説明

ウィスカ評価方法及びウィスカ評価用試験装置

【課題】ウィスカの発生及び成長を促進して評価時間を短縮できるウィスカ評価方法及びウィスカ評価用試験装置を提供する。
【解決手段】ウィスカ評価方法は、評価対象である試料を試験槽内に配置する工程と、前記試験槽内を所定の酸素量、100℃以上の設定温度、及び所定の設定湿度に調整する槽内環境調整工程と、前記試験槽内を前記所定の酸素量、前記設定温度及び前記設定湿度に所定時間維持して、前記試料にウィスカを発生させる環境維持工程と、を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィスカ評価方法及びウィスカ評価用試験装置に関し、より具体的には半導体パッケージを基板に実装した評価対象に対して効果的に評価時間を短縮できるウィスカ評価方法及びウィスカ評価用試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体実装基板の鉛フリー化に伴って、例えば錫(Sn)又は錫合金のめっきが施されたリードには髭状の結晶であるウィスカが発生することが知られている。ウィスカの評価方法としては、例えば試料を室温環境下に放置する室温放置試験、高温高湿環境下で行われる試験などの種々の方法が提案されている。
【0003】
これらの試験のうち、室温放置試験は、実際の使用環境に近い条件で試験できるが、評価に非常に長い時間がかかるという問題がある。
【0004】
また、高温高湿環境下で行われる試験は、大きく分けて100℃未満の条件に調整して行われるものと、100℃以上の条件に調整して行われるものとがある。
【0005】
前者の高温高湿試験は、試験槽内を例えば温度60℃、湿度85%の雰囲気や、温度85℃、湿度85%の雰囲気などの100℃未満の条件に調整して試験が行われる。試験条件が温度60℃、湿度85%の場合には試験槽内の全圧に対する水蒸気分圧は17kPa程度となる。また、試験条件が温度85℃、湿度85%の場合には試験槽内の全圧に対する水蒸気分圧は49kPa程度となる。そして、前記全圧から前記水蒸気分圧を引いた圧力が試験槽内の空気分圧となる。すなわち、100℃未満の試験条件では、ある程度の空気が試験槽内に存在している。
【0006】
一方、後者の高温高湿試験は、例えば試験槽内を温度110℃、湿度85%の雰囲気や、温度120℃、湿度85%の雰囲気などの100℃以上の条件に調整して試験が行われる。このように試験槽内を100℃以上の高温高湿環境に調整する過程において、試験槽内に存在していた空気はそのほぼ全量が水蒸気により置換されるので、試験槽内は水蒸気のみとなる。したがって、この高温高湿試験では、試験槽内の空気分圧がほぼゼロで空気がほとんど存在しない環境下での評価となる。
【0007】
上記のような高温高湿環境下で行われる試験は、室温放置試験に比べると酸化・腐食によるウィスカの生成を促進して評価時間を短縮することができるものの、いずれの方法であっても必ずしも十分な時間短縮ができるとは言えないのが現状である。
【0008】
ところで、特許文献1には、試験槽内に空気が存在する環境下で評価対象が加熱されると、錫めっき膜の表面に酸化膜又は水酸化膜が生成するので、ウィスカの成長が抑制されるという内容が開示されている。すなわち、評価対象を空気存在下で加熱すると、錫めっき膜の表面に酸化膜が厚く成長するので、ウィスカが表面の酸化膜を突き破って成長することができない、とされている。そのため、特許文献1では、不活性雰囲気中で評価対象を加熱することにより、錫めっき膜の表面においてウィスカの成長を抑制する酸化膜又は水酸化膜の生成を抑制している。その結果、特許文献1の評価方法ではウィスカの発生及び成長を加速することができる、とされている。
【0009】
また、特許文献2は、試験槽内を高温、高湿にすることによりウィスカの発生が抑制されるという内容を開示している。なお、特許文献2では、従来の高温高湿環境に設定する手法ではなく、室温程度の環境下でめっき膜に圧縮応力を加え続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−330577号公報
【特許文献2】特開2005−101117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、現時点においてウィスカの発生メカニズムは解明されていない点が多くあり、現にウィスカの発生場所や発生状況は、特許文献1,2に開示されているものとは異なる場合が多くある。しかも、従来の評価方法では、めっき、はんだ、部品、リードなど、部材毎の単体でウィスカの評価を行っており、半導体パッケージを基板に実装した実際の使用形態での評価が十分になされていない。したがって、従来の試験条件は必ずしもウィスカの発生メカニズムに合致したものであるとは言えず、特に、半導体パッケージを基板に実装した実際の使用形態における評価については改善の余地が依然として多くある。
【0012】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、評価対象の評価時間を短縮できるウィスカ評価方法及びウィスカ評価用試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ウィスカの発生及び成長のメカニズムを研究する過程において、通常は空気がほとんど存在しない100℃以上の高温高湿環境下に酸素を存在させることによって、ウィスカの発生及び成長を効果的に加速できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明のウィスカ評価方法は、評価対象である試料を試験槽内に配置する工程と、前記試験槽内を所定の酸素量、100℃以上の設定温度、及び所定の設定湿度に調整する槽内環境調整工程と、前記試験槽内を前記所定の酸素量、前記設定温度及び前記設定湿度に所定時間維持して、前記試料にウィスカを発生させる環境維持工程と、を含む。
【0015】
この方法では、試験槽内を水の沸点又はその近傍の温度である100℃以上の高温高湿環境に調整するだけでなく、試験槽内に所定量の酸素を存在させた試験条件で前記試料の試験を行う。この方法によれば、試料におけるウィスカの発生及び成長を効果的に加速して評価時間を短縮することができる。
【0016】
この方法では、特に半導体パッケージを基板に実装した試料において効果的に評価時間を短縮できる。その理由は以下の通りであると推測している。ただし、以下に示す理由はウィスカの発生及び成長のメカニズムを推測したものであって、前記メカニズムを以下の理由に限定するものではない。
【0017】
