説明

ウイルスの分離・濃縮回収・試料調製方法

【課題】 ウイルス測定用試料の新規な調製方法の提供。
【解決手段】 ウイルス測定用試料の調製方法において、(1)測定対象ウイルスを含有する可能性のある検体を、二価金属イオン、及び表面に分子量7万以上の両性荷電物質を有する水不溶性粒子と接触せしめることにより、当該測定対象ウイルスと二価金属イオンと両性電荷物質を有する水不溶性粒子との凝集体を形成せしめ;(2)前記工程(1)の処理物を前記凝集体と液体とに分離して凝集体を回収し;そして(3)前記工程(2)において回収した凝集体を、金属イオンの除去により解凝集して、濃縮されたウイルスを回収する、工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学的測定方法及び核酸増幅反応(NAT)等によりウイルスを検出又は測定するに際して、その検出又は測定法に適合するウイルス試料の調製方法に関し、この方法は、ウイルスを濃縮し且つ回収する工程を含む。
【背景技術】
【0002】
ウイルスはヒトや動、植物に対する各種疾患・病気の原因となっていることは広く知られている。したがって、疾患・病害に対する予防・診断・治療法を確立するためには原因ウイルスの確認が非常に重要である.ところが、エイズや各種ウイルス性肝炎の研究史に見られるように、原因ウイルスの探求と診断は容易ではない。
【0003】
最も一般的な従来のウイルス検査・診断法としては、ウイルス抗原ならびに抗ウイルス抗体の免疫学的測定が挙げられる。しかしこれらの測定にあたっては一定量以上のウイルス抗原あるいは抗体の存在が必要である。ところが感染状態にあるにもかかわらずウイルス量が少なく測定感度以下であるために抗原検査が診断に利用できない場合が少なくない。培養細胞を用いたウイルス増殖法が一部のウイルスで確立しているが、ウイルスを分離回収して測定用試料に供するこの方法は採用できないことが多い。また、上記の方法が確立しているケースであっても分離回収には特別な施設、設備、技術を要し、一般的に簡便に利用できる方法とはいえない。
【0004】
近年、遺伝子を増幅する方法が開発され、ウイルス遺伝子を増幅することにより、微量のウイルスでも検出する途も開けた。しかし、この方法においても、極めて少ない量のウイルスを測定するには複雑で高度の測定技術が必要とされ、一般的な施設で簡便に実施することがきわめて困難である。そこで、問題解決のために、検体中のウイルスを濃縮する手法が用いられている。
【0005】
従来のウイルス濃縮法の代表例としては超遠心法が挙げられるが、高価な機器と長時間を要し、かつ同時に多数の検体を処理することは困難であり簡便な方法とは言い難い。また感染時期によっては沈殿しないウイルスもある。B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs抗原)がヘパリンと結合する性質から、ヘパリン セファロース担体によるクロマトグラフィー法も報告されているが、これも同時に多数の検体を処理することは困難であり回収率が悪い。
【0006】
その他、硫酸アンモニウムやポリエチレングリコール、ポリアニオンと2価イオンの組み合わせ、例えば酸性基を有する粒状物質(特公平6-22627号公報)や粒子と2価金属を用いる方法(特開平6-2172536号公報)、カチオン性基を有する水溶性高分子物質を加えウイルスを分離する方法(特開平4−342536号公報)等によりウイルスを沈殿させる方法があるが、混合する試薬や分離されるウイルスに混入する多量の蛋白などにNAT阻害がある等の問題からウイルスの沈殿分離後の試料精製が必要であるという難点があった。
【0007】
それらを解決するためにアニオン磁性粒子、2価金属イオンを用いたウイルス濃縮方法(特開平13-258551号公報)、カチオン磁性粒子を用いたウイルス濃縮方法(特開平13-299337号公報及び特開2003-274942号公報)等により、磁性粒子とともにウイルスを濃縮する方法があるが、凝縮物からウイルス核酸を抽出する際に、蛋白変成剤の存在下で磁性粒子が混在しているとそれが核酸を吸着し、解離できなくなるという問題がある。また、磁性粒子自体の破壊、磁性粒子に結合した遊離の金属イオン及び蛋白等が解離されてウイルス核酸に混入することによるNAT阻害がある等の問題、ウイルス種によっては、検体間差が起こることによる濃縮の不安定等があるという難点があった。
