説明

エアバッグ制御装置

【課題】状況に応じた的確なエアバッグの展開を可能とするエアバッグ制御装置を提供する。
【解決手段】車両に搭載されたバッテリからの電源電圧を入力とし、車両に作用する加速度を検出する加速度センサのための駆動電圧を出力とする電源部が、該加速度センサに駆動電圧を供給することで得られる加速度検出結果に基づいて、該車両に搭載されたエアバッグの展開を制御するエアバッグ制御装置において、バッテリから出力される電源電圧が第一基準電圧より低いと判断され、且つ電源部入力電圧が第二基準電圧より低いと判断されると、加速度センサの加速度検出結果に基づいたエアバッグの展開制御を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたエアバッグの展開を制御するエアバッグ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ制御装置は、車両に作用する加速度を検出する加速度センサの検出結果に基づいてエアバッグの展開を行う。ここで、加速度センサの出力は、それに入力される駆動電圧の値に影響される特性を有することが多く、そのため過ってエアバッグが展開してしまうことを回避するために、加速度センサの駆動電圧の変動が現れる前に、当該エアバッグの展開に関する制御を禁止する禁止処理が行われる場合がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両のイグニッションスイッチがオフにされたときにおける、エアバッグの誤展開を確実に回避するために、イグニッションスイッチを介した、展開のためのマイクロコンピュータに定電圧を供給する電源回路への入力電圧が所定値を下回った場合には、エアバッグの展開を禁止する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平11−334526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両に搭載されるエアバッグは、乗員保護を主とするものであるから、その展開には、より正確さが求められる。ここで、車両に作用する衝撃力を検出するために加速度センサが広く使用されているが、それは、該加速度センサに供給される駆動電圧が変動すると、その出力も変動してしまう駆動電圧依存型の出力特性を有する場合があるため、エアバッグの展開が禁止されるのは上述の通りである。
【0005】
しかし、上記の理由によりエアバッグの展開が不用意に禁止されてしまうと、本来エアバッグを展開すべきであるタイミングでその展開を行えなくなる可能性も捨てきれない。従来では、加速度センサに駆動電圧を供給する電源部への入力電圧の変動を監視することで、該電源部から加速度センサに供給される駆動電圧の変化による該加速度センサの出力特性の変動を予防的に監視している。ここで、車両搭載のバッテリから電源電圧が電源部に供給されている装置構成では、電源部への入力電圧が一時的に低下したとしても、バックアップ電源の補助によりエアバッグ制御装置としての機能が維持され、また該電源部の出力変動も小さい範囲で済む場合がある。そのような場合は、まだエアバッグの展開が可能な状況でもあり、従来の手法に従い電源部への入力電圧のみで展開の可否を判断してしまうと、エアバッグが展開すべき状況において展開を禁止してしまうという、エアバッグの性能を考慮する上で好ましくはない状況となる。
【0006】
本発明では、上記した問題に鑑み、状況に応じた的確なエアバッグの展開を可能とするエアバッグ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本出願人は、車両搭載のエアバッグの展開の可否判断の基準を、エアバッグ制御装置のメインの電源電圧となる、バッテリからの電源電圧と、加速度センサの駆動電圧の供給源である電源部への入力直前の電圧との両者とした。すなわち、電源部への入力電圧のみを監視するのではなく、メインの電源であるバッテリからの電源電圧もともに監視することで、加速度センサによる加速度検出が正確に行うことができない状態であるか否かをより確実に判断する。
【0008】
そこで、本発明に係るエアバッグ制御装置について開示すると、該エアバッグ制御装置は、車両に搭載されたバッテリからの電源電圧を入力とし、車両に作用する加速度を検出する加速度センサのための駆動電圧を出力とする電源部と、該加速度センサからの出力による点火制御信号に基づいて該車両に搭載されたエアバッグの展開を制御する駆動制御部とを備えるエアバッグ制御装置である。そして、当該エアバッグ制御装置は、前記バッテリから出力される電源電圧と、該バッテリからの電源電圧の一部を蓄電可能なバックアップ蓄電部から出力されるバックアップ電圧との何れかを、該バッテリからの電源電圧の変動に従って切り替えて前記電源部に入力する切替部と、前記バッテリから出力される電源電圧が、第一基準電圧より低いか否かを判定する第一判定部と、前記切替部を介して前記電源部に入力される電源部入力電圧が、第二基準電圧より低いか否かを判定する第二判定部と、前記第一判定部によって前記バッテリから出力される電源電圧が前記第一基準電圧より低いと判断され、且つ前記第二判定部によって前記電源部入力電圧が前記第二基準電圧より低いと判断されると、前記エアバッグの展開を禁止する展開禁止部と、を備える。
