エアバッグインフレータ用フィルタおよびその製造法
【課題】母材粒子のはがれを抑制し、かつ、軽量なエアバッグインフレータ用フィルタおよびその製造法を提供する。
【解決手段】エアバッグインフレータ用のフィルタ1は、多数の中空かつ球状の鉄ボールを銅によって隣接する鉄ボールを溶着した円筒状の多孔体2と、多孔体2の内周面を覆うと共に多孔体2が溶着した内周面用の第2の穿孔板4とを有している。フィルタ1の製造法は、多数の中空かつ球状の金属材からなる母材粒子の表面に母材粒子の融点よりも低い融点を有する溶着材料をコーティングするコーティング工程と、コーティング工程を経た母材粒子を、小径および大径の2つの円筒状の穿孔板3,4を中心軸が同一となるように配置し、両穿孔板の間に形成される空間の一端側を塞いだ収容容器の空間に収容する収容工程と、収容工程を経た後、母材粒子を収容容器とともに還元ガス雰囲気下で焼成する焼成工程と、を有する。
【解決手段】エアバッグインフレータ用のフィルタ1は、多数の中空かつ球状の鉄ボールを銅によって隣接する鉄ボールを溶着した円筒状の多孔体2と、多孔体2の内周面を覆うと共に多孔体2が溶着した内周面用の第2の穿孔板4とを有している。フィルタ1の製造法は、多数の中空かつ球状の金属材からなる母材粒子の表面に母材粒子の融点よりも低い融点を有する溶着材料をコーティングするコーティング工程と、コーティング工程を経た母材粒子を、小径および大径の2つの円筒状の穿孔板3,4を中心軸が同一となるように配置し、両穿孔板の間に形成される空間の一端側を塞いだ収容容器の空間に収容する収容工程と、収容工程を経た後、母材粒子を収容容器とともに還元ガス雰囲気下で焼成する焼成工程と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグインフレータ用フィルタおよびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグインフレータ用フィルタは、インフレータ内の火薬の爆発時にその火薬から出るスラグの除去とガスの冷却を行うものである。従来より、この種のフィルタおよびその製造方法が知られている。たとえば、特開平7−285412号公報(特許文献1)には、金属線材織機を用いて金属の細い線材を織り込み、筒状に編んだ素材を圧縮して製造する筒状のエアバッグ装置のインフレータ用フィルタおよびその製造方法が開示されている。また、特開2002−249017号公報(特許文献2)には、金属の板材を菱形に切り刻んでコイル状とし、それを切断し、巻き重ねて製造する筒状のエアバッグ装置のインフレータ用フィルタおよびその製造方法(エクスパンド加工)が開示されている。また、特開2002−331235号公報(特許文献3)には、球状粉を成形、焼結して製造するフィルタおよびその製造方法が開示されている。
【0003】
しかし、上記の従来の技術には、次のような問題がある。特許文献1に開示されるフィルタを製造する場合、金属線材織機が織り込める金属線の太さに制約がある。また、金属線を編む時間がかかり過ぎ、製造コストが高いという問題もある。また、特許文献2に開示されるフィルタを製造する場合には、エクスパンド加工に多くのプロセスが必要とされるため、製造コストが高くなるという問題がある。また、特許文献3に開示されるフィルタは、耐圧性に欠けるという問題を有している。さらに、焼結によって多孔体を製造する場合、多孔体の外形を所定形状に成形する工程が必要になる。このため、通常、金型を用いた成形工程が必要となり、製造コストが高くなるという問題がある。金型成形を行わずに焼結する方法も考えられるが、焼結が進行せず、多孔体の耐圧性が低くなるという問題が起きる。さらに、金型を使用せずに成形し、その後、所望のフィルタ形状に切り出し、かかる後に焼結する方法も考えられる。しかし、金型成形を行う場合の製造コストよりも、切り出しの工程を行う場合の製造コストの方が高くなる。このため、低コストでフィルタを製造できないという問題が生じる。加えて、フィルタが有する冷却性能、清浄性能または消音性能のさらなる向上が望まれている。
【0004】
このような問題を解決すべく本出願人は先に、耐圧性能、冷却性能、清浄性能および消音性能にも優れ、かつ低コストで製造可能なフィルタおよびその製造方法を提供することを目的として、母材粒子と、その母材粒子同士を溶着する、母材粒子の融点よりも低い融点を持つ溶着材料とから構成されるフィルタを提案した(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−285412号公報
【特許文献2】特開2002−249017号公報
【特許文献3】特開2002−331235号公報
【特許文献4】国際公開第2004/073909号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載されているエアバッグインフレータ用フィルタは、インフレータに組み込む際に人の手の力などで、母材粒子がはがれ落ちるおそれがある。また、母材粒子に通常用いられる金属球がエアバッグインフレータ用フィルタ全体を重くし、自動車の軽量化を図ることが困難である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、母材粒子のはがれを抑制し、かつ、軽量なエアバッグインフレータ用フィルタおよびその製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグインフレータ用フィルタは、多数の中空かつ球状の母材粒子を溶着材料によって隣接する母材粒子を溶着した円筒状の多孔体と、多孔体の内周面の一部または全部を覆うと共に多孔体が溶着した内周面用の穿孔板とを有している。
【0009】
ここで、多孔体の外周面を覆うと共に多孔体が溶着した外周面用の穿孔板が配置され、外周面用の穿孔板の孔は、母材粒子が通過できない形状とされていることが好ましい。
【0010】
また、穿孔板は、多孔体の成形時に金型治具として用いられたものであることが好ましい。
【0011】
また、母材粒子は、水に浮くものであり、穿孔板は、一層のエクスパンドメタルから形成されていることが好ましい。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグインフレータ用フィルタの製造法は、多数の中空かつ球状の金属材からなる母材粒子の表面に母材粒子の融点よりも低い融点を有する溶着材料をコーティングするコーティング工程と、コーティング工程を経た母材粒子を、小径および大径の2つの円筒状の穿孔板を中心軸が同一となるように配置し、両穿孔板の間に形成される空間の一端側を塞いだ収容容器の空間に収容する収容工程と、収容工程を経た後、母材粒子を収容容器とともに還元ガス雰囲気下で焼成する焼成工程と、を有する。