すなわち、一般に、半導体パッケージは、複数のリードを有しており、これらのリードが基板にはんだ付けされて固定される。リードは、表面に錫めっきなどが施されているが、切断面を有するリードの先端部ではリードの母材(例えば銅)が露出している。また、リードの基端側は半導体を封入する樹脂に被覆されているが、リードの基端側を覆う前記樹脂の一部が剥離してリードの母材が露出することがある。したがって、先端部の切断面や樹脂が剥離した基端側においてはリードの母材とめっきとが隣接し、かつ、空気中に露出した状態となっている。このような状態の試料を用いて本発明の方法における試験条件、すなわち酸素が存在する高温高湿の試験条件で試験を行うと、次のような現象が起こり、ウィスカの発生及び成長が促進されると考えられる。すなわち、試料は高湿環境下に置かれているので、リードの先端部や基端側における母材とめっきの表面には水分の層が形成されており、しかも、100℃以上の高温でかつ酸素が存在する環境下であるので、リードの先端部や基端側ではガルバニック腐食が生じてリードのめっきやはんだの酸化が促進される。例えばめっきが錫めっきである場合にはSnがSnOとなる。このように酸化された部分は体積が増加するので、めっきの層内やはんだの層内に内部応力が生じることになる。この内部応力に起因してウィスカの発生及び成長が促進されるのではないかと推測される。
【0018】
以上のことから、本発明では、金属母材の表面に鉛フリーめっきの層が形成された部分を有し、前記金属母材の一部が前記めっき層から露出している試料を評価対象として用いる場合に、特に効果的に評価時間を短縮することができる。
【0019】
具体的には、前記槽内環境調整工程は、前記試験槽の排気弁を開放した状態で、前記試験槽内を所定の初期温度及び所定の初期水蒸気分圧に調整することにより、前記試験槽内を所定の初期空気分圧に調整する酸素量調整工程と、前記酸素量調整工程の後、前記排気弁を閉じた状態で、前記試験槽内を前記設定温度及び前記設定湿度に調整する温湿度調整工程と、を有していてもよい。
【0020】
この方法では、試験槽の排気弁を開放した状態で前記初期温度と前記初期水蒸気分圧を調整することにより、そのときの全圧から初期水蒸気分圧を引いた値が必然的に初期空気分圧となる。この方法では、上記のようにして空気分圧を調整することができるので、例えば酸素を試験槽内に導入するガス導入手段などが不要であり、装置を簡略化することができる。
【0021】
また、前記槽内環境調整工程は、前記試験槽の排気弁を開放した状態で、前記試験槽に設けられた酸素濃度検知手段により前記試験槽内の酸素濃度を検知しながら、前記試験槽に設けられたガス導入手段により前記所定の酸素量に達するまで前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを導入する酸素量調整工程と、前記酸素量調整工程の後、前記排気弁を閉じた状態で、前記試験槽内を前記設定温度及び前記設定湿度に調整する温湿度調整工程と、を有していてもよい。
【0022】
この方法では、ガス導入手段により酸素又は酸素を含むガスを試験槽内に導入するので、試験槽内の酸素濃度を任意の濃度に調整することができる。例えば、ガス導入手段として酸素タンクなどを用いる場合には、空気をコンプレッサーなどのガス導入手段により供給する場合と比較して、試験槽内の酸素濃度をより高めることができる。
【0023】
また、前記試験槽の排気弁を閉じた状態で前記試験槽内を真空に引く真空工程をさらに含み、この真空工程の後、前記排気弁を閉じた状態で、前記槽内環境調整工程及び環境維持工程を実行するようにしてもよい。
【0024】
この方法では、試験槽内を真空に引いて空気を除去した後で、槽内環境調整工程において酸素量を調整するので、試験槽内の酸素濃度を精度よく調整することができる。
【0025】
また、前記槽内環境調整工程は、前記試験槽の排気弁を開放した状態で、前記試験槽に設けられたガス導入手段により前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを連続的又は断続的に導入することにより、前記試験槽内を所定の初期酸素分圧に調整する酸素量調整工程と、前記酸素量調整工程の後、前記排気弁を開放したままの状態で、かつ、前記ガス導入手段により酸素又は酸素を含むガスを連続的又は断続的に導入した状態で、前記試験槽内を前記設定温度及び前記設定湿度に調整する温湿度調整工程と、を有しており、前記環境維持工程は、前記試験槽の排気弁を開放したままの状態で、前記ガス導入手段により前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを連続的又は断続的に導入することにより、前記試験槽内を前記所定の酸素量に調整するようにしてもよい。
【0026】
この方法では、ガス導入手段により酸素又は酸素を含むガスを連続的又は断続的に導入した状態で、前記温湿度調整工程及び環境維持工程を実行する。すなわち、試験中は酸素が試験槽内に連続的又は断続的に供給され続けるので、試験の途中で酸素濃度が変動するのを抑制することができる。
【0027】
また、前記槽内環境調整工程は、前記試験槽の排気弁を開放した状態で、前記試験槽内の温度及び湿度を前記設定温度及び前記設定湿度にそれぞれ調整する温湿度調整工程と、前記温湿度調整工程の後、前記排気弁を閉じた状態で、前記試験槽に設けられたガス導入手段により前記所定の酸素量に達するまで前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを導入する酸素量調整工程と、を有していてもよい。
【0028】
また、前記設定温度は105℃以上140℃以下であるのが好ましい。設定温度を105℃以上にすることにより、ウィスカの発生及び成長をより促進させることができる。また、プリント基板の耐熱性の観点から設定温度は140℃以下であるのがよい。
【0029】
また、前記設定湿度が相対湿度75%以上である場合、又は前記環境維持工程における前記試験槽内の酸素分圧が10kPa以上である場合には、ウィスカの発生及び成長をより促進させることができる。
【0030】
本発明のウィスカ評価用試験装置は、評価対象である試料を内部に配置可能な試験槽と、前記試験槽内を100℃以上の設定温度に調整可能な温度調整手段と、前記試験槽内を所定の設定湿度に調整可能な湿度調整手段と、前記試験槽の内外を連通可能な排気弁と、制御手段と、を備えている。前記制御手段は、前記試験槽内が前記設定温度、前記設定湿度及び所定の酸素量となるように前記温度調整手段及び前記湿度調整手段を制御し、前記試料にウィスカが発生するように前記試験槽内を前記設定温度、前記設定湿度及び前記所定の酸素量に所定時間維持する制御を行う。
【0031】
この構成では、前記試験槽内を前記設定温度、前記設定湿度及び前記所定の酸素量に調整し、この状態で所定時間維持することができるので、試料におけるウィスカの発生及び成長を効果的に加速して評価時間を短縮することができる。
【0032】
また、前記ウィスカ評価用試験装置は、前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを導入可能なガス導入手段をさらに備えていてもよく、この場合、前記制御手段は、前記試験槽内が前記所定の酸素量となるように前記ガス導入手段を制御する。
【0033】
この構成では、前記ガス導入手段が制御手段により制御されて試験槽内が所定の酸素量に調整されるので、試験槽内を精度よくかつ迅速に所定の酸素量に調整することができる。また、例えば空気よりも酸素濃度が高いガスをガス導入手段により試験槽内に導入する場合には、試験槽内の酸素濃度を空気よりも高く設定することができる。
【0034】
