜体は、フッ素樹脂又はフッ素ゴムから構成されていることが好ましい。
【0027】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記撥液膜体は、孔径5μm以下で0.01μm以上の複数の微細孔を有し、かつ前記撥液膜体の臨界表面張力を25dym/cm以下に形成されたことが好ましい。
【0028】
孔径が5μm以下にすると、落下や振動などの衝撃で、インクが孔の内部に入り込むことを抑制でき、空気交換機能を安定して発揮することが可能となる。一方、0.01μm以上にすると、空気交換の応答性が向上して、インクの供給がスムースになり、印字カスレを低減することができる。
【0029】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記空気流量制御部は、上下両面に平坦な面を有し、かつ、中央に貫通孔を形成した環状の押圧リングを備え、前記撥液膜体、前記押圧リング、および前記弁体が挟圧保持されることが好ましい。
【0030】
空気流量制御部としての構成要素である、撥液膜体、押圧リング、弁体が三層の積層状態となる。これにより、所定の平滑度を有する押圧リングと撥液膜体との間の接触面によって撥液膜体が平坦化され、インクが漏れ出すことを抑制できる。一方、弁体の周縁は、押圧リングによって環状に保持されることになるので、空気交換機能を安定して発揮することができる。すなわち、弁体と撥液膜体の間に押圧リングを介在させるだけで、弁体の凹凸が撥液膜体の気密性に影響を及ぼすことを回避し、一方で、弁体の保持と弾性変形用の空隙の確保を簡易に両立させることができる。
【0031】
また、撥液膜体、押圧リング、弁体を挟圧保持することで、撥液膜体の上下両面における相手側部材との間の接触面にはそれぞれ均一な面圧が付加される。とりわけ、弁体が弾性体となって、押圧リングを撥液膜体側に押しつけることになるので、各部材や収納スペースの寸法誤差を吸収することも可能となり、撥液膜体と押圧リングの密着度が極めて高い状態に維持される。
【0032】
なお、この前記押圧リングは、金属で形成されることが好ましい。金属素材とすることで押圧リングの上下両面の平滑度が高めることが可能になるからである。
【0033】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記空気流量制御部は、前記弁体の下面側に当接し、かつ、中央に解放孔を形成した環状の下側支持リングを備え、前記下側支持リングの前記解放孔の面積は、前記弁体の上面側の解放領域の面積よりも狭く設定されていることが好ましい。
【0034】
このようにすると、弁体の外側の開放領域よりも、弁体の内側の解放領域である解放孔の方が狭くなる。弁体は、インク側(容器内側)には弾性変形し難く、反インク側(容器外側)には弾性変形が容易になる。このように弾性変形量を非対称にすることで、容器内側から容器外側への通気を容易にし、容器外側から容器内側への通気を抑制することが可能となり、インク貯蔵部内を一層低圧にすることが可能になる。
【0035】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記押圧リングは、前記弁体におけるインク側に当接するように配置され、前記押圧リングの前記貫通孔の面積は、前記弁体の反インク側の解放領域の面積よりも狭く設定されていることが好ましい。
【0036】
撥液膜体の機密性を高める押圧リングを有効活用して、上記下側支持リングと同様に弁体の弾性変形量を内外で非対称にできるので、空気流量制御部をコンパクトにすることが可能となる。
【0037】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、インクを貯蔵するインク貯蔵部における上面部には物体収容部が設けられ、前記物体収容部内には、前記撥液膜体を着座させる撥液膜体着座部が形成され、前記物体収容部の底部には通気口が形成され、前記物体収容部に前記空気流量制御部が装填されることが好ましい。
【0038】
係る構成によれば、空気流量制御部が、インク貯蔵部の上面にコンパクトに収容されるので、インク貯蔵部内に貯留できるインク量を大幅に増やすことが可能となる。
【0039】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記撥液膜体着座部には、前記撥液膜体と密着する環状の平滑面を形成することがが好ましい。
【0040】
係る構成によれば、撥液膜体着座部も平滑面を形成しているので、撥液膜体の上下面における相手側部材との間の各接触面はその密着度が極めて高くなる。このため、撥液膜体にインクが付着しても、そのインクが上記の各接触面に浸入することが困難となる。特に、撥液膜体はその濡れ性が低いため、平滑面に密着させると高いシール機能を得ることができ、インクの進入を防止できる。つまり、この撥液膜体を用いることで、中央部分によって通気性と撥液性を確保し、その周囲ではシール特性を確保することができる。なお、この撥液膜体の素材としてはテフロン(登録商標)が好適である。テフロン膜体は柔軟性を併せ持つので、平滑面との密着性が増し、シール性と撥液性を高いレベルで両立させることができる。
【0041】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、前記撥液膜体着座部は、環状の窪みで形成され、かつ、オレフィン系樹脂によって構成されることが好ましい。
【0042】
係る構成によれば、オレフィン系樹脂自体も濡れ性が低いため、撥液膜体着座部の平滑面にインクが進入することを抑制できる。また、環状の窪みで形成された撥液膜体着座部に撥液膜体が位置ズレすることなく受け止められるので、空気流量制御部の組み込み作業を能率的に行うことができるようになる。
【0043】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記物体収容部の上面側にキャップが装着されることが好ましい。
【0044】
係る構成によれば、物体収容部内に空気流量制御部の組み込んでいき、最後にキャップによって覆うことで、空気流量制御部の脱落を防止することが可能となる。また、空気流量制御部の組み込み作業も極めて容易になる。
【0045】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記キャップの天井部に複数の通気口が設けられ、前記天井部の下側面には、前記弁体を支持する為の環状の窪みとなる弁体着座部が設けられることが好ましい。
【0046】
係る構成によれば、弁体着座部に弁体が支持されるので、キャップと物体収容部の底部との間に空気流量制御部をスムーズに装填して収納できるので、空気流量制御部の組み込み作業を能率的に行うことができるようになる。また、キャップの天井部に複数の通気口が設けられるので、インク貯蔵容器を、プリンターの記録装置におけるキャリッジに取り替え交換して装着する場合に、誤って手に付着したインクがキャップの天井部の弁体着座部に設けた或る通気孔の一個に付着したり、何らかの水滴が通気孔の一部に付着したりしても、残りの通気孔により内外気の通気性能を確保できる。空気流量制御部の流量制御機能を良好に維持できるようになる。また、弁体着座部は、環状の窪みで形成されるので、弁体着座部に弁体が位置ズレすることなく受け止められるので、組み込み精度を高めることが可能となる。
【0047】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記キャップは、天井部の周縁から軸方向に延在する筒状の周面部を有しており、前記キャップを前記物体収容部に装着する際に、該周面部の下端が、前記物体収容部の前記底部に当接してストッパとして機能することが好ましい。
