説明

エアジェット紡績装置のためのエアジェット集合体

【課題】 ステープル繊維ストランド(2)から紡績糸(4)を製造するためのエアジェット紡績装置のためのエアジェット集合体(3)を提供する。
【解決手段】 このエアジェット集合体(3)は渦室(9)と流体を供給するためにこの渦室中に開口する複数のインジェクターチャネル(10,21)とを含み、紡績糸の軸に対する平行線に関して異なる傾斜角度を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネルが設けられており、異なる傾斜角度を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネルが少なくとも一つの圧縮空気源に連結されることができ、異なる傾斜角度を持つインジェクターチャネルが好ましくは別個に調整されることができる圧縮空気源に連結されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステープル繊維ストランドから紡績糸を製造するためのエアジェット紡績装置のためのエアジェット集合体であって、それは渦室と前記渦室中に通じる多数の流体供給インジェクターチャネル(injector channels)を含み、紡績糸の軸に対する平行線に関して異なる傾斜角度を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネルが設けられているものに関する。
【0002】
エアジェット紡績装置では、撚りなしの供給されたステープル繊維ストランドの繊維はエアジェットにより紡績撚りを与えられ、それが形成された糸にその引張強度を加える。ステープル繊維ストランドは回転渦流が支配している渦室中に供給され、この回転渦流は通常、渦室中に通じるインジェクターチャネルにより発生されかつこのインジェクターチャネルには加圧空気が付与される。
【背景技術】
【0003】
例えばドイツ公開特許出願DE4122216A1では渦室の周囲壁内に多数のインジェクターチャネルを配置することが知られている。既知のエアジェット集合体では、加圧空気のための全てのインジェクターチャネルは常に、紡績糸の軸に対する平行線に関して同じ傾斜角度を持つ。これらのインジェクターチャネルは通常、共有空気源からリングチャネルを介して加圧空気を供給される。
【0004】
更に、渦室中に注入された加圧空気は二つの機能を満たさねばならないことが知られている。まず第一に、加圧空気は回転渦流を形成しなければならず、それが供給されたステープル繊維ストランドの繊維にそれらの撚りを与える。第二に、加圧空気は、繊維供給チャネルの入口開口に十分に強い減圧が発生するような方式で渦室中に流入しなければならず、それによりステープル繊維ストランドは送出ニップラインから渦室中に輸送される。
【0005】
既知のエアジェット集合体の欠点は、インジェクターチャネルの傾斜角度が二つの矛盾した要求間の妥協として予め決められねばならないことである。傾斜角度が小さい程、すなわちそれが紡績糸の軸に対する平行線に近づく程、繊維供給チャネルの入口開口での減圧は大きくなり、送出ローラー対からの繊維の引き取りを良好にする。しかし、同時にステープル繊維ストランドをその軸周りに撚る渦流の接線方向の力は減少し、紡績糸は低レベルの引張強度のみを持つ。もしインジェクターチャネルに対し大きな傾斜角度(すなわち紡績糸の軸に対しほとんど90°)が選ばれるなら、回転渦流は高引張強度の糸を発生するが、入口開口にはより小さな減圧があり、それがエアジェット集合体の吸引作用及び繊維の渦室中への輸送を妨害し、それがまた糸切れを導きうる。
【0006】
エアジェット集合体はまた、ドイツ特許出願DE4122216A1で既知であり、そこでは流体のための更なるインジェクターチャネルが記載されており、それは紡績糸の軸に対して共軸的に配置されている。このインジェクターチャネルはもっぱら水を渦室中に供給する役目をし、それにより紡績繊維材料が給湿される。その目的は紡績糸の引張強度を紡績時の直接給湿により改善しかつ雰囲気のための大きな加湿機を省くことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の欠点を避け、良好な撚り分配と良好な吸引作用を持つエアジェット集合体を作ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本発明によれば、異なる傾斜角度を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネルが少なくとも一つの加圧空気源に連結可能であることにより達成された。
【0009】
全てに加圧空気が付与されている異なる傾斜角度を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネルにより、渦室内の渦流が有利な方式で影響を受けることができる。少なくとも一つの、しかし有利には多数のインジェクターチャネルが、ステープル繊維ストランドの繊維に対して良好な撚り分配が保証されかつ高引張強度を持つ糸が形成されるような方式で、傾斜の角度及び位置で配置される。比較的大きな傾斜角度と渦室中に接線方向に通じている前記インジェクターチャネルの開口は特に有利である。良好な吸引作用を確保しかつステープル繊維ストランドの送出ローラー対から渦室中への信頼性ある輸送を保証するために、加圧空気を供給される少なくとも一つの更なるインジェクターチャネルが設けられ、このインジェクターチャネルは撚り分配のための上述のインジェクターチャネルより小さい傾斜角度を持つ。小さい傾斜角度を持つインジェクターチャネルは本質的に繊維供給チャネルの入口開口での減圧の発生をもたらす。
【0010】
減圧を発生するための最低一つのインジェクターチャネルが撚り分配のためのインジェクターチャネルとは入口開口から異なる距離、特により短い距離にあることが有利でありうる。入口開口への接近は減圧の形成を強める。
