説明

インスリン様成長因子−Iレセプターアンタゴニスト

本発明は、インスリン様成長因子レセプターI(IGF-IR)に結合するが、本分子に関連するシグナル伝達および次の代謝、成長および抗アポトーシス活性ならびに癌の進行を開始しないIGF-Iバリアントに関する。これらの新規バリアントは、同種リガンドの結合を阻害するがインスリンレセプターと結合しないように作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は2006年7月6日に出願された米国特許仮出願第60/818,919号の利益を主張する。上記出願の全教示は参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(略語)
ACL、抗癌リガンド、DNL、ドミナントネガティブリガンド;DBO、ドメイン結合最適化;HER、ヒト上皮レセプター;IR、インスリンレセプター;IGF-1、インスリン様成長因子-1;IFN、インターフェロン;hGH、ヒト成長ホルモン;VEGF、血管内皮成長因子;NGF、神経成長因子;TNF、腫瘍壊死因子;GPCR、G-タンパク質共役型レセプター;RTK、レセプターチロシンキナーゼ。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
癌の領域において、成長因子レセプターおよびそのリガンドは多くの種々の細胞型における成長を刺激する(およびアポトーシスを妨げる)シグナルを提供することによって発生において特に重要な生理学的役割を果たしている(Ullrich, A.およびJ.Schlessinger(1990)Cell 61:203-212)。HERファミリー(および特にEGFRおよびHER2)ならびにVEGFRのような分子標的は特に魅力的な標的である。キナーゼドメインに干渉する低分子治療剤および細胞外ドメインと相互作用するモノクローナル抗体が、受け入れられており、臨床でいくつか成功している。
【0004】
しかし、インスリン様成長因子-Iレセプター(IGF-IR)は分子治療剤の十分に認識される標的として攻めることができずにいる。IGF-IRは、そのリガンドとその関連結合タンパク質の正常な生物学的作用によるシグナル伝達を媒介し、発生を促進し、有糸分裂促進活性、抗アポトーシス活性および化学走性活性を介して成長および器官発生を刺激する点で重要な役割を果たす。
【0005】
IGF-IRは細胞接着、細胞移動、浸潤、血管形成および転移成長を含む、癌の進行および多段階プロセスの転移中に重要な役割を果たすことが示され(Bahr, C.およびB. Groner(2005) Growth Factors 23(1):1-14;Larsson, O, A GirnitaおよびL Girnita (2005) British Journal of Cancer 92:2097-2101)、いくつかの証拠のつながりによって、IGF-IRと正常細胞の形質転換または悪性進行との間の関連の支持が確かめられた。
【0006】
癌の病因におけるIGFの役割を調査する疫学研究によって、比較的高いレベルのIGF-IRリガンド、IGF-Iと関連する固形腫瘍(特に、乳房、前立腺および結腸)のリスクが高いことについて妥当で一致した支持が提供された(Hankinson, S.E., et al., (1998)Lancet. 351:1393-1396;Chan, J.M., et al.,(1998) Science. 279:563-566;Yu H, et al., (1999)J.Natl. Cancer Inst. 91:151-156)。
【0007】
IGF-Iリガンドおよびそのレセプター、IGF-IRが癌で果たす役割のために、IGF-I/IGF-IR軸に対して標的とされた治療剤を生み出す多くの戦略が提唱されている(Hofmann, F. and C. Garcia-Echeverria. (2005)Drug Discovery Today. 10:1041-1047)。アンチセンス治療剤、siRNAアプローチ、ドミナントネガティブレセプターおよび可溶性切断レセプターを用いる遺伝子治療などのこれらのうちのいくつかは実践的であるとは証明されていない。モノクローナル抗体を用いる阻害戦略(Maloney, E.K., et al.,(2003) Cancer Research 63:5073-5083; Burtrum, D., et al.,(2003) Cancer Research 63:8912-8921;Mitsiades, C.S., et al., Cancer Cell 5:221-230; Hailey, J., et al., (2002) Molecular Cancer Therapeutics 1:1349-1353)が進行中である。しかし、キナーゼドメインの低分子インヒビター(Bell, I.M., et al., (2005) Biochemistry 44:9430-9440)のように、分子はIR活性の実質的な阻害を生じた(Larsson, O, A Girnita and L Girnita. (2005) British Journal of Cancer. 92:2097-2101)。
【0008】
IGF-IRに対して標的とされるこれらの種類の治療剤を開発することの困難性にも関わらず、試行錯誤が製薬会社およびバイオテクノロジー会社の両方で続いている(Wang, Y., et al., (2005) Mol Cancer Ther. 4:1214-1221; Cohen, B. D., et al., (2005)Clin Cancer Res. 11:2063-2073; Burtrum, D., et al.,(2003) Cancer Res. 63:8912-8921;Garcia-Echeverria, C., et al., (2004) Cancer Cell. 5:231-239)。
【0009】
IGF-Iに関して、IGF-Iの様々な残基の役割を明らかにすることを目的としたいくつかの突然変異誘発実験(アラニンスクリーニングおよびドメイン交換の両方)があり、これらはDenley et al. (2005, Molecular interactions o the IGF system. Cytokine Growth Factors Reviews 16:421-439)による概説に要約されており、結晶構造に突然変異誘発研究の機能的情報を重ねることによって図にまとめられている。
【0010】
I相臨床試験が最近、Pfizer製のモノクローナル抗体であるCP-751,871およびInsmed製の低分子キナーゼインヒビターであるInsm-18で開始されている (Garber K,(2005) J Natl Cancer Inst. 97:790-792)。
【0011】
多くのバイオテクノロジー大企業および製薬大企業が分子を標的としたが、これまでのところ、IRではなくIGF-IRに干渉する分子の発見における困難の結果としてほとんど不十分である。
【0012】
確かに、IGF-IR依存性の細胞生存および成長を阻害し、包括的な癌治療プログラムの一部として投与され得る分子は、癌に対する集積攻撃手段に大きく貢献する。これらの特異的IGF-IRアンタゴニストはまた、非常に有意な役割を果たす場合に、癌だけではなく、正常成長および加齢でもIGR-IRの役割を研究するための非常に有用なツールであり得る。
【発明の概要】
【0013】
(発明の概要)
従って、本発明は、インスリン様成長因子レセプターI(IGF-IR)に結合するが、本分子と関連するシグナル伝達ならびに次の代謝、成長および抗アポトーシス活性ならびに癌の進行を開始しないIGF-Iバリアントを提供する。これらの新規バリアントは同種のリガンドの結合を阻害するがインスリンレセプターに結合しないように作用する。
【0014】
本発明の一態様において、インスリン様成長因子-Iレセプター(IGF-IR)に対する結合親和性を有し、インスリンレセプター(IR)に結合せず、IGF-IRまたはIRのいずれかを介したシグナル伝達を開始しない選択的IGF-Iバリアントが提供される。
【0015】
本発明の別の態様において、本発明の選択的IGF-Iバリアントを含む医薬組成物が提供される。
【0016】
本発明の一態様において、癌細胞と1つ以上の選択的IGF-Iバリアントとを接触させる工程を含む、癌細胞の細胞増殖を阻害する方法が提供される。これらの方法は、癌細胞が乳房、前立腺、肺および結腸からなる群より選択される状態を含む。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(発明の詳細な説明)
本発明の態様の記載は以下の通りである。
【0018】
本発明は、他のアプローチに対してサイズ、製造の簡易性および特異性を含むいくつかの重要な利点を有する全体的に新しい種類の癌治療剤を包含する。これらの治療化合物は、抗癌リガンド(ACL)と名付けられる。より具体的に、本発明のACLは、腫瘍細胞の表面上のIGF-IRに結合し、シグナル伝達(例えば、本分子と関連する次の代謝、成長および抗アポトーシス活性ならびに癌の進行)を開始せず、本物のリガンドの結合を阻害し、IRに結合しないIGF-Iバリアントである。
【0019】
抗癌リガンド(ACL)としてのIGF-IRアンタゴニストの設計
本発明の一局面は、薬物の開発につながるようなリガンドを選択する工程および選択された薬物の開発につながるようなリガンドについてドメイン結合最適化(DBO)を行う工程を含む方法によって設計されるIGF-IRアンタゴニストおよびACLを含む。本質的な焦点は、(他方ではなく)一方のレセプター結合表面に結合して本質的に不活性形態でレセプターをロックすることによって、本物のリガンドのそのレセプターへの接近を阻害することである。両方の結合表面は本物のリガンドの全体的親和性に貢献するので、ACLの作製は2段階プロセス:第一に一方の表面での結合の破壊(親和性においてかなりの損失となり得る)、次に他方の部位での結合の改善(その結果これは本物のリガンドと効率的に競合し得る)である。
【0020】
より具体的に、IGF-Iの重要な残基がドメインAおよびBで突然変異誘発され、結合表面1に干渉する。特定のこれらの残基はIGF-IRおよびIRの両方への結合を非常に低減することを示した(Denley et al., (2005) Cytokine Growth Factors Reviews 16:421-439)。次にこのことによって、ドメインCおよびDと、IGF-IRの結合表面2との間での相互作用のみによって結合し得る非常に弱いIGF-Rアンタゴニストが生成される。
【0021】
配列ランダム化は次にIGF-IドメインCおよびDで行われ、ファージディスプレイおよびパニングが結合表面2での改善された結合を有する第二世代バリアントを拡充をするために行われる。改変は不安定であるので、免疫応答の可能性は最小化される。
【0022】
任意に、薬物の開発につながるようなリガンドはDBOの前に最適化を受け得る。薬物の開発につながるようなリガンドがDBPを受けると、次にリガンドはACLとして生物学的活性についてアッセイされ得る。任意に、DBOの前、DBOの間またはDBOの中にACLとして薬物の開発につながるようなリガンドを生物学的活性についてアッセイすることが望ましくあり得る。
【0023】
(1)IGF-IRに結合し、(2)IGF-IRを介したシグナル伝達を開始せず、(3)本物のリガンド(IGF-I)のIGF-IRへの結合を阻害し、(4)インスリンレセプター(IR)に結合しないこれらのIGF-IRアンタゴニストは、治療用ACLと同定されるかまたは称される。本発明の方法で同定される治療用ACLは、調節不全のIGF-IR媒介細胞シグナル伝達、特に癌からもたらされるかまたはこれを特徴とする疾患または障害の治療に有用である。
【0024】
薬物の開発につながるようなリガンドの選択
出発点として、ACLの設計は薬物の開発につながるようなリガンドの選択で始まる。必要とはされないが、同種のリガンドのような標的に対するある親和性を既に有するタンパク質で開始することも有益である。このアプローチは交差反応性をさらに最小化する。「薬物の開発につながるようなリガンド」は開始リガンドとして機能し得るが好ましくはIGF-IRに対する天然または同種リガンドである任意のリガンドを含む。また、薬物の開発につながるようなリガンドは、薬物の開発につながるようなリガンドとして機能するように設計される任意のポリペプチド配列を含む。例えば、全教示が参照によって本明細書に援用され、2005年6月30日に出願された相互係属中出願の米国特許出願番号第11/172,611号において、公知のHERリガンドが調査の出発点として使用されている。本発明の選択された薬物の開発につながるようなリガンドの公知構造または予測構造は、2つ以上のレセプター結合表面(例えば、これは二価リガンドを含み得る)を提示し得るか、含み得るかまたは含むように設計され得る。
【0025】
本発明は、IGF-Iは本質的に二価リガンドであり、ヒト成長ホルモン(hGF)およびEGFに対する機能的類似性を有するという最近の認識(De Meyts, P. and J. Whittaker (2002) Drug Discovery 1:769-782; Denley, A., et al., (2005) Cytokine Growth Factors Reviews 16:421-439)を探求するものである。IGF-IRおよびEGFRはまた、多くの類似した構造特徴を共有する。IGF-Iおよびインスリン活性の両方について十分に受け入れられたモデルによって、これらが通常離れた2つの結合表面を近接させることが示唆される。この構造変化はレセプターキナーゼドメインを活性化し、シグナル伝達を可能にする。
