説明

エアロゾル化抗凝固薬を用いて肺組織におけるフィブリンクロットの形成を防ぐ方法

【課題】急性肺障害を治療する方法を提供する。
【解決手段】 肺障害が治癒するように治療的有効量のアンチトロンビンIIIとヘパリンとを投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2004年2月20日に受理された米国特許出願60/546,236号に基づき優先権を主張するものであり、それらの内容を参照として本明細書中に引用しておく。
【背景技術】
【0002】
炎症性肺疾患においては、気道にフィブリンが観察される。肺胞に形成されたフィブリンは、急性、及び/または慢性の炎症性肺疾患にみられる顕著な特徴として知られている。炎症が起こると肺血管膜の透過性が亢進するため、血漿滲出物が気道に滲み出る。しみ出た血漿中のフィブリノーゲンは、肺胞の活性化マクロファージ、及び上皮細胞の表面に発現した組織因子により活性化され、その結果気管中にクロットが形成される。気管支内のフィブリンは、肺病理学の観点において様々な役割を持つ。まず、ガス交換を阻害する。本発明では、煙吸入と肺炎の処置を受けたヒツジの気管支及び細気管支の40%以上が、フィブリンを含む円柱によりふさがれていたことを示した。肺の一部がふさがれると、換気血流ミスマッチによりガス交換が滞る。患者を機械で換気しても、肺の換気部分が過度に広がり、気圧障害をもたらすことがあり得る。二番目に、フィブリンは表面活性物質の活性を阻害し、これによりまた肺機能が抑制される。ヘパリンの噴霧療法が気道閉塞とそれに続く急性肺障害を防ぐのに有効であることが知られている。しかし、噴霧状のヘパリン単独の投与は、煙吸入によりもたらされる急性肺障害(ALI)に有効ではないことを示唆する報告もある。この矛盾は、ヘパリンの抗凝固能がアンチトロンビン依存的であるのに、他の研究ではアンチトロンビン活性が正しく考慮されておらず、かつこの障害モデルでは通常アンチトロンビンレベルが健全な生理的レベルよりも下がるためであると考えられる。
【0003】
もう一つのタイプの肺障害であるARDS (急性呼吸促迫症候群)は、米国救命医療のおよそ1割を占める深刻な肺障害であり、集中治療室(ICU)における罹病及び死亡の主要な要因である。ARDSの病態生理学には、炎症、脈管漏出、抑制不能の凝固、及び繊維増加が含まれる。初期のARDSの肺では、トロンビンの局所的発現と凝固第Xa因子の酵素活性は、肺胞内のフィブリン沈着とヒアリン膜形成をもたらし、これが肺の機能障害を引き起こす。成長因子の活性を通してトロンビンは肺の繊維化もまた促進し、これが後期のARDSの問題となっている。本発明では、多くの患者に多臓器不全と最終的な死をもたらすARDSの進展、経過におけるトロンビンの役割を解明するために、急性肺障害のモデルが用いられた。
【0004】
アンチトロンビンは、広域抗生物質のセリンプロテアーゼ阻害剤である。アンチトロンビンIII(ATIII)は、抗凝固活性を持つセリンプロテアーゼ阻害剤(serpin)である。ATIIIによるトロンビンと凝固第Xa因子の阻害率は、薬剤のヘパリンまたは血中のヘパラン硫酸プロテオグリカンと結合すると、1000倍以上上昇する。ATIIIは、トロンビン-ATIII複合体を形成してトロンビンの働きを阻害し、この複合体は網内系により循環から排除される。ATIIIはさらに、既知の全ての凝固経路に対して阻害活性を持つ。ATIIIはまた、ヘパリンと共に、組織因子-凝固第VII因子複合体を不活性化することもできる。AT (アンチトロンビンIII)は、トロンビン及びフィブリン形成を阻害し、内皮細胞における接着分子の発現を低下させる。APC (活性化プロテインC)は、凝固第VIIIa因子と凝固第Va因子を阻害し、内皮細胞及び単球の組織因子の発現を低下させ、トロンビン産生を抑制することによりPAI-1 とTAFI (トロンビン活性化線溶抑制因子)を阻害する。組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン (rhs-TM)は、プロテインCを活性化型(APC)に変換することができる。
【0005】
ATIIIはその活性サイトにヘパリン結合領域を持つ。ヘパリン、他のグリコサミノグリカン、及びプロテオグリカンは、内皮表面に発現し、高い親和性でATIIIと結合する。トロンビンを不活性化するためには、ATIIIがヘパリンと結合する必要がある。ヘパリンの非存在下では、ATは内皮表面に結合して抗凝固物質として機能するが、同時にプロスタサイクリンの放出を刺激する。プロスタサイクリンは、血小板凝集の阻害能を持ち、炎症性サイトカインの合成を阻害し、好中球の活性化とそれに続くエラスターゼと酸素のフリーラジカル放出を抑制する。
【0006】
ヘパリンは、アンチトロンビンの阻害活性を数千倍も増強する。従って、気道にアンチトロンビンが適当量ないと、エアロゾル化ヘパリンはフィブリンの形成を阻害できず、煙または熱傷による肺障害の治療において何かしらの効果を認めることは難しい。本発明では、我々は、ヘパリンと共にアンチトロンビンを噴霧することが、煙及び/または熱傷による障害に起因したALIのために有効、かつ確かな治療法であることを示し、このような肺障害をより効果的に治療する方法を主張する。
【0007】
急性、及び慢性の肺病における凝固経路を改変する効果が、幾つかの人と動物の研究で調べられてきた。本発明によれば、非常に特異的なトロンビンの直接の阻害剤、アンチトロンビンIIIの外来的投与は、ALIの動物モデルに効果的である。加えて、ヘパリンがアンチトロンビンIII-セリンプロテアーゼ複合体の形成を亢進し凝固プロテアーゼを阻害することを通して、ALIの動物モデルではガス交換が回復する。ヘパリンはまた、マウスにおいてブレオマイシンが誘導する肺の線維化も減衰させることが示されている。従って、この二分子を同時に投与することは、ALIの患者に相乗的、かつ良好な効果をもたらす。
【0008】
LPSが誘発する肺障害では、静脈投与されたATIII (250units/kg)が、血管損傷、白血球の蓄積、及び血管透過性を減少させることが示されている。ヘパリン単独では、完全または最適に肺の疾患を防ぐことは難しいかもしれない。ALIとARDSは、肺の肺胞及び間質組織における凝固活性の増加と線溶活性の低下に関係がある。初期ALIの特徴であるフィブリンの沈着は、肺におけるPAI-1レベルの上昇と好中球の蓄積を伴う。フィブリンの沈着と好中球エラスターゼによるフィブリン分解産物への消化は、繊維芽細胞の凝集とコラーゲンの分泌を刺激し、肺線維症へと導く。動物における研究では、TFPI、組織因子-凝固第VIIai因子、ATIII、可溶性TM、及びAPCのような抗凝固薬の投与により肺障害が一定の減少を示す。一方、臨床的研究では必ずしも十分な結果は得られていない。ATIIIの投与は、煙吸入と熱傷による肺障害に何らかの効果をもたらすことが示されている。
【0009】
フィブリン円柱による気道閉塞は、煙吸入が誘発する急性肺障害(ALI)の深刻な問題である。気道円柱を防ぐことは、臨床的成果からも重要であり得る。我々は、本明細書で、ATIIIとヘパリンの合同投与が、ヒツジの煙吸入モデルにおける気道閉塞を防ぐのに有効であることを報告する。さらに本発明では、ヘパリンとアンチトロンビン(ATIII)両者の噴霧状態での利用、及び肺障害の治療のために使用されるヘパリンとアンチトロンビン(ATIII)両者が、実験的呼吸窮迫症候群のガス交換の回復に協同的に働くことを教示する。ATIIIとヘパリンは、敗血症が誘発する凝固異常を治療する上でも有用であり得る。前述のように、ヘパリンは、体内で産生される血漿プロテアーゼ阻害剤であるアンチトロンビンを強化して、トロンビン、凝固第Xa因子、及び他の凝固酵素を阻害する。ATIIIがヘパリンと共に供給される時、この組み合わせは協同的に働きトロンビンとフィブリンの沈着を阻害する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は部分的に、エアロゾル化したアンチトロンビンIII(ATIII)が肺の疾患、すなわち肺の炎症及び障害を治療するのに有効であることの発見に基づくものである。本発明を通して、エアロゾル化抗凝固薬を用いてフィブリンクロットを防ぐことにより、熱傷及び煙吸入の障害を持つ肺疾患の肺機能が回復することが分かった。
【0011】
従って、肺の疾患、すなわち肺の炎症及び障害の治療には、ヘパリンとATIII両者の吸入による投与が静脈内投与よりもさらに効果的である。
【0012】
本発明の好ましい実施形態から、アンチトロンビンとヘパリン、ならびにアンチトロンビンとヘパリン両者を特異的にエアロゾル化したものは、ヘパリンまたは他の薬剤単独よりも気道閉塞を防ぐのにより有効な抗凝固薬であることが判明した。これは、煙吸入が誘発するヒツジのALIモデルにおいて、合成トロンビン阻害剤に対するエアロゾル化アンチトロンビンとヘパリンの効果を調べた時も同様であることが判明した。
【0013】
アンチトロンビンとヘパリン両者の噴霧は、気道閉塞及びガス交換の減衰を阻害した。加えて、アンチトロンビンは抗炎症効果を持つようであり、結果として煙及び/または熱傷による障害をこうむった時の肺の炎症とそれに続く水腫形成が減衰する。
【0014】
それゆえ一つの態様では、本発明は主に、肺の疾患、すなわち肺の炎症及び/または障害を伴う患者を治療する方法に関するものであり、ATIIIとヘパリン両者を、治療的有効量だけ吸入により投与することが含まれる。肺疾患とは、急性、または慢性的肺疾患である。一つの実施形態では、肺疾患は急性肺障害、すなわち敗血性急性肺障害またはARDS、あるいは気道封鎖である。外界の物質、すなわち生きた物質 (すなわち、緑膿菌肺炎)、煙またはアスベストにさらされることで肺の障害及び/または炎症が起こり得る。他の実施形態では、肺疾患とは、すなわち肺または胸膜における腫瘍形成、間質性肺炎及び/または器質化胸膜炎であり得る。
【0015】
一つの実施形態では、ヘパリンとATIIIの組成物は、ジェットネブライザーまたは超音波ネブライザシステムを用いて、あるいは粉末吸入システムにより投与される。混合組成物を噴霧状態で投与できるこのようなシステムが知られている。
【0016】
一つの実施形態では、ATIIIとはヒトのATIIIである。ATIIIは、血漿由来のもの、または組み換えによる生成物であり得る。血漿由来のATIIIは市販品が利用できる。好ましい実施形態では、アンチトロンビンIIIは遺伝子導入により生成される。すなわち、ATIIIは、牛、ヤギ、ウサギ、またはマウスといったトランスジェニック乳用動物由来の乳から得られる。トランスジェニック動物の乳中でATIIIを生成する方法は、米国特許第5,843, 705号に記述されており、その内容は本明細書中でも参考文献として取り込まれている。同様に、ヘパリンも血漿由来のもの、または組み換えによる生成物であり得る。血漿由来のヘパリンは市販品が利用できる。好ましい実施形態では、ヘパリンは組み換え体から生成される。
【0017】
好ましい実施形態では、患者は、ヘパリン、及び薬剤として認可されている基剤を含むエアロゾル組成物を投与される。薬剤として認可されている基剤の例には、水と生理食塩水が含まれる。
【0018】
一つの実施形態では、患者は、定期的にATIIIとヘパリンの両者を吸入により投与される。すなわち、患者は、各分子の薬物動力学に基づく一定の期間を置いて、ATIIIとヘパリンを投与される。例えば、患者は、肺の炎症及び/または障害の始めと、次に最初の投与から一定の期間毎に、エアロゾルATIIIとヘパリンを投与される。すなわち、患者の必要と各薬剤の薬理学的性質に応じて、 1時間おき、2時間おき、3時間おき、4時間おき、6時間おき、日に2回、または日に3、4、5、6回と、ATIII及び/またはヘパリンを投与することができる。投与の間隔は、約24、48、72、96、120、144、または168時間に渡ることもできる。もう一つの実施形態は、患者は、必要に応じてATIIIとヘパリンの組み合わせを吸入により投与される。すなわち、肺の炎症または障害における、一つまたは複数の継続/再発した症状の程度に応じて、ATIIIが投与される。
