説明

ウラン抽出剤及びその製造方法、該抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法

【課題】抽出クロマト法によりスクラップウランからウランを精製分離して回収することができる。合成した樹脂に抽出溶媒を含浸させることによって樹脂表面に抽出溶媒を固着させた従来使用していた抽出剤に比べて、ウラン抽出時の抽出溶媒の溶離減損を低減できる。抽出溶媒自体が持つウラン吸着性能と遜色がない高いウラン吸着性能を有し、かつ、吸着したウランを溶離させることができる。使用済みの吸着剤の処分が容易である。
【解決手段】スチレンモノマー、アクリル酸又はメタクリル酸からなる骨格溶媒と架橋剤と重合開始剤とを混合して混合液を調製し、混合液に更にモノアミド系溶媒からなる抽出溶媒を混合して溶解液を調製する。80〜110℃の温度に加熱した界面活性剤水溶液に調製した溶解液を添加し、界面活性剤水溶液を上記温度に維持しながら1〜2時間攪拌することで、溶解液中の骨格溶媒と抽出溶媒と架橋剤とを重合させて顆粒状樹脂を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量の不純物を含んでいる不純物濃度が高いスクラップウランからウランを精製分離して回収することが可能なウラン抽出剤及びその製造方法に関する。また本発明はこのウラン抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
核燃料加工工場の各工程から発生する種々のスクラップの中で、不純物濃度が数%未満と低いものについては、過酸化ウラン沈殿法により不純物濃度がトータルで数百ppm以下のクリーンウランとして回収されている。しかしながら、廃液処理から回収されるものなどのように、NaやCa、Si、Fe、Cr、Ni、Pb等の不純物濃度が数十%と高く、ウラン濃度が低品位なスクラップウランについては、良い精製回収方法がなかった。
【0003】
スクラップウランの分離回収方法としては、溶媒抽出法が一般的に知られている。この溶媒抽出法は、混合しあわない液体状でかつ抽出溶媒を溶解し易い有機溶媒相と、抽出溶媒の溶解度の低い無機水相とを向流で接触させて、両相間における各種イオンの分配比の差を利用することにより、イオンを選択的に他相へ抽出或いは放出する技術である。抽出溶媒の種類や濃度、有機溶媒の種類の組合せや無機水相中の酸濃度を変化させることにより、イオンの選択性を上げて分離効率を高める研究が行われている。
【0004】
ウランの抽出溶媒としては、TBP(リン酸トリブチル)が古くから知られている。TBPを使用した溶媒抽出法は、TBPをケロシンやn−ドデカン等の有機溶媒に溶解した有機溶媒相と、硝酸に溶解して硝酸濃度を3規定に調整したウラン溶液とを接触させることにより、ウランのみを有機溶媒相側へ移行させ、移行させた後の有機溶媒相に希硝酸溶液を接触させて水相側へ戻すことにより、初期ウラン溶液中の他の元素と分離し回収するものである。核燃料再処理などにおいてはTBP以外の新たな抽出溶媒として、DHDECMP(dihexyl-N,N-diethyl carbamoyl methyl phosphonate)やCMPO(octyl(phenyl)-N,N-diisobutyl carbamoyl methyl phosphine oxide)等の2座配位子型抽出剤、DOHA(N,N,-di-octyl hexan amide)、DH2EHA(N,N,-di-hexyl 2-ethyl hexan amide)等のモノアミド系抽出溶媒、TODGA(N,N,N',N',-tetra octyl-3-oxapentane-1,5-diamide)等が開発されている。
【0005】
