説明

インシュリン様成長因子(IGF)I変異体

【課題】 IGFBP-1及びIGFBP-3に選択的に結合するIGF-I及びインシュリン変異体を提供する。
【解決手段】 天然配列ヒトIGF-Iの位置3、4、5、7、10、14、17、23、24、25、43、49又は63のアミノ酸、あるいはそれらのアミノ酸と位置12又は16又は12と16の両方との組み合わせ、あるいはそれらの任意の組み合わせが、(i)位置3においてはアラニン又はセリン、(ii)位置4においてはセリン、(iii)前記位置7においては任意のアミノ酸(iv)位置24においてはアラニン又はグリシン、位置3、4、7又は24以外の位置ではアラニン、グリシン、又はセリン残基で置換されたIGF-I変異体。これらの変異体はIGFBP-1及びIGFBP-3に選択的に結合する。これらのアゴニスト変異体は、例えば、各々IGF-I及びインシュリンの半減期を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インシュリン様成長因子(IGF)のアゴニストとして有用な分子、並びにIGF様インシュリン分子に関する。より詳細には、これらの分子は、IGF又はインシュリンと一又は複数のIGF結合性タンパク質との相互作用を阻害する。例えばこのような分子は、IGF又はインシュリンが、例えば高血糖性、肥満関連、神経性、心臓性、腎性、免疫性、及び同化作用性疾患の治療のために使用される任意の方法において使用できる。
【背景技術】
【0002】
インシュリン様成長因子I及びII(各々、IGF-I及びII)は、細胞増殖、細胞分化、細胞死の阻害、及びインシュリン様活性を含む多数の効果をインビボで媒介する(Clark及びRobinson, Cytokine Growth Factor Rev., 7: 65-80 (1996); Jones及びClemmons, Endocr. Rev., 16: 3-34 (1995)に概説されている)。これらの分裂促進的及び代謝的反応の殆どは、インシュリンレセプターに密接に関連するαβ-ヘテロテトラマーであるIGF-Iレセプターの活性化によって開始される(McInnes及びSykes, Biopoly., 43: 339-366 (1998); Ullrich等, EMBO J., 5: 20503-2512 (1986))。両方のタンパク質がチロシンキナーゼレセプタースーパーファミリーのメンバーであり、共通の細胞内シグナル伝達カスケードを有する(Jones及びClemmons, 上掲)。IGF-インシュリンハイブリッドレセプターが単離されたが、それらの機能は不明である。IGF-I及びインシュリンレセプターはそれらの特異的なリガンドにナノモル親和性で結合する。IGF-I及びインシュリンは、それら各々の非同系レセプターと交差反応するが100−1000倍低い親和性である(Jones及びClemmons, 上掲)。IGF-Iレセプターの細胞外部分の一部を描写する結晶構造が最近報告された(Garrett等, Nature. 394: 395-399 (1998))。
【0003】
インシュリンとは異なり、IGF-Iの活性及び半減期は6個のIGF-I結合性タンパク質(IGFBP-1−6)により、そしておそらく関連性のより薄いクラスのタンパク質によって更に改変される(Jones及びClemmons, 上掲; Baxter等, Endocrinology, 139: 4036 (1998))。IGFBPは、それらが可溶性か細胞膜結合性かによって、IGF活性を阻害又は増強する(Bach及びRechler, Diabetes Review, 3: 38-61 (1995))。IGFBPは、種々の親和性及び特異性でIGF-I及びIGF-IIに結合する(Jones及びClemmons, 上掲; Bach及びRechler, 上掲)。例えば、IGFBP-3は類似の親和性でIGF-I及びIGF-IIに結合するが、IGFBP-2及びIGFBP-6はIGF-IIに対してそれらがIGF-Iに結合するよりも非常に高い親和性で結合する(Bach及びRechler, 上掲; Oh等, Endocrinology, 132, 1337-1344 (1993))。
【0004】
古典的なIGFBPは22−31kDaの範囲の分子量を持ち、それらの保存されたアミノ-及びカルボキシ-末端ドメインに合計16−20のシステインを含む(Bach及びRechler, 上掲; Clemmons, Cytokine Growth Factor Rev., 8: 45-62 (1997); Martin及びBaxter, Curr. Op. Endocrinol. Diab., 16-21 (1994))。両方のシステインリッチ領域を連結している中心ドメインは弱く保存されるのみで、IGFBP特異的プロテアーゼのための切断部位を含んでいる(Chernausek等, J. Biol. Chem., 270: 11377-11382 (1995); Clemmons, 上掲; Conover, Prog. Growth Factor Res., 6: 310-309 (1995))。IGFBPのさらなる調節は、リン酸化及びグリコシル化によって達成されうる(Bach及びRechler, 上掲; Clemmons, 上掲)。IGFBPファミリーの任意の無処理のメンバーについて利用可能な高分解能構造は存在しない。しかしながら、IGF結合活性を保持するIGFBP-5からの2つのN-末端断片のNMR構造が最近報告された。(Kalus等, EMBO J., 17: 6558-6572 (1998))。
【0005】
IGF-Iは一本鎖の70アミノ酸タンパク質であり、プロインシュリンと高い相同性を持つ。インシュリンスーパーファミリーの他のメンバーとは異なり、IGFのC領域は翻訳後にタンパク質分解的に除去されない。IGF-I(Cooke等, Biochemistry, 30: 5484-5491 (1991); Hua等, J. Mol. Biol., 259: 297-313 (1996))、ミニ-IGF-I(C鎖を欠く操作変異体;DeWolf等, J. Mol. Biol., 5: 2193-2202 (1996))、及びIGF-II(Terasawa等, EMBO J., 13: 5590-5597 (1994); Torres等, J. Mol. Biol., 248: 385-401 (1995))の溶液NMR構造が報告された。IGF-I上の異なるエピトープがレセプター及び結合性タンパク質に結合することは一般に認められている。動物モデルにおいて、レセプター不活性IGF変異体が結合性タンパク質からの内因性IGF-Iと置換でき、インビボで全体としてのIGF-I効果を生ずることが示された(Loddick等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 1894-1898 (1998); Lowman等, Biochemistry, 37: 8870-8878 (1998))。残基Y24、Y29、Y31、及びY60はレセプター結合に関係しているが、そのIGF変異体もIGFBPに結合する(Bayne等, J. Biol. Chem., 265: 15648015652 (1990); Bayne等, J. Biol. Chem., 264: 11004-11008 (1989); Cascieri等, Biochemistry, 27: 3229-3233 (1988): Lowman等, 上掲)。
さらに、ヒトIGF-IのC領域の残基28−37が4残基グリシン架橋で置換された(1-27, gly4, 38-70)-hIGF-Iと命名された変異体が、IGFBPには結合するがIGFレセプターには結合しないことが発見された(Bar等, Endocrinology, 127: 3243-3245 (1990))。
【0006】
多数の突然変異誘発実験がIGF-I上のIGFBP結合性エピトープの特徴付けのためになされてきた(Bagley等, Biochemm. J., 259: 665-671 (1989); Baxter等, J. Biol. Chem., 267: 60-65 (1992); Bayne等, J. Biol. Chem., 263: 6233-6239 (1988); Clemmons等, J. Biol. Chem., 265: 12210-12216 (1990); Clemmons等Endocrinology, 131: 890-895 (1992); Oh等, 上掲)。要するに、N-末端残基3及び4及び残基8−17を含む螺旋領域がIGFBPへの結合にとって重要であることがわかった。さらに、IGFBP-1、-2及び-5への結合において残基49−51を含むエピトープが同定された(Clemmons等, Endocrinology, 上掲, 1992)。さらに、最初の3つのN-末端アミノ酸を欠くIGF-Iの天然発生の切断形態(des81-3)-IGF-Iと呼ばれる)が、IGFBP-3に25倍低い親和性で結合することが示された(Heding等, J. Biol. Chem., 271: 13948-13952 (1996); 米国特許第5,077,276号; 同5,164,370号; 同5,470,828号)。
【0007】
N-末端螺旋において露出されたアミノ酸残基の結合性寄与を特徴づける試みにおいて、IGF-Iの幾つかのアラニン変異体が構築された(Jansson等, Biochemistry, 36: 4108-4117 (1997))。しかしながら、これらの変異体タンパク質の円二色性スペクトルは、野生型IGF-Iに比較して構造的な変化を示し、IGFBP結合性寄与を変異した側鎖に明確に割り当てることを困難にした。異なるアプローチが極く最近の研究で行われ、そこではIGF-I上のIGFBP-1結合性エピトープが異核NMRスペクトル法によってプローブされた(Jansson等, J. Biol. Chem., 273: 24701-24707 (1998))。著者はさらに、残基R36、R37及びR50がIGFBP-1への結合に機能的に含まれると同定した。
【0008】
他のIGF-I変異体も開示されている。例えば、特許文献において、WO 96/33216は標準品のIGF-Iの残基1−69を持つ切断変異体を記載している。EP 742,228は、天然発生の省略されたCドメインを持つ一本鎖IGF-Iの誘導体である二本鎖IGF-Iスーパーアゴニストを開示している。IGF-I類似物は式:BC,Aであり、ここでBはIGF-IのBドメイン又はその機能的類似物であり、CはIGF-IのCドメイン又はその機能的類似物であり、nはCドメインのアミノ酸数であって約6から約12までであり、AはIGF-IのAドメイン又はその機能的類似物である。
【0009】
さらに、Cascieri等, Biochemistry, 27: 3229-3233 (1988)はIGF-Iの4つの変異体を開示し、そのうち3つは1型IGFレセプターに対して低下した親和性を持つ。これらの変異体は:(Phe23, Phe24, Tyr25)IGF-I(1及び2型IGF及びインシュリンレセプターへの親和性においてヒトIGF-Iと等価)、(Leu24)IGF-I及び(Ser24)IGF-I(ヒト胎盤1型IGFレセプター、胎盤インシュリンレセプター、及びラット及びマウス細胞の1型IGFレセプターに対して低い親和性を持つ)、及びデスオクタペプチド(Leu24)IGF-I(位置24における芳香性の喪失がhIGF-Iのカルボキシ末端D領域の欠失と組み合わされており、1型レセプターには(Leu24)IGF-Iより低い親和性、インシュリンレセプターには高い親和性を持つ)である。これら4つの変異体は、ヒト血清結合性タンパク質に対して正常な親和性を持つ。
【0010】
Bayne等, J. Biol. Chem., 264: 11004-11008 (1988)は、IGF-Iの3つの構造的類似物:IGF-Iのカルボキシ-末端8アミノ酸D領域を欠く(1-62)IGF-I;IGF-IのC領域の残基28−37が4残基グリシン架橋で置換された(1-27, Gly4, 38-70)IGF-I;及びC領域グリシン置換及びD領域欠失を持つ(1-27, Gly4, 38-62)IGF-Iを開示している。Peterkofsky等, Endocrinology, 128: 1769-1779 (1991)は、Bayne等, 上掲, Vol. 264のGly変異体を用いたデータを開示している。米国特許第5,714,460号は、神経障害の治療のためにIGF-I又はIGF-Iの活性濃度を上昇させる化合物を使用することに言及している。
Cascieri等, J. Biol. Chem., 264: 2199-2202 (1989)は、3つのIGF-I類似物を開示し、そこでは、IGF-IのA領域の特定の残基がインシュリンA鎖の対応する残基で置換されている。これらの類似物は:(Ile41, Glu45, Gln46, Thr49, Ser50, Ile51, Ser53, Tyr55, Gln56)IGF-Iという、残基41がトレオニンからイソロイシンに変化し、A領域の残基42−56が置換されたA鎖変異体;(Thr49, Ser50, Ile51)IGF-I;及び(Tyr55, Gln56)IGF-Iである。
WO 94/04569は、IGF-Iに結合でき、IGF-Iの生物学的活性を向上させることができる天然IGFBP以外の特異的結合性分子を開示している。1998年10月15日に発行されたWO 98/45427及びLowman等, 上掲は、ファージディスプレーで同定されたIGF-Iアゴニストを開示している。また、WO 97/39032はIGFBPのリガンド阻害剤及びそれらの使用法を開示している。
【0011】
市販されているヒトインシュリンには様々な形態があり、作用期間及び作用開始において異なるが、天然ヒト配列を有している。Jens Brange, Galenics of Insulin, The Phisico-chemical and Pharmaceutical Aspects of Insulin and Insulin Preparations (Springer-Verlag, New York, 1987), page 17-40。レギュラーインシュリンは透明な中性溶液であり、四量体インシュリンを含有する。それは作用期間が短く、作用開始は注入の0.5時間以内に起こり、作用期間は6−8時間である。イソフェン・インシュリンとも呼ばれるNPH(national Protamine Hagedorn)インシュリンは、インシュリン−プロ他明複合体の結晶懸濁物である。これらの結晶は、インシュリン四量体当たりに約0.9モルのプロ他明及び2個の亜鉛を含有する。Dodd等, Pharmaceutical Research, 12: 60-68 (1993)。NPH-インシュリンは中間作用のインシュリンであり;その作用開始は1.5時間以内であり、作用期間は18−26時間である。70/30インシュリンは70%NPH-インシュリン及び30%通常インシュリンからなる。また、セミレンテ(Semilente)インシュリン(亜鉛インシュリン複合体の非晶質沈殿物)、ウルトラレンテ(Ultralente)インシュリン(亜鉛インシュリン結晶懸濁物)、及びレンテ(Lente)インシュリン(非晶質及び結晶質インシュリン粒子の3:7混合物)もある。利用可能な種々の型のインシュリンの中で、NPH-、70/30、及びレギュラーインシュリンが最も広く使用されるインシュリンであり、各々1996年のインシュリン処方の36%、28%、及び15%である。
【0012】
組換えDNA技術及びペプチド化学の使用は、広範なアミノ酸置換を持つインシュリン類似物の生成を可能にし、インシュリンの薬物動態の改変を目的としてインシュリンのIGF様修飾がなされた(Brang等, Nature, 333: 679 (1988); Kang等, Diabetes Care, 14: 571: (1991); DiMarchi等, "Synthesis of fast-acting insulin analog based upon structural homology with insulin-like growth factor-I", in: Peptides: Chemistry and Biology, Proceedings of the Twelfth American Peptide Symposium, J.A. Smith and J.E. River, eds. (ESCOM, Leiden, 1992), pp. 26-28; Weiss等, Biochemistry, 30: 7373 (1991); Howey等, Diabetes, 40: (Supp 1) 423A (1991); Slieker及びSundell, Diabetes, 40: (Supp 1) 168A (1991); Cara等, J. Biol. Chem., 265: 17820 (1990); Wolpert等, Diabetes, 39: (Supp 1) 140A (1990); Bornfeldt等, Diabetologia, 34: 307 (1991); Drejer, Diadetes/Metabolism Reviews, 8: 259 (1992); Slieker等, Adv. Experimental Med. Biol., 343: 25-32 (1994))。そのようなインシュリン類似物の一例は、Humalog(商品名)インシュリン(速効性単量体インシュリン溶液、インシュリンB鎖上のLys(B28)及びPro(B29)アミノ酸の変換による)であり、最近Eli Lilly and Companyにより市場に導入された。臨床試験及び市場における最近のインシュリン変異体の概説は、Barnett及びOwens, Lancet, 349: (1997)に見られる。
【0013】
