説明

エアフィルタ用濾材およびエアフィルタ

【課題】 本発明は、B23含有量の低いガラス繊維と、このガラス繊維よりもB23含有量の多いガラス繊維を主体とする混抄紙を用いることにより、混抄紙中のB23含有量を調整し、所望の清浄空間となるようにエアフィルタから発生するホウ素量を低減することができるガラス繊維からなるエアフィルタ用濾材およびエアフィルタを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のエアフィルタ用濾材は、B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維と、B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維が主体となる混抄紙にバインダを添着してなるものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体工場などのクリーンルームにおいて使用され、通風時に濾材からのホウ素発生量が少ないエアフィルタ用濾材およびエアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI、VLSI等の半導体製品の高集積化や微細化に伴って、エアフィルタには、粒子状汚染物の除去効率が優れることのみならず、半導体製品の品質に影響を及ぼすホウ素等のガス状汚染物質の発生が少ないことが求められている。
従来より、クリーンルームで使用されるエアフィルタ用濾材には、ガラス繊維からなるものが用いられているが、この濾材を構成するガラス繊維は、ガラス繊維紡糸時のガラス溶融温度を下げる目的や、クリーンルーム内の光源による光照射によってガラス繊維が劣化しないように耐候性を付与する目的や、ガラス繊維の強度を向上する目的のため、B23が8〜10質量%配合されたホウ珪酸ガラス繊維からなるものが用いられている。しかしながら、このようなB23の含有量が多いホウ珪酸ガラス繊維からなる濾材は、空気や窒素等の気体が通過する際に、ガラス繊維中からホウ素が発生し、クリーンルーム内を汚染してしまうという問題があった。例えば、ホウ珪酸ガラス繊維からなる濾材を用いたエアフィルタの場合、クリーンルーム内へのホウ素発生量は、100〜300ng/m3と高かった。
【0003】
濾材からのホウ素発生を防止するため、例えば、特許文献1には、純水中へのホウ素溶出量(65℃×120時間)が1.5×10-5g/gを超えない石英ガラス繊維からなる濾材を用いたエアフィルタが開示されている。このエアフィルタを用いた場合は、クリーンルーム内を非常に高い清浄空間とすることができる。
しかしながら、このようなエアフィルタは、石英ガラス繊維が非常に高価であるため、単価が高くなり、クリーンルームの天井全面にエアフィルタを設ける場合は、非常にコストが高くなるという問題があった。
【0004】
また、濾材からのホウ素発生を防止するため、例えば、特許文献2には、エアフィルタ用の濾材として、B23含有量が0.01重量%以下のガラス繊維と有機繊維からなるものが開示されている。この濾材を用いたエアフィルタも、クリーンルーム内を非常に高い清浄空間とすることができる。
しかしながら、このようなエアフィルタも、B23含有量が0.01重量%以下のガラス繊維が非常に高価なものであるため、コストが高くなるという問題があった。また、B23含有量の少ないガラス繊維は、材料と製造方法によっては、繊維強度が弱くなり、このようなガラス繊維からなる濾材をプリーツ加工する際に、繊維がケバ立ってしまう問題があった。また、ガラス繊維の繊維強度が弱いため、このようなガラス繊維からなる濾材は引張強度が弱くなり、濾材としての強度を満たすため有機繊維を配合しなければならないため、有機ガスの発生が増し、燃焼性が悪くなるという問題があった。
【特許文献1】特開平6−285318号公報
【特許文献2】特開平9− 70512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、クリーンルーム内で製造する半導体製品のグレード等によっては、エアフィルタからクリーンルーム内へ発生するホウ素量が例えば1ng/m3未満であり、クリーンルーム内を非常に高い清浄空間とするようになるまで、エアフィルタから発生するホウ素量を低減することが必ずしも求められない場合もあった。このような場合に、コストの高いエアフィルタをクリーンルームに設けてしまうと、設備費がかかってしまうという問題があった。
そこで、本発明は、B23含有量の低いガラス繊維と、このガラス繊維よりもB23含有量の多いガラス繊維を主体とする混抄紙を用いることにより、混抄紙中のB23含有量を調整し、所望の清浄空間となるようにエアフィルタから発生するホウ素量を低減することができるガラス繊維からなるエアフィルタ用濾材およびエアフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエアフィルタ用濾材は、請求項1記載の通り、B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維と、B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維が主体となる混抄紙にバインダを添着してなるものであることを特徴とする。
