説明

インターフェース部材及びインターフェース部材剥離機構

【課題】光学式プローブを固定するとともに、長時間の光計測や光照射についても生体組織と光学部材の光学特性値を調整し光学的に良好な状態を作り出すことが可能な生体光照射検出用のインターフェース部材を提供する。
【解決手段】光を生体に照射あるいは検出する光学式プローブを生体表面に固定するために利用するインターフェース部材であって、光学式プローブを固定保持するプローブ貼付面31aと生体表面に固定する生体貼付面31bの両面に粘着性を有するベース部材31と、ベース部材31の光の照射部あるいは検出部に対応する位置35に設けられ、厚さが5μm以上50μm以下であり、屈折率が1.3以上1.6以下であって、光学式プローブと生体間における光の屈折率を整合する光学特性整合部32とを備え、ベース部材31と光学特性整合部32が一体として構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外、可視、近赤外、赤外光を生体に照射あるいは検出する際に用いる光学式プローブを生体に固定するためのインターフェース部材に関するもので、光学式プローブを安定に生体表面に固定するとともに、光学式プローブの光照射あるいは検出部分を構成する光ファイバやガラスカバー、プラスチックカバー等の光学部材と生体表面との間に介在し、光照射あるいは検出状態を安定化させるための生体光照射検出用のインターフェース部材及びインターフェース部材剥離機構に関する。
【0002】
特に、数時間から数日程度の長期にわたり生体表面に光学式プローブを装着する際の光学部材と生体表面の状態を光学的に安定化させるものであり、光学的な手法により生体計測に用いる測定用プローブや、光照射により生体のケアや治療を行う機器の照射プローブを生体表面に固定するための生体光照射検出用のインターフェース部材及びインターフェース部材剥離機構に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、糖尿病患者の血糖値を管理するため、血糖値測定及び血糖値モニタリングに対するニーズが高まっている。更に、集中治療室(ICU)において血糖値を適切な範囲に管理することで、死亡率の低下及び合併症の発生率の低下等の効果が医学的に実証されている。
【0004】
血糖値の測定手法としては、次の二つに大別できる。一つは、採血した血液を用い、グルコースオキシダーゼ等の酵素反応を利用して定量する侵襲的手法がある。侵襲的手法としては、グルコースオキシダーゼ(GOD)法やグルコース脱水素酵素(GDH)法などの酵素電極法や、ヘキソキナーゼ(HX)法などの酵素比色法がある。そして、もう一つは、採血のような身体を傷付ける操作を行わないで、生体から得られる何らかの情報をもとに血糖値を推定する非侵襲的手法がある。
【0005】
非侵襲的に血糖値を推定する手法としては様々なものが提案されており、その中でも近赤外光を用いる手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。近赤外光により非侵襲的に血糖値を測定する手法は、生体組織に近赤外光を照射し、生体組織内を拡散反射した光を測定し、得られる信号やスペクトルから血糖値の定性・定量分析を行う手法である。
【0006】
非侵襲的に血糖値を推定する手法は、患者に負担をかけず血糖値を測定できるため、そのニーズは高く、測定手法としても様々なものが提案されている。しかし、推定精度や信頼性に課題を残しており、今の時点で日本国の薬事承認や米国のFDA認可を得た製品はない。つまり、非侵襲的に血糖値を推定する手法は、上記近赤外分光法に限らず、どの手法においても測定した信号中に含まれる血糖値の代用特性となる信号が外乱信号と比較して非常に小さいため、外乱の影響を強く受ける。そのため、本質的に誤差が大きくなる要因を測定手法に内在している。したがって、非侵襲的手法は、侵襲的手法に比べ推定精度や信頼性に劣ることはある程度仕方がない。しかしながら、非侵襲的手法は生体を傷付けずに測定できるため、頻回測定や連続測定が可能である。血糖値管理を行う上でこの頻回測定や連続測定は非常に重要な特徴であり、特定の用途では推定精度や信頼性に劣るという欠点を補い得る可能性を有する。
【0007】
非侵襲的手法によって頻回測定や連続測定を行う場合には、生体表面に光学式プローブを装着する必要がある。光学式プローブを生体表面に固定する方法としては、結束バンド、片面テープ、クリップ、ヘルメット状の保持具等により生体に束縛する手法と、両面テープを介在させ生体表面に貼り付ける手法が代表的な手法である。
【0008】
