説明

ウレタン樹脂フィルムの製造方法

【課題】ウレタン樹脂の溶融粘度を低減し、溶融押出時の負荷を下げるとともに、低い温度での溶融押出を可能とすることで、高分子量、高強度のウレタン樹脂フィルムを製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】内部滑剤を含有したガラス転移温度(Tg)が100℃以上であるウレタン樹脂を溶融押出することを特徴とするウレタン樹脂フィルムの製造方法。前記内部滑剤が有機酸、有機酸アミド、有機酸エステル、有機酸金属塩、グリセリド誘導体、有機リン酸エステル又はこれらを含有する組成物の何れかより選択されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ウレタン樹脂フィルムは、良好な機械特性、耐磨耗性を有するため、保護テープ、キーボードシートなどに広く利用されている。近年では、ガラス転移温度が高く、耐熱性を有するウレタン樹脂フィルムについても光学フィルムとして開発が進められている。(特許文献1)
【0002】
フィルムの製造法としては、樹脂を溶媒に溶解し、基材上に流延した後に溶媒を蒸発させることにより製造する溶媒キャスト法や、樹脂を押出機に供給して溶融し、Tダイより押出して冷却固化させて製造する溶融押出法などが挙げられる。中でも、溶融押出法は、溶媒を使用しないため環境負荷が小さく、また生産性も高いため、広く用いられている。
【0003】
しかしながら、ウレタン樹脂は他の樹脂に比べ溶融粘度が高く、さらに高温で分解しやすいため、溶融粘度を下げるために押出温度を上げることができない。(非特許文献1)。特に樹脂のガラス転移温度が高くなる程、成形可能な温度範囲が小さくなるため、高粘度の樹脂を押出すことによる押出機の負荷の増大や剪断発熱による樹脂の劣化、生産性の低下となどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4216750号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】松永勝治監修、「ポリウレタンの基礎と応用」、シーエムシー出版、102頁、2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ウレタン樹脂の溶融粘度を低減し、溶融押出時の負荷を下げるとともに、低い温度での溶融押出を可能とすることで、高分子量、高強度のウレタン樹脂フィルムを製造することができる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の特徴を有する。
(1)内部滑剤を含有したガラス転移温度(Tg)が100℃以上であるウレタン樹脂を溶融押出することを特徴とするウレタン樹脂フィルムの製造方法。
(2)前記内部滑剤が有機酸、有機酸アミド、有機酸エステル、有機酸金属塩、グリセリド、有機リン酸エステル又はこれらの誘導体、又はこれらを含有する組成物の何れかより選択されることを特徴とする(1)記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
(3)前記有機酸アミドが、脂肪酸ビスアミドであることを特徴とする(2)に記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
(4)前記内部滑剤を、ウレタン樹脂に対し0.1〜5重量%の割合で添加することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
(5)脂環族成分、芳香族成分、脂環族成分/芳香族成分のいずれかを含むウレタン樹脂からなることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
(6)シクロヘキサン構造を有するジイソシアネートと、シクロヘキサン構造を有するジオールとを重合させて得られるウレタン樹脂からなることを特徴とする(5)記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
(7)下記化学式(I)で表わされるウレタン樹脂からなることを特徴とする(6)記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【化1】

(8)前記ウレタン樹脂フィルムが光学フィルムであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
(9)前記ウレタン樹脂フィルムが位相差フィルムであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウレタン樹脂を低い温度で効率よく押出すことが可能となるため、押出時の樹脂の劣化が少なく、高分子量で、強度が高く、かつ、焼け、コゲなどの欠点が少ないウレタン樹脂フィルムを得ることができる。こうして得られたフィルムは、各種フィルム、特に欠点が非常に少ないことが要求される光学フィルムとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のウレタン樹脂フィルムの製造方法は、内部滑剤を含有したガラス転移温度(Tg)が100℃以上であるウレタン樹脂を溶融押出することを特徴とする。
本発明において内部滑剤とは、溶融ウレタン樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する機能を有する化合物をいい、上記機能を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0010】
上記内部滑剤としては、有機酸、有機酸アミド、有機酸エステル、有機酸金属塩、グリセリド誘導体、有機リン酸エステル又はこれらを含有する組成物の何れかより選択されることが好ましい。
【0011】