【0026】
構造的に、上述で定義された基準を満たす任意のアミノ酸ベース分子が薬物の開発につながるようなリガンドとみなされる。レセプター結合表面は個別および別々の表面、隣接表面であり得るか、または空間または配列中で重複し得る(すなわち、それぞれが表面の構成要素として同一のアミノ酸または共通のアミノ酸を利用し得る)。
【0027】
用語が本明細書で使用される場合、「レセプター結合表面」は、リガンドとレセプターとの間での相互作用の部位として機能する本発明の薬物の開発につながるようなリガンドおよびACL中に見られるモチーフである。レセプター結合表面は、例えば、ポリペプチドの全体配列の静電気または熱力学エネルギー最小化のために非隣接のアミノ酸が近接されて表面が作られ、二次元および/または三次元タンパク質構造を生じる場合に、特定のアミノ酸配列で定義され得るか、またはタンパク質フォールディングからもたらされ得る。
【0028】
薬物の開発につながるようなリガンドまたはACLとレセプターとの間での相互作用の部位として機能するレセプターの対応モチーフは、本明細書で「標的レセプタードメイン」と呼ばれる。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「リガンド」は、本明細書で定義されるレセプターに特異的に結合できるポリペプチドベース分子を示すために使用される。定義は、レセプターに対して、少なくとも定性的レセプター結合能を保持する任意の天然リガンドまたはその任意の領域もしくは誘導体を含む。具体的に、この定義からレセプターに対する抗体および抗体の非共有結合性コンジュゲートおよび該抗体の抗原が排除される。
【0030】
用語「天然リガンド」および「野生型リガンド」は、互換的に使用され、天然供給源から精製、化学合成または組み換え生成された、かかるリガンドの成熟、プレプロおよびプロ形態を含む、天然で生じるリガンドのアミノ酸配列(「天然配列リガンド」)のことをいう。レセプターを活性化し得る天然リガンドは、当該技術分野で周知であるか、または当該技術分野で公知の方法によって調製され得る。
【0031】
本発明の天然リガンドは、IGF-IおよびIGF-IIを含む。IGF-IおよびIGF-IIは主に肝臓で生成され、正常成長および発生に必須である小さなタンパク質ホルモンである(Adams, T.E., N McKern and C. Ward.(2004) Growth Factors.22(2):89-95)。IGF-Iの肝臓合成は成長ホルモン(GH)依存的であるが、GHはIGF-II発現に対する調節効果を有さない。通常、血清中の遊離IGF-Iの割合は、高い親和性(即ち、低ナノモル範囲)で本リガンドに結合する少なくとも7つのIGF結合タンパク質(IGFBP)ファミリーのために、非常に低い(全体の1%未満)。IGFBPはIGF-Iの細胞レセプターへの送達を調節し、かつ循環中のリガンド半減期を増大する(Jones, J.IおよびD.R. Clemmons(1995) Endocr. Rev. 16:3-34; Cohen, K.L.,およびS.P. Nissley (1976) Acta Endocrinol (Copenh).83:243-258)。
【0032】
IGF-IおよびIGF-IIはそれぞれ、3つの鎖間ジスルフィド架橋によって架橋され、70および67アミノ酸残基を含む、高度に保存された単鎖ポリペプチドである。2つの分子は、インスリンと約72%配列相同性を共有し、約50%相同である。3つのタンパク質は全てN-末端シグナル伸張を有するプレプロペプチドとして合成される。
【0033】
IGF-IおよびIGF-IIは高い親和性でIGF-IRに結合する(IGF-IについてKd1.5×10-9MおよびIGF-IIについて3.0×10-9M)。また、IGF-IIは、IGF-Iに対して500倍の増大親和性でIGF-IIと結合するがインスリンと結合しない、第二レセプターのマンノース-6-リン酸レセプターに高い親和性で結合し得る(Morgan, D.O., et al.,(1987) Nature 329:301-307; Oshima, A., et al.,(1988)J. Biol. Chem. 263:2553-2562)。
【0034】
IGF-IのNMR解析によって、インスリンと同じ基本3次元構造を有する一般的動的構造が明らかにされた(Cooke, R.M., et al., (1991)Biochemistry. 30:5484-5491;Sato, A., et al., (1992)J Biochem(Tokyo). 111:529-536;Sato, A., et al.,(1993)Int. J. Pept. Protein Res. 41:433-440)。
【0035】
Vajdosらは、IGF-Iの高解像度画像を最初に報告した(Vajdos, F.F., et al., (2001)Biochemistry 40:110221102-9)。インスリンの結晶構造はこの構造と重ねられ得、IGF-Iの2つの独自のドメインが明らかにされた。
【0036】
また、本発明のACLは、これらがレセプターと結合し、該レセプターによるシグナル伝達の誘発を阻害またはできないという点で、ドミナントネガティブリガンドとして機能する。本明細書で使用される場合、用語「ドミナントネガティブ」は、ある型のリガンドが、任意の面で天然または野生型リガンドと異なるように変更または改変される場合に、野生型結合パートナー(例えば、レセプター)に対する結合親和性を保持するが、野生型結合パートナーの機能またはシグナル伝達を阻害するリガンドとなることを説明する。
【0037】
本発明は、前記機能特性に適用されるようなドミナントネガティブリガンド(DNL)としてのACLの設計および設計参照点または出発点として別のDNLを有する「DNLバリアント」の設計を企図する。これに関して、ACLはDNLと呼ばれ得る。これらのDNLまたはACLは、結合阻害およびシグナル阻害に加えてまたはこれらを超えて特性のさらなる最適化の結果物であり得る。例えば、第一DNL(またはACL)に対して最適化されると、次にDNL(またはACL)バリアントは設計スキームで出発DNL(またはACL)となるというさらなる最適化の意味のための出発点となり得る。従って、「DNL」(または「ACL」)は、特定の文脈において、「DNLバリアント」(または「ACLバリアント」)およびその反対のものとして構成され得る。さらに、設計の出発点または参照点として使用される場合、DNLまたはACLはまた、薬物の開発につながるようなリガンドと呼ばれ得るかまたはみなされ得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、用語「ドミナントネガティブリガンド活性」とは、ドミナントネガティブリガンドと関連する機能(例えば、リガンドと結合するがレセプターの機能を阻害する)のことをいう。
【0039】
本発明の薬物の開発につながるようなリガンドおよびACLは、アミノ酸系分子である。これらの分子は「ペプチド」、「ポリペプチド」または「タンパク質」であり得る。これらの用語は相対的な大きさを示すことは当該技術分野で公知であるが、本明細書で使用されるこれらの用語は、本明細書で呼ばれ、かつ本発明に包含される様々なアミノ酸系分子の大きさに関して限定されるとみなされるべきではない。従って、本明細書に開示される少なくとも1つのACLまたはそのレセプター結合表面を含み、任意のレセプターに結合する任意のアミノ酸配列が本発明の範囲内にある。
【0040】
用語「アミノ酸」および「複数のアミノ酸」は、全て天然L-アルファ-アミノ酸のことをいう。アミノ酸は表1に列挙される1文字または3文字表記のいずれかで同定される。


【0041】
本発明のACLのアミノ酸配列は、タンパク質、ペプチド、ポリペプチドまたはその断片とみなされ得るものなどの天然アミノ酸を含み得る。あるいは、ACLは天然アミノ酸および非天然アミノ酸の両方を含み得る。
【0042】
用語「アミノ酸配列バリアント」とは、天然配列と比べてアミノ酸配列におけるいくつかの違いを有する分子のことをいう。アミノ酸配列バリアントは天然リガンドのアミノ酸配列内の特定の部位での置換、欠失および/または挿入を有し得る。通常、バリアントは天然リガンドに対して少なくとも約70%の相同性を有し、好ましくはこれらは天然リガンドに対して少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%相同である。
【0043】
アミノ酸配列に適用される「相同性」は、必要である場合に最大パーセントの相同性を達成するように、配列の整列およびギャップの導入後に天然リガンドのアミノ酸配列の残基と同一である候補アミノ酸配列中の残基パーセントとして定義される。整列のための方法およびコンピュータープログラムは当該技術分野で周知である。相同性はパーセント同一性の計算に依存するが、計算で導入されたギャップおよびペナルティのために値で異なり得ることが理解される。
【0044】
「ホモログ」とは、ヒト野生型リガンドまたはレセプターに対する実質的な同一性を有する他の種の対応リガンドまたはレセプターを意味する。
【0045】
「アナログ」は、1つ以上のアミノ酸変更、例えば親ポリペプチドのIGF-IRアンタゴニスト特性をなお維持するアミノ酸残基の置換、付加または欠失で異なるポリペプチドバリアントを含むことを意味する。上記のように、親分子(即ち、比較の参照点)は薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニスト、DNL、ACLまたはそのバリアントを含み得る。
【0046】
本明細書で記載される場合、本発明の方法で作製されたIGF-IRアンタゴニストおよびACL、そのホモログおよびアナログは野生型リガンドに対する実質的な同一性を有し得る。本明細書で使用される場合、「実質的な同一性」は、野生型ヒトリガンドのアミノ酸配列(またはバリアントが交換ドメインで生じたキメラである場合のそのドメイン)に対して、少なくとも60%配列同一性、好ましくは少なくとも70%同一性、好ましくは80%以上の同一性、より好ましくは90%配列同一性を意味するが、IGF-IRアンタゴニストまたは抗癌リガンド活性を維持する。他の態様において、本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは野生型ヒトリガンドのアミノ酸配列に対して、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、または少なくとも98%アミノ酸同一性を有するが、IGF-IRアンタゴニストおよびACL活性を維持する。
【0047】
2つのアミノ酸配列のパーセント同一性は、最適比較の目的のための配列(例えば、ギャップは第一配列の配列に導入され得る)を整列することで決定され得る。次に対応する位置のアミノ酸を比較し、2つの配列間のパーセント同一性は配列に共有される同一位置の数の関数(即ち、%同一性=同一位置の数/位置の総数×100)である。2つの配列の実際の比較は、周知の方法、例えば、数学的アルゴリズムを用いて達成され得る。かかる数学的アルゴリズムの好ましい非限定例は、Karlin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:5873-5877(1993)に記載されている。かかるアルゴリズムは、Schaffer et al., Nucleic Acids Res. 29:2994-3005(2001)に記載されるようにBLASTNおよびBLASTXプログラム(バージョン2.2)に組み込まれている。
【0048】
用語「誘導体」は用語「バリアント」と同義的に使用され、参照分子または出発分子に対して任意の方法で改変または変化された分子のことをいう。本明細書で使用される場合、誘導体およびバリアントリガンドは出発親分子に対して改変、変更、改善または最適化されたアミノ酸系分子である。
【0049】
本発明は、数種類のIGF-IRアンタゴニストおよびACLバリアントおよび誘導体を構想する。これらは置換、挿入、欠失および共有結合性のバリアントおよび誘導体を含む。
【0050】
従って、置換、挿入および/または付加、欠失および共有結合性改変を含むポリペプチド系分子が本発明の範囲に含まれる。例えば、1つ以上のリジンのような配列タグまたはアミノ酸が本発明のペプチド配列に付加され得る(例えば、N末端またはC末端)。配列タグはペプチド精製または局在化に使用され得る。リジンはペプチド可溶性を高めるためまたはビオチン化の部位を提供するために使用され得る。あるいは、ペプチドまたはタンパク質のアミノ酸配列のカルボキシ末端およびアミノ末端領域に位置するアミノ酸残基が任意に欠失され、切断配列を提供し得る。特定のアミノ酸(例えば、C末端またはN末端残基)は代替的に、配列の使用、例えば、可溶性であるか、または固相支持体に結合された大きな配列の一部としての配列の発現に依存して欠失され得る。
【0051】
