説明

インジウム錫酸化物前駆体とそのインジウム錫酸化物膜、およびこれらの製造方法

【課題】成膜が容易であり低温焼成でも優れた導電性を有するITO膜を容易に形成できる技術を提供する。
【解決手段】インジウム塩とスズ塩を溶解した有機溶媒母液中で生成したインジウム錫複合沈殿物からなるインジウム錫酸化物前駆体であって、該前駆体は分散液あるいは粘性液として用いることができ、これを基板に塗布し焼成して透明ITO導電膜を形成することができ、また該前駆体の製造方法では有機溶媒母液の酸化処理と共にpH調整して沈澱を生成させると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示素子やタッチパネル、電磁波シールド材、静電気防止などに使用される透明導電膜あるいは赤外線反射膜等の用途で各種エレクトロニクス素子の分野で好適に用いられるITO透明導電膜とその前駆体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、タッチパネル、電磁波シールド材、赤外線反射膜等として透明導電膜が広く使用されており、この透明導電膜としては、錫をドープした酸化インジウム(インジウム錫酸化物またはITOと云う)によって形成した膜が優れた電気特性とエッチングによる加工の容易性を有するので現在最も広く使用されている。このITO膜は、従来、蒸着法やスパッタ法、焼成法(塗布熱分解法とも云う)、ITO粉末の分散体を塗工する方法などによって形成されている。
【0003】
上記ITO透明導電膜形成方法のうち、乾式法の成膜法である蒸着法およびスパッタ法は気相中で目的物質を基板に堆積させて膜を成長させる方法であり、低抵抗の透明導電膜を250℃以下の低温で形成することができるという利点があり、例えば、液晶表示装置で透明導線膜を形成するためには有用な成膜技術であるが、成膜時に真空容器を使用するため、装置が大がかりで高価なうえ、原料の使用効率が悪くて生産性が低いという問題がある。
【0004】
また、焼成法によるITO透明導電膜形成方法は、スピンコート法、ディップコート法、印刷法等により被処理基板に目的物質の前駆物質を用いて塗布し、これを焼成(熱分解)することによって膜を形成する方法である、装置が簡単で生産性に優れ、大面積の成膜が容易であるという利点はあるが、実用に適する導電性能を得るには概ね400℃〜500℃の高温焼成処理を必要とする。
【0005】
200℃程度の低温で導電性能を有する塗膜を形成する手法として、例えば、特開2001−2954号公報(特許文献1)に、インジウムの有機酸化合物および有機錫化合物を溶解した有機溶媒を使用した技術が提案されている。この技術では200℃程度の焼成温度で密着性の良い塗膜が得られるが、この焼成温度で得られる透明導電膜の導電性能は、シート抵抗値で100000Ω/□と高い上に、有機金属を使用するので製造コストが大幅に高いと云う問題がある。
【0006】
特開平9−86967号公報(特許文献2)および特開2001−332123号公報(特許文献3)にも比較的低い焼成温度で導電性膜を形成する手法が開示されており、最終的に1000Ω/□程度のシート抵抗値を有する塗膜が記載されている。しかし、この方法は、予め350℃以上の高温で焼成処理したITO微粒子を用い、このITO微粒子をシリケートマトリックス中に分散させた塗膜を200℃程度で焼成して成膜するものであり、従ってITO微粒子生成時には高温焼成を必要とし、さらに、ITO粉末を形成する工程と、この粉末をシリケート膜に分散させる工程との異質な工程を有するために工程が煩雑であり、またコスト高になる。
【特許文献1】特開2001−2954号公報
【特許文献2】特開平09−86967号公報
【特許文献3】特開2001−332123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来のITO導電膜形成方法における上記問題を解決したものであり、ITO導電膜を容易に形成することができ、しかも比較的低い焼成温度でも優れた導電性を有するITO膜を形成することができる技術を提供する。また本発明は、従来のITO透明導電膜を作成するための液状前駆体組成物を提供する。
【0008】