【0008】
【特許文献1】特公平6−22627号公報
【特許文献2】特開平6−2172536号公報
【特許文献3】特開平4−342536号公報
【特許文献4】特開平13―258551号公報
【特許文献5】特開平13−299337号公報
【特許文献6】特開2003−274942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、上記のウイルス濃縮法の問題点を解決し、簡便な手段により、同時に多数の検体を簡便に処理することができ、自動化への対応も容易で、免疫学的測定方法や核酸増幅検査に悪影響を及ぼさないウイルス分離・濃縮回収・試料調製方法を提供することにある。より具体的には、本発明は、測定対象ウイルスを含む検体から高収率でウイルス含有凝集体を形成せしめ、次にこの凝集体から、免疫学的測定方法やNATなどその後のウイルス増幅工程を妨害する爽雑物を伴わないで高収率でウイルス核酸を抽出・回収する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、上記のウイルス凝集工程において、測定対象ウイルスを含有する可能性のある検体を、二価金属イオン、及び表面に分子量5〜10万以上の陽性荷電物質を有する水不溶性粒子と接触せしめることにより、当該測定対象ウイルスと二価金属イオンと陽性電荷物質を有する水不溶性粒子との凝集体を効率よく形成せしめることが出来、この際特に、B型肝炎ウイルスの如く、検体によって凝集体へのウイルスの回収にバラツキがある場合には、B型肝炎ウイルスなど、測定対象ウイルスの表面タンパク質に対する抗体を共存させることにより、バラツキなく、即ち収率よくウイルスを回収できることを見出した。また一価金属イオンを共存させることにより、ビリルビンの影響をおさえ、ウイルスの回収のできることを見出した。
【0011】
本発明者は更に、上記の凝集体からウイルス核酸を回収するに当り、ウイルス凝集体を洗浄操作によって遊離の金属イオン及び蛋白等を除去し、ウイルス結合金属イオン除去処理操作を行うことにより、免疫学的測定法やNAT法等の蛋白、核酸の増幅を妨害しない測定用試料の調整ができることを見出した。
【0012】
従って、本発明は、ウイルス測定用試料の調製方法において、
(1)測定対象ウイルスを含有する可能性のある検体を、二価金属イオン、及び表面に分子量5〜10万以上の陽性荷電物質を有する水不溶性粒子と接触せしめることにより、当該測定対象ウイルスと二価金属イオンと陽性電荷物質を有する水不溶性粒子との凝集体を形成せしめ;
(2)前記工程(1)の処理物を前記凝集体と液体とに分離して凝集体を回収し、
(3)前記工程(2)において回収した凝集体を、洗浄操作によって遊離の状態で混入している金属イオン及び蛋白等を除去し;そして
(4)前記工程(3)において回収した凝集体を、金属イオンの除去により解凝集して、濃縮されたウイルスを回収する;
工程を含む方法、を提供する。
【0013】
ウイルスを含む凝集体の形成において、測定対象ウイルス表面抗原に対する抗体及び一価金属イオンを更に存在せしめることが、B型肝炎ウイルスなど、凝集体へのウイルス回収にバラツキの出るウイルスにおいては特に好ましい。前記陽性荷電物質は、好ましくはポリアミノ酸であり、より好ましくはポリリジンである。上記二価金属イオンは、好ましくは亜鉛イオン又は銅イオンであり、特に好ましくは亜鉛イオンである。前記水不溶性粒子は、好ましくは磁性金属粒子であり、前記分離・回収工程を、磁気又は遠心分離により行なうのが好ましく、磁気により行なうのが特に好ましい。
【0014】
前期遊離金属イオン及び蛋白の除去は、洗浄工程により行うのが好ましい。また前記金属イオンの除去は、金属キレート剤の添加により行うのが好ましい。本発明における好ましい測定対象ウイルスは、例えば、B型肝炎ウイルス(HBV)である。本発明の方法は、核酸増幅反応法(NAT法)により対象ウイルス核酸を増殖しようとする場合に、鋳型用ウイルス核酸を調製する場合に特に好ましい。