「置換バリアント」は天然または出発配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が除去され、かつ同じ位置の場所に異なるアミノ酸が挿入されたものである。置換は、分子の1つのアミノ酸だけが置換される場合に1つであり得るか、または2つ以上のアミノ酸が同じ分子で置換される場合に複数であり得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「保存的なアミノ酸置換」とは、配列に通常存在するアミノ酸の、同様な大きさ、電荷または極性の異なるアミノ酸との置換のことをいう。保存的な置換の例は、イソロイシン、バリンおよびロイシンのような非極性(疎水性)残基の別の非極性残基との置換を含む。同様に、保存的な置換の例は、アルギニンとリジンの間、グルタミンとアスパラギンの間およびグリシンとセリンの間のようなある極性(親水性)残基の別のものとの置換を含む。また、リジン、アルギニン、またはヒスチジンのような塩基性残基の別のものとの置換、あるいはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸のようなある酸性残基の別の酸性残基との置換が保存的な置換のさらなる例である。非保存的な置換の例は、イソロイシン、バリン、ロイシン、アラニン、メチオニンのような非極性(疎水性)アミノ酸残基のシステイン、グルタミン、グルタミン酸またはリジンのような極性(親水性)残基との置換、および/または極性残基の非極性残基との置換を含む。
【0053】
「挿入バリアント」は、天然または出発配列の特定の位置でのアミノ酸に直に隣接して1つ以上のアミノ酸が挿入されたものである。アミノ酸に「直に隣接」はアミノ酸のアルファ-カルボキシまたはアルファ-アミノ官能基のいずれかに結合されることを意味する。
【0054】
「欠失バリアント」は、天然または出発アミノ酸配列の1つ以上のアミノ酸が除去されたものである。通常、欠失バリアントは分子の特定の領域で1つ以上のアミノ酸が欠失される。
【0055】
「共有結合性誘導体」は、有機タンパク質性または非タンパク質性誘導体化剤を用いた天然または出発リガンドの改変、および翻訳後修飾を含む。従来、共有結合性改変は、標的とされるリガンドのアミノ酸残基と、選択された側鎖または末端残基と反応可能な有機誘導体化剤とを反応させることによって、または選択された組み換え宿主細胞で機能する翻訳後修飾の機構を利用することによって導入される。得られた共有結合性誘導体は、生物学的活性、免疫アッセイ、または組み換え糖タンパク質の免疫アフィニティー精製の抗リガンド抗体の調製のために重要な残基の同定に指向したプログラムに有用である。かかる改変は当業者の範囲であり、過度の実験なしで行われる。
【0056】
特定の翻訳後修飾は発現ポリペプチドに対する組み換え宿主細胞の作用の結果である。グルタミニル残基およびアスパラギニル残基はしばしば、翻訳後に脱アミノ化され、対応するグルタミル残基およびアスパルチル残基になる。あるいは、これらの残基は温和な酸性条件下で脱アミノ化される。いずれかの形態のこれらの残基は本発明に従って使用されるリガンドに存在し得る。
【0057】
他の翻訳後修飾としては、プロリンおよびリジンのヒドロキシル化、ヒドロキシル基のセリル残基またはトレオニル残基のリン酸化、リジン、アルギニンおよびヒスチジン側鎖のアルファ-アミノ基のメチル化が挙げられる(T.E. Creighton, Proteins: Structure and Molecular Properties, W. H. Freeman & Co., San Francisco, pp.79-86(1983))。
【0058】
具体的に、共有結合性誘導体としては、本発明のリガンドが非タンパク質性ポリマーに共有結合する融合分子が挙げられる。非タンパク質性ポリマーは通常、親水性合成ポリマー、即ち、そうでない場合は天然では見られないポリマーである。しかし、天然に存在し、組み換えまたはインビトロ法で生成されるポリマーは、天然から単離されるポリマーと同じように有用である。例えば、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンの親水性ポリビニルポリマーは本発明の範囲に入る。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのようなポリビニルアルキレンエーテルが特に有用である。リガンドは、米国特許第4,640,835号;第4,496,689号;第4,301,144号;第4,670,417号;第4,719,192号または第4,179,337号に示される方法で、様々な非タンパク質性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、またはポリオキシアルキレンに結合され得る。
【0059】
また、翻訳後バリアントはグリコシル化バリアントを含む。用語「グリコシル化バリアント」は天然または出発リガンドのものとは異なるグリコシル化プロフィールを有するリガンドのことをいうために使用される。天然または出発の対応物と比べてドミナントネガティブリガンドに存在する炭水化物部分の位置および/または性質の任意の違いは本明細書の範囲内である。
【0060】
天然または出発リガンドのグリコシル化パターンはHPAEクロマトグラフィー(Hardy, M. R. et al., Anal. Biochem. 170, 54-62(1988))、グリコシル結合組成を決定するメチル化解析(Lindberg, B., Meth. Enzymol. 28.178-195(1972);Waeghe, T.J. et al., Carbohydr. Res. 123, 281-304(1983))、NMR分光測定、質量分析等を含む、分析化学で周知の技術によって決定され得る。簡易で、天然または出発リガンドのグリコシル化パターンの変化は通常、本質的にアミノ酸配列バリアントに関して当該技術分野で公知の技術を用いて、DNAレベルで行われる。
【0061】
また、リガンドに存在する炭水化物部分は、化学的または酵素的に除去され得る。また、グリコシドの本発明のリガンドへの化学結合または酵素結合が、炭水化物置換基の数またはプロフィールを改変または増大するために使用され得る。これらの方法はWO 87/05330(1987年9月11日公開)およびAplinおよびWriston, CRC Crit. Rev, Biochem., pp.259-306に記載されている。また、本明細書でリガンドのグリコシル化バリアントは適切な宿主細胞の正常プロセスなどのインビボ法で探求することによってもたらされ得る。例えば、酵母は、哺乳動物系のものとは有意に変化するグリコシル化をもたらす。同様に、リガンドの供給源以外の異なる種(例えば、ハムスター、ネズミ、昆虫、ブタ、ウシまたはウマ)または組織(例えば、肺、肝臓、リンパ球、間質または上皮)起源を有する細胞が、バリアントグリコシル化を生じる能力について慣例的にスクリーニングされる。
【0062】
本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLのアミノ酸配列は、化学合成、ファージディスプレイ、タンパク質またはポリペプチドの断片への切断のような様々な手段によって、または選択された特性を有するような十分な長さのアミノ酸配列が作製され得るまたは得られ得る任意の手段によって得られ得る。
【0063】
一態様において、本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは、適切な宿主での関連IGF-IRアンタゴニストまたはACLをコードする遺伝子の発現によって生じる。かかる遺伝子は、当該技術分野で周知の技術である、野生型遺伝子の部位特異的突然変異誘発法で最も容易に調製される。
【0064】
従って、また、本発明は、本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLをコードする核酸分子を提供する。本発明の核酸分子は、RNA、例えば、mRNAであり得るかまたはDNAであり得る。DNA分子は二本鎖または一本鎖であり得る。また、核酸分子は、マーカー配列、例えば、ポリペプチドの単離または精製を補助するようなポリペプチドをコードする配列に融合され得る。かかる配列としては、限定されないが、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質をコードするもの、インフルエンザ由来のヘマグルチニン(HA)ポリペプチドマーカーをコードするもの、およびHisタグをコードする配列が挙げられる。
【0065】
発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択および所望されるIGF-IRアンタゴニストまたはACLの発現レベルのような要因に依存し得ることが当業者に理解される。本発明の発現ベクターは、宿主細胞に導入され、本明細書に記載される核酸分子によってコードされる融合ポリペプチドを含む、本発明の改変ポリペプチドを生成し得る。本発明の改変ポリペプチドの組み換え生成を行うための分子生物学的技術は当該技術分野で周知であり、例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Lab Press;第3版, 2000)に記載されている。
【0066】
あるいは、本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは、Merrifield型合成(J.Am.Chem.Soc. 85:2149(1963)等による化学合成技術によって全体的または部分的に生成され得るが、当該技術分野で公知の他の等価の化学合成が使用され得る。固相合成は保護アルファ-アミノ酸の適切な樹脂への結合によってペプチドのC末端で開始される。アミノ酸はペプチド結合の形成について当該技術分野で周知の技術を用いてペプチド鎖と結合される。本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLの全てまたは一部の化学合成はIGF-IRアンタゴニストまたはACLにおける非天然アミノ酸置換の使用の場合に特に望ましくあり得る。
【0067】
改変および操作
本発明の方法によって、有効な治療用ACLを設計するために、選択された薬物の開発につながるようなリガンドを最適化することが必要である。この最適化にはドメイン結合最適化の前またはその後に、選択された薬物の開発につながるようなリガンドへの改変が含まれ得る。最適化のプロセスは、IGF-IRアンタゴニストおよびACLの多くの特性のそれぞれを最適化するために数回の改変を要して、反復的であり得るか、または連続的な様式で段階的に生じ得る。改変は、分子の1つ以上の特性を改善または変更するために単独または組み合わせて作製され得る。
【0068】
本発明の一態様において、薬物の開発につながるようなリガンドの1つ以上の特性を変更するために薬物の開発につながるようなリガンドの1つ以上の特徴に対して改変する工程を含む方法であって、該特性が最適pHまたはpH活性、消化性、抗原性、半減期、生物学的利用可能性、両親媒性特性、リガンド-レセプター相互作用、熱的または動力学的安定性、可溶性、フォールディング、翻訳後修飾、疎水性、親水性、等電点、プロテアーゼ耐性および芳香族性ならびにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される方法が提供される。列挙された特性が治療、診断および研究ツールの開発における考慮を提示することおよび分子の他の特性も特定の用途に依存して考慮および最適化される必要があり得ることが当業者に理解される。本明細書で使用される場合、用語「最適化されたまたは最適化」は、分子の1つ以上の特徴が開始分子と比べて特定の目的について改善されるような分子の改変または変更のことをいう。「改変」は、改変される物が形態または特徴で変化する改変の結果である。改変を介して最適化される本発明の分子としては、薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストおよびACLおよびそのバリアントが挙げられる。本発明の目的で、これらの分子は治療、診断または研究試薬の作製の目的で最適化される。
【0069】
本発明の改変は、本明細書で薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストおよびACLの1つ以上の特徴に対して行われる。「特徴」は分子の異なるアミノ酸配列ベース構成要素として定義される。本発明の薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストおよびACLの特徴としては、表面提示、局所構造形状、フォールド、ループ、半ループ、ドメイン、半ドメイン、部位、末端またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「表面提示」は、最外表面に現れる薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストまたはACLのアミノ酸ベース構成要素のことをいう。
【0071】
本明細書で使用される場合、用語「局所構造形状」は、薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストまたはACLの定義可能な空間内に位置する薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストまたはACLのアミノ酸ベース構造提示を意味する。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「フォールド」は、エネルギー最小時のアミノ酸配列の生じた構造を意味する。フォールドは二次元または三次元レベルのフォールディングプロセスで生じ得る。二次元レベルのフォールドの例としてはβシートおよびαヘリックスが挙げられる。三次元フォールドの例としては、エネルギー力の凝集または分離によって形成されるドメインおよび領域が挙げられる。このように形成された領域としては疎水性および親水性ポケット等が挙げられる。
【0073】
本明細書で使用される場合、タンパク質構造に関する用語「反転」は、ペプチドまたはポリペプチドの骨格の方向を変更する曲がりを意味し、1つ、2つ、3つ以上のアミノ酸残基を含み得る。
【0074】
