説明

ウイルスについて安全な免疫グロブリンの製造方法

精製した免疫グロブリン調製物の製造方法。本製造方法には、粗精製免疫グロブリンをカプリル酸処理する段階、免疫グロブリン溶液から凝集したタンパク質およびウイルスを取り除く段階、免疫グロブリンを精製するために免疫グロブリンを陰イオン交換カラムに通す段階、こうして得た免疫グロブリン溶液をウイルス除去フィルターで濾過して免疫グロブリンを含む溶出液を生成する段階、および免疫グロブリンを回収する段階を含む。カプリル酸処理およびタンパク質沈殿剤による沈殿を組み合わせることにより、凝集したタンパク質およびウイルスのレベルは効果的に減少し、および濾過後には真にウイルスについて安全な調製物が供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリンの製造に関する。とりわけ、本発明はウイルスについて安全な免疫グロブリン組成物の製造方法に関連しているが、これは例えば非経口投与に適している。本発明は同様に新規のウイルスに対して安全な組成物およびナノフィルターによる免疫グロブリン溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同様に抗体とも呼ばれる免疫グロブリンは、血漿から抽出でき、並びにそれらはハイブリドーマ技術および組み替えDNA技術によって生産できる。それらの幅広い生物学的活性の観点から、抗体は価値のある医薬品である。
【0003】
通常のヒト血漿から精製された免疫グロブリンは、静脈から投与した場合、様々な重篤病気の治療に功を奏してきた。その医薬品は、「静注用免疫グロブリン」(ヒトへの静脈注射用免疫グロブリンもしくは静脈内投与用ヒト正常免疫グロブリン)と呼ばれており、以下その特有の短縮形である”IVIG”と表されている。静脈内に大量に投与するために、IVIG製剤の安全性および許容性は特に重要である。
【0004】
IVIG製剤が引き起こす深刻な副作用は免疫グロブリンの凝集、他の混入しているタンパク質および血液媒介のウイルスのためであるとされてきた。免疫グロブリン重合体および凝集物が補体を活性化し、それらをIVIG製品から除去することが重要であると考えられている。献血された血液および血漿のウイルスマーカーのスクリーニングおよびウイルス不活性化法の実施により、現在のIVIG製品の安全性は改善された。しかしながら、ウイルス感染、特に物理化学的に抵抗性のパルボウイルスB19、このウイルスは現在の化学的ウイルス不活性化法によって効果的に不活性化されない(非特許文献1)といったウイルスの危険性は依然として存在する。
【0005】
免疫グロブリンは、元々コーンおよびオンクレー(Cohn and Oncley)による冷エタノールによる分画法(非特許文献2)およびその後の改良法によってヒトの血漿から精製された。静脈内注射に関する副作用のために、そういった免疫グロブリン製剤は皮下もしくは筋中からしか投与できなかった。それ故、それぞれの製造者によって凝集物および他の混入物の除去並びにウイルスの不活性化のための他の製造ステップが加えられてきた。しかしながら、製造のための多くのステップを加えることにより、免疫グロブリンの収率を低下させ、製造コストを上昇させた。同時に、IVIG製剤の需要が増大したことにより、収率が重要な問題となってきた。
【0006】
現在使用されている化学的ウイルス不活性化法は、パルボウイルスおよびA型肝炎ウイルスといった脂質に包まれたウイルスに対しては効果的であった。血漿中に溜まるパルボウイルスB19(非特許文献3)といった物理化学的に抵抗性である存在しうる多量のウイルスについて考慮すれば、製造プロセスにおいて真にウイルスの含まない製剤を製造するために、非常に多量の非エンベロープウイルスを減じることが可能なはずである。現在の製造プロセスはこの要求を満たしておらず、IVIG製剤はパルボウイルスに感染しているかもしれない(非特許文献4)。
【0007】
この技術分野において、精製された静注用免疫グロブリンを製造する既知の方法がいくつかある。このように、特許文献1および2には出発溶液から精製されたウイルスを含まない抗体を調製するための高収率の製造方法について開示している。しかしながら、この方法は、物理化学的に抵抗性の感染性ウイルスを除去する能力のみに限定されていた。
【0008】
特許文献3は免疫グロブリンを含む血漿タンパク質粗画分から、免疫グロブリンGを精製する方法に関する。既知の方法は陰イオン交換カラムおよび陽イオン交換カラムを2つ連続して繋げたステップを含む。クロマトグラフィーの前に、タンパク質沈殿剤が免疫グロブリンの懸濁液に加えられる。ウイルス不活性化はS/D処理によって実行される。
【0009】
この既知の方法の収率はごく普通であるが、タンパク質沈殿剤の濃度はいくらか高めでありおよび4つのクロマトグラフィーのステップが使用されるからであり、この後者は、免疫グロブリンをS/D処理溶液から分離しなければならないからである。
【0010】
プロセスのステップは能率的にウイルスを除去するために十分ではないけれども、前記プロセスは両方ともウイルス不活性化ステップを含み、そのため、それらはウイルスについて安全なものとして特徴づけることができる製造物を産するであろう。さらに、一般的に、ウイルスの除去ステップが効果的であるほど、その方法での収率はより低くなる。
【0011】
ナノ濾過(ウイルス除去濾過)は生物学的に活性なタンパク質の溶液から非被覆ウイルスを除去する効果的な方法を提供する。我々の特許文献3、4において、我々はナノフィルターのステップを用い、平均口径が10−30nmの範囲であるフィルターを用いてウイルスについて安全なアポトランスフェリンの製造方法に関して記載している。しかしながら、フィルターがすぐ目詰まりしてしまうので、我々は免疫グロブリンをナノフィルターで濾過することが困難であることを見出してきた。
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,886,154号公報
【特許文献2】米国特許第6,307,028号公報
