説明

インプリント方法

【課題】高精細なインプリント転写が安定して行えるインプリント方法を提供する。
【解決手段】樹脂充填工程にて、モールド11に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する樹脂材料を供給して、使用する接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲である樹脂層31を形成し、液滴供給工程にて、インプリント用の基板21に対する接触角が30°以下の接着剤41を樹脂層31上に液滴で供給し、濡れ性変化工程にて、樹脂層31の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて樹脂層31′とし、押し当て工程にて、モールド11と基板21とを接近させて、樹脂層31′と基板21との間に接着層42を形成し、剥離工程にて、硬化した樹脂層32からモールド11を引き離す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に所望のパターン(線、模様等の図形)を転写形成するインプリント方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術として、インプリント方法に注目が集まっている。このインプリント方法は、基材の表面に微細な凹凸構造を形成した型部材(モールド)を用い、凹凸構造を被加工物に転写することで微細構造を等倍転写するパターン形成技術である。
上記のインプリント方法として、例えば、光インプリント方法が知られている。この光インプリント方法では、例えば、基板表面に被加工物として光硬化性の樹脂層を配設し、この樹脂層に所望の凹凸構造を有するモールドを押し当てる。そして、この状態でモールド側から樹脂層に光を照射して硬化させ、その後、モールドを樹脂層から引き離すことにより、モールドが有する凹凸が反転した凹凸構造(凹凸パターン)を被加工物である樹脂層に形成することができる(特許文献1)。また、基板表面に流動性を有する樹脂を液滴として供給し、基板表面に離散的に存在する液滴にモールドを押し当てて液滴を均等に広げて樹脂層とすることが提案されている(特許文献2)。
このようなインプリント方法では、硬化させた樹脂層からモールドを引き離す際に、樹脂層が基板側に密着している必要があるため、基板と樹脂層との濡れ性が良い必要がある。しかし、上記のように、流動性を有する樹脂を液滴として基板表面に供給する場合、濡れ性の良い基板上に滴下された樹脂の液滴は、基板全面に広がる挙動を示し、液滴の高さはすぐに低くなってしまう。このように液滴の高さが十分に得られない状態では、モールドを押し当てたときに樹脂をモールド全面に広げるためには、モールドと基板とを完全に平行とする必要があり、高い機械精度が要求されるという問題がある。
【0003】
一方、基板に滴下する樹脂量を増やすことにより、上述の液滴の高さの低下による問題は解消できるが、モールドからはみ出る樹脂量が多くなる。また、リソグラフィーに利用する際にも不利となる。その理由を従来技術と比較して説明する。従来の光リソグラフィーでは、レジストを現像することで基板表面が露出する部分とレジストパターンで被覆される部分とを形成することができる。よって基板への加工を行ないたい場合、そのまま次の加工へ進むことができる。これに対してナノインプリントの場合、基板上に滴下された樹脂にモールドを押し込むため、モールドを引き剥がしても基板表面は露出されず、パターン凹凸の高低差のみが作製される。ここからパターン凹凸の凹部に該当する基板表面を露出させたい場合には、凹部に残る樹脂を除去しなければならない。この除去すべき膜のことを残膜という。残膜の除去にはO2ガス等によるエッチング工程が必要となる。そして、滴下する樹脂量を増やすと残膜の厚みが大きくなりやすく、残膜を除去する間にパターン寸法の変動を起こすリスクが増える。したがって、リソグラフィーへの利用は好ましくないという問題がある。
【0004】
また、樹脂の液滴を多数滴下する場合において、最初の滴下と最後の滴下との間に時間差が生じた場合、これにより液滴の高さに相違が生じる。このように、液滴の高さが異なる状態でモールドを押し当てると、樹脂の広がり方に差が生じ、膜厚ムラや転写ムラ、転写欠陥が発生するという問題がある。これを解消するためには、モールドを押し当てる時間を十分長くする必要があるが、スループットの低下を来すことになる。
上記のような基板への樹脂の滴下の問題を回避するために、モールドに樹脂を供給してモールドの凹凸構造を埋めるように樹脂層を形成し、その後、樹脂層を基板に固着させ、次いで、モールドを樹脂層から引き離すインプリント方法が考えられる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−539604号公報
【特許文献2】特表2005−533393号公報
【特許文献3】特開2006−237312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、モールドの凹凸構造を埋めた樹脂層が平坦面をなす場合、この樹脂層の平坦面と基板表面とを密着させるには高い機械精度が要求されるという問題がある。また、モールドの凹凸構造を埋めた樹脂層が平坦面をなしていない場合には、基板に密着させる際に気泡が入り込み、膜厚ムラや転写ムラ、転写欠陥が発生するという問題がある。
また、モールドに形成した樹脂層を基板に固着させるために、双方に対して密着性(濡れ性)の良い接着層を介在させる場合、この接着層が平坦面をなすときには、上記と同様に、基板と密着させるには高い機械精度が要求されるという問題がある。また、モールドに形成した樹脂層上に平坦な接着層を形成せず、接着剤を液滴として樹脂層上に供給し、その状態で基板に押し当てることも可能である。しかし、接着剤はモールドに形成した樹脂との密着性がよいので、接着剤の液滴の高さはすぐに低くなってしまう。このように接着剤の液滴の高さが十分に得られない状態では、基板に押し当てたときに接着剤をモールド上の樹脂層の全面に広げるためには、モールド(樹脂層)と基板とを完全に平行とする必要があり、高い機械精度が要求されるという問題がある。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、高精細なインプリント転写が安定して行えるインプリント方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明は、モールドのパターン領域を有する面に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する樹脂材料を供給して、使用する接着剤の接触角が60°〜90°の範囲である樹脂層を形成する樹脂充填工程と、前記接着剤としてインプリント用の基板に対する接触角が30°以下のものを使用し、該接着剤を前記樹脂層上に液滴で供給する液滴供給工程と、前記樹脂層の濡れ性を、前記接着剤の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させる濡れ性変化工程と、前記モールドと前記基板とを接近させて、前記樹脂層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有するような構成とした。
【0008】
また、本発明は、モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成する樹脂充填工程と、前記樹脂層上に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する材料を用いて、使用する接着剤の接触角が60°〜90°の範囲である薄膜層を形成する薄膜層形成工程と、前記接着剤としてインプリント用の基板に対する接触角が30°以下のものを使用し、該接着剤を前記薄膜層上に液滴で供給する液滴供給工程と、前記薄膜層の濡れ性を、前記接着剤の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させる濡れ性変化工程と、前記モールドと前記基板とを接近させて、前記薄膜層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有するような構成とした。
【0009】
また、本発明は、モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成する樹脂充填工程と、インプリント用の基板上に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する材料を用いて、使用する接着剤の接触角が60°〜90°の範囲である濡れ性変化層を形成する濡れ性変化層形成工程と、前記接着剤として前記樹脂層に対する接触角が30°以下のものを使用し、該接着剤を前記濡れ性変化層上に液滴で供給する液滴供給工程と、前記濡れ性変化層の濡れ性を、前記接着剤の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させる濡れ性変化工程と、前記基板と前記モールドとを接近させて、前記濡れ性変化層と前記樹脂層との間に接着層を形成する押し当て工程と、前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有するような構成とした。
【0010】
本発明の他の態様として、前記濡れ性変化工程の次に前記押し当て工程を行うような構成とした。
本発明の他の態様として、前記押し当て工程の次に前記濡れ性変化工程を行うような構成とした。
本発明の他の態様として、前記押し当て工程と前記濡れ性変化工程を同時に行うような構成とした。
【0011】
また、本発明は、モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成するとともに、前記モールドの前記面の非パターン領域の所望箇所を、前記樹脂層で囲まれるように露出させる樹脂充填工程と、前記モールドに対する接触角が60°〜90°の範囲、インプリント用の基板および前記樹脂層に対する接触角が30°以下である接着剤の液滴を、モールドの露出している箇所に供給する液滴供給工程と、前記モールドと前記基板とを接近させて、前記モールドおよび前記樹脂層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有するような構成とした。
【0012】
また、本発明は、モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成する樹脂充填工程と、使用する接着剤を、インプリント用の基板および前記樹脂層に対する接触角が30°以下のものとし、該接着剤の接触角が60°〜90°の範囲である材料を用いて前記樹脂層の所望箇所に液滴保持層を形成し、該液滴保持層上に前記接着剤の液滴を供給する液滴供給工程と、前記モールドと前記基板とを接近させて、前記液滴保持層および前記樹脂層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有するような構成とした。
【0013】
また、本発明は、モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成するとともに、前記モールドの前記面の非パターン領域を露出させる樹脂充填工程と、インプリント用の基板に対する接触角が30°以下、前記樹脂層に対する接触角が60°〜90°の範囲である接着剤の液滴を、前記樹脂層上に供給する液滴供給工程と、前記モールドと前記基板とを接近させて、前記モールドおよび前記樹脂層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有するような構成とした。
【0014】
また、本発明は、モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成する樹脂充填工程と、使用する接着剤を、インプリント用の基板に対する接触角が30°以下、前記樹脂層に対する接触角が60°〜90°の範囲のものとし、該接着剤の接触角が30°以下である材料を用いて前記樹脂層の所望箇所が露出するように介在層を形成し、該介在層で囲まれた前記樹脂上に前記接着剤の液滴を供給する液滴供給工程と、前記モールドと前記基板とを接近させて、前記樹脂層および前記介在層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインプリント方法では、モールドに樹脂材料を供給して形成された樹脂層上に、あるいは、インプリント用の基板側に、接着剤が液滴として供給されるが、接着剤の液滴が滴下される面は濡れ性を変化させることができ、滴下時における接着剤の接触角が60°以上の範囲に制御されているので、接着剤に対する濡れ性が悪く、供給された接着剤の液滴の高さを維持することができ、そして、モールドと基板とを接近させる前、あるいは、接近状態で、接着剤の接触角の低下幅が30°以上となるように、接着剤の液滴が接する面の濡れ性を変化させるので、接着剤に対する濡れ性が良くなり、また、使用するインプリント用の基板に対する接着剤の接触角が30°以下であるので、モールドとインプリント用の基板とを接近させるときの機械的精度(平坦度、平行度)の不足に起因した接着剤の広がりの不均一性等が防止され、モールドに形成された樹脂層と基板との対向面における接着剤の良好な広がりが得られ、樹脂層を容易かつ確実に基板に固着して転写することができ、高い機械精度を要求されることなく高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【0016】
