説明

インフルエンザ菌由来のOMP26抗原

【課題】インフルエンザ菌の外膜由来の新規な抗原性タンパク質を提供する。
【解決手段】インフルエンザ菌の外膜タンパク質である、SDS−PAGEによって測定される際の分子量が26kDaであるタンパク質を提供する。このようなタンパク質をコード化するDNA配列、さらにはこのタンパク質からなるワクチンやインフルエンザ菌による感染に対する被験者の免疫方法もまた提供される。本発明はまた、呼吸器感染症または中耳炎の予防または処置方法、さらにはインフルエンザ菌の検出方法、およびこのような方法に使用されるキットをも含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)の新規な抗原、これよりなるワクチンおよび治療や診断におけるこの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザ菌(H. influenzae)は、桿状のグラム陰性の好気性の従属栄養細菌である(非特許文献1)。また、インフルエンザ菌は、急性呼吸器感染症の病原体であり、慢性気管支炎や中耳炎の患者中にも検出される。
【非特許文献1】Krieg and Holt(ed),Bergey’s Manual of Systemic Bacteriology,pp 563(1984)
【発明の開示】
【0003】
我々は、NTHI由来の単一の26kDaの外膜タンパク質(OMP26と称する)を同定、単離し、さらに、驚くべきことに、このタンパク質は、免疫原として使用されると、NTHiの同種及び異種株による感染に対して防御免疫反応を誘導できることを発見した。このタンパク質は、P5と同様のSDS−PAGEによる分子量を有するが、P5タンパク質とは明らかに異なることが分かった。
【0004】
外膜タンパク質P5は、インフルエンザ菌株をサブタイプに分けるのに使用されるSDS−PAGEゲル上の2本の低分子量バンドのうちの1本であり、25〜27kDaの見かけ上の分子量を有する。このP5タンパク質は熱可変性(heat−modifiable)であることから、β−メルカプトエタノールの存在下で100℃で30分間加熱した後は30kDaの見かけ上の分子量を示す。近年、フィンブリンタンパク質と称する、NTHiによって発現される他のタンパク質の特性が明らかにされ、前記P5と同様の分子量特性、熱可変性及び92%の配列の相同性を有することが示された。タンパク質、OMP26は、P5またはフィンブリンタンパク質について説明したような配列の相同性または熱可変特性を示さない。
【0005】
したがって、第一の概念によると、本発明は、インフルエンザ菌の外膜タンパク質である、SDS−PAGEによって測定される際の分子量が26kDaであるタンパク質を提供するものである。このタンパク質を、OMP26と称する。
【0006】
特に、本発明のタンパク質は、図1に示されるアミノ酸配列、またはそれと実質的に相同性のある配列を有する。別の実施態様によると、本発明のタンパク質は、24番目のアミノ酸から始まる図1に示されるアミノ酸配列、またはそれと実質的に相同性のある配列を有する。初めの23アミノ酸は、「シグナル」配列を構成し、この配列を排除したタンパク質も同様に使用できると考えられる。本発明のタンパク質は、免疫原であり、このため、インフルエンザ菌による感染に対して保護する免疫反応を誘導することが可能である。
【0007】
本発明の明細書において、OMP26と「実質的に相同性のある」タンパク質とは、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%の相同性を有することである。好ましくは、タンパク質は、少なくとも70%の相同性を有し、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有し、さらにより好ましくは少なくとも90%の相同性を有し、および最も好ましくは少なくとも95%の相同性を有する。当業者は、相同性を表す割合(%)は一つの因子でしかないと考えるであろう。重要なのは、タンパク質がその抗原性効果を維持することである。したがって、本明細書でいう抗原活性を維持していれば、例えば、40%という比較的低い相同性を有するタンパク質であってもよい。
【0008】
