インスリン感受性/抵抗性、糖尿病および肥満におけるRBP4
レチノール結合蛋白質4(RBP4)の活性を調節する分子をスクリーニング(scan)するための方法、およびインスリン抵抗性の処置におけるその使用を記載する。また、RBP4活性の調節を検出することにより、インスリン抵抗性または関連する状態の診断方法も記載する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は2003年12月11日に出願された米国特許仮出願第60/528,919号の受益を請求する。上記出願の全教示を参照により本明細書に援用する。
(米国政府資金提供)
本発明は米国立衛生研究所の補助金RO1DK43051によりその全部または一部を援助された。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
筋肉および脂肪等の周辺組織におけるインスリン抵抗性は、膵臓β細胞によるインスリン分泌の増加と関連している。分泌されたインスリンはグルコース消費を促進し、肝臓によるグルコース産生を阻害する。しかしながら、膵臓β細胞は多くの場合インスリンの産生増加を維持することができず、最終的にインスリン産生の減少とグルコース不耐性をもたらす。
【0003】
インスリン抵抗性はまた、例えば血液中のグルコース濃度の増加、血液中のインスリン濃度の増加、インスリンに反応してグルコースを代謝する能力の減少、またはこれらの何れかの組み合わせが特徴である。インスリン抵抗性は2型糖尿病等の糖尿病のその後の発症の可能性を示唆していると考えられる。しかしながら、糖尿病がなくても、インスリン抵抗性は心臓血管病の主な危険因子である(Despresら、N. Engl. J. Med. 334:952−957(1996))。インスリン抵抗性と糖尿病におけるインスリン産生の喪失は血糖の増加または高血糖症をもたらす。また、高血糖症は腎臓障害、神経障害および網膜症等の長期疾患に寄与する。
【0004】
インスリン抵抗性はグルコースおよび脂質代謝異常、肥満、腎臓病、高血圧および心臓血管病の危険性の増大と関連している。インスリン抵抗性とこれらの他の異常性との関連は、「インスリン抵抗性症候群」または「代謝症候群」または「X症候群」と呼ばれる。特に、代謝症候群は肥満(特に中心性肥満)、異常脂質血症(特に高レベルのトリグリセリドと低レベルの高密度リポ蛋白質コレステロール)、高血糖症および高血圧の併発が特徴である。代謝症候群を有する人は、この症候のない人と比べて糖尿病または心臓血管病のリスクが高い(Meigs, J. B., BMJ:327, 61−62(2003))。
【0005】
インスリン応答性グルコース輸送因子GLUT4の発現の減少が、ヒトおよびげっ歯類におけるほとんど全てのインスリン抵抗性状態の脂肪細胞で見られる(Shepherd, P. R. およびCohn, B. B., N Engl. J. Med. 341:248−257(1999))。しかしながら、脂肪組織が全身グルコース消費にほとんど寄与しないので、GLUT4の発現の減少が全身性インスリン抵抗性に寄与する機構は明瞭でない。
【0006】
インスリン抵抗性とその後の糖尿病および心臓血管病の発症との関連、およびインスリン抵抗性の世界中での蔓延により、インスリン抵抗性と関連する疾患を軽減または緩和する治療を開発するための別な代謝または内分泌標的が必要である。また、ライフスタイル変化および/または薬剤療法によるできるだけ早期の介入を可能にするインスリン抵抗性、代謝症候群および2型糖尿病のまた別な検出/診断法も必要である。
【0007】
(発明の要旨)
本発明はインスリン抵抗性、代謝症候群および2型糖尿病に関連する症状および疾患を軽減または緩和する、治療の開発のために使用し得る分子または薬剤の検出および/または同定のための重要な新しい標的とスクリーニング法を提供する。本発明で初めて示される様に、血清レチノール結合蛋白質4(RBP4)の上昇はインスリン抵抗性を引き起こしグルコース耐性を損なうが、血清RBP4の低下はインスリンの作用とグルコース耐性を改善する。インスリン耐性のいくつかのマウスモデルの結果は、ヒトのデータで確認された。さらに、RBP4とトランスチレチンとの間の相互作用を妨害するレチンアミドでob/obマウスを処置すると、血漿RPB4レベルが低下し、長期の状態を減少する。RPB4はそれにより脂肪細胞におけるGLUT4の発現の下方制御が全身的なインスリン抵抗性を生じる機構的関連であると考えられる。
【0008】
本明細書で説明する様に、RBP4をインスリン抵抗性と、代謝症候群等の関連する状態に対する初期マーカーとして使用し得るが、その理由は、糖尿病および/または肥満等のインスリン抵抗性と関連する状態がない場合、またはその状態が生じる前でも、RBP4レベルの増加がヒトおよびマウスにおけるインスリン抵抗性と相関するからである。その上、RPB4はインスリン抵抗性を減少する治療を開発するための新しい標的である。さらに、インスリン抵抗性を有する患者におけるRBP4活性の減少は、インスリン抵抗性および関連する状態の処置のための新しい治療である。
【0009】
本発明はRBP4活性を調節する化合物の同定法に関連する。この方法はRBP4を試験化合物と接触させ、試験化合物の存在下のRBP4活性レベルを試験化合物の非存在下のRBP4活性レベルと比較し、RBP4活性の調節を測定する工程を有するが、RBP4活性の変化はRBP活性を調節する化合物を示唆する。
【0010】
本発明はまた、哺乳動物中のRBP4の循環レベルを減少する化合物の同定法に関する。かかる方法にはインビトロおよびインビボ法が含まれる。一態様では、その方法は試験化合物を哺乳動物に投与し、哺乳動物から試料(尿試料または血液試料等の試料)を採取し、試験化合物投与後の試料中のRBP4レベルと試験化合物投与前の対照試料中のRBP4レベルとを比較する工程を有するが、対照試料と比較して試験化合物投与後のRBP4の尿試料中の増加または血液試料中の減少は、RBP4の循環レベルを減少する化合物を示唆する。
【0011】
本発明はまた、哺乳動物におけるインスリン抵抗性の減少法に関する。この方法はRBP4活性を減少する化合物を哺乳動物に投与する工程を有する。
【0012】
本発明はまた、哺乳動物におけるインスリン抵抗性または関連する状態の診断法に関する。その方法は哺乳動物から得た生物学的試料中のRPB4活性を測定する方法であって、RBP4活性の増加がインスリン抵抗性または関連する状態を示唆する方法に関する。
【0013】
患者による絶食または特別な準備を要せず、RBP4は通常の採取条件下で安定な化合物であり、RBP4は皮膚刺通による1滴の血液または尿中で検出し得るので、RBP4をインスリン抵抗性または関連する状態に対するマーカーとして使用することは有利である。
【0014】
さらに、RBP4をインスリン抵抗性または関連する状態に対するマーカーとして使用することは、高血圧または高脂血症、および多嚢胞性卵巣症候群等の代謝症候群に対する別な基準を与え、2型糖尿病患者の肥満した、または肥満でない親族を含む多くの危険に晒された人々に有用である。RBP4レベルはまた、新たに診断した患者における1型と2型糖尿病を識別するために有用である。
【0015】
(発明の詳細な説明)
可溶性因子がインスリン抵抗性と相関し、その因子はRBP4であることが本発明で初めて明らかとなった。糖尿病および/または肥満でなくても、RBP4はインスリン抵抗性と相関している。従って、RBP4はインスリン抵抗性を減少する化合物のスクリーニングの他、インスリン抵抗性の早期診断と治療のための有用な標的である。本明細書に述べる様に、インスリン応答性グルコース輸送因子(GLUT4)が脂肪組織中で特異的にノックアウトされた場合、RBP4がマウスの血清中で上昇する(AG4KOマウス)。AG4KOはインスリン抵抗性に対するマウスモデルである。
【0016】
本明細書に示す様に、AG4KOマウスで血清RBP4レベルが上昇し、インスリン抵抗性であるが、脂肪含有量および脂肪細胞の形態ばかりでなく体重も正常であるので、RBP4をインスリン抵抗性、2型糖尿病等の糖尿病、および代謝症候群に対する早期マーカーとして使用し得る(実施例IB)。
【0017】
実施例IDに記載した様に、GLUT4発現が保存されているにもかかわらずこれらのマウス由来の筋肉中のインスリン刺激グルコース輸送がインビボで損なわれるので、可溶性因子はAG4KOマウスにおけるインスリン耐性の原因である。さらに、筋肉をエクスビボで試験した場合、GLUT4活性は正常である。さらに、実施例IIAに記載する様に、AG4KOマウス由来の血清は3T3−L1脂肪細胞中のグルコース輸送を阻害する。さらに、PRB4はAG4KOマウスの血清中で上昇することが同定され、実施例IIBで示す様に脂肪組織中でGLUT4を過剰発現するマウスの血清中で減少した。
【0018】
本明細書で示す様に、RBP4活性の修飾は、インスリン抵抗性とインスリン抵抗性に関連する状態との処置法の対象である。特に、RBP4活性の検出が、インスリン抵抗性とそれに関連する状態の処置に有用な化合物を同定するためのスクリーニング法に対する基礎となり得る。実施例IIICに示す様に、インスリン抵抗性を軽減するチアゾリジネン化合物もRBP4の増加を反転する。さらに、実施例IIIDに示す様に、RBP4とトランスチレチンとの間の相互作用を妨害し、尿中のRBP4分泌を増加する化合物であるフェンレチニドはインスリン感受性を改善し、高脂質飼料で飼育したラットのグルコース耐性を正常化した。実施例IIIDに示す様に、RBP4ノックアウトマウスはよりインスリン感受性であるが、その体重は対照マウスと比較して変化しなかった。さらに、インスリン抵抗性の他のマウスモデルでもRBP4レベルが上昇した(実施例III)。フェンレチニド処理がob/obマウスで長期罹患率を改善することが重要である(実施例IIIC)。
【0019】
ヒトのデータもマウスモデルデータと一致する。本明細書で述べる様に、血清RBP4レベルは肥満および肥満/糖尿病のヒトで上昇するが、痩身/非糖尿病のヒトでは上昇しない(実施例IV)。
【0020】
RBP4はレチノール依存性またはレチノール非依存性機構で作用し得る。理論に制約されるものではないが、レチノール含有量は主に食餌中の利用し得るレチノールに依存し、RBP4がレチノールの肝臓から肝臓外組織への輸送を媒介するので、血清RBP4レベルが上昇すると肝臓外組織中のインスリン作用に影響し得る(Blaner, W. S., Endocr. Rev. 10:308−316(1989))。これと一致して、本明細書に示す様に、RBP4過剰発現マウス(Tg)およびRBP4処置マウスの双方でインスリン抵抗性は筋肉中のインスリン刺激PI3K活性の低下と関連しているが、肝臓ではそうでない。RBP4がインスリン作用に影響するレチノール依存性機構には、レチノイン酸受容体(RAR)およびレチノイン酸X受容体(RXR)と相互作用し、遺伝子転写を制御するレチノールの活性形であるレチノイン酸異性体の産生増加、またはレチノイン酸異性体の組織代謝の変化が含まれるが(Chambon, P., FASEB J. 10:940−954(1996))、それに限定されるものではない。これと一致して、レチノイン酸依存性遺伝子(レチノイン酸受容体δ2および細胞レチノイン酸結合蛋白質I)のmRNAレベルの20〜46%の増加がRBP4過剰発現マウスの筋肉で観察された。
【0021】
RBP4はまた、レチノール非依存性機構によりインスリン抵抗性を生じ得る。RBP4は細胞内シグナル伝達を潜在的に修飾し得る細胞表面受容体と高い親和性および高い特異性で結合することが、事実から示唆されている(Sivaprasadarao, A. およびFindlay, J. P.、Bio Chem. J. 255:561−569(1998);Matarase, V. およびLodish, H. F.、J. Biol. Chem. 268:18859−18865(1993))。メガリン−gp320は末端組織で現在同定されている唯一のRBP4受容体であり、高分子複合体に対する非特異的受容体である(Christensen, E. I.ら、J. Am. Soc. Nephrol., 10:685−695(1999))。メガリン−RPB4相互作用は低親和性であり(Kd:2μM)、RBP4に対する高親和性受容体は同定されていない。RBP4のレチノール非依存性作用に対する別な可能性には非レチノイド分子の輸送と送達が含まれる。RBP4がレチノール以外の他の親油性分子を輸送し得る可能性は、インビトロで広い範囲の他のレチノイドを結合する能力により確認される(Bernie, R.ら、FASEB J., 7:1179−1184(1993))。RBP4はトランスチレチン機能も修飾し得る。
【0022】
血清RBP4の上昇がインスリン抵抗性に寄与する機構とは無関係に、本発明で最初に示された様に、フェンレチニド治療により血清RBP4を正常化することは、インスリン作用の改善と、インスリン抵抗性肥満マウスにおけるグルコース耐性をもたらす。さらに、ob/obマウスのフェンレチニド処置により、長期罹患率を減少する。理論に制約されるものではないが、RBP4の排出の増加は、フェンレチニドが肥満げっ歯類におけるインスリン抵抗性を反転する主な作用であると考えられる。フェンレチニドおよびその代謝物には活性レチノイドの必須の特徴である末端カルボキシル基がない。さらに、フェンレチニドはインビトロでRXRイソフォームを活性化せず、フェンレチニドのインスリン増感効果が選択的RXRアゴニスト(すなわちレキシノイド)の効果とは異なることを示している(Sheikh, M. S.ら、Carcinogenesis 16:2477−2478(1995);Um、S. J.ら、Cancer Letters 174:127−134(2001);Shen, Q.ら、J. Biol. Chem. 279:19721−19731(2004))。フェンレチニドがインスリン−グルコース恒常性を改善する別な機構もあり得るが、本発明で示す様に、RBP4−トランスチレチン相互作用がインスリン抵抗性および2型糖尿病と闘う薬剤の開発に対する新規標的である。
【0023】
RPB4活性を調節する化合物のスクリーニング法
本明細書に記載の様に、本発明はRPB4活性をインビボで(たとえば哺乳動物中)またはインビトロで調節する化合物の同定法に関し、その化合物がRBP4活性を調節する能力は以前には知られていなかった。
【0024】
同定法にはインビトロまたはインビボ法が含まれる。本発明の方法をRBP4活性を減少する化合物の同定、またはRBP4活性を増加する化合物の同定に使用できる。
【0025】
RPB4活性を調節する化合物同定の一態様では、適当な細胞、組織、血清、血漿または尿などの生物学的試料を少なくとも1種の試験化合物と接触させ、試験化合物の存在下の試料中のRBP4活性レベルを試験化合物の非存在下のRBP4活性レベルと比較するが、RBP4活性レベルの差がRBP4活性を調節する化合物を示している。
【0026】
本明細書に記載の様に、RBP4活性には例えばRBP4 mRNAまたは蛋白質の発現が含まれる。また、RBP4活性にはRBP4がTTRと結合する能力、RBP4がレチノールと結合する能力、RBP4が細胞と結合する能力、組織または循環系中のRBP4の安定性(例えば構造的または半減期)、RBP4がレチノールを細胞へ送達する能力、およびRBP4が細胞シグナル伝達を活性化する能力、例えば核ホルモン受容体の活性化が含まれる。
【0027】
一態様では、RBP4活性を調節する化合物は哺乳動物中のインスリン抵抗性のレベルを減少する。例えば、本明細書に示す様に、RBP4がTTRと相互作用する能力の低下は、インスリン抵抗性の低下と相関している。インスリン抵抗性症候群には例えばグルコース耐性の低下、インスリン刺激グルコース輸送の低下、インスリンシグナル伝達の低下、血清グルコースレベルの上昇、および/または血清インスリンレベルの上昇が含まれる。インスリン抵抗性のこれらの指標を、本明細書に記載する公知の標準法を用いて測定し得る。
【0028】
一態様では、RBP4活性はRBP4発現レベルであり、RBP4発現レベルが検出される。RBP4の発現を細胞または組織中のRBP4 mRNAのレベルを検出して測定できる。RNAレベル検出技術は当該分野で周知であり、逆転写酵素PCR(RT−PCR)、ノーザンブロッティングおよびRNAアーゼ保護アッセイが含まれる。さらに、RBP4 mRNA転写速度をRBP4プロモーターレポーターアッセイまたは核run-offアッセイを用いて測定できる。“Current Protocols in Molecular Biology”第1巻、第4章、John Wiley & Sons, Inc.(1997)参照。定量リアルタイムRT−PCRをRBP4 mRNAの安定性を評価するために用いることができる。Howeら、Clin. Chem.(2003);Bustin, S. A.、J. Mol. Endocrinol. 29(1):23−29(2002)参照。また、その教示は参照により本明細書に援用される、例えば米国特許第6,544,790号参照。RBP4発現をRBP蛋白質、またはその生物活性断片のレベルまたは濃度を検出して測定できる。例えば、RBP4またはその生物活性断片、またはその特徴的断片(すなわち無傷のRPB4蛋白質の全ての生物活性を持たないが、生物活性蛋白質を特異的に同定するために使用し得る断片)のレベルを検出するための特異的抗体結合(免疫または免疫反応法、例えばELISA、RIA、ネフロメトリーまたはウエスタンブロット)等を組織または細胞中で蛋白質/ペプチドレベルを検出するのに適した任意の方法を使用し得る。
【0029】
本明細書に記載の同定アッセイに用いるために適した細胞または組織には脂肪、肝臓および筋肉が含まれる。または、例えば本明細書に記載の方法は、試験化合物投与の前後の個人の血液中のRBP4レベルを比較し得る。血液試料には例えば全血、血漿または血清が含まれる。尿、糞便および他の体液も使用できる。
【0030】
本発明はまた、RBP4の細胞への結合を阻害する化合物のスクリーニング法に関する。例えば、この方法は試験化合物の存在下および非存在下でRBP4の脂肪細胞または筋肉細胞への結合を決定する方法であって、試験化合物の存在下でのRBP4の細胞への結合の減少は、試験化合物がRBP4の細胞への結合を減少させるに有効であることを示す方法である。
【0031】
RBP4の活性はまた、RBP4がその血中輸送蛋白質であるトランスチレチン(TTR)に結合する能力も包含する。従って、本発明にはRBP4のトランスチレチンへの結合を減少する能力で化合物をスクリーニングする方法、例えば試験化合物の存在下および非存在下でトランスチレチンに結合したRBP4の量を比較する方法も含まれ、RBP4のトランスチレチンへの結合の減少は、試験化合物がRBP4のトランスチレチンへの結合を阻害または減少する能力を示す。TTRへのRBP結合または結合の減少を評価するこの様なインビトロ法は当業者に周知である。
【0032】
RBP4がTTRへ結合する能力は、例えば固定化トランスチレチン(TTRとも呼ぶ)からRBP4の放出;固定化RBP4からTTRの放出;当該分野の標準技術を用いてモニターされるRBP4−TTR相互作用の阻害、例えば発色基標識またはEP融合蛋白質を用いて行われるFRET(蛍光共鳴エネルギー遷移)の消失、または固定化RBP4またはTTRによる表面プラズモン共鳴により測定し得る。
【0033】
本発明にはまた、RBP4がレチノールへ結合する能力を調節する能力で化合物をスクリーニングする方法も含まれる。この様な方法にはRBP4がレチノールに結合する能力を減少する化合物、およびRBP4がレチノールに結合する能力を増加する化合物を検出する、当該分野で周知の工程も含まれる。インビトロ結合アッセイは当業者に周知であり、例えばELISAおよびRIAを含み得る。
【0034】
このアッセイはRBP4プロモーター−レポーターアッセイ、インビトロmRNA翻訳および安定性アッセイ、初代肝細胞を用いるRBP4分泌アッセイ、または細胞培養条件(エクスビボ)またはインビトロにおけるRBP4安定性の半減期測定も含み得る。
【0035】
RBP4活性を調節する化合物を同定する方法には、RBP4がレチノールを組織に送達し、組織または循環系における生物活性レチノールのレベルに影響を与える能力を測定する方法が含まれる。特に、このアッセイは核ホルモン受容体のRBP4制御/活性化を調節する;PPARγシグナル伝達;RARシグナル伝達;RARシグナル伝達;LXRシグナル伝達;および直接または間接的にRARまたはRXRと相互作用する他の核受容体によるシグナル伝達を調節する分子を検出し得る。これらのアッセイはまた、LRATまたはCYP26 mRNA発現のRBP4制御を調節する分子を検出し得る。本明細書に記載のアッセイにはハイスループットアッセイが含まれる。
【0036】
RBP4活性を調節する化合物の同定法にはインビボ法も含まれる。例えば、本明細書に記載のインスリン抵抗性の動物モデルを使用し得る。RBP4活性および/またはインスリン抵抗性を試験するインビボ法は、例えば実施例の方法である。例えば、AG4KOマウス等のインスリン抵抗性を有するマウスを試験化合物有りまたは無しで処置し、次いでグルコース耐性試験またはインスリン耐性試験に供するが、グルコース耐性またはインスリン耐性の改善は、RBP4活性を調節する化合物であることを示す。別な態様では、血清中のRBP4レベルをマウスの2つのグループ間で比較するが、血液中のRBP4レベルの減少はRBP4活性を調節する化合物であることを示す。さらに、血糖および血漿インスリンレベルをマウスで測定し、非処置マウスと比較して処置マウスで血糖レベルの低下および/または血漿インスリンレベルの低下はRBP4活性を調節する化合物であることを示す。別の態様では、野生型マウスに高脂肪飼料を投与し、試験化合物で処置するかまたは処置しない。RBP4レベルを処置および未処置マウス間で比較し、RBP4レベルの減少はRBP4活性を調節する化合物であることを示す。さらに、高脂肪飼料で飼育した処置および未処置マウスにグルコース耐性試験またはインスリン耐性試験を行い、血糖レベルの減少または血漿インスリンレベルの減少はRBP4活性を調節し、その結果インスリン耐性を調節する化合物であることを示す。本明細書で用いる「調節」には活性の阻害および増加の両方が含まれるが、阻害は活性減少の測定可能なレベルであり、増加は活性の測定可能なレベルである。
【0037】
本明細書に記載の様に、RBP4活性を調節する任意の化合物は、インスリン抵抗性に関連する状態を軽減するための治療処置に有用である。
【0038】
RBP4およびTTRの結合を妨害し、循環RBP4の腎臓クリアランスを増加する化合物は、哺乳動物でインスリン抵抗性および関連する状態を処置するための候補である。候補分子を次にアッセイで試験し、その分子がインスリン抵抗性を減少する能力を確認する。