有機酸は、カルボン酸、有機スルホン酸、有機硫酸、ホスホン酸、ホスフィン酸等の置換基を有する脂肪族あるいは芳香族化合物である。
【0012】
有機カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、トリアコンタン酸などのアルキルカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、こはく酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのアルキルジカルボン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オレイン酸、イコセン酸、エルカ酸、リノール酸などのアルケニルカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタコン酸、ヘキセン二酸などのアルケニルジカルボン酸およびそれらの異性体などの脂肪族カルボン酸、安息香酸、フタル酸、ナフタレンカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸などが挙げられる。
【0013】
また、有機スルホン酸あるいは有機硫酸としては、ベンゼンスルホン酸、メチルベンゼンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、プロピルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸、メチル硫酸、エチル硫酸、プロピル硫酸、ラウリル硫酸などのアルキル硫酸が挙げられる。
【0014】
また、有機ホスホン酸あるいは有機ホスフィン酸としては、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、フェニルホスホン酸、メチルホスフィン酸、エチルホスフィン酸、プロプルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジプロピルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸などが挙げられる。
【0015】
前記の有機酸はそれら分子中の脂肪族基あるいは芳香族基にハロゲン基、水酸基、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基、フェニル基などの置換基を有していてもよい。
【0016】
上記の中でも特に、炭素原子数30以下の脂肪族カルボン酸が好ましく、酢酸、こはく酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒロドキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、モンタン酸などが安全性の点から好ましい。
【0017】
前記有機酸アミドは、上記の有機酸とアミン化合物とを反応させて得られるアミド化合物であるが、このうち、脂肪酸ビスアミドを用いることが特に好ましい。
好ましい脂肪酸ビスアミドとしては、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドが挙げられる。
【0018】
有機酸金属塩を構成する金属としては、前記有機酸と塩を形成することができるものであればよい。
好ましい有機酸金属塩としては、一般に金属石鹸と呼ばれている化合物が好ましく、特にカルシウムステアレート、ジンクステアレート、マグネシウムステアレート、アルミニウムモノステアレート、アルミニウムジステアレート、アルミニウムトリステアレートが挙げられる。
【0019】
有機酸エステルは、上述した有機酸をエステル化して得られる化合物であり、例えば、メチルエステル、エチルエステル、1−プロピルエステル、2−プロピルエステル、1−ブチルエステル、2−ブチルエステル、3−ブチルエステル、tert−ブチルエステル等のアルキルエステルが挙げられる。
【0020】
グリセリド誘導体としては、グリセリン脂肪酸モノエステルもしくはグリセリン脂肪酸ジエステルに上記有機酸を加熱により直接エステル化する方法、グリセリン脂肪酸モノエステルもしくはグリセリン脂肪酸ジエステルに上記有機酸の酸無水物を反応させる方法等の一般的エステル化方法を用いて得られたものが用いられる。
【0021】
グリセリド誘導体に用いる上記有機酸としては、炭素数が6〜22の脂肪酸の直鎖飽和脂肪酸もしくは直鎖不飽和脂肪酸を用いることができる。例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸、エルカ酸等が挙げられるがこれに限定するものではない。
【0022】
有機リン酸エステルとしては、例えばトリイソブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、テトラエチルメチレンホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート等が挙げられる。
【0023】
上記化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
有機酸エステル誘導体又はグリセリド誘導体あるいは有機リン酸エステル誘導体を主成分とする組成物としては、XEL Plastic Research Laboratories Inc製の添加剤Mold WizRが挙げられ、その中での特に好ましい品番としてはINT-33LCA、INT-33PA、INT-34DLKである。
【0025】
前記内部滑剤は、ウレタン樹脂に対し0.1〜5重量%の割合で添加することを特徴とする。0.1重量%未満の場合、ウレタン樹脂の溶融粘度を低減させる効果が小さくなる。
一方5重量%を超える場合、樹脂のガラス転移温度が大きく低下し、耐熱性が低下する等の問題がある。
【0026】