従来のITO成膜法の多くは無機溶液を用いており、一部に有機溶液を用いる例も知られているが、これはインジウムや錫の有機金属を用いる方法である。本発明は、インジウム塩および錫塩を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒母液中でITO前駆体となるインジウム錫複合沈澱物を生成させ、この沈殿物を用いることによって、比較的低い焼成温度でも優れた導電性を有するITO膜を容易に形成できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示すインジウム錫酸化物前駆体とそのインジウム錫酸化物、およびその製造方法に関する。
(1)インジウム塩とスズ塩を溶解した有機溶媒母液中で生成したインジウム錫複合沈殿物からなることを特徴とするインジウム錫酸化物前駆体。
(2)インジウム塩とスズ塩を溶解した有機溶媒母液中で生成したインジウム錫複合沈殿物を上記母液から分離して洗浄したものである上記(1)のインジウム錫酸化物前駆体。
(3)上記(2)に記載する母液から分離して洗浄したインジウム錫複合沈殿物を分散させたインジウム錫酸化物前駆体分散液。
(4)上記(2)に記載する母液から分離して洗浄したインジウム錫複合沈殿物を100℃未満で加熱溶融してなるインジウム錫酸化物前駆体粘性液。
(5)上記(4)に記載する透過率50%以上の透明なインジウム錫酸化物前駆体粘性液。
(6)塩素含有量が10mol%以下である上記(1)〜上記(5)の何れかに記載するインジウム錫酸化物前駆体。
(7)100℃〜400℃の加熱下において、TG/DTA曲線のDTAピークが少なくとも2つ以上存在する熱履歴を示す上記(1)〜上記(6)の何れかに記載するインジウム錫酸化物前駆体。
(8)インジウム塩とスズ塩を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒母液のpHを5〜8に調整してインジウム錫複合沈殿物を生成させることを特徴とするインジウム錫酸化物前駆体の製造方法。
(9)上記(8)の製造方法において、インジウム塩とスズ塩を溶解した有機溶媒母液を酸化処理し、さらにpHを5〜8に調整してインジウム錫複合沈殿物を生成させるインジウム錫酸化物前駆体の製造方法。
(10)上記(8)または上記(9)の製造方法において、インジウム錫複合沈殿物を、母液から分離して純水洗浄し、さらに100℃未満で加熱溶融してインジウム錫酸化物前駆体粘性液を製造する方法。
(11)上記(8)〜上記(10)の何れかに記載する製造方法において、インジウム錫複合沈殿物を母液と共に遠心分離して上澄み液を除去し、さらにイオン交換水を加えて洗浄し、これを遠心分離して上澄み液を除去する操作を繰り返し、上澄み液の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで純水洗浄を繰り返した後に、該沈殿物を100℃未満で加熱溶融してインジウム錫酸化物前駆体粘性液を製造する方法。
(12)上記(1)〜上記(7)の何れかに記載するインジウム錫酸化物前駆体を用いて形成したインジウム錫酸化物膜。
(13)上記(1)〜上記(7)の何れかに記載するインジウム錫酸化物前駆体を基板に塗布し、乾燥後、200℃以上に焼成してインジウム錫酸化物膜を製造する方法。
(14)上記(12)のインジウム錫酸化物膜によって形成された透明導電膜。
(15)インジウム塩を溶解した有機溶媒母液中で生成したインジウム含有沈殿物を上記母液から分離して洗浄してなるインジウム酸化物前駆体。
(16)インジウム塩を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒母液のpHを5〜8に調整してインジウム含有沈殿物を生成させるインジウム酸化物前駆体の製造方法。
(17)上記(15)のインジウム酸化物前駆体を用いて形成したインジウム酸化物膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、インジウム塩および錫塩を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒母液中で生成したインジウム錫複合沈澱物をインジウム錫酸化物前駆体(ITO前駆体)として用いる。この沈殿物は母液から分離して純水洗浄し、純水等の適当な溶媒に分散させたインジウム錫酸化物前駆体分散液として用いることができる。また、有機溶媒母液から分離して洗浄したインジウム錫複合沈殿物を100℃未満で加熱溶融することによってインジウム錫酸化物前駆体粘性液にして用いることができる。
【0011】