また、前記ガス導入手段は、酸素又は酸素を含むガスを前記試験槽内に圧送可能であり、前記制御手段は、前記排気弁を開放した状態で、前記排気弁の開度及び前記ガス導入手段による圧送時の圧力の少なくとも一方を調整して前記試験槽内を前記所定の酸素量に調整する制御を行ってもよい。
【0035】
この構成では、排気弁を開放した状態で、ガス導入手段により試験槽内に酸素を供給し、酸素量は、前記排気弁の開度及び前記ガス導入手段による圧送時の圧力の少なくとも一方により調整可能である。したがって、本構成では、試験中は酸素が試験槽内に連続的又は断続的に供給され続けるので、試験の途中で酸素濃度が変動するのを抑制することができる。
【0036】
また、前記ウィスカ評価用試験装置は、前記試験槽内のガスを排出可能な真空ポンプをさらに備えていてもよい。
【0037】
この構成では、前記真空ポンプにより試験槽内を真空に引いて空気を除去した後で、酸素量の調整が行えるので、試験槽内の酸素濃度を精度よく調整することができる。
【0038】
また、前記ウィスカ評価用試験装置は、前記試験槽内の酸素濃度を検知する酸素濃度検知手段、前記試験槽内の圧力を検知する圧力検知手段、及び前記試験槽内に前記ガス導入手段により導入されるガスの流量を検知する流量検知手段の少なくとも一つをさらに備え、前記制御手段は、前記検知手段による検知結果に基づいて前記試験槽内を前記所定の酸素量に調整する制御を行う場合には、試験槽内の酸素量を精度よく調整することができる。
【発明の効果】
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、評価対象の評価時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態に係るウィスカ評価方法に用いるプレッシャークッカー試験装置の構成を示す断面図である。
【図2】(a)は半導体パッケージを示す平面図であり、(b)は半導体パッケージを基板に実装した状態を側面から見た断面図である。
【図3】図2(b)のリードの先端部分の断面を拡大した模式図であって、(a)は試験前の状態を示し、(b)は試験後の状態を示している。
【図4】第1実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートである。
【図6】第2実施形態のウィスカ評価方法における各工程の温度、湿度、圧力などの物理量の推移を示すグラフである。
【図7】本発明の第3実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートである。
【図8】第3実施形態のウィスカ評価方法における各工程の温度、湿度、圧力などの物理量の推移を示すグラフである。
【図9】本発明の第4実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートである。
【図10】第4実施形態のウィスカ評価方法における各工程の温度、湿度、圧力などの物理量の推移を示すグラフである。
【図11】本発明の第5実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートである。
【図12】第5実施形態のウィスカ評価方法における各工程の温度、湿度、圧力などの物理量の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0042】
<試験装置>
まず、ウィスカ評価方法に用いるプレッシャークッカー試験装置(高度加速寿命試験装置)1について説明する。図1に示すように、この試験装置1は、一端を開放させる試験槽としての圧力容器2と、この圧力容器2の開放側を閉鎖可能な扉3とを備えている。圧力容器2の下部には所定量の加湿水(加湿用の水)4が貯溜されている。圧力容器2の内部には内シリンダ5が設置されている。この内シリンダ5は、圧力容器2の開放側と同一側が開放されており、この内シリンダ5の内部がテストエリア6となっている。このテストエリア6には試料棚7が設置されており、この試料棚7の上に試料8を載置できるように構成されている。内シリンダ5の閉鎖側端部の中央には送風口9が形成されており、この送風口9は保護網10によって覆われている。
【0043】
圧力容器2には、開閉可能な排気弁100が設けられている。この排気弁100は、開放状態のときに圧力容器2の内部と外部とを連通状態とし、閉状態のときに圧力容器2を密閉状態とする。排気弁100としては、例えば開閉のみの電磁弁、開度調整可能なモータバルブなどを用いることができる。
【0044】
圧力容器2にはファン軸11が回転自在に軸支され、このファン軸11の先端に送風ファン12が固定されている。また、圧力容器2の外部には駆動モータ13が設置され、この駆動モータ13の出力軸14が磁気カップリング15を介して前記ファン軸11に連結されている。これにより、駆動モータ13を回転駆動することで、前記送風ファン12を回転させ、圧力容器2内の気体を図の白抜き矢印のように循環させることができるようになっている。
【0045】
試験装置1は、圧力容器2内に温度調整手段及び湿度調整手段を備えている。温度調整手段は加熱ヒータ16と器内温度センサ17とを含む。湿度調整手段は加湿水4と加湿水ヒータ18と加湿水温度センサ19とを含む。
【0046】
加熱ヒータ16はファン軸11の周囲に設けられている。この加熱ヒータ16により圧力容器2内の気体を加熱することができる。また、器内温度センサ17は内シリンダ5の内部空間に設けられている。この器内温度センサ17により、圧力容器2内の温度(前記テストエリア6の温度)を検出することができる。
【0047】
加湿水ヒータ18は圧力容器2の内部空間の下部に設けられている。この加湿水ヒータ18は加湿水4に浸漬されており、当該加湿水4を加熱することができる。また同様に、加湿水温度センサ19は加湿水4に浸漬されている。この加湿水温度センサ19は前記加湿水4の温度を検出することができる。
【0048】
また、圧力容器2にはウィック温度センサ20が備えられている。このウィック温度センサ20の先端の球部には、例えばガーゼで形成されたウィック21が被せられる。ウィック21の下端は前記加湿水4に浸漬されており、加湿水4を毛細管現象によって吸い上げるように構成されている。
【0049】
また、圧力容器2にはガス導入口41が備えられている。このガス導入口41にはガス導入用配管43の先端側が挿通されている。ガス導入用配管43の後端側はガス導入手段45に接続されている。
【0050】
ガス導入手段45としては、例えば酸素タンク(ボンベ)を用いることができる。また、酸素タンクと窒素タンクを併用してもよい。また、ガス導入手段45としては、上記した酸素タンクの他、空気を加圧可能なコンプレッサーなどを用いることもできる。ガス導入手段45から圧力容器2内に導入される酸素又は酸素を含むガスの導入量は、例えば圧力容器2内に設けられる図略の酸素濃度センサ(酸素濃度検知手段)、圧力センサ(圧力検知手段)、ガス流量計(流量検知手段)などの検知データに基づいて調整される。これにより、圧力容器2内の酸素濃度(又は空気濃度)を任意に調節することができる。
【0051】