この抽出溶媒法については、設備の導入費用が高く、廃溶媒の処理設備も必要となり、新たに設備導入する場合にはコスト的に高くなる欠点がある。またTBP等のリン酸系の抽出溶媒ではリン酸の処理方法が問題となっている。また、溶媒の火災等の防火対策が必要となるため、建築物の建設コストが高くなる。更に低品位のスクラップウランでは、有機溶媒相と無機水相間に不純物を原因として、非流動状態(週末などに抽出操作を停止して機器を止めている状態であるが、常に機器内には処理対象の無機水相と抽出溶媒相が常に混在している状態)下で、第三相と呼ばれる中間層を生成する可能性が高く、性能低下をたびたび起こしやすい欠点を有していた。この原因は有機溶媒と無機水相中のアルカリ元素やシリカ等とで、石鹸などに代表される懸濁性物質を作りやすいことが主な原因である。
【0006】
この第三相生成という欠点を避ける対応策としては、抽出クロマト法を用いる処理プロセスが有効である。即ち、イオン交換樹脂や固形樹脂に抽出溶媒を固定して抽出剤を作製し、この抽出剤をカラムと呼ばれる円筒に充填して、対象イオンが吸着しやすい条件(主に強酸性下)で、このカラムに通液することにより、特定の元素のみを選択的に吸着させ、続いて洗浄液をカラムに通液して微量の付着分を除去し、最後に希酸等をカラムに通液することにより溶離する方法である。抽出クロマト法は、固体−液体間のイオン交換反応であることから、有機溶媒を使用しないため、上記抽出溶媒法のような懸濁性物質を生成させないメリットを有している。
【0007】
抽出クロマト法は、国内では再処理プロセスの一環として、CMPOをSiO2系の母材に固定化した抽出剤を使用して分離精製を行っている例がある。この方法では、高レベル放射性廃液(high level radioactive wastes;HLLW)からのマイナーアクチノイド(minor actinoids;MA)の分離回収を目的にしており、ウランは抽出クロマト法によってMAを分離する前にPUREX法等を用いて分離されている。また、DHDECMPやCMPO等の抽出溶媒をChromosorb−102(Jorn's Manville社製)やXAD樹脂(Rohm and Haas社製)等の母材に含浸することにより固定化した抽出剤を用いてHLLWからアクチノイドやランタノイドを抽出する方法も研究されている(例えば、非特許文献1〜3参照。)。
【非特許文献1】J.Akatsu, T.Kimura, Extraction chromatography in the DHDECMP(XAD-4)-HNO3 system, Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, Articles, Vol.140, No.1, 1990、p195-p203
【非特許文献2】V.Gopalakrishman et al., EXTRACTION AND EXTRACTION CHROMATOGRAPHIC SEPARATION OF MINOR ACTINIDES FROM SULPHATE BEARING HIGH LEVEL WASTE SOLUTIONS USING CMPO, Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, Articles, Vol.191, No.2, 1995、p279-p289
【非特許文献3】M.Yamaura, H.T.Matsuda, Sequential separation of actinides and lanthanides by extraction chromatography using a CMPO-TBP/XAD7 column, Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry, Vol.241, No.2, 1999、p277-p280
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の抽出クロマト法で用いられる材料としては、リン酸を構造に有するCMPOを高級な溶媒に固定したり、SiO2系の不燃性の物質に固定していることから、非常に高価であり、また使用後の2次廃棄物の処理方法が困難という課題を有している。また、固着によって樹脂表面に抽出溶媒を固定化しているため、溶離減損し易い問題があった。
【0009】