【0039】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、またはRBP4またはTTRに特異的に結合する抗体断片の何れかの抗体をRBP4/TTR結合を妨害するために使用できる。この様な特異的抗体の作製は当業者に周知である。
【0040】
RBP4とトランスチレチンとの結合を妨害する分子の例には、RBP4の天然リガンドを構造的に模擬する分子が含まれる。一態様では、その分子はレチンアミドまたはレチニルエステルまたはレチンアミド/レチニルエステル擬似体である。レチンアミドまたはレチニルエステルは循環系中でRBP4−TTR複合体を破壊し、RBP4を尿に排出し循環系RBP4レベルを下げる。本明細書に記載のレチンアミドまたはレチニルエステル等の分子は、レチノール、レチナールまたはレチノイン酸よりRBP4に対する結合親和性が高いことがある。一態様では、レチンアミドまたはレチニルエステルは少なくとも1個の嵩高い側鎖または他の補欠基を有する。別の態様では、レチンアミドまたはレチニルエステルはRBP4−TTR複合体を破壊し、レチノール依存性シグナル伝達に対する下流アゴニストとして作用させない。
【0041】
レチンアミドおよびレチニルエステルの全トランス異性体は以下の構造式(1)が特徴である。
【0042】
【化1】
【0043】
式中、Xは−NR’−または−O−であり;R1は置換もしくは非置換脂肪族またはアリール基であるか、置換もしくは非置換非芳香族複素環基であり;R’は水素または置換もしくは非置換脂肪族またはアリール基であるか、あるいは置換もしくは非置換非芳香族複素環である。構造式(1)が特徴である他の異性体分子、例えば7−シス、9−シス、11−シス、13−シス、またはその任意の組み合わせも、本発明に使用し得ることに留意する。9−シスおよび13−シス異性体は構造式(2)および(3)が特徴であり、XおよびR1は上記定義の通りである。
【0044】
【化2】
【0045】
【化3】
【0046】
典型的にはR1は置換または非置換アリールまたは低級アルキル基である。好ましくは、Xが−NR’−である場合、R1は4−ヒドロキシフェニル、3−ヒドロキシフェニルまたは2−ヒドロキシフェニル等の置換アリール基である。より好ましくは、Xが−NR’−である場合、R1は4−ヒドロキシフェニルである。または、Xが−O−である場合、R1は、好ましくは、メチル、エチル、プロピルまたはベンジル等の置換または非置換低級アルキル基である。
【0047】
好ましい態様では、分子は全トランス異性体である。より好ましくは、分子が構造式(1)の全トランスレチンアミドであり、Xは−NH−でありR1は4−ヒドロキシフェニルである。
【0048】
任意に、循環系中でRBP4−TTR複合体を破壊するレチンアミドまたはレチニルエステルはまた、細胞間レチノイン酸受容体(RXR)またはペルオキシゾーム増殖因子活性化因子受容体(PPAR)と結合し、それらの活性を代謝的に有益な方法で調節する。
【0049】
本明細書で用いる用語「脂肪族基」は非芳香族であり、炭素および水素のみで構成され、任意には少なくとも1個の不飽和、例えば二重および/または三重結合を含む。脂肪族鎖は直鎖、分枝または環状(すなわち「シクロ脂肪族」)であってもよい。直鎖または分枝である場合、脂肪族基は典型的には1〜約24炭素原子、より典型的には1〜約12炭素原子を含む。脂肪族基は低級アルキル基または低級アルキレン基であることが好ましく、C1〜24(好ましくはC1〜C12)直鎖または分枝飽和炭化水素を含む。アルキル基は分子内の飽和炭化水素であり、その炭素原子の1つから1個の共有単結合により分子内の他の基に結合している。低級アルキル基の例にはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、sec−ブチルおよびtert−ブチルが含まれる。アルキレン基は分子中の飽和炭化水素であり、その2個の炭素原子から1個の共有結合により分子内の他の2つの基に結合している。低級アルキレン基の例にはメチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン(−CH(CH2)CH2−)、ブチレン、sec−ブチレン(−CH(CH3)CH2CH2−)およびtert−ブチレン(−C(CH3)2CH2−)が含まれる。
【0050】
本明細書で用いる用語「アリール基」は「アリール」、「アリール環」、「芳香族基」および「芳香環」と互換的に使用し得る。芳香族基には環状炭素芳香族基とヘテロアリール環が含まれる。環状炭素芳香族基の例にはフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アンスラニルおよび2−アンスラニルが含まれる。用語「ヘテロアリール」、「ヘテロ芳香族」、「ヘテロアリール環」、「ヘテロアリール基」および「ヘテロ芳香族基」とは5〜14個の構成原子を有するヘテロ芳香族環を指し、単環へテロ芳香族環と多環芳香族環が含まれ、単環芳香族環は1個以上の他の環状炭素またはヘテロ芳香族環と融合している。ヘテロアリール基は少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する。ヘテロアリール基の例には2−フラニル、3−フラニル、N−イミダゾリル、2−イミダゾリル、4−イミダゾリル、5−イミダゾリル、3−イソキサゾリル、4−イソキサゾリル、5−イソキサゾリル、2−オキサジアゾリル、5−オキサジアゾリル、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、5−オキサゾリル、3−ピラゾリル、4−ピラゾリル、1−ピロリリル、2−ピロリリル、3−ピロリリル、2−ピリジル、4−ピリジル、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル、5−ピリミジニル、3−ピリダジニル、2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル、2−トリアゾリル、5−トリアゾリル、テトラゾリル、2−チエニル、3−チエニル、カルバゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾフラニル、インドリル、キノリニル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾキサゾリル、ベンズイミダゾリル、イソキノリニル、インドリル、イソインドリル、アクリジニルまたはベンズイソキサゾリルが含まれる。
【0051】
用語「非芳香族複素環基」とは典型的には5〜14個の構成素原子、好ましくは5〜10個の構成原子(member)を有する非芳香族環系であり、1個以上の環炭素、好ましくは1〜4個の環炭素がそれぞれN、OまたはS等のヘテロ原子で置換されている。非芳香族複素環基には3−1H−ベンジミダゾール−2−オン、3−テトラヒドロフラニル、2−テトラヒドロフラニル、3−テトラヒドロフラニル、4−テトラヒドロフラニル、[1,3]−ジオキサラニル、[1,3]−ジチオラニル、[1,3]−ジオキサニル、2−テトラヒドロチオフェニル、3−テトラヒドロチオフェニル、N−アゼチジニル、1−アゼチジニル、2−アゼチジニル、N−オキサゾリジニル、2−オキサゾリジニル、4−オキサゾリジニル、5−オキサゾリジニル、N−モルホリニル、2−モルホリニル、3−モルホリニル、N−チオモルホリニル、2−チオモルホリニル、3−チオモルホリニル、N−ピロリジニル、2−ピロリジニル、3−ピロリジニル、N−ピペラジニル、2−ピペラジニル、N−ピペリジニル、2−ピペリジニル、3−ピペリジニル、4−ピペリジニル、N−ピロリジニル、2−ピロリジニル、3−ピロリジニル、4−チアゾリジニル、ジアゾロニル、N−置換ジアゾロニル、1−フタリミジニル、ベンゾキサニル、ベンゾピロリジニル、ベンゾピペリジニル、ベンゾキソラニル、ベンゾチオラニル、ベンゾチアニル、テトラヒドロキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、アザビシクロペンチル、アザビシクロヘキシル、アザビシクロヘプチル、アザビシクロオクチル、アザビシクロノニル、アザビシクロデシル、ジアザビシクロヘキシル、ジアザビシクロヘキシル、ジアザビシクロオクチル、ジアザビシクロノニル、およびジアザビシクロデシルが含まれる。本明細書で用いる用語「非芳香族複素環基」にさらに含まれる基は、非芳香族へテロ原子含有環が、インドリル、クロマニル、フェナンスリジニルまたはテトラヒドロキノリニル基等の少なくとも1個の芳香族または非芳香族環と融合する基であり、ラジカルまたは接着点は非芳香族へテロ原子含有環上にある。
【0052】
アルキルもしくはアルケニル基等の脂肪族基またはアリール基上の適当な置換基は、開示された化合物の阻害活性、例えばRBP4への結合および循環系中のRBP4−TTR複合体の破壊を実質的に妨害しない基である。適当な置換基の例には−OH、ハロゲン(−Br、−Cl、−I、−F)、−ORa、−O−CORa、CORa、−CN、−NCS、−NO2、−COOH、SO3H、−NH2、−NHRa、−N(RaRb)、−COORa、−CHO、−CONH2、−CONHRa、−CON(RaRb)、NHCORa、−NRbCORa、−NHCONH2、−NHCONRaH、−NHCON(RaRb)、−NRbCONH2、−NRbCONRaH、−NRcCON(RaRb)、−C(=NH)−NH2、−C(=NH)−NHRa、−C(=NH)−N(RaRb)、−C(=NRc)−NH2、−C(=NRc)−NHRa、−C(=NRc)−N(RaRb)、−NH−C(=NH)−NH2、−NH−C(=NH)NHRa、−NH−C(=NH)N(RaRb)、−NH−C(=NRc)−NH2、−NH−C(=NRc)−NHRa、−NH−C(=NRc)−N(RaRb)、−NRdH−C(=NH)−NH2、−NRd−C(=NH)−N(RaRb)、−NRd−C(=NRc)−NH2、−NRd−C(=NRc)−NHRa、−NRd−C(=NRc)−N(RaRb)、−NHNH2、−NHNHRa、−NHRaRb、−SO2NH2、−SO2NHRa、−SO2NRaRb、−SH、−SRa、−S(O)Ra、および−S(O2)Raが含まれる。さらに、アルキルまたはアルケニル基等の脂肪族基を置換または非置換アリール基で置換し、例えばベンジル等のアラルキル基とすることができる。同様に、アリール基を置換または非置換アルキルまたはアルケニル基で置換することができる。
【0053】
Ra〜Rdは、各々、独立して、アルキル基、芳香族基、非芳香族複素環基であり、または−N(RaRb)が一緒になって置換または非置換非芳香族複素環基を形成する。
【0054】
RBP4とTTRとの結合を妨害する分子の例には、RBP4またはTTRの何れかと特異的に結合する抗体またはその断片が含まれる。
【0055】
さらに、開示されたレチンアミドおよびレチニルエステルの薬学的に許容し得る塩も本発明に含まれる。例えば、その化合物を塩化水素、臭化水素酸、酢酸、過塩素酸等の適当な有機または無機塩と反応させてアミンまたは他の塩基性基を含む化合物の酸塩が得られる。4級アンモニウム基を有する化合物も、塩素、臭素、沃素、酢酸、過塩素酸等の対イオンを含む。この様な塩の他の例には塩化水素、臭化水素、硫酸、メタンスルホン酸、硝酸、マレイン酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、酒石酸(例えば(+)−酒石酸、(−)−酒石酸またはラセミ混合物を含むその混合物)、コハク酸、安息香酸の塩、およびグルタミン酸等のアミノ酸の塩が含まれる。
【0056】
カルボン酸または他の酸性官能基を含む化合物の塩は、適当な塩基と反応させて調製できる。この様な薬学的に許容し得る塩を薬学的に許容し得るカチオンを与える塩基で生成し得るが、それらにはアルカリ金属(特にナトリウムおよびカリウム)塩、アルカリ土類金属(特にカルシウムおよびマグネシウム)塩、アルミニウム塩およびアンモニウム塩の他、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、ピコリン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルアミン、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミン、トリ(2−ヒドロキシエチル)アミン、プロカイン、ジベンジルピペリジン、N−ベンジル−β−フェネチルアミン、デヒドロアビエチルアミン、N,N’−ビスデヒドロアビエチルアミン、グルタミン、N−メチルグルカミン、コリデン、キニン、キノリン、およびリジンおよびアルギニン等の塩基性アミノ酸等の生理学的に許容し得る有機塩基から生成する塩が含まれる。
【0057】
本発明は本明細書に記載の化合物の医薬製剤を含む。医薬製剤は例えば経口(口腔または舌下を含む)、直腸、鼻腔、局所(口腔、舌下または経皮を含む)、膣または非経口(皮下、筋肉内、静脈内または経皮を含む)経路による任意の適当な経路による投与のために用いられる。この様な製剤を薬学の技術分野で周知の任意の方法、例えば活性成分を担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて調製し得る。
【0058】
医薬製剤を用量あたり所定量の活性成分を含む単位用量の形で提示され得る。この様な単位は処置する条件、投与経路および年齢、体重および患者の状態によって例えば約1μg〜10μg、約0.01mg〜1000mg、または約0.1mg〜250mgの活性成分である。一態様では、レチンアミド、レチニルまたはその模倣体を約10〜約100mg/日、または約100〜約500mg/日、または約500〜1000mg/日の用量で経口投与する。
【0059】
経口投与に適合させた医薬製剤は、カプセルまたは錠剤等の独立単位、粉末または顆粒;水性または非水性液体中の溶液または懸濁物;食用発泡体(foam)またはホイップ(whip);または水中油液体エマルジョンまたは油中水液体エマルジョンで提供し得る。
【0060】
経皮(transferal)投与に適合させた医薬製剤は、レシピエントの表皮と長期間密接に接触し続ける様な独立したパッチとして提供し得る。例えば、Pharmaceutical Research, 3(6), 318(1986)に一般に記載される様に活性成分がイオン導入によってパッチから送達できる。
【0061】
非経口投与に適合させた医薬製剤には、抗酸化剤の他に緩衝液、抗菌剤、および製剤を目的とするレシピエントの血液と等張にする溶質を含む水性および非水性滅菌注射液、および懸濁剤および粘度調整剤を含む水性および非水性懸濁液が含まれる。製剤を単位用量または複数用量の容器中、例えば密封アンプルおよびバイアルで提供し、使用直前に滅菌液体担体、例えば注射用水の添加のみが必要である凍結乾燥条件で保存し得る。即席の注射液または懸濁液を滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製してもよい。
【0062】
適当な医薬用担体または希釈剤は、典型的には医薬組成物の活性成分とほとんど相互作用しない不活性成分である。担体または希釈剤は生物適合性である、すなわち無毒性、非炎症性、非免疫原性であり、投与部位に何らの望ましくない他の反応がないことが必要である。当業者は投与の特定の方法または医薬組成物の特定のタイプ(例えばレチンアミドまたはレチニルエステルを含むもの)に適した担体または希釈剤を容易に選ぶことができる。薬学的に受容し得る担体および希釈剤の例には滅菌水、生理食塩水、抗菌性食塩水(約0.9mg/mlのベンジルアルコールを含む食塩水)、燐酸緩衝食塩水、Hank溶液、Ringer乳酸塩、市販不活性ゲル、またはアルブミン、メチルセルロースまたはコラーゲンマトリックスを含む液体サプリメントが含まれる。また別な担体および希釈剤の例にはラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトール等の糖類;例えばトウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、ポテト澱粉、ゼラチン、トラガントガム;メチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース調製物、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)が含まれる。必要あれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩等の崩壊剤を(例えば錠剤またはカプセルに)添加することができる。他の担体および希釈剤はRemington’s Pharmaceutical Science, Mack Publishing Company, Easton、PAに記載され、その内容を本明細書に参照により援用する。
【0063】
本発明の医薬組成物は、例えば本発明に開示したレチンアミドまたはレチニルエステルと、薬学的に活性な薬剤とを組み合わせ、任意に上記の希釈剤の担体の1つを含めて調製し得る。
【0064】
本発明には開示された化合物の薬学的に許容され得る塩も含まれる。化合物の電荷に応じて、塩は対イオンとして正イオンまたは負イオンを含む。燐酸基とアミン基の双方を含む化合物は過剰電荷を持たないと考えられる。この場合、燐酸およびアミン基は相互に対イオンとなるか、各基が外来対イオンを有してもよい。適当な陽イオンにはナトリウムおよびカリウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、カルシウムおよびマグネシウムイオン等のアルカリ土類イオン、および非置換または置換(1級、2級、3級および4級)アンモニウムイオンが含まれる。薬学的に許容し得る対イオンには塩素、臭素、酢酸、蟻酸、クエン酸、アスコルビン酸、硫酸および燐酸イオンが含まれる。
【0065】
本明細書で用いる用語「治療有効量」とは、所望の治療または診断効果または効力を達成するに必要な量を意味する。薬剤の実際の有効量は用いた特定の化合物の生物活性;使用された特定の薬剤または組み合わせ;処方した特定の成分;投与法;年齢、体重および患者の状態;処置する症状または状態の性質と重篤度;処置の頻度;他の治療法の施行;および所望する効果によって変化し得る。特定の患者に対する用量を、通常の考察により当業者が決定できる(例えば適当な通常の薬学的プロトコルにより)。
【0066】
製剤の一般的な情報については例えばGilmanら(編集)、1990, Goodman and Gilman’s: The Pharmacological Basis of Therapeutics, 第8版, Pergamon Press;およびRegimenton’s Pharmaceutical Science, 第17版, 1990, Mack Publishing Co., Easton, Pa;Avisら(編集), 1993, Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications, Dekker, New York;Liebarmanら(編集), 1990, Pharmaceutical Dosage Forms:Disperse System, Dekker, New York参照。本発明の化合物を通常の薬学的投与形態、例えば無被覆または(フィルム)被覆錠剤、カプセル、粉末、顆粒、座薬、懸濁液または溶液で投与できる。これらは通常の方法で製造できる。錠剤結合剤、充填剤、保存剤、錠剤崩壊剤、流動調節剤、可塑剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、溶剤、持続放出組成物、および/または抗酸化剤等の通常の医薬用助剤で活性物質をこの目的のために加工できる(H. Sueckerら、Pharmazeutische Technologie, Thieme−Verlag, Stuttgart, 1978参照)。この様にして得られる投与形態は、典型的には約1〜約90重量パーセントの活性物質を含む。
【0067】
個体のインスリン抵抗性の軽減法
RBP4は例えば肝細胞および脂肪細胞で産生される循環蛋白質である。RPB4はレチノールの細胞外輸送システムの一部である。RBP4はアポ型として粗面小胞体中で合成される。しかしながら、レチノールと複合体を生成しなければRBP4は小胞体から効率的に転送されない。さらに、RBP4はホモ4量体蛋白質であるトランスチレチン(TTR)と結合して血清中に優先的に見出される。TTR自体は甲状腺蛋白質の2個の分子と結合できるが、レチノール恒常性に関しては、腎臓における血漿濾過中は21kDaのRBP4の排出が阻止されると考えられる。従って、体内で製造または維持されるRBP4のレベルを変えることにより、RBP4の活性レベルを変化させることができる一方、(1)発生期RBP4の産生速度、(2)RBP4がレチノールと相互作用する能力、(3)RBP4がTTRと相互作用する能力、および(4)体内のRBP4の半減期を変えることにより変化し得る。さらに、例えばレチノール依存性シグナル伝達が影響される様に、RBP4がレチノールを細胞に送達する能力を変えることにより、RBP4活性が変化し得る。
【0068】
本発明に具体的に含まれるものは、ヒトを含む哺乳動物でインスリン抵抗性を減少させる方法であって、哺乳動物にRBP4活性を減少させる化合物を投与する工程を含む方法である。一態様では、哺乳動物はインスリン抵抗性の少なくとも1つの臨床症候を有する。具体的な態様では、個体に十分な量を投与した場合、その化合物は循環RBP4の減少を生じる。RBP4レベルの減少はRBP4レベルで任意の統計的に有意な減少率、例えば年齢、性別および個体の種別で調節してインスリン抵抗性状態で見出されるレベルと非インスリン抵抗性状態に関連するレベルとの間で少なくとも約20%の差である。より具体的な態様では、RBP4のレベルは例えば年齢、性別および個体の種別で調節してインスリン抵抗性状態で見いだされるレベルと非インスリン抵抗性状態と関連したレベルとの間で少なくとも約30または40または50または60または70%の差である。特に、既知のインスリン抵抗性または関連する状態を有する個体におけるRBP4レベルは、年齢、性別および種別で調節して、組織または循環系中でRBP4免疫反応性(ELISA、RIA、ネフロメトリー、ウエスタンブロッティング)に基づき非インスリン抵抗性状態と通常関連したレベル以上に上昇し、例えば個体のレベルと非インスリン抵抗性状態と関連するレベルとの間の差で例えば約40%〜60%、または約50%減少した。本発明に記載の分子/方法を用いると、インスリン抵抗性に関連するRBP4の活性のレベルは非インスリン抵抗性状態と関連するレベルへ戻る。
【0069】