上掲のSlieker等, 1994は、種々のIGF及びインシュリン変異体のIGFBP、IGFレセプター、及びインシュリンレセプターへの結合性を記載し、特に、(Phe38, Arg39, Sre40)インシュリン、(Glu4, Gln16, Phe17)インシュリン、及び(Glu4, Gln16, Phe17, Phe38, Arg39, Sre40)インシュリン(ここで用いる成熟インシュリンの番号付けはB鎖における連続した番号付け(残基1−30)、及びそれに続くA鎖における連続した番号付け(残基31−51)からなり;これらは各々プロインシュリンの1−30と番号付けされた残基及び残基66−86に対応する。図4参照)を含む幾つかの変異の組み合わせを通してインシュリンにIGFBP結合性を付与することを試みている。しかしながら、これらの変異体のIGF結合性タンパク質へ結合性については弱い親和性しか見られず、インシュリン−レセプター親和性は野生型インシュリンに比較して低下していた(Slieker等, 上掲)。
【0014】
以前の報告はインシュリンの結合性タンパク質への如何なる親和性も発見できなかったが、一つのグループがBIAcore(商品名)実験による251+/-91nMのインシュリンのIGFBP-3に対する弱い親和性を測定した(Heding等, 上掲)。
これら全ての努力にもかかわらず、IGF-I上のIGFBP結合性エピトープの視野は散在的で低分解能のままであった。以前の研究は、同族インシュリンのIGF-I及びタンパク質切断物(例えば、des(1-3)-IGF-I)への挿入を含むことが多く、誤った折り畳みと真正の結合性決定基との間を区別していなかった。これら全ての研究結果の組み合わせは、変異IGF形態とIGFBPとの複合体形成の分析に、放射線標識リガンド結合アッセイからバイオセンサー分析までの範囲の異なる技術が使用されていたという事実によって更に複雑にされていた。
この分野には、治療又は診断目的のために、IGF又はインシュリンアゴニストとして作用する分子、及びIGF結合性タンパク質と高い親和性及び特異性で結合する分子に対する必要性が存在する。
【発明の開示】
【0015】
従って、一実施態様では、本発明は、天然配列ヒトIGF-Iの位置3、4、5、7、10、14、17、23、24、25、43、49又は63のアミノ酸、あるいはそれらのアミノ酸と位置12又は16又は12と16の両方との組み合わせ、あるいはそれらの任意の組み合わせが、前記位置7の任意のアミノ酸又は前記位置7以外の任意の位置のアラニン、グリシン、又はセリン残基で置換されたIGF-I変異体を提供する。
【0016】
一つの好ましい実施態様では、前記位置16及び49のアミノ酸が置換されてIGFBP-3への結合剤が得られる。IGFBP-3への結合剤を得る他の好ましい実施態様は、位置3及び7における変異を含む変異体である。
またさらに好ましい実施態様では、前記位置24のチロシンがロイシンでさらに置換されるか又は前記位置31のチロシンがアラニンで置換されるか、又はその両方が置換されて、レセプター結合性が破壊又は防止される。最も好ましくは、前記位置24及び31の両方のチロシンが置換される。
他の実施態様では、本発明は長い半減期のIGF様インシュリンを提供し、そこでは、天然配列ヒトプロインシュリンの位置1のフェニルアラニンが欠失されるか(des(1)-プロインシュリン)、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置4のグルタミンがグルタミン酸で置換されるか、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置17のロイシンがフェニルアラニンで置換されるか、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置25のフェニルアラニンがチロシンで置換されるか、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置26のチロシンがフェニルアラニンで置換されるか、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置73のトレオニンがフェニルアラニンで置換されるか、又はこれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0017】
好ましくは、IGF様インシュリンについて、前記位置4、17、26及び/又は73のアミノ酸が置換されてIGFBP-1特異的変異体が生成されるか、又は位置1のアミノ酸が欠失され位置25、26及び/又は73のアミノ酸が置換されてIGFBP-3特異的変異体が生成される。
また他の実施態様では、本発明はIGF様インシュリンが提供され、そこでは、位置1のフェニルアラニンが欠失されるか、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置4のグルタミンがグルタミン酸で置換されるか、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置17のロイシンがフェニルアラニンで置換されるか、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置25のフェニルアラニンがチロシンで置換されるか、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置26のチロシンがフェニルアラニンで置換されるか、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置38のトレオニンがフェニルアラニンで置換されるか、又はこれらの任意の組み合わせが含まれる(注:ここで使用される成熟インシュリンの番号付けは、B鎖における連続した番号付け(残基1−30)、及びそれに続くA鎖の番号付け(残基31−51)からなる)。
【0018】
好ましい実施態様では、上記成熟インシュリンの位置4、17、26及び38のアミノ酸が置換されて、IGFBP-1特異性の変異体が生成される。
他の実施態様では、上記成熟インシュリンの位置1のアミノ酸が欠失され、上記成熟インシュリンのアミノ酸が位置25、26及び38で置換されて、IGFBP-3特異性の変異体を生成する。
【0019】
またここでは、上記のペプチドの一つを担体、好ましくは製薬的に許容される担体中に含んでなる組成物も提供される。好ましくは、この組成物は無菌である。
これらのペプチドの用途は、外因性又は内因性のIGF又はインシュリンの生物学的活性の少なくとも1つを解放又は亢進する全ての用途を含む。それらは、IGF-I又はインシュリン等のIGFが有用な状態の治療、阻止、又は防止、即ち、下記のような、有効量のペプチドを哺乳動物に投与することによるIGF疾患又はインシュリン疾患の治療で使用できる。
【0020】
さらに、本発明では、哺乳動物における生物学的に活性なIGF又はインシュリンの血清及び組織レベルを向上させる方法が提供され、それは当該哺乳動物に上記のペプチドの有効量を投与することを含んでなる。哺乳動物は好ましくはヒトである。また好ましいのは、ペプチドがIGF-Iに類似している場合、それを好ましくは体重増加を生ずるのに有効な量を投与することにより哺乳動物における同化作用が向上されることである。さらに好ましいのは、ペプチドが投与された後に血糖コントロールがなされることである。
本発明のペプチドは、単独で、又は他の試薬、例えばGH、GH放出ペプチド(GHRP)、GH放出因子(GHRF)、GH放出ホルモン(GHRH)、GH分泌促進物質、IGF、IGFBPと組み合わせたIGF、IGFBP、GH結合性タンパク質(GHBP)と組み合わせたGH、インシュリン、又は血糖降下薬(下記の定義のチアゾリジンジオンなどのインシュリン感作剤を含む)とともに投与することができる。
【0021】
本発明の他の態様では、哺乳動物における血糖コントロールをする方法が提供され、それは当該哺乳動物に一又は複数の上記ペプチドの有効量を投与することを含む。好ましくは、ペプチドは哺乳動物における血漿インシュリン分泌及び血液グルコースレベルも低下させる。また好ましくは、哺乳動物は糖尿病などの高血糖疾患に罹患している。この方法は、当該哺乳動物に血糖降下薬又はインシュリンの有効量を投与することを更に含むことができる。
また、哺乳動物における生物学的に活性なIGFの血清及び組織レベルを上昇させる方法、又は哺乳動物における同化作用を向上させる方法、又は哺乳動物における糖血症を抑制する方法も提供され、それらは当該哺乳動物に、ここのペプチドを含有する組成物の有効量を投与することを含む。
また本発明では、本発明のペプチドを含有する製薬組成物を収容した容器及び当該組成物の利用を使用者に指示する指示書を具備するキットも考慮される。このキットは、場合によっては、GH、GHRP、GHRF、GHRH、GH分泌促進剤、IGF、IGFBPと複合させたIGF、IGFBP、GHBPに複合させたGH、インシュリン、又は血糖降下薬を収容した容器を更に具備してもよい。
【0022】
本発明のペプチドの同定のために、ヒトIGF-Iを繊維状ファージミド粒子上に一価で表示させ(米国特許第5,750,373号及び同5,821,047号)、その完全なアラニンスキャンニング突然変異誘発(Cunningham及びWells, Science,244:1081-1085(1989); 米国特許第5,834,250号)をファージディスプレー(「ターボ-alaスキャン」)(Cunningham等, EMBO J., 13: 2508-2515 (1994); Lowman, Methods Mol. Biol., 87: 249-264 (1998))により実施した。変異体IGFファージミドを、IGF-I上のIGFBP-1及びIGFBP-3に対する結合性決定基のマッピングに使用した。アラニンスキャニングは、これらの結合性タンパク質に対する特異性決定基を明らかにし、結合性タンパク質特異的IGF変異体又はIGFBP-1又はIGFBP-3に特異的に結合するインシュリン変異体を生成して、それらのクリアランス半減期を調節し、タンパク質分解的安定性を向上させ、又はそれらのインビボでの組織分布を改変する。これらの変異体は、結晶構造が最近報告されたIGFレセプター(Garrett等, 上掲)に対する機能的結合部位のマッピングにも有用である。さらに、種々のIGF結合性抗体又はIGF-Iに結合する他のペプチド又はタンパク質のエピトープのマッピングも興味の対象となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
A.定義
ここで使用される「哺乳動物」は哺乳類に分類される任意の動物を意味し、ヒト、家畜及び農業用動物、動物園、スポーツ、又はペット動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシなどを含む。好ましくは、ここでの哺乳動物はヒトである。用語「非成熟」は、周産期年齢(出生時低体重乳児など)から思春期までの哺乳動物を意味し、後者は、全成長潜在能力に達していないものである。
ここで使用される「IGF」は、天然のインシュリン様成長因子-I及び天然インシュリン様成長因子-II並びにそれらの天然変異体、他にdes(1-3)IGF-Iとしても知られる脳IGF(brain IGF)を意味する。
【0024】
ここで使用される場合の「IGF-I」は、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、及びヒトを含む任意の供給源、好ましくはヒトからのインシュリン様成長因子-Iを指し、外因性投与に言及する場合は、天然、合成、又は組換えの任意の供給源からである。「天然配列」ヒトIGF-Iは、図4(配列番号:1)に示される配列であり、例えば、、1987年8月5日発行のEP 230,869; 1984年12月19日発行のEP 128,733; 又は1988年10月26日発行のEP 288, 451に記載された方法によって調製される。より好ましくは、この天然配列IGF-Iは、組換え生産され、ジェネンテク,インク.,サウス フランシスコ,カリフォルニアから臨床実験用に入手可能である。
ここで使用される「IGF-II」は、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、及びヒトを含む任意の供給源、好ましくはヒトからのインシュリン様成長因子-IIを指し、外因性投与に言及する場合は、天然、合成、又は組換えの任意の供給源からである。これは、例えばEP 128,733に記載された方法によって調製できる。
【0025】
「IGFBP」又は「IGF結合性タンパク質」は、循環性であるか否かによらず(即ち、血清又は組織中)、IGF-I又はIGF-IIに通常は結合又は接着又は複合体形成するタンパク質又はポリペプチドを指す。このような結合性タンパク質はレセプターを含まない。この定義は、IGFBP-1、IGFBP-2、IGFBP-3、IGFBP-4、IGFBP-5、IGFBP-6、Mac25(IGFBP-7)、及びプロスタサイクリン刺激因子(PSF)又は内皮細胞特異的分子(ESM-1)、並びにIGFBPに高い相同性を持つ他のタンパク質を包含する。Mac25は、例えば、Swisshelm等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92: 4471-4476 (1995)及びOh等, J. Biol. Chem., 271: 30322-30325 (1996)に記載されている。ESM-1は、Lassalle等, J. Biol. Chem., 271: 20458-20464 (1996)に記載されている。他の同定されたIGFBPについては、例えば、1990年6月27日発行のEP 375,438; 1990年5月23日発行のEp 369,943; 1989年10月5日発行のWO 89/09268; Wood等, Molecular Endocrinilogy, 2: 1176-1185 (1988); Brinkman等, The EMBO J., 7: 2417-2423 (1988); Lee等, Mol. Endocrinol., 2: 404-411 (1988); Brewer等, BBRC, 152: 1289-1297 (1988); 1988年12月7日発行のEP 294,021; Baxter等, BBRC, 147: 408-415 (1987); Leung等, Nature, 330: 537-543 (1987); Martin等, J. Biol. Chem., 261: 8754-8760 (1986); Baxter等, Comp. Biochem. Physiol., 91B: 229-235 (1988); 1989年9月21日発行のWO 89/08667; 1989年10月19日発行のWO 89/09792; Binkert等, EMBO J., 8: 2491-2502 (1989)を参照のこと。
【0026】
用語「体液」は、哺乳動物、好ましくはヒトからの液体の生物学的試料を意味する。このような液体は、血清、血漿、リンパ液、滑液、卵胞液、精液、羊水、乳、全血、尿、脳脊髄液、唾液、痰、涙、汗、粘液、組織培養培地、組織抽出液、及び細胞抽出液を含む。
ここで使用される「ヒトIGFレセプター」は、ヒトに見られるIGFに対する任意のレセプターであり、ヒトIGF-I及びIGF-IIの両方が結合するヒトにおける1型及び2型IGFレセプター、例えば胎盤1型IGF-Iレセプターなどを含む。
「ペプチド」は、IGF-Iアゴニスト、IGF-I変異体、インシュリンアゴニスト、インシュリン変異体、又は少なくとも2つのアミノ酸を有するIGF様インシュリンを含み、少なくとも約50のアミノ酸を持つポリペプチドを含む。この定義はペプチド変異体、それらの塩、又は光学異性体を包含する。
【0027】
ここで使用される「インシュリン」は、任意の種からのインシュリンの任意の形態であり、天然又は合成又は組換えで誘導されるものである。例えば、レギュラーインシュリン、NPHインシュリン、70/30インシュリン、セミレンテインシュリン、ウルトラレンテインシュリン、又はレンテインシュリンとして処方してもよい。インシュリンがIGF様インシュリン又はここのIGF-I変異体とともに投与される場合、それは好ましくはレギュラーインシュリン、NPHインシュリン、70/30インシュリン、又はHUMOLOG(商品名)ブランドのインシュリンである。
【0028】
「プロインシュリン」は、A、B、及びCペプチドを含むインシュリンを意味し、その天然配列を図4(配列番号:2)に示す。プロインシュリンの「成熟インシュリン」への変換は、R31からR65までの領域の切除によって起こる。得られた成熟インシュリンのアミノ-末端ペプチドはB鎖と呼ばれ、カルボキシ-末端ペプチドはA鎖と呼ばれる。鎖は2つの鎖間ジスルフィドによって互いに保持されている。成熟インシュリンは可溶性タンパク質である。ここの成熟インシュリン変異体の番号付けは、B鎖における連続した番号付け(残基1−30)に次いでA鎖における連続した番号付け(残基31−51)からなる。「天然配列」ヒトプロインシュリンは図4に示す配列(配列番号:2)を持ち、「天然配列」ヒト成熟インシュリンは図4に示す配列(配列番号:3)を持つ。
「IGF様インシュリン」は、下記の「IGF疾患」及び下記の形態において列挙するような生物学的活性を含むIGF-Iの生物学的活性の少なくとも一つを擬態するペプチドである。
【0029】
「IGF疾患」は、IGFでの治療から恩恵を受ける任意の状態であり、限定されないが、例えば、肺疾患、下記のような高血糖疾患、腎臓疾患、例えば急性及び慢性腎不全、末期慢性腎不全、糸球体腎炎、間質性腎炎、腎盂腎炎、糸球体硬化症、例えば、糖尿病患者におけるキンメルスティール‐ウィルソン及び腎臓移植後の腎不全、糖尿病、GH-不全、ターナー症候群、ラロン症候群、短身、加齢に関連した望ましくない徴候、例えば糖尿病及び脂肪量対除脂肪比率の上昇、免疫学的疾患、例えばCD4数の減少及び免疫寛容の低下を含む免疫不全又は化学治療誘発性組織傷害、骨髄移植、心臓構造又は機能の疾患又は不全、例えば心不全及び鬱血性心不全、ニューロン性、神経性、又は神経筋性疾患、例えば、末梢神経障害、多発性硬化症、筋ジストロフィー、又は筋緊張性ジストロフィー、及び外傷又は創傷を含む任意の状態によって生ずる萎縮に関連する異化状態又は細菌又はHIVなどのヒトウイルス等での感染、創傷、皮膚疾患、修復を必要とする腸構造及び機能などを含む。治療されるIGF疾患は、上記の疾患の2又はそれ以上の組み合わせでもよい。ここで治療の標的とする好ましい疾患は、糖尿病及び肥満、心臓機能不全、腎疾患、神経性疾患、全ての身体成長疾患、及び免疫学的疾患である。