加えて、「保存的(conservative)」または「半保存的(semi−conservative)」変更はその基本的な活性を変えずにタンパク質のアミノ酸配列になされることは当該分野で既知である。例えば、グリシン、バリン、ロイシン及びイソロイシン等のアミノ酸は、すべて脂肪族側鎖を有するものであるが、これらのアミノ酸はしばしばタンパク質の生物学的な活性を実質的に変化させずに相互に置換される。同様にして、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン等のアミノ酸は、すべて芳香族側鎖を有するものであるが、これらのアミノ酸が相互に置換されてもよい。本明細書で記載される抗原性効果を保持するこのようなタンパク質は本発明の概念に含まれる。
【0009】
また、OMP26の抗原性部分または領域を用いることによって、インフルエンザ菌に対する保護効果を誘導することも可能である。このような抗原性部分または領域もまた、本発明の概念に含まれる。
【0010】
第二の概念によると、本発明は、本発明のタンパク質、上記したようなその変異体または抗原性部分若しくは領域をコードする核酸配列、好ましくはDNAを提供するものである。特に、本発明は、OMP26をコードする図1に示されるDNA配列を提供するものである。当業者は、遺伝コードの縮重により、タンパク質のアミノ酸配列には変化を起こさずにDNA配列に保存的変更を行うことが可能であることを認識するであろう。したがって、このようなDNA配列もまた、本発明の概念に含まれる。好ましくは、本発明の核酸は、プラスミド等のベクターの一部を形成してもよい。
【0011】
本明細書において、本発明のタンパク質はインフルエンザ菌に対する免疫反応を刺激する。したがって、第三の概念によると、本発明は、本明細書に記載される本発明のタンパク質、および必要であれば一以上の担体および/またはアジュバントからなるワクチン配合物を提供するものである。
【0012】
第四の概念によると、本発明は、インフルエンザ菌に対するワクチンの調製における、本明細書に記載される本発明のタンパク質の使用を提供するものである。
【0013】
本発明のワクチン組成物は、インフルエンザ菌による感染に対して被験者を免疫するのに使用できる。したがって、第五の概念によると、本発明は、本発明のワクチン組成物を被験者に投与することからなる、インフルエンザ菌による感染に対して被験者を免疫する方法を提供するものである。本発明のワクチン組成物は、全身性免疫(systemic immunity)および/または粘膜性免疫(mucosal immunity)を生じさせるのに使用できる。
【0014】
第六の概念によると、本発明は、本発明のワクチン組成物を被験者に投与する段階からなる呼吸器感染症または中耳炎の予防または処置方法を提供するものである。
【0015】
他の概念によると、本発明は、以下を提供するものである:
(a)インフルエンザ菌による感染の診断における、本明細書で定義される本発明のタンパク質の使用;および
(b)本明細書で定義される本発明のタンパク質からなるインフルエンザ菌による感染の診断に使用されるキット。
【0016】
本発明の各概念の好ましい態様は、必要であれば変更を加えて(mutatis mutandis)、各他の概念について同様に好ましい。
【実施例】
【0017】
本発明を以下の実施例を参照しながら説明するが、本発明は下記実施例に何等制限されるものではない。
【0018】
下記実施例は以下の図面を参照する:
図1は、OMP26をコードするDNA配列および上記DNA配列から誘導されるアミノ酸配列を示すものである;
図2は、OMP26およびより高分子量の他の2種のタンパク質のSDS−PAGE分析を示すものである;
図3は、OMP26(a)の初めの25アミノ酸残基のN−末端配列を示すものであり、また、この配列とパスツレラ ムルトシダ(P.multocida)及びエルシニア シュードツベルクローシス(Y.pseudotuberculosis)のタンパク質との比較をも示す;
図4は、生菌で感染させてから4時間後の気管支洗浄液中に回収されたNTHI−I菌を示すものである;
図5は、OMP26で免疫されたラットの血清中のIgGサブクラスのOMP26に特異的なレベルを示すものである;
図6は、血清におけるOMP26に特異的な抗体の検出用の免疫ブロット(Immunoblot)を示すものである;および
図7は、OMP26−免疫および非免疫ラットのMLNから単離されたリンパ球の抗原に特異的な増殖を示すものである。
【0019】
