説明

インジウム錫酸化物

インジウム錫酸化物(ITO)を製造する方法と、かかる酸化物自体が記載される。この方法は低温法を利用し、ここでは、随時有機ポリマーの存在下で、硫酸インジウム、硫酸アンモニウム、および錫化合物の水性組成物が凍結されて固体を生成し、固体は加熱により調整して固体中の水の結晶化を引き起こし、例えば凍結乾燥により水が除去され、次に固体がか焼される。生成したITOは、2未満の表面錫濃縮と他の好ましい性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合金属酸化物に関し、特に、排他的にではないが酸r化錫インジウム(ITO)の製造とかかる酸化物自体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明の伝導性酸化物(TCO's)(このうちITOが最も重要である)は基本的に可視光線に対して透過性であるが、有用な電気伝導性を有する。一般にTCO's特にITOを使用して、多くの性質(帯電防止、さび止め/腐食防止、電界/電磁波遮蔽、UV遮蔽、反射防止、低反射性、縞むら防止、改良された耐引っかき性、硬度、化学耐性、および耐候性を含む)のうちの1つ以上を有する、透明のおよび/または導電性フィルム、コーティング、塗料、および接着剤を作成することができる。インジウム錫酸化物が有用である応用には、プリント電極パターン、ディスプレイ装置、LCディスプレイ、タッチスクリーン、エレクトロルミネセンス(EL)ランプ、EMI遮蔽窓、ブラウン管、建築物の窓、可撓性および剛性膜スイッチディスプレイ、太陽電池、PDP(パーソナルディスプレイ装置)、およびガラス安全センサーがある。
【0003】
製造環境でITO(または任意のTCO)の沈着のために特に選択される技術は、2つ以上のまたはセラミック標的と注意深く制御した雰囲気とを組合せたd.c.マグネトロンスパッタリングである。商業的には、真空回転法でポリエステルシートをコーティングするのに多量のITOが使用されている。これはしばしば、EL-ランプディスプレイの上面導電性電極として使用される。これらは典型的には、50〜500Ω/□のシート抵抗と80〜90%の透明度を有する。しかし基板の選択にはるかに大きな範囲を与える透明の導電層を沈着させる代替方法がある。この技術は、実質的に任意の基板上に層を成して装置を作成するために例えばスクリーン印刷を使用する機能性インクに基づく。従って、結合剤/溶媒系に顔料を取り込むことができるTCOに対する要求があり、これは次に、基板上に印刷され乾燥されて、所望の電気的および光学的性質を有するフィルムを与える。
【0004】
TCOに対する要件は、大きなバンドギャップ(>3eV)と、プラズマエッヂが赤外線中に存在することを確実にする伝導帯の形である。典型的にはホストの構造が、非化学量論とアリオバレント(alie-valent)の組合せにより多数の縮退キャリアーの導入を可能にする。多くのTCO(p型とn型の両方)が知られているが、ITO(n型)が最適な組合せの性質を有すると考えられ、合成が比較的容易である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
商業的にはITOの製造には種々の公知の方法がある。しかし製造されるITOは比較的高価である。さらにいくつかの用途では、現在利用できるものとは異なる性質を有するITOが好ましい場合がある。
【0006】
本発明の目的は上記問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様において:
(a) 溶媒を含む液体組成物から固体を生成させ(ここで組成物は
(i) インジウム化合物、錫化合物、および硫酸アンモニウム;または
(ii) (NH4)In(SO4)2と錫化合物、を含む);
(b) 固体を調整し;
(c) (b)で製造した固体から溶媒を除去し;
(d) 工程(c)後の固体をか焼してITOを製造する、
工程を含むITOの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
工程(a)の液体組成物は好ましくは水性組成物である。すなわち該組成物は好ましくは、多量の水を溶媒として含む。
【0009】
本明細書において「多量」は、少なくとも70重量%、適切には少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%、特に少なくとも99重量%の特定の物質が存在することを意味する。
【0010】
工程(a)の溶媒は好ましくは基本的に水からなる。
【0011】
工程(a)の液体組成物は、該固体を生成する前は、好ましくは0℃より高い温度、さらに好ましくは5℃より高い温度、特に周囲温度である。
【0012】
工程(a)は好ましくは、液体組成物を適切には液体組成物の凝固点またはそれ以下の温度まで冷却させることを含む。適切には液体組成物は、-25℃未満の温度、好ましくは-50℃未満、さらに好ましくは-100℃未満、特に-150℃未満の温度である低温環境に導入される。該環境は周囲圧力でもよい。
【0013】
該環境は、記載の温度で低沸点液体を含んでよい。該低沸点液体は好ましくは組成物のどの部分についても不活性および/または非反応性である。該液体は好ましくはSTPでガス状である物質を含む。該液体は好ましくは、液体窒素、例えば沸騰液体窒素を含む。
【0014】
工程(a)では、該液体組成物から好ましくは固体の粒子が生成される。工程(a)で生成され工程(b)で処理された、適切には10重量%未満、好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは1重量%未満の粒子、特に実質的にゼロの粒子が、粒子サイズ100μm未満である。好ましくは多量の該粒子は、100μm〜2mmの範囲である。あるいは、平均サイズが約100μmを有する粒子を工程(a)で製造することができるが、粒子サイズが小さいと以後の工程で材料の喪失/取り扱いの困難さを引き起こすため、かかる粒子サイズ分布はあまり好ましくない。
【0015】
該液体組成物を該低温環境に噴霧することにより、工程(a)で該粒子が生成される。該低圧環境(例えば、該低沸点液体)は、一端が閉じた容器内に含有されるか、またはそこで液体組成物が該低沸点液体の向流中に噴霧されるカラムを画定してもよい。次に粒子は適切な方法で単離される。例えば低沸点液体により該低温環境が与えられる時、液体をデカントすることにより粒子が分離されるか、または粒子はろ過されて分離が達成される。
