説明

インク貯蔵容器

【課題】空気の流量を制御する弁体にインクが触れないようにするための撥水膜体に、インクが付着したまま滞留しないインク貯蔵容器を提供する。
【解決手段】本発明に係るインク貯蔵容器100は、インクMを貯蔵するインク貯蔵部10と、インク貯蔵部10の内外間の空気流量を制御する弁体22と、インク貯蔵部10の内部13と弁体22の間に配設され、使用時の姿勢において内部13に面する表面の一部が表面の他の部分よりも下方に位置するように構成される撥水膜体24と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク貯蔵容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク貯蔵容器の例としては筆記具のインクタンクや、インクジェットプリンタのインク(タンク)カートリッジなどがある。これらは文字や画像を形成する筆記や印刷に消費されたインク量に対応して外気をタンク内に取込んで空気交換し、タンク内の圧力変化がインクの消費に悪影響を及ぼさないようにした機構とされており、その機構としては、外気の取込み口として単なる孔を形成したものや、必要に応じて通気する弁機構付きの通気路を形成したものを挙げることができる(例えば、特許文献1または2参照)。
【特許文献1】特開2001−277777号公報
【特許文献2】特開平8−187874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載のインク貯蔵容器では、インクが貯蔵される内部に直接弁体が面しているため、インク貯蔵容器を傾けたり、振動させたりした場合にインクが弁体に付着することがあった。このように、弁体にインクが付着すると、通気するための孔がインクによって塞がれてしまい、弁機構の性能や通気性が損なわれるという問題があった。特に、弁体に付着したインクが乾燥すると通気するための孔を塞いだままインクが固着してしまうため、洗浄等の処置ができない場合にはインク貯蔵容器が以後使用不能となってしまうという問題もあった。
【0004】
一方、上記特許文献2に記載のインク貯蔵容器では、撥油処理または撥水処理を施した通気膜を設けることで、弁体に直接インクが触れないようにしている。しかしながら、上記特許文献2に記載のインク貯蔵容器では、通気膜の配置や周囲の構成について全く考慮されていないため、インクが通気膜の表面に付着したまま滞留する場合があった。インクが通気膜の表面に付着したまま滞留すると、通気膜部分の通気性が損なわれ、上記同様にインク貯蔵容器が使用不能となる場合があるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、空気の流量を制御する弁体にインクが触れないようにするための撥水膜体に、インクが付着したまま滞留しないインク貯蔵容器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、インクを貯蔵するインク貯蔵部と、前記インク貯蔵部の内外間の空気流量を制御する弁体と、前記インク貯蔵部の内部と前記弁体の間に配設され、使用時の姿勢において前記内部に面する表面の一部が前記表面の他の部分よりも下方に位置するように構成される撥水膜体と、を備えることを特徴とする、インク貯蔵容器である。
【0007】
(2)本発明はまた、前記撥水膜体は、通気性および撥水性を有することを特徴とする、上記(1)に記載のインク貯蔵容器である。
【0008】
(3)本発明はまた、前記撥水膜体の前記内部に面する表面は、使用時の姿勢において水平面に対して角度を有した平面状となるように構成されることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のインク貯蔵容器である。
【0009】
(4)本発明はまた、前記撥水膜体は、平板状であり、使用時の姿勢において水平面に対して角度を有するように配設されることを特徴とする、上記(3)に記載のインク貯蔵容器である。
【0010】
(5)本発明はまた、前記撥水膜体は、前記インク貯蔵部の上面部に配設されることを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のインク貯蔵容器である。
【0011】
(6)本発明はまた、前記撥水膜体は、前記インク貯蔵部の側面部に配設されることを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のインク貯蔵部である。
【0012】
(7)本発明はまた、前記弁体は、通常時は空気を流通させないが、前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる弾性変形可能な連通多孔質な素材から構成されることを特徴とする、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載のインク貯蔵容器である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空気の流量を制御する弁体にインクが触れないようにするための撥水膜体に、インクが付着したまま滞留しないという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。なお、以下の各実施形態におけるインク貯蔵容器は、インクジェットプリンタ用のインクカートリッジに適用した場合を例に挙げて説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るインク貯蔵容器100の構造を示す断面図である。インク貯蔵容器100は、適宜の合成樹脂から構成されており、同図に示されるように、内部にインクMを貯蔵するインク貯蔵部10と、インク貯蔵部10の内外間で空気の流量を制御する空気流量制御部20と、インク貯蔵部10に貯蔵されたインクMの吐出を制御するためのインク吐出部30と、を有して構成されている。