また、請求項2記載のエアフィルタ用濾材は、請求項1記載のエアフィルタ用濾材において、前記混抄紙の主体となるガラス繊維が、B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維40〜80質量%と、B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維60〜20質量%からなることを特徴とする。
また、請求項3記載のエアフィルタ用濾材は、請求項1または2記載のエアフィルタ用濾材において、前記混抄紙をバインダ溶液に浸漬し、バインダを添着してなることを特徴とする。
本発明のエアフィルタは、請求項4記載の通り、請求項1乃至3のいずれかに記載したエアフィルタ用濾材を用いたことを特徴とする。
また、請求項5記載のエアフィルタは、請求項4記載のエアフィルタにおいて、エアフィルタから発生するホウ素量が1〜10ng/m3であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエアフィルタ用濾材は、濾材を構成する混抄紙が、B23含有量が0.1質量%以下のガラス繊維と、このガラス繊維よりもB23含有量が多いガラス繊維の2種類のガラス繊維を主体として混抄紙を形成することによって、混抄紙中のB23含有量を調整することができる。従って、このB23含有量を調整した混抄紙にバインダを添着することによって、ガラス繊維表面をバインダで被覆して、エアフィルタから発生するホウ素量を低減させたエアフィルタ用濾材およびエアフィルタを提供することができる。また、エアフィルタ用濾材が、B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維と、このガラス繊維よりもB23の含有量が多いガラス繊維の2種類のガラス繊維を主体とした混抄紙からなるものであるため、有機繊維等を混抄することなく、濾材として要求される引張強度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のエアフィルタ用濾材は、B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維と、B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維が主体となる混抄紙にバインダを添着してなるものである。
【0009】
本発明のエアフィルタ用濾材に用いるB23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維としては、溶融石英ガラス繊維、高珪酸ガラス繊維、ゾルゲル法シリカガラス繊維、珪酸ガラス繊維などを使用することができる。
溶融石英ガラス繊維とは、溶融石英ガラスを火炎ジェットで吹き飛ばし、再溶融して繊維化したものであり、SiO2の含有量が99.99質量%のものである。また、高珪酸ガラス繊維とは、無アルカリガラス(Eガラス)繊維を酸処理などでシリカ以外の成分を溶出させた多孔質ガラス繊維や、この多孔質ガラス繊維を焼成して微孔を潰したガラス繊維や、バイコールガラス(分相ガラス)を出発原料として微細化した多孔質ガラス繊維などであり、いずれのガラス繊維もSiO2の含有量が99.8質量%のものである。ゾルゲル法シリカガラス繊維とは、ガラスを構成するケイ素のアルコキシド溶液の水分量を少なくして紡糸した後、600〜900℃で焼成したガラス繊維であり、SiO2の含有量が99.99質量%のものである。これらのB23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維のうち、SiO2の含有量が99.8質量%の高珪酸ガラス繊維は、汎用性があるため好ましい。
【0010】
また、本発明のエアフィルタ用濾材に用いるB23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維としては、ホウ珪酸ガラス、Cガラスからなるガラス繊維を用いることができる。これらのガラスからなるガラス繊維は、現在広く流通している製品であり、価格が安いため好ましい。B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維としては、その組成として、質量%で表示して、SiO2:50〜60%、Na2O:7〜14%、CaO:1〜6%、K2O:1〜5%、Al23:3〜8%、MgO:0〜4%、ZnO:0〜5%、Fe23:0.3%未満、B23:5〜15%、BaO:3〜6%のものを用いることができる。
【0011】
