説明

インフレーション成形用樹脂組成物及びその成形フィルム

【課題】インフレーション成形時に粉ふきが発生しない樹脂組成物及びその成形フィルムを提供すること。
【解決手段】本発明のインフレーション成形用樹脂組成物は、密度が0.938g/cm以上の高密度ポリエチレン99.95〜90質量部に、超高分子量ポリエチレン0.05〜10質量部が配合されていることを特徴とする。この超高分子量ポリエチレンは平均粒径5〜40μmの超高分子量ポリエチレンパウダーが好ましい。この超高分子量ポリエチレンは、100万〜600万の質量平均分子量を持つので、通常のインフレーション成形温度領域では溶融せず、アンチブロッキング剤としての効果を発現する。このように粒径が大きく、耐磨耗性の優れる超高分子量ポリエチレンパウダーをアンチブロッキング剤とし、高密度ポリエチレン中に配合して共押出しすると、フィルム表面が粗面化し、安定板などとの接触面積が小さくなるので、粉ふきの発生がなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフレーション成形による高密度ポリエチレンフィルム製造の際に発生する樹脂粉末、所謂粉ふきを解消するための高密度ポリエチレンフィルム成形用樹脂組成物およびその成形フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
インフレーション成形法は、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂等のポリオレフィン系樹脂を始めとする熱可塑性樹脂からなるフィルムの製造に幅広く利用されている。一般のインフレーション成形法では、押出機により溶融した熱可塑性樹脂を環状ダイから押出し、押出された溶融状態のチューブをダイ口径よりも大きく膨張させながらエアリング装置にて空気冷却する。次いで冷却固化されたチューブ状のフィルムを一対の安定板を用いて徐々にシート状に折り畳み、折り畳まれたフィルムの両端をトリミング装置にて切断して2枚のフィルムを得る。或いは、トリミングせずにチューブ状のフィルムとすることもできる。
【0003】
インフレーション成形法により得られるフィルムは、その使用目的に応じて様々な熱可塑性樹脂が選択される。その中でも高密度ポリエチレンをインフレーション成形法により製造した場合、粉末状の樹脂が安定板やピンチロールなどに付着してインフレーション製造装置を汚染するため、定期的な清掃が必要となり、生産性の低下や作業環境が悪化するばかりでなく、粉末状の樹脂がフィルム表面に付着し、高密度ポリエチレンフィルム製品中に混入して品質低下するという問題を抱えている。
【0004】
下記特許文献1には、インフレーション成形による高密度ポリエチレンフィルム製造の際に発生する粉ふきを防止する手段として、インフレーションフィルム成形樹脂組成物及びそのマスターバッチ中にポリプロピレンを含有することを要件とした発明が開示されている。また、該特許公報においては、粉末状の樹脂が発生する要因として、樹脂中の低分子量成分や添加剤がフィルム表面にブリードしたものが付着、飛散するためと記載されている。
【0005】
一方、市販の高密度ポリエチレン用粉ふき防止剤(例えば、東京インキ社製:PEXPAS−64、シリカ、その平均粒径は5μmで、MFR10のポリプロピレンを含有している。)を所定量添加し、粉の発生を抑制して高密度ポリエチレンフィルム製品の品質向上を試みたが、粉の発生において、改善が見られたものの、解消には至らなかった。
【特許文献1】特許第3462425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したインフレーション成形法による高密度ポリエチレンフィルム製造時に発生して付着及び飛散した粉状の樹脂をゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)、赤外分光分析(IR)、示差走査熱量分析(DSC)等により分析したところ、組成は原料の高密度ポリエチレンとほぼ同一であり、分子量、分子量分布もほぼ同一であった。すなわち、付着及び飛散した粉末状の樹脂は、高密度ポリエチレン中の低分子量成分や添加剤がブリードしたものでなく、高密度ポリエチレンフィルムが安定板などと接触して摩擦により削れ落ちたものと推論するに至った。
【0007】
上記のように、インフレーション成形法による高密度ポリエチレンフィルム製造時に発生する粉は、摩擦により削れて脱落したものが付着及び飛散することから、摩擦抵抗を軽減すべく、フィルム表面を粗面化してフィルムと安定板などとの接触面積を減らす必要があると推測した。
【0008】
熱可塑性樹脂からなるフィルムの表面を粗面化する手段として、アンチブロッキング剤を熱可塑性樹脂と共に押出し成形する手法が取られている。通常、平均粒径0.5〜10μmの炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ゼオライトなどの無機物質やアクリル系樹脂の有機物質がアンチブロッキング剤として用いられるが、これらの材料では何れもインフレーション成形法による高密度ポリエチレンフィルム製造時の粉の発生を防止することができなかった。