生体に光学式プローブを束縛する手法の代表的な例として医療用パルスオキシメータのセンサ部分がある。図7に示したディスポーザブルセンサの一例は、成人の指に光学部材である受発光素子を装着させるもので、樹脂に封入された受光素子1及び発光素子2は片面のサージカルテープ3に貼りつけられており、使用時には剥離紙4をはがし、図8のようにサージカルテープ3を指に巻きつけることで、簡単に受光素子、発光素子を指6を介して対向するように固定させることができる。また、このディスポーザブルセンサは使用終了後毎に廃棄されるため、装着準備が容易で、素子劣化に関するようなメンテナンスや光学プローブの清掃等が不要であり、一度使用したセンサを他の患者が使用することがなく衛生的であるという利点を有する。
【0009】
両面テープを介在させ光学式プローブを生体表面に貼り付ける手法の例としては両面テープを用いたレーザードップラー流速計の測定用プローブの固定方法がある。図9に示した測定用プローブは、成人の指に光学部材である受発光用光ファイバ端部9を両面テープ7を用いて固定するもので、両面テープ7は端部9の受発光部分がテープにかぶらないように、中心部分をくり貫いてドーナツ状の形状をしている。
【0010】
しかしながら、上記に示した光学プローブの固定方法は、光学プローブを生体表面に固定することを主目的とするものであり、光学部材と皮膚表面の光学特性、すなわち屈折率や散乱による悪影響を軽減させ光の入出力を安定させるような工夫は施されていない。
【0011】
光学部材と皮膚表面の光学特性を調整し、光の入出力を向上させる手法として、生体組織と光学部材との間に鉱物油等の屈折率整合材(マッチング材)を介在させる手法が知られている。この手法は、屈折率が1.45程度のガラス材と1.37程度の生体組織の間に空気層(屈折率1)ができないように鉱物油(屈折率1.48)等を介在させる手法で、空気層との屈折率差が大きいことに起因する反射光を低減することで良好な光の入出力を得る方法である。液体である鉱物油は表面張力等により生体組織とガラス材の間に素早く流入し両者の空隙を埋めるため、生体組織とガラス材に近い屈折率を有する液体が両者間に介在することになり、生体への光照射あるいは生体からの光検出の状態を向上させることができる。しかしながら、この手法は短時間でのワンショット的な測定あるいは光照射には有効であるが、長時間における測定あるいは光照射については鉱物油による皮膚組織の変性、鉱物油の生体組織への取込み、空気中への気化等の様々な要因により測定状態が変化し、安定した光の入出力状態が維持できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−087913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の光学式プローブの固定方法は、光学式プローブを生体表面に固定することが主な目的であり、光学式プローブで照射あるいは検出される紫外、可視、近赤外、赤外光の入出力状態を安定させるような工夫はほとんど施されていない。また、生体組織と光学部材の屈折率を調整し光学的に良好な状態を作り出す手法として用いられる鉱物の屈折率整合材(マッチング材)等を介在させる手法は長時間における光計測や光照射については安定した入出力を得られない。
【0014】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、光学式プローブを固定するとともに、長時間の光計測や光照射についても生体組織と光学部材の光学特性値を調整し光学的に良好な状態を作り出すことが可能な生体光照射検出用のインターフェース部材及びインターフェース部材剥離機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の態様に係るインターフェース部材は、光を生体に照射あるいは検出する光学式プローブを生体表面に固定するために利用するインターフェース部材であって、光学式プローブを固定保持するプローブ貼付面と生体表面に固定する生体貼付面の両面に粘着性を有するベース部材と、ベース部材の光の照射部あるいは検出部に対応する位置に設けられ、厚さが5μm以上50μm以下であり、屈折率が1.3以上1.6以下であって、光学式プローブと生体間における光の屈折率を整合する光学特性整合部とを備え、ベース部材と光学特性整合部が一体として構成されていることを要旨とする。
【0016】
