説明

ウォータービークル

【課題】 操舵ハンドルの操作に要する力を一定にすることができるとともに、エンジンルーム内のスペースを有効利用できるウォータービークルを提供すること。
【解決手段】 操舵ハンドル11の操作に応じて回転して船体10の進行方向を変えるステアリングノズル16を備えたウォータービークルAに、操舵ハンドル11の操舵角度を検出するステアリングポジションセンサ27と、ステアリングノズル16を回転させるアクチュエータ32と、船体10の航走速度を検出する航走速度センサ23と、制御装置30を設けた。そして、制御装置30が、ステアリングポジションセンサ27の検出値と、航走速度センサ23の検出値と、操舵角度と航走速度に応じて予め設定された操舵比とからアクチュエータ32の作動量を決定してアクチュエータ32を作動させるようにした。また、操舵比を、航走速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵ハンドルの操作に応じてステアリングノズルが回転することにより船体の進行方向を変えることのできるウォータービークルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、操舵ハンドルを操作することによって進行方向を任意の方向に変更できる船舶が利用されており、この中に、例えばウォータービークルがある。このウォータービークルでは、操舵ハンドルのグリップ近傍にスロットルレバーが設けられており、このスロットルレバーの操作量に応じてエンジンが駆動することにより、ジェットポンプで汲み上げられた水を後方に噴射して船体が推進する。また、ウォータービークルの船尾にはステアリングノズルが設けられており、操舵ハンドルの操作に応じてこのステアリングノズルが回転して水の噴射方向を変えることにより船体の進行方向が変更する。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−329881号公報
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、前述した従来のウォータービークルでは、操舵ハンドルと、ジェットポンプの噴射口に左右に回転可能に設けられたステアリングノズルとがプッシュプルケーブルによって接続されている。そして、操舵ハンドルの操作に応じてプッシュプルケーブルを引っ張ったり戻したりすることによりステアリングノズルの方向を略水平面上で左右に変えることができるようになっている。このように、従来のウォータービークルでは、操舵ハンドルとステアリングノズルとがプッシュプルケーブルによって直結されているため、操舵ハンドルの操舵角度に対するステアリングノズルの転舵角度の比である操舵比は、常に一定になる。
【0004】
この結果、ウォータービークルに高出力エンジンを搭載させた場合には、高速域での航走時にステアリングノズルを通過する水の噴流が強くなるため、低速域での航走時と高速域での航走時とで操縦者の操舵に要する力に差がでてしまう。また、操舵ハンドルからステアリングノズルにかけて配設するプッシュプルケーブルを、空きスペースに沿わせるようにして湾曲させることは好ましくないためできるだけ真っ直ぐに配設する必要が生じる。このため、プッシュプルケーブルを好ましい状態に配設することによって他の装置の配置等の自由度が制限され、エンジンルーム内のスペースを有効的に利用することが難しくなる。
【0005】
本発明は、前述した課題を解決するためになされたもので、その目的は、操舵ハンドルの操作に要する力を一定にすることができるとともに、エンジンルーム内のスペースを有効利用できるウォータービークルを提供することである。
【0006】
前述した目的を達成するため、本発明に係るウォータービークルの構成上の特徴は、操舵ハンドルと、操舵ハンドルの操作に応じて回転することにより船体の進行方向を変えるステアリングノズルとを備えたウォータービークルであって、操舵ハンドルの操舵角度を検出するステアリングポジションセンサと、ステアリングノズルを回転させて転舵角度を変えるアクチュエータと、船体の航走速度を検出する航走速度センサと、ステアリングポジションセンサの検出値、航走速度センサの検出値および操舵ハンドルの操舵角度と船体の航走速度とに応じて予め設定された操舵比からアクチュエータの作動量を決定し、作動量に応じてアクチュエータの作動を制御してステアリングノズルを回転させる制御装置とを備えたことにある。
【0007】