【0030】
「インシュリン疾患」は、インシュリンでの治療により恩恵を受ける状態、例えば高血糖疾患などである。
ここで使用される場合の「高血糖疾患」は、糖尿病の全ての形態及びインシュリン耐性からもたらされる疾患、例えばI型及びII型糖尿病、並びに重篤なインシュリン耐性、高インシュリン血症及び高脂血症、例えば、肥満患者、及びインシュリン耐性糖尿病、例えばマンデンホール症候群、ヴェルナー症候群、妖精症、脂肪組織萎縮性糖尿病、及び他の脂肪組織萎縮症を意味する。好ましい高血糖疾患は糖尿病、特にI型及びII型糖尿病である。「糖尿病」自体は、十分な生産又は利用を含む炭水化物代謝の進行性疾患を意味し、高血糖及び糖尿によって特徴付けられる。
【0031】
ここで使用される場合の「治療」は、治癒的処置、予防的療法及び防止的療法の両方を意味する。治療が必要なものとは、既に疾患に罹っているもの、並びに疾患に罹りやすい又は疾患が診断されているもの又は疾患が防止されているものを含む。連続的治療又は投与は、少なくとも毎日を基にした治療を意味し、一又は複数の日で治療が中断されない。間欠的治療又は投与、あるいは間欠形式での治療又は投与とは、連続的ではないが周期的な治療を意味する。本発明の治療措置は、連続的又は間欠的のいずれかとできる。
【0032】
ここで使用される場合の「血糖降下薬」は、グルコース代謝の調節に有用な化合物、好ましくは経口薬を意味する。ここでヒト用により好ましいのは、インシュリン及びスルホニルウレア類の経口血糖降下薬であり、膵臓によるインシュリンの分泌を起こす。例は、グリブリド、グリピジド、及びグリクラジドを含む。さらに、インシュリン感受性を亢進し又はインシュリン感受性にする薬剤、例えばビグアニド(メトホルミン及びフェンホルミンを含む)及びチアゾリデネジオン、例えばREZULIN(商品名)(トログリタゾン)ブランドのインシュリン感作薬、及びPPARγ核レセプターに結合する他の化合物がこの定義に包含され、また好ましくもある。
【0033】
ここで使用される「活性な」又は「生物学的に活性な」IGFは、内因性IGFの血清及び組織レベルの変化の文脈においては、そのレセプターに結合する、又はここで内因性又は外因性IGFと呼ばれるもののような生物学的活性などの生物学的活性を生じさせるIGFを意味する。
「成長ホルモン放出ペプチド又は因子」(「GHRP」又は「GHRF」)は以下に記載される分泌促進物質である。「成長ホルモン放出ホルモン」(「GHRH」)は、細胞又は組織からGHを放出させる任意のホルモンであり得る。「成長ホルモン結合性タンパク質と組み合わされた成長ホルモン」(「GH」プラス「GHBP」)は、その結合タンパク質の一つと複合体形成した、又は結合したGHを意味する。同様に、「IGF結合性タンパク質と組み合わされたIGF」(「IGF」プラス「IGFBP」)は、そのIGFBPの一つと複合体形成した、又は結合したIGFを意味する。
【0034】
B.発明の実施の形態
ここで本発明は、一態様において、天然配列ヒトIGF-Iの選択された位置における一又は複数のアミノ酸が置換されたIGF-I変異体に関する。特に、位置3、4、5、7、10、14、17、23、24、25、43、49及び/又は63の1又は複数のアミノ酸、あるいは前記位置のアミノ酸と位置12及び/又は16における一方又は両方のアミノ酸が置換される。位置7における置換は任意のアミノ酸であり、位置7以外の任意の位置での置換はアラニン、グリシン、又はセリン残基のいずれかである。好ましくは、問題とするアミノ酸はアラニン、グリシン、又はセリンで置換される。
【0035】
一つの好ましい変異体は、位置16及び49のアミノ酸が置換されている。他の好ましい変異体は、位置3及び7のアミノ酸が置換されている。好ましくは、位置49及び63のアミノ酸は単独で置換されない。
他の好ましい実施態様では、変異体は、位置24のチロシンがロイシンで、又は位置31のチロシンがアラニンでさらに置換されている。最も好ましくは、両方のチロシン残基が置換される。
さらに本発明は、他の態様において、2つのタイプのIGF様インシュリンを提供する。そのような実施態様の一方では、天然配列ヒトプロインシュリンの位置1のフェニルアラニンが欠失され、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置4のグルタミンがグルタミン酸で置換され、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置17のロイシンがフェニルアラニンで置換され、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置25のフェニルアラニンがチロシンで置換され、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置26のチロシンがフェニルアラニンで置換され、又は天然配列ヒトプロインシュリンの位置73のトレオニンがフェニルアラニンで置換され、又はこれらの任意の組み合わせがなされている。
【0036】
好ましい組み合わせは、前記位置4及び17のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置4及び26のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置4及び73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置17及び26のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置26及び73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置17及び73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置4、17及び26のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置4、26及び73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置4、17及び73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置17、26及び73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置1のアミノ酸が欠失され、前記位置25のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置1のアミノ酸が欠失され、前記位置26のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置1のアミノ酸が欠失され、前記位置73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置1のアミノ酸が欠失され、前記位置25及び26のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置1のアミノ酸が欠失され、前記位置25及び73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置1のアミノ酸が欠失され、前記位置26及び73のアミノ酸が置換されたもの、又は前記位置1のアミノ酸が欠失され、前記位置25、26及び73のアミノ酸が置換されたものである。
【0037】
最も好ましいのは、前記位置4、17、26及び38のアミノ酸が置換され、IGFBP-1選択性とされた変異体、又は前記位置1のアミノ酸が欠失され、前記位置25、26及び38のアミノ酸が置換され、IGFBP-3選択性とされた変異体である。
他のタイプのIGF様インシュリンは可溶性成熟インシュリンに基づく。この場合、同じ変異は上記のプロインシュリンのようになされるが、番号付けが変化する場合もある。即ち、天然配列ヒト成熟インシュリンの位置4のグルタミンがグルタミン酸で置換され、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置17のロイシンがフェニルアラニンで置換され、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置25のフェニルアラニンがチロシンで置換され、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置26のチロシンがフェニルアラニンで置換され、又は天然配列ヒト成熟インシュリンの位置38のトレオニンがフェニルアラニンで置換され、又はこれらの任意の組み合わせがなされる。
【0038】
IGFBP-1選択性変異体については、前記位置4、17、26及び38のアミノ酸が置換され、IGFBP-3選択性変異体については、前記位置1のアミノ酸が欠失され前記位置25、26及び38のアミノ酸が置換される。
本発明のペプチドは、化学合成により又は組換え技術を用いて製造しうる。これらの方法は当該分野で知られている。化学合成、特に固相合成は、短い(例えば、50残基未満の)ペプチド又はD-Tyr、オルニチン、アミノアジピン酸などの非天然又は異常なアミノ酸を含むものに好ましい。組換え手法は、より長いポリペプチドに好ましい。組換え手法が選択される場合、合成遺伝子は新規に構築されてもよく、又は天然遺伝子を、例えばカセット突然変異誘発により突然変異させてもよい。以下は、一般的な組換え手法の例示である。
精製したIGF又はインシュリン及びそのアミノ酸配列から、例えば、IGF又はインシュリン親分子のペプチド変異体であるIGF又はインシュリン変異体を組換えDNA技術を用いて製造してもよい。これらの技術は、単純化した形態において、天然又は合成のいずれかで、ペプチドをコードする遺伝子を取り;それを適切なベクターに挿入し;ベクターを適切な宿主細胞に挿入し;宿主細胞を培養して遺伝子の発現を起こし;次いで産生されたペプチドを回収又は単離することを考える。好ましくは、回収されたペプチドは、次いで適当な程度まで精製される。
【0039】
幾分より詳しくは、ペプチジルIGF変異体をコードするDNAは、適した宿主で発現するようにクローン化及び操作される。親ペプチドをコードするDNAは、ゲノムライブラリー、ペプチドを発現する細胞のmRNA由来のcDNA、又は合成的に構築されたDNA配列によって得ることが可能である(Sambrook等., Molecular Cloning: A Laboratory Manual(2ded.), Cold Spring Harbor Laboratory, N.Y., 1989)。
次いで、親DNAは、宿主細胞の形質転換に使用される適切なプラスミド又はベクターへ挿入される。一般には、宿主との関連において、宿主と適合する種由来の複製及びコントロール配列を含むプラスミドベクターが使用される。ベクターは、通常、形質転換細胞の形質選択を提供できるタンパク質又はペプチドをコードする配列並びに複製部位を持つ。
【0040】
例えば、大腸菌は、大腸菌由来のプラスミドであるpBR322を使用することによって形質転換される(Mandel等., J.Mol.Biol. 53: 154(1970))。プラスミドは、アンピシリン及びテトラサイクリン耐性遺伝子を含み、そしてそれ故に選択が容易な方法を提供する。他のベクターは、発現にしばしば重要な異なったプロモーターのような、異なった特徴を含む。例えば、プラスミドpKK223-3、pDR720、及びpPL-ラムダは、tac、trp、又はPプロモーターを持つ、現在入手可能な発現ベクターである(Pharmacia biotechnology)。
好ましいベクターはpB0475である。このベクターは、宿主間を往復することを可能にするファージ及び大腸菌の為の複製開始点を有し、それによって突然変異誘発及び発現の両方を促進にする(Cunningham等., Science, 243: 1330-1336(1989); U.S.Pat. No. 5,580,723)。他の好ましいベクターは、pR1T5及びpR1T2Tである(Pharmacia Biotechnology)。これらのベクターは、挿入された遺伝子が融合タンパク質として発現できるように、プロテインAのZドメインに続く適切なプロモーターが含まれている。
【0041】
他の好ましいベクターは、前記したベクターの適切な特徴を組み合わせることによる標準的技術を使用しての構築が可能である。適切な特徴とは、プロモーター、リボゾーム結合部位、デコルシン(decorsin)又はオルナチン(ornatin)遺伝子、或いは遺伝子融合(プロテインAのZドメイン及びデコルシン又はオルナチンとそのリンカー)、抗生物質耐性マーカー、及び適切な複製開始点を含む。
【0042】
宿主細胞は、原核生物又は真核生物でよい。原核生物は、親IGF−Iポリペプチド、断片置換ペプチド、及びペプチド変異体を生産する為に、DNA配列をクローニング及び発現の為に好ましい。例えば、大腸菌K−12株294(ATCC No.31446)は、大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC No.31537)、及び大腸菌c600及びc600hfl、大腸菌W3110(F−、ガンマ、原栄養/ATCC No.27325)、枯草菌のような桿菌、ネズミチフス菌又はセラチア・マルセッセンス菌のような腸内細菌,及び様々なシュードモナス属と同様に使用される。好ましい原核生物は、大腸菌W3110(ATCC27325)である。原核生物において発現された場合、ペプチドはN末端メチオニン又はホルミルメチオニンを含み、グリコシル化されていない。融合タンパク質の場合は、N末端メチオニン又はホルミルメチオニンが融合タンパク質のアミノ末端に、又は融合タンパク質のシグナル配列が存在する。これらの例は、限定的というよりも実証となることを意図されている。
原核生物に加えて、酵母培養菌、又は多細胞生物由来の細胞のような真核生物を使用することができる。基本的には、そのような全ての細胞が機能する。しかし、関心は脊椎動物細胞についてがもっとも大きく、培養(組織培養)での脊椎動物細胞の増殖は再現性のある方法になっている(Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Patterson, editors(1973))。そのような有用な宿主細胞系は、VERO及びHeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系、W138,293,BHK、COS-7、及びMDCK細胞系である。
【0043】
前記方法の変形は、所望するペプチドをコードする遺伝子が、ベクター中で、他のタンパク質又は他のタンパク質の断片をコードする遺伝子又と関連している場合に、遺伝子融合の使用を考慮する。これは、所望するペプチドが他のタンパク質又はペプチドと融合し、宿主細胞によって生産される結果をもたらす。「他の」タンパク質又はペプチドとは、多くの場合、細胞からの分泌が可能なタンパク質又はペプチドであり、所望するペプチドの培養液からの単離及び精製を可能にし、所望するペプチドが菌体内に止まる場合に生じる宿主細胞を破壊する必要性を除く。あるいは、融合タンパク質は細胞内に発現することも可能である。高度に発現される融合タンパク質を使用するのが有用である。
遺伝子融合の使用は、必須ではないが、大腸菌における異種ペプチドの発現並びに後のこれら遺伝子産物の精製を容易にする(Harris, Genetic Engineering, Willianson, R., Ed.(Academic Press, London, Vol.4, 1983), p.127; Ljunguist等., Eur.J.Biochem., 186: 557-561(1989)及びLjungquist等., Eur.J.Biochem., 186: 563-569(1989))。プロテインA融合は、プロテインAの結合、より詳しくはプロテインAのZドメインのIgGへの結合が融合タンパク質の精製の為の「親和性ハンドル」を提供することから頻繁に使用される。多くの異種タンパク質が大腸菌内で直接に発現されると分解されることが知られているが、融合タンパク質として発現された場合は安定である(Marston, Biochem J., 240: 1(1986))。
【0044】
融合タンパク質は、メチオニン、又はヒドロキシアミン、アスパラギン及びグリシン残基間を切断する臭化シアンのような化学薬品を使用することによって切断が可能である。標準的な組換えDNA技術を使用することにより、これらアミノ酸をコードするヌクレオチド塩基対は、所望するペプチドをコードする遺伝子の5' 末端の直前に挿入することができる。
あるいは、融合タンパク質のタンパク質分解による切断を使用することが可能である(Cater, Protein Purification: From Molecular Mechanism to Large-Scale Process, Ladish等., eds.(American Chemical Society Symposium Series No.427,1990), Ch13, page 181-193)。
【0045】
第Xa因子、トロンビン、及びサブチリシン又はその変異体、他の多数のプロテアーゼが、融合タンパク質の切断に首尾よく使用されている。典型的には、プロテアーゼによる切断を受けやすいペプチドリンカーは、「他の」のタンパク質(例えばプロテインAのZドメイン)と所望するペプチドとの間に挿入される。組換えDNA技術を使用すると、リンカーをコードするヌクレオチド塩基対は、他のタンパク質をコードする遺伝子又は遺伝子断片の間に挿入される。タンパク質分解による正確なリンカーを含む部分精製融合タンパク質の切断は、その結果、天然融合タンパク質、又は還元型或いは変性融合タンパク質について実施することができる。
ペプチドは、融合タンパク質として発現した場合は、適切に折り畳まれる又は折り畳まれないことがある。さらに、切断部位を含有する特定のペプチドリンカーは、プロテアーゼへ接触可能又は接触不可能であることがある。これれらの要因が、融合タンパク質を変性及び再折り畳みするべきか否か、もしそうならば、これらの手段を切断の前又は後のいずれに用いるかを決定する。