本発明の第1の目的は、抽出クロマト法によりスクラップウランからウランを精製分離して回収することができる、ウラン抽出剤及びその製造方法、該抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、合成した樹脂に抽出溶媒を含浸させることによって樹脂表面に抽出溶媒を固着させた従来使用していた抽出剤に比べて、ウラン抽出時の抽出溶媒の溶離減損を低減できる、ウラン抽出剤及びその製造方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、抽出溶媒自体が持つウラン吸着性能と遜色がない高いウラン吸着性能を有し、かつ、吸着したウランを溶離させることができる、ウラン抽出剤及びその製造方法、該抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法を提供することにある。
本発明の第4の目的は、使用済みの吸着剤の処分が容易なウラン抽出剤及びその製造方法、該抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、スチレンモノマー、アクリル酸又はメタクリル酸からなる骨格溶媒と架橋剤とモノアミド系溶媒からなる抽出溶媒とを重合させて合成した顆粒状樹脂であることを特徴とするウラン抽出剤である。
請求項1に係るウラン抽出剤は、上記種類の骨格溶媒と架橋剤と上記種類の抽出溶媒とを重合させて合成された顆粒状樹脂であり、この顆粒状樹脂は架橋剤により骨格溶媒と抽出溶媒とがともに架橋されている構造をとっていると推察される。このような基本構造を有するので、合成した樹脂に抽出溶媒を含浸させることによって樹脂表面に抽出溶媒を固着させた従来使用していた抽出剤に比べて、ウラン抽出時の抽出溶媒の溶離減損を低減できる。またこのウラン抽出剤は、抽出溶媒自体が持つウラン吸着性能と遜色がない高いウラン吸着性能を有し、かつ、吸着したウランを溶離させることができる。更に上記種類の抽出溶媒と樹脂はC、H、O及びNで構成されている有機構造体である。従って、ウランを抽出した後の使用済みウラン抽出剤は焼却処理により分解することが可能であり、焼却処理した後の重量減損が約98%と殆ど残らず、処分が容易である。
【0011】
請求項2に係る発明は、スチレンモノマー、アクリル酸又はメタクリル酸からなる骨格溶媒と架橋剤と重合開始剤とを混合して混合液を調製する工程と、混合液に更にモノアミド系溶媒からなる抽出溶媒を混合して溶解液を調製する工程と、80〜110℃の温度に加熱した界面活性剤水溶液に調製した溶解液を添加し、溶解液を添加した界面活性剤水溶液を上記温度に維持しながら1〜2時間攪拌することにより、溶解液中の骨格溶媒と抽出溶媒と架橋剤とを重合させて顆粒状樹脂を合成する工程とを含むことを特徴とするウラン抽出剤の製造方法である。
請求項2に係る製造方法により得られるウラン抽出剤は、樹脂を合成する際に、その樹脂原料中に抽出溶媒を添加混合し、架橋剤により上記種類の骨格溶媒と上記種類の抽出溶媒とがともに架橋されている構造をとるように作製したので、合成した樹脂に抽出溶媒を含浸させることによって樹脂表面に抽出溶媒を固着させた従来使用していた抽出剤に比べて、ウラン抽出時の抽出溶媒の溶離減損を低減できる。また従来抽出溶媒として使用していたCMPOを中性樹脂表面に固着させた抽出剤のように、抽出溶媒を固着させるために高価な中性樹脂を使用する必要が無くなるため、ウラン抽出剤の製造コストを低減することができる。またこの製造方法により得られるウラン抽出剤は、抽出溶媒自体が持つウラン吸着性能と遜色がない高いウラン吸着性能を有し、かつ、吸着したウランを溶離させることができる。更に上記種類の抽出溶媒と樹脂はC、H、O及びNで構成されている有機構造体である。従って、ウランを抽出した後の使用済みウラン抽出剤は焼却処理により分解することが可能であり、焼却処理した後の重量減損が約98%と殆ど残らず、処分が容易である。
【0012】