本発明のインジウム錫酸化物前駆体の分散液または粘性液は、これを基板に塗布して焼成することによって容易にITO膜を形成することができる。従って、塗料化する必要がない。しかも比較的低い焼成温度でも優れた導電性を有するITO膜を容易に形成することができる。また、本発明はインジウム錫複合沈殿物を用いるので、インジウムや錫の有機化合物を用いる従来の方法よりも格段に製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に本発明の製造方法の工程を示す。図示するように、本発明は、インジウム塩および錫塩を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒母液中でインジウム錫複合沈澱物を生成させ、この沈殿物を用いてITO膜を形成する技術に関する。上記インジウム錫複合沈澱物およびこの沈澱物を処理したものをインジウム錫酸化物前駆体と云う。この前駆体(ie.沈殿物)は、後述するように、この沈殿物を分散した分散液として用いることができ、またこの沈殿物を加熱溶融してなる粘性液として用いることができる。
【0013】
本発明のインジウム錫複合沈殿物は、インジウム塩およびスズ塩を有機溶媒に溶解した有機溶媒母液中で生成したものである。インジウム塩としては、塩化インジウム、硝酸インジウム、硫酸インジウム、酢酸インジウム、シュウ酸インジウムなどを用いることができる。また、錫塩としては、塩化錫、硝酸錫、硫酸錫、酢酸錫、シュウ酸錫などを用いることができる。錫塩は2価錫塩でも4価錫塩の何れでもよい。
【0014】
インジウム錫複合沈殿物を生成させる有機溶媒母液は、インジウム塩を溶解した有機溶媒と錫塩を溶解した有機溶媒を混合したものでもよく、あるいは有機溶媒にインジウム塩と錫塩とを加えて溶解したものでも良い。
【0015】
インジウムと錫の配合割合(In:Sn)は、成膜中に含まれるインジウムと錫との元素含有比率で、99:1〜80:20の割合が適当であり、目的のインジウム錫比に応じて調整すれば良い。
【0016】
有機溶媒としては、インジウム塩と錫塩が溶解し、生成したインジウムスズ複合沈殿物と反応しないものであれば良い。例えば、(a)エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、(b)メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のアルキルエーテル類、(c)アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン等のケトン類、(d)N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、(e)トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素類、(f)ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類などを使用することができる。好ましくは、アルコール系、ケトン系である。これらの溶媒は単独でも良く、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0017】
有機溶媒中のインジウム塩の濃度は1〜40wt%が適当であり、より好ましくは4〜20wt%である。また溶液中の錫塩の濃度は上記インジウム塩と錫塩との混合比率に対応する濃度であれば良い。
【0018】
インジウム塩と錫塩を溶解した有機溶媒母液のpHを調整してインジウム錫複合沈澱物を生成させる(沈殿化工程)。この沈澱物を生成させるには、例えば、上記溶液を5℃〜80℃、好ましくは10℃〜40℃に保持し、同様の温度に保持したアンモニアあるいはアンモニアエタノール等のアンモニウム化合物やアルカリ金属化合物等のアルカリ水溶液を上記溶液に加えてpHを調整すると良い。このpH調整によってインジウム錫複合物が沈殿する。沈殿物を生成させる反応時間は30分〜6時間程度であれば良い。
【0019】
上記沈殿化工程において、有機溶媒母液のpHを5〜8、好ましくはpH6〜7に調整するのが好ましい。pHが上記範囲よりも低いと沈殿物が生じない。一方、pHが上記範囲よりも高いと沈殿物は生成するが、次工程の加熱時に沈殿物が溶融し難く、粘性液を得ることができない。
【0020】