本発明のエアフィルタ用濾材を構成する混抄紙は、その主体となるガラス繊維の配合量が、B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維が40〜80質量%、B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維が60〜20質量%からなるものであることが好ましい。
23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維の配合量が80質量%を超えると、濾材からのホウ素発生量は少なくなるものの、クリーンルーム内の光源による光照射によって耐候性が低下し、引張強度が弱くなるため好ましくない。また、B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維の配合量が40質量%未満であると、混抄紙を構成するガラス繊維自体に含まれるB23の含有量が多くなるため、濾材から発生するホウ素量が多くなり、好ましくない。
【0012】
本発明に用いるガラス繊維は、例えば、その平均繊維径が0.2〜70μmのものである。クリーンルームで用いられる高性能フィルタとして、サブミクロン粒子を捕集するHEPAフィルタ(高性能フィルタ)やULPAフィルタ(超高性能フィルタ)用の濾材とする場合は、平均繊維径が2.0μm以下のガラス繊維を用いることが好ましい。
また、エアフィルタ用濾材は、通常、プリーツ状に形成するので、濾材の引張強度を向上するために、上記のような平均繊維径をもつガラス繊維に、平均繊維径のやや太いガラス繊維を混合して混抄紙とすることが好ましい。本発明に用いるガラス繊維は、例えば、平均繊維径2.0μm以下のガラス繊維80〜20質量%と、繊維径1〜70μm、繊維長1〜15mmのガラス繊維20〜80質量%を混合することが好ましい。平均繊維径2.0μm以下のガラス繊維の配合量が80質量%を超えると、平均繊維径の太いガラス繊維の配合量が少なくなり、引張強度の低下やプリーツ加工性の低下、圧力損失が増加する等の問題が生じるため好ましくない。平均繊維径2.0μm以下のガラス繊維の配合量が20質量%未満であると、クリーンルーム内のダストの捕集効率が低下するため好ましくない。
【0013】
本発明のエアフィルタ用濾材を構成する混抄紙に添着するバインダとしては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などを使用することができる。
バインダを混抄紙に添着する方法としては、混抄紙を構成するガラス繊維を工業用水又は水道水に分散させたスラリー中にバインダを添加してバインダとともに混抄紙を抄造することによって、バインダを添着してもよいし、混抄紙をバインダ溶液に浸漬してバインダを添着してもよく、また、この両方の方法によってバインダを添着してもよい。また、混抄紙の上からバインダ溶液を掛け流してバインダを添着してもよく、混抄紙にバインダ溶液を噴霧してバインダを添着してもよい。
混抄紙をバインダ溶液に浸漬し、バインダを添着した場合は、混抄紙を構成するガラス繊維1本1本の表面にバインダが被覆されるため好ましい。
バインダは、混抄紙100質量%に対して、4〜7外質量%添着することが好ましい。混抄紙に添着するバインダが少ないと、混抄紙の引張強度が不足するとともに、ガラス繊維表面に均一にバインダが被覆されないため好ましくない。また、バインダが多いと、バインダが混抄紙を構成するガラス繊維の隙間を塞ぎ、この混抄紙からなる濾材の圧力損失が高くなるため好ましくない。また、バインダが多いと燃焼成分量が増加し、有機ガスの発生が増し、燃焼性が悪くなるため好ましくない。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0015】
(実施例1)
23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維として、質量%で表示して、その成分がSiO2:70.0%、Na2O:10.0%、CaO:6.0%、K2O:5.0%、Al23:3.0%、MgO:3.0%、ZnO:1.0%、Fe23:0.2%未満、B23:0.1%未満の組成の平均繊維径0.7μmと平均繊維径3μmの溶融紡糸ガラス繊維と、前記組成の平均繊維径6μmのチョップドストランドガラス繊維から構成されるガラス繊維を用いた。
また、B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維として、質量%で表示して、その成分がSiO2:60.0%、Na2O:10.0%、CaO:5.0%、K2O:3.0%、Al23:6.0%、MgO:1.0%、ZnO:3.0%、Fe23:0.2%未満、B23:10.0%、BaO:4.0%の組成のホウ珪酸ガラスからなる平均繊維径0.7μmと平均繊維径3μmの溶融紡糸ガラス繊維と、前記組成の平均繊維径6μmのチョップドストランドガラス繊維から構成されるガラス繊維を用いた。前記B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維40質量%と、前記B23の含有量が10.0質量%のガラス繊維60質量%を工業用水中にパルパーで解離し、これらの2種類のガラス繊維を主体として、抄紙機で混抄紙を形成した。この混抄紙を、アクリル系ラテックスとフッ素系界面活性剤の混合液からなるバインダ溶液に浸漬し、混抄紙100質量%に対してバインダ量が6外質量%となるように、混抄紙にバインダを添着し、その後ドライヤーで乾燥して、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。
