説明

インプラント螺子および人工歯根および人工関節固定ボルト

【課題】
本発明が解決しようとする課題は、骨組織への固定強度を高めたインプラント螺子を、提供することである。
【解決手段】
哺乳類の体内骨部(1)に螺着されるインプラント螺子(10)であって、前記螺子(10)の側面(2)は少なくともネジ山部(20)とネジ谷部(21)とを有し、そのネジ谷部(21)に、前記ネジ山部(20)と前記ネジ谷部(21)に同期させた溝部(22)を少なくとも一箇所以上設けた。
溝部部(22)を設けたことにより、通常のネジ山部とネジ谷部のみからなるインプラント螺子と比較すると、歯槽骨や大腿骨などの骨部への接触面積が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯を装着するために歯槽骨内に植設される人工歯根などの、哺乳類の体内骨部に螺着されるインプラント螺子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
哺乳類の体内に、生体親和性を有する素材からなるインプラント螺子を、歯や骨の固定に用いる手術は、臨床的に既に行われている。生体親和性を有する素材としては、チタンやアパタイトを例示することができる。
特に代表的なインプラント螺子は、特許文献1に示すようなデンタルインプラントの人工歯根として使用されている。
その他にも、インプラント螺子は、特許文献2に示すような人工関節の固定用ネジとして使用されている。
【0003】
これらのインプラント螺子は、歯槽骨や大腿骨などの骨部にねじ込むことによって、螺着され、骨組織と結合するものである。
しかし、チタン系材料のみのインプラント螺子は、骨との結合強度が不十分であり、固定強度を充分に確保することができないものであった。また、チタン系材料の表面にアパタイトコーティングを施し、インプラント螺子と骨との結合強度を確保する技術も開発されているが、チタン系材料とアパタイトコーティングの隙間から、細菌が入り込むという問題もあった。
【0004】
このような現状から、アパタイトコーティングを用いずチタン材料からなるインプラント螺子を用いて、骨との結合強度を充分に確保可能とする技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−149121
【0006】
【特許文献2】特開2004−135913
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、骨組織への固定強度を高めたインプラント螺子を、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1記載の発明)
請求項1記載のインプラント螺子は、哺乳類の体内骨部に螺着されるインプラント螺子であって、前記螺子の側面は少なくともネジ山部とネジ谷部とを有し、そのネジ谷部に、前記ネジ山部と前記ネジ谷部に同期させた溝部を少なくとも一箇所以上設けたことを特徴とする。
(請求項2記載の発明)
請求項2記載のインプラント螺子は、請求項1記載のインプラント螺子にネジ谷部の谷底に溝部を設けたことを特徴とする。
(請求項3記載の発明)
請求項3記載のインプラント螺子は、請求項1又は2記載のインプラント螺子の頭部側から先端部側において、螺子側面の先端部側には請求項1又は2記載のネジ山部とネジ谷部と溝部を設け、螺子側面の頭部側にはネジ山密部とネジ谷密部とを設け、前期ネジ山密部のネジ密部ピッチが、前記ネジ山部におけるネジピッチの値の1/3としたことを特徴とする。
(請求項4記載の発明)
請求項4記載の人工歯根は、請求項1乃至3のいずれかに記載のインプラント螺子を用いたことを特徴とする。
(請求項5記載の発明)
請求項5記載の人工歯根は、請求項4記載の人工歯根であって、ネジ直径φの有効径を3.0〜6.0mmとし、溝部のネジピッチを0.2〜1.2mmとしたことを特徴とする。
(請求項6記載の発明)
請求項6記載の人工関節固定ボルトは、請求項1乃至3のいずれかに記載のインプラント螺子を用いたことを特徴とする。
(請求項7記載の発明)
請求項7記載の人工関節固定ボルトは、請求項6記載の人工関節固定ボルトのネジ直径φを3.0〜6.0mmとし、溝部のネジピッチを0.2〜1.2mmとしたことを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