有機溶媒母液中で上記沈殿物を生成させる際に、この有機溶媒液を酸化処理し、さらにアルカリを添加してpH調整して沈殿物を生成させると良い。この酸化処理は、例えば5%オゾン−95%酸素のガスを上記有機溶媒液に吹き込んでバブリングさせれば良い。酸化剤として過塩素酸を用いても良い。
【0021】
有機溶媒母液を酸化処理しながらアルカリを添加してpH調整し上記沈殿物を生成させたものは、より短時間で沈澱を生成させることができ、しかも、この沈殿物を加熱溶融したときに透明性の高い液状(粘性液)のインジウム錫酸化物前駆体を得ることができる。
【0022】
上記沈殿物が生じた有機溶媒母液はこの沈殿物が分散した白濁溶液になる。これを遠心分離して上澄み液を除去し、次いでイオン交換水などを加えて洗浄し、更に遠心分離して上澄み液を除去する操作を繰り返して、残留する有機溶媒や塩素分などを除去する。上澄み液の電気伝導度が100μS/cm程度以下になるまで純水洗浄を繰り返すと良い。
【0023】
塩化インジウムおよび塩化錫などの塩化物を原料に用いて生成したインジウム錫複合沈殿物には僅かに塩素が残留している。純水洗浄を繰り返して塩素含有量を10mol%以下にするのが好ましい。塩素含有量がこれより多いと周辺材料に対して塩素の影響が強くなることが懸念されるので好ましくはない。塩素含有量が10mol%以下の沈殿物は、これを分離回収して低温加熱して融解したときに透明性の高い液状のインジウム錫酸化物前駆体を得ることができる。
【0024】
有機溶媒母液を分離して純水洗浄した沈殿物を、50〜100℃、好ましくは70℃〜80℃で加熱すると、乳白色の沈殿物が溶融(融解)して無色透明な粘性液体になる。具体的には、この前駆体は、例えば、透過率50%以上の透明性を有し、粘度0.5〜10000mPa・s程度であって、通常のゼリーやペーストよりは粘性が低い液状のインジウム錫酸化物前駆体である。これをインジウムスズ酸化物前駆体粘性液(ITO前駆体粘性液)と云う。なお、脱水するまで加熱すると固体粉末状になり、また50℃以下の加熱では溶融しないので、何れの場合にもITO前駆体粘性液を得ることができない。加熱時間は沈殿物が融解して無色透明な液状になるまで行えば良い。
【0025】
上記インジウム錫酸化物前駆体は、80℃で1時間乾燥後、XRD観察において水酸化インジウムのピークが観察される。なお、水酸化スズは結晶性が低いのでXRD観察では明確なピークは見られないが、示差熱分析等を併用することによって、水酸化インジウムと水酸化スズの複合沈殿物であることが確認できる。
【0026】
例えば、上記インジウム錫酸化物前駆体は、100℃〜400℃の加熱下において、TG/DTA曲線のDTAピークが少なくとも2つ以上、具体的には2つのピーク、または3つのピークが存在する熱履歴を示す。200℃〜300℃の範囲で生じる2つのピークは水酸化インジウムないし水酸化錫の脱水反応に起因するものと考えられる。また、塩素を含有するものは、300℃〜400℃の範囲に発熱ピークが見られる。これは塩素の脱離に起因するものと考えられる。
【0027】
上記インジウム錫酸化物前駆体を焼成することによってインジウム錫酸化物を形成することができる。例えば、粘性液または分散液の上記前駆体を基板に塗布し、焼成することによってインジウム錫酸化物膜を得ることができる。インジウム錫酸化物(In2-xSnx3)のインジウムとスズの割合(上記一般式のx)は有機溶媒母液に溶解するインジウム塩とスズ塩の量によって調整することができる。具体的には、例えば、一般式In2-xSnx3において、x=0.01〜0.25のインジウム錫酸化物を形成することができる。
【0028】
基板には特に限定されないが、通常、ITO膜は透明性を要求される分野に使用されるので、例えば、基板は無アルカリガラス等のガラス、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリアリールスルホン、ポリアリーレンスルフィドなどの透明な合成樹脂等からなる透明絶縁性基板を用いることができる。塗布方法は、焼成後の膜厚が所定の厚さになるように公知の方法を使用すれば良く、例えば、ディッピング法、スプレー法、スピンコート法、印刷法、コーター法、またはインクジェット法などを使用することができる。
【0029】
基板に塗布した上記ITO前駆体膜を乾燥し、大気中で、200℃以上、好ましくは250℃以上、さらに好ましくは300℃以上に焼成することによって、上記ITO前駆体が酸化されて、インジウム錫酸化物(ITO)の透明導電性薄膜を形成することができる。必要に応じて、焼成後さらに還元雰囲気で熱処理することによってさらに抵抗値を下げることができる。
