ウォームギヤ
【課題】ウォームギヤの精度を十分確保しながら加工工程を減少させる。
【解決手段】第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転と、ワーク素材を送るサーボモータ76により、ワーク素材を転造ダイス間に位置決めする。ウォームギヤは進み角が強くて、仕上がり直径と素材直径の差が大きいとき、転造加工進行中に進み角が変化し歩みが発生する。スライド板55は、送り台53の上を自由に摺動しているので、第1転造ダイス100、第2転造ダイス101、及びワークとの進み角による歩みが発生する。この歩みが設定値以上になると、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転は停止される。第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101は逆転を開始すると同時に、スライド板55も逆方向の動きが開始され転造を開始する。以後、同様の加工を繰り返して、歯底が円弧のウォームギヤ80を作る。
【解決手段】第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転と、ワーク素材を送るサーボモータ76により、ワーク素材を転造ダイス間に位置決めする。ウォームギヤは進み角が強くて、仕上がり直径と素材直径の差が大きいとき、転造加工進行中に進み角が変化し歩みが発生する。スライド板55は、送り台53の上を自由に摺動しているので、第1転造ダイス100、第2転造ダイス101、及びワークとの進み角による歩みが発生する。この歩みが設定値以上になると、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転は停止される。第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101は逆転を開始すると同時に、スライド板55も逆方向の動きが開始され転造を開始する。以後、同様の加工を繰り返して、歯底が円弧のウォームギヤ80を作る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームギヤに関し、更に詳しくは、転造加工によって、自動車のハンドル駆動等に用いられるウォームギヤを転造加工方法により加工したウォームギヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の電動式パワーステアリング装置として、電動モータの回転出力をウォームギヤ機構を介して減速し、ステアリングホイールに連結された出力軸をアシスト駆動するタイプのものが知られている。大きな負荷がかからない軽自動車用のパワーステアリング装置においては、金属製の円筒ウォームギヤと樹脂製のウォームホイールとを組み合わせてウォームギヤ機構として用いたタイプが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この金属製のウォームギヤは、精度が要求されるので焼入れ鋼を旋盤加工の後、熱処理し研削仕上げ加工加工により製造されている。旋盤で加工する場合、バイトで切削されるが、生産性を上げるときは円錐形のフライスを使用し、このフライスの軸線をウォーム軸に対してγ(ウォームギヤのピッチ線における進み角)だけ傾けてネジ加工の要領で切削する。
【0004】
しかしながら、このウォームギヤの製作工程は、少なくとも切削、熱処理、研削と大きくは3工程が必要である。また、このための設備も旋盤、熱処理設備、研削盤の少なくとも3台が必要となる。このために加工コストが増大し樹脂製のウォームホイールの利点が十分に発揮できていなかった。
【0005】
また、雄ネジ、ウォームギヤ等を転造するとき、対向して配置された第1転造ダイス、及び第2転造ダイスが互いに接近して押し込み送りを行う。このとき、ウォームギヤの進み角が大きくて、かつ仕上がり直径と素材直径の差が大きいとき、転造加工の進行中に、進み角が変化する現象が「歩み」と呼ばれている。この歩みが発生すると、歩みによるワークの移動方向のネジ山のフランク面と反対側のフランク面との間で丸ダイスの接触が異なり、転造面の仕上がり精度が悪くなる問題がある。この歩みを防ぐために、通常は目視等により第1転造ダイス、又は第2転造ダイスの軸線方向の位相位置を変えることにより補正をすることがある。
【0006】
しかしながら、この補正方法は、雄ネジ、又はウォームギヤの両側に雄ネジ、又はウォームギヤの直径より大きな軸があるような部品の場合、この部分に転造ダイスが干渉するので歩みを防ぐための補正は困難である。又このようなとき、ダイスを正転、又は逆転させて転造させることも行われているが、バックラッシュ等の発生により製品精度の高いものはできないし、生産性も悪い。本出願人は、この歩みを第1転造ダイス、及び第2転造ダイスの回転軸線と直交する軸線の周りで回動する主軸傾斜機構を提案した(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、この主軸傾斜機構を用いたものでも、加工開始から加工終了までの径の変化が大きいウォームギヤ等のようなワークでは、歩みの発生を完全には防ぐことができず、これが加工誤差となって現れる。
【0008】
【特許文献1】特開平9−24855号公報
【特許文献2】特開平11−285766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ギヤ精度を十分確保しながら加工工程を減少させたウォームギヤであって、このウォームギヤを転造加工方法により加工したウォームギヤを提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、ギヤ精度を十分確保しながらコストを低減させたウォームギヤであって、このウォームギヤを転造加工方法により加工したウォームギヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明1のウォームギヤは、円筒状の素材を中心に配置して転造加工するための円筒状の複数のダイスと、前記ダイスを互いに同期回転駆動するためのダイス回転駆動手段と、前記素材を回転自在に支持するための素材支持手段と、前記ダイスを互いに接近させて押し込むための押込み手段とを備えた転造機によるウォームギヤ転造加工方法により転造加工されたウォームギヤであって、
前記ウォームギヤの歯間の歯底の形状は、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で頂部が形成されたものである。前記頂部は、機械構造用鋼炭素鋼で角度が120〜150度であり、前記頂部の先端が断面で半径で1.0〜1.5mmの円弧形状が好ましい。
【0012】
本発明2のウォームギヤは、円筒状の素材を中心に配置して転造加工するための円筒状の複数のダイスと、前記ダイスを互いに同期回転駆動するためのダイス回転駆動手段と、前記素材を回転自在に支持するための素材支持手段と、前記ダイスを互いに接近させて押し込むための押込み手段とを備えた転造機によるウォームギヤ転造加工方法により転造加工されたウォームギヤであって、
本発明3のウォームギヤは、本発明1又は2において、前記ウォームギヤの歯間の歯底の形状は、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で円弧が形成されたものである。前記円弧には、機械構造用鋼炭素鋼で断面で半径で1.0〜1.5mmの円弧形状が好ましい。
【0013】
本発明4のウォームギヤは、本発明1又は2において、前記転造機の前記ダイスは、4本のガイドの略中心に配置されたものであり、かつ回転軸線が平行して配置された2台とからなるものが好ましい。
【0014】
本発明5のウォームギヤは、本発明1又は2において、前記転造機は、前記ダイスの回転軸線と直交する軸線を中心に回動する主軸傾斜手段とを備えたものであると良い。
本発明6のウォームギヤは、本発明1又は2において、前記ウォームギヤは、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で前記ウォームギヤの歯厚は歯底の間隔より小さいものに適用すると良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明のウォームギヤの効果(本発明の利点)は、横転位された薄歯のウォームギヤが転造加工により高精度で加工が可能になったので、従来のウォームギヤより加工工程数が少なくでき、しかも加工コストも大幅に低下させることができる、ものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。図1は、本発明に係るウォームギヤを転造するための転造機の全体を示す立体外観図である。図2は、図1をII−II線で切断したときの一部断面図である。図3は、転造機の正面図である。図4は、切断平面図である。転造機1は、円筒状のダイスを対向させて配置し素材を塑性変形させて塑性加工する丸ダイス転造機である。通常の丸ダイス転造機は、回転駆動される可動ダイスとこれと連れ回りする固定ダイスとは、その回転軸線が平行になるように対向して配置され、その中間に素材が配置されている。
【0017】
本発明に係るウォームギヤ加工用の転造機1は、加工中は2個の丸ダイスを同期させて同時に同一回転方向に回転駆動するものである。以下、そのための詳細構造について説明する。ベッド2は、転造機1の本体を構成し内部が空洞の構造物の台である(図2参照)。ベッド2は、概ね箱形をしており、鋳物、又は鋼板を溶接して造られたものである。ベッド2の上面には、2本の第1案内レール3が平行にボルト等で固定配置されている。2本の第1案内レール3上には、第1ダイス移動支持台4がリニアベアリングブロック5を介して移動自在に搭載されている。第1ダイス移動支持台4の前面には、第1ダイス移動台6が一体に固定支持されている。同様に、第1ダイス移動台6もリニアベアリングブロック5を介して2本の第1案内レール3上に移動自在に設けられている。
【0018】
第1ダイス移動台6の前面7には、第1丸ダイス支持台8が後述する理由から回動自在に支持されて搭載されている(図3参照)。第1丸ダイス支持台8には、2台の第1丸ダイス軸受9、及び第2丸ダイス軸受10が間隔をおいて配置されている。第1丸ダイス軸受9、及び第2丸ダイス軸受10の間には、第1丸ダイス軸11が水平方向に配置されており、この両端を第1丸ダイス軸受9、及び第2丸ダイス軸受10がそれぞれ支持している。
【0019】
第1丸ダイス支持台8は、第1主軸傾斜機構(図示せず)により、第1丸ダイス軸11の中心軸線と直交する回動軸線を中心にして回動可能である。第1主軸傾斜機構は、第1ダイス移動台6の側面に配置されたギヤと、このギヤと噛み合うサーボモータとで構成されている。第1丸ダイス支持台8を回動駆動するこのサーボモータ142は、後述するCNC装置120(図9参照)により、第1丸ダイス支持台8の回動角度位置を制御する。第1主軸傾斜機構は、後述するネジ、ウォームギヤ等のような螺旋形状を有する部品の加工中に発生する歩み現象による、加工誤差を防ぐための機構である。
【0020】
第2丸ダイス軸受10の端部には歯車箱12が配置され、この歯車箱12内には検出器134(図9参照)が内蔵されている。歯車箱12内の歯車機構は、ユニバーサルジョイント13を介して駆動軸14からの回転を第1丸ダイス軸11に回転を伝達するものである。駆動軸14は、更にユニバーサルジョイント15を介して減速機構16の出力軸(図示せず)に連結されている。減速機構16は、ブラケット18により支持固定されている。
【0021】