下記実施例において、データは、平均±平均の標準誤差として表わした。肺のクリアランスデータ、全食細胞数、及び微分細胞数データ(differential cell count data)は、分散分析の一方向分析(one−way analysis of variance)によってグループ間を統計学的な有意性で比較した後、多重比較分析(multiple−comparison analysis)を目的としてタッキー試験(Tuckey’s test)(マッキントッシュシスタット(Macintosh Systat))を行った。抗体データは非対t−検定(unpaired t−test)によってグループ間の有意性を評価し、リンパ球の増殖データは変動(variance)の完全要因分析(fully factorial analysis)(マッキントッシュシスタット(Macintosh Systat))によって評価した。2個の変数(variable)間の直線的な相関は、ピヤソン相関計数(Pearson correlation coefficient)を用いて測定した(マッキントッシュシスタット(Macintosh Systat))。
【0020】
実施例1
(i)タンパク質の精製
26kDaのタンパク質(OMP26)を、分離用電気泳動によってNTHI−I株から精製した。100寒天培地の一晩培養したものからの細菌をプレートを掻き取ることによって集めて、10,000×gで4℃で10分間遠心することにより2回洗浄した。この外膜成分を緩衝化ツィッタージェント3−14界面活性剤(buffered Zwittergent 3−14 detergent)で抽出し、さらにエタノール沈殿することにより、未精製の外膜調製物を得た。この外膜抽出物を凍結乾燥し、最小量の蒸留水中に再懸濁し、さらに、4倍容のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)還元緩衝液(62.5mM トリス(Tris),[pH6.8]、10%[vol/vol]グリセロール、2%[wt/vol] SDS、5%[vol/vol] β−メルカプトエタノール、1.2×10−3%[wt/vol]ブロモフェノブルー(bromopheno blue))中に溶解した。このSDS−調製物を、電気泳動カラムの濃縮用ゲル上にのせる前に、少なくとも30分間、37℃でインキュベートした。OMP26を分離用(preparative)ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)を用いて精製した。37mm(内径[i.d.])カラム内で10ml 4% T−0.36% C アクリルアミド/BIS(4% T−0.36% C acrylamide/BIS)(N,N’−メチレンビスアクリルアミド)濃縮用ゲルが重合された60ml 14 T−1.42% C アクリルアミド/BIS(14 T−1.42% C acrylamide/BIS)分離用ゲルを用いたバイオ−ラッド モデル 491 プレップ セル(Bio−Rad Model 491 Prep Cell)を使用して、分離用SDS−PAGEを行い、OMP26を精製した。カラムから溶出させた画分を凍結乾燥によって濃縮し、分析用SDS−PAGEによってタンパク質含量を分析した。このような条件を用いて単離された、OMP26は、SDSを含んでいたので、次に、このSDSをリン酸カリウム及び沈殿によって除去した。OMP26を含む画分を溜め、透析した後、タンパク質濃度を測定した。
【0021】
10〜15%勾配(gradient 10−15% acrylamide gel)または12.5%均質アクリルアミドゲル(homogenous 12.5% acrylamide gel)のいずれかを用いた分析用SDS−PAGEによって、タンパク質の分析同定を行い、銀染色した。タンパク質濃度を、ピアスミクロBCAアッセイ(Pierce micro BCA assay)を用いて測定した。LOSの存在を、SDS−PAGEミニゲルの銀染色およびE−TOXATEカブトガニ細胞分解産物試験(E−TOXATE Limulus lysate test)によるアッセイによって評価した。
【0022】
結果
OMP26は、26〜30kDaの間の分子量を有する3種のタンパク質の群から良好に分離された。図2は、このタンパク質と他の2つのタンパク質との位置関係を示すものであり、銀染色されたゲルから、得られた調製物が高純度を有することが示される。このタンパク質の熱可変特性の評価を、タンパク質サンプルをβ−メルカプトエタノールの存在下で100℃で30分間加熱することによって、行った。30分後、煮沸されたタンパク質サンプルは同様の分子量を有したまま移動することが分かった(図2)。他の近隣のタンパク質バンドの一つが熱可変性P5であるかどうかを決定するために、この分子量範囲を有する3種のタンパク質すべてをβ−メルカプトエタノールの存在下で30分間煮沸したところ、熱可変特性を示すタンパク質は存在しなかった(図2)。LOS混入物の存在に関するタンパク質の評価をE−TOXATEアッセイキット(E−TOXATE assay kit)を用いて行ったところ、1mgタンパク質当たり0.6μg未満のエンドトキシンが存在することが分かった。