【0046】
変性及び再折り畳みが必要な場合、通常は、ペプチドは塩酸グアニジンのようなカオトロピック剤によって処理され、その後、例えばペプチドが天然構造へと再折り畳みされるような適切な割合、pH、及び温度において、還元及び酸化型ジチオスレイトール又はグルタチオンを含有する酸化還元バッファーによって処理される。
ペプチドが組換えDNA技術によって調製されない場合は、ペプチドは、一般的に、Merrifield, J.Am.Chem.Soc., 85: 2149(1963)に記載されているような固相合成法によって調製されるが、当該技術分野において周知である他の同等な化学合成法も使用可能である。固相合成は、保護されたα−アミノ酸を適合する樹脂と連結することによってC-末端から開始する。そのような開始物質は、α-アミノ基が保護されたアミノ酸をクロロメチル化された樹脂又はヒドロキシメチル化された樹脂にエステル結合すること、又はBHA樹脂或いはMBHA樹脂にアミド結合することによって調製が可能である。ヒドロキシメチル樹脂の調製方法は、Bodansky等., Chem.Ind.(London), 38: 1597-1598(1966)に記載されている。クロロメチル化樹脂は、BioRad Laboratories, Richmond, CA 及び Lab. system, Inc.より入手可能である。そのような樹脂の調製方法は、Stwart等., "Sold Phase Peptide Synthesis"(Freeman and Co., San Francisco 1969), Chapter 1, pp.1-6 に記載されている。BHA及びMBHA樹脂支持体は、商業的に入手可能で、一般的には、合成される所望のポリペプチドがC-末端に置換されていないアミドを有している場合のみに使用される。
【0047】
アミノ酸は、ペプチド結合の形成に関する技術分野において周知の技術を使用することによりペプチド鎖とカップリングされる。一つの方法は、カルボキシル基がペプチド断片の遊離のN-末端アミノ基とより反応しやすい誘導体にアミノ酸を変換することを含む。例えば、アミノ酸は、保護されたアミノ酸とクロロギ酸エチル、クロロギ酸フェニル、クロロギ酸sec-ブチル、クロロギ酸イソブチル、塩化ピバロイル又は同様の酸塩化物との反応によって混合無水物への変換が可能である。あるいは、アミノ酸は、2,4,5-トリクロロフェニルエステル、ペンタクロロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p-ニトロフェニルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、又は1-ヒドロキシベンゾトリアゾールから形成されるエステルなどの活性型エステルへの変換が可能である。
他のカップリング法は、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド又はN,N'-ジイソプロピルカルボジイミドなどの適したカップリング剤を使用することを含む。他のカップリング剤で、当業者に明らかなものは、E.Gross and J.Meienhofer, The Peptide: Analysis, Structure, Biology, Vol.I: Major Method of Peptide Bond Formation(Academic Press, New York, 1979)に記載されている。
【0048】
ペプチド合成に使用される各々のアミノ酸のα-アミノ酸基は、側鎖がそれらの活性α-アミノ機能に関与することを防ぐ為に、カップリング反応中は保護されるべきことを認識すべきである。また、或るアミノ酸が反応性の側鎖官能基(例えば、メルカプト(スルフヒドリル)、アミノ、カルボキシル、及びヒドロキシル)を有すること、そして、そのような官能基も、初期及びそれに続くカップリング段階において、適した保護基によって化学反応から保護しなければならないことも認識すべきである。当該技術分野で知られている適した保護基は、Gross and .Meienhofer, The Peptide: Analysis, Structure, Biology, Vol.3:" Protection of Functional Group in Peptide Synthesis"(Academic Press, New York, 1981)に記載されている。
【0049】
ペプチド合成に使用される特定の側鎖保護基の選択では、次の一般的規則が順守される。α-アミノ保護基は、(a)カップリング反応に用いられる条件下においては、α-アミノ機能を不活性にしなければならない、(b)カップリング反応後には、側鎖保護基を除去せずペプチド断片の構造を改変しない条件下で容易に除去可能でなけれならない、そして(c)カップリング直前の活性化に当たってはラセミ化の可能性を除去しなければならない。側鎖保護基は、(a)カップリング反応に用いられる条件下においては、側鎖官能基を不活性にしなければならない、(b)α-アミノ保護基の除去に用いられる条件下では安定でなけれならない、そして(c)所望のアミノ酸ペプチドが完成した際には、ペプチド鎖の構造を改変しない条件下で容易に除去可能でなければならない。
【0050】
当業者には、ペプチド合成に有用なことが知られた保護基が、それらの除去に用いる試薬との反応性において変化することは明らかであろう。例えば、トリフェニルメチル及び2-(p-ビフェニリル)イソプロピルオキシカルボニルは非常に不安定で、温和な酸性条件下で切断できる。他の保護基、例えばt-ブチルオキシカルボニル(BOC)、t-アミルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、及びp-メトキシベンジルオキシカルボニルはより安定性であり、それらの除去のために、酢酸中のトリフルオロ酢酸、塩酸、三フッ化ホウ素などの中程度に強い酸を必要とする。さらに他の保護基、例えばベンジルオキシカルボニル(CBZ又はZ)、ハロベンジルオキシカルボニル、p-ニトロベンジルオキシカルボニルシクロアルキルオキシカルボニル、及びイソプロピルオキシカルボニルは、不安定性が更に小さく、それらの除去には、トリフルオロ酢酸中のフッ化水素、臭化水素、又はホウ化トリフルオロ酢酸といった更に強い酸を必要とする。有用なアミノ酸保護基のクラスの中には以下が含まれる:
【0051】
(1)α-アミノ酸基については、(a)芳香族ウレタン型保護基、例えばフルオレニルメチルカルボニル(FMOC)CBZ、及び置換されたCBZ、例えばp-クロロベンジルオキシカルボニル、p-6-ニトロベンジルオキシカルボニル、p-ブロモベンジルカルボニル及びp-メトキシベンジルオキシカルボニル、o-クロロベンジルオキシカルボニル、2,4-ジクロロベンジルオキシカルボニル、2,6-ジクロロベンジルオキシカルボニルなど;(b)脂肪族ウレタン型保護基、例えばBOC、t-アミルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、2-(p-ビフェニリル)-イソプロピルオキシカルボニル、アリールオキシカルボニルなど;(c)シクロアルキルウレタン型保護基、例えばシクロペンチルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、及びシクロへキシルオキシカルボニル;及び(d)アリルオキシカルボニル。好ましいα-アミノ保護基はBOC及びFMOCである。
(2)Lysに存在する側鎖アミノ基については、保護は、BOC、p-クロロベンジルオキシカルボニル等といった上記(1)に述べた任意の基によってなされる。
(3)Argのグアニジド基については、保護は、ニトロ、トシル、CBZ、アダマンチルオキシカルボニル、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル又は2,3,6-トリメチル-4-メトキシフェニルスルホニル、又はBOCによってなされる。
(4)Ser、Thr、又はTyrのヒドロキシル基については、保護は、例えば、Cl−C4アルキル、例えばt-ブチル;ベンジル(BZL);置換BZL、例えばp-メトキシベンジル、p-ニトロベンジル、p-クロロベンジル、o-クロロベンジル、及び2,6-ジクロロベンジル。
(5)Asp又はGluのカルボキシル基については、保護は、例えば、BZL、t-ブチル、シクロへキシル、シクロペンチルなどの基を用いたエステル化によってなされる。
(6)Hisのイミダゾール窒素については、トシル部が好ましく使用される。
(7)Tyrのフェノール性ヒドロキシル基については、テトラヒドロピラニル、tert-ブチル、トリチル、BZL、クロロベンジル、4-ブロモベンジル、又は2,6-ジクロロベンジルなどの保護基が好ましく使用される。好ましい保護基は2,6-ジクロロベンジルである。
(8)Asn又はGlnの側鎖アミノ基については、キサンチル(Xan)が好ましく用いられる。
(9)Metについては、アミノ酸は好ましくは保護せずに残す。
(10)Cysのチオ基については、p-メトキシベンジルが典型的に用いられる。
【0052】
C-末端アミノ酸、例えばLysは、N-アミノ位置において適切に選択された保護基、Lysの場合はBOCによって保護される。BOC-Lys-OHは、最初にベンジルヒドリルアミン又はクロロメチル化樹脂に、Horiki等, Chemistry Letters, 165-168 (1978)に記載された方法に従って又はイソプロピルカルボジイミドを用いて約25℃で2時間攪拌しながら結合させる。BOC保護アミノ酸の樹脂支持体への結合に続いて、α-アミノ酸保護基を、塩化メチレン中のトリフルオロ酢酸(TFA)又はTFA単品を用いるなどして除去する。脱保護は、約0℃から室温までの温度で実施する。他の標準的な開裂試薬、例えばジオキサン中のHCl、及び特定のα-アミノ保護基の除去条件は文献に記載されている。
【0053】
α-アミノ保護基の除去の後、残ったα-アミノ及び側鎖保護アミノ酸を望まれる順序で段階的に結合させる。合成において各アミノ酸を別々に添加する代わりに、固相合成機に添加する前に互いに結合させてよいものもある。適当なカップリング試薬は当業者の技量の範囲内である。カップリング試薬として特に好ましいのは、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド又はジイソプロピルカルボジイミドである。
各保護アミノ酸又はアミノ酸配列は固相反応器に過剰に導入し、ジメチルホルムアミド(DMF)又はCHCl又はそれらの混合物の媒体中でカップリングを適切に実施させる。不完全なカップリングが生じた場合、次のアミノ酸のカップリングに先立つN-アミノ保護基を除去する前にカップリング方法を繰り返す。合成の各段階でのカップリング反応の成功を監視してもよい。合成を監視する好ましい方法は、Kaiser等, Anal. Biochem., 34: 595 (1970)に記載されたニンヒドリン反応である。カップリング反応は、周知の方法、例えばBIOSEARCH 9500(商品名)ペプチド合成機を使用して自動的に実施できる。
【0054】
所望のペプチド配列が完成したら、保護ペプチドを樹脂支持体から切断し、全ての保護基を除去しなければならない。切断反応及び保護基の除去は、同時に又は段階的に好ましく達成される。樹脂支持体がクロロメチル化ポリスチレン樹脂である場合、ペプチドを樹脂に繋留している結合は、C-末端残基の遊離カルボキシル基と樹脂マトリクス上に存在する多数のクロロメチル基の一つの間のエステル結合である。繋留結合は、エステル結合を切断でき樹脂マトリクスを透過できることが知られた試薬によって切断できる。
【0055】
一つの特に便利な方法は、液体無水フッ化水素での処理による。この試薬はペプチドを樹脂から切断するだけでなく、全ての保護基を除去するであろう。従って、この試薬を使用することは、完全に脱保護されたペプチドを直接に生じる。クロロメチル化樹脂を使用した場合、フッ化水素処理は遊離のペプチド酸の形成をもたらす。ベンズヒドリルアミン樹脂を使用した場合、フッ化水素処理により直接に遊離のペプチドアミンとなる。アニソール及びジメチルスルホキシドの存在下での0℃で1時間のフッ化水素との反応は、同時に側鎖保護基を除去し、樹脂からペプチドを解放する。
保護基を除去することなくペプチドを切断することが望まれる場合、保護ペプチド−樹脂にメタノール分解を施して、C-末端カルボキシル基がメチル化された保護ペプチドを生成させることができる。このメチルエステルは、次いで、温和なアルカリ条件下で遊離のC-末端カルボキシル基を与える。次いで、ペプチド鎖上の保護基を液体フッ化水素などの強酸で処理することにより除去する。メタノール分解についての特に有用な技術は、Moore等, Peptides, Proc. Fifth Amer. Pept. Symp., M. Goodman及びJ. Meinhofer, 編, (John Wiley, N.Y., 1977), p. 518-521のものであり、そこでは保護ペプチド−樹脂がクラウンエーテルの存在下でメタノール及びシアン化カリウムで処理される。
【0056】
クロロメチル化樹脂を使用した場合に保護されたペプチドを樹脂から切断する他の方法は、加アンモニア分解又はヒドラジンでの処理である。必要ならば、得られるC-末端アミド又はヒドラジドは加水分解して遊離のC-末端カルボキシル部とでき、保護基は従来技術により除去できる。
また、N-末端α-アミノ基に存在する保護基も、保護ペプチドが支持体から切断される前又は後に優先的に除去してよいと認められる。
本発明のポリペプチドの精製は、典型的には従来の手法、例えば分離用HPLC(逆相HPLCを含む)又は他の周知のクロマトグラフィ技術、例えばゲル浸透、イオン交換、分配クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ(モノクローナル抗体カラムを含む)、又は向流分配によって達成される。
【0057】
本発明のペプチドは、重合によって安定化させてもよい。これは、モノマー鎖を多官能性架橋試薬で直接的に、又は多官能性ポリマーを介して間接的に架橋させることにより達成される。通常は、2つの実質的に同一のポリペプチドが、二官能性架橋試薬を用いてそれらのC-又はN-末端において架橋される。試薬は、末端アミノ及び/又はカルボキシル基を架橋するために使用される。一般に、両末端カルボキシル基又は両末端アミノ基が互いに架橋するが、適切な架橋試薬を選択することにより、一方のポリペプチドのアルファアミノが他方のポリペプチドの末端カルボキシル基と架橋する。好ましくは、ポリペプチドはそれらのC-末端においてシステインで置換されている。この分野で良く知られた条件下で、末端システイン間でジスルフィド結合が形成され、それによりポリペプチド鎖が架橋される。例えば、ジスルフィド架橋は、遊離のシステインの金属触媒酸化により又は適切に修飾されたシステイン残基の求核置換によって便利に形成される。架橋試薬の選択は、ポリペプチドに存在するアミノ酸の反応性側鎖の個性に依存するであろう。例えば、ジスルフィド架橋は、システインがポリペプチドのC-末端以外のさらなる部位に存在する場合には好ましくないであろう。また、この範囲には、メチレン架橋で架橋したペプチドも包含される。
【0058】
N-末端アミノ及びC-末端カルボキシル基以外の、ペプチド上の好適な架橋部位は、リジン残基上に見られるイプシロンアミノ基、並びにペプチドの内部残基又はフランキング配列に導入された残基の側鎖に位置するアミノ、イミノ、カルボキシル、スルフヒドリル及びヒドロキシル基を含む。外部から添加された架橋試薬を介する架橋は、例えば、当業者に馴染み深い多くの試薬を用いて、例えば、ポリペプチドのカルボジイミド処理を介して適当に達成される。好適な多官能性(通常は二官能性)架橋試薬の他の例は文献に見いだされる。
本発明のペプチドは、環化によって立体配置的に安定化させてもよい。ペプチドは通常、一のペプチドの−及びC-末端ドメインを本発明の他のペプチドの対応するドメインに共有結合させることにより環化され、2又はそれ以上の反復ペプチド配列を含み、各反復ペプチドが実質的に同じ配列を有するシクロ-オリゴマーを形成する。さらに、環化したペプチド(シクロ-オリゴマー又はシクロ-モノマーのいずれか)は、架橋して1−3の環状構造を形成し、その中には2から6のペプチドが含まれる。ペプチドは好ましくはα-アミノ及び主鎖カルボキシル基(頭部から尾部)を介して共有結合せず、−及びC-末端ドメインに位置する残基の側鎖を介して架橋する。よって結合部位は一般に残基の側鎖間になるであろう。
【0059】
ここで考慮されるようなモノ-又はポリ環化ペプチドを調製するために、多くの好適な方法自体は知られている。Lys/Asp環化は、Lys/AspについてFmoc/9-フルオレニルメチル(OFm)側鎖保護を持つ固相支持体上でNa-BOC-アミノ酸を用いて達成され;この方法は、環化に続くピペリジン処理によって完了する。
Glu及びLys側鎖も、環状又は二環状ペプチドの調製において架橋され;このペプチドはp-メチルベンズヒドリルアミン樹脂上の固相化学によって合成される。ペプチドは樹脂から切断されて脱保護される。環状ペプチドは、希釈メチルホルムアミド中のジフェニルホスホリルアジドを用いて形成される。これに代わる方法については、Schiller等, Peptide Protein Res., 25: 171-177 (1985)を参照のこと。米国特許第4,547,489号参照。
【0060】
ジスルフィド架橋又は環化されたペプチドは従来の方法により生成される。Pelton等(J. Med. Chem., 29: 2370-2375 (1986))の方法は、シクロ-モノマーの調製についてPelton等に記載された希釈反応混合物よりも濃厚な溶液中で反応を実施することにより多くの割合でシクロ-オリゴマーが生成されることを除いて好ましい。同じ化学は、ダイマー又はシクロ-オリゴマー又はシクロ-モノマーの合成に有用である。また有用なのはチオメチレン架橋である。Lebl及びHruby, Tetrahedron Letters, 25: 2067-2068 (1984)。また、Cody等, J. Med. Chem., 28: 583 (1985)参照。