【0016】
該液体組成物中の該インジウム化合物中のインジウムイオンのモル数と該錫化合物中の錫イオンのモル数の比は、5〜50、好ましくは10〜40、さらに好ましくは15〜30、特に18〜23が適切である。
【0017】
該組成物中の該アンモニウム化合物(例えば硫酸アンモニウムまたは硫酸アンモニウムインジウム)中のアンモニウムイオンのモル数と該錫化合物中の錫イオンのモル数の比は、5〜50、好ましくは10〜40、さらに好ましくは15〜30、特に18〜23が適切である。
【0018】
好ましくは組成物は(a)(i)の材料を含む。この場合該インジウム化合物中のインジウムイオンのモル数と該硫酸アンモニウム中のアンモニウムイオンのモル数の比は、0.6〜1.5、好ましくは0.8〜1.3、特に0.9〜1.1が適切である。またこの場合この場合該錫化合物中の錫イオンのモル数と該硫酸アンモニウム中のアンモニウムイオンのモル数の比は、0.01〜0.1、好ましくは0.02〜0.08、特に0.03〜0.07が適切である。
【0019】
工程(a)(i)の該液体組成物は、少なくとも0.4重量%の該錫化合物(好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは3重量%未満)、少なくとも2重量%の硫酸アンモニウム(好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは7重量%未満)、少なくとも10重量%の該インジウム化合物(好ましくは30重量%未満、さらに好ましくは25重量%未満、特に20重量%未満)、および少なくとも60重量%の溶媒(特に水)(および好ましくは80重量%未満、さらに好ましくは70重量%未満)を含む。
【0020】
工程(a)(ii)の該液体組成物は、少なくとも0.4重量%の該錫化合物(好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは3重量%未満)、少なくとも12重量%の(NH4)In(SO4)2(好ましくは35重量%未満、さらに好ましくは30重量%未満、特に25重量%未満)、および少なくとも60重量%の溶媒(特に水)(および好ましくは80重量%未満、さらに好ましくは70重量%未満)を含む。
【0021】
工程(a)(i)または(a)(ii)で使用される該錫化合物は、好ましくはSn(II)化合物である。これは硫酸錫(II)またはフッ化錫(II)でもよい。好ましくはこれは硫酸錫(II)である。
【0022】
該液体組成物が2種類以上のインジウム化合物または2種類以上の錫化合物を含む場合、上記の量/比は好ましくは、適宜該化合物のインジウムおよび錫イオンの量の合計を意味する。しかし好ましくは、該液体組成物は1種類のみのインジウム化合物および1種類のみの錫化合物を含む。
【0023】
好ましくは工程(a)(i)のインジウム化合物および硫酸アンモニウムは、(NH4)In(SO4)2を生成するように調整される。すなわち(a)(i)の化合物は、これらの間で接触および/または反応すると、(a)(ii)の化合物を生成される。
【0024】
第1の態様の方法は、製造されるITOに取り込まれる酸素の量を適切に減少させるために、この方法で生成される酸素をスカベンジおよび/または反応するように適切に構成された酸素スカベンジ手段の存在下で行われる。後述するように酸素はITO中の酸素空孔を充填し、従ってITOの伝導帯から電子を排除し、こうして伝導度を低下させる。
【0025】
該スカベンジ手段は好ましくは化学的手段であり、例えばこの方法で生成される分解生成物、特に工程(d)で生成されるかかる生成物と反応することができる化合物である。かかる生成物は、工程(a)の該組成物に含まれる化合物の分解により生成される。工程(d)で適切に生成される該スカベンジ手段またはその分解産物は、工程(a)の該組成物に含まれる化合物の分解により生成される生成物または中間体と共有結合を形成する。
【0026】
工程(a)の該組成物に含まれる化合物が硫酸インジウム化合物(適宜)を含む時、該スカベンジ手段は好ましくは、工程(d)に存在する硫酸塩分解物の生成物をスカベンジするように調整される。工程(d)の方法が空気中で行われる場合、該スカベンジ手段はまた空気中の酸素と反応することがある。
【0027】
該スカベンジ手段は、工程(d)で生成される分解産物からSO2を生成するように調整される。
【0028】
該スカベンジ手段は、工程(d)で生成される分解産物からCO2を生成するように調整される。
【0029】
該スカベンジ手段は、工程(d)で生成される分解産物からH2Oを生成するように調整される。
【0030】
該スカベンジ手段は工程(d)で分解するように構成されることが適切である。すなわちその分解温度は好ましくは、工程(d)でか焼が行われる温度より低い。
【0031】
該組成物中のスカベンジ手段の量は、硫酸インジウムの分解産物を酸化インジウムに完全に還元するのに必要な量の0.9〜2倍でもよい。この量は、上記の必要量の1.1〜1.8倍、好ましくは1.3〜1.7倍、さらに好ましくは1.4〜1.6倍、特に約1.5倍でもよい。
【0032】
スカベンジ手段の量は、該組成物中の硫酸インジウムのモル当量の0.9〜2倍でもよい。この量は、上記量の1.1〜1.8倍、好ましくは1.3〜1.7倍、さらに好ましくは1.4〜1.6倍、特に約1.5倍でもよい。
【0033】
該スカベンジ手段はポリマー材料であることが適切であり、好ましくは有機ポリマー材料である。該ポリマー材料は好ましくは、炭素原子、水素原子、酸素原子、および窒素原子のみから選択される原子からなる繰り返し単位を含む。該繰り返し単位は好ましくは、上記原子からなる。
【0034】
該ポリマー材料は好ましくは、5000〜100000amuの範囲、さらに好ましくは5000〜50000amuの範囲の分子量を有する。
【0035】
該ポリマー材料は好ましくは、少なくとも25℃、好ましくは少なくとも75℃、さらに好ましくは少なくとも125℃のTgを有する。Tgは400℃未満、好ましくは200℃未満である。
【0036】
該ポリマー材料は好ましくは水溶性である。好ましくは25℃の水中で少なくとも20重量%、さらに好ましくは少なくとも40重量%、特に少なくとも50重量%の該ポリマー材料水溶液を製造することができる。
【0037】
該ポリマー材料は好ましくは、25℃で完全に水を混和性である。
【0038】
