説明

ウイルス感染のためのinvitroテストシステム

【課題】ウイルス感染、特にHSV感染での潜伏機序および再活性化分析を特に行うことができ、その結果をヒトまたは動物の生体のin vivo状況に特に直接に転用することができるin vitroテストシステムの提供。
【解決手段】線維芽細胞が包埋されたコラーゲンバイオマトリックスを含む真皮層および上皮細胞を含む表皮層を含むin vitro多層生物学的組織に関し、少なくとも真皮層に潜伏ウイルス感染神経細胞が組み込まれるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞ベースのin vitroアッセイおよびテストシステム、特にウイルス感染および抗ウイルス作用のある作用物質の検査のためのin vitroアッセイおよびテストシステムに関する。本発明は、ウイルス感染および抗ウイルス作用物質のためのin vitroテストシステムとして多層生物学的組織を提供する。また本発明は、in vitroアッセイにおいて抗ウイルス作用物質を見出すための方法および手段を提供する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスによって人間または動物の多数の感染症が引き起こされる。ウイルスは固有の物質代謝がなく、このためウイルス感染症の原因治療は困難である。特にウイルス感染症は抗生剤で治療することができない。ウイルス撲滅薬、即ちウイルスを殺す薬剤は目下のところない。多くの場合、患者の免疫系だけで感染するウイルスを根絶することはできない。公知の抗ウイルス作用物質、いわゆるウイルス増殖抑制剤は、ウイルスの感染サイクルまたは増殖サイクルに関連する種々の作用機序によってウイルスの伝播または増殖を阻止する。公知のウイルス増殖抑制剤は特にDNAポリメラーゼ阻害剤として作用する。公知のヌクレオチド作用物質は、インドクスウリジン(Indoxuridin)、アシクロビル(Aciclovir)およびガンシクロビル(Ganciclovir)、並びにそれらの誘導体である。その他のポリメラーゼ阻害剤は例えばポスカーネット(Poscarnet)およびリバビリン(Ribavirin)である。
【0003】
単純ヘルペスウイルス(HSV)による感染はヒトの最も頻繁な疾患に属する。全世界人口の90%以上がこのウイルスに感染している。単純ヘルペスウイルス(HSV)は2つの密接に近縁なウイルス種に分けられる(ヒトヘルペスウイルス1型(HSV-1)およびヒトヘルペスウイルス2型(HSV-2))。ヘルペスウイルスは単純ヘルペス脳炎や新生児ヘルペスも含めて多種多様な単純ヘルペス疾患を引き起こす。最も多いのは口唇ヘルペスと陰部ヘルペスである。
【0004】
HSVに特徴的なのは持続性である。動物またはヒトの宿主生物の細胞、特に粘膜上皮細胞の初期感染が生じた後に、神経細胞、特に一次感染領域を神経支配する知覚ニューロン細胞へのウイルスの伝播が起こる。逆行軸索輸送によりウイルスは神経節に到達し、そこで典型的に潜伏状態になる。ウイルスDNAはおおむね宿主の免疫系によって認知されずに、環状エピソームとして神経節の核に存続する。潜伏期のあいだにウイルスの複製は行われず、感染した宿主は無症状である。ストレス因子、例えば免疫系の弱化、日光曝露、炎症事象、ホルモンもしくは心理的影響(神経内分泌学的条件)または神経刺激によって潜伏ウイルスの再活性化が惹起される。その場合ビリオンは神経節から軸索により末梢へ逆行し、そこで組織、特に上皮細胞に再感染する。上皮組織での溶菌性複製サイクルおよびその結果生じる組織破壊によって、ヘルペス感染の典型的な臨床像が示される。ヘルペス感染の公知の療法は不十分である。公知のウイルス増殖抑制剤は症状を緩和し、感染期間を短縮することだけはできるが、神経節細胞でのウイルスの存続を終わらせる(撲滅する)能力はない。
【0005】
これまで行われた潜伏機序についての研究や再活性化分析の多くは、哺乳動物の細胞系によって得たものである。ところがこれらのテストシステムは、患者のin vivo状況に直接転用する可能性がない。従って感染および潜伏の機序の研究、特に作用物質の開発においてはさらに動物実験が採用される。こうして見出された結果を感染患者の状況に直接転用することを可能にし、動物実験の代替となりうるin vitroテストシステムを開発することが望ましい。