ブラケット18は、駆動機構支持台20の上に搭載されている。駆動機構支持台20は、ベッド2の側面の中央部に隣接してベッド2と一体に固定配置されている。減速機構16の入力軸(図示せず)には、サーボモータ17の出力軸が連結されている。結局、サーボモータ17の回転出力は、減速機構16により減速され、更にユニバーサルジョイント15、駆動軸14、ユニバーサルジョイント13、及び歯車箱12内の歯車機構を介して、第1丸ダイス軸11を回転速度指令に従って回転駆動する。サーボモータ17の回転出力の制御は、後述するCNC装置120により行う。
【0022】
サーボモータ17の回転駆動を第1丸ダイス軸11に伝達するために、2個のユニバーサルジョイント15、及びユニバーサルジョイント13から構成される回転駆動伝達機構を採用した。サーボモータ17が駆動機構支持台20上に固定されているのに対し、第1丸ダイス軸11が2本の第1案内レール3の上を第1ダイス移動台6が移動するので位置が一定しないので、通常の継手構造では円滑に回転を伝達できない。ユニバーサルジョイント13,15を用いたこの回転駆動伝達機構は、円滑にかつ等速度でサーボモータ17の回転を第1丸ダイス軸11に伝達する機能を果たす。
【0023】
他方、第1ダイス移動台6と対向するベッド2上の位置には、第2ダイス移動台25が配置されている。ベッド2の上面には、2本の第2案内レール26がボルト等で固定配置されている。第2案内レール26は、第1ダイス移動台6を案内する2本の第1案内レール3を直線上で延長した位置に配置されている(図4参照)。2本の第2案内レール26上には、第2ダイス移動台25がリニアベアリングブロック27を介して移動自在に搭載されている(図3参照)。
【0024】
第2ダイス移動台25の前面28には、第2丸ダイス支持台29が後述する理由から中心0を中心として回動自在に支持されて搭載されている(図5参照)。第2丸ダイス支持台29には、2台の第3丸ダイス軸受30、及び第4丸ダイス軸受31が間隔をおいて配置されている(図2参照)。第3丸ダイス軸受30、及び第4丸ダイス軸受31の間には、第2丸ダイス軸32が水平方向に向いて配置されており、この両端を第3丸ダイス軸受30、及び第4丸ダイス軸受31がそれぞれ回転自在に支持している。
【0025】
第2丸ダイス支持台29は、第2主軸傾斜機構(図示せず)により、第2丸ダイス軸32の中心軸線と直交する回動軸線Oを中心に角度+α、又は−αだけ回動する(図5参照)。第2主軸傾斜機構は、第2ダイス移動台25の側面に配置されたギヤと、このギヤと噛み合うサーボモータとで構成されている。第2丸ダイス支持台29を駆動するこのサーボモータ147は、後述するCNC装置120により、第2丸ダイス支持台29の位置を制御する(図9参照)。第2主軸傾斜機構は、後述するネジ、ウォーム等のような螺旋構造を有する部品の形状精度に影響する歩み現象による誤差を防ぐための機構である。
【0026】
第4丸ダイス軸受31の端部には、歯車箱33が配置され、歯車箱33内には回転検出機構(図示せず)が内蔵されている。歯車箱33内の歯車機構は、ユニバーサルジョイント34を介して駆動軸35からの回転を第2丸ダイス軸32に伝達するものである。駆動軸35は、更にユニバーサルジョイント36を介して減速機構37の出力軸(図示せず)に連結されている。減速機構37は、前述したブラケット18により支持固定されている。
【0027】
減速機構37の入力軸には、サーボモータ38の出力軸が連結されている。結局、サーボモータ38の回転出力は、減速機構37により減速され、ユニバーサルジョイント36、駆動軸35、ユニバーサルジョイント34、及び歯車箱33内の歯車機構を介して、第2丸ダイス軸32をCNC装置120(図9参照)の指令に従って制御される。
【0028】
第1ダイス移動支持台4と第1ダイス移動台6の外周の4隅には、軸固定部41が配置されている。軸固定部41には、4本の連結軸40の一端が固定されている。4本の連結軸40は、互いに平行になるように配置され、かつ第1案内レール3、及び第2案内レール26と互いに平行になるように配置されている。4本の連結軸40には、第2ダイス移動台25の外周の4隅にガイド部42が配置され、ガイド部42に組み込まれた軸受を介して移動自在に第2ダイス移動台25を支持している。
【0029】
[ダイス送り装置49]
図6は、ダイス送り装置の概略機構を示す転造機の略平面図である。以上の説明で理解されるように、第2ダイス移動台25は、第2案内レール26と4本の連結軸40に案内されて、第1ダイス移動台6に対して相対的に接近、又は離反移動が可能である。連結軸40の他端は、圧力プレート45に連結固定されている。圧力プレート45には、油圧シリンダから構成される油圧シリンダ50が固定されている。油圧シリンダ50は、ピストンの伸長位置を高精度で制御できるサーボバルブを備えたものである。油圧シリンダ50の出力軸であるピストンロッド51の先端は、第2ダイス移動台25の背面52に固定されている。
【0030】
油圧シリンダ50に油圧を導入して駆動すると、ピストンロッド51が伸長する。油圧シリンダ50は圧力プレート45とに固定され、かつ圧力プレート45と第1ダイス移動台6は連結軸40により互いに連結されているので、ピストンロッド51の伸長により第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25とは互いに接近する。
【0031】
図6に示すように、第2ダイス移動台25の移動方向と同一方向に向けてラック91が配置され、このラック91の一端が第2ダイス移動台25が固定されている。圧力プレート45には、ラック90の一端が固定されている。ラック90とラック91は、互いに平行になるように配置されている。
【0032】
ラック90とラック91は、ピニオン93に噛み合っている。ピニオン93のピニオン軸94は、ベッド2に回転自在に設けられている。結局、油圧シリンダ50を駆動すると、ピストンロッド51が伸長する。油圧シリンダ50は圧力プレート45とに固定され、かつ圧力プレート45と第1ダイス移動台6は連結軸40により互いに連結されているので、ピストンロッド51の伸長により第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25とは互いに接近又は離反する。
【0033】
このとき、ピニオン軸94はベッド2に回転自在支持されているので回転はするが移動しない。この結果、第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25の間の間隔の中心位置は、常にベッド2上の一定位置に位置されることになる。この一定位置にワーク(工作物)の中心軸線を一致させると、ワークの加工精度が向上すると共に、転造機1へのワークの供給、及び排除等が容易となる。
【0034】
第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25の間の間隔は、第2ダイス移動台25に配置された後述する移動台間隔計測手段により、計測される。移動台間隔計測手段は、第2ダイス移動台25の上部に固定されたリニアスケール111、リニアスケール111の磁気目盛りを読みとるためのセンサー(図示せず)、センサーを固定した棒状のセンサー台110等からなる(図4参照)。
【0035】
センサー台110の一端は、第1ダイス移動台6に固定されている。従って、第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25が相対移動すれば、センサーはリニアスケール111の磁気目盛りを読み取り、その間の間隔を読みとることができる。以上のような、転造機1の第1丸ダイス軸11、及び第2丸ダイス軸32の回転駆動、及び各転造ダイスの移動は後述するCNC装置120で同期制御、又は非同期制御される。
【0036】
[ワーク送り装置59]
図7は、工作物であるワークWを支持し送るためのワーク送り装置59の側面図である。前述した第1丸ダイス軸11、及び第2丸ダイス軸32には、第1転造ダイス100、第2転造ダイス101がキー固定されている。基板61上には1本のリニアレール58がボルトにより固定されている。2台のリニアブロック57は、リニアレール58の上に移動自在に搭載されている。
【0037】
2個のリニアブロック57の両側面には、ワーク長さ調整板89がそれぞれ掛け渡され、ボルトにより相互に連結固定されている。更に、ワーク長さ調整板89の上面には、それぞれスライド押え54がボルトにより固定されている。2枚のスライド押え54の間には、これに案内されてスライド板55が摺動自在に設けられている。スライド押え54にガイドされて移動するスライド板55の移動範囲は、転造加工中に移動するものであり設定された移動範囲のみである。
【0038】
結局のところ、リニアブロック57、ワーク長さ調整板89、スライド押え54、及びスライド板55により、送り台53を構成する。スライド板55の上面には、心押台60が固定されている。心押台60には、ウォームギヤの素材、又はワークWを回転自在に支持するセンタ62が挿入固定されている。心押台60には、スライド板55の移動範囲を決めるセンサードッグ63がボルト64により固定されている。センサードッグ63の移動を検知する前進位置検出センサ79は、基板61上に固定されている。
【0039】
スライド板55には、心押台60と対向してチャック台65が配置固定されている。チャック台65には、センタ支持軸67が設けられており、このセンタ支持軸67に軸受68を介して回転自在に回転センタ66が回転自在に支持されている。一方、チャック台65の背面には、センタ支持軸67を軸線方向に移動自在に駆動するためのチャック用空圧シリンダ69がボルト70により固定されている。空気圧で作動するチャック用空圧シリンダ69のピストンロッドは、センタ支持軸67に連結されている。
【0040】
従って、チャック用空圧シリンダ69を作動させると、センタ支持軸67、及び回転センタ66が軸線方向に伸張、又は縮み駆動されて、素材、又はワークWを回転センタ66、及びセンタ62の間に取り付け、又は取り外すことができる。リニアブロック57には、ナット72が固定されている。ナット72には、送りネジ73がねじ込まれている。送りネジ73の一端は、回転継手であるカップリング74を介してサーボモータ76の出力軸77に連結されている。
【0041】
従って、サーボモータ76を駆動すると、送りネジ73が回転駆動され送り台53がリニアレール58上を移動し、その位置が制御されることになる。チャック台65上には、センサードッグ71がボルト78で固定されている。センサードッグ71の移動を検知する後退位置検出センサ75は、基板61に固定されている。従って、前進位置検出センサ79はワークWの前進位置を検出し、後退位置検出センサ75はワークWの後退位置を検出する。
【0042】
チャック台65の側面には、磁気スケールであるリニアスケール99が配置固定されている。リニアスケール99の移動は、固定された読取装置(図示せず)で読みとられ、移動が検知される。従って、このリニアスケール99の移動を検知することによりワークWの移動が検出されることになる。
【0043】
転造加工が進行すると、前述したウォームギヤであるワークWの進み角が変化し誤差となる。この誤差がなければワークWは後述するように理論上は軸線方向に移動することはない。この誤差がワークが軸線方向に移動する歩み量となって発生する。リニアスケール99の移動は、センサーにより読みとられ、このデータは歩み量検出プログラム160(図9参照)により、歩み量として計算される。
【0044】
即ち、ワークWに螺旋溝を転造する場合、第1転造ダイス100、第2転造ダイス101をワークWに向かって、少しずつ互いに接近するように押し込むにつれ、ワークWのネジ溝の谷径が小さくなる。そのためにワークWの押込み開始時に比べて押込み完了時には、ワークWの谷部の円周長さが短くなる。言い換えると、ワークWの円周長さとピッチとの関係が、転造開始時と転造加工終了時とでは異なる。
【0045】
