説明

インバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材

【課題】地山からの圧力に起因するインバート構成部分の浮き上がりや脱落を抑制すると共に、良好な施工性を実現するインバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材を提供する。
【解決手段】NATMトンネル工法によるトンネル1のインバート15の施工方法であって、インバート15は、トンネル底面19においてトンネル1の幅方向に連結されたプレキャスト板P1〜P3からなるものである。インバート15は、L字断面の両端部を有するプレキャスト板P1と、逆さL字断面でプレキャスト板P1の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有するプレキャスト板P2,P3と、を備えており、プレキャスト板P1をトンネル底面19の所定の位置に設置する第1設置工程と、プレキャスト板P1の一方側に隣接させてプレキャスト板P2を設置し、端部同士を相欠き継ぎで連結する第2設置工程と、プレキャスト板P1の他方側に隣接させてプレキャスト板P3を設置し、端部同士を相欠き継ぎで連結する第3設置工程と、備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NATMトンネル工法によるトンネルのインバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、トンネルの施工においては、掘削坑に鋼製支保工と吹付けコンクリート、及びロックボルトでグランドアーチを形成して支保を行うNATMトンネル工法(New Austrian Tunneling Method)が多用されている。この種のトンネルにかかる地山からの外圧(外力)は、上からの方向の力が主体となるため、地質が比較的良好な地山においては掘削底盤に鋼製支保工を建込み、コンクリートを吹付け、ロックボルトを打設することで上部支保を完了している。しかし、地質が不良な地山では、トンネルに作用する側圧の増大、側圧の作用、上部支保の脚部での支持力不足等の問題が発生し、トンネル内空断面に変形、変位を生じることがある。この対策として、トンネルの底盤にインバートを施工し上部支保を下部で接合して断面を閉合し、トンネルを構造的に安定させる必要がある。
【0003】
インバートに関する技術として、下記特許文献1に記載のトンネルの施工方法が知られている。この施工方法は、建設中のトンネルの側壁間を連絡するインバートを設置するものである。地山を掘削して露出したトンネルの周面にアーチ状の一次支保工を配置し、凹凸を調整したトンネル底面上に複数のブロックを互いに面接触させながら並べて、一次支保工の両端を連絡したインバートを構築する。この種のインバートにおいては、地山からの外圧に起因してインバートが下方から押し上げられる力が作用する場合がある。このような力によりブロックが浮き上がったり脱落したりすること防止するために、ブロック同士が噛み合う形状にすることも特許文献1では提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−179914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにブロック同士を噛み合う形状にした場合には、ブロックの設置作業が困難になり施工性が低下してしまう。例えば、最後のブロックを設置する際に、ブロック同士の間に最後のブロックを挿入し難く、作業性が悪い。インバートの施工時には、トンネル掘削用車両の通行を制限しなければならない場合もあるので、施工性が低下し作業時間が長くなると、トンネル掘削の作業の能率の低下を招くという問題がある。従って、インバートをブロック化するにあたっては、地山からの圧力に抵抗する構造を持ちながらも、良好な施工性が望まれる。
【0006】
本発明は、地山からの圧力に起因するインバート構成部分の浮き上がりや脱落を抑制すると共に、良好な施工性を実現するインバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインバートの施工方法は、NATMトンネル工法において鋼製支保工と吹き付けコンクリート部とロックボルトとを有するアーチ形状の一次支保工の脚部同士を連絡し下に凸のアーチ形状をなすインバートをトンネル底面に施工するインバートの施工方法であって、インバートは、トンネル底面においてトンネルの幅方向に複数連結されたプレキャスト板からなるものであり、インバートは、L字断面になるように切欠きが設けられた両端部を有する第1プレキャスト板と、逆さL字断面になるように切欠きが設けられ第1プレキャスト板の一方