説明

インビボでの腫瘍細胞免疫を高めるための組成物および方法

【課題】患者のガンの重篤度を阻止するかまたは軽減するためのより有効な方法を提供すること。
【解決手段】ガンに対する免疫応答を刺激する方法であって、被験体に、該被験体のガン細胞と実質的に類似しており、かつ少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を減少させるかまたは阻害するように遺伝的に改変されている腫瘍細胞の有効量を投与する工程を包含する、方法であって、1つの実施形態において、上記腫瘍細胞が、上記被験体に由来し、別の実施形態において、上記腫瘍細胞が、ドナーの腫瘍細胞であり、さらに別の実施形態おいて、上記腫瘍細胞が、ガン細胞、神経膠腫細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、黒色腫細胞、または白血病細胞である、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、一般的には抗腫瘍ワクチンに、そしてより具体的には、抗腫瘍ワクチンに対する応答において免疫学的機能を増大させる遺伝子療法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
免疫系の生物学の本発明者らの理解における近年の進歩により、免疫応答の重要なモジュレーターとしてのサイトカインの同定が導かれた。リンパ球により産生されるサイトカインは、リンホカインと呼ばれる。これらの因子は、腫瘍に対する多くの免疫応答を仲介する。いくつかのサイトカインは、組換えDNA方法論により生成され、そしてそれらの抗腫瘍効果について評価されている。
【0003】
リンホカインおよび関連の免疫モジュレーターの投与により、種々のタイプの新生物を有する患者においていくつかのポジティブな応答が生じた。しかし、現在のサイトカインの投与は、これらの因子の治療価値を制限する毒性効果をしばしば伴う。例えば、インターロイキン−2(IL-2)は、抗腫瘍免疫の生成における重要なリンホカインである。腫瘍抗原に対する応答において、リンパ球のサブセット、ヘルパーT細胞は、少量のIL-2を分泌する。IL-2は、腫瘍抗原の刺激部位で局所的に作用し、全身的な腫瘍細胞の破壊を仲介する細胞傷害性T細胞およびナチュラルキラー細胞を活性化する。
【0004】
サイトカインのような免疫刺激因子(これは、免疫エフェクター機能をポジティブに調節する)に加えて、免疫抑制活性を示す分子もまた存在する。これらの免疫抑制因子は、異常に調節される場合、全身性免疫の誘導に対する有害な効果を有し得る。例えば、トランスフォーミング増殖因子−β(TGFβ)の1つ以上のイソ型(isoform)は、多くの腫瘍タイプにより分泌される免疫抑制因子であり得る。免疫抑制型のTGFβを分泌する腫瘍細胞由来の培養上清は、インビトロで腫瘍特異的細胞障害性を減少させ得る。これらのインビトロでの細胞障害性アッセイにおいて、アンチセンスTGFβの発現によるTGFβ活性の阻害は、腫瘍細胞細胞障害性を高め得る。
【0005】
部分的には、ガンを有する被験体における免疫抑制因子の内生濃度のために、腫瘍細胞による免疫抑制因子の分泌を阻害することによりインビボで腫瘍細胞免疫原性が与えられるか否かは予想され得ない。例えば、ガン細胞により分泌されるTGFβは、ガン患者の全身を循環し、そして一般的に患者を免疫無防備にさせ得る。結果として、患者のガン細胞に実質的に類似しており、かつ免疫抑制因子の発現を阻止するために遺伝的に改変される腫瘍細胞の投与により、ガン細胞に対する患者の免疫応答が刺激されるとは必ずしも予想されない。同様に、抗腫瘍免疫応答のインビトロモデルの結果より、インビボでの関連した免疫系操作の成果は、確実には予想されない。
【0006】
サイトカイン濃度の調節が、標的ガン細胞に対するガン患者の免疫応答を高める手段として試みられてきた。例えば、IL-2の静脈内、リンパ球内、または病巣内の投与により、何人かのガン患者において臨床的に有意な応答が生じた。しかし、重篤な毒性効果(例えば、低血圧症および浮腫)により、静脈内およびリンパ球内のIL-2投与の用量および効力は制限される。全身投与されたリンホカインの毒性は、これらの因子が局所的な細胞の相互作用を仲介することから、驚くべきことでなく、そして通常は、非常に少量でしか分泌されない。さらに、IL-2の病巣内投与は、達成することが困難であり得、そして患者を著しい病的状態にし得る。
【0007】
サイトカインの全身投与の毒性を避けるために、腫瘍細胞へのサイトカイン遺伝子移入を含む代替アプローチにより、いくつかの動物腫瘍モデルにおいて抗腫瘍免疫応答が生じた。これらの研究において、腫瘍細胞へのサイトカイン遺伝子移入後のサイトカインの発現は、同系の宿主内に移植された場合、サイトカイン分泌腫瘍細胞の腫瘍形成性の減少を生じた。腫瘍形成性の減少が、IL-2、γ-インターフェロンまたはインターロイキン-4を使用することで生じた。IL-2遺伝子移入を用いる研究において、処置動物はまた、全身的な抗腫瘍免疫が生じ、そして非改変の親の腫瘍細胞でのその後の腫瘍細胞の攻撃(challenge)に対して保護された。腫瘍増殖および保護的な免疫性の同様の阻害もまた、非改変の親の腫瘍細胞と、IL-2を発現させるために遺伝的に改変された腫瘍細胞との混合物で免疫を行った場合に示された。毒性は、これらの動物研究において局在化したリンホカイントランスジーンの発現と関連しなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
サイトカインはまた、異種の細胞タイプ(例えば、線維芽細胞)において発現される。異種の細胞タイプは、患者自身のガン細胞とともにガン患者に共注入(coinject)された。サイトカイン発現細胞の共注入により、サイトカイン発現腫瘍細胞により生じたのと同様な全身的な抗腫瘍免疫の誘導が得られた。それにもかかわらず、これらの遺伝子移入手順により、他の方法と比較して著しい抗腫瘍免疫が提供され得るとはいえ、かなりの数の患者は、このような治療に対して最適には応答しない。従って、患者のガンの重篤度を阻止するかまたは軽減するためのより有効な方法を提供する必要が存在する。本発明は、この要求を満足し、そして関連した利点もまた提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発発明によって以下が提供される:
(1)ガンに対する免疫応答を刺激する方法であって、被験体に、該被験体のガン細胞と実質的に類似しており、かつ少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を減少させるかまたは阻害するように遺伝的に改変されている腫瘍細胞の有効量を投与する工程を包含する、方法。
(2)前記腫瘍細胞が、前記被験体に由来する、項目1に記載の方法。
(3)前記腫瘍細胞が、ドナーの腫瘍細胞である、項目1に記載の方法。
(4)前記腫瘍細胞が、ガン細胞、神経膠腫細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、黒色腫細胞、または白血病細胞である、項目1に記載の方法。
(5)前記免疫抑制因子が、TGFβ、フィブロネクチン、テナシン(tenascin)、p15E、またはリンパ球幼若化抑制因子である、項目1に記載の方法。
(6)前記免疫抑制因子が、TGFβ2である、項目1に記載の方法。
(7)免疫抑制因子の発現を減少させるかまたは阻害するための前記遺伝的改変が、前記腫瘍細胞内の該免疫抑制因子をコードする遺伝子の相同組換え遺伝子ノックアウトにより達成される、項目1に記載の方法。
(8)免疫抑制因子の発現を減少させるかまたは阻害するための前記遺伝的改変が、該免疫抑制因子をコードする核酸分子にハイブリダイズするアンチセンス核酸配列を前記腫瘍細胞に与えることにより達成される、項目1に記載の方法。
(9)前記被験体に免疫刺激因子を投与する工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
(10)前記免疫刺激因子が、サイトカインである、項目9に記載の方法。
(11)前記サイトカインが、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-12、インターロイキン-15、γ-インターフェロン、腫瘍壊死因子、顆粒球コロニー刺激因子、または顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子である、項目10に記載の方法。
(12)前記サイトカインが、インターロイキン-2である、項目10に記載の方法。
(13)前記免疫刺激因子が、サイトカイン発現細胞である、項目9に記載の方法。
(14)ガンに対する免疫応答を刺激する方法であって、被験体に、該被験体のガン細胞と実質的に類似しており、かつ少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を減少させるかまたは阻害するように、および少なくとも1つの免疫刺激因子を発現するように遺伝的に改変された腫瘍細胞の有効量を投与する工程を包含する、方法。
(15)前記腫瘍細胞が、前記被験体に由来する、項目14に記載の方法。
(16)前記腫瘍細胞が、ドナーの腫瘍細胞である、項目14に記載の方法。
(17)前記腫瘍細胞が、ガン細胞、神経膠腫細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、黒色腫細胞、または白血病細胞である、項目14に記載の方法。
(18)前記免疫抑制因子が、TGFβ、フィブロネクチン、テナシン、p15E、またはリンパ球幼若化抑制因子である、項目14に記載の方法。
(19)前記免疫抑制因子が、TGFβ2である、項目14に記載の方法。
(20)免疫抑制因子の発現を減少させるかまたは阻害するための前記遺伝的改変が、前記腫瘍細胞内の該免疫抑制因子をコードする遺伝子の相同組換え遺伝子ノックアウトにより達成される、項目14に記載の方法。
(21)免疫抑制因子の発現を減少させるかまたは阻害するための前記遺伝的改変が、該免疫抑制因子をコードする核酸分子にハイブリダイズするアンチセンス核酸配列を前記腫瘍細胞に与えることにより達成される、項目14に記載の方法。
(22)前記免疫刺激因子が、共刺激性B7分子、MHCクラスI分子、MHCクラスII分子、または公知の腫瘍抗原である、項目14に記載の方法。
(23)前記免疫刺激因子が、サイトカインである、項目14に記載の方法。
(24)前記サイトカインが、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-12、インターロイキン-15、γ-インターフェロン、腫瘍壊死因子、顆粒球コロニー刺激因子、または顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子である、項目23に記載の方法。
(25)前記サイトカインが、インターロイキン-2である、項目23に記載の方法。