このように構成した本発明に係るウォータービークルでは、ステアリングノズルの回転操作をアクチュエータの作動により行うようにしている。そして、操縦者が操作した操舵ハンドルの操作量(操舵角度)をステアリングポジションセンサで検出するとともに、船体の航走速度を航走速度センサで検出し、ステアリングセンサの検出値と、航走速度センサの検出値と、操舵ハンドルの操舵角度と船体の航走速度とに応じて予め設定された操舵比とから制御装置がアクチュエータの作動量を決定し、その作動量に応じてアクチュエータを作動させるようにしている。
【0008】
このため、従来のように、操舵ハンドルとステアリングノズルとの間を結ぶプッシュプルケーブルは不要になる。この結果、ステアリングノズルに係る水の抵抗が操舵ハンドルに伝わることがなくなり、ウォータービークルの航走速度に関係なく、操舵ハンドルの操作に対する抵抗力を調整して操舵性を一定にすることができるようになる。また、エンジンルームには、プッシュプルケーブルを配設するためのスペースが不要になるとともに、アクチュエータはステアリングノズルの近傍に設置することができる。そして、アクチュエータは、制御装置を介してステアリングポジションセンサに電気的に接続すればよくなる。
【0009】
このため、エンジンルーム内に設置されるエンジン等の装置や機器の配置に自由度が増し、エンジンルーム内を有効的に利用できるようになる。なお、操舵比とは、操舵ハンドルの操舵角に対するステアリングノズルの転舵角の比であり、予め操舵角度と航走速度に応じて各値が設定されている。この場合、操舵比が大きい場合には、操舵ハンドルの操舵角に対してステアリングノズルの転舵角が大きくなり、操舵比が小さい場合には、操舵ハンドルの操舵角に対してステアリングノズルの転舵角が小さくなる。
【0010】
また、本発明に係るウォータービークルの他の構成上の特徴は、操舵比を、航走速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定したことにある。これによると、航走速度が大きくなるにしたがって操舵比が小さくなるため、高速域では操舵ハンドルを大きく操舵してもステアリングノズルはそれほど大きくは動かなくなる。一般的に高速域では、少しの操舵ハンドルの操作でもウォータービークルの進路の変更が大きくなる傾向にある。そこで、ウォータービークルをこのような構成にすることで、ウォータービークルの進路を微調整をする場合でも操舵ハンドルを比較的大きく動かすことができるようになり快適な操作が可能になる。
【0011】
また、本発明に係るウォータービークルのさらに他の構成上の特徴は、航走速度の領域を、所定の速度未満である低速航走速度域と、所定の速度以上である通常航走速度域とに分け、低速航走速度域における操舵比の変化率が、通常航走速度域における操舵比の変化率よりも大きくなるように設定したことにある。
【0012】
これによると、低速航走時、特に、離岸時や着岸時における操舵ハンドルの操作性が向上するようになる。すなわち、水上で使用され舵を備えていないウォータービークルを極低速度で離岸させたり着岸させたりする場合には、ステアリングノズルの転舵角に対する応答性が特に悪くなって、操舵ハンドルの操作がし難くなる。このため、離岸時や着岸時などのように、極低速で方向転換する必要が生じたときに、操舵ハンドルの操作量以上にステアリングノズルを回転させることにより、操舵ハンドルの操作性を向上させることができる。
【0013】
この場合、所定の低速航走速度域における速航走速度を、15km/時以下に設定することが好ましい。通常、航走速度が15km/時以下であるときには、ステアリングノズルの転舵角に対する応答性が悪くなる。このため、所定の低速航走速度を、15km/時以下に設定し、その低速域で、操舵比の変化率を大きくすることにより、低速航走時における操舵ハンドルの操作性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係るウォータービークルのさらに他の構成上の特徴は、ステアリングポジションセンサが検出する操舵ハンドルの操舵角度が所定値以上になると、制御装置が船体に設けられたエンジンを制御してエンジンの出力を増大させるようにしたことにある。
【0015】
ウォータービークルでは、スロットルをオフにすると推進力が無くなるため、操舵ハンドルを操作してステアリングノズルを回転させても船体の向きが変わらなくなる特性がある。この結果、離岸時や着岸時などには、操舵ハンドルを操作しながらスロットルレバーを微調整して船体を方向転換させる必要が生じている。このため、操舵ハンドルの操舵角度が所定値以上に大きくなったときに、エンジンの出力を増大させることにより、離岸時や着岸時に、スロットルレバーの操作をすることなく、操舵ハンドルの操作だけで、船体を離岸させたり着岸させたりすることができる。