ワークWの円周長は、押込み開始時の円周長をL、ウォームギヤの進み角(ねじれ角)をβで一定とすれば、幾何学的には押込み完了時には円周長Lは、直径が小さくなった量だけ短くなる。しかしながら従来の転造機は、この押込み動作中は丸ダイスのリード角(ねじれ角)βは変わらない。このため、押込み開始時のワークWのピッチPと、押込み完了時のワークWのピッチP1との間にはピッチのズレδPが発生する。
【0046】
このピッチのズレδP分だけ転造中にワークWがその中心軸線方向に移動する現象が発生する。この転造中にワークWが移動する現象をワークWの「歩み」と呼んでいる。特に、外径と谷径が大きいウォームギヤ、ネジのようなワークWの場合にこの現象が顕著に現れる。歩みが発生すると、歩みによるワークWの移動方向のウォームギヤ、ネジ山のフランク面が丸ダイスである第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101に強く接触することになる。この結果、転造加工された加工部品の加工精度である形状精度を悪くしている。
【0047】
前述した第1主軸傾斜機構、及び第2主軸傾斜機構は、ウォームギヤ、ネジのような製品の形状精度に影響する歩みを防ぐための機構であり、押込み中にリード角をワークの円周長さによって補正する。なお、補正により加工されるワークの進み角が変わるが、僅かな量のために形状精度に大きく影響することはなく、補正しない場合より誤差が少なく充分に公差の範囲内に収まる。
【0048】
[CNC装置120]
図9は、CNC装置120、及び各制御モータ等の構成を示すブロック図である。CNC装置120は、NC専用機や、個人用小型コンピュータ(以下、パソコンという)の拡張スロットにサーボモータの制御、シーケンス制御等を行うNCボード等を装備して数値制御機能とパソコン機能とを有するいわゆるパソコンNC装置が使用できる。CNC装置120には、種々のデータ処理を行う情報処理手段としてのCPU121が設けられており、CPU121にはバス122を介して主記憶装置としてフラッシュメモリ123、及びRAM124が接続されている。
【0049】
CPU121は、フラッシュメモリ123に記憶されているシステムプログラム、及びデータと、RAM124にロード(メモリ中に読み込むこと)されたプログラム、及びデータに従って動作する。このようにRAM124にロードされるプログラムとしては、基本プログラムであるOS(オペレーティング・システム)や、数多くあるNC指令の各NC指令に応じた処理を行うNC指令処理プログラム、工具・工作物データ設定プログラム、計測寸法演算プログラム125、傾斜角度演算プログラム126、計測データ設定プログラム127、歩み量検出プログラム160、表示部130に対して文字や図形の表示を行う表示制御プログラム等がある。
【0050】
計測寸法演算プログラム125は、リニアスケール111をセンサーで読み取った第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の間隔、検出器134、検出器137等のデータから、転造加工のための押込み速度を決めるために時々刻々演算するプログラムである。この演算結果は、NC加工プログラムメモリ129のNC加工プログラムによりダイス間隔制御部150に指令され実行される。
【0051】
傾斜角度演算プログラム126は、歩み量検出プログラム160で計測された歩み量、及び計測寸法演算プログラム125で計測された第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の間隔等から、第1主軸傾斜機構、及び第2主軸傾斜機構の傾斜角度を時々刻々演算するためのプログラムである。この演算結果は、NC加工プログラムメモリ129のNC加工プログラムにより、第1主軸傾斜機構の傾斜制御部140、及び第2主軸傾斜機構の傾斜制御部145に指令される。計測データ設定プログラム127は、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の寸法、ワークWの寸法等を設定するための設定データをメモリ中に記憶するためのプログラムである。
【0052】
歩み量検出プログラム160は、リニアスケール99を読み込んで得られたデータから歩み量を計測するためのプログラムである。CPU121にはバス122を介してパラメータメモリ128が接続されている。パラメータメモリ128には、転造加工に必要な各種パラメータを記憶しておく。パラメータメモリ128は、不揮発メモリを使用することによりCNC装置120の電源をオフにしても記憶内容を保持しておくことができる。
【0053】
さらに、CPU121にはバス122を介してNC加工プログラムメモリ129等が接続されている。NC加工プログラムメモリ129には、ワークWを加工位置、又は待避位置までの移動、ワークWを加工するときの第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転速度・回転量、第1主軸傾斜機構、及び第2主軸傾斜機構の傾斜角度、両ダイスの間隔等、を順次制御して転造加工を行うためのNC加工プログラムが記憶されている。NC加工プログラムは、オペレータがワークWの種類、材質、形状により、加工条件、各ダイスの回転速度、移動速度、送り量等をプログラムしたものである。
【0054】
また、CPU121にはバス122を介して入出力機器が接続されている。入出力機器としては、文字、及び図形を表示する表示部130、作業者がデータを入力するための入力部131がインターフェース回路を介してバス122に接続されている。表示部130としてはCRT、EL表示パネルや液晶ディスプレイ等が使用でき、入力部131としてはキーボード、表示部130と一体に組み合わせたタッチパネル等が使用できる。
【0055】
また、CPU121には、バス122を介して補助記憶装置としての固定ディスク装置を接続するようにしてもよい。その場合、固定ディスク装置にはCPU121によって実行されるべき種々のプログラム等を記憶しておき、適宜、これらのプログラム等を固定ディスク装置からRAM124やNC加工プログラムメモリ129にロードすればよい。
【0056】
CNC装置120は、第1転造ダイス100の主軸回転制御部132、アンプ133を介して第1転造ダイス100を回転駆動するサーボモータ17に接続されている。サーボモータ17の回転速度は検出器134を介してアンプ133にフィードバックされ、所定の回転速度が維持される。従って、第1転造ダイス100の軸回りの角度位置は、検出器134から主軸回転制御部132にフィードバックされ、第1転造ダイス100を所望の回転速度、角度位置の制御が可能である。
【0057】
同様にCNC装置120は、第2転造ダイス101の回転制御部135、アンプ136を介して第1転造ダイス100を回転駆動するサーボモータ38に接続されている。サーボモータ38の回転速度は、検出器137を介してアンプ136にフィードバックされ、所定の回転速度に制御される。従って、第2転造ダイス101の軸回りの角度位置は、検出器137から主軸回転制御部132にフィードバックされ、第2転造ダイス101を所望の回転速度、角度位置に制御に制御される。
【0058】
更に、CNC装置120は、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を傾けるための第1主軸傾斜機構のサーボモータ142、及び第2主軸傾斜機構のサーボモータ147に接続されており、それぞれ制御する。即ち、CNC装置120は、第1転造ダイス100の傾斜制御部140、アンプ141を介して第1転造ダイス100の回動を制御するサーボモータ142に接続されている。サーボモータ142の回転は、検出器143を介してアンプ141にフィードバックされ、所定の傾斜角度が維持される。従って、第1転造ダイス100を傾斜させるための回動角度位置は、検出器143から傾斜制御部140にフィードバックされ、第1転造ダイス100を傾斜のために所望の回動角度位置に位置決めすることが可能である。
【0059】
同様に、CNC装置120は、第2転造ダイス101の傾斜制御部145、アンプ146を介して第2転造ダイス101の傾斜のための回動角度位置を制御するサーボモータ147に接続されている。サーボモータ147の回転は、検出器148を介してアンプ146にフィードバックされ、所定の傾斜角度に制御される。従って、第2転造ダイス101の回動角度位置は、検出器148から傾斜制御部145にフィードバックされ、第2転造ダイス101を傾斜のために所望の回動角度位置に位置決めすることが可能である。
【0060】
更に、CNC装置120は、油圧シリンダ50のサーボバルブ152の弁の開閉をオンオフ制御することにより、第1転造ダイス100と第2転造ダイス101との間の間隔を制御する。このために、CNC装置120は、ダイス間隔制御部150、アンプ151を介して油圧シリンダ50を制御するサーボバルブ152に接続されている。本例では、この位置決め精度は、100KNの負荷において4〜5μm程度である。
【0061】
CNC装置120は、ワーク送り装置59の位置決め制御部153、アンプ154を介してワークWの位置を制御するサーボモータ76に接続されている。サーボモータ76の回転は、検出器155を介してアンプ154にフィードバックされ、所定の転造開始位置に送られる。後退位置検出センサ75は、ワークWを転造するときの最後退位置を検知するためのものである。前進位置検出センサ79は、ワークWを転造するときの最前進位置を検知するためのものである。以上説明した各駆動軸は、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の同期回転を除いて独立して制御される。ただし、制御機能に余力があるときは、同期制御するものであっても良い。
【0062】
心押台60の側面には、前述したようにリニアスケール99が配置されている。歩み量検出プログラム160は、リニアスケール99の読みとりにより、転造加工開始以降の歩み量を演算するためのプログラムである。歩み量検出プログラム160は、ワークWを心押台60とチャック台65との間でクランプした状態で、かつ転造開始以降のワークWのあゆみ量を演算する。
【0063】
[ウォームギヤの転造加工方法1]
以上のような転造機1、及びワーク送り装置において、車両の電動式パワーステアリング装置のアシストのためのウォームギヤ機構で使用されるウォームギヤを例にして、その転造加工方法を説明する。図8(a)は、ウォームギヤの中心線を含む面で切断したときのウォームギヤ歯の断面図である。このウォームギヤ80は、ピッチ線を含む断面81の円周位置でみると、通常のウオームギヤに比して歯厚82は歯溝83より薄く形成されている。
【0064】
この理由は、このウォームギヤ80に噛み合うウオームホイール(図示せず)が合成樹脂製であるから機械的な強度が弱いので、ウォームホイールの歯厚を厚くするためである。歯底は、断面で二つの螺旋状の傾斜面84が交差するように角度αに形成されている。本例では、角度αは、150度である。本発明のウォームギヤの転造加工方法では、ピッチ円で18〜20mm、モジュール1.5〜2.0、ウォームの条数が2、又は3のものにおいて、角度αは、機械構造用炭素鋼(例えば、S45C等)であれば、塑性流れを円滑するという観点から120度〜150度の範囲が好ましい。また、歯高は6mm以内、谷径で10mm以上が好ましい。この数値範囲を外れると、表面から素材が剥離する等の現象が発生する。
【0065】
この角度αで交差する二つの傾斜面84が交差し、歯底の中間が最も直径が小さく形成されている。歯面88と傾斜面84との間は、曲面85で接続されている。二つの傾斜面84、即ち円錐面の間も曲面86で接続されている。前述した仕様のウォームギヤの曲面86は、断面で半径1.0〜1.5mmが塑性流れを円滑するという観点から好ましい。この歯底は、工具側からみればテーパ状の凸部を有し、塑性流動が均等に起こりやすく転造が円滑である。即ち、歯底が二つの円錐面である傾斜面84が交差した形状、即ち先端が角度を有したものなので、先端部の両面で分配された金属の塑性流動が生じやすくかつ均等になる。
