説明

エキノカンジン系薬物に対する耐性の分析方法

真菌遺伝子FKS1の短い2つの領域に生じる突然変異に関する核酸増幅分析法。これらの標的配列中の突然変異はエキノカンジン系薬物に対する耐性と関連することが示されている。分析法は、塩基配列決定による検出または標識されたハイブリダイゼーションプローブによる検出を含みうる。さらに、そのような分析法を実施するためのプライマー、プローブおよび試薬のキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真菌の核酸分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌感染症は重病患者における発病および死亡の重要な原因であり、その影響は、真菌感染症であることを迅速に診断し効果的に治療することに失敗すると深刻化する。抗真菌薬を広範に使用してきた結果、天然の耐性真菌種の淘汰だけでなく、感受性菌種における耐性の出現を招いてきた。真菌病の治療は、利用可能な抗真菌薬の種類がほとんどないことによって阻まれている。最近、β−(1→3)−D−グルカン・シンターゼを阻害することにより真菌細胞壁を標的とする新しい種類のエキノカンジン系薬物の最初のものとして、カスポファンギンが臨床に導入された。カスポファンギンの使用は急速に増大しており、インビトロにおける感受性の低下したカンジダ属菌種の臨床分離株が、治療の失敗とインビトロにおける高い最小阻止濃度MICの値との間の強い関連性とともに報告されている。患者のカスポファンギンへの曝露が増大するにつれ、またミカファンギンやアニデュラファンギンなどの他のエキノカンジン系薬物が市場に参入するにつれ、MIC値の高い臨床分離株の数が増すであろうことが予想される。
【0003】
エキノカンジン類は、ここ数十年の間に市場に参入した最初の新しい主要な種類の抗真菌薬である。真菌は、細胞壁構造がなくては生存することができず、あるいは何らかの形で細胞壁構造が著しく変化した場合ですら生存することができないので、真菌が細胞壁の完全性を維持することは非常に重要である。細胞壁は、糖タンパク質の外側層と、グルカン、キチンおよびガラクトマンナンを含む炭水化物ポリマーの内側層とで構成される層状組織を備えた細胞外マトリックスである。腐生性真菌および病原性真菌では、炭水化物層は主としてβ(1→3)−グルカンおよびα(1→3)−グルカンから成るが、さらに多少のβ(1→6)−グルカンおよびキチンを含んでいる。グルカンはまたエキソポリマーとして真菌細胞壁から真菌感染症患者の血液中に放出され、様々な先天性免疫応答を活性化することが知られている。細胞壁の生合成の際には構成ポリマーは絶えず化学的に修飾されかつ再構成されるので、真菌細胞壁は動的な構造体である。例えば、β(1−3)−グルカンの形成を担うグルカン・シンターゼ複合体の触媒サブユニットと推定されるFks1pは、皮質のアクチンパッチ内に局在することが知られている。Fks1pは細胞壁の再形成部位へと細胞表面上を移動し、Fks1pが動けない細胞は細胞壁の構造および機能が不完全である。Fks1pはFKS1遺伝子の産物である。エキノカンジンは、脂肪アシル側鎖にN−結合した環状ヘキサペプチドであり、主要な細胞壁生体高分子の生合成を担うβ(1→3)−D−グルカン・シンターゼを阻害する。エキノカンジン系薬物であるカスポファンギン、ミカファンギンおよびアニデュラファンギンは、β−1,3−グルカン・シンターゼを阻害することにより真菌細胞壁を標的とする新しい種類の抗真菌化合物の筆頭である。最初に承認された薬物であるカスポファンギンの、真菌感染症の治療における安全性および忍容性は、大多数の患者において臨床または実験室における薬物に関連した深刻な有害事象が報告されることなく、最近のいくつかの研究において評価されている。
【0004】
これらの薬物は、既存の抗真菌薬に対する交差耐性を伴わずカンジダ属およびアスペルギルス属菌種に対する広域スペクトルの抗真菌活性を有しており、したがってアゾール耐性の酵母およびカビに対して有効である。重要なことは、エキノカンジン類は細胞壁に重大な影響を与えるため酵母に殺菌性を有することである。エキノカンジン類はカビに対して活性を有するが、単に成長している菌糸先端を阻害するように見える。しかしながらエキノカンジン類は、侵入性を有する接合菌網、クリプトコックス・ネオフォルマンスまたはフザリウム属菌種に対する活性は低いが、アスペルギルス属菌種に対しては臨床的に非常に有効である。カスポファンギンは、多くの重大な真菌感染症、たとえば難治性であるかまたは他の治療法に耐えられない患者における侵入性アスペルギルス症、食道のカンジダ症、カンジダ血症、および他のカンジダ感染症(腹腔内の膿瘍、腹膜炎および胸膜腔感染を含む)などの治療に関して米国およびその他の国々で承認されている。カスポファンギンはまた、持続性発熱および好中球減少の患者において疑われる真菌感染症の経験療法についても指摘されている。カスポファンギンは現在、ボリコナゾールのようなトリアゾール系薬物と共に、酵母およびカビに対する初期の抗真菌療法に広く使用されている。類縁の薬物であるミカファンギンおよびアニデュラファンギンの参入により、臨床現場におけるこの非常に効果的な新しい種類の薬物の作用域がさらに拡がるであろう。
【0005】
最初に承認されたエキノカンジンが2002年に市場に参入して以来、クリニックでのカスポファンギンの使用は急速に増大しており、これは特にアメリカ合衆国におけるカスポファンギンの表示ラベルが、食道のカンジダ症、カンジダ血症および他のカンジダ感染症、ならびに経験療法を含むように最近拡張されたからである。カスポファンギンに対するインビトロでの感受性が低下したカンジダの臨床分離株が報告されており、インビボでの失敗とインビトロでのカスポファンギンMIC値上昇との間の相関が注目されてきたが、最小阻止濃度(MIC)の値と臨床成績との間の厳密な相関は未だ確立されていない。患者のカスポファンギンへの曝露が増大し、またミカファンギン(2005年6月)およびアニデュラファンギンが市場に参入するにつれ、MIC値の高い臨床分離株の数が増加し、また、ますます多くの患者が薬物感受性の低下に起因する治療の失敗に陥るであろうことが予想される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、真菌類、限定するものではないがカンジダ属の真菌などにおける、エキノカンジン系薬物に対する耐性に関連した遺伝子突然変異を検出する核酸分析法である。
【0008】
本発明の別の態様は、FKS1タンパク質をコードする特定の領域の指数関数的な核酸増幅を、好ましくは塩基配列決定または対立遺伝子を識別できる標識プローブを用いた検出のうちいずれかと組み合わせて使用するような核酸分析法である。
【0009】
本発明の別の態様は、前述の分析法を行なうための、試薬ならびにプライマーおよびプローブのオリゴヌクレオチド・セットのキットである。
本発明は、カンジダ属のような酵母およびアスペルギルス属のようなカビなどの真菌における、カスポファンギン、ミカファンギンおよびアニデュラファンギンを含むエキノカンジン系薬物に対する耐性を付与する突然変異を検出する核酸分析法を含む。該分析法は、真菌を含むかまたは真菌を含む疑いのある任意のサンプル、限定するものではないがヒトから得たサンプル、例えば血液、尿、または組織サンプルに適している。カンジダ属菌種としては、C.アルビカンス(C.albicans)、C.クルセイ(C.krusei)、C.ギリモンディ(C.guillermondii)、C.グラブラータ(C.glabatra)、C.トロピカリス(C.tropicalis)およびC.パラプシローシス(C.parapsilosis)が挙げられる。アスペルギルス属菌種には、A.フミガーツス(A.fumigatus)、A.フラバス(A.flavus)、A.ニガー(A.niger)、A.ニデュランス(A.nidulans)およびA.テレウス(A.terreus)が挙げられる。該分析法の標的は、FKS1pファミリータンパク質中の2つの保存された領域のうち一方、または好ましくは両方に対応する核酸(DNA、RNA)配列である。本発明者らが第1領域またはHS1と呼ぶ領域は、アミノ酸配列CaFks1pのPhe641〜Pro649に相当する。本発明の分析法の標的核酸配列はその保存領域に相当するが、各々の保存領域の一端または両端の1個、2個または数個、最大5個の追加アミノ酸に相当する場合もある。本発明者らが第2領域またはHS2と呼ぶ領域は、アミノ酸配列CaFks1pのAsp1357〜Leu1364に相当する。本発明の分析法の標的核酸配列はその保存領域に相当するが、両端の追加アミノ酸、CaFks1pのアミノ酸1345からLeu1364を越えて1個、2個または最大5個のアミノ酸まで(例えばアミノ酸1345−1369)に相当する場合もある。実験室株および臨床分離株を使用して、本発明者らはエキノカンジン耐性を付与するいくつかの突然変異を上記領域中に同定した。本発明者らが使用した実験室株の中には、CAI4およびM70(実施例2を参照)ならびに本発明者らが作製した実験室突然変異株(本明細書では「NR」株(例えばNR2)とする)がある。この実験室株および臨床分離株から、本発明者らは、耐性を与えるいくつかの単一アミノ酸の変化、例えばF641L、F641S、S645P、S645Y、S645F、D648Y、P649H、R1361HおよびR1361Gなど、ならびに該アミノ酸の変化の原因であるいくつかのSNPを同定した。