(26)ガンに対する免疫応答を刺激するための組成物であって、少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を減少させるかまたは阻害するように遺伝的に改変される腫瘍細胞を含有する、組成物。
(27)前記腫瘍細胞が、処置される被験体に由来する、項目26に記載の組成物。
(28)前記腫瘍細胞が、ドナーの腫瘍細胞である、項目26に記載の組成物。
(29)前記腫瘍細胞が、ガン細胞、神経膠腫細胞、肉腫細胞、リンパ腫細胞、黒色腫細胞、または白血病細胞である、項目26に記載の組成物。
(30)前記免疫抑制因子が、TGFβ、フィブロネクチン、テナシン、p15E、またはリンパ球幼若化抑制因子である、項目26に記載の組成物。
(31)前記免疫抑制因子が、TGFβ2である、項目26に記載の方法。
(32)前記遺伝的に改変された腫瘍細胞が、不活性化された、前記免疫抑制因子をコードする遺伝子を含有する、項目26に記載の組成物。
(33)前記遺伝的に改変された腫瘍細胞が、前記免疫抑制因子をコードする核酸分子にハイブリダイズするアンチセンス核酸配列を含有する、項目26に記載の組成物。
(34)免疫刺激因子をさらに包含する、項目26に記載の組成物。
(35)前記免疫刺激因子が、CE細胞である、項目34に記載の組成物。
(36)前記遺伝的に改変された腫瘍細胞が、免疫刺激因子を発現するようにさらに遺伝的に改変されている、項目26に記載の組成物。
(37)前記免疫刺激因子が、共刺激性B7分子、MHCクラスI分子、MHCクラスII分子、または公知の腫瘍抗原である、項目36に記載の組成物。
(38)前記免疫刺激因子が、サイトカインである、項目36に記載の組成物。
(39)前記サイトカインが、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-12、インターロイキン-15、γ-インターフェロン、腫瘍壊死因子、顆粒球コロニー刺激因子、または顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子である、項目38に記載の方法。
(40)前記サイトカインが、インターロイキン-2である、項目38に記載の方法。
発明の要旨
本発明は、ガンに対する被験体の免疫応答を刺激することにより被験体におけるガンの重篤度を阻止するかまたは軽減する方法を提供する。例えば、ガン患者は、被験体のガン細胞と実質的に類似しているが、しかし少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を阻止するために遺伝的に改変されている腫瘍細胞で免疫され得る。
【0010】
本発明はまた、被験体のガン細胞と実質的に類似しているが、しかし少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を阻止するため、および少なくとも1つの免疫刺激因子(例えば、サイトカインまたは公知の腫瘍抗原)を発現するために遺伝的に改変されている腫瘍細胞を投与することにより、ガンに対する被験体の免疫応答を刺激する方法を提供する。本発明は、免疫刺激因子(例えば、アジュバント、サイトカインまたはサイトカイン発現細胞(CE細胞)(これらの細胞は、サイトカインを発現するために遺伝的に改変されている))と、および被験体のガン細胞と実質的に類似しており、かつ少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を阻止するために遺伝的に改変されている腫瘍細胞とを被験体に同時投与することにより、ガンに対するガン患者の免疫応答を刺激する方法をさらに提供する。
【0011】
本発明はまた、ガンに対する被験体の免疫応答を刺激することにより、被験体におけるガンの重篤度を阻止するかまたは軽減するために有用な組成物を提供する。本発明の組成物は、被験体のガン細胞と実質的に類似しており、かつ少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を阻止するために遺伝的に改変されている腫瘍細胞を含み得る。さらに、所望により、遺伝的に改変された腫瘍細胞は、免疫刺激因子(例えば、サイトカインまたは公知の腫瘍抗原)を発現するように、さらに改変され得る。本発明の組成物はまた、免疫刺激因子(例えば、アジュバント、サイトカインまたはCE細胞)および腫瘍細胞を含み得る。この腫瘍細胞は、被験体のガン細胞と実質的に類似しており、かつ少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を阻止するために遺伝的に改変されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
発明の詳細な記載
本発明は、被験体のガンの重篤度を効果的に阻止あるいは軽減し得る組成物、および組成物を使用する方法を提供する。特に、本発明は、腫瘍細胞により通常産生される一つ以上の免疫抑制因子の発現を減少または阻害するように、遺伝的に改変された腫瘍細胞を含有する組成物を提供する。免疫抑制因子を産生する腫瘍細胞は当該分野において公知であり、例えば、ガン腫、肉腫、神経膠腫、黒色腫、リンパ腫および白血病中において存在する(Sulitzeanu、 Adv.Canc.Res.60:247-267 (1993)、これは本明細書中で参考として援用される)。ガンが免疫抑制因子を産生するか否かは、本明細書中に記載のような方法、またはそうでなければ当該分野において公知の方法を使用して、容易に決定され得る。
【0013】
本発明の組成物は、腫瘍細胞により一つ以上の免疫抑制因子の発現を阻止または減少することによってガンに対して増強される免疫応答系を提供するために遺伝的に改変された腫瘍細胞を含む。それ故、遺伝的改変の前には、腫瘍細胞は免疫抑制因子を発現するそれらの能力により、ある程度、特徴づけられることが認識される。
【0014】
本発明の組成物は、遺伝的に改変された腫瘍細胞を単独、あるいは免疫刺激因子(例えば、サイトカインまたはサイトカインを発現するように遺伝的に改変された細胞であるサイトカイン発現細胞(CE細胞))との組み合わせを含み得る。本発明の組成物はまた、免疫抑制因子の発現を減少または阻害するように遺伝的に改変された腫瘍細胞、およびサイトカインまたは公知の腫瘍抗原のような免疫刺激因子を発現するようにさらに遺伝的に改変された腫瘍細胞を含み得る。本発明の組成物は、既存するガンワクチンによりも有利である。なぜなら、被験体に投与される場合、開示される組成物は被験体の免疫機能の優れた調節を提供し得るからである。
【0015】
本明細書中で使用される用語「ガンの重篤度を阻止または軽減する」は、被験体におけるガンの臨床的徴候または症状が、ガンに対する被験体の免疫応答の刺激に起因する被験体への有益な効果の指標であることを意味する。ガンの阻止は、ガンが発生する傾向にある被験体における、ガンの発症前の時間の増加によって示され得る。例えば、被験体は遺伝的要因または発ガン剤への曝露により、ガンが発生する傾向にされ得る。ガンの重篤度の軽減は、種々の写像方法を用いて決定され得る腫瘍の大きさまたは増殖速度の減少により示され得る。ガンの重篤度の阻止あるいは軽減もまた、腫瘍細胞溶解性免疫エフェクター細胞の活性化のような被験体における免疫エフェクター機能の活性化を検出することにより、間接的に決定され得る。
【0016】
本発明の組成物は、ガンに対する免疫応答を刺激することにより、ガンの重篤度を阻止または軽減し得る。本明細書中で使用される用語「免疫応答を刺激する」は、免疫応答が誘導される、または本発明の組成物の被験体への投与に応答して免疫エフェクター細胞の活性が増強されることを意味する。免疫応答の刺激は、組成物の投与前の被験体の免疫機能と投与後の免疫機能とを比較することにより示され得る。免疫機能は、以下に記載する方法、あるいはそうでなければ体液性または細胞性の免疫応答を測定するために当該分野において公知の他の方法を用いて決定され得る。本明細書中で記載される方法により示されるガンの重篤度の阻止または軽減は、ガンに対する被験体の免疫応答が刺激されていることの指標である。
【0017】
ある実施態様において、腫瘍細胞は、ガン(免疫抑制イソ型TGFβのような少なくとも1つの免疫抑制因子を発現するガン細胞により、ある程度、特徴づけられる)を有する被験体から取り出され、そして腫瘍細胞は免疫抑制因子の発現を減少または阻害するように遺伝的に改変される。細胞を遺伝的に改変する方法は当該分野において公知であり、そして以下に詳細に記載する。遺伝的に改変される腫瘍細胞は、処理される被験体から得られ得るが、それらはまたガン患者以外の供給源からも得られ得る。ただし、この腫瘍細胞は実質的に被験体のガン細胞に類似し、そして免疫抑制因子を発現する。例えば、被験体自身の腫瘍細胞が入手できない、または被験体がガンの傾向にあるがまだガンを有していない場合、腫瘍細胞は処置される被験体以外の供給源から得られ得る。
【0018】
本明細書中で使用される用語「腫瘍細胞」および「ガン細胞」は、悪性の細胞を意味するものとして交換可能に使用される。腫瘍細胞は、肉腫、ガン腫、黒色腫、リンパ腫、または神経膠腫のような固形腫瘍、あるいは白血病のようなより散在性のガンにおいて生じ得、そしてそれらより得られ得る。腫瘍細胞は、ガンを有する被験体、処置される被験体におけるガンと同一または実質的に類似のガンを有するドナー被験体、あるいは腫瘍細胞貯蔵庫より得られ得る。簡便のために、用語「ドナー腫瘍細胞」は、処置される被験体以外の供給源より得られる腫瘍細胞を意味するために用いられる。
【0019】
患者のガン細胞が免疫抑制因子を発現し得るか否かが認識される。しかし、患者のガン細胞が一つ以上の免疫抑制因子を発現する場合のみであれば、ガン細胞は免疫抑制因子の発現を減少または阻害するよう遺伝的に改変される。免疫抑制因子を発現しない被験体のガン細胞は、以下に記載するように、免疫刺激因子を発現するように遺伝的に改変され得る。
【0020】
本明細書中で使用される用語「被験体のガン細胞と実質的に類似である腫瘍細胞」は、被験体のガン細胞と同一または類似の組織学的タイプである、あるいは、被験体のガン細胞によって発現される抗原と同一または類似である腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原を発現する、同種異系の腫瘍細胞のような腫瘍細胞を意味する。このような腫瘍抗原は当該分野において公知である(例えば、Finn、Curr.Opin.Immunol.5:701-708 (1993)を参照のこと、これは本明細書中で参考として援用される)。考察の簡便のために、被験体自身の腫瘍細胞はこの用語の意味の範囲内であるとみなされる。被験体のガン細胞と実質的に類似の同種異系の腫瘍細胞は、例えば、当該分野において周知である組織学的、組織化学的、生化学的、分子生物学的、または免疫学的方法により同定され得る。
【0021】