本発明の態様に係るインターフェース部材剥離機構は、インターフェース部材と、インターフェース部材の光学特性整合部に貼り付け、光学特性整合部を機械的に補強する補強用粘着性部材とを備え、インターフェース部材から光学式プローブを剥離する時に用いることを要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光学式プローブを固定するとともに、長時間の光計測や光照射についても生体組織と光学部材の光学特性値を調整し光学的に良好な状態を作り出すことが可能な生体光照射検出用のインターフェース部材及びインターフェース部材剥離機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るインターフェース部材の平面概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るインターフェース部材を使用した際の断面概略図である。
【図3】光学式血糖値測定システムの概略図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るインターフェース部材を用いて血糖値測定を行った結果を示すグラフである。
【図5】比較例として血糖値測定実験を行った結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係るインターフェース部材の概略図である。
【図7】従来の測定システムで用いられているセンサを示す概略図(その1)である。
【図8】従来の測定システムで用いられているセンサを示す概略図(その2)である。
【図9】従来の測定システムで用いられているセンサを示す概略図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0020】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係るインターフェース部材は、図1及び図2に示すように、光を生体に照射あるいは検出する光学式プローブ18を生体表面に固定するために利用するインターフェース部材であって、光学式プローブ18を固定保持するプローブ貼付面31aと生体表面に固定する生体貼付面31bの両面に粘着性を有するベース部材31と、ベース部材31の光の照射部あるいは検出部に対応する位置35に設けられ、厚さが5μm以上50μm以下であり、屈折率が1.3以上1.6以下であって、光学式プローブ18と生体間における光の屈折率を整合する光学特性整合部32とを備え、ベース部材31と光学特性整合部32が一体として構成されている。
【0021】
本発明の実施の形態に係るインターフェース部材は、図3(a)に示すような、光学式血糖値測定システムに用いることができる。光学式血糖値測定システムを用いることができる。この光学式血糖値測定システムでは、図3(a)に示すように、まずハロゲンランプ(光源)10から発光された近赤外光が熱遮蔽板11、ピンホール12、レンズ13及び光ファイババンドル14を介して生体組織15に入射される。
【0022】
光ファイババンドル14には、測定用光ファイバ16の一端とリファレンス用光ファイバ17Aの一端が接続されている。測定用光ファイバ16の一端は、皮膚組織測定用プローブ18に接続されており、リファレンス用光ファイバ17Aの他端はリファレンスプローブ19に接続されている。更に、皮膚組織測定用プローブ18及びリファレンスプローブ19は、測定用光ファイバ16及びリファレンス用光ファイバ17Bを介して測定側出射体20及びリファレンス側出射体21にそれぞれ接続されている。
【0023】
人体の前腕部など生体組織15の表面に測定用プローブ18の先端面を接触させて近赤外スペクトル測定を行う時、ハロゲンランプ10から光ファイババンドル14に入射した近赤外光は、光ファイババンドル14内を伝達し、図3(b)に示すような測定用プローブ18の先端に同心円周上に配置されている12本の発光ファイバ30より生体組織15の表面に照射される。
【0024】
生体組織15に照射された近赤外光は生体組織内で拡散反射した後に、拡散反射光の一部が測定用プローブ18の先端中心に配置されている受光ファイバ29に受光される。受光された光は、受光ファイバ29(測定用光ファイバ16)を介して測定側出射体20から出射される。測定側出射体20から出射された光は、レンズ22を通して回折格子23に入射し、分光された後、受光素子24において検出される。
【0025】
受光素子24で検出された光信号は、A/Dコンバーター25でアナログ−デジタル変換(AD変換)された後、パーソナルコンピュータ等の演算装置26に入力される。血糖値はこのスペクトルデータを解析することによって算出される。リファレンス測定はセラミック板など基準板27を反射した光を測定し、これを基準光として行う。すなわち、ハロゲンランプ10から光ファイババンドル14に入射した近赤外光はリファレンス用光ファイバ17Aを通して、リファレンスプローブ19の先端から基準板27の表面に照射される。