【0019】
ATIII、すなわち遺伝子導入で生成されるATIIIの有効量は、体重当たりおよそ1-150 U/kg、25-125 U/kg、50-100 U/kg、または60-75 U/kgの間であり得る。もう一つの態様では、有効量は、およそ1 mg/kg、5 mg/kg、10 mg/kg以上で、かつおよそ150 mg/kg、100 mg/kg、70 mg/kg以下であり得る。
【0020】
共に組成物を形成するヘパリンの有効量は、体重当たりおよそ1-30 U/kg、2-25 U/kg、50-100 U/kg、または60-75 U/kgの間であり得る。もう一つの態様では、有効量は、およそ1 mg/kg、5 mg/kg、10 mg/kg以上で、かつおよそ150 mg/kg、100 mg/kg、70 mg/kg以下であり得る。
【0021】
好ましい実施形態では、疾患を治療するため、すなわち肺の炎症または障害に伴う一つまたは複数の症状に効果もたらすために投与されるATIIIとヘパリンを組み合わせたエアロゾルの有効量は、同様の効果もたらすために静脈注射で投与されるATIIIとヘパリンの有効量の10%、20%、30%、40%、50%、60%以下である。
【0022】
本発明によると、アンチトロンビンとヘパリン両者の噴霧療法は、気道閉塞とガス交換の減衰を防ぐ。それに加えて、アンチトロンビンには、付加的及び増強的な抗炎症効果があり、結果として肺の炎症とそれに続く水腫形成がより減衰する。さらに、煙吸入及び/または熱傷による肺障害を治療するためにアンチトロンビンとヘパリンが共に使用される時、両者の相乗効果が現れる。
【0023】
もう一つの実施形態では、肺障害を治療するためのキットがこの発明の特色である。このキットには、治療的有効量のエアロゾル形態のATIIIと使用説明書が含まれるのが好ましい。さらにこのエアロゾルには、薬剤として認可されている基剤が含まれるのが好ましい。薬剤として認可されている基剤の例には、水と生理食塩水が含まれる。
【0024】
一つの実施形態では、ATIII、すなわち遺伝子導入で産生されるATIIIの有効量は、体重当たりおよそ10-300 U/kg、25-125 U/kg、50-100 U/kg、または60-75 U/kgの間であり得る。もう一つの態様では、有効量は、およそ1 mg/kg、5 mg/kg、10 mg/kg以上で、かつおよそ150 mg/kg、100 mg/kg、70 mg/kg以下であり得る。
【0025】
好ましい実施形態では、キットとは、急性または慢性の肺疾患を治療するためのキットである。肺疾患とは、急性の肺障害、すなわち敗血性急性肺障害または急性呼吸促迫症候群(ARDS)であることが好ましい。肺の障害及び/または炎症は、外界の物質、すなわち生きた物質 (すなわち、緑膿菌肺炎)、煙、またはアスベストにさらされることで起こり得る。他の実施形態では、肺の疾患は、すなわち肺または胸膜における腫瘍形成、間質性肺炎及び/または器質化胸膜炎であり得る。
【0026】
一つの実施形態では、キットは、ジェットネブライザーまたは超音波ネブライザシステム、あるいは粉末吸入システムの中にATIIIとヘパリン組成物を含む。
【0027】
一つの実施形態では、キットは、エアロゾル形態のヒトATIIIとヘパリンを含む。ATIIIは、血漿由来のもの、または組み換えによる生成物であり得る。好ましい実施形態では、アンチトロンビンIIIは遺伝子導入により生成される。すなわち、ATIIIは、牛、ヤギ、ウサギ、またはマウスといったトランスジェニック乳用動物由来の乳から得られる。これに対して、この発明のヘパリンは、典型的にはイン・ビトロ(in vitro)で組み換えによって生成される。
【0028】
発明の一つまたは複数の実施形態の詳細は、以下に添付された図、及び説明で述べられている。発明の他の特徴、目的、及び利点は、説明と図、及び請求から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】核移植を介してクローン動物を作出する方法についての一般的な図式。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の略号は明細書中に示された意味を有するものである。
【0031】
略号表
体細胞核移植 SCNT
核移植 NT
合成卵管液 SOF
ウシ胎仔血清 FBS
ポリメラーゼ連鎖反応 PCR
ウシ血清アルブミン BSA
【0032】
語句の説明
ウシ−多様な種類のウシまたはウシ近縁種
生体液−哺乳類、トリ、両生類、または爬虫類のような生物によって産生される水溶液で、この水溶液中の細胞が分泌するタンパク質を含む。例としては、乳汁、尿、唾液、精液、膣液、滑液、リンパ液、羊水、血液、汗、及び涙を含む。同様に植物により産生される水溶液は、例として、滲出液と溢液、木質部、篩部、樹脂、及び果汁を含む。
【0033】
生体液産生細胞−生体液に浸かって、生体液中にタンパク質を分泌している細胞。
【0034】
生物薬剤−任意の治療力のある薬、治療用物質、ワクチン、または任意の医学的に有用な組成物を意味する。これらの原材料調製、合成、または製造には、微生物、遺伝子組み換え技術(キメラまたはトランスジェニック動物を限定なしに含む)、核移植、顕微注射、または培養細胞技術の使用が含まれる。
【0035】
ヤギ−多様な種類のヤギまたはヤギ近縁種
コーディング−一般的には、翻訳可能な形で存在する配列情報を言う。通常は機能的にプロモーターに連結されている。配列は機能プロモーターにつながれており、機能的なプロモーターがこの配列の転写または発現を増強する。アンチセンス鎖もまた、同じ配列をコードしているとみなされる。なぜなら、特にセンス鎖の発現を促進する配列につながれていれば同じ配列情報が直ちに利用可能な形態で存在するからである。情報は、標準的、または改変された遺伝子コードを用いて変えることができる。
【0036】
発現ベクター−遺伝学的に設計されたプラスミド、またはウイルス。例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、または人工染色体から由来し、機能発揮できるようにプロモーターにつながれたATIIIタンパク質のコーディング配列を、宿主細胞に転移させるために用いられる。結果として、組み換えATIIIタンパク質のコーディング配列が宿主細胞内で発現する。
【0037】
機能性タンパク質−生物学上、活性、有用性を持つタンパク質で、内在的に生成されるタンパク質と類似している。
【0038】
スライド−離して固定された平行な電極対のためのガラススライド。流した電流で活性化されるように、細胞対は電極の間に置かれる。
【0039】
相同配列−比較した場合に類似性を示す遺伝配列を言う。核酸における相同性は通常、当業者に一般的に使用されている相同性の測定、またはハイブリダイゼーションの条件を基準として判別する。核酸配列における実質的な相同性とは、断片、または相補鎖を比較した時に、ヌクレオチドの挿入または欠失が適度に含まれながらも一致した配列として並べられることであり、この時、少なくとも約60%の残基、通常では少なくとも約70%、さらに一般的には少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95−98%のヌクレオチド残基が一致するのが好ましい。または、選択的なハイブリダイゼーション条件の下で、断片が配列またはその相補鎖にハイブリダイズする時に実質的な相同性があると言える。ハイブリダイゼーションの選択性は特異性を全てなくしたよりも選択的なハイブリダイゼーションが起こる時に生じる。典型的には、少なくとも約14ヌクレオチド以上に渡る配列に対して少なくとも55%以上の相同性がある時、選択的なハイブリダイゼーションが起こるが、好ましくは少なくとも約65%、より好ましくは少なくとも約75%、最も好ましくは少なくとも約90%の相同性があるのが好ましい。
【0040】
リーダー配列または「シグナル配列」−タンパク質分泌シグナルをコードする核酸配列で、ATIIIタンパク質をコードする核酸分子を下流に機能発揮できるようにつなげるとATIIIの分泌を促す。リーダー配列は、ヒトATIIIのリーダー配列、または人工的に作られたリーダー配列か、あるいはATIIIのコーディング配列の転写を促すのに使われるプロモーターと同じ遺伝子、または細胞から分泌される他のタンパク質由来のものでもよい。
【0041】
乳汁産生細胞−乳汁中にタンパク質を分泌する細胞(すなわち、哺乳類の上皮細胞)。
【0042】
乳汁特異的プロモーター−乳汁中にタンパク質を分泌する細胞(すなわち、哺乳類の上皮細胞)中で遺伝子発現を促すプロモーター。例としては、カゼインプロモーター、すなわちα-カゼインプロモーター(すなわち、αS-1カゼインプロモーターとαS2-カゼインプロモーター)、β-カゼインプロモーター(すなわち、ヤギのβ-カゼイン遺伝子プロモーター(DiTullio, BIOTECHNOLOGY 10: 74-77,1992)、γ-カゼインプロモーター、及びκ-カゼインプロモーター;乳性酸性蛋白質(whey acidic protein:WAP)プロモーター(Gorton et al., BIOTECHNOLOGY 5: 1183-1187,1987) ; β-ラクトグロブリンプロモーター (Clark et al., BIOTECHNOLOGY 7: 487-492, 1989); 及びα-ラクトグロブリンプロモーター(Soulier et al. , FEBS LETTS. 297: 13,1992)が在る。また、この発明では、哺乳類の組織で特異的に活性化されるプロモーターも含まれ、これらも有用である。例えば、マウス乳ガンウイルス(mouse mammary tumor virus:MMTV)の長い末端反復配列(long terminal repeat:LTR)のプロモーターが在る。
【0043】
核移植−ドナー細胞由来の核を脱核した卵母細胞に移植するクローニングの方法を言う。
【0044】
機能発揮できるように連結されている−適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)が制御配列に結合した時に遺伝子発現が促されるように、遺伝子が一つまたは複数の制御配列と連結されていること。
【0045】
ヒツジ−ヒツジに似た種類またはヒツジ近縁種。
【0046】
単為発生−精子の進入なしに卵母細胞由来の胚が発生すること。
【0047】
薬剤学的に純粋−ヒト患者を効果的に治療するための適切な投与、及び明確な生物学的試験に適した純度のタンパク質を言う。実質的に薬剤学的に純粋とは、少なくとも約90%の純度であることを意味する。
【0048】
ブタ−ブタに似た種類またはブタ。
【0049】
プロモーター−転写を促すのに十分な最小限の配列。本発明においては、プロモーターに依存した遺伝子発現を、細胞型特異的、組織特異的、時間特異的に制御するのに十分なプロモーター配列、あるいは、本来の遺伝子の5'または3'またはイントロン配列領域に存在する配列のように外来性のシグナルまたは物質により誘導されるプロモーター配列もまた含まれる。
【0050】
タンパク質−本明細書で用いられているように、グリコプロテイン、及び他に付加物のあるタンパク質も含めて指す。これには、生理学的機能を保持する断片化した、または切り取られたポリペプチドもまた含まれる。
【0051】
治療的有効量−治療効果のある分子、またはその断片を患者に投与した時、その分子に影響される生物学的活性を阻害、または刺激するに足る量。
【0052】