上記内部滑剤を含有するウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上であることが好ましい。
Tgが上記範囲よりも低いと、延伸後のフィルムを夏場のような高温下で使用した場合、延伸により発現した位相差が低下する等により、光学フィルム或いは位相差フィルムとしての機能が低下する。
【0027】
本発明のウレタン樹脂フィルムに使用するウレタン樹脂は、その分子内に脂環族成分、芳香族成分、脂環族成分/芳香族成分のいずれかを含むことを特徴とする。
前記ウレタン樹脂は、ジイソシアネート化合物と、ジオール化合物との反応によって得られるものである。
【0028】
前記ジイソシアネート化合物としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3′−ジメチルフェニレンジイソシアネート、4,4′−ビフェニレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、6−イソプロピル−1,3−フェニルジイソシアネート、4−ジフェニルプロパンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等を挙げることができる。
前記ジイソシアネート化合物は、単独で使用しても良いし、または2種類以上を併用しても良い。
【0029】
本発明に用いられるジオール化合物としては、例えば、芳香族ジオール、脂肪族ジオール、脂環族ジオール等を挙げることができる。
【0030】
上記芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加ジオール、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオール、ビスフェノールAのブチレンオキサイド付加ジオール、ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加ジオール、ビスフェノールFのプロピレンオキサイド付加ジオール、ビスフェノールFのプロピレンオキサイド付加ジオール、ハイドロキノンのアルキレンオキサイド付加ジオール、ナフトキノンのアルキレンオキサイド付加ジオール等を挙げることができる。
【0031】
上記脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、イソブチレングリコール等を挙げることができる。
【0032】
上記脂環族ジオールとしては、例えば、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールAのブチレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールFのプロピレンオキサイド付加ジオール、水添ビスフェノールFのブチレンオキサイド付加ジオール、ジシクロペンタジエンのジメチロール化合物、トリシクロデカンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。
【0033】
本発明のウレタン樹脂フィルムに使用するウレタン樹脂は、特にシクロヘキサン構造を有するジイソシアネートと、シクロヘキサン構造を有するジオールとを重合させて得られるものであることが好ましい。
【0034】
上記ウレタン樹脂としては、特に、下記化学式(I)で表わされる化合物であることが好ましい。
【化2】

【0035】
上記ウレタン樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、脂肪族ポリオール、脂環族ポリオール、芳香族ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等の成分を共重合されていても良い。
【0036】
上記ウレタン樹脂は、重量平均分子量が5,000〜1,000,000であることが好ましい。分子量が5,000未満であると、樹脂が脆く、割れやすくなる。また1,000,000を超えると、樹脂を溶融あるいは溶液にしたとき、粘性が非常に高くなり、成形加工することが難しくなる。
【0037】
次に、本発明のウレタン樹脂フィルムを製造する方法について説明する。
まず、本発明に使用するウレタン樹脂を製造する方法としては、モノマー化合物であるジイソシアネート化合物及びジオール化合物との種類等に応じて、任意の方法を選択することができる。
例えば、モノマー化合物であるジイソシアネート化合物、ジオール化合物をそれぞれ溶媒に溶解させた後、混合し反応させ、反応物を析出する等の方法を選択できる。
【0038】
モノマー化合物の溶媒としては、使用されるモノマー化合物を所望の濃度で溶解できる溶媒を適宜選択することができる。
例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶媒;酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、およびジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒を挙げることができる。
なかでも本工程においては、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒を用いることが好ましい。
溶媒としては、単一溶媒からなるものであってもよく、複数の溶媒の混合溶媒であっても良い。
【0039】
本発明においては、上記ジイソシアネート化合物とジオール化合物との反応により得られたウレタン樹脂に、内部滑剤を含有させることを特徴とする。
内部滑剤の含有のためには、上記ウレタン樹脂を溶融し、内部滑剤を均一に混合撹拌する方法が好ましいが、その他の方法で含有させても良い。
【0040】
次に、本発明のフィルムの製造方法について説明する。本発明のウレタン樹脂フィルムは、単層フィルムであっても複数層を積層した多層フィルムであっても良い。
