説明

エアフィルター

【課題】長時間の高温放置条件下においても、変形しにくいエアフィルターを提供する。
【解決手段】フィルター1は、プリーツ加工を施した、150デニール以上300デニール以下の太さのポリプロピレン製の糸で製造した1平方インチ当たりのメッシュ数が45×45以下であるネット2と、ポリプロピレン製のフィルター枠3とを一体成型してなるエアフィルターで、長時間の高温環境下での放置によってもフィルター自体の変形を防止するものである。ネット2は、編み込まれた糸のうち、3本ごとに、複数本の糸を束ねたより太い糸とされ、メッシュ低減に起因した強度不足を補っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体内にミクロンダストの進入を防ぐエアフィルター、及びこのエアフィルターを用いた空気調和機、特にイオン発生機や空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気調和機で用いられるエアフィルターには、1ミクロン以下から数ミクロン程度までのホコリをとる高性能フィルター(HEPAフィルター、ULPAフィルターなど)の他に、数百ミクロン程度のホコリ(ミクロンダスト)を捕獲するプレフィルターが用いられることが多い。また、イオン発生機にも、機体内に数十から数百ミクロン程度のホコリ(ミクロンダスト)が進入するのを防ぐために、比較的目開きの大きなエアフィルターが使用される。
【0003】
これらのフィルターは、合成樹脂(汎用プラスチック)製の糸とフィルター枠で作られることが多く、特に糸は、柔らかく曲げても色の変わらないポリエチレンやポリプロピレンで作られることが多い。しかしこれらの糸は、長時間高温環境下で放置すると、徐々に収縮が起こり、最後にはフィルター枠までを引っ張ってフィルター自体を変形させるといった悪影響を与える。フィルター枠が大きく変形すると、手で元に戻せないのはもちろん、装着中であればメンテナンスのための取外しが不可能になる、或いは取外し中の放置や予備フィルターの保管時には本体である空気調和機に取り付けできなくなる可能性もある。
【0004】
これらの解決方法として、特許文献1(実開昭62−066717号公報)に開示されている方法では、ポリプロピレン樹脂繊維62をハニカム状に織り込んだフィルター61と樹脂製の枠63とから成るエアフィルター60のネットの一部にたるみ64を持たせて高温放置時の収縮分を吸収して、エアフィルター60の変形を防ぐ方法が採られている(図9)。また、特許文献2(特開2001−062234号公報)に開示されている方法では、フィルタパック71を備えたフィルタ70に補強材としてリブ73付きのラス網72を固定しこのラス網72をフィルタ枠74に固定する方法が採られている(図10)。また、特許文献3(特開2003−135331号公報)に開示されている方法では、フィルター80は、つづら折り状に折り重ねて形成された濾材81に表面に沿ってメッキ鋼線、ステンレス線等の金属材料で形成された金属製のスペーサ82を備え、変形を防止する方法が取られている(図11)。更に、特許文献4(特開2008−284510号公報)に開示されている方法では、フィルター及び枠の材質(構成要素や添加剤)を細かく設定することによって、変形しにくい材質でフィルターを構成している(図12)。即ち、フィルタユニット90は、PTFE多孔質膜92の両表面上にポリエステル通気材93,93を積層した3層構造から成るフィルタ濾材91をプリーツ加工し、加工済みのフィルタ濾材91をその外周に配置した枠体94によって支持して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−066717号公報
【特許文献2】特開2001−062234号公報
【特許文献3】特開2003−135331号公報
【特許文献4】特開2008−284510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、補強材やスペーサを使用することは、これらの部材をフィルターに追加部品として用意する必要が生じ、また作業工程数が増え、その結果、コストアップにつながる。フィルターの構成要素の変更や材質の変更も求められることになり、その結論に至るまでに時間を要するため、これらのことも間接的にコストアップとなる。
そこで、メッシュ数に着目して、長時間の高温環境下での放置によってもネットの収縮を抑制する点で解決すべき課題がある。
【0007】