本発明にはインスリン抵抗性および関連する状態の処置法も含まれる。具体的には、個体でインスリン抵抗性を減少する方法は、個体にRBP4の活性を減少または阻害または中和する化合物、すなわちRBP4活性を中和する試験化合物を投与する工程を含む。RBP4活性は上に述べられ、レチノールと結合する能力、トランスチレチンと相互作用する能力、レチノールを組織に送達し、組織および循環系における生物活性レチノイド−全トランスレチノイン酸、9−シス−レチノイン酸、11−シス−レチノイン酸、13−シス−レチノイン酸、全トランスレチナール、9−シス−レチナール、11−シス−レチナール、13−シス−レチナール、対応する異性体代謝物およびレチニルエステルが含まれるが、それらに限定されない−のレベルに影響する能力、および組織中のレチノイドレベルを調節し、その結果PPARγ−RXR、RAR−RAX、RXR−RXR、LXR−RXRおよび任意の核ホルモン受容体またはRARもしくはRXRと直接的もしくは間接的に相互作用するその他のシグナル伝達分子の調節を改変することによって核ホルモン受容体の活性に影響する能力が含まれる。これらの活性の任意の1つ、または複数を有することは、生物活性RBP4蛋白質または蛋白質断片を定義する。試験化合物がない場合の活性と比較して、試験化合物がある場合のインスリン抵抗性と関連するこれらの活性のうちの任意の活性の減少は、RBP4の活性を中和し、その結果インスリン抵抗性を減少する化合物を示す。
【0070】
特に、一態様では、例えばRBP4のトランスチレチンへの結合を妨害し、RBP4の排出を促進することにより、RBP4の血漿レベルが減少する。
【0071】
別の態様では、RBP4遺伝子発現を減少させることによりRPB4の血漿レベルが低下する。この様な方法は、例えば、RNAiまたはアンチセンスポリヌクレオチドを使用して、RBP4 mRNAの発現またはRBP4遺伝子の活性RBP4蛋白質への翻訳を減少または阻害する方法を包含し得る。また、RBP4が細胞、またはその担体蛋白質であるトランスチレチンへ結合する能力を阻害または減少する方法も包含し得る。この様な方法には、RBP4に特異的に結合し、蛋白質の細胞またはトランスチレチンへの結合を阻止する抗体(完全またはその断片)の使用も含まれ得る。本明細書に記載のスクリーニング法で同定される、RBP4の生物活性を阻害/減少する小分子等の他の分子も、インスリン抵抗性を減少するために適切であり得る。特に、本発明はRBP4のトランスチレチンへの結合を妨害し、循環系RBP4の腎臓クリアランス(すなわち尿中への排出)を増加させる小分子/薬剤も包含する。この様な小分子は例えばRBP4の結合部位/受容体と競合し、従ってRBP4の細胞/受容体担体蛋白質への結合を阻害する。この様な小分子には本明細書に記載したレチンアミドおよびレチニルエステルが含まれる。レチンアミドまたはレチニルエステルを本明細書に記載のフェンレチニドの代わりに哺乳動物に投与することができる。
【0072】
本明細書に記載の化合物および医薬組成物を適当な経路で投与することができる。投与の適当な経路には経口、腹腔内、皮下、筋肉内、経皮、直腸内、舌下、静脈内、口腔内または吸入が含まれるが、それに限定されない。本発明の化合物および医薬組成物を経口で投与することが好ましい。例えば、レチンアミドおよびレチニルエステルは経口摂取した場合に生体が利用し得ると期待される。経口投与された化合物の生物利用性を増進すると知られる医薬賦形剤を化合物に添加することができる。
【0073】
診断法
また、特異的インスリン抵抗性/代謝症候群代用マーカーを用いる、哺乳動物(例えばヒト)におけるインスリン抵抗性または代謝症候群等の関連する状態の診断法であって、そのマーカーはRBP4蛋白質、またはその断片(例えば生物活性断片または特徴的断片)である診断法も本発明に含まれる。
【0074】
また、個体から得られた生物学的試料中のRBP4の量を測定する工程を有する、個体中のインスリン抵抗性の診断法であって、年齢、性別、種別および(場合により)体重指数について正規化された、対照試料と比較した生物学的試料中のRBP4レベルの上昇がインスリン抵抗性を示す診断法も本発明に含まれる。生物学的試料は任意の適当な試料でよいが、具体的には血清試料または組織試料(例えば筋肉または脂肪組織)である。生物学的試料中のRBP4の正常レベルに対するRBP4の上昇したレベルの検出は、インスリン抵抗性または関連する状態を示す。任意の統計的に有意なRBP4レベルの上昇が、本発明の方法に含まれる。例えば、非インスリン抵抗性個体で見出されるレベルより少なくとも約1.3倍〜約1.5倍、または2倍以上のRBP4レベルの測定が上昇レベルである。
【0075】
上昇したRBP4タンパク質レベルをマーカーとして使用して、個体のインスリン抵抗性がスクリーニングされ診断され得る。1滴の血液を濾紙片上に置き、抗RBP4抗体を用いてRBP4の量を検出し定量することにより、RBP4レベルを生物学的試料、好ましくは血液試料からアッセイできる。濾紙を室温で保存してもRBP4レベルはアッセイに対して安定であり得る。Craft、J. Nutr. 131:1626S−1630S(2001)参照。この様な方法は大量スクリーニングに特に適している。この様な診断法は、RBP4に特異的に結合する抗体、またはその断片を使用するか、またはRBP4 RNAまたはDNAを検出する方法を使用し得る。
【0076】
RBP4蛋白質発現レベルを、本明細書に記載のインビトロ技術でも測定できる。パルス追跡アッセイを行うか、または蛋白質翻訳を阻害するシクロヘキシミド様薬剤を用いて、蛋白質の翻訳およびターンオーバー速度を細胞中で測定し得る。標識(すなわち放射性)抗RBP4抗体を被検体に導入し、標準イメージ化技術を用いて標識を可視化することにより、インビボ蛋白質検出を行うことができる。RBP4活性を検出することによるインスリン抵抗性を診断するための他の適当なアッセイ法は、先に記載されている。
【0077】
スクリーニングの目的の集団には肥満、代謝症候群、異常脂質血症、妊娠糖尿病の病歴、絶食時グルコース障害、グルコース耐性障害、および2型糖尿病の人が含まれる。これには肥満および2型糖尿病を有する、急速に増加する小児群が含まれる。
【0078】
本発明を以下の実施例でより具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を制限することを意味しない。
【実施例】
【0079】
(実施例)
I. インスリン抵抗性のマウスモデル
A. 脂肪組織グルコース輸送因子4(GLUT4)ノックアウトマウス(AG4KO)および脂肪組織Glut4過剰発現マウス(G4A+)
グルコース輸送因子GLUT4の脂肪組織選択性ノックアウトを有するマウスを作製するため、Cre/LoxP DNA組み換えを使用した。LoxP部位で囲まれたGLUT4遺伝子を含む遺伝子組み換えマウスを、選択的に脂肪組織中にCREリコンビナーゼを発現する遺伝子組み換えマウスと交配した。
【0080】
脂肪組織特異性プロモーターであるaP2をCre遺伝子と連結して、CREリコンビナーゼの脂肪組織特異性発現を行った。CREリコンビナーゼをコードする1.4kbのSacI/SalI相補DNAフラグメント(脂肪酸結合蛋白質aP2の5.4kbプロモーター/エンハンサーのすぐ下流に核局在化配列(NLS)を含み、かつコンセンサスポリアデニル化シグナルを含むことにより改変された)を、クローニングして、aP2−Cre組み換え遺伝子を作製した(図1)。コンストラクトをFVBマウス系統由来のマウス接合子の雄の前核中に注入した。2系統のaP2−CREマウスを調べた。双方の系統で、CRE発現は褐色脂肪組織(BAT)および白色脂肪組織(WAT)に限られていた(図2)。
【0081】
GLUT4 LoxP異接合マウスと上記CRE発現マウスとを交配してAG4KOマウスを得た。AG4KOマウスはCRE Lox/Lox遺伝子型を有し、予期したメンデル頻度で生まれた。従って、脂肪組織GLUT4がないことは、胚致死を生じなかった。aP2−CREマウスのいずれかの系統で作製した雄および雌AG4KOマウス(図3)のBATおよびWAT(精巣上体、卵巣周辺部および皮下)双方中で、GLUT4蛋白質レベルは70〜99%減少した。双方のAG4KO系統において、GLUT4発現は骨格筋および心臓中で保存されていた(図3)。脂肪組織中でGLUT4を過剰発現する遺伝子組み換えマウスをShepardら、J. Biol. Chem. 268:22243(1993)に記載の通りに作製した。
【0082】
B. AG4KOは全脂肪レベルおよび全体重に関して正常である
図4Aに示す様に、雄および雌AG4KOマウスの生育曲線は3〜16週齢の野生型と類似していた。AG4KOマウスにおける脂肪パッドの重量および脂肪細胞のサイズも、野生型と類似していた(それぞれ図4Bおよび図4C)。さらに、脂肪細胞の形態はAG4KOマウスで均一であった。従って、脂肪組織における選択性のGLUT4の減少は生育の遅れ、または脂肪組織重量または脂肪組織サイズの減少をもたらさない。AG4KOマウスの心臓の重さも野生型と類似していた。
【0083】
C. エクスビボにおいてAG4KOマウスは骨格筋GLUT4およびグルコース輸送に関して正常である
図5Aに示す様に、AG4KOマウスの骨格筋中のGLUT4発現は野生型と類似している。GLUT4発現をイムノブロッティングで測定した。組織を摘出し、ポリトン用メディウムおよび緩衝液(HEPES 50mM Triton(登録商標)X−100(ポリオキシエチレン)1%、ピロリン酸ナトリウム50mM、NaF100mM、EDTA10mM、バナジウム塩10mM、アプロチニン10μg/ml、ロイペプチン10μg/ml、ベンズアミジン2mM)を用いてホモジェナイズした。13,000gでの最初の遠心分離後、次いで上澄みを4℃、100,000gで1時間遠心分離した。得られた上澄みをAbelら、J. Clin. Invest., 104:1703−1714(1999)に従ってイムノブロッティングに使用した。
【0084】
さらに、エクスビボでAG4KO骨格筋中の基礎およびインスリン刺激グルコース輸送も野生型と類似していた(図5B)。エクスビボでグルコース輸送を測定するため、マウスを終夜絶食させ、CO2吸入で殺した。骨格筋を急いで切開し、Zismanら、Nature Med., 6:924−928(2000)に従ってグルコース輸送を測定した。
【0085】
D. AG4KOマウスはインスリン抵抗性(IR)であるが、G4A+マウスはインスリン抵抗性でない
図6Aに示す様に、AG4KO脂肪細胞中のグルコースの取り込みは損なわれている。グルコース輸送を測定するため、飼育マウス由来の卵巣周辺または副睾丸脂肪パッドから脂肪細胞をコラゲナーゼ消化(1mg/ml)で単離した。Satou、Y. およびSatou, N.、Dev. Biol. 192:467−481(1997)に従ってグルコース輸送を測定した。
【0086】
図6Bに示す様に、AG4KOマウスでグルコース耐性が損傷している。Abelら(上記)に従い、12時間の絶食後に起きているマウスでグルコース耐性試験を行った。
【0087】
正常血糖クランプ技術で示される様に、脂肪組織特異性GLUT4ノックアウトはインスリン抵抗性を生じる。図7Aは対照およびAG4KOマウスにおけるインスリン刺激全身グルコース取り込みを示す。個々の組織中への[14C]2−デオキシグルコースの取り込みを測定する正常血糖クランプ試験をKimら、J. Biol. Chem. 275:8456−8460(2000)に記載の通りに行った。示したデータは遺伝子型あたり5〜6匹のマウスに対する平均±SEMである(*は、対照に対しP<0.05)。インスリン刺激全身グルコース取り込みはAG4KOマウスで53%減少した。
【0088】
AG4KOマウスにおける肝臓グルコース産生は基礎状態で野生型と同様であったが、インスリンが肝臓グルコース産生を抑制する能力はAG4KOマウスで極端に損なわれた(図7B)。
【0089】
図8Aおよび8Bに示す様に、AG4KOマウスのWATおよびBAT中へのインスリン刺激グルコース輸送はインビボで明瞭に減少した。しかしながら、筋肉中でGLUT4の発現が保存されているにもかかわらず(図2)、AG4KOマウスの骨格筋中へのグルコース輸送もインビボで約40%損なわれた(図8C)ことは予想外であった。グルコース取り込みをKimら(上記)の記載通りに測定した。
【0090】
II. AG4KOマウスで血清RBP4が上昇する
A. AG4KOマウスのインスリン抵抗性は分泌因子で媒介される
インスリンシグナル伝達がAG4KOマウスの筋肉で損なわれる。図9に示す様に、GLUT4の活性化に必要なシグナル伝達工程であるインスリン受容体(図9A)およびIRS1(図9B)の活性化のレベルでもインスリン抵抗性が存在した。
【0091】
AG4KOマウス由来の血清は3T3−L1脂肪細胞中のグルコース輸送を阻害する。増加するインスリン濃度の存在下で、対照(FVB)マウス由来の血清、またはAG4KOマウス由来のいずれかの血清で処置した3T3−L1脂肪細胞中で2−デオキシグルコースの取り込みを測定した。図10に示す様に、AG4KOマウス由来の血清は、インスリンに反応する3T3−L1脂肪細胞による2−デオキシグルコースの取り込みを阻害し、AG4KO血清中のインスリン抵抗性を媒介する分泌因子の存在を示している。興味のあることに、RBP4の発現は3T3−L1細胞の分化中に誘導される(図16)。
【0092】
B. RBP4の同定
AG4KOマウスのインスリン抵抗性表現型に含まれる血清因子を同定するため、WAT RNAのマイクロアレイアッセイを行った。図11はマイクロアレイアッセイの概略を示す。白色脂肪組織由来の全RNAをRNeasy(登録商標)ミニキット(Qiagen、Valencia、CA製)を用いて抽出した。標識脂肪組織RNAをハイブリダイゼーション条件下でマウスオリゴヌクレオチド(MG−U74A v. 2、Affymetrix製)とインキュベーションした。マウスRBP4 mRNAをTaqMan(登録商標)ワンステップRT−PCRマスターミックス(Applied Biosystems製)と以下のプライマー/プローブセットを用いるリアルタイムPCRで定量した:
(順方向)配列番号1 TCTGTGGACGAGAAGGGTCAT
(逆方向)配列番号2 CCAGTTGCTCAGAAGACGGAC、および
(プローブ)配列番号3 TGAGCGCCACAGCCAAGGGAC
【0093】
対照マウス(CREおよびFVB)、および脂肪組織中でGLUT4を過剰発現するマウスと比較して、RBP4がAG4KOマウス中で逆制御されていると同定した(図13)。RBP4 mRNAの上方制御がRT−PCRで確認された(図12)。図13に示す様に、野生型(FVB)WATと比較してAG4KOマウス由来のWATはRBP4 mRNAレベルで2倍以上の増加を示した。図13に示す様に、RBP4 mRNAはAG4KOマウスで増加し、GLUT4を過剰発現するマウス(G4A+)由来の脂肪組織で減少した。脂肪組織中のmRNAレベルの変化と一致して、AG4KOマウス中の血清RBP4は対照(FBV)マウスと比較して2〜5倍増加した(図15B、上部パネル)。興味のあることに、GLUT4(CRE)に対して野生型マウスと比較して、RBP4 mRNAはAG4KOマウス由来の肝臓内で変化しない(図14)。
【0094】
高脂肪飼料で飼育した正常マウスで血清RBP4レベルが増加する。図15B(下部パネル)に示す様に、正規の飼料で飼育したFVBマウスと比較して高脂肪飼料で飼育したFVBマウスでは血清RBP4レベルが増加した。さらに、図15Aに示す様に、RBP4レベルの増加は体重の増加(左パネル)および血漿インスリンの増加(右パネル)と相関していた。
【0095】
血清または血漿を標準界面活性剤含有緩衝液中で20倍希釈し、15%SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロースに移して血清または血漿RBP4を測定した(Kim、Y. B. ら、Diabetes、48:310−320(1999))。マウスRBP4およびヒトRBP4を抗ラットおよび抗ヒトポリクローナル抗血清(DAKO、ドイツ製)をそれぞれ用い、次いで標準ECLで検出した。
【0096】
III. RBP4はインスリン抵抗性のマーカーであり、インスリン抵抗性処置を目的とする薬剤である
A. 血清RBP4は多くのマウスインスリン抵抗性モデルで上昇する
図15Bに示す様に、血清RBP4レベルは、脂肪−筋肉GLUT4ノックアウト(2倍)、脂肪組織11βHDS−1過剰発現体(代謝症候群に対するマウスプロトタイプ;3倍)、ob/obマウス(13倍)、MC4受容体ノックアウトマウス(3.5倍)、および高脂肪飼料(脂質55%)飼育マウス(2.8倍)を含むインスリン抵抗性マウスモデルで増加する。血清RBP4の上昇が様々な遺伝的および栄養原因論のインスリン抵抗性状態の一般的特徴であるという事実は、RBP4がインスリン抵抗性に寄与する可能性を提示する。
【0097】
B. インスリン抵抗性を軽減する薬剤がRBP4の増加を逆転させる
チアゾリジンジオン(TZD)はAG4KOマウスでグルコース恒常性を改善するインスリン感作薬である。図18AおよびBに示す様に、血糖および血液インスリンをAG4KOおよび対照マウスの双方でTZDクラス薬剤のない場合、および薬剤を注射後指定した時間で測定した。図18の*は対照に対する処置前後の0.05以下のP値を示す。#は処置後のGA4−/−マウスに対する0.05未満のP値を示し、“a”は処置前の対照に対する0.05未満のP値を示す。TZD処置はAG4KOマウスで血糖のレベルを有意に低下し、またこれらのマウスで血漿インスリンレベルも有意に低下した。驚くべきことに、AG4KOマウスをTZDクラスの薬剤で処置すると血清RBP4が減少した(図21)。
【0098】
AG4KOマウスをインスリン感作薬で3週間処置すると、そのインスリン抵抗性およびグルコース不耐性は完全に逆転した。この処置はまたAG4KOマウスの脂肪組織中のRBP4 mRNAの上昇を減少し(図25A);RBP4発現は肝臓で変化しなかった(図25B)。mRNAレベルをTaqMan(登録商標)リアルタイムPCRで測定した。処置はまた、AG4KOマウスにおける血清RBP4レベルの上昇を完全に正常化した(図25Cおよび25D)。このインスリン感作抗糖尿病薬の血清RBP4レベルに対する劇的な効果は、RBP4の上昇がインスリン抵抗性および2型糖尿病で原因となる役割を果たし得る可能性を提起する。
【0099】
グルコメーター(ワンタッチウルトラ(One Touch Ultra)、Lifescan製)で血漿グルコースを測定した。インスリン(Crystal Chemical製)、FFA(Wako製)およびアジポカイン(レプチン、アジポネクチンおよびレシスチン;LINCO Research製)を市販キットを用いて測定した。餌を取り除いた3〜4時間後に組み換え標準ヒトインスリンを腹腔内注射してITTを行った。記載される様に、異なったマウス系統および週齢毎に異なったインスリン用量を使用した。終夜の絶食後にグルコースの腹腔内注射(1または2gのD−グルコース/kg体重)によりGTTを行った。
【0100】
C. 血清RBPの上昇がインスリン抵抗性をもたらし、血清RBPの減少がインスリンの作用を改善する
遺伝子組み換えマウス
マウス筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターで作動するヒトRBP4を発現する遺伝子組み換えマウスは、血液中にRBP4を分泌し、非遺伝子組み換えマウスと比較して全血清RBP4が約2〜3倍増加する。BPR4遺伝子組み換えマウスは正常に発育し、生育曲線は少なくとも16週齢までは野生型マウスと同様であった。血清インスリンレベルは遺伝子組み換えマウスでより高かった(図21)。与えたグルコース、FSA、レプチン、アジポネクチン、またはレシスチンに差はなかった(図21)。RBP4過剰発現マウスは11週齢までに軽度のインスリン抵抗性を発症した(図22A)。
【0101】
RBP4注射
遺伝子組み換えマウスで胚発生の最初からRBP4の過剰発現の発生的または補償的効果が発達する可能性を避けるため、精製組み換えヒトRBP4(hRBP4)を正常な成体FVBマウスに注射した。RBP4は腎臓糸球体膜で容易に濾過される21kDa蛋白質である。循環系でRBP4はトランスチレチン(TTR)と結合し、RBP4の腎臓クリアランスを阻止する80kDa蛋白質複合体を形成する。外因性RBP4の薬力学を測定するため、0.5mgの組み換えhRBP4を腹腔内注射し、マウスRBP4に対しはるかに低い親和性を有する抗ヒトRBP4抗体を用いて血清hRBP4を測定した(図22B)。hRBP4を注射の10分後に検出可能であり、そのレベルは120分でピークに達した。240分でそのレベルはピークレベルの25%であり、迅速な減少を示した。注射したRBP4は注射後16時間(終夜)で血清から完全に消失した(図22B)。
【0102】
ヒトRBP4をE. coli中で発現させ、文献記載の方法に従って精製した(Wang、T. T. ら、Gene、133:291−294(1993);Xie, Y.ら、Protein Expr. Purif. 、14:31−37(1998))。SPYRO ruby(BioRad製)によるSDS−PAGE蛍光染色によれば組み換えRBP4蛋白質は完全に純粋であった。組み換えRBP4蛋白質はレチノールを化学量論的に結合し、精製トランスチレチンと正常に相互作用した。EndoTrapマトリックス(ProfosAG、ドイツ製)およびDetoxiゲル(Pierce製)への逐次的な親和性吸着によりエンドトキシンを除去した。精製RBP4蛋白質を10mM Hepes、100mM NaClを含む緩衝液中で透析し、7〜8mg/mlの保存濃度で凍結保存した。RBP4を含まない透析液をインビボ実験のために媒体対照溶液として使用するために保存した。
【0103】
外因性マウスRBP4濃度は約30〜40μg/mlである。RBP4の上昇が正常マウスでインスリン抵抗性を生じるかどうかを決定するため、3つの用量(3〜4μg/g体重)に分けた300μg/日/マウスの精製hRBP4を8〜10時間間隔で注射した。これにより、毎日のhRBP4の平均血清レベルは内在マウスRBP4より約3倍高いレベルとなった。RBP4精製の最終工程で得られた同じ容積の透析液を、対照マウスに注射した。RBP4を9〜12日間注射することにより、インスリン抵抗性(図22C)とグルコース不耐性(図22D)が現れた。
【0104】
RBP4ノックアウト
ビタミンA富化飼料で飼育した場合、RBP4ノックアウトマウス(RBP4KO)は体重が正常で生存能力があり、繁殖能力があったが(図21)、生後早くにレチノールレベルが減少し、視力が損なわれた。餌の摂取は正常であった。RBP4ノックアウトマウスは野生型マウスと比較してインスリン感受性が優れていた(図19)。対照と比較して、血清遊離脂肪酸レベルはRBP4異型接合体(Het)および同型接合体(KO)ノックアウトマウスでより低かった(図21)。与えられたインスリン、グルコース、レプチン、アジポネクチンおよびレシスチンは正常であった(図21)。RBP4 HetおよびRBP4 KOマウスの双方は、インスリン感受性の増大を示した(図23A)。