本発明のウレタン樹脂フィルムは、樹脂を溶融後シート状に押し出し、得られた樹脂シートを延伸する、溶融押出法により製造することが好ましい。
【0041】
単層フィルムの溶融押出法での製造方法を説明する。
まず、ウレタン樹脂に内部滑剤を混合した後、単軸あるいは二軸押出機に供給し、樹脂の粘度が押出機で押出可能かつ樹脂の分解温度未満となる温度に加熱し、Tダイよりシート状に押し出す。押し出されたウレタン樹脂は、樹脂のガラス転移温度(Tg)付近/もしくは以下に温度制御されたロールで冷却固化され樹脂シートとなる。得られた樹脂シートは、その内部に含有するポリウレタン樹脂材料分子を配列させ、フィルムの位相差性や光学特性を向上させるために、延伸処理を施す。
【0042】
次に、多層フィルムの製造方法を説明する。
なお、本発明の多層フィルムとしては、二層構造であっても三層構造であっても良く、さらには三層以上の層を有していても良い。
多層フィルムを製造する場合は、本発明のウレタン樹脂を含む複数の樹脂をTダイより共押出して多層シートを作製し、延伸処理する方法が好ましく用いられるが、上記の溶融押出法で得られた樹脂シートを、2枚或いはそれ以上の枚数準備し、互いに積層させて積層体を得、その後前記積層体を延伸して多層フィルムとする方法などを用いてもよい。
このような積層体において、各々の樹脂シート間には一般的な接着剤層あるいはプライマー層を介しても良い。
【0043】
前記樹脂シート或いは積層体の延伸処理としては、本発明により製造される位相差フィルムに所望の位相差性を付与できれば、或いは好ましい光学特性を付与するものであれば、特に限定されるものではなく、自由端一軸延伸、幅拘束一軸延伸または二軸延伸処理などの何れであっても良い。
延伸方法としては、例えば、ロール延伸法、長間隙沿延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等を挙げることができる。
【0044】
二軸延伸処理法の場合、同時に二方向に延伸処理を行う方法、あるいは、一軸延伸処理した後に当該延伸処理における延伸方向と異なる方向に延伸処理する方法を利用することができる。このとき、2つの延伸軸の交わり角度は、目的とする光学フィルムに要求される特性に応じて決定され、特に限定されないが、通常、120〜60度の範囲である。
【0045】
延伸速度は、一軸延伸処理の場合、通常1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、より好ましくは100〜1,000%/分である。
【0046】
二軸延伸処理法の場合の延伸速度は、各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0047】
延伸倍率は、目的とする位相差フィルムに要求される特性に応じて決定され、特に限定されないが、通常は1.01〜10倍、好ましくは1.03〜5倍、さらに好ましくは1.03〜3倍である。延伸倍率が上記範囲を超えると、得られるフィルムを位相差フィルムとして使用する際に、位相差の制御が困難になることがある。
【0048】
延伸処理温度としては、通常行われるように、得られた樹脂シートをガラス転移温度以上、かつ、融点以下に加熱された状態で延伸されることが好ましい。
【0049】
延伸処理されたフィルムは、延伸処理後、そのまま冷却してもよいが、樹脂フィルムのTg−20℃〜Tgの温度雰囲気下に少なくとも10秒間以上、好ましくは30秒間〜60分間、さらに好ましくは1〜60分間保持した後に冷却することが好ましい。これにより、得られたウレタン樹脂フィルムを光学フィルムとして使用する際に、好ましい光学特性を付与することが可能となる。
特に、位相差フィルムとして使用する際に、透過光の位相差の経時変化が少なくて安定した位相差フィルムとすることが可能となる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(評価分析方法)
本実施例で用いた評価分析方法は次のとおりである。
(1)樹脂の溶融粘度
樹脂をキャピログラフ((株)東洋精機製作所製)に供給し、220℃において、剪断速度121.6sec−1にて押出したときの溶融粘度を評価した。
(2)樹脂の耐熱性
示差走査熱量分析(DSC)にて20℃/分で昇温したときに測定されるガラス転移温度(Tg)で評価した。
(3)樹脂の透明性
得られた樹脂について目視にて評価した。◎:透明、○:わずかに濁りあり。
(4)樹脂の重量平均分子量
ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定して求めた。
【0052】
<実施例1>
ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネートと1,4−シクロヘキサンジメタノールから得られたウレタン樹脂および、内部滑剤として、この樹脂に対して2wt%のエチレンビスステアリン酸アミドを、ラボプラストミル(ミキサーヘッド)に入れ、温度220℃、スクリュー回転数25rpmで10分間混練した。
こうして得られた樹脂の溶融粘度、耐熱性、透明性、重量平均分子量を評価した。結果を表1に示す。
【0053】
<実施例2~21>
内部滑剤の種類、添加量を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様に混練した。得られた樹脂の溶融粘度と耐熱性、透明性、重量平均分子量を評価した。結果を表1に示す。
【0054】
<比較例1>
内部滑剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に混練した。得られた樹脂の溶融粘度と耐熱性、透明性、重量平均分子量を評価した。
【0055】
<比較例2〜5>
内部滑剤の種類、添加量を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様に混練した。得られた樹脂の溶融粘度と耐熱性、透明性、重量平均分子量を評価した。結果を表1に示す。
