説明

ウェーハ片面研磨方法

【課題】ウェーハの片面研磨において研磨布の経時変化に依らず、ウェーハの被研磨面の形状を常に最適な状態に保つことにある。
【解決手段】定盤5に貼り付けた平坦なリング状の研磨布6にウェーハ1の被研磨面9を向けた状態で、ウェーハ1を研磨ヘッド4と一体のプレート3に貼り付け、加圧力を自在に制御できる研磨ヘッド4によって、プレート3を介してウェーハ1を研磨布6に押し当て、研磨布6上に研磨液8を供給するとともに研磨ヘッド4および定盤5を回転させ、ウェーハ1の被研磨面9を研磨するウェーハの片面研磨方法において、研磨の進行過程で、研磨布6の円周縁での研磨作用域をウェーハ1の直径よりも小さくすることによって、ウェーハ1の外周縁に対する研磨布6の仕事量を制御し、ウェーハ1の表面形状を常に最適な状態に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの片面を鏡面状に研磨する技術において、研磨の進行にともない常に最適なウェーハの表面形状を得るための研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウェーハの鏡面研磨方法には、片面研磨方式として、例えば図1に示すようなウェーハ研磨装置10が用いられる。図1において、ウェーハ研磨装置10は、研磨対象のウェーハ1の下側の被研磨面9を定盤5上に貼り付けたリング状の研磨布6に向けた状態で、ウェーハ1をプレート3と一体のリング状のウェーハ保持用基材2の内部に位置させ、ウェーハ1の上側面の接着剤あるいは水の表面張力を利用することにより、ウェーハ1をプレート3の保持面に貼り付け、加圧力を自在に制御することのできる研磨ヘッド4によって、プレート3を介して、ウェーハ1を定盤5上の研磨布6に押し当て、研磨布6上に研磨液供給管7から研磨液8を供給するとともに、研磨ヘッド4および定盤5を回転させ、ウェーハ1の被研磨面9を研磨布6に加圧しながら、被研磨面9の片面研磨を行っている。このような研磨方法は、例えば特許文献1において開示されている。
【0003】
鏡面となった被研磨面9の形状は、平坦であることが望ましいが、その平坦度は、研磨ヘッド4の加圧力、研磨ヘッド4および定盤5の回転数、研磨布6の状態などの数々の条件によって大きく異なってくる。平坦度の制御は、特許文献2または特許文献3において例示されているように、研磨ヘッド4の加圧力の調整によって行われるが、加圧力による調整手段は、研磨布6が押しつぶされる、研磨ヘッド4間の取り代量(研磨代量)にばらつきが発生するなどの課題を抱えたものであった。
【0004】
発明者等は、これまでに図1に示されるようなウェーハ研磨装置10を利用する過程において、研磨ヘッド4の加圧力、回転数などを一定とした条件下で、安定した平坦度を示すウェーハ1を得る研磨方法を模索してきた。これらの条件を一定とした場合、ウェーハ1の被研磨面9の形状(断面形状)は、研磨布6の使用開始直後では凹形状を示すが、使用回数を進むにつれ、次第に変化し、フラットに近づいた後に、凸形状となる。このような形状変化の原因は、研磨布6中への研磨屑の侵入によるものと考えられる。
【0005】
実際に使用済みの研磨布6の断面を観察したところ、半径方向に沿って中間部分が最も目づまりがひどく、硬化も進んでいるという結果が得られた。このことから、研磨布6の使用開始直後は、仕事率が高いと考えられる中間部に接するウェーハ1の中央部が外周部よりも優先的に研磨され、凹形状を示すが、次第に、研磨布6の中間部分の目づまりが進行し、ウェーハ1の中央部に対する研磨能力が落ちることで、相対的にウェーハ1の外周部が優先的に研磨され、凸形状へと変化していくものと考えられる。過度に凸形状へ変化したウェーハ1は、ユーザーの要求する平坦度品質を満足せず、このため常に安定した形状を保った研磨方法を確立する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−327547号公報
【0007】
【特許文献2】特開平8−229804号公報
【0008】
【特許文献3】特開平8−339979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、発明が解決しようとする課題は、ウェーハの片面研磨において研磨布の経時変化に依らず、ウェーハの表面形状を常に最適な状態に保つことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題のもとに、本発明は、研磨布によるウェーハの片面研磨において、研磨の進行過程で、リング状の研磨布の円周縁での研磨作用域をウェーハの直径よりも小さくし、ウェーハの外周部に対する研磨布の仕事量を意図的に低下させ、外周部の過研磨を抑えることによって、ウェーハの表面形状を常に最適な状態に保つようにしている。