【発明の効果】
【0015】
特別の設備を要することなく研究機関、検査所、医療施設でウイルス試料を調整でき、これによってウイルスの研究ならびに抗原検査や遺伝子検査を通じてウイルス疾患の診断、治療、予防に貢献できる。
次に、本発明を更に具体的に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明が適用されるウイルス及び検体
本発明の方法は、種々のウイルスに対して適用することが出来、例えば、ヘパドナウイルス(B型肝炎ウイルスなど)、アデノウイルス、フラビウイルス(日本脳炎ウイルスなど)、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス、水痘−帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)、ポックスウイルス、パルボウイルス(アデノ関連ウイルスなど)、オルソミクソウイルス(インフルエンザウイルスなど)、ラブドウイルス(狂犬病ウイルスなど)、レトロウイルス(後天性免疫不全症候群ウイルスなど)、C型肝炎ウイルス、などの検出や測定に用いることが出来る。
【0017】
しかしながら、本発明は特に、B型肝炎ウイルス(HBV)又はB型肝炎を含めて複数のウイルスを同時に検出又は測定する場合、例えばB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)を同時に検出又は測定する場合に特に好ましい。
本発明の方法が適用される検体の種類としては、特に制限はないが、献血により集めた血液検体、患者から収集した臨床検体など、多数の検体をスクリーニングする場合の血液検体、血清、血漿、あるいはその他の種々の体液が挙げられる。
【0018】
水不溶性粒子
本発明において、ウイルス凝集体の形成の核となる水不溶性粒子としては、高分子材料、例えば高分子材料から形成された各種の粒子や、金属粒子を用いることが出来るが、凝集体を磁気により簡単に集めるためには,磁性粒子が好ましい。例えば、四三酸化鉄、(Fe34)、γ―重三二酸化鉄(γ―Fe23)、等の各種フェライト、鉄、マンガン、コバルト、クロムなどの金属又はこれらの金属の合金などを用いることが出来る。粒子の粒径は通常0.08μm〜300μmであり、好ましくは0.1μm〜100μmである。粒経が0.8μm未満であれば、血液又は体液から凝集体を磁気により分離する場合に、強い磁気を長時間かける必要があり、凝集体を十分に回収することが出来ないなどの問題点がある。凝集体を遠心分離により分離する場合には、遠心分離機の高回転数(5,000回転)で数分間の処理を必要とするなど、操作性に問題がある。他方、粒経が300μmを越える場合には、粒子体積当りの表面積が小さくなり、ウイルス凝集体の捕捉効率が低下するなどの問題がある。
【0019】
陽性荷電物質
粒子の表面に付着させる陽性荷電物質としては、ポリアミノ酸が好ましく、ポリアミノ酸としては、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン等が挙げられ、特にポリリジンが好ましい。ポリアミノ酸の分子量は、5〜10万以上である必要があり、この範囲外であるとウイルスを十分に捕捉・凝集させることが困難である。ポリリジン等のポリアミノ酸を粒子表面に結合させるには、前記水不溶性粒子、例えば磁性金属又は金属酸化物粒子やポリマー粒子の表面にカルボキシル基を設けておき、それとポリアミノ酸の末端アミノ基との間にアミド結合を生じさせる、又は粒子表面アミノ基を設けておき、それとポリアミノ酸の末端カルボキシル基との間にアミド結合を生じさせる、ここで特に濃縮率に影響するのはポリリジンの分子量とカルボキシル基の粒子当たりの数が重要であり、粒子当たり12〜30が最適である等の方法が用いられる。アミド結合の形成は、有機化学の常法に従って行えばよい。
【0020】
二価金属イオン
