説明

ウイルスの細胞トロピズムの同定

本発明は、マイクロRNA又はそれらの標的mRNAを同定するためのインビトロ方法であって、細胞に進入するために細胞受容体及び少なくとも一つの細胞共受容体を用いるウイルスによる細胞の感染の間、マイクロRNA、又はそれらの標的mRNAの発現が、細胞へのその進入のためにウイルスにより用いられる細胞共受容体に基づいて特に変更され、以下:
i)第一の共受容体を用いる第一のウイルスによる、及び別の共受容体を用いる少なくとも一つの他のウイルスによるそれぞれの感染後、受容体、第一の共受容体、及び少なくとも一つの他の共受容体を発現する試験細胞におけるマイクロRNAの発現レベルを決定すること;
ii)未感染の細胞における発現レベルと比較して、それぞれのウイルスによる感染の間、その発現レベルが調節されるマイクロRNAを同定すること;
iii)このようにして同定されたマイクロRNAを比較すること;
iv)その発現レベルの変更が共受容体の使用に特有であるマイクロRNAを選択すること;
v)このようにして選択されたマイクロRNAの標的mRNAを任意で同定すること、
を含む、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス、特にヒト免疫不全ウイルス(HIV)の細胞トロピズム、特に細胞に侵入するためのCXCR4及びCCR5受容体を用いるHIVウイルスの能力を特徴付けるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術背景
細胞におけるHIVウイルスの侵入は、エンベロープタンパク質gp41及びgp120を含むいくつかのウイルスタンパク質を伴う。HIVウイルスの複製サイクルの第一のステップは、gp120タンパク質とCD4細胞タンパク質との相互作用による、ウイルスと補助のT4リンパ球との結合を伴う。さらに、ウイルスと細胞膜の融合が生じるために、HIVウイルスは、細胞共受容体と相互作用する必要がある。インビボにおける最も重要な共受容体は、ケモカインの受容体であるCXCR4及びCCR5である。様々な共受容体の使用は、従って感染への免疫不全症における時間依存的変化に関連する:感染の初期において、いわゆるR5ウイルスは、CCR5共受容体と相互作用し、その後、後半のステージにおいて、特定のウイルス(いわゆるX4ウイルス)は、CXCR4共受容体を使用する。このステージでは、ウイルス集団は、R5及びX4ウイルスの混合物、又は二重R5/X4トロピズムを有するウイルスを含む。特定の場合では、ウイルスR5は、AIDSの出現を直接的に誘導し得、しかしながら、それは、疾患の進行に一般的に関連するX4ウイルスの出現である。それ故、患者においてX4ウイルスの早期出現を検出することができることは極めて重要である。
【0003】
従って、HIVウイルスの細胞トロピズムを決定する目的を有するいくつかの方法が開発されている。
【0004】
例えば、TROFILE試験(MONOGRAM)は、Monogram Biosciences及びPfizerにより提案されたHIVウイルスの表現型試験である。最初に、患者のHIVウイルスのエンベロープについてコードする領域を含むベクターのライブラリーが合成される。これらのベクターはその後増幅され、エンベロープについてコードする領域は、いずれのエンベロープタンパク質を含まないHIVウイルスを発現し、且つルシフェラーゼの遺伝子を発現するベクターにクローン化される。最終的に、これらのベクターから得られる組み換えウイルスは、CD4及びCCR5又はCXCR4を発現する細胞を感染するために用いられる。これらの細胞を感染するウイルス能力は、ルシフェラーゼにより産生される発光を測定することにより、決定される。この試験は、Afssaps(フランス健康製品安全局)及びHAS(「Haute Autorite de la Sante」、フランス健康高等当局)に対して、TRT−5により、2007年11月に通知されたように、いくつかの欠点を有する。第一に、それは大変高コストである。さらに、結果を受け取るための時間が4〜5週間であり、それは治療の変化の場合における迅速な意思決定に適合しない。さらに、ウイルストロピズムにおける変化が、そのような時間内で特定の患者に生じ得ることは、不可能なことではない。さらに、プロファイル試験は、HIV−2型のウイルスについて利用することができない。
【0005】
従って、HIVウイルスの細胞トロピズムの決定を可能にする、単純で、迅速で、信頼でき、且つ安価な代替の試験に対する深刻な要求が存在する。本発明の目的は、そのような試験を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、HIVウイルスにより感染した可能性のある細胞におけるmiRNAの発現は、細胞に進入するためにHIVウイルスにより用いられる共受容体に依存して調節されるという、発明者らによる、 予期されない発見に由来する。
【0007】
従って、本発明は、マイクロRNA又はそれらの標的mRNAを同定するためのインビトロ方法であって、細胞に侵入するために細胞受容体及び少なくとも一つの細胞共受容体を用いるウイルスにより細胞の感染の間、マイクロRNA又はそれらの標的mRNAの発現が細胞へのその侵入のためにウイルスにより用いられる細胞共受容体に従って特異的に調節され、以下:
i)第一の共受容体を用いる第一のウイルスによる、及び別の共受容体を用いる少なくとも一つの他のウイルスによるそれぞれの感染後、受容体、第一の共受容体、及び少なくとも一つの他の共受容体を発現する試験細胞におけるマイクロRNAの発現レベルを決定すること;
ii)未感染の細胞における発現レベルと比較して、それぞれのウイルスによる感染の間、その発現レベルについて調節されるマイクロRNAを同定すること;
iii)このようにして同定されたマイクロRNAを比較すること;
iv)その発現レベルについての変更が共受容体の使用に特有であるマイクロRNAを選択すること;
v)このようにして選択されたマイクロRNAの標的mRNAを任意で同定すること、
を含む、方法に関する。
【0008】
本発明はまた、ウイルスにより感染した患者において、細胞に侵入するために細胞受容体及び少なくとも一つの細胞共受容体を用いるウイルスにより用いられる細胞共受容体を同定するためのインビトロ方法であって、以下:
i)ウイルスを含み得る患者からのサンプルと、ウイルスの細胞受容体、及びのウイルスの少なくとも一つ細胞共受容体を発現する試験細胞とを接触させること;