【0009】
また、平均粒径が10μm以上のアンチブロッキング剤を使用し、よりフィルム表面を粗面化させようとした場合、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ゼオライトなどの無機物質ではフィルム同士が擦れ合ったときに傷が付き易くなるという別の問題が生じる。また、擦れ傷が軽減できるアクリル樹脂系の場合は、コストが高くなる上に、耐磨耗性が弱く、摩擦により脱落する恐れがある。したがって、粒径が大きく、耐磨耗性に優れ、擦れ傷の付かないアンチブロッキング剤が必要である。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、粉発生のない高密度ポリエチレンのインフレーション成形用樹脂組成物及びその成形フィルムを提供することを課題としている。
【0011】
インフレーション成形法による高密度ポリエチレンフィルム製造時の粉発生においては、フィルムと安定板などとの摩擦抵抗を軽減すべく接触面積を小さくし、かつ耐磨耗性の優れる材料を表面に配することが望ましい。発明者らは、かかる観点から鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のインフレーション成形用樹脂組成物は、密度が0.938g/cm以上の高密度ポリエチレン99.95〜90質量部に、超高分子量ポリエチレン0.05〜10質量部が配合されていることを特徴とする。なお、高密度ポリエチレンとしてはMFR0.1〜50程度のものを使用し得る。
【0013】
また、本発明は、前記インフレーション成形用樹脂組成物において、前記超高分子量ポリエチレンが平均粒径5〜40μmの超高分子量ポリエチレンパウダーであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のインフレーション成形フィルムは、前記インフレーション成形用樹脂組成物からなる単層のインフレーション成形フィルムであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のインフレーション成形フィルムは、前記インフレーション成形用樹脂組成物を表層のみに配し、多層としたインフレーション成形フィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂組成物は、インフレーション成形法による高密度ポリエチレンフィルム製造時において、フィルム表面を上記手法により粗面化することによって、粉の発生を解消し、フィルム品質の向上が期待できる。また、作業環境の悪化も解消される。
【0017】
すなわち、粒径が大きく、耐磨耗性の優れる超高分子量ポリエチレンパウダーをアンチブロッキング剤とし、高密度ポリエチレン中に配合して共押出しするが、この際超高分子量ポリエチレンは、一般ポリエチレンの質量平均分子量2万〜数十万に対し、100万〜600万の質量平均分子量を持つので、通常のインフレーション成形温度領域では溶融せず、アンチブロッキング剤としての効果を発現する。この効果により、フィルム表面を粗面化し、安定板などとの接触面積を小さくすることで、本発明は、インフレーション成形法による高密度ポリエチレンフィルムの製造時に粉発生のない樹脂組成物とその成形フィルムを提供するものである。また、アンチブロッキング剤として既存の材料より柔軟性のあるポリエチレンを使用しているため、フィルム同士が擦れ合ったときにほとんど傷が付かない。
【0018】
本発明におけるインフレーション成形用樹脂組成物は、密度0.938g/cm以上の高密度ポリエチレンに対して粉発生防止の効果が見られる。密度が0.938g/cmより低くなると粉発生防止措置を取らずとも粉の発生は見られない。
【0019】
また、高密度ポリエチレン99.95〜90質量部に対し、超高分子量ポリエチレンパウダーの配合量は、0.05〜10質量部が好ましく、さらに好ましくは、0.1〜5質量部である。0.05質量部未満であるとフィルム表面の粗面化が不十分であり、10質量部以上では添加割合に比例して効果が生じるわけではなく、かえって価格が高くなるので好ましくない。
【0020】
また、超高分子量ポリエチレンパウダーの平均粒径は、5〜40μmのものが好ましく、さらに好ましくは平均粒径10〜30μmのものが良い。平均粒径が5μmより小さいとフィルム表面を粗面化する効果がなくなり、平均粒径が40μmより大きくなると分散性が悪くなる。分子量は100万〜600万のものが安価な入手が容易である。
【0021】
また、前述の樹脂組成物を用い、インフレーション成形単層フィルムとするが、この際、コストを削減するために、表層のみに超高分子量ポリエチレンを配した多層フィルムとすることもできる。
【0022】