【0006】
一次皮膚細胞および/または皮膚細胞系から再構成される、標準化された三次元in vitro皮膚相当物によって、ヒトの皮膚を再現可能に模倣することができる。このような皮膚相当物は生理的に天然の皮膚とほぼ同等である。それは周知のように皮膚組織のin vitroテストシステム(in vitro皮膚モデル)として利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の根底にある技術的課題は、ウイルス感染、特にHSV感染での潜伏機序および再活性化分析を特に行うことができ、その結果をヒトまたは動物の生体のin vivo状況に特に直接に転用することができるin vitroテストシステムを提供することであった。特に、in vitroテストシステムは抗ウイルス作用のある物質を見出すための作用物質スクリーニングを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記技術的課題は、真皮層と好ましくは表皮層とを含み、真皮層が線維芽細胞を包埋したまたはこれを含む、即ちこれを組み込んだコラーゲンバイオマトリックスで本質的に構成される、in vitro多層生物学的組織を提供することによって完全に解決される。その上に配置された表皮層は、本質的に上皮細胞、即ち特に角化細胞を含む。真皮層と上皮層はヒトの皮膚組織に似たまたは同等のモデル系を形成することができる。従って本発明に基づくin vitroテストモデルはin vitro皮膚モデルに基づいている。本発明では、この多層生物学的組織は、少なくともその真皮層に線維芽細胞のほかに、特にウイルス感染した、特に潜伏感染した神経細胞が組み込まれていることをとりわけ特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】角化細胞を有する表皮層およびコラーゲンバイオマトリックスに包埋された線維芽細胞を有する真皮層から構成される三次元in vitro皮膚相当物の構造の概略図を示す。表皮と真皮の間に基底膜(フィブロネクチン)が形成される。
【図2】ウイルス感染の検査および作用物質のスクリーニングのためのin vitroテストシステムの製造方法の特定の実施形態を示す。第1段階(1)で神経細胞系(PC12)にHSV-1を感染させる。(2)から潜伏感染が生じる。潜伏感染PC12細胞が場合によっては免疫担当ランゲルハンス細胞とともに真皮層に組み込まれる(3)。三次元組織を完全に構築するために、フィブロネクチン層を塗布した後、組換えの不死化角化細胞系、例えばHaCaT/ΔTLR2/ΔTLR9を真皮層に適用して、表皮層を形成する(4)。UVB照射(312nm、1500mj、8分、例えば24時間間隔で2回)によりPC12(intePC12)細胞に特異的ウイルス再活性化が生じる(5)。再活性化の結果現れる活性ウイルス感染および開始される細胞間コミュニケーションを、抗ウイルス作用物質との接触によって改変することができる(6)。それに続いて組織染色によって組織のウイルス負荷が決定される(7)。
【図3】真皮層(淡色)およびその上にある表皮層(暗色)を有する本発明に係るin vitroテストシステムの組織学的横断面図を示す。真皮層に一次線維芽細胞とPC12細胞(集塊)が包埋されている。
【図4】PC12細胞の特異的検出のための図3の皮膚モデルの抗体染色横断面図(図4B)およびアイソタイプ対照(図4A)を示す。一次抗体:抗チロシンヒドロキシラーゼ(abcam社)、希釈度1:400、およびIgG2aアイソタイプ対照(Dako社)、希釈度1:400、二次抗体:抗マウス(Dako社)。
【図5−1】HSV-1の特異的検出のための図3の皮膚モデルの抗体染色横断面図を示す。活性化の前(図5A、図5Bおよび図5G)と、活性化のための2回のUVB曝露の後、即ち培養の終了の55時間および29時間前(図5C、図5Dおよび図5H)、または31時間および7時間前(図5Eおよび図5F)。一次抗体:ポリクロナール抗HSV-1(Bionex社)、希釈度1:300 、二次抗体:抗マウス(Dako社)。