【0026】
基準板27に照射された光の反射光は、リファレンスプローブ19の先端中心に配置された受光ファイバ29に受光される。受光された光は、受光ファイバ29(リファレンス用光ファイバ17B)を介してリファレンス側出射体21から出射される。測定側出射体20とレンズ22の間、及びリファレンス側出射体21とレンズ22の間にはそれぞれシャッタ28が配置してあり、シャッタ28の開閉によって、測定側出射体20からの光とリファレンス側出射体21からの光のいずれか一方が選択的に通過するようになっている。
【0027】
測定用プローブ18とリファレンスプローブ19の端面は、図3(b)に示すように、円上に配置された12本の発光ファイバ30と中心に配置された1本の受光ファイバ29で構成されている。発光ファイバ30と受光ファイバ29の中心間距離Lは、例えば0.65mmである。測定側出射体20とリファレンス側出射体21の端面は、図示を省略するが、出射ファイバが中心に配置されている。
【0028】
この装置では、皮膚組織のうち真皮部分のスペクトルを選択的に測定するため、図3(b)に示すように、中心間距離L=0.65mmに受光ファイバ29を配置し、入射点と検出点とする皮膚組織測定用プローブ18を用いている。この皮膚組織測定用プローブ18を皮膚表面に接触させスペクトル測定を行うと、入射光ファイバより照射された近赤外光は、皮膚組織内を拡散反射し、入射された光の一部が検出用光ファイバに到達し、その光の伝播経路は「バナナ・シェイプ」と呼ばれる経路をとり、真皮部分を中心に伝播する。したがって、吸光信号のSN比が向上し、精度良く生体成分濃度の測定ができる。
【0029】
皮膚組織測定用プローブ18を皮膚表面に接触させて行うスペクトル測定においては、生体組織と光ファイバの光学的に良好な状態を作り出すとともに、長時間にわたってその状態を維持する必要がある。その有効な手法に一つに生体組織と光ファイバの屈折率を調整し、光の入出力状態を向上させる方法がある。そのために、屈折率が1.45程度の石英ガラス製光ファイバと屈折率が1.37程度の生体皮膚組織の界面に、空気層が入らないように、かつ両者の屈折率を調整するための本実施の形態に係るインターフェース部材を用いることが効果的である。入射光ファイバ、検出用光ファイバと生体皮膚組織の屈折率調整には、屈折率が1.3以上で1.6以下の素材を用いることが望ましく、その性状は、剛体である光ファイバと軟体である生体組織の界面に位置することから、ゴムのような弾性特性を有する可撓性樹脂が望ましい。
【0030】
屈折率の調整には従来、鉱物油等の液体状のものが用いられたが、鉱物油等の液体であると生体組織に膨潤したり、表面上を流れ出したりして長時間一定状態に保つことが難しく、本実施例の血糖値モニタリングのような数時間を連続的に測定するような用途に適用することは難しい。
【0031】
本実施の形態で用いる光学式血糖値測定システムは、波長が1300nm以上2500nm以下の近赤外光により皮膚組織の拡散反射スペクトルを測定するものが最も望ましい。近赤外光の波長領域は800〜2500nmの範囲をさすが、皮膚組織の測定には波長1300〜2500nmが適切である。それは、近赤外領域の波長によって、生体を伝播する際の特性の違いがあるためである。つまり、1300nmより短い波長では吸収強度が小さく、更にこの波長領域の光の伝播距離が数cmであるためと、厚さがせいぜい1mm程度である皮膚組織の測定には適さない。1300nmより長い波長では吸収強度が大きい上、この波長領域の光の伝播距離が数mmであるため、厚さが1mm程度の生体の皮膚組織の測定には適している。
【0032】
ここで、身体組織の中で推定血糖値を測定しやすい組織は、皮膚組織である。特に、皮膚組織中の真皮組織には血管が発達しており、血中グルコースが素早く皮膚組織中に拡散するため、皮膚組織中のグルコース濃度を血管中のグルコース濃度(すなわち血糖値)の代用特性として使用することができる。
【0033】
より詳細に説明すると、生体の皮膚組織は、大きく表皮組織、真皮組織、及び皮下組織の三層の組織で構成される。表皮組織は、角質層を含む組織で、組織内に毛細血管はあまり発達していない。また、皮下組織は、主に脂肪組織で構成されている。したがって、この二つの組織内に含まれる水溶性の生体成分濃度、特に、グルコース濃度と血中グルコース濃度(血糖値)との相関性は低いと考えられる。一方、真皮組織については毛細血管が発達していることと、水溶性の高い生体成分、特にグルコースが組織内で高い浸透性を有することから、生体成分濃度、特にグルコース濃度は間質液(ISF:Interstitial Fluid)と同様に血糖値に追随して変化すると考えられる。したがって、真皮組織を標的としたスペクトル測定を行えば、血糖値変動と相関するスペクトル信号を得ることができる。