【0016】
この操舵ハンドルの操舵角度を所定値以上にする操作は、船体の停止時または低速航走時に行うことが好ましく、これによって、停止時または低速航走時からの船体の進行や操舵の操作がスムーズに行えるようになる。また、これによると、元々ウォータービークルに備わっているステアリングポジションセンサを用いるため、この機能を加えることによって新たなコストアップが生じることを防止できる。
【0017】
また、本発明に係るウォータービークルのさらに他の構成上の特徴は、航走速度に応じて操舵ハンドルの操作に対する抵抗力を発生させる抵抗力発生装置を設けたことにある。これによると、ウォータービークルの航走速度に応じたハンドル抵抗を得ることができる。ステアリングノズルの転舵をアクチュエータで行う場合には、操舵ハンドルの操舵に対する抵抗力を一定の小さな力にすることができる。しかしながら、高速域で航走する場合には、操舵の安定性を向上させるために操舵ハンドルにある程度の抵抗力がかかることが好ましい。このため、抵抗力発生装置を設けて、航走速度に応じて操舵ハンドルの操作に対する抵抗力を発生させることにより、より好ましいハンドル抵抗を得ることができる。
【0018】
また、本発明に係るウォータービークルのさらに他の構成上の特徴は、操舵ハンドルの操舵角度を最大角度にしたときに操舵ハンドルに係る荷重を検出する荷重センサを設け、荷重センサの検出値に基づいて、制御装置が船体に設けられたエンジンを制御してエンジンの出力を増大させるようにしたことにある。これによっても、離岸時や着岸時に、スロットルレバーの操作をすることなく、操舵ハンドルの操作だけで、船体を離岸させたり着岸させたりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1および図2は、本発明に係るウォータービークルAを示している。このウォータービークルAでは、船体10がデッキ10aとハル10bで構成されており、その船体10の上部における中央よりもやや前部側部分に操舵ハンドル11が設けられ、船体10の上部における中央部に操縦者が座るためのシート12が設けられている。そして、船体10内の底部における前部側部分には燃料を収容するための燃料タンク13が設置され、船体10内の底部における中央部にエンジン14が設置されている。
【0020】
また、船体10の後端部における船体10の幅方向の中央部には、推進機15が設置されており、この推進機15はインペラ軸15aを介してエンジン14に連結されている。そして、推進機15の後端部には、ステアリングノズル16が取り付けられている。このステアリングノズル16は、操舵ハンドル11と電気的に接続されており、操舵ハンドル11の操作に応じて、後部側を左右に回転させることにより、ウォータービークルAの進行方向を左右に変更させる。また、エンジン14には、燃料タンク13から供給される燃料と、空気との混合気をエンジン14に送り込む吸気装置17と、エンジン14から排出される排気ガスを船体10の後端部から外部に放出する排気装置18とが接続されている。
【0021】
エンジン14は、吸気装置17に連通する吸気口から燃料と空気との混合気を取り込み、排気装置18に連通する排気口から排気ガスを排出する。その際、吸気口からエンジン14内に供給される混合気はエンジン14が備える点火装置の点火によって爆発し、この爆発によって、エンジン14内に設けられたピストン(図示せず)が上下に往復移動する。そして、そのピストンの往復移動によってクランク軸14aが回転駆動される。このクランク軸14aはインペラ軸15aに連結されており、エンジン14の回転力をインペラ軸15aに伝達してインペラ軸15aを回転駆動させる。
【0022】
また、インペラ軸15aの後端部は、推進機15内に配置されたインペラ(図示せず)に連結されており、このインペラの回転によって、ウォータービークルAに推進力が生じる。すなわち、推進機15は、船体10の底部に開口する水導入口と船尾に開口する水噴射口とを備えており、水導入口から導入される海水をインペラの回転により水噴射口から噴射させることによりウォータービークルAに推進力を生じさせる。吸気装置17は、エンジン14に接続された吸気管17aや、吸気管17aの上流端に接続されたスロットルボディ等で構成されている。