【図5−2】図5−1の続き。
【図5−3】図5−1の続き。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特定の実施形態では、神経細胞のウイルス感染は単純ヘルペスウイルス(HSV)、特に1型単純ヘルペスウイルス(HSV-1)による活動性の(活性化された)または再活性化可能な潜伏感染である。しかし、本発明はこのタイプのウイルスに限定されるものではない。in vitroテストシステムの別の好ましい実施形態では、ウイルスは、CMV(サイトメガロウイルス)、VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)、HBV(B型肝炎ウイルス)、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、RSV(RSウイルス)およびHCV(C型肝炎ウイルス)から選択されるものである。
【0011】
特定の実施形態では、in vitroテストシステムに包埋される神経細胞は褐色細胞腫細胞の細胞系であり、特にPC12型の細胞(褐色細胞腫12)である。
【0012】
このようにして本発明は新規なin vitroテストシステムを得るために、多層の、いわゆる三次元in vitro皮膚相当物に好ましくは潜伏ウイルス感染細胞を組み込むこととする。こうしてとりわけウイルス感染の進行と機序、即ち特に潜伏ウイルス感染の再活性化および感染した神経細胞と皮膚細胞の相互作用を研究することができる。これによってこのような研究、特に有望な抗ウイルス作用物質の発見と特性決定のためのスクリーニングを、公知のテストシステムに比してより簡単かつより確実に、しかもより有益に行うことが可能になる。
【0013】
特定の実施形態では、in vitroテストシステムの表皮層において、上皮細胞は、角化細胞系の細胞および/または一次角化細胞から選択される。その特定の変型実施形態では、上皮細胞は角化細胞系HaCaT(human adult low calcium high temperature)に由来するものであり、またはそれから誘導された細胞である。特にHaCaT細胞は意外なことに皮膚組織のin vivo状態にほぼ相当する分化挙動を示し、こうして本発明に係るin vitroテストシステムによって見出された知見のin vivo状況への転用の可能性を改善する。特に主としてまたはもっぱらHaCaT細胞またはこれから誘導された細胞で構成された表皮層に関連して、in vitro組織をTFG-α、GM-CSFおよびIL-1αから選択される培養因子の少なくとも1以上を含む培養培地で培養することとした。このような培養因子はin vivo状況への細胞状態の適応をさらに改善するのに適している。
【0014】
特定の変型実施形態では、表皮層を構成するために使用される角化細胞は、代案としてまたは補足的に遺伝子組換えされている。すなわち、ウイルス感染におけるシグナル経路の研究のために、角化細胞が1または複数のパターン認識受容体(PRR)について欠失しており、即ち角化細胞がこのタイプの受容体についてのノックダウン変異体、または場合によってはノックアウト変異体であることが好ましい。特定の変型実施形態では、欠失PRRはToll様受容体(TLR)から選択され、好ましくはTLR2、TLR5およびTLR9である。そこで本発明の特定の実施形態は、表皮層が、1または複数のTLR、特にTLR2、TLR5および/またはTLR9についてのノックダウン変異体またはノックアウト変異体である角化細胞を含み、またはこれで構成されている、in vitroテストシステムを提供する。これを実現するために、特にHaCaT細胞に短鎖干渉RNA(siRNA)でTLRコードプラスミドを周知の方法でトランスフェクトすることができる(Nucleofection、RNA干渉(RNAi)法)。siRNAによって周知の方法で細胞タンパク質を抑制する、すなわち「ノックダウン」することができる。タンパク質の完全な抑制を行う必要はない。本発明のこの実施形態は完全な抑制(ノックアウト)を必要としないからである。本発明はノックダウン変異体を作製するためのこの実施形態に限定されるものではない。ノックダウン変異体HaCaTΔTLR2、HaCaTΔTLR5およびHaCaTΔTLR9、並びにそのノックダウン組合せ(二重変異体、多重変異体)が好ましい。本発明はこれらのノックダウン変異体に限定されるものではない。