【0016】
<インク貯蔵部>
インク貯蔵部10は、上部が開口した中空の本体部11と、本体部11の開口を塞ぐ蓋として上部に組み合わされる上面部12から構成されている。本体部11は、図の縦横の寸法よりも奥行きの寸法が小さい略直方体状に形成されている。本体部11の内部13は、隔壁14によって2つの室13a、13bに分けられている。これらの2つの室13a、13bは、隔壁14の基端部に形成された透孔14aによって連通されている。本体部11の底部には、インク吐出部30が設けられている。
【0017】
上面部12は、平面視(図の上から見た場合)が横長の長方形板状である天板12aと、天板12aの周縁のやや内側の下面から下方に向けて突出する嵌合壁12bから構成されている。上面部12は、この嵌合壁12bを本体部11の内部に嵌合させることによって本体部11と組み合わされる。また、上面部12の天板12aには、図の右側の長手方向端部の近傍に空気流量制御部20が設けられている。
【0018】
図2は、図1のA部を拡大した要部拡大断面図である。上面部12は、同図に示されるように、上面部12の嵌合壁12bの先端近傍に形成した膨出部12b1と、本体部11に形成した膨出部11aとが相手側部材に嵌合することで固定される。また、交差するハッチング部で図示するように、嵌合壁12bの基端部の全周に亘って形成した突起部12b2が、超音波溶接等によって本体部11の開口の周縁全周に形成した傾斜部11bに食い込むことで、インクMが外部に漏れないようにシールしている。
【0019】
<空気流量制御部>
図3は、空気流量制御部20の断面図である。同図に示されるように、上面部12の天板12aには、陥没する平断面円形状の凹部12eが天板12aに対して傾けて形成されており、空気流量制御部20は、この凹部12e内に収容される弁体22、撥水膜体24、押圧リング26およびキャップ28を備えている。空気流量制御部20は、凹部12e内に撥水膜体24を載置し、その上に押圧リング26を載置し、さらにその上に弁体22を載置した上で、これらの上からキャップ28を凹部12eに嵌合させ、弁体22、撥水膜体24および押圧リング26をキャップ28と凹部12eの間に挟持することによって構成されている。
【0020】
凹部12eの底部12fは天板12aに対して斜め方向に形成されており、底部12fの中央にはインク貯蔵部10の内部13に連通する円形断面の導通口12gが穿たれている。この導通口12gは、内部13に向けて内径が拡大するように形成されている。
【0021】
底部12fの導通口12gの周囲には、撥水膜体着座部12hと下端受容部12iが設けられている。撥水膜体着座部12hは、撥水膜体24を位置決めして受け止める環状の窪み(環状の段部)である。下端受容部12iは、この撥水膜体着座部12hの外周に同心円状に設けられる環状溝であり、後述するキャップ28の周面部28bの下端を受容する構造となっている。
【0022】
撥水膜体着座部12hは、オレフィン系樹脂素材によって成型されると共に、平滑度を高めた平滑面として形成され、これにより、撥水膜体24が撥水膜体着座部12hに着座したときに、撥水膜体24の撥水膜体着座部12hに対する密着度を高め、インクMが接触面の間から浸入するのを極力抑制するように設定されている。特に、オレフィン系樹脂素材は濡れ性が低いため、撥水効果が高い。従って、撥水膜体24と密着することで、その隙間にインクが浸入できないようになっている。なお、オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンや、ポリエチレン等の各種素材があるが、本実施形態ではポリプロピレンを採用している。
【0023】
撥水膜体着座部12hと下端受容部12iの間には、図の斜め上方に向けて底部12fから垂直に突出する環状の突条部12jが形成されている。この突条部12jは、撥水膜体24が横方向にずれないように位置決めすると共に、キャップ28の周面部28bの進入を円滑にするガイドとしても機能するようになっている。
【0024】
図4は、空気流量制御部20が備える各部材の斜視図である。同図に示されるように、弁体22は、複数の微細孔が連通した弾性材料からなる略円板形状の平板であり、例えばポリウレタン等の素材を圧縮多孔体とすることにより構成される。
【0025】
弁体22は、インク貯蔵部10の内部13と外部との間に圧力差がない通常時には、通気性が遮断され空気の出入りはないが、所定値以上の圧力差が生じた場合には、微少な弾性変形により伸び、これにより微細孔が押し広げられて通気性が惹起し、圧力の高い側から低い側へ空気が流入することで、空気流量の制御を行う機能が発揮されるように構成されている。
【0026】
すなわち、空気流量制御部20は、外部とインク貯蔵部10の内部13との圧力差に応じてこの弁体22の複数の微細孔を通過する空気量が変化し、この変化によって外部からインク貯蔵部10の内部13への空気流量を制御する機能を有するものである。なお、弁体22の材質や構造等は特に限定されるものではなく、弁体22として上記特許文献1で開示されたものや市販品を採用することができる。
【0027】