本明細書で使用される場合、用語「ループ」とは、ペプチドまたはポリペプチドの骨格の方向を逆転し、4つ以上のアミノ酸残基を含むペプチドまたはポリペプチドの構造特徴のことをいう。Olivaらは少なくとも5種類のタンパク質ループを同定した(J.Mol Biol 266(4):814-830;1997)。
【0075】
本明細書で使用される場合、用語「半ループ」とは、由来するループとして少なくとも半数のアミノ酸残基を有する同定ループの一部のことをいう。ループは必ずしも偶数のアミノ酸残基を含むとは限らない場合があることが理解される。従って、ループが奇数のアミノ酸を含むか、またはこれらを含むと同定される場合において、奇数ループである半ループはループの全数部分または次の全数部分を含む(ループのアミノ酸数/2+/-0.5アミノ酸)。例えば、7アミノ酸ループとして同定されたループは3アミノ酸または4アミノ酸の半ループを生じ得る(7/2=3.5+/-0.5は3または4である)。
【0076】
本明細書で使用される場合、用語「ドメイン」とは、1つ以上の同定可能な構造または機能の特徴または特性(例えば、タンパク質-タンパク質相互作用の部位として機能する結合能)を有するポリペプチドのモチーフのことをいう。
【0077】
本明細書で使用される場合、用語「半ドメイン」は、由来するドメインとして少なくとも半数のアミノ酸残基を有する同定ドメインの一部を意味する。ドメインは必ずしも偶数のアミノ酸残基を含むとは限らない場合があることが理解される。従って、ドメインが奇数のアミノ酸を含むか、またはこれらを含むと同定される場合において、奇数ドメインである半ドメインがドメインの全数部分または次の全数部分を含む(ドメインのアミノ酸数/2 +/-0.5アミノ酸)。例えば、7アミノ酸ドメインとして同定されたドメインは、3アミノ酸または4アミノ酸の半ドメインを生じ得る(7/2=3.5+/-0.5は3または4である)。また、サブドメインはドメインまたは半ドメイン内で同定され得、これらのサブドメインはこれらが由来するドメインまたは半ドメインで同定された構造または機能特性の全てより少ない特性を有することが理解される。また、本明細書で任意のドメイン型を含むアミノ酸はポリペプチドの骨格に沿って連続的である必要はないこと(即ち、非隣接アミノ酸は構造的に折りたたまれてドメイン、半ドメインまたはサブドメインを生じ得る)が理解される。
【0078】
本明細書で使用される場合、用語「部位」は「アミノ酸残基」および「アミノ酸側鎖」と同義で使用される。部位は本発明のポリペプチドベース分子内で改変、操作、変更、誘導化、または変化され得るペプチドまたはポリペプチドの位置を表す。
【0079】
本明細書で使用される場合、用語「末端または複数の末端」とは、ペプチドまたはポリペプチドの末端のことをいう。かかる末端は、ペプチドまたはポリペプチドの開始部位または最終部位だけに限定されるだけでなく、末端領域のさらなるアミノ酸も含み得る。本発明のポリペプチドベース分子は、N末端(遊離アミノ基(NH2)を有するアミノ酸で終了する)およびC末端(遊離カルボキシル基(COOH)を有するアミノ酸で終了する)の両方を有するものとして特徴付けられ得る。薬物の開発につながるようなリガンドは、ある場合において、ジスルフィド結合または非共有力によってまとめられた複数のポリペプチド鎖から構成される(多量体、オリゴマー)。これらの種類のリガンドは複数のN末端およびC末端を有する。あるいは、ポリペプチドの末端は、当てはまる場合に、有機コンジュゲートのような非ポリペプチドベース部分で始まるまたは終了するように改変され得る。
【0080】
任意の特徴が本発明の分子の構成要素として同定または定義されたら、これらの特徴のいくつかの操作および/または改変のいずれかが、移動、交換、反転、欠失、ランダム化または複製によって行われ得る。さらに、操作の特徴は本発明の分子に対する改変と同じ結果をもたらし得ることが理解される。例えば、ドメイン欠失を伴う操作は、ちょうど完全長分子未満をコードする核酸の改変のような分子の長さの変更をもたらす。
【0081】
改変および操作は部位特異的突然変異誘発法などの当該技術分野で公知の方法によって達成され得る。次に、得られた改変分子は、本明細書に記載されるものなどのインビトロアッセイもしくはインビボアッセイまたは当該技術分野で公知の任意の他の適切なスクリーニングアッセイを用いて、活性について試験され得る。
【0082】
IGF-Iの循環濃度が、ある群の小さな特異的結合タンパク質、特にBP3によって強固に調節されることは注目すべきである。これらのタンパク質は血中でIGF-Iの有効濃度を非常に低く保ち、そうでなければ約20分で腎臓から除去されるはずであるタンパク質(hGHまたはインスリンなど)の半減期を大いに拡張する。この現象について明らかな治療指示がある。新規タンパク質がBPに結合しないようなバリアントIGF-Iの変異の作製によって、有効濃度が増大される(または患者に与える必要のある量が低減される)が、物質が迅速に除去されるので、かなり多くの頻度の用量を意味する。
【0083】
BP3結合およびこの現象の最適化の考慮は本発明の範囲内であり、ファージディスプレイプログラムの別々のパニング工程を介して影響を受け得る。
【0084】
本発明によれば、IGFBP結合の損失が許容され得ない薬理動力学的特性となるかどうかを決定し得る。それが可能である場合、次にIGFBP相互作用の回復が適切な治療であるかどうかまたはいくつかの他のアプローチ(例えば、ペグ化)が良好な解決であるかどうかを決定する研究が行われ得る。
【0085】
ドメイン結合最適化(DBO)
薬物の開発につながるようなリガンドが選択され、かつ任意に改変または最適化されると、薬物の開発につながるようなリガンドのドメイン結合最適化(DBO)が行われる。
【0086】
本明細書で使用される場合、「ドメイン結合最適化」は、薬物の開発につながるようなリガンドの第一標的レセプタードメインへの結合を阻害するために薬物の開発につながるようなリガンドの第一レセプター結合表面の1つ以上の特徴に対して上記の1つ以上の改変または操作を行うこと、および薬物の開発につながるようなリガンドの第二標的レセプタードメインへの結合を増強するために薬物の開発につながるようなリガンドの第二レセプター結合表面の1つ以上の特徴に対して1つ以上の改変を行うことを含む。この様式で、リガンドは、レセプターに結合し、本物のリガンドによる結合を阻害し、不活性形態のレセプターをロックする。
【0087】
上記のように、「標的レセプタードメイン」は薬物の開発につながるようなリガンドまたはIGF-IRアンタゴニストまたはACLとレセプターとの間での相互作用の部位として機能するレセプターの対応モチーフである。
【0088】
本明細書で使用される場合、用語「レセプター」および「標的レセプター」は、相互交換可能に使用され得、下流シグナル伝達の変更に影響を及ぼすリガンド-レセプター結合対の一員のことをいう。
【0089】
本発明の目的で、レセプターはインスリンレセプターチロシンキナーゼ(RTK)サブファミリーのものを含む。
【0090】
IGF-IRおよびオーファンインスリンレセプター関連レセプター(IRR)を含むインスリンRTKサブファミリーは構造的に独特である(Zhang B,およびR.A. Roth(1992)J Biol Chem. 15:18320-18328; Ullrich, A., et al., (1986) EMBO J.15:2503-2512)。これらは、2つのαおよび2つのβサブユニットからなり、いくつかのα-αおよびα-βジスルフィド結合を有する予め形成されたヘテロ4量体レセプターである。βサブユニットは、細胞外領域およびチロシンキナーゼドメインを含む細胞質部分を含む膜貫通鎖である。αサブユニットは全体的に細胞外であり、リガンド結合に重要なドメインを含む。L1-CR-L2ドメインの結晶構造データはリガンド分子を許容するほど大きな溝を示す(Garrett, T. P., et al.,(1998)Nature. 394:395-399)。EGFRは類似のL1-CR-L2構造を有する。Insドメインはまた、結合において役割を果たすように思われる。IGF-IRのアラニンスキャニングは、L1およびCRがIGF-I結合に重要であるが、IRのCR領域はインスリンの任意の結合エネルギーに寄与しないことを示した(Williams, P. F., et al., (1995)J Biol Chem. 270:3012301-6; Mynarcik, D. C., et al.,(1996)J Biol Chem. 271:2439-2442; Whittaker, J., et al., (2001)J Biol Chem. 276:43980-43986; Whittaker, J., et al.,(2002) J Biol Chem. 277:47380-47384)。IGF-IRおよびIRの両方は、インスリン、IGF-IおよびIGF-IIに結合できる。しかし、非同種レセプターに対する各リガンドの親和性は同種レセプターよりも2〜3オーダー低い大きさである(Mynarcik, D.C., et al.,(1997) J.Biol. Chem. 272:18650-18655)。
【0091】
適切なリガンドのIGF-IRへの結合は、触媒活性の増大となるキナーゼドメインの活性化ループにおける3つのTyr残基の自動リン酸化を誘発してレセプターの構造変化を誘導または安定化する(Favelyukis, S., et al.,(2001)Nat. Struct. Biol. 8:1058-1063;Pautsch, A., et al., (2001) Structure(Camb).9:955-965)。この事象は、少なくとも2つの異なる経路(Butler, A.A., et al., (1998)Comp. Biochem. Physiol. B. Biochem. Mol. Biol. 121:19-26):(1)転写因子活性の改変となるRas、Raf、および有糸分裂活性化タンパク質(MAP)キナーゼ、および(2)プロテインキナーゼB(Akt)の活性化およびBADのリン酸化によって細胞生存シグナルを提供するホスホイノシトール-3-キナーゼ(PI-3K)経路を介したシグナル伝達のカスケードを動かす。IGF-IRのキナーゼドメインを特異的に標的とするいくつかの低分子キナーゼインヒビターが開発中である(Garber K. (2005)J Natl Cancer Inst. 97:790-792)が、その成功の確率はIGF-IRとIRキナーゼドメインの相同性のために不確かである。
【0092】
IGF-IRおよびIRへの結合を変更して行なわれる改変の全体的な解析において、ドメインAおよびBの点変異が非常に少ないと、2次数より大きな大きさで結合親和性が低下することは注目に値し、その他のドメイン(CおよびD)では、約100nM(親和性の成熟に良好な開始点)の結合親和性が生じることを示す。
【0093】
第2に、ドメインCおよびDにおけるほぼ全ての変異体は、IGF-IRまたはIRへの結合に対して反対の効果を有し、親和性成熟によって得られるIGF-IRへの改善がIRへの結合の低下をもたらし、したがって、アンタゴニストがIRシグナル伝達を阻害する機会も低下することを示す。
【0094】
最後に、ドメインBにおける変異体の1つ(V44M)によって、既に、結合親和性よりも大きく生物学的活性を低下させることが示され(Denley A., et al., (2005) Mol Endocrinol. 19:711-721)、結合および受容体活性化を脱カップリングさせることが可能であることを示す。
【0095】
これらの観察は、IGF-I上に2つの異なる結合表面、およびIGF-IR上に2つの結合表面があるという結論を支持する。これに関して、IGF-Iは、2価のリガンドであり、受容体上の2つの別々の表面でEGFR(および他のHERファミリーRTK)に結合することが示されているEGFおよびTGF-αと非常に類似している。2価のリガンドとして、IGF-Iは、本明細書に概略を示した設計ストラテジーの優れた候補である。さらに、これは、アンタゴニストがIRよりもIGF-IRに対するその特異性を保持するような様式で行なうことが可能である。
【0096】
レセプターの定義は、a)一価リガンド(1つのレセプター結合表面を有するリガンド)、b)多価リガンド(2つ以上のレセプター結合表面を有するリガンド)、またはc)リガンドとレセプター二量体の相互作用、続いて複合体内構造変化によって通常活性化される細胞表面レセプターを含む。
【0097】
リガンドのレセプター結合表面およびレセプターの標的レセプタードメインは、コンピューター解析(例えば、分子モデリング)、X線試験、変異解析、抗体結合試験、ならびにランダムペプチドライブラリーパニングおよび結合試験を含む、当該技術分野で公知の方法によって決定され得る。変異アプローチとしては、部位特異的突然変異誘発法、拡張(escape)変異体の選択と共役したランダム飽和突然変異誘発法、挿入突然変異誘発法、およびホモログスキャニング突然変異誘発法(対応するレセプターと結合するヒトリガンド由来の配列と、ヒトレセプターと結合しない別の動物種、例えばマウス由来の対応リガンドの保存されていない配列との置換)の技術が挙げられる。
【0098】
本発明の一態様において、前記第一および第二標的レセプタードメインは同じレセプターに位置する。本発明の一態様は、薬物の開発につながるようなリガンドの前記第一または第二標的レセプタードメインへの結合の阻害または増強が標的レセプタードメイン、単離された標的レセプタードメインおよび代表的な標的レセプター部分を含む天然標的レセプターからなる群より選択される1つ以上の分子に対する薬物の開発につながるようなリガンドの結合親和性を測定することによって決定される方法である。