【0034】
また、上述のように、波長が1300nm以上2500nm以下の近赤外光を用いる場合、発光部(発光ファイバ30)と受光部(受光ファイバ29)との中心間距離を0.65mmにした測定用プローブを皮膚に接触させて近赤外スペクトル測定を行うことが好ましい。この場合、発光部から照射された近赤外光は、照射面より皮膚組織に照射され、皮膚組織内を拡散反射し、その一部が受光部に到達する。この際の光の伝播経路は、真皮層を中心として、皮膚組織内を伝播し、「バナナ・シェイプ」と呼ばれる形状をとるので、皮膚組織の深さ方向の選択的測定を可能とし、精度の良い測定ができる。
【0035】
血糖値モニタリングを測定開始から終了までの数時間以上の長時間にわたり精度良く行うための条件として、質的に良好な測定スペクトルを測定開始時から終了時まで安定して計測する必要があることはいうまでもない。
【0036】
次に、光学式血糖値測定システムに本実施の形態に係るインターフェース部材を用いて測定用プローブ18を生体表面に固定して生体中の成分濃度の定量について、実施例により詳細に説明する。
【0037】
(実施例1)
実施例1は、生体中のグルコース濃度(血糖値)をモニタリングする際に、測定用プローブ18を生体表面に固定したインターフェース部材の事例である。
【0038】
実施例1に用いた測定用プローブ18を生体表面に固定したインターフェース部材は、図1に示すように、一辺が3cmの正方形形状で光学式プローブ固定保持を行う、厚さ100μmのベース部材31と、ベース部材31の光の照射部あるいは検出部に対応する位置に形成された直径6mmの円形状で、厚さ20μmの光学特性整合部32(面積 28.26mm2)が一体として構成されている。
【0039】
光学特性整合部32の素材は、アクリルゴムを主成分とする弾性特性を有するもので、その屈折率は1.46である。インターフェース部材のプローブ貼付面31a側には剥離紙33が、生体貼付面31b側には剥離紙34が覆っていて、生体貼付面31b側の剥離紙34の光学特性整合部32に対応する位置35は透明となっている。
【0040】
実施例1における光学特性整合部32は、20μmの厚さのものを用いたが、光信号への影響をできるだけ小さくするために薄いほうが良く、50μm以下が好ましく、20μm以下であれば更に好ましい。但し、光学特性整合部32の機械的強度が確保するためには、5μm以上の厚さが適している。
【0041】
また、光学特性整合部32は、実施例1では屈折率が1.46のアクリルゴムを主成分とするものを用いたが、厚さを5μm以上50μm以下程度に延伸でき、柔軟性(弾性特性)を有する可撓性樹脂性シートを用いることができる。光学特性整合部32の素材は、屈折率が1.3以上1.6以下の値を有するものであれば良く、例えば、ニトリルゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素系ゴム、クロロプレンゴムを用いることができる。
【0042】
実施例1の光学式プローブ(測定用プローブ)は、図2に示すように、皮膚組織測定用プローブ18と、皮膚組織測定用プローブ18の直径6mmの先端部に固定された一辺が3cmの正方形形状の支持部36から構成され、実施例1のインターフェース部材により生体皮膚表面に固定される。
【0043】
インターフェース部材の光学式プローブへの装着手順は、プローブ貼付面31a側の剥離紙33をはがし、光学式プローブ(測定用プローブ)の下面に貼付する。その際、生体貼付面31b側の剥離紙34の透明である部分35を透して、光学特性整合部32が皮膚組織測定用プローブ18と同位置にあるとともに、しっかりと皮膚組織測定用プローブ18の先端部に貼り付いていることを確認する。その後、生体貼付面31b側の剥離紙34をはがし、前腕内側部の皮膚表面に装着する。
【0044】
実施例1におけるインターフェース部材の効果検証のための血糖値測定実験は、以下の手順で行った。
(1)光学式プローブを皮膚表面に装着し、5分間隔で近赤外吸光度スペクトル測定とそのタイミングに合わせ採血による血糖値を実測する。
(2)装着後45分に測定した吸光度スペクトルを基準スペクトルとし、スペクトルデータセットを作成する。