【非特許文献1】コネゼビッチ−マラミカおよびクルスカル(Knezevic- Maramica and Kruskall)、輸血、43巻、2003年、p.1460−1480
【非特許文献2】オンクレー他、J Am Chem Soc、71巻、1949年、p.541-550
【非特許文献3】シュミット他、ボックス サン(Vox Sang)、81巻、p.228−235
【非特許文献4】ハヤカクサ他(Hayakaxa et al)、Br J Haematol、118巻、2002年、p.1187−1189
【0013】
(発明の要旨)
本発明の目的は、前記載の少なくともいくつかの本技術分野の問題について取り除き、免疫グロブリンの新規の高収率製造方法を提供し、凝集物およびウイルスを含まない免疫グロブリンを製造することを可能にすることにある。
【0014】
もう一つの発明の目的は、新規のウイルスについて安全な免疫グロブリン組成物を提供することである。
【0015】
第3の発明の目的は、ナノフィルトレーションによって免疫グロブリン溶液を精製するための新規方法を提供することにある。
【0016】
本発明は、溶液をカプリル酸と接触させる別の処理ステップにおいて併せて実行するのに適した少量のタンパク質沈殿剤もしくは吸着剤による別の処理ステップをその方法が含む場合、溶液中で免疫グロブリンが単量体を保っている間に、凝集したタンパク質およびウイルスを効果的に沈殿させることが可能であるという発見に基づいている。タンパク質の沈殿もしくは吸着ステップおよびカプリル酸の処理による協同的な効果によって、効果的なウイルスの除去が、すなわち得られる。例えば、もしポリエチレングリコールといったタンパク質沈殿剤をそれのみで使用した場合、効果的にウイルスを除去するためにはより高濃度を必要とし、このために免疫グロブリンの収率が減少する。
【0017】
上記載に基づき、
A.粗免疫グロブリンにカプリル酸処理をして、
B.沈殿剤もしくは吸着剤で処理することによって免疫グロブリン溶液からタンパク質凝集物およびウイルスを除去し、
C.陰イオン交換カラムによって免疫グロブリンを精製し;並びに
D.ウイルス除去フィルターで凝集物を含まない免疫グロブリン溶液を濾過するステップを含む新規の製造方法が計画された。
【0018】
ステップBおよびCは任意の順番で実行できる;しかしながら、それらはステップAの後およびステップDの前に実行する。
【0019】
上記載の処理ステップの結果、検出可能なタンパク質重合体もしくは凝集物を含まない、またウイルスについて安全な免疫グロブリン溶液を得た。これは高濃度の免疫グロブリン(250μl以下の免疫グロブリン)を含む免疫グロブリン組成物に加工できる。さらに、驚くべきことに処理ステップAからCは免疫グロブリン溶液となり、このことにより、濾過作業中ずっと高い流量を維持したままウイルス除去フィルターで免疫グロブリンをハイスループット濾過することができる。
【0020】
更に具体的には、本発明に関する方法は、主として請求項1および6のそれぞれにおける特徴部分で述べられていることによって特徴づけられる。
【0021】
免疫グロブリン組成物は請求項17における特徴部分で述べられていることによって特徴づけられ、並びに濾過方法は請求項18における特徴部分で述べられていることによって特徴づけられる。
【0022】
本発明により重要な利点が得られた。このようにして、本発明による方法は、ヒト血漿から高収率でウイルスを含まない免疫グロブリン溶液の製品を提供する。この方法はカプリル酸によるウイルスの不活性化ステップおよび2つのウイルス除去ステップの組み合わせに基づいており、この両方のステップは物理化学的に抵抗性のウイルスも同様に効果的に除去する。最初のウイルス除去ステップは、同様に凝集したタンパク質も除去するが、それゆえ、高収率および高い濾過能力で、2番目のウイルス除去ステップを実行することを可能にする。新規の製造方法は、物理化学的に抵抗性のウイルスおよび例えばプリオンといった他の感染性の物質を除去する非常に高い能力を有する。これら2つのウイルス除去ステップを組み合わせることによって、予期せぬ利点がもたらされた。
【0023】
物理化学的に抵抗性であるウイルスも同様に効果的に除去するいくつかのステップの実施は、本発明の方法と米国特許第5,886,154号および第6,307,028号に関する方法の間の主たる差異を形成する。
【0024】
以下において、詳細な説明を補助することおよびいくつかの実施例を参照することによって、本発明をより詳しく検討する。
【0025】
(発明の詳細な説明)
本発明の範囲内において、“免疫グロブリン”という用語は、IgGおよびIgAの群から選択されたモノクローナルもしくはポリクローナル免疫グロブリンを示している。以下の記載においては、例としてヒトモノクローナルIgGを用い、本発明について更に詳細に記載している。しかしながら、本発明は他の適切に改質したポリクローナルおよびモノクローナル抗体にも当てはまることに注意し、もし必要であれば、免疫グロブリンの別の起源および治療上の使用についても気にかけるべきである。
【0026】
本方法は血清以外の、例えば動物の培養細胞およびトランスジェニック動物といった、他の免疫グロブリンの起源からウイルスについて安全な免疫グロブリンを精製するために適用することができる。
【0027】
以上に説明したように、本発明は概ね4つの必須ステップを含んでおり、最初の精製ステップにおいて粗免疫グロブリン溶液を、pH5未満、好ましくは4.0から5.0でカプリル酸処理する。カプリル酸処理の結果、外膜を有するウイルスは不活性化される。カプリル酸処理後、上清溶液には存在する可能性のある外膜を有さないウイルスおよびいくらかのタンパク質凝集物が含まれるが、これらは出発物質および最初の方法ステップに由来する。それらは、5.0を超えるpHにおいて、ポリエチレングリコール(PEG)といったタンパク質沈殿剤、もしくはヒュームド・シリカといった吸着剤を用いて取り除かれる。上清溶液のpHは5.3もしくはそれより高くし、ポリエチレングリコールを加え、形成した沈殿はフィルターによって取り除かれる。別法としては、上清溶液にヒュームド・シリカで処理し、フィルターで取り除く。免疫グロブリンの最終的な精製は陰イオン交換クロマトグラフィーのゲルに溶液を通すことによって達成される。凝集物のない免疫グロブリン溶液は、ウイルス濾過にかけられる。ウイルスを含まない免疫グロブリン溶液を限外濾過により濃縮およびダイアフィルター処理される。その結果得られた免疫グロブリン溶液は液体処方物もしくは凍結乾燥した粉末として処方物とした後も安定である。