【0099】
本発明の一態様において、標的レセプターは、インスリンレセプターチロシンキナーゼサブファミリーから選択される。
【0100】
結合試験
ドメイン結合最適化は薬物の開発につながるようなリガンドの結合特性の変更を含むので、DBO後に得られたリガンドの結合特性を評価するために特定の結合アッセイを行うことが必要である。タンパク質-タンパク質結合およびリガンド-レセプター結合を評価するための多くの結合アッセイは当該技術分野で公知であり、当業者の能力の範囲であることが理解される。
【0101】
本発明によって提供されるIGF-IRアンタゴニストまたはACLは意図する目的のために十分な結合、好ましくはほぼ天然リガンドの結合を提供するほど十分なレセプターに対する親和性を有するべきである。従って、治療剤としての使用のために、本発明によって提供されるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、標的レセプターに対して約1〜1000nMの親和性(Kd)を有するべきである。より好ましくは、親和性は10nMである。最も好ましくは、親和性は1nMである。他のリガンドを同定する競合的結合アッセイの試薬としての使用について、アミノ酸配列は、好ましくは本物のリガンドよりも高いまたはこれと等しいレセプターに対する親和性を有する。
【0102】
本明細書で使用される場合、用語「結合」は、本発明の薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストまたはACLのレセプター結合表面と、標的レセプターの標的レセプタードメインの1つ以上のアミノ酸との間での1つ以上のイオン性結合、共有結合、疎水性結合、静電気結合、または水素結合の形成を含む。結合は、IGF-IRアンタゴニストまたはACLがインビトロアッセイで実質的に置き換えられない場合に「強固」とみなされ得る。少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは100%などの少なくとも約90%のDNLが天然リガンドと競合的に攻撃(challenge)する際にレセプターまたはレセプター部分に結合したままである場合に、IGF-IRアンタゴニストまたはACLは実質的に置き換えられない。また、結合は、IGF-IRアンタゴニストまたはACLがレセプターの天然リガンドを実質的に置き換える場合に強固とみなされ得る。少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは100%などの少なくとも約90%の天然リガンドがレセプターから置き換えられる場合に、IGF-IRアンタゴニストまたはACLは天然リガンドを実質的に置き換える。
【0103】
本発明のIGF-IRアンタゴニストまたはACLの結合活性または対生物作用活性が任意の他の適切なアッセイまたは他の方法によってさらに評価され得、かかるアッセイの結果または活性が野生型ヒトリガンドおよびレセプターの結合またはレセプター活性を測定するアッセイからの結合またはレセプター活性と比較される。
【0104】
本発明の一態様において、結合試験は、本発明の化合物のライブラリーで行われる。また、ライブラリーの作製方法は、本発明の薬物の開発につながるようなリガンド開始分子を作製するために使用され得る。
【0105】
本発明の一態様において、薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストまたはACLに行われる変更は、変更ポリペプチドのライブラリーの作製をもたらすかまたはこの作製から生じる。変更ポリペプチドのライブラリーは、ファージライブラリーまたは生じた様式と独立したポリペプチド配列の任意の他の選択もしくはグループを含み得る。
【0106】
本明細書で使用される場合、用語「ライブラリー」は、分子の集合体を意味する。ライブラリーは少数または多数の異なる分子を含み得、約2〜約1015分子以上の範囲で変化する。ライブラリーの分子の化学構造は互いに関連し得るかまたは多様であり得る。所望される場合、ライブラリーを構成する分子は、分子の回収および/または同定を助長し得る共通または独自のタグに結合され得る。
【0107】
ファージパニング
ペプチド、タンパク質、ペプトイドおよびペプチド模倣物などの様々な種類の分子の多様な集団を含むライブラリーの作製方法は当該技術分野で周知であり、様々なライブラリーが市販されている(例えば、EckerおよびCrooke, Biotechnology 13:351-360(1995)、ならびにBlondelle et al., Trends Anal. Chem. 14:83-92(1995)、ならびにそこに引用される文献を参照、それぞれは参照によって本明細書に援用される;また、GoodmanおよびRo, Peptidomimetics for Drug Design, in「Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery」Vol.1(M.E. Wolff編; John Wiley & Sons 1995), 803-861ページ、およびGordon et al., J. Med. Chem. 37:1385-1401(1994)を参照、それぞれは参照によって本明細書に援用される)。分子がペプチド、タンパク質またはその断片である場合に、分子はインビトロで直接生成され得るかまたは核酸から発現され得、インビトロで生成され得る。合成ぺプチドおよび核酸化学の方法は、当該技術分野で周知である。
【0108】
また、分子のライブラリーはDNA、RNAまたはそのアナログであり得る核酸分子のライブラリーであり得る。例えば、cDNAライブラリーは目的の細胞、組織、器官または生物から回収したmRNAから、またはゲノムDNAをランダムに断片化する制限エンドヌクレアーゼもしくは方法を用いて適切な大きさとした断片を生成するために処理され得るゲノムDNAを回収することで構築され得る。また、RNA分子を含むライブラリーは細胞からRNAを回収することまたはRNA分子を化学合成することによって構築され得る。かかるライブラリーを作製する方法は当該技術分野で周知である(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989)を参照、これは参照によって本明細書に援用される)。核酸分子の多様なライブラリーは分子のランダム化領域の生成を促進する固相合成を用いて作製され得る。所望される場合、ランダム化は分子のある位置での特定の割合の1つ以上のヌクレオチドを含む核酸分子のライブラリーが作製されるように偏向され得る(1993年12月14日に発行された米国特許第5,270,163号、これは参照によって本明細書に援用される)。
【0109】
本発明の一態様において、リガンドとレセプターの結合はリガンドのライブラリーのファージパニングを用いて決定される。例えば、アッセイはファージまたはファージ発現によって生じた薬物の開発につながるようなリガンドライブラリーまたはIGF-IRアンタゴニストまたはACLライブラリーのスクリーニングで行われ得る。
【0110】
非常に大きなタンパク質ライブラリーのスクリーニングはウイルスまたは細胞の表面上でのタンパク質のディスプレイに依存する様々な技術によって達成されている。ディスプレイ技術の基礎となる前提は生物学的粒子(即ち、細胞またはウイルス)の外部表面にアンカーされるように設計されたタンパク質が細胞を溶解する必要がなくリガンドへの結合について直接接近可能であるということである。リガンドに対する親和性を有するタンパク質を提示するウイルスまたは細胞は連続吸着/脱着形態固定化リガンドを含む様々な方法で、磁気分離またはフローサイトメトリーによって単離され得る(Ladner et al. 1993, 米国特許第5,223,409号、Ladner et al.1998, 米国特許第5,837,500号、Georgiou et al.1997, Shusta et al. 1999)。
【0111】
タンパク質ライブラリースクリーニング適用のために最も広く使用されるディスプレイ技術はファージディスプレイである。ファージディスプレイは、特定のリガンドに結合するタンパク質の発見ならびに結合親和性および特異性の設計のための、十分に確立され、かつ強力な技術である(RodiおよびMalowski, Curr. Opin. Biotechnol., 10:87-93;1999; WilsonおよびFinlay, Canadian Journal of Microbiology, 44:313-329; 1998)。ファージディスプレイにおいて、目的の遺伝子が表面曝露タンパク質をコードするファージ遺伝子、最も一般的にpIIIにインフレームで融合される。遺伝子融合物は2つのドメインが独立してフォールドするキメラタンパク質に翻訳される。リガンドに対する結合親和性を有するタンパク質を提示するファージは、「パニング」として公知のプロセスである固定化リガンド上での選択的吸着によって容易に豊富にされ得る。結合ファージは通常酸溶出によって表面から脱着され、大腸菌細胞の感染によって増幅される。通常、3〜6回のパニングおよび増幅は、特異的ポリペプチドを提示するファージについて、1015までの多様性を有する非常に大きなライブラリーから選択するほど十分である。各回のパニングは最も強固な結合リガンドを求めるクローンのプールを豊富にする。各ファージ粒子は提示ペプチドおよびこれをコードするDNAの両方を含むので、選択されたペプチドはDNA配列決定によって容易に同定され得る。強固に結合するポリペプチドを提示するクローンの急速な拡充のためのファージディスプレイのいくつかのバリエーションが開発されている(DuenasおよびBorrebaeck, 1994; Malmborg et al.,1996;Kjaer et al.,1998;Burioni et al., 1998; Levitan, 1998; Mutuberria et al.,1999;Johns et al., 2000)。
【0112】
本発明のファージパニング法は、ファージ粒子表面上での発現のための本発明のIGF-IRアンタゴニストまたはACLをコードするオリゴヌクレオチドの導入および標的レセプターまたはレセプター部分に対するファージ粒子のパニングを含む。ファージパニングは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)法のような他の結合アッセイと共に使用され得る。
【0113】
本発明の方法は、薬物の開発につながるようなリガンドのファージパニングを繰り返す工程をさらに企図する。この繰り返しは調査される薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストまたはACLの特性のいずれかまたは全てを最適化するために行われ得る。また、これはドメイン結合が最適化された薬物の開発につながるようなリガンドの集団を増大するために行われ得る。
【0114】
合理的再設計
本発明の一態様において、該方法は合理的再設計の工程をさらに含み得、薬物の開発につながるようなリガンドの選択工程および選択された薬物の開発につながるようなリガンドに対してDBO工程で行われる変更工程が単独または組み合わせで反復して行われる。
【0115】
DNLのドミナントネガティブ活性
本発明の薬物の開発につながるようなリガンド、IGF-IRアンタゴニストまたはACLは、多くの公知の方法、アッセイ、デバイスおよび当該技術分野で周知のキットを用いて1つ以上の細胞株でレセプター媒介対生物活性の阻害についてアッセイされ得る。
【0116】
本発明の一態様において、該1つ以上の細胞株は癌細胞株を含む。癌細胞株としては、限定されないが、肺、乳房、肝臓、心臓、骨、血液、結腸、脳、皮膚、腎臓、膵臓、卵巣、子宮、および前立腺または本明細書に列挙される癌の組織または腫瘍から単離された任意の細胞が挙げられる。
【0117】
本発明の一態様は、抗癌剤の同定方法であって、本明細書に記載される方法によって設計されるIGF-IRアンタゴニストまたはACLを腫瘍異種移植片系においてアッセイする工程を含み、測定された腫瘍成長速度、腫瘍サイズまたは腫瘍転移の減少が候補癌治療剤として陽性ヒットを表す、方法である。
【0118】
一態様において、IGF-IR細胞シグナル伝達の調節不全と関連する疾患は腫瘍である。特に、腫瘍は固形の腫瘍および/または血液もしくはリンパ節の癌である。より具体的に、上皮または中胚葉起源であり得る腫瘍は、肺、前立腺、膀胱、腎臓、隔膜、胃、膵臓、脳、卵巣、骨格系などの器官の腫瘍の良性または悪性型であり得、乳房、前立腺、肺および腸の腺癌、骨髄の癌、黒色腫、肝癌、耳-鼻-のど腫瘍が特にいわゆる悪性腫瘍の一員として明白に好ましい。
【0119】
本発明によれば、血液またはリンパ節の癌型の群は、全ての形態の白血病(例えば、B細胞白血病、混合型細胞白血病、ヌル細胞白血病、T細胞白血病、慢性T細胞白血病、HTLV-II-関連白血病、急性リンパ白血病、慢性リンパ白血病、肥満細胞白血病、および骨髄白血病と共に)およびリンパ腫を含む。
【0120】
間質悪性腫瘍(いわゆる骨および軟組織の肉腫)の例は、線維芽肉腫、悪性組織球腫、脂肪肉腫、血管肉腫、軟骨肉腫および骨芽肉腫、ユーイング肉腫、平滑横紋筋肉腫、滑膜肉腫、癌肉腫である。
【0121】
また、新生物形成が本発明の範囲に構想される。新生物形成としては、骨新生物形成、乳房新生物形成、消化系の新生物形成、結腸直腸新生物形成、肝臓新生物形成、すい臓新生物形成、下垂体新生物形成、精巣新生物形成、眼窩新生物形成、中枢神経系の頭部およびのどの新生物形成、聴覚器官、骨盤、呼吸器および尿生殖器の新生物形成が挙げられる。