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第2プレキャスト板と、逆さL字断面になるように切欠きが設けられ第1プレキャスト板の他方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第3プレキャスト板と、を備えており、第1プレキャスト板をトンネル底面の所定の位置に設置する第1設置工程と、所定の位置に設置された第1プレキャスト板の一方側に隣接させて第2プレキャスト板を設置し、第1及び第2プレキャスト板の端部同士を相欠き継ぎで連結する第2設置工程と、所定の位置に設置された第1プレキャスト板の他方側に隣接させて第3プレキャスト板を設置し、第1及び第3プレキャスト板の端部同士を相欠き継ぎで連結する第3設置工程と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この施工方法では、トンネルの幅方向に複数連結されたプレキャスト板でインバートが形成される。そして、第1プレキャスト板の端部がL字断面をなし、第2及び第3プレキャスト板に相欠き継ぎで連結されているので、第1プレキャスト板の端部が第2及び第3プレキャスト板の端部に嵌合され、第1〜第3プレキャスト板は強固に連結される。この構造により、地山からの圧力に起因して第1〜第3プレキャスト板が下方からの力を受ける場合にも、プレキャスト板の浮き上がり及び脱落が抑制される。また、この施工方法では、一次支保工の脚部に隣接するプレキャスト板(インバートの端部を構成するプレキャスト板)以外のプレキャスト板である第1プレキャスト板をまず設置し、その後、第1プレキャスト板の端部の上に端部を重ねながら第2及び第3プレキャスト板を設置する。従って、プレキャスト板の端部同士を相欠き継ぎで嵌合させ連結する場合にも、第2及び第3プレキャスト板を設置し易く、良好な施工性も確保することができる。
【0009】
また、本発明のインバートの施工方法において、幅方向に連結されインバートを形成するためのプレキャスト板の数は奇数であり、第1プレキャスト板は、複数のプレキャスト板のうち中央に配置されることとしてもよい。地山からの圧力に起因する下方からの力は、インバートの中央部分が最も大きく作用すると考えられる。従って、中央のプレキャスト板を上記構成の第1プレキャスト板とすることで、地山からの圧力に起因するプレキャスト板の浮き上がりや脱落を効果的に抑制することができる。
【0010】
本発明のインバートは、NATMトンネル工法において鋼製支保工と吹き付けコンクリート部とロックボルトとを有するアーチ形状の一次支保工の脚部同士を連絡し下に凸のアーチ形状をなすインバートであって、トンネル底面においてトンネルの幅方向に複数連結されたプレキャスト板からなるものであり、L字断面になるように切欠きが設けられた両端部を有する第1プレキャスト板と、逆さL字断面になるように切欠きが設けられ第1プレキャスト板の一方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第2プレキャスト板と、逆さL字断面になるように切欠きが設けられ第1プレキャスト板の他方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第3プレキャスト板と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
このインバートは、トンネルの幅方向に複数連結されたプレキャスト板で形成される。そして、第1プレキャスト板の端部がL字断面をなし、第2及び第3プレキャスト板に相欠き継ぎで連結されているので、第1プレキャスト板の端部が第2及び第3プレキャスト板の端部に嵌合され、第1〜第3プレキャスト板は強固に連結される。この構造により、地山からの圧力に起因して第1〜第3プレキャスト板が下方からの力を受ける場合にも、プレキャスト板の浮き上がり及び脱落が抑制される。また、このインバートを施工する場合には、一次支保工の脚部に隣接するプレキャスト板(インバートの端部を構成するプレキャスト板)以外のプレキャスト板である第1プレキャスト板をまず設置し、その後、第1プレキャスト板の端部の上に端部を重ねながら第2及び第3プレキャスト板を設置すればよい。従って、プレキャスト板の端部同士を相欠き継ぎで連結する場合にも、第2及び第3プレキャスト板を設置し易く、良好な施工性も確保することができる。
【0012】