本明細書中で使用される用語「免疫抑制因子」は、免疫応答の機能に阻害性効果を有する遺伝子産物をいう。免疫抑制因子は、例えば、サイトカインの機能を妨げ得るか、または他の機構により免疫応答を阻害もしくは抑制し得る。免疫抑制因子は当該分野において公知であり、そして、例えば、TGFβ、リンパ球幼若化抑制因子、レトロウィルスp15Eタンパク質、抑制Eレセプター(Sulitzeanu、前出を参照のこと、1993)、ならびにフィブロネクチンおよびテナシン(tenascin)のような細胞外マトリックス分子を包含する。(Oltら、Cancer 70:2137-2142 (1992); Hemasathら、J.Immunol.152:5199-5207 (1994)、これらのそれぞれが本明細書中で参考として援用される)。TGFβの種々のイソ型(例えば、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3、TGFβ4、およびTGFβ5)が存在することが認識され(例えば、Roszmanら、Immunol.Today,12:370-274 (1991); Constamら、J.Immunol.,148:1404-1410 (1992); Elliotら、J.Neuro-Oncology,14:1-7 (1992)を参照のこと、これらのそれぞれが本明細書中で参考として援用される)、および一つ以上のこれらのイソ型のTGFβの免疫抑制効果は、例えば、標的細胞に依存することが認識されている。用語「TGFβ」は、TGFβの任意のイソ型を意味するために本明細書中で一般的に用いられる。ただし、イソ型は免疫抑制活性を有する。
【0022】
本明細書中で使用される用語「免疫抑制因子の発現」は、腫瘍細胞が免疫抑制因子を産出することを意味する。本明細書中で使用される用語「免疫抑制因子の発現を減少または阻害する」は、その最も広範な意味において、免疫抑制因子をコードするRNA分子のレベル,または免疫抑制因子のレベルまたは活性自身が、遺伝的に改変される前に発現されるレベル未満のレベルまで減少されることを意味する。用語「減少」および「阻害」は共に用いられる。なぜなら、いくつかの場合において、免疫抑制因子の発現レベルは特定のアッセイにより検出可能なレベルを下回るレベルまで減少され得、それゆえ、それが免疫抑制因子の発現が減少されるか、または完全に阻害されるかを決定し得ないからである。用語「減少または阻害」の使用は、例えば、特定のアッセイの制限によりあらゆる曖昧さの可能性を防止する。
【0023】
腫瘍細胞によって発現される免疫抑制因子の発現の減少または抑制は、公知の遺伝的な改変方法を用いて達成され得る(概論として、MercolaおよびCohen、Canc.Gene Ther.2:47-59 (1995)を参照のこと)。例えば、TGFβの免疫抑制イソ型のような免疫抑制因子を発現する腫瘍細胞は、遺伝的に改変され得る(例えば、相同組換え遺伝子「ノックアウト」法を用いてTGFβの発現を減少または阻害する)(例えば、Capecchi、Nature,344:105 (1990)およびそこで引用された文献; Kollerら、Science,248:1227-1230 (1990); Zijlstraら、Nature,342:435-438 (1989)を参照のこと、これらのそれぞれは本明細書中で参考として援用される;また、SenaおよびZarling、Nat.Genet.,3:365-372 (1993)を参照のこと、これは本明細書中で参考として援用される)。相同組換え遺伝子ノックアウト法は、いくつかの利点を提供する。例えば、標的遺伝子の対立遺伝子が共に不活性化される場合、腫瘍細胞中にTGFβ遺伝子のような免疫抑制因子をコードする遺伝子の発現は、完全に阻害され得る。免疫抑制因子の完全な阻害の提供に加えて、相同組換え遺伝子ノックアウト法は本質的に永久的(permanent)のものである。
【0024】
腫瘍細胞による免疫抑制因子の発現はまた、腫瘍細胞中にアンチセンス核酸配列を提供することにより減少または阻害され得る。この核酸配列は、TGFβの免疫抑制イソ型のような免疫抑制因子をコードする核酸配列、または核酸配列の一部分に相同である。核酸配列の発現を阻害するためにアンチセンス核酸配列を用いる方法は当該分野において公知であり、そして例えば、Godsonら、J.Biol.Chem.,268:11946-11950 (1993)に記載されている(これは本明細書中で参考として援用される)。腫瘍細胞による免疫抑制因子の発現はまた、リボザイムをコードする核酸配列を腫瘍細胞中に提供することによって減少または阻害され得る。この配列は、TGFβの免疫抑制イソ型をコードするmRNAのような特異的なmRNAを認識および不活性化するように設計され得る(例えば、McCallら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,89:5710-5714 (1992); Cremisiら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,89:1651-1655 (1992); Williamsら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,89:918-921 (1992); NeckersおよびWhitesell、Amer.J.Physiol.265:L1-12 (1993); Tropshaら、J.Mol.Recog.5:43-54 (1992)を参照のこと、これらのそれぞれは本明細書中で参考として援用される)。
【0025】
腫瘍細胞による免疫抑制因子の発現はまた、免疫抑制因子に結合し、そしてそれを不活性化し得る結合タンパク質を発現するように遺伝的に改変することにより減少または阻害され得る。例えば、腫瘍細胞は、免疫抑制因子がTGFβ2である場合、TGFβ2レセプターのような免疫抑制因子に対する天然レセプターを発現するように遺伝的に改変され得るか、または腫瘍細胞中の免疫抑制因子に特異的に結合し得る単鎖抗体のような抗体を発現するように遺伝的に改変され得る(Duanら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,91:5075-5079 (1994); BuonocoreおよびRose、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,90:2695-2699 (1993)、これらのそれぞれは本明細書中で参考として援用される)。腫瘍細胞中でのこのような結合タンパク質の発現は、利用可能な免疫抑制因子を減少し得、そして、結果として、被験体のガンに対する免疫応答の免疫抑制を減少または阻害し得る。
【0026】
被験体のガン細胞が、TGFβの免疫抑制イソ型のような免疫抑制因子を発現するか否かを決定する種々のアッセイが利用可能であり、そして当業者に公知である。例えば、ラジオイムノアッセイまたは酵素結合免疫吸着剤アッセイは、被験体から得られた血清サンプルまたは尿サンプル中の特異的な免疫抑制因子を検出するために用いられ得る。例えば、ミンク肺上皮細胞アッセイのような他のアッセイが、TGFβ1またはTGFβ2活性のようなTGFβの活性を同定するために用いられ得る(実施例Iを参照のこと)。例えば、腫瘍のバイオプシーは、免疫抑制因子の発現について免疫組織化学的に実験し得る。さらに、腫瘍細胞は、ノーザンブロット、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応、または他の公知の方法により評価され得る(例えば、Erlich、PCR Technology: Principles and applications for DNA amplification (Stockton Press 1989); Sambrookら、Molecular Cloning: A laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press 1989)を参照のこと、これらのそれぞれは本明細書中で参考として援用される)。
【0027】
本明細書中で開示される、腫瘍細胞による免疫抑制因子の発現の減少または阻害は、この因子の免疫抑制効果を減弱し得、そして内因性の循環免疫抑制因子の存在下でさえも作用する天然の免疫機能を可能にし得る。従って、免疫抑制因子の発現を減少または阻害するように遺伝的に改変された腫瘍細胞は、被験体のガンに対する免疫応答を刺激することにより被験体のガンの重篤度を阻止または軽減するためのワクチンとして有用であり得る。例えば、免疫抑制因子をコードする遺伝子の相同組換え遺伝子ノックアウト法により、あるいはアンチセンス核酸配列を発現することにより、遺伝的に改変された腫瘍細胞は、ガンに対する免疫応答を刺激するためにガン患者に投与され得、そして、それゆえ、ガンの重篤度が軽減され得る。
【0028】
このような遺伝的に改変された腫瘍細胞はまた、被験体のガンの発症を阻止するために、ガンが発生する傾向にある被験体において、ワクチンとして用いられ得る。例えば、このようなワクチンは、推測のガンに実質的に類似のドナー腫瘍細胞を得ることにより生成され得る。このようなドナー腫瘍細胞は、例えば、推測のガンに同一あるいは実質的に類似のガンを有するドナー被験体、および免疫抑制因子の発現を減少または阻害するために遺伝的に改変されたドナー腫瘍細胞から入手され得る。遺伝的に改変されたドナー腫瘍細胞は、ガンに対する被験体の免疫応答を刺激するために、単独で、またはアジュバンドまたはCE細胞のような免疫刺激因子と組み合わせで被験体に投与され得る。
【0029】
別の実施態様において、腫瘍細胞はガンを有する患者から取り出され、そして免疫抑制因子の発現を減少または阻害するために遺伝的に改変され、ならびにサイトカインまたは公知の腫瘍抗原のような一つ以上の免疫刺激因子を発現および分泌するようにさらに改変される。免疫抑制因子の阻害効果の除去との組み合わせての免疫刺激因子の発現は、被験体におけるポジティブな免疫機能を増加させ得る。このような免疫刺激は、腫瘍細胞における免疫抑制因子の発現を減少または阻害することにより提供される作用を効果的に増加し得る。結果として、遺伝的に改変された腫瘍細胞は、被験体のガンの重篤度を阻止あるいは軽減するワクチンとして特に有効である。
【0030】