請求項3に係る発明は、図6に示すように、鉛直方向に長い筒体からなるカラム内に請求項1記載のウラン抽出剤又は請求項2記載の方法により得られたウラン抽出剤を所定の割合で充填する工程11と、ウラン成分を含むスクラップウランを硝酸濃度が1〜7モル濃度となるように硝酸水溶液に溶解してスクラップウラン溶解液を調製する工程12と、ウラン抽出剤を充填したカラムに調製したスクラップウラン溶解液を任意の流速で通液することにより、スクラップウランに含まれるウラン成分をカラム内のウラン抽出剤に吸着させる工程13と、ウラン成分を吸着させたウラン抽出剤を充填したカラムに3モル濃度に調整した硝酸溶液を任意の流速で通液することにより、カラム内部を洗浄する工程14と、洗浄したカラムに0.1モル濃度に調整した硝酸溶液を任意の流速で通液することにより、カラムのウラン抽出剤に吸着させたウラン成分を0.1モル濃度硝酸溶液に溶離させる工程16とを含むことを特徴とするウラン抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法である。
請求項3に係る発明では、上記工程11〜16を経ることにより、抽出溶媒自体が持つウラン吸着性能と遜色がない高いウラン吸着性能を有し、かつ、吸着したウランを溶離させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウラン抽出剤及びその製造方法、ウラン抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法では、次のような利点がある。第1に、抽出クロマト法によりスクラップウランからウランを精製分離して回収することができる。第2に、樹脂を合成する際に、その樹脂原料中に抽出溶媒を添加混合し、架橋剤により骨格溶媒と抽出溶媒とがともに架橋されている構造をとるように作製したので、合成した樹脂に抽出溶媒を含浸させることによって樹脂表面に抽出溶媒を固着させた従来使用していた抽出剤に比べて、ウラン抽出時の抽出溶媒の溶離減損を低減できる。また従来抽出溶媒として使用していたCMPOを中性樹脂表面に固着させた抽出剤のように、抽出溶媒を固着させるために高価な中性樹脂を使用する必要が無くなるため、ウラン抽出剤の製造コストを低減することができる。第3に、抽出溶媒自体が持つウラン吸着性能と遜色がない高いウラン吸着性能を有し、かつ、吸着したウランを溶離させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
本発明のウラン抽出剤の処理対象は、核燃料成形加工工程から発生する放射性廃液凝集沈殿物(水ガラス沈殿物、塩化鉄沈殿物)や設備のクリーンアップ回収粉末などである、ウランの品位が数%〜95%程度であり、その中にはNaやCa、Si、Fe、Cr、Ni、Pbなど、多量の不純物が含んでいると考えられる。
【0015】
本発明のウラン抽出剤の製造方法について説明する。
先ず、骨格溶媒と架橋剤と重合開始剤とを混合して混合液を調製する。本発明で使用する骨格溶媒と架橋剤は、廃棄物低減の観点からも焼却処理等ができることが望ましく、この条件を満たすものとして、CHON系元素から構成される物質が挙げられる。骨格溶媒としては、得られるウラン抽出剤が顆粒状で実用十分な強度を示すスチレンモノマー、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。架橋剤としてはジビニルベンゼン(DVB;divinyl benzene)が一般的であり、重合開始剤としては2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;2,2-azo bis-iso-butylo nitrile)や過酸化ベンゾイルが挙げられる。骨格溶媒と架橋剤との混合割合は骨格溶媒が24〜40重量%、架橋剤が6〜10重量%の範囲内となるように混合することが特に好ましい。
【0016】