【0013】
ここで、コーティング工程は、溶着材料を10μmから20μmの厚みまでめっきする工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、母材粒子のはがれを抑制し、かつ、軽量なエアバッグインフレータ用フィルタおよびその製造法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すエアバッグインフレータ用フィルタの平面図である。
【図3】図1に示すエアバッグインフレータ用フィルタに用いられる多孔体の構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示す多孔体の平面図である。
【図5】図1から図4に示す多孔体の母材粒子である鉄ボール同士が銅によって溶着されている状態を示す鉄ボールの断面図である。
【図6】図1に示すエアバッグインフレータ用フィルタに用いられる2つの穿孔シートの配置構成を示す斜視図である。
【図7】図6に示す2つの穿孔シートの平面図である。
【図8】図1に示すエアバッグインフレータ用フィルタの穿孔シートと多孔体との接触状態を示す部分拡大図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの製造過程を示すフロー図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの製造に用いる収容容器の斜視図である。
【図11】図10に示す収容容器の平面図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの製造に係る収容工程の様子を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの製造に係る焼成工程を行うに際して用いられる、ベルトコンベア式の焼成炉を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタがエアバッグインフレータに装着された状態を示す縦断面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタ(以下、「フィルタ」と略記する。)の構成について、図面を参照しながら説明する。このフィルタは、自動車などのエアバッグ装置のインフレータに用いられるものである。
【0017】
図1、図2は、本発明の実施の形態に係るフィルタ1の構成を示す斜視図および平面図である。フィルタ1は、全体形状が円筒状の形状をしている。フィルタ1の構成部材は、大別して多孔体2と、穿孔板である第1の穿孔シート3および第2の穿孔シート4(両者の穿孔シートを指すときは、「穿孔シート3,4」と記する。)である。
【0018】
図3、図4は、図1、図2に示すフィルタ1から外周面用の穿孔板となる穿孔シート3と内周面用の穿孔板となる穿孔シート4を除外し多孔体2の構成を示す斜視図および平面図である。多孔体2は、母材粒子となる中空かつ球状の鉄ボール5が多数集まったもので、金属ボール5同士を溶着材料となる銅(図示省略)によって溶着し円筒形状に成形されている。図5は、粒径W1が約1mmの鉄ボール5同士がそれぞれ外周にメッキされている銅6によって溶着されている状態を示す鉄ボール5の断面図である。ここで、多孔体2は、銅6がメッキされた隣接する鉄ボール5が形成することとなる複数の隙間7が連通しており、ガスが通過可能とされている。なお、鉄ボール5は外形が球形、かつ中空部8を有し肉厚W2が約30μmの球形のもので、仮に中空でなく中実であった場合に比べ、重量は1/10程度となっている。
【0019】
図6、図7は、図1に示すフィルタ1から多孔体2を除外し穿孔シート3,4の配置構成を示す斜視図および平面図である。穿孔シート3,4は、シート状で円筒状に成形されたものであり、孔の形状は鉄ボール5を通過させない四角形の格子状となっている。なお、穿孔シート3,4は、厚み約0.5mmの鉄板に切り込みを入れて伸ばして成形したエキスパンドメタルである。ここで、第1の穿孔シート3は、多孔体2の外周面を覆い、第2の穿孔シート4は、多孔体2の内周面を覆っている。穿孔シート3,4は、それぞれ一層のエキスパンドメタルから形成されているが、少なくとも一方または両方とも二層以上としても良い。
【0020】
図8は、図1に示すフィルタ1の穿孔シート3,4と多孔体2との接触状態を示す部分拡大図である。穿孔シート3,4と多孔体2は、上述した溶着材料となる銅6によって局部的に溶着している。しかし、穿孔シート3,4の四角形の各孔11は、多孔体2を形成する鉄ボール5の一部がその内部にはまり込んだとしても鉄ボール5が球状であるため多孔体2との間に隙間12が必ず発生する。このため、鉄ボール5が各孔11を完全に塞ぐことがない。よって、フィルタ1は、穿孔シート3,4と多孔体2とが溶着していても、全体としてガスが通過可能とされる。
【0021】
以下、フィルタ1の製造法について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図9は、フィルタ1の製造過程を示すフロー図である。まず、収容容器21を形成する収容容器形成工程(P1)を行う。図10、図11は、収容容器21の斜視図および平面図である。収容容器21は、穿孔シート3,4と、それらの下端面22に接触し両穿孔シート3,4の間に形成される空間の一端側(図10では下端側)を塞ぐセラミック板23とから形成されている。この実施の形態では、セラミック板23は、正方形の板とされ、このセラミック板23の上に穿孔シート3,4がそれぞれの中心軸が同一となるように置かれる。収容容器形成工程(P1)では、図10に示すように、穿孔シート3,4間の空間となる収容部24の厚み寸法W3が全ての場所で均一となるように、すなわち、上述したように、穿孔シート3,4のそれぞれの中心軸が一致するように穿孔シート3,4をセラミック板23の上に置く。第1の穿孔シート3と第2の穿孔シート4の隙間が収容部24となる。
【0023】
次に、鉄ボール5表面に銅めっき(コーティング)をする、コーティング工程(P2)を行う。コーティング工程(P2)では、多数の鉄ボール5に対して銅のバレルめっきを、めっき厚が15μmとなるまで行う。このめっき層が銅6となり、鉄ボール5の表面全域に渡って形成される。鉄ボール5に銅6がめっきされたものを以後、コーティング済みボール25という。
【0024】