弁体22は、本実施形態では圧縮体として、圧縮した場合に通気性がないようにしている。すなわち、弾性材料からなる連通多孔体を通気性がなくなるまで圧縮して、圧縮多孔体を作ることで空気流量制御機能をより発揮できるように加工している。このような圧縮多孔体では、内部において、連通多孔体を構成している弾性体が押し潰され折り重なってできた不定形の空間が多数形成されているが、圧縮された状態では通気性がなくなる。ところが、圧縮多孔体内で形成された多数の不定形の空間は連通されているので、内外の圧力差が生じた場合、弁体22が延びることによって生じた所定の圧力差以上によって、外部から圧縮多孔体の内部へと空気が押し込まれ、空気は、圧縮多孔体内にネットワークされた空間を結んでいる通気孔を押し広げながら、弁体を変形させ、圧縮多孔体の反対側、すなわちインク貯蔵部10の内部13側へ移動することで通気性を生じる。
【0028】
この通気量(空気流量)は、圧縮多孔体内にネットワークされた空間の通りやすさによって決められるので圧力差が大きい場合には弁体22は大きく伸び、圧縮多孔体内にネットワークされた空間中を空気が通りやすくなり、通気量は大きくなる。一方、所定の圧力差以上であって圧力差が小さい場合には弁体22は小さく伸び、圧縮多孔体内にネットワークされた空間中を空気が通る量は少なくなり、通気量は小さくなる。弁体22による通気によって圧力差が減少した場合、弁体22も縮み、通気量が少なくなる。さらに所定の圧力差未満となった場合、弁体22が再び圧縮されるため弁体22の通気性はなくなる。このように圧力差の大きさに応じて通気量も応じるので迅速で適切なインク貯蔵部10内の圧力を一定化する圧力調整が可能となる。
【0029】
外部(大気)とインク貯蔵部10内部との圧力差がどの程度で弁体22の通気性を生じさせるようにするかは、連通多孔、圧縮の程度などを適宜選択して決めればよいが、例えば、圧力差が20mmH2O以下のときは通気性が無く、圧力差が20mmH2O以上のときは通気性が有るように圧縮するようにすると好適である。
【0030】
弁体22を構成する弾性材料は複数の微細孔を有するもので伸びた状態でこの微細孔を通過するものであれば足りるが、例えば、ポリプロピレン、各種ゴム、各種エラストマーを挙げることができる。連通多孔孔質体の場合には、ゴム及び/又はプラスチック原料に不活性ガス、分解性発泡剤、揮発性有機液体を混合し、内部に気泡を形成することにより発砲させて連通多孔を形成したものや、ゴム・プラスチック原料に炭酸カルシウムなどの無機粒子を混練りしたものを板状に形成した後、無機粒子を溶出して連通多孔を形成したもの等が挙げられ、前記ゴム及び/又はプラスチック原料としては、弾性材料として、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ネオプレンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリウレタン、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。中でも特に、液体に対しての耐久性や、連通多孔質体の形成しやすさ、生産性等を考慮するとエーテル系ポリウレタン樹脂などが好適である。
【0031】
弁体22を構成する弾性材料は圧力差が働くと伸び、通気すると圧力差は減少し、ついには元の状態に戻り通気は無くなるという繰り返しによっても、常にはじめの圧縮された通気性のない状態が維持されると好適である。このためには圧縮体であると圧縮永久ひずみ特性が優れていることが好適である。他の特性としては、さらに弁体22のヤング率が1MPa以上5000MPa以下であることが好適である。また、弁体22はアスカーF型硬度計による硬度が30以上100未満であることが好適である。
【0032】
弁体22は、圧縮前の単位長さ当たりの孔数が4個/cm以上1000個/cm以下のものとすることによって、内圧調整を容易にすることができやすい。更に、圧縮を、加熱や高周波による発熱を付与したことにより、成形したものが、厚み8mmの盤状体を検体としたときのアスカーC型硬度計による硬度が20以上100未満であることが望ましい。この圧縮は圧縮率を圧縮前の材料の厚みの5%以上40%以下とすることによって圧力差が所定値未満の場合に確実に閉塞されたものとしやすい。
【0033】
撥水膜体24は、通気性を有する撥水性材料から構成された略円板形状の平板である。本実施形態では、撥水膜体24の材料として通気性の撥水性材料を用いているが、これに限られることなく、防水性材料、弁体22に対してインク成分が接触することを防止する膜であれば足り、臨界表面張力が大きい材料であってもよい。また通気性は、膜が導通口12g全体を塞がず少なくとも一部が貫通している場合については必要ではない場合がある。
【0034】
本実施形態で用いられる撥水性材料は、それ自体通気性を有する材料であれば足りる。特に臨界表面張力が25dyn/cm以下である撥水性材料であると好適である。そのような材料として、各種樹脂膜、無機膜が用いられるが、フッ素樹脂、フッ素ゴムなどを好適に用いることができ、テフロン(登録商標)、すなわちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いるとさらに好適である。
【0035】
撥水膜体24は、通気性を考慮して連通している複数の微細孔を有し、複数の微細孔の孔径は5μm以下、より好ましくは0.1μm以下とすると好適である。
【0036】
押圧リング26は、略円形状の平板の中央に略円形断面の貫通孔26aが形成された所謂ドーナツ型形状の平板である。本実施形態では、押圧リング26をドーナツ形状とすることで、撥水膜体24と弁体22の間に空気層29(図3参照)を形成するようにしている。この空気層により、例え撥水膜体24を通過しても空気層29があるので、より弁体22にインク貯蔵部10に貯えられたインクMが達することを防止できるので好適である。
【0037】