本発明のプレキャスト部材は、NATMトンネル工法において鋼製支保工と吹き付けコンクリート部とロックボルトとを有するアーチ形状の一次支保工の脚部同士を連絡し下に凸のアーチ形状をなすインバートの少なくとも一部をなすプレキャスト部材であって、インバートは、トンネル底面においてトンネルの幅方向に複数連結されたプレキャスト板からなるものであり、L字断面になるように切欠きが設けられた両端部を有する第1プレキャスト板と、逆さL字断面になるように切欠きが設けられ第1プレキャスト板の一方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第2プレキャスト板と、逆さL字断面になるように切欠きが設けられ第1プレキャスト板の他方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第3プレキャスト板と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地山からの圧力に起因するインバート構成部分の浮き上がりや脱落を抑制すると共に、良好な施工性を実現するインバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のインバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材が適用される山岳トンネルの一例を示す断面図である。
【図2】(a),(b),(c)は、それぞれ、プレキャスト板P1,P2,P3を示す断面図である。
【図3】(a),(b)は、それぞれ、連結前,連結後におけるプレキャスト板P1,P2の端部近傍を示す断面図である。
【図4】プレキャスト板P1,P2の連結構造の他の例を示す断面図である。
【図5】(a),(b),(c)は、それぞれ、第1実施形態に係るインバートの施工方法の第1,第2,第3設置工程を示す断面図である。
【図6】一次支保工の脚部とプレキャスト板P3の端部との連結構造を示す断面図である。
【図7】(a),(b),(c)は、それぞれ、第2実施形態に係るインバートの施工方法を示す断面図である。
【図8】(a),(b),(c)は、それぞれ、第2実施形態に係るインバートの施工方法を図7に続けて示す断面図である。
【図9】本発明のインバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材が適用される山岳トンネルの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るインバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材の実施形態について詳細に説明する。まず、図1を参照しながら、本実施形態のインバートの施工方法、インバート、及びプレキャスト部材が適用される山岳トンネル1について説明する。トンネル1は、NATMトンネル工法(New Austrian Tunneling Method)を用いて施工されるものである。
【0016】
図1に示すように、トンネル1は、トンネル掘削抗の内周面に沿ってアーチ形状に設けられた一次支保工3と、一次支保工3の内側に設けられた覆工コンクリート部5とを備えている。一次支保工3は、トンネル掘削抗の内周面に設けられた鋼製支保工7を備えている。鋼製支保工7は、例えば、周方向に2分割されて設けられており、トンネル1の内周面に沿った弧をなす一対のH鋼が連結され形成されている。
【0017】
更に、一次支保工3は、吹き付けコンクリート部9を備えている。吹き付けコンクリート部9は、鋼製支保工7同士の間を埋めるようにトンネル1の内周面に吹付け工法で形成されている。更に、一次支保工3は、吹き付けコンクリート部9からトンネル1の径方向外側に向けて地山に打ち込まれた多数のロックボルト11を備えている。覆工コンクリート部5は、一次支保工3を覆うように、鋼製支保工7及び吹き付けコンクリート部9の更に内側に打設されている。
【0018】
更にトンネル1は、インバート15を備えている。インバート15は、一次支保工3の両方の脚部4a,4bを連絡するようにトンネル1の底面19に設けられている。インバート15は、逆さアーチ形状(下に凸のアーチ形状)に設けられており、トンネル1の断面を閉合することによりトンネル1を構造的に安定させる。なお、脚部4a,4bよりも下方の部分17は、インバート15を構築する前に掘削され、インバート15の完成後に埋め戻される。トンネル1に関する以上の構成は、インバートを備えるNATMトンネルの構成として公知であるので、更なる詳細な説明は省略する。
【0019】
図に示されるように、本実施形態のトンネル1において、インバート15は、トンネル1の幅方向に3分割されたプレキャスト板P1,P2,P3で構成されている。プレキャスト板P1〜P3は、事前に工場で製作され水中養生された鉄筋コンクリート板である。工場では、プレキャスト板P1〜P3は、規定の日数以上(例えば7日以上)水中養生される。このうちプレキャスト板P2,P3は、それぞれ脚部4a,4bに隣接して設置されるプレキャスト板である。
【0020】
