説明

ウェットグリップ向上タイヤ用ゴム組成物

【課題】アルキルフェノール樹脂をゴムに配合することにより、T−DAE油によって低下したゴムのグリップ性能をDAE油を使用した時並みに向上させたゴム配合物を提供する。
【解決手段】ゴム成分100重量部に対して、T−DAE油10重量部以上と、アルキルフェノール樹脂2重量部以上と、充填剤30−100重量部とを含有することを特徴とするゴム組成物であって、アルキルフェノール樹脂がノボラック型であり、アルキルフェノール類のアルキル鎖に含まれる炭素数が2以上10以下であり、アルキルフェノール樹脂の軟化点が70〜120℃であるゴム配合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットグリップ向上タイヤ用ゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤに用いるゴムおよびゴム組成物を配合する際に、粘度を下げてゴムを柔軟にし、混練などの加工性を高くするために、ゴムにプロセス油を添加することが知られている。これまでは多環式芳香族化合物(PCA)または多環芳香族炭化水素(PAH)を含有する芳香族プロセスオイル(DAE油)が使用されてきた。しかし、環境汚染の問題からDAE油の使用が規制され、PCA含有量の低いDAE油の使用が必要になっている。
【0003】
そこで、近年、処理された芳香族プロセスオイル(T−DAE油)への変更が進んでいるが、DAE油の代わりにT−DAE油を使用すると、ウェットグリップまたはドライグリップ性能が低下するという問題がある。したがって、T−DAE油を使用してもグリップ性能が低下しないゴム配合物の開発が必要である。
【0004】
従来、タイヤトレッドゴムにグリップ性を付与する方法として、石油樹脂、テルペン変性樹脂、ロジン変性樹脂等を配合する手法が知られている(例えば、特許文献1参照。)が、T−DAE油を配合することによって低下したグリップ性能を十分補うことはできないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−002584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルキルフェノール樹脂をゴムに配合することにより、T−DAE油によって低下したゴムのグリップ性能を、DAE油を使用した時並みに向上させたゴム配合物を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、以下の本発明[1]〜[6]により達成される。
[1] ゴム成分100重量部に対して、T−DAE油10重量部以上と、アルキルフェノール樹脂2重量部以上と、充填剤30〜100重量部とを含有することを特徴とするゴム組成物。
[2] 前記アルキルフェノール樹脂がノボラック型である[1]に記載のゴム組成物。
[3] 前記アルキルフェノール類のアルキル鎖に含まれる炭素数が2以上10以下である[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
[4] 前記アルキルフェノール樹脂の軟化点が70〜120℃である[1]〜[3]のいずれかに記載のゴム組成物。
[5] 前記充填剤がカーボンブラックを含むものである[1]〜[4]のいずれかに記載のゴム組成物。
[6] 前記ゴム組成物がタイヤトレッド用である[1]〜[5]のいずれかに記載のゴム組成物。
【0008】
本発明のゴム配合物をタイヤトレッドに使用することにより、高いグリップ性能を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明のゴム配合物について説明する。
本発明のゴム配合物は、ゴム成分100重量部に対して、T−DAE油10重量部以上と、アルキルフェノール樹脂2重量部以上と、充填剤30〜100重量部とを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明に用いられるゴム成分としては、天然ゴムまたはスチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴムなどの合成ゴムが挙げられる。これらゴム成分は単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0011】
本発明に用いられるT−DAE油とは、DAE油を処理したものであり、ジメチルスルホキシド(DMSO)抽出物の含有量(IP346試験方法によって決定される)が3重量%以下のものである。上記T−DAE油は、上記ゴム成分100重量部に対して10重量部以上配合される。10重量部未満では、ゴム配合物の粘度低減効果が十分でなく、加工性が低下するため、好ましくない。
【0012】
本発明に用いられるアルキルフェノール樹脂は、上記ゴム成分100重量部に対して2重量部以上配合される。2重量部未満では、T−DAE油によって低下したグリップ性能を十分に補えないため、好ましくない。
【0013】
上記アルキルフェノール樹脂の軟化点は70〜120℃である。さら好ましくは80〜110℃である。70℃以下では固形状態を維持することが難しいために作業性に劣り、120℃以上ではゴムへの相溶性が悪化するため、好ましくない。
【0014】
本発明のアルキルフェノール樹脂において用いられる芳香環に炭素数2〜10のアルキル鎖を有するアルキルフェノール類としては、例えば、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール類、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール類、p−tert−アミルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール類などが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、ゴムとの相溶性に優れたp−tert−オクチルフェノール、p−ノニルフェノールなどのアルキルフェノール類を用いることが好ましい。