【0011】
加圧空気のための少なくとも一つのインジェクターチャネルが5°未満、好ましくは0°の傾斜角度を持つこと、すなわちこのインジェクターチャネルが紡績糸の軸に本質的に平行に延びることがエアジェットの特に良好な吸引作用のために有利である。
【0012】
本発明の一実施態様では、インジェクターチャネルを、その開口が回転渦流の中心の方に向けられるような方式で配置することが有利でありうる。渦流の回転の妨害はこのようにしてかなりの程度まで避けられることができる。
【0013】
全てのインジェクターチャネルが共有加圧空気源に連結されることが規定されうる。この場合、渦流は適宜に、例えば選ばれたインジェクターチャネルの数と直径に基づいて調整されることができる。
【0014】
しかし、本発明の一実施態様では、異なる傾斜角度を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネルが別個に調整可能な加圧空気源に連結可能であることが有利である。異なるインジェクターチャネルを通して流れる空気の圧力及び/または量は別個に調整可能な加圧空気源のため紡績工程時に変えられることができる。これは渦室内で有利な方式で変更可能なピッチを持つ螺旋曲線形状渦流の、インジェクターチャネルから流出する加圧空気からの、発生を可能にする。渦流が紡績糸の送出速度及びその撚りに適合したピッチを持つ螺旋曲線に従うことが有利である。
【0015】
図面の簡略説明
本発明のこれらの及び更なる目的、特徴及び利点は添付図面に関してなされる以下の詳細な説明からより容易に明らかとなるであろう。
図1はエアジェット紡績装置のエアジェット集合体の大きく拡大した寸法での軸方向断面であり、
図2は図1のエアジェット集合体の横断面II−IIに沿った断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1及び2によるエアジェット紡績装置は、紡績されるステープル繊維ストランド2を案内するための送出装置1並びにエアジェット集合体3を含み、このエアジェット集合体3内で糸4の紡績のための必要な撚りがステープル繊維ストランド2に与えられる。
【0017】
送出装置1は送出ローラー対5,6を含み、それはエアジェット集合体3に対してそれへの短い距離で配置され、そこにはドラフト装置(図示せず)の前方ローラー対が含まれることができる。この形式のドラフト装置は既知の方式で供給されたスライバーまたは粗紡を希望の繊度のステープル繊維ストランド2にドラフトする。しかし、送出装置1は代替的に別のドラフト装置またはその上流に配置されたいずれかの他の集合体のニップローラー対であることができる。ニップラインは参照番号7により示され、ここで供給方向Aに供給されたステープル繊維ストランド2はエアジェット集合体3に流入する前にニップされる。エアジェット集合体3は、紡績される糸4のための撚りを発生し、糸4を取出しローラー対(図示せず)により糸取出し方向Bに送出する。
【0018】
エアジェット集合体3は特に、繊維供給チャネル8及び本質的に中空の円筒状渦室9を含む。渦室9中に通じるインジェクターチャネル10を通して加圧空気を吹き込むことにより流体装置は渦室9内に渦流を発生する。インジェクターチャネル10は、導管として示された加圧空気源12を介して加圧空気を供給されている環状空間11から延びる。加圧空気の流れ方向は矢印Cにより示されている。インジェクターチャネル10は紡績糸4の軸に対する平行線13に関して傾斜角度αを持ち、それは有利には30°〜90°にある。加えて、インジェクターチャネル10は−図2に見ることができるように−渦室9中に接線方向に通じており、それにより回転渦流が発生する。この点で、空間的に斜めに位置するインジェクターチャネル10は図1及び2における明確化の理由のため描写面に投影されていることは述べられるべきである。インジェクターチャネル10から出る加圧空気は、スピンドル形状要素15をリング状に取り囲む廃棄チャネル14を介して排出される。糸取出しチャネル16はスピンドル形状要素15内に配置されている。繊維供給チャネル8の端部領域内に、繊維案内表面18の縁17が撚り防止として配置されており、この縁17はその入口開口19の領域内の糸取出しチャネル16に対し偏心的に位置している。
【0019】
エアジェット集合体3では、紡績される繊維は一方ではステープル繊維ストランド2内に保持され、従って繊維供給チャネル8から本質的に撚りを受けることなく糸取出しチャネル16に供給される。他方で繊維供給チャネル18と糸取出しチャネル16の間の領域内の繊維は渦流の影響を受けさせられ、それが繊維または少なくともそれらの端部領域を糸取出しチャネル16の入口開口19から半径方向に離れるように駆動する。従って、この方式で製造された糸4は有意な撚りを持つことなく糸の縦方向に本質的に延びる繊維の芯または繊維領域を含み、繊維または繊維領域が芯の周りに撚られている外部領域を含む。
【0020】
渦室9内の渦流の回転はインジェクターチャネル10の傾斜角度αにより影響を受ける。傾斜角度αが大きい程、渦流の回転は強くなり、紡績糸4の引張強度は大きくなる。
【0021】
しかし、エアジェット集合体3の欠点のない操作のために、十分に強い減圧が繊維供給チャネル8の入口開口20に存在することが必要である。入口開口20での減圧はステープル繊維ストランド2の送出ローラー対5,6のニップライン7から渦室9中への輸送を確実にする。入口開口20での減圧の強さはまた、インジェクターチャネル10の傾斜角度αにより影響を受けうる。すなわち傾斜角度αが小さい程、減圧は大きい。従来技術の既知のエアジェット集合体3においては、加圧空気が付与されているインジェクターチャネルは常に同じ傾斜角度αで配置されていた。この傾斜角度αは不利なことに上述の矛盾した要求間の妥協としてあらかじめ決められていた。