該ポリマー材料は好ましくは、25℃で0.25モルの硫酸インジウム溶液に完全に可溶性である。
【0039】
該ポリマー材料は、繰り返し単位に-NH2成分を含有してもよい。該ポリマー材料は好ましくは、繰り返し単位中にアミド成分を含有してもよい。該ポリマー材料は好ましくはアクリルアミドである。
【0040】
この方法の工程(a)の該液体組成物は、好ましくはスカベンジ手段を含む。
【0041】
該スカベンジ手段は好ましくは、方法の工程(a)の処理のために選択された該液体組成物中に溶解される。工程(a)の処理のために選択された工程(a)(i)と(ii)の各化合物は、好ましくは該液体組成物中の溶液中である。
【0042】
工程(a)(i)と(ii)の該液体組成物は、該ポリマー材料の少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%(および好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは年4重量%未満)を含む。
【0043】
工程(a)で使用される該液体組成物は、好ましくは実質的に均一である。
【0044】
工程(a)で製造される固体は、(a)(i)または(ii)の化合物、好ましくは(NH4)In(SO4)2、場合によりスカベンジ手段、および凍結溶媒、特にまず工程(a)の該液体組成物中に含まれる水、を含むことが適している。
【0045】
該調整工程(b)において固体の一部は好ましくは、変化、例えば物理的変化を受ける。好ましくは工程(b)において固体の結晶性が変化する。好ましくは調整は、該固体の少なくともある成分の結晶性を上昇させるように構成される。好ましくは調整は、溶媒(特に水)の結晶性を上昇させるように構成される。まず他の成分と混合した溶媒は、比較的に非晶質状態でもよい。調整は好ましくは、その結晶性を変化させるように構成される。好ましくは該溶媒は、該調整後は実質的に結晶性である。該調整は、該固体の失透(devitrification)を含んでよい。
【0046】
工程(b)は、固体の温度を上げる(適切には少なくとも5℃、好ましくは少なくとも10℃)ことを含む。好ましくは工程(a)で固体が受ける最低温度と工程(b)で受ける最高温度の差は少なくとも50℃、好ましくは少なくとも100℃である。好ましくは調整は、工程(a)で製造される固体の温度を上げること;および上げた温度で固体を少なくとも5分間、好ましくは少なくとも15分間、さらに好ましくは少なくとも25分間維持することを含む。工程(b)は温度を段階的に上げることを含む。これは、第1の温度に上昇させ、その温度で維持し、次に第2の温度に上昇させ、その温度で維持する。好ましくは工程(b)において固体により達成される最大温度は0℃未満、さらに好ましくは-10℃未満、特に-20℃未満である。
【0047】
工程(b)は好ましくは固体を焼きなますことを含む。
【0048】
工程(c)は、溶媒の蒸発、好ましくは昇華を引き起こすことを含む。この工程は好ましくは、エネルギー(例えば熱)を加えて、溶媒の蒸発の潜熱を提供することを含む。
【0049】
工程(c)は好ましくは周囲圧力以下で行われる。これは、100Pa未満、好ましくは50Pa未満、さらに好ましくは20Pa未満で、適切には真空中で行われる。工程(c)は10〜20Paで行われてもよい。
【0050】
工程(c)は適切には、5℃より高い、好ましくは15℃より高い、さらに好ましくは20℃より高い保存温度で行われる。工程(c)は好ましくは、80℃未満、さらに好ましくは60℃未満の保存温度で行われる。
【0051】
工程(c)は、工程(b)の固体の温度を、適切には徐々にかつ真空中で上げ;固体を高温で、適切には少なくとも1時間維持し、温度をさらに上げて固体を高温に、適切には1時間、好ましくは少なくとも10時間維持することを含む。好ましくは工程(c)後に、固体は1重量%未満の溶媒を含むか、さらに好ましくは実質的にほとんど溶媒(例えば水)を含まない。
【0052】
工程(d)は好ましくは、温度が好ましくは少なくとも400℃、好ましくは少なくとも600℃、さらに好ましくは少なくとも800℃である環境に固体を付すことを含む。温度は1200℃未満、好ましくは1000℃未満でもよい。適切には固体は、400℃〜1200℃(さらに好ましくは800℃〜1000℃)の範囲の温度で、少なくとも10分間、好ましくは少なくとも20分間付される。これは好ましくは、上記範囲内の温度に1時間未満維持される。
【0053】
好ましくは固体は不活性気体雰囲気(例えば窒素雰囲気)中でか焼される。
【0054】
この方法で製造されるITOは好ましくは、30体積%未満の比率、さらに好ましくは25体積%未満の比率で測定される時、0.1〜0.5Ω.cm、さらに好ましくは0.2〜0.5Ω.cmの範囲の粉末比抵抗を有する。BET表面積は、35m2/g未満、適切には30m2/g未満、好ましくは25m2/g未満、さらに好ましくは20m2/g未満、特に17m2/g未満でもよい。BET表面積は少なくとも10m2/gでもよい。
【0055】
この方法で製造されるITO粉末の表面のX線電子分光法(XPS)により、錫とインジウムはより均一に分布され、錫とインジウムが完全に均一に分布したITOの濃度の理論的表面と比較して表面の錫濃度は比較的小さな上昇となることが観察されており、有利である。
【0056】
すなわち本発明の第2の態様において、バルクの錫の単位体積当たりのモル濃度の2倍を超えない単位体積当たりのモルの表面錫濃度を有するITO粉末が提供される。
【0057】
表面の錫濃度は好ましくはXPSにより測定される。これは適切には、表面の測定された錫濃度と公称的には組成物中の錫濃度の比を意味する。表面の錫濃度は、1.7以下、適切には1.6以下、好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.4以下、特に1.35以下である。
【0058】
ITO粉末は微量のイオウを含有してもよい。これはXPSにより測定される。イオウの量は少なくとも0.1モル%、少なくとも0.5モル%、またはさらには少なくとも1モル%である。XPSにより測定される表面のイオウの量は、好ましくは3モル%未満、さらに好ましくは2モル%未満、特に1.5モル%未満である。
【0059】
第2の態様のITOは、第1の態様で記載したITOの任意の特徴を有する。
【0060】