その後、コーティング済みボール25を収容容器21の収容部24に収容する、収容工程(P3)を行う。図12は、この収容工程(P3)の様子を示す図である。収容工程(P3)では、コーティング済みボール25を収容部24の全ての空間に投入する。すなわち、収容工程(P3)では、穿孔シート3,4の上端面26に至るまでコーティング済みボール25を収容部24に投入する。
【0025】
その後、コーティング済みボール25を収容容器21とともに還元ガス雰囲気下で焼成する、焼成工程(P4)を行う。図13は、この焼成工程(P4)を行うに際して用いられる、ベルトコンベア式の焼成炉26を示す図である。焼成炉26のベルト27は、図13に示すブロック矢印の方向に進む。図13の左側のベルト26上に、セラミック板23の上に置かれたコーティング済みボール25入りの収容容器21である被焼成体28を所定間隔を空けて置いていく。すると、それらの被焼成体28は、水素ガス雰囲気の焼成室29の中に入り、ベルト26と共に右側へ移動する。焼成室29は、中央部が最も高温に設定されており、その最高温度は1070℃である。よって、被焼成体28は、室温から徐々に高温に曝され、その後室温まで冷却されることとなる。
【0026】
この焼成工程(P4)を経ることで、コーティング済みボール25入りの収容容器21は、その銅6同士の接触部分および銅6と穿孔シート3,4の接触部分が溶着し、フィルタ1となる。このように、穿孔シート3,4は、フィルタ1の成形時の金型治具を兼ねている。また、多孔体2は、加熱と冷却によってその内径が縮む。このため、内周面用の穿孔シートとなる穿孔シート4は、多孔体2に食い込み、外れることはない。
【0027】
図14は、以上に説明したフィルタ1がエアバッグ装置のインフレータ(以下、「エアバッグインフレータ」という。)31に装着された状態を示す縦断面概要図である。エアバッグインフレータ31の天井32および床33によってフィルタ1の内周面34および外周面35以外の端面36が覆われている。そして、ガス発生機構(図示省略)が、穿孔シート4によって囲われる空間38内に収容されている。このガス発生機構から発生したガスは、フィルタ1の内周面34から外周面35を通過して、ガス排出口39,39からエアバッグインフレータ31の外に排出され、エアバッグを膨らませる。ガス発生機構が作動しガスが発生した直後は、発生したガスの温度は約2000℃であるが、フィルタ1を通過することでそのガスは約400℃まで冷却され、点火から約4/1000秒後にはエアバッグが膨らむ。
【0028】
(本発明の実施の形態によって得られる主な効果)
本発明の実施の形態に係るフィルタ1は、多孔体2の外周面および内周面を覆うと共に多孔体2が溶着した穿孔シート3,4を備えている。そのため、フィルタ1をエアバッグ用インフレータ31に組み込む際、人の手などがフィルタ1に接触することなどによって鉄ボール5がはがれてしまうという危険性を大きく減少させることができる。また、フィルタ1をガスが通過する際に鉄ボール5の飛散を抑制することができる。また、鉄ボール5は中空部8を有する中空体であり、中空でなく中実であった場合に比べ、重量は1/10程度となっている。そのため、たとえば従来の特許文献4に記載したフィルタと同形状のフィルタに比べて穿孔シート3,4が付加されているにも拘わらず3割の重量にまで軽量化したフィルタ1を提供できる。
【0029】
また、穿孔シート3,4は、その孔の形状が鉄ボール5を通過させない四角形の格子状となっている。そのため、フィルタ1をガスが通過する際に鉄ボール5の飛散をより抑制することができる。また、四角形の孔となっているので、銅6付きの鉄ボール5が孔を完全に塞ぐという状態を回避することができる。
【0030】
また、穿孔シート3,4は、銅6によって多孔体2と溶着されている。そのため、その溶着部分でフィルタ1全体の耐衝撃性等を高めることができる。さらに、穿孔シート3,4は、多孔体2の成形時に治具として使用されるものであり、製造効率が高まり費用も低減できる。また、銅6がめっきによってコーティングされているので、その厚さが均一化する。このため、隙間7の大きさがより均一化する。この結果、フィルタ1の気体通過性能のばらつきは低くなる。
【0031】
本発明の実施の形態に係るフィルタ1の製造法は、鉄ボール5の表面に銅6をコーティングするコーティング工程(P2)を有している。そのため、焼成工程(P4)時に鉄ボール5が破裂するのを防ぐことができる。従来の特許文献4に記載したフィルタ1の製造法では、ろう材を用いて溶着材料を供給しているが、特にろう材中の銅の量が多いと、焼成工程(P4)時に鉄ボール5が破裂する場合があることが確認されている。
【0032】
また、コーティング工程(P2)は、銅6を15μmの厚みまでめっきする工程である。そのため、メッキ厚を十分に確保でき、銅6同士の接触部分および銅6と穿孔シート3,4の接触部分の溶着が安定的となる。
【0033】
フィルタ1を組み込んだエアバッグインフレータを搭載した自動車は、軽量化することができるため、燃費を抑えることができるとともにガスの排出量を抑えることができるため、極めて環境に適合した自動車となる。また、フィルタ1は、外周面と内周面に穿孔シート3,4が配置されているため、耐圧性の高いフィルタとなる。また、母材粒子となる鉄ボール5の外周に銅6をめっきしているため、球形の表面積が大きくなり、多孔体2を通り抜けるガスなどの気体が多孔体2に接触する面積が大きくなる。このため、通り抜ける気体を冷却する冷却性能が高くなり、気体に含まれるスラグなどのゴミをトラップする確率が高くなり、清浄性能も向上する。さらに消音性能も向上する。
【0034】
(他の形態)
以上、本発明の実施の形態におけるフィルタ1およびその製造法について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない限り種々変更実施可能である。
【0035】
フィルタ1は、多数の鉄ボール5を、鉄ボール5同士を溶着する銅6によって溶着した多孔体2を有し、鉄ボール5が中空かつ球状の金属粒子からなり、円筒形状をなす多孔体2の内周面および外周面を覆う穿孔シート3,4を備えている。しかし、多孔体2の外周面を覆う第1の穿孔シート3と内周面を覆う第2の穿孔シート4のいずれか一方または両方を省略しても良い。しかし、穿孔シート3,4は、収容工程(P3)を行う際に必要となるため、それらを用いることが好ましい。また、穿孔シート3,4によって覆われていない多孔体2の端面を穿孔シート3,4と同様の穿孔シートによって覆うこととしても良い。
【0036】