試験装置1はマイクロコンピュータ式の制御部31を備えており、この制御部31は演算手段としての図略のCPUや、記憶手段としてのROM、RAM等を備えている。そして、前記ROMには、上記のハードウェアを動作させるためのプログラムが記憶されている。
【0052】
<ウィスカ評価方法>
以下、本発明の実施形態に係るウィスカ評価方法について説明する。
【0053】
まず、ウィスカの評価に用いる試料について説明する。図2(a)は半導体パッケージ51を示す平面図であり、図2(b)は半導体パッケージ51を基板54に実装した状態を示す側面図である。図3(a)は、図2(b)のリード53の先端部分Tの断面を拡大した模式図である。
【0054】
図2(a)に示すように、半導体パッケージ51は、パッケージ部52とこのパッケージ部52の周縁部から延設された複数のリード53とを有している。図2(b)に示すように、半導体パッケージ51の各リード53は、基板54の表面に設けられた電極55にはんだ56によってそれぞれ接続されている。この図2(b)に示す実装基板は後述する各試験の試料8として用いる。
【0055】
図3(a)に示すように、リード53は、銅製の母材53aの表面に錫めっき53bが施されたものである。リード53の端部Tは、銅製の母材53aが露出している。このような端部Tを有する試料8に対して後述する評価方法を適用すると、ウィスカの発生及び成長を促進することができる。
【0056】
すなわち、試料8が後述するような酸素が存在する高温高湿環境下に置かれると、図3(b)に示すようにリード端部Tにおける母材53a、錫めっき53b及びはんだ56の表面には水分の層57が形成される。しかも、100℃以上の高温でかつ酸素が存在する環境下であるので、リード端部Tではガルバニック腐食が生じてリード端部Tの錫めっき53b及びはんだ56が酸化されて酸化物53c,56aが形成される。例えばめっきが錫めっきである場合には酸化物53cはSnOを主成分とするものとなる。また、例えばはんだがSn−3Ag−0.5CuなどのようにSnを含むものである場合には酸化物56aとしてSnOなどが形成される。このように酸化された部分53c,56aは体積が増加するので、めっきの層内及びはんだ層内に内部応力が生じることになる。また、めっきが錫めっきである場合には、高温環境下で母材53aとめっき53bとの間に金属間化合物が成長して内部応力が生じる。これらの内部応力に起因してウィスカ61の発生及び成長が促進されるのではないかと推測される。
【0057】
[第1実施形態]
次に、第1実施形態に係るウィスカ評価方法について図4を参照しながら説明する。図4は、第1実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートである。図4に示すように、この第1実施形態では、酸素量調整工程、温湿度調整工程、環境維持工程、温度降下工程、保存工程の順に制御が実行される。本実施形態では、装置1は、圧力容器2内に設けられた図略の酸素濃度センサ、及び図略の圧力センサを備えている。
【0058】
まず、作業者は、圧力容器2の内部の試料棚7上に図2(b)に示す試料8を載置した後、圧力容器2の開放側を扉3で閉じる。圧力容器2の下部には所定量の加湿水4が貯溜されている。
【0059】
図4に示すように、ステップS1において制御部31は、装置1の排気弁100を開放してステップS2に進む。このステップS2において、作業者は、装置1の図略の操作盤の入力ボタンを用いて試験条件を設定する。試験条件として入力するパラメータは、例えば設定温度T、設定相対湿度H、設定酸素分圧AOなどの各設定値である。設定された各設定値は制御部31の前記記憶手段に記憶される。この第1実施形態では、設定温度Tを110℃、設定相対湿度Hを85%RH、設定酸素分圧AOを26.8kPaにそれぞれ設定する場合を例に挙げて説明する。
【0060】
次に、作業者は、装置1に設けられた図略のスタートボタンを押して装置1の運転を開始する。装置1の運転が開始されると、制御部31は、ステップS3に示すように、圧力容器2内に設けられた各センサにより、圧力容器2内の現状の状態、すなわち現状温度、現状湿度、現状圧力、現状酸素濃度などを測定する。これらの各現状値は、後述する酸素量調整工程、温湿度調整工程などの後工程の制御に利用される。
【0061】
次に、制御部31は、ステップS4〜S6の酸素量調整工程を実行する。この酸素量調整工程では、制御部31は、まず、ステップS4において圧力容器2内の酸素分圧を設定酸素分圧AOに調整するために必要となる圧力容器2内の酸素濃度目標値を算出し、ステップS5に進む。
【0062】
ステップS5では、制御部31は、ガス導入手段45から酸素又は酸素を含むガスを圧力容器2内に導入するとともに、ステップS6において圧力容器2内の酸素濃度が前記酸素濃度目標値に達して安定したか否かを判断する。圧力容器2内の酸素濃度は前記酸素濃度センサにより検知される。
【0063】
ガス導入手段45としては、例えば酸素タンクを用いることができる。酸素タンクを用いる場合には、安全性の観点から窒素タンクを併用して酸素と窒素を混合して圧力容器2内に供給するのが好ましい。また、ガス導入手段45としてコンプレッサーを用いることにより、圧力容器2内に空気を導入するようにしてもよい。前者のように酸素タンクを用いる場合には、酸素と窒素の供給比率を変えることにより導入するガス中の酸素濃度を任意に調節することができるので、コンプレッサーにより空気を導入する場合と比べて、圧力容器2内の酸素濃度を高く設定することができる。
【0064】
圧力容器2内の酸素濃度が前記目標値に達して安定すると、制御部31は、ステップS7に進み、酸素又は空気の供給を停止して装置1の排気弁100を閉じ、ステップS8に進む。この時、酸素分圧をさらに高める必要があれば、排気弁100を閉じた後に圧力容器2内にさらに酸素や空気などを導入してもよい。
【0065】
次に、制御部31はステップS8,S9の温湿度調整工程を実行する。すなわち、ステップS8に示すように、制御部31は、圧力容器2内の温度及び相対湿度を設定温度T(110℃)、設定相対湿度H(85%RH)にそれぞれ調整するように制御する。
【0066】
そして、制御部31は、ステップS9において圧力容器2内の温度及び相対湿度がそれぞれ上記設定値(設定温度T、設定相対湿度H)に達して安定したか否かを判断し、温度及び湿度が設定値で安定したと判断するとステップS10に進む。
【0067】
ここで、本実施形態の試験装置1では、100℃以上の試験環境における湿度は次のようにして求める。すなわち、圧力容器2内において水蒸気圧が飽和水蒸気圧となっている温度T2をこれより高い温度T1に上げて、圧力容器2内の温度を十分にならしたときの相対湿度は、以下の式(1)で表される。
(相対湿度)=((T2での飽和水蒸気圧)/(T1での飽和水蒸気圧))×100 ・・・(1)
具体的には、例えば器内温度センサ17による検出温度をT1とし、加湿水温度センサ19又はウィック温度センサ20による検出温度をT2として、これらのT1,T2の値を上記式(1)に代入して相対湿度を求めることができる。
【0068】