【0022】
本発明によるエアジェット集合体3の場合、加圧空気のための二つの更なるインジェクターチャネル21が設けられる。インジェクターチャネル21は環状空間22から延び、インジェクターチャネル10より小さい傾斜角度で渦室9中に通じている。図1に示されたインジェクターチャネル21は0°の傾斜角度を持つ。すなわちそれらは紡績糸4の軸に対して平行に延びる。環状空間22はまた、導管の形の簡略化された加圧空気源23から流れ方向Dに加圧空気を供給される。
【0023】
異なる傾斜角度αを持つインジェクターチャネル10及び21の存在により、渦室9内の渦流は希望の機能に任意に適合されることができる。というのも渦室の回転及び入口開口20に発生する減圧は今や別個に影響を受けることができるからである。結果として、変更可能なピッチを持つ螺旋曲線状渦流はインジェクターチャネル10及び21から流出する加圧空気により渦室内に発生されることができる。
【0024】
異なるインジェクターチャネル10及び21による渦流の別個の影響は渦室9のインジェクターチャネル21の入口点と入口開口20との間の距離が短くても、すなわち−輸送方向に見たとき−インジェクターチャネル21が更に上流に配置されていても、より効果的に達成されることができる。インジェクターチャネル21と入口開口20の間のより小さな距離によって、強い減圧が低い空気流速で入口開口20に達成されることができる。
【0025】
流入する加圧空気のパラメーター、例えば空気圧または空気容量が紡績工程時に別個に調整されることができるような方式で加圧空気源12と加圧空気源23を設計することが特に有利である。そのとき、有利な方式で渦室9内の渦流を紡績されるステープル繊維ストランド2の変更パラメーターに適合させることができる。例えば、紡績工程時に、方向Aの送出速度及び方向Bの糸取出し速度が増加されるとき、例えば繊維供給チャネル内の空気速度をステープル繊維ストランド2の増加された速度に適合させるために、インジェクターチャネル21を通る加圧空気流の空気圧を同時に増加することが有利でありうる。示されたエアジェット集合体3は極めて変更可能な適用の大きな利点を証明する。
【0026】
最後に、インジェクターチャネル10及び21の示された数字は例示にすぎず、必要に応じて変えられることができるということに言及しておく。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】エアジェット紡績装置のエアジェット集合体の大きく拡大した寸法での軸方向断面である。
【図2】図1のエアジェット集合体の横断面II−IIに沿った断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステープル繊維ストランド(2)から紡績糸(4)を製造するためのエアジェット紡績装置のためのエアジェット集合体(3)であって、それが渦室(9)と前記渦室(9)中に通じる多数の流体供給インジェクターチャネルを含み、紡績糸(4)の軸に対する平行線に関して異なる傾斜角度(α)を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネル(10,21)が設けられているものにおいて、異なる傾斜角度(α)を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネル(10,21)が少なくとも一つの加圧空気源(12;23)に連結可能であることを特徴とするエアジェット集合体。
【請求項2】
異なる傾斜角度(α)を持つ少なくとも二つのインジェクターチャネル(10,21)が別個に調整可能な加圧空気源(12,23)に連結可能であることを特徴とする請求項1に記載のエアジェット集合体。
【請求項3】
少なくとも一つのインジェクターチャネル(21)が繊維供給チャネル(8)の入口開口(20)から異なる距離に、特により短い距離にあることを特徴とする請求項1または2に記載のエアジェット集合体。
【請求項4】
加圧空気のための少なくとも一つのインジェクターチャネル(21)が5°未満の傾斜角度(α)を持つことを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のエアジェット集合体。
【請求項5】
加圧空気のための少なくとも一つのインジェクターチャネル(21)が0°の傾斜角度(α)を持つことを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のエアジェット集合体。
【請求項6】
変更できるピッチを持つ螺旋曲線状渦流が、インジェクターチャネル(10,21)から流出する加圧空気により渦室(9)内に発生されることができることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載のエアジェット集合体。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−509051(P2009−509051A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530344(P2008−530344)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007095
【国際公開番号】WO2007/033717
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(590005597)マシーネンファブリク リーター アクチェンゲゼルシャフト (93)
【氏名又は名称原語表記】Maschinenfabrik Rieter AG
【住所又は居所原語表記】Klosterstrasse 20,CH−8406 Winterthur,Switzerland
【Fターム(参考)】