本発明は、上記従来課題を解決するもので、追加部品や材料費の上昇がなく、実現可能性の高いエアフィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のエアフィルターは、プリーツ加工を施した、150デニール以上300デニール以下の太さのポリプロピレン製の糸で製造した1平方インチ当たりのメッシュ数が45×45以下であるネットを使用している。
長時間の高温環境下での放置によってもフィルター自体の変形が防止されるものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0009】
また、好ましくは、本発明におけるエアフィルターは、上記ネットが編み込まれた糸がN本ごと(Nは整数)に複数本の糸を束ねたより太い糸としている。
【0010】
さらに、好ましくは、本発明のエアフィルターは上記ネットと、ポリプロピレン製のフィルター枠とを一体成型してなる。
【0011】
さらに、好ましくは、本発明のエアフィルターはネットのフィルター枠への溶着固定をすべての箇所ではなく限定的に行う。
【0012】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
本発明においては、ネットは、プリーツ加工を施した、150デニール以上300デニール以下の太さのポリプロピレン製の糸で製造し、メッシュ数を45×45以下としている。このメッシュ数を少なくして目開きを大きくすることによって、ネットの熱収縮に対する余裕ができ、ネットがフィルター枠まで変形させる現象は実使用上問題の無い程度まで少なくなり、エアフィルターとしての変形を防止できる。
【0013】
また、上記ネットは編み込まれた糸がN本ごと(Nは整数)に複数本の糸を束ねたより太い糸となり、メッシュ数を少なくしたことによる強度不足を解消している。
また、上記ネットとフィルター枠を一体成型しており、生産工程数を減らし、さらに曲げ強度や劣化に強くなっている。
また、ネットとフィルター枠との固定をすべての箇所ではなく限定的に行い、つまり複数箇所においては固定しないことにより、ネットの熱収縮に対する余裕がさらに増え、フィルターの変形防止効果がさらに高まる。
また、上記フィルターを集塵フィルターとして用いる空気清浄機などでは、高温環境下での使用によるフィルターの変形を防止でき、また保管時や取り外しての運搬時などにおけるフィルターの変形も防止できる。
【発明の効果】
【0014】
以上により、本発明によれば、本発明のエアフィルターは、プリーツ加工を施した、150デニール以上300デニール以下の太さのポリプロピレン製の糸で製造した1平方インチあたりのメッシュ数が45×45以下であるネットを使用している。また、フィルター枠と一体成型することができ、更にフィルター枠への固定をすべての箇所ではなく限定的に行うことにより、長時間の高温環境下での放置によってもフィルターの変形を防止することができる。
また、上記フィルターを集塵フィルターとして用いる空気清浄機などでは、高温環境下での使用によるフィルターの変形を防止でき、また保管時や取り外しての運搬時などにおけるフィルターの変形も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による実施例1に係るエアフィルターの図面である。
【図2】幾つかの条件のフィルターを恒温槽に放置した試験の結果を示す表である。
【図3】本発明による実施例1に係るエアフィルターの図面である。
【図4】本発明による実施例2に係るエアフィルターの図面である。
【図5】本発明による実施例3に係るエアフィルターの図面である。
【図6】本発明による実施例4に係るエアフィルターの図面である。
【図7】本発明によるエアフィルターを適用したイオン発生機の一例を示す図である。
【図8】本発明によるエアフィルターを適用した空気清浄機の一例を示す図である。
【図9】従来の、フィルターの変形を防ぐ方法が採られたエアフィルターの一例を示す図である。
【図10】フィルターに補強材を固定しこの補強材を枠に固定した従来のフィルターの一例を示す図である。
【図11】金属製のスペーサによって変形を防止した従来のフィルターの一例を示す図である。
【図12】フィルター及び枠の材質を細かく設定した従来のフィルターの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明によるエアフィルターの実施例1、2、及びこのエアフィルターを用いた例えば、空気清浄機について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例1に係るエアフィルターの図面である。図1の(イ)部はエアフィルターの正面図、同(ロ)部は(イ)部のA−A断面図、同(ハ)部は同(ロ)部の一部を拡大して示す詳細図である。