このエアフィルタ用濾材をジグザグ状に折り畳み、濾材の折り山間隔をリボン材又はセパレータで保持したエアフィルタ用パックを、縦610mm×横610mm×奥行65mmのアルミニウム製の外枠内に収容し、エアフィルタ用パックの周囲をウレタン系樹脂にて接着してエアフィルタを作製した。
【0016】
(実施例2)
実施例1と同様のB23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維50質量%と、実施例1と同様のB23の含有量が10.0質量%のガラス繊維50質量%を主体として混抄紙を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0017】
(実施例3)
実施例1と同様のB23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維60質量%と、実施例1と同様のB23の含有量が10.0質量%のガラス繊維40質量%を主体として混抄を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0018】
(実施例4)
実施例1と同様のB23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維70質量%と、実施例1と同様のB23の含有量が10.0質量%のガラス繊維30質量%を主体として混抄を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0019】
(実施例5)
実施例1と同様のB23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維80質量%と、実施例1と同様のB23の含有量が10.0質量%のガラス繊維20質量%を主体として混抄を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0020】
(実施例6)
実施例1と同様のB23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維90質量%と、実施例1と同様のB23の含有量が10.0質量%のガラス繊維10質量%を主体として混抄を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0021】
(実施例7)
実施例3と同様に形成した混抄紙を、実施例1と同様のアクリル系ラテックスとフッ素系界面活性剤の混合液からなるバインダ溶液に浸漬して、前記混抄紙100質量%に対してバインダ量が4外質量%となるようにバインダを添着したこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0022】
(実施例8)
実施例3と同様に形成した混抄紙を、実施例1と同様のアクリル系ラテックスとフッ素系界面活性剤の混合液からなるバインダ溶液に浸漬して、前記混抄紙100質量%に対してバインダ量が10外質量%となるようにバインダを添着したこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0023】
(実施例9)
実施例3と同様に形成した混抄紙に対し、実施例1と同様のアクリル系ラテックスとフッ素系界面活性剤の混合液からなるバインダ溶液を、前記混抄紙100質量%に対してバインダ量が6外質量%となるように噴霧によって添着したこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0024】
(従来例1)
実施例1と同様のB23の含有量が10.0質量%のガラス繊維100質量%を主体として形成した混抄紙を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0025】
(従来例2)
実施例1と同様のB23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維100質量%を主体として形成した混抄紙を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0026】
(比較例)
実施例3と同様の混抄紙に、バインダを添着していないこと以外は、実施例1と同様にして、目付70g/m2のエアフィルタ用濾材を得た。このエアフィルタ用濾材を用いて、実施例1と同様にしてエアフィルタを作製した。
【0027】
実施例1〜9と、従来例1〜2と、比較例のエアフィルタについて、次の試験を行った。結果を表1に示す。
【0028】
(エアフィルタ用濾材中に含まれるホウ素含有量)