ii)試験細胞において少なくとも一つのmiRNA及び/又は少なくとも一つのmiRNAの標的mRNAの発現レベルを決定すること;
iii)発現レベルを所定の値と比較すること;
iv)ウイルスが試験細胞により発現された細胞共受容体を使用するかどうかそれらから推測すること、
を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、CXCR4、CCR5トロピズムを有する初期のHIV−1単離株、又は2重トロピズム(dual)を有するウイルスによる感染に応答したhsa−miR−638の発現を示す。Jurkat−CCR5細胞は、4つのDUAL単離株(dual 1、dual 2、dual 3、dual 4)、4つのCXCR4単離株(X4 1、X4 2、X4 3、X4 4)、及び3つのCCR5単離株(R5 1、R5 2、R5 3)で感染された。感染から3日後、細胞は溶解され、RNAは、hsa−miR−638に対するRT−qPCRにより分析された。感染した細胞におけるhsa−miR−638の発現は、未感染のJurkat R5対照細胞(NI)の発現により標準化される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細
用語「miRNA」又は「マイクロRNA」とは、これらの遺伝子の転写から生じるmRNAの翻訳を分解する又は遮断することにより、ある特定の遺伝子の転写後制御に関与する、一般的に20〜25ヌクレオチド長のRNAの種類を意味する。miRNAの「標的mRNA」とは、それについて知られている、又はそれについて分解されることが決定されている、又はそれについて翻訳が前記miRNAにより遮断される、mRNAを意味する。miRNAは、特に、Griffiths−Jones((2004)Nucleic Acids Res.32:D109−D111)、Griffiths−Jones et al.((2008)Nucleic Acids Res36:D154−D158)、及びmiRNAに関するデータベース(miRBase、http://microRNA.sanger.ac.uk)に記述される。
【0011】
語句「ウイルス」は、本明細書で用いられるように、ウイルスの全ての種類を含む。特に、ウイルスは、それらの変異体又は種がより高い又はより低い病原性であるウイルスの群、例えば、レトロウイルス、特にHIVウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ハシカのウイルス、ヘルペスウイルス(EBV、Simplex、及び/又はCMVウイルスを含む)、パピローマウイルスから選択され得る。好ましくは、ウイルスは、ヒトレトロウイルウイルス、特に、HIV、HTLV−1、及びXMRVから選択される。さらにより好ましくは、ウイルスは、HIV、及び特にHIV−1、及びHIV−2ウイルスである(HIVデータベースhttp://www.hiv.lanl.gov/content/indexに特に記述される)。本発明によるウイルスがHIVである場合、感染を実行するために用いられるウイルスは、例えば、HIV−1、NL4.3、HIV−2 ROD、若しくはHIV−1 NLAD8ウイルス、又は患者由来のウイルスなどの原型ウイルスでもよい。本発明によるHIVウイルスはまた、標的細胞に侵入するための一つ又は複数の共受容体を用い得る。好ましくは、本発明によるマイクロRNAを同定するための方法において、用いられるHIVウイルスは、細胞に侵入するための共受容体の一つの種類のみを用いる。
【0012】
用語「患者」とは、ウイルスにより感染したヒトを表す。好ましくは、ウイルスはHIVである。患者は、その結果、AIDS(後天性免疫不全症候群)を発症し得る。場合により、患者は、抗レトロウイルス治療下、例えば、HAART(高活性抗レトロウイルス療法)治療下にある。
【0013】
本発明による用語「受容体」及び「細胞受容体」とは、ウイルスによる標的細胞の認識に関与し、一般的にこのウイルスと標的細胞との結合をもたらす細胞表層構造、一般的にタンパク質を表す。用語「共受容体」及び「細胞共受容体」は、ウイルスの侵入に関与する全ての細胞表面タンパク質を集合させ、細胞受容体は除外される。
【0014】
ウイルスがHIVである場合、用語「共受容体」及び「細胞共受容体」は、より具体的には、ウイルスと細胞受容体CD4との相互作用に加えて、ウイルスの侵入に関与する全ての細胞表面タンパク質を集める。宿主細胞におけるHIVウイルスの侵入は、細胞とウイルス膜との融合を含む。特に、共受容体は、CXCR4、CCR5、CCR3、CCR2、CCR1、CCR4、CCR8、CCR9、CXCR2、STRL33、V28、gpr1、gpr15、及びChemR23からなる群から選択され得る。好ましくは、共受容体CCR5又はCXCR4である。
【0015】
CXCR4はまた、Fusin、LESTR、及びNPY3Rの名称で知られている。CXCR4遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号1、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCXCR4遺伝子の配列をここで選択的に指定する。遺伝子CXCR4は、配列番号2により表される配列を有し得るCXCR4タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0016】
CCR5はまた、CKR−5、及びCMKRB5の名称で知られている。遺伝子CCR5は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号3、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCCR5遺伝子の配列をここで選択的に指定する。CCR5遺伝子は、配列番号4により表される配列を有し得るCCR5タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0017】
CCR3はまた、CC−CKR−3、CKR−3、及びCMKBR3の名称で知られている。CCR3遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号5、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCCR3遺伝子の配列をここで選択的に指定する。CCR3遺伝子は、配列番号6により表される配列を有し得るCCR3タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0018】