【0048】
係る構成によれば、キャップの周面部における下端が底部に当接するように形成されているので、キャップを押し込んで空気流量制御部を装填するとき、押し込み力が強すぎても上記下端がストッパとして機能する。このため、キャップにより弁体が不必要に圧縮されたり、引張りをうけたりすることを阻止でき、弁体にいびつな弾性変形を来すことがなく、弁体の空気流量制御機能を損ねることを未然に防止できるようになる。
【0049】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記キャップの前記周面部における内面側の付け根に、環状の薄肉構造によって形成される弾性ヒンジを設け、前記キャップの前記周面部の外面に係合部を形成し、前記物体収容部の内周壁には、前記係合部に嵌合可能な被係合部を形成することが好ましい。
【0050】
係る構成によれば、天井部の内側に形成された弾性ヒンジにより、周面部はその付け根を基部として撓み変形し易くなる。このため、キャップを凹部に押し込んで嵌め込むとき、キャップを介して弁体に押し込み時の力を作用させることなく、スムーズに押し込むことができる。また、弁体を保持する弁体着座部(天井部)の変形も少なくすることができるので、弁体はいびつな弾性変形をすることなく、換言すると、弁体の受ける弾性変形を最小限に抑制できる。すなわち、弁体は本来有しなければならない空気流量制御機能を何ら損ねることのない状態で装填でき、無用なインクの漏出を回避できるようになる。
【0051】
また、キャップ側の係合部は凹部側の内周壁の被係合部に嵌合するので、キャップは凹部に対して軸方向に抜け出すことがなく、また、回転することも阻止される。この結果、キャップは凹部に遊びのない状態で凹部に嵌め込められるため、弁体、押圧リング、および撥液膜体で形成される空気流量制御部に外力を及ぼすことなく安定して保持され、弁体の空気流量制御機能を損ねることを回避できるようになる。
【0052】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記係合部および前記被係合部で形成される嵌合部を、前記周面部の軸方向に複数段で形成し、前記複数の嵌合部のうち、一の嵌合部を軸方向の抜けを阻止し、他の嵌合部を周方向の回転を阻止することが好ましい。
【0053】
係る構成によれば、複数個ある係合部と被係合部とでなす嵌合部うち、一つの嵌合部では、軸方向の抜けを阻止するように機能し、また、別の嵌合部では、周方向の回転を阻止するように機能するので、空気流量制御部をより一層安定的に保持できるようになる。
【0054】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記物体収容部の前記底部に穿たれる前記通気口の内縁には、下方に向かうに応じて末広がり状に拡開するテーパ面が形成されることが好ましい。
【0055】
係る構成によれば、撥液膜体下面やテーパ面にインクが付着しても、インクはテーパ面を伝わって容器内部に滴下し易くなり、撥液膜体へのインク付着量を常に抑制できるようになる。
【0056】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、少なくとも前記テーパ面には撥液処理が施されていることが好ましい。
【0057】
係る構成によれば、一層、テーパ面にインクが残留することを低減することができ、撥液膜体へのインクの付着を抑制することができる。
【0058】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記底部に穿たれる前記通気口の下側には、前記通気口に向かうインクの移動を阻害する円盤状の緩衝部が配置され、前記緩衝部における前記通気口側には、中央が前記通気口側に突出する円錐面が形成されることが好ましい。
【0059】
係る構成によれば、緩衝部によってインクが空気流量制御部に直接的に流れ込むことが抑制される。また、テフロン膜下面等に付着したインクが緩衝部に滴下した際も、この円錐面を伝って容器内部に戻りやすくなり、インクが留まることを抑制できる。
【0060】
なお、インク貯蔵容器の前記物体収容部は、前記インク貯蔵部における上面部に形成される凹部であることが好ましい。このようにすると、インク貯蔵部における上面部側から、順番に各部材を落とし込みながら組み立てが可能となるので、空気流量制御部の組み込み作業を能率的に行うことができるようになる。
【0061】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記弁体の上面から前記撥液膜体の下面までの距離が20mm以下且つ1.5mm以上であることが好ましい。
【0062】
係る構成によれば、空気流量制御部が小さく構成されるので、インク貯蔵部の内部空間を広げることが可能となる。
【0063】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記弁体は、連通多孔の弾性材料を圧縮成形した圧縮体であることが好ましい。
【0064】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記弁体の厚さに対して、前記弁体におけるインク側に解放されている領域の最小外寸が2倍以上に設定されていることをが好ましい。
【0065】
このようにすると、弁体が、空気通過方向に向かって柔軟に弾性変形することが可能となり、小さな内圧変化に敏感に反応して、空気交換を行うことが可能となる。具体的には、小さな内圧変化によって弁体がわずかに延びて、それにより弁体内の多孔質が広がって空気交換路が開通して通気する。
【0066】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、前記弁体の厚さに対して、前記弁体における前記インク貯蔵部の内側に解放されている領域の最小外寸が15倍以下に設定されていることが好ましい。
【0067】
このようにすると、弁体が、空気通過方向に向かって一層柔軟に弾性変形することが可能となり、内圧変化に対する応答性を高めることが可能となる。
【0068】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、インクジェットプリンタ用インクカートリッジであることを特徴とする。
【0069】
係る構成によれば、インクジェットプリンタ用のインクカートリッジを安価に製作できるようになる。
【0070】
上記目的を達成するインク貯蔵容器は、上記発明において、インクジェットプリンタに対して前記インクを排出する際の内部圧力が、−20mmHO〜−350mmHOに設定されることが好ましい。
【0071】
係る構成によれば、インクジェットプリンタにおける印字中に、カードリッジ内を適切な負圧に維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0072】
本発明によれば、インク貯蔵容器の内部空間を有効活用することが可能となる。例えば、インク貯蔵容器の中に、インク吸蔵体やその他の臓物を置かなくても、インク貯蔵容器の内部容積全体をインク貯蔵用途に利用可能とする。この結果、市販されている従来品に比して、インクカードリッジの取り換え頻度を少なくすることが可能となる。同様に、同一のプリント枚数を実現するのに、より小型のインク貯蔵容器で行うことが可能となる。
【0073】