また、本発明のインプリント方法では、モールドに樹脂材料を供給して樹脂層を形成し、この樹脂層に対する接触角が30°以下である濡れ性の良い接着剤を液滴として供給するが、接着剤が滴下される部位は、樹脂層が存在しないモールド表面、あるいは、樹脂層上に形成した液滴保持層であり、かつ、このような部位は、接着剤の接触角が60°〜90°の範囲に設定されているので、接着剤に対する濡れ性が悪く、供給された接着剤の液滴の高さを維持することができ、そして、使用するインプリント用の基板に対する接着剤の接触角が30°以下であるため、モールドとインプリント用の基板とを接近させるときの機械的精度(平坦度、平行度)の不足に起因した接着剤の広がりの不均一性等が防止され、モールドと基板との対向面における接着剤の良好な広がりが得られ、樹脂層を容易かつ確実に基板に固着して転写することができ、高い機械精度を要求されることなく高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【0017】
さらに、本発明のインプリント方法では、モールドに樹脂材料を供給して樹脂層を形成し、この樹脂層に対する接触角が60°〜90°の範囲である濡れ性の悪い接着剤を液滴として供給するが、接着剤が滴下される部位は、モールドの表面の一部を被覆する樹脂層上、あるいは、接着剤の接触角が30°以下である介在層で囲まれた樹脂層上であり、かつ、このような樹脂層の部位は、接着剤に対する濡れ性が悪いので、供給された接着剤の液滴の高さを維持することができ、そして、使用するインプリント用の基板に対する接着剤の接触角が30°以下であるので、モールドとインプリント用の基板とを接近させるときの機械的精度(平坦度、平行度)の不足に起因した接着剤の広がりの不均一性等が防止され、モールドと基板との対向面における接着剤の良好な広がりが得られ、樹脂層を容易かつ確実に基板に固着して転写することができ、高い機械精度を要求されることなく高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のインプリント方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための図である。
【図3】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図4】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図5】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図6】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図7】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図8】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図9】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図10】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【図11】本発明のインプリント方法の他の実施形態を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明のインプリント方法の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、樹脂充填工程において、モールド11の面11aに、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する樹脂材料を供給して樹脂層31を形成する(図1(A))。この樹脂層31は、後工程で使用する接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲となるような表面濡れ性を有するものである。樹脂層31の接着剤41に対する接触角が60°未満であると、滴下された接着剤41の液滴の高さを維持することが難しくなり、90°を越えると、滴下された接着剤41の液滴が樹脂層31の表面を滑って位置ズレを生じることがあり好ましくない。尚、本発明では、接着剤の接触角はマイクロシリンジから対象物に接着剤を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定する。
【0020】
モールド11の面11aは、凹凸構造13が形成されているパターン領域A1と、凹凸構造13が形成されていない非パターン領域A2からなり、図示例では、モールド11の面11aの全面に樹脂層31が形成されている。このようなモールド11は、樹脂層31を硬化させるための照射光を透過可能な透明基材を用いて形成することができ、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、アクリルガラス等、あるいは、これらの任意の積層材を用いることができる。また、モールド11の厚みは樹脂層31の材質、凹凸構造13の形状、基材の強度、取り扱い適性等を考慮して設定することができ、例えば、300μm〜10mm程度の範囲で適宜設定することができる。また、モールド11は、パターン領域A1が非パターン領域A2に対して凸構造となっている、いわゆるメサ構造であってもよい。
樹脂層31は、凹凸構造13の凹部を埋めるように、モールド11の面11aを被覆し、モールド11の面11aに接する面と反対側の面が平坦であり、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する層である。光照射により濡れ性が変化する樹脂材料としては、所望の樹脂材料に、後述するような光触媒とオルガノポリシロキサンを含有させたものを使用することができる。また、温度変化により濡れ性が変化する樹脂材料としては、所望の樹脂材料に、後述するような材料を含有させたものを使用することができる。
【0021】
樹脂層31の厚みは、例えば、0.01〜1.0μmの範囲で適宜設定することができ、樹脂層31の厚みが0.01μm未満であると、膜厚が薄くなることで機械的強度が低下し、例えば、後工程で硬化した樹脂層32からモールド11を引き剥がす際に、樹脂層32が破損しモールド11に付着してしまうことがあり好ましくない。一方、樹脂層31の厚みが1.0μmを超えると、樹脂層31のモールド11に対する応力が無視できなくなり、モールド11に意図しない反りが発生するため好ましくない。
次に、液滴供給工程において、接着剤41を樹脂層31上に液滴で供給する(図1(B))。使用する接着剤41は、後工程で使用するインプリント用の基板21に対する接触角が30°以下のものを使用する。上記のように、樹脂層31は、接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲となるように濡れ性が制御されているので、滴下された接着剤41の液滴は、樹脂層31に対する濡れ性が悪く広がりが防止され、所望の高さが維持される。接着剤41を液滴として滴下供給する手段としては、ディスペンサやインクジェット等を挙げることができる。尚、図示例では、1箇所に接着剤41の液滴が1個示されているが、接着剤41の液滴を滴下する箇所の位置、数は適宜設定することができ、また、図2に示すように、接着剤41の複数の液滴を滴下して供給してもよい。
【0022】
上記の接着剤41としては、EVA、オレフィン樹脂等の熱可塑性接着剤、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性接着剤、アニオン重合型、カチオン重合型等の光硬化性接着剤等の公知の接着剤から、樹脂層31、インプリント用の基板21との接触角を考慮して、適宜選択することができる。
次いで、濡れ性変化工程において、樹脂層31の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて樹脂層31′とする(図1(C))。上記の接着剤41の接触角の低下幅が30°未満であると、後工程において、硬化した樹脂層32と接着層42との密着性が不十分なものとなり、硬化した樹脂層32からモールド11を引き離す際に、モールド11に樹脂層32が付着するおそれがある。このような濡れ性の変化は、樹脂層31の形成に使用する樹脂材料に応じて、樹脂層31の温度変化、あるいは、樹脂層31への光照射により行う。また、樹脂層31′は、後工程で硬化されて樹脂層32となるが、この樹脂層32が剥離工程でモールド11との良好な剥離がなされるように、濡れ性変化後の樹脂層31′は、水に対する接触角が30〜60°、好ましくは40〜60°範囲であることが望ましい。尚、本発明では、水の接触角はマイクロシリンジから対象物に水を滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定する。
【0023】
このように樹脂層31の濡れ性を変化させると、接着剤41の広がりが始まるので、接着剤41が基板21の押し当てに支障を来さない高さを維持しているうちに、モールド11と基板21とを接近させることが好ましい。
尚、上記の樹脂層31の濡れ性変化を、加熱による温度変化で行う場合であって、樹脂層31あるいは接着剤41が熱硬化性である場合には、樹脂層31や接着剤41が熱硬化しないような温度範囲で濡れ性変化の加熱を行う必要がある。但し、後述のような材料であって、加熱により上記のような濡れ性変化を生じるような材料は、接触角が変化する高温側の温度が、通常、50℃以下であり、熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低いので、加熱による樹脂層31や接着剤41の熱硬化が生じにくい条件で濡れ性変化を確実に行うことができる。
また、上記の樹脂層31の濡れ性変化を、光照射で行う場合であって、樹脂層31あるいは接着剤41が光硬化性である場合には、照射する光は、樹脂層31に含有される光触媒の励起波長域を含む光であって、樹脂層31や接着剤41の感光波長域から外れる光を使用する。このような照射光としては、例えば、VUV(真空紫外線)、紫外線、可視光線、赤外線等を使用することができる。樹脂層31への光照射は、接着剤41の液滴側から行ってもよく、また、モールド11側から行ってもよい。
【0024】
次に、押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、樹脂層31′と基板21との間に接着層42を形成する(図1(D))。基板21が押し当てられた接着剤41の液滴は、上述のように、基板21および樹脂層31′に対する濡れ性が良いので、モールド11(樹脂層31′)と基板21との間隙中を容易に広がり、均一な接着層42を形成する。
インプリント用の基板21は、例えば、石英やソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス、シリコンやガリウム砒素、窒化ガリウム等の半導体、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂基板、金属基板、あるいは、これらの材料の任意の組み合わせからなる複合材料基板であってよい。また、例えば、半導体やディスプレイ等に用いられる微細配線や、フォトニック結晶構造、光導波路、ホログラフィのような光学的構造等の所望のパターン構造物が形成されたものであってもよい。
次いで、剥離工程にて、樹脂層31′を硬化させて樹脂層32とし、樹脂層32からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造33が形成された樹脂層32が基板21に転写される(図1(E))。また、接着層42の硬化が必要な場合には、モールド11と樹脂層32との剥離の前に、樹脂層31′の硬化と同時、あるいは、前後して硬化処理を施すことができる。樹脂層31′や接着層42の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
【0025】
<第2の実施形態>
図3は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、上述の第1の実施形態と同様に、樹脂充填工程において、モールド11のパターン領域A1を有する面11aに、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する樹脂材料を供給して樹脂層31を形成し、その後、液滴供給工程にて、接着剤41を樹脂層31上に液滴で供給する(図3(A))。
次に、押し当て工程にて、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、樹脂層31と基板21との間に接着層42を形成する(図3(B))。
次に、濡れ性変化工程において、樹脂層31の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて樹脂層31′とする(図3(C))。このような樹脂層31′は接着剤41の濡れ性が良く、樹脂層31′と基板21との間に形成される接着層42の広がりが容易なものとなる。このような効果をより有効に奏するために、押し当て工程から濡れ性変化工程までの時間は短い程好ましく、押し当て工程と濡れ性変化工程を同時に進行してもよい。
樹脂層31の濡れ性の変化は、上述の実施形態と同様に行うことができ、樹脂層31が含有する濡れ性変化材料に応じて、樹脂層31の温度変化、あるいは、樹脂層31への光照射により行う。
【0026】
次いで、剥離工程にて、樹脂層31′を硬化させて樹脂層32とし、樹脂層32からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造33が形成された樹脂層32が基板21に転写される(図3(D))。また、接着層42の硬化が必要な場合には、モールド11と樹脂層32との剥離の前に、樹脂層31′の硬化と同時、あるいは、前後して硬化処理を施すことができる。樹脂層31′や接着層42の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