本明細書中で使用される用語「免疫刺激因子」とは、その最も広い意味で用いいられ、被験体の免疫応答性をポジティブに生じさせ得る分子を意味する。例えば、免疫刺激因子は、BCGのようなアジュバントであり得る(HarlowおよびLane、Antibodies:A Laboratory manual (Cold Spring Harbor Laboratory Press 1988);MishellおよびShiigi、Selected Methods in Cellular Immunology (W.H.Freeman and Co.(1980)を参照のこと(これらは、各々本明細書中で参考として援用される))。あるいは、被験体に局所投与または全身投与され得るか、または細胞中で発現され得る遺伝子産物であり得る。腫瘍細胞あるいは正常細胞(例えば、線維芽細胞または抗原提示細胞)を遺伝的に改変して、遺伝子産物である免疫刺激因子を発現させ得る。遺伝子産物である免疫刺激因子は、当該分野で公知である。このような免疫刺激因子として、例えば、サイトカイン、共刺激性(costimulatory)B7分子(Baskarら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 90:5687-5690 (1993);TownsendおよびAllison、Science 259:368-370 (1993);Tanら、J.Immunol.149:32217-3224 (1992) (これらは、各々本明細書中で参考として援用される))、自系のMHCクラスIおよびクラスII分子(Plautzら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 90:4645-4649 (1993);Huiら、Fems Microbiol.Immunol.2:215-221(1990);Ostrand-Rosenbergら、J.Immunol.144:4068-4071 (1990) (これらは、各々本明細書中で参考として援用される))、HLA-B7のような同種異形の組織適合性抗原(Nabelら、Proc.Natl.Acad.,USA.90:11307-11311 (1993)、これらは本明細書中で参考として援用される)、および公知の腫瘍抗原(Finn、前出、1993)が挙げられる。例えば、腫瘍細胞はMHCクラスIまたはクラスII分子を発現し得ず、その結果、最適な免疫応答を誘導しない。この場合、MHC分子は免疫刺激因子であり得る。なぜなら、腫瘍細胞においてMHC分子を発現させることにより、この改変された腫瘍細胞は免疫応答を誘導し得るからである。腫瘍細胞が特定の免疫刺激因子を発現するか否かを決定するための方法は当該分野で公知であり、これを用いて、特定の免疫刺激因子を発現するように腫瘍細胞を遺伝的に改変すべきか否かを決定し得る。
【0031】
公知の腫瘍抗原は、免疫刺激因子として特に有用であり得る。例えば、MUC-1遺伝子によりコードされる上皮細胞ムチンおよびMAGE-1遺伝子によりコードされる黒色腫抗原MZ2-Eを包含する種々の腫瘍抗原は、特定の腫瘍細胞に結合している(Finn、前出、1993)。処置される被験体に投与される腫瘍細胞がその被験体から得られない場合、腫瘍細胞を遺伝的に改変して公知の腫瘍抗原を発現させることは特に有用であり得る。例えば、ガン患者から十分な数の腫瘍細胞が得られない場合がある。この場合、被験体のガン細胞により発現されることが知られている1つ以上の特定の腫瘍抗原を発現し得ないドナー腫瘍細胞を得ることが可能であり、そして遺伝的に改変して特定の腫瘍抗原を発現させる。ドナー腫瘍細胞はまた、遺伝的に改変されて、免疫刺激因子の発現を減少させるかまたは阻害し得る。被験体に遺伝的に改変したドナー腫瘍細胞を投与すると、ガンに対する被験体の免疫応答は、被験体のガンに対して刺激され得る。このような遺伝的に改変されたドナー腫瘍細胞はまた、特定のガンを発生しやすい被験体においてガン発生を阻止するためのワクチンとして有用であり得る。
【0032】
サイトカインは、免疫刺激因子として有用であり得る。本明細書で使用する用語「サイトカイン」とは、免疫系細胞により産生され、そして免疫応答のエフェクター機能を積極的に調節または調整するタンパク質のクラスのメンバーをいう。このような調節は、体液性免疫応答または細胞仲介性免疫応答において起こり、そしてT細胞、B細胞、マクロファージ、抗原提示細胞または他の免疫系細胞のエフェクター機能を調整し得る。サイトカインの特定の例として、例えば、インターロイキン-1、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-10、インターロイキン-12、インターロイキン-15、γ-インターフェロン、腫瘍壊死因子、顆粒球コロニー刺激因子および顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子が挙げられる。
【0033】
特定の組み合わせのサイトカインの発現が、免疫応答の刺激に特に有用であり得ることが認識されている。例えば、γ-インターフェロン、IL-2およびインターロイキン-12の発現により、細胞性免疫応答に関与するT細胞ヘルパー-1クラスのT細胞を刺激し得る。従って、遺伝的に腫瘍細胞を改変して、1つ以上の免疫刺激因子の発現を減少させるかまたは阻害し、次にさらに細胞のアリコートを個々に改変してγ-インターフェロンまたはIL-2もしくはインターロイキン-12を発現させることは特に有用であり得る。このような遺伝的に改変された腫瘍細胞を組み合わせたものを含有する組成物を被験体に投与し、特に腫瘍細胞に対する細胞性免疫応答を刺激し得る。
【0034】
いくつかの場合、患者から十分な数のガン細胞を得ることは困難であり得る。免疫刺激因子の発現を減少させるかまたは阻害するように遺伝的に改変され、そして、所望の場合、公知の腫瘍抗原またサイトカインを発現するようにさらに改変されているドナー腫瘍細胞を用いて、このような患者における免疫応答を刺激し得る。遺伝的に改変されたドナー腫瘍細胞を用いて、正常な被験体またはガン発生の疑いのある被験体においてガンを阻止することも可能である。ガンを発生しやすい被験体は公知であり、そして遺伝子スクリーニング法を用いて同定され得る(Maoら、Canc.Res.54 (補遺):1939s-1940s (1994);GarberおよびDiller、Curr.Opin.Pediatr.5:712-715 (1993))。このような被験体は、例えば、網膜芽腫、乳癌または結腸癌を発生しやすい場合がある。
【0035】
種々の組織学的腫瘍タイプを代表し得、かつMZ2-Eまたはムチン(Finn、前出、1993)のような既知の種々の腫瘍抗原を発現し得る遺伝的に改変されたドナー腫瘍細胞のパネルを調製し得る。遺伝的に改変されたドナー腫瘍細胞のこのようなパネルは細胞容器で維持され得、そして特定のガンを発生しやすい被験体に投与するのに容易に利用できる。このようなパネル中の1つ以上の腫瘍細胞株を用いて、ガンに対するガン患者の免疫応答を刺激し得る。当業者は、例えば、被験者が有するかまたは発生しやすい腫瘍の組織学的タイプに基づいてパネルから遺伝的に改変された適切なドナー腫瘍細胞を選択し得る。所望すれば、当業者は、処置される被験体中内のガンの特定の特性に応じて、このようなパネルから得られた腫瘍細胞をさらに遺伝的に改変し得る。
【0036】
さらに別の実施態様において、ガン細胞を、免疫刺激因子の発現により部分的に特徴づけられたガンを患う患者から取り出すか、またはドナー腫瘍細胞を得る。そしてこれらの細胞を、免疫刺激因子の発現を減少させるか、または阻害するように遺伝的に改変する。遺伝的に改変された腫瘍細胞は、次にCE細胞のような免疫刺激因子またはアジュバントと合わせて、ガン患者の免疫応答を刺激するために用い得る組成物を提供する。
【0037】
本明細書中で使用する用語「CE細胞」または「サイトカイン発現細胞」とは、1つ以上のサイトカインを発現および分泌するように遺伝的に改変されている細胞(例えば、線維芽細胞または抗原提示細胞)を意味する。上記のように、サイトカイン遺伝子治療を用いることにより、免疫抑制因子の阻害効果の抑制との組み合わせで被験体におけるポジティブな免疫機能を増大させ得る。CE細胞は自系の細胞であり得る。この細胞は、処置される被験体から得られる。あるいは、CE細胞は同系異種細胞であり得、これは、例えば、ドナー被験体または細胞容器から得られ得る。CE細胞として用いられる細胞は、免疫抑制因子を発現するか否かを決定するために検査しなければならないことが認識されている。細胞が免疫抑制因子を発現する場合、本明細書中に記載される方法を使用して、この因子の発現を減少させるかまたは阻害するようにこれらの細胞は遺伝的に改変され得る。
【0038】
本発明はまた、被験体におけるガンの重篤度を阻止するかまたは軽減させるための方法を提供する。このような方法は、例えば、有効量の腫瘍細胞を被験体に投与することによりガンに対する被験体の免疫応答を刺激することからなり得る。この腫瘍細胞は、被験体のガン細胞と実質的に類似しており、かつ少なくとも1つの免疫抑制因子の発現を阻止するように遺伝的に改変されている。さらに、遺伝的に改変された腫瘍細胞は、免疫刺激因子を発現し、そして所望すれば、分泌するようにさらに改変され得るか、あるいはアジュバントまたは有効量のサイトカインもしくはCE細胞のような免疫刺激因子との組み合わせで投与され得る(例えば、Khanら、Pharm.Res.11:2-11(1994);AudibertおよびLise、Immunol.Today 14:281-284 (1993)を参照のこと(これらは、各々本明細書中で参考として援用される))。
【0039】
本明細書中で使用される用語「有効量」とは、物質(例えば、遺伝的に改変された腫瘍細胞単独、または免疫刺激因子(例えば、サイトカインまたはCE細胞)との組み合わせ)の量であって、免疫応答を刺激し、被験体のガンの重篤度を阻止し得るか、または軽減させ得る量を意味する。このような有効量は、物質を被験体に投与した後、免疫エフェクター細胞の活性を測定するアッセイを用いるか、あるいは以下に記載されるような周知のインビボの診断アッセイを用いて治療の有効性をモニターすることにより決定され得る。
【0040】
インビトロの実験のみに基づき、腫瘍細胞によるTGFβの発現が、腫瘍細胞に対する免疫エフェクター機能を阻害し、そしてそのような腫瘍細胞におけるTGFβの発現の阻害により、細胞が免疫エフェクター細胞に対してより影響されやすくなることが以前に示唆された(Hachimczakら、J.Neurosurg.78:944-951(1993))。しかし、インビトロにおける特定の処置後、腫瘍細胞に対する免疫エフェクター細胞の免疫応答性を試験するインビトロでの実験は、必ずしも、インビボの治療効力を予想しない。例えば、ラットを、IL-2を発現するように遺伝的に改変されている9L神経膠肉腫細胞または9L細胞で免疫した。リンパ節エフェクター細胞の抗腫瘍溶解活性をインビトロで試験した場合、遺伝的に改変された神経膠肉腫細胞で免疫されたラットから得られたインビトロ刺激免疫エフェクター細胞は、非免疫ラットまたは非改変9L神経膠肉腫細胞で免疫されたラットから得られたインビトロ刺激免疫エフェクター細胞より、標的9L神経膠肉腫細胞に対して高い細胞溶解活性を有し、そして高いナチュラルキラー細胞活性を有することが観察された(図1;および実施例Iも参照のこと)。このようなインビトロの結果により、インビボでの効力が予想されるとすれば、IL-2改変神経膠肉腫細胞でラットを免疫することにより、9L腫瘍細胞に対して、ラットのより高い免疫応答を生ずることが予想される。しかし、動物の生存における著しい違いは、5×10個の9L神経膠肉腫細胞を1日目および2日目に注射し、次いで5日目から始めて、2週間にわたって1週間当たり2回、非改変9L細胞またはIL-2改変9L細胞で免疫したラットにおいては観察されなかった(以下の表を参照のこと)。さらに、以前のインビトロでの研究は、IL-2およびTGFβに対する抗体は、リンパ球においてTGFβ誘導の機能低下を著しく阻止し得ることを示した。しかし、インビボで投与された場合、これらの処置の結果、抗腫瘍効果が得られないか、または高められた腫瘍増殖が得られるかのいずれかであった(Gridleyら、Canc.Biother.8:159-170(1993))。従って、インビトロの結果は、インビボの処置効力を必ずしも予想しない。