また本発明によれば、撥液性を有する撥液膜を、弁体とは別に設けることで、弁体をインクから完全に遮蔽することが可能となり、長期間に亘って安定した空気交換機能を発揮できるようになる。
【0074】
また、本発明は、インクなどが弁体の通気制御の障害となることを防止し、安定した空気流量制御機能を確保でき、微少な圧力変化から大きな圧力変化までの両方に適切なインク吐出制御が可能となり、しかもインク貯蔵容器を安価に製作できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
以下、本発明の実施形態に係るインク貯蔵容器を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態におけるインク貯蔵容器は、インクジェットプリンタ用のインクカートリッジに適用した場合を例に挙げて説明する。
(インク貯蔵容器)
【0076】
図1には第1実施形態に係るインクジェットプリンタ用のインクカートリッジたるインク貯蔵容器100の断面模式図が示される。本第1実施形態に係るインク貯蔵容器100は、内部11にインクを貯蔵し、上面部12,底面16を含めたケーシング部とで形成されるインク貯蔵部10と、上面に設置され、外部からインク貯蔵部10の内部への通気口14における空気流量を制御する空気流量制御部20と、底面16に設置され、インク貯蔵部10の内部11に貯えられたインクがインク吐出口18からの吐出を制御するインク吐出部30とを含む構成である。
【0077】
なお、本第1実施形態では、空気流量制御部20とインク吐出部30とがインク貯蔵部10を介してインク貯蔵容器100の対面となるように好適例として配置されているが、これに限られることはなく空気流量制御部20とインク吐出部30との配置は決められる。さらに、本第1実施形態では、インクジェットプリンタ用のインクカートリッジであるので、インク吐出部30が必要であるが、その他の用途に用いられるものであれば、インク吐出部30は必要でない場合がある。なお図1では、空気流量制御部20はインク貯蔵部10の上面に突出した部分を含めた図示となっているが、空気流量制御部20は、インク貯蔵部10の上面部12中により埋没し、または完全に埋没し、インク貯蔵部10の上面部12に突出した部分をなくすようにするとスペース上の都合などから好適である。
(インク貯蔵部)
【0078】
インク貯蔵部10の内部11は、ケーシングである上面部12に通気口14,底面16にインク吐出口18を備え、通気口14およびインク吐出部18以外はケーシングによって密閉された容器となっている。通気口14には通気口14の通気量を制御する空気流量制御部20が備えられ、インク吐出口18にインク吐出量を制御するインク吐出部30が備えられた構造である。
【0079】
本第1実施形態ではインク保持量の減量の原因となるインク貯蔵体を含ませないことが好適であることから、空の空間中にインクを貯蔵する構造であるが、これに限られることなくインク吸蔵体をインク貯蔵部10の一部または全部に用いてもよい。
(空気流量制御部)
【0080】
図2には空気流量制御部20およびその周辺の断面模式図が示される。図2A〜図2Fには後述の空気流量制御部20を構成する部材の上面模式図と上面模式図における点線で切断した面の断面模式図が示される。
【0081】
空気流量制御部20は、複数の微細孔が連通している弾性材料からなり、外部と前記インク貯蔵部10との圧力差に応じてこの複数の微細孔を通過する空気量が変化し、この変化によって外部からインク貯蔵部10への空気流量を制御する機能を有する弁22と、弁22とインク貯蔵部10との間に設けられ、弁22へインクが至ることを防止する防インク膜24とを含む構造である。さらに本第1実施形態において空気流量制御部20は、防インク膜24と弁22との間に空気層形成部材としての中空部を有する平板(押圧リング)26を含み、平板26は防インク膜24と弁22とで挟持された構造となっている。さらに、弁22と外部の間に設けられ、中空部を有する平板であって弁22へ水分が至ることを防止する防水膜28も備えられている。本第1実施形態では防水膜28と平板26が弁22を押圧して固定する固定部材として機能する構造となり、防水膜28と平板26は、上蓋(キャップ)21と台座部23(通気口の端部25)によって押圧される構造となっている。上蓋21は、台座部23およびインク貯蔵部の上面部12とボルト孔27を介してボルトにより締結され、このボルトによる締結によって上蓋21から押圧力とこれに伴う端部25からの反作用が防水膜28と平板26を介して弁22を均一に押圧する構造となっている。
【0082】
弁22は、複数の微細孔が連通している弾性材料からなり、外部と前記インク貯蔵部との圧力差に応じてこの複数の微細孔を通過する空気量が変化し、この変化によって外部から前記インク貯蔵部への空気流量を制御する機能を有するものであるが、その材質や構造等は特に限られることがなく、この機能を有する弁は上記特許文献1などで開示されたものや市販で入手することができる。弁22の形状は略円板形状の平板である。また、弁22は、その厚みが0.5mm以上で5.0mm以下に設定されている。弁22の厚さが0.5mm以上であると、弁22を保持する外周部分の剛性が高まってくるので、そこからの空気の移動(漏れ)量を低減することが可能となる。また、弁22が0.5mm以上になると、その厚みを利用して、圧力変化に応じて空気交換機能を発揮する弁体を作製が容易となり、特に、微圧での空気交換制御も可能となってくる。一方、厚さを5.0mm以下にすると、弁22内の空気の流通路が過渡に複雑になることが防止され、適切な通気路長となるので、空気交換の応答が素早くなる。この結果、インクの供給を素早く行うことが可能となり、印字カスレを低減できる。また、弁22の外寸(円板の直径)は、4mm以上で20mm以下に設定されている。外寸を4mm以上にすると、弁22の中央の空気交換部の面積が大きくできることから、周囲の保持部分からの規制の影響が小さくなり、圧力変化に応じた適切な弾性変形が可能となる。これにより、インク貯蔵部10内の微圧変化に対して空気交換の応答性が向上する。一方、外寸を20mm以下にすると、弁22の中央の空気交換の面積が大きくなりすぎることを抑制できる。これにより、インク貯蔵部10内の微圧変化に対して、弁22の空気交換領域の全体のたわんでしまったり、変形してしまったりすることを防止し、弁22が微圧変化に対して適切に弾性変形して、空気交換の応答性を高めることが可能となる。又、このようにすることで、上蓋の狭い空間に弁22を収容することが可能となる。
【0083】
弁22は、本第1実施形態では圧縮体として、圧縮した場合に通気性がないようにしている。すなわち弾性材料からなる連通多孔体を通気性がなくなるまで圧縮して、圧縮多孔体を作ることで空気流量制御機能をより発揮できるように加工している。このような圧縮多孔体では、内部において、連通多孔体を構成している弾性体が押し潰され折り重なってできた不定形の空間が多数形成されているが、圧縮された状態では通気性がなくなる。ところが、圧縮多孔体内で形成された多数の不定形の空間は連通されているので、内外の圧力差が生じた場合、弁22が延びることによって生じた所定の圧力差以上によって、外部から圧縮多孔体の内部へと空気が押し込まれ、空気は、圧縮多孔体内にネットワークされた空間を結んでいる通気孔を押し広げながら、弁を変形させ、圧縮多孔体の反対側、すなわちインク貯蔵部10側へ移動することで通気性を生じる。この通気量(空気流量)は、圧縮多孔体内にネットワークされた空間の通りやすさによって決められるので圧力差が大きい場合には弁22は大きく伸び、圧縮多孔体内にネットワークされた空間中を空気が通りやすくなり、通気量は大きくなる。一方、所定の圧力差以上であって圧力差が小さい場合には弁22は小さく伸び、圧縮多孔体内にネットワークされた空間中を空気が通る量は少なくなり、通気量は小さくなる。弁22による通気によって圧力差が減少した場合、弁22も縮み、通気量が少なくなる。さらに所定の圧力差未満となった場合、弁22が再び圧縮されるため弁22の通気性はなくなる。このように圧力差の大きさに応じて通気量も応じるので迅速で適切なインク貯蔵部10内の圧力を一定化する圧力調整が可能となる。