本明細書に記載のITOを解析する他の方法は、実施例9に記載のように測定される濃化度である。すなわち第3の態様において本発明は、表面錫濃化度が70%未満、適切には60%未満、好ましくは50%未満、さらに好ましくは40%未満、特に35%未満を有するITO粉末を提供する。
【0061】
第3の態様のITOは、第1および第2の態様のITOの任意の特徴を有する。
【0062】
本発明は、任意の上記態様に記載のITOを含む塗料、インクまたは樹脂を包含する。
【0063】
本発明の方法により作成されるかまたは前記の任意の態様で定義されるITOの具体的な応用は、種々の光学的表示装置(エレクトロルミネセンス(EL)ランプを含む)である。ELランプは、薄い電気的に安定な多層装置であり、これは一般に、前電極と後電極、および電極層の間に位置する蛍光体と誘電体層からなる。前電極は、スクリーンまたはロータリースクリーン印刷された実際の導電性基板であり、ポリエステルフィルム上にITOを含む。初期のELランプではプレートはガラスとセラミックからなっていたが、現在薄いプラスチック膜に進化して一般に使用されている。ELランプの多層構造は、蛍光体に電圧を印加して発光させるように電界作用を発生させるために、交流で蛍光体が励起されることが必要である。蛍光体により生成する光を逃がすことができるように、ITOを含有する前電極は少なくとも半透明でなければならない。ELランプは広範な用途で使用され、例えば時計、ポケットベル(登録商標)、膜キーボード、スポーツシューズ、安全チョッキ、ポイントオブセール看板、乗り物、航空機、および軍事装置がある。
【0064】
従って本発明はまた、本発明の方法により作成されたITO、または前記の任意の態様に記載されたITOを含むエレクトロルミネセンスランプを包含する。
【0065】
本明細書の任意の態様または本明細書に記載の実施態様の任意の特徴は、他の発明または必要な変更を加えた本発明の実施態様の任意の特徴と組合わされる。
【0066】
本発明の具体例を、図面を参照して以下に説明する。
【0067】
スクリーン印刷インクで使用される透明性の高い低比抵抗性のインジウム錫酸化物(ITO)粉末を合成するのに、低温処理または凍結乾燥法が使用される。広い意味でこの方法は、この方法中でITOを生成するように改変した塩を含む均一な前駆体水溶液を、液体窒素または冷気体中に噴霧して生成する小滴を迅速に凍結させることを含む。小滴は焼なましにより調整され、次に凍結乾燥し昇華により凍結した氷を除去して、前駆体の塩の分子混合物を乾燥粉末として残す。次にこの混合物を熱処理して、所望の混合金属酸化物ITOに変換させる。
【0068】
この方法は、図1の要約を参照して以下に詳述する。
【0069】
方法の工程(A)について選択される前駆体塩は、水中で高い溶解度を有し;従来の保存温度(0-50℃)と圧力(100〜500mbar)で工程(D)で凍結乾燥でき;工程(E)でか焼されて、溶融[これは凍結(工程(B))と焼なまし(工程(C))方法中に生成した構造を破壊するであろう]することなくITOを生成できなければならない。InCl3、In(NO3)3、およびIn2(SO4)3のようなインジウム塩単独では、約-30℃より高い温度で乾燥されると崩壊してしまい(構造中の水の液化のために)、その使用が時間のかかる高価なものになってしまう。しかし、工程(A)の水性組成物に硫酸アンモニウムを添加すると、(NH4)In(SO4)2の溶液が生成し、これは所望の温度で妥当な時間スケールで凍結乾燥することができることがわかっている。すなわち工程(A)の製造において、インジウム塩、特にスルホン酸インジウム (NH4)In(SO4)2とともに硫酸アンモニウムを含めることによりインジウム化合物が提供される。
【0070】
同様に高原子価の錫(例えばSnCl4)は凍結乾燥中に崩壊し易く、さらにハロゲン化物の使用は工程(E)中の炉の腐食の可能性があり好ましくない。錫添加物は、前駆体としてSnSO4を使用することによりうまく導入することができる。それほど好適ではない代替物はフッ化錫(II)(SnF2)である。
【0071】
好適な実施態様において工程(A)で使用される組成物は、In2(SO4)3と硫酸アンモニウム(これはIn(NH4)(SO4)2を生成する)とをSnSO4とともに含む。
【0072】
工程(B)において、工程(A)で製造された組成物は液体窒素中に噴霧され、ここで液滴が急速に凍結されて、氷の結晶とともに小さな充分混合された前駆体塩の粒子が得られる。上記の低温処理は、基本的に相転換を使用して微細構造を生成する。この方法の主要な工程を図2に示す。相分離の駆動体として、高過冷却が使用される。従って主要な特徴は、粒子の作成が化学または混合によっては支配されず、再現性があり制御の容易な温度や冷却速度により支配されることである。最終的に完全な凍結により、出発前駆体の均質混合物(通常は分子レベル)である新しい固相が形成される。これは次に、顕微鏡レベルで氷の結晶と混合されて微細構造が形成される。異なるレベルでのこの混合により最終的に、他の公知の方法により作成されたITOとは異なるITOが形成される。
【0073】
上記したように一部の塩は、工程(D)で凍結乾燥されると崩壊し、これは、次に製造される粒子を再分散することが困難になるため好ましくない。崩壊の原因は、工程(B)の凍結中に氷のすべてまたは一部が結晶化せずに、透明なガラスを生成するためである。その結果凍結乾燥中に、凍結構造が液化して分解し、前駆体の塩により生成された構造が崩壊する点に達する。
【0074】
崩壊のリスクを避けるために、工程(C)を行い、ここで工程(B)で製造された凍結粒子は、凍結粉末を-30〜-20℃の温度で30分〜2時間調整する低温焼なましに付される。焼なましの温度が高いほど、焼なまし時間が短くなる。等温DSCが凍結粒子のガラス部分の結晶化を引き起こし、ここで水が氷に変換されることが証明されており、おそらく(必ずではないが)溶質の再結晶化が起きる。この転移は、失透(devitrification)と呼ばれ、-35〜-20℃の範囲の温度で発生し、熱の放出を伴う。失透により、凍結粒子のガラス部分から水が除去され、その結果凍結粒子のTgが上昇し、崩壊無しに工程(D)での氷の昇華が可能になる。
【0075】
それほど好ましい実施態様ではないが、ある代替法では工程(b)の凍結粒子を低温で長時間保存する。しかし熱力学的に水の結晶化は促進されるが、動力学的には低温では非常に遅い。
【0076】