なお、本実施形態では所謂ドーナツ型形状の押圧リング26を例示したがこれに限られることなく、空気層29を形成できる構造のものを用いて代用することが可能である。すなわち撥水膜体24と弁体22の間に空気の層を形成できる部材形状、配置であれば代用することが可能である。本実施形態では上述の通り、弁体22を均一に押圧するので好適であることから中空略円盤形状の押圧リング26を用いている。
【0038】
また、押圧リング26は、本実施形態では金属を素材として形成されている。これにより、押圧リング26の上下両面の平滑度が高められ、弁体22や撥水膜体24に均一な面圧が作用して互いの接触面の密着度を高め、これによりインクが漏れるのを阻止できるようにしている。
【0039】
キャップ28は、適宜の剛性を有する樹脂材で成形され、円板状の天井部28aと、その周縁から軸方向に延在する筒状の周面部28bとを有する。天井部28aには、撥水膜体着座部12fに対向する位置(図の下面)に平坦な面を成す環状の弁体着座部28cが形成され、この弁体着座部28cには3個の通気孔28dが設けられている。なお、この通気孔28dの個数は3個に限定されることはなく、これ以外の複数個であってもよい。
【0040】
図3に戻って、キャップ28の天井部28aと周面部28bの内側における角部、換言すると、天井部28aの下面側の周縁(周面部28bの内周側の付け根)には、薄肉で形成した弾性ヒンジPが設けられる。こうして、弁体着座部28cを形成する円状の突条部28fの外側近傍に存するヒンジPを基点として周面部28bが弾性変形し易くなるようにしている。さらに、周面部28bの下端は下端受容部12iに当接しうるように形成されている。
【0041】
本実施形態では、この下端が下端受容部12iに当接することでキャップ28の押し込み量を一定に制限し、空気流量制御部20が無理に圧縮されるのを回避している。すなわち、周面部28aの下端は、キャップ28を凹部12eに装着する際に、一時的に下端受容部12iに当接するストッパとして機能するようになっている。この結果、組み立て時において弁体22や撥水膜体24に過負荷が作用し、空気流量制御部20の機能が低下するのを防止することができる。
【0042】
なお、組み立てを完了した後は、弁体22および撥水膜体24の復元力によって、キャップ28が上方に付勢され、キャップ28の周面部28aの下端と下端受容部12iの間には微小な隙間が形成されるようになっている。このようにすることで、凹部12eにキャップ28を装着した場合に、弁体22、押圧リング26および撥水膜体24を、キャップ28の弁体着座部28cと凹部12eの撥水膜体着座部12hの間に適正な圧力で挟持することが可能となっている。
【0043】
次に、キャップ28と凹部12eの相互関係の構成を説明する。図5および6は、図3のB部を拡大した要部拡大断面図である。これらの図に示されるように、キャップ28の周面部28bの外面には、軸方向に上から順に棚状(断面楔状または断面鋸歯状)に突出する第1係合部28gと、なだらかな山状に突出する第2係合部28hとで成る係合部が円周方向に形成される。第1係合部28gには、傾斜面28g1が形成され、第2係合部28h共々キャップ28の押し込みをスムーズに行えるようにしている。凹部12eの内周壁には、この係合部に係合する被係合部、すなわち、第1被係合部12kと第2被係合部12lとが内周方向に形成され、これによりそれぞれ第1係合部28gおよび第2係合部28hに係合する嵌合部が形成される。
【0044】
こうして、キャップ28を凹部12eに押し込んで蓋をする場合には、周面部28bは弾性ヒンジPを中心にしてたわみ変形をしながら、凹部12eに進入し、図6の交差するハッチング部で図示するように、第1係合部28gは第1被係合部12kに、第2係合部28hは第2被係合部12lにそれぞれ食い込んで嵌合する。この結果、第1係合部28gと第1被係合部12kとの嵌合により、その楔効果によってキャップ28が軸方向へ抜けるのを防止し、第2係合部28hと第2被係合部12lとの嵌合により、その接触面積の広さによってキャップが周方向へ回転するのを阻止するようにしている。
【0045】
なお、上記では第1係合部28gと第1被係合部12k、および第2係合部28hと第2被係合部12lとで係合部、すなわち、嵌合部を形成したが、実質的にキャップ28の抜けと回転を防止する機能を有する態様の嵌合部であれば、一つの係合部と、これに係合可能な一つの被係合部とで嵌合部を形成する態様でもよいのは勿論である。また、上記では第1係合部28gを上方に、第2係合部28hを下方に設定したが、上下位置関係を逆にすることも可能であるのは言うまでもない。同様に、ここでは周面部28b側に係合部を形成し、凹部12e側に被係合部を形成する場合を示すが、これらの関係は反対であってもよい。
【0046】
図3に戻って、凹部12eは上述のように天板12aに対して斜め方向に形成されているため、凹部12eに装着される弁体22、撥水膜体24、押圧リング26およびキャップ28は、同図に示されるように、天板12aに対して傾斜して配設されることとなる。すなわち、これらの部材は、水平面に対して角度を有した状態(本実施形態では、約10度)で配設されている。なお、インク貯蔵容器100は、上面部12を上にして正立した状態(天板12aが水平面と略平行となる状態)でインクジェットプリンタのキャリッジにセットされて使用されるため、弁体22、撥水膜体24、押圧リング26およびキャップ28は、インク貯蔵容器100の使用時の姿勢において水平面に対して角度を有した状態となるように配設されている。
【0047】
