説明

エキスパンドメタルのプロジェクション溶接方法

【課題】従来のエキスパンドメタルの溶接はメッシュ原形を崩さず機械的特性を活かすことができない。従来は抵抗発熱の熱影響による金属プレートの反り・歪み,エキスパンドメタルのメッシュ潰れが大きいので,母材の機械的性質の損失が大きいことが課題であった。
【解決手段】金属プレートの上に,細長い鋼材を網目状にかみ合わせて構成されたエキスパンドメタルを重ね合わせ,その重ね合わせた突起状の接触部を一対の電極間で挟みつけ,前記電極間にコンデンサ電源から大容量の溶接電流を流して突起状接触部を一体化する場合,溶接後の前記エキスパンドメタルのメッシュモデル高さh寸法が溶接前のエキスパンドメタルのメッシュ高さH寸法に対し60から85%の範囲内でプロジェクション溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエキスパンドメタルを金属プレートに接続する場合の抵抗溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製エキスパンドメタルを金属プレートに溶接する従来周知の工法には,たとえば特許文献1に記載された溶接方法がある。
【0003】
この従来の工法はエキスパンドメタルのスポット溶接する個所を溶接に先立ちプレス成形して完全に平坦にしてから相手側の金属プレートに面接触させた状態で通常のスポット溶接を行うものである。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−137183号公報(第2頁左欄3―8行 第1―第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は,エキスパンドメタルを金属プレートに接合する場合に,従来の溶接方法ではエキスパンドメタルのメッシュ原形を崩さずに機械的特性を活かすことができなかったことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで上記課題を解決するために,請求項1の発明は金属プレートに,細長い鋼材を網目状にかみ合わせて構成されたエキスパンドメタルを重ね合わせ,その重ね合わせて形成された突起状の接触部を一対の電極間で挟みつけ,前記電極間に溶接に必要な加圧力を与えると共に,コンデンサ電源から大容量の溶接電流を流して前記金属プレートと前記エキスパンドメタルとの間の突起接触部をプロジェクション溶接して一体化する溶接方法において,前記溶接後の前記エキスパンドメタルのメッシュモデル高さh寸法が前記溶接前のエキスパンドメタルのメッシュ高さH寸法に対し60から85%の範囲内で溶接することを特徴とするコンデンサ式抵抗溶接機によるエキスパンドメタルのプロジェクション溶接方法を提供する。
【0007】
また請求項2の発明は,前記金属プレートと前記エキスパンドメタルとの間に形成された突起接触部を複数同時にプロジェクション溶接して一体化するコンデンサ式抵抗溶接機によるエキスパンドメタルのプロジェクション溶接方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明方法によれば,前記溶接前のエキスパンドメタルのメッシュ高さH寸法に対し溶接後の前記エキスパンドメタルのメッシュモデル高さh寸法が60から85%の範囲内で溶接するから,エキスパンドメタルの接触点を完全に平坦に潰すことがなく,しかもメッシュ材を強固で均一に溶融接合することができる。
【0009】
本発明の請求項2によれば,溶接時間が短時間で大電流を流すことが出来るコンデンサ溶接機により,常に溶接するエキスパンドメタルの突起接触の全面に最適な溶接電流を均等に流すことが出来,短時間の発熱のため熱影響による金属プレートの反り,歪み,エキスパンドメタルの材料変形・潰れが少ないので,母材の機械的性質の損失を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
