説明

インスリン抵抗性改善剤のスクリーニング方法

【課題】インスリン抵抗性改善剤のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を用いることを特徴とする、GM3存在下、該細胞におけるサイトカイン発現を抑制または促進する化合物またはその塩のスクリーニング方法/スクリーニング用キット、該スクリーニングによって得られる化合物またはその塩、該化合物またはその塩を含有してなるインスリン抵抗性改善剤、糖尿病の予防・治療剤など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン抵抗性の改善剤、糖尿病の予防・治療剤などのスクリーニングなどに関する。
【背景技術】
【0002】
インスリン抵抗性は、組織でのインスリンの感受性が低下する病態で、特にII型糖尿病では、インスリン分泌不全に加え、糖尿病の発症や進展に関わる主な病因となっている。一般的に、肥満を伴う糖尿病患者の多くがインスリン抵抗性を呈していることから、インスリン抵抗性は肥満と深く関わっていると考えられている。さらに、糖尿病のみならず動脈硬化等の脂質代謝異常に起因する疾病にもインスリン抵抗性が見られることが知られている (Cell, 104巻, 517-529頁, 2001年)。
脂肪組織はさまざまなサイトカインを分泌し、それらの中にはインスリン抵抗性を惹起するものがいくつか含まれることが知られている(非特許文献1 Diabetologia, 46巻, 1594-1603, 2003年)。脂肪細胞の分泌するサイトカインのうち、たとえばTNF-α(Science, 259巻, 87-91頁, 1993年)、IL-6 (Diabetes, 51巻, 3391-3390頁, 2002年;J. Biol. Chem., 278巻, 45777-45784頁, 2003年)、成長ホルモン(Diabetes, 50巻, 1891-1900頁, 2002年)、レジスチン(resistin)(Nature, 409巻, 307-312頁, 2001年)などが、インスリン抵抗性誘導サイトカインとして知られている。TNF-αの受容体細胞外ドメインの細胞への添加による機能抑制により、インスリン抵抗性が改善されることが知られている(非特許文献2 J. Clin. Invest. 94巻, 1543-1549頁、1994年)。抗レジスチン抗体を用いたレジスチンの機能抑制により、インスリン抵抗性が改善されることが知られている(非特許文献3 Nature, 409巻, 307-312頁, 2001年)。しかしながら、インスリン抵抗性に至る病態において、これらのサイトカインがいかなる原因により分泌されるかについてはよく知られていない。
GM3は、脂肪組織において最も豊富なガングリオシドである。GM3合成酵素は肥満脂肪組織で発現誘導され、TNF-αがGM3合成を誘導していると考えられている(非特許文献4 J. Biol. Chem., 277巻, 3085-3092頁, 2002年)。一方で、GM3合成酵素を欠損したマウスではインスリン感受性が増大し、高脂肪食投与により引き起こされるインスリン抵抗性が緩和されることが知られている(非特許文献5 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 100巻, 3445-3449頁, 2003年)。しかしながら、GM3がどのような経路を介してインスリン抵抗性を惹起するかについては不明である。
【非特許文献1】Diabetologia, 46巻, 1594-1603, 2003年
【非特許文献2】J. Clin. Invest. 94巻, 1543-1549頁、1994年
【非特許文献3】Nature, 409巻, 307-312頁, 2001年
【非特許文献4】J. Biol. Chem., 277巻, 3085-3092頁, 2002年
【非特許文献5】Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 100巻, 3445-3449頁, 2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
インスリン抵抗性を改善する安全で優れた医薬が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、GM3を動物細胞に添加することにより、意外にも、インスリン抵抗性状態を惹起するサイトカインであるTNF−αおよびIL−6が発現誘導されることを見出し、さらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、
〔1〕サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を用いることを特徴とする、GM3存在下、該細胞におけるサイトカイン発現を抑制または促進する化合物またはその塩のスクリーニング方法、
〔2〕インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を用いて、GM3存在下、該細胞におけるインスリン抵抗性誘導サイトカインの発現を抑制する化合物またはその塩をスクリーニングする上記〔1〕記載の方法、
〔3〕インスリン抵抗性誘導サイトカインが、TNF−α、IL−6、成長ホルモンおよびレジスチンから選ばれる少なくとも一種である上記〔2〕記載のスクリーニング方法、
〔4〕インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を用いて、GM3存在下、該細胞におけるインスリン抵抗性改善サイトカインの発現を促進する化合物またはその塩をスクリーニングする上記〔1〕記載の方法、
〔5〕インスリン抵抗性改善サイトカインが、アジポネクチンである上記〔4〕記載のスクリーニング方法、
〔6〕サイトカイン発現能力を有する細胞が、哺乳動物由来の細胞である上記〔1〕記載のスクリーニング方法、
〔7〕細胞が、哺乳動物由来の脂肪細胞株、血球系細胞株、肝細胞株、骨格筋細胞株、脂肪組織、血球、肝組織または骨格筋組織である上記〔1〕記載のスクリーニング方法、