本実施形態では、空気流量制御部20をこのように構成し、インク貯蔵容器100の使用時に撥水膜体24が水平面に対して角度を有した状態となるようにすることで、撥水膜体24の内部13側の表面にインクM(インク滴)が付着した場合に、インクMが撥水膜体24の表面に付着したまま滞留しないようにしている。すなわち、振動等の何らかの原因で撥水膜体24の内部13側の表面に付着したインクMを、傾斜した表面に沿って図の左側の低い部分へ、重力の作用によって自然に流下させ、撥水膜体24から導通口12gの内側面へと移動させることによって、インクMによる撥水膜体24の微細孔の閉塞を解消するようにしている。
【0048】
撥水膜体24は、複数の微細孔を有すること等により表面に凹凸を有しているため、撥水性材料で構成した場合であってもインクMの付着を完全に防止することは困難である。また、導通口12gの内径を小さく設定した場合には、導通口12gの内側面および撥水膜体24の表面の両方に付着したインク滴が発生することがある。このようなインク滴は、導通口12gの内側面および撥水膜体24の両方から吸着されることとなるため、より強固に付着した状態となる場合がある。
【0049】
撥水膜体24にインクMが付着すると、撥水膜体24の微細孔が塞がれることにより通気性が損なわれ、インク貯蔵部10の内外間で空気を流通させることができなくなる。すると、インク貯蔵部10の内部13を所定の圧力状態に維持することが困難となり、印刷品質が悪化することとなる。
【0050】
また、インクMが撥水膜体24の表面に付着したまま長時間滞留すると、インクMの溶剤(水分等)が蒸発し、染料(顔料)等が撥水膜体24の微細孔を塞いだ状態で固着することとなる。撥水膜体24に固着した染料等は、インクカートリッジをインクジェットプリンタから取り外し、分解して洗浄しなければ取り除くことができないが、このような洗浄は技術力や時間を必要とし、コストがかかるため、一般には行われていない。このため、撥水膜体24に染料等が固着した場合には、内部13に多量のインクMが残存している場合であっても、インクカートリッジ全体を交換する必要があった。
【0051】
従って、撥水膜体24にインクMが付着した場合には、これを早急に除去する必要がある。しかし、撥水膜体24を水平面に対して平行に配設した場合、付着したインク滴に加わる重力が撥水膜体24とインク滴の間の吸着力より大きくなければ、インク滴を除去することができない。すなわち、ある程度大きいインク滴であれば自重によって撥水膜24から引きはがされ、自然に落下することができるが、小さいインク滴は自重によって落下することができず、撥水膜24表面に滞留することとなる。
【0052】
一方、本実施形態のインク貯蔵容器100では、撥水膜体24を水平面に対して斜めに(角度を有して)配設することにより、インク滴を撥水膜体24の表面に沿って低い方に流下させるようにしている。このように、インク滴を撥水膜体24の表面に沿って移動させる場合は、インク滴を撥水膜体24の表面から引きはがすのに必要な力よりも少ない力でインク滴を移動させることができる。従って、小さいインク滴であっても、重力によって自然に、撥水膜体24の表面に沿って導通口12gの内側面に向けて移動させ、これに乗り移らせることができる。
【0053】
導通口12gの内側面に乗り移ったインク滴は、さらに内側面に沿って流下して導通口12gの下側周縁に到達し、そこから下方に落下することとなる。本実施形態では、このようにして、撥水膜体24からインク滴が除去されるようになっている。本実施形態では、導通口12gの断面、および撥水膜体24の内部13に面した表面は、円形状に構成されているため、撥水膜体24に付着した複数の小さなインク滴を最低部の1箇所に集中させることができる。これにより、複数のインク滴が融合して1つの大きなインク滴が生成されることとなるため、導通口12gの下側周縁から容易にインク滴を落下させることができる。
【0054】
なお、この導通口12gの内側面および下側周縁部に撥水処理加工を施すようにしてもよい。撥水膜体24から導通口12gの内側面へのインク滴の乗り移りを考慮すると、この撥水処理加工において、導通口12gの内側面の臨界表面張力を撥水膜体24の表面の臨界表面張力以上の値に設定する(導通口12gの内側面を撥水膜体24表面よりも親水性に設定する)ことが望ましいが、これに限定されるものではない。すなわち、撥水膜体24および上面部12の素材や形状等に応じて、適宜に導通口12gの内側面の臨界表面張力を設定すればよい。また、導通口12gの下側周縁部の臨界表面張力を特に小さく設定し(より疎水性に設定し)、よりインク滴が落下しやすいようにしてもよい。
【0055】
本実施形態では、このように、撥水膜体24に付着したインクMを自然に除去することが可能であるため、撥水膜体24が詰まることによってインク貯蔵容器100が使用不能となる事態を未然に防止することができる。また、インク貯蔵容器100の運搬中や使用中におけるインクMの撥水膜体24への付着を許容できるため、インク貯蔵部10内に貯蔵するインクMの量を増加させることができる。
【0056】
すなわち、従来は撥水膜体24へインクMが付着し難いようにするために、インクMの液面を下げ、撥水膜体24とインクMの液面をある程度離隔させておく必要があったが、本実施形態のインク貯蔵容器100では、インク貯蔵部10内のインクMの液面を従来よりも上げることが可能であるため、その分だけインクの貯蔵量を増すことができる。
【0057】
なお、空気流量制御部20を上面部12の上方に突出させるようにすることで、さらにインクMの貯蔵量を増すようにしてもよい。図7は、空気流量制御部20を上面部12の上方に突出させて設けた一例を示した断面図である。この例では、同図に示されるように、上面部12の天板12aに先端面を水平面に対して傾斜させた凸部12cを設け、この凸部12cに凹部12eを形成している。そして、凹部12eは、凸部12cの先端面に対して略直角方向に形成されているため、凹部12eに装着される弁体22、撥水膜体24、押圧リング26およびキャップ28は、水平面に対して角度を有して配設されている。