【0056】
<実施例22>
ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネートと1,4−シクロヘキサンジメタノールから得られたウレタン樹脂および、内部滑剤として、この樹脂に対して2wt%のエチレンビスステアリン酸アミドを、二軸押出機に供給し、220℃でTダイより押出してフィルムを作製した。このときの押出機のスクリューのモーター負荷は24〜28Aであり、トラブルもなく良好にフィルムを作製できた。このフィルムの耐熱性はTg=119℃と問題なく、重量平均分子量は32000と高く、フィルムの強度も十分であった。
【0057】
<実施例23〜27>
内部滑剤の種類、添加量を表2のように変更したこと以外は、実施例21と同様にフィルムを作製した。このときの、スクリューモーター負荷、フィルムの耐熱性、分子量、フィルムの状態を表2に示す。
【0058】
<比較例6>
内部滑剤を添加しなかったこと以外は、実施例21と同様にフィルムを作製した。このときの、スクリューモーター負荷は30〜31Aと高く、押出途中で過負荷のためスクリューが停止した。得られたフィルムの分子量は29000であり、フィルムの強度も十分であった。
【0059】
<比較例7、8>
内部滑剤の種類、添加量を表2のように変更したこと以外は、実施例21と同様にフィルムを作製した。このときの、スクリューモーター負荷、フィルムの、耐熱性、分子量、フィルムの状態を表2に示す。
【0060】
<比較例9>
押出温度を230℃とした以外は、比較例6と同様にフィルムを作製した。このときの、スクリューモーター負荷は20Aと低く、安定して樹脂を押出すことができたが、得られたフィルムは非常に脆く、割れやすかった。このフィルムの分子量は22000と低かった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
評価結果
(表1)
内部滑剤を適量添加した例(実施例)と比較し、無添加の場合(比較例1)、添加量が不足の場合(比較例2、4)は溶融粘度が上昇した。
内部滑剤を過剰に添加した例(比較例3、5)は、Tgが低く、耐熱性が低下した。
【0064】
(表2)
内部滑剤が無添加の場合(比較例6)、添加量が不足の場合(比較例7)は押出機のスクリューモーター負荷が上昇しスクリューが停止した。
内部滑剤を添加しなくても、押出温度を上昇した場合(比較例9)はスクリューモーター負荷には問題がないが、製造後のフィルムがもろく割れやすいという問題があった。
一方で、内部滑剤を過剰に添加した例(比較例8)は、製造後のフィルムの耐熱性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、ウレタン樹脂を低い温度で効率よく押出すことが可能となるため、押出時の樹脂の劣化が少なく、高分子量で、強度が高く、かつ、焼け、コゲなどの欠点が少ないウレタン樹脂フィルムを得ることができる。こうして得られたフィルムは、各種フィルム、特に欠点が非常に少ないことが要求される光学フィルムとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部滑剤を含有したガラス転移温度(Tg)が100℃以上であるウレタン樹脂を溶融押出することを特徴とするウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記内部滑剤が有機酸、有機酸アミド、有機酸エステル、有機酸金属塩、グリセリド、有機リン酸エステル又はこれらの誘導体、又はこれらを含有する組成物の何れかより選択されることを特徴とする請求項1記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記有機酸アミドが、脂肪酸ビスアミドであることを特徴とする請求項2に記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記内部滑剤を、ウレタン樹脂に対し0.1〜5重量%の割合で添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
脂環族成分、芳香族成分、脂環族成分/芳香族成分のいずれかを含むウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
シクロヘキサン構造を有するジイソシアネートと、シクロヘキサン構造を有するジオールとを重合させて得られるウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項5記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
下記化学式(I)で表わされるウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項6記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【化3】

【請求項8】
前記ウレタン樹脂フィルムが光学フィルムであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記ウレタン樹脂フィルムが位相差フィルムであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のウレタン樹脂フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−74296(P2011−74296A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229067(P2009−229067)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】