形質転換(トランスフォーメーション)、「トランスフェクション」または「形質導入(トランスダクション)」−外来性分子を細胞内に導入するための任意の方法。リポフェクション法、DEAE-デキストランを介したトランスフェクション、マイクロインジェクション法、核移植(以下を参照、Campbell et al.BIOL. REPROD. 49: 933-942,1993 ; Campbell et al., NATURE 385: 810-813,1996)、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム沈殿法、形質導入(すなわち、バクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、または他のウイルスによる導入)、電気穿孔法、及びパーティクルガンによる形質転換は、当業者に使用され得る既知の方法の内の一部にすぎない。
【0053】
形質転換細胞、または形質導入細胞−ATIIIをコードした核酸分子が組み換えDNA技術により導入された細胞(またはその系譜の細胞)。核酸分子は宿主の染色体中に安定に組み込まれ得る、またはエピソープとして維持され得る。
【0054】
トランスジーン−技術を用いて細胞に挿入された核酸分子の任意の断片、またはその原型であり、この細胞から発生した動物のゲノムの一部となる。このようなトランスジーンには、一部または全体がトランスジェニック動物にとって外在性(すなわち、外来性)である遺伝子が含まれ得る。あるいは動物の内在性遺伝子と相同性を持つ遺伝子を指すこともある。
【0055】
トランスジェニック−技術を用いて細胞に挿入された核酸分子またはその原型を内に持つ任意の細胞。挿入された核酸分子はこの細胞から発生した動物のゲノムの一部となる。
【0056】
トランスジェニック生物−他のもう一個体の動物に由来する遺伝物質を実験的にトランスファーした生物。結果として宿主生物は、自身の遺伝子中に既にある遺伝情報に加えて、自身の染色体中にトランスファーされた遺伝子からも遺伝情報を獲得する。
【0057】
有蹄動物−ひづめのある典型的な草食性哺乳動物、またはその近縁種。ヒツジ、ブタ、ヤギ、家畜、及びウマなどが含まれる。
【0058】
ベクター−本明細書で用いられているように、(1)宿主細胞中で複製が可能であり、(2)宿主細胞を形質転換することができ、(3)形質転換した細胞を同定するための適切なマーカーを含むプラスミド、ファージDNA、または他のDNA配列を意味する。
【0059】
本発明では、エアロゾル形態のATIIIとヘパリンを利用すれば、静脈注射によるATIII単独またはヘパリン単独の投与よりも少ない量でALIが抑制されることが判明した。従って、ATIIIを含めたエアロゾル製剤と、肺疾患すなわち肺の障害または炎症を持つ患者を治療するためにそのようなエアロゾル形態のATIIIを利用する方法が、発明の特色である。
【0060】
噴霧状態で共に投与される組み換えヒトATIIIとヘパリンは、気道閉塞を防ぎ、肺炎に導く煙吸入障害を受けた後のガス交換を回復させるのに有効である。さらに、ATIIIは肺の炎症とそれに続く水腫形成を抑制する。ATIIIの量は、静脈内投与時に必要な量よりも少なくて済む。本明細書で示されたデータ、及び本発明の好ましい実施形態によると、出血傾向などの害は見られなかった。従って、エアロゾル形態のATIIIとヘパリンを噴霧する治療法は、煙吸入の治療において、新しく、かついずれの化合物単独よりも効果の高い治療法である。
【0061】
本明細書で用いられている「治療する」または「治療」という用語は、肺疾患に伴う一つまたは複数の症状を軽減、または抑制することを指す。例えば、肺の障害、及び/または炎症における以下のような症状である。すなわち: 1)肺におけるガス交換の減少; 2)肺のシャントフラクションの減少; 3)細胞外フィブリンの沈着; 4) 血管透過性の亢進; 5)サーファクタントであるリポタンパク質の沈着の減少; 6) 組織の再構築; 7) 凝固; 及び/または 8)肺胞表面張力の増加。本明細書で用いられている、肺疾患を治療するために有効なエアロゾル形態のATIII の量または「治療的有効量」とは、本明細書で記述されているような肺疾患を持つ患者を治癒、緩和、軽減、または回復させるために一回また複数回投与した時に、投薬しなかった場合に予想される効果を超えた回復を示すATIIIエアロゾルの量を指す。
【0062】
ATIIIとヘパリンの組み合わせは、粉末製剤として、または薬剤的に認可された基剤と共に投与することができる。薬剤的に認可された基剤には、すなわち滅菌水、生理食塩水、及びアルコールが含まれる。薬剤としてのATIIIとヘパリンのエアロゾル組成物は、さらに他の治療薬(すなわち、肺の炎症または障害を緩和、抑制する他の薬剤)、または他の補助的薬剤、薬剤希釈液等を含むことが可能である。発明の組成物は、リポソームとの複合体として、またはリポソームに包まれたものとして投与することが可能である。
【0063】
吸入による投与のために、発明の化合物は、適切な高圧ガス、すなわち炭酸ガスのようなガスを含む加圧容器またはディスペンサー、あるいはネブライザーから出るエアロゾルスプレー形態で与えられることが可能である。本明細書で用いられている「エアロゾル」という用語は、十分な粒子径を持つ固体または液体微粒子の空気中における分散を指し、その結果低い沈降速度で安定に空気中に浮遊する (Knight, V., VIRAL AND MYCOPLASMAL INFECTIONS OF THE RESPIRATORY TRACT. 1973, Lea and Febiger, Phila. Pa. , pp. 2参照)。
【0064】
ATIIIまたはヘパリンの噴霧は、ガス圧または超音波によりなされてもよい。一般的に言えば、ネブライザーは、エアロゾルを投与するための装置である。ネブライザーは任意の型であってよく、その構造は当業者に知られている。さらにこれらの装置は市販品を利用できる。既知の様々な噴霧化技術を用いてATIIIとヘパリンを含む溶液を噴霧状にすることにより、この発明のエアロゾルを作ることができる。噴霧化システムの一つは、「気液相」システムであり、これは液体高圧ガス中に存在する活性成分の溶液または懸濁液から成る。液体と蒸気両方の相が加圧容器中に存在しており、容器の弁を開くと、溶液または懸濁液を含む液体高圧ガスが放出される。結果として、細かいエアロゾルミスト、またはエアロゾルウェットスプレーができる。
【0065】
エアロゾルを作ることが可能なネブライザーには、小さいサイズのネブライザーなど、様々なものが在る。圧縮機で動かされるネブライザーには、ジェット技術が用いられており、エアロゾルを生み出すために圧縮空気または医療用酸素が使われる。市販品で利用可能な装置は、以下の会社から入手できる。すなわち、ヘルスダイン・テクノロジー(Healthdyne Technologies)株式会社;インバケア(Invacare)株式会社; マウンテン(Mountain)医療機器株式会社.; パリ・レスピレトリー(Pari Respiratory)株式会社.; マダ・メディカル(Mada Medical)株式会社.; ピューリタン・ベネット(Puritan-Bennet); シュコ(Schuco)株式会社; オムロン・ヘルスケア株式会社; デビルビス(DeVilbiss)・ヘルス・ケア株式会社; 及びホスピタック株式会社である。超音波のネブライザー、すなわち高頻度で振動している水晶結晶板を持つ超音波型ネブライザーもまた、ATIII/ヘパリン組成物を投与するのに使用することができる。
【0066】
このようなATIIIエアロゾルの毒性と治療上の効果は、培養細胞または実験動物を用いた標準的な薬剤処理、すなわちLD50(群の50%が致死となる量)及びED50(群の50% に対して治療的有効である量)を求めるための薬剤処理から測定することができる。毒性と治療効果間の量比が治療指数であり、LD50/ED50の比率として表される。高い治療指数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物が使用されることもあり得るが、一方で非感染細胞に対する潜在的損害を最小限にする、つまり副作用を抑制するために、冒された組織部位にこのような化合物を的確に投与するシステムを考案することも必要である。
【0067】
培養細胞試験と動物実験から得られたデータは、ヒトに使用する際の投薬量の範囲を決定するのに用いられ得る。このような化合物の投薬量は、好ましくは毒性をほとんど、あるいは全く持たずにED50の量を含む循環濃度の範囲に収まるとよい。投薬量は、この範囲において、用いられる投薬の形態と利用される投薬経路により大きく変わり得る。発明中用いられる任意の化合物の治療的有効量は、最初は培養細胞試験から見積もることができる。投薬量は、培養細胞で求められたIC50 (つまり、症状の半分を阻害できる試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を得ることができるように動物モデルにおいて調整される。このような情報は、ヒトに使用される量をより精確に求めるために使うことができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーにより測定され得る。
【0068】
ATIIIとヘパリンの合組成物の投薬量を求める他の方法には、ATIIIで治療する前に、患者体内で循環しているATIIIのレベルを測定することが含まれるだろう。循環しているATIIIのレベルを基にすれば、ATIIIの投薬量を最初の循環レベルの50%、100%、150%、250%、300%という風に調製することができる。
【0069】
投与されるエアロゾル製剤の量は、典型的には体重当たり約10 U/kg−約250 U/kgの範囲にあり、好ましくは体重当たり約25U/kg−約 175 U/kgの範囲にあるのがよい。
【0070】
当業者ならば、患者を効果的に治療するために必要な投与量とタイミングがある因子の影響を受けることを察知するだろう。すなわち、患者の病気または疾患の程度、前段階の治療、全般的健康状態及び/または年齢、及び他の病気の有無などからである。さらに、タンパク質、ポリペプチド、または抗体を治療的有効量を用いた患者には、治療が一回で済むこともあるが、好ましくは一連の治療が行われるのがよい。
【実施例】
【0071】
材料と方法
材料
ヒト組み替えアンチトロンビン(ATIII)は、GTC バイオセラピューティック(Biotherapeutics) (フレーミングハム、マサチュセッツ州)から提供された。組み換えヘパリンは第一製薬株式会社(東京、日本)から購入した。他の全ての試薬は解析用の等級を持つものである。
【0072】
動物の調製
本文中に報告されている実験は、テキサス大学医学部の動物実験委員会により認可された。全ての動物は、米国生理学会と米国国立衛生研究所により制定された指針に従って扱われた。前述したように、実験のために24匹の雌ヒツジをハロセイン麻酔下で外科的に調製した。基準となる心血管のデータを測定した後、前述したように、ヒツジは煙吸入及び細菌の点滴注入により障害を併せて受けた。この動物モデルは重篤な急性肺障害、及びヒト敗血症で見られる非常に動的な心血管の反応を示した。
【0073】
簡潔に述べると、ワタを用いて煙を吸入させた (12呼吸を4回、 <40 ℃)後、気管内にP. aeruginosa (5 x109/kg)を点滴注入した。煙吸入と細菌の点滴注入の後、動物を4つの治療群に無作為に分けた。すなわち、ATIIIとヘパリンを噴霧した群; ATIIIを噴霧した群、ヘパリンを噴霧した群、及び対照の生理食生理食塩水を噴霧した群である。全ての動物は、24時間に渡る実験の間、100%の酸素で機械的に換気された(一回呼吸気量12-15ml/kg、30呼吸/分、PEEP 7.5cmH20)。一回呼吸気量は、PaCO2が正常に維持できるよう調製された。赤血球容積率(ヘマトクリット値)が上昇するのを防ぐために、リンガー乳酸液が十分量注入された。最初は2ml/kg/hのリンガー乳酸が注入し、赤血球容積率(ヘマトクリット値)のレベルを基にして最大10 ml/kg/hまで注入量を調整した。動物の体重(kg)は、個体間で大きな違いはなかった。