【0009】
上記エアバッグ制御装置では、電源部から駆動電圧の供給を受ける加速度センサの出力による点火制御信号に基づいて、エアバッグの展開が行われる。ここで、電源部への入力電圧として、通常の場合のバッテリからの電源電圧と、非常時の場合のバックアップ蓄電部からのバックアップ電圧とが挙げられ、この切替を、切替部がバッテリからの電源電圧の変動に従って行う。例えば、バッテリからの電源電圧が何らかの理由で低下してきた場合は、切替部がバックアップ蓄電部からのバックアップ電圧が電源部に入力されるように、上記切り替えを行う。これにより、エアバッグ制御装置としての機能を可及的に長く維持し、以てエアバッグ展開が必要なタイミングでの、必要なエアバッグ展開の制御が行えるようになる。
【0010】
ただし、上述したように、加速度センサへ供給される駆動電圧が変動すると、その出力が変化しエアバッグの展開が好ましい状態で行われにくくなる。そこで、上記エアバッグ制御装置では、第一判定部と第二判定部の判定結果に従って展開禁止部がエアバッグの展開の可否を制御する。第一判定部は、バッテリからの電源電圧が第一基準電圧より低いか否かを判定するものであり、すなわちエアバッグ制御装置を駆動させるための大元となる電源の電圧が、良好な状態であるか否かを判定する。また、第二判定部は、電源部入力電圧が第二基準電圧より低いか否かを判定するものであり、すなわち加速度センサへの駆動電圧供給を行う電源部の出力に影響を及ぼすその入力電圧であって、切替部によって切り替えられたバッテリからの電源電圧又はバックアップ電圧に起因する電圧が、良好な状態にあるかを判定する。
【0011】
このような第一判定部と第二判定部を有し、バッテリからの電源電圧とバックアップ電圧とが切替部によって切り替えられて、いずれかが選択的に電源部に入力される構成を有するエアバッグ制御装置において、第一判定部による判定結果は、当該エアバッグ制御装置そのものが正常に作動するか否かを判断するための指標となるものである。仮に電源部への入力電圧が一時的に低下しても、エアバッグ制御装置自体が正常に作動することが可能であるのならば、電源部への入力電圧が回復する可能性もあるため、当該一時的な低下をもってエアバッグの展開を禁止してしまうと、車両乗員の保護を十分に図ることが困難となり得る。このように、第一判定部の判定結果は、加速度センサの検出結果に基づいたエアバッグの展開の可否を判断する上で、考慮に入れるべきファクタである。
【0012】
そこで、上記エアバッグ制御装置では、第一判定部によって前記バッテリから出力される電源電圧が第一基準電圧より低いと判断され、且つ第二判定部によって前記電源部入力電圧が前記第二基準電圧より低いと判断されるとき、すなわち両判定部において、対象電圧が、それぞれの基準電圧を下回ったときに初めて、展開禁止部によりエアバッグの展開
が禁止される。このようにエアバッグの展開の可否を判断することで、加速度センサの出力特性がより確かに悪化する条件のときにのみエアバッグ展開が禁止されるとともに、本来エアバッグの展開が行われるタイミングでの、加速度センサの検出結果に基づいた該展開は維持されることになる。これにより、エアバッグの不用意な展開の禁止を回避し、状況に応じた的確なエアバッグの展開を可能とする。
【0013】
上記エアバッグ制御装置において、前記第一判定部は、前記バッテリから出力される電源電圧が前記第一基準電圧を下回り、前記切替部によって前記電源部への入力が前記バックアップ電圧に切り替えられた時点から、所定遅延時間が経過したことをもって、該電源電圧が該第一基準電圧より低い状態であると判定するようにしてもよい。すなわち、切替部による電源部へのバッテリ電圧の入力切替を考慮したものである。切替部を有することにより、バッテリからの電源電圧が低下してもバックアップ電圧が電源部に入力されることになるため、この切替に関するタイミングにおいては、電源部への入力電圧が一時的に低下してもバックアップ電圧のバックアップを受け、いわば実質的には制御装置としての機能は維持し得る状態にある。そこで、バッテリからの電源電圧が低下しても、第一判定部による電圧低下の判定を所定遅延時間だけ遅らせることで、バックアップ電圧による電源部のバックアップの効果を優先させ、展開禁止部による展開の禁止が行われないようにする。これにより、状況に応じた的確なエアバッグの展開が保持されることになる。