【0030】
上記透明導電膜の面積抵抗値は、例えば、250℃で焼成した透明導電膜の面積抵抗率は108Ω/□前後であるが、300℃〜400℃で焼成した透明導電膜の面積抵抗率は概ね106〜107Ω/□であり、優れた導電性を有する。また、透明導電膜の可視光透過率は95%以上である。
【0031】
本発明の技術は、インジウムとスズの複合系に限らず、インジウム単独の系においても適用することができる。具体的には、インジウム塩を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒母液のpHを5〜8に調整し、好ましくは母液を酸化処理して上記pHに調整してインジウム含有沈殿物を生成させる。この沈澱物をインジウム酸化物前駆体として用いることができる。この沈澱物を母液から分離し、洗浄したものを基板に塗布し、例えば250℃以上で焼成すればインジウム酸化物膜を形成することができる。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
〔測定装置〕装置は以下に示すものを用いた。
X線回折装置:理学社製品(RINT2400)、TG/DTA測定装置:Seiko-Instruments社製品(SSC/5200)、FT−IR測定装置:Jasco社製品(FT-IR6100)、紫外可視分光光度計:Jasco社製品(V-550)、FE−SEM装置:日立製作所社製品(S-4500)
〔試薬〕試薬は以下に示すものを用いた。
塩化インジウム:ナカライテスク株式会社製品
二塩化スズ:ナカライテスク株式会社製品(特級塩化スズ(II)二水和物98%含有)
四塩化スズ:ナカライテスク株式会社製品(特級塩化スズ(IV)四水和物98%含有)
アンモニア水:ナカライテスク株式会社製品(特級アンモニア水28%)
エタノール:ナカライテスク株式会社製品(特級エタノール99.5%)
【0033】
〔実施例1〕
塩化インジウム(InCl3・2H2O)および塩化スズ(SnCl2・2H2O)をそれぞれエタノールに溶解して濃度0.05mol/Lの溶液を調製した。これらの溶液をIn2-xSnx3の組成式において、x=0.05〜0.25になるように混合した。このエタノール混合溶液(母液)にオゾン5%を含む酸素ガスを導入してバブリング処理を2時間行った。次いで、この混合エタノール溶液のpHが6.3〜6.8になるように濃度0.2mol/Lのアンモニアエタノール溶液を加え、ペースト状の沈殿物を生成させた。混合エタノール溶液は生成した沈殿物が分散して乳白色を示した。この沈殿物を含む溶液を遠心分離して上澄み液を除去し、さらにイオン交換水を加えて遠心分離する操作を2回繰り返して沈殿物を洗浄した。純水洗浄した沈殿物を回収し、空気中、80℃で乾燥し、無色透明の粘性液体を得た。この液体を常温まで冷した後、常温から900℃の温度範囲でTG/DTAを測定したところ、100℃〜400℃の範囲に3つのDTAピークを検出した。(図2)
【0034】
上記ペーストをガラス基板表面にスピンコートによって塗布した後に、おのおの200℃で8時間、350℃で3時間焼成して基板表面に薄膜を形成した。この薄膜のX線回折結果を図3に示した。図3に示すように、200℃で焼成したものは酸化インジウムのピークが生じており、この焼成温度でインジウム錫酸化物膜が形成されていることがわかる。350℃で焼成したものは、酸化インジウムのさらに大きなピークが生じており、さらに結晶性の高いインジウム錫酸化物膜が形成されていることが確認された。
【0035】
また、上記塗膜を250℃〜400℃で焼成して基板表面に薄膜を形成した。この薄膜の面積抵抗率を4探針法によって測定した、この結果を図4に示した。図4に示すように、250℃で焼成した透明導電膜の面積抵抗率は108Ω/□前後であるが、300℃〜400℃で焼成した透明導電膜の面積抵抗率は概ね106〜107Ω/□であり、優れた導電性を有する。また、350℃で焼成して形成した薄膜について可視光の透過率を測定したところ95%であった。
【0036】
〔実施例2〕