【0028】
これらの主たるプロセス段階は、図1の実施態様中でも同様に示されている。このようにして、プロセスはコーンの分画II+IIIのペーストといった免疫グロブリンの沈殿物を精製水もしくは水性のバッファーに溶解することから始める。濾過助剤を含まない分画II+IIIのペースト濾過するために、8容量部の水を使用することが効果的であるが、同様に更に多量の水を用いてもよい。分散物のpHは5より低く調整するが、好ましくは約4.8である(例えば0.2mol/lの酢酸を用いる)。分散物を5℃で免疫グロブリンが溶解するまで混合し、溶液を20−25℃に加熱した。カプリル酸を終濃度5−60mmol/l、好ましくは20−50mmol/lまでゆっくりと加えた。処理の間中、分散液はかき混ぜ続けた。1つの好ましい実施態様によれば、ウイルスの不活性化評価に基づいて決定したカプリル酸(もしくは相当するカプリル酸塩)の全量を約15分から2時間にわたって加えた。カプリル酸処理の全処理時間は15分から4時間である。例えば約16時間といったより長いインキュベーション時間を使用しても良いが、このことにより収率がいくらか低くなる。沈殿したタンパク質および脂質は遠心もしくは濾過によって取り除く。
【0029】
凝集したタンパク質およびウイルスを除去するために、溶液のpHは5.3もしくはそれ以上、好ましくは約5.4に上げた。ポリエチレングリコールは10−50g/l、好ましくは20−40g/l、特に約30g/lの濃度で加えた。より低い濃度のPEGを使用するとウイルスおよび凝集物の除去率が減少する一方で、より高い濃度のPEGを使用すると免疫グロブリンの収率が減少する。PEGの分子量は通常3000から8000Daの範囲内であり、3350から6000Daであることがとりわけ好ましい。以下の実施例において、PEG4000が使用されている。PEGの処理時間はPEGの濃度および出発物質の質によって変えても良い。一般的には、PEG処理の持続時間は30分から20時間の範囲内であるが、より短いもしくは例えば36時間といったより長い時間も可能である。
【0030】
濾過助剤(例えば20g/lの珪藻土)を加え、分散物を濾過する。浄化した溶液は、陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに通す。高収率およびIgGのサブクラスの組成物を維持したうえで、陰イオン交換レジンおよびクロマトグラフィーの条件は、それらのタンパク質を選択的に除去する能力によって選択する。例えばANXセファロースFFゲルを使用して、十分な精製が達成される。IgGを含むカラムのフロースルーを回収する。IgAはカラムから流出するのが遅れるが、塩化ナトリウムによって溶出バッファーの伝導度を上昇させることによって溶出させることができる。溶離液のpHは約4.2から5.0に調整することが好ましい。
【0031】
陰イオン交換樹脂は、添付している荷電基と同様にマトリックスに関して様々な材料に基づいていてもよい。例えば、言及した材料は多かれ少なかれ架橋されていている、以下のマトリックスを使用しても良いが、それは:アガロースに基づくもの、セルロースに基づくもの、デキストランに基づくもの、シリカに基づくものおよび合成重合体に基づくものである。共有結合でマトリックスに結合している荷電基は例えばジエチルアミノプロピル(ANX)、ジエチルアミノエチル(DEAE)、4級アミノエチル(QAE)、および/もしくは4級アンモニウム(Q)でもよい。2つもしくはそれ以上の陰イオン交換レジンが結合していてもよい。
【0032】
凝集物を含まない免疫グロブリン溶液はこのようにしてウイルス除去フィルターで濾過することによって得られる。パルボウイルスといった外殻を持たない小さなウイルスさえ効果的に除去できるフィルターを使用することが好ましい。ここで使用したように、“効果的にウイルスを除去する“ことは、ウイルスの力価を約3対数ユニット(log units)に減じることを意味するが、約4対数ユニット(log units)もしくはそれ以上が好ましい。”凝集物を含まない溶液“はここでは、サイズ排除クロマトグラフィー中で検出できるタンパク質重合体もしくは凝集物を含まない溶液のことをいう。
【0033】
ウイルスを濾過した溶液は限外濾過によって濃縮する。ポリエチレングリコールの度合いはダイアフィルトレーションによって低下し、よって最終免疫グロブリン溶液中におけるそれの濃度は2g/l以下である。限外濾過の溶離液中の免疫グロブリン濃度によってはPEGがまだいくらかは残っているであろうが、限外濾過によってほとんどのPEGは取り除かれる。IVIG製剤として、pHは3.8から5.8に調整され、浸透圧モル濃度は静脈注射に相性のよい例えばグリシン、その他のアミノ酸、糖類もしくは多価アルコールによって調整する。5−20%のIgGを含む最終溶液を濾過滅菌し最終容器に分注する。製造物は溶液製剤として安定であるが、同様に凍結乾燥してもよい。最終生成物の免疫グロブリンの純度は、ゾーン電気泳動による分析では少なくとも98%であり、サイズ排除クロマトグラフィーで検出できる重合体もしくは凝集物は含んでいない。サイズ排除クロマトグラフィーの検出限界は約0.1質量%である。
【0034】