【0066】
図8(b)は、図8(a)のものとは歯溝の形状が異なる他のウォームギヤ歯の断面図である。図8(b)に示す歯溝83の歯底87は、断面で半径R1の円弧を成す形状である。図8(b)に示す歯底87形状は、歯底87に円弧、転造ダイス側でいえば凸状の円弧に形成されているので、図8(a)の歯底形状に比べて素材の自然な塑性流動が生じやすい利点がある。機械構造用炭素鋼で歯底87の半径R1は、断面で半径1.0〜1.5mmが塑性流れを円滑するという観点から好ましい。
【0067】
図10(a)ないし図12(f)は、ウォームギヤの転造加工の工程順序を示すものである。中実で円筒状のワークWの素材Mのチャッキング位置で、チャック用空圧シリンダ69を作動させて、素材Mをセンタ62と回転センタ66との間で挟んで保持する。第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101との回転を停止中に、サーボモータ76を起動して、送りネジ73を回転させてスライド板55を駆動し、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101側に送り(図10(a)参照)、更に加工開始位置まで送る(図10(b)参照)。
【0068】
第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101は、所定位置に位置決めされている。第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を同一回転方向に回転するように起動させ、かつ互いに同期回転させる。第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101が互いに同期回転しながら、油圧シリンダ50を駆動させて、互いに接近するように押込みを行う。この押し込みにより、転造加工が開始される。
【0069】
このとき、加工しようとするウォームギヤの進み角(通常は、ピッチ点における進み角をいう。)が強くて、仕上がり直径と素材直径の差が大きいとき、転造開始位置と転造終了位置との間の転造進行中に進み角が変化し誤差となる。この誤差が前述した歩みである。転造加工が開始されると、この歩みが発生してスライド板55が移動する。スライド板55は、送り台53の上を自由に摺動可能であるため、転造中のワークWは第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転を厳密に同期させて回転制御したとしても、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101のリード角は一定であるので、前述したウォームギヤの進み角、及びこの回転数に応じた移動量、即ち歩み量だけその軸線方向に移動を行う。
【0070】
転造加工が進んで、スライド板55が歩みにより所定量送られると、センサードッグ63が前進位置検出センサ79により検知される。又は、歩みによるワークWの前進位置の検知は、リニアスケール99により検知しても良い。これが検知されると、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101は、回転を停止し、かつ油圧シリンダ50による押込み動作が停止される。更に、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101は、互いに押込み方向とは逆方向に後退する。本例では、約0.05〜0.2mm程度の後退させて、即ち転造の押し付け圧力が除かれる程度の後退させて解除する。
【0071】
この後退は、素材Mの弾性変形分と転造機の機械系の弾性変形分を解放して、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101と素材Mとを接触をさせないための後退動作である(以下、「スプリングバック」とも言う。)。この後、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を転造加工位置まで再度押し込み(切込み動作)、逆回転を開始する(図11(d)参照)。押し込み(切込み動作)は、前述した仕様のウォームギヤで、5〜30段階で段階的に変化させながら切込む方法を採用している。後述するように、必要に応じてこの段階に間欠的に後述するドウエルを入れて転造加工を行う。
【0072】
この逆回転による転造加工により、歩みによる加工誤差をも補正することになる。この誤差の補正原理の詳細なメカニズムは不明であるが、ワークWとダイスとの接触を均一化するためとも推定される。この転造加工により、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101のリードにより、ワークWは前述した転造とは逆方向の軸線方向に移動し、センサードッグ71が後退位置検出センサ75により検知される。又は、歩みによるワークWの後退位置の検知は、リニアスケール99により検知しても良い。
【0073】
次に、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転を停止させて、かつ油圧シリンダ50を駆動して、ワークWから第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を引き離して待避位置まで後退する(図12(e)参照)。サーボモータ76を起動して、送りネジ73を逆回転させて送り台53を駆動し、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101から離れる方向に送り、元の加工開始位置まで送る(図10(f)参照)。以後、同様の工程を繰り返して転造を行う。前述した仕様のウォームギヤの場合、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転速度が10〜40rev/minで、正転/逆転の回数で15回〜50回の繰り返しを行う。
【0074】
第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101が素材Mの転造を開始すると、素材Mとの接触は素材Mの全ての外周位置で均一ではない。即ち、ウォームギヤは、通常は2条、又は3条の歯が形成されているが、これと同時に噛み合う第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101歯の組数は外周の角度位置で異なる。言い換えると、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101が素材Mの外周を押圧する力は一定であるので、塑性流れが外周の角度位置で異なり2条の歯の場合は断面形状で楕円形、3条の場合は略三角形に形成され易い。
【0075】
この形状を修正するために、油圧シリンダ50による押し込み動作(送り動作)を停止させ、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101が互いに接近する動作による押込み動作を停止させた状態(ドウエル)で、正転/逆転の回数でいうと2回〜5回転造を行うと、前述した断面形状で楕円形、略三角形になろうとするピッチ円筒径、外径が真円に転造される。この転造方法により、前述した仕様のウォームギヤで、このドウエル工程を入れないときは、ピッチ円筒径、外径の誤差で0.2〜0.3mmの異形になってしまうものが0.02mm以内の誤差で転造できた。この2〜3回のドウエル動作は、押し込み(切込み動作)の何れかの段階に間欠的に入れて転造加工を行う。
【0076】
[ウォームギヤの転造加工方法2]
前記したウォームギヤの転造加工方法1は、ワークの歩みによる誤差の補正を第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を逆転させることにより行った。しかしながら、傾斜角度演算プログラム126の演算結果により、サーボモータ142、サーボモータ147を制御して第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の傾斜を制御し、歩みの補正をする。このように歩みが発生しないように、又は歩み量が一定値以下になるように制御されながら転造を進行させる方法であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、前述した自動車の電動式パワーステアリング装置に使用されるウォームギヤとその転造加工方法に限らず、他の産業機械、民生機械用の動力伝達用として金属製のウォームギヤとその転造加工方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、本発明に係るウォームギヤを転造するための転造機の全体を示す立体外観図である。
【図2】図2は、図1をII−II線で切断したときの一部断面図である。
【図3】図3は、転造機の正面図である。
【図4】図4は、転造機の平面図である。
【図5】図5は、第2ダイス移動台の左側面図である。
【図6】図6は、ダイス送り装置の概略機構を示す転造機の平面図である。
【図7】図7は、工作物であるワークを支持し送るためのワーク送り装置の側面図である。
【図8】図8(a)はウォームギヤの歯形の断面図であり、図8(b)は図8(a)の歯溝の形状が異なる他のウォームギヤ歯の断面図である。
【図9】図9は、CNC装置、及び各制御モータ等の構成を示すブロック図である。
【図10】図10(a)〜(b)は、ウオームギヤを転造加工するときの工程を示す工程図である。
【図11】図11(c)〜(d)は、ウオームギヤを転造加工するときの工程を示す工程図である。
【図12】図12(e)〜(f)は、ウオームギヤを転造加工するときの工程を示す工程図である。
【符号の説明】
【0079】
1…転造機
2…ベッド
3…第1案内レール
4…第1ダイス移動支持台
6…第1ダイス移動台
8…第1丸ダイス支持台
20…駆動機構支持台
25…第2ダイス移動台
26…第2案内レール
29…第2丸ダイス支持台
40…連結軸
59…ワーク送り装置
100…第1転造ダイス
101…第2転造ダイス
142…サーボモータ
120…CNC装置
100…第1転造ダイス
101…第2転造ダイス
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームギヤに関し、更に詳しくは、転造加工によって、自動車のハンドル駆動等に用いられるウォームギヤを転造加工方法により加工したウォームギヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の電動式パワーステアリング装置として、電動モータの回転出力をウォームギヤ機構を介して減速し、ステアリングホイールに連結された出力軸をアシスト駆動するタイプのものが知られている。大きな負荷がかからない軽自動車用のパワーステアリング装置においては、金属製の円筒ウォームギヤと樹脂製のウォームホイールとを組み合わせてウォームギヤ機構として用いたタイプが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この金属製のウォームギヤは、精度が要求されるので焼入れ鋼を旋盤加工の後、熱処理し研削仕上げ加工加工により製造されている。旋盤で加工する場合、バイトで切削されるが、生産性を上げるときは円錐形のフライスを使用し、このフライスの軸線をウォーム軸に対してγ(ウォームギヤのピッチ線における進み角)だけ傾けてネジ加工の要領で切削する。
【0004】
しかしながら、このウォームギヤの製作工程は、少なくとも切削、熱処理、研削と大きくは3工程が必要である。また、このための設備も旋盤、熱処理設備、研削盤の少なくとも3台が必要となる。このために加工コストが増大し樹脂製のウォームホイールの利点が十分に発揮できていなかった。