【0010】
本発明の分析法は、上述のアミノ酸配列に対応する、または同配列をコードする、前述の標的配列すなわち標的核酸配列(DNAまたはRNA)を含む核酸配列の増幅を含む。指数関数的に増幅する任意の方法、例えば、いずれも当技術分野においてよく知られている、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)(米国特許第4,965,188号明細書および国際公開公報第03/054233A1号パンフレットを参照)、LCR(リガーゼ連鎖反応)、NASBA(核酸配列ベース増幅)、SDA(鎖置換増幅)、3SR(自己維持配列増幅)、TMA(転写媒介増幅)およびQβレプリカーゼを介した増幅などを使用することができる。
【0011】
増幅された標的配列中の突然変異の検出は、任意の方法、たとえば限定するものではないが塩基配列決定法および標識されたハイブリダイゼーションプローブを使用する検出法などにより実施できる。塩基配列決定法には、例えば従来のジデオキシ法およびパイロシークエンス法(pyrosequencing)があり、これらはいずれも当技術分野において周知である。ハイブリダイゼーションプローブを利用する検出法は、増幅の後で実施してもよい、すなわち終点検出でもよいし、あるいはリアルタイムで実施してもよい、すなわち増幅の際に実施してもよい。ハイブリダイゼーションプローブを使用するリアルタイムの方法には、米国特許第5,487,972号明細書および米国特許第5,538,848号明細書に記載の5’ヌクレアーゼ検出法;米国特許第5,925,517号明細書に記載の分子ビーコンのプローブを利用する検出法;FRET‐プローブ対を使用する検出法;リ、キュー.(Li,Q.)ら、(2002)「A New Class of Homogeneous Nucleic Acid Probes Based on Specific Displacement Hybridization」、Nuc.Acid Res.第30巻(2)c5に記載の二本鎖プローブを使用する検出法;ならびにアフォニア(Afonia)ら、(2002)「Minor Groove Binder−Conjugated DNA Probes for Quantitative DNA Detection by Hybridization−Triggered Fluorescence」、Biotechniques 第32巻、p.946−9に記載の副溝結合(MGB)プローブが挙げられる。
【0012】
本発明のプローブ検出法は、対立遺伝子を識別する少なくとも1つのプローブ;すなわち、一方の対立遺伝子(例えば野生型配列)にはハイブリダイズし、その対立遺伝子からのシグナルを生成させるが、他方の対立遺伝子(例えば突然変異の対立遺伝子)については使用した検出条件下においてハイブリダイズせずシグナルも生成させないプローブ、を使用する。対立遺伝子を識別するプローブは一般に、やや短い結合配列、典型的には長さ25ヌクレオチド以下で、多くの場合25ヌクレオチドより5−10ヌクレオチド短い結合配列を有している。本発明による薬剤耐性突然変異体の検出には、標的配列全体を調べるために2以上のプローブを利用する場合がある。複数のプローブを用いて特定の突然変異を同定することも可能である、すなわち1つのプローブが、特定のヌクレオチド部位に生じることが知られた、または生じる疑いのあるそれぞれの突然変異について特異的であってもよい。複数のプローブを用いる分析法は、各々1つのプローブを含む並列の増幅だけでなく、各反応槽が2以上の異なるプローブを含む部分的または全体的に多重化された分析を含む場合がある。
【0013】
本発明による分析キットはプローブおよび増幅プライマーを含んでいる。一般に、プライマーはリポーター・プローブとしての機能は果たさないが、そうしてはならないわけではない。例えば、いわゆる「サソリ(scorpion)」プライマーには、ヘアピンプローブ、または分子ビーコンプローブが結合している。ウィトカム(Whitcombe)ら(1994)「Detection of PCR Products Using Self−Probing Amplicons and Fluorescence」(Nat.Biotechnol.第117巻、p.804−807)。分析キットは、増幅および検出に必要なすべての試薬、少なくとも必要なプライマー、プローブ、重合酵素およびdNTPを含むことが好ましい。分析キットは、他の目的のための、例えば対照オリゴヌクレオチドの増幅のためのプライマーおよびプローブを含む場合もある。キットはさらにサンプル調製試薬を含んでもよい。
【0014】
本発明はまた、少なくとも分析用のプライマーおよびプローブを含んでいるオリゴヌクレオチド・セットを含む。任意選択でそのようなセットに対照オリゴヌクレオチドが含まれていてもよい。
【0015】
本発明の1以上の実施形態の詳細について、添付の図面および以下の説明において述べる。本発明の他の特徴、目的および利点は、該説明および図面から、また特許請求の範囲から明白になるであろう。
【0016】
本願において使用されるように、一定の略語が用いられる。
GSはグルカン・シンターゼの略語である。
Fks1pは、現在β(1−3)−グルカン形成を担うグルカン・シンターゼ複合体の触媒サブユニットとされているFks1タンパク質の略語である。
【0017】
FKS1はFks1pをコードする遺伝子である。
CaFks1pはC.アルビカンスのFks1タンパク質である。
CaFKS1はC.アルビカンスのFKS1遺伝子である。
【0018】
Ser645は、あるアミノ酸(この例ではセリン)と、タンパク質中での該アミノ酸の位置とを指定するための通常の命名法である。CaFks1pでは、セリンはアミノ酸番号645である。
【0019】
S645Pは突然変異を表しており、最初に野生型タンパク質のアミノ酸(この例では「S」、セリン)を;次にそのアミノ酸の位置(この例では「645」で、野生型ではSer645を示す)を;そして最後に突然変異アミノ酸(この例では「P」、プロリン)を示している。
【0020】
T1933Cは、1933位のヌクレオチドにおけるTからCへの遺伝子突然変異を表している。遺伝子CaFKS1では、1933位のヌクレオチドはCaFks1pのSer645をコードするトリプレット内にあり、突然変異によりアミノ酸の変化がもたらされる。
【0021】
SNPは「一塩基多型」の略語である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
真菌のFKS1遺伝子から対応するメッセンジャーRNA(mRNA)が転写され、mRNAが翻訳されて1,3−β−D−グルカン・シンターゼ(GS)サブユニットFks1pとなる。本発明による分析法は、真菌において保存されている2つの短い遺伝子領域のうち一方または両方における突然変異を検出することを目指している。カンジダ属および一部のアスペルギルス属菌種のアミノ酸配列ならびに該アミノ酸配列に対応する遺伝子配列のいずれも周知である。
【0023】
いくつかのCaFKS1配列が利用可能である。増幅プライマーおよびプローブのデザインについて、本発明者らは3つのもの、すなわちGenBank登録番号D88815、F027295およびCA2043を利用した。図1Aおよび1Bはヌクレオチド配列D88815を示す。図2は、CaFks1pのアミノ酸配列を示す。図1Aおよび1Bでは、本発明の分析法の標的に含まれている2つの短いDNA配列に下線が付されている。該配列は、CaFKS1についてはヌクレオチドT1921〜T1947、およびG4069〜G4092に及ぶ。図2では、これに対応するCaFks1pの短いアミノ酸配列に下線が付されている。該配列は、F(Phe)641〜P649、およびD1357〜L1364に及ぶ。
【0024】
様々な真菌におけるFks1タンパク質を生産するアミノ酸の配置については、通常のアラインメントにより位置が示される。図3は、C.アルビカンスおよびS.セレビシエ(S.cervisiae)のアラインメントを示す。線よりも上方には、C.アルビカンスの野生型タンパク質CaFks1pの、アミノ酸641(Phe641)からアミノ酸649(Pro649)までの部分配列がある。この配列は、S.セレビシエのFks1pアミノ酸配列のアミノ酸639(Phe639)〜647(Pro646)に非常によく似ている。線よりも下方には、C.アルビカンスの野生型タンパク質CaFks1pの、アミノ酸1357(Asp1357)からアミノ酸1364(Leu1364)までの部分配列がある。この配列は、S.セレビシエのFks1pアミノ酸配列のアミノ酸1353(Asp1353)〜1360(Leu1360)に非常によく似ている。同様のアラインメントを、他の真菌種のFks1タンパク質について行うこともできる。
【0025】