尚、この実施形態においても、図2に示すように、接着剤41の複数の液滴を滴下して供給してもよい。
上記の第1の実施形態および第2の実施形態で説明した本発明のインプリント方法では、接着剤41に対する濡れ性を悪い状態に制御した濡れ性変化可能な樹脂層31上に接着剤41を液滴で供給するので、接着剤41の液滴の高さを所望の高さに維持することができる。そして、モールド11とインプリント用の基板21との接近時(インプリント用基板上の樹脂にモールドを押し当てた時)よりも前、あるいは、接近状態で、樹脂層31の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて樹脂層31′とするので、樹脂層31′は接着剤41に対する濡れ性が良いものとなり、接着剤41の良好な広がりが得られ、厚みムラが防止され、これにより高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【0027】
<第3の実施形態>
図4は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、樹脂充填工程において、モールド11の面11aに樹脂材料を供給して樹脂層35を形成する(図4(A))。モールド11の面11aは、凹凸構造13が形成されているパターン領域A1と、凹凸構造13が形成されていない非パターン領域A2からなり、図示例では、モールド11の面11aの全面に樹脂層35が形成されている。樹脂層35を形成する樹脂材料は、所望の樹脂材料を使用することができ、剥離工程でモールド11との良好な剥離がなされるように、硬化後の樹脂層35の水に対する接触角を60°以上、好ましくは90°以上とすること、あるいは、モールド11の水に対する接触角を60°以上、好ましくは80°以上とすることが望ましく、硬化後の樹脂層35およびモールド11がともに上記の条件を満たしていてもよい。また、樹脂材料として、熱硬化性あるいは光硬化性の樹脂材料を使用する場合、この樹脂充填工程で樹脂層35を硬化してもよく、後述の剥離工程で、モールド11を剥離する前に硬化してもよい。
【0028】
次に、薄膜層形成工程において、樹脂層35上に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する材料を用いて薄膜層51を形成し、その後、液滴供給工程にて、接着剤41を薄膜層51上に液滴で供給する(図4(B))。この薄膜層51は、後工程で使用する接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲となるような表面濡れ性を有するものであり、薄膜層51の接着剤41に対する接触角が60°未満であると、滴下された接着剤41の液滴の高さを維持することが難しくなり、90°を越えると、滴下された接着剤41の液滴が薄膜層51の表面を滑って位置ズレを生じることがあり好ましくない。薄膜層51は、濡れ性が変化する材料を用いており、このような材料については、後述する。
また、薄膜層51上に液滴で供給する接着剤41は、後工程で接触するインプリント用の基板21との密着性を良好なものとするために、基板21に対する接触角が30°以下のものを使用する。
接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲となるように薄膜層51の濡れ性が制御されているので、滴下された接着剤41の液滴は、薄膜層51に対する濡れ性が悪く広がりが防止され、所望の高さを維持している。
上記の接着剤41としては、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができ、樹脂層35、インプリント用の基板21との接触角を考慮して、適宜選択することができる。また、接着剤41を液滴として滴下供給する手段も、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができる。尚、図示例では、1箇所に接着剤41の液滴が1個示されているが、接着剤41の液滴を滴下する箇所の位置、数は適宜設定することができ、また、上述の図2に示される例のように、接着剤41の複数の液滴を滴下して供給してもよい。
【0029】
次いで、濡れ性変化工程において、薄膜層51の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて薄膜層51′とする(図4(C))。上記の接着剤41の接触角の低下幅が30°未満であると、後工程の押し当て工程で形成される接着層42と薄膜層51′との密着性が不十分なものとなり、樹脂層35からモールド11を引き離す際に、薄膜層51′と接着層42との層間で剥離が生じて、モールド11に樹脂層35が付着するおそれがある。このような濡れ性の変化は、薄膜層51の形成に使用する材料に応じて、薄膜層51の温度変化、あるいは、薄膜層51への光照射により行う。
このように薄膜層51の濡れ性を変化させると、接着剤41の広がりが始まるので、接着剤41が基板21の押し当てに支障を来さない高さを維持しているうちに、モールド11と基板21とを接近させることが好ましい。
尚、上記の薄膜層51の濡れ性変化を、加熱による温度変化で行う場合であって、接着剤41が熱硬化性である場合には、接着剤41が熱硬化しないような温度範囲で濡れ性変化の加熱を行う必要がある。但し、後述のような材料であって、加熱により上記のような濡れ性変化を生じるような材料は、接触角が変化する高温側の温度が、通常、50℃以下であり、熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低いので、加熱による接着剤41の熱硬化が生じにくい条件で濡れ性変化を確実に行うことができる。
【0030】
また、上記の薄膜層51の濡れ性変化を、光照射で行う場合であって、接着剤41が光硬化性である場合には、照射する光は、薄膜層51に含有される光触媒の励起波長域を含む光であって、接着剤41の感光波長域から外れる光を使用する。このような照射光としては、例えば、VUV(真空紫外線)、紫外線、可視光線、赤外線等を使用することができる。薄膜層51への光照射は、接着剤41の液滴側から行ってもよく、また、モールド11側から行ってもよい。
次に、押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、薄膜層51′と基板21との間に接着層42を形成する(図4(D))。基板21が押し当てられた接着剤41の液滴は、上述のように、基板21および薄膜層51′に対する濡れ性が良く、このため、モールド11(薄膜層51′)と基板21との間隙中を容易に広がり、均一な接着層42を形成する。
使用するインプリント用の基板21は、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができる。
【0031】
次いで、剥離工程にて、樹脂層35からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造37が形成された樹脂層35が基板21に転写される(図4(E))。このとき樹脂層35と薄膜層51′との剥離が発生しないようにするためには、薄膜層51′に対する樹脂層35の接触角が60°以下、好ましくは30°以下となるように設定しておく必要がある。また、接着層42の硬化が必要な場合には、モールド11と樹脂層35との剥離の前に硬化処理を施すことができる。接着層42の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
【0032】
<第4の実施形態>
図5は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、上述の第3の実施形態と同様に、樹脂充填工程にて、モールド11の面11aに樹脂材料を供給して樹脂層35を形成し、次に、薄膜層形成工程において、樹脂層35上に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する材料を用いて薄膜層51を形成し、その後、液滴供給工程にて、接着剤41を薄膜層51上に液滴で供給する(図5(A))。
次に、押し当て工程として、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、薄膜層51と基板21との間に接着層42を形成する(図5(B))。
次に、濡れ性変化工程として、薄膜層51の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて薄膜層51′とする(図5(C))。このような薄膜層51′は接着剤41の濡れ性が良く、薄膜層51′と基板21との間に形成される接着層42の広がりが容易なものとなる。このような効果をより有効に奏するために、押し当て工程から濡れ性変化工程までの時間は短い程好ましく、押し当て工程と濡れ性変化工程を同時に進行してもよい。
このような薄膜層51の濡れ性変化は、上述の第3の実施形態と同様に行うことができ、薄膜層51が含有する濡れ性変化材料に応じて、薄膜層51の温度変化、あるいは、薄膜層51への光照射により行う。尚、薄膜層51への光照射は、モールド11側から行うことができ、また、インプリント用の基板21が照射光を透過可能である場合には、基板21側から行ってもよい。
【0033】
次いで、剥離工程にて、樹脂層35からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造37が形成された樹脂層35が基板21に転写される(図5(D))。また、接着層42あるいは薄膜層51′の硬化が必要な場合には、モールド11と樹脂層35との剥離の前に硬化処理を施すことができる。接着層42や薄膜層51′の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
尚、この実施形態においても、図2に示すように、接着剤41の複数の液滴を滴下して供給してもよい。
【0034】
上記の第3の実施形態および第4の実施形態で説明した本発明のインプリント方法では、接着剤41に対する濡れ性を悪い状態に制御した濡れ性変化可能な薄膜層51上に接着剤41を液滴で供給するので、接着剤41の液滴の高さを所望の高さに維持することができる。そして、モールド11とインプリント用の基板21との接近時(インプリント用基板上の樹脂にモールドを押し当てた時)よりも前、あるいは、接近状態で、薄膜層51の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて薄膜層51′とするので、薄膜層51′は接着剤41に対する濡れ性が良いものとなり、接着剤41の良好な広がりが得られ、厚みムラが防止され、これにより高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【0035】
<第5の実施形態>
図6は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、樹脂充填工程において、モールド11の面11aに樹脂材料を供給して樹脂層35を形成する(図6(A))。モールド11の面11aは、凹凸構造13が形成されているパターン領域A1と、凹凸構造13が形成されていない非パターン領域A2からなり、図示例では、モールド11の面11aの全面に樹脂層35が形成されている。樹脂層35を形成する樹脂材料は、所望の樹脂材料を使用することができ、剥離工程でモールド11との良好な剥離がなされるように、硬化後の樹脂層35の水に対する接触角を60°以上、好ましくは90°以上とすること、あるいは、モールド11の水に対する接触角を60°以上、好ましくは80°以上とすることが望ましく、硬化後の樹脂層35およびモールド11がともに上記の条件を満たしていてもよい。また、樹脂材料として熱硬化性あるいは光硬化性の樹脂材料を使用する場合、この樹脂充填工程で樹脂層35を硬化してもよく、また、後述の剥離工程で、モールド11を剥離する前に硬化してもよい。
【0036】
次に、濡れ性変化層形成工程において、インプリント用の基板21上に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する材料を用いて濡れ性変化層61を形成し、その後、液滴供給工程にて、接着剤41を濡れ性変化層61上に液滴で供給する(図6(B))。使用するインプリント用の基板21は、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができる。形成した濡れ性変化層61は、後工程で使用する接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲となるような表面濡れ性を有するものである。濡れ性変化層61の接着剤41に対する接触角が60°未満であると、滴下された接着剤41の液滴の高さを維持することが難しくなり、90°を越えると、滴下された接着剤41の液滴が濡れ性変化層61の表面を滑って位置ズレを生じることがあり好ましくない。このような濡れ性変化層61は、上述の実施形態における薄膜層51と同様に形成することができ、濡れ性が変化する材料については、後述する。
濡れ性変化層61上に液滴として供給する接着剤41は、後工程で接触する樹脂層35との密着性を良好なものとするために、樹脂層35に対する接触角が30°以下のものを使用する。
接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲となるように濡れ性変化層61の濡れ性が制御されているので、滴下された接着剤41の液滴は、濡れ性変化層61に対する濡れ性が悪く広がりが防止され、所望の高さを維持している。
【0037】