〔8〕(a)GM3存在下、サイトカイン発現能力を有する細胞を培養した場合と、(b)試験化合物およびGM3存在下、該細胞を培養した場合における、該細胞内または該細胞外のサイトカインの発現量をそれぞれ測定し、比較する上記〔1〕記載のスクリーニング方法、
〔9〕サイトカインの発現量が、サイトカインタンパク質の発現量もしくは分泌量、またはサイトカインタンパク質をコードするmRNAの発現量である上記〔8〕記載のスクリーニング方法、
〔10〕サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を含有することを特徴とする、GM3存在下、該細胞におけるサイトカイン発現を抑制または促進する化合物またはその塩のスクリーニング用キット、
〔11〕インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害する化合物またはその塩を含有してなるインスリン抵抗性改善剤、
〔12〕インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害する化合物またはその塩を含有してなる耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療剤、
〔13〕インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害することを特徴とするインスリン抵抗性改善方法、
〔14〕インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害することを特徴とする耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療方法、
〔15〕インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進する化合物またはその塩を含有してなるインスリン抵抗性改善剤、
〔16〕インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進する化合物またはその塩を含有してなる耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療剤、
〔17〕インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進することを特徴とするインスリン抵抗性改善方法、
〔18〕インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進することを特徴とする耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療方法、
〔19〕GM3およびサイトカイン発現能力を有する細胞を用いることを特徴とする、インスリン抵抗性改善作用を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法、
〔20〕GM3およびサイトカイン発現能力を有する細胞を用いることを特徴とする、耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化症、高血圧症または心疾患の予防・治療作用を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法、
〔21〕サイトカインが、インスリン抵抗性誘導サイトカインである上記〔19〕または〔20〕記載のスクリーニング方法、
〔22〕インスリン抵抗性誘導サイトカインが、TNF−α、IL−6、成長ホルモンおよびレジスチンから選ばれる少なくとも一種である上記〔21〕記載のスクリーニング方法、
〔23〕サイトカインが、インスリン抵抗性改善サイトカインである上記〔19〕または〔20〕記載のスクリーニング方法、
〔24〕インスリン抵抗性改善サイトカインが、アジポネクチンである上記〔21〕記載のスクリーニング方法、
〔25〕GM3存在下、サイトカイン量を測定することを特徴とするインスリン抵抗性の診断方法などを提供する。
【発明の効果】
【0006】
(a)GM3存在下、サイトカイン(好ましくはインスリン抵抗性誘導サイトカイン)発現能力を有する細胞における該サイトカインの発現を抑制する化合物またはその塩、および(b)GM3存在下、サイトカイン(好ましくはインスリン抵抗性改善サイトカイン)発現能力を有する細胞における、該サイトカインの発現を促進する化合物またはその塩は、例えば、インスリン抵抗性改善剤として、さらには糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化症、高血圧症または心疾患の予防・治療剤として有用である。GM3およびサイトカイン(好ましくはインスリン抵抗性誘導サイトカイン)発現能力を有する細胞は、インスリン抵抗性改善作用、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化症、高血圧症または心疾患の予防・治療作用を有する化合物またはその塩のスクリーニングに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書中「サイトカイン発現能力を有する細胞」の「細胞」としては、哺乳動物(例、ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル、イヌ、ネコなど)由来の細胞株および組織が挙げられる。
上記細胞株および組織としては、例えば、脂肪細胞株、血球系細胞株、肝細胞株、骨格筋細胞株、脂肪組織、血球、肝組織、骨格筋組織などが挙げられる。好ましくは哺乳動物由来の脂肪細胞株、脂肪組織などである。さらに好ましくは、哺乳動物由来の3T3-L1脂肪細胞株、初代培養白色脂肪組織などである。
上記「サイトカイン発現」には、サイトカインタンパク質の発現、サイトカインタンパク質の分泌、サイトカインタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例、mRNAなど)の発現などが含まれる。
上記「サイトカイン」としては、例えば、インスリン抵抗性誘導サイトカイン、インスリン抵抗性改善サイトカインなどが挙げられる。
