説明

インサート及びインサート成形方法

【課題】インサート成形方法において、部分によって異なる大きさの成形収縮応力を受けても寸法誤差を生じない寸法精度の高いインサート成形を行うことができること。
【解決手段】インサート本体2の成形樹脂と接触する部分の端部を除いた部分をシリコン樹脂からなる弾性体3で覆ってなるインサート1を用いて成形された成形体6においては、インサート本体2の内径2aの寸法の収縮量が上側と下側とで差がなく、しかも収縮量の絶対値が2μm,3μmと小さかった。小径の円筒部6Aと大径の円筒部6Bの収縮圧力の差が、インサート1の成形樹脂と接触する部分の端部を除いた部分を覆うシリコン樹脂からなる弾性体3によって吸収及び/または分散され均一化されたものと考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法精度の高いインサート成形を行うことができるインサート及びインサート成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形型等の成形型に予めインサートをセットしておいて、射出成形等によって溶融樹脂を圧入してインサートと一体化して成形品とするインサート成形によって、軸受け等を始めとする様々な製品が製造されている。ここで、特に軸受け等の製品においては、出来上がった成形体においてインサートの寸法精度が高いことが極めて重要である。
【0003】
しかし、例えば、リング状のインサートを用いてインサート成形を行う場合には、インサートの位置によって周囲を取り巻く圧入される成形樹脂の厚さが異なることによって、インサートの位置によって成形収縮圧力が異なるために、出来上がった成形体においてインサートの内径寸法にミクロンオーダーで誤差が生じてしまい、インサートの内径がテーパー状に変形して後加工が必要になる場合があった。
【0004】
そこで、特許文献1においては、このような問題を解決するために、予め円筒形のインサートの内径に成形収縮による変形を見込んだテーパーを付けておくという特許発明について開示している。これによって、樹脂の成形収縮によって円筒形のインサートの一端部が他端部より大きく変形したときに、インサートの内径寸法差を小さくするように変形するために、インサート成形体の内径全体が真の円筒形に近づいて寸法誤差が解消されるとしている。
【0005】
しかし、この特許発明に係る技術においては、予め円筒形のインサートの内径に成形収縮による変形を見込んだテーパーを付けておく加工が極めて難しいものとなり、成形樹脂材料、成形体の形状、インサートの形状が変わるたびにテーパーの大きさを最適に調節して加工することは事実上不可能であると考えられる。また、例えインサートの内径寸法差を小さくできたとしても、インサートを取り巻く樹脂成形体部分の寸法精度が確保されないという問題点があった。
【0006】
この問題点を解消するためには、インサートの位置によって異なる成形収縮圧力を吸収及び/または分散させて均一化することが効果的であると考えられる。インサートの周囲にインサート成形前に予め弾性体を嵌合させておく技術が、特許文献2及び特許文献3に開示されている。
【特許文献1】特許第3570468号公報
【特許文献2】特許第2518135号公報
【特許文献3】特開平8−323806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示された特許発明は、インサートの外周とその周りの成形樹脂との間の隙間を塞いで気密性を保つためにインサートの周囲に予め弾性体を嵌合させておくものであり、また、特許文献3に開示された発明は、樹脂の成形収縮によって成形体の樹脂部分に剥離やクレージングや亀裂が発生するのを防ぐためのものであり、いずれもインサート及びインサート成形体の寸法誤差を解決することはできないという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても寸法誤差を生ずることのない、寸法精度の高いインサート成形を行うことができるインサート及びインサート成形方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係るインサートは、成形型にセットして成形用樹脂を圧入することによって前記成形用樹脂と一体化して成形体となるインサート成形用のインサートであって、前記成形用樹脂に接触する部分全体または前記成形用樹脂に接触する部分の端部を除いた部分が前記成形用樹脂の成形収縮により発生する応力を前記インサート全体に吸収及び/または分散できる低弾性率及び高伸び率を有する弾性体で覆われたものである。
【0010】
ここで、インサートの弾性体以外の部分、すなわちインサート本体の材質は、鉄鋼・アルミニウム・銅・ステンレス鋼を始めとする金属、アルミナ・炭化ケイ素を始めとするセラミックス、軟化点の高い熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂及びこれらの樹脂に強化材としてガラス繊維等を混入したFRP(繊維強化樹脂)、木材、等の耐熱性で剛性を有する材料であれば、種々の材料を用いることができる。