CCR2はまた、CCR2b、及びCMKBR2の名称で知られている。CCR2遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号7、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCCR2遺伝子の配列をここで選択的に指定する。CCR2遺伝子は、配列番号8により表される配列を有し得るCCR2タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0019】
CCR1はまた、CKR1、及びCMKBR1の名称で知られている。CCR1遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号9、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCCR1遺伝子の配列をここで選択的に指定する。CCR1遺伝子は、配列番号10により表される配列を有し得るCCR1タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0020】
CCR4はまた、CKR−4の名称で知られている。CCR4遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号11、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCCR4遺伝子の配列をここで選択的に指定する。CCR4遺伝子は、配列番号12により表される配列を有し得るCCR4タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0021】
CCR8はまた、ChemR1、TER1、及びCMKBR8の名称で知られている。CCR8遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号13、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCCR8遺伝子の配列をここで選択的に指定する。CCR8遺伝子は、配列番号14により表される配列を有し得るCCR8タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0022】
CCR9はまた、D6の名称で知られている。CCR9遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号15、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCCR9遺伝子の配列をここで選択的に指定する。CCR9遺伝子は、配列番号16により表される配列を有し得るCCR9タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0023】
CXCR2はまた、IL−8RBの名称で知られている。CXCR2遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号17、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトCXCR2遺伝子の配列をここで選択的に指定する。CXCR2遺伝子は、配列番号18により表される配列を有し得るCXCR2タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0024】
STRL33はまた、Bonzo、CXCR6、及びTYMSTRの名称で知られている。STRL33遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号19、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトSTRL33遺伝子の配列をここで選択的に指定する。STRL33遺伝子は、配列番号20により表される配列を有し得るSTRL33タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0025】
V28はまた、CMKBRL1、CX3CR1、及びGPR13の名称で知られている。V28遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号21、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトV28遺伝子の配列をここで選択的に指定する。V28遺伝子は、配列番号22により表される配列を有し得るV28タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0026】
gpr1又はGPR1遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号23、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトgpr1遺伝子の配列をここで選択的に指定する。gpr1遺伝子は、配列番号24により表される配列を有し得るgpr1タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0027】
gpr15又はGPR15はまた、BOBの名称で知られている。gpr15遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号25、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトgpr15遺伝子の配列をここで選択的に指定する。gpr15遺伝子は、配列番号26により表される配列を有し得るgpr15タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0028】