【0023】
そして、船外の空気を吸引し、その空気の流量を、スロットルボディに設けられたスロットルバルブ19(図6参照)を開閉操作することにより調節して、エンジン14に供給する。また、その際、エンジン14に供給される空気に、燃料供給装置(図示せず)を介して燃料タンク13から供給される燃料を混合させる。排気装置18は、エンジン14に接続された排気管18aと、排気管18aの後端部に接続されたウォーターロックおよびウォーターロックの後部に接続された排気管とで構成されている。また、操舵ハンドル11のグリップ11a近傍には、軸部によって回転可能に支持されグリップ11aの周面に対して進退可能なスロットルレバー19aが設けられており、このスロットルレバー19aの操作に応じて、スロットルバルブ19が開閉する。
【0024】
そして、船体10内における操舵ハンドル11の下方には、図3に示したように、本発明に係る抵抗力発生装置20を含む機構が設けられている。抵抗力発生装置20は、操舵ハンドル11の幅方向の中央部に連結されて略垂直方向下方に延び、操舵ハンドル11の操作に応じて回転する操舵軸21と、操舵軸21の下端部に連結され、船体10の航走速度に応じて作動することにより操舵軸21の回転に対して所定の抵抗力(反力)を発生する反力モータ22とで構成されている。船体10の船尾下端には、航走速度センサ29が設けられており、反力モータ22は、この航走速度センサ29の検出値に応じて作動する。
【0025】
操舵軸21は、デッキ10aに固定された操舵軸受部材23と、操舵軸受部材23の内部上端に取り付けられた略円筒状の摺動支持部材24とによって軸周り方向に回転可能に支持されている。操舵軸受部材23は、操舵軸21を内部に挿通させる円筒状の操舵軸挿通部23aと、操舵軸挿通部23aの上端外周に形成されたフランジ状の取付部23bとで構成されている。この操舵軸受部材23は、操舵軸挿通部23aをデッキ10aに形成された穴部10cに上方から下方に向けて通し、取付部23bをデッキ10aの上面に位置させている。そして、操舵軸受部材23は、取付部23bをデッキ10aに、それぞれボルトとナットからなる固定具25a,25bで固定することによりデッキ10aに取り付けられている。
【0026】
摺動支持部材24は、操舵軸21を内面に摺接させる円筒状の操舵軸摺接部24aと、操舵軸摺接部24aの上端外周に形成されたフランジ状の進入防止部24bとで構成されている。そして、摺動支持部材24は、操舵軸摺接部24aを操舵軸挿通部23a内に通し、進入防止部24bを取付部23bの上面に位置させた状態で、操舵軸受部材23に取り付けられている。また、操舵軸挿通部23a内における下端側部分にステアリングポジションセンサ27が設置されている。このステアリングポジションセンサ27は、操舵軸21の周面に対向するように設置され、操舵軸21の操舵角度(操作量)を検出する。
【0027】
また、図4に示したように、操舵軸21の下端面には、開口側が矩形で、奥側が四角錐に形成された係合穴部21aが形成され、反力モータ22が備える回転軸22aの先端部には、係合穴部21aと係合可能な係合部22bが設けられている。反力モータ22は、係合部22bを係合穴部21aに係合させることにより操舵軸21に連結されており、回転軸22aおよび係合部22bは操舵軸21と同期して軸周り方向に回転する。なお、反力モータ22は、船体10における所定の部分に支持部材28等を介して固定されている。
【0028】
また、ウォータービークルAには、図5および図6に示したように、制御装置30、バッテリ31およびアクチュエータ32も備わっており、図6に示した各装置は配線を介して接続されている。制御装置30は、CPU30a,ROM30b,RAM30c等を有するマイクロコンピュータによって構成され、ステアリングポジションセンサ27が検出する検出値に応じてアクチュエータ32の作動を制御する。また、その際、航走速度センサ29が検出するウォータービークルAの航走速度も加味して、制御装置30はアクチュエータ32の作動を制御する。
【0029】
すなわち、アクチュエータ32は、ステアリングポジションセンサ27の検出値、航走速度センサ29の検出値および操舵角度と航走速度とに対応させて予め作成された図7のグラフに基づいて制御される。図7のグラフはマップデータとしてRAM30cに記憶されており、CPU30aが、このマップデータを適宜読み込みながらROM30bに記憶された所定のプログラムを実行することによりアクチュエータ32が作動する。そして、アクチュエータ32の作動に応じてステアリングノズル16が左右に回転し船体10が旋回する。なお、アクチュエータ32は船体10の後部側におけるステアリングノズル16の近傍部分に設置されている。