次に、制御部31はステップS10,S11の環境維持工程を実行する。この環境維持工程では、圧力容器2内の温度及び湿度を設定温度T及び設定相対湿度Hに所定時間保持する。すなわち、制御部31は、ステップS10において図略のタイマの計測を開始してステップS11に進む。
【0069】
このステップS11において、制御部31は前記タイマの計測時間が予め設定された所定時間まで達したか否かを判断し、前記タイマの計測値が前記所定時間に達するまでこの判断を繰り返す。タイマの計測値が所定時間に達するまでの間、圧力容器2内は、温度及び湿度が設定温度T及び設定相対湿度Hに維持される。前記タイマの計測時間が所定時間に達すると、制御部31は環境維持工程を終了し、ステップS12〜S15の温度降下工程に進む。
【0070】
この温度降下工程では、圧力容器2内の温度及び湿度を予め設定された保存温度及び保存湿度に達するまで所定の勾配で温度及び湿度を降下させていく。装置1の排気弁100は、圧力容器2内の圧力が所定の設定値(例えば、本実施形態では111.3kPa)に達した時点で開放される(ステップS13,S14)。制御部31は、圧力容器2内の温度及び湿度がさらに降下して保存温度及び保存湿度に達すると(ステップS15)、圧力容器2内を保存温度及び保存湿度に維持する保存工程を実行する(ステップS16)。
【0071】
この保存工程では、試料8が圧力容器2から取り出されるまで、圧力容器2内の環境を保存温度及び保存湿度に維持する。なお、試験が終わって直ちに試料8を取り出す場合は、保存工程を省略することができる。
【0072】
なお、前記実施形態では、前記設定温度Tを110℃に設定する場合を例に挙げたが、これに限定されない。前記設定温度Tは105℃以上140℃以下であるのが好ましい。設定温度を105℃以上にすることにより、ウィスカの発生及び成長をより促進させることができる。また、プリント基板の耐熱性の観点から設定温度は140℃以下であるのがよい。
【0073】
また、前記実施形態では、設定湿度Hが相対湿度85%である場合を例に挙げたが、これに限定されない。前記設定湿度は、ウィスカの発生及び成長の促進効果を高めるという点で、下限が相対湿度75%以上で上限が100%以下であるのが好ましく、下限が相対湿度85%以上で上限が100%以下であるのがより好ましい。
【0074】
さらに、前記実施形態では、圧力容器2内の設定酸素分圧AOが26.8kPaである場合を例に挙げたが、これに限定されない。前記設定酸素分圧AOは、ウィスカの発生及び成長の促進効果を高めるという点で、10kPa以上であるのが好ましく、26kPa以上であるのがより好ましい。同様の理由で、圧力容器2内の空気分圧は、酸素分圧が上記範囲となるように、50kPa以上であるのが好ましく、128kPa以上であるのがより好ましい。
【0075】
[第2実施形態]
図5は、本発明の第2実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートであり、図6は、第2実施形態のウィスカ評価方法における各工程の温度、湿度、圧力などの物理量の推移を示すグラフである。この第2実施形態では、酸素量調整工程が第1実施形態とは異なっている。なお、ここでは第1実施形態と同じ工程については、その詳細な説明を省略する。
【0076】
図5,6に示すように、この第2実施形態では、酸素量調整工程、温湿度調整工程、環境維持工程、温度降下工程、保存工程の順に制御が実行される。
【0077】
まず、作業者は、第1実施形態と同様に、圧力容器2の内部の試料棚7上に試料8を載置した後、圧力容器2の開放側を扉3で閉じる。
【0078】
図5に示すように、ステップS21において制御部31は、装置1の排気弁100を開放してステップS22に進む。このステップS22において、作業者は、装置1の図略の操作盤の入力ボタンを用いて試験条件を設定する。試験条件として入力するパラメータは、例えば設定温度T、設定相対湿度H、設定空気分圧Aなどの各設定値である。設定された各設定値は制御部31の前記記憶手段に記憶される。この第2実施形態では、設定温度Tを110℃、設定相対湿度Hを85%RH、設定空気分圧Aを128.2kPaにそれぞれ設定する場合を例に挙げて説明する。
【0079】
この第2実施形態では、第1実施形態のようにガス導入手段45を用いずに酸素濃度を調整する。すなわち、この第2実施形態では、空気分圧A以外の他の条件を調整することにより、間接的に試験槽内の空気分圧(酸素濃度)を調整する。したがって、この第2実施形態では、上記した試験条件の設定の他、空気分圧を調整するための初期条件の設定も併せて行う。初期条件として入力するパラメータは、例えば初期温度T0、初期相対湿度H0などの各設定値である。設定された各設定値は制御部31の前記記憶手段に記憶される。この第2実施形態では、初期温度T0を30℃、初期相対湿度H0を85%RHにそれぞれ設定する場合を例に挙げて説明する。
【0080】
次に、作業者は、装置1に設けられた図略のスタートボタンを押して装置1の運転を開始する。装置1の運転が開始されると、制御部31は、ステップS23に示すように、圧力容器2内の温度及び湿度を初期温度T0(30℃)及び初期相対湿度H0(85%RH)にそれぞれ調整する。圧力容器2内の温度及び相対湿度は、器内温度センサ17及びウィック温度センサ20により測定される。
【0081】
圧力容器2の排気弁100は開放されているので、圧力容器2内が初期温度T0及び初期相対湿度H0に調整されたときには、圧力容器2内の全圧と水蒸気分圧が決まる。これにより、必然的に空気分圧も所定の値に調整される。この第2実施形態の場合のように初期温度T0が30℃に調整され、初期相対湿度H0が85%RHに調整されたときには、水蒸気分圧は3.6kPaとなる。したがって、このときの初期空気分圧は全圧から3.6kPaを引いた値となる。圧力容器2内の全圧は、図略の圧力センサにより測定してもよく、また、大気圧の1atm(101.3kPa)とみなしてもよい。図6では、全圧を101.3kPaとみなして圧力容器2内の空気分圧を算出した場合を例に挙げて説明しており、この場合の初期空気分圧は97.7kPaとなる。
【0082】
制御部31は、ステップS24において圧力容器2内の温度及び湿度が初期温度T0及び初期相対湿度H0に達したか否かを判断する。温度及び湿度が初期温度T0及び初期相対湿度H0に達した場合には、制御部31はステップS25に進み、装置1の排気弁100を閉じた後、ステップS26に進む。
【0083】
なお、温湿度調整工程、環境維持工程、温度降下工程、及び保存工程のステップS26〜S34については、第1実施形態のステップS8〜S16と同様であるので、説明を省略する。
【0084】
[第3実施形態]
図7は、本発明の第3実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートであり、図8は、第3実施形態のウィスカ評価方法における各工程の温度、湿度、圧力などの物理量の推移を示すグラフである。この第3実施形態では、真空工程を含む点が第1実施形態とは異なっている。なお、ここでは第1実施形態と同じ工程については、その詳細な説明を省略する。
【0085】
図7,8に示すように、この第3実施形態では、真空工程、酸素量調整工程、温湿度調整工程、環境維持工程、温度降下工程、保存工程の順に制御が実行される。