【0122】
別の態様において、治療または予防される癌疾患または腫瘍は、鼻内部、鼻腔、鼻咽頭、口唇、口腔、口咽頭、咽頭、下咽頭、耳、唾液腺の腫瘍を含む耳-鼻-のど領域の腫瘍、および傍神経節腫、非小細胞気管支癌、小細胞気管支癌を含む肺の腫瘍、縦隔の腫瘍、食動、胃、膵臓、肝臓、胆嚢、および胆管の腫瘍を含む胃腸管の腫瘍、小腸、結腸および直腸の癌ならびに肛門癌、腎臓、尿管、膀胱、前立腺、尿道、ペニスおよび精巣の腫瘍を含む尿生殖器腫瘍、頸、膣、外陰の腫瘍を含む婦人科腫瘍、子宮癌、悪性栄養膜病、卵巣癌、尿管の腫瘍、腹腔の腫瘍、乳癌、甲状腺、副甲状腺、副腎皮質の腫瘍を含む内分泌器官の腫瘍、内分泌膵臓腫瘍、カルチノイド腫瘍およびカルチノイド症候群、多発性内分泌新形成、骨および軟組織肉腫、中皮腫、皮膚腫瘍、皮膚および眼内黒色腫を含む黒色腫、中枢神経系の腫瘍、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、神経線維腫症、神経芽細胞腫を含む幼児期の腫瘍、ユーイング肉腫腫瘍ファミリー、横紋筋肉腫、非ホジキンリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、中枢神経系の原発リンパ腫、ホジキン病を含むリンパ腫、急性白血病、慢性骨髄およびリンパ白血病を含む白血病、プラズマ細胞新形成、骨髄形成異常症、傍新生物形成症候群、未知の原発腫瘍を有する転移(CUP症候群)、腹腔癌、カポジ肉腫、AIDS関連リンパ腫、中枢神経系のAIDS関連リンパ腫、AIDS関連ホジキン病、およびAIDS関連肛門腫瘍等のAIDS関連悪性物を含む免疫抑制関連悪性物、移植関連悪性物、脳転移、肺転移、肝臓転移、骨転移、胸膜および心膜転移を含む転移した腫瘍、ならびに悪性腹水の群より選択される。
【0123】
本発明によれば、アッセイされる生物学的活性としては、限定されないが、本明細書に記載される任意の疾患または状態などのIGF-IR媒介病状、IGF-IR媒介細胞シグナル伝達、細胞成長、細胞増殖および腫瘍成長が挙げられる。
【0124】
本明細書で使用される場合、本明細書で定義される用語「レセプター媒介」は、発症がレセプターの機能または活性に関連され得るかまたはレセプターの機能または活性にトレースされ得る任意の現象または状態のことをいう。
【0125】
本発明の一態様において、阻害される生物学的活性は、癌(本明細書において上記に特定したものすべてを含む)からなる群より選択されるIGF-IRレセプター媒介病状である。本発明の一態様において、阻害される生物学的活性はIGF-IR媒介細胞シグナル伝達である。レセプター媒介細胞シグナル伝達のこの阻害は、レセプターによる下流シグナル伝達の排除をもたらし得、この効果は、1つ以上のタンパク質の変更されたリン酸化状態を測定することにより測定され得る。
【0126】
本発明によれば、IGF-IR媒介細胞シグナル伝達の阻害は、自己リン酸化アッセイまたは遺伝子発現アッセイを用いて測定され得る。細胞シグナル伝達カスケードの測定および定量方法は当該技術分野で、mRNAを測定すること(例えば、RT-PCR)またはタンパク質レベルを測定すること(例えば、ウエスタンブロット解析)のいずれかによる遺伝子発現の測定方法として公知である。
【0127】
本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは、多くの用途を有する。例えば、本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは、細胞IGF-IR媒介シグナル伝達の調節不全が疾患(例えば、癌)の病状過程に関与している患者を治療するために使用され得る。本発明の分子は、アミノ酸系分子として投与され得るたけでなく、遺伝子療法の状況において核酸分子としても投与され得る。さらに、これらの分子は、診断適用においてならびにさらなる基礎研究に使用され得る。
【0128】
治療製剤および送達
本発明はまた、本明細書に記載の治療用ACLを含む医薬組成物に関する。例えば、本発明のIGF-IRアンタゴニストまたはACLは、薬学的に許容され得る担体または賦形剤とともに製剤化され、医薬組成物が調製され得る。担体および組成物は無菌であり得る。製剤は、投与様式に適しているべきである。本明細書で使用されるように、用語「薬学的に許容され得る」、「生理学的に許容され得る」およびその文法的変化は、組成物、担体、希釈剤および試薬についていう場合、互換的に使用され、その物質が、吐き気、めまい、胃の不調などの望ましくない生理学的結果を起こすことなくヒトに投与され得ることを表す。
【0129】
適当な薬学的に許容され得る担体としては、限定されないが、水、塩溶液(例えば、NaCl)、生理食塩水、緩衝生理食塩水、アルコール、グリセロール、エタノール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロースまたはデンプンなどの炭水化物、デキストロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、ならびにその組合せが挙げられる。また、リポソームおよびマイクロエマルジョンなどの担体が使用され得る。
【0130】
また、本発明のIGF-IRアンタゴニストまたはACLは、ポリペプチドが早期に排出されるのを最小限にするために、アルブミンなどのタンパク質担体、またはポリエチレングリコールなどのポリマーに共有結合され得る。医薬調製物は、所望により、組成物中の活性剤(すなわち、本発明のポリペプチドおよび/または核酸分子)と有害な反応をしない補助剤、例えば、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤、着色剤、香味料および/または芳香族物質などと混合され得る。
【0131】
該組成物はまた、所望により、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含み得る。該組成物は、液体溶液、懸濁剤、エマルジョン、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放製剤、または粉末であり得る。該組成物は、従来の結合剤およびトリグリセリドなどの担体とともに坐剤として製剤化され得る。経口製剤は、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含み得る。
【0132】
これらの組成物の導入方法としては、限定されないが、経皮、筋肉内、腹腔内、眼内、静脈内、皮下、肺内、局所、経口および鼻腔内が挙げられる。
【0133】
また、他の適当な導入方法としては、遺伝子療法(下記)、再充填可能なまたは生分解性のデバイス、粒子加速デバイス (「遺伝子銃」)および低速放出ポリマーデバイスが挙げられ得る。また、本発明の医薬組成物は、他のIGF-IRアンタゴニストもしくはACLまたは他の化合物との併用療法の一部として投与され得る。
【0134】
本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは、ヒトへの投与に適合された医薬組成物として通常の手順に従って製剤化され得る。例えば、静脈内投与のための組成物は、典型的に、滅菌等張水性バッファー中の溶液である。必要な場合は、該組成物はまた、可溶化剤および注射部位での痛みを和らげるための局所麻酔剤を含み得る。一般に、成分は、別々または単位投薬形態で一緒に混合されて、例えば、活性化合物(ポリペプチドおよび/または核酸)の量を示したアンプルまたはサシェなどの気密密閉容器内の凍結乾燥粉末または無水濃縮物としてのいずれかで供給される。該組成物が注入によって投与される場合、滅菌医薬グレード水、生理食塩水またはデキストロース/水を含む注入ビンに分注され得る。該組成物が注射によって投与される場合、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルは、投与前に成分が混合され得るように提供され得る。
【0135】
本明細書に記載のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは、中性または塩の形態として製剤化され得る。薬学的に許容され得る塩としては、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などから誘導されるものなどの遊離アミノ基とともに形成されるもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第2鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導されるものなどの遊離カルボキシル基とともに形成されるものが挙げられる。
【0136】
本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは治療有効量で投与される。特定の障害または状態の治療において治療有効であるIGF-IRアンタゴニストまたはACLの量は、障害または状態の性質に依存し、標準的な臨床技術によって決定され得る。また、最適投薬量範囲の特定を補助するためにインビトロまたはインビボアッセイが任意に使用され得る。また、製剤に使用される正確な用量は、投与経路、および疾患または状態の症状の重篤度に依存し、担当医師の判断および各患者の状況にしたがって決定されるべきである。有効用量は、インビトロまたは動物モデル試験系から誘導される用量応答曲線から推定され得る。
【0137】
本発明はまた、細胞シグナル伝達の調節不全を特徴とする状態の治療 (予防、診断および/または治療)方法に関する。「IGF-IR細胞シグナル伝達の調節不全を特徴とする状態」は本発明のIGF-IRアンタゴニストまたはACLの存在が治療に役立つ状態である。かかる状態としては、多くの型の癌が挙げられる。
【0138】
用語「治療」は、本明細書で使用されるように、疾患または状態に関連する症状の改善だけでなく、疾患の発症の予防または遅延および疾患または状態の症状の重症度または頻度の低下のこともいう。1種類より多くの本発明のIGF-IRアンタゴニストまたはACLが所望により同時療法治療計画として同時に使用され得る。本明細書で使用されるように、「同時療法治療計画」は、2種類の治療様式が、別々もしくは併用製剤のいずれかで同時に投与されるか、または数分、数時間または数日あけて異なる時点で逐次投与されるが所望の治療応答を提供するようになんらかの様式で一緒に作用する治療計画を意味する。また、本発明のIGF-IRアンタゴニストおよびACLは、調節不全細胞シグナル伝達の種々の異常な活性を抑制する他の治療様式と合わせて使用され得る。かかるさらなる治療様式としては、限定されないが、受容体特異的抗体、小分子受容体インヒビター、従来の化学療法剤、および放射線療法が挙げられる。
【0139】
本発明の治療用化合物(1つまたは複数)は、治療有効量 (すなわち、疾患または状態に関連する症状を改善すること、疾患または状態の発症を予防または遅延すること、および/または疾患もしくは状態の症状の重症度もしくは頻度を低下させることなどによって疾患または状態を治療するのに充分な量)で投与される。特定の個体の疾患または状態の治療において治療有効である量は、疾患の症状および重症度に依存し、標準的な臨床技術によって決定され得る。また、最適投薬量範囲の特定を補助するためにインビトロまたはインビボアッセイが任意に使用され得る。また、製剤に使用される正確な用量は、投与経路、および疾患または状態の症状の重篤度に依存し、担当医師の判断および各患者の状況にしたがって決定されるべきである。有効用量は、インビトロまたは動物モデル試験系から誘導される用量応答曲線から推定され得る。
【0140】
本発明のACLの治療有効量は、典型的に、生理学的に許容され得る組成物で投与された場合、約0.1マイクログラム(ug)/ミリリットル(ml)〜約100ug/ml、好ましくは約1ug/ml〜約5ug/ml、および通常約5ug/mlの血漿濃度が達成されるのに充分であるようなACLの量である。つまり、投薬量は、約0.1mg/kg〜約300mg/kg、好ましくは約0.2mg/kg〜約200mg/kg、最も好ましくは約0.5mg/kg〜約20mg/kgの1日または数日間の1つ以上の用量の毎日投与で変化し得る。また、投薬量は、IGF-I血清レベルの範囲(0.1〜1 ng/ml)に基づく、および/またはACLの親和性に対するものであり得る。この出発点を用いて、本発明の化合物は、これらの測定値の10倍までの用量で投与され得る。例えば、ACL親和性が10nMであり、IGF-Iの親和性が1nMである場合、投薬範囲は、約10 ng/mL〜約100 ng/mLであり得る。
【0141】
本発明のACLまたはポリペプチドを含む治療用組成物は、単位用量によって投与され得る。用語「単位用量」は、本発明の治療用組成物に関して使用される場合、被験体に対する単位投薬量として適当な物理的に独立した単位をいい、各単位は、必要とされる希釈剤;すなわち、担体またはビヒクルと一緒に所望の治療効果が生じるように計算された所定量の活性物質を含有する。
【0142】
本発明の治療用化合物は、単独または上記の医薬組成物のいずれかで使用され得る。例えば、それ自体またはベクター内に含まれた本発明のIGF-IRアンタゴニストまたはACLの遺伝子は、細胞が所望のIGF-IRアンタゴニストまたはACLポリペプチドを産生するように細胞内に導入され得る(インビトロまたはインビボいずれかで)。所望により、本発明の核酸分子でトランスフェクトされた細胞は、疾患に罹患した個体に導入(または再導入)され得る。
【0143】
遺伝子療法