上記「インスリン抵抗性誘導サイトカイン」としては、例えば、TNF−α(例、ヒトTNF−α、ラットTNF−α、マウスTNF−αなど)、IL−6(例、ヒトIL−6、ラットIL−6、マウスIL−6など)、成長ホルモン(例、ヒト成長ホルモン、ラット成長ホルモン、マウス成長ホルモンなど)、レジスチン(例、ヒトレジスチン、ラットレジスチン、マウスレジスチンなど)などが挙げられる。好ましくはTNF−α、IL−6などである。
上記「インスリン抵抗性改善サイトカイン」としては、例えば、アジポネクチンなどが挙げられる。
【0008】
(1)医薬候補化合物のスクリーニング
「GM3存在下、サイトカイン発現能力を有する細胞におけるサイトカイン発現を抑制または促進する化合物またはその塩のスクリーニング方法」について、以下に述べる。
具体的には、(a)GM3存在下、サイトカイン発現能力を有する細胞を培養した場合と、(b)試験化合物およびGM3存在下、サイトカイン発現能力を有する細胞を培養した場合における、該細胞内のサイトカインの発現量または該細胞外へのサイトカインの分泌量をそれぞれ測定し、比較する方法が挙げられる。
サイトカインの発現量としては、サイトカインタンパク質の発現量、サイトカインタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例、mRNAなど)の発現量などが挙げられる。
タンパク質の発現量および分泌量の測定は、公知の方法、例えば、サイトカインを認識する抗体を用いて、細胞抽出液中などに存在する前記サイトカインを、ウェスタン解析、ELISA法などの方法またはそれに準じる方法に従い測定することができる。
mRNA量の測定は、公知の方法、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、PCR法またはそれに準じる方法に従い測定することができる。
培養は、公知の方法に従って行えばよく、培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地〔Science,122巻,501(1952)〕,DMEM培地〔Virology,8巻,396(1959)〕,RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association 199巻,519(1967)〕,199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73巻,1(1950)〕などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15時間〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
試験化合物としては、例えばペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられる。該化合物の塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルミニウム塩等)などとの塩が用いられ、この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、または有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、アルミニウム塩などが用いられる。
例えば、上記(b)の場合におけるサイトカインの発現量または分泌量を、上記(a)の場合に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上抑制(阻害)する試験化合物を、サイトカイン発現能力を有する細胞におけるサイトカイン発現を抑制(阻害)する化合物として選択することができる。
上記(b)の場合におけるサイトカインの発現量または分泌量を、上記(a)の場合に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上促進する試験化合物を、サイトカイン発現能力を有する細胞におけるサイトカイン発現を促進する化合物として選択することができる。
【0009】
「GM3存在下、サイトカイン発現能力を有する細胞におけるサイトカイン発現を抑制または促進する化合物またはその塩のスクリーニング用キット」は、サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を含有する。
【0010】
サイトカインがインスリン抵抗性誘導サイトカインの場合は、インスリン抵抗性誘導サイトカインの発現を抑制する化合物が好ましい。該化合物は、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害する作用を有する。
サイトカインがインスリン抵抗性改善サイトカインの場合は、インスリン抵抗性改善サイトカインの発現を促進する化合物が好ましい。該化合物は、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進する作用を有する。
【0011】
上記スクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩は、上記した試験化合物(例、ペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿など)から選ばれた化合物またはその塩であり、GM3のサイトカイン発現作用を抑制または促進する作用(好ましくは、インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現を阻害する作用、インスリン抵抗性改善サイトカイン発現を促進する作用)を有する化合物またはその塩である。
インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現を阻害する化合物またはその塩、およびインスリン抵抗性改善サイトカイン発現を促進する化合物またはその塩は、安全で低毒性な医薬、例えば、インスリン抵抗性の改善剤、耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療剤などとして有用である。
したがって、サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3は、上記スクリーニングのための試薬として有用である。