望ましい環状又は重合性ポリペプチドは、ゲル濾過に次ぐ逆相高圧液体クロマトグラフィ又は他の従来の手法により精製される。ペプチドは滅菌濾過され、従来からの薬理学的に許容される媒体中に処方される。
【0061】
ここに記載するプロセス必要とされる出発材料は文献で知られているか、又は周知の方法及び周知の出発材料から調製できる。
4つの異なる置換基に結合した炭素原子から生成されたペプチドが不斉の場合、ペプチドはジアステレオマー、エナンチオマー又はそれらの混合物として存在しうる。上記の合成は、出発材料又は中間体としてラセミ化合物、エナンチオマー又はジアステレオマーを用いてもよい。そのような合成から得られるジアステレオマー生成物は、クロマトグラフィ又は結晶化法によって分離しうる。同様に、エナンチオマー混合物は、同様の技術又はこの分野で知られた他の技術によって分離してよい。各不斉炭素原子は、存在する場合は、2つの立体配置R又はSの一方でよく、それらともに本発明の範囲内である。
【0062】
本発明のペプチドは、IGFBPに選択的に結合する。IGF又はインシュリン分子について多くの用途があることは当業者に知られている。従って、IGF又はインシュリン作用をアンタゴナイズする目的での本発明のペプチドの投与は、外因性IGF又はインシュリン自体の投与と同じ効果又は用途を有し得る。IGF及びインシュリンのこれらの用途は以下を含むが、これらは上で定義した疾患に付加しても同じであってもよい:正常及び下垂体機能低下の動物における全身体、骨格、及び筋肉成長速度の向上;異化段階(絶食、窒素制限、コルチコステロイドレベルの上昇、及び/又は糖尿病)における体重及び窒素喪失の防止;抹消及び中枢神経系(CNS)変性疾患の治療及びCNS損傷又は傷害の後の神経保護又は修復の促進;心臓再生;癌悪液質の逆転、血管新生の阻害;胃腸管の再生;乳房機能の刺激;代謝ストレス、GH活性における加齢関連疾患、及び成熟GH欠乏症といったGHのIGF-I依存性作用の中和;成人発症糖尿病の治療;及び/又は特定のIGF欠乏症の治療。
【0063】
本発明のペプチドが有用な更なる及び特定の疾患は、成長疾患、例えばGH-耐性短身、GH-非感受性症候群、骨粗鬆症、及び異化状態;治療が組織又は細胞、例えば末梢神経及び支持細胞、神経及びグリアを含む中枢神経系細胞、及びオリゴデンドログリア、筋肉、皮膚、及び骨などの他の細胞の再生を必要とする疾患;心臓疾患、例えば心臓虚血、心臓筋障害、及び鬱血性心臓疾患;高血糖性疾患、例えばインシュリン依存性及び非インシュリン依存性真性糖尿病及び極度のインシュリン耐性;及び腎不全などの腎疾患を含む。またこれらは、老齢なヒトの同化反応の刺激、グルココルチコイドの異化副作用の防止、骨粗鬆症の治療、免疫系の刺激、肥満の抑制、創傷治癒の促進、骨折(bond fracture)修復の促進、成長遅滞の治療、成長遅滞をもたらす腎障害又は不全の治療、成長ホルモン欠乏児を含む生理学的短身の治療、慢性疾患に関連した短身の治療、肥満及び肥満に関連した成長遅滞の治療、プラーダー‐ヴィリ症候群及びターナー症候群に関連する成長遅滞の治療、火傷患者の入院における回復及び緩解の促進、子宮内成長遅滞、骨格形成異常、副腎皮質機能亢進症、及びクッシング症候群の治療、拍動性成長ホルモン放出の誘発、ストレス患者における成長ホルモンの置換、骨軟骨異形成症、ヌーナン症候群、精神分裂病、鬱病、末梢神経障害、ALS、抑鬱、アルツハイマー病、脱髄疾患、多発性硬化症、及び遅滞創傷治癒の治療、免疫系の刺激、心理的倒錯の治療、肺機能不全及び人工呼吸器依存症の治療、大手術後のタンパク質異化反応の減衰、癌又はAIDSなどの慢性疾患による悪液質及びタンパク質喪失の抑制、II型及びI型糖尿病を含む高インシュリン血症の治療、排卵誘発のためのアジュバント治療、胸腺発育の刺激及び加齢関連胸腺機能低下の防止、免疫抑制患者の治療、骨髄移植患者の治療、筋肉強度、可動化、筋肉機能の疾患、筋ジストロフィー、皮膚厚維持、及び代謝恒常性の改善、急性及び慢性腎不全を含む腎機能及び恒常性の亢進、骨芽細胞、骨再構築、及び骨成長の刺激、免疫系の刺激、及び家畜における成長促進を含む。種々のIGF-Iの用途は、WO 94/04569; WO 96/33216; 及びBondy, Ann Intern. Med., 120: 593-601 (1994)に見いだされる。
【0064】
一例において、ペプチドは、ブタ、ウシ、ヒツジなどの商業的に重要な動物に投与し、それらの成長の速度及び程度及びそれらの餌を体組織に変換する効率を亢進及び増進することができる。ペプチドは、成体及び小児にインビボで投与してIGF又はインシュリン作用を刺激することができる。
本発明のペプチドは、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹膜内、静脈内、又は皮下注射又は注入、又は移植)、鼻、肺、膣、直腸、舌下、又は局所投与経路を含む任意の適切な技術により哺乳動物に投与してよく、各投与経路に適した投与形態に製剤化できる。特定の投与経路は、例えば、ペプチドの使用で知覚される又は予測される副作用を含む患者の医学的履歴、投与されるペプチドの型、及び矯正される特定の疾患に依存するであろう。最も好ましくは、投与は連続的注入(例えば、徐放装置又はミニポンプ、例えば浸透ポンプ又は皮膚パッチを用いる)、又は注射(例えば、静脈内又は皮下手段を用いる)である。
【0065】
治療に使用されるペプチドは、個々の患者の臨床的状態(特にペプチド治療の副作用)、送達部位、投与方法、投与計画、及び実務者に知られた他の要因を考慮して、良好な医学的実務に合致する形式で製剤化され投薬される。ここでの目的のためのペプチドの「有効量」は、従って、そのような考慮により決定され、哺乳動物に対する薬剤の生物学的利用能及び所望の効果をもたらす量でなければならない。
好ましい投与は、IGF-I又はインシュリンの効果を再現するために、4−8週間に渡り、1日におよそ2回の慢性的投与することである。注射が好ましいが、連続的皮下(SC)注入用の注入装置を使用した慢性的注入も用いられる。また、静脈内バッグ溶液も用いられる。糖尿病のための適切な投薬において鍵となる要因は、血中グルコースを適当な正常範囲まで低下させることにより、又は医療実務者が適当であると認めた糖尿病の治療の測定のための他の基準により測定された場合に得られる結果である。
【0066】
一般的な提案として、非経口投与されたペプチドの用量当たりの製薬的有効量は、用量−応答曲線によって測定できる範囲内であろう。例えば、IGFBPに結合した又は血中のIGFは、治療すべき哺乳動物の体液中で測定されて用量が決定される。あるいは、患者に増加した量のペプチドを投与し、IGF-I及びIGF-IIについての患者のレベルをチェックすることもできる。用いられるペプチド量は、これらのIGF-I及びIGF-IIの血清レベルに基づいてモルベースで計算することができる。ヒト血清に存在するIGFBPからのIGFトレーサーの置換術について下記の実施例を参照のこと。特に、ペプチドの適切な用量を決定する一つの方法は、体液又は血液などの生物学的液体におけるIGFレベルの測定を必要とする。それらのレベルの測定は、RIA及びELISAを含む任意の手段により実施することができる。IGFレベルを測定した後、液体を、1回又は複数回用量を用いてペプチドと接触させる。この接触工程の後、液体中のIGFレベルを再測定する。液体のIGFレベルが、投与される分子について所望の効果を生ずるのに十分な量低下した場合、この分子の用量を最大の効果を生ずるまで調節することができる。この方法は、インビトロ又はインビボで実施してよい。このましくは、この方法はインビボで実施され、即ち、哺乳動物から液体が抽出されてIGFレベルが測定された後、本発明のペプチドが哺乳動物に1回又は複数回用量を用いて投与され(即ち、接触工程が哺乳動物への投与により実施され)、次いでIGFレベルが哺乳動物から抽出された液体から再測定される。
【0067】
用量を決定するための他の方法は、ペプチドに対する抗体又はLIFA形式でのペプチドのための他の検出方法を使用することである。これは、IGFBPに結合した外因性又は内因性IGF及びIGFBPに結合したペプチド量の検出を可能にするであろう。
用量を決定する他の方法は、血中の「遊離」又は活性なIGFのレベルを測定することであろう。幾つかの用途のために、「遊離の」IGFレベルは、有効性及び有効用量又は投薬量の適切なマーカーとなりうる。
例えば、IGF結合性タンパク質に結合した内因性又は外因性IGF又はインシュリン又は本発明のペプチドの量の検出、又は生物学的液体の非結合IGF又は非結合インシュリンの検出について一つの方法が記載されている。この方法は以下を含む:
(a)液体を、1)固相担体に固着させた当該ペプチドに特異的なペプチド検出手段(ペプチド上のエピトープに特異的な第1の抗体など)であって、ペプチドの存在下でペプチド上のIGF結合部位がIGF結合性タンパク質のために利用可能に残されており、それにより当該手段とIGF結合性タンパク質との間で複合体が形成される手段;及び2)当該ペプチドと、IGF結合性タンパク質上の全ての利用可能なIGF結合部位が飽和するのに十分な時間接触させ、それにより飽和複合体を形成し;
(b)飽和複合体を、検出可能に標識された第2の手段であって、IGF結合性タンパク質に特異的であり(IGFBP上のエピトープに特異的な第2の抗体など)、ペプチドがIGF結合性タンパク質に結合したときに結合に利用可能である手段と接触させ;次いで、
(c)結合した標識手段の量を、生物学的液体中のIGFBPの尺度として、従って結合したペプチド及びIGF結合性タンパク質、結合したIGF又は結合したインシュリン及びIGF結合性タンパク質、又は液体内に存在する活性IGF又は活性インシュリンの量の尺度として定量的に分析する。
【0068】
上記の用量決定方法が与えられれば、一般に、用いられるペプチド量が見積もられ、即ち、患者体重に基づいて、10μg/kg/日から200μg/kg/日が用いられるが、上記したように、これは治療上の自由裁量を大いに受けるであろう。
特定のIGFBP、例えばIGFBP-1又はIGFBP-3に対するIGFの分布をLIFA形式を用いて評価するさらなる方法が提供される。
ペプチドは、徐放系によって好ましく投与される。徐放性組成物の好ましい例は、成形物品、例えばフィルム、マイクロカプセルの形状の半透性ポリマーマトリクスを含む。徐放性マトリクスはポリラクチド(米国特許第3,773,919号、EP 58,481)、L-グルタミン酸とガンマ-エチル-L-グルタメートとのコポリマー(Sidman等, Biopolymers, 22: 547-556 (1983))、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(Langer等, J. Biomed. Mater. Res., 15: 167-277 (1981)及びLanger, Chem. Tech., 12: 98-105 (!982))、エチレンビニルアセテート(Langer等, 上掲)又はポリ-D-(-)-3-ヒドロキシブチル酸(EP 133,988)を含む。徐放性組成物は、リポソーム捕捉されたペプチドも含む。ペプチドを包含するリポソームは、それ自体周知の方法によって調製される:DE 3,218,121; Epstein等, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82: 3688-3692 (1985); Hwang, 等Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 77: 4030-4034 (1980); EP 52,322; EP36,676; EP 88,046; EP 143,949; EP 142,641;日本国特許出願83-118008; 米国特許第4,485,045号及び同4,544,545号; 及びEP 102,324。通常、リポソームは小さい(約200〜800オングストローム)単ラメラ型であり、脂質含有量は約30モルパーセントコレステロールより大きいが、選択される比率は最も効果的な治療のために調節される。
より長い寿命を持つPEG化(PEGylated)ペプチドも、例えば、1995年11月30日発行のWO 95/32003に記載された抱合技術に基づいて使用することができる。
【0069】
非経口投与について、一実施態様では、ペプチドは一般に各々を所望の純度で単位投薬注射形態(溶液、懸濁液、又は乳化液)で、製薬的、又は非経口的に許容される担体、即ち、用いる用量及び濃度で受容者に無毒性であり製剤の他の成分と適合性であるものと混合することにより製剤化される。例えば、製剤は好ましくは酸化剤及びポリペプチドに有害であることが知られた他のペプチドを含まない。
一般に、製剤は、ペプチドを液体担体又は微細に分けた固体担体又はその両方と均一かつ密に接触させることにより調製される。次いで、必要ならば、生成物を所望の製剤に成形する。好ましくは、担体は非経口用担体、より好ましくは患者の血液と等張の溶液である。このような担体媒体の例は、水、食塩水、リンゲル液、緩衝溶液、及びデキストロース溶液を含む。不揮発性オイル及びオレイン酸エチルなどの非水性媒体も、ここで有用である。
【0070】
担体は、好ましくは等張性及び化学的安定性を向上させる物質等の少量の添加剤を含有する。このような物質は、用いる用量及び濃度で受容者に無毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸、及び他の有機酸又はその塩等のバッファー;アスコルビン酸等の酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、例えばポリアルギニン又はトリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン;グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン、又はアルギニン等のアミノ酸;セルロース又はその誘導体、グルコース、マンノース、トレハロース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の対イオン;ポリソルベート、ポロキサマー、又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤;及び/又は中性塩、例えばNaCl、KCl、MgCl、CaCl等である。
ペプチドは典型的にはこのような媒体中に、約4.5から8のpHで製剤化される。上記の賦形剤、担体、又は安定化剤の或るものを使用することがペプチドの塩の形成をもたらすことが理解されるであろう。最終的な調製物は安定な液体又は凍結乾燥固体であってよい。
【0071】
製薬組成物としてのペプチドの典型的な製剤を以下に議論する。約0.5から5mgのペプチド又はペプチドの混合物が、遊離の酸又は塩基の形態又は製薬的に許容される塩の形態で、生理学的に許容される媒体、単体、賦形剤、結合剤、防腐剤、安定化剤、芳香剤などとともに、許容される製薬実務に従って配合される。これらの組成物中の活性成分の量は、表示した範囲の適切な用量が得られるものである。
治療用投与に使用されるペプチドは無菌でなければならない。無菌性は、滅菌濾過膜(例えば、0.2ミクロン膜)を通す濾過により容易に達成される。治療用組成物は一般に、無菌のアクセスポートを具備する容器、例えば、皮下注射針で貫通可能なストッパーを持つ静脈内溶液バッグ又はバイアル内に配される。
【0072】
ペプチドは通常、単位又は複数回用量の容器、例えば密封されたアンプル又はバイアルに、水溶液として又は凍結乾燥された再構成用製剤として保存される。凍結乾燥された製剤の例として、10-mLバイアルは、5mLの滅菌濾過された1%(w/v)のペプチド水溶液が充填され、得られた混合物が凍結乾燥される。注入用溶液は、凍結乾燥されたペプチドを静菌性の注射用水を用いて再構成することにより調製される。
ここのペプチドと、血中の全IGF又はインシュリンを増加させる又はペプチドの効果を向上させる一又は複数の適当な試薬との組み合わせ治療も本発明の一部である。これらの試薬は一般に、ここのペプチドが生成されたIGF又はインシュリンを放出することを可能にし、成長促進剤を含む。
【0073】
この目的のための成長促進剤は、これらに限られないが、哺乳動物における内因性GHの放出を促進して血中のIGF濃度を上昇させるGH分泌促進物質を含む。例はTRH、ジエチルスチルベストロール、テオフィリン、エンケファリン、Eシリーズプロスタグランジン、VIP-セクレチン-グルカゴン-GRFファミリーのペプチド、及び米国特許第4,411,890号に記載されたようなGHRP-6、GHRP-1等の他のGH分泌促進物質、及び米国特許第5,206,235号に記載されたもののようなベンゾ-融合ラクタムを含む。1996年5月23日発行のWO 96/15148も参照のこと。他の成長促進剤は、GHRP、GHRF、及びGH及びそれらの類似物を含む。例えば、GHRPは、ともに1995年6月29日に発行されたWO 95/17422及びWO 95/17423; Bowers, J. Pediatr. Endocrinol., 6: 21-31 (1993); 及び Schoen等, Annual Reports in Medical Chemistry, 28: 177-186 (1993)に記載されている。GHRF及びその類似物は、例えば、1996年11月28日に発行されたWO 96/37514に記載されている。
さらに、GHRH、任意のIGFBP、長鎖GH、GHプラスGHBP、インシュリン、又は血糖降下薬も、この目的のために、本発明のペプチドと組み合わせて用いることができる。さらに、IGF-I又はIGF-II又はIGFとIGFBP、例えばIGFBP-3に複合したIGF-Iも、本発明のペプチドとともに用いることができる。例えば、1994年8月4日発行のWO 94/16723 に記載されたような担体中にIGF-I及びIGFBPを含有する製薬組成物は、当該ペプチドと組み合わせて用いることができる。実体を、ペプチドに続けて又は同時に投与することができる。さらに、食事又は運動の計画といったIGF状態を操作する他の手段も、本発明の一部としての組み合わせ治療と考えることもできる。
【0074】