本発明の治療用ACLはまた、遺伝子療法の状況で使用され得る。本発明の意味において、「遺伝子療法」は、疾患症状および/またはその原因起源の生物学的ベース選択的阻害または逆転の目的で、天然または組換え操作核酸構築物、単独遺伝子配列または完全遺伝子または染色体セクションまたはコード転写領域、その派生物/改変物を使用する治療形態である。
【0144】
例えば、遺伝子療法は、ウイルスベクターなどの適当なベクターまたは/および脂質もしくはデンドリマーとの複合体形成を用いて実施され得る。遺伝子療法はまた、タンパク膜内への封入によって進行され得る。さらに、ポリヌクレオチドは、標的部位への指向された輸送、標的細胞内の取込みおよび/または分布を支持する別の分子と融合または複合体形成され得る。投薬量および投与経路の種類は、臨床要件に従って担当医師によって決定され得る。当業者が精通しているように、投薬量の種類は、患者の体格、体表面、年齢、性別、または一般健康状態などの種々の要素だけでなく、投与される特定の薬剤、投与期間および投与の型ならびに特に併用療法でおそらく並行投与される他の投薬物にも依存する。
【0145】
また、本発明の治療用ACLは、キット内に含まれ得る。したがって、本発明は、治療用ACLおよび/または医薬組成物を含むキットに関する。さらに、本発明は、治療用ACLおよび/または医薬組成物を含むアレイに関する。キットおよびアレイは、IGF-IR細胞シグナル伝達の調節不全に関連する疾患の診断および/または治療に使用され得る。本発明はまた、細胞シグナル伝達の調節不全に関連する疾患の診断、予防、低減、治療、追跡および/または後保護における前記治療用ACLバリアント、前記キット、前記アレイの使用に関する。
【実施例】
【0146】
実施例1:ACL:IGF-IR選択的リガンドの設計および確認
IGF-Iの産生および解析
大腸菌、Staphylococcus aureusおよび酵母などの種々のクローニング宿主において、IGF-Iの高レベル産生が達成された(他者による)(Forsberg,G.,et al.,(1990)Biochem. J. 271:357-363;Moks,T.,et al.,(1987)Biochemistry. 26:5239-5244)。
【0147】
IGF-Iは、IGF-I欠損障害を治療するための臨床試験における使用のために少なくとも2つの会社(TercicaおよびInsmed)によって商業的に製造されている。
【0148】
本明細書のクローニング試験では、重複オリゴを用いてIGF-I遺伝子を構築し、pET-9aベクター(Novagen)のNdeIおよびBamHIクローニング部位にライゲートした。IGF-I遺伝子をペリプラズムへの輸送のためのOmpAリーダー配列に融合し、また、第Xa因子切断部位を有するN末端his-タグの配列を含んだ。得られたクローンは、以下のアミノ酸配列:


に対応する。
【0149】
得られたプラスミドで大腸菌株BL21 (DE3)pLysS (Novagen)を形質転換し、一次抗体:マウス抗ペンタヒス抗体(Qiagen)とマウスWestern Breeze Chromogenic Immunodection System (Invitrogen)を用いたドットブロットによってタンパク質産生を確認した。大腸菌において産生されたIGF-IをNi-IMACカラムクロマトグラフィーによって精製し、細胞密度をWST-1細胞増殖試薬(Roche Applied Sciences)との反応によってモニターしながら2つの感受性細胞株(MCF-7およびHT-29)において細胞増殖を刺激する能力をアッセイで確認した。ヒス-タグ化物質は、市販の調製物(Pepro)と比べてわずかに低下した活性を有するようであったが、his-タグは除去され得、得られる切断生成物(サイズ排除クロマトグラフィーによって精製)は、市販の物質と見分けがつかない。
【0150】
IGF-I依存性増殖に干渉する化合物の評価のための標準的な細胞株は乳癌細胞株MCF-7である。この細胞株は、細胞あたり43,000コピーを超えるIGF-IRを発現するが、応答のダイナミックレンジは結腸癌細胞株HT-29と比べてかなり低い。
【0151】
当該技術分野では、スクリーニングに他の細胞株が使用され得ると理解されている。例えば、IGF-Iよりも優れた応答を有する細胞株ならびにIGF-Iに応答しない細胞株が陰性対照として使用され得る。マウス線維芽細胞株NIH/3T3は後者のカテゴリーの一例である。
【0152】
実施例2:IGF-Iの進化トレースの解析
進化トレース(「ET」)は、関連するDNA配列を比較対照するアルゴリズムである(Lichtarge,O.,et al.,(1996)J Mol Biol 257,342-58;Sowa,M.E.,et al.,(2000)Proc Natl Acad Sci USA 97,1483-8;Lichtarge,O.およびM. E. Sowa. (2002)Curr Opin Struct Biol 12,21-7)。これは、保存アミノ酸残基を同定するが、より重要なことには、タンパク質の特定のサブセットに特有な残基、結局は特定のタンパク質に特有な残基を同定する。これらの「トレース残基」がタンパク質の表面にマッピングされた場合、しばしば「トレースクラスター」と記載される。報告された場合(試験された数百のうち)の約85%において、これらのトレースクラスターは、機能性部位にマッピングされる。インスリンおよびその関連ファミリーのタンパク質は、機能が分かれた構造的に関連するポリペプチドの群を表す(Lu,C.,et al.,(2005)Pediatr Res. 57:70R-73R)。公のデータベースには、ヒトIGF-Iと少なくとも15%の相同性を共有する167のタンパク質配列がある。
【0153】
ET解析は、種々のインスリン、他のIGF-IおよびIGF-IIを含む関連タンパク質を示す樹状図(dendogram)を作製することにより始まる。特定のアミノ酸は、関連するタンパク質間の分岐点として同定され、統計学的にランク付けされる。最低ランク(最も重要な)トレース残基は、Denley要約(Denley et al.,(2005)Cytokine Growth Factors Reviews 16:421-439)に使用された同じ結晶構造にマッピングされた。低ランク残基はすべて、単一の充分定義された領域にマッピングされた。低ランク残基はいずれも分子の他方の面にはマッピングされなかった。これらは、インスリン/IGF-Iファミリーのタンパク質を他のものと分ける残基であり、共通のドメインを規定し、タンパク質の1つの結合表面を明白に取り決める。トレース解析は、公表された変異試験を確証し、「共通」ドメイン(ドメインAおよびB)の4つの非常に重要な残基:F16、F23、Y24およびV44を示す。
【0154】
これらの残基を特徴とする結合表面は、IGF-IRおよびIR両方の結合面1への本発明者らのアンタゴニストの結合を排除するため、除去され得る。
【0155】
また、IGF-Iの第2の結合表面も変異解析によって充分定義されており、ドメインCおよびDの残基で構成されている。これらのドメインにおけるアラニン置換(重要な機能性残基が除去される)により、IGF-IRに対する親和性が減少し、IRに対する親和性が増大することが知られている(Zhang,W.,et al.,(1994)J Biol Chem. 269:10609-10613)。したがって、これらの領域は、2つの受容体に対する結合の違いの原因である。したがって、この領域は、IGF-IR結合面2に対する親和性が向上するように操作され得る。かかる改変は、IRへの結合親和性を低下させる可能性がある。
【0156】
IGF-Iが2価のリガンドであるという仮説のさらなる支持は、IGF-I/IGF-IR系とEGF/EGFR系との間の構造および配列類似性に由来する。通常は離れている受容体の2つのドメインが近接会合して安定化する点において、IGF-IがEGFと同様の役割を果たしている可能性が高い。
【0157】
実施例3:直接非放射性結合アッセイ
ビオチン化EGFおよびストレプトアビジンに結合させたホースラディッシュペルオキシダーゼを用いてEGFRへのEGFの結合を測定するための非放射性方法(De Wit,R.,et al.,(2000)J Biomol Screen. 5:133-140)を、本明細書では改変した。125I標識IGF-Iの置換を追跡するのではなく、Ultra ELISA TMB(Pierce)の酸化を追跡する。このアッセイにより、公表データと同等の結合定数が得られる。
【0158】
さらなる試験
IGF-Iバリアントとビオチン化野生型IGF-Iとの競合を測定するためのさらなるアッセイの開発が実施され得る。
【0159】
実施例4:共通の(IRおよびIGF-IR)結合表面(表面1)を除去するIGF-Iの点変異
公表された報告および本発明者らのET解析によると、「共通の」ドメイン内の4つの非常に重要な残基はF16、F23、Y24およびV44である。結晶構造データ(Vajdos,F. F.,et al.,(2001)Biochemistry 40:110221102-9)に基づくと、これらの残基はすべて、IGF-Iの一方の表面上に見られる。点変異体F16A、F23G、Y24L、およびV44Mはすべて、IGF-IRへの結合は大きさがほぼ2次数小さいことが示された。また、F16Aを除くすべてのバリアントもまた、IRへの結合について試験し、この受容体に対する親和性もまた有意に低下した。
【0160】
さらなる試験
野生型IGF-I遺伝子をM13ファージベクター内にクローニングし、小外皮タンパク質pIIIとの融合タンパク質を作製した(Ph.D. Peptide Display Cloning System,New England BioLabs)。科学文献においてIGF-Iのファージディスプレイおよびパニングの公表された記述はないが、本明細書にその全体が援用される米国特許第6,403,764号にアプローチが詳細に記載されている。Ballinger,M. D.,et al.,は、BP1およびBP3に対して改善された親和性を有するIGF-Iバリアントを同定するためのファージディスプレイの使用を開示した(Ballinger,M. D.,et al.,(1998)J Biol Chem. 273:11675-11684)。
【0161】
本発明によれば、「5価」M13(1価ではなく)は、アビディティー効果を利用するために使用される。1価の系は、高(nM)親和性で開始される場合、より適切である。減衰された結合剤(結合表面1における結合が除去された後)で開始することが意図されるため、M13の5価系は、本発明者らが遭遇すると予想される結合親和性(μM)においてより良好なダイナミックレンジを有するため、より適切である。本発明者らは、EGFバリアントの5価ディスプレイでこのアビディティー効果を観察し、高親和性ファージ(1nM)、低親和性ファージ(10uM)および挿入物(非結合剤)のない親ファージを識別し得ることを示した。
【0162】
次いで、上記の変異の順列を作製するためにStratagene製のQuikChange(登録商標)系が使用され得る。これらのバリアントは、野生型とともにファージにおいて産生され得、固定化IGF-IRエクトドメイン(R&D BioScience)および抗pVIII抗体(New England Biolabs)を用いたファージELISAにおいてIGF-IRおよびIRへの結合について試験され得る。ファージは、非特異的結合の限界を規定するための陰性対照として挿入物がない。
【0163】
ファージELISAはまた、特異的結合を確認するためにIGF-Iとの競合的様式で実施され得る。構築された変異体のいくつかは、特に標的残基が結合相互作用ではなく構造的完全性に関与している場合、不正確にフォールディングする可能性がある。これらのバリアントは、非挿入陰性対照に近い親和性で結合することが予想される。目的は、最低の測定可能な結合(場合によっては1〜10uMの範囲)を有するバリアントを同定することである。低いが測定可能な結合は、その後のパニング実験における改善を検出するための適切な範囲であるのと同様に望ましい。ドメインAおよびBに制限された単独または組合せの報告された変異体はいずれも2次数より大きく結合を低下させず(Denley,A.,et al.,(2005)Cytokine Growth Factors Reviews 16:421-439)、ドメインCおよびDによる結合が損なわれていない限り、これが限界であることが考えられ得る。
【0164】
最近、本発明者らにより、5価ファージにディスプレイされたEGFRバリアントは、EGF-依存性細胞株において細胞増殖を刺激する能力を保持することが観察され、この観察によって、産生および精製のための発現系内で再クローニングする必要なくバリアントをアゴニスト性についてスクリーニングすることが可能になるため、この研究プログラムが大きく加速された。また、IGF-IRのファージディスプレイアゴニストバリアントの細胞増殖を刺激する能力に関する試験は、成長因子の大きさの10倍のタンパク質との遺伝的融合物においてIGF-I機能が保持されるため、良好である(Sandoval,C., H. et al.,(2002)Protein Eng.15:413-418)。良好な場合、この結果により、ファージの結合親和性を細胞増殖の刺激における効力と関連させるファージアゴニストアッセイの開発が可能になる。
【0165】
実施例5:IGF-IR上の第2の結合部位による改善された結合を有するドメインCバリアントを同定するためのファージディスプレイ