図1において、本実施例1であるエアフィルター1は、ネット2とフィルター枠3から構成される。ネット2は、図1の(イ)部のA−A断面図として図1の(ロ)部に示されるように、プリーツ(ひだ)状の加工が施されている。このネット2は、詳細図である図1の(ハ)部に示されているようなメッシュ構造4になっており、ネット2の仕様は、材質:ポリプロピレン(PP)、太さ:150デニールから300デニールの糸で、メッシュ数:1平方インチ辺り45×45以下、の構成となっている。ポリプロピレン製の糸は長時間高温環境下で放置すると、熱によって収縮する性質があり、単位あたりのメッシュ数が多い(目開きが小さい)と、その傾向が顕著となる。
【0018】
図2は、幾つかの条件のフィルターを60℃の恒温槽に1週間放置した試験の結果を示した表である。この表から解るように、ケース[1]のメッシュ数60×60(目開き271μm×271μm)のフィルターは変形するが、ケース[2]〜[4]のメッシュ数がより少ない45×45以下(目開き388μm×388μm以上)のフィルターは変形していない。以上より、フィルターの高温放置試験にて発生する変形は、密な状態のネット2が収縮してフィルター枠3を引っ張り、フィルター1全体が変形するということが解った。従って、ポリプロピレン製の太さ150デニールから300デニールの糸でネットを構成するフィルターの場合、ネットのメッシュ数を45×45以下にすることは、長時間の高温放置時の変形防止には効果がある。
【0019】
図3は、上記ネット2は編み込まれた糸がN本ごと(Nは整数)に複数本の糸を束ねたより太い糸となる説明のための図である。図3の(イ)部は正面図、同(ロ)部はそのA−A断面図、同(ハ)部は同(ロ)部の一部を拡大して示す詳細図、同(ニ)部は同(ハ)部の一部を更に拡大して示す拡大詳細図、同(ホ)部は別の詳細図である。
図3の(ハ)部である詳細図に示すメッシュ構造4は、ネット2が3本ごとに太い糸となる構成である。詳細図(ハ)部のネットの一部が、更に拡大されて(ニ)部に示されている。本例では、太い糸は4本の束として構成されているが、この数値は任意で良いのはもちろんである。またこの束は、単に接近して配置されるだけでも、溶着や接着で固定されていても良い。また別の例として、詳細図(ホ)部に示すメッシュ構造6は、5本ごとに太い糸を用いた例が示されている。Nの値を幾らにするかは、必要な開口率とネット強度の関係から決めればよい。
【実施例2】
【0020】
図4は、本発明による実施例2に係るエアフィルターの図面である。図4の(イ)部はエアフィルターの正面図、同(ロ)部は同(イ)部のB−B断面図、同(ハ)部は同(イ)部のC−C断面図、同(ニ)部は同(ロ)部の一部を拡大して示す詳細図である。
図4において、本実施形態2のエアフィルター11は、ネット12とフィルター枠13が、一体成型される構成であり、更に、強度を高めるため、縦方向桟14と横方向桟15がネット12を挟み込むように成形され枠13と一体化している。ネット12は、実施例1の場合と同様、C−C断面図に示されるようにプリーツ(ひだ)状の加工が施されている。ネット12は(ロ)部に示すB−B断面図では、詳細図に示されるように、横方向桟15に埋め込まれた構成となっており、枠体とより強固に一体化して強度を保っている。また、(ハ)部に示すC−C断面図では、縦方向桟14がネット12の山部で枠体と一体化して、ネットの開口を確保しながら強度を保っている。実施例2のネット12もメッシュ構造になっており、材質、太さ、メッシュ数の構成も実施形態1と同じである。
【実施例3】
【0021】
図5は、本発明による実施例3に係るエアフィルターの図面である。図5において、本実施形態のエアフィルター21は、本実施形態1のフィルターに対して、ネットをフィルター枠に限定的に固定しており、固定しない複数の箇所26を設ける。図5(a)はネットの山で上下ずらして固定しない箇所を設ける例、同(b)はネットの谷で上下ずらして固定しない箇所を設ける例、同(c)はネットの山の上下同じ位置に固定しない箇所を設ける例、同(d)はネットの谷の上下同じ位置に固定しない箇所を設ける例である。この4例以外にも、山谷を固定しない割合も1個毎だけではなく2個毎、3個毎の場合、山谷を連続して固定しない場合、ランダムに固定しない場合、なども限定的な固定、つまり固定しない箇所26を複数箇所備える本形態の範疇に入る。
また限定的な固定の具体的方法は、フィルター枠を切り欠く方法、ネットを切り欠く方法、一体成型時に対象箇所には樹脂を流し込まない方法、フィルター成形後切る方法、など複数の方法があり、本実施例は1つの方法に固定するものではない。
【実施例4】
【0022】
図6は、本発明による実施例4に係るエアフィルターの図面である。