上記の接着剤41としては、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができ、樹脂層35、濡れ性変化層61との接触角を考慮して、適宜選択することができる。また、接着剤41を液滴として滴下供給する手段も、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができる。尚、図示例では、1箇所に接着剤41の液滴が1個示されているが、接着剤41の液滴を滴下する箇所の位置、数は適宜設定することができ、また、上述の図2に示す例と同様に、接着剤41の複数の液滴を滴下して供給してもよい。
次いで、濡れ性変化工程として、濡れ性変化層61の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて濡れ性変化層61′とする(図6(C))。上記の接着剤41の接触角の低下幅が30°未満であると、後工程の押し当て工程で形成される接着層42と濡れ性変化層61′との密着性が不十分なものとなり、樹脂層35からモールド11を引き離す際に、濡れ性変化層61′と接着層42との層間で剥離が生じて、モールド11に樹脂層35が付着するおそれがある。このような濡れ性の変化は、濡れ性変化層61の形成に使用する材料に応じて、濡れ性変化層61の温度変化、あるいは、濡れ性変化層61への光照射により行う。
このように濡れ性変化層61の濡れ性を変化させると、接着剤41の広がりが始まるので、接着剤41がモールド11の押し当てに支障を来さない高さを維持しているうちに、モールド11と基板21と接近させることが好ましい。
【0038】
尚、上記の濡れ性変化層61の濡れ性変化を、加熱による温度変化で行う場合であって、接着剤41が熱硬化性である場合には、接着剤41が熱硬化しないような温度範囲で濡れ性変化の加熱を行う必要がある。但し、後述のような材料であって、加熱により上記のような濡れ性変化を生じるような材料は、接触角が変化する高温側の温度が、通常、50℃以下であり、熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低いので、加熱による接着剤41の熱硬化が生じにくい条件で濡れ性変化を確実に行うことができる。
また、上記の濡れ性変化層61の濡れ性変化を、光照射で行う場合であって、接着剤41が光硬化性である場合には、照射する光は、濡れ性変化層61に含有される光触媒の励起波長域を含む光であって、接着剤41の感光波長域から外れる光を使用する。このような照射光としては、例えば、VUV(真空紫外線)、紫外線、可視光線、赤外線等を使用することができる。濡れ性変化層61への光照射は、接着剤41の液滴側から行ってもよく、また、モールド11側から行ってもよい。
【0039】
次に、押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、濡れ性変化層61′とモールド11上の樹脂層35との間に接着層42を形成する(図6(D))。モールド11上の樹脂層35が押し当てられた接着剤41の液滴は、上述のように、濡れ性変化層61′および樹脂層35に対する濡れ性が良いので、モールド11上の樹脂層35と基板21上の濡れ性変化層61′との間隙中を容易に広がり、均一な接着層42を形成する。
次いで、剥離工程にて、樹脂層35からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造37が形成された樹脂層35が基板21に転写される(図6(E))。また、接着層42あるいは濡れ性変化層61′の硬化が必要な場合には、モールド11と樹脂層35との剥離の前に硬化処理を施すことができる。接着層42や濡れ性変化層61′の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
【0040】
<第6の実施形態>
図7は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、上述の第5の実施形態と同様に、樹脂充填工程において、モールド11の面11aに樹脂材料を供給して樹脂層35を形成する(図7(A))。
また、上述の第5の実施形態と同様に、濡れ性変化層形成工程として、インプリント用の基板21上に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する材料を用いて濡れ性変化層61を形成し、その後、液滴供給工程として、接着剤41を濡れ性変化層61上に液滴で供給する(図7(B))。
次に、押し当て工程として、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、濡れ性変化層61とモールド11上の樹脂層35との間に接着層42を形成する(図7(C))。
次に、濡れ性変化工程として、濡れ性変化層61の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて濡れ性変化層61′とする(図7(D))。このような濡れ性変化層61′は接着剤41の濡れ性が良く、濡れ性変化層61′とモールド11上の樹脂層35との間に形成される接着層42の広がりが容易なものとなる。このような効果をより有効に奏するために、押し当て工程から濡れ性変化工程までの時間は短い程好ましく、押し当て工程と濡れ性変化工程を同時に進行してもよい。
このような濡れ性変化層61の濡れ性変化は、上述の第5の実施形態と同様に行うことができ、濡れ性変化層61が含有する濡れ性変化材料に応じて、濡れ性変化層61の温度変化、あるいは、濡れ性変化層61への光照射により行う。
【0041】
次いで、剥離工程にて、樹脂層35からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造37が形成された樹脂層35が基板21に転写される(図7(E))。また、接着層42あるいは濡れ性変化層61′の硬化が必要な場合には、モールド11と樹脂層35との剥離の前に硬化処理を施すことができる。接着層42や濡れ性変化層61′の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
尚、この実施形態においても、図2に示すように、接着剤41の複数の液滴を滴下して供給してもよい。
【0042】
上記の第5の実施形態および第6の実施形態で説明した本発明のインプリント方法では、接着剤41に対する濡れ性を悪い状態に制御した濡れ性変化層61上に接着剤41を液滴で供給するので、接着剤41の液滴の高さを所望の高さに維持することができる。そして、モールド11とインプリント用の基板21との接近時(インプリント用基板上の樹脂にモールドを押し当てた時)よりも前、あるいは、接近状態で、濡れ性変化層61の濡れ性を、接着剤41の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させて濡れ性変化層61′とするので、濡れ性変化層61′は接着剤41に対する濡れ性が良いものとなり、接着剤41の良好な広がりが得られ、厚みムラが防止され、これにより高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【0043】
<第7の実施形態>
図8は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、樹脂充填工程において、モールド11のパターン領域A1(凹凸構造13が形成されている領域)を有する面11aに樹脂材料を供給して樹脂層71を形成するとともに、モールド11の面11aの非パターン領域A2(凹凸構造13が形成されていない領域)の所望箇所を露出するように、開口部71aを形成する(図8(A))。したがって、この開口部71aに露出するモールド11の面11aは、樹脂層71で囲まれた状態となる。樹脂層71を形成する樹脂材料は、所望の樹脂材料を使用することができ、剥離工程でモールド11との良好な剥離がなされるように、水に対する接触角は60°以上、好ましくは90°以上である樹脂材料を使用することが望ましい。また、樹脂材料として熱硬化性あるいは光硬化性の樹脂材料を使用する場合、この樹脂充填工程で樹脂層71を硬化してもよく、後述の剥離工程で、モールド11を剥離する前に硬化してもよい。
【0044】
開口部71aを備えた樹脂層71の形成は、例えば、予めモールド11上の、接着剤41の液滴を滴下する箇所にのみ構造物を形成しておき、その後、モールド11に所望の樹脂材料を用いて樹脂層71を形成し、次いで、上記の構造物を除去して開口部71aを形成する方法、モールド11上に所望の樹脂材料を用いて樹脂層71を形成し、これをフォトリソグラフィーやナノインプリントを用いてパターンエッチングして開口部71aを形成する方法、モールド11上に所望の樹脂材料を用いて樹脂層71を形成し、接着剤41の液滴を滴下する箇所に相当する樹脂層71をバイト等の機械的な切削、あるいは、X線、電子線ビーム、レーザー等のエネルギー照射により除去して開口部71aを形成する方法等により行うことができる。上記のように形成した開口部71aに露出するモールド11の面11aの総面積S1は、樹脂層71の総面積S2よりも小さく、好ましくはS1がS2の30%以下となるように設定する。S1がS2以上であると、後で述べる剥離工程において、接着剤41と樹脂層71とのモールドに対する接触角が異なる場合、引き離す際に応力差が発生するため、モールド表面へ樹脂層71および接着剤41が付着する可能性が高まり好ましくない。そのため、本発明で更に好ましくは、開口部71aを一箇所のみとしたり、複数の開口部71aを一つの領域に集中させるのではなく、モールド11の面11aの非パターン領域A2内へ均一なピッチで複数の開口部71aを形成することが好ましく、一つの開口部71aの面積は樹脂層71の総面積S2の3%以下とするのがよい。尚、樹脂層71の開口部71aの大きさについては、後述の液滴供給工程のなかでも説明する。
【0045】
次に、液滴供給工程において、モールド11に対する接触角が60°〜90°の範囲であり、かつ、インプリント用の基板21および樹脂層71に対する接触角が30°以下である接着剤41の液滴を、樹脂層71の開口部71aに露出しているモールド11の面11a上に供給する(図8(B))。モールド11に対する接着剤41の接触角が60°未満であると、滴下された接着剤41の液滴の高さを維持することが難しくなり、90°を越えると、滴下された接着剤41の液滴がモールド11の露出面11aを滑って位置ズレを生じることがあり好ましくない。
このように樹脂層71の開口部71aに露出しているモールド11の面11a上に供給された接着剤41の液滴の高さを維持するためには、上記のように、モールド11に対する接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲であることが必要であるが、さらに、樹脂層71の開口部71aの内側の距離Lが重要である。すなわち、樹脂層71の開口部71aの内側の距離Lは、開口部71aに露出する面11a上にて高さを制御する接着剤41の液滴の直径をd、モールド11に対する接着剤41の接触角をθ1とし、接着剤41の液滴の制御しようとする高さをhとしたときに、下記の式(1)を満足するように設定することができる。
d < L ≦ 2h/tan(θ1/2) … 式(1)
【0046】
ここで、本発明では、接着剤41の液滴の高さの測定は、三次元形状計測器により開口部71aの上方から計測する方法や、側面からCCDカメラ等により測定する方法等、実測に基づく計測方法を用いることが好ましいが、予め接着剤41の表面張力が判明している場合には、滴下した液滴量から計算により求めることも可能である。
尚、樹脂層71の開口部71aの内側の距離Lは、開口部71aが円形の場合には直径であり、矩形等の他の形状の場合には最小開口幅の長さとする。
次に、押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、モールド11および樹脂層71と基板21との間に接着層42を形成する(図8(C))。基板21が押し当てられた接着剤41の液滴は、上述のように、基板21および樹脂層71に対する濡れ性が良く、このため、モールド11および樹脂層71と基板21との間隙中を容易に広がり、均一な接着層42を形成する。尚、使用するインプリント用の基板21は、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができる。
【0047】
次いで、剥離工程にて、接着層42および樹脂層71からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造73が形成された樹脂層71が基板21に転写される(図8(D))。また、接着層42あるいは樹脂層71の硬化が必要な場合には、モールド11との剥離の前に硬化処理を施すことができる。接着層42や樹脂層71の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
最後に、本実施形態の変例として、樹脂層71の水に対する接触角と開口部71aに露出しているモールド11の水に対する接触角との関係が逆転する場合もあることを説明する。すなわち、開口部71aに露出しているモールド11の水に対する接触角は60°以下、好ましくは30°以下であり、樹脂層71の水に対する接触角は60〜90°の範囲となる場合である。このとき、接着剤41の液滴は、開口部71aを取り囲む樹脂層71により広がりを抑制されるため、液滴に対する開口部71aの内側の距離Lは、上記の式(1)の右辺だけを満たせばよい。
【0048】