磁性粒子とウイルスを凝集させるための二価金属イオンとしては、亜鉛イオン (Zn++)、銅イオン(Cu++)が挙げられるが、亜鉛イオンが好ましい。二価金属イオンの最適種類はウイルスにより異なるが、亜鉛イオン及び銅イオンは種々のウイルスに共通に使用することができるためである。ウイルス含有凝集体を形成するための反応混合物中の二価イオンの濃度は、20mM〜100mM,好ましくは25mM〜35mM程度である。この二価金属イオンは、ウイルス補足用水不溶性粒子と同時に検体に添加してもよいが、先ずウイルス補足用水不溶粒子を加え、その後二価金属イオンを加えるのが好ましい。
捕捉効率が上がるからである。
【0021】
抗ウイルス抗体処理及び一価金属イオンの処理
二価金属イオンの存在下で、陽性荷電物質を表面に有する粒子の表面にウイルスを凝集・捕捉する場合、多くのウイルスは、検体中のウイルス量依存的に粒子表面に凝集・捕捉されるが、ある種のウイルス、例えばB型肝炎ウイルス(HBV)は、凝集・捕捉されるウイルスの量にバラツキが生ずる場合があり、これがウイルス量の測定に対する障害となっていた。本発明者は、この原因を追求した結果、検体中に存在するビリルビンや乳彌がウイルスの凝集を阻害するためであることを解明した。ビリルビンについては、HBVを含有し、ビリルビンを含有しない検体に、人為的に種々の濃度のビリルビンを添加してビリルビン濃度の異なる複数の検体を用意し、これらを同一条件下で凝集させたところ、ビリルビンの濃度の増加とともにウイルスの凝集・捕捉量が減少することが確認された。
【0022】
次に、上記の如き、ビリルビンや乳彌による、ウイルスの凝集・捕捉阻害を解消する方法を検討した結果、測定対象であるウイルスの表面抗原に対する抗体、例えば、HBVの検出・測定においてはHBVの表面タンパク質に対する抗体を、凝集濃縮工程において添加することにより、ビリルビンや乳彌による凝集・捕捉阻害が解消することを実験的に確認した。またビリルビンによる凝集、捕捉阻害が一価金属イオンの共存により解消することを確認した。従って、本発明の方法を、HBVウイルスの検出・測定、又はHBVを含む複数のウイルスの同時検出・測定、例えばHBV、HCV及びHIVの3種類のウイルスの同時検出・測定に適用する場合には、HBVの表面タンパク質に対する抗体を凝集・捕捉工程において添加するのが非常に好ましい。なお、HBV表面タンパク質に対する抗体(HBs抗体)の調製は常法に従って行うことが出来、本発明の特徴を構成するものではない。なお、ヒトHBs抗体を、試薬として使用するのに十分な量入手するのは困難であるため、非ヒトHBs抗体、例えばウマHBs抗体を使用するのが好ましい。
【0023】
濃縮・回収されたウイルス凝集体の洗浄処理
二価金属イオンの存在下で、陽性荷電物質を表面に有する粒子の表面にウイルスを凝集・捕捉する場合、多くのウイルスは、検体中のウイルス量依存的に粒子表面に凝集・補足されるが、検体によってはウイルス量の測定結果にバラツキが見られることがある。この問題を追及した結果、遊離な金属イオン及びタンパク質等が凝集体に混入する結果生じる問題であることが判明した。またNAT法において蛋白量ならびに金属イオン量が核酸の抽出を阻害することを実験的に確認した。
【0024】
次に、上記の如き、遊離の金属イオン及びタンパク質等による、ウイルス核酸抽出阻害を解消する方法を検討した結果、ウイルス凝集体を洗浄し、余分な金属イオン及び蛋白質等を洗い流すことにより抽出阻害を解消することが可能となった。従って、本発明の方法をHBVを含む複数のウイルスの同時検出・測定、例えばHIV.HCV及びHIVの3種のウイルスに適用する場合には、捕捉・抽出工程において凝集体の洗浄処理が非常に好ましい。
【0025】
ウイルス凝集・捕捉処理
ウイルスの凝集・捕捉工程は、次のようにして行うことが出来る。検体1mL〜5mLを用意し、これに、検出・測定対象ウイルスの表面蛋白質に対する抗体を添加する場合には先ずこの抗体(例えば、ウマ精製HBs抗体)を25〜100μL添加し、混合した後20〜30分間静置する。次に、陽性荷電物質、例えばポリLリジンを表面に結合した粒子、例えば磁性粒子を1mg〜5mg/mLの濃度に加え、次に、二価金属イオン、例えば亜鉛イオンの1.1M濃度の溶液を30〜150μL添加し、よく混合し、この混合物を約5分間静置することにより凝集体を生成せしめる。