Apjはアンジオテンシン受容体様アペリン受容体(APLNR)及びAGTRL1の名称で知られている。Apj遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号27、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトApj遺伝子の配列をここで選択的に指定する。Apj遺伝子は、配列番号28により表される配列を有し得るApjタンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0029】
ChemR23はまた、CMKLR1、及びDEZの名称で知られている。ChemR23遺伝子は、そのmRNA配列が、例えば、配列番号29、又はその任意の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び他の種において存在するオーソログ配列であり得る、ヒトChemR23遺伝子の配列をここで選択的に指定する。ChemR23遺伝子は、配列番号30により表される配列を有し得るChemR23タンパク質、又は任意のその自然変異体についてコードする。
【0030】
本発明に従って、「試験細胞」は、本発明に従ってウイルスにより感染され得る任意の細胞を意味する。好ましくは、ウイルスがHIVである場合、本発明による試験細胞は、上記で定義されたように、HIVウイルスのCD4、第一の及び少なくとも一つの他の共受容体を発現する。さらに好ましくは、本発明による試験細胞は、CXCR4、及びCCR5を発現する。本発明による試験細胞は、これらの受容体を自然に発現し得、またはこれらの受容体を発現するために、遺伝子的に操作され得る。本発明による試験細胞は、例えば、樹枝状細胞、リンパ球系由来の細胞(好ましくは、Tリンパ球)、又は骨髄系(好ましくは、マクロファージ)、上皮細胞、又は線維芽細胞でもよい。好ましくは、本発明による試験細胞は、Jurkat細胞(Schneider et al.Int.J.Cancer(1997)19(5):621−6に特に記述される)、例えば、細胞クローンJurkat E6−1(ATCC No.:TIB−152)、Jurkat−CCR5細胞(Alkhatib et al.(1996)Science 272:1955−1958 and the AIDS reagent NIBSC,UKに特に記述される)からなる群から選択される。よりさらに好ましくは、本発明による試験細胞は、Jurkat−CCR5細胞である。
【0031】
本発明によるHIVウイルスを用いて試験細胞を感染させることを可能にする技術は、当業者によく知られており、Barre−Sinoussi et al.((1983)Science 220(4599):868−71)に特に記述される。
【0032】
試験細胞におけるマイクロRNA発現レベル又は標的mRNA発現レベルは、当業者に知られている任意の技術により測定され得る。RNAの定量を可能にする多くの方法、例えば、RNA配列の特異的なオリゴヌクレオチドを用いる逆転写PCR(RT−PCR)に基づく方法、又はこれらのRNA、二倍又は三倍のこれらのRNAと、プローブとのハイブリダイゼーションをストリンジェントな条件下で許容する方法は知られている。標的mRNAの発現レベルが測定された場合、それは、RT−PCRを行うこと、又は全てのmRNAの逆転写を可能にするシングルプローブを用いた特異的なcDNAチップを作ることを可能にする。本発明によるプローブは、好ましくは、マイクロアレイに配置される。ストリンジェントな条件は、当業者により容易に決定され得る。例えば、本発明によるストリンジェントな条件は、10〜20時間、好ましくは16時間、40〜50℃、好ましくは50℃の温度で、500mM〜2MのNaCl、好ましくは1MのNaClの濃度により誘導されるのと同等のイオン強度の存在下でのハイブリダイゼーションステップを含み得る。他の生成物はまた、バッファ溶液、例えばTris又はMES、EDTA、Tween、及びBSA(ウシ血清アルブミン)として添加され得る。
【0033】
第一の共受容体を用いる第一のウイルス、及び別の共受容体を用いる少なくとも一つの他のウイルスでそれぞれ感染された試験細胞におけるマイクロRNA、又はそれらの標的mRNAのそれによって測定された発現レベルは、未感染の細胞と比較してそれぞれのウイルスでの感染の間、その発現が調節されるマイクロRNA又はそれらの標的mRNAの同定を、可能にし得る。それぞれのウイルスでの感染の間、その発現が調節されるマイクロRNA及びそれらの標的mRNAの同定は、miRNA又はそれらの標的miRNAの発現レベルと比較することにより達成され得、それぞれのウイルスでの感染後、未感染細胞における前記miRNA又は前記標的mRNAの発現レベルと共に測定され得る。好ましくは、マイクロRNA又はそれの標的mRNAは、ウイルスでの試験細胞の感染の間、調節された発現を有すると考えられるため、この発現は、未感染の試験細胞における発現と比較して、それぞれ0.5超、又は0.5未満のlog2の割合(感染した細胞における前記miRNAの発現/未感染の細胞における前記miRNAの発現)で増加又は減少する。
【0034】
それぞれのウイルスでの感染の間、調節される発現を有するとして同定されたマイクロRNA又はそれらの標的mRNAは、従って、その発現がウイルスによる共受容体の使用により特異的に調節されるmiRNA又はそれらの標的mRNAを選択するために、比較され得る。
【0035】
本発明による「共受容体の使用の特異的な発現レベルの調節」とは、ウイルスにより用いられる共受容体の同定を可能にするのに十分な発現の調節、増加、又は減少を意味する。
【0036】
「未感染の試験細胞」又は「患者由来のウイルスにより未感染の細胞」とは、本発明による方法において、その細胞共受容体が、試験細胞により提示されるが、試験細胞に侵入するためにウイルスにより用いられる第一の共受容体又は少なくとも一つの他の共受容体とは異なる、ウイルスと何らの接触をさせられていないが、ウイルス、特にレトロウイルスにより感染された細胞を意味する。例えば、このウイルスは、VSV型又はPFV−1ウイルスの両種性エンベロープによる偽型化したHIVウイルスでもよい。
【0037】
例えば、未感染のJurkat−CCR5細胞におけるmiRNA又はその標的mRNAの発現と比較して、Jurkat−CCR5細胞(CXCR4及びCCR5を発現する)におけるCXCR4共受容体を用いる第一のHIVウイルスでの感染の間、miRNA又は一つのその標的mRNAの発現が増加する場合、その上未感染のJurkat−CCR5細胞におけるmiRNA又は一つのその標的mRNAの発現と比較して、Jurkat−CCR5細胞におけるCCR共受容体を用いる第二のHIVウイルスでの感染の間、miRNA又は一つのその標的mRNAの発現が増加しない場合、その結果、前記miRNA又は前記標的mRNAの発現は、HIVウイルスによるCXCR4受容体の使用に特異的である。