【0011】
また、弾性体の材質としては、シリコン樹脂、合成ゴム及び合成ゴム以外のエラストマー(天然ゴム等)を始めとして、成形用樹脂の成形収縮により発生する応力を前記インサート全体に吸収及び/または分散できる低弾性率及び高伸び率を有するものであれば、種々の材料を用いることができる。更に、成形用樹脂としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・アクリル樹脂・ポリスチレン・ナイロン樹脂を始めとする熱可塑性樹脂、フェノール樹脂・エポキシ樹脂・ウレタン樹脂を始めとする熱硬化性樹脂、及びこれらの樹脂に強化材としてガラス繊維等を混入したFRP(繊維強化樹脂)等の種々の樹脂を用いることができる。
【0012】
請求項2の発明に係るインサートは、請求項1の構成において、前記弾性体はシリコン樹脂、合成ゴムまたは合成ゴム以外のエラストマーであるものである。
【0013】
請求項3の発明に係るインサートは、請求項1または請求項2の構成において、前記弾性体の厚さは0.2mm〜2.0mmの範囲内であるものである。
【0014】
請求項4の発明に係るインサートは、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記弾性体以外の部分は金属からなるものである。ここで、「金属」としては、鉄鋼・アルミニウム・アルミニウム合金・銅・銅合金・チタン・チタン合金・ステンレス鋼を始めとする一般的な金属を用いることができる。
【0015】
請求項5の発明に係るインサート成形方法は、インサートを成形型にセットして成形用樹脂を圧入することによって前記インサートと前記成形用樹脂を一体化して成形体とするインサート成形方法であって、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のインサートを用いるものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係るインサートは、成形型にセットして成形用樹脂を圧入することによって成形用樹脂と一体化して成形体となるインサート成形用のインサートであって、成形用樹脂に接触する部分全体または成形用樹脂に接触する部分の端部を除いた部分が成形用樹脂の成形収縮により発生する応力をインサート全体に吸収及び/または分散できる低弾性率及び高伸び率を有する弾性体で覆われたものである。
【0017】
ここで、インサートの弾性体以外の部分、すなわちインサート本体の材質は、鉄鋼・アルミニウム・銅・ステンレス鋼を始めとする金属、アルミナ・炭化ケイ素を始めとするセラミックス、軟化点の高い熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂及びこれらの樹脂に強化材としてガラス繊維等を混入したFRP(繊維強化樹脂)、木材等の、耐熱性で剛性を有する材料であれば、種々の材料を用いることができる。
【0018】
また、弾性体の材質としては、シリコン樹脂、合成ゴム及び合成ゴム以外のエラストマー(天然ゴム等)を始めとして、成形用樹脂の成形収縮により発生する応力を前記インサート全体に吸収及び/または分散できる低弾性率及び高伸び率を有するものであれば、種々の材料を用いることができる。更に、成形用樹脂としては、ポリエチレン・ポリプロピレン・アクリル樹脂・ポリスチレン・ナイロン樹脂を始めとする熱可塑性樹脂、フェノール樹脂・エポキシ樹脂・ウレタン樹脂を始めとする熱硬化性樹脂、及びこれらの樹脂に強化材としてガラス繊維等を混入したFRP(繊維強化樹脂)等の種々の樹脂を用いることができる。
【0019】
これによって、インサートの成形用樹脂に接触する部分またはその端部を除いた部分が成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても、インサートの成形用樹脂に接触する部分またはその端部を除いた部分を覆っている低弾性率及び高伸び率を有する弾性体によって応力がインサート全体に吸収及び/または分散されるため、インサート全体に均一な圧力が掛かり、成形用樹脂の成形収縮によるインサート及びインサート成形体の歪みを確実に防止することができる。
【0020】
このようにして、成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても寸法誤差を生ずることのない、寸法精度の高いインサート成形を行うことができるインサートとなる。
【0021】
請求項2の発明に係るインサートにおいては、弾性体がシリコン樹脂、合成ゴムまたは合成ゴム以外のエラストマー(天然ゴム等)である。
【0022】
シリコン樹脂、合成ゴム及び合成ゴム以外のエラストマーは、成形用樹脂の成形収縮により発生する応力をインサート全体に吸収及び/または分散できる低弾性率及び高伸び率を有するため、成形用樹脂に接触する部分またはその端部を除いた部分がシリコン樹脂、合成ゴムまたはゴム以外のエラストマーで覆われていることによって、成形用樹脂の成形収縮により発生する部分によって異なる大きさの応力を受けても、応力がインサート全体に吸収及び/または分散されるため、インサート全体に均一な圧力が掛かり、成形用樹脂の成形収縮によるインサートの歪みを確実に防止することができる。