【0023】
(ii)N−末端アミノ酸配列決定用のOMP26の調製
OMP26を、タンパク質バンドをSDS−PAGEゲルからPVDF膜に移すことによって、N−末端アミノ酸配列分析用に調製した。このタンパク質サンプルを、配列を分析してもらうために、英国,クルウィド,ディーサイド,ニューテック スクェアー,テクベース 1(Techbase 1, Newtech Square, Deeside, Clwyd, United Kingdom)所在のコーテックス ダイアグノスティック(Cortecs Diagnostic)に送った。
【0024】
アミノ酸配列の同定
N−末端アミノ酸配列をPVDFに移したタンパク質バンドから得た。初めの25ペプチドに関するアミノ酸配列分析を図3に示す。この配列分析から、Hib P5またはフィンブリンタンパク質のN−末端配列との配列の相同性は見られない。このN−末端アミノ酸配列は、パスツレラ ムルトシダ(Pasteurella multocida)由来の21.4kDaのタンパク質とは56%の相同性をおよびエルシニア シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)由来の19kDaの外膜タンパク質とは44%の配列の相同性を示した。
【0025】
(iii)免疫化および細菌の感染(challenge)
特定の病原体フリーの(pathogen−free)オスのラットを、1日目にパイエル板内(intra−Peyer’s patch)(IPP)に免疫化し、14日目に気管内に(IT)ブーストし(boost)、さらに最後に21日目に生菌を感染させた(challenge)。動物をハロタンで鎮静化させ、尾静脈を介した抱水クロラールによる静脈内麻酔を容易にした。小腸を腹部の正中線を切開することにより露出させ、抗原を27ゲージの針を用いて各パイエル板に漿膜下に注入した。免疫化タンパク質(OMP26)を、1:1の割合の不完全フロインドアジュバント(IFA)及びリン酸緩衝溶液(PBS)中に1ml当たり200または800μgのタンパク質を乳化させることにより調製し、10または40μgのタンパク質の全接種量をそれぞれ各動物に投与した。ラットの2コントロール群は、(i)未処理及び偽免疫化(sham−immunised)群(IFA及びPBSで免疫)の混合、および(ii)同種のNTHI株の死菌で免疫したポジティブ群から構成された。ラットを、IPP免疫化してから14日目にITブーストした(IT boost)。OMP26を免疫したラットに、10μgのOMP26をITブーストした。非免疫群には50μlのPBSを投与し、また、死菌免疫群には50μlの死菌(菌数:1010/ml)を投与した。動物に、1回目の免疫化から21日目に生菌(菌数:5×10/ml)を4時間感染させた(challenge)。異種株である、NTHI−IIもまた、菌の感染に使用した。菌を、1リットル寒天培地当たり50ml脱線維素ウマ血液を添加した脳−心臓浸出物寒天培地上で5%CO中で37℃で一晩生育させ、回収し、洗浄し、所定の濃度までPBS中に再懸濁した。菌を気管内カニューレを介して肺中に導入し、4時間後、ラットを安楽死させた。血液を収集し、血清のアリコートを抗体分析用に−20℃で貯蔵した。肺を5×2mlのPBSでフラッシュすることによって洗浄し、集めた洗浄液(BAL)について菌数を測定した。肺洗浄後、肺を除去し、均質化し、菌数を測定した。サイトスピンスライド(cytospin slide)を、肺の洗浄液における微分細胞数(differential cell count)の測定用に調製した。肺の洗浄液中に存在する全細胞数を、メチレンブルーで染色し血球計算器を用いてカウントすることによって、算出した。
【0026】
結果
OMP26で免疫し21日目にNTHI−I同種株の生菌で感染させたラットは、有意な細菌のクリアランスを示した(P<0.005)。10μgのOMP26で免疫しかつブーストした(boost)ラットは、4時間後では非免疫群に比べて肺中に92%細菌が少なく、また、IPP免疫により40μgのOMP26が投与されさらに10μgのOMP26をブーストされたラットは96%細菌が少なく、これは死菌を免疫したラットで観察された95%のクリアランスと同等であった(図4)。
【0027】