【0084】
また、この弾性変形機能を十分発揮するために、弁22は、その厚さTに対して、弁22におけるインク側に解放されている領域の最小外寸Wが2倍以上に設定されている。具体的には、厚さTに対して最小外寸Wが15倍以下に設定されている。このようにすると、弁22が、空気通過方向に向かって柔軟に弾性変形することが可能となり、小さな内圧変化に敏感に反応して、空気交換を行うことが可能となる。例えば、内圧が微少に低下すると、弁22がわずかに内側に延びて、それにより弁22の多孔質が広がって空気交換路が開通して、内側に向かって通気する。
【0085】
外部(大気)とインク貯蔵部10側の圧力差がどの程度で弁22の通気性を生じさせるようにするかは、連通多孔、圧縮の程度などを適宜選択して決めればよいが、例えば、圧力差が20mmHO未満のときは通気性が無く、圧力差が20mmHO以上のときは通気性が有るように圧縮するようにすると好適である。なお、この空気交換機能に関しては、インクジェットプリンタに対してインク貯蔵容器100がインクを排出する際の内部圧力が、−20mmHO〜−350mmHOに設定されることが好ましい。インクジェットプリンタにおける印字中に、カードリッジ内を適切な負圧に維持することが可能となるからである。
【0086】
弁22を構成する弾性材料は複数の微細孔を有するもので伸びた状態でこの微細孔を通過するものであれば足りるが、例えば、ポリプロピレン、各種ゴム、各種エラストマーを挙げることができる。連通多孔孔質体の場合には、ゴム及び/又はプラスチック原料に不活性ガス、分解性発泡剤、揮発性有機液体を混合し、内部に気泡を形成することにより発砲させて連通多孔を形成したものや、ゴム・プラスチック原料に炭酸カルシウムなどの無機粒子を混練りしたものを板状に形成した後、無機粒子を溶出して連通多孔を形成したもの等が挙げられ、前記ゴム及び/又はプラスチック原料としては、弾性材料として、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ネオプレンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。中でも特に、液体に対しての耐久性や、連通多孔質体の形成しやすさ、生産性等を考慮するとエーテル系ポリウレタン樹脂などが好適である。
【0087】
弁22を構成する弾性材料は圧力差が働くと伸び、通気すると圧力差は減少し、ついには元の状態に戻り通気は無くなるという繰り返しによっても、常にはじめの圧縮された通気性のない状態が維持されると好適である。このためには圧縮体であると圧縮永久ひずみ特性が優れていることが好適である。他の特性としては、さらに弁22のヤング率が1MPa以上5000MPa以下であることが好適である。また、弁22はアスカーF型硬度計による硬度が30以上100未満であることが好適である。
【0088】
弁22は、圧縮前の単位長さ当たりの孔数が4個/cm以上1000個/cm以下のものとすることによって、内圧調整を容易にすることができやすい。更に、圧縮を、加熱や高周波による発熱を付与したことにより、成形したものが、厚み8mmの盤状体を検体としたときのアスカーC型硬度計による硬度が20以上100未満であることが望ましい。この圧縮は圧縮率を圧縮前の材料の厚みの5%以上40%以下とすることによって圧力差が所定値未満の場合に確実に閉塞されたものとしやすい。
【0089】
弁22を空気制御部20に設置する方法は、平板26上に弁22を載せ、その上から中空形状の平板たる防水膜28を載せることで固定する。このようにして固定することで簡易に設置することが可能となる。本第1実施形態では平板26と同様に平板の防水膜28によって広い面積で弁22を押圧しているので均一に押圧でき、弁22の伸び度合いが過剰となり、通気量が過剰となったりすることを防止することができる。
【0090】
防インク膜24は、本第1実施形態では好適であるため通気性の撥液性材料を用いているがこれに限られることなく、防水性材料、弁22に対してインク成分が接触することを防止する膜であれば足り、臨界表面張力が大きい材料であってもよい。また通気性は、膜が通気口14を全体を塞がず少なくとも一部が貫通している場合については必要ではない場合がある。
【0091】
本第1実施形態で用いられる撥液性材料は、それ自体通気性を有する材料であれば足りる。特に臨界表面張力が25dyn/cm以下である撥液性材料であると好適である。そのような材料として、各種樹脂膜、無機膜が用いられるが、フッ素樹脂、フッ素ゴムなどを好適に用いることができ、ポリテトラフルオロエチレンを用いるとさらに好適である。
【0092】
防インク膜24は、通気性を考慮して連通している複数の微細孔を有し、複数の微細孔の孔径は5μm以下で0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以下とすると好適である。孔径を5μm以下にすると、落下や振動などの衝撃で、インクが孔の内部に入り込むことを抑制でき、空気交換機能を安定して発揮することが可能となる。一方、0.01μm以上にすると、空気交換の応答性が向上して、インクの供給がスムースになり、印字カスレを低減することができる
【0093】
防インク膜24を空気流量制御部20に設置する方法は、台座部25上に通気口14を覆うように載せその上から平板26を載せることで固定する。このような固定方法であれば、温度変化、圧力変化、衝撃、振動、経時などの環境変化を伴うことなく、また、接着剤によって接着する必要もなく、ただ載置すればよいだけなので簡易であり容易である。
【0094】
平板26は略円板形状で中空部も略円筒状の貫通孔であり、所謂ドーナツ型形状の平板である。平板26は防インク膜24と弁22の間に空気層29を形成する。この空気層により、例え防インク膜24を通過しても空気層29があるのでより弁22にインク貯蔵部10に貯えられたインクが達することを防止できるので好適である。なお、本第1実施形態では所謂ドーナツ型形状の平板を例示したがこれにかぎられることなく、空気層29を形成できる構造のものを用いて代用することが可能である。すなわち防インク膜24と弁22の間に空気層形成できる部材形状、配置であれば代用することが可能である。本第1実施形態では上述の通り、弁22を均一に押圧するので好適であることから中空略円盤形状の平板を用いた。
【0095】
防水膜28は、通気性を確保できる防水性材料であればよく特に限られることがない。勿論フッ素樹脂などの撥液性材料であってもより。本第1実施形態では中空略円盤形状の平板(Oリング)を用い、空気層を形成させることで防水性を向上させているがこれにかぎられることはない。防水膜28は平板26上に置かれ、上蓋21で押圧することで固定される。
【0096】