すなわち、トンネル1坑外において、型枠、養生水槽、製品仮置きヤードが準備され、プレキャスト板P1〜P3が成型される。そして、規定の日数以上水中養生され、所定の品質管理の下でプレキャスト板P1〜P3が完成される。一般にインバートは、施工後の可能な限り早い時期に強度を発現することが望まれる。この要請に対して、トンネル1では事前に十分に水中養生したプレキャスト板P1〜P3を採用することにより、現場打ちのインバートに比べて早期に強度を発現させる。従って、トンネル断面閉合の効果を早期に発揮させ、地山の圧力によるトンネル1の変位や地山の緩みを抑えることができる。
【0021】
図2を参照し、3つのプレキャスト板P1〜P3の構造について説明する。図2(a),(b),(c)は、それぞれ、トンネル1の断面における、プレキャスト板P1,P2,P3の断面図である。以下の説明における各部の断面形状は、図2に示すようなトンネル1の断面における形状を意味する。
【0022】
プレキャスト板P1〜P3は、平面視で略矩形をなす板状部材であり、インバート15のアーチ形状に対応して湾曲した形状をなす。プレキャスト板P1〜P3のトンネル1の幅方向の寸法は、トンネル1の幅によるが、例えば、約3〜4m程度である。またトンネル1の長さ方向の寸法は、例えば、約1.5mである。このようなプレキャスト板P1〜P3が2次元的に敷き詰められてインバート15が形成される。
【0023】
図2(a)に示すプレキャスト板P1(第1プレキャスト板)は、3枚のプレキャスト板P1〜P3のうち中央に位置し、設置されたときには脚部4a,4bに隣接しない。プレキャスト板P1は、両端部P1a,P1bを有しており、両端部P1a,P1bの端面の上半分には矩形断面の切欠きq1が設けられているので、両端部P1a,P1bはL字断面を呈する。
【0024】
プレキャスト板P1の一方側に隣接して配置されるプレキャスト板P2(第2プレキャスト板)は、図2(b)に示すように、端面の下半分に矩形断面の切欠きq2が設けられた端部P2aを有している。端部P2aは、上下逆さのL字断面を呈する。プレキャスト板P1の端部P1bとプレキャスト板P2の端部P2aとは、互いに嵌合される形状をなし、相欠き継ぎで連結されている(図1参照)。
【0025】
同様に、プレキャスト板P1の他方側に隣接して配置されるプレキャスト板P3(第3プレキャスト板)は、図2(c)に示すように、端面の下半分に矩形断面の切欠きq3が設けられた端部P3bを有している。端部P3bは、上下逆さのL字断面を呈する。プレキャスト板P1の端部P1aとプレキャスト板P3の端部P3bとは、互いに嵌合される形状をなし、相欠き継ぎで連結されている(図1参照)。なお、プレキャスト板P2の他端部P2b及びプレキャスト板P3の他端部P3aには、切欠きは形成されておらず、平坦な端面が形成されている。
【0026】
図3を参照し、端部P1b,P2a同士、及び端部P1a,P3b同士の連結構造について説明する。図3(a)に示すように、端部P2aには、雄側連結金具21が埋め込まれており、対向する端部P1bには、雌側連結金具23が埋め込まれている。端部P1b,P2aが突き合わされると、雄側連結金具21の先端部が、雌側連結金具23の開口部23aに挿入される。そして、図3(b)に示すように、雄側連結金具21の先端ピン21aが開口部23aの底面に突き当たることで、雄側連結金具21のスリーブ21bが押し拡げられ、スリーブ21bが開口部23aの側壁面に噛み込む。このことで、雄側連結金具21と雌側連結金具23とが強固に連結され、その結果、端部P1b,P2a同士が強固に連結される。なお、端部P1aと端部P3bとの連結構造も、上記同様であるので、重複する説明を省略する。
【0027】
なお、図3の連結構造に代えて、図4に示す構造を採用してもよい。図4の構造では、端部P2aの切欠き部の水平面から下方に突出するように雄側連結金具21が設けられており、これに対向して、端部P1bの切欠き部の水平面で上方に開口するように雌側連結金具23が設けられている。また、図3,図4の構造において、雄側連結金具21と雌側連結金具23とを逆にしてもよい。上記のような構造で3枚のプレキャスト板P1〜P3が連結され、当該3枚のプレキャスト板P1〜P3からなる部材P(図1参照)が、特許請求の範囲のプレキャスト部材に対応する。
【0028】
続いて、本発明に係るインバートの施工方法の第1実施形態として、上述したインバート15の施工方法の一例について、図5を参照しながら説明する。
【0029】
図5(a)に示すように、一次支保工3の脚部4a,4bよりも下方の部分17が掘削されトンネル底面19が現れた後、プレキャスト板P1〜P3の母材同等品以上のモルタルスペーサを用いて、底面19上の中央部分にプレキャスト板P1を設置する(第1設置工程)。このように、一次支保工3の脚部4a,4bに隣接するプレキャスト板P2,P3以外のプレキャスト板(ここでは、プレキャスト板P1)が最初に設置されるプレキャスト板として選択される。このときプレキャスト板P1は、完成後のインバート15の中でプレキャスト板P1が配置されるべき位置に予め設置され、その後の工程では移動されない。