エアフィルタ用濾材を酸溶液に溶解し、この溶解液をICP−AESにて定量分析を行い、エアフィルタ用濾材中のホウ素量を測定した。
【0029】
(エアフィルタから発生するホウ素量)
図1にエアフィルタから発生するホウ素量を測定する測定装置を示す。図1に示すように、エアフィルタから発生するホウ素量の測定装置1においては、ファン3とケミカルフィルタ4を通過した清浄空気が、上流側サンプリング室5に流入し、上流側サンプリング室5から試験用エアフィルタ2を通じて下流側サンプリング室6を流通し、流出口7から外部に流出するようになっている。試験用エアフィルタ2には、ファン3とケミカルフィルタ4を通過した清浄空気を、面風速0.35m/sで通過させている。この試験用エアフィルタ2を通過する前の清浄空気と、試験用エアフィルタ2を通過した後の清浄空気を、上流側サンプリング室5と下流側サンプリング室6からそれぞれインピンジャ8,9で2.0L/min、24時間を目安にサンプリングした。サンプリングした捕集液をICP−MSで分析し、上流側サンプリング室5からサンプリングした捕集液中のホウ素濃度と下流側サンプリング室6からサンプリングした捕集液中のホウ素濃度を測定し、このホウ素濃度の差からエアフィルタから発生したホウ素量を算出した。
【0030】
(クリーンルーム内のホウ素収束濃度)
図2にクリーンルームにエアフィルタを設置した場合のクリーンルーム内のホウ素収束濃度を推定するモデルを示す。クリーンルーム内のホウ素収束濃度とは、クリーンルームを運転した際に、クリーンルーム内のホウ素濃度が安定した時のホウ素濃度をいう。
図2に示すように、クリーンルーム施設10内のクリーンルーム11の天井にエアフィルタ12を設置し、各エアフィルタ12の上流側にファン13を設置する。このファン13の上流側に所定の積載率でケミカルフィルタ14を設置する。クリーンルーム11内の空気は、床部15から排出され、その一部が循環路16を通じて、再び、ケミカルフィルタ14とエアフィルタ12を通過して、クリーンルーム11内に供給されるようになっている。
ここで、クリーンルーム施設10へ供給する空気の風量をQ1とし、この空気中のホウ素濃度をC1とする。クリーンルーム施設10内に流入した空気の風量をQ2とし、この空気中のホウ素濃度をC2とする。ケミカルフィルタ14とエアフィルタ12を通過して、エアフィルタ12から発生するホウ素を含む空気中のホウ素濃度をC3とし、クリーンルーム11内のホウ素収束濃度をC4とする。また、クリーンルーム11の床部15から流出して、循環路16内を循環する空気の風量をQ5とし、この空気中のホウ素濃度をC5とする。クリーンルーム11の床部15から流出し、排出口17を通じて、外部に排出した空気の風量をQ6とし、この空気中のホウ素濃度をC6とする。なお、ケミカルフィルタの積載率をLとし、このケミカルフィルタの除去効率をηとする。また、クリーンルーム11から循環路16を通じて、再びクリーンルーム11内に供給される空気のリターン率をRとする。クリーンルーム11内のホウ素の物質収支は、次式で表すことができる。
【0031】
C2・Q2・(1−η・L)+C3・Q2=C4・(Q5+Q6) ・・・(1)
【0032】
ここで、Q2=Q1+Q5、Q1=Q6、Q5=Q2・R、C5=C6=C4、C2・Q2=C1・Q1+C5・Q5として、式(1)をC4について整理すると次式で表すことができる。
【0033】
C4={C1・Q1(1−η・L)+C3・Q2}/Q2{R・η・L+(1−R)}
・・・(2)
【0034】
クリーンルーム施設内に供給する空気中には、ホウ素が含まれないと仮定すると、C1=0である。このC1=0を代入して、式(2)を整理すると、次式で表すことができる。
【0035】
C4=C3/{R・η・L+(1−R)} ・・・(3)
【0036】
上記式(3)に基づいて、エアフィルタからクリーンルーム内に発生するホウ素量を算出した。なお、ホウ素量の算出に際しては、R=0.96、η=0.8、L=0.2を代入した。
【0037】
(PAOの捕集効率)
ラスキンノズルで発生させた多分散PAO(polyalphaolefin)粒子を含む空気を、有効面積100cm2のエアフィルタ用濾材に、面風速5.3cm/秒で通風し、エアフィルタ用濾材のPAO捕集効率をリオン社製レーザーパーティクルカウンタで測定した。なお、対象粒径は0.1〜0.15μmとした。
【0038】
(圧力損失)
有効面積100cm2のエアフィルタ用濾材に、面風速5.3cm/秒で通風し、その時のエアフィルタ濾材前後の差圧を微差圧計(マノメータ)で測定した。
【0039】
(引張強度)
