説明

エアバッグ用インフレータ

【課題】フィルタの半径方向位置を保持する。
【解決手段】例えばイニシエータ3を保持するアダプター2bと、アダプター2bを支持し、ディフューザ2aと接合されて内部に空間8を形成するベース2cとで形成するハウジング2の前記空間8にガス発生機構を収容したインフレータ1である。ガス発生機構は、フィルタ7及びチューブ12と、イニシエータ3と伝火薬4を収容するチューブ12の外側に充填するガス発生剤10を、リテーナ6によってハウジング2内部の上部で保持し、リテーナ6と反対側のベース2c部分にリング状のクッション部材9を配置したものである。クッション部材9は、内周面がアダプター2bの外周面に、外周面はフィルタ7の内周面に接触し、フィルタ7のベース側の下端面の上下方向境界位置を跨いで、フィルタ7の上側から下側にはみ出すように設ける。
【効果】ガスの流れにむらが発生せず、フィルタが受けるダメージを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全装置として自動車に設置されるエアバッグに供給する膨張用ガスを発生するインフレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置は、インフレータで発生した膨張用ガスによりエアバッグを膨張展開させることで、衝突の際の衝撃から乗員を保護するものである。
【0003】
図4はシングルステージタイプのインフレータの構造の一例を説明する断面図である。このインフレータ1は、ディフューザ2aとアダプター2bとベース2cによって内部に空間8を形成すべく構成されたハウジング2に、特許文献1で開示されたものでは、以下の構成のガス発生機構を内装している。
【0004】
3は車両の衝突信号によって点火するイニシエータ、4は伝火薬であり、それぞれアダプター2bの内側に形成された空間8aに配置されている。一方、ディフューザ2aの側壁2ac寄りの位置には、円筒状のフィルタ7が配置されている。このフィルタ7は、上下方向の支持を、ディフューザ2aの天井壁2abと、ベース2c側に配置した押さえ板5で行っている。また、半径方向の位置決めは、フィルタ7とアダプター2bによって仕切られた環状の空間8b内に、ディフューザ2aの天井壁2abと当接状に配置されたリテーナ6によって行っている。
【0005】
そして、前記環状の空間8bには、押さえ板5上に支持され、フィルタ7の内周に圧入されたクッション部材9を介してガス発生剤10が収納される。
【0006】
前記構成のインフレータ1における、ガス発生の流れを以下に説明する。
車両からの衝突信号によりイニシエータ3が点火すると、アダプター2bの内側の空間8aに配置された伝火薬4が発火する。
【0007】
伝火薬4が発火すると、アダプター2bの側壁に設けた開口2baを経て環状の空間8bに火炎が放出し、環状の空間8bに収納したガス発生剤10が着火して燃焼し、瞬時に大量のガスが発生する。
【0008】
発生したガスは、フィルタ7を通って粉塵等を除去された後、ディフューザ2aの側壁2acに設けられたガス噴出孔2aaに貼られたアルミフォイル11を突き破って噴出し、エアバッグを膨張展開させる。
【0009】
図4に示したインフレータ1のクッション部材9は、インフレータ1の振動によるガス発生剤10の粉化を防止すると共に、その断熱機能によりディフューザ2aとベース2cを摩擦圧接する時の熱がガス発生剤10に伝わらないようにする役割を有している。
【0010】
しかしながら、図4に示した構成では、クッション部材9を押さえ板5で支持しているので、一般的なインフレータに比べて押さえ板5が余分に必要である。加えて、前記押さえ板5の保持は、内外周に形成した板ばね部5a,5bのばね力によって行うため、ガス発生剤10の収納時やガス発生時の圧力で押さえ板5の位置がずれた場合は、フィルタ7の半径方向位置がずれる。
【0011】