【0030】
図7のグラフの横軸は、船体10の航走速度を示しており、縦軸はステアリングノズル16の回転量(転舵角度)を示している。そして、曲線aは操舵ハンドル11を左右の最大角度に操作したときにステアリングノズル16に生じる転舵角度を示している。図7(後述する直線bとの比較)から分かるように、航走速度が略45km/時のときには、操舵ハンドル11の操舵角度とステアリングノズル16の転舵角度とが同じ値になるように設定されている。そして、航走速度が略45km/時未満のときには、操舵ハンドル11の操舵角度に対してステアリングノズル16の最大の転舵角度が大きく(操舵比が大きく)なり、航走速度が略45km/時以上のときには、操舵ハンドル11の操舵角度に対してステアリングノズル16の転舵角度が小さく(操舵比が小さく)なるように設定されている。
【0031】
また、航走速度が低速側の0km/時〜13km/時程度の範囲と、高速側の略65km/時以上の場合には、ステアリングノズル16の転舵角が増減せず一定になるように設定されている。この操舵ハンドル11の操舵角度とステアリングノズル16の転舵角度との関係は、操舵角度が「0」、すなわち、ウォータービークルAが直進している場合であれば、航走速度に関係なく転舵角度も「0」になる。そして、操舵角度が大きくなるにしたがって、操舵角度と転舵角度との間の差が大きくなり、その差が最大になったときに、図7の状態になる。したがって、操舵角度が「0」と最大角度との間の値になる場合には、転舵角度を示す曲線は、図7の曲線aよりも直線に近い状態になる。
【0032】
なお、図8に示したように、操舵ハンドル35とステアリングノズル36とをプッシュプルケーブル37で接続した場合には、操舵ハンドル35を左右の最大角度に操作したときでも、ステアリングノズル36の転舵角度は、図7の直線bのようになる。すなわち、プッシュプルケーブル37を用いた場合には、操舵角度や航走速度に関係なく、操舵角度と転舵角度とが一致するようになる。本実施形態では、操舵角度や航走速度に応じて操舵比を変更することにより、各航走速度に適した操舵性を得ることができるようにしている。
【0033】
また、制御装置30は、反力モータ22にも接続されており、航走速度センサ29の検出値に基づいて、反力モータ22の作動を制御する。この反力モータ22の作動により、操舵ハンドル11の操作に抵抗力が発生し、操舵ハンドル11の操舵性が向上する。すなわち、反力モータ22が発生する抵抗力は、船体10の航走速度が速いときほど大きくなるように設定され、高速航走時に操舵ハンドル11の操作が安定する。
【0034】
ただし、その場合でも、図8に示した操舵ハンドル35とステアリングノズル36とをプッシュプルケーブル37で接続した場合と比較すると、操舵ハンドル11の操作に要する力は小さくて済む。これは、操舵ハンドル11とステアリングノズル16との間で機械的に直結されているのは、アクチュエータ32とその近傍に位置するステアリングノズル16との間だけで、操舵ハンドル11(ステアリングポジションセンサ27)とアクチュエータ32との間は、制御装置30を介して電気的に接続されているからである。これによって、船体10の航走速度に応じて適宜操舵ハンドル11に係るハンドル荷重(抵抗力)を設定することができ、この機構によって、パワーステアリング機能が生じる。
【0035】
さらに、制御装置30は、スロットルレバー19aの操作量に応じて、スロットルバルブ19を開閉することによりエンジン14を駆動させる制御を行う。すなわち、スロットルレバー19aの近傍には、スロットルレバー19aの操作量を検出するための操作量検出センサ(図示せず)が設けられており、制御装置30は、この操作量検出センサの検出値に応じてスロットルバルブ19を開閉させる。また、制御装置30は、スロットルレバー19aが操作されてなく、ステアリングポジションセンサ27が検出する操舵ハンドル11の操舵角度が所定値以上になったときにも、スロットルバルブ19を開けてエンジン14の出力を大きくさせる制御を行う。
【0036】