インシュリンも投与される場合、上記したようなインシュリンの任意の製剤又は型とすることができる。それらの使用されるインシュリンの正確な用量は治療上の自由裁量を大いに受け、例えば、疾患の型、患者の臨床プロフィール、用いるIGF-I変異体又はIGF様インシュリンの型及び量、インシュリンの型などに依存するが、一般的には約0.5から500単位/日のインシュリンである。例として、ヒトの糖尿病治療のためには、NPHインシュリンは、好ましくは1日に2回皮下で、約5から50単位/注射(即ち、約0.2〜2mg)の用量である。
さらに、製剤は、スルホニルウレア等の血糖降下薬の有効量とともに好ましく投与される。血糖降下薬は、非経口、経鼻、経口、又は他の有効な経路を含む適切な技術によって哺乳動物に投与される。最も好ましくは、投与は経口経路による。例えば、Upjohnから1.25、2.5、及び5mg錠剤濃度で市販されているMICRONASE(商品名)錠剤(グリブリド)は経口投与に適している。この治療に配されたII型糖尿病のための通常の維持用量は、一般的に1日当たり約1.25から20mgであり、それは、適当と認められた場合に1回投薬又は1日を通して分割して与えられる。Phisician's Desk Reference, 2563-2565 (1995)。処方に利用可能なグリブリドをベースとする錠剤の他の例は、GLYNASE(商品名)ブランド薬(Upjohn)及びDIABETA(商品名)ブランド薬(Hoechst-Russel)を含む。GLUCOTROL(商品名)(Pratt)は、5-及び10-mg強度で利用可能なギリピジド(1-シクロヘキシル-3-(p-(2-(5-メチルピラジンカルボキサミド)エチル)フェニル)スルホニル)ウレア)錠剤であり、食事制限に続いて血糖降下治療を必要とするII型糖尿病又は他のスルホニルウレアに対する反応が止まった患者に対しても処方される。Phisician's Desk Reference, 1902-1903 (1995)。スルホニルウレア以外の他の血糖降下薬、例えばビグアニド(例えばメトホルミン又はフェンホルミン)又はチアゾリジンジオン(例えば、トログリトゾン)、又はインシュリン作用に影響する他の薬剤も用いられる。チアゾリジンジオンがペプチドとともに用いられる場合、現在使用されているのと同じレベル又は幾分低いレベルで用いられ、それはペプチド単独又はジオンとともに見られる効果に関して調節され得る。単独で用いられるトログリタゾン(REZULIN(商品名))の典型的な用量は、1日当たり約100−1000mg、より好ましくは200−800mg/日であり、この範囲は本発明に適用可能である。例えば、Ghazzi等, Diabetes, 46: 433-439 (1997)参照。トログリタゾンより強いインシュリン感作薬である他のチアゾリジンジオンも、より低い用量で用いられよう。
【0075】
さらに、本発明は、それがペプチドである場合の、ペプチドをコードする核酸を用いた、哺乳動物治療のための遺伝子治療の使用も考慮する。一般に、遺伝子治療は、哺乳動物におけるIGF又はインシュリンレベルを上昇(又は過剰発現)させるために用いられる。ペプチドをコードする核酸は、この目的のために使用される。アミノ酸配列が知られれば、遺伝子コードの縮重を用いて幾つかの核酸分子を生成でき、遺伝子治療に使用するためにそれを選択できる。
核酸(ベクターに作用可能に含まれるもの)を、遺伝子治療を目的として患者の細胞に導入するのに2つの主要な方法:インビボ及びエキソビボがある。インビボ送達のために、核酸は患者に、通常はペプチドが必要とされる部位に直接注入される。エキソビボ治療のためには、患者の細胞が取り出され、核酸がこれらの単離された細胞に導入され、改変された細胞が患者に、直接に、又は例えば患者に移植された多孔性膜にカプセル化されることにより投与される。例えば、米国特許第4,892,538号及び同5,283,187号参照。
【0076】
核酸を生存可能な細胞に導入するために利用可能な種々の技術がある。この技術は、核酸がインビトロで培養された細胞、又は目的とする宿主の細胞内にインビボで移入されるかに応じて変わる。核酸のインビトロでの哺乳動物細胞への移入に適した技術は、リポソームの使用、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法等を含む。遺伝子のエキソビボ送達用に共通に用いられるベクターはレトロウイルスである。
現在好ましいインビボ格差に入技術は、ウイルスベクター(アデノウイルス、単純ヘルペスIウイルス、又はアデノ関連ウイルスなど)及び脂質ベースの系(遺伝子の脂質媒介移入に有用な脂質は、例えば、DOTMA、DOPE及びDC-Cholである)。核酸供給源を標的細胞を標的化する試薬、例えば細胞表面タンパク質又は標的細胞に特異的な抗体、標的細胞上のレセプターのリガンド等とともに提供するのが望ましい状況も存在する。リポソームが用いられる場合、エンドサイトーシスを伴って細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質を、例えば、特定の細胞型向性のカプシドタンパク質又はその断片、サイクリングで内部移行を受けるタンパク質に対する抗体、及び細胞内局在化を標的とし細胞内半減期を向上させタンパク質の標的化のために及び/又は取り込みを促進するために用いてもよい。レセプター媒介エンドサイトーシスの技術は、例えば、Wu等, J. Biol. Chem., 262: 4429-4432 (1987); 及び Wagner等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 3410-3414 (1990)により記載されている。現在知られている遺伝子作成及び遺伝子治療プロトコールの概説については、Anderson等, Science, 256: 808-813 (1992)を参照。また、WO 93/25673及びそこに挙げられた参考文献も参照のこと。
【0077】
本発明ではキットも考慮される。典型的なキットは、製薬的に許容されるバッファー中にペプチドを含有するペプチド製剤のための容器、好ましくはバイアル、及び使用者に製薬製剤の利用を指示する指示書、例えば製品挿入物又はラベルを具備する。キットは場合によっては、GH、GHRP、GHRH、GH分泌促進物質、IGF、IGFBPに複合したIGF、IGFBP、GHBPに複合したGH;インシュリン、又は血糖降下薬のための容器、好ましくはバイアルを具備する。
本発明の他の実施態様では、哺乳動物の特定部位から離れた、又はそれに向かう内因性IGF又はインシュリンを検出する方法が提供され、それは哺乳動物に、当該部位で優勢な又は存在しないIGFBPに特異的な本発明のペプチドの有効量を投与することを含む。この目的のための「部位」は、心臓などの特定の組織又は器官、又は脳特異的IGFBPを介する脳を含む。部位における優勢(prevalence)とは、問題とするIGFBPが当該部位に局在化し、当該部位のIGFBPの実質的な又は生物学的に重要な部分を構成することを示す。この効能は、本発明に示されるペプチドのIGFBP-1対IGFBP-3についての特異性に従う。
本発明は、以下の実施例を参照することにより、さらに良く理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を制限すると解釈されない。ここに述べた全ての文献及び特許は、明示して参考に取り入れるものとする。
【実施例】
【0078】
(実施例1 )
IGF−I及び構造変異体のアラニン-スキャンニング突然変異誘発
序:
アラニン−スキャンニング突然変異誘発(上掲のCunningham及びWells)を用いてIGF-Iの各側鎖のベータ炭素を越えた部分を取り除いた。ついでIGFBP-1又はIGFBP-3に対するペプチドの結合の自由エネルギーへのこれらの原子の寄与を競合ファージELISA法によって検査した。このアッセイでは、IGFBP-1又はIGFBP-3が、IGF-ファージ変異体がIGFBP-1又はIGFBP-3被覆免疫吸着プレートへ結合するのを阻害するために使用される。結合タンパク質の一連の滴定から、結合性(IC50)を計算することができる。幾つかの変異体はまたBIAcore(商品名)アッセイにおける直接結合性についても調べた。
次の2つの組の実施例では、共通のα-アミノ酸は、中間体及び最終生成物を指すときに、標準的な一文字又は三文字アミノ酸コードによって記述される。共通のα-アミノ酸とはmRNAの指示下でタンパク質に組み込まれるアミノ酸を意味する。標準的な略語は、Merck Index, 10th Edition, pp Misc-2−Misc-3に列挙されている。特に断らない限り、共通のα-アミノ酸はアルファ炭素原子において天然即ち「L」立体配置を有している。コードに「D」が先行する場合、これは共通のα-アミノ酸の反対のエナンチオマーを表している。ノルロイシン(Nle)及びオルニチン(Orn)のような改変された又は普通でないα-アミノ酸は米国特許商標庁オフィシャルガゼット1114TMOG、1990年5月15日に記載されているように示した。
以下に記載するIGF変異体を用いた実験の結果に基づいて、ここに請求されたタイプの分子が治療される患者における活性IGFレベルを上昇させるであろうと予測される。
【0079】
材料と方法:
ファージミドベクターの作成と突然変異誘発
成熟ヒトIGF−Iをコードする遺伝子を、PCRプライマー5'-AGCTGCTTTGATATGCATCTCCCGAAACTCTGTGCGGT-3'(配列番号:4)及び5'-GAGCGATCTGGGTCTAGACAGATTTAGCGGGTTTCAG-3'(配列番号:5)を用いてpBKIGF2B(米国特許第5,342,763号)から増幅した。得られた断片をNsiI及びXbaIで切断し、予めNsiI及びXbaIで消化したpH0753中に結合させた。pH0753はphGHam-g3の誘導体(Lowman等, Biochemistry, 30: 10832-10838 (1991))であり、アルカリホスファターゼプロモータ(PhoA)領域の更なるXbaI部位がオリゴヌクレオチド5'-AAAAGGGTATGTAGAGGTTGAGGT-3'(配列番号:6)を用いて欠失させられている。IGF-Iオープンリーディングフレームを含む連結ベクターpH0753をpIGF-g3と命名した。これは、大腸菌バクテリオファージM13由来の遺伝子IIIタンパク質の断片(残基249−406)に融合した二重突然変異G1S-A70Vを有するIGF-Iをコードしている。このIGF-IのIGFBP-1及び-3への結合性は野生型IGF-Iと区別できないことが分かった。アラニン突然変異誘発は鋳型として一本鎖プラスミドpIGF-g3を用いて実施した(Kunkel等, Methods Enzymol., 204: 125-139 (1991))。システインとアラニンを除くIGF-Iの全ての残基が個々にアラニンに置換された。得られた作成物をDNA配列決定によって検証した。
【0080】
ファージに表示されたIGF変異体のIGFBP-1及び-3への結合性(ファージELISA)
免疫吸着プレート(Nunc, MAXISOR P(商品名)、96ウェル)を、pH7.2のPBSバッファー中1μg/mLのIGFBP-1又はIGFBP-3を100μl/ウェルで用いて4℃にて一晩かけて被覆した。ついでプレートを室温で2時間、0.5%のTWEEN20(商品名)/PBS(結合バッファーとしても使用)で阻害した(ウシ血清アルブミンのようなタンパク質様阻害剤は潜在的なIGF又はIGFBP汚染を防止するために避けた)。ファージミドベクターで新しく形質転換した大腸菌細胞(XL1-Blue, Stratagene)をM13-VCSヘルパーファージ(Stratagene)の存在下で5mLの2YT培地(上掲のSambrook等)中で一晩かけて増殖させた。ファージ粒子を収集し、Cabilly, S. (編), Combinatorial Peptide Library Protocols (Humena Press Inc.: Totowa, NJ, 1009), pp.249-264中のLowman, H.B., 「Pharge Dsiplay of Peptide Libraries on Protein Scaffolds」に記載されたようにしてPBSバッファー中に再懸濁させた。ついで、ファージ濃度を規格化し、各変異体に対して0.2−0.4の最大ELISAシグナルを生じさせた(上掲のCabilly, S. (編)のLowman)。可溶型競合体の3倍連続希釈物を、予め決定した濃度でファージを含む結合バッファー(0.5%のTWEEN(商品名)20/PBS)で非吸着マイクロタイタープレート(Nunc, F, 96ウェル)上に調製した。競合タンパク質の希釈範囲はIGFBP-1に対して5μM及びIGFBP-3に対して500nMで出発して6オーダーの規模まで拡張した。阻止後、固定化した標的を含むプレートを0.05%のTWEEN(商品名)/PBSバッファーで洗浄し、ついで室温で1時間の間80μl/ウェルの前もって混合されているファージ−競合体溶液と共にインキュベートした。洗浄後、結合したファージを、0.5%のTWEEN(商品名)/PBS中に一次ウサギ抗ファージポリクローナル抗体と二次ヤギ抗ウサギモノクローナル抗体−セイヨウワサビペルオキシダーゼ抱合体を含む溶液を80μl/ウェル用いて検出した。o-フェニレンジアミン(Sigma)とテトラメチルベンジジン(Kirkegaard及びPerry)を色素生産物質として使用し、生成物をそれぞれ492及び450nmで検出した。IC50値は、結合データを基準飽和曲線に一致させることにより決定された(上掲のCabilly, S. (編)のLowman)。各IGF-I変異体の少なくとも二つの個々のクローンが検定された。表Iの数は個々に評価されたIC50値の平均+-標準偏差を表している。
【0081】
IGFBP-1及びIGFBP-3の発現と精製
Mortensen等, Endocrinology, 138: 2073-2080 (1997)により記載されているようにして、ヒトIGFBP-1をCHO細胞中で発現させ、条件培地から精製した。組換えヒトIGFBP-3をまたクローニングし、哺乳動物細胞で発現させた(Wood等, Mol. Endocrinology, 2: 1176-1185 (1988))。条件培地からの精製は、IGFアフィニティーカラム(Martin及びBaxter, J. Biol. Chem., 261:8754-8760 (1986))を用いて、本質的にIGFBP-1に対して記述された手順に従った。
【0082】
可溶型IGF-I変異体の発現と精製
プラスミドpBKIGF2B(米国特許第5,342,763号)はPphoAプロモータの制御下でlamBのリーダーペプチドに融合したヒト野生型IGF-Iを発現する。部位特異的突然変異誘発の簡単化のために、ファージfl複製起点(fl ori)をプラスミドpBKIGF2B中に導入した。そのために、fl oriを含む466bpのBamHI断片をpH0753から切除し(上掲のLowman,1991)、プラスミドpBKIGF2BをEcoRIで線形化した。ベクターと断片の双方をクレノー酵素で処理して、平滑末端連結に先立って制限部位オーバーハングに充填した。M13VCSヘルパーファージの存在下で一本鎖ファージミドDNAをつくり出す能力について正しい作成物を選択した。得られたファージミドベクターをpBKIGF2B-fl-oriと名付け、Kunkel等, Methods Enzymol., 204: 125-139 (1991)の手順を使用して対象のIGF-Iala-変異体を作成するために鋳型として用いた。突然変異誘発の各工程はDNA配列決定により確認した。
【0083】
IGF-I変異体の発現は、IGF-I野生型に対して記述されているようなもの(Joly等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95: 2773-2777 (1998))であったが、オキシドレダクターゼの一過性の過剰発現を伴わなかった。精製手順は、過去のプロトコールに基づき(Cleland, J. L. (編), Protein Folding In Vivo and In Vitro (American Chemical Society, Washington,DC, 1993), pp.178-188)中の Chang及びSwartz, "Single-Step Solubilization and Folding of IGF-1 Aggregates from Escherichia coli)、僅かに適合化させた。典型的には、6gの湿った細胞ペースト(24時間成長させた2リットルの低リン酸培地と等価)を5mMのEDTAを含むpH7.5の25mMのトリス-HClの150ml中に再懸濁させた。細胞をマイクロフルイダイザー(Microfluidics Corp., Newton, MA)中で溶解させ、蓄積したIGF-I凝集物を含む屈折粒子を12000xgでの遠心分離により収集した。屈折粒子を溶解バッファーで2回、1%のN-ラウロイル-サルコシン(Sigma)を含む溶解バッファーで2回洗浄して膜タンパク質を抽出し、溶解バッファーで再び2回洗浄した。洗浄した屈折体を、2Mの尿素、100mMのNaCl、20%のMeOH、及び2mMのDTTを含むpH10.4の50mMのCAPS(3-(シクロヘキシルアミノ)-1-プロパンスルホン酸;Sigma)バッファー中におよそ2mg/mlで再懸濁させた。この手順は、屈折体の可溶化とそれに続くIGF-I変異体の酸化再折り畳みを組み合わせたたものである(上掲のChangとSwartz)。室温で3時間後、リフォールディング溶液を、50kDaの分子量カットオフ性を持つマイクロコンセントレーター膜(Centricon, Amicon)を通して濾過した。殆どの単量体IGF-Iが溶出液中に回収される一方、より高分子量の汚染物は未透過物中に濃縮された。この時点で、IGF-I画分は、SDS-PAGE分析から判断したところ、>95%の純度であった。IGFスワップ(二つの非天然ジスルフィドを含む;Hober等, Biochemistry, 31: 1749-1756 (1992);Miller等, Biochemistry, 32: 5203-5213 (1993))から正しくジスルフィド結合したIGF-Iを分離するために、リフォールディング溶液を5%の酢酸で酸性化し、4ml/分でDynamax(商品名)C18半調製用HPLCカラム(Varian;10.0mmID)に充填した。バッファーはHO/0.1%TFA(A)及びアセトニトリル/0.1%TFA(B)であった。ジスルフィド異性体の分離は次の勾配:0−30%Bを20分、30−45%Bを60分を適用して達成された。IGF-スワップに対する未変性IGF-Iの比は各変異体に対して通常は約2:1であり、IGF-スワップは未変性IGF-Iより早い勾配で溶出した。各変異体の分子量は質量分析により検証した。HPLC精製後に、試料を凍結乾燥し、100mMのHEPESバッファー、pH7.4中に約1mg/mlで再構成した。