また、OMP26で免疫したラットに、異種の型別不能な株である、NTHI−II由来の生菌を感染させた。表1の結果から、OMP26による免疫は異なる株による肺への感染においても有意に(P<0.005)菌を浄化した(clear)が示される。免疫群は、4時間後ではBALにおいて非免疫群に比べて93%細菌が少ないことから、細菌のクリアランス速度は同種株による感染の場合の速度に匹敵することが示された。また、OMP26による免疫により、非免疫群と比較した場合、免疫群の肺のホモジネート中に存在する菌数も減少した。NTHI−II(異種株)を感染させたラット由来の肺のホモジネートは、非免疫肺に比べて有意に細菌が少なかった。しかしながら、差の度合いは、肺で80%であり、肺では89%のクリアランスであるのに比べてBALでは93%のクリアランスであり、さらに、NTHI−I(同種株)を感染させた群ではBALにおいて87%のクリアランスであった。NTHI−Iに関する本実験におけるクリアランスの割合(%)は、一般(一般的な接種材料は0.6〜1.4×1010CFU/mlの範囲であった)よりもかなりより多くの菌を含む生菌の接種材料のため、従来の実験とは異なるものであった。
【0028】
より数多くの食細胞がOMP26で免疫された動物のBAL中に存在し、これはこれらの動物における向上した菌のクリアランスと相関していた(表2)。免疫群における細胞のレクリートメント(recruitment)の増加は、同種及び異種菌による感染の場合で同様であった。しかしながら、感染してから4時間後では、微分細胞数は免疫群と非免疫群で有意に異なっておらず(表2)、この際、双方の群ともマクロファージに対するPMNの割合は同様の割合を示した:
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
(iv)OMPS26に特異的なELISA
ポリソルブマイクロタイターウェル(polysorb microtiter well)を、IgG、IgG2a、IgA及びIgMのアッセイを目的とした場合1μg/mlの濃度の;およびIgG、IgG2b、IgG2c、及びIgEのアッセイを目的とした場合10μg/mlの濃度の、精製したOMP26で被覆した。プレートをインキュベーション段階間に0.05%ツィーン20(Tween 20)を含むPBSで5回洗浄した。ウェルを、60分間、PBS−0.05%ツィーン20(Tween 20)における5%スキムミルクで遮断した。ウェルを血清(1/25〜1/3200)と共に90分間インキュベートした、またはBAL(1/2〜1/6)サンプルを分析用遮断緩衝液で連続的に希釈した。使用した複合免疫グロブリン(conjugated immunoglublin)は、ヤギ抗ウサギIgG(1/2000)、IgA(1/1000)、及びIgM(1/4000)(Fc特異的);マウス抗ウサギIgG(1/500)、IgG2a(1/1000)、IgG2b(1/500)、及びIgG2c(1/500)であった。さらに、ウェルを90分間複合免疫グロブリンと共にインキュベートした。次に、プレートを発色させた。
【0032】
結果
OMP26で免疫したラットの、さらには4種の異なるインフルエンザ菌株由来の死菌で予め免疫したラットの、血清及びBALサンプル中の、OMP26に特異的な抗体を測定した。OMP26で免疫したラットの血清では、IgG、IgA及びIgMに関する高いOMP26に特異的な抗体力価が、およびOMP26で免疫したラットのBALでは、IgG及びIgAに関する高いOMP26に特異的な抗体力価が、それぞれ、検出され、さらに、40μgのより高い免疫投与量を投与した群で最高レベルが観察された(表3)。血清中のOMP26に特異的なIgG、IgA及びIgM、およびBAL中のIgG及びIgAの検出可能なレベルもまた、異なるインフルエンザ菌株で予め免疫したラットで観察された(表3)が、これらの群で観察されたレベルはOMP26で免疫された群のレベルに比べて有意に低かった。OMP26ラット群の血清について、IgEのELISAもまた行ったが、OMP26に特異的なIgEのレベルは検出されなかった(データは示さず)。
【0033】
OMP26に特異的なIgGのサブクラス(subclass)を測定した結果、OMP26に特異的なIgGは40μgの免疫化以降のみ検出可能であったが、有意なレベルのIgG2a及びIgG2bのサブクラスが10μg及び40μgのOMP26免疫群双方で検出されたことが示された(図5)。IgG2a及びIgG2bのレベルは双方とも、IPP接種材料中のOMP26の濃度が10μg〜40μgと増加するに従って有意に(P<0.05)増加した。IgG2cもまた測定したが、有意なレベルのこのサブクラスのOMP26に特異的な抗体は検出できなかった。(データ示さず)。