また、開口部71aに露出するモールド11の面11aの総面積S1は、樹脂層71の総面積S2よりも大きく、好ましくはS2がS1の30%以下となるように設定する。S1がS2以下であると、剥離工程において、接着剤41と樹脂層71とのモールドに対する接触角が異なる場合、引き離す際に応力差が発生するため、モールド表面へ樹脂層71および接着剤41が付着する可能性が高まり好ましくない。そのため、本発明で更に好ましくは、開口部71aを一箇所のみとしたり、複数の開口部71aを一つの領域に集中させるのではなく、モールド11の面11aの非パターン領域A2内へ均一なピッチで複数の開口部71aを形成することが好ましく、一つの開口部71aの面積は樹脂層71の総面積S2の3%以下とするのがよい。
【0049】
<第8の実施形態>
図9は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、樹脂充填工程において、モールド11の面11aに樹脂材料を供給して樹脂層71を形成する(図9(A))。モールド11の面11aは、凹凸構造13が形成されているパターン領域A1と、凹凸構造13が形成されていない非パターン領域A2からなり、図示例では、モールド11の面11aの全面に樹脂層71が形成されている。樹脂層71を形成する樹脂材料は、所望の樹脂材料を使用することができ、剥離工程でモールド11との良好な剥離がなされるように、水に対する接触角は60°以上、好ましくは90°以上である樹脂材料を使用することが望ましい。また、樹脂材料として熱硬化性あるいは光硬化性の樹脂材料を使用する場合、この樹脂充填工程で樹脂層71を硬化してもよく、後述の剥離工程で、モールド11を剥離する前に硬化してもよい。
【0050】
次に、液滴供給工程において、樹脂層71の所望箇所に液滴保持層81を形成し(図9(B))、この液滴保持層81上に接着剤41の液滴を供給する(図9(C))。使用する接着剤41は、インプリント用の基板21および樹脂層71に対する接触角が30°以下のものとする。このような接着剤41は、上述の第1の実施形態で挙げた接着剤の中から、基板21、樹脂層71の材質に応じて適宜選択することができる。また、液滴保持層81は、使用する接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲である材料を用いて形成することができる。液滴保持層81に対する接着剤41の接触角が60°未満であると、滴下された接着剤41の液滴の高さを維持することが難しくなり、90°を越えると、滴下された接着剤41の液滴が液滴保持層81上を滑って位置ズレを生じることがあり好ましくない。尚、液滴保持層81を構成する材料については、後述する。
【0051】
液滴保持層81の形成は、例えば、予め樹脂層71上の、接着剤41の液滴を滴下する箇所にのみ開口を有する構造物を形成しておき、その後、樹脂層71上に所望の材料を用いて液滴保持層を形成し、次いで、上記の構造物を除去して液滴保持層81を形成する方法、樹脂層71上に所望の材料を用いて液滴保持層を形成し、これをフォトリソグラフィーやナノインプリントを用いてパターンエッチングして液滴保持層81を形成する方法、樹脂層71上に所望の材料を用いて液滴保持層を形成し、接着剤41の液滴を滴下する箇所に相当する液滴保持層のみを残すようにバイト等の機械的な切削、あるいは、X線、電子線ビーム、レーザー等のエネルギー照射により不要な部分を除去して液滴保持層81を形成する方法等により行うことができる。上記のように形成した液滴保持層81の総面積S1は、液滴保持層81が形成されずに露出している樹脂層71の総面積S2よりも小さく、好ましくはS1がS2の30%以下となるように設定する。また、S1のS2に対する値の下限は、液滴保持層81の厚みt1と、滴下した接着剤41の総量Vに依存する。ここで、液滴保持層81の厚みt1は、滴下した接着剤41の液滴の総量がVであるとき、下記の式(2)を満たす必要がある。これは、後工程の剥離工程にて、基板21とともに樹脂層71をモールド11から引き離す際、樹脂層71の全領域へ接着剤41の液滴が濡れ広がることが必要となるが、そのためには、少なくとも液滴保持層81が形成されずに露出している樹脂層71の全域を、接着剤41が液滴保持層81の厚みt1で満たすことで、基板21と樹脂層71とが接着剤41を介して密着することが最低限必要な条件となるからである。この条件が満たされない場合、後述する押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させたときに、露出する樹脂層71と基板21とが対向して形成される空間を接着剤41で充填しきれず、基板21と樹脂層71との間には空隙が生まれ、樹脂層71をモールド11から引き離す際、膜剥がれが起きるなど、欠陥の発生が起こることになる。したがって、下記の式(2)にて両辺が等しい場合に、S1がS2の30%であり、接着剤41の液滴の総量Vが多くなるか、または、液滴保持層81の厚みt1が薄くなることで、S1のS2に対する値を減少させることができる。
S2 × t1 ≦ V … 式(2)
【0052】
本発明で更に好ましくは、液滴保持層81を一箇所のみとしたり、複数の液滴保持層81を一つの領域に集中させるのではなく、樹脂層71の全域へ均一なピッチで複数の液滴保持層81を形成することが好ましく、一つの液滴保持層81の面積は、液滴保持層81が形成されずに露出している樹脂層71の総面積S2の3%以下とするのがよい。
また、液滴保持層81の大きさLは、液滴保持層81上で高さを制御する接着剤41の液滴の直径をd、液滴保持層81に対する接着剤41の接触角をθ2とし、接着剤41の液滴の制御しようとする高さをhとしたときに、下記の式(3)を満足するように設定することができる。
d < L ≦ 2h/tan(θ2/2) … 式(3)
尚、液滴保持層81の大きさLは、液滴保持層81が円形の場合には直径であり、矩形等の他の形状の場合には最小幅の長さとする。
次に、押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、樹脂層71および液滴保持層81と基板21との間に接着層42を形成する(図9(D))。基板21が押し当てられた接着剤41の液滴は、上述のように、基板21および樹脂層71に対する濡れ性が良いので、樹脂層71および液滴保持層81と基板21との間隙中を容易に広がり、均一な接着層42を形成する。尚、使用するインプリント用の基板21は、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができる。
【0053】
次いで、剥離工程にて、樹脂層71からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造73が形成された樹脂層71が基板21に転写される(図9(E))。また、接着層42あるいは樹脂層71の硬化が必要な場合には、モールド11と樹脂層71との剥離の前に硬化処理を施すことができる。接着層42や樹脂層71の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。また、液滴保持層81は、濡れ性(接着剤41の接触角)を変化させることができる層であってもよい。
上記の第7の実施形態および第8の実施形態で説明した本発明のインプリント方法では、モールド11に樹脂材料を供給して樹脂層71を形成し、この樹脂層71に対する接触角が30°以下である濡れ性の良い接着剤41を液滴として供給するが、接着剤41が滴下される部位は、樹脂層71が存在しないモールド表面11a、あるいは、樹脂層71上に形成した液滴保持層81であり、かつ、このような部位は、接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲に設定されているので、接着剤41に対する濡れ性が悪く、供給された接着剤41の液滴の高さを維持することができる。そして、使用するインプリント用の基板21に対する接着剤41の接触角が30°以下であるので、モールド11と基板21とを接近させるときの機械的精度(平坦度、平行度)の不足に起因した接着剤の広がりの不均一性等が防止され、モールド11と基板21との対向面における接着剤41の良好な広がりが得られ、樹脂層71を容易かつ確実に基板に固着して転写することができ、高い機械精度を要求されることなく高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【0054】
ここで、液滴保持層81に用いられる材料について説明する。液滴保持層81では、第1〜第6の実施形態で説明した光照射で濡れ性が変化する樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61に含有させることができる光触媒とオルガノポリシロキサンなどが使用可能であり、これについては後述する。また、本実施形態の場合、液滴保持層81は、図9を参照しながら説明したように、必ずしも接触角を変化させる必要はない。これは、接着剤41により被覆され、上記の式(2)を満たすことで、樹脂層71をモールド11から剥離することが可能となるためである。この場合、液滴保持層81は、水に対する接触角が60°以上、好ましくは90°以上である樹脂材料を使用すればよく、このような材料としては、例えば、パーフルオロポリエーテル、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有樹脂や、ヘキサメチルジシラザンやオクタデシルトリクロロシラン等のアルキル鎖を有する高分子などが挙げられる。また、これらを成分として含む材料も使用することができる。
【0055】
<第9の実施形態>
図10は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、樹脂充填工程にて、モールド11のパターン領域A1(凹凸構造13が形成されている領域)を有する面11aに樹脂材料を供給して、パターン領域A1を被覆するとともに、モールド11の面11aの非パターン領域A2(凹凸構造13が形成されていない領域)を露出するように樹脂層75を形成する(図10(A))。したがって、樹脂層75は、周囲にモールド11の面11aが露出している状態となる。樹脂層75を形成する樹脂材料は、所望の樹脂材料を使用することができ、剥離工程でモールド11との良好な剥離がなされるように、水に対する接触角は60°以上、好ましくは90°以上である樹脂材料を使用することが望ましい。また、樹脂材料として熱硬化性あるいは光硬化性の樹脂材料を使用する場合、この樹脂充填工程で樹脂層75を硬化してもよく、後述の剥離工程で、モールド11を剥離する前に硬化してもよい。
【0056】
このような樹脂層75の形成は、例えば、予めモールド11上の、接着剤41の液滴を滴下する箇所にのみ開口を有する構造物を形成しておき、その後、モールド11上に所望の樹脂材料を用いて樹脂層を形成し、次いで、上記の構造物を除去して樹脂層75を形成する方法、モールド11上に所望の樹脂材料を用いて樹脂層を形成し、これをフォトリソグラフィーやナノインプリントを用いてパターンエッチングして樹脂層75を形成する方法、モールド11上に所望の樹脂材料を用いて樹脂層を形成し、接着剤41の液滴を滴下する箇所に相当する樹脂層のみを残すようにバイト等の機械的な切削、あるいは、X線、電子線ビーム、レーザー等のエネルギー照射により不要な部分を除去して樹脂層75を形成する方法等により行うことができる。上記のように形成した樹脂層75の総面積S1は、露出するモールド11の面11aの総面積S2よりも小さく、好ましくはS1がS2の30%以下となるように設定する。また、S1のS2に対する値の下限は、樹脂層75の厚みt2と、滴下した接着剤41の総量Vに依存する。ここで、樹脂層75の厚みt2は、滴下した接着剤41の液滴の総量がVであるとき、下記の式(4)を満たす必要がある。これは、後工程の剥離工程にて、基板21とともに樹脂層75をモールド11から引き離す際、樹脂層75の全領域へ接着剤41の液滴が濡れ広がることが必要となるが、そのためには、露出するモールド11の面11aの全域を、接着剤41が樹脂層75の厚みt2で満たすことで、基板21と樹脂層75とが接着剤41を介して密着することが最低限必要な条件となるからである。この条件が満たされない場合、後述する押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させたときに、露出するモールド11の面11aと基板21とが対向して形成される空間を接着剤41で充填しきれず、基板21と樹脂層75との間に接着剤41が介在しない部位が生まれ、樹脂層75をモールド11から引き離す際、膜剥がれが起きるなど、欠陥の発生が起こることになる。したがって、下記の式(4)にて両辺が等しい場合に、S1がS2の30%であり、接着剤41の液滴の総量Vが多くなるか、または、樹脂層75の厚みt2が薄くなることで、S1のS2に対する値を減少させることができる。
S2 × t2 ≦ V … 式(4)
【0057】
本発明で更に好ましくは、樹脂層75を一箇所のみとしたり、複数の樹脂層75を一つの領域に集中させるのではなく、露出するモールド11の面11aの全域へ均一なピッチで複数の樹脂層75を形成することが好ましく、一つの樹脂層75の面積は、露出するモールド11の面11aの総面積S2の3%以下とするのがよい。
尚、樹脂層75の1つあたりの大きさについては、後述の液滴供給工程のなかで説明する。
次に、液滴供給工程において、樹脂層75に対する接触角が60°〜90°の範囲であり、かつ、インプリント用の基板21に対する接触角が30°以下である接着剤41の液滴を、樹脂層75上に供給する(図10(B))。樹脂層75に対する接着剤41の接触角が60°未満であると、滴下された接着剤41の液滴の高さを維持することが難しくなり、90°を越えると、滴下された接着剤41の液滴が樹脂層75上を滑って位置ズレを生じることがあり好ましくない。
【0058】