【0023】
このようにして、成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても寸法誤差を生ずることのない、寸法精度の高いインサート成形を行うことができるインサートとなる。
【0024】
請求項3の発明に係るインサートにおいては、弾性体の厚さが0.2mm〜2.0mmの範囲内、より好ましくは0.5mm〜1.5mmの範囲内である。
【0025】
本発明者は、鋭意実験研究の結果、インサートにおいて成形用樹脂に接触する部分全体または成形用樹脂に接触する部分の端部を除いた部分を覆う弾性体の厚さが0.2mm〜2.0mmの範囲内、より好ましくは0.5mm〜1.5mmの範囲内である場合に、より寸法精度の高いインサート成形を行うことができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0026】
すなわち、弾性体の厚さが0.2mm未満であると成形収縮による応力をインサート及びインサート成形体全体に吸収及び/または分散する効果が少なく、一方弾性体の厚さが2.0mmを超えると小型の成形体の場合に弾性体の弾性による効果が大きくなって、インサート成形体として好ましくない性質が発現する可能性がある。したがって、弾性体の厚さは0.2mm〜2.0mmの範囲内であることが好ましい。
【0027】
更に、弾性体の厚さが0.5mm〜1.5mmの範囲内であれば、充分な応力吸収・分散効果が得られるとともに、小型の成形体の場合でもインサート成形体として好ましくない性質が発現する可能性がなくなるため、より好ましい。
【0028】
このようにして、成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても寸法誤差を生ずることのない、寸法精度の高いインサート成形を行うことができるインサートとなる。
【0029】
請求項4の発明に係るインサートにおいては、弾性体以外の部分が金属からなる。ここで、「金属」としては、鉄鋼・アルミニウム・アルミニウム合金・銅・銅合金・チタン・チタン合金・ステンレス鋼を始めとする一般的な金属を用いることができる。特に、剛性の高い鉄鋼・アルミニウム合金・チタン・チタン合金・ステンレス鋼が好ましい。
【0030】
インサートの弾性体以外の部分、すなわちインサート本体が金属からなることによって、精密な加工が容易にでき、寸法精度に優れたインサートが容易に得られることによって、寸法精度の高いインサート成形体を容易に製造することができる。
【0031】
このようにして、成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても寸法誤差を生ずることのない、寸法精度の高いインサート成形を行うことができるインサートとなる。
【0032】
請求項5の発明に係るインサート成形方法は、インサートを成形型にセットして成形用樹脂を圧入することによってインサートと成形用樹脂を一体化して成形体とするインサート成形方法であって、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のインサートを用いるものである。
【0033】
これによって、請求項1に記載のインサートを用いた場合には、インサートの成形用樹脂に接触する部分または端部を除いた部分が成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても、インサートの成形用樹脂に接触する部分または端部を除いた部分を覆っている低弾性率及び高伸び率を有する弾性体によって応力がインサート及びインサート成形体全体に吸収及び/または分散されるため、インサート全体に均一な圧力が掛かり、成形用樹脂の成形収縮によるインサート及びインサート成形体の歪みを確実に防止することができる。
【0034】
また、請求項2に記載のインサートを用いた場合には、シリコン樹脂、合成ゴム及びゴム以外のエラストマーは、成形用樹脂の成形収縮により発生する応力をインサート全体に吸収及び/または分散できる低弾性率及び高伸び率を有するため、インサートの成形用樹脂に接触する部分がシリコン樹脂、合成ゴムまたはゴム以外のエラストマーで覆われていることによって、インサートが成形用樹脂の成形収縮により発生する部分によって異なる大きさの応力を受けても、応力がインサート全体に吸収及び/または分散されるため、インサート全体に均一な圧力が掛かり、成形用樹脂の成形収縮によるインサートの歪みを確実に防止することができる。
【0035】