【0030】
続いて、図5(b)に示すように、プレキャスト板P1と一次支保工3の脚部4aとの間にプレキャスト板P2を挿入し設置する。ここでは、プレキャスト板P1の一端部P1bとプレキャスト板P2の端部P2aとを連結する(第2設置工程)。このとき、端部P2aが端部P1bの上に重ねられるようにして、前述したように端部P1b,P2aが相欠き継ぎで連結される。プレキャスト板P2の他端部P2bと脚部4aと間には間隙が形成されるが、後述する連結構造によって他端部P2bと脚部4aとが連結される。
【0031】
続いて、図5(c)に示すように、プレキャスト板P1と一次支保工3の脚部4bとの間にプレキャスト板P3を挿入し設置する。ここでは、プレキャスト板P1の他端部P1aとプレキャスト板P3の端部P3bとを連結する(第3設置工程)。このとき、端部P3bが端部P1aの上に重ねられるようにして、前述したように端部P1a,P3bが相欠き継ぎで連結される。プレキャスト板P3の他端部P3aと脚部4bと間には間隙が形成されるが、後述する連結構造によって他端部P3aと脚部4bとが連結される。
【0032】
続いて、プレキャスト板P2の他端部P2bと脚部4aとが連結され、プレキャスト板P3の他端部P3aと脚部4bとが連結される。この連結構造について、図6を参照し説明する。図6に示すように、プレキャスト板P3の端部P3aの端面と脚部4bにおける鋼製支保工7の下端面との間に、台形状の断面をもつメタル製接続材31が嵌め込まれる。更に、メタル製接続材31と端部P3aの端面との間に、適切な枚数の薄板鉄33とキャンバー35が差し込まれることで、間隙が微調整される。これにより、プレキャスト板P3と一次支保工3の脚部4bとが連結される。覆工コンクリート部5とプレキャスト板P3との間の間隙は、覆工コンクリートで埋めればよい。また、同様の構造をもって、プレキャスト板P2と一次支保工3の脚部4aとが連結される。以上により、一次支保工3とインバート15が連結されてなるトンネル1の断面閉合構造が完成する。
【0033】
その直後、インバート15とその下方の岩盤とを一体化させるために、プレキャスト板P1〜P3に埋め込まれたグラウトホール(図示せず)から、早強モルタルを充填する。そして、充填した早強モルタルの強度確認をテストピースを用いて行う。以上で、トンネル1の長手方向に例えば1.5m分の長さのインバート15が完成し、同様にしてトンネル1の長手方向に移動しながら上記の工程を行うことで、インバート15をトンネル1の長手方向に延長していく。その後、インバート15の上方の部分17(図1)参照を埋め戻す。
【0034】
続いて、上述したインバート15及びその施工方法による作用効果について説明する。
【0035】
本実施形態のインバート15の施工方法では、トンネル1の幅方向に複数(ここでは3枚)連結されたプレキャスト板P1〜P3でインバート15が形成される。そして、プレキャスト板P1の端部P1a,P1bがL字断面をなし、プレキャスト板P2,P3の端部に嵌合され相欠き継ぎで連結されているので、プレキャスト板P1〜P3は互いに強固に連結される。この構造により、地山からの圧力に起因してプレキャスト板P1〜P3が下方からの力を受ける場合にも、浮き上がり及び脱落が抑制される。
【0036】
また、地山からの圧力により下方から作用する力は、インバート15の中央部分が最も大きいと考えられる。従って、中央のプレキャスト板P1の両端部P1a,P1bを、それぞれ、プレキャスト板P3,P2の端部P3b,P2aで下方に押さえ込む構造にすることで、地山からの圧力に起因するプレキャスト板P1の浮き上がりや脱落を効果的に抑制することができる。
【0037】
また、この施工方法では、一次支保工3の脚部4a,4bに隣接しないプレキャスト板P1をまず設置し、その後、プレキャスト板P1の上に端部を重ねるようにしてプレキャスト板P2,P3を設置し、相欠き継ぎで連結する。従って、プレキャスト板P1〜P3の端部同士を相欠き継ぎで嵌合させ強固に連結するにも関わらず、プレキャスト板P2,P3を設置し易く、良好な施工性を確保することができる。そして、良好な施工性により、作業時間を短くすることができ、その結果、トンネル掘削用車両の通行の制限等が緩和され、トンネル掘削の作業の能率向上を図ることができる。
【0038】
続いて、本発明に係るインバートの施工方法の第2実施形態として、インバート15の施工方法の他の例について、図7及び図8を参照しながら説明する。なお、この施工方法において、プレキャスト板P1〜P3の端部同士の連結処理や早強モルタルの充填処理等は、前述の施工方法で示した処理と同等であるので、重複する説明を省略する。