【0014】
ここで、上述までのエアバッグ制御装置において、前記展開禁止部は、前記第一判定部によって前記バッテリから出力される電源電圧が前記第一基準電圧より低いと判断され、且つ前記第二判定部によって前記電源部入力電圧が前記第二基準電圧より低いと判断される状態が第一所定時間、継続することをもって、前記加速度センサの加速度検出結果に基づいた前記エアバッグの展開を禁止するようにしてもよい。このように構成することで、突発的に又は偶発的に生じた電圧低下に影響されることなく、第一判定部と第二判定部の判定結果に基づいたエアバッグ展開の安定した禁止可否の判断が可能となる。
【0015】
また、上記エアバッグ制御装置において、更に、前記展開禁止部によって前記エアバッグの展開が禁止された状態で、前記第一判定部によって前記バッテリから出力される電源電圧が前記第一基準電圧より低くないと判断され、且つ前記第二判定部によって前記電源部入力電圧が前記第二基準電圧より低くないと判断される状態が第二所定時間、継続することをもって、該エアバッグの展開の再開を許可する展開許可部を備えるようにしてもよい。
【0016】
展開許可部は、上記展開禁止部によってエアバッグの展開が禁止された状態において、当該エアバッグの展開を再開させるために、第一判定部と第二判定部の判定結果を考慮する。展開禁止部によってエアバッグの展開が禁止されているということは、エアバッグ制御装置および電源部に関係する電圧状態が、エアバッグの制御のためには好ましい状態となっていないことを意味する。そこで、展開許可部は、これらの電圧状態が完全に回復したことをもって、すなわち第一判定部と第二判定部の両判定部によって、電圧状態が良好であることが確認された上で、エアバッグの展開の再開を開始するものとする。このとき、突発的な又は偶発的な電圧状態の回復によって、エアバッグの展開が再開されてしまうのを回避するために、上記のように両判定部による電圧状態の回復が第二所定時間確認され続けることが、展開許可部による再開の条件となる。
【0017】
また、好ましくは、前記第二所定時間は、前記第一所定時間より長い時間に設定される。これは、エアバッグ展開の再開については車両乗員に不測の事態が生じさせないようにするために、エアバッグ制御装置および電源部に関係する電圧状態が良好な状態に回復したことをより確かに判定する必要があるからである。
【発明の効果】
【0018】
状況に応じた的確なエアバッグの展開を可能とするエアバッグ制御装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<実施例1>
ここで、本発明に係るエアバッグ制御装置の実施例について、明細書添付の図面に基づいて説明する。なお、当該実施例は本発明に係るエアバッグ制御装置の一例を示すものであり、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0020】
図1は、エアバッグ制御装置1の概略構成を機能ブロック図の形式で示したものである。エアバッグ制御装置1は、図示しない車両に搭載されたエアバッグを、その乗員保護のために必要なタイミングで展開制御するための装置であり、大別してIC10とマイコン20とで構成されている。なお、IC10、マイコン20内には記憶部や演算部をはじめ、様々なデバイスが搭載されているが、図1においてそれらは明示されておらず、そこでプログラムが実行されることで発揮される機能がイメージ化して、各機能ブロックとして表現されている。
【0021】
ここで、エアバッグ制御装置1では、車両に設けられた二つの加速度センサ16、23によって検出された加速度に基づいて、エアバッグの展開制御を行う。メイン加速度センサ23は、車両に作用した加速度を検出して、エアバッグの展開の可否や衝突形態、エアバッグの展開タイミング等の、エアバッグの展開に関する詳細な制御を行うためのセンサであり、当該加速度が正確に検出されるように加速度の向き等を考慮して車両に取り付けられる。一方で、サブ加速度センサ16は、車両に作用する加速度を検出して衝突の発生の有無を制御するためのセンサであり、メイン加速度センサ23と同様に、加速度の向き等を考慮して車両に取り付けられる。
【0022】