次いで、図1に示すように、先に調製した混合液に更に抽出溶媒を混合して溶解液を調製する。本発明で使用する抽出溶媒としては、2次廃棄物を発生させないものが選択される。具体的にはモノアミド系溶媒が挙げられる。モノアミド系溶媒としては、TODGA、DOBA(N,N-dioctyl butan amide)、DOHA、DHOA(N,N-dihexyl octan amide)、DOOA、DBOA等が挙げられる。抽出溶媒は溶解液を100重量%としたとき、溶解液中に含まれる抽出溶媒の含有量が10〜70重量%の範囲内となるように混合することで、得られるウラン抽出剤に含まれる抽出溶媒の添加率を10〜70重量%とすることができる。
【0017】
次に、界面活性剤水溶液を用意する。この界面活性剤水溶液としてはPVA(ポリビニルアルコール)が0.1重量%濃度となるように溶解したPVA水溶液が好ましい。この界面活性剤水溶液を80〜110℃の温度に加熱し、界面活性剤水溶液を攪拌器で攪拌しながら上記調製した溶解液を界面活性剤水溶液中に添加する。図2に示すように、溶解液を添加した界面活性剤水溶液を上記温度を維持しながら1〜2時間攪拌し続けることにより、水溶液中に添加した溶解液が水中懸濁重合反応を始める。この水中懸濁重合反応では、図3に示すように、溶解液中の骨格溶媒と抽出溶媒と架橋剤とが重合して顆粒状樹脂を合成する。重合反応を終えた後は、水溶液中で生成した顆粒状物を回収する。回収は純水で洗浄しながら顆粒状物を濾過することにより行われる。最後にアスピレーターを使用して、顆粒状物に含まれる余分な水分を除去する。
【0018】
上記工程を経ることにより、図4に示すような、骨格溶媒と抽出溶媒と架橋剤とを重合させて合成した顆粒状樹脂を得ることができる。この顆粒状樹脂は、図5に示すような骨格溶媒と架橋剤を重合させて合成した樹脂の官能基部分に抽出溶媒の官能基が置換された形態をとっているものと推察される。図5は骨格溶媒としてスチレンモノマーを用い、抽出溶媒としてモノアミド系溶媒を使用した場合を示す構造図である。なお、製造する際の骨格溶媒、架橋剤及び抽出溶媒の種類、骨格溶媒と架橋剤の混合割合、溶解液中に含まれる抽出溶媒の含有量、界面活性剤水溶液に含まれる界面活性剤濃度、界面活性剤水溶液の加熱温度、水中懸濁重合時における攪拌速度及び攪拌時間、水中懸濁重合に使用する溶解液と界面活性剤水溶液との液割合などを変動させることにより、得られるウラン抽出剤の顆粒の大きさや合成した樹脂の架橋度、ウラン吸着量、分配比等を所望の用途に併せることができる。
【0019】
本発明の製造方法により得られるウラン抽出剤は高いウラン吸着性能を有し、かつ、吸着したウランを溶離させることができる。本発明のウラン抽出剤は抽出溶媒と架橋した樹脂からなり、この抽出溶媒と樹脂はC、H、O及びNで構成されている有機構造体である。従って、ウランを抽出した後の使用済みウラン抽出剤は焼却処理により分解することが可能であり、焼却処理した後の重量減損が約98%と殆ど残らず、処分が容易である。また本発明の製造方法により得られるウラン抽出剤は、樹脂を合成する際に、その樹脂原料中に抽出溶媒を添加混合し、架橋剤により骨格溶媒と抽出溶媒とがともに架橋されている構造をとるように作製したので、合成した樹脂に抽出溶媒を含浸させることによって樹脂表面に抽出溶媒を固着させた従来使用していた抽出剤に比べて、ウラン抽出時の抽出溶媒の溶離減損を低減できる。また従来抽出溶媒として使用していたCMPOを中性樹脂表面に固着させた抽出剤のように、抽出溶媒を固着させるために高価な中性樹脂を使用する必要が無くなるため、ウラン抽出剤の製造コストを低減することができる。
【0020】
次に、骨格溶媒としてスチレンモノマーを、架橋剤としてDVBを、重合開始剤としてAIBNを、抽出溶媒としてDOBAを用いてウラン抽出剤を製造する方法について説明する。