自動車用デイスクブレーキのブレーキパッドを取付けるためのエキスパンドメタルの接続に有効な工法であって,金属プレート(バッキングプレート)とエキスパンドメタルの重ね合わせて形成された突起状の接触部を完全に平らに潰すことなく,エキスパンドメタルの母材形状を残した状態で突起状の接触部を強固に接合する場合に最適な実施例である。
【実施例1】
【0011】
図1はJIS G 3351(エキスパンドメタル)に規定されたメッシュ形状を示す平面図である。記号S,Lは製品の縦方向と横方向の長さである。図2は同じく拡大部分図である。記号T:板厚,W:刻み幅,SW:メッシュ幅方向距離,LW:メッシュ長さ方向距離である。図3は図2A―A断面図であり,金属プレートとの重ね合わせ部の突起状の接触部を示す図である。同図の記号H:エキスパンドメタルのメッシュ高さを示す。図4は本発明において金属プレートに三分割したエキスパンドメタルを一体化した平面図である。図5は本発明のプロジェクション溶接機において金属プレートに1枚エキスパンドメタルを一体化した溶接部の外観詳細を示す写真である。図6は本発明方法を実施するためのコンデンサ式プロジェクション溶接機の構成ブロック図を示す。図7は本発明の溶接機による溶接前と溶接後のメッシュの高さを比較した説明図である。同図Aは本発明の溶接機による溶接前のメッシュの高さH寸法を示す。同図Bは本発明の溶接機による溶接後のメッシュのモデル高さh寸法を示す。
【0012】
図6において,本発明のコンデンサ式プロジェクション溶接機1は主要構成部分の一部に正負一対の電極2,3を持ち,そのうち一方の電極2は可動側の電極として,ボールねじBとナットNにより電動モータ4(サーボモータ)の回転運動を直線運動に変換するシステムから構成されたアクチュエータユニット5により駆動される。
【0013】
このアクチュエータユニット5の1軸はコントローラ6によりクローズドループ方式で制御され,電極間の加圧力と溶接電流と通電時間,電極位置決め,移動速度,通電溶接に必要な他のパラメータはすべて前記コントローラ6の主制御部7に記録・設定される。一方の電極2は主制御部7にしたがって相対する他方の固定側の電極3との間で溶接部をクランプできるように,電動モータ4のトルク電流及びエンコーダ8からのパルス信号により同期制御が再現される構成になっている。
【0014】
本発明の溶接機は前記アクチュエータユニット5の1軸又は2軸をドライブするモータアンプ9と,溶接電源制御部10と前記溶接機の溶接トランスの電子スイッチを制御するコンタクタ11と,ワーク治具(図省略)とが備えられている。
【0015】
蓄電式溶接電源装置12には図では省略したが充電回路を有し,この充電回路にはたとえばインバータ回路と整流回路とを有し,コンデンサ群はこの充電回路により任意に設定可能な電圧値まで充電される。放電用スイッチであるサイリスタによりオンオフスイッチングしてコンデンサ群に蓄積された電力は溶接トランスの1次コイルを介して溶接トランスの二次コイルに接続された電極クランプに放出され溶接が行われる。
【0016】
溶接位置演算制御部13は,指令された基準値の高さh寸法とトルク電流停止位置指令を受け,電動モータ4のモータアンプ9への目標位置及びモータ速度などトルク制御を指令し,前記モータ4のエンコーダ8からのパルス信号からモデル高さh寸法を検出して,目標値に達したときに溶接電源制御部10に通電停止およびトルク制限またはトルク制御を切り,モデル高さ位置への位置制御切り替えをモータアンプ9へ指令する。
【0017】
コンタクタ11は溶接機1では電源と蓄電式溶接電源装置12との主回路に介在し,通電溶接を行う際に主制御部7からの通電信号を受けて電子スイッチを動作させ,蓄電式溶接電源装置12の主電流を制御し,溶接機の二次側導体を介して前記一対の電極2,3の間に流す溶接電流の大きさや通電時間等を直接制御する。
【0018】
可動側の電極2の位置検出は電動モータ4に内蔵させたエンコーダパルスで読み取る。この場合,可動側の電極2の全開放した原点位置から固定側の電極3を空加圧してトルク電流が流れた位置を基点(ゼロ)として電極原点セットを行う。
【0019】