【0038】
本発明はまた、細胞に進入するための受容体及び少なくとも一つの細胞共受容体を用いるウイルスによる細胞の感染の間、その発現が、細胞へのその進入のために用いられるウイルスにより用いられる細胞共受容体に応じて特に変更される、マイクロRNA又はそれらの標的mRNAを同定するためのインビトロ方法であって、以下:
i)第一の共受容体を用いる第一のウイルスによる、及び別の共受容体を用いる少なくとも一つの他のウイルスによるそれぞれの感染後、受容体、第一の共受容体、及び少なくとも一つの他の共受容体を発現する試験細胞中のマイクロRNAの発現レベルを決定すること;
ii)このようにして決定されたマイクロRNAの発現レベルを比較すること;
iii)その発現レベルについての変更が共受容体の使用に特異的であるマイクロRNAを同定すること、
を含む、方法に関する。
【0039】
第一の共受容体を用いるウイルス、及び別の共受容体を用いる他のウイルスによるそれぞれの感染後、試験細胞中のマイクロRNA又はそれらの標的mRNAのそれに関して測定された発現レベルは、その後、互いに直接的に比較され得る。この比較は、その後、それの発現についての変更が、ウイルスによる第一の共受容体、又は少なくとも一つの他の共受容体の使用に特異的である、マイクロRNA又はそれらの標的mRNAを同定することが可能である。
【0040】
本発明による方法はまた、その発現レベルについての変更が、細胞に侵入するためのウイルスによる共受容体の使用に特異的である、そのようにして同定された、特徴的なマイクロRNAの標的mRNAを同定することを可能にするさらなるステップを含み得る。miRNAの標的は、データベース、特にmiRBase(http://microrna.sanger.ac.uk/、及びGriffiths−Jones et al.(2008)Nucleic Acids Res.36、Griffiths−Jones et al.(2006)Nucleic Acids Res.34、Griffiths−Jones et al.(2004) Nucleic Acids Research 32に特に記述される)、及びTargetScan(http://www.targetscan.org/、及びLewis et al.(2005)Cell 120:15−20、Grimson et al.(2007)Molecular Cell 27:91−105、Friedman et al.(2009)Genome Research 19:92−105に特に記述される)で確認され得る。
【0041】
語句「HIVウイルスを含み得る患者由来のサンプル」は、ウイルスを含み得る、患者由来の全ての生物学的液体、又は組織、例えば、末梢血、生殖器粘膜、リンパ系組織、脳脊髄液、胎盤、又は母乳を含む。サンプルは、試験細胞と直接接触し得る。好ましくは、ウイルスは、宿主細胞と接触前に、サンプルから抽出される。例えば、患者のウイルスは、生物学的サンプルからの第一の単離体由来であり得、当業者により知られている任意の方法により得ることができ、例えば、Barre−Sinoussi et al((1983)Science 220(4599):868−71により記述される技術に特に従って、HIVウイルスの単離は、HIVで感染された患者由来のリンパ球と、HIVについて血清反応陰性ドナーのリンパ球との共培養により実行され得る。HIVウイルスにより感染された患者の末梢血はまた、(Fang et al.(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:12110−4により特に記述されるように)細胞から血漿を分離するために処理され得る。
【0042】
患者において細胞に侵入するための細胞受容体及び少なくとも一つの共受容体を用いるウイルスにより用いられる細胞共受容体を同定するための方法を適用するために、少なくとも一つのmiRNA、及び/又は少なくとも一つのこのmiRNAの標的mRNAは、測定される。好ましくは、このmiRNA、及び/又はその標的mRNAは、共受容体のウイルスによる使用に特異的な発現レベルの変更を有するとして同定される。好ましくは、このmiRNA、及び/又はその標的mRNAは、本発明による方法により同定される。
【0043】
特に、本発明による患者においてウイルスを同定するための方法は、CXCR4及び/又はCCR5を用いるウイルスを同定するために用いられ得る。好ましくは、このmiRNA、及び/又はその標的mRNAは、その結果、CXCR4、及び/又はCCR5受容体のHIVウイルスによる使用に特異的な発現レベルの変更を有するとして同定される。好ましくは、このmiRNA、及び/又はその標的mRNAは、本発明によるmiRNAを同定するための方法により同定される。
【0044】
好ましくは、本発明による方法は、患者におけるCXCR4共受容体を用いるウイルスの存在又は不在を同定するために適用される。本発明による方法はまた、CXCR4受容体を用いるウイルスの出現を同定するために、及び従って、患者における疾患の進行を観察するために、時間をかけて様々な期間において、サンプルされた同じ患者に由来するサンプルに関して数回実行され得る。
【0045】
所定の値は、単一の値、例えば、所定のmiRNA又は所定の標的mRNAの発現レベル、又は発現レベルの平均でもよい。
【0046】
例えば、所定の共受容体を用いるウイルスを同定するために、所定の値は、この受容体を発現し、細胞に侵入するためにこの共受容体を用いることについて知られている参照ウイルスで感染された細胞中における所定のmiRNA又は所定の標的mRNAの発現の値であってもよい。例えば、患者において、CXCR4及び/又はCCR5を用いるウイルスを同定するために、所定の値は、細胞に侵入するために、CXCR4又はCCR5を用いる参照HIVウイルスでの感染後、CXCR4又はCCR5を発現する細胞における、所定のmiRNA又は所定の標的mRNAの発現の値であってもよい。
【0047】