【0015】
別の変型実施形態では、表皮層は、特に先行工程で口腔粘膜の組織またはそれに相当する腸、胃粘膜、皮膚、角膜、気管の組織およびその他の上皮組織から得た一次上皮細胞を補足的にまたはもっぱら含む。上皮細胞の特定の供給源をなすのは、ヒトの供与組織、特に包皮組織(陰茎包皮)である。
【0016】
特定の実施形態では、in vitroテスト組織の真皮層は、I型コラーゲンを本質的に含みまたは好ましくはこれからなるコラーゲンバイオマトリックスで構成されている。好ましい変型実施形態では、I型コラーゲンは主にまたは本質的に天然のコラーゲンとして提供される。そのために特にコラーゲンを、コラーゲン含有組織、特にI型コラーゲンに富む組織、例えばラットの尾腱から弱酢酸でまたは代替として尿素によりできるだけ新鮮に、変性する中間ステップなしで抽出し、そして好ましくはpH値を高めることにより、および/または緩衝液中で再生することにより、特に緩衝化細胞懸濁液を添加することによりゲル化して、本発明に係るコラーゲンマトリックス、特に細胞、特に線維芽細胞が包埋された、好ましくは補足的に神経細胞が包埋された、真皮層を形成するコラーゲンマトリックスを得る。コラーゲンマトリックスの作製/調製の際に、変性ステップ、例えば塩析沈殿、強アルカリ性または強酸性、熱変性および凍結乾燥を避けまたは完全に排除することが好ましい。天然コラーゲン構造を得るために、コラーゲン含有原組織から低い酸濃度、特にpH4以上で、比較的長い時間、特に3ないし4日にわたり低温で抽出し、緩衝溶液で希釈しおよび/または温度を高めることにより、例えば室温でゲル化することが好ましい。
【0017】
特定の変型実施形態では、真皮層は一次線維芽細胞、好ましくはヒト一次線維芽細胞を含む。この線維芽細胞はヒト供与組織、例えば包皮組織から新たに得ることが好ましい。そのために第一工程で供与組織で皮膚層を分離し、供与組織の分離された真皮層から単離された線維芽細胞を再培養し、再構成された真皮層を形成するために、コラーゲンバイオマトリックスに包埋する。
【0018】
別の特定の実施形態では、本発明に係るテスト組織にさらに免疫担当細胞、即ち特に免疫細胞が組み込まれている。それによって本発明に係る組織に基づくin vitroテストシステムの重要性を改善することができる。この場合、特に表皮に配置されて依然として不活性の樹状細胞、とりわけランゲルハンス細胞またはそれから誘導された細胞が好ましい。免疫担当細胞は、抗原をプロセシングし、場合によってはその他の免疫細胞を提示することによって、テスト組織の細胞間コミュニケーションの促進に役立つ。そこで本発明は免疫担当細胞を真皮層の上または中に播種し、あるいは線維芽細胞とともに真皮層に包埋することとする。
【0019】
本発明はまた、特にin vitroテストシステムとして、特にウイルス感染の検査のためおよび/または抗ウイルス作用のある作用物質のスクリーニングのために使用することができる、多層生物学的組織の製造方法である。第1のプロセス工程で多層基礎組織の製造のために、コラーゲンバイオマトリックスを調製する。このコラーゲンバイオマトリックスは前述のように製造することが好ましい。コラーゲンバイオマトリックスは未変性の形のI型コラーゲンを本質的に含み、またはこれからなることが好ましい。本発明では、バイオマトリックスには、別の場所で詳しく記載した線維芽細胞が包埋される。そのために線維芽細胞をまだ硬化されゲル化されていないコラーゲン溶液に懸濁させる。代案としてコラーゲン溶液を緩衝液および/または細胞培地中の線維芽細胞懸濁液と混合する。コラーゲンバイオマトリックスはその中に懸濁させた線維芽細胞とともに硬化する。
【0020】