【0058】
このように、空気流量制御部20を上方に突出させて設けることで、さらにインク貯蔵部10内部のインクMの液面を上げることが可能となり、インクMの貯蔵量をさらに増すことができる。
【0059】
また、撥水膜体24の傾斜角度は、本実施形態において示した10度に限定されるものではなく、撥水膜体24の性質、形状および配置等に応じて、適宜に傾斜角度を設定することができる。すなわち、撥水膜体24の臨界表面張力が小さい場合には水平面から10度以下の角度に傾斜角を設定してもよいし、できるだけ早急に付着したインク滴を除去する必要があるならば、水平面から45〜90度の急角度に傾斜角を設定してもよい。
【0060】
撥水膜体24の傾斜角度を急角度にする場合に、空気流量制御部20をインク貯蔵部10の側面部に設けるようにしてもよい。図8は、空気流量制御部20をインク貯蔵部10の側面部に設けた一例を示した図である。この例では、上面部12の図の右側部分の一部を上方に突出させ、その突出部分の側面において、空気の流通方向が水平方向となるように空気流量制御部20を設けている。このように、空気流量制御部20をインク貯蔵部10の側面部に設けることで、容易に撥水膜体24の傾斜角度を大きくすることができる。
【0061】
また、空気流量制御部20の構成および配置は、上記したいくつかの例に限定されるものではないことは言うまでもない。すなわち、インク貯蔵容器100の用途、形状および周囲のスペース等に応じて、適宜に空気流量制御部20の構成および配置を決定すればよい。
【0062】
例えば、上述の空気流量制御部20では、凹部12eに装着される弁体22、撥水膜体24、押圧リング26およびキャップ28の全てが水平面に対して角度を有して配設されているが、撥水膜体24のみを水平面に対して角度を有するように配設してもよい。図9は、撥水膜体24のみを水平面に対して斜めに配設した一例を示した断面図である。
【0063】
この例では、同図に示されるように、凹部12eを天板12aに対して略垂直方向に形成すると共に、撥水膜体着座部12hを水平面に対して傾斜させて形成している。そして、押圧リング26の下側端面26bを上側端面26cに対して傾斜させることにより、撥水膜体24を水平面に対して傾斜させた状態で、押圧リング26と撥水膜体着座部12hの間に挟持するようにしている。このように、撥水膜体24のみを傾斜させることで、空気流量制御部20の配置や構成に自由度を持たせることができる場合がある。
【0064】
また、弁体22と撥水膜体24を別の場所に配設するようにしてもよい。図10は、弁体22と撥水膜体24をそれぞれ異なる場所に配設した一例を示した断面図である。この例では、同図に示されるように、弁体22を上面部12の図の左側端部に配設し、撥水膜体24を上面部12の図の右側端部に配設している。そして、弁体22の上方に通気孔28dを設け、撥水膜体24の下方に導通口12gを設けると共に、弁体22および撥水膜体24を繋ぐ通気路12dを上面部12の天板12aの内部に形成している。
【0065】
このように、弁体22と撥水膜体24を離隔させて配設することにより、仮にインクMが撥水膜体24を通過したような場合であっても、このインクMが弁体22に到達するのを確実に防止することが可能となる。これにより、弁体22の有する空気流量制御機能をインク貯蔵容器の使用期間中にわたって維持することができる。
【0066】
また、平板状に構成した撥水膜体24を斜めに配設するのではなく、撥水膜体24自体が傾斜面を有するように構成してもよい。図11は、撥水膜体24の一部を突出させることにより傾斜面を形成した場合の一例を示した断面図である。この例では、同図に示されるように、撥水膜体24の一部分を図の下方に向けて突出させることにより、傾斜面24aを形成している。
【0067】
このように、撥水膜体24の一部に傾斜面を構成するようにすれば、従来の空気流制御部20において撥水膜体24を交換することのみによって、撥水膜体24に付着したインクMの除去について上記同様の効果を得ることができる。なお、この例では、導通口12gの内側面と撥水膜体24の傾斜面24aがスムーズに繋がるように、導通口12gを形成している。
【0068】
図12および13は、撥水膜体24の一部を膨出させることにより傾斜面を形成した例を示した断面図である。図12に示す例では、撥水膜体24の中央部分を弁体22側に向けて部分球面状に膨出させている。撥水膜体24をこのような形状に構成することで、撥水膜体24に付着したインク滴を速やかに外周側の低い部分に向けて流下させ、導通口12gの内側面に移動させることができる。
【0069】
また、図13に示す例では、撥水膜体24の中央部分を内部13側に向けて円錐形状に膨出させている。撥水膜体24をこのような形状に構成することで、撥水膜体24に付着したインク滴を速やかに、最低部である中央の頂点に向けて流下させ、この頂点から落下させることができる。
【0070】
このように、撥水膜体24の傾斜面は、平面状であってもよいし、曲面状であってもよい。また、撥水膜体24の傾斜面にさらに凹凸形状を設けることで、付着したインク滴を流下または落下させやすくするようにしてもよい。
【0071】
<インク吐出部>
図14は、インク吐出部30の断面図である。同図に示されるように、本体部11の底面には、円形断面の挿通孔15が形成されており、インク吐出部30は、この挿通孔15の周縁部を本体部11の外側(図の下方)に向けて突出させた突出部31と、突出部31の先端に配設されるシール部材32と、挿通孔15内に挿通される移動弁33と、挿通孔15の周縁部をインク貯蔵部10の内部13(図の上方)に向けて突出させた移動弁支持部34と、移動弁33をシール部材32に向けて付勢するコイルスプリング35を備えている。