そして、メイン加速度センサ23によって検出された加速度は、マイコン20内の点火判定部21に引き渡され、サブ加速度センサ16によって検出された加速度は、IC10内の点火判定部14内に引き渡される。両点火判定部14、21は、IC10内の通信部15、マイコン20内の通信部22を介して互いの情報をやり取りし、最終的に車両に作用した加速度に基づいてエアバッグを展開するか否かを判断する。サブ加速度センサ16や点火判定部14は、マイコン20側の点火判定部21によるエアバッグの誤展開を防止するために設けられており、そして、点火判定部14の主な機能は、マイコン20側の点火判定部21がエアバッグの展開判定を行う基準の加速度(第一基準加速度)よりも小さい、衝突の可能性があると判断される別基準の加速度(第二基準加速度)を、サブ加速度センサ16からの検出値が超えているとき、マイコン20によるエアバッグの展開を許可する。よって、検出された加速度によりエアバッグを展開する必要があると判断したとき、例えば、メイン加速度センサによって検出された加速度が第一基準加速度より大きく、且つサブ加速度センサ16によって検出された加速度が第二基準加速度より大きい場合には、最終的に、マイコン20からスイッチング回路4に指示が出され、後述するバックアップ電圧によりIC10内のスクイブ駆動部13が起動される。その結果、車両に搭載されたエアバッグ用スクイブの点火が行われ、以てエアバッグが展開し、乗員の保護を図る。
【0023】
ここで、メイン加速度センサ23およびサブ加速度センサ16の出力特性について、それに供給される駆動電圧が変動すると、同様に加速度に応じた出力電圧も変動する傾向が見られる。そのため、各加速度センサによって検出された加速度を基準値と比較することで、エアバッグの展開制御を行おうとする場合、車両の置かれた状況に応じた適切なタイミングでのエアバッグの展開を行うことが困難となり、かえって乗員の車両操縦の邪魔を
する可能性がある。一方で、このようなエアバッグの誤作動を防止すべく、いたずらにエアバッグの展開制御を禁止すると、乗員を保護する必要があるタイミングで当該乗員を確実に保護することが困難ともなり得る。
【0024】
そこで、エアバッグ制御装置1においては、エアバッグ展開による乗員の保護をより確実にするために、エアバッグ制御装置1における各加速度センサへの駆動電圧の供給を図1に示すように構成するとともに、各加速度センサからの検出結果に基づいたエアバッグ展開制御の可否の判断を図2から図6に示すように行う。エアバッグ制御装置1への大元となる電源電圧は、車両に搭載されたバッテリ(図示せず)からの電源電圧である。当該バッテリからの電源電圧は、図1中ではVBで記載される。そして、この電源電圧VBの一部は、ダイオード、コイル、スイッチング回路等から構成される昇圧部2によって昇圧され、コンデンサ等で構成される蓄電部3によってバックアップ電圧として蓄電される。この蓄電部3によって蓄電された電圧をバックアップ電圧VBACKと称する。
【0025】
ここで、各加速度センサの駆動電圧(5V一定電圧)を生成するための電源部12に入力される電圧(以下、単に「入力電圧」と称し、VCCを付す)は、バックアップ切替部11によって、電源電圧VBとバックアップ電圧VBACKの何れかが選択的に入力される。具体的には、エアバッグ制御装置1への電源であるバッテリからの電源電圧VBが正常である場合には、該電源電圧VBが、バックアップ切替部11によって入力電圧VCCとして電源部12に入力される。一方で、電源電圧VBが何らかの理由で低下し、その入力では電源部12が5Vの電圧を出力することが困難となると判断されるときは、バックアップ電圧VBACKが、バックアップ切替部11によって入力電圧VCCとして電源部12に入力される。入力電圧VCCが電源部12に入力されると、出力電圧VDDが生成され、これが各加速度センサやその他のデバイスの電源として供給されることになる。したがって、本明細書では当該出力電圧VDDは、各加速度センサの駆動電圧でもり、以降駆動電圧VDDとも記載する。
【0026】
ここで、図1に示す構成を有するエアバッグ制御装置1において、バッテリからの電源電圧VBの低下に起因して生じる、各加速度センサへ供給される駆動電圧VDDの低下時の、エアバッグの展開制御の可否について、図2〜図6に基づいて説明する。なお、これらの図では、電源電圧VBが基準電圧より低下し、その後回復していくケースを想定している。図2は、当該ケースにおいて、電源電圧VBが低下し、再び回復するまでの期間(以下、「低電圧期間」という。)における、(a)電源電圧VBの推移(横軸は時間を表す。以下、同じ。)、(b)バックアップ電圧VBACKの推移、(c)電源部12への入力電圧VCCの推移、(d)各加速度センサの駆動電圧の推移を示す。また、各電圧の推移における初期値について、電源電圧VBの初期値をVB0、バックアップ電圧の初期値をVBACK0、入力電圧VCCの初期値をVCC0、駆動電圧VDDの初期値をVDD0(5V)とする。
【0027】
ここで、図2において、電源電圧VBが低下し、エアバッグ制御装置1の作動に十分な電圧が供給されているか否かを判断するための基準電圧VB1を下回るタイミング近傍の所定期間(以下、「第一所定期間T1」と称する。)と、低下していた電源電圧VBが再び回復し、基準電圧VB1を上回るタイミング近傍の所定期間(以下、「第二所定期間T2」と称する。)を設定するとともに、各所定期間における各電圧の詳細な推移を図3および図4に示す。