IGF-IのドメインCは、残基30〜41からなり、ドメインDは残基63〜70からなる。ファージディスプレイは、非常に大きなライブラリーから分類するために使用され得るが、ドメインCのみの完全な無作為化は、この技術では到達し得ない4×1015アミノ酸配列バリアントのライブラリーサイズをもたらし得る。無作為化された6つの残基を有するライブラリーの構築は、なお技術的に困難であり、6×107しかタンパク質配列を含まないが、それでも、この大きさの無作為化パッチ(patch)は、1次数より大きい親和性の改善をもたらし得る(Ballinger,M. D.,et al.,(1998)J Biol Chem. 273:11675-11684)。
【0166】
改善された結合剤を同定するため、結合に重大なアミノ酸周囲に集中している残基32〜39および64〜69が無作為化され得る(Zhang,W.,et al.,(1994)J Biol Chem. 269:10609-10613)。ドメインCのR37R38 およびドメインDのK65K68の部位は、特に興味深い。
【0167】
ファージパニング試験においてM13ベクターにおける出発鋳型として同定された最小限の結合バリアントを使用し、Kunkel変異誘発(Kunkel,T. A.,et al.,(1987)Methods Enzymol. 154:367-382)を用いて、個々のライブラリーにおいて2つの領域が一部無作為化され得る(各コドンの最初の2つの塩基が無作為化され、第3はGまたはTに保持され、遺伝子バリアントの数が減少し、終止コドンによる切断が排除される)。ライブラリーは大腸菌XL1-Blue(Stratagene)内にエレクトロポレーションされ得る。ランダム形質転換体を配列決定し、バリアントのパーセンテージが決定され得、充分なエレクトロポレーションが行なわれ、各バリアントが少なくとも1コピーで表される90%信頼レベルを達成するような理論的ライブラリーの遺伝子バリアントの数の3倍が得られる。
【0168】
次いで、ファージプラスミドが回収され、ファージ増幅について最適化された大腸菌株ER2738 (New England BioLabs)内に形質転換され得る。どのドメインが個々に結合親和性の最大の増加に寄与し得るかを見出すために、ライブラリーが組み合わされ得る。ドメインAおよびBの変異はIRへの結合を大きく減衰させることが予想されるが、強力な結合剤を排除するために減法結合工程が使用され得る。米国特許第6,403,764号に記載の方法を用いてこの工程が行なわれ得、増幅ファージライブラリーを固定化IRエクトドメイン(R&D Bioscience)とともにインキュベートする。固定化IGF-IRエクトドメイン(R&D BioSciences)を用いてIRに結合しないファージ融合体は上清中に除かれ、IGF-IRに対してパニングされる。
【0169】
次いで、非結合ファージはバッファー洗浄により排除され得、結合ファージは、0.2Mグリシン-HCl(pH 2.2)、1mg/ml BSAで溶出される。クローンは、配列決定のために溶出液試料から単離され得、残りは、後の回の増幅およびパニングに使用される。
【0170】
4回のパニング後、結合ファージは単離され得、IGF-IRおよびIRの両方とともにファージELISAを用いて出発変異体および野生型ファージに相対する結合親和性が測定され得る。次いで、IGF-IRに対する改善された親和性およびIRに対して低い親和性を有するファージが、IGF-Iとの競合アッセイにおいて特にIGF-IRへの結合について試験され得る。次いで、該ファージは、受容体活性化との結合の脱カップリングへの進行を示すファージアゴニストアッセイにおいて試験され得る。
【0171】
これにより親和性/効力比(Kd/EC50)が増加することが予想される。
【0172】
改善された結合剤がいずれもアンタゴニスト特性を示さない場合、再設計のプロセスによるドメインAおよびBにおけるさらなる変異により、結合表面1での結合をさらに減衰させることが必要であり得る。
【0173】
アンタゴニスト表現型を有するファージが同定された場合、その親和性は野生型IGF-IRファージのものと比較され得る。無作為化されるサブドメインがわずか6残基長であるため、最良の結合剤がいずれもIGF-Iの親和性(<1nM)でIGF-IRに結合しないことがあり得る。その場合、これらの種の相互作用は、特にかかる小タンパク質でほとんど付加的でないため、各ライブラリーからの最良の結合剤が合わされない場合がある。代わりに、最良の特性を有するクローンが次の開始点として使用され得、残りのサブドメインを新たな回のパニングのために無作為化する。2回の反復で充分であり得るが、次の回も予想される。このプロセスの最後に、<10 nMの親和性を有する5〜10のアンタゴニストファージが同定されることが予想される。これらは、アンタゴニスト性の確認のために次の段階に移行される。
【0174】
実施例6:アンタゴニスト性の確認
実施例5で同定されたヒット物質は、次いで、発現ベクターpET-9a(Novagen)内にクローニングされ、大腸菌株BL21 (DE3)pLysS (Novagen)において発現され得る。この発現系は、OmpAリーダー配列、その後ろにN末端6x-ヒスタグ、および後のヒス-タグ除去のための第Xa因子切断部位を含むように変更した。タンパク質は、振とうフラスコ内で生成され、Ni IMACクロマトグラフィー(Qiagen)により精製され得る。この系は、野生型IGF-Iを作製するために良好に使用されている。封入体を充分発現しない、または形成しないバリアントはいずれも廃棄され得る。許容され得る産生特性を有するバリアントを同定するため、必要であれば、パニング溶出液は戻され得る。
【0175】
バリアントは、IGF-IRおよびIRへの結合に関してビオチン化IGF-Iおよびビオチン化インスリンと競合する能力について試験され得る。これらの試験により、バリアントタンパク質がIGF-IRに対して大きさが天然IGF-Iの次数以内および大きさがIRより少なくとも3次数小さい結合の親和性を有する(IGF-Iには同じ相対親和性を維持している)ことが確認される。このアッセイにおいてIGF-IRに対して最大の親和性を有するバリアントの結合は、バリアントタンパク質をチップに結合させ、IGF-IRエクトドメインとのインキュベーションによってプラズモン共鳴における変化を測定するBiacore表面プラズモン共鳴解析によって確認される(Denley A.,et al.,(2005)Mol Endocrinol. 19:711-721)。この解析は、任意に、契約により、University of Texas Medical School Molecular Genetics Core Facilityで行なわれ得る。
【0176】
本明細書の方法または標準的なタンパク質産生方法を使用し、より詳細な解析に充分なタンパク質が産生され得る。これらの精製タンパク質は、以下のアッセイにおいて使用され得る。
【0177】
MCF-7細胞増殖の阻害:
MCF-7細胞は、増殖アッセイの場合のように増殖されるが、次いで、有意な成長を刺激するのに充分なレベルのIGF-Iを含有する無血清培地または血清を有する培地のいずれかに移される。次いで、種々のレベルのIGF-Iバリアントがウェルに添加され、以前のように細胞増殖を進行させる。バリアント濃度の増大時の吸光度の減少によってIGF-I刺激の干渉が測定される。
【0178】
IGF-IR自己リン酸化の阻害:
IGF-IRへのIGF-Iの結合により、受容体キナーゼドメインの活性化および自己リン酸化がもたらされる。本発明者らのバリアントの存在下および非存在下でIGF-Iで処理したMCF-7細胞を用いて溶解液を作製する。最初に、全IGF-IR ELISA(R&D Systems)を用いて溶解液をIGF-IRのレベルについて標準化する。次いで、ホスホル-IGF-IR ELISA (R&D Systems)により自己リン酸化をモニターする。バリアントは、チロシン1131のIGF-1-刺激リン酸化に干渉することが予想される。非特異的キナーゼインヒビタースタウロスポリン(Sigma)およびEGFR特異的キナーゼインヒビターAG1478(Sigma)が、陽性および陰性対照として使用される。
【0179】
IR活性の阻害:
上記のようなウエスタンブロットを使用し、インスリン-依存性IR自己リン酸化ならびにインスリン受容体基質のリン酸化を示すMcA-RH7777ラット肝癌細胞(ATCC)を用いて本発明の化合物はIR関連活性に干渉することができないことが示され得る(Hansson,P. K.,et al.,(2004)Biochim Biophys Acta. 1684:54-62)。
【0180】
IRのレベルは、抗インスリン受容体βサブユニット(Upstate)によるウエスタンブロットを用いて標準化され得、自己リン酸化のレベルは、ホスホ-IR ELISAキット(R&D Systems)を用いて測定され得る。生理学的に関連する濃度において、本発明者らのバリアントによるIR関連リン酸化の干渉は予想されない。
【0181】
細胞毒性スクリーニング:
増殖アッセイは当該技術分野で公知である。これらは、非IGF-I応答性細胞株、例えばマウス線維芽細胞NIH-3T3ならびにヒト癌細胞株CaLU-1およびSK-BR-3の組により行なわれ、一般毒性についてスクリーニングされ得る。
【0182】
結合親和性の解析のためのファージELISA
固相ELISAは、IGF-IRへのIGF-Iバリアントファージ結合の解析のために使用される。捕捉抗体(IGF-IRのキナーゼドメインに特異性を有するマウスモノクローナル抗体クローンJBW902 (Upstate))を用いてIGF-IR (R&D Systems)を適正に整列させる。プレートを1%BSAを含有するPBSでブロックし、次いで、種々の濃度のファージとともにインキュベートする。0.1%Tween-20を含有するPBSで数回洗浄後、結合ファージは、HRPをコンジュゲートした抗M13 pVIII外皮タンパク質抗体により検出される。TMPの後H2SO4によって発色させた後、450nmにおける吸光度を測定する。
【0183】
細胞増殖アッセイ
細胞を完全培地中で増殖させ、次いで、血清を除去した。細胞を精製成長因子またはファージとともに48〜72時間インキュベートした。増殖期間の最後の3時間、10ul/ウェルのWST-1細胞増殖試薬(Roche Applied Sciences,Indianapolis,IN)の添加によって細胞増殖を測定した。WST-1は、生存細胞のミトコンドリアデヒドロゲナーゼによってホルマザン色素に切断されるテトラゾリウム塩である。MRX Revelationソフトウェアとともにマイクロプレートリーダー(Dynex Technologies)を使用し、450nmにおいてホルマザンの量を測定した。
【0184】
細胞株
HT-29
ヒト結腸直腸癌細胞をATCCから入手した。これを、1.5mMのL-グルタミンを含み、2.2g/Lの炭酸水素ナトリウム、90%;ウシ胎児血清、10%を含むように調整されたマッコイ5a培地(変更)中で培養した。
【0185】
NIH-3T3
マウス線維芽細胞細胞をATCCから入手した。これを、4mMのL-グルタミンを含み、1.5g/Lの炭酸水素ナトリウムおよび4.5g/Lのグルコース、90%;ウシ胎児(bovine calf)血清、10%を含むように調整されたダルベッコ変更イーグル培地中で培養した。
【0186】
CaLU-1
ヒト肺上皮系癌細胞をATCCから入手した。これを、1.5mMのL-グルタミン、90%;ウシ胎児血清、10%を含むマッコイ5a培地中で培養した。
【0187】
SK-BR-3
ヒト乳癌細胞をATCCから入手した。これを、1.5mMのL-グルタミンを含み、2.2g/Lの炭酸水素ナトリウム、90%;ウシ胎児血清、10%を含むように調整されたマッコイ5a培地(変更)中で培養した。
【0188】
本明細書で言及した特許および科学文献は、当業者に利用可能な知識を確立する。本明細書に引用したすべての米国特許および公開または非公開米国特許出願は、参照により援用される。本明細書に引用したすべての公開外国特許および特許出願は、参照により本明細書に援用される。本明細書に引用したすべての他の公開参考文献、文書、原稿および科学文献は参照により本明細書に援用される。
【0189】
本発明を、その好ましい態様を参照して具体的に示し、記載したが、形態および詳細における種々の変形が、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱せずになされ得ることは、当業者によって理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン様成長因子-Iレセプター(IGF-IR)に対する結合親和性を有し、インスリンレセプター(IR)に結合せず、IGF-IRまたはIRのいずれかを介したシグナル伝達を開始しない、選択的IGF-Iバリアント。
【請求項2】
請求項1記載の選択的IGF-Iバリアントを含む医薬組成物。
【請求項3】
癌細胞と1つ以上の選択的IGF-Iバリアントとを接触させる工程を含む、癌細胞の細胞増殖を阻害する方法。
【請求項4】
癌細胞が乳房、前立腺、肺および結腸からなる群より選択される、請求項3記載の方法。



【公表番号】特表2009−542719(P2009−542719A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518614(P2009−518614)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/072751
【国際公開番号】WO2008/005985
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(507002642)モレキュラー ロジックス,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】