【0072】
突出部31は、周壁が2重に構成された円筒状に形成されており、先端から挿入されたシール部材32が嵌合するように構成されている。突出部31の内径は、挿通孔15の内径と略同一となっている。
【0073】
シール部材32は、一端に底部32aを有し、他端が開口した略円筒状の部材であり、ゴム等の弾性材料から構成されている。底部32aの略中央には円形断面の吐出口32bが形成されており、この吐出口32bの周縁部には軸方向外側に向けて突出する環状の当接部32cが形成されている。また、シール部材の外周面には、半径方向外側に向けて突出する突起部32dが周方向に沿って形成されている。
【0074】
シール部材32の内部は、吐出口33bから他端にかけて放物線状に内径が拡大するように形成されている。そして、シール部材32の底部32aの反対側の端部には、半径方向外側に向けて張り出した後に当接面32側に向けて折り返された鍔部32eが設けられている。
【0075】
シール部材32は、底部32aから本体部分を突出部31の内部に圧入すると共に、鍔部32eの先端を突出部31の2重の周壁の間に圧入することによって配設される。このとき、突起部32dおよび鍔部32eが弾性変形し、その復元力によって突出部31に密着するため、シール部材32は突出部31に安定して固定されると共に、シール部材32と突出部31の隙間からインクMが漏出しないようになっている。
【0076】
移動弁33は、先端側(図の下側)の大径部33aと、基端側(図の上側)の小径部33bからなる略円柱状の部材である。大径部33aの外周面の軸方向中央近傍には、コイルスプリング35の一端が当接する鍔状の受圧部33cが形成されている。移動弁33は、大径部33aを内部に挿入されると共に、小径部33bを移動弁支持部34内に挿入され、軸方向に移動自在な状態で配設されている。なお、大径部33aの外径は、挿通孔15および突出部31の内径よりも小さく形成されている。
【0077】
移動弁支持部34は、本体部11の底面から内部13に向けて突設された略円筒状の基端部34aと、基端部34aの先端に突設された基端部34aより小径の略円筒状の支持部34bからなる。基端部34aの内径は、挿通孔15と略同一に形成されている。また、基端部34aには、軸方向の略全長にわたって形成された複数のスリット34cが形成されている。支持部34bは、内部に挿入された移動弁33を支持すると共に、移動弁33が軸方向に移動するのをガイドする部分である。このため、支持部34bの内径は、移動弁33がスムーズに滑動可能な径に設定されている。移動弁支持部34内部における基端部34aと支持部34bの間の段差34dは、コイルスプリング35の多端が当接する部分となっている。
【0078】
コイルスプリング35は、移動弁支持部34の基端部34aの内部において、移動弁33の受圧部33cと移動弁支持部34の段差34dの間に圧縮して配設されている。従って、コイルスプリング35は、移動弁33をシール部材32に向けて常に付勢し、移動弁33の大径部33aの先端がシール部材32の当接部33cに当接して吐出口32bを塞いだ状態を維持するようになっている。コイルスプリング35の付勢力は、大径部33aの先端がシール部材32の当接部33cを適宜に弾性変形させ、両者の隙間からインクMが漏出することのない大きさに設定されている。
【0079】
なお、インクジェットプリンタのキャリッジにこのインク貯蔵容器100がセットされると、キャリッジが備える部材により、コイルスプリング35の付勢力に抗して移動弁33が上方へ押し上げられ、所定の負圧状態で、インクがインクジェットプリンタに供給されるようになっている。すなわち、内部13から移動弁支持部34の基端部34aのスリット34cを通過して基端部34aおよび突出部31の内部に進入したインクMが、移動弁33の先端と当接部32cの隙間から吐出口32bを通過して吐出される。
【0080】
以上説明したように、本実施形態に係るインク貯蔵容器100は、インク貯蔵部10の内部13と弁体22の間に配設され、インク貯蔵容器100の使用時の姿勢において内部13に面する表面の一部がこの表面の他の部分よりも下方に位置するように構成される撥水膜体24を備えている。
【0081】
このため、撥水膜体24の内部13側の表面に付着したインク滴を重力によって速やかに下方に流下させ、除去することができる。これにより、撥水膜体24にインクが付着したまま滞留しないため、撥水膜体24部分の通気性が損なわれることがなく、弁体22によるインク貯蔵部10の内外間の空気流量制御機能を適切に維持することができる。
【0082】
また、撥水膜体24は、通気性および撥水性を有しているため、撥水膜体24の内部13側の表面にインクMが付着するのを防止すると共に、撥水膜体24の表面にインクMが付着した場合にはこのインク滴をより効率的に下方に流下させ、除去することができる。
【0083】
また、撥水膜体24の内部13に面する表面を、使用時の姿勢において水平面に対して角度を有した平面状となるように構成することにより、撥水膜体24の内部13側の表面に付着したインク滴をいずれか一方に向けて速やかに流下させることができる。
【0084】
また、撥水膜体24を平板状とし、使用時の姿勢において水平面に対して角度を有するように配設する簡素な構成とすることにより、コストを削減すると共に、撥水膜体24や弁体22等の配置の自由度を高めることができる。
【0085】
また、撥水膜体24は、インク貯蔵部10の上面部12の天板12aに配設されるものであってもよいし、インク貯蔵部10の側面部(上面部12の側面部分または本体部11の側面部分)に配設されるものであってもよい。