以上のように、本第1実施形態では空気流量制御部20は、台座部23における通気口14の端部25上に防インク膜24/平板26/弁22/防水膜28/上蓋21の順で載せられ、この上蓋をボルト孔27でボルト締めして止めることで防インク膜24/平板26/弁22/防水膜28の集合体を固定するという簡易な固定方法が可能となる。このように、簡易化構造にすることで、空気流量制御部20における弁22の上面(反インク側面)から防水膜28の下面(インク側面)までの距離が20mm以下且つ1.5mm以上に設定される。この結果、空気流量制御部20が小さく構成されるので、インク貯蔵部10の内部空間を広げることが可能となり、また、インク貯蔵部10の中に、インク吸蔵体やその他の臓物を置く必要がなくなるので、インク貯蔵部10の内部容積全体をインク貯蔵用途に利用可能となる。
【0097】
本第1実施形態によれば、防インク膜24によって、さらには、平板26による空気層によってインクが弁22へ至ることを防止することでき、より精度の高い空気流量の制御が可能となる。また、防水膜28によって外気からの水分が弁22へ至ることを防止することができより精度の高い空気流量の制御が可能となる。また、弁22は平板によって両面から幅広い面積で均一に押圧されているので伸縮変化量をより高精度で制御でき、より精度の高い空気流量の制御が可能となる。
(インク吐出部)
【0098】
図3にはインク吐出部30およびその周辺の断面模式図が示される。
【0099】
インク吐出部30は、インク貯蔵部10のインク吐出口18に設けられたものであって、インクジェットプリンタへのインク供給時に圧接される圧接体32と圧接体32と接合され一体化された移動弁34とから主に構成されている。インク吐出口18には底面16からインク吐出口18の中央へ向かって突出した突出部19a,19b,19cが備えられ、この圧接体32と移動弁34の共同体は、インク供給時以外には移動弁34の端部の下端36が突出部19c上に設置された状態となっている。
【0100】
移動弁34は、インク吐出口18から圧接体32を介してのインク漏れを防止する金属等の防水性部材であるが、インク供給時以外の時において、突出部19aと19bの間であって一体化された圧接体32と接する部分に貫通口38が設けられている。インク供給時以外の時は、移動弁34の上面部39および突出部19aによってインク貯蔵部10内部のインクがインク吐出口18から漏出することを防止している。
【0101】
その一方で、図3Aに示されるように圧接体32と移動弁34の共同体は、インク供給時にはインクジェットプリンタに設置することによってインクジェットプリンタの対応部材40によってインク貯蔵部10内部方法へ押し上げられることになる。そうすると貫通口38の少なくとも一部が突出部19aよりも上方向へ移動することになり、突出部19aよりも上方向へ移動した貫通口38の部分を通じて圧接体32へインクが矢印で示されるように圧接体32へ流入し、同様に圧接体32からインクジェットプリンタの対応部材へとインクが供給されることになる。
【0102】
圧接体32と移動弁34の共同体は、インクジェットプリンタから取り外されると下端36が突出部19cに載せられた状態まで戻ることになり、再びインクの漏れを防止することになる。インク吐出口18端部からの漏れについては突出部19aだけでなく19b、19cによって二重、三重に防止する構造となっている。なお突出部19a、19bを設けず、インク吐出口18の側壁に移動弁34の側面を密接させることでインク漏洩を防止する構造であってもよい。
【0103】
このようなインク吐出部30を設けることによってインク吸蔵体を用いなくともインク吐出口18からのインク漏洩を防止することができ、なおかつ、インク供給時には速やかにインクを貫通口38および圧接体32を通じてインクジェットプリンタへ供給できることになる。
【0104】
図4にはインク吐出部30およびその周辺の変形例に係る断面模式図が示される。
【0105】
インク吐出部30は、インク貯蔵部10のインク吐出口18に設けられたものであって、インクジェットプリンタへのインク供給時に移動する移動弁34から主に構成されている。インク吐出口18には底面16からインク吐出口18の中央へ向かって突出した突出部19cが備えられている。
【0106】
移動弁34は、下部弁33および上部面39とを含み、下部弁33および上部面39とは弾性体たるバネ35で接続されている。インク供給時以外には下部弁33によってインク漏出が防止されている。
【0107】
移動弁34は、側面に貫通口38が設けられている。図4Aに示されるように移動弁34の下部弁33は、インク供給時にはインクジェットプリンタに設置することによってインクジェットプリンタの対応部材40によってバネ35が突出部19cよりも上方向へ移動することになり、生じた間隙を通じてインクが矢印で示されるように吐出し、インクジェットプリンタの対応部材40へとインクが供給されることになる。
【0108】
下部弁33は、インクジェットプリンタから取り外されるとバネ35の伸びによって突出部19cとほぼ同一位置まで戻ることになり、再びインクの漏れを防止することになる。
【0109】
上記変形例のように、インク吐出部30を設けることによってインク吸蔵体および圧接体を用いなくともインク吐出口18からのインク漏洩を防止することができ、なおかつ、インク供給時には速やかにインクを貫通口38および圧接体32を通じてインクジェットプリンタへ供給できることになる。
【0110】
次に、本発明の第2実施形態を図5〜図12に基づいて説明する。第1実施形態と同一部材または均等部材には第1実施形態に用いたと同じ符号を付すこととする。インク貯蔵容器100は図5の縦断面図に示されるように、適宜の合成樹脂材で成形された本体部10aと、本体部10aに蓋をして嵌合される上面部10bとで形成され、B部によって相互に連結されている。インク貯蔵容器100は、縦方向の寸法に対して奥行き幅の小さな寸法を有する直方体をなし、その内部11には、底部に透孔10cを備えた隔壁10dにより2つの室11a、11bが設けられ、さらに、A部には後述する空気流量制御部20が、また、C部にはインク吐出部30が設けられている。
【0111】
図5のA部は、空気流量制御部20を設けた部位を示し、図6および図7において、空気流量制御部20が装填される凹部10eの構成の概要を説明する。すなわち、上面部10aには陥没する平断面円形状の凹部10eが形成され、この凹部10eにキャップ50により蓋をされるようになっている。凹部10eの底部10fには、その中央において容器の内部11に連通する通気口14が穿たれ、通気口14の下方にスリット部10gを介して緩衝部10hが設けられている。なお、緩衝部10hの上面は、中央が通気口14側に突出する円錐面が形成されており、インクが留まりにくい構造となっている。また、底部10fにはテフロン膜体着座部10iと下端受容部10jが設けられる。テフロン膜体着座部10iは、空気流量制御部20の構成要素であるテフロン膜体24を位置決めして受け止める環状の窪み(環状の段部)である。下端受容部10jは、このテフロン膜体着座部10iの外周に同心円状に設けられる環状溝であり、上記キャップ50の周面部50aの下端を受容する構造となっている。従って、キャップ50を凹部10eに装着する際に、一時的に周面部50aの下端が下端受容部10jに当接することでストッパとして機能する。この結果、組立時において、弁体22やテフロン膜体24に過負荷が作用することを抑制でき、空気流量制御部20の機能低下を抑制できる。なお、組み立て完了後は、空気流量制御部20の復元力によって、キャップ50が上方に付勢されるので、キャップ50の周面部50aの下端と下端受容部10jの間には微小な隙間が形成される。このようにして、凹部10eにキャップ50が被着されることにより形成される内部空間に、空気流量制御部20が挟持される態様で装填される。以下、空気流量制御部20回りの構成について具体的に説明する。