【0011】
具体的に記載すると、本発明は、定盤に貼り付けた平坦なリング状の研磨布にウェーハの被研磨面を向けた状態で、上記ウェーハを研磨ヘッドと一体のプレートに貼り付け、加圧力を自在に制御することのできる上記研磨ヘッドによって上記プレートに貼り付けたウェーハを上記研磨布に押し当て、上記研磨布上に研磨液を供給するとともに上記研磨ヘッドおよび上記定盤を回転させ、上記ウェーハの被研磨面を研磨するウェーハ片面研磨方法において、研磨の進行過程で、上記研磨布の円周縁での研磨作用域を上記ウェーハの直径よりも小さくすることによって、上記ウェーハの外周縁に対する研磨布の仕事量を制御し、上記ウェーハの表面形状を常に最適な状態に保つようにしている(請求項1)。
【0012】
そして、本発明は、上記のウェーハ片面研磨方法において、上記研磨布の加工範囲の内周端および外周端のうち少なくともいずれかを除去して、上記定盤の半径方向での上記研磨布の加工範囲の幅を上記ウェーハの直径よりも小さくしている(請求項2)。
【0013】
さらに、本発明は、上記のウェーハ片面研磨方法において、上記定盤の半径方向での上記研磨布の加工範囲の幅を上記ウェーハの直径の80%を下限として設定している(請求項3)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ウェーハ片面研磨方法において、研磨の進行過程で、上記研磨布の円周縁での研磨作用域が上記ウェーハの直径よりも小さくなり、上記研磨布の経時変化によってウェーハの外周部に対する上記研磨布の過研磨が抑えられるから、上記ウェーハの表面形状が常に最適な状態に保たれ、製品の歩留まりが向上するほか、研磨布のライフアップも達成することができる(請求項1)。
【0015】
上記研磨布の加工範囲の内周端の除去、外周端の除去、または内周端および外周端の除去によって、上記研磨布について必要な研磨作用域が簡単に形成でき、その研磨作用が適切に調節できるから、実施が容易となる(請求項2)。
【0016】
上記定盤の半径方向での上記研磨布の加工範囲の幅が上記ウェーハの直径の80%を下限としてその値以上の範囲で設定されると、効率的な加工時間が確保でき、しかも、上記ウェーハの平坦度など必要な品質も満足できる(請求項3)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来のウェーハ研磨装置および本発明に係るウェーハ片面研磨方法において使用するウェーハ研磨装置の要部の一部断面図である。
【図2】本発明に係るウェーハ片面研磨方法を実施するときの研磨布とウェーハとの位置関係および寸法関係の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るウェーハ片面研磨方法は、従来のウェーハ研磨装置10の基本的な構成を利用する。図1で既に説明したように、ウェーハ研磨装置10は、研磨対象のウェーハ1の下側の被研磨面9を定盤5上に貼り付けた研磨布6に向けた状態で、ウェーハ1をプレート3と一体のリング状のウェーハ保持用基材2の内部に位置させ、ウェーハ1の上側面の接着剤あるいは水の表面張力を利用することにより、ウェーハ1をプレート3の保持面に貼り付け、加圧力を自在に制御することのできる研磨ヘッド4によって、プレート3を介して、ウェーハ1を定盤5上の研磨布6に押し当て、研磨布6上に研磨液供給管7から研磨液8を供給するとともに、研磨ヘッド4および定盤5を回転させ、ウェーハ1の被研磨面9を研磨布6に加圧して、被研磨面9の片面研磨を行う。
【0019】
図2に示すように、研磨布6は、平坦なリング状であり、初期の研磨布6の外径および内径は、定盤5の中心から加工時のウェーハ1の円環状移動範囲の最外周Aおよび最内周Bまでの距離に等しくなるようにそれぞれ設定されている。この設定にもとづいて、研磨布6は、研磨布材料からリング状として切り出され、定盤5の上面に貼り付けられる。このときウェーハ1の直径Cは、定盤5の半径方向での研磨布6の初期の幅つまり最外周Aから最内周Bまでの距離と一致している。この状態を研磨布6の初期条件とする。
【0020】