1生物種の適切なアミノ酸配列について記載すれば、当業者がそのアミノ酸配列に対応する遺伝子配列を知るのには十分であり、その逆も同様である。さらに、1生物種の適切なアミノ酸配列の配置について記載すれば、当業者が他の生物種の対応するアミノ酸配列の配置や、従って対応する遺伝子配列の配置を知るのには十分であり;また、1生物種の適切な遺伝子配列の配置について記載すれば、当業者が他の生物種における遺伝子配列の配置を知り、そこから対応するアミノ酸配列の配置を知るのには十分である。本発明者らは主としてC.アルビカンスおよびC.クルセイを用いて研究してきたので、本明細書中の説明はC.アルビカンスのアミノ酸および遺伝子配列に基づいている。C.アルビカンスのFKS1遺伝子(CaFKS1)の配列はGenBank登録番号D88815である。これに対応するC.アルビカンスのアミノ酸配列(CaFks1p)はGenBank登録番号BAA21535である。他の生物種の配列は:アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、U79728;アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、AACD01000061;カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、CR380953;カンジダ・クルセイ(Candida krusei)、DQ017894;クリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、AAEY01000070;パラコクシジオイデス・ブラジリエンシス(Paracoccidioides brasiliensis)、AF148715;ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、XM327156;ニューモシスティス・カリニ(Pneumocystis carinii)、AF191096;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、U08459;ヤロウィア・リポリテイカ(Yarrowia lipolytica)、CR382131である。
【0026】
本発明の分析法は、図2において下線を付した2つの短いアミノ酸配列に対応する核酸配列、好ましくはDNA塩基配列を対象とする。下線を付した第1の配列に関して、第1の標的配列は、(CaFks1pを基準とすれば)Phe641〜Pro649を最小限として、任意選択で一端または両端に1〜5個、好ましくは1または2個の追加アミノ酸をコードするDNAまたはRNAを含んでいる。下線を付した第2の配列に関して、第2の標的配列は、Asp1357〜Leu1364を最小限として、任意選択で一端または両端に1〜5個、好ましくは1または2個の追加アミノ酸をコードするDNAまたはRNAを含んでいる。
【0027】
本発明による分析法は、第1の標的配列を含む第1の核酸領域の増幅を含んでいる。本発明による好ましい分析法は、第2の標的配列を含む第2の核酸領域の増幅も含んでいる。第1の領域および第2の領域の両方を、両領域にかかる1組のプライマー対を使用して増幅することができる。別例として、2対のプライマー、すなわち第1の領域にかかる第1のプライマー対および第2の領域にかかる第2のプライマー対を利用してもよい。特に、標的配列中の突然変異を検出するために塩基配列決定法を利用することになっている場合、本発明者らはより短いアンプリコンを、従って2組のプライマー対の利用を選択する。上に示されるように、本発明の分析法は特定の増幅法に限定されない。実施例に反映されているように、本発明者らは現在までポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅法を利用して検討してきたが、他の方法を使用してもよい。
【0028】
標的配列中の突然変異は塩基配列決定法によって検出することができる。実施例に反映されているように、本発明者らはサイクルシーケンシングを利用したが、他の塩基配列決定法が使用されてもよい。標的配列中の突然変異の検出は、分析法において野生型の標的配列と突然変異を含む配列とを識別するハイブリダイゼーションプローブを利用することによってなされてもよい。ハイブリダイゼーションプローブは、DNAでもRNAでもよいし、またはこの2つの組み合わせでもよい。ハイブリダイゼーションプローブは、非天然ヌクレオチド例えば2’O−メチルリボヌクレオチドを含んでもよい。該プローブは、非天然のヌクレオチド間結合、例えばホスホロチオエート結合を含んでもよい。該プローブはPNAであってもよい。本発明の分析法に有用なハイブリダイゼーションプローブには、標的配列の対立遺伝子にハイブリダイズすると検出可能なシグナルを生じるプローブが挙げられる。好ましいプローブは蛍光標識され、検出可能な蛍光シグナルを生じる。ハイブリダイゼーションプローブを使用する検出は、終点検出(すなわち増幅完了後の検出)とすることができる。本発明の好ましいプローブ分析法は、均一系の分析法、すなわち、結合していないプローブから結合したプローブを分離する必要のない分析法である。より好ましい均一系の分析法には、リアルタイム検出(最も好ましくはリアルタイム蛍光検出)、すなわち増幅の間に複数回検出する方法がある。リアルタイム増幅分析法については、本発明者らは、2重蛍光標識プローブ、最も好ましくは、フルオロフォアと、さらに4−(4’−ジメチルアミノ−フェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)のような非蛍光性の消光剤とで標識されたプローブがよいと考える。
【0029】
任意の適切なプローブ系探査方法をリアルタイム分析に利用可能であり、該方法には、二本鎖DNAの存在下で蛍光を発するSYBR色素のようなDNA蛍光色素と組み合わせてハイブリダイゼーションプローブを利用する方法がある。例えば、SYBRグリーン色素を増幅の検出に使用し、対立遺伝子を識別可能な蛍光ハイブリダイゼーションプローブを、野生型の標的配列の増幅を検出するために、ホモ接合の野生型の標的、突然変異型と野生型とのヘテロ接合の標的、またはホモ接合の突然変異型の標的の存在を示すプローブ蛍光の傾きと共に使用することができる。別の手法は、増幅された標的配列(野生型または突然変異型)の一方の鎖を検出するための、ミスマッチを許容するプローブと、標的配列が突然変異しているかどうか判断するための、対立遺伝子特異的なプローブまたは他方の鎖にハイブリダイズ可能なプローブとを利用することであろう。別例として、実施例で実証されているように、野生型の標的配列および特定の突然変異の存在を示すために複数のプローブを利用することもできる。本発明者らは、カスポファンギン感受性の低下をもたらすいくつかの突然変異を第1および第2の標的配列中に同定した。第1の標的配列では、該突然変異は(CaFKS1を基準にすると)T1921C、T1922C、G1932T、T1933C、C1934A、C1934T、C1934G、G1942TおよびC1946Aである。第2の標的配列では、該突然変異は(CaFKS1を基準にすると)C4081GおよびG4082Aである。
【0030】
突然変異の分析およびSNP遺伝子型決定のための多種多様な分子レベルの方法が利用可能である。なかでも、自己報告性の分子ビーコンプローブを用いて検出されるリアルタイムPCRは、強力な手法の代表である。分子ビーコンプローブは、そのヘアピン構造に起因して、分子内ハイブリダイゼーションと分子間ハイブリダイゼーションとの間で熱力学的に調節された平衡状態から、非常に近似した標的配列を、対応する直線状プローブに比べてより特異的にかつより広い温度範囲で識別するように設計することが可能である。分子ビーコンの識別力は、抗生物質耐性をもたらす突然変異の分析、対立遺伝子の区別、ホモ接合型およびヘテロ接合型のSNP、ならびに他の数多くの用途に適用されて成功している。
【0031】
分子ビーコンプローブの選択性は、カスポファンギンに対する感受性の低下をもたらすCaFKS1対立遺伝子の分析に有用であった。本発明者らが「HS1」配列と呼ぶ第1の標的配列についての分析法は、CaFKS1のコドン645の突然変異T1933C、C1934AおよびC1934Tに注目したものであり、該突然変異は、カスポファンギンに対する感受性の低下を示すC.アルビカンス臨床分離株を用いて同定されたものである。標的領域中の耐性対立遺伝子を検出するための対立遺伝子特異的プローブの設計は、この領域内にSNP(T1929A)があるという事実によって複雑になった。多くの臨床分離株に出現するこのSNPに対応するために、SNPに相当する部位に揺らぎ塩基を用いてプローブを設計した。所与の条件下ではプローブ分子プールの半分だけが相補的な標的DNAに結合するので、プローブへの揺らぎ塩基の導入により蛍光の全体的な出力は減少した。しかしながら、そのようなプローブはCaFKS1中にT1929A SNPが存在するか否かにかかわらずC.アルビカンス集団全体との反応性を有するため、縮重プローブの高い融通性から得るものは、絶対的な蛍光強度の損失よりもはるかに大きかった。
【0032】
CaFKS1の1つの野生型対立遺伝子および3つの突然変異型対立遺伝子に対応する4つの縮重分子ビーコンを合成し、4つのプローブはすべて、ほとんどの標的について一致シグナルとミスマッチシグナルとの比が100%近い優れた識別特性を示した。相補的なDNA標的との特異的ハイブリダイゼーションだけが4つのプローブすべてについて観察された。唯一の例外は、分子ビーコンCaFKS1−WTとT1922C対立遺伝子を含む鋳型との軽微なハイブリダイゼーションであった。この結果は、該ミスマッチのプローブ領域内での位置が外側寄りであることと、比較的安定したDNA−DNAミスマッチ対合であることが知られているT・Gミスマッチを形成するエネルギー論とよって説明することができる。対立遺伝子のヘテロ接合の場合には、分子ビーコンプローブ(野生型および突然変異型の配列を認識する)により、ホモ接合の鋳型と比較して2分の1の大きさの蛍光シグナルが生じた。