【0028】
図3、図4には、第一所定期間T1又は第二所定期間T2における(a)電源電圧VBの推移、(b)バックアップ電圧VBACKの推移、(c)入力電圧VCCの推移、(d)駆動電圧VDDの推移に加えて、(e)〜(g)のフラグのON・OFF状態の推移が示されている。(e)に示すフラグは、電源電圧VBが基準電圧VB1を下回っているか
否かの判断に関するフラグ(以下、「VB低下検出フラグ」という。)であって、ON状態が基準電圧を下回り、電圧低下状態に至っていることを示し、OFF状態が正常な電圧状態であることを示す。(f)に示すフラグは、入力電圧VCCが基準電圧VCC1を下回っているか否かの判断に関するフラグ(以下、「VCC低下検出フラグ」という。)であって、ON状態が正常な電圧状態であることを示し、OFF状態が基準電圧を下回り、電圧低下状態に至っていることを示す。(g)に示すフラグは、各加速度センサに供給される駆動電圧VDDが低下することによる生じる、加速度検出特性の変動に伴うエアバッグの誤作動を回避するための、エアバッグ展開制御の可否に関する禁止フラグ(以下、「エアバッグ展開禁止フラグ」という。)であって、ON状態では、各加速度センサの検出結果に基づいたエアバッグの展開制御は許可された状態であることを意味し、OFF状態では、該エアバッグの展開制御は禁止された状態であることを意味する。このエアバッグ展開禁止フラグは、VB低下検出フラグがON状態となり且つVCC低下検出フラグがOFF状態となったときに、換言すると、電源電圧VBと入力電圧VCCが共に、エアバッグ制御装置1と電源部12の正常な動作が確保できない電圧状態(電圧低下状態)に至ったときに、OFF状態(エアバッグの展開制御が禁止された状態)とされる。なお、これらのフラグの制御は、主として点火判定部14によって行われる。
【0029】
ここで、図3に示す各電圧およびフラグの推移について詳細に説明する。バッテリからの電源電圧VBがVB0であるとき、エアバッグ制御装置1における電圧状態は正常であるため、バックアップ切替部11によって電源電圧VBが入力電圧VCCとして電源部12に入力されている。そして、この電源電圧の低下とともに、入力電圧VCCも低下していく。そして、この入力電圧VCCが、電源部12が一定電圧5Vを出力するのに十分な電圧が入力されているか否かを判断するための基準電圧VCC1を、タイミングt1で下回ることになる。これと同時に、(f)に示すように、VCC低下検出フラグが、ON状態からOFF状態に移行する。
【0030】
タイミングt1後のタイミングt2において、電源電圧VBが基準電圧VB1を下回る。これと同時に、バックアップ切替部11によって、蓄電部3によって蓄電されていたバックアップ電圧VBACKが、電源部12に入力されることになる。そのため、タイミングt2の時点から、それまで下降傾向にあった入力電圧VCCは上昇傾向に転じ、タイミングt3の時点で再び、基準電圧VCC1以上の電圧となる。そのため、(f)に示すVCC低下検出フラグは、タイミングt1からt3の間だけOFF状態となり、タイミングt3以降は再びON状態に戻る。
【0031】
ここで、タイミングt2の時点でのVB低下検出フラグについては、(e)に示すように、OFF状態を維持したままであり、電源電圧VBが基準電圧VB1を下回ったことをもって直ちにON状態へと移行しない。そして、当該フラグは、タイミングt2から所定時間Δt5遅れたタイミングt4の時点で、OFF状態からON状態へと移行する。このように、タイミングt2の時点で、VB低下検出フラグを直ちにON状態としないのは、バックアップ切替部11による電源電圧VBからバックアップ電圧VBACKへの切替時における一時的な入力電圧VCCの低下状態(VCC低下検出フラグがOFF状態となるタイミングt1からt3にわたる低下状態)によって、エアバッグ展開禁止フラグがOFF状態とされないようにするためである。すなわち、タイミングt1から始まる入力電圧VCCの低下状態は、その後のバックアップ電圧VBACKの入力によって解消し、またこのような短時間でのVCCの低下状態では、(d)に示すように電源部12からの出力であって各加速度センサの駆動電圧であるVDDにはほぼ影響を与えないことから、エアバッグの展開制御を直ちに禁止状態とすることは好ましくないと考えられるからである。したがって、遅延時間Δt5は、バックアップ切替部11によるバックアップ電圧VBACKへの切替と共に、その後の入力電圧VCCの上昇速度等を考慮して設定される。
【0032】