得られる発現レベルと所定の値との比較は、試験されるウイルスが、細胞に侵入するための参照ウイルスと同じ共受容体を用いるかどうかを決定することを可能にする。例えば、得られる値が所定の値に近い場合、試験されるウイルスにより用いられる共受容体が、細胞に侵入するための参照ウイルスにより用いられるそれと同一であることを推測することが可能である。近い値とは、好ましくは、50%、40%、30%、20%、又は10%、さらにより好ましくは、5%未満より離れていない値を意味する。
【0048】
参照値はまた、例えば、未感染の細胞、従って、患者のウイルスによる感染の不在における、所定のmiRNA又は所定の標的mRNAの発現の値でもよい。好ましくは、未感染の細胞における発現と比較して、所定の共受容体を用いる参照ウイルスでの細胞の感染後、前記miRNA又は前記標的mRNAの発現は、特に、調節され、増加し、又は減少することが、事前に示される。あらかじめ決められたそれと同じ性質をもつmiRNA又は標的mRNAの発現値の増加又は減少は、従って、ウイルスによる同じ共受容体の使用を示す。同じ性質の増加した又は減少した発現とは、好ましくは、同じ兆候(それぞれ、陰性又は陽性)の、log2の割合(感染した細胞における前記miRNA及び/又は標的mRNAの発現/未感染の細胞における前記miRNA及び/又は標的mRNAの発現)の値を意味する。本発明による感染した患者のウイルスにより用いられる共受容体を同定するための方法における、発現レベルと所定の値(iii)とを比較するためのステップは、少なくとも一つのmiRNA及び/又は少なくとも一つのmiRNAの標的mRNAが、未感染の試験細胞における少なくとも一つのmiRNA及び/又は少なくとも一つのmiRNAの標的mRNAの発現レベルと比較して、増加又は減少するかどうかを測定することにより、その結果、選択的に適用される。
【0049】
例えば、未感染の細胞において、それの発現についてが共受容体CXCR4を用いる参照HIVウイルスにより特異的に調節(増加又は減少)されるとして示される、一つ又は複数のマイクロRNA又は標的mRNAの発現の測定は、患者由来のウイルスによる感染後の細胞において、前記マイクロRNA又は標的mRNAの発現の測定と比較され得る。所定のマイクロRNAの所定の調節がない場合、この試験は、CXCR4が患者由来のHIVウイルスにより用いられる共受容体ではないことが確認される。反対に、所定の調節(増加又は減少)が観察された場合、試験は、CXCR4が患者のHIVウイルスにより用いられる共受容体であることが確認され、それは、そのようなウイルスは、例えば、CCR5及びCXCR4を用い得る、二重トロピズムを有するウイルスであってもよいことは指摘され得る。
【0050】
その発現が測定されるmiRNAは、例えば、hsa−miR−574−5p(特に、配列番号31、ugagugugugugugugagugugu)、hsa−miR−663(特に、配列番号32、aggcggggcgccgcgggaccgc)、hsa−miR−149*(特に、配列番号33、agggagggacgggggcugugc)、hsa−miR−575(特に、配列番号34、gagccaguuggacaggagc)、hsa−miR−638(特に配列番号35、agggaucgcgggcggguggcggccu)、hsa−miR−181b(特に配列番号36、aacauucauugcugucggugggu)、hsa−let−7g(特に配列番号37、ugagguaguaguuuguacaguu)、hsa−miR−30a(特に配列番号38、uguaaacauccucgacuggaag)、hsa−miR−148a(特に配列番号39、ucagugcacuacagaacuuugu)、及びhsa−miR−9*(特に配列番号40、auaaagcuagauaaccgaaagu)からなる群から選択され得る。好ましくは、その発現について測定されるmiRNAは、hsa−miR−638である。
【0051】
その発現について測定されるmiRNAはまた、配列番号31〜40の配列の対立遺伝子若しくは多型の変異体、及び配列番号31〜40の配列のmiRNA由来であり、特に同じ標的mRNAの発現を調節する同じ機能を充足する他の種において存在するオーソログ配列であってもよい。例えば、これらのmiRNAは、核酸の一つ又はいくつかの変異による配列番号31〜40の配列のmiRNA由来であってもよい。
【0052】
その発現について測定されるmRNAは、例えば、配列番号31〜40のmiRNA、又はそれら由来のmiRNAの標的mRNAからなる群から選択されてもよい。特に、標的mRNAは、上述のようなデータベースに同定され得る。
【0053】
例えば、hsa−miR574−5p、hsa−miR−663、hsa−miR−149*、hsa−miR−575、hsa−miR−638からなる群から選択される少なくとも一つのmiRNAの発現の増加、又はhsa−miR−181b、hsa−let−7g、hsa−miR−30a、hsa−miR−148a、及びhsa−miR−9*からなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現の減少は、CXCR4が患者のHIVウイルスにより用いられる共受容体であることを示す。反対に、hsa−miR574−5p、hsa−miR−663、hsa−miR−149*、hsa−miR−575、hsa−miR−638からなる群から選択される少なくとも一つのmiRNAの発現の増加がないこと、又はhsa−miR−181b、hsa−let−7g、hsa−miR−30a、hsa−miR−148a、及びhsa−miR−9*からなる群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現の減少がないことは、CXCR4が患者のウイルスにより用いられる共受容体ではないことを示す。
【実施例】
【0054】
材料及び方法
ウイルス及び細胞株
この研究に用いられるウイルスは、共受容体CXCR4を双方ともに用いる原型HIV−1 NL4.3、及びHIV−2 RODウイルス、共受容体CCR5を用いるHIV−1 NLAD8ウイルス、並びにCXCR4共受容体を用いる(X4 1、X4 2、X4 3、及びX4 4と称される4つの単離株)、CCR5共受容体を用いる(R5 1、R5 2、及びR5 3と称される3つの単離株)、又はCXCR4及びCCR5の双方の共受容体を用い得る(dual 1、dual 2、dual 3、及びdual 4と称される4つの単離株)第一の単離株由来のウイルス、並びにその侵入のためにCD4、又はCXCR4、又はCCR5も用いない別のレトロウイルスPFV−1である。