カプリル酸処理およびタンパク質沈殿剤を用いた沈殿を組み合わせたことによる予期しなかった利点として、凝集したタンパク質およびウイルスが効果的に除去されたことがある。凝集したタンパク質の度合いは陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製後の程度まで減少し、免疫グロブリン溶液は口径の小さいウイルスフィルターに通すことによって高容量で濾過することができる。タンパク質凝集物はフィルターの孔を詰まらせ、そのことによって流量が減少しウイルスの除去を損なうため(ヒラサレイ他(Hirasalei et al)、メンブラン、20巻、1995年、p.135−142)、凝集物を除去することはウイルスフィルターのようなフィルターを通して免疫グロブリン溶液を効果的に濾過するための必須条件である。これまでのところ、口径の小さいウイルス除去フィルターを通してインタクトの免疫グロブリンを効果的に濾過することができなかった。“口径の小さい”とは、ここでは例えばパルボウイルスといった約20nmの粒径であるウイルスの少なくとも3対数を取り除くフィルター膜のことを意味する。“効果的に濾過”とは、ここではフィルターの流速の減少が50%以下で免疫グロブリン少なくとも5kgを1mのフィルター面積に通過させることができることを意味する。このことにより、費用効果の高い工業スケールでのウイルスの濾過を可能にする。口径の小さいウイルス除去フィルターは、小さい外殻を持たないウイルスのみならず、例えばプリオンといった他の物理化学的耐性の感染性物質も同様に除去するので、他の製造段階において効果的である。
【0035】
ウイルスの濾過をうまく行うために特定の凝集物除去ステップが重要であることは実施例3に説明してある。ウイルスの濾過にポリエチレングリコールの沈殿ステップを組み合わせることによって、本発明は抵抗性の外殻を持たないウイルスを除去するための2つの効果的なステップを含むが、このことは実施例2に説明してある。
【0036】
上記に基づいて、本発明は同様に口径が10から40nm、好ましくは10から30nm、であるナノフィルターで免疫グロブリン溶液を効果的に濾過する方法にも関連しており、この方法は、2から4質量%のポリエチレングリコールを含み、検出できる重合体凝集物を含まない純粋な免疫グロブリン溶液を、粒径が約20nmのウイルスを少なくとも3対数取り除くために、フィルターに通すことを含む。5kg以上、好ましくは少なくとも7.5kgの免疫グロブリンが、1mのフィルター面積をフィルターの流速の減少が70%以下、とりわけ約50%以下で通過させることができる。
【0037】
本発明の目的として、ウイルス除去フィルターの平均口径のサイズはハーゲン−ポアズイユの方程式によって流水量に基づいて計算することができるが、このことは同様の大きさの円筒形の孔が一様分布していることを前提としている。
AV=2.0×(Jdη/ΔPα)1/2
AV 平均口径
J[ml/分/m] 水流量速度
d[μm] 壁厚さ
η[センチポイズ] 水の粘度
ΔP[mmHg] フィルター圧力
α[−] 気孔率
【0038】
基本的に、望ましい孔径を有するもしくはこれに相当するウイルス除去効率を提供するウイルス除去フィルターを利用することができる。米国特許第5,096,637号に開示している種類の複合フィルターを使用することによってとりわけよい結果が得られることを見出してきたが、この内容を引用してここに援用する。一般的にこういったフィルターは非対称的な複合膜構造を表す。それらは、表面薄膜と基材の間に限外濾過性能を有する表面薄層、多孔性担体および多孔性中間層を含む。
【0039】
本発明によるウイルス濾過に使用できるフィルターは、特に限定されないが、ビアソルブ NFP(Viresolve NFP)(ミリポア)、プラノバ15Nおよび20N(旭化成)ならびにDV20(ポール(Pall))を含む。
【0040】
ウイルス除去濾過をする水性溶液は、約1から25g/lのIgGもしくはIgAといった免疫グロブリンを含むことが好ましい。免疫グロブリン溶液は95%を超える純度であり、98%を超えることが好ましい。溶液のpHは4.2から5.0の範囲であることが好ましく、とりわけ約4.2から4.8であることが好ましい。意外なことに、フィルター流量および免疫グロブリンの処理能力は、免疫グロブリン溶液のpHが5.2から4.4まで低くなった場合に上昇し、pHが4.2で再び低下した。好ましい範囲は、濾過する免疫グロブリンによって4.2から5.0の広い範囲内で変化するであろう。
【0041】
濾過は20℃から50℃の温度で、また膜圧は約0.2から8barで実行することが好ましく、約0.5から5.5barであることが好ましい。存在するかもしれない粒子を取り除くために、平均孔径が約0.05から0.2μmであるフィルターを通すことによって免疫グロブリン溶液を前もって濾過することができる。ナノフィルターは30から40℃といったより高い温度で実行することが好ましいが、それはこのことにより流速が上昇するからである。低pH(約4.2から4.6)における上昇した温度は、ウイルスの濾過における性能だけでなく、IVIG組成物が薬物として必要とする免疫グロブリン溶液の任意の抗補体活性を減少させるためにも同様に有益である。
【0042】
濾過は上記AからCのプロセス段階によって得られた免疫グロブリン溶液に対して実行することが好ましいが、本濾過方法は一般的に、ポリエチレングリコールを含む、もしくは吸着剤によって処理された、ならびにタンパク質の凝集物を検出できる量含まない同様の方法によって処理された、どの免疫グロブリン溶液に対しても適用することができる。このようにして、例えば米国特許第5,886,154号および第6,307,028号の既知の免疫グロブリン処理を修正することで、処理の適当な段階において生成した免疫グロブリン溶液にポリエチレングリコールを加えることによってタンパク質凝集物を取り除き、それから最終免疫グロブリン溶液からウイルス除去する濾過をすることができる。
【0043】