研磨加工の初期に、ウェーハ1は、上記初期条件の研磨布6によって片面研磨される。既に記載したように、研磨の進行にともない研磨布6の使用回数を重ねていくと、ウェーハ1の被研磨面9の形状は、凹形状から徐々に凸形状へと変化していく。そのまま研磨加工を続けると、凸形状はより強くなり、ウェーハ1の平坦性はさらに悪化する。
【0021】
そこで、本発明に係るウェーハ片面研磨方法は、研磨の進行過程で、特定のバッチ数を経過した時点で、図2の破線で示すように、研磨布6の加工範囲の円周縁すなわち研磨布6の内周端および外周端を等幅ずつ同心円状に除去し、研磨布6の内周端および外周端での研磨作用域を少なくし、定盤5の半径方向での研磨布6の幅Dをウェーハ1の直径Cよりも小さく設定し、ウェーハ1の外周部の過研磨を抑えている。
【0022】
これにより研磨加工時に、ウェーハ1の外周部が研磨布6からはみ出した状態で研磨加工されることになり、ウェーハ1の外周部に対する研磨布6の仕事量(研磨量)は低く抑えられる。その結果、ウェーハ1の被研磨面9の凸形状は、ウェーハ1の外周部においてのみ研磨量を抑えた状態となって、W字型の形状へと変化する。
【0023】
さらに研磨加工を続けると、ウェーハ1の被研磨面9は、W字型から凸形状へ再び変化するようになるが、同様に研磨布6の内周端および外周端をさらに除去することによって、悪化したウェーハ1の平坦性を向上させることができる。
【0024】
研磨布6の内周端および外周端で除去して残る幅Dの半径方向長さは、研磨布6上でのウェーハ1の安定性を考慮すると、ウェーハ1の直径Cに対する定盤5の半径方向での研磨布6の幅Dの比(D/C)が80%程度になるまでが限界と考えられる。したがって、研磨布6の幅Dは、ウェーハ1の直径Cの80%を下限とし、それ以上の範囲に設定される。
【0025】
なお、研磨布6の除去部分は、研磨布6の加工範囲の内周端および外周端の両方に限らず、研磨布6の内周端のみ、または外周端のみであってもよい。研磨布6の内周端のみ、または外周端のみが除去されたとしても、研磨加工時に、研磨ヘッド4および定盤5がともに回転しているため、被研磨面9の全域に対して、不連続な研磨は起こらない。このときの研磨量はウェーハ1の直径方向で変化するが、段差などがない連続的な研磨表面となる。
【実施例1】
【0026】
以下に、本発明に係るウェーハ片面研磨方法の実施例1をさらに詳細に説明する。なお以下の説明では、図1および図2の各部について、符号を省略しながら、同じ名称を用いることとする。
【0027】
直径610mmφの錫製の定盤の中心にポリッシュ用不織布タイプの研磨布を外径550mmφ×内径250mmφの大きさで貼り付け、直径200mmφ×厚さ20mmtのプレートに直径150mmφのウェーハを収めるためのエポキシガラス製のウェーハ保持基材を貼り付け、ウェーハの被研磨面を定盤の研磨布に向けた状態として、ウェーハをウェーハ保持基材の内部でプレートに水貼りした。加圧力を自在に制御することのできる研磨ヘッドをプレート上に降下させ、ウェーハの被研磨面を研磨布に圧接させた後、研磨布上に研磨液をおよそ6L/minの流量で供給開始するとともに、研磨ヘッドおよび錫製の定盤をそれぞれ60rpm、55rpmの回転数(速度)で共に同一方向へ回転させ、プレートに加圧力として200kPaの荷重をかけながら、ウェーハの被研磨面を研磨布に押し当てて片面研磨を行った。
【0028】
所望の厚さまで1バッチ当り平均加工時間80分をかけて加工し終わったウェーハをプレートから取り外し、平坦性を確認したところ、ウェーハは、被研摩面を上から見て凹形状となっており、満足すべき品質規格値(平坦度0.8mm以内)をクリアしていることがわかった。
【0029】
さらに研磨加工を続け、20バッチ程度処理した後のウェーハの平坦性を再度確認したところ、ウェーハは、品質規格値を超えてはいないものの、凸形状へと変化していることがわかった。そこで、研磨布の内周端および外周端をそれぞれ半径方向に10mmずつの幅で同心円状に除去(切除)し、外径530mmφ×内径270mmφの寸法として、再度新たなバッチの加工を始めたところ、ウェーハ形状は、W字型形状へと変化し、品質規格値も満足するものであることがわかった。このときのウェーハの直径に対する定盤の半径方向での研磨布の幅の比は86.7%であった。
【0030】