また、母材粒子は鉄ボール5ではなく、ニッケル、アルミニウム、ステンレス等の中空体としても良い。また、鉄ボール5は、外形が球形であるが、楕円球形状等、他の形状としても良い。また、溶着材料は、銅6ではなくニッケル等、母材粒子よりも融点の低い材料を用いることができる。さらに、銅6の膜厚は鉄ボール5の肉厚よりも小さいが、両者を等しくしたり、銅6の膜厚を鉄ボール5の肉厚よりも大きくしても良い。また、鉄ボール5の粒子径は1mmとしているが、適宜変更できる。例えばその粒子径は、0.5mm〜1.5mmとすることができ、エアバッグ用のフィルタとして0.8mm〜1.2mmが好ましい。
【0037】
また、穿孔板は、穿孔シート3,4のようなエキスパンドメタルではなく、たとえばパンチングメタルシート等であっても良い。また、第1の穿孔シート3と第2の穿孔シート4は、同様の構成としているが、例えば一方をエキスパンドメタルとし、他方をパンチングメタルとする等、両者の構成を異ならせても良い。さらに、穿孔板は、鉄からなるものではなく、ステンレス等の比較的融点の高い物質からなるものであっても良い。また、穿孔板の孔形状は、穿孔シート3,4のように四角形である必要はなく、円形、三角形、六角形等としても良い。また、穿孔シート3,4は、厚み約0.5mmの鉄板に切り込みを入れて伸ばして成形しているが、その厚みは、適宜変更できる。ただし、穿孔シート3,4の強度を考慮すると、その厚みは0.3mm以上とすることが好ましく、また、穿孔シート3,4の成形性等を考慮すると1mm以下とすることが好ましい。また、穿孔シート3,4の各孔11は、鉄ボール5のような母材粒子が通過できない形状とされているが、孔11の形状は、母材粒子が通過できる形状としても良い。
【0038】
また、多孔体2は、外形が円筒状とされているが、円柱状、楕円柱状または直方体形状等、他の形状とされていても良い。ただし、図14に示したようなエアバッグインフレータ31に装着される場合は、ガス発生機構を空間38内に収容するために、多孔体2は、筒状とされていることが好ましい。また、多孔体2が図14に示したようなエアバッグインフレータ31に装着される場合は、穿孔シート3,4が円筒形状の多孔体2の外周面を覆っていることが好ましいが、他の形態のエアバッグインフレータに装着される場合などでは、穿孔シート3,4が多孔体2の外周面を覆わない状態もあり得る。
【0039】
また、穿孔シート3,4は、溶着材料である銅6によって母材粒子である鉄ボール5と溶着されている。しかし、穿孔シート3,4のいずれか一方または両者と鉄ボール5とが溶着されていないようにしても良い。
【0040】
本発明の実施の形態に係るフィルタ1の製造法は、収容容器形成工程(P1)、コーティング工程(P2)と、収容工程(P3)と、焼成工程(P4)とを有し、この順で行っている。しかし、収容容器形成工程(P1)は、コーティング工程(P2)の後または並行的に行っても良い。また、焼成工程(P4)では、ベルトコンベア式の焼成炉26を用いているが、バッチ処理式の焼成炉を用いても良い。また、焼成工程(P4)では還元性ガスとして水素ガスを用いているが、水素ガス、一酸化炭素ガス、硫化水素ガス、ホルムアルデヒドガス等の1種または2種以上を用いても良い。さらに、焼成工程(P4)において、焼成室29は、中央部が最も高温に設定されており、その最高温度は1070℃とされているが、銅6が焼結する温度であれば、適宜その温度を変更することができる。
【0041】
ここで、コーティング工程(P2)は、めっきの工程としているが、蒸着、スパッタリング等、他のコーティング法を実施しても良い。また、銅6のめっき厚は、15μmとしているが、このめっき厚は適宜変更できる。たとえば、銅6の厚みを確保し、溶着材料としての性能ばらつき等を確保する観点からは、その厚みを10μm以上とすることが好ましい。また、製造工程上コーティング工程(P2)に要する時間を短くする観点からは、その厚みを20μm以下とすることが好ましい。
【0042】
また、本発明の実施の形態に係るフィルタ1の製造法は、コーティング工程(P2)を採用しているが、ろう材を用いたろう付けによって鉄ボール5同士を銅6で溶着させることとしても良い。ただし、上述のように、ろう付けをする際には、ろう材の銅の量を多くしないことが必要である。
【0043】
フィルタ1は、エアバッグインフレータ用として用いられるが、他の用途にも用いることが可能である。その他の用途は、たとえば、自動車のマフラー部分に配置される消音材、自動車の冷却フィルタ、濾過槽のフィルタ、クリーンルーム用のフィルタ等である。
【符号の説明】
【0044】
1 フィルタ(エアバッグインフレータ用フィルタ)
2 多孔体
3 第1の穿孔シート(外周面用の穿孔板)
4 第2の穿孔シート(内周面用の穿孔板)
5 鉄ボール(母材粒子)
6 銅(溶着材料)
11 孔
P2 コーティング工程
P3 収容工程
P4 焼成工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグインフレータ用フィルタおよびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグインフレータ用フィルタは、インフレータ内の火薬の爆発時にその火薬から出るスラグの除去とガスの冷却を行うものである。従来より、この種のフィルタおよびその製造方法が知られている。たとえば、特開平7−285412号公報(特許文献1)には、金属線材織機を用いて金属の細い線材を織り込み、筒状に編んだ素材を圧縮して製造する筒状のエアバッグ装置のインフレータ用フィルタおよびその製造方法が開示されている。また、特開2002−249017号公報(特許文献2)には、金属の板材を菱形に切り刻んでコイル状とし、それを切断し、巻き重ねて製造する筒状のエアバッグ装置のインフレータ用フィルタおよびその製造方法(エクスパンド加工)が開示されている。また、特開2002−331235号公報(特許文献3)には、球状粉を成形、焼結して製造するフィルタおよびその製造方法が開示されている。
【0003】
しかし、上記の従来の技術には、次のような問題がある。特許文献1に開示されるフィルタを製造する場合、金属線材織機が織り込める金属線の太さに制約がある。また、金属線を編む時間がかかり過ぎ、製造コストが高いという問題もある。また、特許文献2に開示されるフィルタを製造する場合には、エクスパンド加工に多くのプロセスが必要とされるため、製造コストが高くなるという問題がある。また、特許文献3に開示されるフィルタは、耐圧性に欠けるという問題を有している。さらに、焼結によって多孔体を製造する場合、多孔体の外形を所定形状に成形する工程が必要になる。このため、通常、金型を用いた成形工程が必要となり、製造コストが高くなるという問題がある。金型成形を行わずに焼結する方法も考えられるが、焼結が進行せず、多孔体の耐圧性が低くなるという問題が起きる。さらに、金型を使用せずに成形し、その後、所望のフィルタ形状に切り出し、かかる後に焼結する方法も考えられる。しかし、金型成形を行う場合の製造コストよりも、切り出しの工程を行う場合の製造コストの方が高くなる。このため、低コストでフィルタを製造できないという問題が生じる。加えて、フィルタが有する冷却性能、清浄性能または消音性能のさらなる向上が望まれている。