溶接工程における基準値の設定について説明すると,そのチップ原点位置から溶接前のエキスパンドメタルのメッシュ高さH寸法を逆算して求め,たとえばメッシュ高さH寸法が2mmとすると,可動側の電極2がメッシュ高さH寸法の2mmに達する寸前で電極移動が減速されてソフトランデングの位置決めがエンコーダパルスにより検出される。仮に品質目標のメッシュモデル高さh寸法を1.2mmとした場合,β基準値は1.2mmに対応する目標値がエンコーダパルスから検出される。
【0020】
またα基準値の場合は,前記モデル高さh寸法より僅か手前の位置たとえば0.1〜0.3mm程度手前の距離をα目標値として溶け込み量を逆算して求める。かくして製品のメッシュモデル高さh寸法に相当する前記β基準値又はメッシュモデル高さh寸法より手前にとったα基準値をコントローラの溶接位置演算制御部13に設定する。前記電極2のストローク変位量が予め設定されたモデル高さ寸法のβ値もしくはα値にあるか否かを前記エンコーダ8から時々刻々出力されるパルス数から溶接位置演算制御部13の演算部で読み取る。
【0021】
電極の磨耗による電極間の変位量を修正する場合も可動側の電極2の全開放した原点位置から固定側の電極3を空加圧してトルク電流が流れた位置を基点(ゼロ)としてチップ原点セットを行う。
【0022】
図6および図7において,主制御部7には溶接シーケンスの上記目標位置(前記β基準値又はα基準値)と溶接時のトルク電流による加圧力,溶接電流値,通電時間その他溶接に必要なパターン及びパラメータが設定され,それらのパラメータにしたがって指令を行う。
【0023】
本発明の取付け方法に基づきサンプルを作成して実性能を確認した。
以下に実験値を示す。
○ 被溶接物及び材質
金属プレート:材質SAPH440,板厚8mm,板幅86mm
長さ106mm
エキスパンドメタル:材質SPHC 線径0.8mm,幅80mm,
長さ100mm 高さ2mm
○ 溶接条件表
加圧力kN:20〜25,容量kW:15〜20,
溶接電流kA:160〜180,通電時間ms:10〜20
【0024】
本発明の動作を図6,図7に基づいて説明する。
まず予めプロジェクション溶接する前に電極2,3の間に自動装置によりワークを挿入しない状態で,可動側の電極2と固定側の電極3同志または電極間に基準材を挿入してクランプし,その停止した時の可動側の電極移動量からエンコーダ8により電極の原点,ゼロ基点を検出し,そのデータをコントローラ6に記憶する。
【0025】
プロジェクション溶接機機のコントローラ6にはアクチュエータユニット5の溶接に必要な加圧力パターン,電流パターン,通電パターン等の諸動作のほか電極速度,電極位置決めなどのシーケンス上のパラメータ情報がテイーチングされる。溶接の対象となるエキスパンドメタルは,予めワーク治具に設けたセット位置に固定される。
【0026】
次いで,コントローラ6の主制御部7からの指令で溶接位置演算制御部13はモータアンプ9へ目標位置とモータ速度などのトルク電流制御を指令しアクチュエータユニット5の電動モータ4が作動し,ボールねじBの回転運動をボールナットNに伝達することによって可動軸14が直線移動して可動側の電極2を固定側の電極3に向けて下降させる。
【0027】
この間,電極2の移動量は電動モータ4からのエンコーダパルスを受けて検出される。主制御部7に設定された可動側の電極2の速度は電極先端が溶接部に接するメッシュ高さH寸法の手前まで速く動作することができる。したがって可動側の電極2が溶接部と接する瞬間にスピードが減速され,実質的にソフトタッチで前記溶接部に当接し,固定側の電極3との間で前記溶接部を挟み付けて加圧する。
【0028】
その後,加圧力として固定側の電極3と可動側の電極2との間にたとえば20kN〜25kNの高加圧力を得るためのトルク電流を発生させて通電時間10〜20msの間で溶接部を機械的に押圧する。主制御部7からの設定指令で溶接電源制御部10からの通電開始指令を受けコンタクタ11の開閉器を動作する。この場合,主制御部7の設定データにしたがってたとえば通電時間10〜20msの間に蓄電式溶接電源12から160kA〜180kA程度の大電流が流れる。