【0033】
カスポファンギンに対する感受性が低下した突然変異体の生成はまれな事象であり、生細胞当たり突然変異体<10−8の突然変異頻度に一致していた。耐性変異の形成にはカスポファンギン含有固形培地上でのインキュベーションを延長する必要があり(>7日)、そこで残余の細胞増殖が生じた。本発明者らは、薬物に曝露する前にC.アルビカンス培養物中にカスポファンギン耐性細胞を観察したことがない。対立遺伝子特異的な分子ビーコンにより、2つの異なる菌株由来の85個の自然発生した感受性低下突然変異体を分析した。CAI4株の分離株35種で見つかった突然変異は、すでに述べたSer645のコドンに影響する置換と同一であった。そのような突然変異はまた、M70株のカスポファンギン耐性誘導株50種の大多数を占めていた。3つの新しい突然変異、すなわちPhe641、Leu644およびSer645のコドンに影響を及ぼすT1922C、G1932T、C1934Gが、M70由来の自然発生した突然変異体のうち6株において検出された。これらの結果は、カスポファンギンに対する感受性が低下したC.アルビカンスの実験室株および臨床株についての最近の突然変異分析と一致している。大多数のヌクレオチド置換はCaFKS1のコドン645で見つかった。CaFKS1の他の部位で新しく発見された突然変異は唯一M70株の子孫で見つかり、その相対頻度は12%以下であった。
【0034】
全体として、個々の分子ビーコンの適用により、カスポファンギン耐性誘導株85種すべての遺伝子型を決定することができた。分子ビーコンが標的とした3つの対立遺伝子は79株中に正確に同定され、DNA塩基配列分析によって確認された。6株中の、分子ビーコンが標的としなかった3つの新しい突然変異も、DNA塩基配列分析によって確認した。1つの反応において4つの分子ビーコンすべてを多重使用することにより、CaFKS1の第1の標的配列中のカスポファンギン耐性突然変異を検出する普遍的な閉管分析法がもたらされた。そのような分析法では、FAMシグナルにより野生型CaFKS1対立遺伝子の存在が示され、HEX蛍光からはDNAサンプル中にT1933C、C1934AまたはC1934TのCaFKS1突然変異のうち1つが存在することが報告された。上記3つの突然変異のうちいずれかについてヘテロ接合のC.アルビカンス株から抽出されたDNAは、FAMシグナルおよびHEXシグナルの両方を生じた。したがって、該分析法により、ホモ接合型およびヘテロ接合型のいずれの状態でも、カスポファンギン感受性を低下させるC.アルビカンスCaFKS1遺伝子中の既知突然変異を確実に検出することが可能となった。該分析法はまた、薬物感受性に影響を及ぼす可能性のある領域中の他の突然変異を同定するのに十分な感度であった。
【0035】
上述のように、本発明者らは、カスポファンギン感受性の低下に関連した突然変異がCaFKS1中の短い保存領域にマッピングされることを示した。最も顕著な部位はSer645であって置換S645P、S645Y、S645Fを含み、これらの置換はC.アルビカンスの実験室株および臨床分離株のいずれにおいても見出された。該突然変異は優性のようであり、ヘテロ接合およびホモ接合のいずれの状態においても高レベルのカスポファンギン耐性をもたらした。そのような突然変異を標的とする診断プローブは、C.アルビカンスにおいてカスポファンギン耐性を検査するための迅速かつ正確なツールを提供することができる。
【0036】
FKS1突然変異の分析に基づいたカスポファンギン耐性の迅速な診断法は、単一ヌクレオチドの違いを有するヘテロ接合およびホモ接合の対立遺伝子を識別する能力を有すると共に、そのような対立遺伝子を多重形式で同時に検出する能力を有していなければならない。分子ビーコン技術は、対立遺伝子の識別および多重検出の両方について優れた技術の代表である。
【0037】
カスポファンギンに対する感受性が低下した50を超えるC.アルビカンス臨床分離株および実験室分離株についてCaFKS1のDNA塩基配列を分析したところ、それぞれアミノ酸の変異S645P、S645YおよびS645Fをもたらす3つの突然変異、T1933C、C1934AおよびC1934Tが明らかとなった。これらのヌクレオチド置換に加えて、配列決定データのアラインメントから、この領域内の別の可変ポイントが示された。分析したすべてのC.アルビカンス株の約25%において、カンジダ・アルビカンスゲノム配列プロジェクトの一部としてSC5314株でも報告された単一ヌクレオチドの同義的置換T1929Aが観察された。この所見は、該置換が、この領域をカバーしている対立遺伝子特異的プローブによる識別に必要なプローブとアンプリコンとのハイブリダイゼーションを変化させる可能性を有するので、重要である。CaFKS1配列のコンセンサスデータに基づいて、本発明者らは、ヌクレオチド1920〜1944をカバーする4つの対立遺伝子特異的分子ビーコンプローブを設計した。この作業については実施例で詳細に報告する。1つのプローブは、カスポファンギン感受性のC.アルビカンス株に見出される野生型(WT)CaFKS1対立遺伝子に相補的であり、3つのプローブについては、カスポファンギン耐性の分離株中に認められた突然変異型のCaFKS1対立遺伝子(C1934A、C1934T、T1933C)に相補的とした。ビーコンはすべて同一の6ヌクレオチド長のステム領域5’CGCGAGおよびCTCGCG3’を有し、標的配列に対して確実にアラインするように、CaFKS1の1929位のSNPに対応する部位に揺らぎ塩基A/T(50:50)を用いて合成した。野生型分子ビーコンCaFKS1−WTは5’端をFAMで標識し、3つの突然変異型ビーコンは5’端をHEXで標識した。すべての分子ビーコンは3’端にDABCYL消光剤修飾を有するものとした。プライマーおよびプローブの設計の詳細については実施例3で述べる。該プローブ用の識別温度枠については実施例4で述べる。検出はこの枠内で実施した。
【0038】
C.アルビカンスCAI4株およびM70株の自然発生のカスポファンギン耐性突然変異を、4μg/ml(MICの40倍)のカスポファンギンを含んだ固体増殖培地での直接選択によって分離した。自然発生のカスポファンギン耐性誘導株の形成頻度は、いずれの株についても生細胞当たりの突然変異体が<10−8であった。いずれの菌株についても、カスポファンギンを含むプレート上で数少ない収縮した成長の遅いコロニーの形成が観察された。このコロニーを、同量のカスポファンギンを含んだ新鮮なプレート上に画線接種したが、増殖しなかった。インキュベーションを10日以上延長した後、小さな収縮したコロニーのごく一部から成長の速い滑らかな誘導体が生じ、該誘導体は再接種後にカスポファンギン含有培地上で増殖可能であった。個々のプレート/培養当たりそのような誘導体を1つだけ保存し、詳しい分析のために使用した。合計では、カスポファンギンに対する感受性が低下した分離株が、CAI4株およびM70株についてそれぞれ35株および50株分離された。インビトロでのカスポファンギン感受性試験から、すべての実験室誘導分離株についてカスポファンギン濃度>16μg/mlの高いMIC値が明らかとなった。分離手順の詳細については実施例2において述べる。
【0039】
CAI4株およびM70株のCaFKS1遺伝子の予備的な塩基配列決定(実施例2を参照)から、CAI4のCaFKS1遺伝子中にはT1929A SNPが存在し、M70には存在しないことが明らかになった。親株のCAI4およびM70ならびに前記菌株のカスポファンギン耐性誘導株から染色体DNAを抽出し、鋳型としてCaFKS1分子ビーコンとともにリアルタイムPCR実験に使用した。図4は、野生型および変異型両方の様々な標的のヌクレオチド配列と、利用したプライマーおよび分子ビーコンプローブを示している。図4では、プローブのプローブ領域および標的鎖の標的配列に下線が付されている。プローブおよび標的配列中の、CaFKS1のHS1領域中の突然変異に対応する塩基は、太字体になっている。Wで示された塩基の位置は、その位置がAまたはTであるという点だけが異なる2種の縮重分子ビーコンの等モル混合物を示す。染色体DNAサンプルをそれぞれ、感受性の低下した異なる対立遺伝子を示す個々の分子ビーコンプローブを用いた4つの別個のPCR反応に供した。リアルタイムPCRのプロトコールは実施例5に記載されている。すべての反応についてアニーリング温度を61℃とすることにより、異なるCaFKS1対立遺伝子同士を良好に識別することが可能であった(実施例4を参照)。突然変異型のCaFKS1対立遺伝子はCAI4株のカスポファンギン耐性誘導株35種すべてについて見出された。その大多数(分離株20種)はヘテロ接合の突然変異wt/T1933Cを有し、15種の突然変異体がホモ接合の突然変異T1933C、C1934AまたはC1934Tを含んでいた。T1933Cのヘテロ接合の場合には、分子ビーコンCaFKS1−WTおよびCaFKS1−T1933Cからの同程度の2つのシグナルが生じた(図5)。図5は、個々の分子ビーコンおよびDNA標的を用いた4つの別個のPCRの結果である。
【0040】
【化1】