【0005】
また、雄ネジ、ウォームギヤ等を転造するとき、対向して配置された第1転造ダイス、及び第2転造ダイスが互いに接近して押し込み送りを行う。このとき、ウォームギヤの進み角が大きくて、かつ仕上がり直径と素材直径の差が大きいとき、転造加工の進行中に、進み角が変化する現象が「歩み」と呼ばれている。この歩みが発生すると、歩みによるワークの移動方向のネジ山のフランク面と反対側のフランク面との間で丸ダイスの接触が異なり、転造面の仕上がり精度が悪くなる問題がある。この歩みを防ぐために、通常は目視等により第1転造ダイス、又は第2転造ダイスの軸線方向の位相位置を変えることにより補正をすることがある。
【0006】
しかしながら、この補正方法は、雄ネジ、又はウォームギヤの両側に雄ネジ、又はウォームギヤの直径より大きな軸があるような部品の場合、この部分に転造ダイスが干渉するので歩みを防ぐための補正は困難である。又このようなとき、ダイスを正転、又は逆転させて転造させることも行われているが、バックラッシュ等の発生により製品精度の高いものはできないし、生産性も悪い。本出願人は、この歩みを第1転造ダイス、及び第2転造ダイスの回転軸線と直交する軸線の周りで回動する主軸傾斜機構を提案した(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、この主軸傾斜機構を用いたものでも、加工開始から加工終了までの径の変化が大きいウォームギヤ等のようなワークでは、歩みの発生を完全には防ぐことができず、これが加工誤差となって現れる。
【0008】
【特許文献1】特開平9−24855号公報
【特許文献2】特開平11−285766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ギヤ精度を十分確保しながら加工工程を減少させたウォームギヤであって、このウォームギヤを転造加工方法により加工したウォームギヤを提供することを目的とする。
【0010】
本発明の他の目的は、ギヤ精度を十分確保しながらコストを低減させたウォームギヤであって、このウォームギヤを転造加工方法により加工したウォームギヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明1のウォームギヤは、円筒状の素材を中心に配置して転造加工するための円筒状の複数のダイスと、前記ダイスを互いに同期回転駆動するためのダイス回転駆動手段と、前記素材を回転自在に支持するための素材支持手段と、前記ダイスを互いに接近させて押し込むための押込み手段とを備えた転造機によるウォームギヤ転造加工方法により転造加工されたウォームギヤであって、
前記ウォームギヤの歯間の歯底の形状は、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で頂部が形成されたものである。前記頂部は、機械構造用鋼炭素鋼で角度が120〜150度であり、前記頂部の先端が断面で半径で1.0〜1.5mmの円弧形状が好ましい。
【0012】
本発明2のウォームギヤは、円筒状の素材を中心に配置して転造加工するための円筒状の複数のダイスと、前記ダイスを互いに同期回転駆動するためのダイス回転駆動手段と、前記素材を回転自在に支持するための素材支持手段と、前記ダイスを互いに接近させて押し込むための押込み手段とを備えた転造機によるウォームギヤ転造加工方法により転造加工されたウォームギヤであって、
本発明3のウォームギヤは、本発明1又は2において、前記ウォームギヤの歯間の歯底の形状は、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で円弧が形成されたものである。前記円弧には、機械構造用鋼炭素鋼で断面で半径で1.0〜1.5mmの円弧形状が好ましい。
【0013】
本発明4のウォームギヤは、本発明1又は2において、前記転造機の前記ダイスは、4本のガイドの略中心に配置されたものであり、かつ回転軸線が平行して配置された2台とからなるものが好ましい。
【0014】
本発明5のウォームギヤは、本発明1又は2において、前記転造機は、前記ダイスの回転軸線と直交する軸線を中心に回動する主軸傾斜手段とを備えたものであると良い。
本発明6のウォームギヤは、本発明1又は2において、前記ウォームギヤは、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で前記ウォームギヤの歯厚は歯底の間隔より小さいものに適用すると良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明のウォームギヤの効果(本発明の利点)は、横転位された薄歯のウォームギヤが転造加工により高精度で加工が可能になったので、従来のウォームギヤより加工工程数が少なくでき、しかも加工コストも大幅に低下させることができる、ものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。図1は、本発明に係るウォームギヤを転造するための転造機の全体を示す立体外観図である。図2は、図1をII−II線で切断したときの一部断面図である。図3は、転造機の正面図である。図4は、切断平面図である。転造機1は、円筒状のダイスを対向させて配置し素材を塑性変形させて塑性加工する丸ダイス転造機である。通常の丸ダイス転造機は、回転駆動される可動ダイスとこれと連れ回りする固定ダイスとは、その回転軸線が平行になるように対向して配置され、その中間に素材が配置されている。
【0017】
本発明に係るウォームギヤ加工用の転造機1は、加工中は2個の丸ダイスを同期させて同時に同一回転方向に回転駆動するものである。以下、そのための詳細構造について説明する。ベッド2は、転造機1の本体を構成し内部が空洞の構造物の台である(図2参照)。ベッド2は、概ね箱形をしており、鋳物、又は鋼板を溶接して造られたものである。ベッド2の上面には、2本の第1案内レール3が平行にボルト等で固定配置されている。2本の第1案内レール3上には、第1ダイス移動支持台4がリニアベアリングブロック5を介して移動自在に搭載されている。第1ダイス移動支持台4の前面には、第1ダイス移動台6が一体に固定支持されている。同様に、第1ダイス移動台6もリニアベアリングブロック5を介して2本の第1案内レール3上に移動自在に設けられている。
【0018】
第1ダイス移動台6の前面7には、第1丸ダイス支持台8が後述する理由から回動自在に支持されて搭載されている(図3参照)。第1丸ダイス支持台8には、2台の第1丸ダイス軸受9、及び第2丸ダイス軸受10が間隔をおいて配置されている。第1丸ダイス軸受9、及び第2丸ダイス軸受10の間には、第1丸ダイス軸11が水平方向に配置されており、この両端を第1丸ダイス軸受9、及び第2丸ダイス軸受10がそれぞれ支持している。
【0019】
第1丸ダイス支持台8は、第1主軸傾斜機構(図示せず)により、第1丸ダイス軸11の中心軸線と直交する回動軸線を中心にして回動可能である。第1主軸傾斜機構は、第1ダイス移動台6の側面に配置されたギヤと、このギヤと噛み合うサーボモータとで構成されている。第1丸ダイス支持台8を回動駆動するこのサーボモータ142は、後述するCNC装置120(図9参照)により、第1丸ダイス支持台8の回動角度位置を制御する。第1主軸傾斜機構は、後述するネジ、ウォームギヤ等のような螺旋形状を有する部品の加工中に発生する歩み現象による、加工誤差を防ぐための機構である。
【0020】
第2丸ダイス軸受10の端部には歯車箱12が配置され、この歯車箱12内には検出器134(図9参照)が内蔵されている。歯車箱12内の歯車機構は、ユニバーサルジョイント13を介して駆動軸14からの回転を第1丸ダイス軸11に回転を伝達するものである。駆動軸14は、更にユニバーサルジョイント15を介して減速機構16の出力軸(図示せず)に連結されている。減速機構16は、ブラケット18により支持固定されている。
【0021】
ブラケット18は、駆動機構支持台20の上に搭載されている。駆動機構支持台20は、ベッド2の側面の中央部に隣接してベッド2と一体に固定配置されている。減速機構16の入力軸(図示せず)には、サーボモータ17の出力軸が連結されている。結局、サーボモータ17の回転出力は、減速機構16により減速され、更にユニバーサルジョイント15、駆動軸14、ユニバーサルジョイント13、及び歯車箱12内の歯車機構を介して、第1丸ダイス軸11を回転速度指令に従って回転駆動する。サーボモータ17の回転出力の制御は、後述するCNC装置120により行う。
【0022】
サーボモータ17の回転駆動を第1丸ダイス軸11に伝達するために、2個のユニバーサルジョイント15、及びユニバーサルジョイント13から構成される回転駆動伝達機構を採用した。サーボモータ17が駆動機構支持台20上に固定されているのに対し、第1丸ダイス軸11が2本の第1案内レール3の上を第1ダイス移動台6が移動するので位置が一定しないので、通常の継手構造では円滑に回転を伝達できない。ユニバーサルジョイント13,15を用いたこの回転駆動伝達機構は、円滑にかつ等速度でサーボモータ17の回転を第1丸ダイス軸11に伝達する機能を果たす。
【0023】
他方、第1ダイス移動台6と対向するベッド2上の位置には、第2ダイス移動台25が配置されている。ベッド2の上面には、2本の第2案内レール26がボルト等で固定配置されている。第2案内レール26は、第1ダイス移動台6を案内する2本の第1案内レール3を直線上で延長した位置に配置されている(図4参照)。2本の第2案内レール26上には、第2ダイス移動台25がリニアベアリングブロック27を介して移動自在に搭載されている(図3参照)。
【0024】
第2ダイス移動台25の前面28には、第2丸ダイス支持台29が後述する理由から中心0を中心として回動自在に支持されて搭載されている(図5参照)。第2丸ダイス支持台29には、2台の第3丸ダイス軸受30、及び第4丸ダイス軸受31が間隔をおいて配置されている(図2参照)。第3丸ダイス軸受30、及び第4丸ダイス軸受31の間には、第2丸ダイス軸32が水平方向に向いて配置されており、この両端を第3丸ダイス軸受30、及び第4丸ダイス軸受31がそれぞれ回転自在に支持している。
【0025】
第2丸ダイス支持台29は、第2主軸傾斜機構(図示せず)により、第2丸ダイス軸32の中心軸線と直交する回動軸線Oを中心に角度+α、又は−αだけ回動する(図5参照)。第2主軸傾斜機構は、第2ダイス移動台25の側面に配置されたギヤと、このギヤと噛み合うサーボモータとで構成されている。第2丸ダイス支持台29を駆動するこのサーボモータ147は、後述するCNC装置120により、第2丸ダイス支持台29の位置を制御する(図9参照)。第2主軸傾斜機構は、後述するネジ、ウォーム等のような螺旋構造を有する部品の形状精度に影響する歩み現象による誤差を防ぐための機構である。
【0026】
第4丸ダイス軸受31の端部には、歯車箱33が配置され、歯車箱33内には回転検出機構(図示せず)が内蔵されている。歯車箱33内の歯車機構は、ユニバーサルジョイント34を介して駆動軸35からの回転を第2丸ダイス軸32に伝達するものである。駆動軸35は、更にユニバーサルジョイント36を介して減速機構37の出力軸(図示せず)に連結されている。減速機構37は、前述したブラケット18により支持固定されている。
【0027】
減速機構37の入力軸には、サーボモータ38の出力軸が連結されている。結局、サーボモータ38の回転出力は、減速機構37により減速され、ユニバーサルジョイント36、駆動軸35、ユニバーサルジョイント34、及び歯車箱33内の歯車機構を介して、第2丸ダイス軸32をCNC装置120(図9参照)の指令に従って制御される。
【0028】