図6において、本実施形態のエアフィルター31は、本実施形態2のフィルターに対して、ネットをフィルター枠に限定的に固定しており、固定しない複数の箇所36を設ける。なお図6では図の煩雑さを避けるため、固定しない箇所の全てに矢印を記した訳ではない。図6(a)はネットの山で上下ずらしてかつ1列ごとに左右も反転して固定しない箇所を設ける例であり、同(b)はネットの山で上下ずらしてかつ全列同じパターンで固定しない箇所を設ける例である。実施形態3と同様に、この2例以外にも、山谷を連続して固定しない場合やランダムに固定しない場合なども、限定的な固定、即ち固定しない箇所を複数箇所備える範疇に入る。
【0023】
また限定的な固定の具体的方法は、フィルター枠を切り欠く方法、ネットを切り欠く方法、一体成型時に対象箇所には樹脂を流し込まない方法、フィルター成形後切る方法など、複数の方法があり、本実施例は1つの方法に固定するものではない。図7は本発明によるエアフィルターが適用されているイオン発生機を示す図であり、図7(a)は、フィルター41がイオン発生機本体40にセットされている状態、及び図7(b)はフィルター41を通して吹き出し口から空気が吹き出される状態を示す図である。本フィルター41は、目開き寸法が300×300〜500×500[μm]程度であるため、イオン発生器の機体内部へミクロンダストの進入を防ぐ効果がある。イオン発生機40では、イオン発生ユニットの電極にホコリが付着するとイオン発生の性能に大きな影響があると考えられるため、それを防ぐ意味で本フィルター41は必須である。
【0024】
図8は、本発明によるエアフィルターが適用されている空気清浄機を示す図である。図8(a)はフィルター51が空気清浄機本体50にセットされている状態を示す図であり、図8(b)はフィルター51が空気清浄機50の最も外側にミクロンダストの侵入を防ぐ目的で取り付けられていることを示す図である。本構成のフィルター51は、目開き寸法が300×300〜500×500[μm]程度であるため、ミクロンダストの進入を防ぐ空気清浄機のプレフィルターとして有効である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、本機体内にミクロンダストの進入を防ぐエアフィルター、及びこのエアフィルターを用いた空気清浄機など、空気調和機に関する分野において、変形を防ぐための材質やサイズ選択などを行い、かつ、ネットのフィルター枠への固定を限定的に行うことにより、エアフィルターを高温で長時間放置してもネットの収縮を吸収することができ、ひいてはフィルターの変形を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0026】
1,11,21,31,41,51 エアフィルター
2,12 ネット
3,13 フィルター枠
4 ネットの詳細の第1の例 5 ネットの拡大
6 ネットの詳細の第2の例
14 縦方向桟 15 横方向桟
26,36 ネットとフィルター枠を固定しない箇所
40 イオン発生機
50 空気清浄機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリーツ加工を施した、150デニール以上300デニール以下の太さのポリプロピレン製の糸で製造した1平方インチ当たりのメッシュ数が45×45以下であるネットを使用することを特徴とするエアフィルター。
【請求項2】
上記ネットは編み込まれた糸がN本ごと(Nは整数)に複数本の糸を束ねたより太い糸であることを特徴とする請求項1に記載のエアフィルター。
【請求項3】
ネットと、ポリプロピレン製のフィルター枠とを一体成型してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のエアフィルター。
【請求項4】
ネットのフィルター枠への溶着固定をすべての箇所ではなく限定的に行うことを特徴とする請求項3に記載のエアフィルター。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルターを集塵フィルターとして用いることを特徴とする空気調和機。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルターを集塵フィルターとして用いることを特徴とする空気清浄機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−88069(P2011−88069A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243467(P2009−243467)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】