フィルタ7の半径方向位置がずれると、ガスの流れにむらが生じ、ディフューザ2aの側壁2acとの間隔が狭い部分では、図5に矢印で示すように、ガス噴出孔2aaの近傍のフィルタ7部分(図5のA部)にガスの流れが集中する。ガスの流れの集中によりフィルタ7がダメージを受け、最悪の場合はガスが集中したフィルタ7のA部に孔が開く。孔が開いた場合は残渣がインフレータ1から流出してエアバッグにもダメージを与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−287198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする問題点は、クッション部材を押さえ板で支持する場合、一般的なインフレータに比べて押さえ板が余分に必要であるという点である。また、ばね力によって押さえ板を保持する場合、ガス発生剤の収納時やガス発生時の圧力で押さえ板の位置がずれるとフィルタの半径方向位置がずれ、最悪の場合はフィルタに孔が開くという点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明では、押さえ板を必要とせず、ガス発生剤の収納時は勿論、ガス発生時にもフィルタの半径方向位置を保持できるようにすることで、前記課題を解決するものである。
【0015】
すなわち、本発明は、
エアバッグに膨張用ガスを供給するエアバッグ用インフレータであって、
膨張用ガスを噴出させるガス噴出孔を有するディフューザと、車両の衝突信号によって点火するイニシエータを保持し、点火用電気信号を受けるためのコネクタを備えるアダプターと、該アダプターを支持し、前記ディフューザと接合されることで前記インフレータの内部に空間を形成するベースと、で形成されるハウジングと、
該ハウジングの前記空間に収容されるガス発生機構と、を備え、
前記ガス発生機構は、少なくとも、前記イニシエータと、該イニシエータと伝火薬とを収容すべく、前記アダプターに結合されるチューブと、該チューブの外側に充填されるガス発生剤と、該ガス発生剤と前記ハウジングの外周側壁部との間に設けられるフィルタと、該フィルタと前記ガス発生剤及び前記チューブを前記ハウジング内部の上部で保持するリテーナと、該リテーナと反対側の前記ベース部分に設けられたリング状のクッション部材と、を具備した構成で、
前記クッション部材は、内周面が前記アダプターの外周面または前記チューブの外周面の少なくとも一方に接触すると共に、外周面は前記フィルタの内周面に接触し、かつ、前記フィルタの円筒軸方向に対して、前記フィルタのベース側の下端面の上下方向境界位置を跨いで、前記フィルタの上側から下側にはみ出すように設けられていることを最も主要な特徴としている。
【0016】
本発明では、クッション部材の内周面はアダプターまたはチューブの外周面の少なくとも一方に接触し、クッション部材の外周面はフィルタの内周面に接触している。更に、クッション部材は、フィルタの円筒軸方向に対して、フィルタのベース側の下端面の上下方向境界位置を跨いで、フィルタの上側から下側にはみ出すように設けている。
【0017】
すなわち、本発明では、フィルタの半径方向の位置は、ディフューザ側の上端面はリテーナにより、ベース側の下端面は前記クッション部材によって拘束している。従って、ガス発生剤の収納時は勿論、ガス発生時にもフィルタの外周面とディフューザの側壁の間隔を一定に保つことができる。
【0018】
本発明において、「内」「内側」「外」「外側」とは、インフレータの円筒軸と直交する平面を俯瞰したときに、当該円の中心に対して、ある特定の位置からその円の中心に向かう方向を「内」「内側」、当該円の中心から離れる方向を「外」「外側」とする。また、「上」「上側」とは、インフレータの円筒軸方向における、図1(a)の矢印Aで示す方向を、「下」「下側」とは、同じく矢印Bで示す方向をいう。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、フィルタは、ディフューザ側の上端面をリテーナで、ベース側の下端面をクッション部材で拘束しているので、ガス発生剤の収納時、ガス発生時ともにフィルタの外周面とディフューザの側壁の間隔を一定に保つことができる。従って、発生したガスの流れにむらが発生せず、フィルタの広い範囲を通って排出されることになって、フィルタが受けるダメージを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は本発明のインフレータの構造の一例を説明する縦断面図、(b)は本発明のインフレータを構成するフィルタとクッション部材の位置関係を説明する図である。
【図2】本発明のインフレータにおけるフィルタを通るガス流れを説明する図である。
【図3】本発明のインフレータの構造の他の例を説明する縦断面図である。
【図4】特許文献1で提案されたインフレータの構造の一例を説明する縦断面図である。
【図5】フィルタとディフューザの側壁との間隔が狭くなった場合のフィルタを通るガス流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