樹脂層75上に供給された接着剤41の液滴の高さを維持するためには、上記のように、樹脂層75に対する接着剤41の接触角が60°〜90°の範囲であることが必要であるが、さらに、樹脂層71の大きさLが重要である。すなわち、樹脂層75の大きさLは、樹脂層75上で高さを制御する接着剤41の液滴の直径をd、樹脂層75に対する接着剤41の接触角をθ3とし、接着剤41の液滴の制御しようとする高さをhとしたときに、下記の式(5)を満足するように設定することができる。
d < L ≦ 2h/tan(θ3/2) … 式(5)
尚、樹脂層75の大きさLは、樹脂層75が円形の場合には直径であり、矩形等の他の形状の場合には最小幅の長さとする。
【0059】
次に、押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、モールド11および樹脂層75と基板21との間に接着層42を形成する(図10(C))。基板21が押し当てられた接着剤41の液滴は、上述のように、基板21に対する濡れ性が良く、このため、モールド11および樹脂層75と基板21との間隙中を容易に広がり、均一な接着層42を形成する。尚、使用するインプリント用の基板21は、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができる。
次いで、剥離工程にて、接着層42および樹脂層75からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造77が形成された樹脂層75が基板21に転写される(図9(E))。また、接着層42あるいは樹脂層75の硬化が必要な場合には、モールド11との剥離の前に硬化処理を施すことができる。接着層42や樹脂層75の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
尚、樹脂層75に用いる材料は、上記のように、水に対する接触角が60°以上、好ましくは90°以上である樹脂材料を使用することができ、例えば、パーフルオロポリエーテル、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有樹脂や、ヘキサメチルジシラザンやオクタデシルトリクロロシラン等のアルキル鎖を有する高分子などが挙げられる。また、これらを成分として含む材料も使用することができる。
【0060】
<第10の実施形態>
図11は、本発明のインプリント方法の他の実施形態を説明するための工程図である。
本実施形態では、まず、樹脂充填工程において、モールド11のパターン領域A1を有する面11aに樹脂材料を供給して樹脂層75を形成する(図11(A))。モールド11の面11aは、凹凸構造13が形成されているパターン領域A1と、凹凸構造13が形成されていない非パターン領域A2からなり、図示例では、モールド11の面11aの全面に樹脂層75が形成されている。樹脂層75を形成する樹脂材料は、所望の樹脂材料を使用することができ、剥離工程でモールド11との良好な剥離がなされるように、水に対する接触角は60°以上、好ましくは90°以上である樹脂材料を使用することが望ましい。また、樹脂材料として熱硬化性あるいは光硬化性の樹脂材料を使用する場合、この樹脂充填工程で樹脂層75を硬化してもよく、後述の剥離工程で、モールド11を剥離する前に硬化してもよい。
次に、液滴供給工程として、樹脂層75の所望箇所が露出するように、開口部91aを有する介在層91を形成し(図11(B))、この介在層91の開口部91aに露出する樹脂層75上に接着剤41の液滴を供給する(図11(C))。したがって、この開口部91aに露出する樹脂層75は、介在層91で囲まれた状態となる。使用する接着剤41は、インプリント用の基板21に対する接触角が30°以下、樹脂層75に対する接触角が60°〜90°の範囲のものとする。このような接着剤41は、上述の第1の実施形態で挙げた接着剤の中から、基板21および樹脂層75の材質に応じて適宜選択することができる。また、介在層91は、使用する接着剤41の接触角が30°以下である材料を用いて形成することができ、使用する材料については、後述する。樹脂層75に対する接着剤41の接触角が60°未満であると、滴下された接着剤41の液滴の高さを維持することが難しくなり、90°を越えると、滴下された接着剤41の液滴が樹脂層75上を滑って位置ズレを生じることがあり好ましくない。
【0061】
開口部91aを有する介在層91の形成は、例えば、予め樹脂層75上の、接着剤41の液滴を滴下する箇所にのみ構造物を形成しておき、その後、樹脂層75に所望の材料を用いて介在層91を形成し、次いで、上記の構造物を除去して開口部91aを形成する方法、樹脂層75上に所望の材料を用いて介在層91を形成し、これをフォトリソグラフィーやナノインプリントを用いてパターンエッチングして開口部91aを形成する方法、樹脂層75上に所望の材料を用いて介在層91を形成し、接着剤41の液滴を滴下する箇所に相当する介在層91をバイト等の機械的な切削、あるいは、X線、電子線ビーム、レーザー等のエネルギー照射により除去して開口部91aを形成する方法等により行うことができる。上記のように形成した開口部91aに露出する樹脂層75の総面積S1は、介在層91の総面積S2よりも小さく、好ましくはS1がS2の30%以下となるように設定する。また、S1のS2に対する値の下限は、介在層91の厚みt3と、滴下した接着剤41の総量Vに依存する。ここで、介在層91の厚みt3は、滴下した接着剤41の液滴の総量がVであるとき、下記の式(6)を満たす必要がある。これは、後工程の剥離工程にて、基板21とともに樹脂層75をモールド11から引き離す際、介在層91の全領域へ接着剤41の液滴が濡れ広がることが必要となるが、そのためには、少なくとも開口部91aに露出している樹脂層75の全域を、接着剤41が介在層91の厚みt3で満たすことで、基板21と介在層91とが接着剤41を介して密着することが最低限必要な条件となるからである。この条件が満たされない場合、後述する押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させたときに、樹脂層75と基板21とが対向して形成される空間を接着剤41で充填しきれず、基板21と介在層91との間に接着剤41が介在しない部位が生まれ、樹脂層75をモールド11から引き離す際、膜剥がれが起きるなど、欠陥の発生が起こることになる。したがって、下記の式(6)にて両辺が等しい場合に、S1がS2の30%であり、接着剤41の液滴の総量Vが多くなるか、または、介在層91の厚みt3が薄くなることで、S1のS2に対する値を減少させることができる。
S2 × t3 ≦ V … 式(6)
【0062】
本発明で更に好ましくは、開口部91aを一箇所のみとしたり、複数の開口部91aを一つの領域に集中させるのではなく、樹脂層75の全域へ均一なピッチで複数の開口部91aを形成することが好ましく、一つの開口部91aの面積は、介在層91の総面積S2の3%以下とするのがよい。
また、介在層91の開口部91aの内側の距離Lは、開口部91aに露出する樹脂層75上で高さを制御する接着剤41の液滴の直径をd、樹脂層75に対する接着剤41の接触角をθ4とし、接着剤41の液滴の制御しようとする高さをhとしたときに、下記の式(7)を満足するように設定することができる。
d < L ≦ 2h/tan(θ4/2) … 式(7)
尚、開口部91aの内側の距離Lは、開口部91aが円形の場合には直径であり、矩形等の他の形状の場合には最小幅の長さとする。
次に、押し当て工程において、モールド11とインプリント用の基板21とを接近させて、樹脂層75および介在層91と基板21との間に接着層42を形成する(図11(D))。基板21が押し当てられた接着剤41の液滴は、上述のように、基板21および介在層91に対する濡れ性が良いので、樹脂層75および介在層91と基板21との間隙中を容易に広がり、均一な接着層42を形成する。尚、使用するインプリント用の基板21は、上記の第1の実施形態と同様のものを挙げることができる。
【0063】
次いで、剥離工程にて、樹脂層75からモールド11を引き離すことにより、モールド11が有する凹凸構造13が反転した凹凸構造77が形成された樹脂層75が基板21に転写される(図11(E))。また、接着層42あるいは樹脂層75の硬化が必要な場合には、モールド11と樹脂層75との剥離の前に硬化処理を施すことができる。接着層42や樹脂層75の硬化は、材料が熱硬化性の場合には、加熱により行い、また、材料が光硬化性の場合には、モールド11側から光を照射することにより行うことができる。
ここで、介在層91に用いられる材料について説明する。介在層91では、第1〜第6の実施形態で説明した光照射で濡れ性が変化する樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61に含有させることができる光触媒とオルガノポリシロキサンなどが使用可能であり、これについては後述する。また、本実施形態の場合、介在層91は、図11を参照しながら説明したように、必ずしも接触角を変化させる必要はない。これは、接着剤41により被覆され、上記の式(6)を満たすことで、樹脂層75をモールド11から剥離することが可能となるためである。この場合、介在層91は、水に対する接触角が60°以上、好ましくは90°以上である樹脂材料を使用すればよく、このような材料としては、例えば、パーフルオロポリエーテル、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有樹脂や、ヘキサメチルジシラザンやオクタデシルトリクロロシラン等のアルキル鎖を有する高分子などが挙げられる。また、これらを成分として含む材料も使用することができる。
【0064】
また、本実施形態も、第7の実施形態と同様に、介在層91の水に対する接触角と開口部71aに露出している樹脂層75の水に対する接触角との関係が逆転し、開口部91aに露出する樹脂層75の総面積S1と、介在層91の総面積S2の割合が逆転する変例が成り立つ。
上記の第9の実施形態および第10の実施形態で説明した本発明のインプリント方法では、モールド11に樹脂材料を供給して樹脂層75を形成し、この樹脂層75に対する接触角が60°〜90°の範囲である濡れ性の悪い接着剤41を液滴として供給するが、接着剤41が滴下される部位は、モールド11の表面の一部を被覆する樹脂層75上、あるいは、接着剤41の接触角が30°以下である介在層91で囲まれた樹脂層75上であり、かつ、このような樹脂層75の部位は、接着剤41に対する濡れ性が悪いので、供給された接着剤41の液滴の高さを維持することができる。そして、使用するインプリント用の基板21に対する接着剤41の接触角が30°以下であるので、モールド11と基板21とを接近させるときの機械的精度(平坦度、平行度)の不足に起因した接着剤の広がりの不均一性等が防止され、モールド11と基板21との対向面における接着剤41の良好な広がりが得られ、樹脂層75を容易かつ確実に基板21に固着して転写することができ、高い機械精度を要求されることなく高精細なインプリント転写を安定して行うことができる。
【0065】
ここで、上記の第1〜第6の実施形態で説明した光照射で濡れ性が変化する樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61に含有させることができる光触媒とオルガノポリシロキサンについて説明する。
使用する光触媒としては、照射された光を吸収したときに、周囲の有機物の化学構造に変化を及ぼすものであり、例えば、光半導体として知られている酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ビスマス(Bi23)、酸化鉄(Fe23)等のような金属酸化物を挙げることができ、これらの1種、あるいは2種以上の組み合わせで使用することができる。
このような光触媒のなかで、本発明では特に酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用することができる。酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり、本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。このアナターゼ型の酸化チタンは励起波長が380nm以下にあり、また、粒径が小さいものの方が光触媒反応が効率的に起るので好ましく、例えば、平均粒径が50nm以下、より好ましくは20nm以下のものが好適である。このようなアナターゼ型の酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製 STS−02(平均粒径7nm))、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製 TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
【0066】
また、使用するオルガノポリシロキサンは、光触媒により濡れ性が変化し、かつ、光触媒の作用により劣化、分解し難い主鎖を有するものであり、例えば、(1)ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)撥水性や撥油性に優れた反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
上記の(1)の場合、一般式 YnSiX(4-n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基またはエポキシ基を示し、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。尚、Yで示される基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましく、また、Xで示されるアルコキシル基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