工程(D)では、新たに作成された形を破壊することなく凍結した結晶水が除去される。これは、凍結乾燥(lyopholisation)(工学的には凍結乾燥(freeze-drying))と呼ばれる方法により溶媒相の昇華により行われる。液体中間体を経由することなく溶媒相を直接蒸気に変換することにより、固相の破壊が最小になり、すなわち毛細管圧と二次成長が避けられる。この正味の結果は、固相の形のほとんど完全な保持である。
【0077】
凍結乾燥は、0〜50℃の範囲の温度と100〜500mbarの範囲の圧力で行われる。一般に凍結乾燥は、処理される物質が溶融(凍結乾燥温度が高すぎる場合に起きることがある)しない条件下で行われる。
【0078】
工程(E)では、凍結乾燥されたIn(NH4)(SO4)2/SnSO4材料は、800〜1000℃の範囲の温度で周囲圧力で炉中でのか焼を含む熱処理に付される。In(NH4)(SO4)2の熱分解は、3工程で起きることがDSCにより証明されている。最初の工程は100℃より低温で開始し200℃までに完了し、結合水の除去を含む。次に300℃で、硫酸アンモニウムの熱分解が始まり、これは3工程方法のようであり、この方法は600℃までに完了する。700℃では硫酸インジウムの分解が始まり、800℃までに完了する。分解により、三酸化イオウ、二酸化イオウ、および酸素とともに立方体相の酸化インジウムが生成すると考えられている。図3に示すように気体界面を介して、記載の固体−固体変換が進むと考えられる。
【0079】
硫酸錫(II)の場合、350℃でDSCが相転移(これは結晶構造の変化であると考えられる)を証明する。熱分解は490℃で急激に起き、これは以下の式に従うと考えられる:
SnSO4(s) → SnO2(s)+SO2(g)
すなわち、完全な分解には800℃を超えるか焼温度が必要である。物質のか焼は、溶融無しで行うことができる。
【0080】
か焼後、SnO2によりXRD線またはパターンは無くなり、酸化インジウムの正常なXRDパターンがわずかにずれており、インジウムの代わりに一部錫が格子に入ったことを示す。混合酸化物の色は、錫が添加されていない時の酸化インジウムの鮮黄色ではなく薄い緑色である。すなわちこれは、インジウム錫酸化物の合成の確認となる。
【0081】
In3+より原子価の大きい金属(すなわちSn4+)を酸化インジウム格子に加えると、KrogerとVink表記法を使用して以下に例示されるように荷電の中和により電子が系に導入される:
SnO2 + Inxin → Snin + In2O3 + e'
価電子帯が充填されると、電子は伝導帯(cb)に入る。従ってインジウム錫酸化物は本質的なn型半導体であり、より多くの添加はより高い伝導性を引き起こす。
【0082】
図4(a)はIn2O3の構造を示し、これはC2希土類型構造であり、図4(b)はSn4+イオンの2つのIn3+イオンによる置換を示す。
【0083】
図4に示すように酸素空孔の存在のために、以下の式(および図4(c)、ここで酸素空孔の1つはO2-により充填されている)に示すように、か焼工程(E)では生成された分子酸素(図3を参照)が空孔を充填することができるため、より多くの添加が伝導度を上昇させることは避けられず、方法の伝導帯から電子が除去される
O2(g) + 4e' + 2VxO → 2O"O
その結果、多くの錫が添加されているが、比較的電気的性質が小さい(本明細書に記載のように製造される他の物質と比較して)酸化インジウムを製造することができる。
【0084】
この問題は、以下の式
SO3 → SO2 + 1/2O2
により硫酸塩の分解から生じる過剰の酸素と反応することができる酸素スカベンジ物質を、工程(A)で使用される組成物中に取り込むことにより解決される。このために選択された候補は水溶性ポリマーであった。これは、工程(A)で製造された前駆体溶液と容易に混合することができ、工程(B)の低温処理の間、均一に混合されたまま維持される。工程(D)でか焼すると、これはSO3またはO2と一緒になり、SO2、CO2およびH2Oを生成する。仮想の炭素鎖ポリマーを使用すると、以下の反応が起きる:
(-CH2-) + 3SO3 → 3SO2 + CO2 + H2O
2(-CH2-) + 3O2 → 2CO2 + H2O
充分なポリマーが添加されると、これは問題を排除し、酸素空孔を保持する。
【0085】
スカベンジャーとしての使用に好適なポリマーは、工程(A)で使用される組成物をより便利にするための比較的高いTgを有し、水溶性であり、工程(A)で使用される溶液の低pHとイオン強度に適合性がある。ポリアクリル酸(PAA)とポリアクリルアミド(PAM)を使用することができる。
【0086】
特に好適なポリマーは、約10,000amuの分子量と140℃のTgを有するポリアクリルアミドを含む50重量%ポリアクリルアミド水溶液である。これは、工程(A)で使用される組成物に所望の量で直接添加され、必要な溶解時間は最小である。
【0087】
ポリマーは以下の式:
5In2(SO4)3 + 2(-CH2CHCONH2) → 5ln2O3 + 15SO2 + 6CO2 + 5H2O + N2
に従って硫酸インジウムに製造される。
【0088】
すなわち28.4g(0.4モルの繰り返し単位)のポリアクリルアミドに対して518g(1モル)の硫酸インジウムの比率は、系の酸素バランスにちょうど充分である。硫酸アンモニウムは硫酸インジウムの前に分解され、従って適切ではないため、上記式において参照されない。硫酸塩はO2またはSO3無しで分解するため参照されない。
【0089】
製造されるITOに及ぼすポリマー添加の効果を測定するために、5%モル当量の錫と50〜150%モル当量の範囲の酸素バランスのポリマーを有する試料を製造した。試料を、示差熱分析/熱重量分析により試験した。
【0090】
150%の酸素バランスで存在するポリマーでは、硫酸アンモニウムの分解がほとんど影響を受けないことがわかった。しかし硫酸インジウム分解は600℃を少し超えると完了した。すなわちポリマーは事実上、か焼温度を約200℃低下させた。
【0091】
記載のようにポリマーの添加は、基本的に分解性を変化させることがわかった。上記したように試料を900℃でか焼し、ポリマーの無いものと比較した。効果は極めて劇的(図5に示すように)であり、後述の図6の抵抗試験において粉末の性能をほとんど10倍上昇させた。粉末の比抵抗は市販のITOに匹敵するが、これはより少ない粉末体積率で行われるため有利である。
【0092】