実施例1において塩化錫を(SnCl4・5H2O)に代えた以外は同様にして有機溶媒母液を調製した。これらの溶液をIn2-xSnx3の組成式において、x=0.05〜0.25になるように混合した。このエタノール混合溶液(母液)にオゾン5%を含む酸素ガスを導入してバブリング処理を2時間行った。次いで、この混合エタノール溶液のpHが6.3〜6.8になるように濃度0.2mol/Lのアンモニアエタノール溶液を加え、ペースト状の沈殿物を生成させた。混合エタノール溶液は生成した沈殿物が分散して乳白色を示した。この沈殿物を含む溶液を遠心分離して上澄み液を除去し、さらにイオン交換水を加えて遠心分離する操作を2回繰り返して沈殿物を洗浄した。この純水洗浄した沈殿物を回収し、空気中、80℃で乾燥し、無色透明の粘性液体を得た。この液体を常温まで冷した後、常温から900℃の温度範囲でTG/DTAを測定したところ、100℃〜400℃の範囲に3つのDTAピークを検出した。(図5)
【0037】
上記ペーストをガラス基板表面にスピンコートによって塗布した後に、おのおの200℃で8時間、350℃で3時間焼成して基板表面に薄膜を形成した。この薄膜のX線回折結果を図6に示した。図6に示すように、200℃で焼成したものは酸化インジウムのピークが生じており、この焼成温度でインジウム錫酸化物膜が形成されていることがわかる。350℃で焼成したものは、酸化インジウムのさらに大きなピークが生じており、さらに結晶性の高いインジウム錫酸化物膜が形成されていることが確認された。
【0038】
また、上記塗膜を250℃〜400℃で焼成して基板表面に薄膜を形成した。この薄膜の面積抵抗率を4探針法によって測定した、この結果を図7に示した。図7に示すように、250℃で焼成した透明導電膜の面積抵抗率は108Ω/□前後であるが、300℃〜400℃で焼成した透明導電膜の面積抵抗率は概ね106〜107Ω/□であり、優れた導電性を有する。また、350℃で焼成して形成した薄膜について可視光の透過率を測定したところ95%であった。
【0039】
〔実施例3〕
実施例1においてオゾンに代えて過塩素酸を用いた以外は同様にして有機溶媒母液を調製した。次いで、この混合エタノール溶液(母液)のpHが6.3〜6.8になるように濃度0.2mol/Lのアンモニアエタノール溶液を加え、ペースト状の沈殿物を生成させた。混合エタノール溶液は生成した沈殿物が分散して乳白色を示した。この沈殿物を含む溶液を遠心分離して上澄み液を除去し、さらにイオン交換水を加えて遠心分離する操作を2回繰り返して沈殿物を洗浄した。この純水洗浄した沈殿物を回収し、空気中、80℃で乾燥し、白濁不透明な粘性液体を得た。この液体を常温まで冷した後、常温から900℃の温度範囲でTG/DTAを測定したところ、100℃〜400℃の範囲に3つのDTAピークを検出した。
【0040】
〔実施例4〕
実施例1においてオゾン含有酸素によるバブリングを行わない以外は同様にして有機溶媒母液を調製した。次いで、この混合エタノール溶液(母液)のpHが6.3〜6.8になるように濃度0.2mol/Lのアンモニアエタノール溶液を加え、ペースト状の沈殿物を生成させた。混合エタノール溶液は生成した沈殿物が分散して乳白色を示した。この沈殿物を含む溶液を遠心分離して上澄み液を除去し、さらにイオン交換水を加えて遠心分離する操作を2回繰り返して沈殿物を洗浄した。この純水洗浄した沈殿物を回収し、空気中、80℃で乾燥し、白濁した粘性液体を得た。この液体を常温まで冷した後、常温から900℃の温度範囲でTG/DTAを測定したところ、100℃〜400℃の範囲に3つのDTAピークを検出した。
【0041】
〔実施例5〕
実施例1で塩化錫を用いない以外は同様にして有機溶媒母液を調製し、In(OH)3を含有する沈殿物を生成した。この沈殿物を含む溶液を遠心分離して上澄み液を除去し、さらにイオン交換水を加えて遠心分離する操作を2回繰り返して沈殿物を洗浄した。この純水洗浄した沈殿物を回収し、空気中、80℃で乾燥し、無色透明の粘性液体を得た。この液体を常温まで冷した後、常温から900℃の温度範囲でTG/DTAを測定したところ、100℃〜400℃の範囲に1つのDTAピークを検出した。(図8)
【0042】
〔比較例1〕
塩化インジウム(InCl3・2H2O)および塩化錫(SnCl4・5H2O)を混合し、純水に溶解して母液を調製した。これらの溶液をIn2-xSnx3の組成式において、x=0.05〜0.25になるように混合した。この水溶液にpHが8.0〜10.0になるように濃度0.2mol/Lのアンモニア水溶液を加え、80℃で24時間かけ還流攪拌を行ない沈殿物を生成させた。混合水溶液は生成した沈殿物が分散して乳白色を示した。この沈殿物を含む溶液を遠心分離して上澄み液を除去し、さらにイオン交換水を加えて遠心分離する操作を2回繰り返して沈殿物を洗浄した。この純水洗浄した沈殿物を回収し、空気中、80℃で乾燥したところ白色の粉末となり、粘性液体は得られなかった。