(3)作成したスペクトルデータセットを波長範囲1430nmから1850nmで多変量解析することで、検量モデルを作成する。多変量解析にはPLS回帰分析を用いた。次に、初期吸光度スペクトルを前記検量モデルに代入して得られる推定血糖値を採血による実測血糖値と一致するように校正する。その前後に測定した吸光度スペクトルにより測定される血糖値は、この校正血糖値からの変化値として求められる。
(4)校正時まで45分間の血糖値をさかのぼって推定するとともに、近赤外吸光度スペクトル測定による校正後の血糖値推定を、5分間隔で繰り返す。
(5)吸光度スペクトル測定開始後、1時間30分で経口グルコース負荷を行い、被験者の血糖値を変動させる。経口グルコース負荷には、液体栄養飲料(大塚製薬株式会社製カロリーメイト(登録商標))を用いた。
(6)吸光度スペクトル測定及び採血による血糖値の実測は測定開始後約4時間実施した。
【0045】
実施例1における血糖値の推定結果を図4に示す。図4は採血で得た実測血糖値に対して、近赤外スペクトルから推定した推定血糖値を示したもので、実測血糖値には±20%誤差を示すエラーバーを表示している。実施例1で示した手法による血糖値推定は、±20%誤差以内を示す推定血糖値が85%、相関係数0.89という良好なものであった。特に、測定開始時から安定した血糖値推定が行えていることが特徴で、インターフェース部材により測定開始時から終了時まで安定したスペクトル測定が行えたことを示している。
【0046】
実施例1の比較例として、実施例1に用いたインターフェース部材のベース部材31が同様の形状、材質のもので、光学特性整合部32の部分を空洞としたものを用いて実施例1と同じ実験を同一被験者において実施した。その結果を図5に示す。図5は図4と同じように採血で得た血糖値に対して、近赤外スペクトルから推定した推定血糖値を示したものである。本比較例で示した手法による血糖値推定は、±20%誤差以内を示す推定血糖値が75%、相関係数0.78という結果であった。特に、測定開始時における推定誤差が大きいことが特徴である。これはインターフェース部材を用いないため、測定開始時における光学式プローブ先端部と皮膚表面の光学的特性の整合が悪く、短時間では安定していないことを示している。血糖値モニタリングのような装置においては、救急救命のような早急な測定開始が必要な用途もあり、測定開始時から安定した測定が可能な測定手法の実現は実用上の大きなメリットとなる。
【0047】
測定開始時の吸光度スペクトルが安定しない原因としては以下のことが考えられる。比較例においては光学特性整合部32の部分が空洞となっており、皮膚表面と光学式プローブが直接接する状態で光の入出力が行われる。このような測定系で最も不安定な部分が生体の皮膚表面である。生体の皮膚表面は通常角質層で覆われており、水分量や表面状態等の大きな個体差や日間差を有する。吸光度スペクトル測定開始時に皮膚表面と光学式プローブを接触させるだけでは、皮膚表面構造(皮溝、皮丘)で生じる空気層や角質水分量変化の影響を大きく受け、特に測定開始時にはそれらの変化が大きく、吸光度スペクトルが安定しない。これに対して実施例1に示したようなインターフェース部材を用いることで、皮膚表面構造(皮溝、皮丘)で生じる空気層を無くし、角質水分量変化による散乱や吸収の影響を小さくできると考えられる。
【0048】
吸光度スペクトル測定の終了後に、実施例1に用いた光学式プローブ支持具を光学式プローブ先端から取り外す際、問題となるのが光学特性整合部32の機械的強度の弱さである。光学特性整合部32は、光信号への影響をできるだけ小さくするために薄いほうが良いが、薄くなると機械的強度が弱くなり、光学式プローブ支持具を光学式プローブ先端から取り外す際に光学特性整合部32が光学式プローブ18先端で破れ、引っ付くと、その処理に余分な作業時間がかかるとともに、光学特性整合部32の生体側面が光学式プローブ18に接触した可能性がある場合、衛生面の問題からアルコール等による消毒操作を行う必要が生じる。特に、不特定多数の使用者に同一の光学式プローブ18を用いて血糖値測定を行うような事例では衛生面を厳密に管理する必要があり、光学特性整合部32が光学式プローブ18先端での破れを防止することが是非とも必要である。光学特性整合部32の機械的強度の弱さを補うためには、光学式プローブ18と接触する光学特性整合部32の面積を小さくし、その周囲のベース部材31の機械的強度を利用して相対的な機械的強度を向上させることが効果的で、その面積が接触する光学式プローブの面積以上で64mm2以下にすることとが望ましい。実施例1においては、面積を28.26cm2の直径6mmの円形状としていて、面積を小さくするだけでなく形状的にもはがす際に機械的強度の方向性を持たないようにしている。