この状態からさらに研磨加工を続けたところ、ウェーハの形状は、W字型形状から次第に凸形状へと変化が始まり、およそ50〜60バッチ程度処理した後に、完全に凸形状へと変化していることがわかった。ここで再度、研磨布の内周端および外周端をそれぞれ半径方向5mmずつの幅で同心円状に除去(切除)し、外径520mmφ×内径280mmφの寸法として、加工を始めたところ、ウェーハ形状は、W字型形状へと変化し、品質規格値も満足するものであることがわかった。このときのウェーハの直径に対する定盤の半径方向での研磨布の幅の比は80.0%であった。
【0031】
これ以上の研磨布の除去は、研磨布上でのプレートの安定性および研磨速度低下に影響を及ぼすと考えられたため、この状態でウェーハ形状がW字型形状から凸形状へと変化した時点で研磨布の寿命と判断し、研磨布を交換することとした。最終的に研磨布の交換となった時点はおよそ100バッチ程度であった。
【0032】
つぎに、本発明に係るウェーハの片面研磨方法の比較例1および比較例2について説明する。ここの説明でも、図1および図2の各部について、符号を省略しながら、同じ名称を用いることとする。
【0033】
(比較例1)
実施例1に記述の片面研磨過程において、ウェーハの形状が凹形状から凸形状へと変化した後、研磨布の内周端および外周端を除去すること無く研磨加工を続けた。この場合、研磨加工を続けるほど、ウェーハの凸形状はより大きくなり、30〜40バッチで品質規格値SFLR0.8mm以内を満足しないものが見られた。この方法での1バッチ当り平均加工時間は100分であった。なお、品質規格値SFLRは、Site Front Least Square Rangeの略で、ウェーハの被研磨面を基準面から見て、4点以上の最大高さと最小高さとの差から被研磨面の平坦度を評価する手法をいう。これはNIDEK社の平面度測定装置FT−900で測定する。
【0034】
(比較例2)
実施例1に記述の片面研磨方法において、ウェーハの被研磨面の形状を常に最適に保つために研磨布の内周端および外周端を除去し、外径510mmφ×内径290mmφの大きさで研磨した。このときウェーハの直径に対する定盤の半径方向での研磨布の幅の比は73.3%であった。この場合、目標とする厚さまでの加工時間が初期条件と比較して2倍以上必要となり、効率的な研磨加工を望むことはできなかった。また、最初のバッチからウェーハの凹形状は大きく、上記の品質規格値SFLR(平坦度0.8mm以内)を満足しない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係るウェーハ片面研磨方法は、図1のウェーハ研磨装置と同等の機能を有する他の研磨装置にも利用でき、また前記の実施例1や比較例1および比較例2に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1 ウェーハ
2 ウェーハ保持基材
3 プレート
4 研磨ヘッド
5 定盤
6 研磨布
7 研磨液供給管
8 研磨液
9 被研磨面
10 ウェーハ研磨装置
A ウェーハの移動範囲の最外周
B ウェーハの移動範囲の最内周
C ウェーハの直径
D 定盤の半径方向での研磨布の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定盤に貼り付けた平坦なリング状の研磨布にウェーハの被研磨面を向けた状態で、上記ウェーハを研磨ヘッドと一体のプレートに貼り付け、加圧力を自在に制御することのできる上記研磨ヘッドによって上記プレートに貼り付けたウェーハを上記研磨布に押し当て、上記研磨布上に研磨液を供給するとともに上記研磨ヘッドおよび上記定盤を回転させ、上記ウェーハの被研磨面を研磨するウェーハ研磨方法において、研磨の進行過程で、上記研磨布の円周縁での研磨作用域を上記ウェーハの直径よりも小さくすることによって、上記ウェーハの外周縁に対する研磨布の仕事量を制御し、上記ウェーハの表面形状を常に最適な状態に保つことを特徴とするウェーハ片面研磨方法。
【請求項2】
上記研磨布の加工範囲の内周端および外周端のうち少なくともいずれかを除去して、上記定盤の半径方向での上記研磨布の加工範囲の幅を上記ウェーハの直径よりも小さくすることを特徴とする請求項1記載のウェーハ片面研磨方法。
【請求項3】
上記定盤の半径方向での上記研磨布の加工範囲の幅を上記ウェーハの直径の80%を下限として設定することを特徴とする請求項2記載のウェーハ片面研磨方法。

【図1】
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【図2】
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