は、CaFKS1−T1933Cビーコン+ホモ接合のT1933C突然変異を備えたCaFKS1対立遺伝子のDNA:
【0041】
【化2】

は、CaFKS1−WTビーコン+ホモ接合のT1933C突然変異を備えたCaFKS1対立遺伝子のDNA:
【0042】
【化3】

は、CaFKS1−T1933Cビーコン+ヘテロ接合のT1933C突然変異を備えたCaFKS1対立遺伝子のDNA:
【0043】
【化4】

は、CaFKS1−WTビーコン+ヘテロ接合のT1933C突然変異を備えたCaFKS1対立遺伝子のDNAである。
【0044】
図6A−6Dは、4つの分子ビーコンCaFKS1−WT(図6A)、CaFKS1−T1933C(図6B)、CaFKS1−C1934A(図6C)およびCaFKS1−C1934T(図6D)による、10種のCaFKS1ホモ接合型対立遺伝子の識別を示す。各プロットは、突然変異を有する個々の対立遺伝子DNA、すなわち
【0045】
【化5】

は野生型(突然変異もSNPも無し):
【0046】
【化6】

はT1933C:
【0047】
【化7】

はC1934A:
【0048】
【化8】

はC1934T:
【0049】
【化9】

はT1929A SNP:
【0050】
【化10】

はT1933C+T1929A SNP:
【0051】
【化11】

はC1934A+T1929A SNP:
【0052】
【化12】

はC1934T+T1929A SNP:
【0053】
【化13】

はT1922C:
【0054】
【化14】

はG1932T+C1934G:
【0055】
【化15】

はブランク(DNA無し)、を用いた11通りの個々のPCRの結果をまとめたものである。
【0056】
ホモ接合のCaFKS1突然変異を有するDNAサンプルは、対応する突然変異型分子ビーコンからの明瞭な応答を生じ、CaFKS1−WTからのシグナルは生じなかった(図6B−6D)。反対に、親株CAI4からの染色体DNAはCaFKS1−WTプローブのみと反応し、蛍光は突然変異型ビーコンからは検出されなかった(図6A)。
【0057】
菌株M70のカスポファンギン耐性誘導株のCaFKS1対立遺伝子について遺伝子型を決定すると、50サンプルのうち44サンプル中で既知の突然変異T1933C、C1934AまたはC1934Tが明らかとなった。CAI4突然変異体の場合のように、M70誘導株の大多数はヘテロ接合型の突然変異T1933Cとなっていた。感受性の低下した50株のうち25株が1コピーのCaFKS1にT1933C置換を有することが分かった。ヘテロ接合の突然変異C1934AおよびC1934Tは6菌株に検出された。ヘテロ接合の突然変異T1933C、C1934AまたはC1934Tを有するDNAサンプルに関するすべてのリアルタイムPCRにおいて、CaFKS1−WT分子ビーコンと、3つの突然変異型分子ビーコンCaFKS1−T1933C、CaFKS1−C1934AまたはCaFKS1−C1934Tのうちの1つとに由来する2種類の蛍光シグナルが生じた。CaFKS1の1933位および1934位におけるヘテロ接合の突然変異とは別に、これらの部位におけるホモ接合の置換も13菌株で検出された。これらは対応する突然変異型分子ビーコンCaFKS1−T1933C、CaFKS1−C1934AまたはCaFKS1−C1934Tを用いた特異的ハイブリダイゼーションによって同定された(図6B−6D)。
【0058】
50菌株のうち6菌株では、染色体DNAのPCR増幅が野生型分子ビーコンによって弱く検出されただけで突然変異型分子ビーコンでは全く検出されず(5菌株)、また1菌株は野生型および突然変異型のいずれの分子ビーコンによっても検出されなかった。プローブの対立遺伝子特異性を考えると、これらのデータは鋳型の配列に未知の変化が生じたことを示唆するものである。
【0059】
リアルタイムPCRの結果を確認し、かつ6つのM70誘導株の未決着の問題を明確にするために、すべてのカスポファンギン耐性のCAI4菌株およびM70菌株のCaFKS1に関するDNA塩基配列決定を用いた。35種のCAI4誘導株および44種のM70誘導株すべてについて、リアルタイムPCRの結果と塩基配列決定の結果との間に100%の相関が見出された。分子ビーコンCaFKS1−T1933C、CaFKS1−C1934AまたはCaFKS1−C1934TとのハイブリダイゼーションによってリアルタイムPCR実験においてCaFKS1の1933位および1934位に検出されたヘテロ接合およびホモ接合の突然変異はすべて、DNA塩基配列決定によって確認された。新しいホモ接合型突然変異T1922Cの存在は、リアルタイムPCR実験で曖昧な結果を示した5つのM70誘導株のCaFKS1遺伝子で見つかった。さらに、DNA塩基配列決定から、リアルタイムPCRではいかなる蛍光応答も生じなかったカスポファンギン耐性M70誘導株1株のCaFKS1遺伝子中に、2つの新しいホモ接合型突然変異G1932TおよびC1934Gが明らかとなった。予想通り、CAI4株の誘導株はすべてT1929A SNPを有し、M70株の誘導株は該SNPを欠いていたが、このことは塩基配列決定から明らかとなった。
【0060】
CaFKS1分子ビーコンを別個に適用することにより、C.アルビカンスのCaFKS1遺伝子中の3つの既知の突然変異について遺伝子型決定が可能であった。本発明者らはさらに、所与のDNAサンプル中のそのような突然変異を同時に評価するのに適した多重リアルタイムPCR形式において、4つの縮重CaFKS1分子ビーコンすべてを併用する可能性について調査した。実施例5を参照されたい。本発明者らは、野生型と突然変異型とで異なるフルオロフォアで標識した4つのCaFKS1分子ビーコンすべてを一緒に合わせて、個々のPCRに添加する総合プローブ混合物とした。野生型のCAI4株およびM70株、ならびに前記菌株の、12の異なるCaFKS1遺伝子型を表わす12のカスポファンギン耐性誘導株の染色体DNAを、鋳型として多重リアルタイムPCRに使用した。多重リアルタイムPCR実験の条件は、アニーリング温度が60℃であることを唯一の例外として、個々の分子ビーコンを用いたリアルタイムPCRの条件と同一とした。野生型分子ビーコンCaFKS1−WTはFAMで標識し、突然変異型分子ビーコンCaFKS1−T1933C、CaFKS1−C1934AまたはCaFKS1−C1934Tは、HEXで標識した。これらのプローブを使用して、蛍光出力の性質によりカスポファンギン感受性菌株およびカスポファンギン耐性菌株を同定することができた。
【0061】
図7は、CaFKS1突然変異の多重リアルタイムPCR分析について、ストラタジーン(Stratagene)MX4000ソフトウェアのグラフィック出力を例証している。上側の半円はFAMシグナルが観察されると強調表示されて野生型CaFKS1 DNAの存在を報告する。下側の半円はHEXシグナルが観察されると強調表示されて、CaFKS1 DNA中に3つの記載の突然変異のうちいずれかが存在することを報告する。ホモ接合型のCaFKS1対立遺伝子はFAMまたはHEXシグナルのいずれか一方を生じ、ヘテロ接合型のCaFKS1対立遺伝子はFAMおよびHEXシグナルを両方生じる。
【0062】
感受性のCAI4株およびM70株由来のDNAが多重リアルタイムPCRに供されると、FAM蛍光だけが観察された。CaFKS1中にホモ接合型の突然変異T1933C、C1934AまたはC1934Tを有するDNAを用いた多重リアルタイムPCRではHEX蛍光だけが報告された(図7)。分析されたDNAが、CaFKS1遺伝子中にヘテロ接合の突然変異T1933C、C1934AまたはC1934Tを有することが知られた菌株に由来する場合、FAMおよびHEXシグナルの両方が同程度検出された(図7)。CaFKS1に2つの新しい突然変異G1932TおよびC1934Gを有する菌株由来の染色体DNAを用いた多重リアルタイムPCRでは、FAMまたはHEXいずれの蛍光も生じなかった。ホモ接合型の突然変異T1922Cを含んでいる菌株由来の染色体DNAを用いた反応では軽微なFAMシグナルが観察された。
【0063】
本発明者らはまた、本発明者らが「HS2」と呼ぶ第2の標的領域のために、特に1つの突然変異G4082Aについて、プライマーおよびプローブを設計した。これは実施例6において報告する。第2の標的部位を含む分析法を設計する際には、突然変異C4081Gまたはその他のそのような突然変異について同様に突然変異型プローブを設計することが可能であり、設計は別個に為されてもよいし、あるいはHS2について、またはHS1およびHS2について、前述の実施例のように多重化されてもよい。