【0026】
凝集体の分離
次に、上記のようにして生成せしめた凝集体を含む混合物を、凝集体とその他の液体とに分離し、凝集体を回収する。これにより、液体に含まれる血清、血漿などの血液成分、その他、検体中に存在した種々の夾雑物が除去される。凝集体と液体との分離は、使用した粒子が磁性粒子の場合には、凝集体を含む混合物を磁気スタンド上に静置することにより、磁性粒子を含む凝集体を磁気吸引して沈殿せしめることにより行うことが出来る。また、粒子が磁性粒子であってもまた非磁性粒子であっても、凝集体とその他の液体とを遠心分離により分離することが出来る。
【0027】
凝集体の洗浄
次に、上記のようにして得た凝集体には、目的とするウイルスのほかに、遊離の金属イオン及びタンパク質、その他の夾雑物が含まれている、これらは次の段階であるウイルス核酸抽出の障害となる。このために、凝集体から余分の金属イオンや蛋白質等を取り除くことが必要となる。この際、洗浄液によっては、ウイルス等の解離及び磁性粒子の崩壊等がおこり、濃縮低下を来たす。このために、本発明においては、ウイルス解離をおこさない洗浄液で凝集体を洗浄することが必要である。
【0028】
洗浄液としては生理食塩水、トリス緩衝液、リン酸緩衝液が用いられるが、リン酸緩衝液が効果の点で好ましく、リン酸濃度2mMのリン酸緩衝液が特に好ましい。
【0029】
凝集体からのウイルス核酸の分離
次に、上記のようにして得た凝集体には、目的とするウイルスのほかに、凝集体の核となった粒子、その他の夾雑物が含まれており、これらは、次の段階であるウイルス核酸の検出・測定のための核酸の増幅、典型的にはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の障害となるおそれがある。このため、凝集体からウイルス核酸を抽出分離する必要がある。この際、あまり強い抽出条件を用いると磁性粒子が崩壊し、この崩壊物が核酸増幅反応の障害になる場合がある。このため、本発明においては、最初の段階で凝集体の形成を促進するために添加した二価イオンを除去することによって解凝集を行うことにより、凝集体を崩壊させるかまたはゆるめる。
【0030】
このための二価イオン除去剤として、金属キレート剤、クエン酸塩、臭化カリウム、臭化ナトリウムなどが用いられ、金属キレートが効果の点で好ましい。金属キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA),EGTA, ,などを使用することが出来る。この場合の金属キレート剤の使用量としては、最初に添加した二価イオンの内、凝集体に移行した量を補足するのに十分な量であり、上記の方法(検体1〜5mLから出発する方法)においては、0.1M〜0.2M濃度の金属キレート剤溶液を100μL加えればよい。次に、凝集体と金属キレート剤溶液とをよく混合する。
【0031】
次に、最初に使用した粒子が磁性粒子の場合、上記の混合物を磁気スタンド上に5〜10分間静置して粒子を磁気吸引沈殿せしめることにより、ウイルスを含む上清試料を得ることが出来る。
また、上記の上清から、ウイルス核酸を抽出するにはSDSの存在下でタンパク質分解酵素、例えばプロティナーゼKによりウイルスを消化した後、エタノール沈殿により核酸を沈殿・回収することが出来る。なお、上記の粒子の分離と核酸の抽出とは逆の順序で行ってもよい。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
実施例1ポリリジンをコートした磁性粒子の調製
(1)担体COOHマグネテイックビーズの使用
COOHマグネテイックビーズ125mg(2.5mL)を分取し、粒子を磁石で集め、5mLの0.1M2-モルホリノエタンスルホン(?)(MES)溶液(PH5.0)中で10分間振とう洗浄した。このビーズを、25mgビーズ/mLの濃度で、カップリング緩衝液(1.2mLの蒸留水、5mLの100mM MES(PH5.0)溶液、50μLの100mg/mLポリ-L-リジン溶液)に懸濁し、この懸濁液を15分間室温にて転倒混合した。