【0041】
さらに、9L神経膠肉腫細胞におけるアンチセンスTGFβ核酸配列(「アンチセンスTGFβ」)の発現により、神経膠肉腫細胞はインビボで免疫原性になるが(以下の表Iを参照のこと)、これは他の動物モデルの場合では起こらなかった。詳細には、アンチセンスTGFβが卵巣のガン細胞中で発現された場合、遺伝的に改変された細胞は、単独またはIL-2産生CE細胞との組み合わせで投与された卵巣のガン細胞と同程度の免疫原性であった(図2を参照のこと)。しかし、アンチセンスTGFβを発現するように遺伝的に改変されている卵巣腫瘍細胞の組成物を、IL-2産生CE細胞と組み合わせて実験動物に投与した場合、腫瘍細胞に対する免疫応答が刺激された。従って、本明細書中で開示されるように、本発明は、単独または免疫刺激因子と組み合わせて免疫抑制因子の発現を阻止するように遺伝的に改変されている腫瘍細胞で被験体を免疫することにより、被験体のガン細胞に対して被験体の免疫応答を刺激する方法を提供する。
【0042】
本明細書中に記載される腫瘍免疫治療方法は、腫瘍細胞の遺伝子改変を利用し、その結果、腫瘍細胞による1つ以上の免疫抑制因子の発現の減少または阻害が生じる。相同組換え遺伝子ノックアウトは、免疫抑制因子の発現を減少または阻害するために特に有用である。なぜなら、これは本質的に、免疫抑制因子の発現を全ておよび恒久的に阻害するからである。アンチセンス核酸配列の発現はまた、腫瘍細胞による免疫抑制因子の発現を減少または阻害し得る。腫瘍細胞による免疫抑制因子の発現を減少または阻害するための方法に関わらず、遺伝的に改変された腫瘍細胞の被験体への投与は、ガンに対する被験体の免疫応答を刺激し得る。従って、開示された方法は、被験体内に存在する腫瘍の重篤度を減少させるか、またはガンを発症する素因を有する被験体のガンの発生を阻止するために有用である。
【0043】
1つ以上の免疫抑制因子の発現を減少または阻害するために、抗腫瘍ワクチンとして効果が増強したことを示す腫瘍細胞は、特定のガンについて被験体を処置するために治療的に用いられ得る。遺伝的に改変された腫瘍細胞は、例えば、1つ以上の免疫抑制因子を発現することによりある程度特徴付けられるガンを有する被験体からのバイオプシーにより得られ得、そして腫瘍細胞は、免疫抑制因子の発現を阻害するように遺伝的に改変される。あるいは、上記のように、ドナー腫瘍細胞が得られ、そして遺伝的に改変され得る。遺伝的に改変された腫瘍細胞は、次いで被験体に投与され得る。
【0044】
投与された腫瘍細胞は生存能力があることが認識される。しかし、生存能力のある腫瘍細胞の被験体への投与は、腫瘍細胞を不活性化し、被験体内で増殖しないようにすることを必要とする。不活性化は、任意の種々の方法(例えば、照射(これは、複製するための細胞の活性を阻害するが、最初に腫瘍細胞を殺さない用量で細胞に投与される)を含む)により達成され得る。このような生存能力のある腫瘍細胞は、腫瘍抗原を患者の免疫系に与えるが、増殖して新たな腫瘍を形成し得ない。
【0045】
腫瘍細胞が、処置される被験体、ドナー被験体、または樹立された細胞株のいずれからか得られると、腫瘍細胞は、遺伝的に改変され、その結果、腫瘍細胞によって発現される1つ以上の免疫抑制因子の発現が減少または阻害される(実施例IIを参照のこと)。遺伝子の改変は、意図された遺伝子産物について効率的、特異的であり、そして1つ以上の免疫抑制因子の発現の阻害を維持することを提供し得る点で、免疫抑制因子の発現を阻害する他の方法よりも有利である。上記のように、遺伝子の改変方法としては、例えば、相同組換え(これは恒久的かつ完全に、免疫抑制因子をコードする遺伝子を不活性化する)、または細胞中のリボザイムもしくはアンチセンス核酸配列の発現(これは、免疫抑制因子をコードする核酸分子の転写、プロセシング、または翻訳に関する1つ以上の工程を阻害または不活性化し得る)が挙げられる。さらに、遺伝子の改変により、結合タンパク質(例えば、抗体(これは、免疫抑制因子に特異的に結合し、そして免疫抑制活性を妨げ得る))の腫瘍細胞における発現が得られ得る。
【0046】
相同組換え遺伝子ノックアウトは、その完全さのために免疫抑制因子の発現を減少または阻害する効果的な方法であり、免疫抑制因子の発現の阻害を持続させる。さらに、免疫抑制因子の発現を減少または阻害するためのアンチセンス方法は、本明細書中で開示されるように、有用である。アンチセンス方法は、細胞内で標的核酸分子(これは、免疫抑制因子をコードする)に相補的であり、そしてそれに対してハイブリダイズし得る核酸配列を腫瘍細胞内に導入する工程を伴う。アンチセンス核酸配列は、化学的に合成されたオリゴヌクレオチド(これは、トランスフェクション法によって、腫瘍細胞に導入され得る)であり得るか、あるいはベクター(これは、周知の方法(例えば、Sambrookら、上記、1989を参照のこと)を用いて、腫瘍細胞内に安定に導入され得る)から発現され得る。当業者は、このような相補的な核酸配列が標的核酸配列にハイブリダイズする能力が、例えば、配列間で共有される相補性、アンチセンス核酸配列の長さ(これは、一般的には、少なくとも10個のヌクレオチド長であるオリゴヌクレオチドである)、およびオリゴヌクレオチドのGC含有の程度に依存することを知っている(Sambrookら、上記、1989を参照のこと)。
【0047】
組換えベクターは、腫瘍細胞内でアンチセンス核酸配列を発現させるために用いられ得る。このようなベクターは、公知であるか、当業者によって構築され得、そして例えば、アンチセンス核酸配列の転写を維持することを達成するために必要な発現エレメントを含有し得る。ベクターの例としては、ウイルス(例えば、バクテリオファージ、バキュウロウイルス、およびレトロウイルス)、およびDNAウイルス、コスミド、プラスミド、または他の組換えベクター(Jolly、Canc.Gene Ther.1:51-64(1994)、これは本明細書中に参考として援用される)が挙げられる。ベクターは、原核細胞宿主系または真核細胞宿主系、あるいは所望すれば、両方の系における使用のためのエレメントもまた、含有する。当業者は、どの宿主系が特定のベクターと適合し得るかを知っている。アンチセンス核酸配列の発現を高レベルで維持することを生じるベクターは、特に有用であり得る。
【0048】
有用なウイルスベクターの例としては、例えば、アデノウイルスおよびアデノウイルス関連ベクターを含む(例えば、Flotte、J.Bioenerg.Biomemb.,25:37-42(1993)およびKirshenbaumら、J.Clin.Invest,92:381-387(1993)、を参照のこと。これらの各々は、本明細書中で参考として援用される)。ベクターがプロモーター配列を含むとき、そのベクターは、特に有用である。このプロモーター配列は、クローン化された核酸配列を構成的に発現し得るか、または、所望すれば、誘導的に発現し得る。そのようなベクターは、当該分野において周知であり(例えば、Meth.Enzymol.,185巻,D.V.Goeddel編(Academic Press,Inc.,1990)を参照のこと。これは、本明細書中で参考として援用される)、市販の供給源より入手可能である(Promega,Madison,WT)。
【0049】
ベクターは、当該分野で公知であり、そして、例えば、Sambrookら、前出、1989、およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,Baltimore,MD(1994)に記載される種々の方法のいずれかによって腫瘍細胞に導入され得る。これは、本明細書中で参考として援用される。このような方法として、例えば、トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、および組換えベクターまたはリポソームの使用による感染が挙げられる。感染による核酸の導入は、インビトロまたはインビボで効果的であり得るという点で、特に好都合である。より高い効率もまた、それらの感染性の性質によって得られ得る。その上、ウイルスは、非常に特殊化され、そして特定の細胞タイプにおいて、典型的に感染および増殖する。それゆえ、それらの天然の特異性を用いて、アンチセンスベクターを、他の細胞タイプが混入され得る生検培養物内の特定の腫瘍細胞タイプに対して標的とし得る。ウイルスまたは非ウイルスのベクターはまた、レセプター仲介事象を通して標的特異性を変更するために、特定のレセプターまたはリガンドに関して改変され得る。アンチセンス配列の発現のためのレトロウイルスベクターの使用を、下記に述べる。
【0050】
核酸分子はまた、ベクターへの核酸配列の最初の導入を必要としない方法を用いて、腫瘍細胞に導入され得る。例えば、腫瘍細胞内で遺伝子を不活性化するために有用な核酸配列(例えば、免疫抑制性イソ型のTGFβをコードする)は、カチオン性リポソーム調製物を用いて腫瘍細胞に導入され得る(Morishitaら、J.Clin.Invest.,91:2580-2585(1993)、これは、本明細書中で参考として援用される; Nabelら、前出、(1993)参照のこと)。さらに、核酸配列は、例えば、アデノウイルス−ポリリジンDNA複合体を用いて、腫瘍細胞に導入され得る(例えば、Michaelら、J.Biol.Chem.,268:6866-6869(1993)を参照のこと。これは、本明細書中で参考として援用される)。核酸配列を腫瘍細胞へ導入する他の方法(例えば、核酸が発現され得るか、または結果として遺伝子産物の発現を減少もしくは阻害し得る)は、周知であり、例えば、Goeddelによって記載されている(前出(1990))。
【0051】
種々の免疫抑制因子および免疫刺激因子をコードする核酸配列は、クローン化され、そして使用のために入手可能である(GenBank)。例えば、サイトカイン(例えば、種々のインターロイキン、γ−インターフェロン、およびコロニー刺激因子)をコードする核酸配列は、American Type Culture Collection(ATCC/NIH Repository Catalogue of Human and Mouse DNA Probes and Libraries,第6版,1992を参照のこと。)から入手可能であるか、または市販により入手できる(Amgen,Thousand Oaks,CA;または、Patchenら、Exptl.Hematol.,21:338-344(1993); Broudyら、Blood,82:436-444(1993)、を参照のこと。これらの各々は、本明細書中で参考として援用される)。同様に、例えば、免疫抑制性イソ型の種々のTGFβのような免疫抑制因子をコードする核酸配列は、当業者には入手可能である。