【0105】
フェンレチニド処理
遺伝子組み換え操作と独立にRBP4の効果を決めるため、成体FVBマウスを本来癌治療のために設計された合成レチノイドであるフェンレチニド(4−ヒドロキシフェニルレチンアミド、4−HPR)で処置した。嵩高い側鎖(ヒドロキシフェニル基)はRBP4とTTRとの相互作用を妨害し、RBP4を腎臓で排出しRBP4の血清レベルを低下させる(Malpeliら、Biochem. Biophys. Acta、1294:48−54(1996))。3週齢雄FVBマウスを固形飼料、高脂肪飼料または0.04%のフェンレチニドを添加した高脂肪飼料で飼育した。フェンレチニドゲルカプセルを空にし、餌を調製する時点でHarlan−Teklad研究所の高脂肪飼料の脂溶性ビタミン成分に直接添加した。フェンレチニド高脂肪飼料を調製する間は光暴露を最少にした。フェンレチニド高脂肪飼料を暗い場所で4℃で保存し、2〜3日間隔でマウスケージに置いた。フェンレチニドを経口投与すると、高脂肪飼料で飼育した肥満マウス(HFD)の血清RBP4レベルを固形飼料で飼育した非肥満対照マウスのレベルに低下した(図23Bおよび23C)。フェンレチニド処理は食物摂取、体重または高脂肪飼料飼育による肥満の発生に影響しなかった。HFDマウスは顕著なインスリン抵抗性(図23D)とグルコース不耐性(図23E)を発症した。フェンレチニド処理はインスリン感受性を改善し(図23D)、グルコース耐性を正常化した(図23E)。従って、RBP4レベルを減少する遺伝的および薬理学的介入は、肥満であってもインスリン感受性を改善する。
【0106】
ob/obマウスのフェンレチニド処理
フェンレチニド処理がob/obマウスのグルコース耐性を改善する
IPGTT(2mg/g体重)を食餌/処理の8週間後にマウス(12週齢)で行った(図26A)。指定された時間に血漿グルコースを測定した:白丸はob/+、黒丸はob/obマウス、白角はフェンレチニド処理ob/obマウスを表す。図26Aに示す様に、ob/obマウスをフェンレチニドで処理するとそのグルコース耐性を大きく改善した。
【0107】
フェンレチニド処理によりob/obマウスのグルコース耐性の改善が持続する
IPGTT(1mg/g体重)をマウス(42週齢)で行った。食餌/処理の38週後(図26B)、指定された時間に血漿グルコースを測定した:黒角はob/+、黒丸はフェンレチニド処理ob/+マウス、白角はob/ob、白丸はフェンレチニド処理ob/ob。図26Bに示す様に、フェレンチニド処置の38週間後に、グルコース排出はほぼ異型接合マウスのものに改善される。
【0108】
フェンレチニド処理はob/obマウスの長期罹患率を減少させる
フェンレチニドによる処置の10ヶ月後、未処置コントロール(白丸)およびob/+異型接合マウス(黒角)と比較してob/obマウス(黒丸)の長期罹患率はほとんど半分に減少した。10ヶ月齢のob/obマウスは重度の肥満であった。
【0109】
D. RBP4はマウスのPI3キナーゼ(PI3K)活性を変化させる
RBP4がどの様にインスリン感受性を変えるかを理解するため、RBP4 TgおよびKOマウスの筋肉および肝臓インスリンシグナル伝達を調べた。
【0110】
マウスを16〜18時間絶食し、食塩水またはインスリン(10U/kg体重)を静脈注射し、注射後3分で殺した。組織を集め凍結した。文献記載(Kim、Y. B. ら、Diabetes、48:311−320(1999))通りに筋肉および肝臓溶解液からのホスホチロシン免疫沈降でPI3K活性を測定した。
【0111】
PI3K活性の基礎レベルは全ての遺伝子型で同様であった(図24A〜24D)。インスリン刺激PI3K活性は対照マウスの筋肉中の26倍であったが、その効果はRBP4 Tgマウスで30%減少した(図24A)。逆に、対照と比較してRBP4 HetおよびRBP4 KOマウス双方の筋肉中でインスリン刺激PI3K活性は80%増加した(図24B)。しかしながら、RBP4 Tg(図24C)またはRBP4 KOマウス(図24D)の肝臓中でPI3K活性は変化しなかった。これらの観察と一致して、野生型マウスにRBP4を21日間注射すると、筋肉中のインスリン刺激PI3K活性が34%減少したが、肝臓では変化しなかった(図24E)。さらに、RBP4処理により、PI3Kのp85サブユニットのドッキングに対する重要な部位である残基612(図24F)におけるインスリン受容体基質−1(IRS1)のインスリン刺激チロシン燐酸化が24%減少した。しかしながら、RBP4処理はインスリン受容体(IR)チロシン燐酸化(図24G)、またはIRF1もしくはIR蛋白質の全量を変化させなかった。これらのデータは、RBP4がIRF1燐酸化およびPI3K活性化の段階における筋肉中のインスリンシグナル伝達に影響して、インスリン感受性を変化させることを示唆している。同様なポスト受容体欠陥が、AG4KOマウスの筋肉中で観察されたが、これは血清RBP4の上昇が2型糖尿病のこのモデルにおける全身インスリン抵抗性に寄与するという命題に一致している。
【0112】
IV. ヒトのデータが一致する
血清RBP4は肥満および肥満/糖尿病のヒトで上昇するが、痩せた非糖尿病のヒトでは上昇しない。肥満−糖尿病被験体は肥満−非糖尿病および痩せた非糖尿病対照被験体より年を取っていた(図20)。正常血糖−過インスリン血症クランプアッセイで測定した場合、痩せた非糖尿病被験体と比較して、肥満および肥満−糖尿病被験体のBMIおよび絶食時インスリンレベルは高く、GDRは低かった。図20Aは肥満および肥満/糖尿病のヒト由来の血清のイムノブロットを示す。図20Aに示す様に、肥満および肥満/糖尿病のヒトではRBP4レベルが上昇している。図20Bは、このレベルがほぼ2倍の増加であることを示している。肥満グループと肥満−糖尿病グループとの間の血清RBP4の上昇の大きさに差はなく、肥満とインスリン抵抗性がヒトにおける血清RBP4の上昇と関連するが、高血糖症は関連しないことを示唆している。
【0113】
本発明は好ましい態様を参照して具体的に示され、説明されてきたが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形式と詳細の様々な変化がなされ得ることを当業者は理解し得ると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、aP2−Cre導入遺伝子コンストラクトの模式図である。
【図2】図2は、遺伝子組み換えマウスの2つの独立な系統において、CRE発現が褐色および白色脂肪組織(それぞれBATおよびWAT)に限られることを示すノーザンブロットの代表例である。
【図3】図3は、野生型(WT)、および2つのaP2−Cre遺伝子組み換えマウス系統由来のGLUT4脂肪組織ノックアウトマウス(AG4KO)の周角(PG)、皮下(SQ)、WATおよびBAT、腓腹筋骨格筋および心臓におけるGLUT4の免疫ブロットの代表例を示す。
【図4A】図4はAは、AG4KOマウス(黒丸)がWTマウス(白丸)と比較して正常に生育することを示す、体重(グラム)対年齢(週)の生育曲線である。
【図4B】図4Bは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)における生殖腺脂肪組織の重さ(mg/マウス)を示す棒グラフである。
【図4C】図4Cは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)における脂肪細胞のサイズ(脂質μg/細胞)を比較する棒グラフである。
【図5A】図5Aは、WT、Lox/LoxおよびAG4KOマウス由来のGLUT4含有量を示す免疫ブロットである。
【図5B】図5Bは、AG4KOマウス(N=5)およびWTマウス(N=5)の単離筋肉中の基礎およびインスリン刺激グルコース取り込みを示す棒グラフである。
【図6A】図6Aは、AG4KOマウス(黒丸)および対照マウス(白丸)から単離された脂肪細胞中のインスリン刺激グルコース取り込みの容量反応曲線を示す。
【図6B】図6Bは、AG4KOマウス(黒丸)およびWT対照マウス(白丸)における、体重kgあたり1mgのグルコースを腹腔内注射後の血糖クリアランス(グルコース耐性試験、GTT;1mg/kg)を示す。
【図7A】図7Aは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)におけるインスリン刺激全身グルコース取り込みを示す。
【図7B】図7Bは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)におけるインスリンが存在下および非存在下の肝臓グルコース産生を示す。
【図8A】図8Aは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)由来の白色脂肪組織(WAT)中のインビボインスリン刺激2−デオキシグルコース輸送を示す。
【図8B】図8Bは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)由来の褐色脂肪組織(BAT)中のインビボインスリン刺激2−デオキシグルコース輸送を示す。
【図8C】図8Cは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)由来の筋肉中のインビボインスリン刺激2−デオキシグルコース輸送を示す。
【図9】図9は、対照(左の欄のセット)およびAG4KOマウス(右の欄のセット)由来のインスリン受容体(上部パネル)またはインスリン受容体代替物-1(IRS1:下部パネル)のインスリン刺激燐酸化の免疫ブロットを示す。
【図10】図10は、対照マウス由来の血清(左の群)またはAG4KOマウス由来の血清(右の群)の濃度が増加した場合の、3T3−L1脂肪細胞中のインスリン刺激2−デオキシグルコース取り込みを示す。
【図11】図11は、白色脂肪組織(WAT)RNAのマイクロアレーアッセイの概念図を示す。
【図12】図12は、野生型マウス(白丸)およびAF4KOマウス(黒丸)のWAT由来のrt−PCRにより測定したRBP4 mRNAレベルを示す。線は各群に対する平均値を示す。
【図13】図13は、G4AKOマウス(左中央の棒)、Creマウス(左の棒)、対照マウス(右中央の棒)およびGLUT4過剰発現マウス(右の棒)におけるRBP4 mRNA発現レベルを示す。
【図14】図14は、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)の肝臓におけるRBP4 mRNA発現レベルを示す。
【図15A】図15Aは、固形飼料飼育マウス(右の棒)および高脂肪飼料飼育マウス(左の棒)における体重(グラム;左のパネル)および血漿インスリン(ng/ml;右のパネル)の比較を示す。
【図15B】図15Bは、インスリン抵抗性マウスモデルにおけるRBP4蛋白質の血清レベルの免疫ブロットを示す;AG4KOマウス(上部パネル)、脂肪筋肉GLUT4ノックアウトマウス(2番目のパネル)、脂肪11βHSD−1過剰発現マウス(3番目のパネル)、MC4受容体ノックアウトマウス(4番目のパネル)、ob/obマウス(5番目のパネル)、および固形飼料または高脂肪飼料で飼育した対照マウス(下部パネル)。
【図16】図16は、3T3−L1細胞の分化の誘導後の指定した日におけるRBP4の免疫ブロットを示す。
【図17】図17Aは、TZD処置前(黒角)および処置後(白角)の対照マウスと比較した、チアゾリジンジオンクラス薬剤(TZD)処置前(白丸)および処置後(黒丸)のAG4KOマウスにおけるグルコース腹腔内注射(1mg/体重kg GTT)後の血糖レベルを示す。図17Bは、TZD処置前(黒角)および処置後(白角)の対照マウスと比較した、TZD処置前(白角)および処置後(黒角)のAG4KOマウスにおけるインスリンの腹腔内注射(0. 75U/kg体重、インスリン耐性試験、ITT)後の血糖の時間変化を示す。
【図18】図18は、TZD処置を行った場合と行わない場合の、対照マウス(右レーン)と比較したAG4KOマウス(左レーン)由来の血清RBP4の免疫ブロットを示す。
【図19】図19は、RBP4ノックアウトマウス(角形)および対照マウス(菱形)におけるインスリン注射(0.75U/kg体重)後の時間に対する血漿グルコース(時間0に対するパーセント)を示す。
【図20】図20Aは、痩身非糖尿病ヒト(左レーン)、肥満非糖尿病ヒト(上部パネル、右レーン)および肥満糖尿病ヒト(下部パネル、右レーン)由来の血清RBP4の免疫ブロットを示す。図20Bは、任意単位の図20Aからの結果の定量アッセイを示す。
【図21】図21は、MCK−RBP4遺伝子移入マウス(Tg)と野生型マウス(WT)、RBP4ノックアウトマウス(KO)と野生型(WT)および異型接合(Het)マウスとの指示されたパラメーターを比較する表である。
【図22】図22Aは、絶食後4時間にインスリン腹腔内注射(0.9U/kg体重)した12週齢野生型(WT)またはRBP4遺伝子組み換え(Tg)マウス(遺伝子型あたりn=7)の指定した時間に測定した血漿グルコースを示す。データは平均値±SEM、WTに対し*P<0.01。図22Bは、0.5mgの組み換えヒトRBP4(hRBP4)を腹腔内注射したFVBマウス由来の血清のウエスタンブロットである。指定した時間に血清を採取し、標準としてhRBP4を指定した濃度に希釈した。図22Cは、精製hRBP4を連日注射したマウスにおけるインスリン耐性試験(ITT)の結果を示す。注射の19日後にITT(0.9U/kgインスリン)を行った。対照マウスn=8、hRBP4注射マウスn=12、*P<0.01。図22Dは、精製hRBP4を連日注射したマウスにおけるグルコース耐性試験(GTT)の結果を示す。注射の9日後にGTT(1g/kgグルコース)を行った。対照マウスn=8、hRBP4注射マウスn=12、*P<0.01。
【図23】図23Aは、10週齢の雄RBP4KOマウスにおけるITTの結果を示す。インスリン(0.75U/kg)を腹腔内注射した。遺伝子型あたりn=7〜9。データは平均値±SEM、各データポイントにおけるWTに対する*P<0.01。図23Bは、固形飼料、高脂肪飼料(HFD)および0.05%フェンレチニドを含むHFDで6週間飼育したマウスにおける血清RBP4の代表的な免疫ブロットを示す。図23Cは、固形飼料、HFDおよびフェンレチニドを含むHFDで指定時間飼育したマウスにおける血清RBP4レベルの免疫ブロットの濃度計定量を示す;条件あたりn=8〜12。固形飼料に対し*P<0.05、HFDに対し#P<0.05。図23Dは、固形飼料、HFDおよびフェンレチニドを含むHFDで飼育したマウスにおけるITTの結果を示す。15週間の処置後、1.1U/kgのインスリンを用いてITTを行った。HFDおよび固形飼料に対し*P<0.05、HFDのみに対し#P<0.05、条件あたりn=6〜10匹。図23Eは、固形飼料、HFDおよびフェンレチニドを含むHFDで16週間飼育したマウスにおける、2g/kgのグルコースを用いるGTTの結果を示す(条件あたりn=8〜12匹)。フェンレチニドを含む固形飼料およびHFD、および固形飼料群に対し*P<0.01。
【図24】図24Aおよび24Bは、食塩水またはインスリン注射RBP4Tgマウス(A)およびRBP4KOマウス(B)の筋肉におけるPI3K活性を示す(食塩水に対しn=4、インスリンに対しn=6)。WTインスリンに対し*P<0.05、WTインスリンに対し**P<0.01。図24Cおよび27Dは、インスリン注射RBP4 Tgマウス(C)およびRBP4 KOマウス(D)の肝臓または食塩水中のPI3K活性を示す(食塩水でn=4、インスリンでn=6)。マウスは16週齢。PI3K活性を抗ホスホチロシン免疫沈澱物中で測定した。図24Eは、精製hRBP4を腹腔内注射した正常FVBマウスの筋肉および肝臓内のインスリン刺激PI3K活性を示す(インスリン処理媒体対象マウスでn=4、インスリン処理RBP4注射マウスでn=9)。食塩水注射マウス中のPI3K活性はグル−プ間で差がなかった。データは基礎(食塩水注射)レベルに対するインスリンによる刺激倍数で表現される。媒体対RBP4注射マウスに対し**P<0.01。図24Fは、精製ヒトRBP4を腹腔内注射した正常PVBマウスの筋肉内のインスリン受容体基質1(pY612)のインスリン刺激チロシン燐酸化を示す(インスリン処理媒体対象マウスでn= 、インスリン処理RBP4注射マウスでn=9)。IR燐酸化とIRS1燐酸化の基礎(食塩水注射)レベルはグループ間で差がなかった。各試料に対しIRS1またはIR蛋白質の全量につきデータを収集し、基礎レベルに対するインスリンによる刺激倍数で表した。媒体対照 対 RBP4注射マウス、**P<0.01。図24Gは、正常FVBマウスの筋肉中のインスリン受容体(pY972)のインスリン刺激チロシン燐酸化を示す。処置、試料サイズおよび統計処理は図24Eに記載と同じ。
【図25】図25Aは、TZD処理(+)または(−)、週齢11のAG4KOマウスおよび対照(FVB)マウスの脂肪組織におけるmRNAレベルを示す(条件あたりn=2〜6)。図25Bは、TZD処理または処理なしのAG4KOマウスまたは対照(FVB)マウスの肝臓由来のRBP4 mRNAレベルを示す(グループあたりn=6)。図25Cは、TZD処理前(−)および処理後(+)のAG4KOマウスおよび対照(FVB)マウス由来の血清RBP4レベルを示す;マウスは処理前で週齢8、処理後で週齢11であった。図25Dは、図25Cのウエスタンブロットの濃度計定量を示す。*は対照(TZD−)に対しP<0.05、および#はAG4KO(TZD−)に対しP<0.05。
【図26A】図26Aは、フェンレチニドで8週間処置したマウスにおけるIP−GTT(2mg/g体重)後の12週齢マウスの血漿グルコースレベルの時間変化を示す。白丸=ob/+マウス、黒丸=ob/obマウス、白角形=フェンレチニド処理ob/obマウス。
【図26B】図26Bは、フェンレチニドで8週間処置したマウスにおけるIP−GTT(1mg/g体重)後の42週齢マウスの血漿グルコースレベルの時間変化を示す。黒角形=ob/+マウス、黒丸=フェンレチニド処理ob/+マウス、白角形=ob/obマウス、白丸=フェンレチニド処理ob/obマウス。
【図26C】図26Cは、表示した時間におけるマウスの生存率を示す。黒角形=ob/+マウス、黒丸=フェンレチニド処理ob/obマウス、黒角形=ob/obマウス。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は2003年12月11日に出願された米国特許仮出願第60/528,919号の受益を請求する。上記出願の全教示を参照により本明細書に援用する。
(米国政府資金提供)
本発明は米国立衛生研究所の補助金RO1DK43051によりその全部または一部を援助された。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
筋肉および脂肪等の周辺組織におけるインスリン抵抗性は、膵臓β細胞によるインスリン分泌の増加と関連している。分泌されたインスリンはグルコース消費を促進し、肝臓によるグルコース産生を阻害する。しかしながら、膵臓β細胞は多くの場合インスリンの産生増加を維持することができず、最終的にインスリン産生の減少とグルコース不耐性をもたらす。
【0003】
インスリン抵抗性はまた、例えば血液中のグルコース濃度の増加、血液中のインスリン濃度の増加、インスリンに反応してグルコースを代謝する能力の減少、またはこれらの何れかの組み合わせが特徴である。インスリン抵抗性は2型糖尿病等の糖尿病のその後の発症の可能性を示唆していると考えられる。しかしながら、糖尿病がなくても、インスリン抵抗性は心臓血管病の主な危険因子である(Despresら、N. Engl. J. Med. 334:952−957(1996))。インスリン抵抗性と糖尿病におけるインスリン産生の喪失は血糖の増加または高血糖症をもたらす。また、高血糖症は腎臓障害、神経障害および網膜症等の長期疾患に寄与する。
【0004】
インスリン抵抗性はグルコースおよび脂質代謝異常、肥満、腎臓病、高血圧および心臓血管病の危険性の増大と関連している。インスリン抵抗性とこれらの他の異常性との関連は、「インスリン抵抗性症候群」または「代謝症候群」または「X症候群」と呼ばれる。特に、代謝症候群は肥満(特に中心性肥満)、異常脂質血症(特に高レベルのトリグリセリドと低レベルの高密度リポ蛋白質コレステロール)、高血糖症および高血圧の併発が特徴である。代謝症候群を有する人は、この症候のない人と比べて糖尿病または心臓血管病のリスクが高い(Meigs, J. B., BMJ:327, 61−62(2003))。
【0005】
インスリン応答性グルコース輸送因子GLUT4の発現の減少が、ヒトおよびげっ歯類におけるほとんど全てのインスリン抵抗性状態の脂肪細胞で見られる(Shepherd, P. R. およびCohn, B. B., N Engl. J. Med. 341:248−257(1999))。しかしながら、脂肪組織が全身グルコース消費にほとんど寄与しないので、GLUT4の発現の減少が全身性インスリン抵抗性に寄与する機構は明瞭でない。
【0006】
インスリン抵抗性とその後の糖尿病および心臓血管病の発症との関連、およびインスリン抵抗性の世界中での蔓延により、インスリン抵抗性と関連する疾患を軽減または緩和する治療を開発するための別な代謝または内分泌標的が必要である。また、ライフスタイル変化および/または薬剤療法によるできるだけ早期の介入を可能にするインスリン抵抗性、代謝症候群および2型糖尿病のまた別な検出/診断法も必要である。
【0007】
(発明の要旨)
本発明はインスリン抵抗性、代謝症候群および2型糖尿病に関連する症状および疾患を軽減または緩和する、治療の開発のために使用し得る分子または薬剤の検出および/または同定のための重要な新しい標的とスクリーニング法を提供する。本発明で初めて示される様に、血清レチノール結合蛋白質4(RBP4)の上昇はインスリン抵抗性を引き起こしグルコース耐性を損なうが、血清RBP4の低下はインスリンの作用とグルコース耐性を改善する。インスリン耐性のいくつかのマウスモデルの結果は、ヒトのデータで確認された。さらに、RBP4とトランスチレチンとの間の相互作用を妨害するレチンアミドでob/obマウスを処置すると、血漿RPB4レベルが低下し、長期の状態を減少する。RPB4はそれにより脂肪細胞におけるGLUT4の発現の下方制御が全身的なインスリン抵抗性を生じる機構的関連であると考えられる。
【0008】