先ず、ビーカー内にスチレンモノマーとDVBとAIBNを所望の割合でそれぞれ投入し、混合して混合液を調製する。この混合液に更にDOBAを所望の割合で添加し、30分程度攪拌することにより溶解液を調製する。次いで、別のビーカーを用意し、このビーカーに純水とPVAをそれぞれ投入して30分程度攪拌し、液温を80〜100℃の範囲内に加熱して、純水中にPVAを溶解させPVA水溶液を調製する。次に、上記温度に加熱したPVA水溶液を攪拌器で攪拌し続けながら先に調製した溶解液をこの水溶液に添加する。溶解液を添加したPVA水溶液を上記温度を維持しながら1〜2時間攪拌し続けることにより、顆粒状物が合成される。反応後は、PVA水溶液中で合成された顆粒状物を回収する。回収は純水で洗浄しながら顆粒状物を濾過することにより行われる。最後にアスピレーターを使用して、顆粒状物に含まれる余分な水分を除去することにより、本発明のウラン抽出剤が得られる。このウラン抽出剤は、スチレンモノマーとDOBAとDVBとが重合してDVBによりスチレンモノマーとDOBAとがともに架橋されている構造を有する。
【0021】
本発明のウラン抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法について説明する。
先ず、図6に示すように、鉛直方向に長い筒体からなるカラム内に上記方法により得られた本発明のウラン抽出剤を所定の割合で充填する(工程11)。次いで、ウラン成分を含むスクラップウランを硝酸濃度が1〜7モル濃度となるように硝酸水溶液に溶解してスクラップウラン溶解液を調製する(工程12)。調製するスクラップウラン水溶液の硝酸濃度を上記範囲内としたのは、ウラン抽出剤が高いウラン吸着量を示すためである。次に、ウラン抽出剤を充填したカラムに調製したスクラップウラン溶解液を任意の流速で通液することにより、スクラップウランに含まれるウラン成分をカラム内のウラン抽出剤に吸着させる(工程13)。
【0022】
次に、ウラン成分を吸着させたウラン抽出剤を充填したカラムに3モル濃度に調整した硝酸溶液を任意の流速で通液することにより、カラム内部を洗浄する(工程14)。この工程14では、カラム内に残留しているスクラップウラン溶解液を洗い流してウラン成分のみを残留させることを目的として行われる。更に、洗浄したカラムに0.1モル濃度に調整した硝酸溶液を任意の流速で通液することにより、カラムのウラン抽出剤に吸着させたウラン成分を0.1モル濃度硝酸溶液に溶離させる(工程16)。硝酸濃度が0.1モル濃度であれば、ほぼウランが吸着しないことから、ウランを吸着したウラン抽出剤に0.1モル濃度程度の硝酸溶液を接触させることにより、吸着したウランをウラン抽出剤から溶離させることができる。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1〜11>
先ず、次の表1に示す種類の骨格溶媒、架橋剤、重合開始剤及び抽出溶媒をそれぞれ用意した。次いで、ビーカー内に骨格溶媒と架橋剤と重合開始剤を次の表1に示す割合となるように投入し、混合して混合液を調製した。この混合液に更に抽出溶媒を次の表1に示す割合となるように添加し、30分程度攪拌して重合開始剤を溶解させることにより溶解液をそれぞれ調製した。次に、別のビーカーを用意し、このビーカーに純水500mLとPVA0.1gをそれぞれ投入して30分程度攪拌し、液温を80℃に加熱して、純水中にPVAを溶解させ0.02重量%PVA水溶液を調製した。次に、この80℃に加熱したPVA水溶液を攪拌器で攪拌し続けながら先に調製した溶解液をこの水溶液に添加した。攪拌速度は300rpmとした。溶解液を添加したPVA水溶液を上記温度を維持しながら2時間攪拌し続けることにより、顆粒状物が合成された。反応後は、PVA水溶液中で合成された顆粒状物を回収した。回収は純水で洗浄しながら顆粒状物を濾過することにより行った。最後にアスピレーターを使用して、抽出剤に含まれる余分な水分を除去することにより、ウラン抽出剤を得た。
【0024】
【表1】

【0025】
<評価試験1>