【0052】
さらに、例えば、免疫抑制因子をコードする核酸配列を入手し得、そして腫瘍細胞中の標的遺伝子を用いた相同組換えに従って、免疫抑制因子を発現しないように改変し得る。種々の免疫抑制因子または免疫刺激因子をコードする核酸配列はまた、その因子をコードする核酸配列のいくつかの情報が公知であれば、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して得られ得える。例えば、クローニングのような他の方法もまた、免疫抑制因子または免疫刺激因子をコードする所望の核酸配列を単離するために使用され得る。
【0053】
例えば、ネオマイシン耐性(NeoR)を与えるポリペプチドをコードする選択可能なマーカー遺伝子もまた、容易に入手可能であり、そして、核酸配列に連結されるか、またはベクターに取り込まれる場合、所望の核酸配列を首尾よく取り込んでいる細胞の選択を可能にする。この核酸配列は、相同組換えによって標的遺伝子を不活化し得るか、アンチセンス核酸配列をコードし得るか、または免疫刺激因子をコードし得る。遺伝子移入の同業者に公知である他の選択可能なマーカーを用いても、例えば1つ以上の免疫抑制因子の発現を減少または阻害するように、相同組換えにより遺伝的に改変された腫瘍細胞を同定し得る。
【0054】
「自殺(suicide)」遺伝子はまた、患者の免疫応答を刺激した後、遺伝的に改変された腫瘍細胞の選択的誘導性の死を可能にするように、ベクターに組み入れられ得る。例えば、ヘルペス単純ウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(TK)のような遺伝子は、腫瘍細胞の誘導可能な破壊を可能にする自殺遺伝子として使用され得る。例えば、腫瘍細胞がもはや有用でないとき、アシクロビルまたはガンシクロビルのような薬物が被験体に投与され得る。これらの薬物のどちらも、ウイルスTKを発現する細胞を選択的に殺傷し、従って、移植された遺伝的に改変された腫瘍細胞を除去する。さらに、自殺遺伝子は、非分泌性細胞傷害性ポリペプチドをコードし得、そして誘導性プロモーターに連結され得る。腫瘍細胞の破壊が所望される場合、プロモーターの適切な誘導剤が、細胞傷害性ポリペプチドを発現させるために、投与され得る。
【0055】
上記の方法を含む、多くの方法が、培養細胞への核酸配列の移入に対して利用可能である。さらに、有用な方法は、以前のヒト遺伝子移入研究において用いられた方法に類似し得る。この研究において、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)は、レトロウイルス遺伝子の形質導入によって改変され、そしてガン患者に投与された(Rosenbergら、New Engl.J.Med.323:570-578(1990))。レトロウイルス媒介遺伝子移入の第I相安全性試験において、TILは、ネオマイシン耐性(NeoR)遺伝子を発現するように遺伝的に改変された。静脈注射後、ポリメラーゼ連鎖反応解析では、終始一貫して、投与後2カ月もの間、循環系中に遺伝的に改変された細胞が見出された。感染性レトロウイルスはこれらの患者において同定されず、そして遺伝子移入による副作用はどの患者にも見出されなかった。これらのレトロウイルスベクターは、ウイルスのgag、pol、およびenv遺伝子の欠失によって、ウイルス複製を阻止するように変更されている。このような方法はまた、ガンを用する被験体から採取された腫瘍細胞を形質導入するためにエクスビボで使用され得る。
【0056】
レトロウイルスが遺伝子移入に対して使用される場合、複製能力を有するレトロウイルスは、レトロウイルスベクターを産生するために利用されるパッケージング細胞株において、レトロウイルスベクターおよびウイルス遺伝子配列の組換えによって、理論的に開発され得る。組換えによる複製能力を有するウイルスの産生が減少または除去されたパッケージング細胞株は、複製能力を有するレトロウイルスが産生され得る可能性を最小化するために用いられ得る。従って、患者の細胞に感染させるために使用されるすべてのレトロウイルスベクターの上清は、標準的アッセイ(例えば、PCRおよび逆転写酵素アッセイ)によって、複製能力を有するウイルスについてスクリーニングされる。
【0057】
約1×107個の腫瘍細胞が、例えば、組成物が投与される回数ならびに所望の応答レベルに依存して、免疫のために必要とされる。腫瘍細胞は、適切なアジュバントと共に、または薬学的に受容可能な溶液(例えば、投与のための生理食塩水など)と混合され得る。それらは、種々の任意の方法(例えば、皮下注射もしくは筋肉内注射、または免疫について受容可能な任意の方法)によって達成され得る。免疫に有用な薬学的に受容可能な溶液は、当該分野において公知である(例えば、Khanら、前出、1994; AudibertおよびLise、前出、1993;MishellおよびShiigi、前出、1980、を参照のこと)。さらに、種々の投与方法が、使用され得、そして当業者に公知である。投与は、腫瘍の活性部位以外の体内部位に、または所望すれば、ガン患者の腫瘍部位になされ得、あるいはガンを発生しやすい被験体になされ得る。
【0058】
当業者には、治療の有効性が、患者の免疫機能をモニターすることによって決定され得ることは、公知である。例えば、患者のガン細胞に対する免疫エフェクター細胞の細胞溶解活性は、実施例Iに記載の方法によってアッセイされ得る。さらに、腫瘍の大きさまたは増殖速度は、診断的造影法(diagnostic imaging)を用いてインビボでモニターされ得る。治療中の患者をモニターすることによって、臨床医は、例えば、免疫抑制因子の発現を阻止するように遺伝的に改変されている腫瘍細胞を用いた治療を持続するか、または複合治療の使用がより望まれるかを、知る。この複合治療は、免疫抑制因子の発現を減少し得るか、また阻止し得ると同時に、免疫刺激因子を提供し得る。このような複合遺伝子治療は、優れた効力を呈し得る。なぜなら、免疫抑制機能が抑えられるだけでなく、免疫系の刺激機能が増強されるからである。この複合的なアプローチは、免疫抑制因子の個々の阻害、または免疫刺激因子の使用による免疫応答の刺激により、単独で用いた場合、穏やかな効果しか生じない時に、特に有用である。
【0059】
複合治療を用いる場合、例えば、免疫抑制因子に対するアンチセンス核酸配列を発現する腫瘍細胞は、サイトカインのような1つ以上の免疫刺激因子を発現するように、さらに改変され得る。組成物中の既知数の細胞が、例えば、適切なサイトカインレベルを分泌するように、腫瘍細胞は改変されるべきである。その腫瘍細胞は、被験体において実質的な全身性傷害性を生ずることなしに、抗腫瘍免疫を誘導し得る。あるいは、遺伝的に改変された腫瘍細胞は、CE細胞との組み合わせで投与され得る。その細胞は、所定のレベルのサイトカインを発現し、そして分泌する。適切なレベルのサイトカインの発現は、有効量の組成物の投与を可能にし、一方では、サイトカインの生理学レベルより多くを全身投与する前記の方法を用いて観察されるような逆の副作用(adverse side effects)の可能性を最小化する。
【0060】
前記のアンチセンスで改変された腫瘍細胞に関するように、アンチセンス核酸および免疫刺激因子を発現する腫瘍細胞、または免疫抑制因子のアンチセンス核酸配列を発現する腫瘍細胞、および免疫刺激因子(例えば、サイトカインまたはCE細胞)との組み合わせは、当該分野で公知の任意の方法で、免疫について受容可能であるように、注射のために処方され得る。なぜなら、重要なことは、腫瘍細胞、および、もし使用される場合、CE細胞は生存し続けるので、処方物は細胞の生存に適合化し得る。本発明の組成物の混入は、免疫応答を望ましくない抗原に集中させ得、従って、このような混入は、無菌技術の実施により避けられるべきであることが認識される。
【0061】
本発明の実施態様の活性に実質的な影響を与えない改変もまた、本明細書中で提供される発明の中に包含されると理解される。従って、以下実施例は、本発明を説明することが意図されるものであるが、本発明を限定するものではない。
【0062】
実施例I
腫瘍細胞におけるTGFβの免疫抑制効果
本実施例において、種々の腫瘍細胞株が免疫抑制性イソ型のTGFβを産生することを示す。
【0063】
マウス卵巣奇形腫細胞株(MOT D3-17-5(MOT))、ヒトグリア芽腫細胞株(GT-9)およびラット神経膠肉腫細胞株(9L)を用いて、TGFβの免疫抑制効果を評価した。TGFβの発現は、ミンクMv-1-Lu肺内皮細胞(ATCC CCL64; Rockville MD; OgawaおよびSeyedin,Meth.Enzymol.198:317-327(1991)、これは、本明細書中で参考として援用される)の増殖を抑制するTGFβの能力を測定することによって決定された。簡潔に記すれば、ミンク肺内皮細胞を、10%FCS、50U/mlペニシリン、50μg/mlストレプトマイシン、非必須アミノ酸およびL-グルタミンを含むDMEM中で、ほぼコンフルエントになるまで増殖させる。細胞をトリプシン処理し、そして800×g、2分間の遠心分離によって集め、次いで、20,000細胞/mlで培養培地に再懸濁した。細胞を96ウェルマイクロタイタープレートに1000細胞/ウェル(50μl/ウェル)で播種し、30分間、付着させた。
【0064】
培養された種々の腫瘍細胞株からの50μlの馴化した上清を、3連でミンク肺内皮細胞を含むウェルに添加した。プレートを、4日間、37℃、10%CO2を含む大気中でインキュベートした。ウェルを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、次いで、100μlの0.1M酢酸ナトリウム(pH5.5)/0.1%Triton X-100/100mM p-ニトロフェニルホスフェートで満たし、そして、プレートを2時間、37℃でインキュベートした。発色は、10μlの1.0N NaOHの添加によって生じ、そして細胞数に比例する405nmの吸光度を測定した。MOT、GT-9ならびに9L腫瘍細胞培養物から得られた上清は、投与量依存的様式でミンク肺内皮細胞増殖を阻害した。このことは、これらの腫瘍細胞株のそれぞれが、生物学的活性のTGFβを分泌すること(示さず)を示している。
【0065】
ミンク肺内皮細胞アッセイはまた、0.5μCi 3H-チミジンで、4時間、パルスされたミンク肺内皮細胞を用いて実施され得る。この場合、カウント数は、増殖性細胞の数に比例し、TGFβの量の増加とともに減少する。同様の分析は、例えば、TF1細胞株アッセイの使用によっても実施され得る(Randallら、J.Immunol.Meth.164:61-67(1993)、これは、本明細書中で参考として援用される)。