米国特許第5,886,154号および6,307,028号は、カプリル酸沈殿およびクロマトグラフィーを使用することによる抗体(免疫グロブリン)の精製方法について記載している。本発明において、カプリル酸沈殿は、米国特許第5,886,154号および第6,307,028号中のカプリル酸ナトリウムといった塩の形で加えるのではなく、遊離酸としてのカプリル酸を加えて実施することが好ましい。pHを上昇させるカプリル酸ナトリウムとは対照的に、カプリル酸は溶液のpHを幾分低下させる。本発明では、米国特許第5,886,154号および第6,307,028号によるようなpH5.0−5.2へのシフトは起こらず、ウイルスの不活性化はより低いpHにおいて実行される。このことは、低pHにおいてイオン化していないカプリル酸の割合が低く、イオン化していないカプリル酸はウイルスの不活性化に効果的であるため有益である。しかしながら、上記の欠点を勘酌すれば、“カプリル酸処理”は、本発明においても前述の米国特許文献によって教示されているカプリル酸塩を用いて、記載の条件に基づいて実行することも同様に可能である。
【0044】
上記のように、パルボウイルスB19には、血漿の貯留としての現状の血漿製剤に、1mlあたりにパルボウイルスの1010ゲノム相当量もしくはそれ以上が含まれている可能性があるという危険性が依然としてあり、またそれは化学的なウイルス不活性化手順に抵抗性である。本発明による製造プロセスにおいては、出発物質の血漿をパルボウイルスのB19のDNAに対してPCRによってスクリーニングすること、および10IU/ml以上を含む血漿単位を製造から排除することが好ましい。国際単位(IU)は、ここでパルボウイルスB19のDNAに対するWHOの国際基準を参照している。静脈注射を通じて感染しうるパルボウイルスの最小の感染量は未知であるので、製造プロセスから当初の血漿の貯留に存在しうる全てのパルボウイルスを取り除くべきである。スクリーニングにおいて10IU/mlの廃棄レベルを適用することによって、数千リットルを含む工業上の血漿の貯留物中のパルボウイルスの最も高い潜在的含量は1010−1011IUのオーダーになるであろう。本発明による製造プロセスは12対数を超えるパルボウイルスB19を除去する能力があるので(実施例2)、当初の血漿貯蔵物に存在しうるパルボウイルスの完全な除去が達成される。
【0045】
このように新規プロセスによって製造された製品は真にウイルスを含まない免疫グロブリン製品である。当業者には明らかなように、本計算は、A型肝炎ウイルスのような化学的な不活性化法によって効果的に不活性化されないどの血液にあるウイルスにも、およびこれまでのところ未知であるが存在するかもしれないウイルスに適用することができる。パルボウイルスは血漿製品から完全に取り除くことが最も難しいウイルスの1つであるので、ここで例として用いている。
【0046】
本方法の先行技術に対する更なる利点は、その簡便さにある。本方法は、ヒト血清の分画II+IIIペーストから開始し、コーンおよびオンクレー(Cohn and Oncley)による方法の4つの分画ステップのうちの2つと差し替えることができる。分画II+IIIペーストから高収率の免疫グロブリンを提供すると記載されている他のプロセスでは2つのクロマトグラフィーが必要であるが、最終製品の純度を保証するために必要なのは1つのクロマトグラフィーカラムのみである。最終免疫グロブリン溶液の純度は98%より大きい。
【0047】
これまでのところ、パルボウイルスのような小さいウイルスでさえ効果的に取り除くことができるウイルス除去フィルターを用いてIVIG製品を濾過することは比較的高価であった。これは、比較的高価なフィルターが目詰まりするまでしかIVIGを濾過できないため、IVIGの量が制限されていたからであった。近年の発明により、1mのウイルス除去フィルターを通して高収率で約10kgのIVIGタンパク質でさえ濾過することが可能になったが、このことは製造コストが大きく減少することを意味する(実施例1、3および5)。
【0048】
本発明により重合体を除去するための別の方法は、ヒュームド・シリカといった吸着剤で処理することである(例えば、シリカを分散コロイドの形で加える)。一般的に、タンパク質凝集物を吸着できる、どの無毒の粒子の細かいシリカに基づく樹脂でも使用できる。0.05−0.5%のヒュームド・シリカ(例えばエアロシル200(Aerosil 200)で免疫グロブリン溶液を処理することにより、重合体を効果的除去しおよび実施例6で例証したようにウイルスフィルターの免疫グロブリンの処理能力を改善する。吸着剤は濾過もしくは遠心によって除去する。
【0049】
驚くべくことに、免疫グロブリン溶液は免疫グロブリンを沈殿させることなしに高度に濃縮することができる。このようにして、我々は20から25%の免疫グロブリンを含む澄んだ溶液を調製することができる。こういった溶液は、例えば免疫グロブリンの皮下注射に関して更なる利点を提供する。
【0050】
本発明により製造されたIVIGの薬剤の組成物は、既知の全てのIVIGの臨床的な用途に適している(コネゼビッチ−マラミカおよびクルスカル(Knezevic- Maramica and Kruskall)、輸血、71巻、1949年、p.541−550)。組成物はパルボウイルスといった物理化学的に抵抗性であるウイルスでさえ含まないので、例えば妊娠中の女性、免疫不全の患者および溶血性疾患もしくは別の赤血球産生増加に関する疾患を持つ患者のようなパルボウイルスによって生じる合併症に感受性の患者の治療に特に適している。IVIGの日用量は約10mgから10g/kgであり、特に約100mgから1g/kgである。抗−D免疫グロブリンおよびモノクローナル抗体のような超免疫状態のグロブリンであれば、この量は、例えば10μgから10mg/kgといったようなより少ない量にできる。
【0051】
免疫グロブリンの組成物は非経口でもしくは経口で投与することができる。非経口投与経路には:静脈内、筋肉内、皮下、直腸、眼内、滑液内、また経皮、眼中、舌下および口内を含む経上皮が含まれる。特に、本免疫グロブリン組成物は、静脈中、皮下もしくは筋内投与に対して処方できる。
【0052】
要約すれば、本発明による製造方法は従来技術として記載されている製造方法よりも物理化学的に抵抗性であるウイルスの除去能力がはるかに大きな能力を有する。重要なことは、本発明における主たるウイルス除去ステップ、すなわちPEG沈殿およびウイルス濾過は、例えば陰イオン交換カラムの効果的な除去に影響を及ぼすウイルスの物理化学的な差異によって強く影響を受けない。