【0084】
バイオセンサーによる反応速度測定
IGFBP-1とIGFBP-3に対するIGF変異体の結合親和性を、BIAcore(商品名)-2000実時間反応速度相互作用分析システム(Biacore, Inc., Piscataway, NJ)を使用して会合(k)速度と解離(k)速度を測定することにより決定した。カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.)を供給者の指示に従ってEDC(N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド)及びNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)で活性化させた。固定化については、20mMの酢酸ナトリウム、pH4.8中のIGF変異体を50μg/mlの濃度でバイオセンサーチップに注入し、およそ450−600RU(共鳴応答単位)の共有的に結合したタンパク質を生成した。未反応群は1Mのエタノールアミンの注入で阻害した。反応速度の測定を、25℃で20μl/分の流量を用いて、流れるバッファー(PBS、0.05%Tween20、0.1%卵白アルブミン、0.1%アジ化ナトリウム)中IGFBP-1又はIGFBP-3の何れかの2倍の連続希釈物(1μMで開始)を注入することにより実施した。会合速度(k)と解離速度(k)はBIAcore(商品名)評価ソフトウェア3.0バージョンにおいて1:1のラングミュアー(Langmuir)(商品名)会合モデルを用いて別個に計算した。平衡解離定数(K)はk/kとして計算した。
【0085】
結果
IGF-1の一価ファージディスプレー
IGF-Iの70のアミノ酸残基の迅速かつ包括的なアラニンスキャンのために、タンパク質がファージM13の表面に一価的に表示(ディスプレー)されるかどうかが最初に測定された(Bass等, Proteins, 8:309-314 (1990))。ファージディスプレー技術は迅速な一本鎖DNA突然変異誘発の利点と得られた変異体タンパク質の簡単な精製とを、対応するファージ粒子を単に単離することによって組み合わせたものである(例えば上掲のCunningham等, 1994)。成熟ヒトIGF-IがM13遺伝子III産物のカルボキシ末端ドメインに融合されたベクターが作成された。この作成物は大腸菌の細胞膜周辺腔に融合タンパク質を向かわせ、タンパク質の一価表示を可能にするstIIシグナル配列を含んでいる(上掲のBass等;上掲のLowman等, 1991)。クローニングのために、IGF-1の最初のアミノ酸と最後のアミノ酸を変化させ;得られた変異体G1S-A70Vは続くアラニンスキャンニング突然変異誘発のための鋳型作成物として使用した。
【0086】
IGF-I G1S-A70Vを表示するファージ粒子を単離し、IGFBPに対するその親和性についての結合競合ファージELISA法において検定したとき、その実験で決定されたIC50はIGFBP-1に対しては8.5nM、IGFBP-3に対しては0.5nMであった(図1)。これらの値は野生型IGF-Iを使用するBIAcore(商品名)実験により決定された解離定数(上掲のHeding等)とよく一致している。放射活性イムノアッセイ(RIA)により測定された野生型IGF-I親和性は、IGFBP-1に対して〜2.8nM、IGFBP-3に対して〜0.8nMであり、更にファージELISA法から導かれたIC50値を裏付けている。また、IGF-I G1S-A70Vを表示するファージ粒子は、ミクロタイタープレート上に固定した11の独立したモノクローナルマウス抗IGF-I抗体によって効率的に捕捉された。これらの結果を併せると、表示されたIGF変異体が正しく折り畳まれ、ファージ粒子の表面上で接近可能であることが示唆される。
【0087】
IGFBP-1及びIGFBP-3へのIGF-I結合のAla-スキャンニング突然変異誘発
G1S-A70VIGF-Iの全ての残基を、4個の未変性アラニン及び6個のシステインを除いて、記述したG1S-A70VIGF-IgIIIベクターを鋳型として使用して1個のアラニンで置換した。また、単一変異体S1G及びV70A及び野生型IGF-Iを復活させる二重変異体を作成した。これらの作成物の各々が大腸菌において発現され、ファージ上に表示された。IGFBP-1とIGFBP-3への結合性に対するIC50値は図1に示したような競合ファージELISA法によって測定した。各変異体の少なくとも二つの異なったクローンを試験した。得られたIC50値は表Iに列挙し、G1S-A70Vに対する各変異体に対するIC50の減少又は増加は図2にグラフで表す。
【0088】
【表1】


星印で示した変異体は、文書中に記載した抗体実験で判定した場合に、ファージ上に成功裏に表示されなかった(n.d.)。相対的IC50は、IC50mut/IC50G1S-A70Vと定義した。相対的特異性は、各変異体についての相対的IC50IGFBP-1/IC50IGFBP-3と定義した。
【0089】
アラニン変異体の大部分はファージELISA法においてIC50値の僅かな変化を生じただけであった。重要なことは、野生型IGF-Iがバックグラウンドにおいてアラニン置換が実施されたG1S-A70Vと同じ親和性をIGFBP-1とIGFBP-3に対して示したことである。アラニンに変化したときほんの僅かな残基だけが有意な(>10倍)親和性の損失を引き起こした:IGFBP-1結合に対してはE3、G7、L10、V11、F25、R36、P39、F49及びP63;IGFBP-3結合に対してV11、R36、P39、及びP63。グリシンとプロリンのala-置換はタンパク質骨格の構造的な攪乱に至りうることを述べておく(Di Cera, Chem. Rev., 98: 1563-1591 (1998))。
結合親和性における極く僅かな緩やかな改善がアラニン置換によって見出された。S1A,D12A及びD45AはIGFBP-1結合性においておよそ2倍の増加を示す一方、S35A及びT41AはIGFNBP-3に対して同様の効果を示した。しかしながら、IC50値の2倍の変化がこれらの実験における精度の限界である。
【0090】
IGFBP特異性決定因子
E3A、G7A、L10A、F25A及びF49はIGFBP-1対IGFBP-3の結合において差次的な効果を示した。これらの5つのIGF-I単一アラニン変異体において、IGFBP-1の相対IC50はIGFBP-3のものとは4倍以上異なっていた(図2;表I、相対的特異性)。E3AとF49Aはこの群において最も大きな相対特異性因子を示した。E3のアラニン置換はIGFBP−3の親和性には実質的に効果を持っておらず(1.4倍)、IGFBP-1への結合は34倍弱められている。更に劇的なことには、F49Aの親和性はIGFBP-1に対しては100倍以上減少しているがBP-3に対しては3.6倍だけである。この結果は、ファージELISA法による直接の比較において示した。IGF-I F49Aを表示するファージ粒子を可溶型IGFBP-1(図3(A))又はIGFBP-3(図3(B))の存在下でIGFBP-3被覆ウェルに添加した。IGF-I G1S-A70Vを表示している対照ファージと比較して、F49Aの結合曲線はIGFBP-1競合において2乗以上シフトした(図3(A))。これに対して、結合曲線はIGFBP-3競合においては同様であり、IC50値の差異はファクター4未満であった(図3(B))。よって、E3とF49はIGF-I分子においてIGFBP-1結合のための二つの主要な特異性決定因子である。
【0091】
残基G7、L10及びF25は、アラニンによって置換されたときIGFBP-3に対するよりもIGFBP-1に対する親和性の顕著な損失を示したが、両方のIGFBPの結合に対して重要であると思われた。IGFBP-3に対しては、IGFBP-3に対してよりもIGFBP-1に対してより強く結合する変異体のような、有意な特異性決定因子は特定されなかった。しかし、変異E9A、D12A、F23A、Y24A、T29A、S34A及びD45AはIGFBP-1結合性についてよりもIGFBP-3に対して僅かに大きな(約2倍の)効果を有していた。
【0092】
精製された可溶型IGF変異体のBIAcore(商品名)測定
ファージELISA法によって得られた結果の妥当性の確認のために、特異的アラニン変異体を発現させ、BIAcore(商品名)装置を用いた反応速度分析のために精製した。野生型IGF-Iの解離定数(K)はIGFBP-1に対しては13nMで、IGFBP-3に対しては1.5nMであると決定された(図5(A)と(B);表II)。IGFBPに対する親和性の差異は、IGFBP-3に対するIGF-Iの10倍速い会合速度(k)のためである(3.2x10対3.2x10M−1s−1)。これらの結果はファージELISAによって測定された絶対IC50値とよく対応している(図1;表I)。予想されるように、二重変異体G1S-A70Vは野生型とは本質的に区別ができない反応速度パラメータを示した(表II)。
【0093】
V11A、R36A及びP39Aは、これらの変異体はファージに正しく表示されなかったので、抗体認識実験(上を参照)に基づいて試験した。R36AとP39Aは双方の結合タンパク質に対して野生型の速度を示したが、V11AはIGFBP-1とIGFBP-3の双方に対して親和性の5倍の減少を示した。
更に、可溶型IGF変異体T4Aを試験することが決定された。この残基は以前の刊行物(上掲のBayne等, J. Biol. Chem., 263; 上掲のClemmons等, 1990)においてはIGFBP結合に関連していたが、ここでのファージアッセイでは小幅な効果を示していた。野生型IGF-Iに対するT4AのK値の増加はファージELISA法により測定されたIC50比よりおよそ2−3倍高かった(表II)。ファージ及びバイオセンサー分析により得られた結果の間の大きな矛盾はF16Aに対して見られた。この場合、二つの方法は4因子だけ異なっていた。
【0094】
最初のα-螺旋領域における変異はIGFタンパク質構造に不安定化効果を有していることが示されている(上掲のJansson等, 1997)。如何なる理論にも制約を受けるものではないが、ファージの表面上のg3融合タンパク質は再び折り畳まれ精製された可溶型タンパク質よりも更に安定であるかもしれないと思われる。これは、二つの残基が構造的に感受性のN-末端螺旋の外側に位置しているF25AとF49Aに対して得られたBIAcore(商品名)の結果によって裏付けられている。KとIC50におけるそれぞれの変化はこれらの二つの変異体に対して優れた一致を示している(表II)。IGFBPへの結合に対するF49Aの差次的効果はBIAcore(商品名)分析によって確認された。70倍の親和性の減少がIGFBP-1結合に対して測定されたが(図5(C);表II)、IGFBP-3結合性は4倍だけ減少した(図5(D);表II)。
【0095】

解離定数(KDmut/KDwt)における相対的変化は、ファージディスプレーにより決定した相対的IC50値(IC50mut/IC50G1S-A70V)(表I)と比較した。
【0096】
N-末端IGF-I残基の役割
驚いたことに、IGFBP-3の相互作用は、IGFBP-3がおよそ10倍高い親和性をもってIGF-Iに結合するという事実にも拘わらず、IGFBP-1との相互作用よりも、アラニン置換により影響を受ける度合いは一般にかなり少なかった。P63Aとは別に、何れのアラニン変異体もIGFBP-3親和性の>6倍の低減を示さなかった(図2と表I)。
バイオセンサーの実験においてdes(1-3)-IGF-Iが25倍低減した親和性でもってIGFBP-3に結合することが過去に示されている(上掲のHeding等)。IGF-Iのこの天然に生じる型は最初の3つのN-末端残基を欠いており、おそらくはIGFBP結合性の低減のために分裂促進能力の増加を示す(上掲のBagley等)。最初の3つアミノ酸側鎖の何れもIGFBP-3の結合に対するエネルギーを助長しないにもかかわらず(表I)、des(1-3)-IGF-IがIGFBP-3結合において妥協されるので、如何なる理論に制約されるものではないが、骨格相互作用が関与しているとの仮説が立てられる。
【0097】
この仮説は、最初の3個のN-末端アミノ酸を置換する三重アラニン変異体(Ala(1-3)-IGF-I)をファージ上に表示することにより試験された。その領域の骨格がIGFBP-3との相互作用に寄与しているならば、この変異体は結合できなければならない。しかし、IGFBP-1への結合性はE3側鎖の欠落のために低減していなければならない(表I)。位置1及び2におけるIGFBP-1との潜在的な骨格の相互作用を試験するため、対照としてdes(1-2)-IGF-I変異体を産生した。予想されたように、Ala(1-3)-IGF-IはE3Aと同様にIGFBP-1親和性を減少させたが、IGFBP-3親和性における変化は示さなかった(表I;図2)。des(1-2)-IGF-Iに対しては、双方の結合タンパク質に対して親和性の差は観察されなかった。des(1-3)-IGF-I(上掲のHeding等)に関する知見と併せると、これらの結果は、如何なる理論にも限定されるものではないが、IGF-Iの残基3及び4の間のペプチド骨格がIGFBP-3との重要な相互作用を媒介することを示唆している。
【0098】
検討
IGF-Iの表面上の機能性IGFBP-1及びIGFBP-3結合エピトープがアラニンスキャンニング突然変異誘発により立証された。両方の結合エピトープは図6に示されている。個々のIGF-I側鎖相互作用はIGFBP-3に対してよりもIGFBP-1への結合に対して更に重要な役割を果たしている。二つの主要な結合パッチがIGFBP-1に対して見いだされる(図6(A))。一つが(G7、L10、V11、L14、F25、I43、及びV44からなる)N末端ヘリックスの上面に位置し、一つが(E3、T4、L5、F16、V17及びL54からなる)下面に位置している。これらの二つの結合パッチはF49とR50によって架橋されている。IGFBP-3に対しては、結合エピトープはより散在性であり、G22、F23及びY24を含むようにずれている(図6(B))。IGFBP-3の結合性は一般にアラニン置換にはあまり感受性ではない。実際、親和性の最も大なる減少は(P63Aの他は、以下参照)G7Aに対して見られる6倍の減少である。最もありそうなことは、如何なる理論にも制約を受けるものではないが、IGF-I主鎖骨格に由来する相互作用がIGFBP-3の結合性に寄与していることである。この仮説は更にAla(1-3)-IGF変異体での実験により実証される。単一及び三重アラニン置換はIGFBP-3結合性への効果を持たないが、最初の3個のアミノ酸の欠失の結果、25倍の親和性の減少があった(上掲のBagley等;上掲のClemmons等;上掲のHeding等)。要約すると、IGF-Iは異なった結合様式を用いてIGFBP-1とIGFBP-3に結合し;数個のアミノ酸側鎖の相互作用がIGFBP-1への結合に重要である一方、骨格相互作用がIGFBP-3への結合に対して主要な活動的な役割を担うように思われる。
【0099】
最近の刊行物では、異核NMRスペクルによるIGFBP-1に対するIGF-Iの結合エピトープが調査されている(上掲のJansson等, 1998)。著者はとりわけIGF-I残基29、30、36、37、40、41、63、65、及び66が30℃でのIGFBP-1との複合体形成時に化学シフトによる攪乱を受けることを見いだしている。更に、Janssonと共同研究者はR36、R37及びR50が機能性結合エピトープの一部であると特定し、BIAcore(商品名)実験でそのアラニン変異体を試験した。著者により観察された親和性の最も大きな変化はR50Aに対する3倍の減少であった。しかし、ホルモンの最初のNMRでの研究において既に観察されているIGF-Iの構造上の柔軟性のために(上掲のCooke等)、Jansson等は、F49を含む多くの残基をNMRスペクトルに完全には指定することはできなかった。
【0100】
タンパク質−タンパク質界面の同様な研究において、僅かな側鎖残基だけが大部分の結合自由エネルギーに寄与することが見いだされた(Clackson及びWells, Science, 267:383-386 (1995); Kelley等, Biochemistry, 34: 10383-10392 (1995))。同じことがIGF−GFBP-1相互作用に対しても当てはまる。しかし、ここでは、VIIa因子への組織因子の結合に対して注目されたように、重要な側鎖に由来する結合自由エネルギー値の大きさ(ΔΔG)は成長ホルモンの場合よりも小さい(上掲のKelley等)。支配的なΔΔGの寄与を持つ残基は成長ホルモン-レセプター界面におけるようにIGF-I表面上でクラスター形成しないが(上掲のClackson及びWells)、連続的なIGFBP-1結合エピトープをなお形成した(図6(A))。これに対して、IGF-I上のIGFBP-3結合エピトープは不連続であり、側鎖は個々の結合エネルギーに極めて小幅に寄与した。
【0101】