更に、請求項3に記載のインサートを用いた場合には、弾性体の厚さが0.2mm未満であると成形収縮による応力をインサート全体に吸収及び/または分散する効果が少なく、一方弾性体の厚さが2.0mmを超えると小型の成形体の場合に弾性体の弾性による効果が大きくなって、インサート成形体として好ましくない性質が発現する可能性があるので、弾性体の厚さは0.2mm〜2.0mmの範囲内であることが好ましい。更に、弾性体の厚さが0.5mm〜1.5mmの範囲内であれば、充分な応力吸収・分散効果が得られるとともに、小型の成形体の場合でもインサート成形体として好ましくない性質が発現する可能性がなくなるため、より好ましい。
【0036】
また、請求項4に記載のインサートを用いた場合には、インサートの弾性体以外の部分、すなわちインサート本体が金属からなることによって、精密な加工が容易にでき、寸法精度に優れたインサートが容易に得られることによって、寸法精度の高いインサート成形体を容易に製造することができる。
【0037】
このようにして、成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても寸法誤差を生ずることのない、寸法精度の高いインサート成形を行うことができるインサート成形方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態に係るインサート及びインサート成形方法について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0039】
図1(a)は本発明の実施の形態に係るインサートを示す平面図、(b)は底面図、(c)は(a)のA−A断面図である。図2(a)は従来のインサート及びインサート成形方法によって成形した成形体を示す斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のB−B断面図である。図3(a)は本発明の実施の形態に係るインサート及びインサート成形方法によって成形した成形体を示す斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のC−C断面図である。図4は従来のインサート及びインサート成形方法によって成形した成形体の歪みを誇張して示す断面図である。
【0040】
まず、本発明の実施の形態に係るインサートの全体構造について、図1を参照して説明する。
【0041】
図1に示されるように、本実施の形態に係るインサート1は、金属としての鉄鋼材(S45C)からなるインサート本体2の成形樹脂と接触する部分の端部を除いた部分をシリコン樹脂3で覆ってなるものである。リング形状のインサート本体2の寸法は、外径φ85mm×内径φ64mm×軸方向厚さ10mmで、シリコン樹脂3の皮膜の厚さの平均値は1.0mmである。シリコン樹脂3の皮膜は、シリコン樹脂3を主成分とする接着剤をインサート本体2の表面に塗布して乾燥することによって形成し、弾性体として機能する。
【0042】
次に、本実施の形態に係るインサート成形方法によって成形される成形体について、図2乃至図4を参照して説明する。図2及び図4に示されるのは、従来のインサートである鉄鋼材(S45C)からなるインサート本体2を用いて、従来のインサート成形方法によって成形された成形体である。
【0043】
図3に示されるように、本実施の形態に係るインサート成形方法によって成形される成形体6は、小径の円筒部6A及び大径の円筒部6Bを有し、内部に本実施の形態に係るインサート1が埋め込まれてなる軸受け部品である。成形体6の樹脂部分は、強化材としてガラス繊維を混入したフェノール樹脂からなるFRP(繊維強化樹脂)である。すなわち、成形体6は、小径の円筒部6A及び大径の円筒部6Bに対応するキャビティを有する射出成形金型に、本実施の形態に係るインサート1を予めセットして、ガラス繊維を混入したフェノール樹脂を射出成形してなるものである。
【0044】
これに対して、図2に示される従来のインサートであるインサート本体2を用いて、従来のインサート成形方法によって成形される成形体5も、小径の円筒部5A及び大径の円筒部5Bを有し、内部に従来のインサート本体2が埋め込まれてなる軸受け部品であり、成形体5の樹脂部分は強化材としてガラス繊維を混入したフェノール樹脂からなるFRP(繊維強化樹脂)である。したがって、小径の円筒部5A,6Aよりも大径の円筒部5B,6Bの方が成形収縮量が大きく、インサート1、インサート本体2の対応する部分は、より大きな収縮圧力を受けることになる。
【0045】
このように、同一のキャビティを有する射出成形金型に、本実施の形態に係るインサート1または従来のインサート本体2を予めセットして、ガラス繊維を混入したフェノール樹脂を同一の射出成形条件、すなわち同じ射出成形温度・圧力・速度で射出成形して、成形体5,6を成形し、冷却固化した後に取り出して、図2(c)に示されるインサート本体2の貫通孔2aの上側径の収縮量と下側径の収縮量とを測定した。
【0046】