【0074】
治療
ヒト組み換えアンチトロンビン(rhAT)と組み換えヘパリンは蒸留水の中で溶解した。次に、ATIII/ヘパリン溶液を生理食生理食塩水と混合し、ATIIIとヘパリンを含む混合溶液を4時間毎に動物に噴霧した。同様に、対照の群も15 mlの生理食生理食塩水を噴霧された。溶液は、前述したように、気管気管支樹につながった超音波ネブライザー(ウルトラ(Ultra)-Neb99、デビルビス株式会社、サマセット、ペンシルバニア州)により噴霧状にされた。ネブライザーから出る粒子の直径は4ミクロン以下であると報告されている。噴霧療法は障害を与えてから1時間後に始め、それ以後は4時間置きに噴霧した。
【0075】
血漿中NO2/NO3 (NOx)の測定
前述したように、血漿中のNOx (一酸化窒素代謝産物全体の量)の濃度を化学ルミネセンスNO 解析器 (アンテック社、7020型)を用いて測定した。
【0076】
血液培養と凝固要因
菌血症の試験のために、動脈血を培養した(セプティチェック(Septi-check)法、ベクトン・ディッキンソン、スパークス、メリーランド州)。ヘパリンで凝血防止された血の標本は、障害前、及び障害の3、6、24時間後に大腿動脈のカテーテルから注意深く回収された。
【0077】
活性凝固時間を、障害前、障害の12時間及び24時間後にヘモクロン801型 (インターナショナル・テクニダイン(International Technidyne)株式会社、エドソン、ニュージャージー州)を用いて追跡した.
アンチトロンビンの試験のために、障害前、及び障害の6、24時間後にクエン酸血漿を集めた。アンチトロンビンの活性は、色素生成性の基質 (S-2765、ダイアグノスティカ・スタゴ(Diagnostica Stago)社、パーシッパニー、ニュージャージー州)を用いて測定した。データは正常な血漿の標準レベルに対する百分率で表された。
【0078】
気道圧
最大気道圧とプラトー気道圧は、ベンチレーター (サーボベンチレーター900C、ジーメンスエレマ、スウェーデン)を用いて追跡した。最大気道圧は気道抵抗とコンプライアンスの総和を反映し、プラトー気道圧は主に気道コンプライアンスを反映するので、我々は、最大気道圧からプラトー気道圧を引いた(D気道圧)。従って、D気道圧は気道抵抗の指標となる。
【0079】
統計学的解析
解析を行うために、統計学のソフトウェア、スタットビュー 5.0 (SAS インスティチュート(Institute)社、ケアリー、ノースカルフォルニア州)を使用した。データは平均値±標準誤差として表した。群間のデータを比較するために、テューキーの多重比較と共に反復測定の分散分析(ANOVA) またはANOVAを用いた。そこでは、非対のデータを比較するスチューデント・ニューマン・ケウルス(Student Newman-Keuls)検定を用いて、各時点における適切な群内の比較検定が行われた。組織学的研究においては、ノンパラメトリックなマンホットニーU検定が行われた。p値が0.05以下の場合、統計学的に有意であると考えられた。
【0080】
合組成物のための方法
長期の実験のために、雌ヒツジが外科的に調製された。回復後、ケタミン/ハロセインによる麻酔下で、気管開口術が行われ、熱傷 (全表面積の40%、3度) 及び吸入による障害 (ワタによる煙吸入)が負わせられた。ヒツジは、 4 ml/kg/24時間のリンガー乳酸を与えられ、強制的に換気された。ヒツジは5つの群に分けられた: 1) 障害なし、治療なし(偽処置、n=6); 障害あり、かつ以下のものによる噴霧治療2) 生理食塩水 (生理食塩水、 n=6)、3) ヘパリン(Hep、n=5)、4) アンチトロンビン (AT、n=5)、及び5) hep+AT (n=5)である。生理食塩水、ヘパリン(10,000u)、及びアンチトロンビン(290u)が障害を負った2時間後から4時間おきに噴霧された。実験は48時間続けられた。
【0081】
結果と結論
偽処置群の動物では心肺の変動は安定していた。生理食塩水の群では、急性肺障害の顕著な兆候が示され、これはガス交換の衰え[PaO2/Fi02、肺内シャント (Qs/Qt)]と気道圧が上昇している肺リンパ管の増加から明らかであった。後のヘパリンまたはアンチトロンビン単独による治療では、これらの変化に対する目立つ効果は見られなかった。しかし、ヘパリンとアンチトロンビンを組み合わせた治療ではこれらの変化が回復した。生理食塩水を噴霧されたヒツジでは、細気管支肺法洗浄液のアンチトロンビンの濃度が減少していた。以上を考慮すると、結果は、合組成物の投与がフィブリンクロットの停留を防ぎ気道閉塞を軽減することにより、熱傷と煙吸入障害を併せ持つヒツジにおいて気道浄化、または肺機能の回復をもたらしていることを示している。アンチトロンビンとヘパリンは、混合物としてエアロゾル化されるとより強い効果を発揮する。以下の表1を参照。
【表1】

【0082】
結果
生理食塩水で治療された群、ATIIIで治療された群、及びヘパリンで治療された群の一酸化炭素ヘモグロビンの最大値(%)から、全ての群がほとんど同量の煙を吸入していたことが示唆される。この24時間に渡る実験中に死亡した動物はいなかった。
【0083】
血液培養
方法の段落で述べたように、実験期間中、動脈血の標本を、細菌培養のために数回注意深く回収した。P. aeruginosaは、障害前の標本全てで陰性だった。この24時間に渡る実験の間、対照の生理食塩水で治療した群の33% (3/10)でP. aeruginosaが検出されたが、ATIII 及びヘパリンの群では共に検出されなかった。ATIIIとヘパリンで治療された群においても検出率は低かったが、生理食塩水で治療された群との統計学的差異は認められなかった。
【0084】
肺のガス交換
全ての群において、障害の後急にPa02/FiO2 (P/F)比が著しく減少した。しかし、rhATを噴霧された群とヘパリンを噴霧された群では、その減少の程度は非常に少なかった(図、1 A)。ATIIIとヘパリンによるガス交換の減衰はほぼ同じ程度だった (図、1A)。肺内シャントフラクションは、障害後著しく増加したが、ATIIIまたはヘパリンを噴霧された群では、その増加の程度は非常にすくなかった(図、1 B)。
【0085】
気道圧
実験期間中、最大気道圧とプラトー気道圧をベンチレーターを用いて追跡した。気道抵抗を解析するために、デルタ気道圧(= [最大気道圧]- [プラトー気道圧] )を計算した。対照である生理食塩水で治療した群では、デルタ気道圧が徐々に増加した。ATIIIで治療した群とヘパリンで治療した群では、デルタ気道圧は増加しなかった。しかし群間における統計学的差異は認められなかった。
【0086】
肺の組織病理学
煙と細菌による障害から24時間後、障害を受けたヒツジの肺で顕著な炎症反応が見受けられ、これは間質及び気腔における細胞浸潤を特徴とした。この浸潤は主に好中球から構成されていた。間質性水腫、血管うっ血、及び出血もまた観察された。うっ血、水腫、炎症、及び出血の重症度と範囲を基にした組織学的評点は、煙と細菌を処置された後に著しく高くなっていた。偽障害、偽処置を施された偽処置動物 (n=7)では、個々の全ての組織病理学的評点は1.0 またはそれ以下であった。
【0087】
ヘパリン単独では、対照の生理食塩水とほとんど同じ評点を示した。興味深いことに、ATIIIで治療された群、及びヘパリンで治療された群では共に、出血の評点は高いというよりむしろ低くなっていた。全体の組織学的評点を計算した。うっ血、水腫、炎症、及び出血の各々に対し0(正常)から4 (強い)まで評点をつけたので、全組織学的評点の最大値は16となる。ATIIIで治療された群では、著しく低い評点を示した。対照的に、ヘパリンの噴霧では全組織学的評点は全く減少しなかった。偽障害を受けた偽処置群(n=7)では3.3±7であった。
【0088】
好中球、剥がれた気管支上皮細胞、粘液、及びフィブリンの浸潤物により、気管支と細気管支が閉塞された。生理食塩水で治療された群では、気管支と細気管支レベルで共に横断面積の30%以上を占める気道閉塞が認められた。ATIIIの噴霧療法は、気管支レベルで気道閉塞を著しく阻害した。ヘパリンは、気管支と細気管支レベルで気道閉塞を著しく阻害した。
【0089】
肺乾湿重量比
偽障害のデータ(乾湿重量比=3.70±0.17、n=7) と比較すると、肺乾湿重量比は、煙吸入と続く細菌の点滴注入の24時間後に著しく増加した。この増加は、ATIIIの噴霧療法で著しく減衰したが、ヘパリン単独の噴霧療法では減衰しなかった。
【0090】
硝酸/亜硝酸性窒素(NOx)レベルの変化
血漿中のNOxレベルは、障害後、基準レベルの2−3倍まで増加した。ATIII の群は、最初の3時間に同様の増加を示したが、その後は24時間後まで著しく低下した (図、6)。ヘパリンの群は、6−15時間の間は低いNOxレベルのように見えたが、その後生理食塩水で治療した群と同程度まで増加した。ヘパリンで治療した群と生理食塩水で治療した群の間に統計学的差異はなかった。
【0091】
血球数と凝固要因
白血球と血小板数の基準値は、群間で違わなかった。白血球の数は、障害の24時間後に著しく落ち込んだ。
【0092】
考察
気道におけるフィブリン形成は、急性/慢性の肺障害にみられる顕著な特徴として知られている。敗血症においては、血管の透過性が亢進し、フィブリノーゲンを含む血漿がサイトカインの刺激により組織因子が発現している気道中に滲み出る。そのため、フィブリノーゲンは容易に気道中でクロットを形成する。気道におけるフィブリン形成は、二つの方法で肺障害を引き起こす。まず、気道の一部を塞ぎガス交換を阻害する。2番目に、フィブリンは表面活性物質の活性を阻害し肺拡張不全を引き起こす。患者または動物が機械的に換気されている時、気道閉塞もまたベンチレーター誘導性の肺障害を引き起こす。また、肺の換気されている部分が過度に引き延ばされることにより、インターロイキン8などのケモカインが誘導される。
【0093】
我々は、ヘパリンの噴霧療法が、気道閉塞の防止とガス交換の回復に有効であることを示した。我々は、ヘパリンの噴霧療法により、フィブリンクロットの形成が妨げられ急性肺障害が減衰することを確定した。しかしながら、ヘパリンの抗凝固能はアンチトロンビンに依存していた。本発明では、煙吸入、肺障害、及び肺炎を実験動物体内で引き起こし、同じ障害または病状を持つヒト体内で生じていることを動物体内で模倣させた。このモデルにおいて、血漿中のアンチトロンビン活性を測定し比較した。
【0094】
本発明の好ましい実施形態では、障害後血漿のアンチトロンビン活性の基準値は、徐々に低下し、24時間後におよそ50 %まで低下した。同様の現象が、熱傷または敗血症の患者で報告されている。このような状態では、ヘパリンの効果は見られない。即時請求では、我々は、ATIIIの注入が肺障害を治療する際に有効であったことを示した。この静脈内投与の実験に基づき、少量のATIIIの気道内噴霧が静脈内投与と同様の効果を示し得ることが確定した。これが、本実験を計画した理由である。また、我々は、投与したエアロゾル化ATIIIの量(モル)を計算し、同等の抗トロンビン能を持つヘパリンの効果を試験した。
【0095】