【0066】
サンプル中の特定のイソ型のTGFβは、抗TGFβ抗体を用いて測定され得る。しかし、TGFβは細胞中に活性型および不活性型で存在し、そして抗TGFβ抗体は活性なTGFβとのみ反応するので、いくつかの実験においては、サンプル中の総TGFβを測定し得るために、酸性化によって、TGFβを活性化し得る。細胞上清のミンク肺内皮細胞への添加に先だって、その上清は、分泌された活性化TGFβの量を測定するために未処理のままであるか、またはTGFβを活性化するために酸性化されるかのいずれかである。培養上清は、塩酸でpH2〜3に調整することによって酸性化され、30分間インキュベートされ、次いでNaOHで中和される。TGFβ1またはTGFβ2についての特異的抗体(R&D Systems; Minneapolis MN)は、特異性を決定するためにいくつかのウェルに添加される。TGFβの既知濃度を用いて、標準曲線を作成する。
【0067】
9L腫瘍モデルを用いた免疫応答性についてのTGFβの阻害効果を決定するために、F344ラットを、2×106個の照射された(5000cGy)非改変の9L神経膠肉腫細胞、またはIL-2を発現するレトロウイルスベクターであるLNCX-IL2で形質導入された9L細胞を用いて、皮下に免疫した。このLNCX-IL2ベクターは、ラットプレプロインシュリン分泌シグナル(Cullen,DNA 7:645-650(1988)、これは、本明細書中で参考として援用される)を含むヒトIL-2cDNAを、LNCXに挿入することによって構築された。LNCXは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを含み、PA317細胞内にパッケージされた(MillerおよびButtimore,Mol.Cell Biol.6:2895-2902(1986)、これは、本明細書中で参考として援用される)。
【0068】
形質導入のために、9L細胞を、2×106細胞/T-75フラスコ(20%コンフルエンス)の密度で接種した。細胞がフラスコに付着した後、上清を除き、そして培養物をPBSで一度、洗浄した。次いで37℃で、20μg/mlのDEAE-デキストランを含む無血清培地中でインキュベートした。30分後、DEAE-デキストランを除き、LNCX-IL2および8μg/mlポリブレン(polybrene)を含む培地10mlで置き換えた。形質導入期間中十分な栄養物レベルを与えるために、レトロウイルス上清を、8μg/mlポリブレンに調製される前に、新しく調製した培地で1:1に希釈した。ウイルス上清を、6〜24時間後の培養物から除き、新しく調製した培地に置き換えた。形質導入体の選択を、50〜400μg/mlの活性G418を用いて、その翌日に始めることにより開始した。
【0069】
非改変または形質導入した9L神経膠肉腫細胞を用いてラットの免疫化の14日後、リンパ節を取り出し、そしてリンパ節エフェクター細胞を単離し、次いで、10%ウシ胎児血清(FCS)および50 U/ml組換えヒトIL-2を補充したDMEM中で5日間インキュベートした。照射9L細胞(5000cGy)を、30:1のエフェクター細胞:刺激細胞比で、2連にしたフラスコに添加した。シチメンチョウ抗TGFβ抗血清を、1つのフラスコに添加した。
【0070】
5日後、脾臓細胞またはリンパ節細胞を集め、そして51Cr-標識した9L細胞を標的細胞として用いる4時間クロム放出アッセイによって、インビトロでの溶解活性についてアッセイした(Shawlerら、J.Clin.Lab.Anal.1:184-190(1987); Dillmanら、J.Immunol.136:728-731(1986)、これらは、本明細書中で参考として援用される)。さらに、ラットのナチュラルキラー(NK-)感受性細胞株である、51Cr-標識したA2T2C4細胞(Gallimoreら、J.Mol.Biol.89:49-72(1974)、これは、本明細書中で参考として援用される)を、NK活性について試験するために標的として用いた。
【0071】
これらのアッセイの結果により、細胞傷害性T細胞活性およびNK細胞活性は、9L細胞(非改変9L細胞と比較されるようにIL-2を発現するように遺伝的に改変された)によって免疫されたラットにおいて、有意な大きさであることが示された。アッセイのインビトロでの刺激部分への、中和化濃度の抗TGFβ2抗体の添加は、100:1のエフェクター細胞:標的細胞比で、9L神経膠肉腫標的細胞の殺傷を、約2倍に増加させた(示さず)。しかし、動物生存時間の有意な増加は、非免疫ラットまたはコントロールベクターで形質導入された9L細胞を用いて免疫されたラットと比較されるように、遺伝的に改変された9L細胞を用いて免疫されたラットにおいては、観測されなかった。
【0072】
これらの実験結果は、TGFβの発現が、インビボでガンに対する免疫応答を減少または阻止し得ることを示している。さらに、これらの結果は、インビトロアッセイを用いて決定されるように、免疫応答性を誘導する際、IL-2のような免疫刺激因子の有効性は、インビボでの免疫応答を刺激する因子の能力を必ずしも予想するものではないことを示している。
【0073】
実施例II
腫瘍細胞の免疫原性に対するアンチセンスTGFβ発現の効果
本実施例において腫瘍細胞中のアンチセンスTGFβ核酸配列の発現が、インビボにおける腫瘍細胞(これはTGFβを産生することにより部分的に特徴付けられる)に対する免疫応答の誘導を例示する。
A.9L神経膠細胞
TGFβのような免疫抑制因子を阻害する全身的抗腫瘍効果を分析するために、9L神経膠細胞を、アンチセンスTGFβ核酸配列を発現するベクターでトランスフェクトした。アンチセンスTGFβ2をコードする核酸配列を、pCEP4ベクター(Invitrogen;San Diego CA)に挿入した。このTGFβ2核酸配列は、アフリカグリーンモンキー(African green monkey)の腎臓細胞から単離したTGFβ2をコードするcDNAを含むpSTGFβ2から得られた(Hanksら、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:79-82(1988)、これは本明細書中で参考として援用される;ATCC #77322;Rockville MD)。
【0074】
pSTGFβ2をXhoIおよびHindIIIで消化し、957塩基対(bp)フラグメントを放出した。このフラグメントはTGFβ2の5'末端をコードする870bpを含む。pCEP4発現ベクターもまた、XhoIおよびHindIIIで消化した。制限酵素で消化した生成物もアガロースゲルの中で電気泳動により分画し、直線状pCEP4ベクターに対応するバンドおよび957bpのTGFβ2配列を除去し、そして核酸を、通常のガラスパウダー方法を用いて、ゲルスライス(gel slice)から放出させた(Sambrookら、前出、1989を参照)。単離されたベクターとTGFβ2フラグメントとを16℃にて一晩連結させ、この連結生成物を用いてXL-1細菌を形質転換した。適切な大きさのバンドを持つプラスミドを含むクローンを単離しそして大規模なDNA調製(pCEP4/TGFβ2)に用いた。XhoI/HindIIIで消化した957bp TGFβ2フラグメントのpCEP4への連結は、TGFβ2フラグメントをpCEP4の中のCMVプロモーターに関して逆方向に配置した。
【0075】
アンチセンスTGFβ2をコードするpCEP4/TGFβ2を、リン酸カルシウム法を用いて、9L神経膠肉腫細胞、およびレトロウィルスベクターを発現するIL-2(9L/LNCX/IL2細胞)またはコントロールレトロウィルスベクター((9L/LXSN/O細胞)を含有するように形質導入された9L細胞)にトランスフェクトされた。トランスフェクトされた細胞をpCEP4/TGFβ2を含む細胞について選択するハイグロマイシンの存在下でコロニーが現れるまで培養した。
【0076】
トランスフェクトされた細胞株によるTGFβの分泌を、ミンク肺上皮細胞アッセイを用いて測定した。pCEP4/TGFβ2を含んだ細胞はTGFβ活性を低下させた(示されなかった)。これらの結果は、トランスフェクトされた細胞中で産生されたアンチセンスTGFβ2が、TGFβの発現を減少するかまたは阻害し得ることを示している。約800またはそれ以上のヌクレオチドであるが、ある特定のイソ形のTGFβに相補的であるアンチセンス核酸配列もまた、別のイソ形のTGFβの活性を交差阻害し得ることが認められる(Fitzpatrickら、Growth Factors 11:29-44(1994)を参照)。
【0077】
インビトロにおける免疫エフェクター細胞の細胞溶解活性を、前述したように4時間の51Cr放出アッセイにより調べた。略述すると、非改変の9L細胞、またはIL-2を発現しそして分泌するように改変された9L細胞により免疫されたラットのリンパ節を収集し、そして、リンパ節細胞を、50BRMPユニットのIL-2/mlおよび非改変の9L細胞またはアンチセンスTGFβ2改変された9L細胞のいずれかの存在下で5日間培養した。エフェクター細胞の細胞障害性を4時間の51Cr放出アッセイにおいて、非改変の9L細胞を標的として用いて測定した。図1に示すように、アンチセンスTGFβ2を発現する9L細胞によりインビトロで刺激されたリンパ節細胞は、非改変の9L細胞の存在下で培養されたエフェクター細胞に比べて9L細胞に対する細胞溶解活性の顕著な増加を示した。
【0078】
頭蓋内に9L神経膠肉腫細胞を移植したラットの生存に対する免疫の効果もまた、測定した。5×103の9L細胞をラットの前脳に第1日および第2日に移植した。第5日から開始し、週に2回のペースで4回、生理食塩水、コントロールベクターにより形質導入された9L細胞、アンチセンスTGFβ2を発現するように遺伝的に改変された9L細胞、IL-2を発現するように形質導入された9L細胞、またはアンチセンスTGFβ2およびIL-2を発現するように遺伝的に改変された9L細胞のいずれかにより、ラットを免疫した。
【0079】
表に示すように、非改変の9L細胞(コントロール)またはIL-2を発現する9L細胞を用いた免疫においては、免疫動物の30%が生存した。意味有りげなことに、IL-2を発現するように改変された9L細胞により免疫されたラットの生存は、非改変の9L細胞により免疫されたラットと同様であった。対照的に、アンチセンスTGFβ2を発現するように改変された9L細胞により免疫されたラットでは、9L細胞がIL-2も発現するか否かにかかわらず、100%の生存が観察された。これらの結果により、TGFβを発現する腫瘍細胞中のアンチセンスTGFβ2の発現は、腫瘍をもつ宿主中で腫瘍細胞を免疫原性にし得ることが示される。
【0080】
【表1】

【0081】