本明細書で説明する様に、RBP4をインスリン抵抗性と、代謝症候群等の関連する状態に対する初期マーカーとして使用し得るが、その理由は、糖尿病および/または肥満等のインスリン抵抗性と関連する状態がない場合、またはその状態が生じる前でも、RBP4レベルの増加がヒトおよびマウスにおけるインスリン抵抗性と相関するからである。その上、RPB4はインスリン抵抗性を減少する治療を開発するための新しい標的である。さらに、インスリン抵抗性を有する患者におけるRBP4活性の減少は、インスリン抵抗性および関連する状態の処置のための新しい治療である。
【0009】
本発明はRBP4活性を調節する化合物の同定法に関連する。この方法はRBP4を試験化合物と接触させ、試験化合物の存在下のRBP4活性レベルを試験化合物の非存在下のRBP4活性レベルと比較し、RBP4活性の調節を測定する工程を有するが、RBP4活性の変化はRBP活性を調節する化合物を示唆する。
【0010】
本発明はまた、哺乳動物中のRBP4の循環レベルを減少する化合物の同定法に関する。かかる方法にはインビトロおよびインビボ法が含まれる。一態様では、その方法は試験化合物を哺乳動物に投与し、哺乳動物から試料(尿試料または血液試料等の試料)を採取し、試験化合物投与後の試料中のRBP4レベルと試験化合物投与前の対照試料中のRBP4レベルとを比較する工程を有するが、対照試料と比較して試験化合物投与後のRBP4の尿試料中の増加または血液試料中の減少は、RBP4の循環レベルを減少する化合物を示唆する。
【0011】
本発明はまた、哺乳動物におけるインスリン抵抗性の減少法に関する。この方法はRBP4活性を減少する化合物を哺乳動物に投与する工程を有する。
【0012】
本発明はまた、哺乳動物におけるインスリン抵抗性または関連する状態の診断法に関する。その方法は哺乳動物から得た生物学的試料中のRPB4活性を測定する方法であって、RBP4活性の増加がインスリン抵抗性または関連する状態を示唆する方法に関する。
【0013】
患者による絶食または特別な準備を要せず、RBP4は通常の採取条件下で安定な化合物であり、RBP4は皮膚刺通による1滴の血液または尿中で検出し得るので、RBP4をインスリン抵抗性または関連する状態に対するマーカーとして使用することは有利である。
【0014】
さらに、RBP4をインスリン抵抗性または関連する状態に対するマーカーとして使用することは、高血圧または高脂血症、および多嚢胞性卵巣症候群等の代謝症候群に対する別な基準を与え、2型糖尿病患者の肥満した、または肥満でない親族を含む多くの危険に晒された人々に有用である。RBP4レベルはまた、新たに診断した患者における1型と2型糖尿病を識別するために有用である。
【0015】
(発明の詳細な説明)
可溶性因子がインスリン抵抗性と相関し、その因子はRBP4であることが本発明で初めて明らかとなった。糖尿病および/または肥満でなくても、RBP4はインスリン抵抗性と相関している。従って、RBP4はインスリン抵抗性を減少する化合物のスクリーニングの他、インスリン抵抗性の早期診断と治療のための有用な標的である。本明細書に述べる様に、インスリン応答性グルコース輸送因子(GLUT4)が脂肪組織中で特異的にノックアウトされた場合、RBP4がマウスの血清中で上昇する(AG4KOマウス)。AG4KOはインスリン抵抗性に対するマウスモデルである。
【0016】
本明細書に示す様に、AG4KOマウスで血清RBP4レベルが上昇し、インスリン抵抗性であるが、脂肪含有量および脂肪細胞の形態ばかりでなく体重も正常であるので、RBP4をインスリン抵抗性、2型糖尿病等の糖尿病、および代謝症候群に対する早期マーカーとして使用し得る(実施例IB)。
【0017】
実施例IDに記載した様に、GLUT4発現が保存されているにもかかわらずこれらのマウス由来の筋肉中のインスリン刺激グルコース輸送がインビボで損なわれるので、可溶性因子はAG4KOマウスにおけるインスリン耐性の原因である。さらに、筋肉をエクスビボで試験した場合、GLUT4活性は正常である。さらに、実施例IIAに記載する様に、AG4KOマウス由来の血清は3T3−L1脂肪細胞中のグルコース輸送を阻害する。さらに、PRB4はAG4KOマウスの血清中で上昇することが同定され、実施例IIBで示す様に脂肪組織中でGLUT4を過剰発現するマウスの血清中で減少した。
【0018】
本明細書で示す様に、RBP4活性の修飾は、インスリン抵抗性とインスリン抵抗性に関連する状態との処置法の対象である。特に、RBP4活性の検出が、インスリン抵抗性とそれに関連する状態の処置に有用な化合物を同定するためのスクリーニング法に対する基礎となり得る。実施例IIICに示す様に、インスリン抵抗性を軽減するチアゾリジネン化合物もRBP4の増加を反転する。さらに、実施例IIIDに示す様に、RBP4とトランスチレチンとの間の相互作用を妨害し、尿中のRBP4分泌を増加する化合物であるフェンレチニドはインスリン感受性を改善し、高脂質飼料で飼育したラットのグルコース耐性を正常化した。実施例IIIDに示す様に、RBP4ノックアウトマウスはよりインスリン感受性であるが、その体重は対照マウスと比較して変化しなかった。さらに、インスリン抵抗性の他のマウスモデルでもRBP4レベルが上昇した(実施例III)。フェンレチニド処理がob/obマウスで長期罹患率を改善することが重要である(実施例IIIC)。
【0019】
ヒトのデータもマウスモデルデータと一致する。本明細書で述べる様に、血清RBP4レベルは肥満および肥満/糖尿病のヒトで上昇するが、痩身/非糖尿病のヒトでは上昇しない(実施例IV)。
【0020】
RBP4はレチノール依存性またはレチノール非依存性機構で作用し得る。理論に制約されるものではないが、レチノール含有量は主に食餌中の利用し得るレチノールに依存し、RBP4がレチノールの肝臓から肝臓外組織への輸送を媒介するので、血清RBP4レベルが上昇すると肝臓外組織中のインスリン作用に影響し得る(Blaner, W. S., Endocr. Rev. 10:308−316(1989))。これと一致して、本明細書に示す様に、RBP4過剰発現マウス(Tg)およびRBP4処置マウスの双方でインスリン抵抗性は筋肉中のインスリン刺激PI3K活性の低下と関連しているが、肝臓ではそうでない。RBP4がインスリン作用に影響するレチノール依存性機構には、レチノイン酸受容体(RAR)およびレチノイン酸X受容体(RXR)と相互作用し、遺伝子転写を制御するレチノールの活性形であるレチノイン酸異性体の産生増加、またはレチノイン酸異性体の組織代謝の変化が含まれるが(Chambon, P., FASEB J. 10:940−954(1996))、それに限定されるものではない。これと一致して、レチノイン酸依存性遺伝子(レチノイン酸受容体δ2および細胞レチノイン酸結合蛋白質I)のmRNAレベルの20〜46%の増加がRBP4過剰発現マウスの筋肉で観察された。
【0021】
RBP4はまた、レチノール非依存性機構によりインスリン抵抗性を生じ得る。RBP4は細胞内シグナル伝達を潜在的に修飾し得る細胞表面受容体と高い親和性および高い特異性で結合することが、事実から示唆されている(Sivaprasadarao, A. およびFindlay, J. P.、Bio Chem. J. 255:561−569(1998);Matarase, V. およびLodish, H. F.、J. Biol. Chem. 268:18859−18865(1993))。メガリン−gp320は末端組織で現在同定されている唯一のRBP4受容体であり、高分子複合体に対する非特異的受容体である(Christensen, E. I.ら、J. Am. Soc. Nephrol., 10:685−695(1999))。メガリン−RPB4相互作用は低親和性であり(Kd:2μM)、RBP4に対する高親和性受容体は同定されていない。RBP4のレチノール非依存性作用に対する別な可能性には非レチノイド分子の輸送と送達が含まれる。RBP4がレチノール以外の他の親油性分子を輸送し得る可能性は、インビトロで広い範囲の他のレチノイドを結合する能力により確認される(Bernie, R.ら、FASEB J., 7:1179−1184(1993))。RBP4はトランスチレチン機能も修飾し得る。
【0022】
血清RBP4の上昇がインスリン抵抗性に寄与する機構とは無関係に、本発明で最初に示された様に、フェンレチニド治療により血清RBP4を正常化することは、インスリン作用の改善と、インスリン抵抗性肥満マウスにおけるグルコース耐性をもたらす。さらに、ob/obマウスのフェンレチニド処置により、長期罹患率を減少する。理論に制約されるものではないが、RBP4の排出の増加は、フェンレチニドが肥満げっ歯類におけるインスリン抵抗性を反転する主な作用であると考えられる。フェンレチニドおよびその代謝物には活性レチノイドの必須の特徴である末端カルボキシル基がない。さらに、フェンレチニドはインビトロでRXRイソフォームを活性化せず、フェンレチニドのインスリン増感効果が選択的RXRアゴニスト(すなわちレキシノイド)の効果とは異なることを示している(Sheikh, M. S.ら、Carcinogenesis 16:2477−2478(1995);Um、S. J.ら、Cancer Letters 174:127−134(2001);Shen, Q.ら、J. Biol. Chem. 279:19721−19731(2004))。フェンレチニドがインスリン−グルコース恒常性を改善する別な機構もあり得るが、本発明で示す様に、RBP4−トランスチレチン相互作用がインスリン抵抗性および2型糖尿病と闘う薬剤の開発に対する新規標的である。
【0023】
RPB4活性を調節する化合物のスクリーニング法
本明細書に記載の様に、本発明はRPB4活性をインビボで(たとえば哺乳動物中)またはインビトロで調節する化合物の同定法に関し、その化合物がRBP4活性を調節する能力は以前には知られていなかった。
【0024】
同定法にはインビトロまたはインビボ法が含まれる。本発明の方法をRBP4活性を減少する化合物の同定、またはRBP4活性を増加する化合物の同定に使用できる。
【0025】
RPB4活性を調節する化合物同定の一態様では、適当な細胞、組織、血清、血漿または尿などの生物学的試料を少なくとも1種の試験化合物と接触させ、試験化合物の存在下の試料中のRBP4活性レベルを試験化合物の非存在下のRBP4活性レベルと比較するが、RBP4活性レベルの差がRBP4活性を調節する化合物を示している。
【0026】
本明細書に記載の様に、RBP4活性には例えばRBP4 mRNAまたは蛋白質の発現が含まれる。また、RBP4活性にはRBP4がTTRと結合する能力、RBP4がレチノールと結合する能力、RBP4が細胞と結合する能力、組織または循環系中のRBP4の安定性(例えば構造的または半減期)、RBP4がレチノールを細胞へ送達する能力、およびRBP4が細胞シグナル伝達を活性化する能力、例えば核ホルモン受容体の活性化が含まれる。
【0027】
一態様では、RBP4活性を調節する化合物は哺乳動物中のインスリン抵抗性のレベルを減少する。例えば、本明細書に示す様に、RBP4がTTRと相互作用する能力の低下は、インスリン抵抗性の低下と相関している。インスリン抵抗性症候群には例えばグルコース耐性の低下、インスリン刺激グルコース輸送の低下、インスリンシグナル伝達の低下、血清グルコースレベルの上昇、および/または血清インスリンレベルの上昇が含まれる。インスリン抵抗性のこれらの指標を、本明細書に記載する公知の標準法を用いて測定し得る。
【0028】
一態様では、RBP4活性はRBP4発現レベルであり、RBP4発現レベルが検出される。RBP4の発現を細胞または組織中のRBP4 mRNAのレベルを検出して測定できる。RNAレベル検出技術は当該分野で周知であり、逆転写酵素PCR(RT−PCR)、ノーザンブロッティングおよびRNAアーゼ保護アッセイが含まれる。さらに、RBP4 mRNA転写速度をRBP4プロモーターレポーターアッセイまたは核run-offアッセイを用いて測定できる。“Current Protocols in Molecular Biology”第1巻、第4章、John Wiley & Sons, Inc.(1997)参照。定量リアルタイムRT−PCRをRBP4 mRNAの安定性を評価するために用いることができる。Howeら、Clin. Chem.(2003);Bustin, S. A.、J. Mol. Endocrinol. 29(1):23−29(2002)参照。また、その教示は参照により本明細書に援用される、例えば米国特許第6,544,790号参照。RBP4発現をRBP蛋白質、またはその生物活性断片のレベルまたは濃度を検出して測定できる。例えば、RBP4またはその生物活性断片、またはその特徴的断片(すなわち無傷のRPB4蛋白質の全ての生物活性を持たないが、生物活性蛋白質を特異的に同定するために使用し得る断片)のレベルを検出するための特異的抗体結合(免疫または免疫反応法、例えばELISA、RIA、ネフロメトリーまたはウエスタンブロット)等を組織または細胞中で蛋白質/ペプチドレベルを検出するのに適した任意の方法を使用し得る。
【0029】
本明細書に記載の同定アッセイに用いるために適した細胞または組織には脂肪、肝臓および筋肉が含まれる。または、例えば本明細書に記載の方法は、試験化合物投与の前後の個人の血液中のRBP4レベルを比較し得る。血液試料には例えば全血、血漿または血清が含まれる。尿、糞便および他の体液も使用できる。
【0030】
本発明はまた、RBP4の細胞への結合を阻害する化合物のスクリーニング法に関する。例えば、この方法は試験化合物の存在下および非存在下でRBP4の脂肪細胞または筋肉細胞への結合を決定する方法であって、試験化合物の存在下でのRBP4の細胞への結合の減少は、試験化合物がRBP4の細胞への結合を減少させるに有効であることを示す方法である。
【0031】
RBP4の活性はまた、RBP4がその血中輸送蛋白質であるトランスチレチン(TTR)に結合する能力も包含する。従って、本発明にはRBP4のトランスチレチンへの結合を減少する能力で化合物をスクリーニングする方法、例えば試験化合物の存在下および非存在下でトランスチレチンに結合したRBP4の量を比較する方法も含まれ、RBP4のトランスチレチンへの結合の減少は、試験化合物がRBP4のトランスチレチンへの結合を阻害または減少する能力を示す。TTRへのRBP結合または結合の減少を評価するこの様なインビトロ法は当業者に周知である。
【0032】
RBP4がTTRへ結合する能力は、例えば固定化トランスチレチン(TTRとも呼ぶ)からRBP4の放出;固定化RBP4からTTRの放出;当該分野の標準技術を用いてモニターされるRBP4−TTR相互作用の阻害、例えば発色基標識またはEP融合蛋白質を用いて行われるFRET(蛍光共鳴エネルギー遷移)の消失、または固定化RBP4またはTTRによる表面プラズモン共鳴により測定し得る。
【0033】
本発明にはまた、RBP4がレチノールへ結合する能力を調節する能力で化合物をスクリーニングする方法も含まれる。この様な方法にはRBP4がレチノールに結合する能力を減少する化合物、およびRBP4がレチノールに結合する能力を増加する化合物を検出する、当該分野で周知の工程も含まれる。インビトロ結合アッセイは当業者に周知であり、例えばELISAおよびRIAを含み得る。
【0034】
このアッセイはRBP4プロモーター−レポーターアッセイ、インビトロmRNA翻訳および安定性アッセイ、初代肝細胞を用いるRBP4分泌アッセイ、または細胞培養条件(エクスビボ)またはインビトロにおけるRBP4安定性の半減期測定も含み得る。
【0035】
RBP4活性を調節する化合物を同定する方法には、RBP4がレチノールを組織に送達し、組織または循環系における生物活性レチノールのレベルに影響を与える能力を測定する方法が含まれる。特に、このアッセイは核ホルモン受容体のRBP4制御/活性化を調節する;PPARγシグナル伝達;RARシグナル伝達;RARシグナル伝達;LXRシグナル伝達;および直接または間接的にRARまたはRXRと相互作用する他の核受容体によるシグナル伝達を調節する分子を検出し得る。これらのアッセイはまた、LRATまたはCYP26 mRNA発現のRBP4制御を調節する分子を検出し得る。本明細書に記載のアッセイにはハイスループットアッセイが含まれる。
【0036】
RBP4活性を調節する化合物の同定法にはインビボ法も含まれる。例えば、本明細書に記載のインスリン抵抗性の動物モデルを使用し得る。RBP4活性および/またはインスリン抵抗性を試験するインビボ法は、例えば実施例の方法である。例えば、AG4KOマウス等のインスリン抵抗性を有するマウスを試験化合物有りまたは無しで処置し、次いでグルコース耐性試験またはインスリン耐性試験に供するが、グルコース耐性またはインスリン耐性の改善は、RBP4活性を調節する化合物であることを示す。別な態様では、血清中のRBP4レベルをマウスの2つのグループ間で比較するが、血液中のRBP4レベルの減少はRBP4活性を調節する化合物であることを示す。さらに、血糖および血漿インスリンレベルをマウスで測定し、非処置マウスと比較して処置マウスで血糖レベルの低下および/または血漿インスリンレベルの低下はRBP4活性を調節する化合物であることを示す。別の態様では、野生型マウスに高脂肪飼料を投与し、試験化合物で処置するかまたは処置しない。RBP4レベルを処置および未処置マウス間で比較し、RBP4レベルの減少はRBP4活性を調節する化合物であることを示す。さらに、高脂肪飼料で飼育した処置および未処置マウスにグルコース耐性試験またはインスリン耐性試験を行い、血糖レベルの減少または血漿インスリンレベルの減少はRBP4活性を調節し、その結果インスリン耐性を調節する化合物であることを示す。本明細書で用いる「調節」には活性の阻害および増加の両方が含まれるが、阻害は活性減少の測定可能なレベルであり、増加は活性の測定可能なレベルである。
【0037】
本明細書に記載の様に、RBP4活性を調節する任意の化合物は、インスリン抵抗性に関連する状態を軽減するための治療処置に有用である。
【0038】
RBP4およびTTRの結合を妨害し、循環RBP4の腎臓クリアランスを増加する化合物は、哺乳動物でインスリン抵抗性および関連する状態を処置するための候補である。候補分子を次にアッセイで試験し、その分子がインスリン抵抗性を減少する能力を確認する。
【0039】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、またはRBP4またはTTRに特異的に結合する抗体断片の何れかの抗体をRBP4/TTR結合を妨害するために使用できる。この様な特異的抗体の作製は当業者に周知である。
【0040】
RBP4とトランスチレチンとの結合を妨害する分子の例には、RBP4の天然リガンドを構造的に模擬する分子が含まれる。一態様では、その分子はレチンアミドまたはレチニルエステルまたはレチンアミド/レチニルエステル擬似体である。レチンアミドまたはレチニルエステルは循環系中でRBP4−TTR複合体を破壊し、RBP4を尿に排出し循環系RBP4レベルを下げる。本明細書に記載のレチンアミドまたはレチニルエステル等の分子は、レチノール、レチナールまたはレチノイン酸よりRBP4に対する結合親和性が高いことがある。一態様では、レチンアミドまたはレチニルエステルは少なくとも1個の嵩高い側鎖または他の補欠基を有する。別の態様では、レチンアミドまたはレチニルエステルはRBP4−TTR複合体を破壊し、レチノール依存性シグナル伝達に対する下流アゴニストとして作用させない。
【0041】
レチンアミドおよびレチニルエステルの全トランス異性体は以下の構造式(1)が特徴である。
【0042】
【化1】
【0043】
式中、Xは−NR’−または−O−であり;R1は置換もしくは非置換脂肪族またはアリール基であるか、置換もしくは非置換非芳香族複素環基であり;R’は水素または置換もしくは非置換脂肪族またはアリール基であるか、あるいは置換もしくは非置換非芳香族複素環である。構造式(1)が特徴である他の異性体分子、例えば7−シス、9−シス、11−シス、13−シス、またはその任意の組み合わせも、本発明に使用し得ることに留意する。9−シスおよび13−シス異性体は構造式(2)および(3)が特徴であり、XおよびR1は上記定義の通りである。
【0044】
【化2】
【0045】
【化3】
【0046】
典型的にはR1は置換または非置換アリールまたは低級アルキル基である。好ましくは、Xが−NR’−である場合、R1は4−ヒドロキシフェニル、3−ヒドロキシフェニルまたは2−ヒドロキシフェニル等の置換アリール基である。より好ましくは、Xが−NR’−である場合、R1は4−ヒドロキシフェニルである。または、Xが−O−である場合、R1は、好ましくは、メチル、エチル、プロピルまたはベンジル等の置換または非置換低級アルキル基である。
【0047】
好ましい態様では、分子は全トランス異性体である。より好ましくは、分子が構造式(1)の全トランスレチンアミドであり、Xは−NH−でありR1は4−ヒドロキシフェニルである。
【0048】
任意に、循環系中でRBP4−TTR複合体を破壊するレチンアミドまたはレチニルエステルはまた、細胞間レチノイン酸受容体(RXR)またはペルオキシゾーム増殖因子活性化因子受容体(PPAR)と結合し、それらの活性を代謝的に有益な方法で調節する。
【0049】
本明細書で用いる用語「脂肪族基」は非芳香族であり、炭素および水素のみで構成され、任意には少なくとも1個の不飽和、例えば二重および/または三重結合を含む。脂肪族鎖は直鎖、分枝または環状(すなわち「シクロ脂肪族」)であってもよい。直鎖または分枝である場合、脂肪族基は典型的には1〜約24炭素原子、より典型的には1〜約12炭素原子を含む。脂肪族基は低級アルキル基または低級アルキレン基であることが好ましく、C1〜24(好ましくはC1〜C12)直鎖または分枝飽和炭化水素を含む。アルキル基は分子内の飽和炭化水素であり、その炭素原子の1つから1個の共有単結合により分子内の他の基に結合している。低級アルキル基の例にはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、sec−ブチルおよびtert−ブチルが含まれる。アルキレン基は分子中の飽和炭化水素であり、その2個の炭素原子から1個の共有結合により分子内の他の2つの基に結合している。低級アルキレン基の例にはメチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン(−CH(CH2)CH2−)、ブチレン、sec−ブチレン(−CH(CH3)CH2CH2−)およびtert−ブチレン(−C(CH3)2CH2−)が含まれる。
【0050】