溝部を設けたことにより、通常のネジ山部とネジ谷部のみからなるインプラント螺子と比較すると、歯槽骨や大腿骨などの骨部への接触面積が増加する。この接触面積の増加により、インプラント螺子表面と骨組織とのオッセオインテグレーション状態(生活を営む骨組織とインプラントが、光学顕微鏡レベルで直接密着し、持続した結合状態を呈し、インプラントに加わった力が、骨に直接伝達される状態)の発生促進と発生後の結合強度の向上が可能となった。
チタン系材料のみのインプラント螺子は、骨との結合強度が不十分とされてきたが、請求項1記載の発明によって、チタン系材料のみのインプラント螺子であったとしても、充分な結合強度を得ることができる。
また、アパタイトコーティングを有するインプラント螺子においても、接触面積の増加に基づく結合強度の向上は充分に考えられる。
しかし、チタン系材料とアパタイトコーティングの隙間から、細菌が入り込むという問題を鑑みると、チタン系材料のみのインプラント螺子を用いることが好ましい。
【0010】
谷部の底に溝部を設けると、溝部の加工が行いやすいものとなる。
ネジ山密部とネジ谷密部を設けると、細菌の侵入を抑止することができる。
前記インプラント螺子の代表的な使用例として、人工歯根及びフィクスチャーを例示することができる。
人工歯根及びフィクスチャーとして用いる場合、ネジ直径φを3.0〜6.0mmとし、溝部のネジピッチを0.2〜1.2mmとするのが好ましい。
インプラント螺子のその他の使用例として、人工関節固定ボルトを例示することができる。
人工関節固定ボルトとして用いる場合、ネジ直径φを3.0〜6.0mmとし、溝部のネジピッチを0.2〜1.2mmとすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は人工歯根の概念図である。
【図2】図2は実施例1のインプラント螺子の側面図(左)断面図(右)である。
【図3】図3は実施例1のインプラント螺子の平面図である。
【図4】図4は実施例1のインプラント螺子の底面図である。
【図5】図5は実施例1のインプラント螺子の採寸における側面略図である。
【図6】図6は実施例1のインプラント螺子側面の拡大断面図である。
【図7】図7は実施例2のインプラント螺子の側面図である。
【図8】図8は実施例2のインプラント螺子の平面図である。
【図9】図9は実施例2のインプラント螺子の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、この発明のインプラント螺子を実施するための最良の形態について実施例1、2に基づき詳しく説明する。
【実施例1】
【0013】
実施例1において、体内骨部1に螺着するインプラント螺子10は、人工歯根に関するものである。
【0014】
(1.デンタルインプラントについて)
図1は人工歯根の概念図である。
歯の治療に用いられるインプラント螺子10は、図1に示されるように、体内骨部1である歯槽骨に、インプラント螺子10である人工歯根が螺入されるものである。
デンタルインプラントは、体内骨部1(歯槽骨)にインプラント螺子10(人工歯根またはフィクスチャー)を埋め込んだ後、アバットメントを用いて、フィクスチャーと冠(クラウン11)を接続するものである。
本件実施例においては、下顎の歯への治療を例として説明する。上顎の歯への治療の場合は、上下方向が逆転するものである。
【0015】
(2.インプラント螺子10について)
デンタルインプラントに用いられるインプラント螺子10は略円柱状のものであり、ボルト及びネジなどの螺子形状のものであり、側面2と頭部3と先端部4とを有する。
インプラント螺子10は、体内骨部1(歯槽骨)内に螺入する(ねじ込む)とき、頭部3から先端部4方向に向かって進むものである。すなわち、頭部3は口内側、先端部4は体内骨部1(歯槽骨)側である。
略円柱状のインプラント螺子10の径は、頭部3から先端部4に向かうにつれて、徐々に縮径するのが好ましい。このことから先端部4端部の外径(先端部4の直径φ55)は、頭部3端部の外径(ネジ直径φ54)の50〜80%としている。
【0016】
(3.側面2について)
図2は実施例1のインプラント螺子の側面図(左)断面図(右)である。
側面2には、図2に示すように、先端部4側にはネジ山部20とネジ谷部21と溝部22とが設けられ、頭部3側にはネジ山密部30とネジ谷密部31とが設けられている。ネジ山密部30とネジ谷密部31の間隔(ネジピッチ長さの半分)は、ネジ山部20とネジ谷部21の間隔(ネジピッチ長さの半分)よりも値が小さいものである。