【0086】
まず、作業者は、第1実施形態と同様に、圧力容器2の内部の試料棚7上に試料8を載置した後、圧力容器2の開放側を扉3で閉じる。
【0087】
図7に示すように、ステップS41において、作業者は、装置1の図略の操作盤の入力ボタンを用いて試験条件を設定する。試験条件として入力するパラメータは、例えば設定温度T、設定相対湿度H、設定空気分圧Aなどの各設定値である。設定された各設定値は制御部31の前記記憶手段に記憶される。この第3実施形態では、設定温度Tを110℃、設定相対湿度Hを85%RH、設定空気分圧Aを128.2kPaにそれぞれ設定する場合を例に挙げて説明する。
【0088】
次に、作業者は、装置1に設けられた図略のスタートボタンを押して装置1の運転を開始する。装置1の運転が開始されると、制御部31は、ステップS42において排気弁100を閉じて、ステップS43に進む。ステップS43では、圧力容器2に接続された図略の真空ポンプにより圧力容器2内の真空引きが行われる。排気弁100は設定値を入力する前に閉じられていてもよい。
【0089】
真空引きが完了すると、制御部31は、ステップS44において、圧力容器2内にコンプレッサーなどのガス導入手段45により空気を導入する。このとき、圧力容器2内の温度は例えば30℃に調整される。設定温度Tが110℃で、設定空気分圧Aが128.2kPaであるので、30℃の圧力容器2内に導入すべき空気量は、全圧(空気圧)が101.4kPaとなる体積である。この導入される空気量は、例えば圧力容器2に設置可能な圧力センサで検知してもよく、また、空気が導入される配管に設置可能な流量計で検知してもよい。
【0090】
制御部31は、ステップS45において、圧力容器2内の空気量(空気分圧又は空気の体積)が目標値に達したか否かを判断し、目標値に達した場合にはステップS46に進む。
【0091】
次に、制御部31はステップS46,S47の温湿度調整工程を実行する。すなわち、ステップS46に示すように、制御部31は、圧力容器2内の温度及び相対湿度を設定温度T(110℃)、設定相対湿度H(85%RH)にそれぞれ調整するように制御する。
【0092】
そして、制御部31は、ステップS47において圧力容器2内の温度及び相対湿度がそれぞれ上記の設定値に達して安定したか否かを判断し、温度及び湿度が設定値で安定したと判断するとステップS48に進む。
【0093】
なお、環境維持工程、温度降下工程、及び保存工程のステップS48〜S54については、第1実施形態のステップS10〜S16と同様であるので、説明を省略する。
【0094】
[第4実施形態]
図9は、本発明の第4実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートであり、図10は、第4実施形態のウィスカ評価方法における各工程の温度、湿度、圧力などの物理量の推移を示すグラフである。この第4実施形態では、圧力容器2内に酸素又は酸素を含むガスを連続的又は断続的に導入しながら前記温湿度調整工程及び環境維持工程を実行する点が第1実施形態とは異なっている。なお、ここでは第1実施形態と同じ工程については、その詳細な説明を省略する。
【0095】
まず、作業者は、圧力容器2の内部の試料棚7上に試料8を載置した後、圧力容器2の開放側を扉3で閉じる。
【0096】
図9に示すように、ステップS61において制御部31は、装置1の排気弁100を開放してステップS62に進む。このステップS62において、作業者は、装置1の図略の操作盤の入力ボタンを用いて試験条件を設定する。試験条件として入力するパラメータは、例えば設定温度T、設定相対湿度H、設定全圧Bなどの各設定値である。設定された各設定値は制御部31の前記記憶手段に記憶される。この第4実施形態では、設定温度Tを110℃、設定相対湿度Hを85%RH、設定全圧Bを500kPaにそれぞれ設定する場合を例に挙げて説明する。
【0097】
次に、作業者は、装置1に設けられた図略のスタートボタンを押して装置1の運転を開始する。装置1の運転が開始されると、制御部31は、ステップS63において、ガス導入手段45により圧力容器2内に空気を供給しながら排気弁100から空気を排出するように制御する。ガス導入手段45としては、例えばコンプレッサー、ガスボンベなどのように空気を圧送可能なものを使用することができる。このステップS63では、圧力容器2内に供給される空気量は、排気弁100から排出される空気量よりも多くなるように調整される。この調整は、排気弁100の開度及びガス導入手段45による圧送時の圧力の少なくとも一方により行われる。また、このステップS63では、図10に示すように圧力容器2内の温度はほぼ30℃に維持されている。
【0098】
次に、制御部31は、ステップS64において、圧力容器2内の全圧が設定全圧Bに達したか否かを判断する。前記全圧が設定全圧Bに達すると、制御部31は、ステップS65に進む。一方、前記全圧が設定全圧Bに達していない場合には、制御部31はステップS63の動作を継続する制御を行う。
【0099】
次に、制御部31は、ステップS65の温湿度調整工程において、全圧を設定全圧B(500kPa)に維持しながら、圧力容器2内の温度及び湿度を設定温度T(110℃)及び設定相対湿度H(85%RH)に調整する制御を行う。この制御の場合、全圧が一定であるので、図10に示すように、水蒸気分圧の上昇に伴って空気分圧は低下する。この第4実施形態の場合、圧力容器2内の温度及び湿度が設定温度Tの110℃及び設定相対湿度Hの85%RHに達したときには、図10に示すように全圧500kPa、空気分圧373.5kPa、水蒸気分圧126.5kPaとなる。
【0100】
制御部31は、ステップS66において圧力容器2内の温度及び相対湿度がそれぞれ上記の設定値に達して安定したか否かを判断し、温度及び湿度が設定値で安定したと判断するとステップS67に進む。
【0101】
次に、制御部31はステップS67,S68の環境維持工程を実行する。この環境維持工程では、圧力容器2内の温度、湿度及び全圧を設定温度T、設定相対湿度H、及び設定全圧Bに所定時間保持する。すなわち、制御部31は、ステップS67において図略のタイマの計測を開始してステップS68に進む。
【0102】
前記タイマの計測時間が所定時間に達すると、制御部31は環境維持工程を終了し、ステップS69の温度降下工程に進む。
【0103】
ステップS69〜S70の温度降下工程では、圧力容器2内の温度を予め設定された保存温度に達するまで所定の勾配で温度及び湿度を降下させていく。この第4実施形態では、温度降下工程中も全圧を設定全圧Bに維持するように運転しているが、これに限定されない。例えば、温度を降下させるとともに全圧も低下させるように制御してもよい。
【0104】
制御部31は、圧力容器2内の温度が保存温度に達すると(ステップS70)、圧力容器2内を保存温度に維持する保存工程を実行する(ステップS71)。
【0105】
[第5実施形態]