【0033】
これに、1.25mLの1-エチル-3-(3-ジメチル-アミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)水溶液を加え、10℃にて20時間転倒混和した。上液を1Mモノエタノールアミン溶液で置換し4℃で一晩ブッロキングした。ビーズをリン酸緩衝液(PBS)により5回洗浄し、50mgビーズ/mLとなるようにPBSに懸濁し、4℃で保存した。
【0034】
(2)担体M-270エポキシマグネチックビーズの使用
600mgの洗浄済みビーズを、カップリング緩衝液(12mLの0.2M Na2CO3 (pH10),12mLの3M硫酸アンモニウム、11.64mLの水,360μLの100mg/mLポリ-L-リジン)に懸濁し、35℃にて24時間転倒混和した。磁石でビーズを集め、18mLの1Mエタノールアミン溶液(pH8.0)に懸濁し、10℃にて1晩ブロッキングした。35℃で1時間転倒混和し、PBSにより5回洗浄した。50mgビーズ/mLになるようにPBSに懸濁し、4℃で保存した。
【0035】
実施例21mlの検体を用いるウイルス濃縮法
検体1mLに精製したウマHBs抗体25μLを添加し、10分間隔で20分混合した。次に実験例1の(1)で調製したポリ-L-リジンコート磁性粒子を1mg/mLの濃度で添加した。これに1.1M酢酸亜鉛溶液を30μL添加し、混合し、5分間静置し、ウイルスと磁性粒子を含む凝集体を形成せしめた。この混合物を磁気スタンド上に5分間静置することにより、磁性粒子とウイルスを含む凝集体を沈殿せしめ、血漿や血清成分を含む液体を除去した。得られた凝集体に2mM PBS1mLを加え、ボルテックスで攪拌洗浄し、洗浄後磁気スタンド上に5分間静置することにより、ウイルス凝集体を沈殿せしめ、洗浄液を除去した。更に磁気スタンド上でPBSを1mL加え再度洗浄した。得られた凝集体に0.4 M EDTA溶液を50μLを加え混合した。
【0036】
EX.R&D抽出
次に処理物を磁気スタンド上に静置、上清を回収し、検体希釈液480μL、酵素液20μL、共沈剤5μLの混合液500μLを加え、抽出を行った。
【0037】
実施例35mLの検体を用いるウイルス濃縮法
検体5mLに精製したウマHBs抗体100μLを添加し、10分間隔で20分間混合した。次に、実施例1の(2)で調製したポリ-L-リジンコート磁性粒子を5mg/mLの濃度で添加した。これに、1.1M 酢酸亜鉛溶液を150μL添加し、混合、5分間静置、ウイルスと磁性粒子を含む凝集体を形成せしめた。この混合物を磁気スタンド上に5分間静置することにより、磁性粒子とウイルスを含む凝集体を沈降せしめ、血漿や血清成分を含む液体を除去した。得られた凝集体に2mM PBS 1mLを加え、ボルテックスで攪拌洗浄し、洗浄後磁気スタンド上に5分間静置することによってウイルス凝集体を沈降せしめ、洗浄液を除去した。さらに磁気スタンド上でPBSを1mL加え再度洗浄した。得られた凝集体に0.4M EDTA溶液を50μLを加え混合した。
【0038】
EX.R&D抽出
次に処理物を磁気スタンド上に静置、上清を回収し、検体稀釈液465μL、酵素液30μL、共沈剤5μLの混合液500μLを加え、抽出を行った。
【0039】
実施例4HBV、HCV及びNIVの濃縮
各ウイルスの濃度を×1、×10及び×100の3段階に調製した検体を人工的に調整し、実施例2に記載した方法(但し、ウマHBs抗体は添加しない)により濃縮した後、得られたウイルス核酸試料をPCRにより増幅した。結果を図1に示す。この図中、黒い棒は本発明の方法により濃縮した結果を示し、白棒は濃縮処理しなかった試料の結果を示す。何れのウイルスについても、本発明の濃縮法により検出感度が約10倍向上した。但し、実施例5以降に示す通り、HBVについては再現性に問題がある。
【0040】
実施例5. 濃縮の再現性
HBV及びHCVについて、実施例4の濃縮方法を5回反復した。その結果を、図2に示す。この図から明らかなとおり、HCVの濃縮には高い再現性が認められたが、HBVの濃縮は再現性に乏しかった。