第1ダイス移動支持台4と第1ダイス移動台6の外周の4隅には、軸固定部41が配置されている。軸固定部41には、4本の連結軸40の一端が固定されている。4本の連結軸40は、互いに平行になるように配置され、かつ第1案内レール3、及び第2案内レール26と互いに平行になるように配置されている。4本の連結軸40には、第2ダイス移動台25の外周の4隅にガイド部42が配置され、ガイド部42に組み込まれた軸受を介して移動自在に第2ダイス移動台25を支持している。
【0029】
[ダイス送り装置49]
図6は、ダイス送り装置の概略機構を示す転造機の略平面図である。以上の説明で理解されるように、第2ダイス移動台25は、第2案内レール26と4本の連結軸40に案内されて、第1ダイス移動台6に対して相対的に接近、又は離反移動が可能である。連結軸40の他端は、圧力プレート45に連結固定されている。圧力プレート45には、油圧シリンダから構成される油圧シリンダ50が固定されている。油圧シリンダ50は、ピストンの伸長位置を高精度で制御できるサーボバルブを備えたものである。油圧シリンダ50の出力軸であるピストンロッド51の先端は、第2ダイス移動台25の背面52に固定されている。
【0030】
油圧シリンダ50に油圧を導入して駆動すると、ピストンロッド51が伸長する。油圧シリンダ50は圧力プレート45とに固定され、かつ圧力プレート45と第1ダイス移動台6は連結軸40により互いに連結されているので、ピストンロッド51の伸長により第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25とは互いに接近する。
【0031】
図6に示すように、第2ダイス移動台25の移動方向と同一方向に向けてラック91が配置され、このラック91の一端が第2ダイス移動台25が固定されている。圧力プレート45には、ラック90の一端が固定されている。ラック90とラック91は、互いに平行になるように配置されている。
【0032】
ラック90とラック91は、ピニオン93に噛み合っている。ピニオン93のピニオン軸94は、ベッド2に回転自在に設けられている。結局、油圧シリンダ50を駆動すると、ピストンロッド51が伸長する。油圧シリンダ50は圧力プレート45とに固定され、かつ圧力プレート45と第1ダイス移動台6は連結軸40により互いに連結されているので、ピストンロッド51の伸長により第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25とは互いに接近又は離反する。
【0033】
このとき、ピニオン軸94はベッド2に回転自在支持されているので回転はするが移動しない。この結果、第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25の間の間隔の中心位置は、常にベッド2上の一定位置に位置されることになる。この一定位置にワーク(工作物)の中心軸線を一致させると、ワークの加工精度が向上すると共に、転造機1へのワークの供給、及び排除等が容易となる。
【0034】
第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25の間の間隔は、第2ダイス移動台25に配置された後述する移動台間隔計測手段により、計測される。移動台間隔計測手段は、第2ダイス移動台25の上部に固定されたリニアスケール111、リニアスケール111の磁気目盛りを読みとるためのセンサー(図示せず)、センサーを固定した棒状のセンサー台110等からなる(図4参照)。
【0035】
センサー台110の一端は、第1ダイス移動台6に固定されている。従って、第1ダイス移動台6と第2ダイス移動台25が相対移動すれば、センサーはリニアスケール111の磁気目盛りを読み取り、その間の間隔を読みとることができる。以上のような、転造機1の第1丸ダイス軸11、及び第2丸ダイス軸32の回転駆動、及び各転造ダイスの移動は後述するCNC装置120で同期制御、又は非同期制御される。
【0036】
[ワーク送り装置59]
図7は、工作物であるワークWを支持し送るためのワーク送り装置59の側面図である。前述した第1丸ダイス軸11、及び第2丸ダイス軸32には、第1転造ダイス100、第2転造ダイス101がキー固定されている。基板61上には1本のリニアレール58がボルトにより固定されている。2台のリニアブロック57は、リニアレール58の上に移動自在に搭載されている。
【0037】
2個のリニアブロック57の両側面には、ワーク長さ調整板89がそれぞれ掛け渡され、ボルトにより相互に連結固定されている。更に、ワーク長さ調整板89の上面には、それぞれスライド押え54がボルトにより固定されている。2枚のスライド押え54の間には、これに案内されてスライド板55が摺動自在に設けられている。スライド押え54にガイドされて移動するスライド板55の移動範囲は、転造加工中に移動するものであり設定された移動範囲のみである。
【0038】
結局のところ、リニアブロック57、ワーク長さ調整板89、スライド押え54、及びスライド板55により、送り台53を構成する。スライド板55の上面には、心押台60が固定されている。心押台60には、ウォームギヤの素材、又はワークWを回転自在に支持するセンタ62が挿入固定されている。心押台60には、スライド板55の移動範囲を決めるセンサードッグ63がボルト64により固定されている。センサードッグ63の移動を検知する前進位置検出センサ79は、基板61上に固定されている。
【0039】
スライド板55には、心押台60と対向してチャック台65が配置固定されている。チャック台65には、センタ支持軸67が設けられており、このセンタ支持軸67に軸受68を介して回転自在に回転センタ66が回転自在に支持されている。一方、チャック台65の背面には、センタ支持軸67を軸線方向に移動自在に駆動するためのチャック用空圧シリンダ69がボルト70により固定されている。空気圧で作動するチャック用空圧シリンダ69のピストンロッドは、センタ支持軸67に連結されている。
【0040】
従って、チャック用空圧シリンダ69を作動させると、センタ支持軸67、及び回転センタ66が軸線方向に伸張、又は縮み駆動されて、素材、又はワークWを回転センタ66、及びセンタ62の間に取り付け、又は取り外すことができる。リニアブロック57には、ナット72が固定されている。ナット72には、送りネジ73がねじ込まれている。送りネジ73の一端は、回転継手であるカップリング74を介してサーボモータ76の出力軸77に連結されている。
【0041】
従って、サーボモータ76を駆動すると、送りネジ73が回転駆動され送り台53がリニアレール58上を移動し、その位置が制御されることになる。チャック台65上には、センサードッグ71がボルト78で固定されている。センサードッグ71の移動を検知する後退位置検出センサ75は、基板61に固定されている。従って、前進位置検出センサ79はワークWの前進位置を検出し、後退位置検出センサ75はワークWの後退位置を検出する。
【0042】
チャック台65の側面には、磁気スケールであるリニアスケール99が配置固定されている。リニアスケール99の移動は、固定された読取装置(図示せず)で読みとられ、移動が検知される。従って、このリニアスケール99の移動を検知することによりワークWの移動が検出されることになる。
【0043】
転造加工が進行すると、前述したウォームギヤであるワークWの進み角が変化し誤差となる。この誤差がなければワークWは後述するように理論上は軸線方向に移動することはない。この誤差がワークが軸線方向に移動する歩み量となって発生する。リニアスケール99の移動は、センサーにより読みとられ、このデータは歩み量検出プログラム160(図9参照)により、歩み量として計算される。
【0044】
即ち、ワークWに螺旋溝を転造する場合、第1転造ダイス100、第2転造ダイス101をワークWに向かって、少しずつ互いに接近するように押し込むにつれ、ワークWのネジ溝の谷径が小さくなる。そのためにワークWの押込み開始時に比べて押込み完了時には、ワークWの谷部の円周長さが短くなる。言い換えると、ワークWの円周長さとピッチとの関係が、転造開始時と転造加工終了時とでは異なる。
【0045】
ワークWの円周長は、押込み開始時の円周長をL、ウォームギヤの進み角(ねじれ角)をβで一定とすれば、幾何学的には押込み完了時には円周長Lは、直径が小さくなった量だけ短くなる。しかしながら従来の転造機は、この押込み動作中は丸ダイスのリード角(ねじれ角)βは変わらない。このため、押込み開始時のワークWのピッチPと、押込み完了時のワークWのピッチP1との間にはピッチのズレδPが発生する。
【0046】
このピッチのズレδP分だけ転造中にワークWがその中心軸線方向に移動する現象が発生する。この転造中にワークWが移動する現象をワークWの「歩み」と呼んでいる。特に、外径と谷径が大きいウォームギヤ、ネジのようなワークWの場合にこの現象が顕著に現れる。歩みが発生すると、歩みによるワークWの移動方向のウォームギヤ、ネジ山のフランク面が丸ダイスである第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101に強く接触することになる。この結果、転造加工された加工部品の加工精度である形状精度を悪くしている。
【0047】
前述した第1主軸傾斜機構、及び第2主軸傾斜機構は、ウォームギヤ、ネジのような製品の形状精度に影響する歩みを防ぐための機構であり、押込み中にリード角をワークの円周長さによって補正する。なお、補正により加工されるワークの進み角が変わるが、僅かな量のために形状精度に大きく影響することはなく、補正しない場合より誤差が少なく充分に公差の範囲内に収まる。
【0048】
[CNC装置120]
図9は、CNC装置120、及び各制御モータ等の構成を示すブロック図である。CNC装置120は、NC専用機や、個人用小型コンピュータ(以下、パソコンという)の拡張スロットにサーボモータの制御、シーケンス制御等を行うNCボード等を装備して数値制御機能とパソコン機能とを有するいわゆるパソコンNC装置が使用できる。CNC装置120には、種々のデータ処理を行う情報処理手段としてのCPU121が設けられており、CPU121にはバス122を介して主記憶装置としてフラッシュメモリ123、及びRAM124が接続されている。
【0049】
CPU121は、フラッシュメモリ123に記憶されているシステムプログラム、及びデータと、RAM124にロード(メモリ中に読み込むこと)されたプログラム、及びデータに従って動作する。このようにRAM124にロードされるプログラムとしては、基本プログラムであるOS(オペレーティング・システム)や、数多くあるNC指令の各NC指令に応じた処理を行うNC指令処理プログラム、工具・工作物データ設定プログラム、計測寸法演算プログラム125、傾斜角度演算プログラム126、計測データ設定プログラム127、歩み量検出プログラム160、表示部130に対して文字や図形の表示を行う表示制御プログラム等がある。
【0050】
計測寸法演算プログラム125は、リニアスケール111をセンサーで読み取った第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の間隔、検出器134、検出器137等のデータから、転造加工のための押込み速度を決めるために時々刻々演算するプログラムである。この演算結果は、NC加工プログラムメモリ129のNC加工プログラムによりダイス間隔制御部150に指令され実行される。
【0051】
傾斜角度演算プログラム126は、歩み量検出プログラム160で計測された歩み量、及び計測寸法演算プログラム125で計測された第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の間隔等から、第1主軸傾斜機構、及び第2主軸傾斜機構の傾斜角度を時々刻々演算するためのプログラムである。この演算結果は、NC加工プログラムメモリ129のNC加工プログラムにより、第1主軸傾斜機構の傾斜制御部140、及び第2主軸傾斜機構の傾斜制御部145に指令される。計測データ設定プログラム127は、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の寸法、ワークWの寸法等を設定するための設定データをメモリ中に記憶するためのプログラムである。