本発明において、真皮層にさらに、好ましくはウイルス感染した神経細胞を、別の場所で詳しく記載したように包埋することとする。神経細胞の包埋は線維芽細胞の包埋とともに行うことが好ましい。そのために線維芽細胞と好ましくは(潜伏)ウイルス感染神経細胞の両者を懸濁させ、コラーゲン溶液を細胞とともに硬化して、線維芽細胞と神経細胞が包埋されたコラーゲンバイオマトリックスを形成する。細胞が包埋されたこのコラーゲンバイオマトリックスはこうして本発明に係るin vitroテスト組織の真皮層をなす。
【0021】
また真皮層の上にさらに表皮層が構成される。これは特に別の場所で詳しく記載する角化細胞で真皮を被覆することによって行われる。その場合、特に角化細胞を塗布する前に、フィブロネクチンまたは類似の成分で真皮コラーゲンマトリックスをまず被覆することとする。これらの成分は真皮とその上に配置される表皮層との間に基底膜を形成することができる。こうして線維芽細胞、およびウイルス感染した神経細胞、ならびに上皮細胞、即ち角化細胞を含む、多層生物学的in vitroテスト組織が得られる。
【0022】
本方法の特定の実施形態では、神経細胞をテスト組織に包埋する前に、ウイルス感染により、上で詳述した本発明の変型実施形態では単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)により、感染させる。これは周知のように行うことができる。その場合、神経細胞への潜伏の再活性化可能なウイルス感染が達成される。こうして本発明のこの実施形態では、in vitroテストモデルは潜伏期を形成する神経成分を提供される。
【0023】
潜伏感染は分子生物学的分析によって検証することができる。好ましい変型実施形態では、そのために定量的RT-PCR(逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応)が行われる。その場合、好ましくは潜伏期関連転写(LAT遺伝子)を調節するmiRNAが特異的に検査される。当然のことながら、所定の潜伏ウイルス感染の検証はこの方法に限定されるものではない。
【0024】
in vitroテスト組織はまず液内培養で周知のように培養することが好ましい。この培養期は約6日続く。機械的安定化および/または導入した細胞による無傷の組織層の最初の構築期の終結の後に、続いていわゆるエアリフト培養による培養が行われる(エアリフト期)。このエアリフト期は約14〜15日続く。エアリフト期の間に特にカルシウムに富む培地により角化細胞(表皮)の角化を促進することが好ましい。
【0025】
また本発明は、上記の製造方法で製造することができる、または好ましくは直接的に製造された生物学的in vitroテスト組織である。本発明は使用可能なin vitro組織の調製のためのその後の加工工程を除外するものではない。
【0026】
本発明は、in vitroテスト組織の製造のため、特に作用物質のスクリーニングに関連した本発明に係るその使用のために、潜伏ウイルス感染神経細胞でウイルス感染の特異的再活性化を行うこととする。特定の実施形態において、これは少なくとも1つの再活性化ストレス因子に少なくとも1回、とりわけ2回曝露することによって行われる。このストレス因子は高エネルギー電磁放射、特にUVB(中波長紫外線)照射(UVB曝露)および/または熱作用(熱曝露)から選択されることが好ましい。ウイルス感染の再活性化の可能性はこれらのストレス因子に限定されるものではない。本発明の目的のため、代案としてまたは補足的に、ウイルス再活性化のために使用できるその他のストレス因子としては、化学物質、細胞メッセンジャー物質、特に神経伝達物質および神経指示物質(neuroindicator)、培地のイオン組成の変化、特に脱分極するイオン変化、pH値の変化および培養時の酸素分圧の減少がある。
【0027】
最初の曝露と2回目の曝露の間に約24時間の期間があることが好ましい。特に最後の(例えば2回目の)曝露の時点は、時間的に培養期の終了、即ちテスト組織の固定化の少なくとも7時間前、特に約25時間前の範囲内にあることが好ましい。特定の変型実施形態では、再活性化のために約1500mjのUVB光(312nm)による組織の曝露を、それぞれ6〜10分ずつ好ましくは2回行う。最初の曝露は特に固定化の28〜34時間前に、2回目の曝露は特に固定化の5〜9時間前に行う。