実施例1〜11で得られたウラン抽出剤を用いて以下に示すウラン吸着試験を行った。先ず、ウラン濃度が1000ppmのスクラップウラン模擬廃液を硝酸濃度が3モル濃度となるように硝酸水溶液に溶解してスクラップウラン溶解液を調製した。次に、このスクラップウラン溶解液50mlを約25℃の液温に保持した状態で、スクラップウラン溶解液にウラン抽出剤1gを浸漬し、105回/分の割合で48時間振盪し続けるバッチ試験を行った。試験後の吸着を終えたウラン抽出剤は溶解液より取り出し、吸着を終えたウラン抽出剤についてICP測定を行った。また吸着を終えたウラン抽出剤に吸着したウラン吸着量を求めた。更に、分配比(Kd)を求めた。その結果を次の表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2より明らかなように、ウラン吸着量が最大になったのは実施例10のウラン抽出剤であり、実施例5のウラン抽出剤も1gのウラン抽出剤当たり30mgを越えるウラン吸着量となった。また多くの実施例が20mgを越えるウラン吸着量を示しており、本発明の製造方法により得られたウラン抽出剤は高いウラン吸着量を示していることが確認された。
【0028】
<評価試験2>
実施例5で得られたウラン抽出剤を用いて以下に示すスクラップウラン溶解液の硝酸濃度に対するウラン吸着量の硝酸濃度依存性試験を行った。先ず、ウラン濃度が1000ppmのスクラップウラン模擬廃液を硝酸濃度が0.1〜7モル濃度となるようにそれぞれ硝酸水溶液に溶解して8種類のスクラップウラン溶解液を調製した。次に、これらのスクラップウラン溶解液50mlを約25℃の液温に保持した状態で、スクラップウラン溶解液にウラン抽出剤を1g浸漬し、100回/分の割合で48時間振盪し続けるバッチ試験を行った。試験後の吸着を終えたウラン抽出剤は溶解液より取り出し、溶解液中のウラン濃度を測定した。また吸着を終えたウラン抽出剤に吸着したウラン吸着量を求めた。更に、分配比(Kd)を求めた。その結果を次の表3に示す。また、ウラン濃度が1000ppmのスクラップウラン溶解液におけるウラン吸着剤の硝酸濃度依存性を示す図を図7に示す。
【0029】
【表3】

【0030】
表3及び図7に示すように、ウラン抽出剤に対するウラン吸着量は硝酸濃度3〜4モル濃度で最大吸着量を示し、硝酸濃度が上がるにつれて吸着量は減少する傾向となっていた。この結果から調製するスクラップウラン溶解液の硝酸濃度を3〜4モル濃度とすることでウラン抽出剤へのウラン吸着量を最大にすることができることが確認された。また、硝酸濃度が0.1モル濃度でほぼウランが吸着しないことから、ウランを吸着したウラン抽出剤に0.1モル濃度の硝酸溶液を接触させることにより、ウランを抽出剤から溶離させることができることが判った。
【0031】
<評価試験3>
上記評価試験2ではウラン濃度が1000ppmと高濃度であった。そこで、ウラン濃度を10ppmとしたスクラップウラン溶解液を使用した以外は上記評価試験2と同様にしてバッチ試験を行い、ウラン濃度が低濃度の場合での硝酸濃度依存性とウラン吸着量を確認した。その結果を次の表4に示す。また、ウラン濃度が10ppmのスクラップウラン溶解液におけるウラン吸着剤の硝酸濃度依存性を示す図を図8に示す。
【0032】
【表4】

【0033】
表4及び図8より明らかなように、ウラン濃度が10ppmと低濃度の場合でも、前述した表3並びに図7と同様の傾向を有する硝酸濃度依存性が確認された。また、ウラン吸着量は低いものの、硝酸濃度が3〜5モル濃度の範囲内で分配比Kdが80強を示した。
【0034】
<評価試験4>
上記評価試験2及び評価試験3での結果から、ウラン濃度が10ppmと1000ppmではウラン抽出剤1g当たりのウラン吸着量がイオン強度(溶液中のイオン量)によって変化することが確認された。そこで、ウラン濃度が50ppm〜1000ppmまでの間でどのように変化するかを確認するため、ウラン濃度が50ppm〜1000ppmの7種類のスクラップウラン模擬廃液を硝酸濃度が3モル濃度となるようにそれぞれ硝酸水溶液に溶解して調製した7種類のスクラップウラン溶解液を使用した以外は上記評価試験2と同様にしてバッチ試験を行い、ウラン濃度を変動させた場合でのウラン吸着量と分配比Kdを求めた。その結果を次の表5に示す。また、ウラン濃度が50ppm〜1000ppmのスクラップウラン溶解液とウラン吸着剤のウラン吸着量との関係を示す吸着等温線を図9に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