【実施例1】
【0064】
突然変異の同定のための、適切なCaFKS1遺伝子フラグメントの核酸増幅とサイクルシーケンシングとの併用について、4つの異なる菌株を利用して実証した。CaFKS1のフラグメント(約450bp)を、菌株CAI4−R1、NR2、NR3およびNR4由来のゲノムDNAから増幅させた。CaFKS1の配列(GenBank登録番号D88815)に基づいた、PCRに使用したセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーは、それぞれ5’−GAAATCGGCATATGCTGTGTC−3’および5’−AATGAACGACCAATGGAGAAG−3’であった。PCR生成物をpCR2.1(インビトロジェン(Invitrogen))にクローニングし、DNA塩基配列を決定した。カンジダ属の臨床分離株については、5’−CATTGCTGTGGCCACTTTAG−3’および5’−GGTCAAATCAGTGAAAACCG−3’をそれぞれ順方向プライマーおよび逆方向プライマーとして用いて、DNA塩基配列分析用にCaFKS1 ORFの大きな一部分(約2.6kb)を増幅させた。上述のCaFKS1の第1の標的領域(コーディングヌクレオチド1921−1947に相当)に加えて、このフラグメントは第2の標的ヌクレオチド4069−4092を含んでいる。PCR生成物を精製し、蛍光標識法(PicoGreen(登録商標)、モレキュラープローブス(Molecular Probes))によって定量し、DTCSクイック・スタート・キット(ベックマン・コールター(Beckman Coulter))を使用して5’方向および3’方向の両方について塩基配列を決定した。
【実施例2】
【0065】
核酸増幅およびサイクルシーケンシングを使用するDNA塩基配列分析は、それ自体分析技術としても、またプローブ系分析法を評価するための対照としても使用することができる。
【0066】
C.アルビカンスの染色体DNAを、Q‐バイオジーン(Q‐Biogene)FastDNAキット(米国カリフォルニア州アーバイン所在のQ‐バイオジーン)を用いて、液体YPD培地中で一晩増殖させた細胞から抽出した。PCR実験は、iCyclerサーモサイクラー(米国カリフォルニア州ハーキュリーズ所在のバイオ・ラッド・ラボラトリーズ(Bio‐Rad Laboratories))で実施した。CaFKS1のHS1と名付けた領域を、プライマーCaFKS1−F1719およびCaFKS1−R2212(図4)を使用して増幅させた。各100μlのPCR反応物には、0.25μMの各プライマー、2.5UのiTaq(TM)DNAポリメラーゼ(米国カリフォルニア州ハーキュリーズ所在のバイオ・ラッド・ラボラトリーズ)、0.5mMのdNTP、50mMのKCl、4mMのMgCl、20mMのトリス−HCl、pH=8.4および約50ngのC.アルビカンス染色体DNAを含めた。サイクル反応条件は、95℃で3分を1サイクル、95℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分を35サイクル、72℃で3分を1サイクルとした。PCR生成物を、MontagePCR精製キット(米国マサチューセッツ州ベッドフォード所在のミリポア(Millipore))を使用して精製した。塩基配列決定のためのPCR生成物を、CEQ(TM)ダイターミネーター・サイクルシーケンシング−クイック・スタート・キット(米国カリフォルニア州フラートン所在のベックマン・コールター)を使用して、製造業者の推奨に従ってiCyclerサーマルサイクラーで入手および精製した。塩基配列決定反応にはプライマーCaFKS1−F1719またはCaFKS1−R2212を使用した。塩基配列決定のPCRのサイクル反応条件は、95℃で3分を1サイクル、96℃で20秒、50℃で20秒、60℃で1分を30サイクルとした。DNAの塩基配列決定はすべてCEQ(TM)8000遺伝子分析システム(Genetic Analysis System)(米国カリフォルニア州フラートン所在のベックマン・コールター)で実施した。CEQ(TM)8000遺伝子分析システムソフトウェア(米国カリフォルニア州フラートン所在のベックマン・コールター)を、ハードウェアの制御ならびに実施後の配列決定結果の分析に使用した。
【0067】
C.アルビカンス菌株CAI4はATCC(米国バージニア州マナッサス所在のATCC)から購入した。C.アルビカンス菌株M70はメルクカルチャーコレクション(米国ニュージャージー州ローウェイ所在のMRL)から得た。菌株は、酵母抽出物−ペプトン−デキストロース(YPD)培地(1%酵母抽出物、2%バクトペプトン、2%デキストロース)で増殖させた。菌株CAI4の増殖用には;YPD培地にウリジン(米国ミズーリ州セントルイス所在のシグマ・アルドリッチ(Sigma‐Aldrich))を補足して25mg/mlとした。カスポファンギン(米国ニュージャージー州ローウェイ所在のメルク(Merck))は、直接YPDに添加して4μg/mlとした。寒天プレートは30℃でインキュベートし、液体培養物は、30℃で回転振盪機(100rpm)にて3mlのYPDを含む12mlの培養試験管中で増殖させた。カスポファンギンに対する感受性は、NCCLS文書M27−A2に概説されているようにして、RPMI−1640培地(米国ミズーリ州セントルイス所在のシグマ・アルドリッチ)における液体マイクロブロス希釈法で評価した。
【0068】
C.アルビカンス菌株CAI4およびM70の自然発生的なカスポファンギン耐性突然変異体は、4μg/mlのカスポファンギンを含んだYPDプレート上に液体YPDでの18時間培養物100μl(細胞〜10個)を播種することにより分離した。開始時のコロニー数を正確に測定するために、前記終夜培養物の系列希釈物を、抗生物質による選択のないYPDプレート上に播種した。選択プレートを30℃で10−14日間インキュベートした。各選択プレートから、薬物に対して耐性の少なくとも4つの個別のコロニーを、新鮮なカスポファンギン含有プレート上に再度播種して耐性の表現型を確認した。
【実施例3】
【0069】
報告されているCaFKS1の3つのDNA塩基配列であるGenBank登録番号D88815およびAF027295およびCA2043を、FKS1の分子ビーコンおよびプライマーの設計に使用した。分析用プライマーおよびプローブの設計は当技術分野において周知である。研究者を支援する多数の出版物が利用可能である。さらに、作業を早め、かつ試行錯誤によって行われる必要のある調整を縮小するために、コンピューター・ソフトウェア・パッケージを利用可能である(実施例4を参照)。本発明者らはそのようなソフトウェア・パッケージを使用した。分子ビーコンおよびDNAプライマー(図4)を、Beacon Designer3.0ソフトウェア(米国カリフォルニア州パロアルト所在のプレミア・バイオソフト(PREMIER Biosoft))を使用して設計した。ソフトウェアのパラメータ既定値をすべての分子ビーコンおよびプライマーの構築に適用した。分子ビーコンは、5’端をフルオロフォアである5−カルボキシフルオレセイン(FAM)および6−カルボキシ−2’,4,4’,5’,7,7’−ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)で、また3’端をダブシルで標識した。分子ビーコンおよびプライマーのいずれもバイオサーチ・テクノロジーズ(Biosearch Technologies)(米国カリフォルニア州ノヴァト所在のバイオサーチ・テクノロジーズ)から購入した。CaFKS1対立遺伝子に特異的な分子ビーコンのハイブリダイゼーション特性を、一本鎖の標的オリゴヌクレオチドを用いて十分な温度範囲(25℃〜95℃)について試験した(図4)。分子ビーコンと標的とのハイブリダイゼーションは、ストラタジーンMX4000定量的多重PCRシステム(米国カリフォルニア州ラ・ホーヤ所在のストラタジーン)で実施した。データのモニタリングおよび分析のためにMX4000ソフトウェア中から「分子ビーコン融解曲線」実験タイプを選択した。各50μlのハイブリダイゼーション反応液には、1×ストラタジーン・コアPCRバッファー、4mMのMgCl、個々の標的オリゴヌクレオチド100pmol、および5pmolの分子ビーコンを含めた。実験の温度条件は、95℃で3分間加熱することと、80℃に冷却した後で温度勾配を−0.5℃とした30秒間のステップ112回で25℃まで冷却することと、からなるものとした。個々の反応についての蛍光出力を冷却ステップの最後に計測した。「分子ビーコン融解曲線」実験の最終データを、「SYBRグリーン(解離曲線あり)」タイプの実験に変換した。分子ビーコン−標的対それぞれの融解温度(T)は、蛍光出力の一次導関数−R’(T)の最大値に対応する温度ポイントとしてMX4000ソフトウェアによって決定された。温度プロファイル分析実験はそれぞれ3連で実施した。