こうして,可動側の電極2と固定側の電極3に溶接電流が供給されると,溶接部が加速的に加熱溶融され,圧接することができる。
【0029】
なお,溶接押し込み量は前記電極変位から前記モータのエンコーダパルスで検出され,溶け込み量が次第に進みこれらのデータは打点毎に逐次モニタリングしてその目的の基準値に達したかどうかは前記演算制御部13で比較算出される。その算出結果が前記基準値に達しなかったときはその差分をフィードバック制御し,目的のα基準値又はβ基準値に達するまで加圧力を増減するなどの補正制御が行われる。
【0030】
この場合,一方的にトルク制御で目標値に設定された溶接位置まで加圧するのではなく,この溶接過程中に,前記可動側の電極2の加圧力で前記溶接部分が押し潰され電動モータ4のエンコーダからのパルス信号から検出値が目標位置のβ基準値又はα基準値を検出したときに溶接位置演算制御部13から溶接電源制御部10からの指令でコンタクタ11が前記電極間の溶接電流を停止すると同時に溶接位置演算制御部13からの指令でトルク制限またはトルク制御を切りメッシュモデル高さh寸法のβ基準値又はその近傍のα基準値への位置制御の切り替えをモータアンプ9へ指令する。
【0031】
かくしてトルク電流と溶接電流がほぼ同時に遮断されると,ホールドタイム(たとえば0.5〜20サイクル範囲)が終了するまで電極間で溶接部を保持する。この間電動モータのトルクは保持トルクの状態で電極位置が基準位置でキープされ,溶接部の高さが一定に維持される。つまり,本発明は溶接中に所定位置でトルク制限またはトルク制御を解除し位置制御を行うことによって前記溶接部のメッシュモデル高さh寸法の許容差をモータエンコーダ分解の精度(たとえば1/100以下)に応じた値に確定することができる。
【0032】
溶接完了後は主制御部7からの指令で前記アクチュエータユニット5の電動モータ4が逆回転し可動側の電極2が原点まで全ストローク開放することによって,プロジェクション溶接の一サイクルが完了する。
【0033】
次いで,電極間に次の新しいワークの出し入れが行なわれ,以下同様に溶接サイクルが繰り返される。
【0034】
なお,チップの消耗量の測定は磨耗量に応じ任意回数(10回)に1回正負間電極2,3で空打ち加圧を行い,上述したように基点をリセットすることになる。
【0035】
この場合,途中でトルクを解除した状態で切り替えた位置制御によって現在の溶接部の高さが最終的にメッシュモデル高さh寸法に一致するまで制御し確実に正規位置を検出し保持することができる。
【0036】
一方的にエア加圧制御で目標のメッシュモデル高さh寸法まで継続的または経験的に加圧して溶接していた従来の観念では部品寸法精度が安定しなかったのに対し,この実施例1によればメッシュモデル高さh寸法のモニタリング精度を向上することによって部品精度を高めるための品質管理が向上し,またタクトタイムを短縮することができ生産性を高めることができる。
【0037】
なお,メッシュモデル高さh寸法を確定する溶接方法として,前記サーボモータによる位置制御及びトルク制御について言及したが,この実施例1のほかにも可動側の電極を機械式,たとえばエア式又は油圧式のシリンダによる加圧動作するときの可動軸,アーム,二次導体を含む可動部又は前記固定側の電極に加圧動作する時の前記可動側の電極の,移動速度及び/又は移動距離を変位センサにより検出し,その変位センサの検出した値がモデル高さ寸法に対応する所定の移動速度及び/又は所定の移動距離に達したとき,前記電極間の溶接電流及び加圧力を停止し溶接を完了する。また溶接過程中に変位センサの検出した値が所定の移動速度又は移動距離に達しなかったときは前記可動側の電極を停止及び/又は開放動作に切り換わるようにすることも可能である。この場合,被溶接物の有り無しを検出し未然に溶接不良を防止すること及び溶接部への異物の挿入を検出して安全性確保にも有用である。
【0038】