【0041】
実施例6凝集速度
そこで、HBVの濃縮における再現性の低さの原因を探るため、実施例2に記載の方法(但し、ウマHBs抗体は添加しない)において、凝集体の形成のためのインキュベーション時間を変えてウイルスの捕捉率を観察した。その結果を図3に示す。HCVは殆ど瞬間的に捕捉されるのに対して、HBVは捕捉速度が低いことが明らかとなった。なお、検体として、リン酸緩衝液中6%ウシ血清アルブミンにウイルスを分散させたものを用いた。
【0042】
実施例7ビリルビンによる凝集阻害
更に、HBVの濃縮における再現性の低さの原因を探るため、実施例2に記載の方法において、凝集工程においてビリルビンーF、ビリルビンーC、溶血ヘモグロビン、又は乳彌を添加して、凝集体の形成のためのインキュベーション時間を変えてウイルスの捕捉率を観察した。その結果を図4に示す。この結果から明らかなとおり、ビリルビン類が最も大きく凝集を阻害することが明らかになった。なお、この実験においては、リン酸緩衝液中6%ウシ血清アルブミンに、ウイルス及び阻害剤を加えたものを用いた。
実施例 . 洗浄法による抽出阻害の回復
実施例1.2に記載の方法において、洗浄した場合と、しない場合について、さらに洗浄液の種類・濃度について検討測定した。洗浄効果について表00に示す。この表から明らかなように、洗浄する場合はPBS洗浄がよく、なかでも2mM PBS洗浄が抽出阻害を最もよく回避でき、抽出阻害を洗浄することで解消することが出来ることが明らかになった。
【0043】
実施例8. ビリルビンによる凝集阻害の抗HBs抗体を添加した場合と、ウマHBs抗体は添加しない場合について、ビリルビンを種々の濃度で添加して、ウイルスの凝集・捕捉量を測定した。ウマHBs抗体濃度は4μ/mlとした。ビリルビンの相対濃度と、ウイルス凝集・捕捉量の相対量との関係を図5に示す。この図から明らかな通り、抗ウマHBs抗体を添加した場合には、ビリルビンの添加濃度に関係なく凝集阻害は生じなかったが、抗ウマHBs抗体を添加しない場合には、ビリルビンの添加量依存的に凝集阻害が生じた。この結果、ウイルスの濃縮工程における凝集・捕捉阻害は検体中のビリルビンにより生じ、ビリルビンによる凝集・捕捉阻害は抗HBs抗体の添加により解消することが出来ることが明らかになった。
【0044】
実施例9凝集・捕捉の安定化
実施例8の方法を実施したが、HBVを含む3種類の検体を、抗ウマHBs抗体の存在下及び非存在下で濃縮した。結果を図6に示す。この図から明らかな通り、抗ウマHBs抗体の存在下で凝集・捕捉が安定し、バラツキが無くなった。
【0045】
実施例10実施例2の結果の例(1)
HBV又はHCVを3種類の濃度で含む検体(×1、×10、又は×100)について、実施例2に記載の方法により、ウイルスの濃縮を行い、濃縮されたウイルスをPCRにより増幅した。結果を図7に示す。この図において、黒棒は1mlの検体を10倍に濃縮して得られる0.1mlの試料をPCRにより増幅した結果を示し、白棒は、0.1mlの検体を同様にPCR増幅した結果を示す。
図7から明らかな如く、HCVのみならずHBVについても、本発明の濃縮方法により、ウイルスが検出感度が上昇した。
【0046】
実施例11実施例2の結果の例(2)
HBVを含む4種類の検体(A、B、C及びD)を3種類の濃度(希釈倍数×10、×100、及び×1000)に希釈し、これらの希釈検体1mlを、実施例2の方法により濃縮し、濃縮物0.1mlをPCR増幅した。対照として、未濃縮の希釈検体0.1mlをPCR濃縮した。結果を下記の表1に示す。
【0047】
【表1】

表1から明らかな通り,本発明の濃縮方法により、HBVが約10倍の感度で検出・測定できた。
【0048】
実施例12実施例3の結果の例
HBVを含む4種類の検体(A、B、C及びD)を3種類の濃度(希釈倍数×10、×100、及び×1000)に希釈し、これらの希釈検体5mlを、実施例3の方法により濃縮し、濃縮物0.1mlをPCR増幅した。対照として、未濃縮の希釈検体0.1mlをPCR増幅した。結果を下記の表2に示す。
【0049】
【表2】