ここで、比較のために、本実施の形態に係るインサート1(弾性体3がシリコン樹脂で厚さの平均値1.0mmのもの)を実施例1とし、実施例2として同一のインサート本体2を用いて弾性体3がシリコン樹脂で厚さの平均値0.5mmのもの、実施例3として同一のインサート本体2を用いて弾性体3がシリコン樹脂で厚さの平均値2.0mmのもの、実施例4として同一のインサート本体2を用いて弾性体3が合成ゴムとしてのNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム,二トリルゴムともいう。)で厚さの平均値1.0mmのものについても、同様に試験を行った。それらの結果を、表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示されるように、本実施の形態の実施例1に係るインサート成形方法によって成形された成形体6においては、インサート本体2の内径寸法の収縮量が上側と下側とで差がなく、しかも収縮量の絶対値が2μm,3μmと小さい。また、本実施の形態の実施例2に係るインサート成形方法によって成形された成形体においても、インサート本体2の内径寸法の収縮量が上側と下側とで差がなく、収縮量の絶対値が3μm,6μmと小さい。
【0049】
更に、本実施の形態の実施例3に係るインサート成形方法によって成形された成形体においても、インサート本体2の内径寸法の収縮量が上側と下側とで差がなく、しかも収縮量の絶対値が1μm,2μmと更に小さい。また、本実施の形態の実施例4に係るインサート成形方法によって成形された成形体においても、インサート本体2の内径寸法の収縮量が上側と下側とで差がなく、収縮量の絶対値が3μm,4μmと小さい。
【0050】
これらに対して、表1に示されるように、従来のインサート成形方法によって成形された成形体5においては、インサート本体2の内径寸法の収縮量が上側と下側とで差が大きく、しかも収縮量の絶対値が5μm,22μmと大きくなっている。
【0051】
これは、本実施の形態に係る成形体6においては、小径の円筒部6Aと大径の円筒部6Bの収縮圧力の差が、インサート1の成形樹脂と接触する部分の端部を除いた部分を覆うシリコン樹脂または合成ゴムの弾性体3の性状によって吸収及び/または分散され均一化されたのに対して、成形体5においては小径の円筒部5Aと大径の円筒部5Bの収縮圧力の差がそのまま表れたものと考えられる。したがって、軸受け部品としての成形体5,6を比較した場合、成形体5は使用するためには貫通孔2aの後加工が必要となるのに対して、本実施の形態に係る成形体6においてはその必要がなく、大量生産できるため、コストを低減することができる。
【0052】
ここで、フェノール樹脂は熱硬化性樹脂であり、射出成形用樹脂の中では成形収縮が少ない方であり、しかもガラス繊維を混入したことによって更に成形収縮が少なくなっているにも関わらず、従来例と実施例でこのような明確な差が出ることから考えて、熱可塑性樹脂のような成形収縮の大きい樹脂を成形樹脂として使用した場合には、更に大きな差が出るものと考えられる。
【0053】
更に、歪みを誇張して示す図4に示されるように、従来のインサート成形方法によって成形された成形体5においては、インサート本体2の貫通孔2aがテーパー状に変形するのみならず、樹脂部分の貫通孔5aもテーパー状に変形してLmmの反りが生じてしまう。これによって、成形体5の外径にも寸法誤差が出て、より不具合が大きくなるのに対して、本実施の形態に係るインサート成形方法によって成形された成形体6においては、このような樹脂部分の寸法誤差をも最小限に抑えることができる。
【0054】
このようにして、本実施の形態に係るインサート1及びインサート成形方法においては、成形用樹脂の成形収縮により発生する、部分によって異なる大きさの応力を受けても寸法誤差を生ずることのない、寸法精度の高いインサート成形を行うことができる。
【0055】
また、本実施の形態に特有の作用効果として、インサート成形体6が軸受け部品であることから、ミクロンオーダーの寸法誤差の相違であっても、従来のインサート2及びインサート成形方法による成形体5では後加工の必要があるのに対して、本実施の形態に係るインサート成形体6においてはその必要がなく、大量生産が可能でコストを低減できるという効果がある。
【0056】
本実施の形態に係るインサート1及びインサート成形方法においては、インサート本体2として鋼材(S45C)からなるリング形状のものを使用した場合について説明したが、インサート本体の材質としては、鋼材以外のアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ステンレス鋼等を始めとする金属や、アルミナ・炭化ケイ素を始めとするセラミックス、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を始めとする熱硬化性樹脂や軟化点の高い熱可塑性樹脂、及びこれらの樹脂に強化材としてガラス繊維等を混入したFRP(繊維強化樹脂)、木材、等を使用することもできる。
【0057】
また、インサート本体の形状についても、リング形状に限られるものではなく、円柱・角柱・矩形体を始めとして、どのような形状でも良い。更に、本実施の形態に係るインサート1及びインサート成形方法においては、インサート本体2の表面の成形用樹脂に接触する部分の端部を除いた部分を弾性体としてのシリコン樹脂3で覆った場合について説明したが、成形体の形状や成形条件等によって、成形用樹脂に接触する部分全体を他の弾性体、弾性材料で覆うこともできる。