【0086】
撥水膜体24を上面部12に配設すればインクMの液面を上げることができるため、インクMの貯蔵量を増すことができる。また、撥水膜体24をインク貯蔵部10の側面部に配設すれば、撥水膜体24の傾斜面の水平面に対する角度を増加させることができるため、インクMをより効率的に除去することができる。
【0087】
また、弁体22は、通常時は空気を流通させないが、インク貯蔵部10の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる弾性変形可能な連通多孔質な素材から構成されている。このため、弁体22の空気流量制御によって内部13を適正な圧力に維持することができる。
【0088】
本発明は、このような弁体22を採用した場合に、特に好適である。すなわち、撥水膜体24の内部13側の表面に付着したインク滴を速やかに除去することにより、インクMが撥水膜体13を通過して弁体22に到達する可能性を低くすることができるため、連通多孔質である弁体22の内部にインクMが詰まって空気流量制御機能が損なわれるような事態を防止することができる。
【0089】
以上、本発明を実施形態により詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も本発明の範囲に含まれるものである。
【0090】
例えば、本体部11および上面部12の形状、空気流量制御部20の位置または形状、ならびにインク吐出部30の位置または形状等は、上記実施形態において示したものに限定されることはなく、その他の位置や形状を採用することができる。
【0091】
また、撥水膜体24は、上記実施形態において平板状のものおよび傾斜面を有するものを示したが、撥水膜体24の形状はこれらに限定されるものではなく、例えば複数の凹凸形状を備えるものであってもよい。すなわち、撥水膜体24の形状は、インク貯蔵部10の内部13に面する表面において、一部が他の部分よりも下方(インクMの液面に近い位置)に位置しており、付着したインク滴を重力によって除去することができる形状となっていればよい。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、インク貯蔵容器、特にインクジェットプリンタ用のインクカートリッジとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施形態に係るインク貯蔵容器の構造を示す断面図である。
【図2】図1のA部を拡大した要部拡大断面図である。
【図3】空気流量制御部の断面図である。
【図4】空気流量制御部が備える各部材の斜視図である。
【図5】図3のB部を拡大した要部拡大断面図である。
【図6】図3のB部を拡大した要部拡大断面図である。
【図7】空気流量制御部を上面部の上方に突出させて設けた一例を示した断面図である。
【図8】空気流量制御部をインク貯蔵部の側面部に設けた一例を示した図である。
【図9】撥水膜体のみを水平面に対して斜めに配設した一例を示した断面図である。
【図10】弁体と撥水膜体をそれぞれ異なる場所に配設した一例を示した断面図である。
【図11】撥水膜体の一部を突出させることにより傾斜面を形成した場合の一例を示した断面図である。
【図12】撥水膜体の一部を膨出させることにより傾斜面を形成した一例を示した断面図である。
【図13】撥水膜体の一部を膨出させることにより傾斜面を形成した一例を示した断面図である。
【図14】インク吐出部の断面図である。
【符号の説明】
【0094】
10 インク貯蔵部
11 本体部
12 上面部
13 インク貯蔵部の内部
22 弁体
24 撥水膜体
100 インク貯蔵容器
M インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを貯蔵するインク貯蔵部と、
前記インク貯蔵部の内外間の空気流量を制御する弁体と、
前記インク貯蔵部の内部と前記弁体の間に配設され、使用時の姿勢において前記内部に面する表面の一部が前記表面の他の部分よりも下方に位置するように構成される撥水膜体と、を備えることを特徴とする、インク貯蔵容器。
【請求項2】
前記撥水膜体は、通気性および撥水性を有することを特徴とする、
請求項1に記載のインク貯蔵容器。
【請求項3】
前記撥水膜体の前記内部に面する表面は、使用時の姿勢において水平面に対して角度を有した平面状となるように構成されることを特徴とする、
請求項1または2に記載のインク貯蔵容器。
【請求項4】
前記撥水膜体は、平板状であり、使用時の姿勢において水平面に対して角度を有するように配設されることを特徴とする、
請求項3に記載のインク貯蔵容器。
【請求項5】
前記撥水膜体は、前記インク貯蔵部の上面部に配設されることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載のインク貯蔵容器。
【請求項6】
前記撥水膜体は、前記インク貯蔵部の側面部に配設されることを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載のインク貯蔵部。
【請求項7】
前記弁体は、通常時は空気を流通させないが、前記インク貯蔵部の内圧変化に応じて外部との間で空気交換を行わせる弾性変形可能な連通多孔質な素材から構成されることを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれかに記載のインク貯蔵容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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