表2から明らかな通り、本発明の濃縮方法により、HBVが約50倍の感度で検出・測定できた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明の方法により、HBV、HCV及びHIVを濃縮した結果を示すグラフである。この図では、HBVも濃縮されているが、図2に示す如く、HBVの濃縮にはバラツキが存在する。
【図2】図2は、HBVの捕捉が不安定なことを示すグラフである。
【図3】図3は、HBVの捕捉速度及び捕捉率が低いことを示すグラフである。
【図4】図4は、HBVの補足に対する阻害物質がビリルビンであることを示すグラフである。
【図5】図5は、ビリルビンによるHBVの捕捉の阻害が抗HBs抗体により解除されることを示すグラフである。
【図6】図6は、1mlの検体を0.1mlに濃縮した場合の効果を示すグラフである。
【図7】図7は、希釈率とPCRカウントとの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス測定用試料の調整方法において、
(1)測定対象ウイルスを含有する可能性のある検体を、二価金属イオン、及び表面に分子量5〜10万以上の陽性荷電物質を有する水不溶性粒子と接触せしめることにより、当該測定対象ウイルスと二価金属イオンと陽性電荷物質を有する水不溶性粒子との凝集体を形成せしめ;
(2)前記工程(1)の処理物を前記凝集体と液体とに分離して凝集体を回収し;そして
(3)前記工程(2)において回収した凝集体を、洗浄によって遊離の金属イオン及び蛋白等を除去し、
(4)前記工程(3)において回収した凝集体を、金属イオンの除去により解凝集して、
濃縮されたウイルスを回収する;
工程を含む方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、測定対象ウイルス表面抗原に対する抗体を更に存在せしめる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記陽性荷電物質がポリアミノ酸である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアミノ酸がポリリジンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記二価金属イオンが亜鉛イオン又は銅イオンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水不溶性粒子が、磁性金属粒子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記分離・回収工程を、磁気により又は遠心分離により行う、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記遊離の金属イオン及び蛋白等の除去を洗浄液の添加により行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属イオンの除去を、金属キレート剤の添加により行う、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記測定対象ウイルスが、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)およびヒト免役不全ウイルス(HIV)である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記測定が、ポリメラ−ゼ連鎖反応法(PCR法)または核酸増幅反応(NAT)及び免疫学的測定方法(EIA法等)である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−204201(P2006−204201A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21367(P2005−21367)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000231729)日本赤十字社 (7)
【Fターム(参考)】