【0112】
空気流量制御部20は、図6〜図8に示されるように、テフロン膜体着座部10iに載置され、通気性を有し、かつ、撥液処理を施した円板状のテフロン膜体(第1実施形態の防インク膜に対応)24と、このテフロン膜体24の上面に載置され、上下両面に平坦な面を有し、かつ、通気口14に対応する内径となる貫通孔26aを中心に備えた環状(ワッシャ状)の押圧リング(第1実施形態の平板に対応)26と、押圧リング26の上面に載置され、通常時は空気を流通させないが、内部11の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる弾性変形可能な連通多孔質の弁体(第1実施形態の弁に対応)22とを具備する。これら三部材24,26,22が下から順に積み重ねられて空気流量制御部20が形成されることとなる。
【0113】
上記の弁体22は、上記第1実施形態の弁22と実質的に略同じ構成を有する。すなわち、弁体22は、例えばポリウレタン等を素材として円板状の圧縮多孔体として構成され、内部11と外部との間に圧力差がない通常時では、通気性が遮断され空気の出入りはないが、所定値以上の圧力差が生じた場合には、弁体22は微少な弾性変形により伸び、これにより極微細孔が押し広げられて通気性が惹起し、圧力の高い側から低い側へ空気が流入することで、空気流量の制御を行う機能が発揮されるように構成されている。
【0114】
また、押圧リング26は、上記第1実施形態の平板26と異なり金属を素材として形成される。これにより、押圧リング26の上下両面の平滑度が高められ、弁体22やテフロン膜体24に均一な面圧が作用して互いの接触面の密着度を高め、これによりインクが漏れるのを阻止できるようにしている。
【0115】
また、テフロン膜体24は上記第1実施形態の防インク膜24と異なり、テフロンを素材とするシート状のものから形成されており、その撥液性により極力インクの付着が困難となるようにしている。
【0116】
テフロン膜体着座部10iは、オレフィン系樹脂素材によって成型されると共に、平滑度を高めた平滑面として形成され、これにより、テフロン膜体24が着座部10iに着座したときに、テフロン膜体24の着座部10iに対する密着度を高め、インキが接触面の間から浸入するのを極力抑制するように設定される。しかも、テフロン膜体着座部10iの周囲には、下端受容部10jから仕切られる環状の突条部10kが形成され、テフロン膜体24が横方向に位置ズレしないようにすると共に、後述するキャップ50の周面部の進入が円滑になるようなガイドとしても機能するようにしている(図7参照)。特に、オレフィン系樹脂素材は濡れ性が低いため、撥液効果が高い。従って、テフロン膜体24と密着することで、その隙間にインクが進入できないようになっている。なお、オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンや、ポリエチレン等の各種素材があるが、本実施形態ではポリプロピレンを採用している。
【0117】
次に、キャップ50の構造を説明する。図6〜図8に示すように、キャップ50は、適宜の剛性を有する樹脂材で成形され、円状の天井部50aと、その周縁から軸方向に延在する筒状の周面部50bとを有する。天井部50aには、テフロン膜体着座部10iに対向する位置に平坦な面を成す弁体着座部50cが形成され、その弁体着座部50cに3個の通気孔50dが設けられている。もっとも、この通気孔の個数は3個に限定されることはなく、これ以外の複数個であってもよい。
【0118】
また、天井部50aと周面部50bの内側における角部、換言すると、天井部50aの下面側の周縁(周面部50bの内周側の付け根)に、薄肉で形成した弾性ヒンジPが設けられる。こうして、弁体着座部50cを形成する円状の突条部50eの外側近傍に存するヒンジPを基点として周面部50bが弾性変形し易くなるようにしている。さらに、周面部50bの下端は下端受容部10jに当接しうるように形成され、上記下端が下端受容部10jに当接することでキャップ50の押し込み量を一定に制限することで、空気流量制御部20が無理に圧縮されるのを回避している。
【0119】
次に、図7のD部におけるキャップ50と凹部10eとの相互関係の構成を説明する。すなわち、D部を拡大した図9、図10の要部拡大断面図に示されるように、キャップ50の周面部50bの外面に、軸方向に上から順に棚状(断面楔状又は断面鋸歯状)に突出する第1係合部50fと、なだらかな山状に突出する第2係合部50gとで成る係合部が円周方向に形成される。第1係合部50fには、傾斜面50f1が形成され、第2係合部50g共々キャップ50の押し込みをスムーズに行えるようにしている。凹部10eの内周壁には、この係合部に係合する被係合部、すなわち、第1被係合部10lと第2被係合部10mとが内周方向に形成され、これによりそれぞれ第1係合部50fおよび第2係合部50gに係合する嵌合部が形成される。
【0120】
こうして、キャップ50を凹部10eに押し込んで蓋をする場合には、周面部50bは弾性ヒンジPを中心にしてたわみ変形をしながら、凹部10eに進入し、図10の交差するハッチング部で図示するように、第1係合部50fは第1被係合部10lに、第2係合部50gは第2被係合部10mにそれぞれ食い込んで嵌合する。この結果、第1係合部50fと第1被係合部10lとの嵌合により、その楔効果によってキャップ50が軸方向へ抜けるのを防止し、第2係合部50gと第2被係合部10mとの嵌合により、その接触面性の広さによってキャップが周方向へ回転するのを阻止するようにしている。
【0121】
したがって、図6及び図7に戻って、テフロン膜体着座部10iにテフロン膜体24が載置され、その上から押圧リング26が載置され、さらにその上から弁体22が載置されて三層に重ねられた空気流量制御部20が凹部10eに装填される。その後、弁体着座部50cを弁体22の上面にあてがい、キャップ50を押し込んで蓋をすることで、空気流量制御部20が凹部10eに挟圧された状態で収納保持されることとなる。
【0122】
なお、上記では第1係合部と第1被係合部、および第2係合部と第2被係合部とで係合部、すなわち、嵌合部を形成したが、実質的にキャップ50の抜けと回転を防止する機能を有する態様の嵌合部であれば、一つの係合部と、これに係合可能な一つの被係合部とで嵌合部を形成する態様でもよいのは勿論である。また、上記では第1係合部50fを上方に、第2係合部50gを下方に設定したが、上下位置関係を逆にすることも可能であるのは言うまでもない。同様に、ここでは周面部50b側に係合部を形成し、凹部10e側に被係合部を形成する場合を示すが、これらの関係は反対であってもよい。
【0123】
上記の空気流量制御部20が組み込まれる上面部10bは、図5のB部に示すように本体部10aに嵌合して固定される。係る固定は、B部を拡大した図11に示されるように、上面部10b側に形成した膨出部10b1と、本体部10a側に形成した膨出部10a1とが相手側部材に嵌合することで固定される。また、交差するハッチング部で図示するように、上面部10bの全周に亘って形成した突起部10b2が、本体部10aの全周に形成した傾斜部に食い込むことで、インクが外部に漏れないようにシールしている。
【0124】