スロットルレバー19aが操作されていないときは、エンジン14がアイドリング状態になって、ウォータービークルAは低速航走しているか停止状態になっているときであり、このような場合に、スロットルレバー19aを操作することなく、操舵ハンドル11を操作して操舵角度を所定値以上にすることによりウォータービークルAに推進力を発生させることができる。このため、離着岸時等に、操舵ハンドル11の操舵角度を断続的に所定値以上にすることにより、小刻みにウォータービークルAを進行させることができ、操舵ハンドル11の操作だけでウォータービークルAを離岸または着岸させることができる。
【0037】
また、このウォータービークルAでは、アクチュエータ32がステアリングノズル16の近傍に設置され、操舵軸21に設けられたステアリングポジションセンサ27とアクチュエータ32との接続は、制御装置30を介した電気配線で行われている。そして、この電気配線はどのような場所でも屈曲させながら通すことができるため、エンジンルーム内に、特に配線のためのスペースを設ける必要がなくなる。これによって、エンジンルーム内に設置されるエンジン14、吸気装置17、排気装置18等の配置に自由度が増すようになる。
【0038】
以上の構成において、操縦者がウォータービークルAを操縦する際には、まず、シート12に跨った状態で、操舵ハンドル11の近傍に設置されたスイッチ(図示せず)をオンにしてウォータービークルAを走行可能な状態にする。ついで、操舵ハンドル11のグリップ11aを握るとともに、スロットルレバー19aに指を引っ掛けてスロットルレバー19aをグリップ11a側に移動させる。これによって、スロットルバルブ19がスロットルレバー19aの操作量に応じて開く。
【0039】
この場合、スロットルレバー19aをグリップ11a側に近づけるほどスロットル開度が大きくなってウォータービークルAは高速走行し、スロットルレバー19aをグリップ11aから遠ざけるほどスロットル開度が小さくなってウォータービークルAは低速走行する。また、スロットルレバー19aの操作により航走速度を調節しながら、操舵ハンドル11を回転操作することにより、ウォータービークルAは、操舵ハンドル11の操作に応じた方向に進路を変化させながら走行する。この場合、操舵ハンドル11の操舵角度に応じてアクチュエータ32が作動してステアリングノズル16を揺動させることにより走行方向の変更が可能になる。
【0040】
また、ウォータービークルAを接岸させた状態から発進させる場合には、スロットルレバー19aを離してグリップ11aから最も遠い位置にしてエンジン14をアイドリング状態にする。そして、操舵ハンドル11を時計回りまたは反時計回りのどちらかに、操舵角度が所定値以上になるまで回転させる。これによって、エンジン14が駆動するため、操舵ハンドル11の操作とスロットルレバー19aを微調整する操作との面倒な操作をすることなく、操舵ハンドル11の簡単な操作だけで、ウォータービークルAを低速で離岸させることができる。
【0041】
また、この低速航走時の場合、操舵比が大きくなるように設定されているため、操舵ハンドル11の操作量に比べてステアリングノズル16の転舵角度が大きくなり、操舵性が向上する。そして、ウォータービークルAを通常の航走速度で航走させる場合には、図7の曲線aにおける中央の直線部分のように、航走速度が略45km/時未満のときには、操舵ハンドル11の操舵角度に対してステアリングノズル16の転舵角度が大きくなり、航走速度が略45km/時以上のときには、操舵ハンドル11の操舵角度に対してステアリングノズル16の転舵角度が小さくなるように制御される。これによって、低速域と高速域とで、その速度域に適した操舵性を発揮させることができる。また、ウォータービークルAが、高速航走する場合には、反力モータ22が発生する抵抗力が大きくなるため、安定した操舵が行えるようになる。
【0042】
さらに、ウォータービークルAを着岸させる場合には、スロットルレバー19aを離してエンジン14をアイドリング状態にし、操舵ハンドル11を時計回りまたは反時計回りのどちらかに、操舵角度が所定値以上になるまで回転させる。これによって、エンジン14が駆動するため、操舵ハンドル11の操作とスロットルレバー19aを微調整する操作との面倒な操作をすることなく、操舵ハンドル11の簡単な操作だけで、ウォータービークルAを低速で着岸させることができる。
【0043】