【0067】
具体的には、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリt−ブトキシシラン;エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリt−ブトキシシラン;n−プロピルトリクロルシラン、n−プロピルトリブロムシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリt−ブトキシシラン;n−ヘキシルトリクロルシラン、n−ヘキシルトリブロムシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリイソプロポキシシラン、n−ヘキシルトリt−ブトキシシラン;n−デシルトリクロルシラン、n−デシルトリブロムシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−デシルトリイソプロポキシシラン、n−デシルトリt−ブトキシシラン;n−オクタデシルトリクロルシラン、n−オクタデシルトリブロムシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリイソプロポキシシラン、n−オクタデシルトリt−ブトキシシラン;フェニルトリクロルシラン、フェニルトリブロムシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリt−ブトキシシラン;テトラクロルシラン、テトラブロムシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン;ジメチルジクロルシラン、ジメチルジブロムシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン;ジフェニルジクロルシラン、ジフェニルジブロムシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン;フェニルメチルジクロルシラン、フェニルメチルジブロムシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン;トリクロルヒドロシラン、トリブロムヒドロシラン、トリメトキシヒドロシラン、トリエトキシヒドロシラン、トリイソプロポキシヒドロシラン、トリt−ブトキシヒドロシラン;ビニルトリクロルシラン、ビニルトリブロムシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリt−ブトキシシラン;トリフルオロプロピルトリクロルシラン、トリフルオロプロピルトリブロムシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−メタアクリロキシプロピルメチルジメトキシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−アミノプロピルメチルジメトキシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリt−ブトキシシラン;γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリt−ブトキシシラン;β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシラン;および、これらの部分加水分解物;および、これらの混合物を使用することができる。
また、特にフルオロアルキル基を含有するポリシロキサンを好ましく用いることができ、具体的には、下記のフルオロアルキルシランの1種または2種以上の加水分解縮合物、共加水分解縮合物が挙げられ、一般にフッ素系シランカップリング剤として知られたものを使用することができる。
CF3(CF23CH2CH2Si(OCH33
CF3(CF25CH2CH2Si(OCH33
CF3(CF27CH2CH2Si(OCH33
CF3(CF29CH2CH2Si(OCH33
(CF3)CF(CF24CH2CH2Si(OCH33
(CF3)CF(CF26CH2CH2Si(OCH33
(CF3)CF(CF28CH2CH2Si(OCH33
CF3(C64)C24Si(OCH33
CF3(CF23(C64)C24Si(OCH33
CF3(CF25(C64)C24Si(OCH33
CF3(CF27(C64)C24Si(OCH33
CF3(CF23CH2CH2SiCH3(OCH32
CF3(CF25CH2CH2SiCH3(OCH32
CF3(CF27CH2CH2SiCH3(OCH32
CF3(CF29CH2CH2SiCH3(OCH32
(CF3)CF(CF24CH2CH2SiCH3(OCH32
(CF3)CF(CF26CH2CH2SiCH3(OCH32
(CF3)CF(CF28CH2CH2SiCH3(OCH32
CF3(C64)C24SiCH3(OCH32
CF3(CF23(C64)C24SiCH3(OCH32
CF3(CF25(C64)C24SiCH3(OCH32
CF3(CF27(C64)C24SiCH3(OCH32
CF3(CF23CH2CH2Si(OCH2CH33
CF3(CF25CH2CH2Si(OCH2CH33
CF3(CF27CH2CH2Si(OCH2CH33
CF3(CF29CH2CH2Si(OCH2CH33;および
CF3(CF27SO2N(C25)C24CH2Si(OCH33
【0068】
また、上記の(2)の反応性シリコーンとしては、下記のような一般式で表される骨格を有する化合物を挙げることができる。
【化1】

ただし、nは2以上の整数であり、R1、R2はそれぞれ炭素数1〜10の置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アニールあるいはシアノアルキル基であり、モル比で全体の40%以下がビニル、フェニル、ハロゲン化フェニルである。また、R1、R2がメチル基のものが表面エネルギーが最も小さくなるので好ましく、モル比でメチル基が60%以上であることが好ましい。また、鎖末端もしくは側鎖には、分子鎖中に少なくとも1個以上の水酸基等の反応性基を有することが好ましい。
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応を生じない安定なオルガノシリコーン化合物を混合してもよい。
また、上記の樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61には、光触媒、オルガノポリシロキサンとともに、界面活性剤を含有させることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製 NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製 ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製 サーフロンS−141,145、大日本インキ化学工業(株)製 メガファックF−141,144、ネオス(株)製 フタージェントF−200、F−251、ダイキン工業(株)製 ユ二ダインDS−401、402、スリーエム(株)製 フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
【0069】
さらに、上記の樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61には、上記の界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を含有させることができる。
このような樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61は、上述した成分を必要に応じて他の添加物とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液をモールド11上、樹脂層31上、あるいは、インプリント用の基板21上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ビードコーティング法等の公知の塗布方法により行うことができる。
【0070】
このような樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。光触媒の含有量が5重量%未満であると、濡れ性変化が不十分となったり、濡れ性変化に要する時間が長くなり、60重量%を超えると、樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61の機械的強度が不十分となり好ましくない。
次に、温度変化で濡れ性が変化する上記の樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61に含有させる材料について説明する。
まず、温度が高くなることにより水に対する接触角が大きくなる材料として、例えば、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリ−N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド等のポリ−N−置換アクリルアミドや、ポリ−N−置換メタクリルアミド、ポリエーテル類やメチルセルロース等を挙げることができる。また、温度が高くなることにより水に対する接触角が小さくなる材料として、例えば、スルホベタインポリマー等を挙げることができる。また、温度変化により表面の濡れ性が変化する材料として、上記のN−置換アクリルアミド構造等の構造を含むポリマーも挙げることができる。特に、接着剤に使用する材料が、上記のような構造のみを成分とした濡れ性変化層を損なう場合には、架橋剤等を用いてポリマー構造を形成して用いることが好ましい。このような材料の中から、使用する接着剤の接触角が、当初の60°〜90°の範囲から、低下幅が30°以上となるように変化可能な材料を適宜選択して使用することができる。
【0071】
このような濡れ性変化層3は、上述した成分を必要に応じて他の添加物とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液をモールド11上、樹脂層31上、あるいは、インプリント用の基板21上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、水、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等を挙げることができる。これらの溶剤は単独で、または2種以上の組み合わせで使用することができる。塗布はスピンコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ビードコーティング法等の公知の塗布方法により行うことができる。
【0072】
温度変化により表面の濡れ性が変化する材料の樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61中の含有量は、所望の溶液粘度、塗膜厚さ等を考慮して適宜設定することができ、例えば、50〜95重量%の範囲で設定することができ、この含有量が50重量%未満であると、濡れ性変化が不十分となったり、濡れ性変化に要する時間が長くなり、95重量%を超えると、樹脂層31、薄膜層51、濡れ性変化層61の機械的強度が低下したり、接着剤が含有する溶剤等に対する耐久性が低下することがある。
上述の実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。また、本発明のインプリント方法で使用するモールドも、図示例のような形状に限定されるものではなく、例えば、メサ構造を有するモールドであってもよい。
【実施例】
【0073】
次に、より具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
まず、厚み6.35mmの石英ガラスを用いてモールドを作製した。このモールドは、大きさが25mm×25mmであり、深さ100nm、ライン/スペースが50nm/50nmの凹凸構造のパターンを備えるものであった。
(樹脂充填工程)
上記にように作製したモールドの凹凸構造のパターンを備える面に、光照射によって濡れ性変化可能な樹脂層を下記の手順で調製した。まず、JSR(株)製 グラスカHPC7002を30g、JSR(株)製 グラスカHPC402H(アルキルアルコキシシラン)を10g混合し、この塗布液を上記のモールドの凹凸構造のパターンを備える面にスピンコーティング法で塗布し、23℃で5分間静置して凹凸構造への充填を促した後、乾燥(150℃、10分間)した。次に、JSR(株)製 グラスカHPC7002を15g、JSR(株)製 グラスカHPC402H(アルキルアルコキシシラン)を5g、チタニアゾル(日産化学(株)製 TA−15(平均粒径12nm))を3g混合し、この塗布液を上記の塗布層上にスピンコーティング法で塗布した。これを乾燥(150℃、10分間)することにより、加水分解、重縮合反応を進行させ、光触媒とオルガノポリシロキサンを含有する濡れ性変化可能な樹脂層を形成した。この樹脂層は、モールドの非パターン領域(凹凸構造のパターンが形成されていない部位)での厚みが3μmであった。
【0074】
(液滴供給工程)
上記のように形成した樹脂層上に、1滴の滴下量が0.01μLとなるように光硬化性の接着剤(東洋合成工業(株)製 PAK−01)を5列×5列(計25箇所)に5mmピッチで滴下した。この接着剤の滴下はインクジェット装置を用いて行い、要した時間は30秒であり、最初に滴下された液滴の滴下直後の高さは163μmであり、30秒経過後(最後の液滴が滴下されたとき)の高さは162μmであり、殆ど変化はなく、25個の液滴の高さは均一なものとなった。尚、液滴の高さの測定は、NewView7200(ZYGO社製)を用いて行った。