次に、図5および図12に基づいてインク吐出部30を説明する。なお、図12では、圧接体32は図示しない。このインク吐出部30は上記第1実施形態におけるインク吐出部30とほぼ同一の機能を有するように構成される。すなわち、底面16に横断面円状の吐出口18が突設され、その内部に上下動可能な移動弁34が収容される。移動弁34は小径の下方弁部34aと、大径の上方弁部34bとからなり、下方弁部34a内部に圧接体32が図12のハッチングで示すように一体化されるように収容されている。圧接体32はインキの透過を許容する自体公知の素材で形成されている。上方弁部34bの外側には、スリットを有するガイド部16aが底面16に立設される。これにより、圧接体32と一体の移動弁34が吐出口18およびガイド部16aに案内されて上下動できるようになっている。
【0125】
吐出口18内周に突出部18aが設けられ、移動弁34に圧接する。また、移動弁34には、その中間壁34cの外面、すなわち、下方弁部34aと上方弁部34bの境に周方向に沿って傾斜面34dが形成され、吐出口18側のシール部18bに当接するようになっている。また、下方弁部34aには、貫通孔口38が設けられ、移動弁34上昇時に、内部11と圧接体32との間が連通するようになっている。
【0126】
一方、移動弁34の中間壁34cと上面部10bとの間にコイルスプリング60が縮設され、移動弁34を常に下方に付勢している。
【0127】
こうして、インク貯蔵容器100を不図示のインクジェットプリンタ側におけるキャリッジにセットされない単体の場合には、コイルスプリング60のばね反力により移動弁34は軸方向(下方向)へ押し下げられ、傾斜面34dがシール部18bに接触することで内部11に封入されたインキが外部へ漏れるのを防止している。
【0128】
インク貯蔵容器100をキャリッジに装填する場合には、インクジェットプリンタのキャリッジにおける不図示の対応部分が圧接体32を介して移動弁34をコイルスプリング60のばね反力に抗して上方へ押し上げる。これにより、圧接体32と一体の移動弁34は、ガイド部16aおよび突出部18aに案内されて上方へ移動し、貫通口38が内部11に連通する。こうして、インク貯蔵容器100内のインキが圧接体32を経由してインクジェットプリンタ側へ供給されるようになっている。
【0129】
本第2実施形態によれば、上記特許文献1記載の技術のように、キャップ50を超音波溶着により凹部10eに固定することで、上記第2実施形態の空気流量制御部に相当する弁を凹部に収納して固定する技術とは異なり、キャップ50で蓋をするだけの簡単な構成により、空気流量制御部20を凹部10eに収納できるので、弁体22に熱負荷を受けて変質し、結果、本来的に空気流量制御部20が有すべき空気流量制御機能を損ねる事態を招来するのを回避できる。
【0130】
また、本第2実施形態は、押圧リング26の下部にテフロン膜体24を設け、これにより、弁体22が直接に通気口14を介してインク側に露呈するのを回避する構成にしているので、弁体22へのインク付着を効果的に阻止できる利点がある。
【0131】
また、第2実施形態では、周面部50bが弾性ヒンジPを基点としてたわみ変形する構造を利用して、キャップを押し込むことができるように構成したので、弁体22に無用の外力を与えることなく、凹部10eに位置決め固定できるようにしている。また、キャップを機械的に固定しているので、超音波溶着等に起因した熱的負荷を弁体22に付与しないで済む。この結果、弁体22における空気流量制御機能を何ら損ねることなく固定することができ、ひいては安価にインク貯蔵容器100を製作できる利点を有する。
【0132】
また、一旦、空気流量制御部20がキャップ50で固定された後においては、空気流量制御部20はキャップ50と底部10fとの間で挟圧された状態にあり、特に、弁体22の外形に歪があっても押圧リング26によってテフロン膜体24に付与する圧力が均一化されるので、密着度が極めて高い状態に維持される。そのため、インキが、テフロン膜体24と底部10fとの間の接触面、およびテフロン膜体24と押圧リング26との間の接触面に浸入することを円滑に抑制できる利点を有する。
【0133】
また、第2実施形態では、仮にインクがテフロン膜体24と押圧リング26との間の接触面を介して浸入したとしても、押圧リング26の貫通孔26aで形成される空気層(空隙層)29の存在により、弁体22下面にインクが付着する事態を阻止できる利点もある。このため、弁体22のインク付着に起因する極微細孔の閉塞を回避でき、弁体22による空気流量制御部20の空気流量制御機能を維持することできる。
【0134】
また、押圧リング26は金属で形成されるので、その上下両面における平滑度は高められており、しかも、テフロン膜体着座部10iにも平滑面が形成されているので、テフロン膜体の上下面における相手側部材との間の各接触面はその密着度が高くなり、テフロン膜体24とテフロン膜体着座部10iとの間からインクが浸入するのを抑制できる利点がある。
【0135】
また、第2実施形態においては、テフロン膜体着座部10iと、弁体着座部50cとは互いに対向配置され、かつ、両着座部は環状の窪みで形成されるので、凹部10eへの、空気流量制御部(テフロン膜体、押圧リング、および弁体)20の装填を位置ズレすることなく組み込めるので、組み込み作業を簡易に行える実用的効果を有する。
【0136】
また、キャップの周面部50bにおける下端部は、下端受容部10jに当接可能に形成されているので、ストッパとして機能する。このため、キャップ50が過度に押し込まれても、ストッパ機能により弁体22が無理に圧縮、あるいは引張り変形を受けることを回避でき、弁体の空気流量制御機能を損ねることを未然に防止できる。
【0137】
さらに、本第2実施形態では、弁体着座部50cに3個の通気孔50dを設けたので、例えば、誤って手に付着したインクが、天井部50aに付着しても、残りの他の通気孔により内外気の通気性能を確保できるので有利である。
【0138】
また、本第2実施形態にあっては、第1係合部50fと第1被係合部10lとの嵌合により、キャップ50が軸方向へ抜けるのを防止し、第2係合部50gと第2被係合部10mとの嵌合により、キャップが周方向へ回転するのを阻止している。このため、弁体22はキャップ50により凹部10e内で位置ズレすることなく収納されるので、弁体22は初期の挟圧された装填状態を安定的に維持でき、その結果、空気流量制御機能を低下することを防止できる。
【0139】
以上、本発明を第1、第2実施形態により詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も本発明の範囲に含まれるものである。
【0140】
例えば、図13に示す変形例のように、通気口14に、下方に向かうに応じて末広がり状(円錐面状)に拡開するテーパ面14aを形成する構成とすることもできる。この場合、テーパ面14aに円周方向あるいは母線方向に沿う溝を適宜数設けてもよい。また、少なくともこのテーパ面14aに撥液処理加工を施すことも好ましい。このような構成とすることで、テフロン膜体24下面やテーパ面14aに付着するインクを効率的に滴下できる。
【0141】
また、上記第2実施形態およびその変形例では、凹部10eは上面部10bから陥没するように形成した場合であったが、この代わりに、図14に示す別の変形例のように、上面部10bから上方へ突出する突出部70に空気流量制御部20が収納される態様にしてもよい。更に上記第2実施形態では、通気口14の近傍に緩衝部10hを設けた場合を示したが、本発明はそれに限定されず、緩衝部10hを設けないことも勿論可能である。
【0142】
次に、本発明の第3実施形態を図15に基づいて説明する。なお、第2実施形態と同一部材または均等部材には第2実施形態に用いたものと同じ符号を付すこととし、異なる点を中心に説明する。