【0028】
本発明はまた、抗ウイルス作用のある作用物質を見い出すため(スクリーニング)および被検物質群からそれを選択するための方法である。第1工程で、ウイルス感染した神経細胞を組み込んだ本発明に係るin vitroテスト組織が調製される。その後の工程で神経細胞の潜伏ウイルス感染が特異的に再活性化される。
【0029】
別の工程において、in vitroテスト組織を、抗ウイルス性を調べる物質(有望な作用物質)と接触させる。第1の変法では、接触は、特異的ウイルス再活性化の前に行われる。別の変法では、この接触は特異的ウイルス再活性化の後まで行われない。
【0030】
その後の工程では、ウイルス活性化の程度を調べ、その際特に被検物質と接触させなかった並行対照試料のウイルス活性化と比較して、in vitroテスト組織と被検物質とを接触させた後のウイルス活性化の程度の減少は、該物質の抗ウイルス作用を示す。代案として、既知の抗ウイルス作用を有する作用物質を比較作用物質として使用して、被検物質によるウイルス負荷の減少を対照試料と比較することができる。対照として既知の作用物質、例えばアシクロビル(Aciclovir)のようなウイルス増殖抑制剤を適用することができる。
【0031】
その後の工程では、こうして抗ウイルス作用があると特徴づけられた物質を同定し、および/または被検物質群から場合によっては自動的に選択し、調製する。
【0032】
本発明の第1の変型実施形態では、被検物質をin vitroテスト組織に局所的に塗布される。局所適用によって特に皮膚表面での治療に有用な作用物質を、再現性のある標準的条件のもとでin vitroで試験または同定することができる。代替変法では被検物質は、テスト組織を取り囲む培地に適用される。
【0033】
一変型実施形態では、ウイルス再活性化の実施に続いて、即ちウイルス再活性化の2〜7日後、好ましくは2〜4日後の期間に被検物質をin vitroテスト組織と接触させる。代替変法ではテスト組織と被検物質との接触がすでに再活性化の誘導の前に、または代案としてもしくは補足的に再活性化の誘導過程で行われる。エアリフト培養でテスト組織の培養期のすでに第1日から物質の添加を行うことができる。
【0034】
ウイルス活性化の程度を検証するために、本発明は第一のアッセイにおいて定量的RT-PCRを行うこととする。その場合、特異的にウイルスに関連する遺伝子発現が公知の方法で検査される。代替アッセイでは特にHSV-1特異抗体による免疫組織化学的染色が行われる。特定の実施形態では、これはポリクローナル抗HSV-1抗体である。免疫組織化学的染色は周知のように行うことができ、場合によっては周知のように定量することができる。その場合、例えばテスト組織をマルチウェルプレートで培養する場合には、染色をテスト組織標本で直接顕微鏡によりおよび/または濃度計により自動的に定量することができる。
【0035】
本発明を下記の実施例および図面により詳しく記載する。但しこれらを限定的と解すべきでない。
【実施例】
【0036】
PC12神経細胞系の感染のために細胞を6ウエルプレートのくぼみに播種し、1PFU(プラーク形成単位)/細胞のウイルス負荷で単純ヘルペスウイルスHF株(ATCC, VR260)とともに37℃で2時間インキュベートする。続いて緩衝液(PBS)で数回洗浄して未吸着のビリオンをすべて取り除く。新しい培地で細胞をさらに24時間培養する。
【0037】
潜伏HSV-1感染を形成するために、細胞を数回継代培養する(2〜4継代)。in vitroテストモデルに組み込む前に、ウイルス活性がもはや検出されないことを検査する。そのために各継代の前に約1mmの培養上清を残し、Vero(B)細胞による細胞に基づく試験アッセイを用いて感染度(TCID50)を測定する。この最終希釈法では、被検物質のどの希釈段階で感染が起こるかが確かめられる。この場合、複数の希釈段階を並行的に調製し、接種した細胞培養物の50%がどの希釈度で感染したかを決定する。潜伏感染の検出のために、代案としてin situハイブリダイゼーション法を使用する。その場合は潜伏関連転写物(LAT)が検出される。