【0052】
歩み量検出プログラム160は、リニアスケール99を読み込んで得られたデータから歩み量を計測するためのプログラムである。CPU121にはバス122を介してパラメータメモリ128が接続されている。パラメータメモリ128には、転造加工に必要な各種パラメータを記憶しておく。パラメータメモリ128は、不揮発メモリを使用することによりCNC装置120の電源をオフにしても記憶内容を保持しておくことができる。
【0053】
さらに、CPU121にはバス122を介してNC加工プログラムメモリ129等が接続されている。NC加工プログラムメモリ129には、ワークWを加工位置、又は待避位置までの移動、ワークWを加工するときの第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転速度・回転量、第1主軸傾斜機構、及び第2主軸傾斜機構の傾斜角度、両ダイスの間隔等、を順次制御して転造加工を行うためのNC加工プログラムが記憶されている。NC加工プログラムは、オペレータがワークWの種類、材質、形状により、加工条件、各ダイスの回転速度、移動速度、送り量等をプログラムしたものである。
【0054】
また、CPU121にはバス122を介して入出力機器が接続されている。入出力機器としては、文字、及び図形を表示する表示部130、作業者がデータを入力するための入力部131がインターフェース回路を介してバス122に接続されている。表示部130としてはCRT、EL表示パネルや液晶ディスプレイ等が使用でき、入力部131としてはキーボード、表示部130と一体に組み合わせたタッチパネル等が使用できる。
【0055】
また、CPU121には、バス122を介して補助記憶装置としての固定ディスク装置を接続するようにしてもよい。その場合、固定ディスク装置にはCPU121によって実行されるべき種々のプログラム等を記憶しておき、適宜、これらのプログラム等を固定ディスク装置からRAM124やNC加工プログラムメモリ129にロードすればよい。
【0056】
CNC装置120は、第1転造ダイス100の主軸回転制御部132、アンプ133を介して第1転造ダイス100を回転駆動するサーボモータ17に接続されている。サーボモータ17の回転速度は検出器134を介してアンプ133にフィードバックされ、所定の回転速度が維持される。従って、第1転造ダイス100の軸回りの角度位置は、検出器134から主軸回転制御部132にフィードバックされ、第1転造ダイス100を所望の回転速度、角度位置の制御が可能である。
【0057】
同様にCNC装置120は、第2転造ダイス101の回転制御部135、アンプ136を介して第1転造ダイス100を回転駆動するサーボモータ38に接続されている。サーボモータ38の回転速度は、検出器137を介してアンプ136にフィードバックされ、所定の回転速度に制御される。従って、第2転造ダイス101の軸回りの角度位置は、検出器137から主軸回転制御部132にフィードバックされ、第2転造ダイス101を所望の回転速度、角度位置に制御に制御される。
【0058】
更に、CNC装置120は、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を傾けるための第1主軸傾斜機構のサーボモータ142、及び第2主軸傾斜機構のサーボモータ147に接続されており、それぞれ制御する。即ち、CNC装置120は、第1転造ダイス100の傾斜制御部140、アンプ141を介して第1転造ダイス100の回動を制御するサーボモータ142に接続されている。サーボモータ142の回転は、検出器143を介してアンプ141にフィードバックされ、所定の傾斜角度が維持される。従って、第1転造ダイス100を傾斜させるための回動角度位置は、検出器143から傾斜制御部140にフィードバックされ、第1転造ダイス100を傾斜のために所望の回動角度位置に位置決めすることが可能である。
【0059】
同様に、CNC装置120は、第2転造ダイス101の傾斜制御部145、アンプ146を介して第2転造ダイス101の傾斜のための回動角度位置を制御するサーボモータ147に接続されている。サーボモータ147の回転は、検出器148を介してアンプ146にフィードバックされ、所定の傾斜角度に制御される。従って、第2転造ダイス101の回動角度位置は、検出器148から傾斜制御部145にフィードバックされ、第2転造ダイス101を傾斜のために所望の回動角度位置に位置決めすることが可能である。
【0060】
更に、CNC装置120は、油圧シリンダ50のサーボバルブ152の弁の開閉をオンオフ制御することにより、第1転造ダイス100と第2転造ダイス101との間の間隔を制御する。このために、CNC装置120は、ダイス間隔制御部150、アンプ151を介して油圧シリンダ50を制御するサーボバルブ152に接続されている。本例では、この位置決め精度は、100KNの負荷において4〜5μm程度である。
【0061】
CNC装置120は、ワーク送り装置59の位置決め制御部153、アンプ154を介してワークWの位置を制御するサーボモータ76に接続されている。サーボモータ76の回転は、検出器155を介してアンプ154にフィードバックされ、所定の転造開始位置に送られる。後退位置検出センサ75は、ワークWを転造するときの最後退位置を検知するためのものである。前進位置検出センサ79は、ワークWを転造するときの最前進位置を検知するためのものである。以上説明した各駆動軸は、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の同期回転を除いて独立して制御される。ただし、制御機能に余力があるときは、同期制御するものであっても良い。
【0062】
心押台60の側面には、前述したようにリニアスケール99が配置されている。歩み量検出プログラム160は、リニアスケール99の読みとりにより、転造加工開始以降の歩み量を演算するためのプログラムである。歩み量検出プログラム160は、ワークWを心押台60とチャック台65との間でクランプした状態で、かつ転造開始以降のワークWのあゆみ量を演算する。
【0063】
[ウォームギヤの転造加工方法1]
以上のような転造機1、及びワーク送り装置において、車両の電動式パワーステアリング装置のアシストのためのウォームギヤ機構で使用されるウォームギヤを例にして、その転造加工方法を説明する。図8(a)は、ウォームギヤの中心線を含む面で切断したときのウォームギヤ歯の断面図である。このウォームギヤ80は、ピッチ線を含む断面81の円周位置でみると、通常のウオームギヤに比して歯厚82は歯溝83より薄く形成されている。
【0064】
この理由は、このウォームギヤ80に噛み合うウオームホイール(図示せず)が合成樹脂製であるから機械的な強度が弱いので、ウォームホイールの歯厚を厚くするためである。歯底は、断面で二つの螺旋状の傾斜面84が交差するように角度αに形成されている。本例では、角度αは、150度である。本発明のウォームギヤの転造加工方法では、ピッチ円で18〜20mm、モジュール1.5〜2.0、ウォームの条数が2、又は3のものにおいて、角度αは、機械構造用炭素鋼(例えば、S45C等)であれば、塑性流れを円滑するという観点から120度〜150度の範囲が好ましい。また、歯高は6mm以内、谷径で10mm以上が好ましい。この数値範囲を外れると、表面から素材が剥離する等の現象が発生する。
【0065】
この角度αで交差する二つの傾斜面84が交差し、歯底の中間が最も直径が小さく形成されている。歯面88と傾斜面84との間は、曲面85で接続されている。二つの傾斜面84、即ち円錐面の間も曲面86で接続されている。前述した仕様のウォームギヤの曲面86は、断面で半径1.0〜1.5mmが塑性流れを円滑するという観点から好ましい。この歯底は、工具側からみればテーパ状の凸部を有し、塑性流動が均等に起こりやすく転造が円滑である。即ち、歯底が二つの円錐面である傾斜面84が交差した形状、即ち先端が角度を有したものなので、先端部の両面で分配された金属の塑性流動が生じやすくかつ均等になる。
【0066】
図8(b)は、図8(a)のものとは歯溝の形状が異なる他のウォームギヤ歯の断面図である。図8(b)に示す歯溝83の歯底87は、断面で半径R1の円弧を成す形状である。図8(b)に示す歯底87形状は、歯底87に円弧、転造ダイス側でいえば凸状の円弧に形成されているので、図8(a)の歯底形状に比べて素材の自然な塑性流動が生じやすい利点がある。機械構造用炭素鋼で歯底87の半径R1は、断面で半径1.0〜1.5mmが塑性流れを円滑するという観点から好ましい。
【0067】
図10(a)ないし図12(f)は、ウォームギヤの転造加工の工程順序を示すものである。中実で円筒状のワークWの素材Mのチャッキング位置で、チャック用空圧シリンダ69を作動させて、素材Mをセンタ62と回転センタ66との間で挟んで保持する。第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101との回転を停止中に、サーボモータ76を起動して、送りネジ73を回転させてスライド板55を駆動し、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101側に送り(図10(a)参照)、更に加工開始位置まで送る(図10(b)参照)。
【0068】
第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101は、所定位置に位置決めされている。第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を同一回転方向に回転するように起動させ、かつ互いに同期回転させる。第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101が互いに同期回転しながら、油圧シリンダ50を駆動させて、互いに接近するように押込みを行う。この押し込みにより、転造加工が開始される。
【0069】
このとき、加工しようとするウォームギヤの進み角(通常は、ピッチ点における進み角をいう。)が強くて、仕上がり直径と素材直径の差が大きいとき、転造開始位置と転造終了位置との間の転造進行中に進み角が変化し誤差となる。この誤差が前述した歩みである。転造加工が開始されると、この歩みが発生してスライド板55が移動する。スライド板55は、送り台53の上を自由に摺動可能であるため、転造中のワークWは第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転を厳密に同期させて回転制御したとしても、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101のリード角は一定であるので、前述したウォームギヤの進み角、及びこの回転数に応じた移動量、即ち歩み量だけその軸線方向に移動を行う。
【0070】
転造加工が進んで、スライド板55が歩みにより所定量送られると、センサードッグ63が前進位置検出センサ79により検知される。又は、歩みによるワークWの前進位置の検知は、リニアスケール99により検知しても良い。これが検知されると、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101は、回転を停止し、かつ油圧シリンダ50による押込み動作が停止される。更に、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101は、互いに押込み方向とは逆方向に後退する。本例では、約0.05〜0.2mm程度の後退させて、即ち転造の押し付け圧力が除かれる程度の後退させて解除する。
【0071】