アンチセンスTGFβ2をコードするレトロウイルスのベクターもまた、ネオマイシン薬物耐性を与える遺伝子がハイグロマイシン耐性を与える遺伝子に置換されているpLNCXの改変体であるレトロウイルスの親のプラスミドpLHCXを用いて構築された。pLHCXを、HindIIIおよびHpaIで消化し、そして直線状プラスミドを上述したようにアガロースゲルから精製した。pSTGFβ2をXhoIで消化し、そして4種のデオキシヌクレオチドすべての存在下でE.coli DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントを用いた処理により、XhoI末端を平滑化した。フェノール抽出とエタノール沈澱の後、直線状pSTGFβ2をHindIIIで消化して、870bpのTGFβ2のcDNAの5'末端を含む957bpバンドを放出した。腫瘍細胞の形質導入は上述のように行われ、そして形質導入腫瘍細胞をハイグロマイシンの存在下での増殖により選択した。
【0082】
改変された腫瘍細胞における良好なTGFβ発現の阻害は、改変された細胞培養物の上清液中のTGFβレベルを、上述したミンク細胞アッセイを用いて測定することにより確認した。トランスジーンの発現はまた、ChomczynskiとSacciの方法(Anal.Biochem.,162:156-159(1987)、本明細書中で参考として援用される)により単離されたRNAを用いて、RNAレベルにおいて評価され得る。略述すると、形質導入細胞を、4Mのグアニジニウムチオシアネート(quanidinium thiocyanate)を含む溶解緩衝液を用いて溶解し、次いで、溶解物を水で飽和されたフェノールおよびクロロホルムを用いて抽出して細胞のタンパク質を除去する。RNAはイソプロピルアルコール沈澱により単離され、mRNAのPCR分析のための第一鎖cDNAを合成するのに用いられるか、またはノーザンブロット分析に用いられる。第一鎖cDNAは第一鎖CycleTMキットを用いて、メーカーの推奨方法(Invitrogen;San Diego CA)に従い合成される。
【0083】
インビトロにおけるトランスジーンの発現のレベルを測定するために、RNAは皮下注射後のラットから回収した細胞から単離され、そしてPCR分析に供する(MullisおよびFaloona,Meth.Enzymol.,155:335-350(1987)、本明細書中で参考として援用される)。第一鎖cDNAは逆転写酵素を用いたオリゴdT感作mRNAの標準プライマー伸長によって合成される。PCR増幅は、100μg/mlのヌクレアーゼを含まないBSA、200μMのdATP、dGTP、dCTPおよびdTTPそれぞれ35、鋳型DNA、プライマーそれぞれ100pmolおよび2.5単位のTaqポリメラーゼの中で行われる。偶発性バンドを最小化する温度とサイクル数がこれらのPCR増幅のために選択される(Hickeyら、J.Exp.Med.176:811-187(1992)、本明細書中で参考として援用される)。
【0084】
転写の効率はノーザン法により測定される。全部のRNAまたはmRNAのアリコートはホルムアルデヒドを含むアガロースゲルの中で電気泳動により分画され、次いでナイロン膜に移す(FakhraiおよびMins、J.Biol.Chem.267:4023-4029(1992);Morrisseyら、Cell 50:129-135(1978)、いずれも本明細書中で参考として援用される)。RNAse活性は、すべてのガラス材料と溶液をジエチルピロカーボネートで処理することにより阻害される。
【0085】
移した後、フィルターは真空乾燥機で80℃にて乾燥され、5×Denhardt's溶液、100mMのリン酸ナトリウム(pH 7.5)、0.5%SDS、1mMのピロリン酸ナトリウム、100μMのATPおよび50%ホルムアミドを含むカクテル中でプレハイブリダイズされ、そしてハイブリダイズされる(Sambrookら,前述,1989を参照)。プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションは、42℃にて行われる。ハイブリダイゼーションに続いて、フィルターを2回洗浄し(それぞれ室温で、2×SSC/0.5%SDSを用いて5分間)、次いで2回洗浄し(それぞれ65℃にて0.1×SSC/0.1%SDS(1×SSC=0.15MのNaCl、0.015Mの酢酸ナトリウム)にて1時間)、そしてコダックのXAR-5フィルムに曝される。内因性のかつアンチセンスのTGFβ転写物はリボプローブ(riboprobe)を用いて測定される。このリボプローブはフィルターの上のRNAに対してハイブリダイズし得る。
【0086】
センスおよびアンチセンスのリボプローブは、pSTGFβ2中の1540bpのTGFβ2化cDNA挿入物を単離し、そしてその挿入物をpGEM-5ZFにサブクローン化することにより調製される(Promega;Madison WI)。センスまたはアンチセンスの鎖は、適切なRNAポリメラーゼプロモーター、SP6またはT7から、メーカーが記載しているように、産生される。これらの全長RNAプローブはセンスおよびアンチセンスのTGFβ核酸配列を検出するのに用いられる。または、TGFβ2cDNA中の独特の制限部位はpSTGFβを線状化するのに用いられ得、そしてより短く、より特異的なセンスまたはアンチセンスのRNAプローブが合成され得る。
【0087】
DNA分析のために、回収した細胞から単離された20μgアリコートのゲノムDNAが、種々の制限酵素で消化され、そして40mMのトリスアセテート/2mM EDTA中の1%アガローススラブゲルの上でサイズ分画される。電気泳動に続き、DNAは10×SSCを用いてナイロン膜に移した(Sambrookら、前述、1989)。ブロットを。上述のようには特異的に標識されたプローブにより上述のようにハイブリダイズし、目的のトランスジーンを検出する。
B.マウス卵巣の奇形腫細胞
上述した結果は、IL-2のような免疫刺激剤が免疫の間に存在するか否かにかかわらず、9L神経膠肉腫細胞中のTGFβ発現阻害が腫瘍細胞に対する宿主の全身性免疫応答を増大し得ることを示している。しかしながら、マウス卵巣の奇形腫細胞について試験した場合には、異なる結果が観測された。
【0088】
マウス卵巣の奇形腫(MOT)細胞は、高レベルのTGFβを産生する細胞であり、組織培養中で容易に増殖され得なく、それゆえ、インビトロにおいてレトロウイルスベクターを用いて遺伝的に改変できない。新鮮なMOT細胞をマウスの腹水から単離し、そしてpCEP4/TGGβ2はエレクトロポレーションによりアンチセンスTGFβ2を発現するpCEP4/TGGβ2でトランスフェクトした。MOT細胞におけるTGFβの発現と、アンチセンスTGFβ2を発現するように遺伝的に改変されたMOT細胞におけるTGFβの発現は、ミンク肺上皮細胞アッセイにより測定された。内因性のTGFβ転写物は上述のように、センスおよびアンチセンス特異的リボプローブを用いて、ノーザン法によりモニターされた。
【0089】
パッケージされたレトロウイルスベクターLNCX/IL2を用いて、BALB/cマウスから得られた同種異型の繊維芽細胞を形質導入してCE細胞を産生した。数種の形質導入されたクローンを選択しそして、IL-2の発現を商業的に入手可能なキット(T細胞診断用薬、Cambridge、MA)を使用して測定した。アンチセンスTGFβ2で改変されたMOT細胞をCE細胞と混合し、そしてC3Hマウスに注射した。コントロール実験として、非改変のMOT細胞を、単独でまたはCE細胞と組み合わせて、あるいはアンチセンスTGFβ2を発現するように遺伝的に改変されたMOT細胞を単独で、C3Hマウスに注射した。14日後、1×10個の生きているMOT細胞をマウスの腹腔内に注射し、そして腫瘍の増殖をモニターした。
【0090】
9L神経膠肉腫細胞の観察結果とは対照的に、アンチセンスTGFβ2を発現するように遺伝的に改変されたMOT細胞のみの免疫化が、動物の生存数を顕著に増加させなかった(図2)。免疫されていないマウスおよびアンチセンスTGFβ発現のMOT細胞を受けるマウスのすべてが4週間以内に死んだ。非改変のMOT細胞、またはMOT細胞およびCE細胞の組合せによる免疫では、それぞれ、1または2匹のマウスが生存していた。しかしながら、これらの結果は、免疫されていないマウスから得られた結果と顕著な差はなかった。対照的に、CE細胞とアンチセンスTGFβを発現するMOT細胞との組合せによる免疫は、42日後において7匹中5匹の生存という結果が得られた(図2)。
【0091】
本明細書中に記載した実験の結果は、いくつかの場合においては、免疫抑制因子(例えば、IL-2のような免疫刺激剤と組み合わされるアンチセンスTGFβ2を発現するように改変された腫瘍細胞)の発現を阻害するように遺伝的に改変された腫瘍細胞による免疫が、宿主の癌に対する生存率を顕著に増加できること示している。特に、この結果は、この組み合わせた処置(これは免疫抑制因子の発現を防ぐかまたは抑制し、そして免疫刺激剤を与える)を用いることに障害的な効果がないことを示している。
【0092】
本発明は上記の実施例を参考して説明したが、本発明の精神から離れずに、様々な変更が可能であることが理解される。従って、本発明は以下の請求項によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1.A.および1.B.は、非改変9L神経膠肉腫細胞で免疫したラット(図1.A.;9L免疫)、またはIL-2を発現および分泌するように改変された9L細胞で免疫したラット(図1.B.;9L/LNCX/IL-2免疫)由来のリンパ節エフェクター細胞のインビトロでの抗腫瘍溶解活性を図示する。免疫した動物からリンパ節細胞を採取し、そして非改変9L細胞または9L細胞(これは、アンチセンスTGFβを発現するように遺伝的に改変された)を有する50 BRMPユニットのIL-2/ml培地の存在下でインビトロで刺激した。標的細胞は、非改変9L細胞からなった。
【図2】図2は、マウス卵巣奇形腫(MOT)腫瘍細胞を注入したマウスの生存に対する免疫の効果を図示する。マウスを、非改変MOT細胞(MOT)、アンチセンスTGFβを発現するように遺伝的に改変されたMOT細胞(MOT/TGFβas)、非改変MOT細胞およびCE細胞(MOT+IL2)、またはアンチセンスTGFβを発現するように遺伝的に改変されたMOT細胞とCE細胞との組合せ(MOT/TGFβas+IL-2)のいずれかで免疫した。コントロールマウスは、免疫しなかった(非免疫)。右側の数字は、生存マウス/試験した全マウスを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−217924(P2006−217924A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128684(P2006−128684)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【分割の表示】特願平8−505265の分割
【原出願日】平成7年7月18日(1995.7.18)
【出願人】(506118571)
【Fターム(参考)】