図11は、本発明の第5実施形態のウィスカ評価方法における制御の流れを示すフローチャートであり、図12は、第5実施形態のウィスカ評価方法における各工程の温度、湿度、圧力などの物理量の推移を示すグラフである。この第5実施形態では、温湿度調整工程が酸素量調整工程よりも前に実行される点が第1実施形態とは異なっている。なお、ここでは第1実施形態と同じ工程については、その詳細な説明を省略する。
【0106】
図11,12に示すように、この第5実施形態では、温湿度調整工程、酸素量調整工程、環境維持工程、温度降下工程、保存工程の順に制御が実行される。
【0107】
まず、作業者は、第1実施形態と同様に、圧力容器2の内部の試料棚7上に試料8を載置した後、圧力容器2の開放側を扉3で閉じる。
【0108】
図11に示すように、ステップS81において制御部31は、装置1の排気弁100を開放してステップS82に進む。このステップS82において、作業者は、装置1の図略の操作盤の入力ボタンを用いて試験条件を設定する。試験条件として入力するパラメータは、例えば設定温度T、設定相対湿度H、設定空気分圧Aなどの各設定値である。設定された各設定値は制御部31の前記記憶手段に記憶される。この第5実施形態では、設定温度Tを110℃、設定相対湿度Hを85%RH、設定空気分圧Aを128.2kPaにそれぞれ設定する場合を例に挙げて説明する。
【0109】
次に、作業者は、装置1に設けられた図略のスタートボタンを押して装置1の運転を開始する。装置1の運転が開始されると、制御部31は、ステップS83に示すように、圧力容器2内の温度及び湿度を設定温度T(110℃)及び設定相対湿度H(85%RH)にそれぞれ調整する。図12に示すように、設定温度Tが110℃で設定相対湿度Hが85%RHに調整されたときの水蒸気分圧は121.8kPaとなり、空気分圧はほぼゼロとなる。
【0110】
ステップS84では、制御部31は、圧力容器2内の温度及び湿度が設定温度T及び設定相対湿度Hに達したか否かを判断する。各設定値に達した場合には、制御部31は、ステップS85に進み、装置1の排気弁100を閉じ、ステップS86に進む。
【0111】
次に、制御部31は、ステップS86の酸素量調整工程を実行する。このステップS86において、制御部31は、圧力容器2内にコンプレッサー、ガスボンベなどのガス導入手段45により酸素、空気などのガスを導入(圧送)する。ガスの導入は圧力容器2内の空気分圧が設定空気分圧A(128.2kPa)に達するまで続けられる。
【0112】
そして、制御部31は、ステップS87において圧力容器2内の空気分圧が設定空気分圧Aに達して安定したか否かを判断し、設定値で安定したと判断するとステップS88に進む。
【0113】
なお、環境維持工程、温度降下工程、及び保存工程のステップS88〜S94については、第1実施形態のステップS10〜S16と同様であるので、説明を省略する。
【0114】
[他の実施形態]
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記各実施形態では、半導体パッケージを基板に実装した試料を評価する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。本発明は、ウィスカが発生する可能性のある他の評価対象に適用することも可能である。
【0115】
また、前記実施形態では、リードの母材として銅を用い、めっきの材料として錫を用いた場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。本発明では母材とめっき材料は、他の組合せであってもよい。
【0116】
また、酸素量調整工程での酸素量の調整は、酸素、空気などの酸素を含むガスの流量、圧力などに基づいて行ってもよく、酸素濃度に基づいて行ってもよく、酸素分圧や空気分圧に基づいて行ってもよい。
【0117】
また、酸素量調整工程で導入するガスは、酸素のみでもよく、空気であってもよく、酸素と他のガスとを混合したガスであってもよい。
【0118】
また、保存工程や真空工程は省略してもよい。また、排気弁の開放は、設定値の入力後に行ってもよい。
【0119】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0120】
試料として図2(a),(b)に示す構成に似た形態の半導体実装基板を用いてウィスカの評価を行った。評価に用いた試料の詳細を表1に示す。
【0121】
本実施例では、表2〜4に示すように13種類の試験条件でウィスカの発生状況を比較した。そのうち、表4の試験No.10が本発明の一実施形態に係るウィスカ評価方法によるものである。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
【表4】

【0126】
表2の試験No.1は室温放置したときの結果であり、表3の試験No.2〜4は、熱サイクル試験を行ったときの結果である。例えば試験No.2は、表3に示すように試験槽内の温度を0℃と60℃の間で繰り返し変化させて、各温度を15分間ずつ保持する条件で評価した結果である。試験No.3,4についても表3に示す2つの温度間で同様に繰り返し変化させた結果である。
【0127】
表4の試験No.5〜9では、試験条件欄の左側の数値が試験槽内の設定温度であり、右側の数値が試験槽内の設定湿度(相対湿度)である。これらのうち試験No.5〜7,9では、試験槽内の空気分圧調整を行っていないので、全圧から水蒸気分圧を引いた値に相当する空気分圧の空気が試験槽内に存在している。また、試験No.8では、試験槽内の試験条件を設定するときに、試験槽内の空気を除去する操作を行ったため、試験槽内の空気分圧は0kPaとなっている。
【0128】
表4の試験No.11〜13は、高度加速寿命試験(HAST)により評価した結果である。各試験では、試験条件欄の左側の数値が試験槽内の設定温度であり、右側の数値が試験槽内の設定湿度(相対湿度)である。これらの各試験では、100℃以上の温度環境下であるので空気分圧は0kPaとなっている。
【0129】
各試験の評価結果を表2〜4に示す。なお、各試料の観察には、マイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び電子線マイクロアナライザ(EMPA)を用いた。
【0130】
まず、表2に示すように、室温放置の試験No.1では試験期間8ヶ月の時点でもウィスカは発生していない。次に、表3に示すように、熱サイクルの試験No.2〜4についても3000サイクルの時点でウィスカは発生していない。
【0131】
また、表4に示すように、試験No.5〜13のうち、ウィスカの発生時期が最も早いのは試験No.10である。試験No.10では、試験開始から200時間経過時点で30μmのウィスカが確認された。このことから、本発明の一実施形態である試験No.10の評価方法は、従来の他の評価方法に比べてウィスカを短時間で発生させ、成長させることが可能であると言える。また、試験No.10の試料においては、ウィスカはリード先端のエッジ(角)付近に発生していた。
【0132】
なお、表4中の「異物発生」とは、ウィスカとは異なる棘状異物が発生していたことを示している。この棘状異物を分析したところ、Cu,Brなどが検出された。このことから、棘状異物はリードの母材であるCuとフラックスにより形成された塩であると推定され、単結晶のウィスカではないと考えられる。