【0004】
このような問題を解決すべく本出願人は先に、耐圧性能、冷却性能、清浄性能および消音性能にも優れ、かつ低コストで製造可能なフィルタおよびその製造方法を提供することを目的として、母材粒子と、その母材粒子同士を溶着する、母材粒子の融点よりも低い融点を持つ溶着材料とから構成されるフィルタを提案した(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−285412号公報
【特許文献2】特開2002−249017号公報
【特許文献3】特開2002−331235号公報
【特許文献4】国際公開第2004/073909号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載されているエアバッグインフレータ用フィルタは、インフレータに組み込む際に人の手の力などで、母材粒子がはがれ落ちるおそれがある。また、母材粒子に通常用いられる金属球がエアバッグインフレータ用フィルタ全体を重くし、自動車の軽量化を図ることが困難である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、母材粒子のはがれを抑制し、かつ、軽量なエアバッグインフレータ用フィルタおよびその製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグインフレータ用フィルタは、多数の中空かつ球状の母材粒子を溶着材料によって隣接する母材粒子を溶着した円筒状の多孔体と、多孔体の内周面の一部または全部を覆うと共に多孔体が溶着した内周面用の穿孔板とを有している。
【0009】
ここで、多孔体の外周面を覆うと共に多孔体が溶着した外周面用の穿孔板が配置され、外周面用の穿孔板の孔は、母材粒子が通過できない形状とされていることが好ましい。
【0010】
また、穿孔板は、多孔体の成形時に金型治具として用いられたものであることが好ましい。
【0011】
また、母材粒子は、水に浮くものであり、穿孔板は、一層のエクスパンドメタルから形成されていることが好ましい。
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のエアバッグインフレータ用フィルタの製造法は、多数の中空かつ球状の金属材からなる母材粒子の表面に母材粒子の融点よりも低い融点を有する溶着材料をコーティングするコーティング工程と、コーティング工程を経た母材粒子を、小径および大径の2つの円筒状の穿孔板を中心軸が同一となるように配置し、両穿孔板の間に形成される空間の一端側を塞いだ収容容器の空間に収容する収容工程と、収容工程を経た後、母材粒子を収容容器とともに還元ガス雰囲気下で焼成する焼成工程と、を有する。
【0013】
ここで、コーティング工程は、溶着材料を10μmから20μmの厚みまでめっきする工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、母材粒子のはがれを抑制し、かつ、軽量なエアバッグインフレータ用フィルタおよびその製造法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示すエアバッグインフレータ用フィルタの平面図である。
【図3】図1に示すエアバッグインフレータ用フィルタに用いられる多孔体の構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示す多孔体の平面図である。
【図5】図1から図4に示す多孔体の母材粒子である鉄ボール同士が銅によって溶着されている状態を示す鉄ボールの断面図である。
【図6】図1に示すエアバッグインフレータ用フィルタに用いられる2つの穿孔シートの配置構成を示す斜視図である。
【図7】図6に示す2つの穿孔シートの平面図である。
【図8】図1に示すエアバッグインフレータ用フィルタの穿孔シートと多孔体との接触状態を示す部分拡大図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの製造過程を示すフロー図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの製造に用いる収容容器の斜視図である。
【図11】図10に示す収容容器の平面図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの製造に係る収容工程の様子を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタの製造に係る焼成工程を行うに際して用いられる、ベルトコンベア式の焼成炉を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタがエアバッグインフレータに装着された状態を示す縦断面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るエアバッグインフレータ用フィルタ(以下、「フィルタ」と略記する。)の構成について、図面を参照しながら説明する。このフィルタは、自動車などのエアバッグ装置のインフレータに用いられるものである。
【0017】
図1、図2は、本発明の実施の形態に係るフィルタ1の構成を示す斜視図および平面図である。フィルタ1は、全体形状が円筒状の形状をしている。フィルタ1の構成部材は、大別して多孔体2と、穿孔板である第1の穿孔シート3および第2の穿孔シート4(両者の穿孔シートを指すときは、「穿孔シート3,4」と記する。)である。
【0018】
図3、図4は、図1、図2に示すフィルタ1から外周面用の穿孔板となる穿孔シート3と内周面用の穿孔板となる穿孔シート4を除外し多孔体2の構成を示す斜視図および平面図である。多孔体2は、母材粒子となる中空かつ球状の鉄ボール5が多数集まったもので、金属ボール5同士を溶着材料となる銅(図示省略)によって溶着し円筒形状に成形されている。図5は、粒径W1が約1mmの鉄ボール5同士がそれぞれ外周にメッキされている銅6によって溶着されている状態を示す鉄ボール5の断面図である。ここで、多孔体2は、銅6がメッキされた隣接する鉄ボール5が形成することとなる複数の隙間7が連通しており、ガスが通過可能とされている。なお、鉄ボール5は外形が球形、かつ中空部8を有し肉厚W2が約30μmの球形のもので、仮に中空でなく中実であった場合に比べ、重量は1/10程度となっている。