以上より、図3に示す第一所定期間T1においては、VB低下検出フラグがON状態となり、且つVCC低下検出フラグがOFF状態となる時期は存在しないため、エアバッグ展開禁止フラグは常時、ON状態となる。そのため、各加速度センサの検出結果に基づいたエアバッグの展開制御は継続されることになる。
【0033】
次に、図4に基づいて、第二所定期間T2での各電圧とフラグの推移について説明する。この期間では、蓄電部3の作用により、電源部12へバックアップ電圧VBACKが入力され続ける。蓄電部3はコンデンサによって構成されるため、その放電とともにバックアップ電圧VBACKは低下し、同様に入力電圧VCCも低下してくる(図4(c)、(d)を参照)。そのため、タイミングt6の時点で、入力電圧VCCが基準電圧VCC1を下回り、それと同時に、VCC低下検出フラグがON状態からOFF状態に移行する。なお、この時点では、VB低下検出フラグは、図3に示すタイミングt4以降のON状態が継続している。
【0034】
したがって、タイミングt6の時点で、VB低下検出フラグがON状態となり且つVCC低下検出フラグがOFF状態となり、エアバッグ展開禁止フラグがON状態からOFF状態に移行するための所定条件が成立する。しかし、本実施例では、タイミングt6の時点でエアバッグ展開禁止フラグを直ちにOFF状態とするのではなく、上記所定条件が一定時間(Δt9)継続されたことを更なる条件として、エアバッグ展開禁止フラグがOFF状態となる。これは、突発的に又は偶発的に、上記所定条件が成立してしまった場合を排除し、安定的なエアバッグの展開禁止処理を行うためである。そして、エアバッグ展開禁止フラグがOFF状態になると、エアバッグ制御装置1による、各加速度センサの検出結果に基づいたエアバッグの展開制御は禁止される。
【0035】
なお、このエアバッグの展開制御が禁止されている状態では、電源部12への入力電圧VCCが基準電圧VCC1をさらに低下していくため、図4(d)に示すように、各加速度センサの駆動電圧VDDも本来あるべき電圧VDD0から低下していくことになる。仮に、この駆動電圧で駆動された加速度センサの検出結果に基づいたエアバッグの展開制御を行うと、エアバッグが誤展開する等の不都合が生じるため、上記エアバッグ展開禁止フラグを用いたエアバッグの展開制御の禁止は有用である。特に、エアバッグ展開禁止フラグのOFF状態への移行を、VB低下検出フラグのON状態と、VCC低下検出フラグのOFF状態のAND条件で決定することにより、図3で示すような一時的なVCCの低下が生じても、エアバッグの展開制御を不用意に禁止することを回避でき、適切なエアバッグ展開による乗員保護を図る機会を可及的に継続することが可能となる。
【0036】
続いて、バッテリからの電源電圧VBが回復したときの、エアバッグの展開制御の再開処理について、図4に基づいて説明する。電源電圧VBが回復し、タイミングt7の時点で電源電圧VBが基準電圧VB1以上となるとする。この時点で、バックアップ切替部11によって、電源部12への入力電圧がバックアップ電圧VBACKから電源電圧VBへと切り替えられる。そのため、VB低下検出フラグが、ON状態からOFF状態へ移行するとともに、電源部12の出力でもある駆動電圧VDDも初期値VDD0に回復する。更に、その後、タイミングt8の時点で、電源部12への入力電圧VCCが基準電圧VCC1以上となり、これをもってVCC低下検出フラグがOFF状態からON状態へと移行する。
【0037】
したがって、タイミングt8の時点でVB低下検出フラグがOFF状態となり、且つVCC低下検出フラグがON状態となるが、エアバッグ展開禁止フラグは直ちにはON状態には移行せず、タイミングt8の時点から所定時間(Δt10)の間、VB低下検出フラグのOFF状態とVCC低下検出フラグのON状態とが継続したときに、該エアバッグ展開禁止フラグが、OFF状態からON状態へと移行する。これは、突発的に又は偶発的に
、VB低下検出フラグのOFF状態とVCC低下検出フラグのON状態とが同時に成立してしまった場合を排除し、安定的なエアバッグの展開制御の再開を図るためである。なお、この所定時間Δt10は、先の所定時間Δt9よりも長く設定される。これは、エアバッグの展開制御の再開を図るに当たり、エアバッグ制御装置における電圧状態が正常な状態(すなわち、VB低下検出フラグのOFF状態とVCC低下検出フラグのON状態とが両立している状態)に回復していることを、より確実に担保するためである。エアバッグ展開禁止フラグがON状態に戻ると、再び通常の各加速度センサの検出結果に基づいたエアバッグの展開制御が行われることになる。
【0038】
次に、図3および図4に示した各電圧およびフラグの推移に基づいたエアバッグ展開の禁止制御とエアバッグ展開の再開制御について、図5および図6に基づいて説明する。これらの制御は、エアバッグ制御装置1内のIC10内で行われる。なお、これらの制御は、該制御が安定して行えるのであれば、マイコン20内で所定のプログラムが実行されることで行われてもよい。