このように、本実施形態に係るウォータービークルAでは、ステアリングノズル16の回転操作を、操舵ハンドル11の操舵角度を検出するステアリングポジションセンサ27と電気的に接続されたアクチュエータ32の作動により行うようにしている。このため、ステアリングノズル16に係る水の抵抗が操舵ハンドル11に伝わることがなくなり、ウォータービークルAの航走速度に関係なく、操舵ハンドル11の操作に対する抵抗力を小さくして操舵性を一定にすることができる。また、エンジンルームには、プッシュプルケーブル37を配設するためのスペースが不要になるため、エンジン14等の各装置の配置に自由度が増し、エンジンルーム内を有効的に利用できるようになる。
【0044】
また、操舵角度や航走速度に応じて操舵比を変化させるため、離岸時や着岸時等の低速航走時、通常の航走時および高速航走時に応じた操舵ハンドル11の操作やステアリングノズル16の転舵が可能になる。さらに、ステアリングポジションセンサ27が検出する操舵ハンドル11の操舵角度が所定値以上になると、エンジン14の出力が増大するようにしたため、離岸時や着岸時の操作がより簡単になる。また、反力モータ22の作動により、航走速度に応じた抵抗力が操舵ハンドル11にかかるようになり、より安定した操舵ハンドル11の操作が可能になる。
【0045】
また、図9および図10に、本発明の他の実施形態に係るウォータービークルが備える操舵軸41の近傍部分を示している(なお、図10には操舵軸41は図示していない。)。このウォータービークルでは、操舵軸41における摺動支持部材44の上部に対応する部分に、円板状の支持部42が設けられており。この支持部42の先端部に棒状の押圧部42aが突出している。そして、この押圧部42aの回転移動範囲の両側部分に対応する位置にそれぞれ荷重センサ43,44が設置されている。また、両荷重センサ43,44の先端部には、接触片43a,44aが設けられている。
【0046】
そして、操舵軸41が軸周り方向に回転する際の両方向の最大角度近くに位置したときに、支持部42の押圧部42aと荷重センサ43の接触片43aまたは荷重センサ44の接触片44aとが当接するように構成されている。また、この荷重センサ43,44は制御装置30に接続されており、制御装置30は、荷重センサ43,44から接触片43a,44aが受ける荷重の値を信号として受信し、その値に応じてエンジン14を駆動させる。
【0047】
さらに、このウォータービークルのRAM30cに記憶されたマップデータには、図7の曲線aにおける航走速度が15km/時程度以下で、低速域での操舵性を向上させるために、破線cで示した離着岸モードを設けている。破線cで示した離着岸モードは、航走速度を15km/時程度以下にして船体10を離岸させたり着岸させたりする場合に用いるモードであり、曲線aで示した場合の操舵比よりも操舵比および操舵比の変化率を大きくして、曲線aにおけるステアリングノズル16の転舵角度70度に対して、転舵角度の最大回転角が80〜85度程度になるようにしている。
【0048】
これによって、低速時における離着岸の操作がし易くなる。この離着岸モードによると、低速時におけるスラスト角不足を補う程度の回転アップが可能になる。このウォータービークルのそれ以外の部分の構成については、前述した実施形態のウォータービークルAと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0049】
この構成において、ウォータービークルを接岸させた状態から発進させる場合には、スロットルレバー19aを離してエンジン14をアイドリング状態にする。そして、操舵ハンドル11を時計回りまたは反時計回りのどちらかに回転して、支持部42の押圧部42aを荷重センサ43の接触片43aまたは荷重センサ44の接触片44aに当接させる。これによって、エンジン14の出力が上昇するため、操舵ハンドル11の操作とスロットルレバー19aを微調整する操作との面倒な操作をすることなく、操舵ハンドル11の簡単な操作だけで、ウォータービークルを離岸させることができる。
【0050】
この場合、操舵比が図7の曲線aで示したものよりさらに大きく、かつ変化率も大きくなるように設定されているため、操舵ハンドル11の操作量に比べてステアリングノズル16の転舵角度がさらに大きくなり、操舵性が向上する。また、ウォータービークルを着岸させる際にも、操舵ハンドル11を操作しながらスロットルレバー19aを微調整して船体10を方向転換させるといった面倒な操作をする必要がなくなり、操舵ハンドル11の操作だけで、ウォータービークルを着岸させることができる。この実施形態におけるそれ以外の作用効果は、前述した実施形態のウォータービークルAと同様である。
【0051】