表5より明らかなように、ウラン濃度の増加に従って、ウラン抽出剤へのウラン吸着量も増加しているが、分配比Kdは全て60弱であった。これはウラン抽出剤が溶解液中から一定の割合でしかウランを吸着していないことを意味すると考えられる。また、図9に示す吸着等温線から高濃度側でウラン吸着量が減少していることからウラン抽出剤のウラン吸着部位は全て使用しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】ウラン抽出剤の原料である溶解液を調製している状態を示す写真図。
【図2】溶解液を添加した界面活性剤水溶液を加熱しながら攪拌している状態を示す写真図。
【図3】水中懸濁重合反応により界面活性剤水溶液中に得られた顆粒状物を示す写真図。
【図4】本発明のウラン抽出剤を示す写真図。
【図5】本発明のウラン抽出剤の基本構造を示す図。
【図6】本発明のウラン抽出剤を用いてスクラップウランからウランを抽出する方法を工程順に示す図。
【図7】ウラン濃度が1000ppmのスクラップウラン溶解液におけるウラン吸着剤の硝酸濃度依存性を示す図。
【図8】ウラン濃度が10ppmのスクラップウラン溶解液におけるウラン吸着剤の硝酸濃度依存性を示す図。
【図9】スクラップウラン溶解液中のウラン濃度とウラン抽出剤へのウラン吸着量の関係を示す図。
【符号の説明】
【0038】
11 カラム内にウラン抽出剤を充填する工程
12 スクラップウラン溶解液を調製する工程
13 ウラン成分をカラム内のウラン抽出剤に吸着させる工程
14 カラム内部を洗浄する工程
16 ウラン抽出剤に吸着させたウラン成分を溶離させる工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンモノマー、アクリル酸又はメタクリル酸からなる骨格溶媒と架橋剤とモノアミド系溶媒からなる抽出溶媒とを重合させて合成した顆粒状樹脂であることを特徴とするウラン抽出剤。
【請求項2】
スチレンモノマー、アクリル酸又はメタクリル酸からなる骨格溶媒と架橋剤と重合開始剤とを混合して混合液を調製する工程と、
前記混合液に更にモノアミド系溶媒からなる抽出溶媒を混合して溶解液を調製する工程と、
80〜110℃の温度に加熱した界面活性剤水溶液に前記調製した溶解液を添加し、前記溶解液を添加した界面活性剤水溶液を上記温度に維持しながら1〜2時間攪拌することにより、前記溶解液中の骨格溶媒と抽出溶媒と架橋剤とを重合させて顆粒状樹脂を合成する工程と
を含むことを特徴とするウラン抽出剤の製造方法。
【請求項3】
鉛直方向に長い筒体からなるカラム内に請求項1記載のウラン抽出剤又は請求項2記載の方法により得られたウラン抽出剤を所定の割合で充填する工程(11)と、
ウラン成分を含むスクラップウランを硝酸濃度が1〜7モル濃度となるように硝酸水溶液に溶解してスクラップウラン溶解液を調製する工程(12)と、
前記ウラン抽出剤を充填したカラムに前記調製したスクラップウラン溶解液を任意の流速で通液することにより、前記スクラップウランに含まれるウラン成分をカラム内のウラン抽出剤に吸着させる工程(13)と、
前記ウラン成分を吸着させたウラン抽出剤を充填したカラムに3モル濃度に調整した硝酸溶液を任意の流速で通液することにより、前記カラム内部を洗浄する工程(14)と、
前記洗浄したカラムに0.1モル濃度に調整した硝酸溶液を任意の流速で通液することにより、前記カラムのウラン抽出剤に吸着させたウラン成分を0.1モル濃度硝酸溶液に溶離させる工程(16)と
を含むことを特徴とするウラン抽出剤を用いてウランをスクラップウランから抽出する方法。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−245066(P2007−245066A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74513(P2006−74513)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000176796)三菱原子燃料株式会社 (11)
【Fターム(参考)】