幅25.4mmのエアフィルタ用濾材を、つかみ間隔102mm、引張速度12.7mm/minで引っ張り、破断時の強度を測定した。従来例1のエアフィルタ用濾材の破断時の強度を100として、この従来例1の破断時の強度との対比による相対評価で濾材の強度を表した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の実施例1〜9に示す通り、エアフィルタ用濾材を構成する混抄紙を、B23含有量が0.1質量%以下のガラス繊維と、B23含有量が5〜15質量%のガラス繊維の2種類のガラス繊維を混抄して得ることで、混抄紙中のB23含有量を適宜調整することができた。この混抄紙にバインダを添着してガラス繊維表面にバインダを被覆したものをエアフィルタ用濾材として用いたエアフィルタによれば、発生するホウ素量を低減することができた。すなわち、実施例1〜9のエアフィルタから発生するホウ素量はその最大量が15ng/m3であり、従来例1のエアフィルタから発生するホウ素量の300ng/m3と比較して、発生するホウ素量が5%に低減されていた。また、実施例1〜6によれば、
エアフィルタから発生するホウ素量が1〜10ng/m3と低く、クリーンルーム内のホウ素収束濃度も5〜50ng/m3と低減することができた。
また、実施例6に示すように、B23含有量が0.1質量%以下のガラス繊維の配合量が80質量%を超えるガラス繊維を主体とした混抄紙からなるエアフィルタ用濾材を用いたエアフィルタは、エアフィルタから発生するホウ素量が1ng/m3未満と非常に低くくなるものの、エアフィルタ用濾材の強度が若干低くなった。
実施例7、8に示すように、バインダの添着量が多くなる程、エアフィルタから発生するホウ素量と、クリーンルーム内のホウ素収束濃度は低くなるが、バインダの添着量が多くなる程、エアフィルタの圧力損失が高くなった。また、実施例9に示すように、混抄紙にバインダ溶液を噴霧してバインダを添着したエアフィルタは、実施例1〜8のように混抄紙をバインダ溶液に浸漬させてバインダを添着したエアフィルタと比較して、エアフィルタから発生するホウ素量と、クリーンルーム内のホウ素収束濃度がともに増大していた。
これに対し、従来例1のエアフィルタは、エアフィルタから発生するホウ素量が300ng/m3、クリーンルーム内のホウ素収束濃度が1550ng/m3と高かった。また、従来例2のように、B23含有量が0.1質量%以下のガラス繊維を主体として抄紙したエアフィルタ用濾材を用いたエアフィルタは、エアフィルタから発生するホウ素量、クリーンルーム内のホウ素収束濃度が1ng/m3未満と低いものの、エアフィルタ用濾材の強度が若干低かった。
比較例のように、B23含有量が0.1質量%以下のガラス繊維と、B23含有量が5〜15質量%のガラス繊維の2種類のガラス繊維を主体とした混抄紙からなるエアフィルタ用濾材を用いたエアフィルタであっても、この混抄紙にバインダを添着しない場合は、エアフィルタから発生するホウ素量が50ng/m3と高く、クリーンルーム内のホウ素収束濃度も258ng/m3と高かった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】エアフィルタから発生するホウ素量を測定する測定装置の概略構成を説明する図
【図2】エアフィルタを設置したクリーンルーム内のホウ素収束濃度を推定するモデル示す図
【符号の説明】
【0043】
1 エアフィルタから発生するホウ素量の測定装置
2 試験用エアフィルタ
3 ファン
4 ケミカルフィルタ
5 上流側サンプリング室
6 下流側サンプリング室
7 流出口
8 インピンジャ
9 インピンジャ
10 クリーンルーム施設
11 クリーンルーム
12 エアフィルタ
13 ファン
14 ケミカルフィルタ
15 床部
16 循環路
17 排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維と、B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維が主体となる混抄紙にバインダを添着してなるものであることを特徴とするエアフィルタ用濾材。
【請求項2】
前記混抄紙の主体となるガラス繊維が、B23の含有量が0.1質量%以下のガラス繊維40〜80質量%と、B23の含有量が5〜15質量%のガラス繊維60〜20質量%からなることを特徴とする請求項1記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項3】
前記混抄紙をバインダ溶液に浸漬し、バインダを添着してなることを特徴とする請求項1または2記載のエアフィルタ用濾材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載したエアフィルタ用濾材を用いたことを特徴とするエアフィルタ。
【請求項5】
エアフィルタから発生するホウ素量が1〜10ng/m3であることを特徴とする請求項4記載のエアフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−7586(P2007−7586A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193207(P2005−193207)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000232760)日本無機株式会社 (104)
【Fターム(参考)】