アンチトロンビンは、主要な生理学的抗凝固薬の一つである。トロンビン、凝固第Xa因子、凝固第XIa因子、凝固第XIIa因子、及び凝固第IXa因子といった様々な凝固因子を阻害する上、アンチトロンビンには、炎症を抑える態様もあることが知られている。様々な動物と臨床実験から、静脈内投与されたアンチトロンビンが、敗血症、エンドトキシンショック、腎臓における虚血再潅流障害、及び熱傷に有益であることが示された。現在、この働きの2つの機構が次のように考えられている。まず、アンチトロンビンは、内皮細胞からのプロスタサイクリンの放出を促進する。プロスタサイクリンは、サイトカイン産生、接着分子の発現、及び血小板の凝集を阻害するため、アンチトロンビンは、プロスタサイクリンを介して間接的に炎症反応を阻害する。2番目に、シンデカン−4と呼ばれるアンチトロンビン受容体が最近発見された。ひとたびアンチトロンビンがシンデカン−4に結合すると、核因子κ-Bの移動を阻害し、白血球と内皮細胞における炎症シグナルの伝達を阻害する。従って、アンチトロンビンはNF-κ- Bの活性を阻害することにより炎症過程に直接的な変化を及ぼす。
【0096】
ヘパリンはトロンビン活性を阻害するように設計されており、その特異性は非常に高い。アンチトロンビンと比べて、ヘパリンは非常に小さい分子であり(分子量は527 Da)、直接トロンビンを阻害する。ヘパリンに抗炎症効果があることを示す報告はほとんどない。我々は、アンチトロンビンとヘパリン間のこれらの相違は、吸入による障害に対する異なる効果を示しているのかもしれないと考えた。本実験では、ATIIIとヘパリンの両者は、煙吸入と肺炎がもたらす気道閉塞をほぼ同程度まで阻害した、表1参照。結果として、ATIIIとヘパリンの両者により肺のガス交換が減衰した。これらは混合して用いられれば気道閉塞に関して相乗効果を示し、ヘパリンは円柱形成を防ぐ上でrhATよりも強い効果を発揮する。ヘパリンはATIIIより小さく、非タンパク性物質なので、取り込まれ易いのかもしれない。しかしながら、本発明の組織病理学的解析から判明したところによると、ATIIIによって組織構造の変化は回復するが、ヘパリンでは回復しなかった。この結果と一致して、ATIIIの噴霧療法によって肺乾湿重量比は回復したがヘパリンの噴霧では回復しなかった。これらの結果から、我々は、ATIIIとヘパリン両者の抗凝固能により気道のフィブリン形成とガス交換の減衰が阻害されたと推測した。それに加えて、ATIIIは抗炎症活性を持っており、肺の炎症とそれに続く肺の水腫形成を防止する。ATIIIで治療した群は、ヘパリンで治療した群と比べて白血球数がそれほど急激に減少せず、これもまたATIIIが炎症反応を阻害することを示唆している。
【0097】
ATIIIとヘパリンの両者が敗血症の発病率もまた低下させることは、本発明の一部である。気道が閉塞されている時は、細菌の浄化が妨げられ、換気されない閉鎖部位は細菌の温床となりやすい。従って、気道閉塞の阻害が、ガス交換のみでなく細菌の全身への侵入と敗血症にも有益であると考えられる。
【0098】
一酸化窒素物(NO)形成の指標である血漿中のNOxの増加は、エアロゾル化rhATにより著しく抑制される。NOは、一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase:NOS)の3種類のアイソフォームから合成される。内皮NOS(eNOS)と神経NOS(nNOS)は構成的なNOS(cNOS)として知られ、全ての細胞で発現している。3番目のアイソフォームは、 誘導性 NOS (iNOS)と呼ばれている。I NOSは、組織壊死因子-αといった炎症性サイトカインにより誘導される。本実験では、ATIIIは特に後半12時間にNOの形成を阻害したが、最初の12時間には阻害しなかった。これはATIIIがiNOSの発現を阻害していることを示唆している。我々は、肺胞のマクロファージだけでなく肺胞の上皮細胞もiNOSを発現することを示した。アンチトロンビンはNFκBの活性を阻害することが報告されているので、我々は、噴霧されたATIIIが気道上皮細胞におけるiNOSの発現を阻害していると考えた。
【表2】

【0099】
ATIIIの全体量が、以前の静脈内投与実験で定められた量の半分であったとしても(Murakami (2001) AM. J. RESP. CRIT. CARE MED. 163: A553参照)、結果は静脈内への点滴注入よりも効果的であった。有害作用は観察されなかった。従って、エアロゾル化ATIIIは、ヒツジにおける煙吸入及び肺炎に伴う敗血性急性肺障害に有益である。
【0100】
この発明の多くの実施形態を記述してきた。それにも関わらず、この発明の意図と視野の範囲内で様々な改変がなされ得ることは容易に理解できる。ゆえに、以下の請求の範囲の中には他の実施形態も含まれる。
【0101】
トランスジェニック動物に関する本発明の方法によると、体細胞核移植に適したトランスジェニックの初代細胞株(ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、または任意のヒト以外の脊椎動物いずれか由来)は、目的のタンパク質核酸の構築物(例えば、ヒトα-フェトプロテイン−β-インターフェロンタンパク質を乳腺で特異的に発現させるような乳腺特異的トランスジーン)をトランスフェクションすることにより作製される。トランスジーンの構築物は、選別マーカー(ネオマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、ピューロマイシン、ゼオシン、ハイグロマイシン、または他の任意の選別可能なマーカーなど)を含むか、または培養細胞中で選別マーカーを発現できる構築物と共にトランスフェクトされる。
【0102】
この発明は、本明細書に記述された少なくとも一つの制御配列に機能発揮できるように連結された核酸配列を含む発現ベクターを提供する。このようなベクターの多くが市販品を利用することができ、他にも適切なベクターが当業者により容易に調製可能である。「機能発揮できるように連結されている」または「機能的に連結されている」とは、宿主生物内で核酸配列が発現できるような様式で、核酸分子が制御配列につながれていることを意味する。制御配列は当該分野において既知であり、コードされているポリペプチドまたはタンパク質を生成するように選択される。ゆえに、「制御配列」という用語には、プロモーター、エンハンサー、及びGoeddel, GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185, (アカデミック出版、サンディエゴ、カリフォルニア州(1990))に記載されている他の発現制御配列が含まれる。例えば、本来の制御配列、または形質転換された宿主細胞中に存在する制御配列を使用することができる。
【0103】
発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の種類、及び/または発現させたいタンパク質タイプのような要素に依存することがあることは容易に理解できる。例えば、本発明のポリペプチドは、クローニングした遺伝子またはその一部を、原核細胞、真核細胞、または両方に適した発現ベクターにつなげることで生成される (研究室マニュアル、第二版、編集、Sambrook et al. (コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)出版、1989) 16と17章)) 。
【0104】
もとめる核酸構築物の組み換え体であるコロニーを選別した後、細胞を単離、増殖させる。同時に既知の手法に従って、半量を長期保存のために冷凍した。選別されたトランスジェニック細胞系統は、標準的な分子生物学の手法(PCR、サザンブロッティング、FISH)を用いて性質を調べることができる。目的の二元機能性タンパク質の核酸構築物は、適切なコピー数と通常一つの挿入サイト (同じ技術が複数の挿入サイトに使用され得ることも考えられるが)を持ち、この核酸構築物を含む細胞系統は、当業者に知られる体細胞核移植のプロトコルにおいて核体ドナーとして用いられる。核移植、受容動物への胚の移植、妊娠を経て、生きたトランスジェニックの子孫が得られる。このトランスジェニックの子孫は通常、特定の染色体の一カ所だけにトランスジーンが挿入されており、他方の相同染色体の同じ箇所に挿入はない。従って、トランスジェニックの子はトランスジーンをヘテロで持っており、ホモ接合体のトランスジェニック動物を作出するためには少なくとも連続した2世代の育種が必要である。
【0105】
生体液からのATlIIタンパク質の精製
発明のATIIIタンパク質は、アフィニティクロマトグラフィーといった標準的なタンパク質精製技術(すなわち、 Ausubel et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, John Wiley & Sons, New York, NY, 1998; また Lubon et al. , UNITED STATES PATENT: 5,831, 141参照)、またはタンパク質精製に習熟した当業者に知られている他の方法を用いて、トランスジェニック生物の生体液から精製され得る。単離した後は、すなわち高速液体クロマトグラフィー(HPLC;すなわち、 Fisher, LABORATORY TECHNIQUES IN BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY, Work とBurdon編、エルゼビア、1980参照)、及び/または十字流ろ過を用いて、必要ならばATIIIタンパク質をさらに精製することも可能である。精製した後は、ATIII タンパク質は、少なくとも純度80%、好ましくは純度90%、より好ましくは純度95%、さらにより好ましくは純度99%であるのがよい。
【0106】
動物のプロモーター
哺乳類の組織中でATIIIを発現させるために有用なプロモーターとしては、ATIIIを乳汁中に分泌させるプロモーターならばどれでも利用できるが、乳汁タンパク質といった哺乳類特異的なポリペプチドの発現を本来促進するようなプロモーターが在る。これには、すなわち、乳性酸性タンパク質(whey acidic protein:WAP)αSl-カゼイン、αS2-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、β-ラクトグロビン、α-ラクトアルブミン (すなわち、Drohan etal.,米国特許第5,589, 604号; Meade etal.,米国特許第4,873, 316号; 及びKaratzas et al. ,米国特許第5,780, 009号参照)の発現を本来促進するプロモーター、及び米国特許第5,750, 172号に記載されている他のプロモーターが含まれる。ネズミの主要な乳性タンパク質である乳性酸性タンパク質(WAP;ジェンバンク受託番号XO1153)は、妊娠と哺乳期間の後期に主に乳腺で強く発現する (Hobbs et al. , J.BIOL. CHEM. 257: 3598-3605,1982)。必要な哺乳類gland特異的プロモーターについてのさらなる情報は以下を参照のこと。すなわち、Richards et al. , J.BIOL. CHEM. 256: 526-532,1981 (ラット、α-ラクトアルブミン); Campbell et al., NUCLEIC ACIDS RES. 12: 8685-8697,1984 (ラット、WAP); Jones et al. , J.BIOL. CHEM. 260: 7042-7050,1985 (ラット、β-カゼイン) ; Yu-Lee & Rosen, J. BIOL. CHEM. 258: 10794- 10804,1983 (ラット、γ-カゼイン); Hall, BIOCHEM. J. 242: 735-742,1987 (ヒト、α-ラクトアルブミン); Stewart,NUCLEIC ACIDS RES. 12: 3895-3907,1984 (ウシ、α-sl とκ-カゼインcDNAs); Gorodetsky et al. , GENE 66: 87-96,1988 (ウシ、β-カゼイン) ; Alexander et al., EUR. J. BIOCHEM. 178: 395-401,1988 (ウシ、κ-カゼイン); Brignon etal., FEBS LETT. 188: 48-55,1977 (ウシ、α-S2カゼイン); Jamieson et al. , GENE61 : 85-90,1987, Ivanov et al., BIOL. CHEM. Hoppe-Seyler 369: 425-429,1988とAlexander etal., NUCLEIC ACIDS RES. 17: 6739,1989 (ウシ、β-ラクトグロビン) ; 及び Vilotte et al., BIOCHIMIE 69: 609-620,1987 (ウシ、α-ラクトアルブミン)。