上記実施例1に示されたプロジェクション溶接機による溶接方法は図4に示すごとく,自動車用デイスクブレーキのブレーキパッドを取付けるためのエキスパンドメタルの接続に有効であって,金属プレート(バッキングプレート)とエキスパンドメタルの重ね合わせて形成された突起状の接触部を完全に平らに潰すことなく,エキスパンドメタルの母材形状を残した状態で突起状の接触部の潰しを少なくして強固に溶融溶着させることができる。
【0039】
金属プレートとエキスパンドメタルを上記の実験値内にて溶接した結果,抵抗溶接方法の一つであるプロジェクション溶接方法によれば、エキスパンドメタル材の全面が均一に潰れが少なく,強固に溶融溶着して一体化することができた。この溶接実験では,幅25mm,長さ80mm寸法の平坦加圧面の電極を使用して行った。エキスパンドメタルを前記金属プレート上に重ね合わせ上下電極間で挟みつけ,加圧力20kN,溶接電流164kA,通電時間10ms程度の溶接条件で数回に分けてコンデンサ電源により溶接した。
【0040】
この実験では,一枚のエキスパンドメタルを1回溶接した後,次の溶接で前回溶接した一列目のメッシュをラップさせて分割溶接を行った。この溶接結果によるとエキスパンドメタルの溶接前のメッシュ高さH寸法2mmに対し溶接後のメッシュモデル高さh寸法が1.2mmないし1.7mmの範囲内で確保できた。溶接後のペンチ剥離テストを行った結果,溶接後のメッシュモデル高さh寸法が1.2mmないし1.7mmの範囲内であれば各突起溶接部からエキスパンドメタルが切れ十分な機械的強度が得られるほか金属プレートに反りや変形が生じないことが確認できた。この実験では電源が少ない容量の場合も同様に分割溶接することで溶接部のペンチ剥離テストを行った結果,溶接品質上,強い剥離強度が得られることが確認できた。
【0041】
一方,溶接後のメッシュモデル高さh寸法が1.1mm以下の場合はエキスパンドメタルの溶接部にチリが多く発生し溶融金属の減少により溶接強度不足や金属プレートの反り,歪が生じることが確認できた。また,溶接後のメッシュモデル高さh寸法が1.8mm以上の場合はエキスパンドメタルの溶接部の潰し代が少ないため溶融金属の溶着面積が減少し十分な溶接強度が得られないことが確認できた。
【0042】
本発明の実験ではエキスパンンドメタルをあらかじめ縦方向に3分割しバッキングメタルを,等間隔をもって重ねプロジェクション溶接すれば,予めメッシュ材を分割して溶接することで,1枚板毎に溶接時間が短時間で大電流を流すことができる。このエキスパンドメタルの溶接工法はコンデンサ溶接において常に溶接するエキスパンドメタルの全面に最適な溶接電流を均等流すことができ,短時間の発熱のため熱影響による金属プレートの反り・歪み,エキスパンドメタルの材料変質・潰れが少ないので,母材の機械的性質の損失が少ないことが確認できた。
【0043】
なお,この溶接実験では,三分割したエキスパンドメタルを分割溶接でテストしたが,重複溶接する場合は1列目をラップして溶接しても複数列をラップさせて溶接しても同様の発明効果が得られるほか,エキスパンドメタル溶接部全面を一括同時に溶接することも可能であることは言うまでもない。
【0044】
他の抵抗溶接電源では例えば単相交流電源においては,短時間で大電流を流すことができないため,一次電源のフリッカー等を発生し電源容量に問題が起きた。またインバータ電源においても単相交流電源と同等に短時間で大電流を流すことができないため,金属プレートの反りや歪みが大きく,エキスパンドメタルの材料変質や潰れが大きくなって機械的強度が得られなかった。
【0045】
本発明では溶接時間が短時間で大電流を流すことができることからエキスパンドメタルの母材原形の潰れが少なく,強固に溶融溶着させることができる。また今回の実験では金属プレートとエキスパンドメタルのコンデンサ式プロジェクション溶接で試作したサンプルの強度検査をペンチ剥離テストで検証した結果,エキスパンドメタル側が切れる程,強い剥離強度が得られ,溶接品質向上が確認された。
【0046】