ネジ山部20とネジ谷部21の間隔の1/3を、ネジ山密部30とネジ谷密部31の間隔とするのが好ましい。
【0017】
(4.頭部3について)
図3は実施例1のインプラント螺子10の平面図である。
実施例1のインプラント螺子10は、人工歯根またはフィクスチャーとして用いられるものであるから、アバットメントを取り付ける為のアバットメント固定穴32を設けることができる。
【0018】
(5.先端部4について)
図4は実施例1のインプラント螺子の底面図である。
先端部4には、端部近傍側面から形成されたカッティングエッヂ40が設けられている。
【0019】
(6.インプラント螺子10の寸法について)
デンタルインプラントに用いられるインプラント螺子10の寸法は、患者の顎骨の大きさや歯の本数によって変化し、最適化するものである。一例として、本件発明において作成したインプラント螺子の寸法を以下の通り述べる。
図5は実施例1のインプラント螺子10の採寸における側面略図である。
採寸結果は、以下の通りである。
「インプラント螺子全長」5は、12.2mmである(6.7〜16.2mmにしてもよい)。
「頭部3を除く全長」50は、12.0mmである(6.5〜16.0mmにしてもよい)。
「溝部22の開始〜先端部4」51は、8.5mmである(3.5〜12.5mmにしてもよい)。
「カッティングエッヂ40〜先端部4」52は、4.0mmである(2.5〜5.0mmにしてもよい)。
「縮径開始〜先端部4」53は、2.5mmである(1.5〜2.5mmにしてもよい)。
「ネジ直径φ」54は、有効径6mm、谷の径5.883mm、外径6.183mmである(「ネジ直径φ」54の有効径を、3.0〜6.0mmにしてもよい)。
「先端部4の直径φ」55は、4.66mmである(1.66〜4.66mmにしてもよい)。
そして、インプラント螺子10の寸法は、変更した直径φの比率に合わせて、相似的に上記のその他寸法を変更することができる。
【0020】
(7.ネジピッチについて)
インプラント螺子10のピッチ寸法は、手術内容によって、あまり左右されるものでないが、歯槽骨へのインプラント手術において、最も効果の高い形状及び寸法を以下に述べる。
図6は実施例1のインプラント螺子側面の拡大断面図である。
採寸結果は、以下の通りである。
「ネジピッチ(ネジ山部20とネジ谷部21を形成する)」6は、0.9mmである(0.6〜1.0mmにしてもよい)。
「ネジ山の高さ」60は、0.3mmである(0.2〜0.4mmにしてもよい)。
「溝部22の深さ」61は、0.1mmである(0.05〜0.15mmにしてもよい)。
「溝部22の溝幅」62は、0.2mmである(0.1〜0.3mmにしてもよい)。
「ネジ密部ピッチ(ネジ山密部30とネジ谷密部31を形成する)」63は、0.3mmである(0.2〜0.4mmにしてもよい)。
「密部ネジ山の高さ」64は、0.15mmである(0.1〜0.2mmにしてもよい)。
「リード角」は、4.3°である(4〜9°にしてもよい)。
「フランク角」は、30°である(25〜40°にしてもよい)。
このような寸法で形成したインプラント螺子10は、溝部22を有することから、「ネジ山部20とネジ谷部21のみからなるインプラント螺子」と比較して、接触面積を12.1%増加させることができた。
【0021】
この接触面積の増加により、インプラント螺子表面と骨組織とのオッセオインテグレーション状態(生活を営む骨組織とインプラントが、光学顕微鏡レベルで直接密着し、持続した結合状態を呈し、インプラントに加わった力が、骨に直接伝達される状態)の発生促進と発生後の結合強度の向上が可能となった。
【実施例2】
【0022】
実施例2において、体内骨部1に螺着するインプラント螺子10は、人工関節固定ボルトに関するものである。
【0023】
(1.人工関節固定ボルトについて)
インプラントには、歯科医が行なうデンタルインプラント以外にも、骨折・リウマチ等の治療で骨を固定するためのボルトなどがある。
本件発明は、実施例2として、人工関節や天然骨を固定する為の、インプラント螺子10として用いることもできる。
【0024】
(2.インプラント螺子10について)
図7は実施例2のインプラント螺子の側面図である。
人工関節固定に用いられるインプラント螺子10は、略円柱状のものであり、ボルト及びネジなどの螺子形状のものであり、側面2と頭部3と先端部4とを有する。
インプラント螺子10は、体内骨部1(大腿骨など)内に螺入する(ねじ込む)とき、頭部3から先端部4方向に向かって進むものである。すなわち、頭部3は人体外側、先端部4は体内骨部1側である。