【符号の説明】
【0133】
1 プレッシャークッカー試験装置
2 圧力容器(試験槽)
4 加湿水
6 テストエリア
8 試料
16 加熱ヒータ
17 器内温度センサ
18 加湿水ヒータ
19 加湿水温度センサ
20 ウィック温度センサ
21 ウィック
31 制御部
41 ガス導入口
43 ガス導入用配管
45 ガス導入手段
51 半導体パッケージ
53 リード
53a 母材
53b 錫めっき
54 基板
57 水分の層
61 ウィスカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象である試料を試験槽内に配置する工程と、
前記試験槽内を所定の酸素量、100℃以上の設定温度、及び所定の設定湿度に調整する槽内環境調整工程と、
前記試験槽内を前記所定の酸素量、前記設定温度及び前記設定湿度に所定時間維持して、前記試料にウィスカを発生させる環境維持工程と、を含むウィスカ評価方法。
【請求項2】
前記試料は、金属母材の表面に鉛フリーめっきの層が形成された部分を有し、前記金属母材の一部が前記めっき層から露出している、請求項1に記載のウィスカ評価方法。
【請求項3】
前記槽内環境調整工程は、
前記試験槽の排気弁を開放した状態で、前記試験槽内を所定の初期温度及び所定の初期水蒸気分圧に調整することにより、前記試験槽内を所定の初期空気分圧に調整する酸素量調整工程と、
前記酸素量調整工程の後、前記排気弁を閉じた状態で、前記試験槽内を前記設定温度及び前記設定湿度に調整する温湿度調整工程と、を有している、請求項1又は2に記載のウィスカ評価方法。
【請求項4】
前記槽内環境調整工程は、
前記試験槽の排気弁を開放した状態で、前記試験槽に設けられた酸素濃度検知手段により前記試験槽内の酸素濃度を検知しながら、前記試験槽に設けられたガス導入手段により前記所定の酸素量に達するまで前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを導入する酸素量調整工程と、
前記酸素量調整工程の後、前記排気弁を閉じた状態で、前記試験槽内を前記設定温度及び前記設定湿度に調整する温湿度調整工程と、を有している、請求項1又は2に記載のウィスカ評価方法。
【請求項5】
前記試験槽の排気弁を閉じた状態で前記試験槽内を真空に引く真空工程をさらに含み、
この真空工程の後、前記排気弁を閉じた状態で、前記槽内環境調整工程及び環境維持工程を実行する、請求項1又は2に記載のウィスカ評価方法。
【請求項6】
前記槽内環境調整工程は、前記試験槽の排気弁を開放した状態で、前記試験槽に設けられたガス導入手段により前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを連続的又は断続的に導入することにより、前記試験槽内を所定の初期酸素分圧に調整する酸素量調整工程と、
前記酸素量調整工程の後、前記排気弁を開放したままの状態で、かつ、前記ガス導入手段により酸素又は酸素を含むガスを連続的又は断続的に導入した状態で、前記試験槽内を前記設定温度及び前記設定湿度に調整する温湿度調整工程と、を有しており、
前記環境維持工程は、前記試験槽の排気弁を開放したままの状態で、前記ガス導入手段により前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを連続的又は断続的に導入することにより、前記試験槽内を前記所定の酸素量に調整する、請求項1又は2に記載のウィスカ評価方法。
【請求項7】
前記槽内環境調整工程は、前記試験槽の排気弁を開放した状態で、前記試験槽内の温度及び湿度を前記設定温度及び前記設定湿度にそれぞれ調整する温湿度調整工程と、
前記温湿度調整工程の後、前記排気弁を閉じた状態で、前記試験槽に設けられたガス導入手段により前記所定の酸素量に達するまで前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを導入する酸素量調整工程と、を有している、請求項1又は2に記載のウィスカ評価方法。
【請求項8】
前記温度が105℃以上140℃以下である、請求項1〜7のいずれかに記載のウィスカ評価方法。
【請求項9】
前記設定湿度が相対湿度75%以上である、請求項1〜8のいずれかに記載のウィスカ評価方法。
【請求項10】
前記環境維持工程における前記試験槽内の酸素分圧が10kPa以上である、請求項1〜9のいずれかに記載のウィスカ評価方法。
【請求項11】
評価対象である試料を内部に配置可能な試験槽と、
前記試験槽内を100℃以上の設定温度に調整可能な温度調整手段と、
前記試験槽内を所定の設定湿度に調整可能な湿度調整手段と、
前記試験槽の内外を連通可能な排気弁と、
前記試験槽内が前記設定温度、前記設定湿度及び所定の酸素量となるように前記温度調整手段及び前記湿度調整手段を制御し、前記試料にウィスカが発生するように前記試験槽内を前記設定温度、前記設定湿度及び前記所定の酸素量に所定時間維持する制御を行う制御手段と、を備えたウィスカ評価用試験装置。
【請求項12】
前記試験槽内に酸素又は酸素を含むガスを導入可能なガス導入手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記試験槽内が前記所定の酸素量となるように前記ガス導入手段を制御する、請求項11に記載のウィスカ評価用試験装置。
【請求項13】
前記ガス導入手段は、酸素又は酸素を含むガスを前記試験槽内に圧送可能であり、
前記制御手段は、前記排気弁を開放した状態で、前記排気弁の開度及び前記ガス導入手段による圧送時の圧力の少なくとも一方を調整して前記試験槽内を前記所定の酸素量に調整する制御を行う、請求項12に記載のウィスカ評価用試験装置。
【請求項14】
前記試験槽内のガスを排出可能な真空ポンプをさらに備えている、請求項12に記載のウィスカ評価用試験装置。
【請求項15】
前記試験槽内の酸素濃度を検知する酸素濃度検知手段、前記試験槽内の圧力を検知する圧力検知手段、及び前記試験槽内に前記ガス導入手段により導入されるガスの流量を検知する流量検知手段の少なくとも一つをさらに備え、
前記制御手段は、前記検知手段による検知結果に基づいて前記試験槽内を前記所定の酸素量に調整する制御を行う、請求項11〜14のいずれかに記載のウィスカ評価用試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−21913(P2011−21913A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165082(P2009−165082)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月11日 社団法人日本エレクトロニクス実装学会主催の第23回エレクトロニクス実装学会講演大会において論文集「第23回エレクトロニクス実装学会講演大会 講演論文集」をもって発表、平成21年3月12日 同大会においてスライド「鉛フリー半導体パッケージのはんだ付け実装におけるウィスカ評価」を用いて発表
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】