【0107】
様々な乳汁タンパク質の構造と機能は、Mercier と Vilotte, J. DAIRY Sci. 76: 3079-3098,1993で概説されている。もし、最適な発現のために付加的な周辺配列が有用ならば、このような配列はプローブ配列を用いてクローニングできる。異なる生物に由来する乳腺特異的制御配列は、既知の同種ヌクレオチド配列、または同種タンパク質に対する抗体をプローブにして、このような生物由来のライブラリーをスクリーニングすることにより獲得できる。
【0108】
ATIIIの発現と乳汁への分泌に有用なシグナル配列は、乳汁特異的なシグナル配列である。シグナル配列は、乳汁特異的シグナル配列、つまり乳汁中に分泌される産物をコードする遺伝子の中から選ばれるのが好ましい。乳汁特異的シグナル配列は、上記の乳汁特異的プロモーターに関するものであることが理想的である。この発明にとってシグナル配列の長さは重要ではない。必要なのは、その配列がすなわち哺乳類の組織においてATIIIの分泌を促すのに十分な長さを持っていることである。例えば、カゼイン、すなわちα-、β-、γ-、またはκ-カゼイン、β-ラクトグロビン、乳性酸性タンパク質、及びラクトアルブミンをコードする遺伝子由来のシグナル配列は本発明に有用である。他の分泌タンパク質、すなわち肝臓、腎臓、または膵臓から分泌されるタンパク質由来のシグナル配列もまた用いることができる。
【0109】
トランスジーン産物を尿中に分泌させる任意のプロモーターも使用され得るが、泌尿組織における組み換えポリペプチドのトランスジーンの発現に有用なプロモーターは、ウロプラキンとウロモジュリンのプロモーターである(Kerr et al., NAT. BlOTECHNOL. 16: 75-79,1998 ; Zbikowska, et al. , BIOCHEM. J. 365: 7-11,2002 ; 及びZbikowski etal., TRANSGENIC RES. 11: 425-435,2002)。
【0110】
トランスジーン産物を血中に分泌させる任意のプロモーターも使用され得るが、血液生成または血清生成細胞(すなわち、肝臓上皮細胞)による血中へのATIIIの分泌と発現に有用なプロモーターは、アルブミンプロモーターである(すなわち、Shen etal., DNA 8: 101-108,1989 ; Tan etal., DEV. BIOL. 146: 24- 37,1991 ; McGrane et al. , TIBS 17: 40-44,1992 ; Jones et al. , J. BIOL. CHEM. 265: 14684-14690,1990 ; 及び Shimada et al. , FEBS LETTERS 279: 198-200,1991参照)。
【0111】
精液におけるATIIIの発現に有用なプロモーターは、米国特許第6,201, 167号に記載されている。有用なトリ特異的プロモーターは卵白アルブミンのプロモーターとアポタンパクB(apo-B)のプロモーターである。他のトリ特異的プロモーターも当業者に知られている。卵白アルブミンのプロモーターはATIIIを発現させるために用いることができ、このATIIIは卵の卵白中に蓄積される。apo-Bのプロモーターもまた、組み換えポリペプチドを肝臓で発現させるために用いることができ、その場合ポリペプチドは最終的に卵黄に蓄積される。次のような理由で、トリ卵は大量の組み換えポリペプチドを発現させるのに適した媒体である: (1)各卵内に大量のタンパク質が封入される、(2)卵は健康な組織を侵さずに回収し易く、長期間保存できる、及び(3) 卵は無菌状態のため、乳汁と異なり細菌で汚染されない。とりわけ、トリは各卵当たり、卵管中に50%以上の卵白アルブミンを含むアルブミンを3グラム産生することができる。肝臓(血清リポタンパク質)でもさらに3グラムが産生され、卵黄に蓄積する。加えて、トリは進化的に哺乳動物と隔たっているため、通常、哺乳類のタンパク質を免疫学的に認識しない。そのため、トリにおけるATIIIの発現が、トリの生存と健康に害をなす影響を与えることはほとんどないと考えられる。
【0112】
発明の方法中で用いられる他のプロモーターとして、誘導プロモーターが在る。一般的に、組み換えタンパク質は、ほとんどの真核生物の発現系において構成的に発現する。誘導プロモーターまたはエンハンサー配列を付加することで、ATIIIの過剰発現に対する時間的または空間的な制御が可能となり、発現のもう一つの機構を提供することになる。誘導プロモーターには熱ショックタンパク質、メタロチオニン、及びMMTV-LTRが在り、一方誘導エンハンサー配列には、エクジソン、ムリステロンA、及びテトラサイクリン/ドキシサイクリンのエンハンサーが在る。
【0113】
テト-オン(Tet-On)及びテト-オフ(Tet-Off)遺伝子発現システム (クロンテック)は、この発明の方法で有用な誘導系の一つの例である。このシステムでは、オン(構成的にオフ、テトラサイクリンにより誘導)またはオフ(構成的にオン、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンにより抑制)のいずれかの様式でATIIIの発現を維持するためにテトラサイクリン(Tc) に応答する配列を使用する。形質転換した細胞を容易に同定するために、選別可能なマーカーをATIIIトランスジーンの中に組み込むこともできる。選別可能なマーカーは、一般的には劣性と優性という2つの機能的部類に分けることができる。劣性のマーカーは、通常、宿主細胞(「マーカー」の産物または機能を欠失している細胞)で生成されない産物をコードした遺伝子である。チミジンキナーゼ(TK)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、アデニンホスホリボシル基転移酵素(APRT)、及びヒポキサンチングアニンホスホリボシル基転移酵素(HGPRT)のマーカー遺伝子は、この部類に入る。優性のマーカーには、成長を抑制する化合物 (抗生物質、薬剤)に対する抵抗性をもたらす産物、及び/または代謝制限のある環境で宿主細胞の成長を可能とする産物をコードする遺伝子が含まれる。この部類の中で一般に用いられるマーカーには、メトトレキサートに対する抵抗性をもたらすDHFR遺伝子の変異体、ミコフェノール酸/キサンチンを含む培地中で宿主細胞の成長を可能にするキサンチン-グアニンホスホリボシル基転移酵素のgpt遺伝子;及びG418, ゲンタマイシン、カナマイシン、及びネオマイシンに対する抵抗性をもたらすアミノグリコシド 3'-リン酸転移酵素のneo 遺伝子が在る。
【0114】
核酸ベクター
ある実施形態においては、この発明は、本明細書で記述されている任意の核酸分子を含むベクター、または組み換え発現ベクターに関係がある。本明細書では、ベクターは、タンパク質をコードするDNAまたはRNAを増幅するため、及び/またはSSTRタンパク質をコードするDNAを発現するために用いられる。ベクターには、プラスミド、ファージ、コスミド、エピソーム、ウイルス粒子またはウイルス、及び組み込み可能なDNA断片(つまり、相同組み換えによって宿主ゲノムに組み込まれることが可能な断片)などが含まれる。ウイルス粒子には、アデノウイルス、バキュロウイルス、パルボウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、アデノ関連ウイルス、セムリキ森林ウイルス、ワクチニアウイルス、レトロウイルス、微小粒子、及びネーキッドDNAなどが含まれる。様々な実施形態において、標的リガンドを用いて主に特定の細胞型、または細胞集団に発現を限定することがあり得る。発現ベクターには、pcDNA3 (インビトロジェン)とpSVL (ファルマシア・バイオテク)などが含まれる。他の発現ベクターには、pSPORT(登録商標)ベクター、pGEM(登録商標)ベクター(プロメガ),pPROEXベクター(登録商標) (LTI、ベセズダ、メリーランド州), ブルースクリプト(Bluescript)(登録商標)ベクター(ストラタジーン), pQE. (登録商標)ベクター(キアゲン)、pSE420(登録商標) (インビトロジェン)、及びYES2(登録商標)(インビトロジェン)が在る。発現構築物は、内在性または外在性の発現制御DNA配列、及び転写ターミネーターに機能発揮できるように連結されたポリヌクレオチドをコードするタンパク質を含み得る。多くのベクターでは、挿入する核酸の長さに制限があるため、より小さいリポーター、またはリポーター構築物を挿入するのが好ましいといってもよい。例えば、ソマトスタチン受容体カルボキシル末端の全て、または一部を欠失したものが使われ得る。発現制御のDNA配列には、一般的に、プロモーター、エンハンサー、オペレーター、及び制御因子結合サイトが含まれ、通常は発現構築物を発現する系に基づいて選ばれる。
【0115】
プロモーター及びエンハンサー配列は、一般的には遺伝子発現を増加する能力を持つものとして選別される。一方、オペレーター配列は、一般的には遺伝子発現を制御する能力を持つものとして選別される。発明の発現構築物は、構築物を持つ宿主細胞を同定することができる一つまたは複数の選別マーカーをコードした配列もまた含み得る。発現構築物は、宿主細胞中で相同組み換えを促す配列もまた含み得る。様々な実施形態において、構築物は、宿主細胞における複製に必要な配列もまた含まれ得る。
【0116】
様々な具体例としての組織特異的なプロモーターが、本明細書で列挙されている (PearseとTakor, 1979; Nylen and Becker, 1995)。完全な一覧ではないが、これらのプロモーターは、この発明の、ある実施形態において使用され得るプロモーター及びエンハンサーの型の具体例である。本発明で有用な他のプロモーターは、当業者には容易に分かるだろう。
【0117】
誘導プロモーターには、MTIIだけでなく、MMTV (mouse mammary tumor virus)、c-jun、コラゲナーゼ、ストロメリシン、マウスMX遺伝子、GRP78遺伝子、α-2-マクログロブリン、ビメンチン、MHC クラスI遺伝子 H-2 kB、HSP70、プロリフェリン、腫瘍壊死因子、及び甲状腺刺激ホルモン-αが含まれる。細胞または組織特異的発現は、細胞特異的エンハンサー、及び/またはプロモーターを用いて実現することができる (一般的には以下を参照、Huber et al. , ADV. DRUG DELIVERY REVIEWS 17: 279-292,1995) 。
【0118】