【0039】
図7(a)に示すように、まず、一次支保工3の脚部4a,4bよりも下方の部分17のうち、脚部4bに近い部分17bを残して掘削する。これにより、トンネル底面19のうち脚部4aに近い一部分が露出する。露出した当該部分は、プレキャスト板P1〜P3のうち、中央のプレキャスト板P1を含めて脚部4a側に位置するプレキャスト板(プレキャスト板P1,P2)の設置予定部分である。次に、図7(b)に示すように、底面19上の中央部分にプレキャスト板P1を設置する(第1設置工程)。続いて、図7(c)に示すように、プレキャスト板P1と一次支保工3の脚部4aとの間にプレキャスト板P2を挿入し設置し、プレキャスト板P1,P2の端部同士を連結する(第2設置工程)。
【0040】
上記のプレキャスト板P1,P2の設置作業の間は、部分17bの上面を車両の走行帯18bとして使用する。これにより、当該走行帯18bにトンネル掘削用車両を通過させ、トンネル掘削作業を並行して効率よく行うことができる。
【0041】
続いて、図8(a)に示すように、走行帯18bを含む部分17bを掘削し、トンネル底面19のうち脚部4bに近い一部分を露出させる。露出した当該部分は、残ったプレキャスト板P3の設置予定部分である。更に、一次支保工3の脚部4a,4bよりも下方の部分17のうち、脚部4aに近い部分17aを、プレキャスト板P1,P2の上に埋め戻す。次に、図8(b)に示すように、プレキャスト板P1と一次支保工3の脚部4bとの間にプレキャスト板P3を挿入し、プレキャスト板P1,P3の端部同士を連結する(第3設置工程)。
【0042】
上記のプレキャスト板P3の設置作業の間は、部分17aの上面を車両の走行帯18aとして使用する。これにより、当該走行帯18aにトンネル掘削用車両を通過させ、トンネル掘削作業を並行して効率よく行うことができる。
【0043】
続いて、プレキャスト板P2の端部と脚部4aとが連結され、プレキャスト板P3の端部と脚部4bとが連結されることで、一次支保工3とインバート15が連結されてなるトンネル1の断面閉合構造が完成する。その後、図8(c)に示すように、インバート15の上方の部分17を完全に埋め戻す。
【0044】
本実施形態の施工方法によれば、インバート15の施工中も常にトンネル掘削用車両の走行帯18a又は18bを確保することができるので、インバート15の施工とトンネル掘削作業とを並行して行うことができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。例えば、実施形態では、インバート15をトンネル幅方向に3分割しているが、図9に示すようにインバートを5分割し、5つのプレキャスト板P11〜P15を幅方向に連結してインバート215を形成してもよい。この場合、まず最初に、一次支保工3の脚部4a,4bに隣接するプレキャスト板P14,P15以外のプレキャスト板(P11,P12,又はP13)を設置すればよい。ここでは、5枚のうち中央のプレキャスト板P11を最初に設置するものとし、例えば、プレキャスト板P11,P12,P13,P14,P15の順に設置する。
【0046】
この場合、プレキャスト板(第1プレキャスト板)P11が、L字断面の両端部P11a,P11bを有し、隣接するプレキャスト板(第2及び第3プレキャスト板)P12,P13がそれぞれ逆さL字断面の一端部P12,P13bを有する。
【0047】
そして、プレキャスト板P11〜P13が、前述のプレキャスト板P1〜P3と同様の構造により相欠き継ぎで連結され、3枚のプレキャスト板P11〜P13からなるプレキャスト部材P’が形成される。当該プレキャスト部材P’が、特許請求の範囲のプレキャスト部材に対応する。そして、当該プレキャスト部材P’の両側に、それぞれプレキャスト板P14,P15が連結されて、インバート215が形成される。なお、プレキャスト板P12とP14との間やプレキャスト板P13とP15との間にも、相欠き継ぎの連結構造を用いてもよい。
【0048】
また、プレキャスト板の数は、3枚や5枚に限られず7枚又は9枚でもよいが、プレキャスト板同士の連結部は比較的強度が弱い部分であるので、連結部を少なくする方が好ましい。従って、トンネル幅方向に分割されるプレキャスト板の数は少ない方が好ましく、3枚が好ましい。
【0049】