【0034】
【表3】

【0035】
(v)免疫ブロット
SDS−PAGEで分離したタンパク質を電気泳動によりニトロセルロース(0.2μmポアサイズ)に移した。OMP26、NTHI−I、NTHI−II、さらにはHI−CD、及びHib−IIで免疫した群由来のラットの血清をTTBS−5%(w/v)スキムミルク粉末で10倍に希釈し、1次抗体として使用した。TTBS−5%スキムミルクにおける西洋ワサビペルオキシダーゼ複合ヤギ抗ウサギIgG(horseradish peroxidase conjugated goat anti−rat IgG)(Fcに特異的)の500倍希釈液を2次抗体として使用した。
【0036】
結果
非免疫、OMP26−免疫及びインフルエンザ菌−(4株)免疫ラットの血清中に存在する抗体によるOMP26の認識に関する免疫ブロット分析から、このタンパク質は、各免疫群の血清中に存在する抗体によっては認識されるが、非免疫群の血清中に存在する抗体によっては認識されないことが示された(図6)。これから、抗体反応の交差反応性がNTHI−I株から精製されたOMP26による研究に使用されたインフルエンザ菌株による免疫化によって生じることが示される。
【0037】
(vi)抗原に特異的なリンパ球アッセイ
腸間膜リンパ節(MLN)から得られたリンパ球を10細胞/mlの濃度で培養した。抗原(OMP26)を連続して10倍希釈率で培養液中に懸濁し、瀘過滅菌した。細胞懸濁液及び抗原を、最終容積を0.2ml/ウェルになるように、平底マルチウェル(flat−bottomed multiwell)プレートに3連で添加した。リンパ球の増殖を4日間の培養の最後の8時間の[H]チミジンの取り込みによって評価した。結果を3連のウェルの幾何平均からバックグラウンドを引くことによって算出し、全処置群の幾何平均+/−標準誤差とした。
【0038】
結果
OMP26−免疫及び非免疫ラットのMLN由来のリンパ球について抗原に特異的な増殖反応を評価した。OMP26−免疫群由来の細胞はインビトロにおいて培養物中のOMP26に対して有意に応答したが、非免疫ラット由来の細胞は有意な増殖を示さなかった(図7A)。また、OMP26で免疫したラットのリンパ球をインフルエンザ菌株のOMP抽出物と共に培養し、交差反応の応答性を評価した。有意な増殖応答性がNTHI−I、NTHI−II及びHI−CD株由来のOMP抽出物ではOMP26免疫群由来のリンパ球において検出されたが、Hib−II株由来の抽出物では有意な増殖が観察されなかった(図7B〜E)。
【0039】
実施例2−OMP26のクローニング及び配列決定
DNAをNTHiから抽出した。OMP26をコード化するDNAの領域を同定し、遺伝子(バイオモレキュラー レソース ファシリティー(Biomolecular Resource Facility)、ジョン カーティン スクール オブ メディカル リサーチ(John Curtin School of Medical Research)、キャンベラ、エーティーシー(Canberra, ACT)、オーストラリアで合成)を認識するように設計されたプライマーを用いた標準的なPCR法によって増幅した。分析して正確な産物を良好に認識した後、PCR DNA産物を抽出した。
【0040】
2個のプラスミドを調製した。一方のDNA産物はシグナルペプチド及び成熟OMP26産物をコード化する領域を含み、他方は最終的な成熟OMP26(リーダーシグナルペプチドを含まない)をコード化する領域を含んだ。これらのPCR DNA産物を、OMP26+シグナルペプチドでは制限酵素HindIIIでおよび成熟OMP26ではNspBII+HindIIIで消化した。消化されたDNAを回収し、これを、OMP26+シグナルペプチドまたはOMP26成熟タンパク質で、それぞれ、プラスミドpQE30またはpQE31(ギアゲン ジーエムビーエッチ(Giagen GmbH)、ヒルデン(Hilden),ドイツ)中にSmaI及びHindIIIで連結した。次に、これらのプラスミドを精製し、沈殿させて、バイオモレキュラー レソース ファシリティー(Biomolecular Resource Facility)、ジョン カーティン スクール オブ メディカル リサーチ(John Curtin School of Medical Research)、キャンベラ(Canberra)、オーストラリアのダイ デオキシ−ターミネーター法(dye deoxy−terminator procedure)によって配列決定を行った。
【0041】
結果