本明細書で用いる用語「アリール基」は「アリール」、「アリール環」、「芳香族基」および「芳香環」と互換的に使用し得る。芳香族基には環状炭素芳香族基とヘテロアリール環が含まれる。環状炭素芳香族基の例にはフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アンスラニルおよび2−アンスラニルが含まれる。用語「ヘテロアリール」、「ヘテロ芳香族」、「ヘテロアリール環」、「ヘテロアリール基」および「ヘテロ芳香族基」とは5〜14個の構成原子を有するヘテロ芳香族環を指し、単環へテロ芳香族環と多環芳香族環が含まれ、単環芳香族環は1個以上の他の環状炭素またはヘテロ芳香族環と融合している。ヘテロアリール基は少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する。ヘテロアリール基の例には2−フラニル、3−フラニル、N−イミダゾリル、2−イミダゾリル、4−イミダゾリル、5−イミダゾリル、3−イソキサゾリル、4−イソキサゾリル、5−イソキサゾリル、2−オキサジアゾリル、5−オキサジアゾリル、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、5−オキサゾリル、3−ピラゾリル、4−ピラゾリル、1−ピロリリル、2−ピロリリル、3−ピロリリル、2−ピリジル、4−ピリジル、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル、5−ピリミジニル、3−ピリダジニル、2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル、2−トリアゾリル、5−トリアゾリル、テトラゾリル、2−チエニル、3−チエニル、カルバゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾフラニル、インドリル、キノリニル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾキサゾリル、ベンズイミダゾリル、イソキノリニル、インドリル、イソインドリル、アクリジニルまたはベンズイソキサゾリルが含まれる。
【0051】
用語「非芳香族複素環基」とは典型的には5〜14個の構成素原子、好ましくは5〜10個の構成原子(member)を有する非芳香族環系であり、1個以上の環炭素、好ましくは1〜4個の環炭素がそれぞれN、OまたはS等のヘテロ原子で置換されている。非芳香族複素環基には3−1H−ベンジミダゾール−2−オン、3−テトラヒドロフラニル、2−テトラヒドロフラニル、3−テトラヒドロフラニル、4−テトラヒドロフラニル、[1,3]−ジオキサラニル、[1,3]−ジチオラニル、[1,3]−ジオキサニル、2−テトラヒドロチオフェニル、3−テトラヒドロチオフェニル、N−アゼチジニル、1−アゼチジニル、2−アゼチジニル、N−オキサゾリジニル、2−オキサゾリジニル、4−オキサゾリジニル、5−オキサゾリジニル、N−モルホリニル、2−モルホリニル、3−モルホリニル、N−チオモルホリニル、2−チオモルホリニル、3−チオモルホリニル、N−ピロリジニル、2−ピロリジニル、3−ピロリジニル、N−ピペラジニル、2−ピペラジニル、N−ピペリジニル、2−ピペリジニル、3−ピペリジニル、4−ピペリジニル、N−ピロリジニル、2−ピロリジニル、3−ピロリジニル、4−チアゾリジニル、ジアゾロニル、N−置換ジアゾロニル、1−フタリミジニル、ベンゾキサニル、ベンゾピロリジニル、ベンゾピペリジニル、ベンゾキソラニル、ベンゾチオラニル、ベンゾチアニル、テトラヒドロキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、アザビシクロペンチル、アザビシクロヘキシル、アザビシクロヘプチル、アザビシクロオクチル、アザビシクロノニル、アザビシクロデシル、ジアザビシクロヘキシル、ジアザビシクロヘキシル、ジアザビシクロオクチル、ジアザビシクロノニル、およびジアザビシクロデシルが含まれる。本明細書で用いる用語「非芳香族複素環基」にさらに含まれる基は、非芳香族へテロ原子含有環が、インドリル、クロマニル、フェナンスリジニルまたはテトラヒドロキノリニル基等の少なくとも1個の芳香族または非芳香族環と融合する基であり、ラジカルまたは接着点は非芳香族へテロ原子含有環上にある。
【0052】
アルキルもしくはアルケニル基等の脂肪族基またはアリール基上の適当な置換基は、開示された化合物の阻害活性、例えばRBP4への結合および循環系中のRBP4−TTR複合体の破壊を実質的に妨害しない基である。適当な置換基の例には−OH、ハロゲン(−Br、−Cl、−I、−F)、−ORa、−O−CORa、CORa、−CN、−NCS、−NO2、−COOH、SO3H、−NH2、−NHRa、−N(RaRb)、−COORa、−CHO、−CONH2、−CONHRa、−CON(RaRb)、NHCORa、−NRbCORa、−NHCONH2、−NHCONRaH、−NHCON(RaRb)、−NRbCONH2、−NRbCONRaH、−NRcCON(RaRb)、−C(=NH)−NH2、−C(=NH)−NHRa、−C(=NH)−N(RaRb)、−C(=NRc)−NH2、−C(=NRc)−NHRa、−C(=NRc)−N(RaRb)、−NH−C(=NH)−NH2、−NH−C(=NH)NHRa、−NH−C(=NH)N(RaRb)、−NH−C(=NRc)−NH2、−NH−C(=NRc)−NHRa、−NH−C(=NRc)−N(RaRb)、−NRdH−C(=NH)−NH2、−NRd−C(=NH)−N(RaRb)、−NRd−C(=NRc)−NH2、−NRd−C(=NRc)−NHRa、−NRd−C(=NRc)−N(RaRb)、−NHNH2、−NHNHRa、−NHRaRb、−SO2NH2、−SO2NHRa、−SO2NRaRb、−SH、−SRa、−S(O)Ra、および−S(O2)Raが含まれる。さらに、アルキルまたはアルケニル基等の脂肪族基を置換または非置換アリール基で置換し、例えばベンジル等のアラルキル基とすることができる。同様に、アリール基を置換または非置換アルキルまたはアルケニル基で置換することができる。
【0053】
Ra〜Rdは、各々、独立して、アルキル基、芳香族基、非芳香族複素環基であり、または−N(RaRb)が一緒になって置換または非置換非芳香族複素環基を形成する。
【0054】
RBP4とTTRとの結合を妨害する分子の例には、RBP4またはTTRの何れかと特異的に結合する抗体またはその断片が含まれる。
【0055】
さらに、開示されたレチンアミドおよびレチニルエステルの薬学的に許容し得る塩も本発明に含まれる。例えば、その化合物を塩化水素、臭化水素酸、酢酸、過塩素酸等の適当な有機または無機塩と反応させてアミンまたは他の塩基性基を含む化合物の酸塩が得られる。4級アンモニウム基を有する化合物も、塩素、臭素、沃素、酢酸、過塩素酸等の対イオンを含む。この様な塩の他の例には塩化水素、臭化水素、硫酸、メタンスルホン酸、硝酸、マレイン酸、酢酸、クエン酸、フマル酸、酒石酸(例えば(+)−酒石酸、(−)−酒石酸またはラセミ混合物を含むその混合物)、コハク酸、安息香酸の塩、およびグルタミン酸等のアミノ酸の塩が含まれる。
【0056】
カルボン酸または他の酸性官能基を含む化合物の塩は、適当な塩基と反応させて調製できる。この様な薬学的に許容し得る塩を薬学的に許容し得るカチオンを与える塩基で生成し得るが、それらにはアルカリ金属(特にナトリウムおよびカリウム)塩、アルカリ土類金属(特にカルシウムおよびマグネシウム)塩、アルミニウム塩およびアンモニウム塩の他、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、ピリジン、ピペリジン、ピコリン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルアミン、ビス(2−ヒドロキシエチル)アミン、トリ(2−ヒドロキシエチル)アミン、プロカイン、ジベンジルピペリジン、N−ベンジル−β−フェネチルアミン、デヒドロアビエチルアミン、N,N’−ビスデヒドロアビエチルアミン、グルタミン、N−メチルグルカミン、コリデン、キニン、キノリン、およびリジンおよびアルギニン等の塩基性アミノ酸等の生理学的に許容し得る有機塩基から生成する塩が含まれる。
【0057】
本発明は本明細書に記載の化合物の医薬製剤を含む。医薬製剤は例えば経口(口腔または舌下を含む)、直腸、鼻腔、局所(口腔、舌下または経皮を含む)、膣または非経口(皮下、筋肉内、静脈内または経皮を含む)経路による任意の適当な経路による投与のために用いられる。この様な製剤を薬学の技術分野で周知の任意の方法、例えば活性成分を担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて調製し得る。
【0058】
医薬製剤を用量あたり所定量の活性成分を含む単位用量の形で提示され得る。この様な単位は処置する条件、投与経路および年齢、体重および患者の状態によって例えば約1μg〜10μg、約0.01mg〜1000mg、または約0.1mg〜250mgの活性成分である。一態様では、レチンアミド、レチニルまたはその模倣体を約10〜約100mg/日、または約100〜約500mg/日、または約500〜1000mg/日の用量で経口投与する。
【0059】
経口投与に適合させた医薬製剤は、カプセルまたは錠剤等の独立単位、粉末または顆粒;水性または非水性液体中の溶液または懸濁物;食用発泡体(foam)またはホイップ(whip);または水中油液体エマルジョンまたは油中水液体エマルジョンで提供し得る。
【0060】
経皮(transferal)投与に適合させた医薬製剤は、レシピエントの表皮と長期間密接に接触し続ける様な独立したパッチとして提供し得る。例えば、Pharmaceutical Research, 3(6), 318(1986)に一般に記載される様に活性成分がイオン導入によってパッチから送達できる。
【0061】
非経口投与に適合させた医薬製剤には、抗酸化剤の他に緩衝液、抗菌剤、および製剤を目的とするレシピエントの血液と等張にする溶質を含む水性および非水性滅菌注射液、および懸濁剤および粘度調整剤を含む水性および非水性懸濁液が含まれる。製剤を単位用量または複数用量の容器中、例えば密封アンプルおよびバイアルで提供し、使用直前に滅菌液体担体、例えば注射用水の添加のみが必要である凍結乾燥条件で保存し得る。即席の注射液または懸濁液を滅菌粉末、顆粒および錠剤から調製してもよい。
【0062】
適当な医薬用担体または希釈剤は、典型的には医薬組成物の活性成分とほとんど相互作用しない不活性成分である。担体または希釈剤は生物適合性である、すなわち無毒性、非炎症性、非免疫原性であり、投与部位に何らの望ましくない他の反応がないことが必要である。当業者は投与の特定の方法または医薬組成物の特定のタイプ(例えばレチンアミドまたはレチニルエステルを含むもの)に適した担体または希釈剤を容易に選ぶことができる。薬学的に受容し得る担体および希釈剤の例には滅菌水、生理食塩水、抗菌性食塩水(約0.9mg/mlのベンジルアルコールを含む食塩水)、燐酸緩衝食塩水、Hank溶液、Ringer乳酸塩、市販不活性ゲル、またはアルブミン、メチルセルロースまたはコラーゲンマトリックスを含む液体サプリメントが含まれる。また別な担体および希釈剤の例にはラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトール等の糖類;例えばトウモロコシ澱粉、コムギ澱粉、コメ澱粉、ポテト澱粉、ゼラチン、トラガントガム;メチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース調製物、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)が含まれる。必要あれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩等の崩壊剤を(例えば錠剤またはカプセルに)添加することができる。他の担体および希釈剤はRemington’s Pharmaceutical Science, Mack Publishing Company, Easton、PAに記載され、その内容を本明細書に参照により援用する。
【0063】
本発明の医薬組成物は、例えば本発明に開示したレチンアミドまたはレチニルエステルと、薬学的に活性な薬剤とを組み合わせ、任意に上記の希釈剤の担体の1つを含めて調製し得る。
【0064】
本発明には開示された化合物の薬学的に許容され得る塩も含まれる。化合物の電荷に応じて、塩は対イオンとして正イオンまたは負イオンを含む。燐酸基とアミン基の双方を含む化合物は過剰電荷を持たないと考えられる。この場合、燐酸およびアミン基は相互に対イオンとなるか、各基が外来対イオンを有してもよい。適当な陽イオンにはナトリウムおよびカリウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、カルシウムおよびマグネシウムイオン等のアルカリ土類イオン、および非置換または置換(1級、2級、3級および4級)アンモニウムイオンが含まれる。薬学的に許容し得る対イオンには塩素、臭素、酢酸、蟻酸、クエン酸、アスコルビン酸、硫酸および燐酸イオンが含まれる。
【0065】
本明細書で用いる用語「治療有効量」とは、所望の治療または診断効果または効力を達成するに必要な量を意味する。薬剤の実際の有効量は用いた特定の化合物の生物活性;使用された特定の薬剤または組み合わせ;処方した特定の成分;投与法;年齢、体重および患者の状態;処置する症状または状態の性質と重篤度;処置の頻度;他の治療法の施行;および所望する効果によって変化し得る。特定の患者に対する用量を、通常の考察により当業者が決定できる(例えば適当な通常の薬学的プロトコルにより)。
【0066】
製剤の一般的な情報については例えばGilmanら(編集)、1990, Goodman and Gilman’s: The Pharmacological Basis of Therapeutics, 第8版, Pergamon Press;およびRegimenton’s Pharmaceutical Science, 第17版, 1990, Mack Publishing Co., Easton, Pa;Avisら(編集), 1993, Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications, Dekker, New York;Liebarmanら(編集), 1990, Pharmaceutical Dosage Forms:Disperse System, Dekker, New York参照。本発明の化合物を通常の薬学的投与形態、例えば無被覆または(フィルム)被覆錠剤、カプセル、粉末、顆粒、座薬、懸濁液または溶液で投与できる。これらは通常の方法で製造できる。錠剤結合剤、充填剤、保存剤、錠剤崩壊剤、流動調節剤、可塑剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、溶剤、持続放出組成物、および/または抗酸化剤等の通常の医薬用助剤で活性物質をこの目的のために加工できる(H. Sueckerら、Pharmazeutische Technologie, Thieme−Verlag, Stuttgart, 1978参照)。この様にして得られる投与形態は、典型的には約1〜約90重量パーセントの活性物質を含む。
【0067】
個体のインスリン抵抗性の軽減法
RBP4は例えば肝細胞および脂肪細胞で産生される循環蛋白質である。RPB4はレチノールの細胞外輸送システムの一部である。RBP4はアポ型として粗面小胞体中で合成される。しかしながら、レチノールと複合体を生成しなければRBP4は小胞体から効率的に転送されない。さらに、RBP4はホモ4量体蛋白質であるトランスチレチン(TTR)と結合して血清中に優先的に見出される。TTR自体は甲状腺蛋白質の2個の分子と結合できるが、レチノール恒常性に関しては、腎臓における血漿濾過中は21kDaのRBP4の排出が阻止されると考えられる。従って、体内で製造または維持されるRBP4のレベルを変えることにより、RBP4の活性レベルを変化させることができる一方、(1)発生期RBP4の産生速度、(2)RBP4がレチノールと相互作用する能力、(3)RBP4がTTRと相互作用する能力、および(4)体内のRBP4の半減期を変えることにより変化し得る。さらに、例えばレチノール依存性シグナル伝達が影響される様に、RBP4がレチノールを細胞に送達する能力を変えることにより、RBP4活性が変化し得る。
【0068】
本発明に具体的に含まれるものは、ヒトを含む哺乳動物でインスリン抵抗性を減少させる方法であって、哺乳動物にRBP4活性を減少させる化合物を投与する工程を含む方法である。一態様では、哺乳動物はインスリン抵抗性の少なくとも1つの臨床症候を有する。具体的な態様では、個体に十分な量を投与した場合、その化合物は循環RBP4の減少を生じる。RBP4レベルの減少はRBP4レベルで任意の統計的に有意な減少率、例えば年齢、性別および個体の種別で調節してインスリン抵抗性状態で見出されるレベルと非インスリン抵抗性状態に関連するレベルとの間で少なくとも約20%の差である。より具体的な態様では、RBP4のレベルは例えば年齢、性別および個体の種別で調節してインスリン抵抗性状態で見いだされるレベルと非インスリン抵抗性状態と関連したレベルとの間で少なくとも約30または40または50または60または70%の差である。特に、既知のインスリン抵抗性または関連する状態を有する個体におけるRBP4レベルは、年齢、性別および種別で調節して、組織または循環系中でRBP4免疫反応性(ELISA、RIA、ネフロメトリー、ウエスタンブロッティング)に基づき非インスリン抵抗性状態と通常関連したレベル以上に上昇し、例えば個体のレベルと非インスリン抵抗性状態と関連するレベルとの間の差で例えば約40%〜60%、または約50%減少した。本発明に記載の分子/方法を用いると、インスリン抵抗性に関連するRBP4の活性のレベルは非インスリン抵抗性状態と関連するレベルへ戻る。
【0069】
本発明にはインスリン抵抗性および関連する状態の処置法も含まれる。具体的には、個体でインスリン抵抗性を減少する方法は、個体にRBP4の活性を減少または阻害または中和する化合物、すなわちRBP4活性を中和する試験化合物を投与する工程を含む。RBP4活性は上に述べられ、レチノールと結合する能力、トランスチレチンと相互作用する能力、レチノールを組織に送達し、組織および循環系における生物活性レチノイド−全トランスレチノイン酸、9−シス−レチノイン酸、11−シス−レチノイン酸、13−シス−レチノイン酸、全トランスレチナール、9−シス−レチナール、11−シス−レチナール、13−シス−レチナール、対応する異性体代謝物およびレチニルエステルが含まれるが、それらに限定されない−のレベルに影響する能力、および組織中のレチノイドレベルを調節し、その結果PPARγ−RXR、RAR−RAX、RXR−RXR、LXR−RXRおよび任意の核ホルモン受容体またはRARもしくはRXRと直接的もしくは間接的に相互作用するその他のシグナル伝達分子の調節を改変することによって核ホルモン受容体の活性に影響する能力が含まれる。これらの活性の任意の1つ、または複数を有することは、生物活性RBP4蛋白質または蛋白質断片を定義する。試験化合物がない場合の活性と比較して、試験化合物がある場合のインスリン抵抗性と関連するこれらの活性のうちの任意の活性の減少は、RBP4の活性を中和し、その結果インスリン抵抗性を減少する化合物を示す。
【0070】
特に、一態様では、例えばRBP4のトランスチレチンへの結合を妨害し、RBP4の排出を促進することにより、RBP4の血漿レベルが減少する。
【0071】
別の態様では、RBP4遺伝子発現を減少させることによりRPB4の血漿レベルが低下する。この様な方法は、例えば、RNAiまたはアンチセンスポリヌクレオチドを使用して、RBP4 mRNAの発現またはRBP4遺伝子の活性RBP4蛋白質への翻訳を減少または阻害する方法を包含し得る。また、RBP4が細胞、またはその担体蛋白質であるトランスチレチンへ結合する能力を阻害または減少する方法も包含し得る。この様な方法には、RBP4に特異的に結合し、蛋白質の細胞またはトランスチレチンへの結合を阻止する抗体(完全またはその断片)の使用も含まれ得る。本明細書に記載のスクリーニング法で同定される、RBP4の生物活性を阻害/減少する小分子等の他の分子も、インスリン抵抗性を減少するために適切であり得る。特に、本発明はRBP4のトランスチレチンへの結合を妨害し、循環系RBP4の腎臓クリアランス(すなわち尿中への排出)を増加させる小分子/薬剤も包含する。この様な小分子は例えばRBP4の結合部位/受容体と競合し、従ってRBP4の細胞/受容体担体蛋白質への結合を阻害する。この様な小分子には本明細書に記載したレチンアミドおよびレチニルエステルが含まれる。レチンアミドまたはレチニルエステルを本明細書に記載のフェンレチニドの代わりに哺乳動物に投与することができる。
【0072】
本明細書に記載の化合物および医薬組成物を適当な経路で投与することができる。投与の適当な経路には経口、腹腔内、皮下、筋肉内、経皮、直腸内、舌下、静脈内、口腔内または吸入が含まれるが、それに限定されない。本発明の化合物および医薬組成物を経口で投与することが好ましい。例えば、レチンアミドおよびレチニルエステルは経口摂取した場合に生体が利用し得ると期待される。経口投与された化合物の生物利用性を増進すると知られる医薬賦形剤を化合物に添加することができる。
【0073】
診断法
また、特異的インスリン抵抗性/代謝症候群代用マーカーを用いる、哺乳動物(例えばヒト)におけるインスリン抵抗性または代謝症候群等の関連する状態の診断法であって、そのマーカーはRBP4蛋白質、またはその断片(例えば生物活性断片または特徴的断片)である診断法も本発明に含まれる。
【0074】
また、個体から得られた生物学的試料中のRBP4の量を測定する工程を有する、個体中のインスリン抵抗性の診断法であって、年齢、性別、種別および(場合により)体重指数について正規化された、対照試料と比較した生物学的試料中のRBP4レベルの上昇がインスリン抵抗性を示す診断法も本発明に含まれる。生物学的試料は任意の適当な試料でよいが、具体的には血清試料または組織試料(例えば筋肉または脂肪組織)である。生物学的試料中のRBP4の正常レベルに対するRBP4の上昇したレベルの検出は、インスリン抵抗性または関連する状態を示す。任意の統計的に有意なRBP4レベルの上昇が、本発明の方法に含まれる。例えば、非インスリン抵抗性個体で見出されるレベルより少なくとも約1.3倍〜約1.5倍、または2倍以上のRBP4レベルの測定が上昇レベルである。
【0075】
上昇したRBP4タンパク質レベルをマーカーとして使用して、個体のインスリン抵抗性がスクリーニングされ診断され得る。1滴の血液を濾紙片上に置き、抗RBP4抗体を用いてRBP4の量を検出し定量することにより、RBP4レベルを生物学的試料、好ましくは血液試料からアッセイできる。濾紙を室温で保存してもRBP4レベルはアッセイに対して安定であり得る。Craft、J. Nutr. 131:1626S−1630S(2001)参照。この様な方法は大量スクリーニングに特に適している。この様な診断法は、RBP4に特異的に結合する抗体、またはその断片を使用するか、またはRBP4 RNAまたはDNAを検出する方法を使用し得る。