【0038】
in vitroテスト組織の構築は、PC12細胞の包埋のために最適化されたプロトコルに従って行われる。原則として構築は2工程で行われる。第1工程でテスト組織の真皮部分が構築され、その際一次線維芽細胞とHSV-1による潜伏感染PC12細胞が、I型コラーゲンを有するコラーゲンマトリックスに組み込まれる。このためにそれぞれ0.25×106mlの線維芽細胞と0.14×106mlの潜伏感染PC12細胞を、新たに調製したI型コラーゲン溶液に無気泡で再懸濁し、懸濁液を24ウエルプレートのインサートに移す。
【0039】
第2工程ではヒト角化細胞(1mlにつき0.4×106)で真皮を被覆する。その後この角化細胞が表皮層を形成する。角化細胞を塗布する前に真皮コラーゲンマトリックスをフィブロネクチンで被覆する。その後フィブロネクチンは基底膜を形成する。陰性対照として、未感染のPC12細胞を含む皮膚相当物をテスト組織として構築する。
【0040】
別のアッセイでは、免疫成分、特にランゲルハンス細胞がテストモデルに組み込まれる。即ち第1のアッセイでは角化細胞の播種の前に免疫細胞がバイオマトリックスの上または中に播種され、別のアッセイでは角化細胞の播種の際にまたはそれに続いて免疫細胞がバイオマトリックスの上または中に播種される。
【0041】
in vitroテスト組織の構築は全体で約21日かかる。テスト組織はこの期間の間に様々な培養期を通過する。初めの6日間、いわゆる浸水期には組織が完全に培地に覆われて培養される。次に14〜15日のエアリフト期が続き、組織において試験アッセイが行われる。培養期の終了の後にテスト組織は、選択に応じてブアン固定液でまたはHistofix(登録商標)により周知の方法で固定し、続いて好ましくはパラフィンに包埋する。組織切片を周知のように調製し、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE)および補足的にまたは代案として特異抗体染色を標準的プロトコールに従って周知のように行う。
【0042】
PC12細胞の包埋の結果を図4および5に示す。包埋されたPC12細胞は、特に組織学的HE染色および特異抗体検出によって真皮組織の中に見い出される。
【0043】
特異的ウイルス再活性化は、培養期の終りの前、即ち組織の固定の前の少なくとも7時間から最大25時間前の期間に行われる。特異的ウイルス再活性化のために組織をUVB照射にさらす。波長312nm、エネルギー当量1500mJでそれぞれ8分間照射する。約24時間間隔で照射を繰り返す。
【0044】
別のアッセイでは、一次角化細胞の代わりにHaCaT細胞系の角化細胞でin vitroテスト組織を調製する。このHaCaT細胞はノックダウン細胞系、すなわちHaCaT/TLR2ΔおよびHaCaT/TLR9Δの形に遺伝子組換えされている。このノックダウン細胞系によってHSV感染にかかわるそれぞれのTLRの役割をより詳しく調べることができる。
【0045】
抗ウイルス作用物質の検定のために、「時間−用量応答」分析を行い、これによって個々の物質の濃度依存的細胞毒性および抗ヘルペス作用を調べることができる。被検物質の適用は、エアリフト期の第0日から、選択に応じて粉末状で局所的にまたはエアリフト培地に溶解して、行われる。これと並行して、抗ウイルス作用を有することが知られている対照物質(アシクロビル; 50μmol/l)とともに対照試料を同様に培養する。
【0046】
続いて行われるHSV-1特異抗体による免疫組織化学的染色は、顕微鏡観察でウイルス負荷を示す。対照試料の染色と比較することによって、具体的に調べた物質の有効性に関して評価記述を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維芽細胞が包埋されたコラーゲンバイオマトリックスを含む真皮層、および
上皮細胞を含む表皮層
を含むin vitro多層生物学的組織において、少なくとも真皮層に潜伏ウイルス感染神経細胞が組み込まれていることを特徴とする組織。