【0055】
Jurkat、及び安定した方法でCCR5を発現するJurkat−CCR5細胞株は、用いられる。
【0056】
感染
−原型ウイルスでの感染
Jurkat、及びJurkat−CCR5細胞は、感染多様性に関する調節を考慮するために、感染用量のHIV−1 NL4.3、HIV−2 RODで、3日間感染された。Jurkat−CCR5細胞は、HIV−1 NLAD8、又はPFV−1で3日間感染された。
【0057】
−初期の単離株由来のウイルスでの感染
Jurkat−CCR5細胞は、X4 1、X4 2、X4 3、及びX4 4、R5 1、R5 2、R5 3、dual 1、dual 2、dual 3、又はdual 4ウイルスで、3日間感染された。未感染のJurkat−CCR5細胞は、対照(NI)として用いられる。
【0058】
マイクロRNAの発現の分析
−マイクロRNAチップごとの分析
原型ウイルスでの感染の3日後、RNAは、抽出され、マイクロRNAチップ(LC Sciences、又はAffymetrix)による分析に供される。
【0059】
−RT−PCRによるhsa−miR−638の発現の分析
初期の単離株由来のウイルスによる感染の3日後、細胞は溶解され、hsa−miR−638の発現は、RT−qPCRにより分析される。感染した細胞におけるhsa−miR−638の発現は、未感染のJurkat−CCR5対照細胞(NI)におけるhsa−miR−638の発現に対して相対的に標準化される。
【0060】
結果
実施例1:マイクロRNAの同定
共受容体CXCR4を双方共に用いる原型ウイルスHIV−1 NL4.3及びHIV−2 RODにより誘導されたマイクロRNAの発現の調節が、研究された。個人間のバリエーションを制限するために、及び個別の遺伝的背景(及び従ってマイクロRNAの比較可能なリスト)を用いて実施するために、これらの調節は、Jurkat細胞株及びCCR5を発現するJurkat株の感染の間、双方ともに研究された。感染の3日が、Jurkat細胞のRNAは抽出され、マイクロRNAチップでの分析に供される。表1は、HIV−1 NL4.3、及びHIV−2 RODの双方により調節されるマイクロRNAのサブ集団を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1。1 及び100 TCID50における、Jurkat細胞、及びJurkat−CCR5細胞のHIV−1 NL4.3、及びHIV−2 RODでの感染の間誘導された細胞マイクロRNAのリストの有意(p<0.01)な調節。
【0063】
HIV−1 NLAD8での(R5トロピズムを有する、表2)、及びその侵入のために、CD4、又はCXCR4、又はCCR5を用いない対照レトロウイルスPFV−1でのJurkat−CCR5細胞の感染はまた、マイクロRNAの発現の調節を引き起こす。
【0064】
【表2】

【0065】
表2。HIV−1 NLAD8での感染の間、誘導された細胞マイクロRNAのリストの有意(p<0.01)な調節。
【0066】
これらの表を比較することにより、9つのマイクロRNAの発現がHIV及びそのトロピズムの独立した感染の間、体系的に減少することが見られ得る(表3)。これらのマイクロRNAの発現は、PFV−1での感染により影響を受けない。
【0067】
【表3】

【0068】
表3。NL4.3、ROD、及びNLAD8での感染の間、誘導された細胞マイクロRNAのリストの有意(p<0.01)な調節。
【0069】
さらに、5つのマイクロRNAの発現は、NL4.3、又はRODでの感染の間増加するが、NLAD8での感染の間減少する。最終的に、4つのマイクロRNAの発現は、NL4.3、又はRODでの感染の間特に減少するが、NLAD8での感染の間減少しない(表4)。特にNL4.3、又はRODでの感染の間、その発現が増加又は減少するマイクロRNAは、PFV−1での感染の間、影響を受けない。
【0070】
【表4】

【0071】
表4。NL4.3、及びRODでの感染の間、特異的に誘導された細胞マイクロRNAのリストの有意(p<0.01)な調節(増加、感染の間その発現が増加するマイクロRNA、減少、感染の間その発現が減少するマイクロRNA)。
【0072】
これらの結果は、ウイルスの侵入により誘導された細胞マイクロRNAのリストの調節の重要性を説明する。これらの分析はまた、マイクロRNAの細胞リストにおける変化に基づくHIVによる特定の種類の共受容体(ここではCXCR4、又はCCR5)の使用を区別するための発明による方法に起因して、可能性を示す。
【0073】
実施例2:
それによって得られた結果を実証するために、Jurkat−CCR5細胞(受容体CXCR4、及び受容体CCR5の双方を発現する)は、共受容体CXCR4を用いる(X4 1、X4 2、X4 3、及びX4 4)、共受容体CCR5を用いる(R5 1、R5 2、及びR5 3)、又は共受容体CXCR4及びCCR5の双方を用い得る(dual 1、dual 2、dual 3、及びdual 4)初期の単離株に由来するウイルスで感染させる。
【0074】
感染した又は未感染(NI、対照)の細胞におけるhsa−miR−638の発現は、3日後に測定される。予期され、図1に示される様に、hsa−miR−638の発現は、未感染の細胞において変更されなかった。この発現は、細胞に侵入するための共受容体としてCCR5のみを用いるウイルス(R5 1、R5 2、及びR5 3)で感染された細胞において、もはや変更されない(図1)。他方で、この発現は、細胞に侵入するためにCXCR4共受容体を用いることのできるウイルス(X4 1、X4 2、X4 3、X4 4、dual 1、dual 2、dual 3、及びdual 4)で感染された細胞において、著しく増加する(図1)。
【0075】
これらの結果は、CXCR4共受容体に関与する感染のみが、hsa−miR−638の発現の減少を誘導することを示す。
【0076】