上記の接着剤は、樹脂層に対する接触角が83°であり、インプリント用の基板(厚み625μmの石英ウエハ(150mmφ)に信越化学工業(株)製 FS−10を塗布したもの)に対する接触角が28°であった。尚、接触角の測定は、マイクロシリンジから液滴を対象物に滴下して30秒後に接触角測定器(協和界面科学(株)製 CA−Z型)を用いて測定した。
【0075】
(押し当て工程)
インプリント用の基板をインプリント装置の基板ステージに載置し、接着剤の滴下終了後、直ちにモールドの接着剤の液滴と基板を押し当て、樹脂層と基板との間に接着層を形成した。
【0076】
(濡れ性変化工程)
上記の押し当て工程の後、樹脂層にインプリント装置の照明光学系から平行光(ピーク波長が172nmの真空紫外線)を130mJ/cm2の条件で照射した。これにより、樹脂層に対する接着剤の濡れ性を変化させた。押し当て工程を行わなかった別のサンプルにて接触角の計測を行ったところ、接触角は83°から28°へ低下(低下幅65°)することを確認した。
【0077】
(剥離工程)
モールドと基板を上記のように接近させた状態で、インプリント装置の照明光学系から平行光(ピーク波長が365nmの紫外線)をモールド側に100mJ/cm2の条件で照射した。これにより、光硬化性の樹脂層と接着層を硬化させた。
その後、硬化した樹脂層からモールドを引き離した。このようにして形成されたサンプルについて、欠陥率を下記のように測定した。その結果、欠陥率は0.06であり、良好なインプリント転写が行われたことが確認された。
【0078】
(欠陥率の測定)
光学顕微鏡でパターン領域内を5箇所観察し、一つの観察箇所(1.0mm×1.0mm)内で、樹脂層の剥がれや、パターン欠損が確認できた面積の割合を測定した。したがって、この欠陥率が大きい程、欠陥が多いことを意味し、本発明では、欠陥率が0.1未満を実用レベルと判定する。
【0079】
[実施例2]
(樹脂充填工程)
まず、厚み6.35mmの石英ガラスを用いてモールドを作製した。このモールドは、大きさが25mm×25mmであり、深さ100nm、ライン/スペースが50nm/50nmの凹凸構造のパターンを備える100μm×100μmの正方形のパターン領域が、5mmピッチで4列×4列(計16箇所)に形成されたものであった。このモールドにダイキン工業(株)製 オプツールDSXを塗布し、モールド表面の水に対する接触角を実施例1と同様の測定方法で測定したところ、105°であった。
次に、上記のモールドの凹凸構造のパターンを備える面に、光硬化性の樹脂層形成用の塗布液(東洋合成工業(株)製 PAK−01)をスピンコーティング法で塗布し、乾燥(90℃、120秒間)した。その後、円形の遮光部を有するマスクを介して、インプリント装置の照明光学系から平行光(ピーク波長が365nmの紫外線)を100mJ/cm2の条件で塗布膜に照射して硬化させ、未硬化の部分をアセトンで除去した。これにより、内側の距離(直径)が250μmである円形の開口部が、5mmピッチで5列×5列(計25箇所)に形成された樹脂層を形成した。この樹脂層の上記の開口部は、モールドの非パターン領域(凹凸構造のパターンが形成されていない部位)に形成されたものであった。
また、樹脂層の水に対する接触角を実施例1と同様の測定方法で測定したところ、83°であった。
【0080】
(液滴供給工程)
光硬化性の接着剤として、東洋合成工業(株)製 PAK−01を準備した。この接着剤は、上記のモールドに対する接触角が93°であり、上記の樹脂層に対する接触角が22°であった。
上記のように形成した樹脂層の開口部に露出するモールド上に、滴下容量が0.01μLとなるように上記の接着剤をインクジェット装置を用いて滴下した。この接着剤の滴下に要した時間は30秒であり、最初に滴下された液滴の滴下直後の高さは160μmであり、30秒経過後(最後の液滴が滴下されたとき)の高さは158μmであり、殆ど変化はなく、25個の液滴の高さは均一なものであり、また、各液滴の直径は開口部の内側の距離(直径)よりも小さいものであった。
ここで、樹脂層の開口部の内側の距離(直径=250μm)をLとし、各開口部に露出するモールド上に位置する接着剤の液滴の直径をd、モールドに対する接着剤の接触角=93°をθ1とし、接着剤の液滴の高さ=158μmをhとしたときに、開口部の内側の距離Lは、下記の式(1)を満足することが確認された。
d < L ≦ 2h/tan(θ1/2) … 式(1)
【0081】
(押し当て工程)
次に、実施例1と同様のインプリント用の基板をインプリント装置の基板ステージに載置し、上記のモールドの接着剤の液滴と基板を押し当て、モールドおよび樹脂層と基板との間に接着層を形成した。
【0082】
(剥離工程)
モールドと基板を上記のように接近させた状態で、インプリント装置の照明光学系から平行光(ピーク波長が365nmの紫外線)をモールド側に100mJ/cm2の条件で照射した。これにより、光硬化性の接着層を硬化させた。
その後、樹脂層からモールドを引き離した。このようにして形成されたサンプルについて、実施例1と同様に欠陥率を測定した結果、欠陥率は0.09であり、良好なインプリント転写が行われたことが確認された。
【0083】
[比較例]
樹脂充填工程にて使用する材料として、PMMA(光照射により濡れ性が変化しない材料)を使用して、モールドの非パターン領域(凹凸構造のパターンが形成されていない部位)での厚みが3μmである樹脂層を形成した他は、実施例1と同様にしてインプリントを行った。
このインプリントでは、樹脂層に対する接着剤の接触角は36°であり濡れ性が良いため、滴下された接着剤がモールド上に形成した樹脂層上に広がり、滴下開始から30秒経過後(最後の液滴が滴下されたとき)の最初の液滴の高さは26μmであった。この後、実施例1と同様に、押し当て工程および剥離工程を実施したが、接着剤の液滴がインプリント用の基板に対して十分に接触可能であった箇所と、接触が不十分な箇所とが発生した。その結果、剥離工程の際に基板側に樹脂層を転写することができない箇所が多数発生した。このようにして形成されたサンプルについて、実施例1と同様に欠陥率を測定した結果、欠陥率は0.52であり、実用レベルを満足していないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0084】
ナノインプリント技術を用いた微細加工に利用可能である。
【符号の説明】
【0085】
11…モールド
21…インプリント用の基板
31…濡れ性変化可能な樹脂層
35…樹脂層
41…接着剤
42…接着層
51…濡れ性変化可能な薄膜層
61…濡れ性変化層
71,75…樹脂層
81…液滴保持層
91…介在層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドのパターン領域を有する面に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する樹脂材料を供給して、使用する接着剤の接触角が60°〜90°の範囲である樹脂層を形成する樹脂充填工程と、
前記接着剤としてインプリント用の基板に対する接触角が30°以下のものを使用し、該接着剤を前記樹脂層上に液滴で供給する液滴供給工程と、
前記樹脂層の濡れ性を、前記接着剤の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させる濡れ性変化工程と、
前記モールドと前記基板とを接近させて、前記樹脂層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、
前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項2】
モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成する樹脂充填工程と、
前記樹脂層上に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する材料を用いて、使用する接着剤の接触角が60°〜90°の範囲である薄膜層を形成する薄膜層形成工程と、
前記接着剤としてインプリント用の基板に対する接触角が30°以下のものを使用し、該接着剤を前記薄膜層上に液滴で供給する液滴供給工程と、
前記薄膜層の濡れ性を、前記接着剤の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させる濡れ性変化工程と、
前記モールドと前記基板とを接近させて、前記薄膜層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、
前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項3】
モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成する樹脂充填工程と、
インプリント用の基板上に、光照射あるいは温度変化により濡れ性が変化する材料を用いて、使用する接着剤の接触角が60°〜90°の範囲である濡れ性変化層を形成する濡れ性変化層形成工程と、
前記接着剤として前記樹脂層に対する接触角が30°以下のものを使用し、該接着剤を前記濡れ性変化層上に液滴で供給する液滴供給工程と、
前記濡れ性変化層の濡れ性を、前記接着剤の接触角の低下幅が30°以上となるように変化させる濡れ性変化工程と、
前記基板と前記モールドとを接近させて、前記濡れ性変化層と前記樹脂層との間に接着層を形成する押し当て工程と、
前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項4】
前記濡れ性変化工程の次に前記押し当て工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインプリント方法。
【請求項5】
前記押し当て工程の次に前記濡れ性変化工程を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインプリント方法。
【請求項6】
前記押し当て工程と前記濡れ性変化工程を同時に行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインプリント方法。
【請求項7】
モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成するとともに、前記モールドの前記面の非パターン領域の所望箇所を、前記樹脂層で囲まれるように露出させる樹脂充填工程と、
前記モールドに対する接触角が60°〜90°の範囲、インプリント用の基板および前記樹脂層に対する接触角が30°以下である接着剤の液滴を、モールドの露出している箇所に供給する液滴供給工程と、
前記モールドと前記基板とを接近させて、前記モールドおよび前記樹脂層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、
前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項8】
モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成する樹脂充填工程と、
使用する接着剤を、インプリント用の基板および前記樹脂層に対する接触角が30°以下のものとし、該接着剤の接触角が60°〜90°の範囲である材料を用いて前記樹脂層の所望箇所に液滴保持層を形成し、該液滴保持層上に前記接着剤の液滴を供給する液滴供給工程と、
前記モールドと前記基板とを接近させて、前記液滴保持層および前記樹脂層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、
前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項9】
モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成するとともに、前記モールドの前記面の非パターン領域を露出させる樹脂充填工程と、
インプリント用の基板に対する接触角が30°以下、前記樹脂層に対する接触角が60°〜90°の範囲である接着剤の液滴を、前記樹脂層上に供給する液滴供給工程と、
前記モールドと前記基板とを接近させて、前記モールドおよび前記樹脂層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、
前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有することを特徴とするインプリント方法。
【請求項10】
モールドのパターン領域を有する面に樹脂材料を供給して樹脂層を形成する樹脂充填工程と、
使用する接着剤を、インプリント用の基板に対する接触角が30°以下、前記樹脂層に対する接触角が60°〜90°の範囲のものとし、該接着剤の接触角が30°以下である材料を用いて前記樹脂層の所望箇所が露出するように介在層を形成し、該介在層で囲まれた前記樹脂上に前記接着剤の液滴を供給する液滴供給工程と、
前記モールドと前記基板とを接近させて、前記樹脂層および前記介在層と前記基板との間に接着層を形成する押し当て工程と、
前記樹脂層から前記モールドを引き離す剥離工程と、を有することを特徴とするインプリント方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−258736(P2011−258736A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131713(P2010−131713)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】