【請求項2】
神経細胞が褐色細胞腫細胞型PC12またはそれから誘導された細胞である請求項1に記載の組織。
【請求項3】
ウイルス感染がI型単純ヘルペスウイルス(HSV-1)による活性化されたまたは再活性化可能な潜伏感染である請求項1または2に記載の組織。
【請求項4】
上皮細胞が一次角化細胞から選択される請求項1〜3のいずれか1項に記載の組織。
【請求項5】
上皮細胞が角化細胞系から選択される請求項1〜3のいずれか1項に記載の組織。
【請求項6】
上皮細胞が角化細胞系HaCaTまたはそれから誘導された細胞である請求項5に記載の組織。
【請求項7】
上皮細胞が、1または複数のパターン認識受容体(PRR)を欠失した遺伝子組換え角化細胞から選択される請求項5または6に記載の組織。
【請求項8】
パターン認識受容体がTLR2、TLR5およびTLR9から選択される請求項7に記載の組織。
【請求項9】
少なくとも真皮層にさらに免疫担当細胞が組み込まれている請求項1〜8のいずれか1項に記載の組織。
【請求項10】
免疫担当細胞がランゲルハンス細胞またはそれから誘導された細胞である請求項9に記載の組織。
【請求項11】
線維芽細胞が一次線維芽細胞から選択される請求項1〜10のいずれか1項に記載の組織。
【請求項12】
コラーゲンバイオマトリックスがI型天然コラーゲンから構成される請求項1〜11のいずれか1項に記載の組織。
【請求項13】
下記の工程:
線維芽細胞が包埋されたコラーゲンバイオマトリックスを含む真皮層および上皮細胞を含む上皮層を含む多層組織を調製する工程、
ウイルス感染した神経細胞が前記多層生物学的組織に組み込まれるように、この神経細胞を多層生物学的組織の上に播種する工程
を含む、in vitroテストシステムとしての多層生物学的組織の製造方法。
【請求項14】
神経細胞が褐色細胞腫細胞型PC12またはそれから誘導された細胞である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
潜伏かつ再活性化可能なウイルス感染を生じるために、神経細胞を播種の前に1型単純ヘルペスウイルス(HSV-1)による感染で感染させる請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法により製造されるin vitro組織。
【請求項17】
下記の工程:
請求項1〜12または16のいずれか1項に記載のin vitro多層生物学的組織を調製する工程、
前記組織の潜伏ウイルス感染神経細胞においてウイルス感染を特異的に再活性化する工程、
ウイルス再活性化の前または後に前記組織と被検物質とを接触させる工程、
ウイルス再活性化の程度を検出する工程であって、被検物質と接触させなかった組織と比較したウイルス活性化の程度の減少はこの物質の抗ウイルス作用を示す、上記工程
を含む、被検物質群から抗ウイルス作用のある作用物質を見出す方法。
【請求項18】
UVB曝露および熱曝露から選択される少なくとも1つのストレス因子によりウイルスの再活性化を生じさせる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被検物質を生物学的組織に局所的に塗布する請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
抗ウイルス作用のある作用物質を見出すための請求項1〜12および16のいずれか1項に記載のin vitro生物学的組織の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【公開番号】特開2011−250785(P2011−250785A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123136(P2011−123136)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(500242786)フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ. (47)
【Fターム(参考)】