ポリマー添加のレベルはITOの性質に影響を与える。大過剰のポリマーはITOを焼結させ、高伝導性の低表面積密度の粒子を与えることができる。同様に、より少量のポリマーを使用して、ポリマー添加無しで得られるふわふわした高表面を保持することができる。
【0093】
以下の分析法は、本明細書に記載のように製造された物質を分析するのに使用される。
【0094】
<分析法1−比抵抗/伝導度および密度の測定>
粉末の電気伝導度は、少量の試料を圧縮しその比抵抗を測定することにより測定した。伝導度を測定するための構成を図6に示すが、これは具体的な粉末の可能性を評価するための便利で迅速な手段を提供する。
【0095】
試験される試料50の重量をまず測定し、ガラススリーブ56で取り付けた2つのピストン52と54の間に挿入する。マイクロメーター55を使用して、ラム60の位置を測定する。電圧と電流を測定し、比抵抗(R)として表示し、試料に徐々に強くなる力を加え、最大圧を5.4 MPaにする。単純な円筒形により、粉末比抵抗(r)を関係
r=RA/d
(式中、Aは試料ホルダーの断面積であり、dは測定された距離である)により測定することが可能になる。粉末体積率は以下
Φ=dA/ρo
[式中、ρoは結晶性酸化インジウムの密度である(7.1gcm-3とする)]から計算される。典型的な試験では、粉末体積抵抗は粉末体積率の関数としてプロットされる。これは、電気的性質のみでなく、材料が如何に圧縮可能であるかについての情報を与える。
【0096】
<分析法2−BET表面積の測定>
BET表面積は、まず試料から窒素上で100℃でガスを抜いて、次に液体窒素温度でマイクロメリティクス(Micromeritics)APSP2400を使用して窒素吸着を測定することにより測定した。
【実施例】
【0097】
ITO製造の具体例を以下に示す。
【0098】
空気中でのか焼を含む以下の例のそれぞれで、試料を入れるのに図7に示した円錐台型るつぼを使用した。これは直径「a」と「b」がそれぞれ40mmと78mmであり、高さ「c」が65mmである。
【0099】
るつぼでか焼される物質のベッド深さは、実施例1〜6の方法では20mm〜30mmである。
【0100】
特に明記しない場合はすべての物質は、英国アルドリッチ(Aldrich UK)から受領したものを使用した。記載のインジウム塩は、インジウムコーポレーション(Indium Corporation)(アメリカ合衆国)から得た。
【0101】
〔実施例1〕
無水硫酸インジウム(III)(57.5g, 0.111モル)を、周囲温度で攪拌しながらゆっくり脱ミネラル水(240g, 13.3モル)に加えた。次に硫酸アンモニウム(14.75g, 0.111モル)と硫酸錫(II)(2.5g, 0.012モル)を加えた。清澄でわずかに黄色の溶液が得られるまで攪拌を続けた。
【0102】
液滴発生器(これは、可変サイズのあらかじめ空けた穴を入れることを可能にする金属板からなる)を使用して、沸騰する液体窒素に溶液を噴霧した。本例においては5×0.5mmの穴の構成を使用した。方法の最後に、過剰の液体窒素を注意深くデカントし、凍結粒子を回収した。100μm未満の粒子を含まない狭い凍結粒子サイズ分布が得られた。
【0103】
凍結液滴を、-40℃のバッチ凍結乾燥機中であらかじめ冷却したトレイの上に置いた。凍結粉末を各トレイ上にベッド深さ10〜15mmで均一に広げた。
【0104】
固定プログラムを使用して24時間サイクルを用いる従来のバッチ凍結乾燥機中で、焼なましと凍結乾燥を行った。製品をまず-40℃まで加温し、30分間維持した。保存温度を-25℃まで上げ、1時間維持して製品を焼なましした。次に温度を-40℃まで下げ、さらに10分間維持した。これで焼なまし工程が完了した。
【0105】
次に0.13mBar(100mTorr)の真空を負荷し、保存温度を2時間にわたって25℃に上げた。次にこれをこの温度でさらに4時間維持した。次に温度を2時間にわたって40℃に上げ、次に乾燥時間の最後まで(全部で20〜24時間)この温度で維持した。乾燥機から出る製品は完全に氷は含まない。
【0106】
次に乾燥したITO前駆体をるつぼに入れてか焼し、これを次に、周囲空気中の900℃に設定したマッフル炉にすぐ入れた。1時間後、製品を炉から取り出し、周囲温度まで冷却した。最初に白色であった前駆体がか焼後に緑色になり、物質の体積は約4分の3まで減少することが観察された。
【0107】
上記分析法1に従って測定した最大負荷の比抵抗は17.7Ω.cmであり、粉末体積率は25.8%であった。分析法2に従って測定したBET表面積は12m2/gであった。
【0108】
作成したITOは静電気防止剤として適切に使用される。
【0109】
〔実施例2〕
か焼工程の最後に、マッフル炉から直接金属トレイに室温で熱粉末を排出することにより粉末をクエンチした以外は、実施例1に記載のものと同じ組成物と方法を使用した。比抵抗と粉末体積はそれぞれ5.3Ω.cmと21.1%であった。
【0110】
〔実施例3〕
実施例2に記載の方法により以下の組成物を製造し、分析法1と2に記載のように分析した。比抵抗と粉末体積はそれぞれ0.42Ω.cmと19%であった。
【0111】
硫酸インジウム(III) 57.5g, 0.111モル
硫酸アンモニウム 14.75g, 0.111モル
硫酸錫(II) 2.5g, 0.012モル
水 240g, 13.3モル
ポリアクリルアミド溶液* 9.6g, 1.5モル当量
* ポリアクリルアミド溶液は、分子量10,000amuのポリマーの50重量%水溶液を含有した。1モル当量はこの溶液の64gである。
【0112】
〔実施例4〕
実施例3と同じ組成物を使用した。前駆体溶液を加圧容器に入れ、液体窒素を含有するデュアー容器に噴霧器(1〜2bar)を使用して噴霧した。細かい凍結粒子(平均サイズ100μm)を製造することができた。分析法1と2に従って粉末を分析した。
【0113】
比抵抗と粉末体積はそれぞれ0.32Ω.cmと25%であった。
【0114】
〔実施例5〕
実施例1と同じ組成物を、-95℃の温度で3mの噴霧塔中の向流冷気体中に噴霧した。塔の底から凍結粉末を連続的に取り出した。これを実施例1に記載のようにさらに処理して、分析法1と2のように試験した。
【0115】
比抵抗と体積率はそれぞれ12.1Ω.cmと23%であった。使用される方法は、実施例1の方法を使用して生成されるものによく匹敵する粒子を生成することが理解できるであろう。
【0116】
〔実施例6〕