【0012】
上記化合物またはその塩を上記の医薬(予防・治療剤など)として使用する場合、常套手段に従って実施することができる。
該化合物またはその塩は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、該化合物またはその塩を生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造することができる。これら製剤における有効成分量は指示された範囲の適当な用量が得られるようにするものである。
錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。注射のための無菌組成物は注射用水のようなベヒクル中の活性物質、胡麻油、椰子油などのような天然産出植物油などを溶解または懸濁させるなどの通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などがあげられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノールなど)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80TM、HCO−50など)などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などがあげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、該化合物またはその塩を、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、酸化防止剤などと配合してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトまたは温血動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、その作用、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はある。
例えば、糖尿病患者(体重60kg当たり)に、一日につき、GM3によるIL-6の発現を阻害する化合物を約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mg経口投与する。非経口的に投与する場合、例えば、GM3によるIL-6の発現を阻害する化合物を注射剤の形で糖尿病患者(体重60kg当たり)に投与する場合、一日につき該化合物を約0.01〜30mg、好ましくは約0.1〜20mg、より好ましくは約0.1〜10mgを静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0013】
(2)医薬
「インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害する化合物またはその塩」としては、インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害する化合物(例、ペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿など)またはその塩であればよい。該化合物は、例えばインスリン抵抗性改善剤として、例えば耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療剤として有用である。
「インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進する化合物またはその塩」としては、インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進する化合物(例、ペプチド、タンパク質、抗体、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿など)またはその塩であればよい。該化合物は、例えばインスリン抵抗性改善剤として、例えば耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療剤として有用である。
上記剤とするためには、上記(1)と同様の公知の方法に従って、製剤化すればよい。
【0014】
(3)診断
GM3の存在下、サイトカイン量を測定することにより、インスリン抵抗性の診断をすることができる。
サイトカイン量としては、サイトカインタンパク質の発現量、サイトカインタンパク質の分泌量、サイトカインタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例、mRNAなど)の発現量などが挙げられる。
タンパク質の発現量および分泌量の測定は、公知の方法、例えば、サイトカインを認識する抗体を用いて、細胞抽出液中などに存在する前記サイトカインを、ウェスタン解析、ELISA法などの方法またはそれに準じる方法に従い測定することができる。
mRNA量の測定は、公知の方法、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、PCR法またはそれに準じる方法に従い測定することができる。
インスリン抵抗性誘導サイトカインの量(発現または分泌量など)が亢進している場合、インスリン抵抗性改善サイトカインの量(発現または分泌量など)が減弱している場合、例えばインスリン抵抗性、耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患などである、または将来罹患する可能性が高いと診断することができる。
【0015】
本明細書において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
A :アデニン
T :チミン
G :グアニン
C :シトシン
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
dATP :デオキシアデノシン三リン酸
dTTP :デオキシチミジン三リン酸
dGTP :デオキシグアノシン三リン酸
dCTP :デオキシシチジン三リン酸
ATP :アデノシン三リン酸
【0016】
本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号:1〕