本発明品には、そのフィルム物性を阻害しない範囲で酸化防止剤、滑剤や着色剤などを適宜配合しても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明するが、以下に示す実施例は本発明をこれに限定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
【0024】
まず、超高分子量ポリエチレンパウダー(三井化学製:XM221U、平均粒径25〜30μm、質量平均分子量200万)が10質量%濃度のマスターバッチとなるように予め準備した。
【実施例1】
【0025】
ダイ直径150mmの空冷インフレーション成形装置を使用し、密度0.950g/cm、MFR0.5の高密度ポリエチレン95質量部に対し、超高分子量ポリエチレンパウダーマスターバッチ5質量部の割合で混合し、190℃で成形した。得られたフィルムの厚みは、50μmであり、このときの製品幅400mm(耳スリット前のチューブ折径450mm)、引取速度14m/分であり、エアーリングはバブルを安定させるためにベンチュリータイプのディアルリップ、3段チャンバーで成形した。
【0026】
インフレーション成形法による高密度ポリエチレンフィルム製造時の粉の発生状況について、実施例1の条件にて2時間連続運転し、安定板に設置した黒色不織布に付着した粉の量を定量し、100cmあたりの粉付着量として表1に示した。また、以下の実施例2〜4、比較例1〜3についても同様の試験評価を行い、その結果を、100cmあたりの粉付着量として表1にまとめて示した。
【実施例2】
【0027】
高密度ポリエチレン98質量部に対して超高分子量ポリエチレンパウダーマスターバッチ2質量部の割合とした以外は、実施例1と同様に行った。
【実施例3】
【0028】
密度0.958g/cm、MFR1.0の高密度ポリエチレンを使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【実施例4】
【0029】
ダイ直径150mmの3種3層空冷インフレーション成形装置を使用し、中間層及び安定板と接触しないチューブの内側の層を密度0.950g/cm、MFR0.5の高密度ポリエチレン層とし、安定板と接触するチューブの外側の層を、密度0.950g/cm、MFR0.5の高密度ポリエチレン95質量部に対し、超高分子量ポリエチレンパウダーマスターバッチ5質量部の割合で混合したものから形成されるようにし、190℃で成形した。得られた多層フィルムの厚みは、超高分子量ポリエチレンパウダーを添加した層側から、15μm/35μmの合計50μmであり、このときの製品幅400mm(耳スリット前のチューブ折径450mm)、引取速度14m/分であり、エアーリングはバブルを安定させるためにベンチュリータイプのディアルリップ、3段チャンバーで成形した。
【0030】
[比較例1]
密度0.950g/cm、MFR0.5の高密度ポリエチレン98質量部に対し、市販の粉ふき防止剤2質量部の割合で混合した以外は、実施例1と同様に行った。
【0031】
[比較例2]
超高分子量ポリエチレンパウダーマスターバッチの使用を除く以外は、実施例1と同様に行った。
【0032】
[比較例3]
高密度ポリエチレン99.6質量部に対して超高分子量ポリエチレンパウダーマスターバッチ0.4質量部の割合とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0033】
[比較例4]
密度0.935g/cm、MFR2.0の直鎖状低密度ポリエチレンを使用した以外は、比較例2と同様に行った。
【0034】
【表1】

【0035】
上記表1に示した結果から明らかなように、本発明のインフレーション成形用樹脂組成物によればインフレーション成形時にいわゆる粉ふきが全く見られないことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.938g/cm以上の高密度ポリエチレン99.95〜90質量部に、超高分子量ポリエチレン0.05〜10質量部が配合されているインフレーション成形用樹脂組成物。
【請求項2】
前記の超高分子量ポリエチレンが平均粒径5〜40μmの超高分子量ポリエチレンパウダーであることを特徴とする請求項1に記載のインフレーション成形用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の樹脂組成物からなる単層のインフレーション成形フィルム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の樹脂組成物を表層のみに配し、多層としたインフレーション成形フィルム。

【公開番号】特開2008−88248(P2008−88248A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−269317(P2006−269317)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(591030503)タマポリ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】