IGF-IにおけるアラニンによるP63の置換により、競合ファージELISAにおいて使用された濃度範囲で測定できない両方の結合タンパク質の親和性の減少が生じた。しかし、残基P63は主結合エピトープに対してIGF-I分子の反対側に位置している。更に、グリシンとプロリンのアラニン置換が構造変化に至りうることが着目された(上掲のDi Cera)。また、上掲のJansson等, 1998は、IGF-IのC-末端部分は直接のIGFBP-1接触には関与していないが、むしろ複合体生成時に間接的な立体配置変化を受けると結論した。IGF-I上の抗体結合部位の広範な特徴付けはManes等, Endocrinology, 138: 905-915 (1997)によりなされている。彼らは、C-末端Dドメインを認識する抗体との複合体におけるIGF-IへのIGFBP-1又は-3の同時の結合を示した。これらの結果は、残基P63で始まるDドメインがIGFBP-1又は-3の結合に関与していないという以前の知見を更に裏付けている(上掲のBayne等, 1988)。
【0102】
ファージELISAにより得られたIC50比とBIAcore(商品名)の結果の間の主たる矛盾は残基F16で観察された。既に述べたように、アラニンによるこの残基の置換によりIGF-I分子の構造変化が誘導された(上掲のJansson等, 1997)。同じ効果がBIAcore(商品名)の結果におけるKで見られたが、親和性の減少はファージELISA実験ではそれ程顕著ではなかった(表IIを参照)。双方のBIAcore(商品名)の測定では精製工程の間に再び折り畳まれたIGF-F16Aが使用された(上掲のJansson等, 1997)。しかし、ファージディスプレーでは、対象のタンパク質は大腸菌の分泌機構によって自然に転位置される。一価ファージディスプレーにおける低タンパク質量(ファージ粒子当たり<1分子)は凝集及び誤った折り畳みを嫌う。また、切断したg3ファージタンパク質へIGF-Iを融合させるとペプチドの未変性構造に安定化効果を働かせたかもしれない。
【0103】
循環中のIGF-Iの大部分はIGFBP-3と酸不安定サブユニット(ALS)と名付けられた第3のタンパク質との複合体として見いだされる(上掲のBachとRechler;Clemmons, Cytokine Growth Factor Rev., 8:45-62 (1997); 上掲のJonesとClemmons)。150kDの分子量のこの三元複合体は脈管構造壁を横断できず、IGFに対する循環リザーバとして作用する。この機構によってIGF-Iの半減期が劇的に増加する(Simpson等, Grwoth Horm IGF Res, 8: 83-95 (1998))。IGFBP-3の量はIGF-Iによってポジティブに調節される。これに対してIGFBP-1の役割はそれ程明確ではない。このクラスの結合タンパク質は一般にはIGFBP-3程豊富ではなく、その量はインスリンによりネガティブに調節される(上掲のBachとRechler;上掲のClemmons, 1997; 上掲のJonesとClemmons)。
ここでの結果に基づいて、IGF-IのIGFBP特異的変異体が得られる。幾つかのアラニン変異の組み合わせが、IGFBP-3の高親和性結合性を保持しながら非常に弱くIGFBP-1に結合する変異体を産生する。IGFBP-3にもはや結合しないIGFBP-1特異的変異体のデザインはIGF-Iのファージディスプレーと特定の位置でのアミノ酸の無作為化を含みうる(上掲のCunningham等;LowmanとWells, J. Mol. Biol., 243:564-578 (1993))。
【0104】
結論:
IGFBP-1とIGFBP-3への結合に対して重要なIGF-Iの残基を同定した。特定のIGFBPに対する結合特異性を決定する幾つかの残基が見いだされた。最近の刊行物(上掲のLoddick;上掲のLowman等, 1998)では、生物学的利用能のある「遊離の」IGF-Iの増加プールが結合タンパク質から内在性IGF-Iを置換することにより産生された動物実験が報告されている。IGFBP特異的IGF-I変異体は上記のように診断又は治療のために使用することができる。
【0105】
(実施例2)
IGF様インシュリン
インシュリンは、BIAcore(商品名)実験で測定した場合に、IGFBP-3に対して251+/-91nMの弱い親和性を持つと報告された(Heding等, 上掲)。即ち、IGF-Iとの高親和性複合体(0.23nM)に比較して、インシュリンは1000倍弱く結合する。従って、インシュリンはIGFBPに結合するのに必要な正しい構造骨格を提示していると思われ、幾つかの正しい残基が導入されると結合性は向上するであろう。
Cascier等, Endocrinology, 上掲は、ここのアラニンスキャンニングデータ(IGFBP-3に対するAla(1-3)IGF-Iの野生型親和性(表I))とは異なり、インシュリンのN-末端領域のIGF-Iへの置換で結合性タンパク質への親和性の約1000倍の低下を報告し、これは、IGF-IのN-末端近傍の置換がIGFBP-3結合を可能にすることを示唆している。これは、IGF/インシュリンハイブリッド(Phe-1, Val1, Asn2, Gln3, His4, Ser8, His9, Glu12, Tyr15, Leu16)IGFのN-末端に存在する付加残基、Phe-1によると思われる(番号付けは、Cascier等, Endocrinology, 上掲のIGF-Iについてのものである)。プロインシュリン又はインシュリンにおけるPhe1の欠失は、IGFBP-3への結合性を向上させると予想される。アラニンスキャンニングの結果に基づいて、IGFBP-3への結合性のさらなる向上は、突然変異(プロインシュリン番号付け)F25Y、Y26F、及びT73Fの作成によって得られるが、これは、IGF-Iにおけるこれらの側鎖の置換がIGFBP-3結合性に影響し(表I)、プロインシュリン(並びにインシュリン)がこれらの部位においてIGF-Iと相違するからである(図4)。インシュリン又はプロインシュリンのIGFBP-1への結合性は、突然変異Q4E、L17F、Y26F、及びT49Fによって向上すると予想され、これは、IGF-Iにおけるこれらの側鎖の置換がIGFBP-1結合性に影響し(表I)、プロインシュリン(並びにインシュリン)がこれらの部位においてIGF-Iと相違するからである(図4)。
【0106】
上掲のSlieker等は、インシュリンの長時間作用性類似物が、インシュリンを内因性因子に結合するように操作することによって製造されうることを提案した。IGF-I:IGFBP複合体(例えば、Cascier等, Endocrinology, 上掲参照)での類推により、そのような複合体は、遊離のホルモンより遅く循環からクリアされるであろう。しかしながら、彼らが報告したインシュリン変異体は、IGFBPに対して僅かな親和性、そしてインシュリンレセプターに対して低下した親和性しか持たなかった(Slieker等, 上掲)。以前の研究より高い分解能でのIGFBP-1及びIGFBP-3に対する結合性決定基の特定により、レセプター結合性を保持するが、IGFBPに対して有意な親和性を達成する異なるプロインシュリン及びインシュリン変異体が操作された。
【0107】
ヒトのプロインシュリンもファージ上に表示されている。従って、単一部位及び複数部位変異体の結合親和性が上記の技術によって容易に測定できる。
プロインシュリンのインシュリンへの変換は、R31からR65の領域(上述の残基を含む)の切除によって起こる。得られた成熟インシュリンのアミノ-末端ペプチドはB鎖、カルボキシ-末端はA鎖と呼ばれる。これらの鎖は2つの鎖間ジスルフィドによってともに保持される。上記の番号付け系は、天然配列ヒトプロインシュリンを参照するもので、その配列はヒトIGF-Iの天然配列と比較して図4に示した。プロインシュリン変異体がIGFBPに成功裏に結合するファージ上に表示された場合、これらの変異は可溶性の成熟インシュリンに導入される。
【0108】
(実施例3)
ヒトIGF-Iでのヒトの治療
この実施例は、一又は複数のIGFBPに結合する外来的に投与されたペプチドが、内因性IGFを置換するためにどのように作用するか、及びヒトでの使用のためにここのペプチドをどのように投薬するかの原理を示す。
この実験において、ヒトII型糖尿病患者に、組換えヒトIGF-I又はプラシーボが4種の用量(10、20、40又は80μg/kg)で12週間、1日に2回ずつ注射することによって投与された。血液試料は、12週間の処理の前、2週間毎、及び後(EP)に取り出した。IGF-I、IGF-II、及びIGFBP-3の濃度を全ての試料において測定したが、IGF-IIは、10μg/日のIGF-Iで処理した患者から取った試料では測定しなかった。
【0109】
WO 98/45427の図43は、患者の血液におけるIGF-Iの濃度を示している。予測されない発見は、40及び80μgのIGF-I投与の「プラトー」効果であり;これら2つの用量で同じIGF-Iの全血中濃度に達した。
WO 98/45427の図44は、患者の血液におけるIGF-IIの濃度を示している。IGF-Iレベルの上昇とは異なり、IGF-IIレベルはIGF-I濃度の上昇とほぼ鏡像パターンで降下した。IGF-I濃度上昇のプラトー化と同様に、IGF-II濃度降下もプラトーに達した。
WO 98/45427の図45は、患者の血液におけるIGFBP-3血中のIGF-I及びIGF-IIのパターンにおける明らかな変化とは異なり、IGFBP-3の濃度は統計的に有意な又は明らかな変化のパターンを示さなかった。
【0110】
WO 98/45427の図43及び44の検査により、全IGF濃度(IGF-IプラスIGF-II)は処理によって殆ど変化しないことが明らかとなった。これは、IGF-I濃度の上昇がIGF-IIの降下と密接に合致することによる。3つ全ての図を検査することにより、患者の血液におけるIGF-I及びIGF-II濃度の用量に関連した変化が、IGFBP-3結合性タンパク質容量の減少を伴わないことが示された(IGFBP-3は血中の主要な結合性タンパク質である)。
IGF-II濃度の低下、及びIGF-I及びIGF-II濃度のプラトー化についての明らかな説明は、IGF結合性タンパク質容量の限界量が存在し、この実験において使用したIGF-Iの用量が結合性タンパク質からのIGF-IIの用量に関連した置換を起こしたことである。
【0111】
活性IGFのレベルを向上させる能力を持つ任意の分子が、この実施例でIGF-Iについて示されたものに類似する活性を示すと予測することは、この実施例における観察の論理的な拡張である。さらに、使用したIGF-Iの用量及び示したIGFBP及びIGF-I及びIGF-IIの濃度から、活性な内因性IGFのレベルを向上させるためにどれくらいのペプチドを与えるべきかを計算することは簡単である。IGF-Iに比較した分子サイズ、ペプチドのIGFBPに対する親和性、及びその生体利用性は、ヒトにおいて活性IGFを増加させた用量に到達するのに考慮される他の変数である。
本発明は、ここでやむを得ず或る特定の方法及び材料を参照して議論した。これらの特定の方法及び材料の議論は本発明の範囲の一切の制限を構成するものではなく、本発明の目的を達成するのに適した任意かつ全ての代わりうる材料及び方法に拡張されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】IGFBP-1(A)又はIGFBP-3(B)に結合する変異体、G1S-A70V IGF-IのファージELISAを示す図である。1μg/mlのIGFBP-1(A)又はIGFBP-3(B)でコートしたミクロタイタープレートを、G1S-A70Vを表示するファージ粒子とともに、表示した量の可溶性競合タンパク質、IGFBP-1(A)又はIGFBP-3(B)の存在下でインキュベートした。競合物の半最大阻害濃度(IC50)、即ち、その特定の実験においてファージミドの半最大結合をもたらす競合物の阻害濃度を示した。
【図2】ファージELISAにより試験したIGF-I変異体についてのIGFBP親和性の低下又は向上を示す図である。各IGF-Iアラニン変異体の相対的IC50値(IC50mut/IC50G1S-A70V)(IGF-IG1S-A70V)に対する結合性タンパク質についての各変異体の親和性変化)をIGFBP-1(黒棒)及びIGFBP-3(白棒)について示した。データは上記の表1から取った。相対的IC50<1は親和性の向上;値>1は親和性の低下を示す。星印は、これら特定の変異体が、抗体結合性で判断した場合、ファージ上に表示されていなかったことを示す。
【図3】競合的ファージELISAにおける、ファージ上に表示されたIGF-I変異体F49Aの、各々IGFBP-1及びIGFBP-3に対する結合特異性を示す図である。F49A(四角)を表示するファージミド粒子は、IGFBP-3でコートしたプレートに、表示した量の可溶性IGFBP-1(A)又はIGFBP-3(B)の存在下で結合した。野生型様IGF-I変異体G1S-A70V(丸印)を表現するファージで同じ実験を平行して行った。絶対的なIC50値については下記の表I及びIIを参照のこと。データ点は、平均+-標準偏差、n=2である。免疫吸着プレートを1μg/mlのIGFBP-3でコートし、野生型IGF-Iファージ(WT、丸印)及び異fg-F49Aファージ(F49A、四角)を平行して用いて下記の実施例に記載したようにELISAを実施した。実験は2回行い、データ点は平均+-標準偏差で示した。実際の実験におけるIC50値を図に示した。
【図4】天然配列ヒトIGF-I(wtIGFと称する)(配列番号:1)、天然配列ヒトプロインシュリン(プロインシュリンと称する)(配列番号:2)、及び天然配列ヒトインシュリン(インシュリン(B鎖)に次いでインシュリン(A鎖)と称する)(配列番号:3)の配列アラインメントを示す図である。星印及び傍点は、各々3つの配列間での表示したアミノ酸位置での配列同一性及び配列相同性を示す。
【図5A】固定化IGF-I変異体へのIGFBP結合のバイオセンサー分析を示す。センサーグラムは、固定化した野生型IGF-I(A、B)又はF49A変異体(C、D)へのIGFBP-1(A、C)又はIGFBP-3(B、D)の結合について示した。核実験のリガンド濃度は、1μM、500nM、及び250nMであった。速度論的パラメータについては表IIを参照のこと。
【図5B】固定化IGF-I変異体へのIGFBP結合のバイオセンサー分析を示す。センサーグラムは、固定化した野生型IGF-I(A、B)又はF49A変異体(C、D)へのIGFBP-1(A、C)又はIGFBP-3(B、D)の結合について示した。核実験のリガンド濃度は、1μM、500nM、及び250nMであった。速度論的パラメータについては表IIを参照のこと。
【図6】(A)及び(B)は、各々IGF-I表面上のIGFBP-1及びIGFBP-3についての機能的結合エピトープのモデルを示す図である。アミノ酸鎖は、それらの結合エネルギー(表I)に対する相対的寄与に従って分類し、次のように色分けした:効果無し(灰色);見かけの親和性の2−5倍の低下(黄色);5−10倍(橙色);10−100倍(明赤色);>100倍(暗赤色)。利用可能な場合は、上記の表IのファージELISA実験からの数を使用した。V11A、R36A及びP39A変異体(表II)に代えてBIAcore(商品名)データを使用した。IGF-IのNMR構造(Cooke等, 上掲)を、プログラムInsight II(商品名)(MSI, San Diego, CA)を用いて表現した。IGFBP-1(A)についての結合エピトープは、N-末端螺旋(残基8−17)の「上」及び「下」表面に位置し、エネルギー的に重要な残基F49によって連結されている。IGFBP-3(B)については、個々のIGF-I側鎖は極くわずかしか結合エネルギーに寄与しない。結合性エピトープはN-末端から移動し、新たにG22、F23、Y24を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然配列ヒトIGF-Iの位置3、5、7、10、14、17、23、24、25、43、49又は63のアミノ酸がアラニン残基で置換されたIGF-I変異体。
【請求項2】
前記位置3のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項3】
前記位置5のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項4】
前記位置7のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項5】
前記位置10のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項6】
前記位置14のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項7】
前記位置17のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項8】
前記位置23のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項9】
前記位置24のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項10】
前記位置25のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項11】
前記位置43のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項12】
前記位置49のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項13】
前記位置63のアミノ酸が置換された請求項1に記載の変異体。
【請求項14】
請求項1に記載の変異体を担体中に含んでなる組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−45829(P2007−45829A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229517(P2006−229517)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【分割の表示】特願2005−38688(P2005−38688)の分割
【原出願日】平成12年1月5日(2000.1.5)
【出願人】(596168317)ジェネンテック・インコーポレーテッド (372)
【氏名又は名称原語表記】GENENTECH,INC.
【Fターム(参考)】