実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:2〕
実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:3〕
実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:4〕
実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:5〕
実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
〔配列番号:6〕
実施例1で用いられたプライマーの塩基配列を示す。
【0017】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
実施例1
ラット腸間膜由来初代培養白色脂肪細胞におけるGM3添加によるTNF-αおよびIL-6の発現誘導
ラット腸間膜由来初代培養白色脂肪細胞(以下腸間膜脂肪細胞と略記する)は、ラット腸間膜脂肪前駆細胞(ホクドー社)を内臓脂肪分化培地(10% 新生児仔牛血清、100 units/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン、17μM パントテン酸、33μM ビオチン、100μM アスコルビン酸、1μM オクタン酸、50 nM トリヨードチロシン、2.5 mM ナイアシンアミド、10μg/ml インスリン、25μM デキサメタゾン添加D-MEM/F-12 培地)にて37℃、5%炭酸ガス存在下、コンフルエントの状態から4日間培養し、腸間膜脂肪細胞に分化させたものを用いた。なお、培養2日おきに培地交換を行った。
腸間膜由来脂肪細胞を無血清培養下、0、100、および200μMのGM3をそれぞれ添加し、24時間培養した後、total RNAを抽出し、これに含まれるIL-6、TNF-αおよびβ-actin mRNAを定量的RT-PCR法にて測定し、IL-6およびTNF-α発現量をβ-actin発現量に対する比として定量した。定量的RT-PCRは、SYBR Green RT-PCR試薬キット(アプライドバイオシステムズ社)を用いて添付のプロトコールに従って反応したPCR産物を、PCRプロダクト自動検出・定量システムABI PRISM 7900(アプライドバイオシステムズ社)で定量することにより行った。各遺伝子発現量を定量するRT-PCRには以下のプライマーを用いた。
ラットIL-6
5'-AGTCATTCAGAGCAATACTGAAACC-3’ (配列番号:1)
5'-CCACTCCTTCTGTGACTCTAACTTC-3’ (配列番号:2)
ラットTNF-α
5'-CCTTATCTACTCCCAGGTTCTCTTC-3’ (配列番号:3)
5'-GCTGACTTTCTCCTGGTATGAAAT-3’ (配列番号:4)
ラットβ-actin
5'-TGACAGACTACCTCATGAAGATCC-3’ (配列番号:5)
5'-GCAACATAGCACAGCTTCTCTTT-3’ (配列番号:6)
β-actin mRNAの比として算出したIL-6 mRNA 発現量は、GM3を添加しない条件と比較し、100μMのGM3添加により約1.4倍、200μMのGM3添加により約2.9倍に増加した。
なお、GM1、GM2および GD1aを用いて同様の検討を行なったが、IL-6 mRNAの発現亢進は認められなかった。
一方、同様に算出したTNF-α mRNA 発現量についてもGM3を添加しない条件と比較し、100μMのGM3添加より約1.3倍、200μMのGM3添加により約3.4倍の発現亢進が認められた。
以上のことより、脂肪細胞においてGM3添加によりTNF−αおよびIL-6のmRNAの発現が亢進することが示された。
【0018】
実施例2
ラット腸間膜由来初代培養白色脂肪細胞におけるGM3添加によるIL-6の分泌量の測定
ラット腸間膜由来初代培養白色脂肪細胞は実施例1に記載の手法で培養し実験に用いた。実施例1と同様に腸間膜由来脂肪細胞を無血清培養下、200μMのGM3を添加し24時間培養した後、培養上清を回収しRat IL-6 ELISA System(アマシャム社)により培養液中に分泌されたIL-6タンパク質量を定量した。
GM3を添加しない場合の腸間膜由来脂肪細胞培養液中のIL-6分泌量が 0.16 ng/mlであるのに対し、200μMのGM3を添加した場合は2.16 ng/mlと約14倍の分泌量増加を認めた。なお、GM1、GM2およびGD1aを用いて同様の検討を行なったが、IL-6分泌の亢進は認められなかった。
以上のことより、脂肪細胞においてGM3の添加によりタンパク質レベルでもIL-6の分泌が亢進することが示された。
【0019】
実施例3
ラット腸間膜由来初代培養白色脂肪細胞におけるGM3添加によるIL-6発現誘導のGM1による阻害実験
実施例1に記載した方法に従い、ラット腸間膜脂肪前駆細胞を腸間膜由来初代培養白色脂肪細胞に分化させた。さらに無血清培養下において、この細胞にGM3およびGM1を同時添加し、IL-6 mRNAを定量した。
図1に示すように、100および200μMのGM3をそれぞれ添加することにより、濃度依存的にIL-6の mRNA 発現量が亢進するが、200μMのGM3に、100および200μMのGM1をそれぞれ添加することによりIL-6の mRNA 発現量が減弱した。
実施例1に示したように、GM1はIL-6発現誘導能を保持しないため、GM3に対し拮抗阻害的に作用しているものと考えられる。
以上のことより、この実験系のGM1を試験化合物と置き換えることにより、GM3によるサイトカイン発現誘導を阻害する化合物のスクリーニングが行ることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】GM3およびGM1添加により変動したIL-6のmRNA発現量を示す。横軸は、GM3およびGM1の添加量を、縦軸は1 ngのtotal RNAに含まれる、IL-6 mRNAのコピー数を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を用いることを特徴とする、GM3存在下、該細胞におけるサイトカイン発現を抑制または促進する化合物またはその塩のスクリーニング方法。