インクで使用される性質の最適な組合せを得るために、組成物最適化試験を行った。小さい比抵抗と大きな表面積の材料を求めた。大きな表面積を有する小さい粒子は、大きな粒子ほど可視光線を分散させないことがわかっている。従って大きな表面積(インクでは良好な透明性につながる)と小さい比抵抗の組合せが好ましい。
【0117】
特定される主要な変数は以下の通りである:含有量(または添加量);ポリマー含量(特に減少量);か焼温度;および溶液中の固体の濃度。
【0118】
試験した変数のレベルは以下の通りである:
錫含量、ITO中1%、5%および10%モル当量;
ポリマー含量 1.25、1.5および1.75×モル当量のIn2(SO4)3
か焼温度(Tcal(℃))800℃、900℃および1000℃
溶液の濃度 水中で20%および33%の硫酸インジウム
組成物変数の各レベルで約100gの前駆体溶液を製造して、全部で18個の異なる溶液を得た。これらのそれぞれを、か焼工程以外は実施例2に記載のように処理した。この時点で、18個の乾燥前駆体試料のそれぞれを3つの異なるロットに分けた。18の最初のロットは800℃でか焼し、次には900℃で、残りは1000℃でか焼した。すべての試料は、分析法1と2に従って測定した比抵抗とBETを有した。
【0119】
データを以下の表1に要約する。
【0120】
データを分析し、評価した。溶液強度は、測定された変数にほとんど影響を与えないと結論された。低含量の錫は非常に弱い比抵抗を与え、すべての例が拒絶された。製造された一部の試料は、同時に大きな表面積と小さい比抵抗とを有することが観察された。
【0121】
〔実施例7〕
実施例6.22、6.27、6.28、6.32、6.46、6.50、6.51、および6.52の組成物を、より大きなスケールの試料(5倍のスケールアップ;250g試料)での評価のために選択し、そのような試料を実施例2の方法に従って製造し、再試験した。試料のベッド深さ(図7の距離「d」)は50mmであった。結果を以下の表2に示す。
【0122】
実施例7.2は、同様の性質を有するものを何度も製造し、か焼温度として900℃で最適な組成物として選択した。
【0123】
製造されたITOの性質を最適化するために、生成物容器のベッド深さを考慮することが重要であると考えられる。ベッド深さが大きく、多量のポリマーが使用され、高温でか焼が行われる場合は、一次粒子が焼結するおそれがあり、さらに生成されるITOの性質が悪影響を受けるおそれがある。これは、か焼中に前駆体から還元性気体が生成され、従ってベッドの上端のITOが、より浅いベッドの場合より多量のこの気体と接触することにより説明される。従って過剰に還元されるリスクがあり、性質に影響を与える。
【0124】
【表1A】

【0125】
【表1B】

【0126】
【表1C】

【0127】
【表2】

【0128】
〔実施例8〕
以下の組成物は、凍結乾燥段階までは実施例1の方法を使用して製造した。か焼は以下のように行った:アルミナトレイを使用して、か焼工程のための前駆体を入れた。各トレイ100(図8)に50gの前駆体を入れ、図8に示すトンネル炉104(これは3つのゾーンからなる)のベルト102上に置いた。第1のゾーン106では加熱しなかった:生成物は窒素カーテン108を通過してこのゾーンに入る。次に生成物はホットゾーン110(これは900℃で制御された金属マッフルであり、カバーガス窒素112が使用される)に入る。排ガスをベンチュリ管114から取り出す。加熱ゾーンから、循環水を使用して生成物トレイは冷却ゾーン116に入り、生成物から熱を除去する。窒素118を再度カバーガスとして使用する。典型的には距離xは3.4mであり、距離yは1.4mであり、ベルト速度は5cm/分である。
【0129】
生成物ITOは、50℃未満の冷却ゾーン116から出て、直接容器に移される。
【0130】
粉末の性質は分析法1と2に従って評価した。
【0131】
硫酸インジウム(III) 575g(1.11モル)
硫酸アンモニウム 147.5g(1.11モル)
硫酸錫(II) 25g(0.12モル)
ポリアクリルアミド溶液 86g(1.34モル当量)
水 2400g(133.3モル)
粉末比抵抗は、粉末体積25%で0.25Ω.cmであった。BET表面積は15m2/gであった。
【0132】
〔実施例9〕
1モル%(実施例9a)、5モル%(実施例9b)および10モル%(実施例9c)のインジウム濃度を使用して、実施例8の方法に従ってITOの試料を製造した。
【0133】
これらの試料と2つの市販のITO試料(実施例CA1とCA2)をX線電子分光法(XPS)により分析して、表面の錫と表面のイオウ濃度を評価した。結果を以下の表3に示す。
【0134】
【表3】

【0135】
表3は、以下の式により計算されるITOのモル%表面濃縮を詳述する:
濃化度=[100(Sn/In XPS(モル%)) + (Sn/In 公称(モル%))]−100%
(測定モル%−公称モル%)×100/(公称モル%)
Sn/In XPSは、XPSにより測定した表面の錫対インジウム比を示す。
【0136】
濃化度が低いほど、ITOはより好ましいことが理解されるであろう。
【0137】
また、記載の方法により作成したITOを他の方法により作成したものから区別するのに、イオウの存在を使用することもできることも理解されるであろう。
【0138】
〔実施例10〕
実施例8に記載のように製造したITOを使用してELランプの試料(Aシリーズ)を製造し、ミツビシ(Mitsubishi)から販売されているITO L-1469-2を使用して第2の比較セット(Bシリーズ)を製造した。これらの試料に対する試験の結果を表4に示す。
【0139】
【表4】

【0140】
表4に示すように、本発明のインジウム錫酸化物を含有するELランプは、市販のインジウム錫酸化物を含有するELランプより優れた光出力と他の性質を与える。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】図1は、インジウム錫酸化物(ITO)の製造における工程の略図である。
【図2】図2は、ITOを生成するように適応させた組成物の低温処理の主要な工程の概説である。
【図3】図3は、硫酸インジウムの固体−固体変換の略図である。
【図4】図4a〜4cは、錫を添加したIn2O3、InO3の構造、および酸素空孔が充填されたITO構造を示す。
【図5】図5は、3レベルのポリマー添加について、粉末の比抵抗に及ぼすポリマー添加の影響を示す。
【図6】図6は、導電性を測定するための装置の略図である。