図1に示される配列は、成熟OMP26+シグナルペプチドを表すものである。このシグナルペプチド配列は、初めの23個のアミノ酸を含む。外膜上のNTHiによって発現される最終産物は24番目のアミノ酸で始まる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】OMP26をコードするDNA配列および上記DNA配列から誘導されるアミノ酸配列を示すものである。
【図2】OMP26およびより高分子量の他の2種のタンパク質のSDS−PAGE分析を示すものである。
【図3】OMP26(a)の初めの25アミノ酸残基のN−末端配列を示すものであり、また、この配列とパスツレラ ムルトシダ(P. multocida)及びエルシニア シュードツベルクローシス(Y. pseudotuberculosis)のタンパク質との比較をも示す。
【図4】生菌で感染させてから4時間後の気管支洗浄液中に回収されたNTHI−I菌を示すものである。
【図5】OMP26で免疫されたラットの血清中のIgGサブクラスのOMP26に特異的なレベルを示すものである。
【図6】血清におけるOMP26に特異的な抗体の検出用の免疫ブロット(Immunoblot)を示すものである。
【図7】OMP26−免疫および非免疫ラットのMLNから単離されたリンパ球の抗原に特異的な増殖を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザ菌の外膜タンパク質である、SDS−PAGEによって測定される際の分子量が26kDaであるタンパク質。
【請求項2】
図1に示されるアミノ酸配列、またはこれと実質的に相同性のある配列を有する、請求の範囲第1項に記載のタンパク質。
【請求項3】
N−末端アミノ酸としての24番目のアミノ酸から始まる図1に示されるアミノ酸配列、またはこれと実質的に相同性のある配列を有する、請求の範囲第1項に記載のタンパク質。
【請求項4】
図1に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列を有する、請求の範囲第2項または第3項に記載のタンパク質。
【請求項5】
請求の範囲第1項から第4項のいずれかに記載のタンパク質の抗原性部分または領域であるタンパク質またはペプチド。
【請求項6】
請求の範囲第1項から第4項のいずれかに記載のタンパク質の抗原性部分または領域からなるタンパク質。
【請求項7】
融合タンパク質である、請求の範囲第6項に記載のタンパク質。
【請求項8】
請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸配列。
【請求項9】
DNA配列である、請求の範囲第8項に記載の核酸配列。
【請求項10】
図1に示される配列である、請求の範囲第9項に記載のDNA配列。
【請求項11】
請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のタンパク質、および必要であれば一以上の担体および/またはアジュバントからなるワクチン配合物。
【請求項12】
インフルエンザ菌に対するワクチンの調製における請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のタンパク質の使用。
【請求項13】
請求の範囲第11項に記載のワクチンを被験者に投与することからなる、インフルエンザ菌による感染に対する被験者の免疫方法。
【請求項14】
請求の範囲第11項に記載のワクチンを被験者に投与する段階からなる、呼吸器感染症または中耳炎の予防または処置方法。
【請求項15】
インフルエンザ菌による感染の診断における請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のタンパク質の使用。
【請求項16】
請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載のタンパク質からなるインフルエンザ菌による感染の診断に使用されるキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−34107(P2009−34107A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226372(P2008−226372)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【分割の表示】特願平9−504247の分割
【原出願日】平成8年6月27日(1996.6.27)
【出願人】(508236099)コーテックス インターナショナル リミテッド (1)
【Fターム(参考)】