【0019】
図6、図7は、図1に示すフィルタ1から多孔体2を除外し穿孔シート3,4の配置構成を示す斜視図および平面図である。穿孔シート3,4は、シート状で円筒状に成形されたものであり、孔の形状は鉄ボール5を通過させない四角形の格子状となっている。なお、穿孔シート3,4は、厚み約0.5mmの鉄板に切り込みを入れて伸ばして成形したエキスパンドメタルである。ここで、第1の穿孔シート3は、多孔体2の外周面を覆い、第2の穿孔シート4は、多孔体2の内周面を覆っている。穿孔シート3,4は、それぞれ一層のエキスパンドメタルから形成されているが、少なくとも一方または両方とも二層以上としても良い。
【0020】
図8は、図1に示すフィルタ1の穿孔シート3,4と多孔体2との接触状態を示す部分拡大図である。穿孔シート3,4と多孔体2は、上述した溶着材料となる銅6によって局部的に溶着している。しかし、穿孔シート3,4の四角形の各孔11は、多孔体2を形成する鉄ボール5の一部がその内部にはまり込んだとしても鉄ボール5が球状であるため多孔体2との間に隙間12が必ず発生する。このため、鉄ボール5が各孔11を完全に塞ぐことがない。よって、フィルタ1は、穿孔シート3,4と多孔体2とが溶着していても、全体としてガスが通過可能とされる。
【0021】
以下、フィルタ1の製造法について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図9は、フィルタ1の製造過程を示すフロー図である。まず、収容容器21を形成する収容容器形成工程(P1)を行う。図10、図11は、収容容器21の斜視図および平面図である。収容容器21は、穿孔シート3,4と、それらの下端面22に接触し両穿孔シート3,4の間に形成される空間の一端側(図10では下端側)を塞ぐセラミック板23とから形成されている。この実施の形態では、セラミック板23は、正方形の板とされ、このセラミック板23の上に穿孔シート3,4がそれぞれの中心軸が同一となるように置かれる。収容容器形成工程(P1)では、図10に示すように、穿孔シート3,4間の空間となる収容部24の厚み寸法W3が全ての場所で均一となるように、すなわち、上述したように、穿孔シート3,4のそれぞれの中心軸が一致するように穿孔シート3,4をセラミック板23の上に置く。第1の穿孔シート3と第2の穿孔シート4の隙間が収容部24となる。
【0023】
次に、鉄ボール5表面に銅めっき(コーティング)をする、コーティング工程(P2)を行う。コーティング工程(P2)では、多数の鉄ボール5に対して銅のバレルめっきを、めっき厚が15μmとなるまで行う。このめっき層が銅6となり、鉄ボール5の表面全域に渡って形成される。鉄ボール5に銅6がめっきされたものを以後、コーティング済みボール25という。
【0024】
その後、コーティング済みボール25を収容容器21の収容部24に収容する、収容工程(P3)を行う。図12は、この収容工程(P3)の様子を示す図である。収容工程(P3)では、コーティング済みボール25を収容部24の全ての空間に投入する。すなわち、収容工程(P3)では、穿孔シート3,4の上端面26に至るまでコーティング済みボール25を収容部24に投入する。
【0025】
その後、コーティング済みボール25を収容容器21とともに還元ガス雰囲気下で焼成する、焼成工程(P4)を行う。図13は、この焼成工程(P4)を行うに際して用いられる、ベルトコンベア式の焼成炉26を示す図である。焼成炉26のベルト27は、図13に示すブロック矢印の方向に進む。図13の左側のベルト26上に、セラミック板23の上に置かれたコーティング済みボール25入りの収容容器21である被焼成体28を所定間隔を空けて置いていく。すると、それらの被焼成体28は、水素ガス雰囲気の焼成室29の中に入り、ベルト26と共に右側へ移動する。焼成室29は、中央部が最も高温に設定されており、その最高温度は1070℃である。よって、被焼成体28は、室温から徐々に高温に曝され、その後室温まで冷却されることとなる。
【0026】
この焼成工程(P4)を経ることで、コーティング済みボール25入りの収容容器21は、その銅6同士の接触部分および銅6と穿孔シート3,4の接触部分が溶着し、フィルタ1となる。このように、穿孔シート3,4は、フィルタ1の成形時の金型治具を兼ねている。また、多孔体2は、加熱と冷却によってその内径が縮む。このため、内周面用の穿孔シートとなる穿孔シート4は、多孔体2に食い込み、外れることはない。
【0027】
図14は、以上に説明したフィルタ1がエアバッグ装置のインフレータ(以下、「エアバッグインフレータ」という。)31に装着された状態を示す縦断面概要図である。エアバッグインフレータ31の天井32および床33によってフィルタ1の内周面34および外周面35以外の端面36が覆われている。そして、ガス発生機構(図示省略)が、穿孔シート4によって囲われる空間38内に収容されている。このガス発生機構から発生したガスは、フィルタ1の内周面34から外周面35を通過して、ガス排出口39,39からエアバッグインフレータ31の外に排出され、エアバッグを膨らませる。ガス発生機構が作動しガスが発生した直後は、発生したガスの温度は約2000℃であるが、フィルタ1を通過することでそのガスは約400℃まで冷却され、点火から約4/1000秒後にはエアバッグが膨らむ。
【0028】
(本発明の実施の形態によって得られる主な効果)
本発明の実施の形態に係るフィルタ1は、多孔体2の外周面および内周面を覆うと共に多孔体2が溶着した穿孔シート3,4を備えている。そのため、フィルタ1をエアバッグ用インフレータ31に組み込む際、人の手などがフィルタ1に接触することなどによって鉄ボール5がはがれてしまうという危険性を大きく減少させることができる。また、フィルタ1をガスが通過する際に鉄ボール5の飛散を抑制することができる。また、鉄ボール5は中空部8を有する中空体であり、中空でなく中実であった場合に比べ、重量は1/10程度となっている。そのため、たとえば従来の特許文献4に記載したフィルタと同形状のフィルタに比べて穿孔シート3,4が付加されているにも拘わらず3割の重量にまで軽量化したフィルタ1を提供できる。
【0029】
また、穿孔シート3,4は、その孔の形状が鉄ボール5を通過させない四角形の格子状となっている。そのため、フィルタ1をガスが通過する際に鉄ボール5の飛散をより抑制することができる。また、四角形の孔となっているので、銅6付きの鉄ボール5が孔を完全に塞ぐという状態を回避することができる。