【実施例4】
【0070】
核酸ハイブリダイゼーションプローブが2つまたはそれ以上の対立遺伝子を識別する能力は温度に依存する;すなわち、あるプローブが標的と1ヌクレオチド異なる配列を70℃で識別する場合、該プローブは恐らく40℃ではミスマッチな標的に結合し、そのような低い温度では識別しないだろう。
【0071】
本発明者らは、プローブ設計および分析法設計の一部として、プローブの対立遺伝子識別能力を分析した。ハイブリダイゼーション・プロファイルを、野生型CaFKS1対立遺伝子と、1933位および1934位にカスポファンギン耐性突然変異、ならびに1929位にSNPを有する様々なCaFKS1対立遺伝子とに相当する8つのDNAオリゴヌクレオチド鋳型に対する分子ビーコンプローブについて決定した(図4)。図4に「標的」として記載されたオリゴヌクレオチドを、プローブの融解曲線分析に使用した。いくつかの標的配列では、記載のように下線部分が1つのプローブに相補的であり、融解曲線分析の際の二次構造の形成を低減するために末端にはアデノシンの繰り返しを付加した。最初に、各々の分子ビーコンプローブのハイブリダイゼーションについて、プローブ領域の配列に相補的で、1929位のSNPに相当するヌクレオチド塩基が異なる2つのDNA標的を用いて評価した。縮重分子ビーコンプローブはそれぞれ、そのようなDNA標的とともに2種類の分子間ハイブリッドを形成した。安定なハイブリッドは、標的オリゴヌクレオチドと、分子ビーコンのうちの相補配列を有する部分集団とにより形成された。1929位に単一のミスマッチヌクレオチドを有する別の部分集団の分子ビーコンプローブは、同じDNA標的とともにより安定性の低いハイブリッドを形成した。結果として、蛍光出力の一次導関数(−R’(T))として表わされる上記混合プローブの融解曲線は、より安定な分子ビーコン−標的ハイブリッドおよび安定性の低い分子ビーコン−標的ハイブリッドのTに対応する2つの別個のピークを示した。次に、本発明者らは、各分子ビーコンと非相補的なDNAオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションを調査した(図4)。そのようなミスマッチを有するハイブリッドは一般に相補体よりも安定性は低かったが、分子ビーコンの縮重により2つのハイブリッド部分集団について同じ傾向が生じた。比較的安定性の高い分子間ハイブリッドは、標的オリゴヌクレオチドと単一ミスマッチを有するビーコン部分集団とによって形成され、安定性の低いハイブリッドは、オリゴヌクレオチドと二重にミスマッチを有するビーコン部分集団とで構成された。縮重分子ビーコンと標的オリゴヌクレオチドとの8対それぞれについて得られた2つのT値のうち、ミスマッチが無いかまたは1つである安定性の高いビーコン−標的ハイブリッドに対応する高いほうのT値のみを取り入れた。CaFKS1分子ビーコンと該ビーコンに相補的なDNA標的とに関するT値は互いにかなり接近しており、温度範囲62.7〜64.0℃に入った。同様に、対応する識別ウィンドウは類似の温度域を占める。このような均一性は、個々のビーコンについてプローブ領域配列の長さを変えることにより達成された。分子ビーコンCaFKS1−WT、CaFKS1−T1933C、CaFKS1−C1934AおよびCaFKS1−C1934Tは、それぞれ24、23、25および25ヌクレオチド長のプローブ領域を有するものであった。
【実施例5】
【0072】
増幅のリアルタイム分析を図4に記載のプライマーおよびプローブについて実証した。該分析は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるDNA増幅を、分子ビーコンプローブを利用するリアルタイム検出とともに含むものとした。
【0073】
個々の単一プローブ(図4)を使用する分析については、手順を以下のとおりとした。リアルタイムPCR実験は、ストラタジーンMx4000定量的多重PCRシステムにおいて、設定を「定量的PCR(多重標準)[Quantitative PCR (Multiple Standards)]」として実施した。Brilliant(登録商標)QPCRコア試薬キット(米国カリフォルニア州ラ・ホーヤ所在のストラタジーン)の試薬をすべての反応に使用した。50μlのPCR反応液にはそれぞれ1×ストラタジーン・コアPCRバッファー、0.2μMの分子ビーコン、各々0.25μMのHS1AN2プライマーおよびHS1SN2プライマー(図4)、2.5UのSureStart(登録商標)Taq DNAポリメラーゼ(米国カリフォルニア州ラ・ホーヤ所在のストラタジーン)、0.4mMのdNTP、4mM MgClおよび約50ngのC.アルビカンス染色体DNAを含めた。多重PCR実験では、4つの分子ビーコン(図4)の各々の濃度を0.2μMとした。リアルタイムPCRサーマルサイクラーのパラメータを:95℃で10分を1サイクル、95℃で30秒、61℃で30秒、および72℃で30秒を45サイクルとした。PCR実験を多重形式で実施する場合は、60℃のアニーリング温度を使用した。Mx4000システムのフィルタゲインセットを、様々な分子ビーコンからの蛍光シグナルの大きさを均等化する目的でFAM−960 HEX−720に変更した。蛍光をアニーリング・ステップの間に3回計測した。
【0074】
PCR増幅の間にストラタジーンMx4000システムから生じる蛍光シグナルを、Mx4000ソフトウェアを使用してリアルタイムでモニターした。各実行の終わりに、増幅のプロットデータをグラフ形式に変換し、画像ファイルとして保存するかまたはMicrosoft(登録商標)Office Excelへエクスポートして表計算ファイルとして保存した。多重PCR反応の場合には、PCR増幅の最終的な結果を「定量的PCR(多重標準)」タイプの実験から「定量的プレート読出(Quantitative Plate Read)」タイプの実験に変換した。個々のフルオロフォアに関する蛍光の変化の合計(Rpost−Rpre)を分析値として得た。結果をグラフ形式または数値形式に変換し、画像または表計算ファイルとして保存した。
【0075】
多重分析については、本発明者らは上述のPCR増幅を利用し、ただし熱サイクル反応のアニーリング温度を61℃ではなく60℃とした。複数のプローブを同一の反応において利用した。
【実施例6】
【0076】
PCR増幅分析法のためのプライマーおよび分子ビーコンプローブを、本発明者らがHS2と呼ぶ第2のDNA塩基配列のために設計した。プライマーは、次の配列:
CCATTTGGTTGTTACAATATTGC−3’
CCAATGGAATGAAAGAAATGAAG−3’
を有する。
【0077】
野生型遺伝子配列とエキノカンジン耐性変異G4082Aとを区別するために、対立遺伝子を識別可能な1対の分子プローブのヌクレオチド配列を設計した。各々の一端をフルオロフォアで、他端をDABCYLのような非蛍光性の消光剤で標識することになる。もちろん識別可能なフルオロフォアを利用して、上記プローブのうち一方を含む終点分析法およびリアルタイム増幅において、あるいは両方のプローブを含む多重分析法において、第1の標的配列用のプライマーおよびプローブを一緒に用いる状態または用いない状態で、野生型プローブは野生型遺伝子配列にのみハイブリダイズしてそこで蛍光を発し、突然変異型プローブは突然変異配列にのみハイブリダイズしてそこで蛍光を発するようにすることになる。
【0078】
分子ビーコンプローブは、6ヌクレオチド長のステムを形成する相補的な3’および5’アーム配列に隣接した長さ24ヌクレオチドの一本鎖ループを有している。いずれのプローブも計算上61.5℃のTを有する。その配列は;
野生型プローブ:
【0079】
【化16】