【0039】
まず、エアバッグ展開を禁止するためのエアバッグ展開禁止制御について、図5に基づいて説明する。S101では、通常行われる加速度センサの検出結果に基づいたエアバッグの展開制御が継続される。この時点では、駆動電圧VB等は図3に示す初期状態にある。次に、S102では、入力電圧VCCが基準電圧VCC1を下回り、電圧低下状態に至っているか、換言するとVCC低下検出フラグがOFF状態となっているか否かが判定される。ここで、肯定判定されるとS103へ進み、否定判定されるとS107の処理を経て、S101の処理が再び行われる。次に、S103では、電源電圧VBが基準電圧VB1を下回り、電圧低下状態に至っているか、換言するとVB低下検出フラグがON状態となっているか否かが判定される。ここで、否定判定されるとS107の処理を経て、S101の処理が再び行われる。また、肯定判定されると、エアバッグ展開が禁止されるべき電圧状態が形成されていることを意味し、図4に示すように、エアバッグ展開禁止フラグがOFF状態とされ、S104へ進む(図4中、タイミングt6近傍の各フラグの推移を参照。)。
【0040】
S104では、S103で肯定判定される度に、禁止カウンターNpをインクリメントする。禁止カウンターNpは、エアバッグの展開制御を禁止すべき電圧状態がエアバッグ制御装置1内で形成されていると判断された回数をカウントしていくためのカウンターである。なお、S102又はS103で否定判定されると、S107の処理によって、この禁止カウンターNpは初期化されゼロとなる。
【0041】
次に、S105では、S104でインクリメントされた禁止カウンターNpの値が所定回数のN1回に到達しているか否かが判定される。この所定回数N1は、入力電圧VCCが低下し且つ電源電圧VBも低下した状態が形成されていることが、S101からS104の処理により判定された回数であり、この所定回数N1回、S101からS104の処理が行われることで、図4に示す所定時間Δ9が確保されることになる。ここで、否定判定されると再びS101以降の処理が行われ、肯定判定されるとS106へ進み、そこでエアバッグの展開制御が禁止されることになる。したがって、この時点が、図4に示すタイミングt6から所定時間Δt9が経過した時点に相当する。
【0042】
このように、図5に示すエアバッグ展開禁止制御が行われることで、一例として図3、図4に示すようなエアバッグ制御装置1での電圧状態の変動に対応しながら、エアバッグの展開制御およびその禁止制御が適切に行われるようになる。そのため、車両の乗員を適切に保護しながら、且つ加速度センサの出力変動に起因するエアバッグの誤作動を極力排除できる。
【0043】
ここで、図5に示すエアバッグ展開禁止制御が行われることで、エアバッグの展開制御が禁止された状態にあるとき、当該禁止状態から再びエアバッグの展開制御を開始するためのエアバッグ展開再開制御について、図6に基づいて説明する。S201では、エアバッグの展開制御の禁止状態が継続される。次に、S202では、入力電圧VCCが基準電圧VCC1以上となっているか、換言するとVCC低下検出フラグがON状態となっているか否かが判定される。ここで、肯定判定されるとS203へ進み、否定判定されるとS207の処理を経て、S201の処理が再び行われる。次に、S203では、電源電圧VBが基準電圧VB1以上となっているか、換言するとVB低下検出フラグがOFF状態となっているか否かが判定される。ここで、否定判定されるとS207の処理を経て、S201の処理が再び行われる。また、肯定判定されると、エアバッグ展開の禁止が解消されるべき状態であることを意味し、図4に示すように、エアバッグ展開禁止フラグがON状態とされ、S204へ進む(図4中、タイミングt8近傍の各フラグの推移を参照。)。
【0044】
S204では、S203で肯定判定される度に、再開カウンターNrをインクリメントする。再開カウンターNrは、エアバッグの展開制御の禁止状態を解消すべき電圧状態がエアバッグ制御装置1内で形成されていると判断された回数をカウントしていくためのカウンターである。なお、S202又はS203で否定判定されると、S207の処理によって、この再開カウンターNrは初期化されゼロとなる。
【0045】
次に、S205では、S204でインクリメントされた再開カウンターNrの値が所定回数のN2回(但し、N2はN1より大きい。)に到達しているか否かが判定される。この所定回数N2は、入力電圧VCCが正常な状態に回復し且つ電源電圧VBも正常な状態に回復した状態が形成されていることが、S201からS204の処理により判定された回数であり、この所定回数N2回、S201からS204の処理が行われることで、図4に示す所定時間Δ10が確保されることになる。ここで、否定判定されると再びS201以降の処理が行われ、肯定判定されるとS206へ進み、そこでエアバッグの展開制御の禁止が解消され、再び該展開制御が開始されることになる。したがって、この時点が、図4に示すタイミングt8から所定時間Δt10が経過した時点に相当する。