【0043】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の製造方法を示す工程図
【図2】実施例1のTG/DTAチャート
【図3】実施例1の基板表面薄膜のX線回折チャート
【図4】実施例1のITO薄膜の面積抵抗率グラフ
【図5】実施例2のTG/DTAチャート
【図6】実施例2の基板表面薄膜のX線回折チャート
【図7】実施例2のITO薄膜の面積抵抗率グラフ
【図8】実施例5のTG/DTAチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム塩とスズ塩を溶解した有機溶媒母液中で生成したインジウム錫複合沈殿物からなることを特徴とするインジウム錫酸化物前駆体。
【請求項2】
インジウム塩とスズ塩を溶解した有機溶媒母液中で生成したインジウム錫複合沈殿物を上記母液から分離して洗浄したものである請求項1のインジウム錫酸化物前駆体。
【請求項3】
請求項2に記載する母液から分離して洗浄したインジウム錫複合沈殿物を分散させたインジウム錫酸化物前駆体分散液。
【請求項4】
請求項2に記載する母液から分離して洗浄したインジウム錫複合沈殿物を100℃未満で加熱溶融してなるインジウム錫酸化物前駆体粘性液。
【請求項5】
請求項4に記載する透過率50%以上の透明なインジウム錫酸化物前駆体粘性液。
【請求項6】
塩素含有量が10mol%以下である請求項1〜5の何れかに記載するインジウム錫酸化物前駆体。
【請求項7】
100℃〜400℃の加熱下において、TG/DTA曲線のDTAピークが少なくとも2つ以上存在する熱履歴を示す請求項1〜6の何れかに記載するインジウム錫酸化物前駆体。
【請求項8】
インジウム塩とスズ塩を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒母液のpHを5〜8に調整してインジウム錫複合沈殿物を生成させることを特徴とするインジウム錫酸化物前駆体の製造方法。
【請求項9】
請求項8の製造方法において、インジウム塩とスズ塩を溶解した有機溶媒母液を酸化処理し、さらにpHを5〜8に調整してインジウム錫複合沈殿物を生成させるインジウム錫酸化物前駆体の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9の製造方法において、インジウム錫複合沈殿物を、母液から分離して純水洗浄し、さらに100℃未満で加熱溶融してインジウム錫酸化物前駆体粘性液を製造する方法。
【請求項11】
請求項8〜10の何れかに記載する製造方法において、インジウム錫複合沈殿物を母液と共に遠心分離して上澄み液を除去し、さらにイオン交換水を加えて洗浄し、これを遠心分離して上澄み液を除去する操作を繰り返し、上澄み液の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで純水洗浄を繰り返した後に、該沈殿物を100℃未満で加熱溶融してインジウム錫酸化物前駆体粘性液を製造する方法。
【請求項12】
請求項1〜7の何れかに記載するインジウム錫酸化物前駆体を用いて形成したインジウム錫酸化物膜。
【請求項13】
請求項1〜7の何れかに記載するインジウム錫酸化物前駆体を基板に塗布し、乾燥後、200℃以上に焼成してインジウム錫酸化物膜を製造する方法。
【請求項14】
請求項12のインジウム錫酸化物膜によって形成された透明導電膜。
【請求項15】
インジウム塩を溶解した有機溶媒母液中で生成したインジウム含有沈殿物を上記母液から分離して洗浄してなるインジウム酸化物前駆体。
【請求項16】
インジウム塩を有機溶媒に溶解し、この有機溶媒母液のpHを5〜8に調整してインジウム含有沈殿物を生成させるインジウム酸化物前駆体の製造方法。
【請求項17】
請求項15のインジウム酸化物前駆体を用いて形成したインジウム酸化物膜。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−225256(P2006−225256A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10406(P2006−10406)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】