突然変異型プローブ:
【0080】
【化17】

である。
【0081】
上記配列において、相補的なアームには下線を付し、突然変異体において変化した単一ヌクレオチドは太字になっている。
本発明のいくつかの実施形態について説明してきた。しかしながら、本発明の思想および範囲から逸脱することなく様々な改変がなされうることは理解されるだろう。例えば、PCR以外の増幅方法、例えばNASBAを使用することも可能であり、また、分子ビーコンプローブ以外の対立遺伝子識別プローブを使用することもできる。従って、他の実施形態は特許請求の範囲の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1A】遺伝子配列CaFKS1(GenBank登録番号D88815)を、エキノカンジン感受性を低下させる突然変異の領域に下線を付して示す図である。
【図1B】遺伝子配列CaFKS1(GenBank登録番号D88815)を、エキノカンジン感受性を低下させる突然変異の領域に下線を付して示す図である。
【図2】アミノ酸配列CaFks1p(GenBank登録番号BAA21535)を、エキノカンジン感受性を低下させる突然変異の領域に下線を付して示す図である。
【図3】サッカロマイセス・セレビシエのFks1pのアミノ酸配列をカンジダ・アルビカンスのFks1pのアミノ酸配列とともにアラインメントして示す図である。
【図4】実施例において利用したプライマー、プローブおよびプローブ標的の配列を示す表である。
【図5】リアルタイムPCR分析におけるヘテロ接合型サンプルからの蛍光曲線のプロット図である。
【図6A】リアルタイムPCR分析におけるホモ接合型サンプルからの蛍光曲線のプロット図である。
【図6B】リアルタイムPCR分析におけるホモ接合型サンプルからの蛍光曲線のプロット図である。
【図6C】リアルタイムPCR分析におけるホモ接合型サンプルからの蛍光曲線のプロット図である。
【図6D】リアルタイムPCR分析におけるホモ接合型サンプルからの蛍光曲線のプロット図である。
【図7】多重リアルタイム分析の検出結果の形式を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エキノカンジン系薬物に対して感受性で、かつ1−3β−D−グルカン・シンターゼのサブユニットFks1pに対応するFKS1遺伝子を含む真菌における、エキノカンジン系薬物に対する耐性についての核酸分析法であって、CaFks1pアミノ酸636〜654の少なくとも一部分であってアミノ酸641〜649を含む部分に対応するFKS1の第1の核酸標的配列を増幅することと、増幅した第1の標的配列における野生型対立遺伝子との何らかの差異を検出することと、からなる分析法。
【請求項2】
真菌はカンジダ属真菌である、請求項1に記載の分析法。
【請求項3】
CaFks1pのF641L、F641S、S645P、S645Y、S645F、D648Y、およびP649Hからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸突然変異を検出することができる、請求項1または請求項2に記載の分析法。
【請求項4】
前記増幅工程は、1−3−β−D−グルカン・シンターゼのサブユニットFks1pに対応し、CaFks1pアミノ酸1345〜1369の少なくとも一部分であってアミノ酸1357〜1364を含む部分に対応する、FKS1遺伝子の第2の核酸標的配列を増幅することを含み、かつ前記検出工程が、増幅した第2の標的配列における野生型対立遺伝子との何らかの差異を検出することを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の分析法。
【請求項5】
CaFks1pのR1361HおよびR1361Gからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸の変化を検出することができる、請求項4に記載の分析法。
【請求項6】
第1の標的配列および第2の標的配列の増幅は同一の反応液中で実施される、請求項4または5に記載の分析法。
【請求項7】
前記検出工程は塩基配列決定法を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の分析法。
【請求項8】
前記検出工程は、増幅した第1および第2の標的配列を、標識したハイブリダイゼーションプローブと接触させることを含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の分析法。
【請求項9】
検出は、均一系の終点検出またはリアルタイム検出である、請求項8に記載の分析法。
【請求項10】
請求項9に記載のリアルタイム分析法。
【請求項11】
前記増幅工程は、PCR、NASBAおよびTMAからなる群から選択される増幅方法を含む、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の分析法。
【請求項12】
前記第1の標的配列を増幅するための順方向プライマーおよび逆方向プライマーの第1の対と、1−3−β−D−グルカン・シンターゼのサブユニットFks1pに対応し、CaFks1pアミノ酸636〜654の少なくとも一部分であってアミノ酸641〜649を含む部分に対応するFKS1遺伝子の第1の標的配列を増幅するための順方向プライマーおよび逆方向プライマーとを含む、オリゴヌクレオチド・セット。
【請求項13】
1−3−β−D−グルカン・シンターゼのサブユニットFks1pに対応し、CaFks1pアミノ酸1345〜1369の少なくとも一部分であってアミノ酸1357〜1364を含む部分に対応するFKS1遺伝子の第2の標的配列を増幅するための、順方向プライマーおよび逆方向プライマーの第2の対を含む、請求項12に記載のオリゴヌクレオチド・セット。
【請求項14】
順方向プライマーおよび逆方向プライマーの第1の対が、CaFks1pアミノ酸1357〜1364に対応するアミノ酸も網羅する、請求項12に記載のオリゴヌクレオチド・セット。
【請求項15】
CaFKS1のT1921C、T1922C、G1932T、T1933C、C1934A、C1934T、C1934G、C1942T、およびC1946Aからなる群から選択される少なくとも1つの突然変異に選択的にハイブリダイズする、対立遺伝子を識別可能な標識したハイブリダイゼーションプローブをさらに含む、請求項12乃至14のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド・セット。
【請求項16】
CaFKS1のC4081GおよびG4082Aからなる群から選択される少なくとも1つの突然変異に選択的にハイブリダイズする、対立遺伝子を識別可能な標識したハイブリダイゼーションプローブをさらに含む、請求項13乃至15のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド・セット。
【請求項17】
前記順方向プライマーおよび逆方向プライマーにより規定された増幅生成物の塩基配列決定を行うための塩基配列決定用プライマーをさらに含んでなる、請求項12に記載のオリゴヌクレオチド・セット。
【請求項18】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の分析法を実施するための試薬キット。
【請求項19】
請求項12乃至17のいずれか1項に記載のオリゴヌクレオチド・セットを含む、請求項18に記載の試薬キット。
【請求項20】
サンプル調製およびDNA抽出のための試薬をさらに含む、請求項18または請求項19に記載の試薬キット。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−502174(P2009−502174A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524167(P2008−524167)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2006/029290
【国際公開番号】WO2007/014305
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(508027431)ユニバーシティ オブ メディシン アンド デンティストリー オブ ニュージャージー (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF MEDICINE AND DENTISTRY OF NEW JERSEY
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】