これらの結果は、それ故、実施例1で得られるデータを支持し、必要であれば、感染した細胞におけるマイクロRNAの発現レベルが、この細胞を感染するためのウイルスにより用いられる共受容体の決定を可能にすることを証明し、それ故、このウイルスのトロピズムの同定を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロRNA、又はそれらの標的mRNAを同定するためのインビトロ方法であって、細胞に進入するために、細胞受容体及び少なくとも一つの細胞共受容体を用いるウイルスによる細胞の感染の間、マイクロRNA、又はそれらの標的mRNAの発現が細胞へのそれの進入のためにウイルスにより用いられる細胞共受容体に従って特に変更され、以下:
i)第一の共受容体を用いる第一のウイルスによる、及び別の共受容体を用いる少なくとも一つの他のウイルスによるそれぞれの感染後、受容体、第一の共受容体、及び少なくとも一つの他の共受容体を発現する試験細胞におけるマイクロRNAの発現レベルを決定すること;
ii)未感染の細胞における発現レベルと比較して、それぞれのウイルスによる感染の間、その発現レベルが調節されるマイクロRNAを同定すること;
iii)このようにして同定されたマイクロRNAを比較すること;
iv)その発現レベルの変更が共受容体の使用に特異的であるマイクロRNAを選択すること;
v)このようにして選択されたマイクロRNAの標的mRNAを任意で同定すること、
を含む、方法。
【請求項2】
該試験細胞が、第一及び第二の共受容体を発現し、細胞に侵入するために、第一の共受容体を用いる第一のウイルス、及び第二の共受容体を用いる第二のウイルスで感染される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該ウイルスがレトロウイルスである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該ウイルスがHIVウイルスである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
HIVウイルスの一つにより用いられる共受容体が、CXCR4、CCR5、CCR3、CCR2、CCR1、CCR4、CCR8、CCR9、CXCR2、STRL33、V28、gpr1、gpr15、及びChemR23からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
第一のHIVウイルスにより用いられる共受容体が、CXCR4であり、第二のHIVウイルスにより用いられる共受容体が、CCR5である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
該試験細胞が、Jurkat−CCR5細胞である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ウイルスに感染した患者において、細胞に侵入するために、細胞受容体及びに少なくとも一つの細胞共受容体を用いるウイルスにより用いられる細胞共受容体を同定するためのインビトロ方法であって、以下:
i)ウイルスを含み得る患者由来のサンプルと、ウイルスの細胞受容体、及びの少なくとも一つウイルスの細胞共受容体を発現する試験細胞とを接触させること;
ii)試験細胞中における少なくとも一つのmiRNA及び/又は少なくとも一つのmiRNAの標的mRNAの発現レベルを決定すること;
iii)発現レベルと所定値とを比較すること;
iv)ウイルスが、試験細胞により発現された細胞共受容体を使用するかどうかをそれらから推測すること、
を含む、方法。
【請求項9】
該所定値が、未感染の試験細胞におけるmiRNA、又はmRNAの発現レベルである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該ウイルスが、HIVウイルスであって、該試験細胞が細胞受容体CD4を発現する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
該試験細胞が、CXCR4、CCR5、CCR3、CCR2、CCR1、CCR4、CCR8、CCR9、CXCR2、STRL33、V28、gpr1、gpr15、及びChemR23からなる群から選択される細胞共受容体を発現する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該試験細胞がCXCR4を発現する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
該マイクロRNAが、hsa−miR574−5p、hsa−miR−663、hsa−miR−149*、hsa−miR−575、hsa−miR−638、hsa−miR−181b、hsa−let−7g、hsa−miR−30a、hsa−miR−148a、及びhsa−miR−9*からなる群から選択される、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
hsa−miR574−5p、hsa−miR−663、hsa−miR−149*、hsa−miR−575、hsa−miR−638を含む群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現の増加、又はhsa−miR−181b、hsa−let−7g、hsa−miR−30a、hsa−miR−148a、及びhsa−miR−9*を含む群から選択される少なくとも一つのマイクロRNAの発現の減少が、CXCR4がHIVウイルスにより用いられる共受容体であることを示す、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該マイクロRNAの発現レベル、又は該mRNAの量が、RT−PCR又はマイクロチップにより測定される、請求項8〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
該試験細胞が、Jurkat細胞、及びJurkat−CCR5細胞からなる群から選択される、請求項10〜15のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−503620(P2013−503620A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527369(P2012−527369)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051817
【国際公開番号】WO2011/027075
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(505138886)
【Fターム(参考)】