また、プレキャスト板の数を偶数にしてもよいが、奇数であるほうが好ましい。前述したように、地山からの圧力により下方から作用する力は、インバートの中央部分が最も大きいと考えられる。そして、プレキャスト板の数を偶数にすると、比較的強度が弱い部分であるプレキャスト板同士の連結部分が、インバートの中央部分に配置される場合がある。一方、プレキャスト板の数を奇数にすると、プレキャスト板同士の連結部分がインバートの中央部分に配置される構造が回避され、インバートの強度を確保することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…トンネル、3…一次支保工、4a,4b…一次支保工の脚部、7…鋼製支保工、9…吹き付けコンクリート部、11…ロックボルト、15,215…インバート、19…トンネル底面、P,P’…プレキャスト部材、P1,P11…第1プレキャスト板、P2,P12…第2プレキャスト板、P3,P13…第3プレキャスト板、q1,q2,q3…切欠き。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
NATMトンネル工法において鋼製支保工と吹き付けコンクリート部とロックボルトとを有するアーチ形状の一次支保工の脚部同士を連絡し下に凸のアーチ形状をなすインバートをトンネル底面に施工するインバートの施工方法であって、
前記インバートは、
前記トンネル底面において前記トンネルの幅方向に複数連結されたプレキャスト板からなるものであり、
前記インバートは、
L字断面になるように切欠きが設けられた両端部を有する第1プレキャスト板と、
逆さL字断面になるように切欠きが設けられ前記第1プレキャスト板の一方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第2プレキャスト板と、
逆さL字断面になるように切欠きが設けられ前記第1プレキャスト板の他方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第3プレキャスト板と、を備えており、
前記第1プレキャスト板を前記トンネル底面の所定の位置に設置する第1設置工程と、
前記所定の位置に設置された前記第1プレキャスト板の一方側に隣接させて前記第2プレキャスト板を設置し、前記第1及び第2プレキャスト板の端部同士を相欠き継ぎで連結する第2設置工程と、
前記所定の位置に設置された前記第1プレキャスト板の他方側に隣接させて前記第3プレキャスト板を設置し、前記第1及び第3プレキャスト板の端部同士を相欠き継ぎで連結する第3設置工程と、
を備えたことを特徴とするインバートの施工方法。
【請求項2】
前記幅方向に連結され前記インバートを形成するための前記プレキャスト板の数は奇数であり、
前記第1プレキャスト板は、複数の前記プレキャスト板のうち中央に配置されることを特徴とする請求項1に記載のインバートの施工方法。
【請求項3】
NATMトンネル工法において鋼製支保工と吹き付けコンクリート部とロックボルトとを有するアーチ形状の一次支保工の脚部同士を連絡し下に凸のアーチ形状をなすインバートであって、
トンネル底面において前記トンネルの幅方向に複数連結されたプレキャスト板からなるものであり、
L字断面になるように切欠きが設けられた両端部を有する第1プレキャスト板と、
逆さL字断面になるように切欠きが設けられ前記第1プレキャスト板の一方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第2プレキャスト板と、
逆さL字断面になるように切欠きが設けられ前記第1プレキャスト板の他方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第3プレキャスト板と、を備えたことを特徴とするインバート。
【請求項4】
NATMトンネル工法において鋼製支保工と吹き付けコンクリート部とロックボルトとを有するアーチ形状の一次支保工の脚部同士を連絡し下に凸のアーチ形状をなすインバートの少なくとも一部をなすプレキャスト部材であって、
前記インバートは、トンネル底面において前記トンネルの幅方向に複数連結されたプレキャスト板からなるものであり、
L字断面になるように切欠きが設けられた両端部を有する第1プレキャスト板と、
逆さL字断面になるように切欠きが設けられ前記第1プレキャスト板の一方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第2プレキャスト板と、
逆さL字断面になるように切欠きが設けられ前記第1プレキャスト板の他方の端部に相欠き継ぎで連結された端部を有する第3プレキャスト板と、を備えたことを特徴とするプレキャスト部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−28898(P2013−28898A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163607(P2011−163607)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】