【0053】
好ましい実施態様によれば、本免疫グロブリン溶液は、トレハロース−それ自体もしくはトレハロースおよびその他の従来の安定剤の混合物の形のいずれか−をIgG溶液に加えることによって非経口組成物に処方され、並びに必要であればpHが調製される。それから、この溶液を滅菌濾過し、および無菌的にバイアルといった最終容器に詰める。これら新規の医薬組成物は、我々の同時継続出願である“医薬組成物”にさらに詳細が開示してあるが、この内容をここに引用して援用する。
【0054】
本発明はIgGを高濃度に濃縮できることに注意すべきである。従来の治療用に使用するためのポリクローナル免疫グロブリンの適切な濃度は数10から250g/l、例えば50から200g/l、の範囲であるが、一般的に免疫グロブリンは1から250g/lの濃度である液体組成物の形態から回収される。本発明はそういった高度に濃縮されたポリクローナルIVIG組成物を製造することを可能にし、このことにより大量の免疫グロブリンを静脈内だけでなく皮下および筋肉中に手軽に投与することが可能になる。皮下投与の一つの特徴的な利点は、家庭で治療している患者に大量の免疫グロブリンを投与する場合にある。
【0055】
以下の特に限定しない実施例は本発明を例証している。
【0056】
実施例中において、下記分析操作方法は次の通りである:
【0057】
IgGは、サーモクリニカル ラボシステムズ(ThermoClinical Labsystems)のキットを用いて免疫被濁法によって測定した。;IgAはELISAによって測定した(ヒロネンら(Hirvonen et al)、ジャーナルオブ イミュノロジカル メソッズ(J Immunol Methods)、163巻、1993年、p.59−65);およびIgGのサブクラスはELISAで測定した(ペリクラス エライザキット、サングイン (PeliClass ELISA kit, Sanguin))。純度はアガロースによるゾーン電気泳動法により、分子量分布はヨーロッパ薬局方第3版、1997年、0338によりサイズ除外液体クロマトグラフィーを用いて測定した。カプリル酸はヨーロッパ薬局方、2001年、1401により、ポリエチレングリコールはスクーグ(Skoog)が記載しているとおりに測定した(ボックス サン(Vox Sang )37巻、1979年、p.345-349) 。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
この実施例は、ヒト血漿から高収率で凝集物を含まずウイルスについて安全な免疫グロブリンを製造する方法について記載している。
【0059】
ヒト血漿から分画II+IIIペーストをコーン法によって分画した(クリネン(Krijnen)、ケミー エン テクニエク(Chemie en Techniek)、25巻、1970年、p.193−196)。分画II+IIIペースト500gを5℃で8倍量の純水に分散させ、0.2mol/lの酢酸によってpHを4.8に合わせた。分散物を室温(約22℃)にした。カプリル酸を50mMになるように1時間にわたって加えた。分散物を1時間混合し、遠心によって沈殿を取り除いた。0.2M NaOHを用いて溶液のpHを4.5から5.4に上げ、30g/lのPEG4000を加え、溶液を16時間混合した。2%の珪藻土を加え、混合物を濾過した。溶液の伝導度は酢酸ナトリウムバッファーを用いて2.0mS/cmに調整した。濾液をpH 5.4の20mM酢酸ナトリウムバッファーで平衡化したANXセファロースFFゲルカラムにかけた。IgGを含むカラムから流れ出た画分を回収した。溶液のpHを0.5M酢酸を用いてpH4.4に調整した。0.1μmのプレフィルターに通して濾過した後、溶液を35℃で3.5barの圧力でビルソルブNFPウイルスフィルターにより濾過した。タンパク質濃度は約8g/lであり、フィルター面積あたり約10kg IgG/mの搭載量を使用した。溶液を約6時間で濾過して、IgGの収率は98−100%であった。溶液は限外濾過によって濃縮し、注射用水によりダイアフィルトレーションしてポリエチレングリコールを取り除き、最後に濃縮した。濃縮した溶液は、pH4.4、0.2Mグリシンを含む10%IgG溶液に処方した。これとは別に、同様にしてpH5.2で0.2Mトレハロースを含む15%のIgG処方物も調製した。処方溶液は最終容器中へ滅菌濾過した。
【0060】
溶解したペーストから最終生成物までの全体の収率は、約64%であった(表1を見ること)。この収率は冷アルコール分画に基づく従来の方法によって得られるものより30−70%高い。ほとんどの凝集物はPEG沈殿プロセスで取り除かれ、凝集物および重合体は最終製造物に存在していなかった。
【0061】
【表1】

【0062】
(実施例2)
この実施例は、実施例1に記載した製造方法におけるパルボウイルスB19の減少について記載している。
【0063】
それぞれのステップでのウイルスの減少は、出発溶液に高いタイターのパルボウイルスB19陽性血漿を加えることによって調べた。核酸を出発溶液から分離し、ロシュのマグNAピュア法(MagNA Pure method)により処理したサンプルをパルボウイルスを含まない血漿中に希釈した。パルボウイルスB19のDNA量は、ロシュのライトサイクラーを用いたリアルタイムPCRおよびロシュのパルボウイルスB19定量キットによって測定した。様々な処理ステップにおけるパルボウイルスの減少を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
(実施例3)