【0076】
RBP4蛋白質発現レベルを、本明細書に記載のインビトロ技術でも測定できる。パルス追跡アッセイを行うか、または蛋白質翻訳を阻害するシクロヘキシミド様薬剤を用いて、蛋白質の翻訳およびターンオーバー速度を細胞中で測定し得る。標識(すなわち放射性)抗RBP4抗体を被検体に導入し、標準イメージ化技術を用いて標識を可視化することにより、インビボ蛋白質検出を行うことができる。RBP4活性を検出することによるインスリン抵抗性を診断するための他の適当なアッセイ法は、先に記載されている。
【0077】
スクリーニングの目的の集団には肥満、代謝症候群、異常脂質血症、妊娠糖尿病の病歴、絶食時グルコース障害、グルコース耐性障害、および2型糖尿病の人が含まれる。これには肥満および2型糖尿病を有する、急速に増加する小児群が含まれる。
【0078】
本発明を以下の実施例でより具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を制限することを意味しない。
【実施例】
【0079】
(実施例)
I. インスリン抵抗性のマウスモデル
A. 脂肪組織グルコース輸送因子4(GLUT4)ノックアウトマウス(AG4KO)および脂肪組織Glut4過剰発現マウス(G4A+)
グルコース輸送因子GLUT4の脂肪組織選択性ノックアウトを有するマウスを作製するため、Cre/LoxP DNA組み換えを使用した。LoxP部位で囲まれたGLUT4遺伝子を含む遺伝子組み換えマウスを、選択的に脂肪組織中にCREリコンビナーゼを発現する遺伝子組み換えマウスと交配した。
【0080】
脂肪組織特異性プロモーターであるaP2をCre遺伝子と連結して、CREリコンビナーゼの脂肪組織特異性発現を行った。CREリコンビナーゼをコードする1.4kbのSacI/SalI相補DNAフラグメント(脂肪酸結合蛋白質aP2の5.4kbプロモーター/エンハンサーのすぐ下流に核局在化配列(NLS)を含み、かつコンセンサスポリアデニル化シグナルを含むことにより改変された)を、クローニングして、aP2−Cre組み換え遺伝子を作製した(図1)。コンストラクトをFVBマウス系統由来のマウス接合子の雄の前核中に注入した。2系統のaP2−CREマウスを調べた。双方の系統で、CRE発現は褐色脂肪組織(BAT)および白色脂肪組織(WAT)に限られていた(図2)。
【0081】
GLUT4 LoxP異接合マウスと上記CRE発現マウスとを交配してAG4KOマウスを得た。AG4KOマウスはCRE Lox/Lox遺伝子型を有し、予期したメンデル頻度で生まれた。従って、脂肪組織GLUT4がないことは、胚致死を生じなかった。aP2−CREマウスのいずれかの系統で作製した雄および雌AG4KOマウス(図3)のBATおよびWAT(精巣上体、卵巣周辺部および皮下)双方中で、GLUT4蛋白質レベルは70〜99%減少した。双方のAG4KO系統において、GLUT4発現は骨格筋および心臓中で保存されていた(図3)。脂肪組織中でGLUT4を過剰発現する遺伝子組み換えマウスをShepardら、J. Biol. Chem. 268:22243(1993)に記載の通りに作製した。
【0082】
B. AG4KOは全脂肪レベルおよび全体重に関して正常である
図4Aに示す様に、雄および雌AG4KOマウスの生育曲線は3〜16週齢の野生型と類似していた。AG4KOマウスにおける脂肪パッドの重量および脂肪細胞のサイズも、野生型と類似していた(それぞれ図4Bおよび図4C)。さらに、脂肪細胞の形態はAG4KOマウスで均一であった。従って、脂肪組織における選択性のGLUT4の減少は生育の遅れ、または脂肪組織重量または脂肪組織サイズの減少をもたらさない。AG4KOマウスの心臓の重さも野生型と類似していた。
【0083】
C. エクスビボにおいてAG4KOマウスは骨格筋GLUT4およびグルコース輸送に関して正常である
図5Aに示す様に、AG4KOマウスの骨格筋中のGLUT4発現は野生型と類似している。GLUT4発現をイムノブロッティングで測定した。組織を摘出し、ポリトン用メディウムおよび緩衝液(HEPES 50mM Triton(登録商標)X−100(ポリオキシエチレン)1%、ピロリン酸ナトリウム50mM、NaF100mM、EDTA10mM、バナジウム塩10mM、アプロチニン10μg/ml、ロイペプチン10μg/ml、ベンズアミジン2mM)を用いてホモジェナイズした。13,000gでの最初の遠心分離後、次いで上澄みを4℃、100,000gで1時間遠心分離した。得られた上澄みをAbelら、J. Clin. Invest., 104:1703−1714(1999)に従ってイムノブロッティングに使用した。
【0084】
さらに、エクスビボでAG4KO骨格筋中の基礎およびインスリン刺激グルコース輸送も野生型と類似していた(図5B)。エクスビボでグルコース輸送を測定するため、マウスを終夜絶食させ、CO2吸入で殺した。骨格筋を急いで切開し、Zismanら、Nature Med., 6:924−928(2000)に従ってグルコース輸送を測定した。
【0085】
D. AG4KOマウスはインスリン抵抗性(IR)であるが、G4A+マウスはインスリン抵抗性でない
図6Aに示す様に、AG4KO脂肪細胞中のグルコースの取り込みは損なわれている。グルコース輸送を測定するため、飼育マウス由来の卵巣周辺または副睾丸脂肪パッドから脂肪細胞をコラゲナーゼ消化(1mg/ml)で単離した。Satou、Y. およびSatou, N.、Dev. Biol. 192:467−481(1997)に従ってグルコース輸送を測定した。
【0086】
図6Bに示す様に、AG4KOマウスでグルコース耐性が損傷している。Abelら(上記)に従い、12時間の絶食後に起きているマウスでグルコース耐性試験を行った。
【0087】
正常血糖クランプ技術で示される様に、脂肪組織特異性GLUT4ノックアウトはインスリン抵抗性を生じる。図7Aは対照およびAG4KOマウスにおけるインスリン刺激全身グルコース取り込みを示す。個々の組織中への[14C]2−デオキシグルコースの取り込みを測定する正常血糖クランプ試験をKimら、J. Biol. Chem. 275:8456−8460(2000)に記載の通りに行った。示したデータは遺伝子型あたり5〜6匹のマウスに対する平均±SEMである(*は、対照に対しP<0.05)。インスリン刺激全身グルコース取り込みはAG4KOマウスで53%減少した。
【0088】
AG4KOマウスにおける肝臓グルコース産生は基礎状態で野生型と同様であったが、インスリンが肝臓グルコース産生を抑制する能力はAG4KOマウスで極端に損なわれた(図7B)。
【0089】
図8Aおよび8Bに示す様に、AG4KOマウスのWATおよびBAT中へのインスリン刺激グルコース輸送はインビボで明瞭に減少した。しかしながら、筋肉中でGLUT4の発現が保存されているにもかかわらず(図2)、AG4KOマウスの骨格筋中へのグルコース輸送もインビボで約40%損なわれた(図8C)ことは予想外であった。グルコース取り込みをKimら(上記)の記載通りに測定した。
【0090】
II. AG4KOマウスで血清RBP4が上昇する
A. AG4KOマウスのインスリン抵抗性は分泌因子で媒介される
インスリンシグナル伝達がAG4KOマウスの筋肉で損なわれる。図9に示す様に、GLUT4の活性化に必要なシグナル伝達工程であるインスリン受容体(図9A)およびIRS1(図9B)の活性化のレベルでもインスリン抵抗性が存在した。
【0091】
AG4KOマウス由来の血清は3T3−L1脂肪細胞中のグルコース輸送を阻害する。増加するインスリン濃度の存在下で、対照(FVB)マウス由来の血清、またはAG4KOマウス由来のいずれかの血清で処置した3T3−L1脂肪細胞中で2−デオキシグルコースの取り込みを測定した。図10に示す様に、AG4KOマウス由来の血清は、インスリンに反応する3T3−L1脂肪細胞による2−デオキシグルコースの取り込みを阻害し、AG4KO血清中のインスリン抵抗性を媒介する分泌因子の存在を示している。興味のあることに、RBP4の発現は3T3−L1細胞の分化中に誘導される(図16)。
【0092】
B. RBP4の同定
AG4KOマウスのインスリン抵抗性表現型に含まれる血清因子を同定するため、WAT RNAのマイクロアレイアッセイを行った。図11はマイクロアレイアッセイの概略を示す。白色脂肪組織由来の全RNAをRNeasy(登録商標)ミニキット(Qiagen、Valencia、CA製)を用いて抽出した。標識脂肪組織RNAをハイブリダイゼーション条件下でマウスオリゴヌクレオチド(MG−U74A v. 2、Affymetrix製)とインキュベーションした。マウスRBP4 mRNAをTaqMan(登録商標)ワンステップRT−PCRマスターミックス(Applied Biosystems製)と以下のプライマー/プローブセットを用いるリアルタイムPCRで定量した:
(順方向)配列番号1 TCTGTGGACGAGAAGGGTCAT
(逆方向)配列番号2 CCAGTTGCTCAGAAGACGGAC、および
(プローブ)配列番号3 TGAGCGCCACAGCCAAGGGAC
【0093】
対照マウス(CREおよびFVB)、および脂肪組織中でGLUT4を過剰発現するマウスと比較して、RBP4がAG4KOマウス中で逆制御されていると同定した(図13)。RBP4 mRNAの上方制御がRT−PCRで確認された(図12)。図13に示す様に、野生型(FVB)WATと比較してAG4KOマウス由来のWATはRBP4 mRNAレベルで2倍以上の増加を示した。図13に示す様に、RBP4 mRNAはAG4KOマウスで増加し、GLUT4を過剰発現するマウス(G4A+)由来の脂肪組織で減少した。脂肪組織中のmRNAレベルの変化と一致して、AG4KOマウス中の血清RBP4は対照(FBV)マウスと比較して2〜5倍増加した(図15B、上部パネル)。興味のあることに、GLUT4(CRE)に対して野生型マウスと比較して、RBP4 mRNAはAG4KOマウス由来の肝臓内で変化しない(図14)。
【0094】
高脂肪飼料で飼育した正常マウスで血清RBP4レベルが増加する。図15B(下部パネル)に示す様に、正規の飼料で飼育したFVBマウスと比較して高脂肪飼料で飼育したFVBマウスでは血清RBP4レベルが増加した。さらに、図15Aに示す様に、RBP4レベルの増加は体重の増加(左パネル)および血漿インスリンの増加(右パネル)と相関していた。
【0095】
血清または血漿を標準界面活性剤含有緩衝液中で20倍希釈し、15%SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロースに移して血清または血漿RBP4を測定した(Kim、Y. B. ら、Diabetes、48:310−320(1999))。マウスRBP4およびヒトRBP4を抗ラットおよび抗ヒトポリクローナル抗血清(DAKO、ドイツ製)をそれぞれ用い、次いで標準ECLで検出した。
【0096】
III. RBP4はインスリン抵抗性のマーカーであり、インスリン抵抗性処置を目的とする薬剤である
A. 血清RBP4は多くのマウスインスリン抵抗性モデルで上昇する
図15Bに示す様に、血清RBP4レベルは、脂肪−筋肉GLUT4ノックアウト(2倍)、脂肪組織11βHDS−1過剰発現体(代謝症候群に対するマウスプロトタイプ;3倍)、ob/obマウス(13倍)、MC4受容体ノックアウトマウス(3.5倍)、および高脂肪飼料(脂質55%)飼育マウス(2.8倍)を含むインスリン抵抗性マウスモデルで増加する。血清RBP4の上昇が様々な遺伝的および栄養原因論のインスリン抵抗性状態の一般的特徴であるという事実は、RBP4がインスリン抵抗性に寄与する可能性を提示する。
【0097】
B. インスリン抵抗性を軽減する薬剤がRBP4の増加を逆転させる
チアゾリジンジオン(TZD)はAG4KOマウスでグルコース恒常性を改善するインスリン感作薬である。図18AおよびBに示す様に、血糖および血液インスリンをAG4KOおよび対照マウスの双方でTZDクラス薬剤のない場合、および薬剤を注射後指定した時間で測定した。図18の*は対照に対する処置前後の0.05以下のP値を示す。#は処置後のGA4−/−マウスに対する0.05未満のP値を示し、“a”は処置前の対照に対する0.05未満のP値を示す。TZD処置はAG4KOマウスで血糖のレベルを有意に低下し、またこれらのマウスで血漿インスリンレベルも有意に低下した。驚くべきことに、AG4KOマウスをTZDクラスの薬剤で処置すると血清RBP4が減少した(図21)。
【0098】
AG4KOマウスをインスリン感作薬で3週間処置すると、そのインスリン抵抗性およびグルコース不耐性は完全に逆転した。この処置はまたAG4KOマウスの脂肪組織中のRBP4 mRNAの上昇を減少し(図25A);RBP4発現は肝臓で変化しなかった(図25B)。mRNAレベルをTaqMan(登録商標)リアルタイムPCRで測定した。処置はまた、AG4KOマウスにおける血清RBP4レベルの上昇を完全に正常化した(図25Cおよび25D)。このインスリン感作抗糖尿病薬の血清RBP4レベルに対する劇的な効果は、RBP4の上昇がインスリン抵抗性および2型糖尿病で原因となる役割を果たし得る可能性を提起する。
【0099】
グルコメーター(ワンタッチウルトラ(One Touch Ultra)、Lifescan製)で血漿グルコースを測定した。インスリン(Crystal Chemical製)、FFA(Wako製)およびアジポカイン(レプチン、アジポネクチンおよびレシスチン;LINCO Research製)を市販キットを用いて測定した。餌を取り除いた3〜4時間後に組み換え標準ヒトインスリンを腹腔内注射してITTを行った。記載される様に、異なったマウス系統および週齢毎に異なったインスリン用量を使用した。終夜の絶食後にグルコースの腹腔内注射(1または2gのD−グルコース/kg体重)によりGTTを行った。
【0100】
C. 血清RBPの上昇がインスリン抵抗性をもたらし、血清RBPの減少がインスリンの作用を改善する
遺伝子組み換えマウス
マウス筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターで作動するヒトRBP4を発現する遺伝子組み換えマウスは、血液中にRBP4を分泌し、非遺伝子組み換えマウスと比較して全血清RBP4が約2〜3倍増加する。BPR4遺伝子組み換えマウスは正常に発育し、生育曲線は少なくとも16週齢までは野生型マウスと同様であった。血清インスリンレベルは遺伝子組み換えマウスでより高かった(図21)。与えたグルコース、FSA、レプチン、アジポネクチン、またはレシスチンに差はなかった(図21)。RBP4過剰発現マウスは11週齢までに軽度のインスリン抵抗性を発症した(図22A)。
【0101】
RBP4注射
遺伝子組み換えマウスで胚発生の最初からRBP4の過剰発現の発生的または補償的効果が発達する可能性を避けるため、精製組み換えヒトRBP4(hRBP4)を正常な成体FVBマウスに注射した。RBP4は腎臓糸球体膜で容易に濾過される21kDa蛋白質である。循環系でRBP4はトランスチレチン(TTR)と結合し、RBP4の腎臓クリアランスを阻止する80kDa蛋白質複合体を形成する。外因性RBP4の薬力学を測定するため、0.5mgの組み換えhRBP4を腹腔内注射し、マウスRBP4に対しはるかに低い親和性を有する抗ヒトRBP4抗体を用いて血清hRBP4を測定した(図22B)。hRBP4を注射の10分後に検出可能であり、そのレベルは120分でピークに達した。240分でそのレベルはピークレベルの25%であり、迅速な減少を示した。注射したRBP4は注射後16時間(終夜)で血清から完全に消失した(図22B)。
【0102】
ヒトRBP4をE. coli中で発現させ、文献記載の方法に従って精製した(Wang、T. T. ら、Gene、133:291−294(1993);Xie, Y.ら、Protein Expr. Purif. 、14:31−37(1998))。SPYRO ruby(BioRad製)によるSDS−PAGE蛍光染色によれば組み換えRBP4蛋白質は完全に純粋であった。組み換えRBP4蛋白質はレチノールを化学量論的に結合し、精製トランスチレチンと正常に相互作用した。EndoTrapマトリックス(ProfosAG、ドイツ製)およびDetoxiゲル(Pierce製)への逐次的な親和性吸着によりエンドトキシンを除去した。精製RBP4蛋白質を10mM Hepes、100mM NaClを含む緩衝液中で透析し、7〜8mg/mlの保存濃度で凍結保存した。RBP4を含まない透析液をインビボ実験のために媒体対照溶液として使用するために保存した。
【0103】
外因性マウスRBP4濃度は約30〜40μg/mlである。RBP4の上昇が正常マウスでインスリン抵抗性を生じるかどうかを決定するため、3つの用量(3〜4μg/g体重)に分けた300μg/日/マウスの精製hRBP4を8〜10時間間隔で注射した。これにより、毎日のhRBP4の平均血清レベルは内在マウスRBP4より約3倍高いレベルとなった。RBP4精製の最終工程で得られた同じ容積の透析液を、対照マウスに注射した。RBP4を9〜12日間注射することにより、インスリン抵抗性(図22C)とグルコース不耐性(図22D)が現れた。
【0104】
RBP4ノックアウト
ビタミンA富化飼料で飼育した場合、RBP4ノックアウトマウス(RBP4KO)は体重が正常で生存能力があり、繁殖能力があったが(図21)、生後早くにレチノールレベルが減少し、視力が損なわれた。餌の摂取は正常であった。RBP4ノックアウトマウスは野生型マウスと比較してインスリン感受性が優れていた(図19)。対照と比較して、血清遊離脂肪酸レベルはRBP4異型接合体(Het)および同型接合体(KO)ノックアウトマウスでより低かった(図21)。与えられたインスリン、グルコース、レプチン、アジポネクチンおよびレシスチンは正常であった(図21)。RBP4 HetおよびRBP4 KOマウスの双方は、インスリン感受性の増大を示した(図23A)。
【0105】
フェンレチニド処理
遺伝子組み換え操作と独立にRBP4の効果を決めるため、成体FVBマウスを本来癌治療のために設計された合成レチノイドであるフェンレチニド(4−ヒドロキシフェニルレチンアミド、4−HPR)で処置した。嵩高い側鎖(ヒドロキシフェニル基)はRBP4とTTRとの相互作用を妨害し、RBP4を腎臓で排出しRBP4の血清レベルを低下させる(Malpeliら、Biochem. Biophys. Acta、1294:48−54(1996))。3週齢雄FVBマウスを固形飼料、高脂肪飼料または0.04%のフェンレチニドを添加した高脂肪飼料で飼育した。フェンレチニドゲルカプセルを空にし、餌を調製する時点でHarlan−Teklad研究所の高脂肪飼料の脂溶性ビタミン成分に直接添加した。フェンレチニド高脂肪飼料を調製する間は光暴露を最少にした。フェンレチニド高脂肪飼料を暗い場所で4℃で保存し、2〜3日間隔でマウスケージに置いた。フェンレチニドを経口投与すると、高脂肪飼料で飼育した肥満マウス(HFD)の血清RBP4レベルを固形飼料で飼育した非肥満対照マウスのレベルに低下した(図23Bおよび23C)。フェンレチニド処理は食物摂取、体重または高脂肪飼料飼育による肥満の発生に影響しなかった。HFDマウスは顕著なインスリン抵抗性(図23D)とグルコース不耐性(図23E)を発症した。フェンレチニド処理はインスリン感受性を改善し(図23D)、グルコース耐性を正常化した(図23E)。従って、RBP4レベルを減少する遺伝的および薬理学的介入は、肥満であってもインスリン感受性を改善する。
【0106】
ob/obマウスのフェンレチニド処理
フェンレチニド処理がob/obマウスのグルコース耐性を改善する
IPGTT(2mg/g体重)を食餌/処理の8週間後にマウス(12週齢)で行った(図26A)。指定された時間に血漿グルコースを測定した:白丸はob/+、黒丸はob/obマウス、白角はフェンレチニド処理ob/obマウスを表す。図26Aに示す様に、ob/obマウスをフェンレチニドで処理するとそのグルコース耐性を大きく改善した。
【0107】
フェンレチニド処理によりob/obマウスのグルコース耐性の改善が持続する
IPGTT(1mg/g体重)をマウス(42週齢)で行った。食餌/処理の38週後(図26B)、指定された時間に血漿グルコースを測定した:黒角はob/+、黒丸はフェンレチニド処理ob/+マウス、白角はob/ob、白丸はフェンレチニド処理ob/ob。図26Bに示す様に、フェレンチニド処置の38週間後に、グルコース排出はほぼ異型接合マウスのものに改善される。
【0108】
フェンレチニド処理はob/obマウスの長期罹患率を減少させる
フェンレチニドによる処置の10ヶ月後、未処置コントロール(白丸)およびob/+異型接合マウス(黒角)と比較してob/obマウス(黒丸)の長期罹患率はほとんど半分に減少した。10ヶ月齢のob/obマウスは重度の肥満であった。
【0109】
D. RBP4はマウスのPI3キナーゼ(PI3K)活性を変化させる
RBP4がどの様にインスリン感受性を変えるかを理解するため、RBP4 TgおよびKOマウスの筋肉および肝臓インスリンシグナル伝達を調べた。
【0110】
マウスを16〜18時間絶食し、食塩水またはインスリン(10U/kg体重)を静脈注射し、注射後3分で殺した。組織を集め凍結した。文献記載(Kim、Y. B. ら、Diabetes、48:311−320(1999))通りに筋肉および肝臓溶解液からのホスホチロシン免疫沈降でPI3K活性を測定した。
【0111】
PI3K活性の基礎レベルは全ての遺伝子型で同様であった(図24A〜24D)。インスリン刺激PI3K活性は対照マウスの筋肉中の26倍であったが、その効果はRBP4 Tgマウスで30%減少した(図24A)。逆に、対照と比較してRBP4 HetおよびRBP4 KOマウス双方の筋肉中でインスリン刺激PI3K活性は80%増加した(図24B)。しかしながら、RBP4 Tg(図24C)またはRBP4 KOマウス(図24D)の肝臓中でPI3K活性は変化しなかった。これらの観察と一致して、野生型マウスにRBP4を21日間注射すると、筋肉中のインスリン刺激PI3K活性が34%減少したが、肝臓では変化しなかった(図24E)。さらに、RBP4処理により、PI3Kのp85サブユニットのドッキングに対する重要な部位である残基612(図24F)におけるインスリン受容体基質−1(IRS1)のインスリン刺激チロシン燐酸化が24%減少した。しかしながら、RBP4処理はインスリン受容体(IR)チロシン燐酸化(図24G)、またはIRF1もしくはIR蛋白質の全量を変化させなかった。これらのデータは、RBP4がIRF1燐酸化およびPI3K活性化の段階における筋肉中のインスリンシグナル伝達に影響して、インスリン感受性を変化させることを示唆している。同様なポスト受容体欠陥が、AG4KOマウスの筋肉中で観察されたが、これは血清RBP4の上昇が2型糖尿病のこのモデルにおける全身インスリン抵抗性に寄与するという命題に一致している。