【0049】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と同様に生体中のグルコース濃度(血糖値)をモニタリングする際に、測定用プローブを生体表面に固定したインターフェース部材の事例である。
【0050】
実施例2に用いた測定用プローブ18は、図6に示すように、底面が直径3cmの円筒状(高さ8mm)で光学式プローブ18の固定保持を行う支持部36に保持される。実施例2に用いたインターフェース部材のベース部材31は、底面(生体貼付面)31bの対向する側が開放されている筒構造であって、筒構造の底面の一部、あるいは底面の全部が前記光学特性整合部32である。実施例2に用いた測定用プローブを生体表面に固定したインターフェース部材は、底面が直径3.1cmの円筒状(高さ8mm)のベース部材31を有するインターフェース部材で、側面には粘着性を有さない。つまり、支持部36の外径とインターフェース部材の内径のサイズが略一致することで、インターフェース部材と支持部36とを嵌合させることができる。
【0051】
実施例2のインターフェース部材は、厚さ100μmのベース部材31と、ベース部材31の光の照射部あるいは検出部に対応する位置に設けられ、直径7mmの円形状で厚さ20μmの光学特性整合部32(面積38.47mm2)とが一体として構成されている。また、光学特性整合部32の素材は、アクリルゴムを主成分とする弾性特性を有するもので、その屈折率は1.46である。インターフェース部材の生体貼付面31b側には剥離紙(図示せず)が覆われていて、生体貼付面31b側の剥離紙34の光学特性整合部32に対応する位置は透明となっている。実施例2における光学特性整合部32は、20μmの厚さのものを用いた。
【0052】
実施例2のインターフェース部材の光学式プローブ(測定用プローブ)への装着は、図6に示すように、光学式プローブ(測定用プローブ)にインターフェース部材をはめ込むように装着し、その際、生体表面貼付側の剥離紙34の透明である部分35を透して、光学特性整合部32が皮膚組織測定用プローブ18と同位置にあるとともに、しっかりと皮膚組織測定用プローブ18の先端部に貼り付いていることを確認する。その後、生体表面貼付側の剥離紙をはがし、前腕内側部の皮膚表面に装着する。
【0053】
このようにインターフェース部材のベース部材31が筒構造の先端部を構成し、先端部の一部が光学特性整合部であるとともに、もう一方の端部が開放されるように構成したので、光学式プローブ(測定用プローブ)18にインターフェース部材をはめ込むように装着するだけで厳密な位置合わせを行うことなく光学特性整合部を皮膚組織測定用プローブの先端部に一致させることが可能となる。
【0054】
実施例2におけるインターフェース部材を用いて実施例1と同様な装置、手法を用いて血糖値モニタリングを行った。得られた結果は、実施例1と同様に実験開始時から終了までの数時間に渡る安定した吸光度スペクトルを測定でき、測定開始時から推定血糖値が安定した良好なものであった。
【0055】
(実施例3)
実施例3は、インターフェース部材と、光学特性整合部32を機械的に補強する補強用粘着性部材(図示せず)とを備えるインターフェース部材剥離機構に関するもので、実施例1に用いたインターフェース部材と、それに付属する補強用粘着性部材で構成される。
【0056】
補強用粘着性部材は、シート状であっても良いし、種々の形状の立体であっても良い。補強用粘着性部材は、インターフェース部材との密着性が、光学特性整合部32と光学式プローブ18との密着性より強くなることで、光学特性整合部32が光学式プローブ18の先端で破れたり、引っ付いたりすることが無くなる。
【0057】
実施例3として血糖値モニタリングを例示すると、血糖値のモニタリングについては実施例1と同様に行う。実施例3の特徴であり、実施例1と異なる点は、測定終了後にインターフェース部材から光学式プローブ18を剥離する時で、剥離を行う前に補強用粘着性部材を光学特性整合部32に貼り、光学特性整合部32を機械的に補強した上でインターフェース部材から光学式プローブを剥離することにある。
【0058】
このように光学特性整合部32を機械的に補強した上でインターフェース部材を剥離することで光学特性整合部32の機械的強度の弱さをカバーでき、インターフェース部材を光学式プローブ18の先端から取り外す際に光学特性整合部32が光学式プローブ18の先端で破れ、引っ付くというようなことを無くすことができる。そのため、光学特性整合部32が光学式プローブ先端で破れたり、引っ付いたりすることが無くなる上、衛生面の問題からアルコール等による消毒操作を行う必要が生じない。