発現構築物は、コードされたタンパク質産物のために利用され得るが、ポリヌクレオチド配列をコードするSSTRタンパク質を単に増幅するためにもまた、利用され得る。幾つかの実施形態では、ベクターとは、ポリヌクレオチドが発現制御配列を含むポリヌクレオチドに機能発揮できるように連結されている発現ベクターである。ある実施形態では、ポリヌクレオチドを組み込んだプラスミド、及びウイルスDNAベクターといった自律的に複製する組み換え発現構築物である。発現ベクターは、複製可能なDNA構築物であってもよく、その中ではSSTRタンパク質をコードする配列が、適切な宿主におけるSSTRタンパク質の発現に効果的である適切な制御配列に機能的に連結または結合されている。DNA領域は、それらが互いに機能的に関係がある場合は、機能発揮できるように連結または結合されている。例えば、あるプロモーターは、もしそれがある配列の転写を制御する場合は、そのコーディング配列に機能発揮できるように連結または結合されている。ベクターの増幅に発現制御領域は必要ないが、むしろ、宿主中で複製できる能力を持つための複製起点と、形質転換体を容易に認めるための選別遺伝子のみが必要である。発現ベクターにおける制御配列の必要性は、使用する宿主と形質転換の方法に依存して変わる。一般的に、制御配列は、転写プロモーター、転写を制御するための随意のオペレーター配列、適切なmRNAリボゾーム結合サイトをコードする配列、及び転写・翻訳の終止を制御する配列を含む。
【0119】
様々な実施形態では、ベクターは、宿主生物に認識されるプロモーターを含み得る。プロモーターの配列は、原核生物、真核生物、合成、またはウイルスに由来するものであり得る。適切な原核生物の配列の例としては、バクテリオファージであるラムダのプロモーターが在る (THE BACTERIOPHAGE LAMBDA、Hershey, A. D., Ed. , コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)出版、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク州(1973); LAMBDA II、Hendrix, R. W. , Ed.,コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)出版、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク州(1980); 及び、 Benoist etal., The trp, recA,heat shock, and lacZ promoters of E. coli and the SV40 early promote, NATURE, 290: 304-310,(1981)。プロモーターは、他にもマウス乳腺腫瘍ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスの長い末端反復配列、マロニーウイルス、サイトメガロウイルスの極初期プロモーター、エプスタイン-バーウイルス、ラウス腫瘍ウイルス、ヒトのアクチン、ヒトのミオシン、ヒトのヘモグロビン、ヒト筋肉のクレアチン、及びヒトのメタロチオニンなどを含む。
【0120】
他の制御配列もまた、ベクターに含まれ得る。適切な制御配列の例は、ファージ MS-2のレプリカーゼ遺伝子、及びバクテリオファージ、ラムダのcII遺伝子のシャイン-ダルガルノ配列に代表されるSSTRタンパク質をコードするDNAを直接の下流に持つシャイン-ダルガルノ配列は、結果として成熟したSSTRタンパク質を発現させる。
【0121】
さらに、適切な発現ベクターは、形質転換された宿主細胞のスクリーニングを可能にするのに適したマーカーを含むことができる。用いる宿主の形質転換は、当業の専門家によく知られており、前述のSambrookらに記載されている様々な技術の中の任意の一つを用いて実行される。
【0122】
複製起点もまた、外在性起点を含むベクターの構築物から供給されるか、あるいは宿主細胞染色体中の複製機構により供給され得る。ベクターが宿主細胞の染色体中に組み込まれたのならば、後者の機構にあてはまるといってもよい。あるいは、ウイルスの複製起点を持つベクターを用いるよりむしろ、選別マーカーとSSTRタンパク質をコードするDNAを一緒に形質転換する共形質転換の手法を用いることにより、哺乳細胞を形質転換することができる。適切なマーカーの例は、ジヒドロ葉酸還元酵素またはチミジンキナーゼである (米国特許第4,399, 216号参照)。
【0123】
SSTR2タンパク質といったリポータータンパク質融合物をコードするヌクレオチド配列は、慣習的な技術に従ってベクターDNAと結合される。この技術には、ライゲーションのための末端の平滑化または相補的な一本鎖領域をもつDNA末端の作製、適切な末端を供給するための制限酵素処理、適切ならば相補的な一本鎖領域をもつDNA末端の充填、望ましくない連結を避けるためのアルカリフォスファターゼ処理、及び適切なリガーゼによるライゲーションが含まれる。このような操作技術は、前述のSambrookらに明らかにされており、同業者によく知られている。哺乳類の発現ベクターを構築する方法は、例えば、Okayama et al., MOL. CELL.BIOL., 3: 280, (1983); Cosman et al., MOL. IMMUNOL. , 23: 935, (1986); 及び、 Cosman et al., NATURE, 312: 768, (1984)で明らかにされている。
【0124】
トランスジーンの構築物は、プロモーターの下流にリーダー配列を含むのが好ましい。リーダー配列とは、タンパク質の分泌シグナルをコードする核酸配列であり、発明におけるATIIIタンパク質をコードする核酸分子の上流に機能的に連結すれば、ATIIIの分泌を導く。リーダー配列は、ATIIIをコードする核酸分子の転写に用いられるプロモーターと同じ遺伝子(例えば、乳汁特異的タンパク質をコードする遺伝子)から得られることもある。代わりになるべきものとして、ヒトATIIIタンパク質の本来の分泌シグナル (ジェンバンクのアミノ酸1-19受託番号 V01514)をコードするリーダー配列が利用され得る。
【0125】
治療上の利用
本明細書における混合物は、これら培養組織を扱うイン・ビトロ(in vitro)での利用に用いられるのが好ましい。しかしながら、混合物はイン・ビボ(in vivo)の適用においてもまた効果的である。イン・ビボ(in vivo)における投与のやり方に依存して、使用される混合物は、固体状、半固体または液体状、すなわち錠剤、丸薬、粉末、カプセル、ゼリー、軟膏、液体、懸濁液などの形態で投薬され得る。混合物は、正確な投与量を一回で投与するのに適切な単位用量形態で投与されるのが好ましい。混合物はまた、必要な処方に応じて、薬剤的に認可された基剤または希釈液をも含み、これらは動物またはヒトに投与する薬剤混合物を処方するために通常用いられる水性の賦形剤として定義される。希釈液は、ヒトのα-フェトプロテインの生物学的活性に影響しないようなものが選ばれる。このような希釈液の例としては、蒸留水、生理的食生理食塩水、リンガー液、ブドウ糖液、及びハンク液がある。同じ希釈液は、凍結乾燥したヒトのα-フェトプロテインを戻すのに使用され得る。加えて、医薬組成物もまた、他の医薬物質、薬剤物質、基剤、アジュバント、非毒性、非治療的、非免疫原性の安定剤などを含み得る。このような希釈液または基剤の有効な量とは、成分の溶解性、生物学的活性などに関して薬剤的に認可された処方を満たすために都合のよい量である。
【0126】
本明細書の組成物は、エアロゾルとして、噴霧剤として、肺経由で、非経口的または経口的に投与され得る。さらに煙吸入及び/または熱傷による急性肺障害に用いる他のシステムに適した形態でヒトの患者に投与され得る。
【0127】
細菌における発現
細菌を利用するために有用な発現ベクターは、機能的プロモーターを持つ機能的な読み取り枠の中に適切な翻訳開始および終止シグナル、及び目的のタンパク質がコードされている構造的DNA配列を挿入することにより構築される。ベクターは、一つまたは複数の表現型として選択可能なマーカーと、ベクターを維持するため、必要ならば宿主内で増幅させるための複製起点を含み得る。形質転換に適切な原核生物宿主には、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)及び一般的なシュードモナス(Pseudomonas)属の様々な種、ストレプトミセス属の放線菌(Streptomyces)、及びブドウ状球菌(Staphylococcus)が含まれ、他のものも選択肢の一つとして利用され得る。好ましい実施形態においては、原核生物宿主は大腸菌(E. coli.)である。
【0128】
細菌性ベクターとは、例えば、バクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドを土台とするものである。これらのベクターは、選別可能なマーカーと市販品のプラスミドに由来する複製起点を含むことができる。市販品のプラスミドには通常、よく知られたクローニングベクター、pBR322 (ATCC 37017)の配列が含まれる。このような市販のベクターには、例えば、GEM 1 (プロメガ・バイオテック、マディソン、ウィスコンシン州、米国)、pBs、ファージスクリプト、Psi174、pブルースクリプト(Bluescript)、SK、pBs KS、pNH8a、pNH16a、pNH18a、pNH46a (ストラタジーン);pTrc99A、pKK223-3、pKK233-3、pKK232-8、pDR540、及びpRIT5 (ファルマシア)が含まれる。この発明では、好ましいベクターはTHEPt7I発現ベクターである。
【0129】
これら「土台」となる配列区間は、適切なプロモーター及び発現する構造配列に連結される。細菌性プロモーターには、lac、T3、T7、ラムダPR またはPL、trp、及びaraが在る。T7がここでは好ましい細菌性プロモーターである。
【0130】
適切な宿主株へ形質転換し、適切な細胞密度に達するまで宿主株の増殖させた後、用いられたプロモーターが適切な手法(すなわち、温度変換または化学誘導)により抑制解除/誘導され、さらなる期間細胞は培養される。細胞は、通常遠心により回収され、物理的または化学的手法により破壊される。得られた粗抽出物は、さらに精製されるために保存される。
【0131】
真核細胞における発現
様々な哺乳類の培養細胞系もまた、組み換えタンパク質を発現させるのに用いることができる。哺乳類の発現系の例としては、チミジンキナーゼ陰性(TK)及びアデニンホスホリボシル転移酵素陰性(APRT)細胞といった選別されたマウスL細胞が含まれる。他の例としては、 Gluzman, Cell 23: 175 (1981)に記載されているサル腎臓繊維芽細胞のCOS-7系統、及び親和性ベクターの発現が可能な他の細胞系統、例えばC127、3T3、CHO、HeLa、及びBHK細胞系統が含まれる。特に、酵母に関しては、Saccharomyces属、Kluyveromyces属、Pichia属、Schwanniomyces属、またはHansenula属の酵母についての記載があり得る。本発明で使用できるファージの中では、特にAspergillus ssp、またはTrichoderma sspについての記載があり得る。
【0132】
哺乳類の発現ベクターは、複製起点、適切なプロモーターとエンハンサー、及び任意の必要なリボソーム結合配列、ポリアデニル化部位、スプライスドナーとアクセプター部位、転写終結配列、及び5'上流に位置する非翻訳配列を含み得る。SV40ウイルスのゲノム由来のDNA配列、例えば、SV40 オリジン、初期プロモーター、エンハンサー、スプライス、及びポリアデニル化部位は、必要な非翻訳性遺伝配列を提供するために用いられ得る。
【0133】
哺乳類のプロモーターは、β-カゼイン、β-ラクトグロビン、乳性酸性プロモーターを含み、他にも、HSV チミジンキナーゼ、初期及び後期 SV40、レトロウイルス由来の長い末端反復配列(LTRs)、及びマウスのメタロチオニン-1のプロモーターが在る。哺乳類のベクターの例としては、pWLneo、pSV2cat、pOG44、pXTI、pSG (ストラタジーン) pSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVL(ファルマシア)が含まれる。好ましい実施形態における哺乳類の発現ベクターはpUCIG- METである。選別可能なマーカーにはCAT (クロラムフェニコール転移酵素)が在る。