【0058】
また、本実施の形態に係るインサート1及びインサート成形方法においては、弾性体3としてシリコン樹脂及び合成ゴムとしてのNBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム,二トリルゴムともいう。)を用いた場合について説明したが、これに限られるものではなく、NBR以外の合成ゴム及び合成ゴム以外のエラストマー(天然ゴム等)を始めとして、成形用樹脂の成形収縮により発生する応力を前記インサート全体に吸収及び/または分散できる低弾性率及び高伸び率を有するものであれば、種々の材料を用いることができる。
【0059】
更に、本実施の形態に係るインサート成形方法においては、成形樹脂としてガラス繊維を混入したフェノール樹脂を用いた場合について説明したが、フェノール樹脂単体或いはガラス繊維以外の炭素繊維等を混入したフェノール樹脂を始めとして、ポリエチレン・ポリプロピレン・アクリル樹脂・ポリスチレン・ナイロン樹脂を始めとする熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂・ウレタン樹脂を始めとする熱硬化性樹脂、及びこれらの樹脂に強化材としてガラス繊維等を混入したFRP等の、種々の樹脂を用いることができる。
【0060】
また、本実施の形態に係るインサート成形方法においては、成形樹脂を圧入する成形方法として射出成形法を用いた場合について説明したが、インサート成形方法としては射出成形法に限られるものではなく、圧縮成形法・トランスファー成形法を始めとして、インサート成形に応用できる成形方法であれば、種々の成形方法によることができる。
【0061】
本発明を実施するに際しては、インサートのその他の部分の構成、形状、材質、大きさ、製造方法等についても、またインサート成形方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で上げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更しても実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1(a)は本発明の実施の形態に係るインサートを示す平面図、(b)は底面図、(c)は(a)のA−A断面図である。
【図2】図2(a)は従来のインサート及びインサート成形方法によって成形した成形体を示す斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のB−B断面図である。
【図3】図3(a)は本発明の実施の形態に係るインサート及びインサート成形方法によって成形した成形体を示す斜視図、(b)は平面図、(c)は(b)のC−C断面図である。
【図4】図4は従来のインサート及びインサート成形方法によって成形した成形体の歪みを誇張して示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 インサート
3 弾性体
6 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型にセットして成形用樹脂を圧入することによって前記成形用樹脂と一体化して成形体となるインサート成形用のインサートであって、
前記成形用樹脂に接触する部分全体または前記成形用樹脂に接触する部分の端部を除いた部分が、前記成形用樹脂の成形収縮により発生する応力を前記インサート全体に吸収及び/または分散できる低弾性率及び高伸び率を有する弾性体で覆われたことを特徴とするインサート。
【請求項2】
前記弾性体はシリコン樹脂、合成ゴムまたは合成ゴム以外のエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のインサート。
【請求項3】
前記弾性体の厚さは0.2mm〜2.0mmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインサート。
【請求項4】
前記弾性体以外の部分は金属からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載のインサート。
【請求項5】
インサートを成形型にセットして成形用樹脂を圧入することによって前記インサートと前記成形用樹脂を一体化して成形体とするインサート成形方法であって、
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のインサートを用いることを特徴とするインサート成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−213260(P2008−213260A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52599(P2007−52599)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】