この実施例は、有効なウイルス濾過への特定の重合体除去ステップの重要性について例証している。粗免疫グロブリン溶液を調製し、実施例1記載の通りカプリル酸処理した。上清溶液のpHは5.4に上昇した。分離実験用のバッチでは、異なる量のポリエチレングリコール(PEG4000)を上清溶液に加えた、もしくは加えなかった。溶液を室温で16時間混合し、2%の珪藻土を加え、溶液を濾過により浄化した。浄化した溶液をANXセファロースに担持した陰イオン交換クロマトグラフィーにかけ、精製されたIgGを含む溶離液を回収した。溶離液のpHは4.4に調整した。0.1μmのプレフィルターにかけた後、溶液を圧力3.5bar、35℃においてビアソルブNFP(ミリポア)フィルターで濾過した。タンパク質の濃度は約8g/lであり、フィルター面積あたり約10kg IgG/mの搭載量を使用した。濾過流速は濾液の質量を記録することによってモニターした。PEG沈殿は濾過流速およびIgG処理能力の両方を著しく改善した(表3)。
【0066】
【表3】

【0067】
(実施例4)
この実施例では、有効なウイルスの濾過における免疫グロブリン溶液のpHの重要性について示している。凝集物を含まない免疫グロブリン溶液は、実施例1に記載のとおり、カプリル酸処理、PEG沈殿および陰イオン交換クロマトグラフィーによってヒト血漿のコーンの画分II+IIIから調製した。溶離液のpHは4.2から5.2までの異なった値に調整した。0.1μmのプレフィルターにかけた後、溶液を3.5barの圧力でビアソルブNFPフィルターを用いて濾過した。温度は、pH5.2の溶液では23℃、他の2つの溶液では35℃であった。最も高い初期流速およびIgG処理能力は溶離液のpHを4.4に調整したときに得られた(表4)。
【0068】
【表4】

【0069】
(実施例5)
この例は、ペプシン処理と比較して本発明により製造した免疫グロブリン溶液の濾過の方がウイルス濾過において高い効率が得られることを示している。
【0070】
凝集物を含まないIgG溶液は、実施例1に記載のとおり、カプリル酸処理、PEG沈殿およびイオン交換クロマトグラフィーによってヒト血漿のコーンの画分II+IIIから調製した。他の純粋なIgG溶液は国際特許第96/35710号明細書により、DEAEセファロース処理、限外濾過およびペプシン処理によりヒト血漿のコーンの画分IIから調製した。0.1μmフィルターでプレフィルターした後、溶液を35℃、3.5barの圧力でビアソルブNFPフィルターを用いて濾過した。タンパク質の濃度は約8g/lであった。ペプシン処理によって製造した溶液よりも新しい方法で製造した溶液を濾過する場合の方が、より高い処理能力が得られた(表5)。
【0071】
【表5】

【0072】
(実施例6)
この実施例では、ヒュームドシリカ処理によって達成される重合体の除去および免疫グロブリン溶液の改良された濾過効果について示している。最初の一連の実施例において、粗免疫グロブリン溶液を実施例1に記載のようにカプリル酸処理した。上清溶液のpHは5.4に上昇した。溶液の一部に0.2%のヒュームド・シリカ(Aerosil 200)を加え、分散液を1時間混合した。2%の珪藻土を加え、懸濁液を濾過した。上清溶液の別の一部は2%珪藻土による浄化濾過のみにかけた。両溶液ともANXセファロース上の陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにかけ、精製したIgGを含む溶離液を回収した。対照溶液は0.4%の重合体を含んでいたのに対し、ヒュームド・シリカ処理した免疫グロブリン溶液は検出できるような重合体を含んでいなかった。
【0073】
別の一連の実施例において、国際特許第96/35710号明細書によりDEAEセファロース処理および限外濾過によりヒト血漿の可溶化したコーンの画分IIから純粋な免疫グロブリンが得られた。タンパク質の濃度は、10g/lに調整した。溶液の一部を0.2%アエロシルによって処理し、2%の珪藻土を加え、懸濁液を濾過した。溶液の別の一部を国際特許第96/35710号明細書によりペプシンで処理した。3番目の部分を対照として用いた。0.1μmのフィルターでプレフィルターした後、溶液を35℃、3barの圧力でビアソルブNFPフィルターを用いて濾過した。IgG処理能力は、ペプシン処理後よりもアエロシル処理後の方が約50%以上高かった。両処理とも対照液と比較してIgG処理能力は数倍上昇した。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は本方法の好ましい実施態様のフローチャートを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にウイルスについて安全な、精製した免疫グロブリン調製物を調製するための方法であって、
−粗免疫グロブリン溶液をカプリル酸処理し、
−免疫グロブリン溶液からタンパク質凝集物およびウイルスを除去し、
−免疫グロブリンを精製するために免疫グロブリン溶液を陰イオン交換カラムクロマ
トグラフィーにかけ、
−このようにして得た免疫グロブリン溶液をウイルス除去フィルターで濾過して免疫
グロブリンを含む溶離液を製造し、および
−免疫グロブリンを回収する、
という工程からなる前記方法。
【請求項2】
前記タンパク質凝集物およびウイルスは、タンパク質沈殿剤の添加によって取り除かれる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記タンパク質沈殿剤は、ポリエチレングリコールおよび硫酸アンモニウムからなる群から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールは、約2−4質量%の量で添加される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記タンパク質凝集物およびウイルスは、ヒュームド・シリカといったタンパク質吸着剤で取り除かれる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
実質的にウイルスについて安全な、純粋な免疫グロブリン調製物の調製方法であって、
a)免疫グロブリンおよび重合体のタンパク質を含む出発溶液に、少なくとも1つ以上のウイルス不活性化ステップを施し、このステップにおいてその組成物をカプリル酸と接触させて、沈殿物並びに溶解した免疫グロブリンおよび重合体のタンパク質を含む上清溶液を形成させ、
b)該上清溶液を回収し、