【0030】
また、穿孔シート3,4は、銅6によって多孔体2と溶着されている。そのため、その溶着部分でフィルタ1全体の耐衝撃性等を高めることができる。さらに、穿孔シート3,4は、多孔体2の成形時に治具として使用されるものであり、製造効率が高まり費用も低減できる。また、銅6がめっきによってコーティングされているので、その厚さが均一化する。このため、隙間7の大きさがより均一化する。この結果、フィルタ1の気体通過性能のばらつきは低くなる。
【0031】
本発明の実施の形態に係るフィルタ1の製造法は、鉄ボール5の表面に銅6をコーティングするコーティング工程(P2)を有している。そのため、焼成工程(P4)時に鉄ボール5が破裂するのを防ぐことができる。従来の特許文献4に記載したフィルタ1の製造法では、ろう材を用いて溶着材料を供給しているが、特にろう材中の銅の量が多いと、焼成工程(P4)時に鉄ボール5が破裂する場合があることが確認されている。
【0032】
また、コーティング工程(P2)は、銅6を15μmの厚みまでめっきする工程である。そのため、メッキ厚を十分に確保でき、銅6同士の接触部分および銅6と穿孔シート3,4の接触部分の溶着が安定的となる。
【0033】
フィルタ1を組み込んだエアバッグインフレータを搭載した自動車は、軽量化することができるため、燃費を抑えることができるとともにガスの排出量を抑えることができるため、極めて環境に適合した自動車となる。また、フィルタ1は、外周面と内周面に穿孔シート3,4が配置されているため、耐圧性の高いフィルタとなる。また、母材粒子となる鉄ボール5の外周に銅6をめっきしているため、球形の表面積が大きくなり、多孔体2を通り抜けるガスなどの気体が多孔体2に接触する面積が大きくなる。このため、通り抜ける気体を冷却する冷却性能が高くなり、気体に含まれるスラグなどのゴミをトラップする確率が高くなり、清浄性能も向上する。さらに消音性能も向上する。
【0034】
(他の形態)
以上、本発明の実施の形態におけるフィルタ1およびその製造法について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない限り種々変更実施可能である。
【0035】
フィルタ1は、多数の鉄ボール5を、鉄ボール5同士を溶着する銅6によって溶着した多孔体2を有し、鉄ボール5が中空かつ球状の金属粒子からなり、円筒形状をなす多孔体2の内周面および外周面を覆う穿孔シート3,4を備えている。しかし、多孔体2の外周面を覆う第1の穿孔シート3と内周面を覆う第2の穿孔シート4のいずれか一方または両方を省略しても良い。しかし、穿孔シート3,4は、収容工程(P3)を行う際に必要となるため、それらを用いることが好ましい。また、穿孔シート3,4によって覆われていない多孔体2の端面を穿孔シート3,4と同様の穿孔シートによって覆うこととしても良い。
【0036】
また、母材粒子は鉄ボール5ではなく、ニッケル、アルミニウム、ステンレス等の中空体としても良い。また、鉄ボール5は、外形が球形であるが、楕円球形状等、他の形状としても良い。また、溶着材料は、銅6ではなくニッケル等、母材粒子よりも融点の低い材料を用いることができる。さらに、銅6の膜厚は鉄ボール5の肉厚よりも小さいが、両者を等しくしたり、銅6の膜厚を鉄ボール5の肉厚よりも大きくしても良い。また、鉄ボール5の粒子径は1mmとしているが、適宜変更できる。例えばその粒子径は、0.5mm〜1.5mmとすることができ、エアバッグ用のフィルタとして0.8mm〜1.2mmが好ましい。
【0037】
また、穿孔板は、穿孔シート3,4のようなエキスパンドメタルではなく、たとえばパンチングメタルシート等であっても良い。また、第1の穿孔シート3と第2の穿孔シート4は、同様の構成としているが、例えば一方をエキスパンドメタルとし、他方をパンチングメタルとする等、両者の構成を異ならせても良い。さらに、穿孔板は、鉄からなるものではなく、ステンレス等の比較的融点の高い物質からなるものであっても良い。また、穿孔板の孔形状は、穿孔シート3,4のように四角形である必要はなく、円形、三角形、六角形等としても良い。また、穿孔シート3,4は、厚み約0.5mmの鉄板に切り込みを入れて伸ばして成形しているが、その厚みは、適宜変更できる。ただし、穿孔シート3,4の強度を考慮すると、その厚みは0.3mm以上とすることが好ましく、また、穿孔シート3,4の成形性等を考慮すると1mm以下とすることが好ましい。また、穿孔シート3,4の各孔11は、鉄ボール5のような母材粒子が通過できない形状とされているが、孔11の形状は、母材粒子が通過できる形状としても良い。
【0038】
また、多孔体2は、外形が円筒状とされているが、円柱状、楕円柱状または直方体形状等、他の形状とされていても良い。ただし、図14に示したようなエアバッグインフレータ31に装着される場合は、ガス発生機構を空間38内に収容するために、多孔体2は、筒状とされていることが好ましい。また、多孔体2が図14に示したようなエアバッグインフレータ31に装着される場合は、穿孔シート3,4が円筒形状の多孔体2の外周面を覆っていることが好ましいが、他の形態のエアバッグインフレータに装着される場合などでは、穿孔シート3,4が多孔体2の外周面を覆わない状態もあり得る。
【0039】
また、穿孔シート3,4は、溶着材料である銅6によって母材粒子である鉄ボール5と溶着されている。しかし、穿孔シート3,4のいずれか一方または両者と鉄ボール5とが溶着されていないようにしても良い。
【0040】
本発明の実施の形態に係るフィルタ1の製造法は、収容容器形成工程(P1)、コーティング工程(P2)と、収容工程(P3)と、焼成工程(P4)とを有し、この順で行っている。しかし、収容容器形成工程(P1)は、コーティング工程(P2)の後または並行的に行っても良い。また、焼成工程(P4)では、ベルトコンベア式の焼成炉26を用いているが、バッチ処理式の焼成炉を用いても良い。また、焼成工程(P4)では還元性ガスとして水素ガスを用いているが、水素ガス、一酸化炭素ガス、硫化水素ガス、ホルムアルデヒドガス等の1種または2種以上を用いても良い。さらに、焼成工程(P4)において、焼成室29は、中央部が最も高温に設定されており、その最高温度は1070℃とされているが、銅6が焼結する温度であれば、適宜その温度を変更することができる。
【0041】
ここで、コーティング工程(P2)は、めっきの工程としているが、蒸着、スパッタリング等、他のコーティング法を実施しても良い。また、銅6のめっき厚は、15μmとしているが、このめっき厚は適宜変更できる。たとえば、銅6の厚みを確保し、溶着材料としての性能ばらつき等を確保する観点からは、その厚みを10μm以上とすることが好ましい。また、製造工程上コーティング工程(P2)に要する時間を短くする観点からは、その厚みを20μm以下とすることが好ましい。