【0015】
また、上記アルキルフェノール類と併用することができるフェノール類としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール類、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール類、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、及び、1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、ピロガロール、カテコール、ハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0016】
本発明のアルキルフェノール樹脂に用いられる上記アルキルフェノール類が有するアルキル鎖の炭素数は、2以上10以下である。さらに好ましくは3以上9以下である。これにより、ゴムとの相溶性が高いフェノール樹脂を得ることができる。炭素数が10を超えるものは反応性が悪くなるため、好ましくない。
【0017】
本発明のアルキルフェノール樹脂において用いられるアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ビフェニルジアルデヒドなどが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、アルキルフェノール類との反応性に優れるホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる充填剤としては、カーボンブラックおよび無機充填剤を用いることができる。無機充填剤としては各種シリカなどが挙げられる。これらの充填剤は単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
上記充填剤は上記ゴム成分100重量部に対して30〜100重量部配合される。さらに好ましくは40〜90重量部である。30重量部未満では、ゴム組成物の補強性を十分に確保することができず、100重量部以上ではゴム組成物の加工性が低下するため好ましくない。
【0020】
次に、本発明のアルキルフェノール樹脂の製造方法について説明する。
本発明のアルキルフェノール樹脂はノボラック型であることが好ましく、アルキルフェノール樹脂の製造方法は、上述したフェノール類、アルデヒド類を酸性触媒の存在下で反応させることを特徴とする。
【0021】
ここで用いられる酸性触媒としては、例えば、蓚酸、塩酸、硫酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸類、酢酸亜鉛等の金属塩類を単独または2種類以上併せて使用できる。
上記酸性触媒の使用量としては、フェノール類1モルに対して、通常、0.001〜0.1モルとすることができる。
【0022】
本発明のフェノール樹脂の製造において、フェノール類とアルデヒド類との反応モル比(アルデヒド類のモル数/フェノール類のモル数=F/P)としては、0.10〜1.00とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.35〜0.90である。
上記モル比が上記下限値未満であると、固形のフェノール樹脂が得られない場合があり、上記上限値を超えるとゲル化物を生成する可能性がある。
【0023】
本発明のフェノール樹脂の製造方法としては、例えば、反応装置にフェノール類全体を酸性触媒とともに仕込み、ここにアルデヒド類を逐次添加して反応させる方法、反応装置にアルキルフェノール類と酸性触媒とを仕込み、ここにアルデヒド類を逐次添加して、ある程度反応させた後、残りのフェノール類を逐次添加してさらに反応させる方法、などが挙げられる。
【0024】
本発明のフェノール樹脂の数平均分子量は200〜2000であることが好ましく、300〜1800がより好ましい。これにより、ゴムとの相溶性に優れ、ゴムと混合した時に加工性に優れたものとすることができる。
上記数平均分子量の測定方法である液体クロマトグラフィー法は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いたものであり、テトラヒドロフランを溶出溶媒として使用し、流量1.0ml/分、カラム温度40℃の条件で、示差屈折計を検出器として測定し、分子量は標準ポリスチレンより換算した。使用した装置は以下のものである。
・本体:TOSOH社製・「HLC−8120」
・分析用カラム:TOSOH社製・「G1000HXL」1本、「G2000HXL」2本、「G3000HXL」1本
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
ここに記載されている「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を示す。
【0026】
以下に、実施例および比較例において用いた各種原料について説明する。
ノニルフェノール樹脂A(軟化点70℃):住友ベークライト社製
ノニルフェノール樹脂B(軟化点90℃):住友ベークライト社製
ノニルフェノール樹脂C(軟化点120℃):住友ベークライト社製
オクチルフェノール樹脂:住友ベークライト社製・PR−19900
石油樹脂:Exxon Mobil社製・エスコレッツ2394
SBR:日本ゼオン社製 Nipol NS116R
カーボンブラック:三菱化学社製、ISAF
DAE油:高芳香族系プロセスオイル
T−DAE油:ジメチルスルホキシド(DMSO)抽出物の含有量が3重量%以下のDAE油
酸化亜鉛:堺化学工業社製
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
老化防止剤:川口化学工業社製、アンテージ6C