上記の溶接工程により一体化したエキスパンドメタルは次のパッド成形工程において接着剤を塗布し,金型にビスケット状の混合紛を入れ,数百度で加熱成形を行いパッドの形に組み込まれる。この場合,パッド基材がエキスパンドメタルのメッシュ全域に内部まで浸透することで,パッド素材の内部に金属補強材,つまり鋼製のエキスパンドメタルが埋設されることになる。
【0047】
ブレーキパッドはパッド成形・硬化工程などによる一連の加工工程を経て金属プレートに焼き入れ固定される。かくしてブレーキパットに強要される振動力や衝撃力はメッシュ材の網目に沿って細かく分散・吸収されることになり,またブレーキパッドに発生する摩擦熱はパッド内部のエキスパンドメタルによって網目状に細かく伝導・分散され接着力の耐久性を飛躍的に延ばすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のプロジェクション溶接方法の事例として自動車用デイスクブレーキのバッキングプレートにエキスパンドメタルをプロジェクション溶接した後のブレーキパッド取付け工法について言及したが,コンデンサ式抵抗溶接によって規格製品の鋼製エキスパンドメタルと金属プレートとを機械的性質を喪失せずに強固に固定することができるので,エキスパンドメタルを必要とする他の部品溶接にも応用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】JIS G 3351(エキスパンドメタル)に規定されたメッシュ形状を示す平面図である。
【図2】エキスパンドメタルの拡大部分図である。
【図3】本発明において金属プレートの上にエキスパンドメタルを重ね合わせて形成した重ね部の突起接触状態を示す図である。
【図4】本発明において金属プレートに三分割したエキスパンドメタルを一体化した平面図である。
【図5】本発明のプロジェクション溶接機において金属プレートに1枚エキスパンドメタルを一体化した溶接部外観詳細を示す写真である。
【図6】本発明のコンデンサ式プロジェクション溶接機の外観構想を示す側面図である。
【図7】本発明の溶接機による溶接前と溶接後のエキスパンドメタルのメッシュ高さを比較した説明図である。同図Aは本発明の溶接機による溶接前のメッシュ高さH寸法を示す。 同図Bは本発明の溶接機による溶接後のメッシュモデル高さh寸法を示す
【符号の説明】
【0050】
1 コンデンサ式プロジェクション溶接機
2 一方の電極(可動側)
3 他方の電極(固定側)
4 電動モータ
5 アクチュエータユニット
6 コントローラ
7 主制御部
8 エンコーダ
9 モータアンプ
10 溶接電源制御部
11 コンタクタ
12 蓄電式溶接電源装置
13 溶接位置演算制御部
14 可動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属プレートに,細長い鋼材を網目状にかみ合わせて構成されたエキスパンドメタルを重ね合わせ,その重ね合わせて形成された突起状の接触部を一対の電極間で挟みつけ,前記電極間に溶接に必要な加圧力を与えると共に,コンデンサ電源から大容量の溶接電流を流して前記突起状の接触部をプロジェクション溶接して一体化する場合に,溶接後の前記エキスパンドメタルのメッシュモデル高さh寸法が前記溶接前のエキスパンドメタルのメッシュ高さH寸法に対し60から85%の範囲内で加圧溶接することを特徴とするコンデンサ式抵抗溶接機によるエキスパンドメタルのプロジェクション溶接方法。
【請求項2】
請求項1の溶接方法において前記プレートと前記エキスパンドメタルとの間に形成された突起接触部を複数同時にプロジェクション溶接して一体化するエキスパンドメタルのプロジェクション溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−142307(P2006−142307A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331835(P2004−331835)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000151070)株式会社電元社製作所 (23)
【Fターム(参考)】