【0059】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。
【0060】
例えば、実施の形態における光学式プローブは照射光、検出光を一体とした測定用プローブについて例示したが、本発明はこれに限られるものではなく、光の照射のみの光学式プローブ、光の検出のみの光学式プローブであっても構わない。
【0061】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0062】
1,24…受光素子
2…発光素子
3…サージカルテープ
4…剥離紙
6…指
7…両面テープ
9…受発光用光ファイバ端部
10…ハロゲンランプ
11…熱遮蔽板
12…ピンホール
13…レンズ
14…光ファイババンドル
15…生体組織
16…測定用光ファイバ
17A,17B…リファレンス用光ファイバ
18…光学式プローブ(測定用プローブ)
19…リファレンスプローブ
20…測定側出射体
21…リファレンス側出射体
22…レンズ
23…回折格子
25…コンバーター
26…演算装置
27…基準板
28…シャッタ
29…受光ファイバ
30…発光ファイバ
31…ベース部材
31a…プローブ貼付面
31b…生体貼付面
32…光学特性整合部
33,34…剥離紙
36…支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を生体に照射あるいは検出する光学式プローブを生体表面に固定するために利用するインターフェース部材であって、
前記光学式プローブを固定保持するプローブ貼付面と生体表面に固定する生体貼付面の両面に粘着性を有するベース部材と、
前記ベース部材の光の照射部あるいは検出部に対応する位置に設けられ、厚さが5μm以上50μm以下であり、屈折率が1.3以上1.6以下であって、前記光学式プローブと生体間における光の屈折率を整合する光学特性整合部
とを備え、前記ベース部材と前記光学特性整合部が一体として構成されていることを特徴とするインターフェース部材。
【請求項2】
前記ベース部材は、一辺が4cm以内の矩形、あるいは直径が4cm以内の円形、あるいは短軸長が4cm以内の楕円形の平面状であることを特徴とする請求項1に記載のインターフェース部材。
【請求項3】
前記ベース部材は、底面の対向する側が開放されている筒構造であって、前記筒構造の底面の一部、あるいは底面の全部が前記光学特性整合部であることを特徴とする請求項1記載のインターフェース部材。
【請求項4】
前記光学特性整合部の面積は、64mm2以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインターフェース部材。
【請求項5】
前記生体貼付面は、剥離紙で覆われており、前記剥離紙の前記光学特性整合部に対応する位置が少なくとも透明であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインターフェース部材。
【請求項6】
前記剥離紙の透明である部分の形状は、前記光学プローブの先端部分の形状と一致していることを特徴とする請求項5に記載のインターフェース部材。
【請求項7】
前記光学特性整合部は、可撓性樹脂状シートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインターフェース部材。
【請求項8】
前記光学特性整合部の素材は、柔軟性を有するニトリルゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素系ゴム、クロロプレンゴムを用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のインターフェース部材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のインターフェース部材と、
前記インターフェース部材の光学特性整合部に貼り付け、前記光学特性整合部を機械的に補強する補強用粘着性部材
とを備え、前記インターフェース部材から光学式プローブを剥離する時に用いることを特徴とするインターフェース部材剥離機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−34824(P2012−34824A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177335(P2010−177335)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】