【0042】
また、本発明の実施の形態に係るフィルタ1の製造法は、コーティング工程(P2)を採用しているが、ろう材を用いたろう付けによって鉄ボール5同士を銅6で溶着させることとしても良い。ただし、上述のように、ろう付けをする際には、ろう材の銅の量を多くしないことが必要である。
【0043】
フィルタ1は、エアバッグインフレータ用として用いられるが、他の用途にも用いることが可能である。その他の用途は、たとえば、自動車のマフラー部分に配置される消音材、自動車の冷却フィルタ、濾過槽のフィルタ、クリーンルーム用のフィルタ等である。
【符号の説明】
【0044】
1 フィルタ(エアバッグインフレータ用フィルタ)
2 多孔体
3 第1の穿孔シート(外周面用の穿孔板)
4 第2の穿孔シート(内周面用の穿孔板)
5 鉄ボール(母材粒子)
6 銅(溶着材料)
11 孔
P2 コーティング工程
P3 収容工程
P4 焼成工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の中空かつ球状の母材粒子を溶着材料によって隣接する上記母材粒子を溶着した円筒状の多孔体と、上記多孔体の内周面の一部または全部を覆うと共に上記多孔体が溶着した内周面用の穿孔板とを有していることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタ。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグインフレータ用フィルタにおいて、
前記多孔体の外周面を覆うと共に上記多孔体が溶着した外周面用の穿孔板が配置され、上記外周面用の穿孔板の孔は、前記母材粒子が通過できない形状とされていることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエアバッグインフレータ用フィルタにおいて、
前記穿孔板は、前記多孔体の成形時に金型治具として用いられたものであることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のエアバッグインフレータ用フィルタにおいて、
前記母材粒子は、水に浮くものであり、前記穿孔板は、一層のエクスパンドメタルから形成されていることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタ。
【請求項5】
多数の中空かつ球状の金属材からなる母材粒子の表面に上記母材粒子の融点よりも低い融点を有する溶着材料をコーティングするコーティング工程と、
上記コーティング工程を経た母材粒子を、小径および大径の2つの円筒状の穿孔板を中心軸が同一となるように配置し、両穿孔板の間に形成される空間の一端側を塞いだ収容容器の上記空間に収容する収容工程と、
上記収容工程を経た後、上記母材粒子を上記収容容器とともに還元ガス雰囲気下で焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタの製造法。
【請求項6】
請求項5記載のエアバッグインフレータ用フィルタの製造法において、
前記コーティング工程は、前記溶着材料を10μmから20μmの厚みまでめっきする工程であることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタの製造法。
【請求項1】
多数の中空かつ球状の母材粒子を溶着材料によって隣接する上記母材粒子を溶着した円筒状の多孔体と、上記多孔体の内周面の一部または全部を覆うと共に上記多孔体が溶着した内周面用の穿孔板とを有していることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタ。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグインフレータ用フィルタにおいて、
前記多孔体の外周面を覆うと共に上記多孔体が溶着した外周面用の穿孔板が配置され、上記外周面用の穿孔板の孔は、前記母材粒子が通過できない形状とされていることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエアバッグインフレータ用フィルタにおいて、
前記穿孔板は、前記多孔体の成形時に金型治具として用いられたものであることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のエアバッグインフレータ用フィルタにおいて、
前記母材粒子は、水に浮くものであり、前記穿孔板は、一層のエクスパンドメタルから形成されていることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタ。
【請求項5】
多数の中空かつ球状の金属材からなる母材粒子の表面に上記母材粒子の融点よりも低い融点を有する溶着材料をコーティングするコーティング工程と、
上記コーティング工程を経た母材粒子を、小径および大径の2つの円筒状の穿孔板を中心軸が同一となるように配置し、両穿孔板の間に形成される空間の一端側を塞いだ収容容器の上記空間に収容する収容工程と、
上記収容工程を経た後、上記母材粒子を上記収容容器とともに還元ガス雰囲気下で焼成する焼成工程と、
を有することを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタの製造法。
【請求項6】
請求項5記載のエアバッグインフレータ用フィルタの製造法において、
前記コーティング工程は、前記溶着材料を10μmから20μmの厚みまでめっきする工程であることを特徴とするエアバッグインフレータ用フィルタの製造法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−156962(P2011−156962A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20174(P2010−20174)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(593029721)株式会社ミヤタ (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(593029721)株式会社ミヤタ (9)
【Fターム(参考)】
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