硫黄:細井化学工業社製、微粉硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業社製、ノクセラーCZ−G
【0027】
ノニルフェノール樹脂の合成例について説明する。
(樹脂合成例1)
ノニルフェノール1000部、37%ホルマリン280部、蓚酸10部の混合物を、100℃で3時間反応後、反応混合物の温度が130℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が180℃になるまで減圧蒸留で脱水、脱モノマーし、ノボラック型ノニルフェノール樹脂A1008部を得た。ノボラック型ノニルフェノール樹脂Aの軟化点は70℃であった。
【0028】
(樹脂合成例2)
ノニルフェノール1000部、37%ホルマリン320部、蓚酸10部の混合物を、100℃で3時間反応後、反応混合物の温度が130℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が180℃になるまで減圧蒸留で脱水、脱モノマーし、ノボラック型ノニルフェノール樹脂B1050部を得た。ノボラック型ノニルフェノール樹脂Bの軟化点は90℃であった。
【0029】
(樹脂合成例3)
ノニルフェノール1000部、37%ホルマリン450部、蓚酸10部の混合物を、100℃で3時間反応後、反応混合物の温度が130℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が180℃になるまで減圧蒸留で脱水、脱モノマーし、ノボラック型ノニルフェノール樹脂C1098部を得た。ノボラック型ノニルフェノール樹脂Cの軟化点は120℃であった。
【0030】
(実施例1〜6、比較例1〜5)
表1に示す配合(重量部)で100℃で加熱混練したゴム配合物を油圧プレス装置にて160℃、20分間加硫して、厚さ2mmの加硫ゴムシートを作製し、各評価を実施した。
【0031】
【表1】

【0032】
<評価>
(1)デュロメータ硬さ(タイプA)/JIS K6253に準拠して、東洋精機社製デュロメーターを用いて測定した。
(2)切断時伸び/JIS K6251に準拠して、東洋精機社製ストログラフを用い、引張速度50mm/分で測定した。
(3)損失正接[tanδ(0℃)](ウェットグリップ性能)/JIS K6394に準拠して、TAインスツルメント社製ARES−G2を用い、16Hzで0℃において測定した。結果は、比較例2のtanδを100として指数表示した。指数の値が大きいほど、ウェットグリップ性能が良好である。
(4)損失正接[tanδ(60℃)](低転がり抵抗)/JIS K6394に準拠して、TAインスツルメント社製ARES−G2を用い、16Hzで60℃において測定した。結果は、比較例2のtanδの逆数を100として指数表示した。指数の値が大きいほど低転がり抵抗性が良好である。
測定結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表2の結果から明らかなように、比較例1のDAE油を含むゴム組成物は、ウェットグリップ性能を初めとする各性能のバランスが良好であるが、このDAE油は、環境汚染の問題から使用が規制されつつあるものである。比較例2のDAE油を含むゴム配合物に比べて、比較例3のT−DAE油を含むゴム配合物はウェットグリップ性能が劣る結果となった。
実施例1〜6で得られた本発明のゴム配合物は、ゴム100部に対して、T−DAE油、アルキルフェノール類、充填剤をそれぞれ所定量含むものであり、比較例2で得られた、DAE油のみを含むものと比較して、ウェットグリップ性能が向上した。一方、転がり抵抗、切断時伸びも実質的に損なわれておらず、他の性能と高度に両立できていた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のゴム配合物は、ゴム成分100重量部に対して、T−DAE油10重量部以上と、アルキルフェノール樹脂2重量部以上と、充填剤30〜100重量部とを含有するものである。ゴム、特に非極性のゴムに対して相溶性が高いため、DAE油をT−DAE油に置き換えることによって低下したウェットグリップ性能が向上し、低転がり抵抗性など他の性能とも高度に両立することができる。従って、環境配慮型の高性能タイヤのトレッドとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分100重量部に対して、T−DAE油10重量部以上と、アルキルフェノール樹脂2重量部以上と、充填剤30〜100重量部とを含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記アルキルフェノール樹脂がノボラック型である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記アルキルフェノール類のアルキル鎖に含まれる炭素数が2以上10以下である請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記アルキルフェノール樹脂の軟化点が70〜120℃である請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記充填剤がカーボンブラックを含むものである請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム組成物がタイヤトレッド用である請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物。

【公開番号】特開2012−51976(P2012−51976A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193898(P2010−193898)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】