この後退は、素材Mの弾性変形分と転造機の機械系の弾性変形分を解放して、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101と素材Mとを接触をさせないための後退動作である(以下、「スプリングバック」とも言う。)。この後、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を転造加工位置まで再度押し込み(切込み動作)、逆回転を開始する(図11(d)参照)。押し込み(切込み動作)は、前述した仕様のウォームギヤで、5〜30段階で段階的に変化させながら切込む方法を採用している。後述するように、必要に応じてこの段階に間欠的に後述するドウエルを入れて転造加工を行う。
【0072】
この逆回転による転造加工により、歩みによる加工誤差をも補正することになる。この誤差の補正原理の詳細なメカニズムは不明であるが、ワークWとダイスとの接触を均一化するためとも推定される。この転造加工により、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101のリードにより、ワークWは前述した転造とは逆方向の軸線方向に移動し、センサードッグ71が後退位置検出センサ75により検知される。又は、歩みによるワークWの後退位置の検知は、リニアスケール99により検知しても良い。
【0073】
次に、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転を停止させて、かつ油圧シリンダ50を駆動して、ワークWから第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を引き離して待避位置まで後退する(図12(e)参照)。サーボモータ76を起動して、送りネジ73を逆回転させて送り台53を駆動し、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101から離れる方向に送り、元の加工開始位置まで送る(図10(f)参照)。以後、同様の工程を繰り返して転造を行う。前述した仕様のウォームギヤの場合、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の回転速度が10〜40rev/minで、正転/逆転の回数で15回〜50回の繰り返しを行う。
【0074】
第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101が素材Mの転造を開始すると、素材Mとの接触は素材Mの全ての外周位置で均一ではない。即ち、ウォームギヤは、通常は2条、又は3条の歯が形成されているが、これと同時に噛み合う第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101歯の組数は外周の角度位置で異なる。言い換えると、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101が素材Mの外周を押圧する力は一定であるので、塑性流れが外周の角度位置で異なり2条の歯の場合は断面形状で楕円形、3条の場合は略三角形に形成され易い。
【0075】
この形状を修正するために、油圧シリンダ50による押し込み動作(送り動作)を停止させ、第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101が互いに接近する動作による押込み動作を停止させた状態(ドウエル)で、正転/逆転の回数でいうと2回〜5回転造を行うと、前述した断面形状で楕円形、略三角形になろうとするピッチ円筒径、外径が真円に転造される。この転造方法により、前述した仕様のウォームギヤで、このドウエル工程を入れないときは、ピッチ円筒径、外径の誤差で0.2〜0.3mmの異形になってしまうものが0.02mm以内の誤差で転造できた。この2〜3回のドウエル動作は、押し込み(切込み動作)の何れかの段階に間欠的に入れて転造加工を行う。
【0076】
[ウォームギヤの転造加工方法2]
前記したウォームギヤの転造加工方法1は、ワークの歩みによる誤差の補正を第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101を逆転させることにより行った。しかしながら、傾斜角度演算プログラム126の演算結果により、サーボモータ142、サーボモータ147を制御して第1転造ダイス100、及び第2転造ダイス101の傾斜を制御し、歩みの補正をする。このように歩みが発生しないように、又は歩み量が一定値以下になるように制御されながら転造を進行させる方法であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、前述した自動車の電動式パワーステアリング装置に使用されるウォームギヤとその転造加工方法に限らず、他の産業機械、民生機械用の動力伝達用として金属製のウォームギヤとその転造加工方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、本発明に係るウォームギヤを転造するための転造機の全体を示す立体外観図である。
【図2】図2は、図1をII−II線で切断したときの一部断面図である。
【図3】図3は、転造機の正面図である。
【図4】図4は、転造機の平面図である。
【図5】図5は、第2ダイス移動台の左側面図である。
【図6】図6は、ダイス送り装置の概略機構を示す転造機の平面図である。
【図7】図7は、工作物であるワークを支持し送るためのワーク送り装置の側面図である。
【図8】図8(a)はウォームギヤの歯形の断面図であり、図8(b)は図8(a)の歯溝の形状が異なる他のウォームギヤ歯の断面図である。
【図9】図9は、CNC装置、及び各制御モータ等の構成を示すブロック図である。
【図10】図10(a)〜(b)は、ウオームギヤを転造加工するときの工程を示す工程図である。
【図11】図11(c)〜(d)は、ウオームギヤを転造加工するときの工程を示す工程図である。
【図12】図12(e)〜(f)は、ウオームギヤを転造加工するときの工程を示す工程図である。
【符号の説明】
【0079】
1…転造機
2…ベッド
3…第1案内レール
4…第1ダイス移動支持台
6…第1ダイス移動台
8…第1丸ダイス支持台
20…駆動機構支持台
25…第2ダイス移動台
26…第2案内レール
29…第2丸ダイス支持台
40…連結軸
59…ワーク送り装置
100…第1転造ダイス
101…第2転造ダイス
142…サーボモータ
120…CNC装置
100…第1転造ダイス
101…第2転造ダイス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の素材を中心に配置して転造加工するための円筒状の複数のダイスと、
前記ダイスを互いに同期回転駆動するためのダイス回転駆動手段と、
前記素材を回転自在に支持するための素材支持手段と、
前記ダイスを互いに接近させて押し込むための押込み手段と
を備えた転造機によるウォームギヤ転造加工方法により転造加工されたウォームギヤであって、
前記ウォームギヤの歯間の歯底の形状は、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で円弧が形成された頂部が形成されたものである
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項2】
円筒状の素材を中心に配置して転造加工するための円筒状の複数のダイスと、
前記ダイスを互いに同期回転駆動するためのダイス回転駆動手段と、
前記素材を回転自在に支持するための素材支持手段と、
前記ダイスを互いに接近させて押し込むための押込み手段と
を備えた転造機によるウォームギヤ転造加工方法により転造加工されたウォームギヤであって、
前記ウォームギヤの歯間の歯底の形状は、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で円弧が形成されたものである
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記転造機の前記ダイスは、
4本のガイドの略中心に配置されたものであり、かつ回転軸線が平行して配置された2台とからなる
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記転造機は、前記ダイスの回転軸線と直交する軸線を中心に回動する主軸傾斜手段とを備えたものである
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記ウォームギヤは、前記ウオームギヤの軸線を含む断面で前記ウォームギヤの歯厚は歯底の間隔より小さいものである
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項1】
円筒状の素材を中心に配置して転造加工するための円筒状の複数のダイスと、
前記ダイスを互いに同期回転駆動するためのダイス回転駆動手段と、
前記素材を回転自在に支持するための素材支持手段と、
前記ダイスを互いに接近させて押し込むための押込み手段と
を備えた転造機によるウォームギヤ転造加工方法により転造加工されたウォームギヤであって、
前記ウォームギヤの歯間の歯底の形状は、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で円弧が形成された頂部が形成されたものである
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項2】
円筒状の素材を中心に配置して転造加工するための円筒状の複数のダイスと、
前記ダイスを互いに同期回転駆動するためのダイス回転駆動手段と、
前記素材を回転自在に支持するための素材支持手段と、
前記ダイスを互いに接近させて押し込むための押込み手段と
を備えた転造機によるウォームギヤ転造加工方法により転造加工されたウォームギヤであって、
前記ウォームギヤの歯間の歯底の形状は、前記ウォームギヤの軸線を含む断面で円弧が形成されたものである
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記転造機の前記ダイスは、
4本のガイドの略中心に配置されたものであり、かつ回転軸線が平行して配置された2台とからなる
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記転造機は、前記ダイスの回転軸線と直交する軸線を中心に回動する主軸傾斜手段とを備えたものである
ことを特徴とするウォームギヤ。
【請求項5】
請求項1又は2において、
前記ウォームギヤは、前記ウオームギヤの軸線を含む断面で前記ウォームギヤの歯厚は歯底の間隔より小さいものである
ことを特徴とするウォームギヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−342971(P2006−342971A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215121(P2006−215121)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【分割の表示】特願2003−506673(P2003−506673)の分割
【原出願日】平成14年6月20日(2002.6.20)
【出願人】(594167141)株式会社ニッセー (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【分割の表示】特願2003−506673(P2003−506673)の分割
【原出願日】平成14年6月20日(2002.6.20)
【出願人】(594167141)株式会社ニッセー (13)
【Fターム(参考)】
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