フィルタの半径方向位置の拘束が不十分で、ガス発生剤の収納時やガス発生時にフィルタの半径方向位置がずれて、フィルタとディフューザの側壁との間隔が狭くなった場合、ガスの流れにむらが生じてガスが集中し、フィルタがダメージを受ける。
【0022】
本発明は、フィルタの、ディフューザ側の上端面はリテーナで、ベース側の下端面はクッション部材で拘束することで、ガス発生剤の収納時、ガス発生時共にフィルタの外周面とディフューザの側壁の間隔を一定に保ち、ガスの流れにむらが生じないようにしている。
【実施例】
【0023】
以下、本発明のインフレータの構造の一例を説明する縦断面図である図1を用いて本発明の実施例を説明する。なお、図1中、図4及び図5と同一符号は同一部分或いは相当部分を示し、詳細な説明を省略する。
【0024】
図1の発明例では、製作の容易化のために、アダプター2bをディフューザ2aの天井壁2abまで延長せずにイニシエータ3を保持できるだけの高さとしている。そして、アダプター2bに取付けたチューブ12で、イニシエータ3及び伝火薬4と、ガス発生剤10を区画している。なお、図1中の2bbは、イニシエータ3に点火用の電気信号を受け渡すべく、イニシエータ3と接続するためのコネクタを示す。
【0025】
また、前記チューブ12は、上方が開放されているので、リテーナ6は、図4の従来例のように環状の空間8bの上部を塞ぐだけではなく、チューブ12内の空間8aの上部も塞いでいる。そして、このリテーナ6で、フィルタ7、ガス発生剤10、チューブ12をハウジング2の内部の上部から保持するようにしている。なお、図1中の12aはチューブ12に設けた開口である。
【0026】
本発明は、ベース2cの内部に配置するクッション部材9の外周面をフィルタ7の内周面に圧接させると共に、図4の従来例とは異なり、内周面も例えばアダプター2bの外周面に接触するようにしている。しかも、フィルタ7の円筒軸方向に対して、フィルタ7のベース側の下端面の上下方向境界位置を跨いで、フィルタ7の上側から下側にはみ出すように設けている。
【0027】
このクッション部材9と前記リテーナ6とでフィルタ7の上下開口を閉じて圧力を加えながらガス発生剤10を環状の空間8bに収納した際には、図1に示すようにガス発生剤10に押されてクッション部材9の表面9aが変形する。
【0028】
しかしながら、本発明では、フィルタ7のベース側の下端面を境に、フィルタ7の上側から下側にはみ出すような厚さとしているので、クッション部材9は十分な厚みを確保できている。
【0029】
従って、図4に示す従来例のように、ベース2cとの間に隙間を形成せず、クッション部材9の裏面9bをベース2cと接するようにしても、ガス発生剤10に熱が伝わらないようにすることができる。
【0030】
また、クッション部材9の外周面の表面側部分が前記フィルタ7のベース側の下端面よりもフィルタ7の上部に存在するように、フィルタ7との接合面長さを長くしておけば、表面9aが変形しても、フィルタ7の上下両端の位置を確実に拘束することができる。また、フィルタ7とクッション部材9の接合面からの残渣の流出を抑えることもできる。
【0031】
このようにフィルタ7の上下両端の位置を拘束できれば、ガス発生剤10の収納時はもとより、ガス発生時にもフィルタ7の外周面とディフューザ2aの側壁2acの間隔を一定に保つことができる。
【0032】
前記間隔を一定に保つことができれば、発生したガスの流れにむらが発生せず、図2に示すように、フィルタ7の広い範囲を通って排出されることになって、フィルタ7が受けるダメージを抑制でき、フィルタ7に孔が開くこともない。なお、図2中の矢印はガスの流れを示す。
【0033】
本発明は上記の例に限らず、各請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0034】
すなわち以上で述べたエアバッグ用インフレータは、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定する主旨の記載がない限り、本発明は添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨のない限り、それに限定されるものではない。
【0035】
例えば上記実施例は、請求項1〜5の要件を全て充足するものであるが、請求項2〜5の要件を選択的に充足するものでも良い。
【0036】