【0134】
本発明の観点から使用できるヌクレオチド配列は様々な方法で調製可能である。一般的には、それらは、読み取り枠の中で、各機能を担うポリペプチドのコーディング配列をつなぎ合わせることにより得られる。後者は、当業者の技術を用いて、例えば、細胞性メッセンジャーRNAs (mRNAs)から直接的に、または相補DNA(cDNA)ライブラリーからクローニングし直すことにより単離される。あるいは、これらは完全な合成ヌクレオチド配列であってもよい。さらに、ヌクレオチド配列はその後、前記配列の派生物または変異体を得ることを目的として、遺伝子工学の技術などによりさらに改変されることもあることが理解される。
【0135】
治療に用いる組成物
本発明のタンパク質は、薬剤として有用な組成物を調製する既知の方法に従って処方することができる。それによると、発明した分子、またはそれらの機能的派生物は、薬剤として認可された基剤と共に、混合用添加物の中で混合される。適切な賦形剤及びその処方は、他のヒトタンパク質、すなわちヒト血清アルブミンを含めて、記述されている。例えば、効果的に投与され薬剤として認可される混合物を作るために、このような組成物には、一つまたは複数の本発明のタンパク質と適当量の基剤が含まれる。
【0136】
本発明における医薬組成物は、一つまたは複数の生理学的に認可された基剤または賦形剤を用いた慣習的なやり方で処方することができる。従って、二元機能性分子とそれらの生理学的に認可された塩化物、及び溶媒和物は、 (口または鼻のいずれかを通した)吸入または通気、あるいは経口、口腔経由、非経口、または直腸経由で投与できるように処方することができる。
【0137】
経口投与のための医薬組成物は、例えば、薬剤として認可された賦形剤を用いて慣習的な手法で調製された錠剤またはカプセルであってもよい。薬剤として認可されている賦形剤の例としては、結合物質 (すなわち、ゲル化する前のトウモロコシ澱粉、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース); 増量剤 (すなわち、ラクトース、微結晶セルロースまたはリン酸水素カルシウム); 潤滑剤 (すなわち、ステアリン酸マグネシウム、滑石、または珪石粉); 錠剤分解物質 (すなわち、馬鈴薯澱粉またはデンプングリコール酸ナトリウム); あるいは湿潤剤(すなわち、ラウリル硫酸ナトリウム)などが在る。錠剤は、当業者によく知られた方法でコーティングされてもよい。経口投与のための液体調合剤は、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液の形態をとり得る。あるいは、使用前に水または他の適切な賦形剤を用いて調製される乾燥物であってもよい。このような液体調合剤は、薬剤として認可された添加物を用いて慣習的な手法で調製され得る。薬剤として認可された添加物の例としては、懸濁化剤 (すなわち、ソルビトールシロップ、 セルロース誘導体または水素添加された食用脂);乳濁化剤(すなわち、レシチンまたはアカシア);非水性賦形剤 (すなわち、扁桃油、エステル油、エチルアルコールまたは分画されたサラダ油); 及び防腐剤 (すなわち、 メチルまたはプロピル-p-ハイドロキシベンゾアート、またはソルビン酸)などが在る。調合剤も、適当ならば塩バッファー、矯味剤、着色剤、甘味料を含み得る。
【0138】
経口投与のための調合剤は、活性化した化合物が適度に放出するように処方することができる。口腔投与のためには、組成物は慣習的なやり方で処方される錠剤またはトローチ剤の形態をとってもよい。
【0139】
吸入により投与するために、本発明で使用される二機能性分子は、適切な高圧ガスを用いた加圧容器またはネブライザーから放出される、便利なエアロゾルスプレーの形態をとる。適切な高圧ガスの例としては、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン-e、炭酸ガス、または他の適切なガスが在る。加圧されたエアロゾルの場合は、メーター量を見ながら弁を調節することにより単位投薬量を噴出することができる。呼吸用マスクまたは吸入器内で使用されるゼラチンのカプセルとカートリッジは、化合物の粉末状混合物とラクトースまたは澱粉といった適切な粉末ベースを含んで処方され得る。
【0140】
発明の組成物である複数のタンパク質は、非経口投与のため、注入、すなわちボーラス静注または連続注入用に処方することができる。注入のための処方は、防腐剤を添加された単位用量形態、すなわちアンプル内、または複数回の用量を含む容器内に含まれるものとして提供され得る。組成物は、懸濁液、溶液、または油中乳濁液、または水性賦形剤といった形態をとり、懸濁化剤、安定化剤 及び/または分散化剤といった処方物質を含み得る。あるいは、活性化成分は、使用前に適切な賦形剤、すなわち発熱物質を含まない滅菌水を用いて構成される粉末の形態であってもよい。
【0141】
化合物はまた、坐薬または停留浣腸のような直腸に投与される組成物として処方される。すなわちココアバターまたは他のグリセリドといった慣習的な座剤基剤を含んで処方され得る。
【0142】
前述の処方に加えて、二機能性分子はまた、デポー製剤として処方され得る。このように長期間活性を持つ処方は、(例えば、皮下または筋内への)埋め込み、あるいは筋内注射により投与され得る。従って、例えば、化合物は、適切な重合体、または疎水性物質(例えば、認可された油中の乳濁液)、またはイオン交換樹脂を用いて調製することができ、あるいは溶けにくい塩といった難溶性誘導物として調製することができる。
【0143】
組成物は、必要であれば、活性のある成分を持つ一回または複数回分の単位用量形態を含んだ容器またはディスペンサーに入れられて提供され得る。容器には、例えば、金属または透明小型包装のようなプラスチック箔が含まれ得る。容器またはディスペンサーには、投与の際の説明書が同封されてもよい。
【0144】
参考文献として引用および取り込まれた文献
【参考文献】
【0145】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において急性肺障害を治療する方法であって、
肺障害が治癒するように治療的有効量のアンチトロンビンIIIとヘパリンとを吸入により投与する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記肺障害が敗血性急性肺障害であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記肺障害が急性呼吸促迫症候群(ARDS)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記肺障害が、ウイルス性物質への暴露に応答して生じたものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
生物学的物質がシュードモナス・ニューモニア(Pseudomonas pneumonia)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記肺障害が、1または複数の煙およびアスベストに応答して生じたものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
アンチトロンビンIIIとヘパリンとの組み合わせが超音波ネブライザーを用いて投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
アンチトロンビンIIIが、血漿由来のアンチトロンビンIIIであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
アンチトロンビンIIIが、組み換えにより生成されたアンチトロンビンIIIであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記組み換えにより生成されたアンチトロンビンIIIが、遺伝子導入により生成されたアンチトロンビンIIIであることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
1投与量より多くのアンチトロンビンIIIが対象に投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
アンチトロンビンIIIが体重当たり約10-300U/kgの用量で投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項13】
アンチトロンビンIIIが体重当たり約25-125U/kgの用量で投与されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記肺障害が、ATIIIとヘパリンの両者を用いて治療されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項15】
治療される肺障害が、煙吸入により引き起こされたものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項16】
治療される肺障害が、肺の熱傷により引き起こされたものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項17】
タンパク質を含む組成物を用いてヒトの急性肺障害を治療する方法であって、前記タンパク質は、ATIIIを含むトランスジーンDNA構築物によりコードされていることを特徴とする方法。
【請求項18】
タンパク質を含む組成物を用いてヒトの急性肺障害を治療する方法であって、前記タンパク質は、ATIIIを含むトランスジーンDNA構築物によりコードされており、薬剤学的に実質的に純粋な前記タンパク質の組成物を有効量のヘパリンと共に用いて患者を治療することを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
ヘパリンが血漿由来のヘパリンであることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
ヘパリンが組み換えにより生成されたヘパリンであることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項21】
前記組み換えにより生成されたヘパリンが、遺伝子導入により生成されたヘパリンであることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
1投与量より多くのヘパリンが前記患者に投与されることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項23】
ヘパリンが体重当たり約10-300U/kgの用量で投与されることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項24】
ヘパリンが体重当たり約25-125U/kgの用量で投与されることを特徴とする請求項18記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−162555(P2011−162555A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109632(P2011−109632)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【分割の表示】特願2006−554156(P2006−554156)の分割
【原出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(501450786)ボード オブ リージェンツ ザ ユニヴァーシティ オブ テキサス システム (9)
【Fターム(参考)】