【0112】
IV. ヒトのデータが一致する
血清RBP4は肥満および肥満/糖尿病のヒトで上昇するが、痩せた非糖尿病のヒトでは上昇しない。肥満−糖尿病被験体は肥満−非糖尿病および痩せた非糖尿病対照被験体より年を取っていた(図20)。正常血糖−過インスリン血症クランプアッセイで測定した場合、痩せた非糖尿病被験体と比較して、肥満および肥満−糖尿病被験体のBMIおよび絶食時インスリンレベルは高く、GDRは低かった。図20Aは肥満および肥満/糖尿病のヒト由来の血清のイムノブロットを示す。図20Aに示す様に、肥満および肥満/糖尿病のヒトではRBP4レベルが上昇している。図20Bは、このレベルがほぼ2倍の増加であることを示している。肥満グループと肥満−糖尿病グループとの間の血清RBP4の上昇の大きさに差はなく、肥満とインスリン抵抗性がヒトにおける血清RBP4の上昇と関連するが、高血糖症は関連しないことを示唆している。
【0113】
本発明は好ましい態様を参照して具体的に示され、説明されてきたが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、形式と詳細の様々な変化がなされ得ることを当業者は理解し得ると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】図1は、aP2−Cre導入遺伝子コンストラクトの模式図である。
【図2】図2は、遺伝子組み換えマウスの2つの独立な系統において、CRE発現が褐色および白色脂肪組織(それぞれBATおよびWAT)に限られることを示すノーザンブロットの代表例である。
【図3】図3は、野生型(WT)、および2つのaP2−Cre遺伝子組み換えマウス系統由来のGLUT4脂肪組織ノックアウトマウス(AG4KO)の周角(PG)、皮下(SQ)、WATおよびBAT、腓腹筋骨格筋および心臓におけるGLUT4の免疫ブロットの代表例を示す。
【図4A】図4はAは、AG4KOマウス(黒丸)がWTマウス(白丸)と比較して正常に生育することを示す、体重(グラム)対年齢(週)の生育曲線である。
【図4B】図4Bは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)における生殖腺脂肪組織の重さ(mg/マウス)を示す棒グラフである。
【図4C】図4Cは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)における脂肪細胞のサイズ(脂質μg/細胞)を比較する棒グラフである。
【図5A】図5Aは、WT、Lox/LoxおよびAG4KOマウス由来のGLUT4含有量を示す免疫ブロットである。
【図5B】図5Bは、AG4KOマウス(N=5)およびWTマウス(N=5)の単離筋肉中の基礎およびインスリン刺激グルコース取り込みを示す棒グラフである。
【図6A】図6Aは、AG4KOマウス(黒丸)および対照マウス(白丸)から単離された脂肪細胞中のインスリン刺激グルコース取り込みの容量反応曲線を示す。
【図6B】図6Bは、AG4KOマウス(黒丸)およびWT対照マウス(白丸)における、体重kgあたり1mgのグルコースを腹腔内注射後の血糖クリアランス(グルコース耐性試験、GTT;1mg/kg)を示す。
【図7A】図7Aは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)におけるインスリン刺激全身グルコース取り込みを示す。
【図7B】図7Bは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)におけるインスリンが存在下および非存在下の肝臓グルコース産生を示す。
【図8A】図8Aは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)由来の白色脂肪組織(WAT)中のインビボインスリン刺激2−デオキシグルコース輸送を示す。
【図8B】図8Bは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)由来の褐色脂肪組織(BAT)中のインビボインスリン刺激2−デオキシグルコース輸送を示す。
【図8C】図8Cは、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)由来の筋肉中のインビボインスリン刺激2−デオキシグルコース輸送を示す。
【図9】図9は、対照(左の欄のセット)およびAG4KOマウス(右の欄のセット)由来のインスリン受容体(上部パネル)またはインスリン受容体代替物-1(IRS1:下部パネル)のインスリン刺激燐酸化の免疫ブロットを示す。
【図10】図10は、対照マウス由来の血清(左の群)またはAG4KOマウス由来の血清(右の群)の濃度が増加した場合の、3T3−L1脂肪細胞中のインスリン刺激2−デオキシグルコース取り込みを示す。
【図11】図11は、白色脂肪組織(WAT)RNAのマイクロアレーアッセイの概念図を示す。
【図12】図12は、野生型マウス(白丸)およびAF4KOマウス(黒丸)のWAT由来のrt−PCRにより測定したRBP4 mRNAレベルを示す。線は各群に対する平均値を示す。
【図13】図13は、G4AKOマウス(左中央の棒)、Creマウス(左の棒)、対照マウス(右中央の棒)およびGLUT4過剰発現マウス(右の棒)におけるRBP4 mRNA発現レベルを示す。
【図14】図14は、対照(左の棒)およびAG4KOマウス(右の棒)の肝臓におけるRBP4 mRNA発現レベルを示す。
【図15A】図15Aは、固形飼料飼育マウス(右の棒)および高脂肪飼料飼育マウス(左の棒)における体重(グラム;左のパネル)および血漿インスリン(ng/ml;右のパネル)の比較を示す。
【図15B】図15Bは、インスリン抵抗性マウスモデルにおけるRBP4蛋白質の血清レベルの免疫ブロットを示す;AG4KOマウス(上部パネル)、脂肪筋肉GLUT4ノックアウトマウス(2番目のパネル)、脂肪11βHSD−1過剰発現マウス(3番目のパネル)、MC4受容体ノックアウトマウス(4番目のパネル)、ob/obマウス(5番目のパネル)、および固形飼料または高脂肪飼料で飼育した対照マウス(下部パネル)。
【図16】図16は、3T3−L1細胞の分化の誘導後の指定した日におけるRBP4の免疫ブロットを示す。
【図17】図17Aは、TZD処置前(黒角)および処置後(白角)の対照マウスと比較した、チアゾリジンジオンクラス薬剤(TZD)処置前(白丸)および処置後(黒丸)のAG4KOマウスにおけるグルコース腹腔内注射(1mg/体重kg GTT)後の血糖レベルを示す。図17Bは、TZD処置前(黒角)および処置後(白角)の対照マウスと比較した、TZD処置前(白角)および処置後(黒角)のAG4KOマウスにおけるインスリンの腹腔内注射(0. 75U/kg体重、インスリン耐性試験、ITT)後の血糖の時間変化を示す。
【図18】図18は、TZD処置を行った場合と行わない場合の、対照マウス(右レーン)と比較したAG4KOマウス(左レーン)由来の血清RBP4の免疫ブロットを示す。
【図19】図19は、RBP4ノックアウトマウス(角形)および対照マウス(菱形)におけるインスリン注射(0.75U/kg体重)後の時間に対する血漿グルコース(時間0に対するパーセント)を示す。
【図20】図20Aは、痩身非糖尿病ヒト(左レーン)、肥満非糖尿病ヒト(上部パネル、右レーン)および肥満糖尿病ヒト(下部パネル、右レーン)由来の血清RBP4の免疫ブロットを示す。図20Bは、任意単位の図20Aからの結果の定量アッセイを示す。
【図21】図21は、MCK−RBP4遺伝子移入マウス(Tg)と野生型マウス(WT)、RBP4ノックアウトマウス(KO)と野生型(WT)および異型接合(Het)マウスとの指示されたパラメーターを比較する表である。
【図22】図22Aは、絶食後4時間にインスリン腹腔内注射(0.9U/kg体重)した12週齢野生型(WT)またはRBP4遺伝子組み換え(Tg)マウス(遺伝子型あたりn=7)の指定した時間に測定した血漿グルコースを示す。データは平均値±SEM、WTに対し*P<0.01。図22Bは、0.5mgの組み換えヒトRBP4(hRBP4)を腹腔内注射したFVBマウス由来の血清のウエスタンブロットである。指定した時間に血清を採取し、標準としてhRBP4を指定した濃度に希釈した。図22Cは、精製hRBP4を連日注射したマウスにおけるインスリン耐性試験(ITT)の結果を示す。注射の19日後にITT(0.9U/kgインスリン)を行った。対照マウスn=8、hRBP4注射マウスn=12、*P<0.01。図22Dは、精製hRBP4を連日注射したマウスにおけるグルコース耐性試験(GTT)の結果を示す。注射の9日後にGTT(1g/kgグルコース)を行った。対照マウスn=8、hRBP4注射マウスn=12、*P<0.01。
【図23】図23Aは、10週齢の雄RBP4KOマウスにおけるITTの結果を示す。インスリン(0.75U/kg)を腹腔内注射した。遺伝子型あたりn=7〜9。データは平均値±SEM、各データポイントにおけるWTに対する*P<0.01。図23Bは、固形飼料、高脂肪飼料(HFD)および0.05%フェンレチニドを含むHFDで6週間飼育したマウスにおける血清RBP4の代表的な免疫ブロットを示す。図23Cは、固形飼料、HFDおよびフェンレチニドを含むHFDで指定時間飼育したマウスにおける血清RBP4レベルの免疫ブロットの濃度計定量を示す;条件あたりn=8〜12。固形飼料に対し*P<0.05、HFDに対し#P<0.05。図23Dは、固形飼料、HFDおよびフェンレチニドを含むHFDで飼育したマウスにおけるITTの結果を示す。15週間の処置後、1.1U/kgのインスリンを用いてITTを行った。HFDおよび固形飼料に対し*P<0.05、HFDのみに対し#P<0.05、条件あたりn=6〜10匹。図23Eは、固形飼料、HFDおよびフェンレチニドを含むHFDで16週間飼育したマウスにおける、2g/kgのグルコースを用いるGTTの結果を示す(条件あたりn=8〜12匹)。フェンレチニドを含む固形飼料およびHFD、および固形飼料群に対し*P<0.01。
【図24】図24Aおよび24Bは、食塩水またはインスリン注射RBP4Tgマウス(A)およびRBP4KOマウス(B)の筋肉におけるPI3K活性を示す(食塩水に対しn=4、インスリンに対しn=6)。WTインスリンに対し*P<0.05、WTインスリンに対し**P<0.01。図24Cおよび27Dは、インスリン注射RBP4 Tgマウス(C)およびRBP4 KOマウス(D)の肝臓または食塩水中のPI3K活性を示す(食塩水でn=4、インスリンでn=6)。マウスは16週齢。PI3K活性を抗ホスホチロシン免疫沈澱物中で測定した。図24Eは、精製hRBP4を腹腔内注射した正常FVBマウスの筋肉および肝臓内のインスリン刺激PI3K活性を示す(インスリン処理媒体対象マウスでn=4、インスリン処理RBP4注射マウスでn=9)。食塩水注射マウス中のPI3K活性はグル−プ間で差がなかった。データは基礎(食塩水注射)レベルに対するインスリンによる刺激倍数で表現される。媒体対RBP4注射マウスに対し**P<0.01。図24Fは、精製ヒトRBP4を腹腔内注射した正常PVBマウスの筋肉内のインスリン受容体基質1(pY612)のインスリン刺激チロシン燐酸化を示す(インスリン処理媒体対象マウスでn= 、インスリン処理RBP4注射マウスでn=9)。IR燐酸化とIRS1燐酸化の基礎(食塩水注射)レベルはグループ間で差がなかった。各試料に対しIRS1またはIR蛋白質の全量につきデータを収集し、基礎レベルに対するインスリンによる刺激倍数で表した。媒体対照 対 RBP4注射マウス、**P<0.01。図24Gは、正常FVBマウスの筋肉中のインスリン受容体(pY972)のインスリン刺激チロシン燐酸化を示す。処置、試料サイズおよび統計処理は図24Eに記載と同じ。
【図25】図25Aは、TZD処理(+)または(−)、週齢11のAG4KOマウスおよび対照(FVB)マウスの脂肪組織におけるmRNAレベルを示す(条件あたりn=2〜6)。図25Bは、TZD処理または処理なしのAG4KOマウスまたは対照(FVB)マウスの肝臓由来のRBP4 mRNAレベルを示す(グループあたりn=6)。図25Cは、TZD処理前(−)および処理後(+)のAG4KOマウスおよび対照(FVB)マウス由来の血清RBP4レベルを示す;マウスは処理前で週齢8、処理後で週齢11であった。図25Dは、図25Cのウエスタンブロットの濃度計定量を示す。*は対照(TZD−)に対しP<0.05、および#はAG4KO(TZD−)に対しP<0.05。
【図26A】図26Aは、フェンレチニドで8週間処置したマウスにおけるIP−GTT(2mg/g体重)後の12週齢マウスの血漿グルコースレベルの時間変化を示す。白丸=ob/+マウス、黒丸=ob/obマウス、白角形=フェンレチニド処理ob/obマウス。
【図26B】図26Bは、フェンレチニドで8週間処置したマウスにおけるIP−GTT(1mg/g体重)後の42週齢マウスの血漿グルコースレベルの時間変化を示す。黒角形=ob/+マウス、黒丸=フェンレチニド処理ob/+マウス、白角形=ob/obマウス、白丸=フェンレチニド処理ob/obマウス。
【図26C】図26Cは、表示した時間におけるマウスの生存率を示す。黒角形=ob/+マウス、黒丸=フェンレチニド処理ob/obマウス、黒角形=ob/obマウス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RBP4またはTTRまたはRBP4/TTR複合体を試験化合物と接触させること、および試験化合物の存在下のRBP4活性のレベルを、試験化合物の非存在下のRBP4活性のレベルと比較し、RBP4活性の調節を測定することを含み、ここで、RBP4活性の変化はRBP4活性を調節する化合物を示唆する、RBP4活性を調節する化合物の同定方法。
【請求項2】
RBP4活性がRBP4 mRNAの発現である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試験化合物の存在下のRBP4活性のレベルが、試験化合物の非存在下のRBP4活性のレベルと比べて低下している、請求項1記載の方法。
【請求項4】
RBP4活性がRBP4の細胞への結合である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
細胞が、脂肪細胞、肝臓細胞および筋肉細胞からなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
RBP4活性が、RBP4のトランスチレチンに対する結合である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
トランスチレチンに対するRBP4結合が阻害または低減されている、請求項6記載の方法。
【請求項8】
a) 試験化合物を哺乳動物に投与する工程;
b) 哺乳動物から尿試料を採取する工程;および
c) 試験化合物の投与後の尿試料中のRBP4レベルを、試験化合物の投与前の対照尿試料中のRBP4のレベルと比較する工程、ここで、対照試料と比較して試験化合物投与後の尿試料中のRBP4の増加は、RBP4の循環レベルの低下を示唆する、
哺乳動物中のRBP4の循環レベルを低下させる化合物の同定方法。
【請求項9】
RBP4活性を低下させる化合物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物におけるインスリン抵抗性の低減方法。
【請求項10】
RBP4の活性がRBP4 mRNAの発現である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
RBP4の活性がRBP4の細胞への結合である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
細胞が、脂肪、肝臓または筋肉からなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
RBP4活性が、RBP4のトランスチレチンに対する結合である、請求項9記載の方法。
【請求項14】
トランスチレチンに対する結合が阻害または低減されている、請求項13記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物から採取した生物学的試料中のRPB4活性を測定することを含み、ここで、RBP4活性の増加がインスリン抵抗性または関連する状態を示唆する、哺乳動物におけるインスリン抵抗性または関連する状態の診断法。
【請求項16】
生物学的試料が、組織、全血、血清、血漿または尿からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
RBP4蛋白質、またはその断片の量を測定する、請求項15記載の方法。
【請求項18】
RBP4蛋白質、またはその断片の量を、イムノアッセイによって測定する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
生物学的試料を固相支持体上に固定化する、請求項15記載の方法。
【請求項20】
固相支持体が濾紙である、請求項19記載の方法。
【請求項1】
RBP4またはTTRまたはRBP4/TTR複合体を試験化合物と接触させること、および試験化合物の存在下のRBP4活性のレベルを、試験化合物の非存在下のRBP4活性のレベルと比較し、RBP4活性の調節を測定することを含み、ここで、RBP4活性の変化はRBP4活性を調節する化合物を示唆する、RBP4活性を調節する化合物の同定方法。
【請求項2】
RBP4活性がRBP4 mRNAの発現である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試験化合物の存在下のRBP4活性のレベルが、試験化合物の非存在下のRBP4活性のレベルと比べて低下している、請求項1記載の方法。
【請求項4】
RBP4活性がRBP4の細胞への結合である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
細胞が、脂肪細胞、肝臓細胞および筋肉細胞からなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
RBP4活性が、RBP4のトランスチレチンに対する結合である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
トランスチレチンに対するRBP4結合が阻害または低減されている、請求項6記載の方法。
【請求項8】
a) 試験化合物を哺乳動物に投与する工程;
b) 哺乳動物から尿試料を採取する工程;および
c) 試験化合物の投与後の尿試料中のRBP4レベルを、試験化合物の投与前の対照尿試料中のRBP4のレベルと比較する工程、ここで、対照試料と比較して試験化合物投与後の尿試料中のRBP4の増加は、RBP4の循環レベルの低下を示唆する、
哺乳動物中のRBP4の循環レベルを低下させる化合物の同定方法。
【請求項9】
RBP4活性を低下させる化合物を哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物におけるインスリン抵抗性の低減方法。
【請求項10】
RBP4の活性がRBP4 mRNAの発現である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
RBP4の活性がRBP4の細胞への結合である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
細胞が、脂肪、肝臓または筋肉からなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
RBP4活性が、RBP4のトランスチレチンに対する結合である、請求項9記載の方法。
【請求項14】
トランスチレチンに対する結合が阻害または低減されている、請求項13記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物から採取した生物学的試料中のRPB4活性を測定することを含み、ここで、RBP4活性の増加がインスリン抵抗性または関連する状態を示唆する、哺乳動物におけるインスリン抵抗性または関連する状態の診断法。
【請求項16】
生物学的試料が、組織、全血、血清、血漿または尿からなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
RBP4蛋白質、またはその断片の量を測定する、請求項15記載の方法。
【請求項18】
RBP4蛋白質、またはその断片の量を、イムノアッセイによって測定する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
生物学的試料を固相支持体上に固定化する、請求項15記載の方法。
【請求項20】
固相支持体が濾紙である、請求項19記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図26C】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26B】
【図26C】
【公表番号】特表2007−516708(P2007−516708A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544010(P2006−544010)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/041383
【国際公開番号】WO2005/059564
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(301033259)ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター,インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/041383
【国際公開番号】WO2005/059564
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(301033259)ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター,インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
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