【図7】図7は、るつぼの略図である。
【図8】図8は、連続的ベルト炉の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 溶媒を含む液体組成物から固体を生成させる工程、ただし該組成物は、
(i) インジウム化合物、錫化合物、および硫酸アンモニウム、または
(ii) (NH4)In(SO4)2と錫化合物、を含む;
(b) 固体を調整する工程;
(c) (b)で製造した固体から溶媒を除去する工程;および
(d) 工程(c)後の固体をか焼してITOを製造する工程、
を含むインジウム錫酸化物(ITO)の製造方法。
【請求項2】
工程(a)の該液体組成物は水性組成物である、請求項1の方法。
【請求項3】
該液体組成物中の該インジウム化合物中のインジウムイオンのモル数と該錫化合物中の錫イオンのモル数の比は5〜50であり;かつ該組成物中の該アンモニウム化合物中のアンモニウムイオンのモル数と該錫化合物中の錫イオンのモル数の比は5〜50である、請求項1または請求項2の方法。
【請求項4】
該インジウム化合物中のインジウムイオンのモル数と該硫酸アンモニウム中のアンモニウムイオンのモル数の比は0.6〜1.5の範囲であり;かつ該錫化合物中の錫イオンのモル数と該硫酸アンモニウム中のアンモニウムイオンのモル数の比は0.01〜0.1の範囲である、(a)(i)の材料を含む、請求項1から3までのいずれか1項の方法。
【請求項5】
工程(a)(i)の該液体組成物は、少なくとも0.4重量%の該錫化合物、少なくとも2重量%の硫酸アンモニウム、少なくとも10重量%の該インジウム化合物、および少なくとも60重量%の溶媒を含む、請求項1から4までのいずれか1項の方法。
【請求項6】
工程(a)(i)または(a)(ii)で使用される該錫化合物はSn(II)化合物である、請求項1から5までのいずれか1項の方法。
【請求項7】
該錫化合物は硫酸錫(II)である、請求項6の方法。
【請求項8】
製造されるITOに取り込まれる酸素の量を減少させるために、この方法で生成される酸素をスカベンジするようにおよび/または反応するように構成された酸素スカベンジ手段の存在下で行われる、請求項1から7までのいずれか1項の方法。
【請求項9】
該スカベンジ手段は、この方法の工程(b)で生成される分解生成物と反応することができる化合物である、請求項8の方法。
【請求項10】
該スカベンジ手段は水溶性ポリマー材料である、請求項8または請求項9の方法。
【請求項11】
該組成物中のスカベンジ手段の量は、硫酸インジウムの分解産物を酸化インジウムに完全に還元するのに必要な量の0.9〜2倍である、請求項10の方法。
【請求項12】
工程(a)は、液体組成物の凝固点またはそれ以下の温度まで液体組成物を冷却することを含む、請求項1から11までのいずれか1項の方法。
【請求項13】
工程(a)において液体組成物は-25℃未満の温度の低温環境に導入される、請求項1から12までのいずれか1項の方法。
【請求項14】
工程(a)において液体組成物は固体の粒子を形成する、請求項1から13までのいずれか1項の方法。
【請求項15】
工程(a)で生成され工程(b)で処理される粒子の10重量%未満が、100μm未満の粒子サイズを有する、請求項14の方法。
【請求項16】
多量の粒子は100μm〜2mmの範囲である、請求項14または請求項15の方法。
【請求項17】
該調整工程(b)において固体の一部は物理的変化を受ける、請求項1から16までのいずれか1項の方法。
【請求項18】
調整工程(b)において溶媒の結晶性が上昇する、請求項1から17までのいずれか1項の方法。
【請求項19】
工程(b)において固体の温度は少なくとも5℃上昇する、請求項1から18までのいずれか1項の方法。
【請求項20】
工程(b)は溶媒の昇華を引き起こす、請求項1から19までのいずれか1項の方法。
【請求項21】
工程(d)は、温度が少なくとも400℃でかつ1200℃未満である環境に固体を付すことを含む、請求項1から20までのいずれか1項の方法。
【請求項22】
この方法で製造されるITOは、30体積率%未満で測定される時0.1〜0.5Ω.cmの範囲の粉末比抵抗を有し、35m2/g未満のBET表面積を有する、請求項1から21までのいずれか1項の方法。
【請求項23】
バルクの錫の単位体積当たりのモル濃度の2倍を超えない、単位体積当たりのモル濃度の表面錫を有するインジウム錫酸化物(ITO)粉末。
【請求項24】
70%未満の表面錫濃化度を有するインジウム錫酸化物(ITO)粉末。
【請求項25】
微量のイオウを含む、請求項23または請求項24のITO。
【請求項26】
表面に0.1〜3モル%のイオウを含む、請求項23から25までのいずれか1項のITO。
【請求項27】
30体積率%未満で測定される時0.1〜0.5Ω.cmの範囲の粉末比抵抗を有する、請求項23から26までのいずれか1項のITO。
【請求項28】
BET表面積は35m2/g未満である、請求項23から27までのいずれか1項のITO。
【請求項29】
請求項1から17までのいずれか1項の方法で作成されたか、または請求項18から23までのいずれか1項記載のITOを含む塗料、インクまたは樹脂。
【請求項30】
請求項1から22までのいずれか1項の方法により作成されたITOを含むエレクトロルミネセンスランプ。
【請求項31】
請求項23から28までのいずれか1項のITOを含むエレクトロルミネセンスランプ。
【請求項32】
それぞれ実施例を参照して独立に実質的に上記された、方法、インジウム錫酸化物、塗料、インクまたは樹脂、およびエレクトロルミネセンスランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−500938(P2008−500938A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−514093(P2007−514093)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002065
【国際公開番号】WO2005/118479
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(590000341)インペリアル・ケミカル・インダストリーズ・ピーエルシー (17)
【氏名又は名称原語表記】IMPERIAL CHEMICAL INDUSTRIES PLC
【Fターム(参考)】