また、図1の例は、クッション部材9の内周面がアダプター2bの外周面に接触したものであるが、図3に示すように、チューブ12がアダプター2bを覆うような場合は、クッション部材9の内周面はチューブ12の外周面に接触するようにすれば良い。
【0037】
また、上記実施例では、チューブ12の開口12aを塞いでいないが、アルミフォイルで塞いでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上の本発明は、シングルステージタイプに限らず、ダブルステージタイプのインフレータにも適用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 インフレータ
2 ハウジング
2a ディフューザ
2aa ガス噴出孔
2b アダプター
2bb コネクタ
2c ベース
3 イニシエータ
4 伝火薬
6 リテーナ
7 フィルタ
8 空間
9 クッション部材
9a 表面
9b 裏面
10 ガス発生剤
12 チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグに膨張用ガスを供給するエアバッグ用インフレータであって、
膨張用ガスを噴出させるガス噴出孔を有するディフューザと、車両の衝突信号によって点火するイニシエータを保持し、点火用電気信号を受けるためのコネクタを備えるアダプターと、該アダプターを支持し、前記ディフューザと接合されることで前記インフレータの内部に空間を形成するベースと、で形成されるハウジングと、
該ハウジングの前記空間に収容されるガス発生機構と、を備え、
前記ガス発生機構は、少なくとも、前記イニシエータと、該イニシエータと伝火薬とを収容すべく、前記アダプターに結合されるチューブと、該チューブの外側に充填されるガス発生剤と、該ガス発生剤と前記ハウジングの外周側壁部との間に設けられるフィルタと、該フィルタと前記ガス発生剤及び前記チューブを前記ハウジング内部の上部で保持するリテーナと、該リテーナと反対側の前記ベース部分に設けられたリング状のクッション部材と、を具備した構成で、
前記クッション部材は、内周面が前記アダプターの外周面または前記チューブの外周面の少なくとも一方に接触すると共に、外周面は前記フィルタの内周面に接触し、かつ、前記フィルタの円筒軸方向に対して、前記フィルタのベース側の下端面の上下方向境界位置を跨いで、前記フィルタの上側から下側にはみ出すように設けられていることを特徴とするエアバッグ用インフレータ。
【請求項2】
前記クッション部材の表面は前記ガス発生剤と接し、裏面は前記ベースと接していることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項3】
前記フィルタのベース側の下端側開口は前記クッション部材で閉じられ、ディフューザ側の上端側開口は前記リテーナで閉じられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項4】
前記ガス発生剤は、前記リテーナと前記クッション部材とで圧力を加えられながら収納されており、収納完了時には前記クッション部材の表面が前記ガス発生剤により変形していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のエアバッグ用インフレータ。
【請求項5】
表面が変形したクッション部材の外周面の表面側部分は、少なくとも前記フィルタのベース側下端面の上下方向境界位置よりも上方側にあることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のエアバッグ用インフレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−75656(P2013−75656A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−132993(P2012−132993)
【出願日】平成24年6月12日(2012.6.12)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】100089462
【弁理士】
【氏名又は名称】溝上 哲也
【復代理人】
【識別番号】100116344
【弁理士】
【氏名又は名称】岩原 義則
【復代理人】
【識別番号】100129827
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 進
【Fターム(参考)】