また、本発明に係るウォータービークルは前述した実施形態に限るものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、本発明で用いる操舵比の設定データは、図7に示したマップデータに限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。また、前述した最初の実施形態では、操舵ハンドル11の操舵角度が所定値以上になるとエンジン14の出力が増大する機能を備えており、後の実施形態では、これに加えて、支持部42の押圧部42aと荷重センサ43,44とを用いているが、このどちらか一方だけを用いることもできる。さらに、前述した実施形態に係るウォータービークルA等の他の部分の構成についても、本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態に係るウォータービークルを示した平面図である。
【図2】図1に示したウォータービークルの側面図である。
【図3】操舵軸の近傍部分の構造を示した一部切欠き断面図である。
【図4】抵抗力発生装置を示した分解斜視図である。
【図5】操舵ハンドルとステアリングノズルとの接続状態を示した構成図である。
【図6】制御装置が制御する制御機構を示した構成図である。
【図7】航走速度と操舵角度に対する転舵角度を示したグラフである。
【図8】プッシュプルケーブルを用いて操舵ハンドルとステアリングノズルとを接続した状態を示した構成図である。
【図9】他の実施形態に係るウォータービークルが備える操舵軸の近傍部分を示した一部切欠き断面図である。
【図10】図9に示した部分の平面図である。
【符号の説明】
【0053】
10…船体、11…操舵ハンドル、14…エンジン、16…ステアリングノズル、20…抵抗力発生装置、21,41…操舵軸、22…反力モータ、27…ステアリングポジションセンサ、29…航走速度センサ、30…制御装置、32…アクチュエータ、43,44…荷重センサ、A…ウォータービークル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵ハンドルと、前記操舵ハンドルの操作に応じて回転することにより船体の進行方向を変えるステアリングノズルとを備えたウォータービークルであって、
前記操舵ハンドルの操舵角度を検出するステアリングポジションセンサと、
前記ステアリングノズルを回転させて転舵角度を変えるアクチュエータと、
前記船体の航走速度を検出する航走速度センサと、
前記ステアリングポジションセンサの検出値、前記航走速度センサの検出値および前記操舵ハンドルの操舵角度と前記船体の航走速度とに応じて予め設定された操舵比から前記アクチュエータの作動量を決定し、前記作動量に応じて前記アクチュエータの作動を制御して前記ステアリングノズルを回転させる制御装置と
を備えたことを特徴とするウォータービークル。
【請求項2】
前記操舵比を、航走速度が大きくなるにしたがって小さくなるように設定した請求項1に記載のウォータービークル。
【請求項3】
前記航走速度の領域を、所定の速度未満である低速航走速度域と、前記所定の速度以上である通常航走速度域とに分け、前記低速航走速度域における操舵比の変化率が、前記通常航走速度域における操舵比の変化率よりも大きくなるように設定した請求項1または2に記載のウォータービークル。
【請求項4】
前記低速航走速度域における速航走速度を、15km/時以下に設定した請求項3に記載のウォータービークル。
【請求項5】
前記ステアリングポジションセンサが検出する前記操舵ハンドルの操舵角度が所定値以上になると、前記制御装置が前記船体に設けられたエンジンを制御して前記エンジンの出力を増大させるようにした請求項1ないし4のうちのいずれか一つに記載のウォータービークル。
【請求項6】
前記航走速度に応じて前記操舵ハンドルの操作に対する抵抗力を発生させる抵抗力発生装置を設けた請求項1ないし5のうちのいずれか一つに記載のウォータービークル。
【請求項7】
前記操舵ハンドルの操舵角度を最大角度にしたときに前記操舵ハンドルに係る荷重を検出する荷重センサを設け、前記荷重センサの検出値に基づいて、前記制御装置が前記船体に設けられたエンジンを制御して前記エンジンの出力を増大させるようにした請求項1ないし6のうちのいずれか一つに記載のウォータービークル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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