【0046】
このように、図6に示すエアバッグ展開再開制御が行われることで、加速度センサを取り巻く電圧状態が適正な状態に回復したことをもって、エアバッグの展開制御が行われることになる。これにより、車両の乗員の適切な保護を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係るエアバッグ制御装置の構成を、機能ブロックの形式で表した図である。
【図2】図1に示すエアバッグ制御装置において形成される電圧状態の推移を示す図である。
【図3】図2に示す電圧状態の推移において電源電圧が低下する期間の詳細図である。
【図4】図2に示す電圧状態の推移において電源電圧が上昇する期間の詳細図である。
【図5】図1に示すエアバッグ制御装置において実行される、エアバッグの展開制御を禁止するための制御フロー図である。
【図6】図1に示すエアバッグ制御装置において実行される、展開制御が禁止されたエアバッグの該展開制御を再開するための制御フロー図である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・・エアバッグ制御装置
3・・・・蓄電部
10・・・・IC
11・・・・バックアップ切替部
12・・・・電源部
14・・・・点火判定部
16・・・・サブ加速度センサ
20・・・・マイコン
21・・・・点火判定部
23・・・・メイン加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたバッテリからの電源電圧を入力とし、車両に作用する加速度を検出する加速度センサのための駆動電圧を出力とする電源部と、該加速度センサからの出力による点火制御信号に基づいて該車両に搭載されたエアバッグの展開を制御する駆動制御部とを備えるエアバッグ制御装置であって、
前記バッテリから出力される電源電圧と、該バッテリからの電源電圧の一部を蓄電可能なバックアップ蓄電部から出力されるバックアップ電圧との何れかを、該バッテリからの電源電圧の変動に従って切り替えて前記電源部に入力する切替部と、
前記バッテリから出力される電源電圧が、第一基準電圧より低いか否かを判定する第一判定部と、
前記切替部を介して前記電源部に入力される電源部入力電圧が、第二基準電圧より低いか否かを判定する第二判定部と、
前記第一判定部によって前記バッテリから出力される電源電圧が前記第一基準電圧より低いと判断され、且つ前記第二判定部によって前記電源部入力電圧が前記第二基準電圧より低いと判断されると、前記エアバッグの展開を禁止する展開禁止部と、
を備える、エアバッグ制御装置。
【請求項2】
前記第一判定部は、前記バッテリから出力される電源電圧が前記第一基準電圧を下回り、前記切替部によって前記電源部への入力が前記バックアップ電圧に切り替えられた時点から、所定遅延時間が経過したことをもって、該電源電圧が該第一基準電圧より低い状態であると判定する、
請求項1に記載のエアバッグ制御装置。
【請求項3】
前記展開禁止部は、前記第一判定部によって前記バッテリから出力される電源電圧が前記第一基準電圧より低いと判断され、且つ前記第二判定部によって前記電源部入力電圧が前記第二基準電圧より低いと判断される状態が第一所定時間、継続することをもって、前記加速度センサの加速度検出結果に基づいた前記エアバッグの展開を禁止する、
請求項1又は請求項2に記載のエアバッグ制御装置。
【請求項4】
前記展開禁止部によって前記エアバッグの展開が禁止された状態で、前記第一判定部によって前記バッテリから出力される電源電圧が前記第一基準電圧より低くないと判断され、且つ前記第二判定部によって前記電源部入力電圧が前記第二基準電圧より低くないと判断される状態が第二所定時間、継続することをもって、該エアバッグの展開の再開を許可する展開許可部を、更に備える請求項3に記載のエアバッグ制御装置。
【請求項5】
前記第二所定時間は、前記第一所定時間より長い時間に設定される、
請求項4に記載のエアバッグ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−115936(P2010−115936A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288607(P2008−288607)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】