c)該上清溶液を少なくとも1つ以上のイオン交換樹脂と接触させ免疫グロブリンを含む最初の溶離液を製造し、
d)該最初の溶離液を回収し、
e)該最初の溶離液を平均約10から40nmの孔径を有するフィルターによってナノ濾過を施し、いずれの有殻もしくは殻を持たないウイルスを取り除き、第2の溶離液を製造し、
f)該第2の溶離液を回収し、および
g)重合体のタンパク質を含まない薬剤として適した、ウイルスを含まない免疫グロブリン調製物に処方するステップを含み、
この工程において、重合体のタンパク質はステップbから得られる上清溶液もしくはステップdの溶離液から取り除かれる前記方法。
【請求項7】
終濃度15−60mmol/l、好ましくは20−50mmol/lのカプリル酸を加えることによってステップが実行される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
pHが約4.0から5.0でステップが実行される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
出発溶液は免疫グロブリンを含む血液画分をpHが約4.0から5.0、好ましくは4.5から5.0の水溶液に溶解することによって提供される請求項6から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップbの上清溶液のpHは約5.3もしくはそれ以上の値に調整される請求項6から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップbの上清溶液にポリエチレングリコールを加えることによって重合体物質が除去される請求項6から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ポリエチレングリコールの濃度が溶液の質量の2から4%である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上清溶液が約1から20mmol/lの濃度でカプリル酸を含む請求項11もしくは12に記載の方法。
【請求項14】
4.2から5.0のpHにおいてステップeが実行される請求項6から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
出発血清が10IU/mlより少ないパルボウイルスB19のDNAを含む請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
出発血清はヒト血清のコーンの分画II+IIIのペーストから得られる請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
250g/l以下の免疫グロブリンを含み、検出可能な重合体もしくは凝集物を含まない、請求項1から16のいずれか1項に記載の水溶性であってウイルスについて安全な免疫グロブリン製剤溶液。
【請求項18】
10から40nmの孔径を有するナノフィルター上で免疫グロブリン溶液を効果的に濾過するための方法であって、該方法は1から25g/lの免疫グロブリンを含む免疫グロブリン溶液をフィルターに通すことを含むことにより、約20nmの粒径であるウイルスを少なくとも3対数取り除き、該方法において濾過は約4.2から5.0のpHで実行され、免疫グロブリン溶液はさらに検出できる重合体凝集物を含まない前記方法。
【請求項19】
該溶液を約20から50℃の温度、および約0.2から8barの圧力差で濾過する請求項18に記載の方法。
【請求項20】
0.5から5.5barの膜貫通圧を使用して該溶液を濾過する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも5kg、好ましくは少なくとも7.5kgの免疫グロブリンを1mのフィルター面積のフィルター流速の減少が50%未満で通過させる請求項18から20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
免疫グロブリン溶液を複合ウイルス除去フィルターによって濾過する請求項18から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
約4.2から4.8のpHで濾過を行う請求項18から22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
−粗免疫グロブリン溶液をカプリル酸処理し、
−ポリエチレングリコールを加えることによって免疫グロブリン溶液からタンパク質凝集物およびウイルスを取り除き、および
−粗免疫グロブリン溶液を精製するために、および検出できる量のタンパク質凝集物を含まない溶液を製造するために、陰イオン交換クロマトグラフィーを行うこと:
により、濾過される免疫グロブリン溶液が粗免疫グロブリン溶液から得られる請求項18から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
該免疫グロブリン溶液が2から4質量%のポリエチレングリコールを含む請求項18から24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
濾過する前に吸着剤を用いて免疫グロブリン溶液を処理することによって、該免疫グロブリン溶液はタンパク質凝集物を含まない請求項18から23のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−500959(P2008−500959A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550216(P2006−550216)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/FI2005/000064
【国際公開番号】WO2005/073252
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(506260515)
【Fターム(参考)】