略円柱状のインプラント螺子10の径は、頭部3から先端部4に向かうにつれて、徐々に縮径するのが好ましい。このことから先端部4端部の外径(先端部4の直径φ55)は、頭部3端部の外径(ネジ直径φ54)の50〜80%としている。
【0025】
(3.側面2について)
側面2には、図2に示すように、先端部4側にはネジ山部20とネジ谷部21と溝部22とが設けられている。
実施例1においては、デンタルインプラントであることから、歯と歯茎の隙間から侵入する細菌を抑止する為に、ネジ山密部とネジ谷密部を設けていたが、大腿骨などが体内骨部1である場合、このような構成は必要がない。
【0026】
(4.頭部3について)
図9は実施例2のインプラント螺子10の平面図である。
実施例2のインプラント螺子10は、大腿骨などの人工関節を固定する為に用いられるものであり、固定穴32を設けることができる。
図9に記載されている締付工具用穴33は六角穴であるが、その他の螺入工具を用いるものであっても良い。例えば、+ドライバーや−ドライバーを利用するものが挙げられる。
【0027】
(5.先端部4について)
図9は実施例2のインプラント螺子の底面図である。
先端部4には、端部近傍側面から形成されたカッティングエッヂ40が設けられている。
【0028】
(6.インプラント螺子10の寸法について)
固定ボルトとしてのインプラント螺子10は、使用箇所や体格によって左右される為、実施例1の寸法に基づき、変更することができる。
【0029】
(7.ネジピッチについて)
インプラント螺子10のピッチ寸法は、大腿骨などの人工関節を固定するインプラント手術において、最も効果の高い形状及び寸法とすることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 体内骨部
10 インプラント螺子
2 側面
20 ネジ山部
21 ネジ谷部
22 溝部
3 頭部
30 ネジ山密部
31 ネジ谷密部
4 先端部
40 カッティングエッヂ
54 ネジ直径φ
6 ネジピッチ
63 ネジ密部ピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の体内骨部(1)に螺着されるインプラント螺子(10)であって、前記螺子(10)の側面(2)は少なくともネジ山部(20)とネジ谷部(21)とを有し、そのネジ谷部(21)に、前記ネジ山部(20)と前記ネジ谷部(21)に同期させた溝部(22)を少なくとも一箇所以上設けたことを特徴とするインプラント螺子。
【請求項2】
ネジ谷部(21)の谷底に溝部(22)を設けたことを特徴とする請求項1記載のインプラント螺子。
【請求項3】
インプラント螺子(10)の頭部(3)側から先端部(4)側において、螺子側面(2)の先端部(4)側には請求項1又は2記載のネジ山部(20)とネジ谷部(21)と溝部を設け、螺子側面(2)の頭部(3)側にはネジ山密部(30)とネジ谷密部(31)とを設け、
前期ネジ山密部(30)のネジ密部ピッチ(63)は、前記ネジ山部(20)におけるネジピッチ(6)の値の1/3としたことを特徴とするインプラント螺子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のインプラント螺子(10)を用いた人工歯根。
【請求項5】
ネジ直径φ(54)の有効径を3.0〜6.0mmとし、溝部(22)のネジピッチを0.2〜1.2mmとしたことを特徴とする請求項4記載の人工歯根。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載のインプラント螺子(10)を用いたことを特徴とする人工関節固定ボルト。
【請求項7】
ネジ直径φ(54)を3.0〜6.0mmとし、溝部(22)のネジピッチを0.2〜1.2mmとしたことを特徴とする請求項6記載の人工関節固定ボルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−10835(P2012−10835A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148623(P2010−148623)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(593021459)山本貴金属地金株式会社 (6)
【Fターム(参考)】