【0143】
空気流量制御部20は、通気性を有し、かつ、撥液処理を施した円板状のテフロン膜体24と、このテフロン膜体24の上面に載置され、上下両面に平坦な面を有し、かつ、貫通孔26aを中心に備えた環状(ワッシャ状)の押圧リング26と、押圧リング26の上面に載置され弁体22とを具備する。これら三部材24,26,22が下から順に積み重ねられて空気流量制御部20が形成されることとなる。
【0144】
更に本第3実施形態では、押圧リング26は、弁体22におけるインク側(下面側)に当接するように配置されており、この押圧リング26の貫通孔26aの面積は、弁体22の反インク側(上面側)の解放領域、すなわち、キャップ50に形成される3個の通気孔50dの合計面積よりも狭く設定されている。
【0145】
このようにすると、弁体22の上面側の開放領域よりも、弁体22の下側の解放領域である貫通孔26aの方が狭くなるので、弁体22は、インク側(容器内側)には弾性変形し難く、反インク側(容器外側)には弾性変形が容易になる。このように弾性変形量を非対称にすることで、この結果、図16に示されるように、容器内側から容器外側への通気(流出)を容易にし、容器外側から容器内側への通気(流入)を抑制することが可能となり、インク貯蔵部内を一層低圧にすることが可能になる。
【0146】
なお、ここでは、押圧リング26を有効利用し、この貫通孔26aのサイズを小さくして、内外圧力差に対する空気交換量を非対称にする場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図17に示されるように、弁体22と押圧リング26の間に、環状の下側支持リング90を挿入し、弁体22とキャップ50の間に上側支持リング92を挿入するようにしてもよい。上側支持リング92の解放孔92aの面積に対して、下側支持リング90の解放孔90aの面積を小さくすることで、弁体22の弾性変形可能面積が上下非対称になるので、同様に、インク貯蔵部内を一層低圧にすることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、インク貯蔵容器、特にインクジェットプリンタ用のインクカートリッジとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインク貯蔵容器の断面模式図である。
【図2】同じく、空気流量制御部およびその周辺の断面模式図である。
【図2A】同じく、空気流量制御部における構成部材の模式図である。
【図2B】同じく、空気流量制御部における構成部材の模式図である。
【図2C】同じく、空気流量制御部における構成部材の模式図である。
【図2D】同じく、空気流量制御部における構成部材の模式図である。
【図2E】同じく、空気流量制御部における構成部材の模式図である。
【図2F】同じく、空気流量制御部における構成部材の模式図である。
【図3】同じく、インク吐出部およびその周辺の断面模式図である。
【図3A】同じく、インク吐出部およびその周辺の断面模式図である。
【図4】第1実施形態の変形例に係るインク吐出部およびその周辺の断面模式図である。
【図4A】同じく、インク吐出部およびその周辺の断面模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るインク貯蔵容器の縦断面図である。
【図6】図5のA部における拡大断面図である。
【図7】図6における空気流量制御部の図示を省略した図5と同様の拡大断面図である。
【図8】同じく、キャップおよび空気流量制御部の組み立て分解外観図である。
【図9】図7のD部を分解して示した要部拡大断面図である。
【図10】図7のD部における要部拡大断面図である。
【図11】図5のB部における要部拡大断面図である。
【図12】図5のC部における要部拡大断面図である。
【図13】第2実施形態の変形例における断面図である。
【図14】同じく、第2実施形態の別の変形例における断面図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係るインク貯蔵容器の部分拡大断面図である。
【図16】同インク貯蔵容器の内外圧力差と空気交換量の関係を示すグラフ図である。
【図17】同じく、第3実施形態の別の変形例における断面図である。
【符号の説明】
【0149】
100 インク貯蔵容器
10 インク貯蔵部
10a 本体部
10b 上面部
10e 凹部
10f 底部
10h 緩衝部
10i テフロン膜体着座部
10j 下端受容部
10l 第1被係合部
10m 第2被係合部
11 内部
12 上面
14 通気口
16 底面
16a スリット付きガイド部
18 吐出口
20 空気流量制御部
22 弁体
24 テフロン膜体
26 押圧リング
26a 貫通孔
29 空気層
30 インク吐出部
32 圧接体
34 移動弁
34a 下方弁部
34b 上方弁部
50 キャップ
50a 天井部
50b 周面部
50c 弁体着座部
50d 通気孔
50f 第1係合部
50g 第2係合部
60 コイルスプリング
P 弾性ヒンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯蔵するインク貯蔵部に、前記インク貯蔵部の内外間で空気流量を制御する空気流量制御部を備えるインク貯蔵容器であって、
前記空気流量制御部は、
前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で正負双方向の空気交換を行わせる連通多孔質の弁体と、
前記弁体よりも前記インク側に載置されて、通気性及び撥液性を有する撥液膜体と、を具備することを特徴とするインク貯蔵容器。
【請求項2】
前記弁体は、弾性変形可能であることを特徴とする請求項1記載のインク貯蔵容器。
【請求項3】
前記弁体の空気通過方向両外側には、前記弁体が弾性変形するための空隙が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインク貯蔵容器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のインク貯蔵容器は、インクジェットプリンタ用インクカートリッジであることを特徴とするインク貯蔵容器。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図3】
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【図3A】
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【図4】
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【図4A】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−137287(P2009−137287A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287358(P2008−287358)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【分割の表示】特願2008−184073(P2008−184073)の分割
【原出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【出願人】(503401614)ジット株式会社 (15)
【Fターム(参考)】