【請求項2】
インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を用いて、GM3存在下、該細胞におけるインスリン抵抗性誘導サイトカインの発現を抑制する化合物またはその塩をスクリーニングする請求項1記載の方法。
【請求項3】
インスリン抵抗性誘導サイトカインが、TNF−α、IL−6、成長ホルモンおよびレジスチンから選ばれる少なくとも一種である請求項2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を用いて、GM3存在下、該細胞におけるインスリン抵抗性改善サイトカインの発現を促進する化合物またはその塩をスクリーニングする請求項1記載の方法。
【請求項5】
インスリン抵抗性改善サイトカインが、アジポネクチンである請求項4記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
サイトカイン発現能力を有する細胞が、哺乳動物由来の細胞である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
細胞が、哺乳動物由来の脂肪細胞株、血球系細胞株、肝細胞株、骨格筋細胞株、脂肪組織、血球、肝組織または骨格筋組織である請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
(a)GM3存在下、サイトカイン発現能力を有する細胞を培養した場合と、(b)試験化合物およびGM3存在下、該細胞を培養した場合における、該細胞内または該細胞外のサイトカインの発現量をそれぞれ測定し、比較する請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
サイトカインの発現量が、サイトカインタンパク質の発現量もしくは分泌量、またはサイトカインタンパク質をコードするmRNAの発現量である請求項8記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
サイトカイン発現能力を有する細胞およびGM3を含有することを特徴とする、GM3存在下、該細胞におけるサイトカイン発現を抑制または促進する化合物またはその塩のスクリーニング用キット。
【請求項11】
インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害する化合物またはその塩を含有してなるインスリン抵抗性改善剤。
【請求項12】
インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害する化合物またはその塩を含有してなる耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療剤。
【請求項13】
インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害することを特徴とするインスリン抵抗性改善方法。
【請求項14】
インスリン抵抗性誘導サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性誘導サイトカイン発現作用を阻害することを特徴とする耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療方法。
【請求項15】
インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進する化合物またはその塩を含有してなるインスリン抵抗性改善剤。
【請求項16】
インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進する化合物またはその塩を含有してなる耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療剤。
【請求項17】
インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進することを特徴とするインスリン抵抗性改善方法。
【請求項18】
インスリン抵抗性改善サイトカイン発現能力を有する細胞における、GM3のインスリン抵抗性改善サイトカイン発現作用を促進することを特徴とする耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化、高血圧症または心疾患の予防・治療方法。
【請求項19】
GM3およびサイトカイン発現能力を有する細胞を用いることを特徴とする、インスリン抵抗性改善作用を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法。
【請求項20】
GM3およびサイトカイン発現能力を有する細胞を用いることを特徴とする、耐糖能異常、糖尿病、肥満症、高脂血症、動脈硬化症、高血圧症または心疾患の予防・治療作用を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法。
【請求項21】
サイトカインが、インスリン抵抗性誘導サイトカインである請求項19または20記載のスクリーニング方法。
【請求項22】
インスリン抵抗性誘導サイトカインが、TNF−α、IL−6、成長ホルモンおよびレジスチンから選ばれる少なくとも一種である請求項21記載のスクリーニング方法。
【請求項23】
サイトカインが、インスリン抵抗性改善サイトカインである請求項19または20記載のスクリーニング方法。
【請求項24】
インスリン抵抗性改善サイトカインが、アジポネクチンである請求項21記載のスクリーニング方法。
【請求項25】
GM3存在下、サイトカイン量を測定することを特徴とするインスリン抵抗性の診断方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−17702(P2008−17702A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308610(P2004−308610)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】